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特開2023-120075植物の肥料成分吸収促進剤およびそれを含む植物用肥料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120075
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】植物の肥料成分吸収促進剤およびそれを含む植物用肥料
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/42 20060101AFI20230822BHJP
   A01N 37/36 20060101ALI20230822BHJP
   A01N 37/06 20060101ALI20230822BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20230822BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20230822BHJP
   C05D 11/00 20060101ALI20230822BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
A01N37/42
A01N37/36
A01N37/06
A01N25/00 102
A01P21/00
C05D11/00
A01G7/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023276
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】苅谷 悟
(72)【発明者】
【氏名】石野 暢好
(72)【発明者】
【氏名】高田 久美子
【テーマコード(参考)】
2B022
4H011
4H061
【Fターム(参考)】
2B022EA10
4H011AB03
4H011BA06
4H011BB06
4H011DA14
4H011DG06
4H061AA01
4H061BB01
4H061BB21
4H061BB51
4H061CC01
4H061DD11
4H061EE06
4H061EE07
4H061EE11
4H061EE14
4H061EE15
4H061EE16
4H061EE17
4H061EE19
4H061EE27
4H061HH07
(57)【要約】
【課題】施用された植物体において肥料成分(カリウム、リン、窒素)の吸収効率を改善させる植物の肥料成分吸収促進剤を提供することを目的とする。
【解決手段】不飽和オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩を含む植物の肥料成分吸収促進剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩を含む植物の肥料成分吸収促進剤。
【請求項2】
前記植物の肥料成分吸収促進剤は、さらに水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩を含む請求項1に記載の植物の肥料成分吸収促進剤。
【請求項3】
前記植物の肥料成分吸収促進剤は、さらに不飽和脂肪酸(ただし、不飽和オキソ脂肪酸および不飽和水酸化脂肪酸を除く)を含む請求項1または2に記載の植物の肥料成分吸収促進剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記不飽和オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩が以下の式(I):
HOOC-(R1)-CH=CH-C(=O)-R2 (I)
(式中、
1:6個~12個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基であり、
2:炭素数2~8のアルキル基であって、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい)
の構造式を有する不飽和オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩である。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記不飽和オキソ脂肪酸が、前記不飽和オキソ脂肪酸のR1の炭化水素基の炭素数が8~10であり、R2のアルキル基の炭素数が4~6である不飽和オキソ脂肪酸である。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記不飽和オキソ脂肪酸が、前記不飽和オキソ脂肪酸のR1が式(I)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含む不飽和オキソ脂肪酸である。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記不飽和オキソ脂肪酸が、前記不飽和オキソ脂肪酸のR1が、炭素数9の直鎖または分岐の炭化水素基であり、R2が、炭素数5のアルキル基である不飽和オキソ脂肪酸である。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記不飽和オキソ脂肪酸が、ケトオクタデカジエン酸である。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記不飽和オキソ脂肪酸が、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸である。
【請求項10】
請求項2~9のいずれか1項に記載の植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩が、以下の式(II)および/または(III):
HOOC-(R3)-CH(OH)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-R4 (II)
HOOC-(R3)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-CH(OH)-R4 (III)
(式中、
3は、4個~12個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない、
4は、2個~8個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない)
の構造式を有する水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩である。
【請求項11】
請求項2~10のいずれか1項に記載の植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記水酸化脂肪酸が、
3の炭化水素基が6個~8個の炭素原子を有し、
4の炭化水素基が4個~6個の炭素原子を有する。
【請求項12】
請求項2~11のいずれか1項に記載の植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記水酸化脂肪酸が、
3が、-(CH2n-(nは4~12である整数)の構造であり、
4が、Cn2n+1-(nは2~8である整数)の構造である。
【請求項13】
請求項2~12のいずれか1項に記載の植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記水酸化脂肪酸が、
3が、炭素数7のアルキレン基(-(CH27-)であり、
4が、炭素数5のアルキル基(CH3CH2CH2CH2CH2-)である。
【請求項14】
請求項2~13のいずれか1項に記載の植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記水酸化脂肪酸が、ヒドロキシオクタデセン酸である。
【請求項15】
請求項2~14のいずれか1項に記載の植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記水酸化脂肪酸が、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸である。
【請求項16】
請求項2~15のいずれか1項に記載の植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記水酸化脂肪酸が、9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸である。
【請求項17】
請求項3~16のいずれか1項に記載の植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記不飽和脂肪酸(ただし、不飽和オキソ脂肪酸および不飽和水酸化脂肪酸を除く)が、炭素数10~20の不飽和脂肪酸である。
【請求項18】
請求項3~17のいずれか1項に記載の植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記不飽和脂肪酸(ただし、不飽和オキソ脂肪酸および不飽和水酸化脂肪酸を除く)が、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸からなる群より選択される少なくとも一つを含む一価または多価不飽和脂肪酸である。
【請求項19】
請求項3~18のいずれか1項に記載の植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記不飽和脂肪酸が、リノール酸である。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載の植物の肥料成分吸収促進剤および植物の肥料成分を含む植物用肥料。
【請求項21】
前記植物の肥料成分は、多量栄養素源および/または微量栄養素源として機能する天然または合成化学物質である請求項20に記載の植物用肥料。
【請求項22】
前記多量栄養素は、窒素(N)、リン(P)およびカリウム(K)の群から選ばれる少なくとも1種以上である請求項21に記載の植物用肥料。
【請求項23】
前記微量栄養素は、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、硫黄(S)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、Co(コバルト)、モリブデン(Mо)、銅(Cu)およびNi(ニッケル)の群から選ばれる少なくとも1種以上である請求項21に記載の植物用肥料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の肥料成分吸収促進剤およびそれを含む植物用肥料に関する。
【背景技術】
【0002】
穀物植物や園芸植物の供給効率を向上させること等を目的として、植物の生長を調整する技術が開発されてきた。温度条件や日照条件の最適化や施肥などの対策に加え、施肥された肥料成分の吸収効率を改善する方法が報告されている。
【0003】
特許文献1には、脂肪酸又はその誘導体等を用いて、植物用肥料の主成分である硝酸イオン、リン酸イオン及びカリウムイオンの各吸収向上度の少なくとも1つを10%以上に改善する植物活力剤が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の植物活力剤は、なお肥料成分の吸収効率を十分に改善できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-288011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、施用された植物体において肥料成分(カリウム、リン、窒素)の吸収効率を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、不飽和オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩を含む植物の肥料成分吸収促進剤に関する。
【0008】
前記植物の肥料成分吸収促進剤は、さらに水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩を含むことが好ましい。
【0009】
前記植物の肥料成分吸収促進剤は、さらに不飽和脂肪酸(ただし、不飽和オキソ脂肪酸および不飽和水酸化脂肪酸を除く)を含むことが好ましい。
【0010】
前記植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記不飽和オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩が以下の式(I):
HOOC-(R1)-CH=CH-C(=O)-R2 (I)
(式中、
1:6個~12個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基であり、
2:炭素数2~8のアルキル基であって、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい)
の構造式を有する不飽和オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩である。
【0011】
前記植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記不飽和オキソ脂肪酸が、前記不飽和オキソ脂肪酸のR1の炭化水素基の炭素数が8~10であり、R2のアルキル基の炭素数が4~6である不飽和オキソ脂肪酸である。
【0012】
前記植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記不飽和オキソ脂肪酸が、前記不飽和オキソ脂肪酸のR1が式(I)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含む不飽和オキソ脂肪酸である。
【0013】
前記植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記不飽和オキソ脂肪酸が、前記不飽和オキソ脂肪酸のR1が、炭素数9の直鎖または分岐の炭化水素基であり、R2が、炭素数5のアルキル基である不飽和オキソ脂肪酸である。
【0014】
前記植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記不飽和オキソ脂肪酸が、ケトオクタデカジエン酸である。
【0015】
前記植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記不飽和オキソ脂肪酸が、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸である。
【0016】
前記植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩が、以下の式(II)および/または(III):
HOOC-(R3)-CH(OH)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-R4 (II)
HOOC-(R3)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-CH(OH)-R4 (III)
(式中、
3は、4個~12個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない、
4は、2個~8個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない)
の構造式を有する水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩である。
【0017】
前記植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記水酸化脂肪酸が、R3の炭化水素基が6個~8個の炭素原子を有し、R4の炭化水素基が4個~6個の炭素原子を有する。
【0018】
前記植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記水酸化脂肪酸が、R3が、-(CH2n-(nは4~12である整数)の構造であり、R4が、Cn2n+1-(nは2~8である整数)の構造である。
【0019】
前記植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記水酸化脂肪酸が、R3が、炭素数7のアルキレン基(-(CH27-)であり、R4が、炭素数5のアルキル基(CH3CH2CH2CH2CH2-)である。
【0020】
前記植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記水酸化脂肪酸が、ヒドロキシオクタデセン酸である。
【0021】
前記植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記水酸化脂肪酸が、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸である。
【0022】
前記植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記水酸化脂肪酸が、9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸である。
【0023】
前記植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記不飽和脂肪酸(ただし、不飽和オキソ脂肪酸および不飽和水酸化脂肪酸を除く)が、炭素数10~20の不飽和脂肪酸である。
【0024】
前記植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記不飽和脂肪酸(ただし、不飽和オキソ脂肪酸および不飽和水酸化脂肪酸を除く)が、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸からなる群より選択される少なくとも一つを含む一価または多価不飽和脂肪酸である。
【0025】
前記植物の肥料成分吸収促進剤であって、前記不飽和脂肪酸が、リノール酸である。
【0026】
前記植物の肥料成分吸収促進剤および植物の肥料成分を含む植物用肥料である。
【0027】
なお、「オクタデセン酸」は、慣用的に「オクタデカエン酸」とも表記され(例えば、特開平3-14539号公報等)、上述の「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸」は、「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸」、「9,10,13-トリヒドロキシオクタデカ-11-エン酸」とも表記される。同様に、上述の「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸」は、「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸」、「9,12,13-トリヒドロキシオクタデカ-10-エン酸」とも表記される。なお、実施例では、かっこ書きで製造元の表記も併記している。また、上記説明は、本明細書、特許請求の範囲、図面および要約書中で使用される「オクタデセン酸」全てに適用される。
【0028】
「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸」の構造式は、下記構造式(1)で示されるものである。
【0029】
【化1】
【0030】
「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸」の構造式は、下記構造式(2)で示されるものである。
【0031】
【化2】
【0032】
なお、前記不飽和オキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸の誘導体としては、それぞれ、不飽和オキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸のエステルが望ましい。また、前記不飽和オキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸の塩としては、後述されるが、例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などの塩を使用できる。
【0033】
前記植物の肥料成分吸収促進剤が、植物の根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または土壌灌注用薬剤として、または、植物用肥料もしくは植物の肥料成分と混合して用いられることが好ましい。
【0034】
前記植物の肥料成分吸収促進剤が、アブラナ科、イネ科、マメ科、ナス科、バラ科、ヒユ科、またはアオイ科植物から選択される植物に対して使用されることが好ましい。
【0035】
本発明の植物の肥料成分吸収促進剤は、液状であってもよく、粉末状でもよい。粉末状とする場合は、不飽和オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩(必要に応じて水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩および/または不飽和脂肪酸(ただし、不飽和オキソ脂肪酸および不飽和水酸化脂肪酸を除く)を含んでいてもよい)が分散した水分散液を凍結乾燥して粉末状とする。
【0036】
また、前記水分散液中には、安定化剤が含まれていることが望ましい。
【0037】
また、前記安定化剤が、乳化剤であることが望ましい。
【0038】
さらに、前記乳化剤は、炭酸カリウムおよびリン酸水素二カリウムから選ばれる少なくとも1種以上であることが望ましい。
【発明の効果】
【0039】
本発明の植物の肥料成分吸収促進剤は、植物に対する肥料成分であるカリウム、リン、窒素の吸収効率を改善し、植物の成長を促進させることができる。また、本発明の植物の肥料成分吸収促進剤および植物の肥料成分を含む植物用肥料は、肥料成分の吸収効率が高いため、植物の成長の促進効果が高い。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の植物の肥料成分吸収促進剤は、不飽和のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩を含む。
【0041】
本発明の植物の肥料成分吸収促進剤は、不飽和のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩を含んでおり、この肥料成分吸収促進剤を植物の根の一部に施用したり、土壌中に付与したり、植物の肥料と混合して用いたりすることによって、土壌中または植物の肥料中のカリウム、リン、窒素の吸収効率を高め、植物の成長を促進させることができる。
【0042】
本発明の植物の肥料成分吸収促進剤は、さらに水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩を含むことが望ましい。水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩には、植物の成長促進効果が認められ、野菜や穀物、果物等の植物体の収量増加をもたらすことができる。
【0043】
また、不飽和脂肪酸(ただし、不飽和オキソ脂肪酸および不飽和水酸化脂肪酸を除く)を有効成分として含むような植物の肥料成分吸収促進剤においては、雨などにより、土壌、肥料および有効成分の作用位置からの洗い落としが発生してしまう場合がある。このような雨、風食および他の侵蝕力による有効成分のこのような洗い落としは、植物の肥料成分吸収促進剤の持続期間を著しく減少させかねない。
【0044】
本発明の植物の肥料成分吸収促進剤は上述の有効成分、すなわち不飽和のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩や水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩に加えてさらに、不飽和脂肪酸を含む。なお、本発明の不飽和脂肪酸は、不飽和オキソ脂肪酸および不飽和水酸化脂肪酸を含まない。本発明の植物の肥料成分吸収促進剤に含まれる不飽和脂肪酸は、疎水性であり、水溶性が低い。この結果、本発明の不飽和脂肪酸は、植物の肥料成分吸収促進剤に、土壌、肥料中および接種場所において水をはじく性質を付与することができる。すなわち、本発明の植物の肥料成分吸収促進剤は、洗い落とされることがほとんどない。このため、肥料成分吸収促進効果が長期間にわたって持続する。
【0045】
本発明の不飽和オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩としては、以下の式(I):
HOOC-(R1)-CH=CH-C(=O)-R2 (I)
(式中、
1:6個~12個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基であり
2:炭素数2~8のアルキル基であって、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい)
の構造式を有する不飽和オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩が好適に使用され得る。
【0046】
本発明の一実施形態において、上記不飽和オキソ脂肪酸におけるR1の炭化水素基の炭素数は8~10であり、R2のアルキル基の炭素数は4~6である。また、別の一実施形態において、上記不飽和オキソ脂肪酸におけるR1は式(I)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含んでいる。さらに、別の一実施形態において、上記不飽和オキソ脂肪酸におけるR1は、炭素数9の直鎖または分岐の炭化水素基であり、R2は、炭素数5のアルキル基であることが好ましい。
【0047】
本発明において使用される不飽和オキソ脂肪酸としては、具体的には、ケトオクタデカジエン酸が挙げられる。例えば、ケトオクタデカジエン酸としては、これらに限定される訳ではないが、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸(9-oxoODA)、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxoODA)、5-オキソ-6,8-オクタデカジエン酸、6-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、8-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、10-オキソ-8,12-オクタデカジエン酸、11-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、12-オキソ-9,13-オクタデカジエン酸および14-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸ならびにそれらの異性体等が挙げられる。
【0048】
なお、不飽和オキソ脂肪酸の誘導体としては、エステルが望ましい。本発明の不飽和オキソ脂肪酸のエステルとしては、これらに限定されるものではないが、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、オクチルエステル等を挙げることができる。また、不飽和オキソ脂肪酸の塩としては、例えばアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩などのアンモニウム塩、例えばカルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩や例えばナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、コバルト塩、マンガン塩などの金属塩等が挙げられるが、肥料などに含まれる塩などの農業上容認可能な1種以上の塩であれば特に限定されない。
【0049】
本発明において使用される水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩としては、以下の式(II)および/または(III)
HOOC-(R3)-CH(OH)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-R4 (II)
HOOC-(R3)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-CH(OH)-R4 (III)
(式中、
3は、4個~12個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない、
4は、2個~8個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない)
の構造式を有する水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩が好適に使用され得る。
【0050】
本発明の一実施形態において、上記水酸化脂肪酸におけるR3の炭化水素基は6個~8個の炭素原子を有し、R4の炭化水素基は4個~6個の炭素原子を有する。また、別の一実施形態において、上記水酸化脂肪酸におけるR3は、-(CH2n-(nは4~12である整数)の構造であり、R4は、Cn2n+1-(nは2~8である整数)の構造である。さらに、別の一実施形態において、上記水酸化脂肪酸におけるR3は、炭素数7のアルキレン基(-(CH27-)であり、R4は、炭素数5のアルキル基(CH3CH2CH2CH2CH2-)であることが好ましい。
【0051】
本発明の水酸化脂肪酸としては、具体的には、ヒドロキシオクタデセン酸が挙げられる。例えば、ヒドロキシオクタデセン酸としては、これらに限定される訳ではないが、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸および/または9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸およびそれらの異性体が挙げられる。
【0052】
なお、水酸化脂肪酸の誘導体としては、エステルが望ましい。本発明の水酸化脂肪酸のエステルとしては、これらに限定されるものではないが、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、オクチルエステル等を挙げることができる。また、水酸化脂肪酸の塩としては、例えばアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩などのアンモニウム塩、例えばカルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩や例えばナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、コバルト塩、マンガン塩などの金属塩等が挙げられるが、肥料などに含まれる塩などの農業上容認可能な1種以上の塩であれば特に限定されない。
【0053】
本発明の不飽和脂肪酸(不飽和オキソ脂肪酸および不飽和水酸化脂肪酸を除く)としては、特に限定されないが、炭素数10~20程度の不飽和脂肪酸が、水への低い溶解度といった観点から好ましい場合がある。例えば、炭素数18の不飽和脂肪酸がさらに好ましい。また、本発明の不飽和脂肪酸において、その分子構造中の不飽和結合数は限定されるものではなく、一価不飽和脂肪酸であってもよく、多価不飽和脂肪酸であってもよい。例えば、不飽和脂肪酸としては、これらに限定される訳ではないが、オレイン酸、リノール酸、オレイン酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。また、不飽和脂肪酸としては、遊離脂肪酸、その塩(一般的に使用可能な塩であって、例えば上記に例示されている塩)のいずれの状態でもよく、このうちから1種または2種以上を選択することができる。本発明の不飽和脂肪酸としては、市販品を使用すればよく、また、市販化合物からの合成品であってもよい。また、不飽和脂肪酸として、1種の不飽和脂肪酸を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0054】
なお、本明細書において例示されている化合物に異性体が存在する場合、特に記載のない限り、存在し得る全ての異性体が本発明において使用可能である。
【0055】
本発明の植物の肥料成分吸収促進剤は、少なくとも一つの不飽和オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩を含み、望ましい場合には、少なくとも一つの水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物をさらに含む。さらに好ましい場合には、本発明の植物の肥料成分吸収促進剤は、少なくとも一つの不飽和脂肪酸(不飽和オキソ脂肪酸および不飽和水酸化脂肪酸を除く)を含む。
【0056】
本発明の植物の肥料成分吸収促進剤は、13-oxoODA、9-oxoODAから選ばれる少なくとも一つのオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸および/または9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸から選ばれる少なくとも一つの水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物、および、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸から選ばれる少なくとも一つの不飽和脂肪酸を含んでいてもよい。例えば、本発明の植物の肥料成分吸収促進剤は、ケトオクタデカジエン酸またはその誘導体もしくはその塩とヒドロキシオクタデセン酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物、および、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸から選ばれる少なくとも一つの不飽和脂肪酸を含み得る。例えば、本発明の植物の肥料成分吸収促進剤は、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸またはその誘導体もしくはその塩とリノール酸とを含んでいてもよく、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸および/または9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸またはその誘導体もしくはその塩とリノール酸とを含んでいてもよく、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸および/または9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸および/または9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸またはその誘導体もしくはその塩とリノール酸とを含んでいてもよい。
【0057】
本発明においては、少なくとも一つの不飽和オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と、必要に応じて添加される少なくとも一つの水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩、および、必要に応じて添加される少なくとも一つの不飽和脂肪酸を混合する際に、これらを均一混合させるために、前記少なくとも一つの不飽和オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩、少なくとも一つの水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物、および、少なくとも一つの不飽和脂肪酸を水中にエマルジョンとして安定的に存在させるための安定化剤(乳化剤)を使用することが望ましい。
【0058】
前記安定化剤(乳化剤)としては、炭酸カリウムおよびリン酸水素二カリウムから選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。
【0059】
上述のように、本発明の植物の肥料成分吸収促進剤は、不飽和オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩、および必要に応じて水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩、および必要に応じて不飽和脂肪酸を含むものである。これらの不飽和脂肪酸および水酸化脂肪酸は、天然にも存在し得るものであるから、本発明の植物の肥料成分吸収促進剤は、環境負荷が少ないという点においても非常に優れている。
【0060】
本発明の植物の肥料成分吸収促進剤において、不飽和オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩、および必要に応じて含まれる水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩の含有比率は、重量比で「不飽和オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩」/「水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩」=1/5~5/1が望ましく、1/3~3/1であることがさらに好ましい。肥料吸収促進効果および植物の成長促進効果に優れるからである。
【0061】
不飽和脂肪酸に対し、不飽和オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と必要に応じて添加される水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩は、本発明の植物の肥料成分吸収促進剤中に重量比で1%以上含まれることが好ましい。植物の肥料成分吸収促進剤の中の、不飽和オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と必要に応じて添加される水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩の洗い落としが効果的に防止されるからである。
【0062】
本発明の植物の肥料成分吸収促進剤には、必要に応じて、賦形剤または担体が含有されていてもよい。これらの添加成分としては、農業上容認可能な薬剤であれば特に限定されない。また、賦形剤や担体以外の、農薬製剤などに通常用いられる成分がさらに含有されていてもよい。
【0063】
本発明の植物の肥料成分吸収促進剤は、任意の方法で植物に施用することができる。例えば、水に懸濁させて用いる水和剤として用いられ得、例えば、植物の根に接触させる噴霧剤とされてもよい。また、本発明の植物の肥料成分吸収促進剤は、浸漬用薬剤または土壌灌注用薬剤として使用されてもよい。具体的な施用方法は、施用される栽培植物や使用形態によって適宜選択され得るが、例えば、地上液剤散布、地上固形散布、空中液剤散布、空中固形散布、液面散布、施設内施用、土壌混和施用、土壌灌注施用、塗布処理等の表面処理、育苗箱施用、単花処理、株元処理等が例示され得る。また、本発明の植物の肥料成分吸収促進剤は、植物の肥料成分と混合して、植物用肥料として使用してもよい。
【0064】
前記植物の肥料成分としては、植物の多量栄養素源および/または微量栄養素源として機能する天然または合成の任意の化学物質であれば、限定されない。
【0065】
多量栄養素としては、窒素(N)、リン(P)およびカリウム(K)の群から選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。また、微量栄養素としては、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、硫黄(S)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、Co(コバルト)、モリブデン(Mо)、銅(Cu)およびNi(ニッケル)の群から選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。
【0066】
具体的には、前記植物の肥料成分としては、以下のような化学物質が使用できる。
【0067】
窒素肥料としては、例えば塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、尿素、および石灰チッソ等、リン肥料としては、例えば重過リン酸石灰(リン酸二水素カルシウム)、過リン酸石灰(リン酸二水素カルシウム、硫酸カルシウム混合物)、リン酸水素二カリウム、および熔成リン肥等、カリウム肥料としては、例えば硝酸カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、炭酸カリウム、およびケイ酸カリウム等を使用することができる。
【0068】
また、マグネシウム肥料としては、例えば硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムが、カルシウム肥料としては、例えば生石灰、消石灰、炭酸カルシウムが、マンガン肥料としては、例えば硫酸マンガン、硫酸苦土マンガン、鉱さいマンガンが、ホウ素肥料としては、例えばホウ酸、ホウ酸塩が、鉄肥料としては、例えば鉄鋼スラグが、銅肥料としては、例えば硫酸銅が、コバルト肥料としては、例えば硝酸コバルト、硫酸コバルトが、亜鉛肥料としては、例えば硫酸亜鉛、硫化亜鉛、酸化亜鉛が、ニッケル肥料としては、例えば塩化ニッケルが、モリブデン肥料としては、例えばモリブデン酸ナトリウムが、硫黄肥料としては、例えば硫黄華がそれぞれ挙げられる。
【0069】
本発明の植物の肥料成分吸収促進剤が、このような植物の肥料成分と混合されて使用される場合は、それぞれの肥料成分に適した施用方法で植物に施用されてもよい。
【0070】
本発明の植物の肥料成分吸収促進剤を施用することのできる植物は、特に限定されるものではなく、植物一般に対して良好に用いることができる。例えば、アブラナ科、イネ科、マメ科、ナス科、バラ科、ヒユ科、またはアオイ科の植物に対して、好適に施用され得る。また、施用の対象となる植物は野生型の植物に限定されず、例えば変異体や形質転換体等であってもよい。また、それぞれの植物の品種も特に限定されない。
【実施例0071】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0072】
[実施例1]
オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩として、ケトオクタデカジエン酸である13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxoODA)((9Z,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、ケイマンケミカル社製)を用いた。また、水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩として、ヒドロキシオクタデセン酸である、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸(ラローダンファインケミカルズ社製、9(S),10(S),13(S)-トリヒドロキシ-11(E)-オクタデセン酸(英語表記で9(S),10(S),13(S)-trihydroxy-11(E)-octadecenoic acid))、および、9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸(ラローダンファインケミカルズ社製、9(S),12(S),13(S)-トリヒドロキシ-10(E)-オクタデセン酸(英語表記で9(S),12(S),13(S)-trihydroxy-10(E)-octadecenoic acid))を2:1で混合した混合物を用いた。不飽和脂肪酸として、リノール酸(富士フイルム和光純薬(株)製の一級リノール酸)を用いた。1gのリノール酸に、13-oxoODAを0.09g、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸を0.02g、9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸を0.01g、およびリン酸水素二カリウムを0.5g加えて混合した。この混合物を水に分散して、16Lの水溶液(水分散液)を肥料成分吸収促進剤原液として調製した。
【0073】
人工気象機(LH-60FL3-DT:(株)日本医化器械製作所製)内で温度15℃、消灯下でイネ(品種:日本晴れ)種籾を水に5日間浸漬した後、半日間温度を30℃にした。得られた鳩胸状の種籾を滅菌した種まき培土(タキイ種苗(株)製)を入れた72穴セルトレイにセル当り4つ播種した。人工気象機内で温度28℃、蛍光灯下14時間と温度23℃、消灯下10時間とを1日のサイクルとして、1から1.5葉期となるまで育成させた。
【0074】
肥料成分吸収促進剤原液を水で100倍希釈し播種後7日後のイネの葉面にスプレーボトルを用いて1株当たり1mLずつ20株に散布した。
【0075】
散布3時間後および24時間後に2株を1サンプルとして5サンプルずつ地上部を切り取り15mL容量蓋付き遠沈管に秤量し(新鮮重量:FW)、すぐに-80℃の冷凍庫に移し24時間冷凍した。
【0076】
冷凍したサンプルにエタノール:水:酢酸=80:20:1混合液を0.1g/1mL濃度となるように加えてビーズ破砕後、超音波処理を10分間行った。これを1時間静置し、遠心分離機(himac CT6E:エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ(株)製)で3000rpm、5分間遠心分離した上澄みをメンブレンフィルターでろ過し分析サンプルとした。
【0077】
分析サンプルをLC-MS/MS装置(LC部:DIONEX Ultimate3000、MS/MS部:Q Exactive Focus:サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)にて次の条件で分析を行った。カラム=Aclaim PR-MS2.1mmφ×150mm(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)、溶媒=2%アセトニトリル/酢酸水→95%アセトニトリル/酢酸水、流速=0.25mL/min、カラム温度=40℃、検出=MS-(SIM)、導入=サンプル液2μL。オーキシンは3-インドール酢酸(富士フイルム和光純薬(株)製の一級試薬)を用いた分析値の検量線を用いて作成し、MS-のピーク面積値から定量を行った。肥料成分吸収促進剤散布3時間後のイネサンプル中オーキシン含有量は4.7ng/gFW、24時間後のイネサンプル中オーキシン含有量は5.9ng/gFWとなった。
【0078】
[比較例1]
実施例1同様に育成させた播種後7日後のイネの葉面にスプレーボトルを用いて1株当たり水1mLずつ20株に散布した。
【0079】
実施例1同様にサンプル回収・抽出・分析し含まれるオーキシン量を定量した結果、水散布3時間後のイネサンプル中オーキシン含有量は3.9ng/gFW、24時間後のイネサンプル中オーキシン含有量は3.8ng/gFWとなった。
【0080】
[実施例2]
実施例1と同様に肥料成分吸収促進剤液原液として調製した。
【0081】
肥料成分吸収促進剤原液を水で50倍希釈した(A液)。尿素21.4g、塩化カリウム13.4g、リン酸水素二カリウム44.9g(N:P:K=10:8:27)を1Lの水に溶かしたものをさらに水で3000倍希釈した(B液)。A液100mLとB液100mLを混合したものを播種後7日後のイネの葉面にスプレーボトルを用いて1株当たり1mLずつ20株に散布した。
【0082】
実施例1同様にサンプル回収・抽出・分析し含まれるオーキシン量を定量した結果、水散布3時間後のイネサンプル中オーキシン含有量は6.6ng/gFW、24時間後のイネサンプル中オーキシン含有量は7.6ng/gFWとなった。
【0083】
[比較例2]
ステアリン酸(富士フイルム和光純薬(株)製)50mg、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレイン酸エステル(富士フイルム和光純薬(株)製)150mgを水に分散して、1Lの水溶液(水分散液)を比較液として調製した。
【0084】
実施例1と同様に稲籾を播種し、人工気象機内で温度28℃、蛍光灯下14時間と温度23℃、消灯下10時間とを1日のサイクルとして育成させ、比較液を散布した。
【0085】
実施例1同様にサンプル回収・抽出・分析し含まれるオーキシン量を定量した結果、水散布3時間後のイネサンプル中オーキシン含有量は3.0ng/gFW、24時間後のイネサンプル中オーキシン含有量は3.1ng/gFWとなった。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示されるように、本発明の肥料成分吸収促進剤を散布することにより植物中のオーキシン含有量が増大することが見出された。したがって、肥料成分吸収促進剤が施用された植物では、オーキシンによる細胞膜プロトンポンプの活性化を介して、カリウム等の肥料成分の吸収が促進され、植物の伸長生長が誘導されると考えられる。一方、水のみが散布された比較例1および直鎖飽和脂肪酸であるステアリン酸を含む比較液が散布された比較例2では、施用された植物におけるオーキシンの含有量の増加は認められなかった。市販の肥料成分と共に本発明の肥料成分吸収促進剤が施用された実施例2では、植物中のオーキシン含有量がさらに増大された。したがって、本発明の肥料成分吸収促進剤を植物の肥料成分と共に用いることで、肥料成分の吸収効率が高められた優れた植物生長促進効果を有する植物用肥料が提供され得る。