IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 五洋建設株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社カナモトの特許一覧 ▶ 有限会社ベトンテックの特許一覧

特開2023-120051グラウト材注入管理装置、グラウト材注入管理方法及びプログラム
<>
  • 特開-グラウト材注入管理装置、グラウト材注入管理方法及びプログラム 図1
  • 特開-グラウト材注入管理装置、グラウト材注入管理方法及びプログラム 図2
  • 特開-グラウト材注入管理装置、グラウト材注入管理方法及びプログラム 図3
  • 特開-グラウト材注入管理装置、グラウト材注入管理方法及びプログラム 図4
  • 特開-グラウト材注入管理装置、グラウト材注入管理方法及びプログラム 図5
  • 特開-グラウト材注入管理装置、グラウト材注入管理方法及びプログラム 図6
  • 特開-グラウト材注入管理装置、グラウト材注入管理方法及びプログラム 図7
  • 特開-グラウト材注入管理装置、グラウト材注入管理方法及びプログラム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120051
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】グラウト材注入管理装置、グラウト材注入管理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/02 20060101AFI20230822BHJP
   E02D 27/52 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
E04G21/02 103Z
E04G21/02 104
E02D27/52 A ESW
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023230
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391033115
【氏名又は名称】株式会社カナモト
(71)【出願人】
【識別番号】520384987
【氏名又は名称】有限会社ベトンテック
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 一成
(72)【発明者】
【氏名】西村 行雄
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 哲也
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 剛
(72)【発明者】
【氏名】角 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 淳史
(72)【発明者】
【氏名】黒坂 明善
(72)【発明者】
【氏名】金本 哲男
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 昌弘
【テーマコード(参考)】
2D046
2E172
【Fターム(参考)】
2D046DA62
2E172AA06
2E172DB01
2E172DE02
2E172HA03
(57)【要約】
【課題】少なくとも一部の空間に液体を有する間隙に対して適切な量のグラウト材を注入できるようにする。
【解決手段】グラウト材注入管理装置100は、基礎杭4aとトランジションピース4bとの間に形成され、少なくとも一部の空間に液体を有する間隙にグラウト材を注入するときに、間隙内に存在する液体を排除しながら、当該液体がグラウト材に置き換わるまで当該グラウト材をその間隙に注入し、その間隙の液体の量及び/又は間隙に注入されたグラウト材の量を計算して、その計算結果に応じた情報を出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の構造物と第2の構造物との間に形成され、少なくとも一部の空間に液体を有する間隙に対し、グラウト材を注入するための装置であって、
前記間隙内にグラウト材を注入する注入部と、
前記間隙内の液体の量及び/又は前記注入部により前記間隙に注入されたグラウト材の量を計算する計算部と、
前記計算部による計算結果に応じた情報を出力する出力部と
を備えることを特徴とするグラウト材注入管理装置。
【請求項2】
前記第1の構造物は、水底から水面上に向かって設置された基礎杭であり、
前記第2の構造物は、前記基礎杭に接続される下部接合部材であり、
前記間隙は、前記基礎杭の外周面と前記下部接合部材の内周面との間に形成され、少なくとも一部が水面以下に位置している
ことを特徴とする請求項1記載のグラウト材注入管理装置。
【請求項3】
前記下部接合部材又は前記基礎杭において、前記間隙に注入されたグラウト材からの圧力を検出するグラウト材圧力検出部を備え、
前記計算部は、前記グラウト材圧力検出部によって検出された値と、前記液体及び/又は前記グラウト材の比重と、前記間隙の高さ方向の寸法とを用いて、前記間隙に注入されたグラウト材の量を計算する
ことを特徴とする請求項2記載のグラウト材注入管理装置。
【請求項4】
前記グラウト材圧力検出部は、少なくとも前記間隙の最下端に設けられている
ことを特徴とする請求項3記載のグラウト材注入管理装置。
【請求項5】
前記グラウト材圧力検出部は、前記間隙の高さ方向に間隔をあけて複数の位置に設けられている
ことを特徴とする請求項3又は4に記載のグラウト材注入管理装置。
【請求項6】
前記グラウト材圧力検出部は、前記下部接合部材の内周面又は前記基礎杭の外周面の周方向に間隔をあけて複数の位置に設けられている
ことを特徴とする請求項3~5のいずれか1に記載のグラウト材注入管理装置。
【請求項7】
前記注入部により前記間隙に注入されるグラウト材の注入圧を検出する注入圧検出部を備え、
前記出力部は、検出された前記注入圧に応じた情報を出力する
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のグラウト材注入管理装置。
【請求項8】
グラウト材の注入位置を検出する注入位置検出部を備え、
前記出力部は、検出された前記注入位置に応じた情報を出力する
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のグラウト材注入管理装置。
【請求項9】
前記間隙へと前記グラウト材を圧送する経路において当該グラウト材の流量を検出する流量検出部を備え、
前記計算部は、検出された前記流量に基づいて前記グラウト材の使用量を計算する
ことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載のグラウト材注入管理装置。
【請求項10】
前記計算された結果又は前記検出された結果に関する情報を記録する記録部を備える
ことを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載のグラウト材注入管理装置。
【請求項11】
第1の構造物と第2の構造物との間に形成され、少なくとも一部の空間に液体を有する間隙にグラウト材を注入する方法であって、
前記間隙内に存在する液体を排除しながら、当該液体と混濁していないグラウト材に置き換わるまで当該グラウト材を前記間隙に注入するステップと、
前記注入するステップにおいて前記間隙の液体の量及び/又は前記間隙に注入されたグラウト材の量を計算するステップと、
計算された結果に応じた情報を出力するステップと
を備えることを特徴とするグラウト材注入管理方法。
【請求項12】
第1の構造物と第2の構造物との間に形成され、少なくとも一部の空間に液体を有する間隙にグラウト材を注入する装置が備えるコンピュータに、
前記間隙内に存在する液体を排除しながら、当該液体と混濁していないグラウト材に置き換わるまで当該グラウト材を前記間隙に注入するステップと、
前記注入するステップにおいて前記間隙の液体の量及び/又は前記間隙に注入されたグラウト材の量を計算するステップと
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラウト材を間隙に注入するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
モルタル等の各種グラウト材を構造物間の間隙に注入する場合、その注入量の管理が重要となる。例えば特許文献1には、圧送ポンプとケーブルシースのグラウト注入口との間に、グラウト注入圧測定用の圧力センサ、注入グラウトの単位時間当たりの流量を測定する流量計及びその時間経過に伴う積算量を測定する積算流量計を設け、これら圧力センサ、流量計及び積算流量計から時々刻々出力される測定データの時間的推移をディスプレイに表示することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-133397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、沿岸部や海洋等において建設される構造物においては、グラウト材を注入すべき間隙の下端が水面下にあり、間隙の一部に水(液体)が含まれていることがある。このように液体を有する間隙に対してグラウト材を注入すると、注入したグラウト材の一部が間隙内の液体と混濁する。従って、間隙の体積に相当する量のグラウト材を注入したとしても、そのうちの一部のグラウト材は液体と混濁し、又は排出され、グラウト材としての所期の機能を発揮できない恐れがある。
【0005】
そこで、本発明は、少なくとも一部の空間に液体を有する間隙に対して適切な量のグラウト材を注入できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係るグラウト材注入管理装置は、第1の構造物と第2の構造物との間に形成され、少なくとも一部の空間に液体を有する間隙に対し、グラウト材を注入するための装置であって、前記間隙内にグラウト材を注入する注入部と、前記間隙内の液体の量及び/又は前記注入部により前記間隙に注入されたグラウト材の量を計算する計算部と、前記計算部による計算結果に応じた情報を出力する出力部とを備えることを特徴とする。
【0007】
前記第1の構造物は、水底から水面上に向かって設置された基礎杭であり、前記第2の構造物は、前記基礎杭に接続される下部接合部材であり、前記間隙は、前記基礎杭の外周面と前記下部接合部材の内周面との間に形成され、少なくとも一部が水面以下に位置するようにしてもよい。
【0008】
前記下部接合部材又は前記基礎杭において、前記間隙に注入されたグラウト材からの圧力を検出するグラウト材圧力検出部を備え、前記計算部は、前記グラウト材圧力検出部によって検出された値と、前記液体及び前記グラウト材の比重と、前記間隙の高さ方向の寸法とを用いて、前記間隙に注入されたグラウト材の量を計算するようにしてもよい。
【0009】
前記グラウト材圧力検出部は、少なくとも前記間隙の最下端に設けられているようにしてもよい。
【0010】
前記グラウト材圧力検出部は、前記間隙の高さ方向に間隔をあけて複数の位置に設けられているようにしてもよい。
【0011】
前記グラウト材圧力検出部は、前記下部接合部材の内周面又は前記基礎杭の外周面の周方向に間隔をあけて複数の位置に設けられているようにしてもよい。
【0012】
前記注入部により前記間隙に注入されるグラウト材の注入圧を検出する注入圧検出部を備え、前記出力部は、検出された前記注入圧に応じた情報を出力するようにしてもよい。
【0013】
グラウト材の注入位置を検出する注入位置検出部を備え、前記出力部は、検出された前記注入位置に応じた情報を出力するようにしてもよい。
【0014】
前記間隙へと前記グラウト材を圧送する経路において当該グラウト材の流量を検出する流量検出部を備え、前記計算部は、検出された前記流量に基づいて前記グラウト材の使用量を計算するようにしてもよい。
【0015】
前記計算された結果又は前記検出された結果に関する情報を記録する記録部を備えるようにしてもよい。
【0016】
また、本発明に係るグラウト材注入管理方法は、第1の構造物と第2の構造物との間に形成され、少なくとも一部の空間に液体を有する間隙にグラウト材を注入する方法であって、前記間隙内に存在する液体を排除しながら、当該液体と混濁していないグラウト材に置き換わるまで当該グラウト材を前記間隙に注入するステップと、前記注入するステップにおいて前記間隙の液体の量及び/又は前記間隙に注入されたグラウト材の量を計算するステップと、計算された結果に応じた情報を出力するステップとを備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るプログラムは、第1の構造物と第2の構造物との間に形成され、少なくとも一部の空間に液体を有する間隙にグラウト材を注入する装置が備えるコンピュータに、前記間隙内に存在する液体を排除しながら、当該液体と混濁していないグラウト材に置き換わるまで当該グラウト材を前記間隙に注入するステップと、前記注入するステップにおいて前記間隙の液体の量及び/又は前記間隙に注入されたグラウト材の量を計算するステップとを実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、少なくとも一部の空間に液体を有する間隙に対してリアルタイムでグラウト材の注入量、注入状況の確認、及び適切な量のグラウト材を注入することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るグラウト材注入管理装置の全体構成を示す図である。
図2】基礎杭及び下部接合部材の接続部分の鉛直断面図である。
図3】基礎杭及び下部接合部材の接続部分の水平断面図である。
図4】グラウト材注入時における基礎杭及び下部接合部材の接続部分の鉛直拡大断面図である。(a)間隙のグラウト注入前の状況図(b)間隙内へのグラウト注入が開始された状況図(c)間隙内へグラウトが充填された状況図
図5】グラウト材注入管理装置の機能構成を示す図である。
図6】コンピュータの表示例を示す図である。
図7】コンピュータの表示例を示す図である。
図8】コンピュータの表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を実施するための形態の一例について説明する。図1に例示したグラウト注入管理装置100は、構造物間の間隙にグラウト材を注入するための装置である。このグラウト注入管理装置100において、グラウト製造装置1で混練されたグラウト材は、圧送ポンプ2によって、グラウト材を圧送する経路に相当する輸送配管3群を介して、構造物4に設けられた注入口5へと圧送される。本実施形態における構造物4は、例えば桟橋や着床式の洋上風力発電装置であり、主に、水底から水面上に向かって設置された基礎杭4a(第1の構造物)、及び、基礎杭4aに接続される下部接合部材に相当する鞘管やトランジションピース(第2の構造物)で構成されている。なお、これ以降は、着底式洋上風力発電装置を例にし、下部接合部材としてトランジションピースを用いて説明する。これら基礎杭4a及びトランジションピース4bはいずれも中空の円筒形状の構造を有しており、トランジションピース4b下部の内周の径は、基礎杭4a上部の外周の径よりも大きく、トランジションピース4bは基礎杭4aの杭頭部に所定の間隙と高さを保持した状態で嵌合している。そして、所定の間隙である、基礎杭4aの外周面及びトランジションピース4bの内周面に挟まれた空間が、グラウト材が注入される間隙に相当する。
【0021】
輸送配管3の一部は、ジョイント機構によって屈曲、回転及び移動を行うロボットアーム6として構成されている。ロボットアーム6の各ジョイント機構には、そのジョイント機構前後の2本のアームの角度を計測する角度センサ7がそれぞれ設けられている。PLC(Programmable Logic Controller)8は、各々の角度センサ7の計測値に基づいて、ロボットアーム6の動作を制御する。PLC8は、無線通信ユニット9aを介して、ルータモデム10に無線通信可能に接続されている。
【0022】
また、輸送配管3には、その配管内を圧送されるグラウト材の注入圧力を測定する圧力センサ11と、圧送されるグラウト材の流量を測定する流量センサ12とが設けられている。圧力センサ11及び流量センサ12は、無線通信ユニット9bを介して、ルータモデム10に接続されている。トランジションピース4bの水面上の所定の位置には、後述する圧力センサ18からのデータをルータモデム10に接続する無線通信ユニット9cが設けられている。ルータモデム10は、情報処理装置13及びネットワーク14上のクラウドシステム15に接続されている。情報処理装置13は、ディスプレイ16やプリンタ17等の各種の周辺機器に接続されている。
【0023】
情報処理装置13は、コンピュータを実現するためのハードウェアであるプロセッサ、メモリ、ストレージ、通信装置、入力装置、出力装置及びこれらを接続するバスなどを備えている。情報処理装置13における各機能は、プロセッサ、メモリなどのハードウェア上に所定のソフトウェア(プログラム)を読み込ませることによって、プロセッサが演算を行い、通信装置による通信を制御したり、他の装置から送信されてきたデータを取得したり、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込みの少なくとも一方を制御したりすることによって実現される。
【0024】
ここで、図2は、基礎杭4aとトランジションピース4bの接続部分を示す鉛直断面図であり、図3は、その接続部分を示す水平断面図である。前述したように、基礎杭4aは、水底から水面上に向かって設置された構造物であり、トランジションピース4bは、基礎杭4aに接続される下部接合部材に相当する構造物である。間隙gは、基礎杭4aの外周面とトランジションピース4bの内周面との間に形成されている。図2において、Sは水面を意味しており、間隙gの少なくとも一部は水面S以下に位置している。トランジションピース4bは、水底に打設された基礎杭4aに対して、ジャッキ等により支持された状態で基礎杭4aの上方から嵌合されるため、これらトランジションピース4b及び基礎杭4aの間隙gのうち少なくとも一部の空間は、水(液体)を有する状態となる。
【0025】
トランジションピース4bの内周面又は基礎杭4aの外周面には、間隙gに注入されたグラウト材からの圧力を検出する圧力センサ18が設けられている。この圧力センサ18は、図2に例示するように、少なくとも間隙gの最下端の位置であって、且つ、図3に例示するように、トランジションピース4bの内周面又は基礎杭4aの外周面の周方向に間隔をあけて複数の位置(図3では4箇所)に設けられている。
【0026】
この圧力センサ18は、図1に示した無線通信ユニット9cに接続されており、その検出値はルータモデム10を介して情報処理装置13に送信されるようになっている。
【0027】
図4は、グラウト材注入時における基礎杭4a及びトランジションピース4bの接続部分の鉛直拡大断面図である。図4(a)から図4(b)、さらには図4(c)へと、基礎杭4a及びトランジションピース4bの間隙gの内部の状況を時系列に表している。図4(a)はグラウト材の注入開始時の接続部分の様子を示している。図4(a)の時点では、圧力センサ18は間隙g内の液体から受ける圧力の検出値(水圧値)を検出している。間隙gの下端はゴム等からなるシール部材20によって封止されている。
【0028】
グラウト材が注入口5から間隙gへと注入されると、図4(b)に例示するように、グラウト材Gが間隙gの下端から矢印a方向(上方向)に徐々に蓄積していく。これに伴い、下端部はシール部材20で塞がれているため、間隙gに蓄積されたグラウト材Gの体積に相当する水が、間隙gの上端の開放部分から矢印bの方向に基礎杭4aの中空部分へと押し出されることになる。このとき、間隙gに蓄積しているグラウト材Gの上端に近い部分は、間隙g内の水と混濁した状態となっている。なお、注入口5は、シール部材20より上方で、シール部材20までのグラウト落下高が低い位置に設けることが望ましい。
【0029】
このときの圧力センサ18の検出値は、間隙gに存在するグラウト材G及び水から受ける圧力に相当する値である。グラウト材の比重は一般に水よりも大きいから、圧力センサ18の検出値は、図4(a)における検出値よりも大きくなる。このとき、間隙内の液体と注入されるグラウト材の比重及び比重差を用い、図4(a)における検出値との差分を監視確認することで、間隙gに対するグラウト材Gの注入量を把握することができる。圧力センサ18は、間隙gの最下端の位置に設けられているので、例えば圧力センサ18が、間隙gの比較的上方に設けられている場合などと比較して、グラウト材の注入初期段階からその注入量を把握することが可能となる。
【0030】
さらに十分な量のグラウト材Gが注入口5から間隙gへと注入されると、図4(c)に例示するように、間隙g内は全てグラウト材Gが占める状態になる。このとき、図4(b)において間隙g内の水と混濁した状態のグラウト材は、間隙gの上端の開放部分から矢印bの方向に基礎杭4aの中空部分へと押し出される。つまり、図4(c)において間隙g内のグラウト材Gは水と混濁していない(又はその混濁の程度が極めて小さい)状態である。このような状態のグラウト材Gは、グラウト材としての本来の機能を発揮し得る。
【0031】
このときの圧力センサ18の検出値は、間隙gに存在するグラウト材Gから受ける圧力を検出している。つまり、グラウト材Gの比重をsとし、間隙gの高さをhとしたとき、圧力センサ18の検出値ΣPはs×hに相当する値となる。よって、圧力センサ18の検出値を監視することで、間隙gが、水と混濁していない(又はその混濁の程度が極めて小さい)状態のグラウト材で充填されたか否かを判断することが可能となる。そして、この判断においては、複数の圧力センサ18の検出値を平均した値やそれらのうちの最低値等の、適切な代表値を用いることで、より精度を向上させることが可能となる。このとき、さらにトランジションピース4bの外周面で圧力センサ18と略同一の水深位置に、1以上の水圧を検出する水圧センサ(図示せず)を設けておき、その水圧センサの検出値を用いて、波浪等による水面変動の影響を考慮することが望ましい。この場合も、複数の水圧センサの平均した値やそれらのうちの最低値等の検出値の代表値を用いることで、精度の向上を期待することができる。
【0032】
図5は、グラウト注入管理装置100の機能構成を例示する図である。図5において、注入部21は、間隙gに対してグラウト材Gを注入する手段であり、圧送ポンプ2、輸送配管3、注入口5、PLC8等により実現される。
【0033】
グラウト材圧力検出部22は、間隙g内においてグラウト材Gから受ける圧力を検出する手段であり、トランジションピース4bの内周面又は基礎杭4aの外周面に設けられた圧力センサ18により実現される。グラウト材圧力検出部22による検出値は、無線通信ユニット9c及びルータモデム10を経由して情報処理装置13に送信される。
【0034】
注入圧検出部23は、注入部21により間隙gに注入されるグラウト材Gの注入圧を検出する手段であり、輸送配管3に設けられた圧力センサ11により実現される。注入圧検出部23による検出値は、無線通信ユニット9b及びルータモデム10経由で情報処理装置13に送信される。
【0035】
流量検出部24は、注入部21により間隙gに注入されるグラウト材の流量を検出する手段であり、輸送配管3に設けられた流量センサ12により実現される。流量検出部24による検出値は、無線通信ユニット9b及びルータモデム10経由で情報処理装置13に送信される。
【0036】
注入位置検出部25は、ロボットアーム6の先端にあるグラウト材Gの排出口、つまり、輸送配管3からグラウト材を注入する注入位置を検出する手段であり、ロボットアーム6のジョイント機構に設けられた角度センサ7とロボットアーム6の個々の長さと角度により実現される。注入位置検出部25による検出値は、無線通信ユニット9a及びルータモデム10を経由して情報処理装置13に送信される。
【0037】
図5において、取得部131、計算部132,出力部133及び記録部134は、情報処理装置13によって実現される。取得部131は、情報処理装置13の外部(例えば上記の各検出部22~26等)から各種のデータを取得する。
【0038】
計算部132は、間隙g内の水の量及び/又は注入部21により間隙gに注入されたグラウト材の量を計算する。より具体的には、計算部132は、図4(a)(b)(c)を用いて説明したようにして、グラウト材圧力検出部22によって検出された値と、水及びグラウト材の比重と、間隙gの高さ方向の寸法とを用いて、間隙gに注入されたグラウト材Gの量を計算する。ここでいう間隙gに注入されたグラウト材の量とは、間隙gへと圧送されたグラウト材Gの総量(例えば流量検出部24による検出された流量の換算値)のうち、間隙g内の本来の機能を発揮し得る(水と混濁していない又はその混濁の程度が極めて小さい)状態のグラウト材の量のことである。また、計算部132は、流量検出部24により検出されたグラウト材の流量に基づいてグラウト材の使用量を計算する。ここでいう使用量とは、間隙gへと圧送されたグラウト材の総量のことである。
【0039】
出力部133は、計算部132による計算結果に応じた情報を出力する。ここでいう出力は、例えばディスプレイ16における表示、クラウドシステム15その他の外部装置に対する送信又は配信、及び、プリンタ17による印刷等の、あらゆる形態の出力を含む。出力部133は、計算部132による各種の計算結果をその時間的推移とともに、同一画面上に又は画面単位で切り替えてディスプレイ16に表示する。これにより、作業者はリアルタイムでグラウト材の注入量、注入作業の進捗状況や異常の有無を目視により確認することができるようになる。
【0040】
例えば出力部133は、図6上段に例示するように、グラウト材圧力検出部22によって検出された値と水及び/又はグラウト材の比重と間隙gの高さ方向の寸法とを用いて間隙gに注入されたグラウト材の量を計算した結果の時間的推移をディスプレイ16に表示する。図6上段のグラフにおいては、間隙g内において水と混濁していない状態のグラウト材の量を100としたときの、間隙gに注入されたグラウト材の量の時間的推移が例示されている。なお、図6上段のグラフにおいて、縦軸は「%」であり、横軸は時間(min)であるが、縦軸を「m3」や「MPa」としてもよい。出力部133は、このような時間的推移を表示した印刷物をプリンタ19からプリントアウトするようにしてもよいし、この時間的推移を示すデータをクラウドシステム15等に送信し保存するようにしてもよい。
【0041】
また、出力部133は、注入圧検出部23により検出されたグラウト材の注入圧に応じた情報を出力する。例えば、出力部133は、図6下段に例示するように、注入圧検出部23により検出されたグラウト材の注入圧の時間的推移を、その管理限界値とともにディスプレイ16に表示する。なお、図6下段のグラフにおいて、縦軸はグラウト材の注入圧(MPa)であり、横軸は時間(min)である。また、出力部133は、注入圧検出部23により検出されたグラウト材の注入圧の時間的推移をその管理限界値とともに表示した印刷物をプリンタ17からプリントアウトするようにしてもよいし、この時間的推移を示すデータをクラウドシステム15等に送信し保存するようにしてもよい。同様に、出力部133は、流量検出部24により検出されたグラウト材の流量に応じた情報を出力するようにしてもよい。
【0042】
また、出力部133は、注入位置検出部25により検出された注入位置に応じた情報を出力する。例えば、出力部133は、図7に例示するように、ロボットアーム6の姿勢及びその先端(つまりグラウト材の注入位置)を、鉛直面(図中左側の平面)において注入口5の位置と共にディスプレイ16に表示するとともに、水平面(図中右側の平面)において注入口5の位置と共にディスプレイ16に表示するようにしてもよい。
【0043】
図6において、記録部134は、計算部132により計算された結果や、グラウト材圧力検出部22、注入圧検出部23、流量検出部24及び位置検出部26によりそれぞれ検出された結果に関する情報を記録する。
【0044】
このようにして出力又は記録された結果は、グラウト材注入施工における管理データとしての役割を果たし、グラウト材の注入作業を確実に実施した証拠として発注者を始めとする関係機関に提出することが可能となる。
【0045】
以上の本実施形態によれば、構造物の間隙に注入したグラウト材のうち、本来の機能を発揮し得る適切な量のグラウト材を注入することが可能となる。
【0046】
上記実施形態を次のように変形してもよい。例えば上記実施形態では、第1の構造物を水底から水面上に向かって設置された基礎杭とし、第2の構造物をその基礎杭に接続される下部接合部材としていてが、これらの例に限定されない。第1の構造物と第2の構造物は、これらの間に形成された間隙の少なくとも一部が液体を含むようなものであって、その間隙がグラウト材の注入対象となるようなものであればよい。
【0047】
また、上記実施形態では、圧力センサ18(グラウト材圧力検出部)は間隙gの最下端の位置に設けられていたが、この例に限定されない。例えば圧力センサ18は、間隙gの高さ方向に間隔をあけて複数の位置に設けられていてもよい。この場合に、ディスプレイ16において、図8に例示するような画面を表示してもよい。ここでは、間隙gの高さ方向に間隔をあけて3つの圧力センサ18を設けたものとする。図8において、「圧力計下段」に対応する実線は、これら3つの圧力計センサのうち最下方に位置する圧力センサ18の検出値の時間的推移を意味しており、「圧力計中段」に対応する実線は、3つの圧力計センサのうち中段に位置する圧力センサ18の検出値の時間的推移を意味しており、「圧力計上段」に対応する実線は、3つの圧力計センサのうち最上方に位置する圧力センサ18の検出値の時間的推移を意味している。また、「管理値下段」に対応する破線は、最下方に位置する圧力センサ18の位置を基準とした間隙gの高さ方向の寸法と、グラウト材の比重との積から計算される量のグラウト材が間隙gに蓄積したときに、圧力センサ18が検出すべき検出値であり、「管理値中段」に対応する破線は、中断に位置する圧力センサ18の位置を基準とした間隙gの高さ方向の寸法と、グラウト材の比重との積から計算される量のグラウト材が間隙gに蓄積したときに、圧力センサ18が検出すべき検出値であり、「管理値上段」に対応する破線は、最上方に位置する圧力センサ18の位置を基準とした間隙gの高さ方向の寸法と、グラウト材の比重との積から計算される量のグラウト材が間隙gに蓄積したときに、圧力センサ18が検出すべき検出値である。図8のグラフにおいては、注入時間40分の時点で各圧力センサ18の検出値がそれぞれ管理値に達しているから、この時点では、間隙g内に水と混濁していない状態のグラウト材が蓄積されていることになる。
【0048】
なお、本発明は、第1の構造物と第2の構造物との間に形成され、少なくとも一部の空間に液体を有する間隙にグラウト材を注入する方法であって、前記間隙内に存在する液体を排除しながら、当該液体がグラウト材に置き換わるまで当該グラウト材を前記間隙に注入するステップと、前記注入ステップにおける前記間隙の液体の量及び/又は前記間隙に注入されたグラウト材の量を計算するステップと、計算された結果に応じた情報を出力するステップとを備えることを特徴とするグラウト材注入管理方法であってもよい。また、本発明は、第1の構造物と第2の構造物との間に形成され、少なくとも一部の空間に液体を有する間隙にグラウト材を注入する装置コンピュータが上記方法を実行するためのプログラムであってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 グラウト製造装置、2 圧送ポンプ、3 輸送配管、4 構造物、4a 基礎杭、4b トランジションピース、5 注入口、6 ロボットアーム、7 角度センサ、8 PLC、9a,9b,9c 無線通信ユニット、10 ルータモデム、11 圧力センサ、12 流量センサ、13 情報処理装置、14 ネットワーク、15 クラウドシステム、16 ディスプレイ、17 プリンタ、18 圧力センサ、20 シール部材、21 注入部、22 グラウト材圧力検出部、23 注入圧検出部、24 流量検出部、25 注入位置検出部、131 取得部、132 計算部、133 出力部、134 記録部、S 水面、g 間隙、G グラウト材、h 高さ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8