(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120070
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】異常判定装置、異常判定方法、異常判定システム、異常判定システムの制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20230822BHJP
【FI】
G05B23/02 302N
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023263
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】久保 博義
(72)【発明者】
【氏名】青田 浩美
(72)【発明者】
【氏名】石津 安規
(72)【発明者】
【氏名】中野 慎也
(72)【発明者】
【氏名】西村 幸治
(72)【発明者】
【氏名】浦方 悠一郎
(72)【発明者】
【氏名】深田 恒
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223AA05
3C223BA01
3C223BB12
3C223CC01
3C223DD01
3C223EB01
3C223FF04
3C223FF13
3C223FF24
3C223FF35
3C223FF45
3C223GG01
3C223HH03
(57)【要約】
【課題】動作時の状態パラメータの時系列データに基づいて異常を適切に判定する。
【解決手段】異常判定装置は、動作時に状態パラメータの時間変化が特定のプロファイル波形を示す機器の異常を判定するための装置であって、時系列データ取得部、スライド窓設定部、及び、異常判定部を備える。時系列データ取得部は、状態パラメータについて時間的に連続する複数のデータを含む時系列データを取得する。スライド窓設定部は、時系列データに含まれるデータ数を示すスライド窓の長さを設定する。異常判定部は、機器の正常な動作状態に対応する前記状態パラメータの時間変化を示す基準データから、時系列データに対応する複数の基準時系列データを抽出し、スライド窓設定部により設定されたスライド窓の長さを有する時系列データと複数の基準時系列データとをスライド窓をスライドしながら比較することにより、機器について異常の有無を判定する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作時に状態パラメータの時間変化が特定のプロファイル波形を示す機器の異常判定装置であって、
前記状態パラメータについて時間的に連続する複数のデータを含む時系列データを取得するための時系列データ取得部と、
前記時系列データに含まれるデータ数を示すスライド窓の長さを設定するスライド窓設定部と、
前記機器の正常な動作状態に対応する前記状態パラメータの時間変化を示す基準データから、前記時系列データに対応する複数の基準時系列データを抽出し、前記スライド窓設定部により設定された前記スライド窓の長さを有する前記時系列データと前記複数の基準時系列データとを前記スライド窓をスライドしながら比較することにより、前記機器について異常の有無を判定するための異常判定部と、
を備える、異常判定装置。
【請求項2】
前記異常判定部は、前記複数の基準時系列データのうち前記プロファイル波形の少なくとも一部を含む模範データを特定し、前記スライド窓設定部により設定された前記スライド窓の長さを有する前記時系列データと前記模範データとを前記スライド窓をスライドしながら比較することにより、前記機器について異常の有無を判定する、請求項1に記載の異常判定装置。
【請求項3】
前記異常判定部は、前記スライド窓設定部により設定された前記スライド窓の長さに対応する次元を有する仮想空間における前記時系列データと前記複数の基準時系列データとの乖離度に基づいて、前記機器について異常の有無を判定する、請求項1又は2に記載の異常判定装置。
【請求項4】
前記異常判定部は、前記仮想空間において、前記時系列データに対してk番目(kは任意の自然数)に近い前記基準時系列データとの乖離度に基づいて、前記機器について異常の有無を判定する、請求項3に記載の異常判定装置。
【請求項5】
前記スライド窓の長さは、前記プロファイル波形の立ち上がり部、又は、立ち下がり部の少なくとも一方より大きな時間幅を有するように設定される、請求項1から4のいずれか一項に記載の異常判定装置。
【請求項6】
前記スライド窓の長さは、前記プロファイル波形より大きな時間幅を有するように設定される、請求項5に記載の異常判定装置。
【請求項7】
前記時系列データ取得部は、前記機器の動作期間を含むように規定されたデータ取得期間に前記時系列データを取得する、請求項1から6のいずれか一項に記載の異常判定装置。
【請求項8】
前記異常判定部は、前記基準データから、前記プロファイル波形を含む機器動作期間から前記複数の基準時系列データを抽出する、請求項7に記載の異常判定装置。
【請求項9】
前記機器は、動作モードとして、高負荷時に対応する第1動作モードと、低負荷時に対応する第2動作モードを有し、
前記異常判定部は、前記動作モードに基づいて、前記異常の判定条件を切替可能である、請求項1から8のいずれか一項に記載の異常判定装置。
【請求項10】
前記判定条件は、前記スライド窓設定部により設定された前記スライド窓の長さを含む、請求項9に記載の異常判定装置。
【請求項11】
前記機器は周期的な動作を実施する、請求項1から10のいずれか一項に記載の異常判定装置。
【請求項12】
動作時に状態パラメータの時間変化が特定のプロファイル波形を示す機器の異常判定方法であって、
前記状態パラメータについて時間的に連続する複数のデータを含む時系列データを取得する取得ステップと、
前記時系列データに含まれるデータ数を示すスライド窓の長さを設定するスライド窓設定ステップと、
前記機器の正常な動作状態に対応する前記状態パラメータの時間変化を示す基準データから、前記時系列データに対応する複数の基準時系列データを抽出し、前記スライド窓設定ステップにより設定された前記スライド窓の長さを有する前記時系列データと前記複数の基準時系列データとを前記スライド窓をスライドしながら比較することにより、前記機器について異常の有無を判定する異常判定ステップと、
を備える、異常判定方法。
【請求項13】
コンピュータを、
動作時に状態パラメータの時間変化が特定のプロファイル波形を示す機器の前記状態パラメータについて時間的に連続する複数のデータを含む時系列データを取得する取得手段と、
前記時系列データに含まれるデータ数を示すスライド窓の長さを設定するスライド窓設定手段と、
前記機器の正常な動作状態に対応する前記状態パラメータの時間変化を示す基準データから、前記時系列データに対応する複数の基準時系列データを抽出し、前記スライド窓設定手段により設定された前記スライド窓の長さを有する前記時系列データと前記複数の基準時系列データとを前記スライド窓をスライドしながら比較することにより、前記機器について異常の有無を判定する異常判定手段と、
して機能させるためのプログラム。
【請求項14】
動作時に状態パラメータの時間変化が特定のプロファイル波形を示す機器の異常判定装置及びクライアント端末からなる異常判定システムであって、
前記異常判定装置は、
前記状態パラメータについて時間的に連続する複数のデータを含む時系列データを取得するための時系列データ取得部と、
前記時系列データに含まれるデータ数を示すスライド窓の長さを設定するスライド窓設定部と、
前記クライアント端末からの要求により、前記機器の正常な動作状態に対応する前記状態パラメータの時間変化を示す基準データから、前記時系列データに対応する複数の基準時系列データを抽出し、前記スライド窓設定部により設定された前記スライド窓の長さを有する前記時系列データと前記複数の基準時系列データとを前記スライド窓をスライドしながら比較することにより、前記機器について異常の有無を判定するための異常判定部と、
を備えたことを特徴とする異常判定システム。
【請求項15】
動作時に状態パラメータの時間変化が特定のプロファイル波形を示す機器の異常判定装置及びクライアント端末からなる異常判定システムの制御方法であって、
前記異常判定装置は、
前記状態パラメータについて時間的に連続する複数のデータを含む時系列データを取得するための時系列データ取得ステップと、
前記時系列データに含まれるデータ数を示すスライド窓の長さを設定するスライド窓設定ステップと、
前記クライアント端末からの要求により、前記機器の正常な動作状態に対応する前記状態パラメータの時間変化を示す基準データから、前記時系列データに対応する複数の基準時系列データを抽出し、前記スライド窓設定ステップにより設定された前記スライド窓の長さを有する前記時系列データと前記複数の基準時系列データとを前記スライド窓をスライドしながら比較することにより、前記機器について異常の有無を判定するための異常判定ステップと、
を実行することを特徴とする異常判定システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、機器の異常判定装置、及び、異常判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばプラント設備で用いられる機器では、故障や不具合等の異常が発生するおそれがある。機器の異常は、メンテナンス時に実施される検査によって発見することも可能であるが、このような検査は稼働中の機器を停止させる必要があり、機器の運用スケジュールに支障をきたしてしまう。そこで動作中にある機器の状態をセンサ等によって検出し、その検出結果に基づいて、機器の異常を事前又は早期に判定することが望まれている。
【0003】
このような動作中にある機器の異常判定に関する技術として、例えば特許文献1がある。この文献では、振動搬送機などのように同一動作を連続して行う対象機器に設けられた複数のセンサから時系列データをそれぞれ取得し、これらを合成して得られた合成データと学習した正常時の合成データとを比較して、対象機器における異常判定を行うとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、異常判定を行うにあたり、例えば、スライド窓を用いて時系列データに係る合成データ及び正常時の合成データを部分データに分解して判定を行っているが、スライド窓が適切に設定されていない場合、異常判定を行う上での精度が低下してしまうという課題がある。
【0006】
本開示の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、動作時の状態パラメータの時系列データに基づいて異常を適切に判定可能な異常判定装置、異常判定方法、異常判定システム、異常判定システムの制御方法、及び、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の少なくとも一実施形態に係る異常判定装置は、上記課題を解決するために、
動作時に状態パラメータの時間変化が特定のプロファイル波形を示す機器の異常判定装置であって、
前記状態パラメータについて時間的に連続する複数のデータを含む時系列データを取得するための時系列データ取得部と、
前記時系列データに含まれるデータ数を示すスライド窓の長さを設定するスライド窓設定部と、
前記機器の正常な動作状態に対応する前記状態パラメータの時間変化を示す基準データから、前記時系列データに対応する複数の基準時系列データを抽出し、前記スライド窓設定部により設定された前記スライド窓の長さを有する前記時系列データと前記複数の基準時系列データとを前記スライド窓をスライドしながら比較することにより、前記機器について異常の有無を判定するための異常判定部と、
を備える。
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態に係る異常判定方法は、上記課題を解決するために、
動作時に状態パラメータの時間変化が特定のプロファイル波形を示す機器の異常判定方法であって、
前記状態パラメータについて時間的に連続する複数のデータを含む時系列データを取得する取得ステップと、
前記時系列データに含まれるデータ数を示すスライド窓の長さを設定するスライド窓設定ステップと、
前記機器の正常な動作状態に対応する前記状態パラメータの時間変化を示す基準データから、前記時系列データに対応する複数の基準時系列データを抽出し、前記スライド窓設定ステップにより設定された前記スライド窓の長さを有する前記時系列データと前記複数の基準時系列データとを前記スライド窓をスライドしながら比較することにより、前記機器について異常の有無を判定する異常判定ステップと、
を備える。
【0009】
本開示の少なくとも一実施形態に係るプログラムは、上記課題を解決するために、
コンピュータを、
動作時に状態パラメータの時間変化が特定のプロファイル波形を示す機器の前記状態パラメータについて時間的に連続する複数のデータを含む時系列データを取得する取得手段と、
前記時系列データに含まれるデータ数を示すスライド窓の長さを設定するスライド窓設定手段と、
前記機器の正常な動作状態に対応する前記状態パラメータの時間変化を示す基準データから、前記時系列データに対応する複数の基準時系列データを抽出し、前記スライド窓設定手段により設定された前記スライド窓の長さを有する前記時系列データと前記複数の基準時系列データとを前記スライド窓をスライドしながら比較することにより、前記機器について異常の有無を判定する異常判定手段と、
して機能させる。
【0010】
本開示の少なくとも一実施形態に係る異常判定システムは、上記課題を解決するために、
動作時に状態パラメータの時間変化が特定のプロファイル波形を示す機器の異常判定装置及びクライアント端末からなる異常判定システムであって、
前記異常判定装置は、
前記状態パラメータについて時間的に連続する複数のデータを含む時系列データを取得するための時系列データ取得部と、
前記時系列データに含まれるデータ数を示すスライド窓の長さを設定するスライド窓設定部と、
前記クライアント端末からの要求により、前記機器の正常な動作状態に対応する前記状態パラメータの時間変化を示す基準データから、前記時系列データに対応する複数の基準時系列データを抽出し、前記スライド窓設定部により設定された前記スライド窓の長さを有する前記時系列データと前記複数の基準時系列データとを前記スライド窓をスライドしながら比較することにより、前記機器について異常の有無を判定するための異常判定部と、
を備える。
【0011】
本開示の少なくとも一実施形態に係る異常判定システムの制御方法は、上記課題を解決するために、
動作時に状態パラメータの時間変化が特定のプロファイル波形を示す機器の異常判定装置及びクライアント端末からなる異常判定システムの制御方法であって、
前記異常判定装置は、
前記状態パラメータについて時間的に連続する複数のデータを含む時系列データを取得するための時系列データ取得ステップと、
前記時系列データに含まれるデータ数を示すスライド窓の長さを設定するスライド窓設定ステップと、
前記クライアント端末からの要求により、前記機器の正常な動作状態に対応する前記状態パラメータの時間変化を示す基準データから、前記時系列データに対応する複数の基準時系列データを抽出し、前記スライド窓設定ステップにより設定された前記スライド窓の長さを有する前記時系列データと前記複数の基準時系列データとを前記スライド窓をスライドしながら比較することにより、前記機器について異常の有無を判定するための異常判定ステップと、
を実行する。
【発明の効果】
【0012】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、動作時の状態パラメータの時系列データに基づいて異常を適切に判定可能な異常判定装置、異常判定方法、異常判定システム、異常判定システムの制御方法、及び、プログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態に係る異常判定装置を判定対象である機器とともに示す模式図である。
【
図2】
図1のセンサによって検知される正常な機器の状態パラメータの時間変化の一例を示す図である。
【
図3】
図1の異常判定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図4】
図1の異常判定装置の機能的構成を示すブロック図である。
【
図5A】
図4の基準時系列データ取得部162による基準時系列データの抽出方法を示すフローチャートである。
【
図5B】
図4の異常判定部における異常判定方法を示すフローチャートである。
【
図6A】基準データから抽出される複数の基準時系列データを模式的に示す図である。
【
図6B】スライド窓を適用することで時系列データを取得する様子を模式的に示す図である。
【
図7】
図5のステップS202で特定される仮想空間上の各位置を模式的に示す図である。
【
図8】模範データに対応するスライド窓の基準データにおける位置を示す模式図である。
【
図9】仮想空間における模範データに対応する位置を模式的に示す図である。
【
図10】一実施形態に係る異常判定装置による異常判定例を示すグラフである。
【
図11】機器の状態パラメータの時間変化に対するデータ取得期間を模式的に示す図である。
【
図12】基準データのうち複数の基準時系列データの抽出対象となる機器動作期間を模式的に示す図である。
【
図13】各動作モードにおける状態パラメータの時間変化を示す図である。
【
図14】他の実施形態に係る異常判定装置100の機能的構成を示すブロック図である。
【
図15】一実施形態に係る異常判定システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0015】
図1は一実施形態に係る異常判定装置100を判定対象である機器1とともに示す模式図である。機器1は、その動作時に状態パラメータPの時間変化が特定のプロファイル波形PFを示す任意の機器である。機器1には、機器1の状態を示す状態パラメータPを検知するためのセンサ2が設けられる。センサ2では、所定のサンプリング周波数で状態パラメータPの検知が連続的に行われることで、状態パラメータPの時間変化が取得可能である。機器1は所定のタイミングで動作することで、センサ2によって検知される状態パラメータPが変化する。
【0016】
本実施形態では、判定対象となる機器1の一例として、石炭ガス化複合発電プラント(IGCC:Integrated Coal Gasification Combined Cycle)において、ガスタービンを駆動するためのガスを石炭から生成するためのガス化炉に対する燃料(微粉炭)の供給量を調整するために、周期的に動作する制御弁について述べる。このような制御弁は、ガス化炉に燃料である微粉炭を供給するための微粉炭供給ホッパを減圧排気するための弁(微粉炭供給ホッパ減圧排気弁)である。このような制御弁は、予め設定されたタイミングで周期的に動作される。
【0017】
図2は
図1のセンサ2によって検知される正常な機器1の状態パラメータPの時間変化の一例を示す図である。この例では、前述のように制御弁である機器1が予め設定されたタイミングで周期的に開動作を行う場合における状態パラメータPの時間変化が示されている。
図2では、機器1が正常な場合(異常が存在しない場合)における状態パラメータPの時間変化が示されており、機器1の周期的な動作タイミングに対応する複数のプロファイル波形PFが略等間隔に現れる様子が示されている。各プロファイル波形PFは、制御弁の開動作に対応するように状態パラメータPがベース値P0から増加する立ち上がり部PF1と、制御弁の全開状態に対応するピーク部PF2と、制御弁の閉動作に対応するようにベース値P0に向けて減少する立ち下がり部PF3とを含んでおり、互いに略同形状を有する。
【0018】
続いて異常判定装置100の具体的構成について設営する。
図3は
図1の異常判定装置100のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0019】
異常判定装置100は、例えばコンピュータのような演算処理装置として構成される。異常判定装置100のハードウェア構成は、
図3に例示するように、入力部110と、記憶部120と、演算部130と、出力部140とを備える。
【0020】
入力部110は、異常判定装置100において行われる演算処理に必要な各種情報を入力するための構成である。本実施形態では、入力部110は、機器1に設けられたセンサ2から送信されるデータを受信可能なインターフェース機器として構成されており、これに加えて、オペレータが操作可能なマウス、キーボード及びタッチパネルのようなヒューマンインターフェースや、その他の機器からのデータを受信するためのインターフェース機器が含まれていてもよい。
【0021】
記憶部120は、異常判定装置100において行われる演算処理に必要な各種情報を記憶するための構成である。記憶部120は、RAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)の少なくとも一方を含むコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成される。記憶部120に記憶される各種情報には、これらのハードウェア構成が異常判定装置100として機能するためのプログラムが含まれる。
【0022】
演算部130は、異常判定装置100の各種演算を実施するための構成であり、例えばCPU(Central Processing Unit)を含んで構成される。演算部130は、記憶部120に記憶されたプログラムをRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、異常判定装置100の各種機能が実現される。
【0023】
尚、演算部130によって実行されるプログラムは、上述のように記憶部120に記憶している形態の他に、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0024】
出力部140は、演算部130における演算結果に基づく出力を行うための構成である。本実施形態では、出力部140は、異常判定装置100の出力として、機器1における異常の有無に関する判定結果を出力する。この判定結果は、ディスプレイ表示や警報等の人間に認識可能な形態でオペレータによって認識されてもよいし、判定結果に対応する信号として他の機器に入力されることにより各種制御に用いられてもよい。
【0025】
図4は
図1の異常判定装置100の機能的構成を示すブロック図である。異常判定装置100は、データ監視部150と、基準データ記憶部160と、異常判定部170とを備える。
尚、
図4に示すブロック図は、以下の説明に対応するように異常判定装置100の機能的構成を示した一例であり、各ブロックは互いに統合されていてもよいし、更に細分化されていてもよい。
【0026】
データ監視部150は、状態パラメータPについて時間的に連続する複数のデータを含む時系列データDtを取得するための時系列データ取得部152を備える。本実施形態では、
図1を参照して前述したように、機器1には状態パラメータPを検知するためのセンサ2が設けられており、時系列データ取得部152は、所定のサンプリング周波数のもとで検知されたセンサ2の検知結果を連続的に受信することにより、時系列データDtを取得する。
【0027】
基準データ記憶部160は、機器1の正常な動作状態に対応する状態パラメータPの時間変化を示す基準データDrefを記憶するための構成であり、例えばハードウェアやメモリ等のコンピュータ読み出し可能な各種記憶媒体を含む。基準データDrefは、正常な動作状態にある機器1を用いて予め取得され、
図2に例示したように、機器1の動作に対応する略同形状の複数のプロファイル波形PFを含む状態パラメータPの時間変化を示すデータである。
【0028】
基準データ記憶部160は、基準時系列データ取得部162を備える。基準時系列データ取得部162は、基準データ記憶部160に記憶された基準データDrefから、データ監視部150が有する時系列データ取得部152によって取得された時系列データと比較する際に基準となる基準時系列データを取得するための構成である。
【0029】
基準データDrefに含まれる各データは、時系列データ取得部152によって取得される時系列データDtと同条件で取得されたものである。例えば、基準データDrefに含まれる各データを取得する際のサンプリング周波数は、時系列データ取得部152によって取得される時系列データDtのサンプリング周波数(センサ2のサンプリング周波数)と同一に設定される。
【0030】
異常判定部170は、データ監視部150の時系列データ取得部152で取得された時系列データと、基準データ記憶部160に記憶された基準データDrefから基準時系列データ取得部162で取得された基準時系列データとを比較することにより、機器1の異常の有無について判定を行う。機器1に異常がない場合、データ監視部150の時系列データ取得部152で取得された時系列データは、
図2に示すように各プロファイル波形PFは略同形状を有するが、機器1に異常がある場合、データ監視部150の時系列データ取得部152で取得された時系列データに含まれる少なくとも1つのプロファイル波形PFは正常な場合に比べて少なからず変形する。異常判定部170では、データ監視部150の時系列データ取得部152で取得された時系列データと、基準データ記憶部160の基準時系列データ取得部162で取得された基準時系列データとを比較することにより、時系列データに含まれるプロファイル波形PFの形状を評価することにより、異常の有無を判定する。
【0031】
スライド窓設定部180は、基準データDrefやセンサ2から受け取ったデータに対して適用するスライド窓の長さやスライド窓をスライドさせる幅等に関する情報を設定する。スライド窓に関する情報を設定する方法の例としては、ユーザにより入力部110を介して入力された情報に基づいて設定を行っても良いし、適用対象とするプロファイル波形PFに基づいて設定しても良い。
【0032】
続いて上記構成を有する異常判定装置100によって実施される異常判定方法について詳しく説明する。
図5Aは
図4の基準時系列データ取得部162による基準時系列データの抽出方法を示すフローチャートであり、
図5Bは
図4の異常判定部170における異常判定方法を示すフローチャートである。
尚、
図5BのうちステップS202以降は異常判定部170で実施し、ステップS200及びS201はデータ監視部150で実施してもよい。
【0033】
まず
図5Aに示すように、基準時系列データ取得部162は、基準データ記憶部160に記憶された基準データDrefを取得する(ステップS100)。そして
図6Aを参照して後述するように、ステップS100で取得した基準データDrefに対してスライド窓設定部180により設定されたスライド窓を適用し(ステップS101)、基準時系列データを抽出する(ステップS102)。ステップS102で抽出された基準時系列データは、基準データ記憶部160に対して適宜読み出し可能に記憶される(ステップS103)。
【0034】
ここで
図6Aは基準データDrefから抽出される複数の基準時系列データx
(1)、x
(2)、・・・を模式的に示す図である。この例では、複数の基準時系列データx
(1)、x
(2)、・・・がスライド窓の長さωに対応する時間的に連続するω個のデータを含むように抽出される様子が示されている。具体的には、基準時系列データx
(1)は基準データDrefのうち連続的なω個のデータε
(1)、ε
(1)、・・・、ε
(ω)を含むように抽出される。基準時系列データx
(2)は基準データDrefのうち連続的なω個のデータε
(2)、ε
(3)、・・・、ε
(ω+1)を含むように抽出される。具体的には、
図6Aで例示しているように、例えばスライド窓の長さω=3であり、基準データがξ
(1)、ξ
(2)、・・・ξ
(12)である場合、基準時系列データはX
(1)、X
(2)、・・・X
(10)となり、その数は10となる。
【0035】
尚、本実施形態では、複数の基準時系列データx(1)、x(2)、・・・は、時間的に連続するω個のデータを含むデータ群が、データ1個分ずつスライドされながら抽出される場合を例示しているが、当該スライド幅はデータ2個分以上に設定されていてもよい。また本実施形態では、隣接する基準時系列データ同士が少なからず重複するように抽出されているが、隣接する基準時系列データ同士が重複しないように抽出されてもよい。
【0036】
異常判定部170では、
図5Bに示すように、まずデータ監視部150の時系列データ取得部152から、機器1に設けられたセンサ2から受け取った時系列データDtを取得する(ステップS200)。ステップS200では、
図5AのステップS101で用いられた同じスライド窓が適用されることで時系列データDtの取得が行われる(ステップS201)。
【0037】
ここで
図6Bは、スライド窓を適用することで時系列データDtを取得する様子を模式的に示す図である。時系列データ取得部152では、センサ2から送信されるデータを逐次取得し、このように得られたデータ数が、
図5Aのステップ101で基準時系列データの抽出に用いられたスライド窓設定部180により設定されたスライド窓の長さになるように時系列データDtが取得される。すなわち時系列データDtには、基準時系列データと同じ長さのスライド窓が適用される。
【0038】
尚、スライド窓の長さωは、プロファイル波形PFに基づいて設定されてもよい。本実施形態では、スライド窓の長さωは、プロファイル波形PFのうち立ち上がり部PF1、又は、立ち下がり部PF3の少なくとも一方より大きな時間幅を有するように設定されてもよい。機器1に生じる異常はプロファイル波形PFの立ち上がり部PF1、及び、立ち下がり部PF3に反映されやすい特性がある場合、このようにスライド窓の長さωを設定することで、機器1の異常を好適に判定できる。またスライド窓の長さωは、プロファイル波形PFより大きな時間幅を有するように設定されてもよい。この場合、スライド窓の長さωをプロファイル波形より大きな時間幅を有するように設定することで、機器の異常をより好適に判定できる。
【0039】
続いて異常判定部170は、ステップS200で取得した時系列データDtに対応する仮想空間V上の位置p、及び、ステップS103で基準データ記憶部160に記憶された複数の基準時系列データx(1)、x(2)、・・・に対応する仮想空間V上の位置p1,p2,・・・を特定する(ステップS202)。
【0040】
ここで
図7は
図5BのステップS202で特定される仮想空間V上の各位置を模式的に示す図である。仮想空間Vはスライド窓の長さに対応するω次元空間として表されるが、
図7では図示をわかりやすくするために簡易的に二次元平面上に示している。
【0041】
ステップS202では、ステップS201で取得された時系列データDtは、仮想空間Vにおいて、時系列データDtに含まれる各データを成分とするω次元ベクトルに対応する位置pとして表される(
図7の黒塗点を参照)。またステップS202では、ステップS103で抽出された複数の基準時系列データx
(1)、x
(2)、・・・は、仮想空間Vにおいて、基準時系列データx
(1)、x
(2)、・・・に含まれる各データを成分とするω次元ベクトルに対応する位置p1、p2、・・・として表される(
図7の白抜き点を参照)。具体的には、基準時系列データx
(1)は、時間的に連続する複数のデータε
(1)、ε
(1)、・・・、ε
(n)を成分とするω次元ベクトルに対応し、基準時系列データx
(2)は、時間的に連続する複数のデータε
(2)、ε
(3)、・・・、ε
(n+1)を成分とするω次元ベクトルに対応する。
【0042】
尚、異常判定部170は、上記の複数の基準時系列データx
(1)、x
(2)、・・・を更に集約して、次式で表される集合行列Dとして扱ってもよい。
【0043】
続いて異常判定部170は、ステップS202で特定された位置pと、各位置p1、p2、・・・との乖離度Lを算出する(ステップS203)。乖離度とは、仮想空間Vにおける2点間の距離を意味し、ステップS203では、ステップS202で特定された位置p、及び、各位置p1、p2、・・・から選定されたいずれか1つとの乖離度Lが算出される。
【0044】
一実施形態では、ステップS203において異常判定部170は、ステップS202で特定された位置pと、各位置p1、p2、・・・のうち位置pからk番目に近いものとの乖離度Lを算出する。ここでkは任意の自然数である。例えば、k=1である場合には、ステップS4で特定された位置pと、ステップS202で特定された各位置p1、p2、・・・のうち位置pから1番目に近いもの(すなわち最近傍にあるもの)との乖離度Lが算出される。
尚、この実施形態ではkが小さいほど異常判定の感度が高く期待できるが、kの値は任意に調整可能である。
【0045】
また他の実施形態では、ステップS203において異常判定部170は、ステップS202で特定された位置pと、各位置p1、p2、・・・から演算的に得られる代表位置との乖離度Lを算出してもよい。この場合、代表位置は、例えばステップS202で特定された各位置p1、p2、・・・の平均値等の統計的な演算により得られてもよい。
【0046】
また他の実施形態では、ステップS203において異常判定部170は、ステップS202で特定された位置pと、各位置p1、p2、・・・から選択される模範データDmに対応する位置pmとの乖離度Lを算出してもよい。ここで模範データDmとは、ステップS103で抽出された複数の基準時系列データx(1)、x(2)、・・・のうち、異常判定への寄与度が高いデータとして選定される。
【0047】
例えば、基準データDrefから抽出される複数の基準時系列データx(1)、x(2)、・・・は、基準データDrefのうちプロファイル波形PFの少なくとも一部を含むものと、プロファイル波形PFを含まないものとに大別できる。前者は、プロファイル波形PFの少なくとも一部を含むため、時系列データDtと比較する際に異常判定への寄与度が大きいが、後者は、プロファイル波形PFを含まないため時系列データDtと比較する際に異常判定への寄与度が小さい。この場合、前者が模範データDmとして選定される。
【0048】
図8は模範データDmに対応するスライド窓の基準データDrefにおける位置を示す模式図である。
図8では、スライド窓ω1~ω3はそれぞれの少なくとも一部がプロファイル波形PFを含んでいるため、スライド窓ω1~ω3に対応する基準時系列データx
(1)、x
(2)、・・・は模範データDmとして取り扱われる。具体的には、スライド窓ω1に対応する基準時系列データはプロファイル波形PFのうち主に立ち上がり部PF1を含んでいるため、異常判定への寄与度が大きく模範データDmに含まれる。スライド窓ω2に対応する基準時系列データはプロファイル波形PFのうち主にピーク部PF2を含んでいるため、異常判定への寄与度が大きく模範データDmに含まれる。またスライド窓ω3に対応する基準時系列データはプロファイル波形PFのうち主に立ち下がり部PF3を含んでいるため、異常判定への寄与度が大きく模範データDmに含まれる。一方スライド窓ω4に対応する基準時系列データはプロファイル波形PFを含んでいないため、異常判定への寄与度が小さく模範データDmに含まれない。
【0049】
図9は仮想空間Vにおける模範データDmに対応する位置pmを模式的に示す図である。
図9では、複数の基準時系列データx
(1)、x
(2)、・・・に対応する位置p1、p2、・・・が示されており、そのうち模範データDmに含まれるものがクラスタCを形成している。これは周期的な動作を行う機器1では、前述したように、機器1が正常な動作を行っている場合には略同一形状を有するプロファイル波形PFが時系列データDt上に周期的に繰り返し現れるためである。本実施形態では、このように模範データDmに含まれる位置pmとの乖離度を算出することで、信頼性の高い異常判定を行うことができる。
【0050】
続いてステップS203で算出された乖離度Lが閾値以上であるか否かを判定する(ステップS204)。閾値は、異常の有無を判定するために予め乖離度Lに対して設定された判定基準値である。その結果、乖離度Lが閾値以上である場合(ステップS204:YES)、異常判定部170は、機器1に異常があると判定する(ステップS205)。一方、乖離度Lが閾値未満である場合(ステップS204:NO)、異常判定部170は、機器1に異常がないと判定する(ステップS206)。
【0051】
図10は一実施形態に係る異常判定装置100による異常判定例を示すグラフである。この例では、異常判定の対象となる機器1として、発電プラント設備で発電機を駆動するための蒸気を生成するためのボイラで用いられる制御弁を採用している。
図10に示すように、この発電プラント設備では、発電機出力が一定になるように運転が行われており、機器1である制御弁が周期的に動作している。これに伴い、機器1の状態パラメータである制御弁の開度が周期的に開閉されることで、特定のプロファイル波形PFを有することが示されている。
【0052】
図10では、このような発電機出力、及び、制御弁の開度(状態パラメータP)とともに、異常判定部170で算出される乖離度の推移が示されている。乖離度は時間経過に従って変化し、時刻t1、t2の近傍において予め設定された閾値以上になることで異常判定が行われることが示されている。この例では、実際の発電プラント設備では時刻t3の近傍で状態パラメータPの挙動が変化することで制御弁における異常が顕在化しているが、
図10では、時刻t3より前の時刻t1において、状態パラメータPの挙動に変化が無いにもかかわらず、異常を予兆段階で判定できている。これは、上記構成を有する異常判定装置100が機器1の異常を早期且つ精度よく判定できることを示している。
【0053】
他の実施形態では、ステップS200において時系列データ取得部152は時系列データDtの取得を、機器1の動作タイミングに対応する期間(データ取得期間T1)に行ってもよい。ここで
図11は機器1の状態パラメータの時間変化に対するデータ取得期間T1を模式的に示す図である。
図11では、
図2と同様に、機器1の状態パラメータの時間変化が示されており、機器1の動作タイミングに対応する複数のプロファイル波形PFが示されている。データ取得期間T1は、各プロファイル波形PFに対応するように設定されており、その各々はプロファイル波形PFを含む。
【0054】
このようなデータ取得期間T1には、機器1が動作していないことを示す状態パラメータが約ゼロである非データ取得期間T2が含まれない。非データ取得期間T2では、状態パラメータが約ゼロであるため機器1に異常があったとしても影響が少ない。そのため時系列データ取得部152は、データ取得期間T1に時系列データの取得を行うことで、時系列データに含まれる状態パラメータPが略ゼロである範囲を少なくすることができる。このような状態パラメータPが略ゼロである範囲は、異常判定結果に及ぼす影響が軽微であるため、時系列データから排除することで、異常判定の精度を低下させることなく、異常判定部170の演算負担を効果的に軽減できる。
【0055】
尚、
図11に示す時系列データDtでは、各プロファイル波形PFに付随する微小なサブ波形SFsubが存在している。サブ波形SFsubはメインのプロファイル波形PFに比べてピークサイズが小さく、異常判定への影響が小さい。そのため、データ取得期間T1をプロファイル波形PFを含み、且つ、サブ波形SFsubを含まないように設定することで、異常判定の精度を低下させることなく、異常判定部170の演算負担を効果的に軽減できる。
【0056】
また他の実施形態では、異常判定部170が時系列データDtの比較対象となる複数の基準時系列データx
(1)、x
(2)、・・・を基準データDrefから抽出する際に、基準データDtのうちプロファイル波形PFを含む機器動作期間を対象として、複数の基準時系列データx
(1)、x
(2)、・・・の抽出を行ってもよい。ここで
図12は基準データDrefのうち複数の基準時系列データx
(1)、x
(2)、・・・の抽出対象となる機器動作期間T3を模式的に示す図である。機器動作期間T3は、基準データDrefのうち機器1の動作に対応して現れるプロファイル波形PFを含む期間として設定されており、その各々はプロファイル波形PFを含む。
【0057】
このような機器動作期間T3には、機器1が動作していないことを示す状態パラメータが約ゼロである非機器動作期間T4が含まれない。非機器動作期間T4では、状態パラメータPが約ゼロであるため機器1に異常があったとしても異常判定結果に対する影響が少ない。そのため異常判定部170は、基準データDrefのうち機器動作期間T3を対象に複数の基準時系列データx(1)、x(2)、・・・の抽出を行うことで、異常判定の精度を向上させつつ、異常判定部170の演算負担を効果的に軽減できる。
【0058】
尚、
図12に示す時系列データDtでは、各プロファイル波形PFに付随する微小なサブ波形SFsubが存在している。サブ波形SFsubはメインのプロファイル波形PFに比べてピークサイズが小さく、異常判定への影響が小さい。そのため、機器動作期間T3をプロファイル波形PFを含み、且つ、サブ波形SFsubを含まないように設定することで、異常判定の精度を低下させることなく、異常判定部170の演算負担を効果的に軽減できる。
【0059】
また他の実施形態に係る異常判定装置100は、機器1が複数の動作モードを有し、動作モードごとに状態パラメータの特性が変化する場合には、異常判定部170における異常判定の基準となる判定条件を動作モードに基づいて切り替えるようにしてもよい。例えば、機器1が前述したように発電プラント設備に用いられる制御弁であり、発電プラント設備の高負荷時に対応する第1動作モードM1と、発電プラント設備の低負荷時に対応する第2動作モードM2とを有する場合には、第1動作モードM1及び第2動作モードM2の間で判定条件を切り替えてもよい。
【0060】
ここで
図13は各動作モードにおける状態パラメータの時間変化を示す図であり、
図14は他の実施形態に係る異常判定装置100の機能的構成を示すブロック図である。
図13では、時刻t0までは高負荷状態に対応する第1動作モードM1が実施され、時刻t0以降では低負荷状態に対応する第2動作モードM2が実施されている。第2動作モードM2では、第1動作モードM1に比べてプロファイル波形の時間幅が増加しており、機器1の状態パラメータPの特性が負荷に対して変化していることが示されている。
【0061】
この場合、
図14に示す異常判定装置100では、第1動作モードM1及び第2動作モードM2において切り替えられる判定条件として、スライド窓の長さωを採用してもよい。例えば、プロファイル波形PFの時間幅が比較的小さい第1動作モードM1ではスライド窓の長さωを小さくした判定条件とする一方で、プロファイル波形PFの時間幅が比較的大きい第2動作モードM2ではスライド窓の長さωを大きくした判定条件とすることができる。これにより、機器1の動作モードが切り替えられることで特性が変化した場合であっても、動作モードに対応するように判定条件を変更することで機器の異常を好適に判定できる。
【0062】
尚、本発明は、
図15に示すように異常判定装置100と通信可能なクライアント端末190からなる異常判定システム200のような構成とすることが可能である。
クライアント端末190は、
図3に示すハードウェア構成を有する情報処理装置であり、
図16に示すように要求部200を備える。クライアント端末190の入力部110を介してなされたオペレータの操作を受け付けると、要求部200は異常判定装置100へ
図5に示す異常判定方法を示すフローチャートに示される処理を実行するよう要求することにより、当該処理を実行することが可能である。
以上説明したように上述の各実施形態によれば、機器から取得された状態パラメータの時系列データは、機器の正常な動作状態に対応する基準データから抽出される複数の基準時系列データと比較されることにより、機器の異常判定が行われる。これにより、単一の時系列データに基づいた異常判定を適切に実施できる。
【0063】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0064】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0065】
(1)一態様に係る異常判定装置は、
動作時に状態パラメータ(P)の時間変化が特定のプロファイル波形(PF)を示す機器(1)の異常判定装置(100)であって、
前記状態パラメータについて時間的に連続する複数のデータを含む時系列データ(Dt)を取得するための時系列データ取得部(152)と、
前記時系列データに含まれるデータ数を示すスライド窓の長さを設定するスライド窓設定部(180)と、
前記機器の正常な動作状態に対応する前記状態パラメータの時間変化を示す基準データ(Dref)から、前記時系列データに対応する複数の基準時系列データ(x(1)、x(2)、・・・)を抽出し、前記スライド窓設定部により設定された前記スライド窓の長さを有する前記時系列データと前記複数の基準時系列データとを前記スライド窓をスライドしながら比較することにより、前記機器について異常の有無を判定するための異常判定部(170)と、
を備える。
【0066】
上記(1)の態様によれば、機器から取得された状態パラメータの時系列データは、機器の正常な動作状態に対応する基準データから抽出される複数の基準時系列データと比較されることにより、機器の異常判定が行われる。これにより、単一の時系列データに基づいた異常判定を適切に実施できる。
【0067】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記異常判定部は、前記複数の基準時系列データのうち前記プロファイル波形の少なくとも一部を含む模範データ(Dm)を特定し、前記スライド窓設定部により設定された前記スライド窓の長さを有する前記時系列データと前記模範データとを前記スライド窓をスライドしながら比較することにより、前記機器について異常の有無を判定する。
【0068】
上記(2)の態様によれば、機器から取得された時系列データを、機器に異常がある場合に影響が反映されやすいプロファイル波形の少なくとも一部を含む模範データと比較することで、精度のよい異常判定を実施できる。
【0069】
(3)他の態様では、上記(1)又は(2)の態様において、
前記異常判定部は、前記スライド窓設定部により設定された前記スライド窓の長さに対応する次元を有する仮想空間(V)における前記時系列データと前記複数の基準時系列データとの乖離度(L)に基づいて、前記機器について異常の有無を判定する。
【0070】
上記(3)の態様によれば、時系列データに含まれるデータ数に対応する次元の仮想空間における、時系列データと複数の基準時系列データとの乖離度に基づいて、機器の異常を好適に判定できる。
【0071】
(4)他の態様では、上記(3)の態様において、
前記異常判定部は、前記仮想空間において、前記時系列データに対してk番目(kは任意の自然数)に近い前記基準時系列データとの乖離度に基づいて、前記機器について異常の有無を判定する。
【0072】
上記(4)の態様によれば、仮想空間において、時系列データと複数の基準時系列データのうちk番目の基準時系列データとの乖離度に基づいて、機器の異常を好適に判定できる。
【0073】
(5)他の態様では、上記(1)から(4)のいずれか一態様において、
前記スライド窓の長さ(ω)は、前記プロファイル波形の立ち上がり部(PF1)、又は、立ち下がり部(PF3)の少なくとも一方より大きな時間幅を有するように設定される。
【0074】
上記(5)の態様によれば、機器に生じる異常はプロファイル波形の立ち上がり部、及び、立ち下がり部に反映されやすい特性に鑑みて、時系列データのスライド窓長さをプロファイル波形の立ち上がり部、又は、立ち下がり部の少なくとも一方より大きな時間幅を有するように設定することで、機器の異常を好適に判定できる。
【0075】
(6)他の態様では、上記(5)の態様において、
前記スライド窓の長さは、前記プロファイル波形より大きな時間幅を有するように設定される。
【0076】
上記(6)の態様によれば、時系列データのスライド窓長さをプロファイル波形より大きな時間幅を有するように設定することで、機器の異常をより好適に判定できる。
【0077】
(7)他の態様では、上記(1)から(6)のいずれか一態様において、
前記時系列データ取得部は、前記機器の動作期間を含むように規定されたデータ取得期間(T1)に前記時系列データを取得する。
【0078】
上記(7)の態様によれば、機器の動作期間を含む時系列データを取得することにより、異常判定への寄与が少ない機器の非動作期間に対応する不要なデータを排除し、異常判定の演算負担を軽減するとともに、判定精度を効果的に向上できる。
【0079】
(8)他の態様では、上記(7)の態様において、
前記異常判定部は、前記基準データから、前記プロファイル波形を含む機器動作期間(T3)から前記複数の基準時系列データを抽出する。
【0080】
上記(8)の態様によれば、機器から取得された時系列データの比較対象となる複数の基準時系列データは、プロファイル波形を含む機器動作期間から抽出される。これにより、異常判定への寄与が少ない機器の非動作期間に対応する基準データからの基準時系列データの抽出を行わないことで、異常判定の演算負担を軽減するとともに、判定精度を効果的に向上できる。
【0081】
(9)他の態様では、上記(1)から(8)のいずれか一態様において、
前記機器は、動作モードとして、高負荷時に対応する第1動作モード(M1)と、低負荷時に対応する第2動作モード(M2)を有し、
前記異常判定部は、前記動作モードに基づいて、前記異常の判定条件を切替可能である。
【0082】
上記(9)の態様によれば、動作モードに基づいて異常の判定条件が切り替えられる。これにより、機器の動作モードが切り替えられることで機器の特性が変化した場合であっても、動作モードに対応するように判定条件を変更することで機器の異常を好適に判定できる。
【0083】
(10)他の態様では、上記(9)の態様において、
前記判定条件は、前記スライド窓設定部により設定された前記スライド窓の長さを含む。
【0084】
上記(10)の態様によれば、動作モードに基づいて、時系列データに含まれるデータ数が切り替えられる。
【0085】
(11)他の態様では、上記(1)から(10)のいずれか一態様において、
前記機器は周期的な動作を実施する。
【0086】
上記(11)の態様によれば、周期的な動作を実施する機器を判定対象とする。このような機器では、異常判定に用いられる状態パラメータの時間変化には、周期的にプロファイル波形が現れるため、上記構成によって適切に異常判定を行うことができる。
【0087】
(12)一態様に係る異常判定方法は、
動作時に状態パラメータ(P)の時間変化が特定のプロファイル波形(PF)を示す機器の異常判定方法であって、
前記状態パラメータについて時間的に連続する複数のデータを含む時系列データ(Dt)を取得する取得ステップと、
前記時系列データに含まれるデータ数を示すスライド窓の長さを設定するスライド窓設定ステップと、
前記機器の正常な動作状態に対応する前記状態パラメータの時間変化を示す基準データ(Dref)から、前記時系列データに対応する複数の基準時系列データ(x(1)、x(2)、・・・)を抽出し、前記スライド窓設定ステップにより設定された前記スライド窓の長さを有する前記時系列データと前記複数の基準時系列データとを前記スライド窓をスライドしながら比較することにより、前記機器について異常の有無を判定する異常判定ステップと、
を備える。
【0088】
上記(12)の態様によれば、機器から取得された状態パラメータの時系列データは、機器の正常な動作状態に対応する基準データから抽出される複数の基準時系列データと比較されることにより、機器の異常判定が行われる。これにより、単一の時系列データに基づいた異常判定を適切に実施できる。
【0089】
(13)一態様に係るプログラムは、
コンピュータを、
動作時に状態パラメータの時間変化が特定のプロファイル波形を示す機器の前記状態パラメータについて時間的に連続する複数のデータを含む時系列データを取得する取得手段と、
前記時系列データに含まれるデータ数を示すスライド窓の長さを設定するスライド窓設定手段と、
前記機器の正常な動作状態に対応する前記状態パラメータの時間変化を示す基準データから、前記時系列データに対応する複数の基準時系列データを抽出し、前記スライド窓設定手段により設定された前記スライド窓の長さを有する前記時系列データと前記複数の基準時系列データとを前記スライド窓をスライドしながら比較することにより、前記機器について異常の有無を判定する異常判定手段と、
して機能させる。
【0090】
上記(13)の態様によれば、機器から取得された状態パラメータの時系列データは、機器の正常な動作状態に対応する基準データから抽出される複数の基準時系列データと比較されることにより、機器の異常判定が行われる。これにより、単一の時系列データに基づいた異常判定を適切に実施できる。
【0091】
(14)一態様に係る異常判定システムは、
動作時に状態パラメータの時間変化が特定のプロファイル波形を示す機器の異常判定装置及びクライアント端末からなる異常判定システムであって、
前記異常判定装置は、
前記状態パラメータについて時間的に連続する複数のデータを含む時系列データを取得するための時系列データ取得部と、
前記時系列データに含まれるデータ数を示すスライド窓の長さを設定するスライド窓設定部と、
前記クライアント端末からの要求により、前記機器の正常な動作状態に対応する前記状態パラメータの時間変化を示す基準データから、前記時系列データに対応する複数の基準時系列データを抽出し、前記スライド窓設定部により設定された前記スライド窓の長さを有する前記時系列データと前記複数の基準時系列データとを前記スライド窓をスライドしながら比較することにより、前記機器について異常の有無を判定するための異常判定部と、
を備える。
【0092】
上記(14)の態様によれば、機器から取得された状態パラメータの時系列データは、クライアント端末からの要求により機器の正常な動作状態に対応する基準データから抽出される複数の基準時系列データと比較されることにより、機器の異常判定が行われる。これにより、単一の時系列データに基づいた異常判定を適切に実施できる。
【0093】
(15)一態様に係る異常判定システムの制御方法は、
動作時に状態パラメータの時間変化が特定のプロファイル波形を示す機器の異常判定装置及びクライアント端末からなる異常判定システムの制御方法であって、
前記異常判定装置は、
前記状態パラメータについて時間的に連続する複数のデータを含む時系列データを取得するための時系列データ取得ステップと、
前記時系列データに含まれるデータ数を示すスライド窓の長さを設定するスライド窓設定ステップと、
前記クライアント端末からの要求により、前記機器の正常な動作状態に対応する前記状態パラメータの時間変化を示す基準データから、前記時系列データに対応する複数の基準時系列データを抽出し、前記スライド窓設定ステップにより設定された前記スライド窓の長さを有する前記時系列データと前記複数の基準時系列データとを前記スライド窓をスライドしながら比較することにより、前記機器について異常の有無を判定するための異常判定ステップと、
を実行する。
【0094】
上記(15)の態様によれば、機器から取得された状態パラメータの時系列データは、クライアント端末からの要求により機器の正常な動作状態に対応する基準データから抽出される複数の基準時系列データと比較されることにより、機器の異常判定が行われる。これにより、単一の時系列データに基づいた異常判定を適切に実施できる。
【符号の説明】
【0095】
1 機器
2 センサ
100 異常判定装置
110 入力部
120 記憶部
130 演算部
140 出力部
150 データ監視部
152 時系列データ取得部
160 基準データ記憶部
162 基準時系列データ取得部
170 異常判定部
180 スライド窓設定部
190 クライアント端末
200 要求部
Dref 基準データ
Dt 時系列データ
L 乖離度
M1 第1動作モード
M2 第2動作モード
P 状態パラメータ
PF プロファイル波形
PF1 立ち上がり部
PF2 ピーク部
PF3 立ち下がり部
SFsub サブ波形
T1 データ取得期間
T2 非データ取得期間
T3 機器動作期間
T4 非機器動作期間
V 仮想空間