IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヤマハ発動機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-操船システム及び船舶 図1
  • 特開-操船システム及び船舶 図2
  • 特開-操船システム及び船舶 図3
  • 特開-操船システム及び船舶 図4
  • 特開-操船システム及び船舶 図5
  • 特開-操船システム及び船舶 図6
  • 特開-操船システム及び船舶 図7
  • 特開-操船システム及び船舶 図8
  • 特開-操船システム及び船舶 図9
  • 特開-操船システム及び船舶 図10
  • 特開-操船システム及び船舶 図11
  • 特開-操船システム及び船舶 図12
  • 特開-操船システム及び船舶 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120045
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】操船システム及び船舶
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/02 20060101AFI20230822BHJP
   B63H 20/00 20060101ALI20230822BHJP
   B63H 25/42 20060101ALI20230822BHJP
   B63H 25/46 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
B63H25/02 B
B63H20/00 803
B63H25/42 B
B63H25/02 Z
B63H25/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023224
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】村山 卓弥
(72)【発明者】
【氏名】玉城 俊
(57)【要約】
【課題】船舶をその場回頭モードへ移行させる際の操作性を改善する。
【解決手段】船舶1の操船システムは、回転操作可能なホイール部19を有するステアリング装置14と、船舶1をその場で回頭させるその場回頭モードへ移行させるコントローラ40と、を備え、ホイール部19には、回転操作可能な範囲において、回転操作の抵抗が大きくなる高フリクション領域33R(33L)が回転操作方向において設定され、コントローラ40は、ホイール部19が高フリクション領域33R(33L)まで回転操作されると、船舶1をその場回頭モードへ移行させる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶を操船するための回転操作可能な操作デバイスと、前記船舶をその場で回頭させるその場回頭モードへ移行させる制御部と、を備える操船システムであって、
前記操作デバイスには、回転操作可能な範囲において、回転操作の抵抗が大きくなる高フリクション領域が回転操作方向において設定され、
前記制御部は、前記操作デバイスが前記高フリクション領域まで回転操作されると、前記船舶を前記その場回頭モードへ移行させる、操船システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記高フリクション領域における前記操作デバイスの回転角度が大きくなるほど、前記その場回頭モードにおける前記船舶の回頭速度を大きくする、請求項1に記載の操船システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記高フリクション領域における前記操作デバイスの回転角度が大きくなるほど、前記回転操作の抵抗を大きくする、請求項2に記載の操船システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記船舶が低速モードに移行した際に、前記操作デバイスが前記高フリクション領域まで回転操作されると、前記船舶を前記その場回頭モードへ移行させる、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の操船システム。
【請求項5】
報知デバイスをさらに備え、前記報知デバイスは、前記船舶が前記その場回頭モードへ移行すると、その旨を報知する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の操船システム。
【請求項6】
前記その場回頭モードへの移行をキャンセルするキャンセルスイッチをさらに備え、前記制御部は、前記キャンセルスイッチが操作されると、前記高フリクション領域を消滅させる、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の操船システム。
【請求項7】
前記高フリクション領域では、回転角度が大きくなるように前記操作デバイスが回転操作される際に前記回転操作の抵抗が大きくなるが、回転角度が小さくなるように前記操作デバイスが回転操作される際には前記回転操作の抵抗が大きくならない、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の操船システム。
【請求項8】
前記高フリクション領域では、回転角度が大きくなるように前記操作デバイスが回転操作される際だけでなく前記回転角度が小さくなるように前記操作デバイスが回転操作される際にも前記回転操作の抵抗が大きくなる、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の操船システム。
【請求項9】
前記操作デバイスはステアリング装置である、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の操船システム。
【請求項10】
前記操作デバイスはジョイスティックである、請求項1乃至8いずれか1項に記載の操船システム。
【請求項11】
船舶を操船するための回転操作可能な操作デバイスと、前記船舶をその場で回頭させるその場回頭モードへ移行させる制御部と、を備え、前記操作デバイスは前記船舶を横方向へ移動させる横移動モードへ前記船舶を移行させるための横移動スイッチを有する操船システムであって、
前記制御部は、前記横移動スイッチが操作されながら、前記操作デバイスが所定の回転角度以上に回転操作されると、前記船舶を前記その場回頭モードへ移行させる、操船システム。
【請求項12】
前記操作デバイスが前記所定の回転角度以上に回転操作された後、前記制御部は、前記操作デバイスの回転角度が大きくなるほど、前記その場回頭モードにおける前記船舶の回頭速度を大きくする、請求項11に記載の操船システム。
【請求項13】
前記操作デバイスはステアリング装置であり、
前記ステアリング装置は、前記船舶の船体に対して回転可能に支持された中央部と、操船者が把持するハンドル部と、前記中央部及び前記ハンドル部を接続するスポーク部と、を有し、
前記横移動スイッチは、前記スポーク部において、前記ハンドル部を把持する前記操船者の手の指で操作可能な位置に配置される、請求項11又は12に記載の操船システム。
【請求項14】
船舶を操船するための回転操作可能な操作デバイスと、前記船舶を所定の移動モードへ移行させる制御部と、を備える操船システムであって、
前記操作デバイスには、回転操作可能な範囲において、回転操作の抵抗が大きくなる高フリクション領域が回転操作方向において設定され、
前記制御部は、前記操作デバイスが前記高フリクション領域まで回転操作されると、前記船舶を前記所定の移動モードへ移行させる、操船システム。
【請求項15】
船舶を操船するための回転操作可能な操作デバイスと、前記船舶をその場で回頭させるその場回頭モードへ移行させる制御部と、を有する船舶であって、
前記操作デバイスには、回転操作可能な範囲において、回転操作の抵抗が大きくなる高フリクション領域が回転操作方向において設定され、
前記制御部は、前記操作デバイスが前記高フリクション領域まで回転操作されると、前記船舶を前記その場回頭モードへ移行させる、船舶。
【請求項16】
船舶を操船するための回転操作可能な操作デバイスと、前記船舶をその場で回頭させるその場回頭モードへ移行させる制御部と、を備え、前記操作デバイスは前記船舶を横に移動させる横移動モードへ前記船舶を移行させるための横移動スイッチを有する船舶であって、
前記制御部は、前記横移動スイッチが操作されながら、前記操作デバイスが所定の回転角度以上に回転操作されると、前記船舶を前記その場回頭モードへ移行させる、船舶。
【請求項17】
船舶を操船するための回転操作可能な操作デバイスと、前記船舶を所定の移動モードへ移行させる制御部と、を備える船舶であって、
前記操作デバイスには、回転操作可能な範囲において、回転操作の抵抗が大きくなる高フリクション領域が回転操作方向において設定され、
前記制御部は、前記操作デバイスが前記高フリクション領域まで回転操作されると、前記船舶を前記所定の移動モードへ移行させる、船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操船システム及び船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
マリーナ等において桟橋へ接舷する際、船舶の向きを変更するために船舶をその場で回頭させることを求められることがある。このようなニーズに対応するために、近年、船舶には船体をその場で回頭させるその場回頭モードが設定される。その場回頭モードでは、ステアリング装置のホイール部が回転操作されると、ホイール部の回転操作方向へ船体をその場で回頭させるように推進機が制御される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-158628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、船舶をその場回頭モードへ移行させるには、操船者は、一旦、ホイール部の回転操作を中断してステアリング装置に配置されたその場回頭スイッチを操作する必要がある。また、その場回頭スイッチはホイール部から離れて配置されることがあり、操船者はその場回頭スイッチを操作するために、ホイール部から手を離す必要がある。したがって、その場回頭モードへ移行するためのスイッチ等の操作性については改善の余地がある。
【0005】
本発明は、船舶をその場回頭モードへ移行させる際の操作性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一態様による操船システム及び船舶は、船舶を操船するための回転操作可能な操作デバイスと、前記船舶をその場で回頭させるその場回頭モードへ移行させる制御部と、を備え、前記操作デバイスには、回転操作可能な範囲において、回転操作の抵抗が大きくなる高フリクション領域が回転操作方向において設定され、前記制御部は、前記操作デバイスが前記高フリクション領域まで回転操作されると、前記船舶を前記その場回頭モードへ移行させる。
【0007】
また、この発明の一態様による操船システム及び船舶は、船舶を操船するための回転操作可能な操作デバイスと、前記船舶をその場で回頭させるその場回頭モードへ移行させる制御部と、を備え、前記操作デバイスは前記船舶を横に移動させる横移動モードへ前記船舶を移行させるための横移動スイッチを有し、前記制御部は、前記横移動スイッチが操作されながら、前記操作デバイスが所定の回転角度以上に回転操作されると、前記船舶を前記その場回頭モードへ移行させる。
【0008】
この構成によれば、回転操作可能な操作デバイスが高フリクション領域まで回転操作され、若しくは、操作デバイスが有する横移動スイッチが操作されながら、操作デバイスが所定の回転角度以上に回転操作されると、船舶をその場回頭モードへ移行させるため、操作デバイスの回転操作を中断せず、且つ操作デバイスから操船者が手を離すことなく、船舶をその場回頭モードへ移行させることができる。したがって、船舶をその場回頭モードへ移行させる際の操作性を改善することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、船舶をその場回頭モードへ移行させる際の操作性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る船舶の平面図である。
図2】第1の実施の形態に係る船舶の側面図である。
図3図1における船舶推進機の構成を示す模式的側面図である。
図4】第1の実施の形態に係る操船システムを有する船舶の制御系のブロック図である。
図5】第1の実施の形態におけるステアリング装置の構成を説明するための図である。
図6】第1の実施の形態におけるその場回頭モードへの移行について説明する図である。
図7】第1の実施の形態におけるステアリング装置の変形例の構成を説明するための図である。
図8】第1の実施の形態に係る船舶の変形例の斜視図である。
図9】本発明の第2の実施の形態で用いられるジョイスティックの構成を説明するための図である。
図10】第2の形態におけるその場回頭モードへの移行について説明する図である。
図11】本発明の第3の実施の形態に係る操船システムを含む船舶1の制御系のブロック図である。
図12】第3の実施の形態におけるステアリング装置の構成を説明するための図である。
図13】第3の実施の形態における横移動モードからその場回頭モードへの移行について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。まず、本発明の第1の実施の形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る船舶の平面図である。この船舶1に、本実施の形態に係る操船システムが適用される。図1では、船舶1の内部の構成の一部が示される。図2は、船舶1の側面図である。船舶1は、一例としてのジェット推進艇であり、ジェットボート又はスポーツボートと呼ばれるタイプの船である。
【0013】
船舶1は、船体2と、エンジン3L,3Rと、船舶推進機4L,4Rとを有する。船体2は、デッキ11とハル12とを有する。ハル12はデッキ11の下方に配置される。デッキ11には操船席13が配置される。また、操船席13には、船舶1の進行方向を左右に変更するためのステアリング装置14(操作デバイス)と、船舶1の進行方向や船速を制御するためのリモコンユニット15とが配置される。
【0014】
エンジン3Lは船体2の左舷側に配置され、エンジン3Rは船体2の右舷側に配置される。また、船舶推進機4Lはエンジン3Lに対応するように船体2の左舷側に配置され、船舶推進機4Rはエンジン3Rに対応するように船体2の右舷側に配置される。エンジン3Lの出力軸は船舶推進機4Lに接続され、エンジン3Rの出力軸は船舶推進機4Rに接続される。船舶推進機4L,4Rは、それぞれエンジン3L,3Rによって駆動され、船体2を移動させる推進力を発生させる。船舶1において、エンジンの数は2つに限らず、3つ以上であってもよく、また、船舶推進機の数は2つに限らず、3つ以上であってもよい。なお、本実施の形態では、符号の「L」が船体2の左舷側に配置されることを示し、符号の「R」が船体2の右舷側に配置されることを示す。
【0015】
図3は、船舶推進機4Lの構成を示す模式的側面図である。図3においては船舶推進機4Lの一部が断面で示される。船舶推進機4Lは、船体2のまわりの水を吸い込んで噴射するジェット推進機である。なお、船舶推進機4Rは、船舶推進機4Lと同様の構成を有するため、その構成の説明を省略する。
【0016】
図3に示すように、船舶推進機4Lは、インペラシャフト21Lと、インペラ22Lと、インペラハウジング23Lと、ノズル24Lと、デフレクタ25Lと、リバースバケット26Lと、水吸引部27Lとを有する。インペラシャフト21Lは船体2の前後方向に延びるように配置される。インペラシャフト21Lの前部は、カップリング28Lを介してエンジン3Lの出力軸に接続される。インペラシャフト21Lの後部はインペラハウジング23L内に配置され、インペラハウジング23Lは開口部である水吸引部27Lの後方に配置される。ノズル24Lはインペラハウジング23Lの後方に配置される。
【0017】
インペラ22Lはインペラシャフト21Lの後部に取り付けられる。インペラ22Lは、インペラハウジング23L内に配置される。インペラ22Lは、インペラシャフト21Lとともに回転して、水吸引部27Lから水を吸引する。インペラ22Lは、吸引した水をノズル24Lから後方に噴射させる。
【0018】
デフレクタ25Lはノズル24Lの後方に配置される。リバースバケット26Lはデフレクタ25Lの後方に配置される。デフレクタ25Lはノズル24Lから噴射された水の噴射方向を左右方向に転換する。デフレクタ25Lにはステアリングアクチュエータ32Lが接続され、ステアリング装置14のホイール部19(後述する)の回転操作に応じてステアリングアクチュエータ32Lがデフレクタ25Lの向きを左右方向に変更することにより、船舶1の進行方向が左右に変更される。
【0019】
リバースバケット26Lは、その位置が前進位置と後進位置と中立位置とに切換可能に構成される。リバースバケット26Lが前進位置にある状態では、リバースバケット26Lがデフレクタ25Lを覆わないため、ノズル24Lからデフレクタ25Lを介して噴射された水は後方へ向けて噴射される。これにより船舶1が前進する。また、リバースバケット26Lが後進位置にある状態では、リバースバケット26Lがデフレクタ25Lを覆うため、ノズル24Lからデフレクタ25Lを介して噴射された水はリバースバケット26Lによって反射され、噴射された水の噴射方向が前方に転換される。これにより船舶1が後進する。
【0020】
リバースバケット26Lの中立位置は前進位置と後進位置の間の存在し、リバースバケット26Lは、中立位置において、デフレクタ25Lの一部を覆うため、ノズル24Lからデフレクタ25Lを介して後方へ噴射される水が減少し、船体2を前進させる推進力を低減させる。これにより、船体2が減速されるか、あるいは船体2が停止位置に保持される。
【0021】
次に、船舶1の制御系について説明する。図4は、第1の実施の形態に係る操船システムを有する船舶1の制御系のブロック図である。
【0022】
図4において、操船システムは、ステアリング装置14、リモコンユニット15及びコントローラ40(制御部)を有する。コントローラ40は、CPU等の演算装置と、RAM,ROM等の記憶装置を有し(図示せず)、記憶されたプログラムを実行して船舶1を制御する。コントローラ40は、単一のコントロールユニットによって構成されてもよく、複数のコントロールユニットによって構成されてもよい。コントローラ40は、ステアリング装置14と通信可能に接続される。
【0023】
また、船舶1の操船システムは、ステアリングアクチュエータ32Lとシフトアクチュエータ34Lを有する。コントローラ40は、エンジン3L、ステアリングアクチュエータ32L及びシフトアクチュエータ34Lと通信可能に接続される。ステアリングアクチュエータ32Lは、例えば、電動モータや油圧シリンダ等の他のアクチュエータからなる。シフトアクチュエータ34Lは、船舶推進機4Lのリバースバケット26Lに接続される。シフトアクチュエータ34Lは前後に移動することにより、リバースバケット26Lの位置を前進位置と後進位置と中立位置とに切り換える。シフトアクチュエータ34Lは、例えば、電動モータや油圧シリンダ等の他のアクチュエータからなる。
【0024】
さらに、船舶1の操船システムは、ステアリングアクチュエータ32Rとシフトアクチュエータ34Rとを有する。コントローラ40は、エンジン3R、ステアリングアクチュエータ32R及びシフトアクチュエータ34Rと通信可能に接続される。ステアリングアクチュエータ32Rやシフトアクチュエータ34Rは、それぞれステアリングアクチュエータ32Lやシフトアクチュエータ34Lと同様の構成を有する。
【0025】
リモコンユニット15は、スロットルレバー15Lとスロットルレバー15Rを有する。スロットルレバー15Lとスロットルレバー15Rは、それぞれゼロ操作位置(ニュートラル位置)から前進方向と後進方向のそれぞれに操作可能である。コントローラ40は、スロットルレバー15Lやスロットルレバー15Rの操作量をリモコンユニット15のセンサを用いて検知し、スロットルレバー15Lの操作量に応じてエンジン3Lの回転速度を制御し、スロットルレバー15Rの操作量に応じてエンジン3Rの回転速度を制御する。これにより、船舶1の船速が調整される。また、コントローラ40は、スロットルレバー15Lの操作方向に応じてシフトアクチュエータ34Lを制御し、スロットルレバー15Rの操作方向に応じてシフトアクチュエータ34Rを制御する。これにより、船舶1の前後進が切り換えられる。
【0026】
さらに、船舶1の操船システムは、表示部39及び設定操作部38を有する。表示部39はディスプレイを備え、コントローラ40からの指示に基づき各種情報を表示する。設定操作部38は、操船者が操作する操作子の他、各種設定を行うための設定操作子や各種指示を入力するための入力操作子を有する(いずれも図示せず)。設定操作部38で入力された信号はコントローラ40に送信される。さらに、船舶1は、操船席13等に配置された、例えば、押し下げボタンからなる有効/無効切替スイッチ16を有する。有効/無効切替スイッチ16の機能については後述する。
【0027】
図5は、ステアリング装置14の構成を説明するための図であり、ステアリング装置14を操船者側から真向かいに眺めた場合を示す。なお、図5の上下方向及び左右方向は、船舶1の上下方向及び左右方向と一致し、図の奥行き側が船舶1の船首側であり、図の手前側が船舶1の船尾側である。
【0028】
図5において、ステアリング装置14は、コラム部(図示せず)に対して回転支点17を中心に回転可能に支持された中央部18と、円環状のホイール部19(ハンドル部)と、中央部18及びホイール部19を接続する、例えば、3つのスポーク部20,29,30とを有する。ホイール部19は、操船者によって把持される部分である。また、ステアリング装置14には、コラム部に配置されてステアリング軸(図示せず)と中央部18を接続する電磁クラッチ機構31が設けられる。
【0029】
ステアリング装置14において、スポーク部20は、ホイール部19が船舶1を直進させる位置にあるとき、すなわち、ホイール部19の回転角度が0°である(以下、「直進状態」という。)とき、回転支点17を通り左右方向に平行な仮想面48より下に位置し、回転支点17から延長下方に延伸する。
【0030】
また、スポーク部29は、ホイール部19が直進状態にあるとき、仮想面48より上に位置し、且つ、回転支点17を中心とする円周方向において仮想面48に対して時計回りに0°以上且つ60°以下の角度を成すように、好ましくは、仮想面48に対して時計回りに20°以上且つ40°以下の角度を成すように、中央部18から延伸する。
【0031】
さらに、スポーク部30は、ホイール部19が直進状態にあるとき、仮想面48より上に位置し、且つ、回転支点17を中心とする円周方向において仮想面48に対して反時計回りに0°以上且つ60°以下の角度を成すように、好ましくは、仮想面48に対して時計回りに20°以上且つ40°以下の角度を成すように、中央部18から延伸する。
【0032】
ホイール部19が直進状態から時計回りに回転操作されると、ステアリング装置14は、当該操作に応じてホイール部19の回転角度を示す回転操作信号をコントローラ40へ送信し、回転操作信号を受信したコントローラ40は、ステアリングアクチュエータ32L,32Rによってデフレクタ25R,25Lの向きを変更し、ホイール部19の回転角度に応じた分だけ船舶1の進行方向を右に変更する。また、ホイール部19が直進状態から反時計回りに回転操作されると、ステアリング装置14は、当該操作に応じて回転操作信号をコントローラ40へ送信し、回転操作信号を受信したコントローラ40は、ステアリングアクチュエータ32L,32Rによってデフレクタ25R,25Lの向きを変更し、ホイール部19の回転角度に応じた分だけ船舶1の進行方向を左に変更する。
【0033】
次いで、各種の操船モードについて説明する。操船モードには、大別して高速モードと低速モードが存在し、低速モードは後述するその場回頭モードを有する。
【0034】
高速モードは、外洋において船舶1を比較的高速で航行させるために用いられるモードである。高速モードでは、各エンジン3L,3Rの回転数が最大回転数まで許容される。また、高速モードでは、ステアリング装置14のホイール部19の操作可能な回転角θが、比較的大きく設定され、ホイール部19は直進状態から、図中の時計回り及び反時計回りのそれぞれに関し、例えば、135°まで回転操作可能に設定される。
【0035】
低速モードは、港湾内の移動や釣りを行う際に船舶1を比較的低速で航行させるために用いられるモードである。低速モードでは、各エンジン3L,3Rの回転数の上限が最大回転数よりも低い所定の回転数に制限される。また、低速モードでは、ステアリング装置14のホイール部19の操作可能な回転角θが比較的小さく設定され、ホイール部19は直進状態から、図中の時計回り及び反時計回りのそれぞれに関し、例えば、67.5°まで回転操作可能に設定される。
【0036】
高速モードと低速モードの切り替えは、有効/無効切替スイッチ16の操作に応じて行われる。例えば、操船者が有効/無効切替スイッチ16を押し下げすると、有効/無効切替スイッチ16はその旨を知らせる押下操作信号をコントローラ40へ送信し、押下操作信号を受信したコントローラ40は、エンジン3L,3Rを制御することにより、高速モードと低速モードの切り替えを行う。なお、本実施の形態では、有効/無効切替スイッチ16が押し下げされる度に高速モードと低速モードが切り替わる。なお、有効/無効切替スイッチ16は、押し下げボタンでは無く、回転スイッチによって構成されても良く、この場合、有効/無効切替スイッチ16の回転操作の度に高速モードと低速モードが切り替わる。
【0037】
また、本実施の形態では、低速モードにおけるホイール部19の回転操作可能な範囲には、回転操作の抵抗が大きくなる高フリクション領域33L,33R(図中のハッチングで示す領域参照)が設けられる。具体的には、ホイール部19を、直進状態から時計回り及び反時計回りのそれぞれに関して、回転角θ以上まで回転操作すると、ホイール部19の回転抵抗が、ホイール部19の回転角が回転角θよりも小さいときの回転操作の抵抗(以下、「通常の回転操作の抵抗」という。)よりも大きくなる。ここで、回転角θは回転角θよりも小さい角度であり、例えば、57.5°に設定される。したがって、一例として、高フリクション領域33L,33Rの回転角はそれぞれ10°に設定される。なお、高フリクション領域の回転角は10°に限らず、ステアリング装置14の仕様等に応じて変更される。
【0038】
ホイール部19の回転角度が回転角θよりも大きくなり、ホイール部19が高フリクション領域33R(33L)まで回転操作されると、ステアリング装置14は、ホイール部19が高フリクション領域33R(33L)に到達した旨を知らせる回転操作信号をコントローラ40へ送信する。そして、この回転操作信号を受信したコントローラ40は、電磁クラッチ機構31におけるスリップ率等を調整してホイール部19の回転操作の抵抗を大きくするとともに、船舶1をその場回頭モードへ移行させる。その場回頭モードは、船舶1の重心G(図1)を中心に船体2をヨー方向に回転させるモード、すなわち、船舶1をその場で回頭させるモードであり、コントローラ40が、ホイール部19の回転操作に応じたステアリングアクチュエータ32L,32Rやシフトアクチュエータ34L,34Rの動作をその場回頭モード以外のときの動作から変更することにより、実現される。
【0039】
図6は、第1の実施の形態におけるその場回頭モードへの移行について説明する図である。なお、図中では、ホイール部19の回転角度を理解し易くするために、直進状態にあるホイール部19の12時方向を示す位置(以下、「基準位置」という。)35に黒線を付している。
【0040】
まず、図6(A)に示すように、ホイール部19の回転角度が回転角θよりも小さく、ホイール部19の基準位置35が高フリクション領域33Rに到達していない場合、ハッチングが附されたバーで示されるように、回転操作のフリクション(抵抗)は比較的小さいままであり、また、船舶1もその場回頭モードに移行していないため、ホイール部19の回転操作に応じて船舶1は重心Gを中心に回転せず、船舶1の進行方向が右へ変更される(図中矢印参照)。
【0041】
一方、図6(B)に示すように、ホイール部19の回転角度が回転角θ以上となり、基準位置35が高フリクション領域33Rに含まれる場合、ハッチングが附されたバーで示されるように、回転操作のフリクションは比較的大きくなり、また、船舶1もその場回頭モードに移行するため、ホイール部19の回転操作に応じて船舶1は重心Gを中心に回転する(図中矢印参照)。
【0042】
また、高フリクション領域33R(33L)において、フリクションや船舶1の回頭速度は一定である必要がなく、例えば、図6(C)に示すように、高フリクション領域33R(33L)において、フリクションの大きさが二段階に設定され、ホイール部19の回転角度が大きくなると、フリクションがより大きくなるように設定されていてもよい。また、図6(D)に示すように、高フリクション領域33R(33L)において、ホイール部19の回転角度の大きさに比例してフリクションが大きくなるように設定されていてもよい。
【0043】
さらに、図6(E)に示すように、高フリクション領域33R(33L)において、回頭速度の大きさが二段階に設定され、ホイール部19の回転角度が大きくなると、回頭速度がより大きくなるように設定されていてもよく、図6(F)に示すように、高フリクション領域33R(33L)において、ホイール部19の回転角度の大きさに比例して回頭速度が大きくなるように設定されていてもよい。このように、ホイール部19の回転角度が大きくなると回頭速度が大きくなる場合、上述したように、高フリクション領域33R(33L)において、ホイール部19の回転角度が大きくなるとフリクションが大きくなるように設定されるのが好ましい。これにより、回頭速度が大きくなっていくことを操船者がホイール部19の回転抵抗の増大によって気付くことができる。
【0044】
なお、図6では、ホイール部19を直進状態から時計回りに回転操作した場合について説明したが、ホイール部19を直進状態から反時計回りに回転操作した場合も同様の処理が行われる。
【0045】
本実施の形態では、低速モードでのみ、高フリクション領域33R(33L)が設定され、高速モードでは高フリクション領域33R(33L)が設定されない。したがって、操船者は、その場回頭モードへの移行を望まない場合、有効/無効切替スイッチ16を操作することにより、船舶1を高速モードへ移行させて、強制的に高フリクション領域33R(33L)を消滅させることができる。また、有効/無効切替スイッチ16とは別に、低速モードを維持したままその場回頭モードへの移行をキャンセルするためのキャンセルスイッチ(図示せず)を設けてもよい。操船者がこのキャンセルスイッチを操作すると、コントローラ40は、船舶1を低速モードに維持したまま、高フリクション領域33R(33L)を消滅させる。なお、キャンセルスイッチは操船席13等に配置される個別のスイッチであってもよく、表示部39のタッチパネルに表示されるタッチボタンであってもよい。
【0046】
また、本実施の形態では、高フリクション領域33R(33L)において、回転角度が大きくなるようにホイール部19が回転操作される際だけでなく回転角度が小さくなるようにホイール部19が回転操作される際にも回転操作の抵抗が通常の回転操作の抵抗よりも大きくなるよう設定される。しかしながら、高フリクション領域33R(33L)において、回転角度が大きくなるようにホイール部19が回転操作される際には回転操作の抵抗が通常の回転操作の抵抗よりも大きくなるが、回転角度が小さくなるようにホイール部19が回転操作される際には、回転操作の抵抗が通常の回転操作の抵抗と変わらず、大きくならないように設定されてもよい。
【0047】
本実施の形態によれば、ホイール部19が高フリクション領域33R(33L)まで回転操作されると、コントローラ40が船舶1をその場回頭モードへ移行させるため、ホイール部19の回転操作を中断せず、且つホイール部19から操船者が手を離すことなく、船舶1をその場回頭モードへ移行させることができる。したがって、船舶1をその場回頭モードへ移行させる際の操作性を改善することができる。
【0048】
また、本実施の形態では、ホイール部19が高フリクション領域33R(33L)まで回転操作されてから船舶1がその場回頭モードへ移行するため、ホイール部19を回転操作する操船者は、ホイール部19の回転抵抗が大きくなったことにより、船舶1がその場回頭モードへ移行したのを気付くことができる。
【0049】
さらに、本実施の形態では、ホイール部19を高フリクション領域33R(33L)へ到達させるためには操船者がホイール部19の回転操作力を意図的に高める必要がある。したがって、操船者が意図せずに船舶1をその場回頭モードへ移行させてしまうのを防ぐことができる。
【0050】
なお、船舶1がその場回頭モードに移行した場合にその旨を報知する報知デバイス、例えば、ブザーやランプを操船席13やステアリング装置14に設けてもよい。この場合も、ブザーやランプによる報知、例えば、ブザーからの発音やランプの点滅により、操船者は船舶1がその場回頭モードへ移行したのを気付くことができる。
【0051】
本実施の形態では、ステアリング装置14が円環状のホイール部19を有するが、円環状のホイール部の代わりに左右それぞれに配置されたハンドルバー36R,36Lを備えていてもよい(図7)。この場合、ハンドルバー36Rはスポーク部37Rによって中央部18と連結され、ハンドルバー36Lはスポーク部37Lによって中央部18と連結される。なお、このステアリング装置にも、ステアリング装置14と同様の高フリクション領域33R(33L)が設定される。
【0052】
また、本実施の形態に係る操船システムは、ジェット推進機である船舶推進機4L,4Rを備えるジェット推進艇だけでなく、図8に示すような、船外機41R,41Lを備える滑走艇42に適用されてもよい。なお、滑走艇では、ホイール部19の操作可能な回転角がジェット推進艇の回転角よりも大きく、例えば、ホイール部19は直進状態から、図中の時計回り及び反時計回りのそれぞれに関し、例えば、540°(一回転半)まで回転操作可能に設定されるが、この場合、回転角530°~540°の範囲に高フリクション領域33R(33L)が設定される。
【0053】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態は、操作デバイスとしてステアリング装置ではなくジョイスティックを用いる点で第1の実施の形態と異なるが、それ以外の構成、作用が上述した第1の実施の形態と基本的に同じであるので、重複した構成、作用については説明を省略し、以下に異なる構成、作用についての説明を行う。
【0054】
図9は、本実施の形態で用いられるジョイスティックの構成を説明するための図である。図9のジョイスティック43は、船舶1を操縦するための操作デバイスであり、船舶1が低速モードへ移行したときのみ、ジョイスティック43によって船舶1を操縦することができる。
【0055】
図9において、ジョイスティック43は、基部44と、基部44の頂部に取り付けられた棒状のスティック45と、を有する。スティック45は基部44に対して首振り自在であり、操船者が直感的に船舶1の操縦を行うことができるように、例えば、スティック45を前後に傾倒させると、ジョイスティック43は船舶1を前後に移動させるための信号をコントローラ40へ発信し、操船者がスティック45を左右に傾倒させると、ジョイスティック43は船舶1を左右に移動させるための信号をコントローラ40へ発信する。また、ジョイスティック43はスティック45の傾倒量に応じた推力を発生させるための信号をコントローラ40へ発信する。したがって、操船者は、スティック45を操作することで船舶1を操縦することができる。
【0056】
また、スティック45は基部44に対して捻る(回転操作する)ことが可能であり(図中の矢印参照)、操船者がスティック45を捻ると、ジョイスティック43は船舶1を回頭させるための信号をコントローラ40へ発信し、この信号を受信したコントローラ40は船舶1をその場回頭モードへ移行させ、重心Gを中心に船体2をヨー方向に回転させる。
【0057】
ところで、操船者が不注意によってジョイスティック43へ触れ、スティック45が捻られると、操船者の意図に反して船舶1が回頭することがあるため、スティック45には回転操作方向に関して不感領域が設けられる。具体的に、ジョイスティック43では、スティック45が、回転角度が0°の状態(以下、「基準状態」という。)から時計回り及び反時計回りのそれぞれに関して回転角θまで回転操作可能に設定されるが、基準状態から時計回り及び反時計回りのそれぞれに関して回転角θまでの範囲が不感領域46R,46Lとして設定される。ここで、回転角θは回転角θよりも小さい。スティック45が回転操作されても、スティック45の回転角度が不感領域46R(46L)に含まれる場合、ジョイスティック43は船舶1を回頭させるための信号をコントローラ40へ発信せず、これにより、船舶1は回頭しない。
【0058】
また、ジョイスティック43では、時計回り及び反時計回りのそれぞれに関して回転角θから回転角θまでの範囲が高フリクション領域47L,47R(図中のハッチングで示す領域参照)として設定される。高フリクション領域47R(47L)では、スティック45の回転抵抗が、不感領域46R(46L)におけるスティック45の回転操作の抵抗(以下、「不感領域の回転操作の抵抗」という。)よりも大きくなる。なお、一例として、高フリクション領域47L,47Rの回転角はそれぞれ10°に設定される。
【0059】
スティック45が回転操作されて、スティック45の回転角度が回転角θよりも大きくなり、スティック45が高フリクション領域47R(47L)まで回転操作されると、ステアリング装置14は、スティック45が高フリクション領域47R(47L)に到達した旨を知らせる回転操作信号をコントローラ40へ送信する。そして、この回転操作信号を受信したコントローラ40は、スティック45に接続されたモータ等を調整してスティック45の回転操作の抵抗を大きくするとともに、船舶1をその場回頭モードへ移行させる。
【0060】
図10は、第2の形態におけるその場回頭モードへの移行について説明する図である。なお、図中では、スティック45の回転角度を理解し易くするために、基準状態にあるスティック45の12時方向を示す位置(以下、「基準位置」という。)49に黒線を付している。
【0061】
まず、図10(A)に示すように、スティック45の回転角度が回転角θよりも小さく、スティック45の基準位置49が高フリクション領域47Rに到達していない場合、ハッチングが附されたバーで示されるように、回転操作のフリクションは比較的小さいままであり、また、船舶1もその場回頭モードに移行していないため、船舶1は回頭しない。
【0062】
一方、図10(B)に示すように、スティック45の回転角度が回転角θ以上となり、基準位置49が高フリクション領域47Rに含まれる場合、ハッチングが附されたバーで示されるように、回転操作のフリクションは比較的大きくなり、また、船舶1もその場回頭モードに移行するため、スティック45の回転操作に応じて船舶1は重心Gを中心に回転する(図中矢印参照)。
【0063】
また、高フリクション領域47R(47L)において、フリクションや船舶1の回頭速度は一定である必要がなく、例えば、図10(C)に示すように、高フリクション領域47R(47L)において、フリクションの大きさが二段階に設定され、スティック45の回転角度が大きくなると、フリクションがより大きくなるように設定されていてもよい。また、図10(D)に示すように、高フリクション領域47R(47L)において、スティック45の回転角度の大きさに比例してフリクションが大きくなるように設定されていてもよい。
【0064】
さらに、図10(E)に示すように、高フリクション領域47R(47L)において、回頭速度の大きさが二段階に設定され、スティック45の回転角度が大きくなると、回頭速度がより大きくなるように設定されていてもよく、図10(F)に示すように、高フリクション領域47R(47L)において、スティック45の回転角度の大きさに比例して回頭速度が大きくなるように設定されていてもよい。
【0065】
なお、図10では、スティック45を直進状態から時計回りに回転操作した場合について説明したが、スティック45を直進状態から反時計回りに回転操作した場合も同様の処理が行われる。また、その場回頭モードへの移行を望まない場合、有効/無効切替スイッチ16やキャンセルスイッチを操作することにより、強制的に高フリクション領域47R(47L)を消滅させることができるのは、第1の実施の形態と同様である。さらに、高フリクション領域47R(47L)において、回転角度が大きくなるときだけでなく回転角度が小さくなるようにスティック45が回転操作される際にも回転操作の抵抗が不感領域の回転操作の抵抗よりも大きくなるように設定されることや、回転角度が大きくなるときだけ回転操作の抵抗が不感領域の回転操作の抵抗よりも大きくなるように設定されてもよいことも、第1の実施の形態と同様である。
【0066】
本実施の形態によれば、スティック45の回転操作方向に関して不感領域46R(46L)を設定したので、操船者が不注意によってスティック45を捻ったとしても、スティック45の回転角度が不感領域46R(46L)に含まれる場合、船舶1は回頭しない。
【0067】
また、本実施の形態では、スティック45が高フリクション領域47R(47L)まで回転操作されてから船舶1がその場回頭モードへ移行するため、スティック45を回転操作する操船者は、スティック45の回転抵抗が大きくなったことにより、船舶1がその場回頭モードへ移行したのを気付くことができる。
【0068】
さらに、本実施の形態では、船舶1をその場回頭モードへ移行させるためには、操船者がスティック45の回転操作力を意図的に高めてスティック45を高フリクション領域47R(47L)へ到達させる必要があるため、操船者が意図せずに船舶1をその場回頭モードへ移行させてしまうのを防ぐことができる。
【0069】
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態は、船舶1を横移動モードへ移行させるための横移動スイッチを備える点で第1の実施の形態と異なるが、それ以外の構成、作用が上述した第1の実施の形態と基本的に同じであるので、重複した構成、作用については説明を省略し、以下に異なる構成、作用についての説明を行う。
【0070】
図11は、第3の実施の形態に係る操船システムを含む船舶1の制御系のブロック図である。
【0071】
図11において、操船システムは、ステアリング装置50、リモコンユニット15、設定操作部38、表示部39、コントローラ40、ステアリングアクチュエータ32R,32L及びシフトアクチュエータ34R、34Lを含む。また、ステアリング装置50は、左横移動スイッチ51、右横移動スイッチ52、RPM調整スイッチ53、左パドル部54、右パドル部55、有効/無効切替スイッチ56、左押付スイッチ57及び右押付スイッチ58を有する。これらは操船者によって操作され、操作信号がコントローラ40に供給される。各スイッチやパドル部の機能や配置については後述する。
【0072】
また、第3の実施の形態では、低速モードはその場回頭モードだけでなく、後述する横推力発生モードを有し、さらに、横推力発生モードは、横移動モードと押し付けモードを有する。
【0073】
横推力発生モード(横移動モード、押し付けモード)は、船体2を横方向へ平行移動させる推力を発生させるモードである。横移動モードのうち、左横移動モード、右横移動モードはそれぞれ、船体2を左方、右方へ横移動させるように船舶推進機4L,4Rを制御するモードである。また、押し付けモードのうち、左押し付けモード、右押し付けモードはそれぞれ、船体2が桟橋等の着岸場所に横付けで押し付けられた状態が維持されるように、船舶推進機4L,4Rを制御するモードである。横移動モードと押し付けモードとでは、船体2を横方向へ平行移動させるための推力が船体2に作用する点で共通する。
【0074】
ここで、平行移動は、船体2が重心Gを中心にヨー方向に回転することなく水平方向に移動することを意味する。例えば、回頭を伴わない横移動モードでは、船体2の重心Gが左方または右方に移動する。
【0075】
図12は、ステアリング装置50の構成を説明するための図であり、ステアリング装置50を操船者側から真向かいに眺めた場合を示す。なお、図12の上下方向及び左右方向は、船舶1の上下方向及び左右方向と一致し、図の奥行き側が船舶1の船首側であり、図の手前側が船舶1の船尾側である。なお、ステアリング装置50は、第1の実施の形態におけるステアリング装置14とほぼ同様の構成、機能を有するため、以下、異なる構成、機能のみについて説明する。
【0076】
図12において、ステアリング装置50は、コラム部(図示せず)に対して回転支点59を中心に回転可能に支持された中央部60と、円環状のホイール部61と、中央部60及びホイール部61を接続する、例えば、3つのスポーク部62~64とを有する。
【0077】
ステアリング装置50において、スポーク部62は、ホイール部61が直進状態にあるとき、回転支点59を通り左右方向に平行な仮想面65より下に位置し、回転支点59から延長下方に延伸する。また、スポーク部63は、ホイール部61が直進状態にあるとき、仮想面65より上に位置し、且つ、回転支点59を中心とする円周方向において仮想面65に対して時計回りに0°以上且つ60°以下の角度を成すように、好ましくは、仮想面65に対して時計回りに20°以上且つ40°以下の角度を成すように、中央部60から延伸する。さらに、スポーク部64は、ホイール部61が直進状態にあるとき、仮想面65より上に位置し、且つ、回転支点59を中心とする円周方向において仮想面65に対して反時計回りに0°以上且つ60°以下の角度を成すように、好ましくは、仮想面65に対して時計回りに20°以上且つ40°以下の角度を成すように、中央部60から延伸する。
【0078】
ステアリング装置50では、スポーク部63に、左横移動スイッチ51、左押付スイッチ57が配置される。また、スポーク部64に、右横移動スイッチ52、右押付スイッチ58、RPM調整スイッチ53が配置される。さらに、スポーク部62に有効/無効切替スイッチ56が配置される。
【0079】
左パドル部54は、操船者から眺めたときに、スポーク部63に重なるように、スポーク部63よりも船首側に配置される。右パドル部55は、操船者から眺めたときに、スポーク部64に重なるように、スポーク部64よりも船首側に配置される。また、左パドル部54及び右パドル部55は、前後方向に回動自在であり、左パドル部54及び右パドル部55は、操船者が操作することで初期位置に対して手前(船体2の後方)に回動し、操作する手を離すと初期位置に復帰する。左パドル部54及び右パドル部55は、回転支点59を中心にホイール部61と一体に回転する。
【0080】
ステアリング装置50では、通常、左パドル部54や右パドル部55はホイール部61を握りながら操作される。また、左横移動スイッチ51は、操船者がホイール部61を把持し、且つ左パドル部54を操作しながら、左パドル部54を操作している手の指で操作可能な位置に配置される。さらに、右横移動スイッチ52は、操船者がホイール部61を把持し、且つ操船者が右パドル部55を操作しながら、右パドル部55を操作している手の指で操作可能な位置に配置される。
【0081】
第3の実施の形態では、高速モードにおいて、コントローラ40は、ホイール部61の操作に応じて、船体2の進行方向を変更する。ステアリング装置50は、ホイール部61の操作位置を示す操作信号をコントローラ40に出力する。コントローラ40は、ホイール部61の操作に応じてステアリングアクチュエータ32L,32Rを制御する。これにより、船体2の進行方向が左右に変更される。また、低速モードにおいて、コントローラ40は、スイッチ51~53,57,58の操作信号や左パドル部54、右パドル部55の操作信号に基づいて、船舶推進機4L,4Rを制御する。
【0082】
左パドル部54や右パドル部55はそれぞれ、後方、前方への推力を船体2に対して与えるよう指示するための操作部である。コントローラ40は、低速モードにおいて、左パドル部54や右パドル部55の操作量に応じた推力を船体2に作用させるよう制御する。また、スイッチ51~53,57,58の機能は、低速モードにおいて有効となる。
【0083】
左横移動スイッチ51、右横移動スイッチ52、左押付スイッチ57や右押付スイッチ58は、横推力発生モードの実施を指示するためのモードスイッチである。特に、左横移動スイッチ51や右横移動スイッチ52は、横移動モードの実施を指示するためスイッチ群であり、操作されている間中に船体2に対し横方向への推力を発生させ続けるためのスイッチである。コントローラ40は、左横移動スイッチ51や右横移動スイッチ52への操作入力に応じて船舶推進機4L,4Rを制御し、横移動モードを実施する。
【0084】
左押付スイッチ57や右押付スイッチ58は、押し付けモードの実施を指示するためのスイッチ群であり、操作されたことに応じて船体2に対し横方向への推力を発生させるためのスイッチである。コントローラ40は、左押付スイッチ57や右押付スイッチ58への操作入力に応じて船舶推進機4L,4Rを制御し、押し付けモードを実施する。
【0085】
RPM調整スイッチ53は、エンジン3L,3Rの回転数を少なくとも2段階(例えば、ローとハイ)に切り替える。エンジン3L,3Rの回転数の切り替えは、低速モードにおける各モードに適用される。切り替え可能なエンジン3L,3Rの回転数の段階は、モードごとに予め設定される。
【0086】
有効/無効切替スイッチ56は、第1の実施の形態の有効/無効切替スイッチ16と同じ機能を有し、第3の実施の形態でも、有効/無効切替スイッチ56の操作に応じて高速モードと低速モードの切り替えが行われる。したがって、有効/無効切替スイッチ56は、低速モードにおいて有効となるスイッチ51~53,57,58の機能の有効/無効を切り替えるスイッチである。
【0087】
また、ステアリング装置50では、ステアリング装置14と同様に、高速モードにおけるホイール部61の操作可能な回転角が比較的大きな回転角θに設定され、低速モードにおけるホイール部61の操作可能な回転角が比較的小さな回転角θに設定される。
【0088】
本実施の形態では、低速モードにおいて、操船者が左横移動スイッチ51や右横移動スイッチ52を操作しながら、ホイール部61を回転操作すると、船舶1が横移動モードからその場回頭モードへ遷移するように構成される。具体的には、ホイール部61の時計回り及び反時計回りのそれぞれに関して回転角θ(所定の回転角度)から回転角θまでの範囲がその場回頭領域66R,66L(図中のハッチングで示す領域参照)として設定される。なお、回転角θは回転角θよりも小さく、回転角θ及び回転角θで規定されるその場回頭領域66L,66Rの回転角はそれぞれ、例えば、10°に設定される。
【0089】
操船者によって左横移動スイッチ51や右横移動スイッチ52が操作されながらホイール部61が回転操作される際、ホイール部61の回転角度が回転角θよりも小さいとき、ステアリング装置50は、左横移動スイッチ51や右横移動スイッチ52の操作信号ととともにホイール部61の回転操作信号をコントローラ40へ送信する。そして、これらの信号を受信したコントローラ40は、船舶1を横移動モードに移行させて船舶1を横方向に移動させる。
【0090】
そして、左横移動スイッチ51や右横移動スイッチ52を操作する操船者の回転操作によってホイール部61の回転角度が回転角θ以上となり、ホイール部61がその場回頭領域66R(66L)まで回転操作されると、ステアリング装置50は、ホイール部61がその場回頭領域66R(66L)に到達した旨を知らせる回転操作信号をコントローラ40へ送信する。そして、この回転操作信号を受信したコントローラ40は、船舶1をその場回頭モードへ移行させる。
【0091】
図13は、第3の実施の形態における横移動モードからその場回頭モードへの移行について説明する図である。なお、図中では、ホイール部61の回転角度を理解し易くするために、直進状態にあるホイール部61の12時方向を示す位置(以下、「基準位置」という。)67に黒線を付している。また、右横移動スイッチ52が操作されていることを前提とし、右横移動スイッチ52が操作されている状態をハッチングにて示す。
【0092】
まず、図13(A)に示すように、ホイール部61の回転角度が回転角θ以下であり、ホイール部61の基準位置67がその場回頭領域66Rに到達していない場合、コントローラ40は、船舶1を右横方向に移動させつつ、ホイール部61の回転角度に応じて船体2の船首方向を右に向ける。
【0093】
一方、図13(B)に示すように、ホイール部61の回転角度が回転角θよりも大きくなり、基準位置67がその場回頭領域66Rに含まれる場合、コントローラ40は、船舶1の右横方向への移動を中断し、船舶1をその場回頭モードへ移行させる。このとき、船舶1は、ホイール部61の回転操作に応じて船舶1は重心Gを中心に回転する(図中矢印参照)。
【0094】
また、その場回頭領域66R(66L)において、船舶1の回頭速度は一定である必要がなく、例えば、図13(C)に示すように、その場回頭領域66R(66L)において、回頭速度の大きさが二段階に設定され、ホイール部61の回転角度が大きくなると、回頭速度がより大きくなるように設定されていてもよく、図13(D)に示すように、その場回頭領域66R(66L)において、ホイール部61の回転角度の大きさに比例して回頭速度が大きくなるように設定されていてもよい。
【0095】
なお、図13では、ホイール部61を直進状態から時計回りに回転操作した場合について説明したが、ホイール部61を直進状態から反時計回りに回転操作した場合も同様の処理が行われる。
【0096】
本実施の形態では、低速モードであっても、左横移動スイッチ51や右横移動スイッチ52が操作されながらホイール部61が回転操作されるときのみ、船舶1がその場回頭モードへ移行するため、その場回頭モードへの移行を望まない場合、操船者は、ホイール部6の回転操作中に左横移動スイッチ51や右横移動スイッチ52の操作を中断すればよい。
【0097】
本実施の形態によれば、左横移動スイッチ51や右横移動スイッチ52が操作されたまま、ホイール部61がその場回頭領域66R(66L)まで回転操作されると、コントローラ40が船舶1を横移動モードからその場回頭モードへ移行させるため、ホイール部61の回転操作を中断せず、船舶1をその場回頭モードへ移行させることができる。また、左横移動スイッチ51や右横移動スイッチ52は、ホイール部61を把持する操船者の指で操作可能な位置に配置されるため、操船者はホイール部61から手を離すことなく、船舶1をその場回頭モードへ移行させることができる。したがって、船舶1をその場回頭モードへ移行させる際の操作性を改善することができる。
【0098】
さらに、本実施の形態では、操船者が左横移動スイッチ51や右横移動スイッチ52を操作しながらホイール部61をその場回頭領域66R(66L)へ到達させないと船舶1がその場回頭モードへ移行しないため、船舶1をその場回頭モードへ移行させるために、操船者は意識的に左横移動スイッチ51や右横移動スイッチ52を操作する必要がある。したがって、操船者の意図に反して船舶1がその場回頭モードへ移行するのを防ぐことができる。
【0099】
以上、本発明の好ましい各実施の形態について説明したが、本発明は上述した各実施の形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0100】
例えば、第1の実施の形態では、ホイール部19が高フリクション領域33R(33L)まで回転操作されると、コントローラ40は船舶1をその場回頭モードへ移行させたが、移行されるモードはその場回頭モードに限られない。例えば、ホイール部19が高フリクション領域33R(33L)まで回転操作されると、コントローラ40は、船舶1を横移動モードや押し付けモードへ(所定の移動モード)移行させてもよい。
【0101】
また、本実施の各形態に係る操船システムは、船舶推進機4L,4Rやエンジン3L,3Rを船体2に収容する船舶1に適用されたが、適用される船舶1の形式に制限はなく、図8で示すように、船外機41R,41Lを備える滑走艇42に適用されてもよく、または、船内外機を備える船舶に適用されてもよい。
【0102】
さらに、船舶1は動力源として、エンジン3L,3Rを備えるが、船舶1が、エンジン3L,3Rの代わりに動力源として電気モータを有してもよく、若しくは、動力源としてエンジン及び電気モータの両方を有してもよい。
【符号の説明】
【0103】
1 船舶、2 船体、3R,3L エンジン、4R,4L 船舶推進機、14 ステアリング装置、16,56 有効/無効切替スイッチ、19,61 ホイール部、33R,33L,47R,47L 高フリクション領域、40 コントローラ、43 ジョイスティック、45 スティック、51 左横移動スイッチ、52 右横移動スイッチ、63,64 スポーク部、66R,66L その場回頭領域

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13