(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120108
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】信頼度算出システム及び信頼度算出方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20230822BHJP
G06Q 50/06 20120101ALI20230822BHJP
G06Q 10/20 20230101ALI20230822BHJP
C02F 1/00 20230101ALI20230822BHJP
【FI】
G05B23/02 R
G06Q50/06
G06Q10/00 300
C02F1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023326
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】畑中 聰
【テーマコード(参考)】
3C223
5L049
【Fターム(参考)】
3C223AA06
3C223BA01
3C223BB08
3C223EB01
3C223FF13
3C223FF15
3C223FF16
3C223FF17
3C223FF52
3C223GG01
3C223HH02
5L049AA20
5L049CC06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水処理施設あるいは水処理設備において、施設全体あるいは設備全体の要求機能を適切に発揮又は維持する保全管理を行うための一指標として用いることのできる信頼度を算出する信頼度算出システム及び信頼度算出方法を提供する。
【解決手段】信頼度算出システム10は、水処理施設又は水処理設備200の信頼度を算出する信頼度算出手段20を備え、水処理施設又は水処理設備200を構成する複数の機器301~322に関する故障記録及び/又は修繕記録に基づき、水処理施設全体又は水処理設備200全体としての信頼度を算出する。
【効果】機器の重要性(影響度)が反映された上で、水処理施設又は水処理設備の要求機能を実行できる確率としての信頼度の数値化、定量化が可能となる。また、この信頼度は、保全管理や保全管理計画策定を行うための一指標として好適に用いられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理施設又は水処理設備の信頼度を算出する信頼度算出手段を備え、
前記信頼度算出手段は、前記水処理施設又は前記水処理設備を構成する複数の機器に関する故障記録及び/又は修繕記録に基づき、前記水処理施設全体又は前記水処理設備全体としての信頼度を算出することを特徴とする、信頼度算出システム。
【請求項2】
前記信頼度算出手段で算出した信頼度を表示する表示手段を備え、
前記表示手段は、前記水処理施設全体又は前記水処理設備全体の信頼度、並びに、機器ごとの信頼度を表示することを特徴とする、請求項1に記載の信頼度算出システム。
【請求項3】
前記信頼度算出手段で算出した信頼度を、
前記水処理施設又は前記水処理設備の保全管理に用いることを特徴とする、請求項1又は2に記載の信頼度算出システム。
【請求項4】
前記信頼度算出手段で算出した信頼度を、
前記水処理施設又は前記水処理設備の保全管理計画策定に用いることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の信頼度算出システム。
【請求項5】
前記信頼度算出手段は、機械学習を用いることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の信頼度算出システム。
【請求項6】
水処理施設又は水処理設備の信頼度を算出する信頼度算出プロセスを備え、
前記信頼度算出プロセスは、前記水処理施設又は前記水処理設備を構成する複数の機器に関する故障記録及び/又は修繕記録に基づき、前記水処理施設全体又は前記水処理設備全体としての信頼度を算出することを特徴とする、信頼度算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信頼度算出システム及び信頼度算出方法に関するものである。特に、水処理設備又は水処理施設の保全計画策定に係る信頼度算出システム及び信頼度算出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上下水道、発電、製造(生産)等に係る各種施設(プラント)には、複数の設備、及び、各設備を構成する複数の機器が設置されており、施設機能の発揮及び施設性能の維持に当たっては、これら設備や機器の点検、整備、補修、更新などの保全管理を適切に行う必要がある。
従前の保全管理としては、定期的な点検・補修による保全管理が行われていたが、オーバーメンテナンスとなりやすく、設備や機器の実態を反映させた評価方法を用いた保全管理が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、施設(プラント)内の機器を構成する部品データ及び経年劣化データに基づき、劣化事象の抽出・評価を行うとともに、その劣化事象の評価に基づき保全計画を策定する機器劣化評価支援装置が記載されている。また、特許文献1には、各年度の保全費用が可能な限り平坦となるように保全マップを作成することも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるように、施設(プラント)内の機器に関する経年劣化に係る情報を基に、年度ごとの保全費用が平坦となるような保全計画を策定し、施設の保全管理を行うことは知られている。
しかし、機器の故障・不具合の発生には経年劣化以外の要因が存在するため、機器の経年劣化による評価だけでは定性的な判断となる場合がある。また、機器の経年劣化と、この機器を備える設備全体、施設全体としての機能喪失は必ずしもイコールではない。したがって、個々の機器に係る状態に着目した保全を行うと、施設全体あるいは設備全体の機能発揮又は性能維持においては優先度の低い機器に対し、点検やそれに伴う補修・更新などの保全作業を行ってしまうおそれがある。また、保全費用を平坦とした場合、結果的に優先度の低い機器に対する保全作業を優先させることにつながり、適切な保全管理が困難になるという問題が生じる。
【0006】
特に、上下水道施設のような水処理施設では、施設の機能停止による社会的影響が大きいことに加え、施設の規模が大きいことから保全管理に係る費用が高額になる傾向にある。限られた予算を最大限効果的に使用し、かつ適切に施設の保全管理を行うためには、施設全体あるいは設備全体として求められる機能発揮(又は性能維持)に係る要件を的確に把握し、適切な評価を行う必要がある。
【0007】
本発明の課題は、水処理施設あるいは水処理設備において、施設全体あるいは設備全体の要求機能を適切に発揮又は維持する保全管理を行うための一指標として用いることのできる信頼度を算出する信頼度算出システム及び信頼度算出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、水処理施設あるいは水処理設備において、複数の機器に関する保全記録に基づき、水処理施設全体あるいは水処理設備全体に係る信頼度を算出することで、水処理施設あるいは水処理設備の保全管理を行うための一指標としての使用に適した信頼度が得られることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の信頼度算出システム及び信頼度算出方法である。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の信頼度算出システムは、水処理施設又は水処理設備の信頼度を算出する信頼度算出手段を備え、信頼度算出手段は、水処理施設又は水処理設備を構成する複数の機器に関する故障記録及び/又は修繕記録に基づき、水処理施設全体又は水処理設備全体としての信頼度を算出するという特徴を有する。
従来、水処理施設あるいは水処理設備の保全管理においては、機器の状態に着目したパラメータを基に、主に機器単位での評価や計画策定を行っていたため、水処理施設全体あるいは水処理設備全体についての定量的な評価が困難であった。
一方、本発明の信頼度算出システムによれば、複数の機器に関する保全情報(故障記録及び/又は修繕記録)から、水処理施設全体又は水処理設備全体を一つの集合体とみなした信頼度が算出されるため、機器の重要性(影響度)が反映された上で、水処理施設あるいは水処理設備として要求される機能(要求機能)を実行できる確率としての信頼度を数値化し、定量化することが可能となる。また、算出した信頼度は、施設全体あるいは設備全体の要求機能を適切に発揮又は維持する保全管理や保全管理計画策定を行うための一指標として好適に用いることができる。
【0010】
また、本発明の信頼度算出システムの一実施態様としては、信頼度算出手段で算出した信頼度を表示する表示手段を備え、表示手段は、水処理施設全体又は水処理設備全体の信頼度、並びに、機器ごとの信頼度を表示するという特徴を有する。
この特徴によれば、算出した信頼度を作業者ないしは管理者が把握することが容易となる。特に、保全管理に係る作業内容の確認や計画策定の過程において、信頼度に係る情報を作業者ないしは管理者全体で把握することが容易となるため、速やかな判断や対応が可能となる。
【0011】
また、本発明の信頼度算出システムの一実施態様としては、信頼度算出手段で算出した信頼度を、水処理施設又は水処理設備の保全管理に用いるという特徴を有する。
この特徴によれば、機器の影響度が反映され、かつ水処理施設あるいは水処理設備の要求機能を実行できる確率として定量化した信頼度を用い、保全管理を行うことができる。定量化した信頼度の算出において、信頼度に対する機器の影響度も明確となることから、水処理施設や水処理設備の要求機能を適切に発揮又は維持するに当たり、影響の大きな機器や設備の抽出精度が向上し、優先順位を明確にした保全管理を行うことが可能となる。
【0012】
また、本発明の信頼度算出システムの一実施態様としては、信頼度算出手段で算出した信頼度を、水処理施設又は水処理設備の保全管理計画策定に用いるという特徴を有する。
この特徴によれば、機器の影響度が反映され、かつ水処理施設あるいは水処理設備の要求機能を実行できる確率として定量化した信頼度を用い、保全管理計画策定を行うことができる。定量化した信頼度の算出において、信頼度に基づき施設停止又は設備停止に係るリスクの数値化などが可能となることから、水処理施設や水処理設備の要求機能を適切に発揮又は維持するに当たり、保全管理に係る目標を定量化した保全管理計画を策定することが可能となる。
【0013】
また、本発明の信頼度算出システムの一実施態様としては、信頼度算出手段は、機械学習を用いるという特徴を有する。
水処理施設あるいは水処理設備を構成する機器は、種類・台数ともに多数存在する。この特徴によれば、信頼度算出に必要となる情報として、複数台・複数種類の機器に関する各種情報の入力・学習により、多数の情報を適切に取り扱うことを容易とすることで、信頼度算出の算出速度及び算出精度を向上させることが可能となる。
【0014】
また、上記課題を解決するための本発明の信頼度算出方法としては、水処理施設又は水処理設備の信頼度を算出する信頼度算出プロセスを備え、信頼度算出プロセスは、水処理施設又は水処理設備を構成する複数の機器に関する故障記録又は修繕記録に基づき、水処理施設全体又は水処理設備全体としての信頼度を算出するという特徴を有する。
この特徴によれば、複数の機器に関する保全情報(故障記録及び/又は修繕記録)から、水処理施設全体又は水処理設備全体を一つの集合体とみなした信頼度を算出することができる。これにより、機器の影響度が反映された上で、水処理施設あるいは水処理設備として要求される機能(要求機能)を実行できる確率としての信頼度を数値化し、定量化することが可能となる。また、算出した信頼度は、施設全体あるいは設備全体の要求機能を適切に発揮又は維持する保全管理を行うための一指標として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水処理施設あるいは水処理設備において、施設全体あるいは設備全体の要求機能を適切に発揮又は維持する保全管理を行うための一指標として用いることのできる信頼度を算出する信頼度算出システム及び信頼度算出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施態様に係る信頼度算出システムの概略説明図である。
【
図2】本発明の実施態様に係る信用度算出システムで用いる主要パラメータに係るブロック図である。
【
図3】本発明の実施態様に係る信用度算出システムにおける算出条件設定の一例を示す概略説明図である。
【
図4】本発明の実施態様に係る信用度算出システムを用いた水処理設備全体における可動率算出を模式的に示す概略説明図である。
【
図5】本発明の実施態様に係る信用度算出システムを用いた水処理施設全体における可動率算出を模式的に示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る信頼度算出システム及び信頼度算出方法の実施態様を詳細に説明する。
なお、実施態様に記載する信頼度算出システム及び信頼度算出方法については、本発明に係る信頼度算出システム及び信頼度算出方法を説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0018】
本発明の信頼度算出システム及び信頼度算出方法は、上水道施設、下水処理施設などの水処理施設、あるいは水処理施設を構成する水処理設備の保全管理に好適に利用することのできる一指標としての信頼度を算出するものである。
【0019】
ここで、本発明における「機器」、「設備」、「施設」の分類については、産業一般において分類される内容に準拠するものとしてもよく、水処理に関する処理プロセスに基づく分類を行ってもよい。
なお、以下、実施態様においては、「機器」とは、水処理に関する処理プロセスに用いる装置としての最小単位であり、例えば、ポンプ、散気装置、ブロワなどを指すものとする。また、「水処理設備」とは、水処理に関するいずれか一つの処理プロセスを実行するためのものであり、例えば、沈殿池や反応タンクなど、複数の「機器」から構成されているものを指すものとする。また、「水処理施設」とは、水処理に関する複数の処理プロセス(水処理プロセス全体)を実行するためのものであり、複数の「水処理設備」から構成されているものを指すものとする。
【0020】
図1は、本発明の実施態様における信頼度算出システム10を示す概略説明図である。
本実施態様に係る信頼度算出システム10は、
図1に示すように、水処理施設100又は水処理設備200の信頼度を算出する信頼度算出手段20及び信頼度を表示する表示手段30を備えるものである。
水処理施設100は、複数の水処理設備200(
図1では設備201~206)から構成されており、以下、水処理設備全般を指す場合は水処理設備200と表記し、個別の水処理設備を指す場合は対応する符号を付した形(設備201~206)で表記する。また、水処理設備200は、複数の機器300(
図1では機器301~322)から構成されており、以下、機器全般を指す場合は機器300と表記し、個別の機器を指す場合は対応する符号を付した形(機器301~322)で表記する。
なお、
図1において、一点鎖線で示された矢印は、制御又は入力可能に接続されていることを示している。
【0021】
水処理施設100を構成する水処理設備200の種類については、処理対象となる原水の種類及び求められる水処理プロセスの種類に応じて選択されるものであり、特に限定されない。例えば、本実施態様における水処理施設100として下水処理施設を例とした場合、
図1に示すように、水処理施設100は、設備201~206を備え、設備201が沈砂池、設備202が最初沈殿池、設備203が反応槽(生物処理槽)、設備204が最終沈殿池、設備205が汚泥処理設備、設備206が用水処理設備にそれぞれ相当するものを備えることが挙げられる。なお、本実施態様においては6種類の設備201~206を示しているが、水処理設備200の種類及び個数は特に限定されるものではない。
【0022】
また、水処理設備200を構成する機器300の種類については、各設備で行われる水処理プロセスの種類に応じて選択されるものであり、特に限定されない。例えば、本実施態様における水処理施設100として下水処理施設を例とした場合、
図1に示すように、設備201は、機器301~304を備え、機器301及び302が大型ポンプ、機器303及び304が小型ポンプにそれぞれ相当する。また、設備202は、機器305~308を備え、機器305~308はいずれも沈殿池に相当する。設備203は、機器309~314を備え、機器309~311はそれぞれ散気装置に相当し、機器312~314はそれぞれブロワに相当する。また、設備204は、機器315~318を備え、機器315~318はいずれも沈殿池に相当する。また、設備205は、機器319、320を備え、機器319、320はいずれも脱水機に相当する。さらに、設備206は、機器321、322を備え、機器321、322はいずれもろ過器に相当する。なお、本実施態様においては各設備201~206を構成する機器として機器301~322を示しているが、機器300の種類及び個数は特に限定されるものではない。
【0023】
これらの機器301~322は、各種計器(不図示)を備えるものとすることができる。各種計器としては、例えば、流量計、温度計、圧力計、水位計、水質計等のように各種測定データを得ることができるものや、カメラ等のように各種画像データを得ることができるものなどが挙げられる。
また、各種計器により得られた情報、あるいは作業者や管理者等による巡回結果及び施設の運用管理に係る作業結果を基に、機器の保全情報を取得・記録する手段として機器保全情報データベースDBを備えることが好ましい。ここで、機器の保全情報とは、機器の故障記録及び/又は修繕記録を含むものであり、より具体的には、機器が故障した日(機器の故障を発見した日)、機器の修繕を手配した日、修繕実施日、修繕完了日、機器の更新・交換日に係る情報を含むものである。機器保全情報データベースDBに保存される個々の機器の保全情報は、信頼度算出手段20における演算パラメータの一つとして利用される。
なお、
図1では、機器301と機器保全情報データベースDBとが入力可能に接続されているが、他の機器302~322についても同様に機器保全情報データベースDBと入力可能に接続するものとしてもよい。また、後述するように、機器301~322と機器保全情報データベースDBとを直接接続することは必須ではなく、他の手段により、機器301~322の保全情報を保全情報データベースDBに入力するものとしてもよい。
【0024】
信頼度算出手段20は、水処理施設100又は水処理設備200の信頼度を算出するためのものである。より具体的には、信頼度算出手段20は、複数の機器300に関する故障記録及び/又は修繕記録に基づき、水処理施設100全体又は水処理設備200全体としての信頼度を算出するためのものである。
図1に示すように、信頼度算出手段20は、情報取得部21と、要求機能条件入力部22と、演算部23と、出力部24とを備えるものである。
また、
図2は、信頼度算出手段20で用いる主要パラメータに係るブロック図である。
図2に示すように、入力としては、保全情報や要求機能条件が入力パラメータとなり、演算としては、信頼度算出に係る条件の設定、信頼度及び影響度の算出が行われ、出力としては、演算結果である信頼度データや保全優先度などが出力される。これら各パラメータの内容及び取扱いについては後述する。
以下、信頼度算出手段20における各構成について説明する。
【0025】
情報取得部21は、複数の機器300に関する保全情報のうち、特に故障記録及び/又は修繕記録に係る情報を得るためのものである。
ここで、情報取得部21で取得する情報は、機器300に関する故障記録及び/又は修繕記録に関するものであればよく、信頼度を算出する対象となる水処理施設100(又は水処理設備200)を構成する機器300における実測に基づくものであってもよく、別の水処理施設における同種の機器についての過去の故障記録及び/又は修繕記録を利用するものであってもよい。
実測に基づく機器300に関する故障記録及び/又は修繕記録については、上述した機器保全情報データベースDBに保存されたデータを読み込むものとしてもよく、機器300に設けられた各種計器により得られた情報、あるいは作業者や管理者等による巡回結果及び施設の運用管理に係る作業結果から、故障記録及び/又は修繕記録を直接読み取るものとしてもよい。
信頼度を算出する対象となる水処理施設100(又は水処理設備200)における実測値を用いることで、水処理施設100(又は水処理設備200)の実態に即した信頼度算出が可能となるが、水処理施設100の供用開始からの期間が短く、機器300の故障記録及び/又は修繕記録が十分ではないときは、別の水処理施設100における同種の機器に係る過去のデータを活用することが好ましい。
情報取得部21で取得した情報は、信頼度算出における演算パラメータとして演算部23に入力される。
【0026】
要求機能条件入力部22は、水処理施設100又は水処理設備200における要求機能に係る条件を設定し、演算部23に入力するためのものである。
設定する条件としては、後述する信頼度に関連する値とすることが挙げられる。例えば、水処理施設100又は水処理設備200の機能停止リスクを最小限とするため、年間非可動日の許容値を条件として設定し、この条件を満たすのに必要となる信頼度の値を設定し、演算部23に入力することが挙げられる。
要求機能条件入力部22は、水処理施設100又は水処理設備200の供用時に固定値として設定するものであってもよく、作業者あるいは管理者が必要に応じて直接入力することが可能なものとしてもよい。
【0027】
演算部23は、情報取得部21からの情報と、要求機能条件入力部22の設定条件を基に、信頼度の算出などの各種演算を行うものである。
演算部23で行う演算の一つは、信頼度の算出に係るものである。
ここで、「信頼度」とは、対象(本実施態様における水処理施設100又は水処理設備200)が与えられた条件の下で、与えられた時間間隔に対して、要求機能を実行できる確率のことであり、対象がどの程度故障することなく所定の機能を発揮できるかについての程度を表す値である。
信頼度は、信頼性、可用性、保守性、保全性、安全性の5つの視点(RASIS)から評価することができる。特に、信頼性、可用性、保守性については、それぞれの性質を数値化することが可能である。
例えば、信頼性の評価に用いられるのは、平均故障間隔(MTBF)であり、対象が故障して修理が完了してから、更に次の故障が発生するまでの時間の平均、すなわち対象が安定稼働し続ける平均時間として表される。
また、保守性の評価に用いられるのは、平均修復時間(MTTR)であり、対象の修繕に要した総時間を故障回数で除したもので、修復にかかる平均時間として表される。
さらに、可用性の評価に用いられるのは、可動率(アベイラビリティ、稼働率)であり、以下の式1で表される。
【数1】
可動率は、対象の稼働が期待される時間(供用に付している期間)に対して実際に稼働している時間の割合として表される。
【0028】
本発明における信頼度は、上述した評価に基づき算出することができるが、定量化が可能となるように数値化できる指標として算出されることが好ましい。特に、可動率は、対象(水処理施設100又は水処理設備200)が故障せずに稼働している時間の割合を示すものであり、水処理施設100又は水処理設備200の機能停止を防ぐための保全管理及び保全管理計画策定において有用な指標となる。以下、本実施態様においては、信頼度とは、式1に基づく可動率のことを指すものとする。
【0029】
演算部23における信頼度(可動率)の演算に係る一例について説明する。
まず、情報取得部21からの情報を基に、機器300のMTBF及びMTTRを算出し、さらに式1に基づき可動率を算出する。
本実施態様で算出する信頼度としての可動率とは、機器300自体の可動率を指すものではなく、水処理施設100全体又は水処理設備200全体の可動率として算出したものを指す。したがって、複数の機器300における可動率から、水処理施設100全体又は水処理設備200全体の可動率を算出する必要がある。
【0030】
以下、水処理施設100全体又は水処理設備200全体の可動率の算出における算出手段(算出条件設定)について、順を追って説明する。
図1に示すように、水処理施設100は複数の設備200及び複数の機器300から構成されている。ここで、水処理施設100全体を一の回路とみなし、各設備200及び各機器300の関係性を、並列、直列及びその組み合わせから求めるものとする。
このとき、各設備200及び各機器300の関係性を求める直列及び並列の意味合いについては、水処理プロセスの処理方向に対する直列及び並列とは異なるものである。例えば、設備200及び/又は機器300のうち、必ず稼働させるもの同士の組み合わせが「直列に接続される状態」にあるものとみなし、複数の中からいずれか一つが稼働すればよいものの組み合わせが「並列に接続される状態」にあるものとみなされる。
図3は、本実施態様における算出条件設定に係る一例を示す概略説明図である。
図3(A)に示すように、例えば、2つの機器300A(可動率0.9)及び機器300B(可動率0.8)が直列に接続される場合、各機器の可動率の積がこの2つの機器300A及び機器300Bからなるユニットにおける可動率(0.9×0.8=0.72)となる。一方、
図3(B)に示すように、2つの機器300A及び機器300Bが並列に接続される場合、この2つの機器300A及び機器300Bからなるユニットにおける可動率は、各機器が故障状態にある確率(非可動率、不稼働率、アンアベイラビリティ)の積を1から減じたものとなる。すなわち、1-(1-0.9)×(1-0.8)=0.98が、並列に接続された機器300A及び機器300Bからなるユニットにおける可動率となる。
【0031】
機器300同士、あるいは水処理設備200同士、さらに機器300と水処理設備200間の接続を考慮することで、水処理施設100全体又は水処理設備200全体の可動率を算出することができる。
まず、複数の機器300から構成されている水処理設備200全体における可動率算出について説明する。
図4は、水処理設備200全体における可動率算出を模式的に示した概略説明図である。
図4(A)において、設備201は沈砂池に相当し、機器301~304はそれぞれポンプに相当する。ここで、機器301~303は稼働させている状態、機器304は予備として停止させた状態のものとする。各機器301~303に係る故障記録及び/又は修繕記録に基づき、MTBF及びMTTRを求め、さらに式1に基づき計算した各機器300の可動率をグラフに示す。グラフに示すように、各機器301~303の可動率を並べることで、どの機器が設備201の可動率を低下させているのか明確に評価することが可能となる。また、このとき各機器301~303は、水処理プロセスとしては互いが直接関与し合うものではないが、可動率算出において直列に接続される状態として取り扱うことで、設備201全体としての可動率を求めることができる。
【0032】
また、
図4(B)において、設備203は反応槽に相当し、機器309~311はそれぞれ散気装置に相当し、機器312~314はそれぞれブロワに相当する。各機器309~314に係る故障記録及び/又は修繕記録に基づき、MTBF及びMTTRを求め、さらに式1に基づき計算した各機器300の可動率をグラフに示す。このとき、機器309~311としては水処理プロセスとしては並列に配置されるものであるが、機器309~311全てを稼働させる処理を行う場合、可動率算出においては直列に接続される状態として取り扱う。また、機器312~314は、ブロワとしての能力に差がある場合、例えば機器312のみを稼働させることと、機器313及び機器314を稼働させることがブロワ能力として同等である場合、可動率算出においては並列に接続される状態として取り扱う。そして、機器309~311からなるユニットと、機器312~314からなるユニットは、水処理プロセスとして直列に接続されるものであり、可動率算出においても直列に接続される状態として取り扱うことで、設備203全体としての可動率を求めることができる。
【0033】
図4に係る説明に基づき、同様の手順によって、各設備201~206ごとに水処理設備200全体としての可動率を算出する。この算出された可動率は、水処理設備200全体を一つの集合体としてみなしたときの信頼度に相当し、水処理設備200を構成する複数の機器300の影響度が反映された上で、水処理設備200の要求機能を実行できる確率としての信頼度を数値化し、定量化した値となる。
【0034】
次に、複数の機器300及び複数の水処理設備200から構成されている水処理施設100全体における可動率算出について説明する。
図5は、水処理施設100全体における可動率算出を模式的に示した概略説明図である。
水処理施設100は、設備201~206を備えるものとする。各機器301~322に係る故障記録及び/又は修繕記録に基づき算出した各設備200の可動率をグラフに示す。グラフに示すように、各設備201~206の可動率を並べることで、どの設備が水処理施設100の可動率を低下させているのか明確に評価することが可能となる。また、このとき各設備201~206は、水処理プロセスとしては直列処理が進行するものであり、可動率算出においても直列に接続される状態として取り扱うことで、水処理施設100全体としての可動率を求めることができる。
なお、
図5では、各設備200の可動率から水処理施設100全体の可動率を求めるものとしているが、これに限定されるものではない。例えば、水処理施設100における構成要素(各機器300及び各設備200)が少ない場合等においては、各機器300の可動率から水処理施設100全体の可動率を求めるものとしてもよい。
この算出された可動率は、水処理施設100全体を一つの集合体としてみなしたときの信頼度に相当し、水処理施設100を構成する複数の機器300の影響度が反映された上で、水処理施設100の要求機能を実行できる確率としての信頼度を数値化し、定量化した値となる。
【0035】
また、上述したように、複数の機器300に関する保全情報(故障記録及び/又は修繕記録)から、水処理施設100全体又は水処理設備200全体を一つの集合体とみなした信頼度算出において、水処理施設100全体あるいは水処理設備200全体の信頼度に対する各機器301~322及び各設備201~206の影響度を明確化することが可能となる。
したがって、演算部23における演算の一つとしては、信頼度算出において各機器300あるいは各設備200の影響度を算出するとともに、この影響度の高い機器300あるいは水処理設備200を抽出することや、各機器300あるいは各設備200に対し、影響度に関する順位付けを行うことが挙げられる。影響度に関する順位付けにより、保全を優先すべき機器300や設備200の順番が明確化する。また、各機器300や各設備200に対して、保全を優先すべき順番を保全優先度として数値化し、定量化することが可能となる。
この演算結果は、後述する保全管理及び保全管理計画策定において好適に用いられる。
【0036】
また、演算部23における演算の一つとしては、水処理施設100全体又は水処理設備200全体の信頼度として求められた可動率から、年間可動日(=1年×可動率)及び年間非可動日(=1年-年間可動日)を求めることが挙げられる。これにより、水処理施設100又は水処理設備200としての機能停止リスクが年間何日あるかを把握することができ、保全管理計画策定に当たっての管理目標を明確化することが可能となる。
【0037】
さらに、演算部23における演算の一つとしては、要求機能条件入力部22における設定条件に基づき、この条件を満たす設備200あるいは機器300の組み合わせを求めることが挙げられる。より具体的には、要求機能条件入力部22で設定した条件を満たすのに必要となる信頼度の値に対し、この信頼度の値を満たすような各設備200及び各機器300の信頼度(可動率)の組み合わせを求めるものである。このとき、各機器300あるいは各設備200の選択に当たっては、保全管理にかかる予算の許容範囲を加味し、組み合わせの最適化を図ることが好ましい。これにより、水処理施設100又は水処理設備200における要求機能を満たすために必要となる設備200あるいは機器300を抽出することができるとともに、限られた予算を最大限効果的に使用し、かつ適切に施設の保全管理を行うことが可能となる。
【0038】
出力部24は、演算部23で演算された各種演算結果を出力するためのものであり、後述する表示手段と接続して各種演算結果を出力させることが好ましい。
図2に示すように、出力部24で出力する内容の一例としては、水処理施設100全体又は水処理設備200全体の信頼度(可動率)データ、機器300の信頼度データ、機器の影響度への順位付けに伴う保全優先度、要求機能条件入力部22で設定した条件を満たす設備及び/又は機器の組み合わせなどが挙げられる。
【0039】
信頼度算出手段20における情報取得部21、要求機能条件入力部22、演算部23、出力部24は、それぞれを実行するための手段は特に限定されない。例えば、作業者や管理者等、人による操作や判断を行うもの以外に、ネットワーク回線を介したデータの送受信装置や、データの整理、演算を行う計算装置等、あらかじめ設定されたプログラムなどに基づき、操作や演算を自動化するものなどが挙げられる。
【0040】
例えば、情報取得部21における情報の取得は、保全情報データベースDBに保管されたデータを、作業者等が読み取って情報取得部21へ入力するものとしてもよく、ネットワーク回線などを通じて直接送信されるものとしてもよい。また、保全情報データベースDBによらず、作業者等が直接データとして取得し、情報取得部21へ入力するものとしてもよい。
また、出力部24による演算結果の出力は、後述する表示手段30に対し、作業者等が手作業で入力するものとしてもよく、ネットワーク回線などを通じて直接送信されるものとしてもよい。
【0041】
また、信頼度算出手段20における一連の操作について必要なプログラムを作成し、CPU等のプロセッサにより実行するものとすることが好ましい。特に、大規模な水処理施設100では、水処理施設100を構成する機器300の種類、数が膨大となる。したがって、人工知能(AI)などによる機械学習機能を用い、各種機器300に係る保全情報を取り扱うことが好ましい。これにより、機器300の保全情報に関する大量のデータの取得、整理、演算を速やかに行うことができ、信頼度算出の算出速度及び算出精度を向上させることが可能となる。
【0042】
表示手段30は、出力部24から出力された演算結果を表示させるものであり、水処理施設100、水処理設備200及び機器300の信頼度や、機器300及び/又は水処理設備200の保全優先度などを表示させるものである。これにより、作業者や管理者が水処理施設100全体の状況を容易に把握することが可能となる。特に、表示手段5は、水処理施設100及び/又は水処理設備200の保全管理に好適に用いられる情報を表示することが好ましく、これらの表示。
【0043】
表示手段30は、信頼度算出手段20による演算結果として、水処理施設100及び/又は水処理設備200の保全管理に好適に用いられる情報を表示することができるものであればよい。例えば、表示手段30としては、各情報を表示する情報表示部31や、情報表示部31で表示される情報の内容変更や表示態様変更を行うための入力手段(不図示)を備えるものとすることが挙げられる。なお、表示手段30に設けられる入力手段は、信頼度算出手段20に対する入力手段として機能させるものとしてもよい。
【0044】
情報表示部31は、信頼度算出手段20の出力部24から出力された演算結果を表示するものである。
情報表示部31は、信頼度や保全優先度について一覧表として示すことが挙げられる。また、信頼度や保全優先度について、保全管理における重要性の高低に基づく表示を行うものとしてもよい。
このとき、重要性の高い情報については赤色で表示するなど、重要性の高低が視覚的に容易に区別されるよう、表示の色を変えることが好ましい。また、カラーユニバーサルデザインを考慮して表示の色を選択することや、表示する文字のサイズや字体により重要性の高低が区別できるようにするものとしてもよい。
また、情報表示部31で表示する情報の内容を音声で通知することや、電子音などの通知音により通知することなどが挙げられる。これにより、作業者や管理者は、重要性の高い情報が表示されていることを、聴覚的に把握することが可能となる。また、情報表示部31における表示内容の変更及び音による通知を組み合わせて、水処理施設100及び/又は水処理設備200に係る保全管理に必要となる情報を、視覚的及び聴覚的に把握するものとしてもよい。
【0045】
また、情報表示部31では、保全優先度の大きさ(影響度の大きさ)に応じて並べ替えたものを表示させるものとしてもよい。これにより、保全管理及び保全管理計画策定において対応を優先すべき箇所を、作業者や管理者が速やかに認識することが可能となる。
【0046】
本実施態様における信頼度算出システム10は、信頼度算出手段20で算出した信頼度を水処理施設又は水処理設備の保全管理及び保全管理計画策定に用いることが好ましい。
上述したように、本実施態様によって求められる信頼度は、機器300の影響度が反映され、かつ水処理施設100あるいは水処理設備200の要求機能を実行できる確率として定量化した可動率に基づく値である。また、信頼度算出手段20において信頼度算出への影響の大きな機器や設備の抽出精度が向上し、保全優先度も明確化することが可能となる。
したがって、この信頼度及び保全優先度を用いることで、限られた予算内で最大限効果的な保全管理の実施及び保全管理計画の策定を行うことが可能となる。
【0047】
例えば、水処理施設100の保全管理及び保全管理計画の策定を行うに当たっては、各機器300における保全情報の調査・更新を行い、それに伴い可動率の再計算を行う。
一方、所定期間(契約期間)内において、機器300の故障による水処理施設100の機能停止ゼロとするための可動率を設定する。例えば、3年の所定期間内で水処理施設100の機能停止ゼロ(非可動日が年間で1日以下)となる可動率は、0.9991と求められる。
そして、再計算した可動率が目標の可動率を満たすような保全管理計画策定の検討を行うことで、限られた予算内で適切な保全管理を行うことが可能となる。
以上のように、本実施態様における信頼度(可動率)を用いることで、保全管理及び保全管理計画策定に係る目標を定量化することができ、目標を達成するための対応・対策に係る検討において、保全管理に係るコスト削減や予算の有効活用等が可能となる。
【0048】
なお、上述した実施態様は信頼度算出システム及び信頼度算出方法の一例を示すものである。本発明に係る信頼度算出システム及び信頼度算出方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る信頼度算出システム及び信頼度算出方法を変形してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の信頼度算出システム及び信頼度算出方法は、水処理施設及び/又は水処理設備の保全管理及び保全管理計画策定において好適に利用されるものである。
【符号の説明】
【0050】
10 信頼度算出システム、20 信頼度算出手段、21 情報取得部、22 要求機能条件入力部、23 演算部、24 出力部、30 表示手段、31 情報表示部、100 水処理施設、200 水処理設備、201~206 設備、300~322 機器、DB 保全情報データベース