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特開2023-120131ポリエチレン系フィルム及び積層フィルム
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  • 特開-ポリエチレン系フィルム及び積層フィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120131
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】ポリエチレン系フィルム及び積層フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230822BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
B32B27/32 Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098798
(22)【出願日】2022-06-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2022022762
(32)【優先日】2022-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】緩詰 宏
(72)【発明者】
【氏名】後藤 直美
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 達也
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
【Fターム(参考)】
4F071AA15
4F071AA19
4F071AA20
4F071AA82
4F071AA88
4F071AF15
4F071AF20
4F071AF21
4F071AF30
4F071AF59
4F071AH04
4F071BB06
4F071BC01
4F100AK04A
4F100AK04B
4F100AK07A
4F100AK66A
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100GB15
4F100JA06A
4F100JA13A
4F100JC00A
4F100JK02
4F100JK07
4F100JK08
4F100JL12
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】従来の石油由来のポリプロピレンと同じ製法により製造されたバイオマス由来のポリプロピレンをフィルムの原料の一部として用いることによって、フィルムの物性を低下させることなく、環境負荷の低減を図ることができるポリエチレン系フィルム及び積層フィルムを提供する。
【解決手段】樹脂原料にバイオマス度が5%以上であるバイオマスポリプロピレンを含有してなり、バイオマスポリプロピレンが、バイオナフサが加熱分解され分留されて生成されたプロピレン又はバイオプロパンが脱水素されて生成されたプロピレンが重合されたプロピレン重合体、又はこれらプロピレンの少なくとも一方とα-オレフィンとが重合されたポリプロピレン共重合体のいずれか一方又は両方を含み、かつ、バイオマスポリプロピレンのメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1~50g/10minであり、密度が0.850~0.910g/cmである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンを主体とする樹脂原料からなるポリエチレン系フィルムであって、前記樹脂原料にバイオマス度が5%以上であるバイオマスポリプロピレンを含有してなり、
前記バイオマスポリプロピレンが、バイオナフサが加熱分解され分留されて生成されたプロピレン又はバイオプロパンが脱水素されて生成されたプロピレンが重合されたプロピレン重合体、又はこれら前記プロピレンの少なくとも一方とα-オレフィンとが重合されたポリプロピレン共重合体のいずれか一方又は両方を含み、かつ、
前記バイオマスポリプロピレンのメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1~50g/10minであり、
密度が0.850~0.910g/cmである
ことを特徴とするポリエチレン系フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載のポリエチレン系フィルムを含む複数の樹脂層からなる積層フィルム。
【請求項3】
フィルムのバイオマス度が5%以上である請求項1に記載のポリエチレン系フィルム又は請求項2に記載の積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン系フィルム及び積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、持続可能な開発目標(SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS(SDGs))と呼ばれる持続可能な開発のために国連が定める国際目標が掲げられ、再生可能資源の利用度を高めて環境負荷を軽減した循環型社会への取り組みが積極的に求められている。再生可能資源は、主に植物や植物由来の原料を加工した資源であり、バイオマス資源とも称される。バイオマス資源の場合、植物体の生育に伴い大気中の二酸化炭素は吸収される。そして、バイオマス資源として燃料等に利用されると再び水と二酸化炭素に分解される。従って、二酸化炭素の量は増えない。つまり、バイオマス資源はカーボンニュートラルの点から今後大きく取り入れる必要のある資源である。
【0003】
プラスチックの分野においては、バイオマス由来のプラスチックとして、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリ-3-ヒドロキシブチレート-3-ヒドロキシヘキサノエート(PHBH)に代表される生分解性ポリマーが製造されているものの、生産量が限られていたり、高コストのために広く普及しているということはできない。一方、汎用プラスチックのうち、最も多く使用される材料であるポリエチレンに関して、植物由来の糖分からエタノールを経てポリエチレンを得る手法が商業化され、普及している。
【0004】
このバイオマス由来のポリエチレンを使用した樹脂フィルムとして、エチレン系樹脂のみを使用したフィルムが提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。しかしながら、現在普及しているサトウキビ由来のバイオマスポリエチレンは、従来の石油由来のポリエチレンと比較して、分子量分布が広く、オリゴマー成分が多い。このため、このバイオマスポリエチレンを使用してフィルムとした時には、オリゴマー成分のブリードアウトによるラミネート剥離や耐ブロッキング性の低下が懸念される。
【0005】
一方で、用途によってはエチレン系樹脂単独のフィルムでは使い勝手に劣る場合があり、剛性、耐熱性、耐ブロッキング性、表面粗面化、不透明性やシール特性の改質剤としてポリプロピレンが添加される場合がある(例えば、特許文献3,4参照。)。このようなポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂の混合フィルムの場合であっても、二酸化炭素排出削減の観点から同様にバイオマスポリエチレンが使用されることがある。該混合フィルムにおいても、バイオマスポリエチレンの使用は、上記したようなバイオマスポリエチレン特有のオリゴマー成分の多さという問題から添加量が制限される課題を内在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-251006号公報
【特許文献2】特開2014-046674号公報
【特許文献3】特開2011-245777号公報
【特許文献4】特開2021-529106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上記状況に鑑み提案されたものであり、包装分野において多用されるポリエチレン系フィルム及びその積層フィルムにおいて、従来の石油由来のポリプロピレンと同じ製法により製造されたバイオマス由来のポリプロピレンをフィルムの原料の一部として用いることによって、フィルムの物性を低下させることなく、環境負荷の低減を図ることができるポリエチレン系フィルム及び積層フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、第1の発明は、ポリエチレンを主体とする樹脂原料からなるポリエチレン系フィルムであって、前記樹脂原料にバイオマス度が5%以上であるバイオマスポリプロピレンを含有してなり、前記バイオマスポリプロピレンが、バイオナフサが加熱分解され分留されて生成されたプロピレン又はバイオプロパンが脱水素されて生成されたプロピレンが重合されたプロピレン重合体、又はこれら前記プロピレンの少なくとも一方とα-オレフィンとが重合されたポリプロピレン共重合体のいずれか一方又は両方を含み、かつ、前記バイオマスポリプロピレンのメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1~50g/10minであり、密度が0.850~0.910g/cmであることを特徴とするポリエチレン系フィルムに係る。
【0009】
第2の発明は、第1の発明のポリエチレン系フィルムを含む複数の樹脂層からなる積層フィルムに係る。
【0010】
第3の発明は、第1の発明のポリエチレン系フィルム又は第2の発明の積層フィルムのバイオマス度が5%以上であるポリエチレン系フィルム又は積層フィルムに係る。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明に係るポリエチレン系フィルムによると、ポリエチレンを主体とする樹脂原料からなるポリエチレン系フィルムであって、前記樹脂原料にバイオマス度が5%以上であるバイオマスポリプロピレンを含有してなり、前記バイオマスポリプロピレンが、バイオナフサが加熱分解され分留されて生成されたプロピレン又はバイオプロパンが脱水素されて生成されたプロピレンが重合されたプロピレン重合体、又はこれら前記プロピレンの少なくとも一方とα-オレフィンとが重合されたポリプロピレン共重合体のいずれか一方又は両方を含み、かつ、前記バイオマスポリプロピレンのメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1~50g/10minであり、密度が0.850~0.910g/cmであるから、従来の石油由来のポリプロピレンと同じ製法により製造されたバイオマス由来のポリプロピレンをフィルムの原料として用いることによって、フィルムの物性を低下させることなく、環境負荷の低減を図ることができる。
【0012】
第2の発明に係る積層フィルムによると、第1の発明のポリエチレン系フィルムを含む複数の樹脂層からなるため、用途に応じた物性を備えたフィルムを積層することにより、従来のフィルムと遜色ない性能を備えながら、環境負荷低減により貢献することができる。
【0013】
第3の発明に係るポリエチレン系フィルム又は積層フィルムによると、第1又は2の発明において、フィルムのバイオマス度が5%以上であるため、環境負荷低減により貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施例に係るポリエチレンフィルムの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、ポリエチレンを主体とする樹脂原料からなり、該樹脂原料による単独の層からなる単層フィルムであるポリエチレン系フィルム又は該ポリエチレン系フィルムが他のフィルムないし樹脂層と積層されて複数の樹脂層により形成される積層フィルムである。積層フィルムとされる際には、積層フィルムの各層を構成する樹脂とともにポリエチレン系フィルムを構成する樹脂を共押出して成形されたり、各層を構成するフィルムが貼着されたりして任意の層構成を備える積層フィルムとされることができる。ここで、例えば、図1に示されるような3層構造の場合に、中間層13をバイオマスポリプロピレンを含有するポリエチレンを主体とし、第1表層11及び第2表層12をシーラント層としてポリプロピレンないしポリエチレンとする構成としても良く、他の層の樹脂構成は適宜である。
【0016】
本発明を構成する樹脂原料には、植物由来のいわゆるバイオマス原料を用いたバイオマスポリプロピレンが含有される。バイオマスポリプロピレンは、植物を原料とする油である植物由来油が蒸留分離されて得られたバイオナフサや植物由来油を触媒等で分解して得られるバイオディーゼル燃料の副産物であるバイオプロパンから得られる。植物由来油は、例えば、大豆油、ごま油、こめ油、ヒマワリ油、綿実油、コーン油、菜種油、オリーブ油、荏胡麻油、アーモンド油や、これらの廃油、クラフトパルプ製造時の副産物である粗トール油、木くず等の木材より抽出した油等が挙げられる。
【0017】
そして、バイオナフサが加熱分解されて分留されて生成されたプロピレンが重合されてバイオマスポリプロピレンとなる。該プロピレンには、バイオナフサが加熱分解された際に生成されたエチレンとC4留分をメタセシス反応により生成されたプロピレンも含む。バイオナフサが加熱分解された際にプロピレン留分のみならず、エチレン及びC4留分も用いられることができるため、歩留まりが良くなる。あるいは、バイオプロパンを脱水素して生成されたプロピレンが重合されてバイオマスポリプロピレンとなる。ここでバイオマスポリプロピレンの素となるプロピレンは、バイオナフサのみではなく、適宜石油由来のナフサも混合されて生成されることもある。バイオナフサの原料である植物由来油の総量は化石由来油に比して少ないため、確保が石油に比して困難であったり高価であるため、石油由来のナフサを混合することにより(バイオ)ナフサの総量を確保して製造コストを低減するためである。
【0018】
また、バイオナフサの総量が既存プラントに対して必要十分でない場合は、石油由来ナフサと混合して製造されることもある。バイオマスポリプロピレンの原料がバイオプロパンの場合も、同様に天然ガスや石油由来プロパンが混合され、脱水素、重合の工程を経てバイオマスポリプロピレンとされることも考えられる。
【0019】
バイオナフサ(及び混合されたナフサ)が加熱分解され分留されて生成されたプロピレン又はバイオプロパン(及び天然ガスないし石油由来プロパン)を脱水素して生成されたプロピレンは、プロピレン同士で重合されてプロピレン重合体となり、また、α-オレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-ペンテン-1等が挙げられ、α-オレフィンと重合したポリプロピレン共重合体としては、プロピレン-エチレン-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体等が挙げられる。本発明に用いられるバイオマスポリプロピレンは、所望するフィルムの物性によりプロピレン重合体とポリプロピレン共重合体のどちらか一方又は両方が適宜配合されて使用されることができる。
【0020】
本発明に用いられるバイオマスポリプロピレンを製造するに際し使用される触媒として、マグネシウム、ハロゲン、チタン、電子供与体を触媒成分とするマグネシウム担持型触媒、三塩化チタンを触媒とする固体触媒成分と有機アルミニウムからなる触媒、またはメタロセン触媒が挙げられる。具体的な触媒の製造法は特に限定されず、一例として特開2007-254671号公報に開示のチーグラー触媒が例示される。
【0021】
植物由来油からバイオナフサを蒸留分離する方法及びバイオナフサからプロピレンを分留する方法は、従来の石油からプロピレンを生成する方法と同じである。このため、植物由来油から生成されたプロピレンは、石油由来のプロピレンと変わらない物性を備えるはずであるから、フィルムの樹脂原料として用いられるポリプロピレンの一部ないし全部にバイオマスポリプロピレンを用いることで、フィルムの物性を損なうことなく、環境負荷の低減を図ることができると考えられる。このことから、環境負荷低減の観点よりバイオマスポリプロピレンのバイオマス度は5%以上と規定される。
【0022】
植物由来油から得たバイオプロパンを脱水素しプロピレンを生成する方法は、天然ガスや石油由来プロパンからプロピレンを生成する方法と同じである。このため、植物由来油から生成されたプロピレンは、天然ガスや石油由来のプロピレンと変わらない物性を備えるはずであるから、フィルムの樹脂原料として用いられるポリプロピレンの一部ないし全部にバイオマスポリプロピレンを用いることで、環境負荷の低減を図ることができると考えられる。このことから、環境負荷低減の観点よりバイオマスポリプロピレンのバイオマス度は5%以上と規定される。
【0023】
なお、バイオマス度は、植物(バイオマス)由来の炭素の含有量を放射性炭素(C14)測定により算出して求めることができる。本発明のバイオマスポリプロピレンにおいては、放射性炭素測定により測定した値を使用した。測定原理は以下の通りである。自然界の炭素には重さの違うものが存在し、炭素12(C12)、炭素13(C13)、炭素14(C14)の3種類がある。その中で炭素14には、大気中に常に一定の割合で存在し、決まった周期で減少して5730年で元の量の半分になる性質(半減期)がある。植物は成長のため、大気中の二酸化炭素を取り込むため、植物に含まれる炭素14は大気中と同じ割合となる。一方石油等の化石資源には炭素14が含まれないことから、炭素14はバイオマス度と相関することとなる。加速器質量分析装置(AMS)は、試料に含まれる炭素の種類と、それぞれの割合を測定することができるため、試料に含まれるバイオマス度を算出することができる。
【0024】
本発明に用いられるバイオマスポリプロピレンは、メルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重)が0.1~50g/10minの範囲を満たすものとすることにより、従来の石油100%由来のポリプロピレンと同様に使用された場合であってもフィルムの性能低下を抑制しつつ、環境負荷の低減という本発明の趣旨を達することができる。なお、メルトフローレート(MFR)はJIS K 7210(2014)に準拠し、230℃で測定される。
【0025】
また、本発明に用いられるバイオマスポリプロピレンの密度も同様に規定され、0.850~0.910g/cmの範囲とされるのが良い。該範囲の密度のバイオマスポリプロピレンであれば、従来のポリプロピレン同様に使用された場合であっても、フィルムの性能低下を抑制しつつ、環境負荷の低減を図ることができる。
【0026】
ポリエチレン系フィルムにおいて、樹脂原料の主体となるポリエチレンにポリプロピレンが添加されるのは、剛性、耐熱性、耐ブロッキング性、表面粗面化、不透明性やイージーピール性の付与を目的とするためである。そのため、ポリプロピレンの添加量はフィルムに求められる物性に応じて適宜であって、そのうちの一部ないし全部にバイオマスポリプロピレンが用いられることとなる。そして、環境負荷低減の観点から、バイオマスポリプロピレンが含有されたポリエチレン系フィルムないし積層フィルムは、フィルムとしてのバイオマス度を5%以上となるようバイオマスポリプロピレンが添加されることがより望ましい。フィルムとしてのバイオマス度を5%以上とすることにより、バイオマス原料を有効利用して石油の使用量を低減することができることから、より環境負荷の低減が実現可能となる。フィルムのバイオマス度は放射性炭素濃度測定の結果より導かれる。
【0027】
本発明のフィルムの製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造される。例えば、無延伸フィルムは、Tダイや円形ダイ等から所定の厚さとなるよう吐出され押出しされた溶融樹脂を冷却ロールや空気を利用して冷却固化して製造される。さらに、延伸フィルムは、公知のテンター法、チューブラー法、ロール延伸等の方法により一軸又は二軸延伸されて製造される。
【0028】
該フィルムの厚さは、用途に応じて適宜決定され、例えば1~150μm程度がよい。特に10~100μmとすると包装用フィルムに適した厚さとなる。図1に示されるような3層の共押出フィルムである積層フィルム10の場合は、表層11:中間層13:表層12の層比は、例えば、1:30:1~1:2:1程度とされるのがよい。
【0029】
本発明のフィルムに再生可能資源が使用されたバイオマスインキや軟包装用ラミネート接着剤による印刷ラミネート加工とすると、さらに環境負荷の低減を図ることができる。また、異なる素材とラミネートされることも考えられる。バイオマスポリプロピレンフィルムや、バイオマスポリアミドフィルム、バイオマスポリエステルフィルム等とラミネートされたフィルムとされることにより環境負荷の低減にさらに貢献することができる。
【0030】
該フィルムの各層においては、必要に応じて滑剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、結晶核剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤等の各種添加剤を適宜添加することができる。これら添加剤につき、再生可能資源が使用された添加剤を用いることも考えられる。
【0031】
例えば、主に無延伸フィルムに添加される滑剤にあっては、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド等の脂肪酸アミド化合物、グリセリンモノオレート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、ジグリセリンオレート、ジグリセリンステアレート等の多価アルコール等が挙げられる。なお、使用される原料としては、動物油脂や植物油脂が挙げられるが、大豆、パーム、ヤシ等の植物油脂を原料とした添加剤が使用されることでさらに環境負荷の低減に貢献できる。
【0032】
主に二軸延伸フィルムに添加される帯電防止剤にあっては、ラウリルジエタノールアミン、ミリスチルジエタノールアミン、オレイルジエタノールアミン、パルミチルジエタノールアミン、ステアリルジエタノールアミン等の脂肪族アミン化合物、及びこれらのエステル化合物である脂肪族アミンエステル化合物、ラウリルジエタノールアミド、ミリスチルジエタノールアミド、オレイルジエタノールアミド、パルミチルジエタノールアミド等の脂肪族アミド化合物、及びこれらのエステル化合物である脂肪族アミドエステル化合物、グリセリンモノオレート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート等の多価アルコール等が挙げられる。使用される原料としては、動物油脂や植物油脂が挙げられるが、大豆、パーム、ヤシ等の植物油脂を原料とした添加剤を使用することでさらに環境負荷の低減に貢献できる。
【0033】
アンチブロッキング剤にあっては、シリカ粒子、ゼオライト粒子、架橋アクリル粒子、架橋スチレン粒子、シリコーン粒子、タルク粒子等の粒状物が挙げられる。
【0034】
結晶核剤にあっては、カルボン酸金属塩系結晶核剤、ソルビトール系結晶核剤、リン酸エステル金属塩系結晶核剤、脂環式金属塩等が挙げられる。
【0035】
該フィルムの各層においては、必要に応じて強度向上、ガスバリア性付与等を目的とした添加剤を適宜添加することができる。例えば、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、クレー、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、ゾノトライト、石膏繊維、アルミボレート、アラミド繊維、カーボンファイバー(炭素繊維)、グラスファイバー(ガラス繊維)、セルロースファイバー、セルロースナノファイバー、タルク、マイカ、ガラスフレーク、ポリオキシベンゾイルウイスカー、合成マイカ、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、シラスバルーン、石油樹脂、テルペン樹脂、等があげられる。これら添加剤につき、セルロース、テルペン樹脂等の再生可能資源が使用された添加剤を用いることでさらに環境負荷の低減に貢献できる。
【0036】
上述したように、従来の石油由来のポリプロピレンと同一の方法により生成されたバイオマスポリプロピレンは、石油由来のポリプロピレンと物性が異ならないはずである。そうであるならば、既存の石油由来ポリプロピレンを含有するポリエチレン系フィルムにおけるポリプロピレンの代わりにバイオマスポリプロピレンを使用してもフィルムの特性ないし物性を損なうことはないはずである。つまり、従来の石油由来のポリプロピレンの一部又は全部にバイオマスポリプロピレンを使用した本発明のポリエチレン系フィルムを用いることで、環境負荷の低減を図ることができることとなる。
【0037】
例えば、不透明性及びフィルムの表面が粗面化されたマットフィルムにおいては、第一表層に40%の配合割合でバイオマスポリプロピレンが含有されることが考えられる。本来、マット調の外観を付するために、ポリエチレンにポリプロピレンが添加される。マットフィルムにあっても、従来の石油由来のポリプロピレンと同等の物性を備えたバイオマスポリプロピレンが使用されることで、フィルムにマット調の外観を付与しつつ、環境負荷の低減を図ることができる。
【0038】
イージーピールフィルムにおいては、第一表層に30%の配合割合でバイオマスポリプロピレンが含有されることが考えられる。従来ではイージーピール性を付与する目的で、ポリエチレンとポリプロピレンを混合した樹脂を用いてイージーピール層を構成する場合がある。イージーピールフィルムにあっても、従来の石油由来のポリプロピレンと同等の物性を備えたバイオマスポリプロピレンが使用されることにより、イージーピール性等のフィルムの特性を確保しつつ、環境負荷の低減を図ることができる。
【0039】
ラミネート用シーラントフィルムにおいては、積層フィルムにおける中間層に10%の配合割合でバイオマスポリプロピレンが含有されることが考えられる。また、フィルムの張り合わせ使用が主に想定されることから、高いヒートシール性が要求される。ラミネート用シーラントフィルムにあっても、従来の石油由来のポリプロピレンと同等の物性を備えたバイオマスポリプロピレンが含有されることにより、ヒートシール性やラミネート適性等のフィルムの物性を確保しつつ、環境負荷の低減を図ることができる。
【0040】
ラミネート用基材フィルムにおいては、中間層に5%の配合割合でバイオマスポリプロピレンが含有されることが考えられる。上述した各種フィルムと同様に、従来の石油由来のポリプロピレンと同等の物性を備えたバイオマスポリプロピレンが含有されることにより、ラミネート適性等のフィルムの物性を確保しつつ、環境負荷の低減を図ることができる。
【0041】
本発明の課題と同様の環境負荷の低減の観点から提案されるバイオエタノールを経たバイオマス由来のポリエチレンが添加された従来のバイオマスポリエチレン系フィルムにあっては、該バイオマス由来のポリエチレン樹脂のオリゴマー成分の多さに起因するブリードアウトによるラミネート剥離等の問題が内包される。本発明のフィルムにおいては、従来の石油由来のポリプロピレンと変わらない物性を備えるバイオマスポリプロピレンが使用されるため、上記のバイオマスポリエチレン系フィルムの抱える問題は生じないはずである。このため、既存のフィルムと同様の使用感を確保しつつ、環境負荷の低減を図ることのできる本発明のフィルムは、既存のフィルムの代替として有望である。
【実施例0042】
[無延伸ポリエチレン系フィルムの作製]
後述のポリプロピレン樹脂及びポリエチレン樹脂を用いて試作例1~4の無延伸ポリエチレン系フィルムを作成した。下記各材料を溶融、混練して、第一表層、中間層、第二表層の順に積層されるように設定し、Tダイフィルム成形機により共押出し、冷却ロールで冷却して無延伸フィルムを製膜した。各試作例の無延伸フィルムは共通の設定により製膜した。各試作例のフィルムは共通の設定により製膜し、厚さ50μm、第一表層:中間層:第二表層が1:4:1の比率となるよう原料の吐出量を調整した。
【0043】
第一表層及び第二表層には、アンチブロッキング剤として粉末合成シリカ(富士シリシア株式会社製、『サイリシア430』)を適宜添加した。中間層には、ポリエチレンフィルム用スリップ剤を適宜添加した。
【0044】
[使用材料]
・ポリプロピレン樹脂(PP-1):バイオマスポリプロピレン(Lyondell Basell社製、『C14 HP456J』)、バイオマス度46%、MFR(230℃/2.16kg)3.4g/10min、密度0.900g/cm、融点165℃
・ポリプロピレン樹脂(PP-2):石油由来ポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製、『FL203D』)、バイオマス度0%、MFR(230℃/2.16kg)3.0g/10min、密度0.900g/cm、融点164℃
・ポリエチレン樹脂(PE-1):石油由来ポリエチレン(株式会社プライムポリマー製、『SP2040』)、バイオマス度0%、MFR(190℃/2.16kg)3.7g/10min、密度0.918g/cm、融点126℃
【0045】
なお、使用材料のバイオマス度は、加速器質量分析装置(AMS)による放射性炭素(C14)測定により算出して求めた。また、メルトフローレート(MFR)は、JIS K 7210(2014)に準拠し、ポリプロピレン樹脂は230℃、ポリエチレン樹脂は190℃で測定した。
【0046】
[試作例1]
第一表層に樹脂(PE-1)を100重量%、中間層に樹脂(PE-1)100重量%、第二表層に樹脂(PE-1)を100重量%として試作例1の無延伸ポリエチレン系フィルムを得た。試作例1の無延伸ポリエチレン系フィルムのバイオマス度は0%である。
【0047】
[試作例2]
中間層を樹脂(PP-1)20重量%と樹脂(PE-1)80重量%とした以外は試作例1と同様とし、試作例2の無延伸ポリエチレン系フィルムを得た。試作例2の無延伸ポリエチレン系フィルムのバイオマス度は6.1%である。
【0048】
[試作例3]
第一表層を樹脂(PP-1)40重量%と樹脂(PE-1)60重量%とした以外は試作例1と同様とし、試作例3の無延伸ポリエチレン系フィルムを得た。試作例3の無延伸ポリエチレン系フィルムのバイオマス度は12.3%である。
【0049】
[試作例4]
第一表層を樹脂(PP-2)20重量%と樹脂(PE-1)80重量%とした以外は試作例1と同様とし、試作例4の無延伸ポリエチレン系フィルムを得た。試作例4の無延伸ポリエチレン系フィルムのバイオマス度は0%である。
【0050】
試作例1~4につき、ヘーズ(%)、引張破壊強度(MPa)、引張破壊伸度(%)、引張弾性率(GPa)、ヒートシール開始温度(℃)を測定した。各試作例の層ごとの樹脂の比率、バイオマス度及び各測定結果を表1に示す。
【0051】
[ヘーズの測定]
ヘーズ(%)は、透明性の指標であって、JIS K 7136(2000)に準拠し、ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製、『NDH-8000』)を使用して測定を行った。
【0052】
[引張特性]
フィルムの縦(MD)方向及び横(TD)方向の引張破壊強度(MPa)、引張破壊伸度(%)、引張弾性率(GPa)は、JIS K 7127(1999)に準拠して、引張試験機(株式会社オリエンテック製、『RTF-1310』)を使用して測定した。
【0053】
[ヒートシール開始温度の測定]
ヒートシール開始温度(℃)は、加工適性の指標の1つであって、JIS Z 1713(2009)に準拠して測定した。フィルムを50mm×250mm(フィルムの横(TD)方向×縦(MD)方向)の長方形の試験片(ヒートシール用)に裁断した。2枚の試験片のシーラント層(第二表層)同士を重ね、ヒートシール試験機(株式会社東洋精機製作所製,『熱傾斜試験機』)を使用し、ヒートシール圧力を0.4MPa、ヒートシール時間を1秒とした。そして、5℃ずつ温度を傾斜(昇温)する条件にてヒートシールした。このとき、ヒートシーラーの熱板と試験片フィルムの間に融着防止用のセロファンフィルムを挟んだ。ヒートシールにより融着した試験片を180°に開き、小型卓上試験機(株式会社島津製作所製,『EZ-SX』)により未シール部分をチャックに挟み、シール部分をT字剥離した。そして、ヒートシール強度が3(N/15mm)に到達する温度を内挿して求めた。
【0054】
【表1】
【0055】
[結果と考察]
試作例1~4はラミネート用シーラントフィルムとしての用途が想定される。表1に示されるように、バイオマスポリプロピレンが樹脂原料に含有されてバイオマス度が6.1%である試作例2、バイオマス度が12.3%である試作例3は、中間層が石油由来ポリエチレンのみからなる試作例1と比較して、ヒートシール開始温度にはほとんど差がみられなかったが、引張特性、特に、引張弾性率が向上した。すなわち、バイオマスポリプロピレンが樹脂原料に含有されることにより、フィルムの剛性が向上し、フィルムの薄肉化が可能となることが示された。よって、バイオマス資源の活用に加えフィルムの薄肉化も図れることから、環境負荷低減へのさらなる寄与が可能となる。また、その他の物性は、石油由来のポリエチレン樹脂のみからなる試作例1との差はさほどなく、使い勝手や使用感、取り回し等は劣らないと考えられる。このため、従来の石油由来のフィルムからの代替として有望であることが示された。
【0056】
また、バイオマスポリプロピレンが樹脂原料に含有されてバイオマス度が6.1%である試作例2と石油由来ポリプロピレンが同量配合された試作例4とでは、各種物性値にほとんど差がみられなかった。つまり、従来の石油由来の樹脂原料よりなるラミネート用基材フィルムとしての試作例4のヘーズ及び引張特性と同等の数値を示した試作例2においても、ラミネート用基材フィルムとして良好であることが示された。よって、バイオマスポリプロピレンを樹脂原料として用いたフィルムは、従来の石油由来のポリプロピレンを樹脂原料として用いたフィルムと何ら遜色ない機能性を備えるということができるから、従来のフィルムと同様の使用感を維持しつつ、環境負荷の低減を図ることができるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のポリエチレン系フィルム及び積層フィルムは、植物由来油のバイオナフサやバイオプロパンから作られたプロピレンから生成されたバイオマスポリプロピレンを含有する樹脂原料からなることにより、環境負荷の低減を図りつつ、フィルムの性能の低下を抑制できることから、従来のフィルムの代替として有望である。
【符号の説明】
【0058】
10 積層フィルム
11 第一表層
12 第二表層
13 中間層
図1