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  • 特開-液体展開用シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120139
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】液体展開用シート
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/00 20060101AFI20230822BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
G01N1/00 101G
B32B27/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167419
(22)【出願日】2022-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2022022759
(32)【優先日】2022-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北村 豊
(72)【発明者】
【氏名】川端 裕介
(72)【発明者】
【氏名】米多比 隆平
【テーマコード(参考)】
2G052
4F100
【Fターム(参考)】
2G052AD26
2G052CA04
2G052JA09
4F100AH02A
4F100AH06C
4F100AH08C
4F100AK01A
4F100AK41A
4F100AK42B
4F100AK52D
4F100AT00B
4F100BA04
4F100BA07
4F100CA18A
4F100EH46C
4F100EH46D
4F100EJ94
4F100GB66
4F100JB04
4F100JB13A
4F100JG01A
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】本発明は、ロール状に巻き取る場合や、枚葉で積層した場合においても液体展開性に優れた液体展開用シートを提供することをその課題とする。
【解決手段】本発明は、層A、基材B、層C、層Dをこの順に有し、前記層Aは、液体受容層100.0質量%中、ポリエステル樹脂を80.0質量%以上99.8質量%以下含み、界面活性剤を0.1質量%以上19.9質量%以下含み、導電性樹脂を0.1質量%以上19.9質量%以下含み、前記層Cは有機ケイ素化合物を主成分とし、前記層Dはシリコーン樹脂を主成分とする、液体展開用シートである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層A、基材B、層C、層Dをこの順に有し、前記層Aは、層A100.0質量%中、ポリエステル樹脂を80.0質量%以上99.8質量%以下含み、界面活性剤を0.1質量%以上19.9質量%以下含み、導電性樹脂を0.1質量%以上19.9質量%以下含み、前記層Cは有機ケイ素化合物を主成分とし、前記層Dはシリコーン樹脂を主成分とする、液体展開用シート。
【請求項2】
層A、基材B、層C、層Dをこの順で有し、層Aの表面抵抗値が1×10Ω以上1×1010Ω以下であり、かつ、層Aの表面自由エネルギーが70mN/m以上であり、層Cは、出力200W条件下で波長分散型蛍光X線分析装置を用いて測定されるケイ素元素のピーク検出量ISi(cps)が5000以上20000以下であり、かつ層CをJISK7250-1:2006に準拠し、温度850℃で焼却した後の灰分が、焼却前の層Cを100質量%としたとき、0.01質量%以上1.0質量%以下であり、層Dはシリコーン樹脂を主成分とする液体展開用シート。
【請求項3】
前記層Cがアルミニウムキレートを有する有機ケイ素化合物を含む、請求項1または2に記載の液体展開用シート。
【請求項4】
前記層Cについて、層Cについて、出力200W条件下で波長分散型蛍光X線分析装置を用いて測定されるケイ素元素のピーク検出量をISi(cps)、アルミニウム元素のピーク検出量(cps)をIAlとしたとき、IAl/ISiが0.05以上0.5以下である、請求項1または2に記載の液体展開用シート。
【請求項5】
ロール状に巻き取られ、温度25℃、相対湿度50%の雰囲気下で1000時間静置したのち、前記層Aの表面における、出力200W条件下で波長分散蛍光X線分析で測定されるケイ素元素のピーク強度が100cps以下である、請求項1または2に記載の液体展開用シート。
【請求項6】
前記基材Bがポリエチレンテレフタレートフィルムである、請求項1または2に記載の液体展開用シート。
【請求項7】
生体液展開用シートとして用いられる、請求項1または2に記載の液体展開用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体展開用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、臨床医療の現場におけるPOCT(Point Of Care Testing)が、幅広い検査項目への広がりを見せている。これらPOCT検査機器においては、高精度かつ、迅速に検査結果が得られることが強く求められている。特に、検査シートの撥水性と親水性は、検査精度と検査速度に支配的に影響を及ぼす重要な役割を果たすため、これまで様々な試みがなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、検査速度を制御する手法として液体受容層にバインダーと界面活性剤を用いる技術が開示されている。また、特許文献2には、POCT検査機器が課題とする検査精度を補う方法として、チップ基材の片面に親水層、親水層の反対面に撥水層を積層する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-349860号公報
【特許文献2】特開平10-246717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の特許文献1に記載の技術では、液体展開性に優れるものの、粘度が著しく低い生体液を展開させた場合に、裏面への裏移りが発生するため、検査精度の観点で課題がある。
【0006】
一方、特許文献2に記載の技術では、チップ基材をロール状に巻き取る場合や、枚葉で積層した場合に、親水層と撥水層が接触することで親水層に撥水層成分の転写が発生するため、液体展開性に課題がある。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するため、ロール状に巻き取る場合や、枚葉で積層した場合においても液体展開性に優れた液体展開用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、次によって解決することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明の液体展開用シートに関する好ましい一態様は以下の構成をとる。
(1)層A、基材B、層C、層Dをこの順で有し、前記層Aは、層A100.0質量%中、ポリエステル樹脂を80.0質量%以上99.8質量%以下含み、界面活性剤を0.1質量%以上19.9質量% 以下含み、導電性樹脂を0.1質量%以上19.9質量%以下含み、前記層Cは有機ケイ素化合物を主成分とし、前記層Dはシリコーン樹脂を主成分とする、液体展開用シート。
(2)層A、基材B、層C、層Dをこの順で有し、層Aの表面抵抗値が1×10Ω以上1×1010Ω以下であり、かつ、層Aの表面自由エネルギーが70mN/m以上であり、層Cは、出力200W条件下で波長分散型蛍光X線分析装置を用いて測定されるケイ素元素のピーク検出量ISi(cps)が5000以上20000以下であり、かつ層CをJISK7250-1:2006に準拠し、温度850℃で焼却した後の灰分が、焼却前の層Cを100質量%としたとき、0.01質量%以上1.0質量%以下であり、層Dはシリコーン樹脂を主成分とする液体展開用シート。
(3)前記層Cがアルミニウムキレートを有する有機ケイ素化合物を含む、(1)または(2)に記載の液体展開用シート。
(4)前記層Cについて、層Cについて、出力200W条件下で波長分散型蛍光X線分析装置を用いて測定されるケイ素元素のピーク検出量をISi(cps)、アルミニウム元素のピーク検出量(cps)をIAlとしたとき、IAl/ISiが0.05以上0.5以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の液体展開用シート。
(5)ロール状に巻き取られ、温度25℃、相対湿度50%の雰囲気下で1000時間静置したのち、前記層Aの表面における、出力200W条件下で波長分散蛍光X線分析で測定されるケイ素元素のピーク強度が100cps以下である、(1)~(4)のいずれかに記載の液体展開用シート。
(6)前記基材Bがポリエチレンテレフタレートフィルムである、(1)~(5)のいずれかに記載の液体展開用シート。
(7)生体液展開用シートとして用いられる、(1)~(6)のいずれかに記載の液体展開用シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ロール状に巻き取る場合や、枚葉で積層した場合においても液体展開性に優れた液体展開用シートを提供することができる。これにより、検査精度、検査速度、品位、及び耐久性に優れる液体展開用シートを提供することができる。本発明の液体展開用シートを用いた検査機器により安価で迅速かつ正確な検査が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】液体展開シートの模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の液体展開用シートの好ましい一態様は、層A、基材B、層C、層Dをこの順に有し、層A100.0質量%中、ポリエステル樹脂を80.0質量%以上99.8質量%以下含み、界面活性剤を0.1質量%以上19.9質量% 以下含み、導電性樹脂を0.1質量%以上19.9質量%以下含み、前記層Cは有機ケイ素化合物を主成分とし、前記層Dはシリコーン樹脂を主成分とする、液体展開用シートである。このような態様とすることにより、液体展開用シートは、検査精度、検査速度、品位、及び耐久性に優れる。以下、本発明の液体展開用シートについて具体的に説明する。
【0012】
(層A)
本発明の層Aの好ましい一態様は、層A100.0質量%中、ポリエステル樹脂を80.0質量%以上99.8質量%以下含み、界面活性剤を0.1質量%以上19.9質量%以下含み、導電性樹脂を0.1質量%以上19.9質量%以下含む。このような形態をとることで、液体展開用シートとして検査精度、検査速度、品位、及び耐久性に優れたものとすることができる。
【0013】
本発明におけるポリエステル樹脂は、二塩基酸成分とグリコール成分を共重合したポリエステル樹脂のことをいう。
二塩基酸成分としては、オルソフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボンル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族二塩基酸、アジピン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族や脂環族二塩基酸が挙げられる。
グリコール成分としては、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオ-ル、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオ-ル、1,3-ブタンジオ-ル、1,5-ペンタンジオ-ル、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコ-ル、ジエチレングリコ-ル、ジプロピレングリコ-ル、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオ-ル、ネオペンチルヒドロキシピバリン酸エステル、1,4―シクロヘキサンジメタノール、1.3-シクロヘキサンジメタノール、1,2シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、水素添加ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールS、ビスフェノ-ルAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物、水素添加ビスフェノ-ルAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物、ビスフェノ-ルSのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物、水素添加ビスフェノ-ルSのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物、1,9-ノナンジオール、2-メチルオクタンジオール、1,10-デカンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、トリシクロデカンジメタノール等が挙げられる。
【0014】
ポリエステル樹脂は、基材Bとの密着性と耐久性を向上させる観点で、化学式1のセグメントを有するポリエステル樹脂、いわゆるスターポリマーを用いることが好ましい。化学式1に示すR1としては、CH、CHCH、及びCHCHCHが例示される。
【0015】
本発明のポリエステル樹脂のガラス転移温度は、基材Bとの密着性と耐久性をいずれにも優れるものとする観点から40℃以上100℃以下であることが好ましい。
【0016】
ガラス転移温度が100℃以下であることにより、基材Bとの密着性を十分なものとすることができる。同様の観点から、ガラス転移温度を90℃以下とすることがより好ましい。 また、ポリエステル樹脂のガラス転移温度が40℃以上であることにより、層Cの耐久性に優れたものとなる。同様の観点から、ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、60℃以上とすることがより好ましい。
【0017】
上記の観点からガラス転移温度は、60℃以上100℃以下とすることがより好ましい。
【0018】
本発明のポリエステル樹脂は溶剤可溶性を有することが好ましい。ここで意味する溶剤可溶性とは、トルエン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、酢酸エチルの単独またはこれら内の任意の複数種からなる任意の混合比からなる混合溶媒の内のいずれか一種以上に25℃で3質量%以上溶解するものをいう。
【0019】
【化1】
【0020】
ポリエステル樹脂の含有量としては、層A100.0質量%中、ポリエステル樹脂を80.0質量%以上含むことで、基材Bとの密着性が向上するため、本発明の液体展開用シートが耐久性に優れるものとなる。同様の観点で、85.0質量%以上含有することが好ましく、90.0質量%以上含むことがより好ましい。
【0021】
また、ポリエステル樹脂の含有量は99.8質量%以下とすることで、層A中に後述する界面活性剤及び導電性樹脂の含有量比率を増やすことができるため、液体展開用シートとして検査精度、検査速度に優れたものとすることができる。同様の観点で、99.0質量%以下含有することが好ましく、97.0質量%以下含有することがより好ましい。
上記の観点から本発明におけるポリエステル樹脂は、層A100.0質量%中、80.0質量%以上99.8質量%以下含有することが好ましく、85.0質量%以上99.0質量%以下含有することがより好ましく、90.0質量%以上97.0質量%以下含有することがさらに好ましい。
【0022】
本発明の界面活性剤は、それ単独を純水に5質量%含ませると、当該純水の表面張力を30%以上小さくすることができる物質をいい、層Aの濡れ性を向上させる観点から、カチオン系界面活性剤及び/またはノニオン系界面活性剤が好ましい。カチオン系界面活性剤としては、アミン塩型カチオン界面活性剤や第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤のカチオン系界面活性剤がより好ましく、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アシロイルアミドプロピルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、アルキルベンジルメチルアンモニウム塩、アシル塩化コリンより選ばれる1種以上であることがさらに好ましい。ノニオン系界面活性剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤やアセチレングリコール類のエチレンオキサイド付加物界面活性剤がより好ましい。
【0023】
界面活性剤の含有量を0.1質量%以上とすることで、層Aの濡れ性向上させることができるため、液体展開用シートとして用いた場合に検査速度に優れたものとなる。同様の観点から、1.0質量%以上含有することが好ましく、3.0質量%以上含有することがより好ましい。
【0024】
また、界面活性剤の含有量を19.9質量%以下とすることで、液体展開用シート上に電極を形成した場合に界面活性剤が電極の上にまでブリードするなどして検査の感度不良が発生してしまうことを防止するものとなり、液体展開用シートとして用いた場合に検査精度に優れたものとなる。同様の観点から、15.0質量%以下含有することが好ましく、10.0質量%以下含有することがより好ましい。
【0025】
上記の観点から本発明における界面活性剤は、層A100.0質量%中、0.1質量%以上19.9質量%以下含有することが好ましく、1.0質量%以上15.0質量%以下含有することがより好ましく、3.0質量%以上10.0質量%以下含有することがさらに好ましい。このような形態をとることにより、層Aの表面自由エネルギーを70mN/m以上とすることができる。
【0026】
なお、層Aの濡れ性向上の観点から、界面活性剤の分子量は1000以下であることが好ましい。
【0027】
本発明の導電性樹脂は、それ単独での体積抵抗率が1×10Ω・m以下の樹脂であり、帯電防止効果、すなわち表面抵抗値を低減させる観点からカチオン系導電性樹脂が好ましく、第4級アンモニウム塩重合物であることがより好ましく、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、及び/又はポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドであることがさらに好ましい。
【0028】
導電性樹脂の含有量を0.1質量%以上とすることで、前記層Aの表面抵抗値を下げることによる帯電防止効果がさらに得られるため、液体展開用シート上に電極を形成する際の異物付着が抑制され、液体展開用シートとしての品位に優れたものとなる。同様の観点から、1.0質量%以上含有することがより好ましく、3.0質量%以上含有することがさらに好ましい。
【0029】
また、導電性樹脂の含有量を合計19.9質量%以下とすることで、液体展開用シート上に電極を形成した場合に短絡などして検査の感度が不良となることを防止するものとなり、液体展開用シートとして用いた場合に検査精度に優れたものとなる。同様の観点で、15.0質量%以下含有することがより好ましく、10.0質量%以下含有することがさらに好ましい。
【0030】
上記の観点から、本発明における導電性樹脂は、層A100.0質量%中、0.1質量%以上19.9質量%以下含有することが好ましく、1.0質量%以上15.0質量%以下含有することがより好ましく、3.0質量%以上10.0質量%以下含有することがさらに好ましい。また、このような形態をとることにより、層Aの表面抵抗値を1×10Ω以上、1×1010Ω以下とすることができる。
【0031】
なお、導電性樹脂の重量平均分子量は5000以上であることが好ましい。
【0032】
本発明において、前記層Aは界面活性剤を0.1質量%以上含み、かつ導電性樹脂を0.1質量%以上含むことが好ましい。本態様とすることにより、液体展開性の優れた液体展開用シートとすることができる。その理由として、ロール状に巻き取る場合や、枚葉で積層した場合、後述する層Dは層Aに成分が転写しやすかったりするため、本発明では後述する層Cを導入することで層Dの層Aへの成分転写を抑制しているが、今度は層Cの成分がブリードした結果、ロール状に巻き取る場合や、枚葉で積層した場合に層Aに転写することもある。しかしながら、前記層Aは界面活性剤を0.1質量%以上含み、かつ導電性樹脂を0.1質量%以上含むことにより、層Cの成分が層Aに転写しにくく、かつ液体展開用シートとして必要な性能を層Aが発揮できることを見出した。層Cの成分が層Aに転写しにくい理由としては、層A自体が程よく界面活性剤を含んでおり層Cの成分を程よく弾きやすかったり、層Aの帯電が小さく、層Cの成分を引き寄せないためであると発明者らは考えている。上記同様の観点から、層Aに含まれる界面活性剤の含有量をP(質量%)、層Aに含まれる導電性樹脂の含有量をQ(質量%)としたとき、P/Qの値は1以上150以下であることが好ましく、50以上120以下であることがさらに好ましい。
【0033】
本発明において、層Aの表面抵抗値は1×10Ω以上、1×1010Ω以下であることが好ましい。表面抵抗値を1×10Ω以上とすることで、液体展開用シート上に電極を形成した場合に短絡などして検査の感度が不良となることを防止するものとなり、液体展開用シートとして用いた場合に検査精度に優れたものとなる。同様の観点で、5×10Ω以上とすることがより好ましく、7×10Ω以上とすることがさらに好ましい。
【0034】
また、表面抵抗値を1×1010Ω以下とすることで帯電防止効果が得られるため、液体展開用シート上に電極を形成する際の異物付着が抑制され、液体展開用シートとしての品位に優れたものとなる。同様の観点で7×10Ω以下とすることがより好ましく、5×10Ω以下とすることがさらに好ましい。なお、表面抵抗値は実施例に記載の方法で求めることとする。
【0035】
本発明において、層Aの表面抵抗値が1×1010Ω以下、かつ、層Aの表面自由エネルギーが70mN/m以上であることが好ましい。本態様とすることにより、液体展開性の優れた液体展開用シートとすることができる。その理由として、ロール状に巻き取る場合や、枚葉で積層した場合、後述する層Dは層Aに成分が転写しやすかったりするため、本発明では後述する層Cを導入することで層Dの層Aへの成分転写を抑制しているが、今度は層Cの成分が層Aに転写することもある。しかしながら、Aの表面抵抗値を1×1010Ω以下、かつ、層Aの表面自由エネルギーを70mN/m以上とすることにより、層Cの成分が層Aに転写しにくく、かつ液体展開用シートとして必要な性能を層Aが発揮できることを見出した。層Cの成分が層Aに転写しにくい理由としては、層Aの表面自由エネルギーと層Cの成分の表面自由エネルギーにおける差異が大きくなり、層Cの成分を程よくは弾きやすかったり、層Aの帯電が小さく、層Cの成分を引き寄せないためであると発明者らは考えている。
【0036】
本発明の層Aの厚みは、品位と液体展開用シートとして用いた場合の検査精度のいずれも満足させる観点から、0.1μm以上5.0μm以下であることが好ましい。層Aの厚みを0.1μm以上とすることで、液体展開用シート加工時の擦り傷等による液体受容層(層A)の滑落や、ピンホールの発生を防ぐことができるため、液体展開用シートとして用いた場合に検査精度に優れたものとなる。同様の観点で0.5μm以上とすることがより好ましい。
【0037】
また、層Aの厚みを5.0μm以下とすることで、作業性を改善し、またロール状に巻いた際のブロッキングを防ぐことができるため、液体展開用シートとしての品位に優れたものとなる。同様の観点で3.0μm以下とするがより好ましい。
【0038】
本発明の層Aの組成に関し、原料の配合から把握できないときは、定性・定量分析方法として以下のLC/MS/MS(液体クロマトグラフィー質量分析法)を好ましく用いることができる。
【0039】
<分離・抽出>
層0.04gを25mLメスフラスコに秤量する。続いて、メスフラスコにHFIP(1,1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール)/クロロホルム(体積比1/1)を1mL加えて層を溶解させ、クロロホルムを2mL加えた後に、アセトニトリルを徐々に加えて、ポリエステル樹脂成分を不溶化させる。
【0040】
アセトニトリルを加え、25mLに定容後、調整した溶液をアセトニトリルで100倍希釈し、PTFEディスクフィルタ(0.45μm)で濾過して得られた濾液を測定溶液とする。
【0041】
<定性分析>
前記測定溶液をLC/MS/MSに供し、クロマトグラムから界面活性剤及び/または導電性樹脂由来のピークが検出されるリテンションタイム及びピーク面積を確認する。続いて、界面活性剤及び/または導電性樹脂由来のピークについて質量分析を行うことで定性分析する。界面活性剤についてはそれ由来の正イオン及び負イオンの式量を確認して定性する。
【0042】
<標準溶液調整及び検量線作成>
定性済みの界面活性剤及び/または導電性樹脂の標品0.01gを10mLメスフラスコに秤量後、メタノールで溶解して10mLに定容することで標準溶液とする。標準溶液を分取し、メタノールでそれぞれ希釈することで計4種類の任意の濃度の標準溶液を得、LC/MS/MSに供することで、各濃度に対するクロマトグラムのピーク面積を確認する。溶液濃度とピーク面積の関係について直線近似することで検量線を得る。
【0043】
<定量分析>
定性分析で確認したクロマトグラムから界面活性剤及び/または導電性樹脂由来のピークが検出されるピーク面積を検量線の式に代入し、層に含まれる界面活性剤の濃度を算出することで、界面活性剤及び/または導電性樹脂の含有量を得る。
【0044】
上記の分析は、LC20-A(LCシステム、株式会社島津製作所製)、API4000(MSシステム、株式会社AB SCIEX製)ODS-3(ジーエルサイエンス株式会社製、カラム、“Intersil”(登録商標))を用い、イオン化法APCI(大気圧化学イオン化法)、正イオン検出及び負イオン検出、測定モードSRM(Selected reAction monitoring)、カラム温度50℃、流量0.25mL/min、注入量1μLの条件にて実施することができる。
【0045】
(基材B)
本発明の液体展開用シートにおける基材Bは、寸法安定性や耐久性の観点からポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6-ナフタレート、ポリエチレンα,β-ビス(2-クロルフェノキシ)エタン4,4’-ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレートなどからなるフィルムが好ましい。これらは共重合体であってもよい。これらの中でも、液体展開用シートの加工性に優れる点から、ポリエチレンテレフタレートからなるフィルムが特に好ましく、同様の観点から二軸延伸ポリエチレンテレフタレートが最も好ましい。
【0046】
基材Bの厚みは寸法安定性や耐久性に優れる観点から10μm以上とすることが好ましい。同様の観点で、20μm以上とすることがより好ましく、30μm以上とすることがさらに好ましい。また、前記基材フィルムの厚みは検査シートとしての取り扱い性に優れる観点から500μm以下とすることが好ましい。同様の観点から300μm以下とすることがより好ましく、200μm以下とすることがさらに好ましい。
【0047】
上記の観点から基材Bの厚みは、10μm以上500μm以下とすることが好ましく、20μm以上300μm以下とすることがより好ましく、30μm以上200μm以下とすることがより好ましい。
【0048】
(層C)
従来の液体展開用シートについては、ロール状にしたときに層Aと層Dとが接触することから層Dのシリコーン樹脂が層Aに転写し、検査速度が遅くなるという課題があった。これに対して本発明の液体展開用シートは、基材Bと層Dとの間に有機ケイ素化合物を主成分とする層Cを有することで、基材Bと層Dとの密着性を向上させることにより、層Dのシリコーン樹脂が層Aに転写するのを防ぎ、液体展開シートとして用いた場合に検査速度に優れたものとなる。層Cにおける有機ケイ素化合物を主成分とすることとは、層Cを100質量%としたときに、有機ケイ素化合物を80質量%以上含むことをいう。
【0049】
本発明の液体展開用シートが層Cを有することでシリコーン樹脂の転写を防ぐことができるメカニズムとして、発明者らは次のように考えている。先ず従来の液体展開用シートのロールにおいては、巻締まりに見られるようなシートの寸法変化が生じると、層A/基材Bと層Dとの間に寸法変化の差が生じ、ロールにおいて接する層Dと層Aとの間に擦れが生じてシリコーン樹脂の転写が進むと考えられる。これに対して本発明の液体展開用シートは、層Cを介して基材Bと層Dとの密着性が向上し、寸法変化が生じても層A/基材B/層C/層Dが一体として寸法変化するため、ロールにおいて接する層Dと層Aとの間における擦れも抑えられ、そのためシリコーン樹脂の転写も抑えられると考えられる。
【0050】
有機ケイ素化合物としては、基材Bと層Dとの密着性を向上させ、D層のシリコーン樹脂を層Aに転写させることを防ぎ、液体展開用シートとして用いた場合に検査速度と品位を向上させる観点から、γ-メタクリロキシ基含有オルガノアルコキシシラン、エポキシ基含有オルガノアルコキシシラン、ビニル基含有オルガノアルコキシシラン、およびビニル基含有アセトキシシランからなる群より選ばれる1種以上を硬化させたものを含むものが好ましい。
【0051】
本発明における層Cにおいて、出力200W条件下で波長分散型蛍光X線分析装置を用いて測定されるケイ素元素のピーク検出量ISi(cps)が5000以上20000以下であり、かつ層CをJISK7250-1:2006のA法に準拠し、温度850℃で焼却した後の灰分が、焼却前の層Cを100質量%としたとき、0.01質量%以上1.0質量%以下とすることが好ましい。本態様とすることにより基材Bと層Dとの密着性を向上させることにより、層Dのシリコーン樹脂が層Aに転写するのを防ぎ、液体展開シートとして用いた場合に検査速度に優れたものとなる。本態様とするための達成手段としては例えば、基材Bと層Dとの間に有機ケイ素化合物を主成分とする層Cを有するようすることを好ましく挙げることができる。なお、ケイ素元素のピーク検出量ISi(cps)、灰分の測定方法の詳細は実施例に記載の通りである。また、上記同様の観点からISi(cps)が8000以上15000以下がより好ましい。
【0052】
さらに架橋反応による硬化より基材Bと層Dとの密着性を向上させる観点から、アルミニウムキレートを有するものを含むことが好ましい。アルミニウムキレートの含有量としては、層C100.0質量%中、3.0質量%以上20.0質量%以下含有することが好ましく、5.0質量%以上20.0質量%以下含有することがより好ましい。
【0053】
本発明における層Cにおいて出力200W条件下で波長分散型蛍光X線分析装置を用いて測定されるアルミニウム元素のピーク検出量(cps)をIAlとしたとき、IAl/ISiが0.05以上0.5以下とすることが好ましい。本態様とすることで、層Cをより強固に硬化することができ、基材Bと層Dとの密着性を向上させることができる。本態様の達成手段としては、例えば層Cがアルミニウムキレートを有するものを含むようすることを好ましく挙げることができる。なお、上記同様の観点からより好ましくはIAl/ISiが0.08以上0.2以下である。
【0054】
層Cの厚みを0.01μm以上とすることで、層Cの機能を安定させ、層Dのシリコーン樹脂を層Aに転写させることを防ぎ、液体展開用シートとして用いた場合に検査速度と品位に優れるものとなる。同様の観点から、0.02μm以上とすることがより好ましく、0.04μm以上とすることがさらに好ましい。また、層Cの厚みを0.5μm以下とすることで、層Cの凝集破壊を防止させ、基材Bと層Dとの密着性が向上し、液体展開用シートとして用いた場合に検査速度と品位に優れるものとなる。同様の観点で0.2μm以下とすることがより好ましく、0.1μm以下とすることがさらに好ましい。
【0055】
上記の観点から層Cの厚みは、0.01μm以上0.5μm以下が好ましく、0.02μm以上0.2μm以下がより好ましく、0.04μm以上0.1μm以下がさらに好ましい。
【0056】
(層D)
本発明の液体展開用シートにおける層Dは、シリコーン樹脂を主成分とすることが好ましい。シリコーン樹脂を主成分とすることで、層A側に液体を滴下させた際、液体が層Aの中を広がっていくが、液体展開用シートの表面を伝って層D側まで液体が広がることを抑制し、液体展開用シートとして用いた場合に検査精度に優れたものとなる。層Dにおけるシリコーン樹脂を主成分とすることとは、層D中のシリコーン樹脂の含有量が80質量%以上含むことをいう。
【0057】
シリコーン樹脂としては、層Dの撥水性能が向上し、液体展開シートとしての液体の濡れ性を制御し、液体展開用シートとして用いた場合に検査精度に優れる観点から付加反応型シリコーン樹脂、縮重合反応型シリコーン樹脂、紫外線硬化型シリコーン樹脂、電子線硬化型シリコーン樹脂、及び無溶剤型シリコーン樹脂からなる群から選ばれるものが好ましい。同様の観点から付加反応型シリコーン樹脂とすることがより好ましく、末端ビニル基を含有するポリジメチルシロキサンとハイドロジェンシロキサンとの付加重合型シリコーン樹脂とすることがさらに好ましい。このような形態をとることで、層Dの表面自由エネルギーを30mN/m以下とすることができる。
【0058】
層Dの厚みを0.02μm以上とすることで、良好な撥水性能が得られるとともに厚みのバラツキも抑制できるため、液体展開用シートとして用いた場合に検査精度と品位に優れるものとなる。同様の観点から0.05μm以上とすることがより好ましい。また、撥水層の厚みを0.5μm以下とすることで、乾燥性能を維持しシリコーン樹脂の移行も抑えることができるため、液体展開用シートとして用いた場合に検査精度に優れるものとなる。同様の観点から0.3μm以下とすることがより好ましい。
【0059】
上記の観点から層Dの厚みは、0.02μm以上0.5μm以下とすることが好ましく、0.05μm以上0.3μm以下がより好ましい。
【0060】
(液体展開用シート)
本発明の液体展開用シートは、層A、基材B、層C、層Dをこの順に有することで、液体展開用シートとして用いた場合に検査精度、検査速度、品位、及び耐久性に優れるため、例えば、血液や尿等の生体試料や食品工業における原料や製品、果汁等の試料中に含まれる特定成分の検査・定量する液体展開用シートとして、好適に用いることができる。
【0061】
本発明の液体展開用シートは、ロール状に巻き取られ、温度25℃、相対湿度50%の雰囲気下で1000時間静置したのち、層Aの表面における、波長分散蛍光X線分析で測定されるケイ素元素のピーク強度が100cps以下であることが好ましい。ケイ素元素のピーク強度が100cps以下、より好ましくは90cps以下であることは、層Dのシリコーン樹脂が層Aに転写するのが抑えられ、層Dの撥水性と層Aの親水性の双方が維持されていることを意味し、液体展開用シートとして用いた場合に検査速度に優れたものとなる。
【0062】
かかるケイ素元素のピーク強度は、液体展開用シートにおいて基材Bと層Dとの間に層Cを設けることで抑えることができる。
【0063】
本発明の液体展開用シートを製造する方法について、例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明はこれにより製造されるものにのみ限定されるものではない。
【0064】
層Aを得るための層A用塗布組成物を得るにあたって、各成分を混合分散する方法については特に制限はなく、マグネチックスターラー、ホモディスパー、超音波照射、振動分散、及び手動による混合分散などの公知の混合分散方法を用いることができる。
【0065】
また、塗布組成物は、基材Bに対する塗工性を向上させる観点から有機溶媒を含むことが好ましい。
【0066】
有機溶媒としては例えば、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、酢酸エチル、メタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0067】
層Cを得るための、有機ケイ素化合物を主成分とする層C用塗布組成物や、層Dを得るための、シリコーン樹脂を主成分とする層D用塗布組成物も、同様の方法で得ることができる。
【0068】
層A、層C、及び層Dを基材Bに積層する方法としては例えば、コンマコート法、アプリケーター法、ディップコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、リバースコート法、キスコート法、グラビアコート法やダイコート法(米国特許第2681294号参照)などが好ましく、加工性の観点から、ワイヤーバーコート法、リバースコート法、及びグラビアコート法が更に好ましい。
【0069】
尚、層Cを基材Bに積層する方法としては、γ-メタクリロキシ基含有オルガノアルコキシシラン、エポキシ基含有オルガノアルコキシシラン、ビニル基含有オルガノアルコキシシラン、およびビニル基含有アセトキシシランからなる群より選ばれる1種以上を硬化させる工程を有することが好ましい、上記工程に際して、アルミニウムキレートも併用することが好ましい。
【実施例0070】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにのみ限定されるものではない。
【0071】
[測定および評価方法]
(1)層A表面におけるケイ素元素のピーク強度
ロール状に巻き取った液体展開用シートを25℃50%RH雰囲気下で1000時間静置したのち、フィルムロールをフィルム全長の10%、50%、90%の3箇所で50mm×50mmの正方形状に切り出してサンプルとした。波長分散型蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、製品名「Mini-Z」、出力200W)を用いて、得られたサンプルの層A表面におけるケイ素元素のピーク強度を測定し、3箇所の平均値を算出した。
【0072】
(2)層Cにおけるケイ素元素のピーク検出量 ISi
ロール状に巻き取った液体展開用シート無作為に抽出した3箇所で100mm×100mmの正方形状に切り出し、得られたサンプルの層Cにおけるケイ素元素のピーク検出量(cps)ISiとして測定し、3箇所の平均値を算出した。
【0073】
(3)層Cにおけるアルミニウム元素のピーク検出量/ケイ素元素のピーク検出量 IAl/ISi
ロール状に巻き取った液体展開用シート無作為に抽出した3箇所で100mm×100mmの正方形状に切り出し、ミクロトーム(ライカバイオシステムズ株式会社製MULTICUT R)を用いて層Dを切削して試験片とし、波長分散型蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、製品名「Mini-Z」、出力200W)を用いて、得られたサンプルの層Cにおけるケイ素元素のピーク検出量(cps)ISi及びアルミニウム元素のピーク検出量(cps)をIAlとして測定し、3箇所の平均値を用いてIAl/ISiを算出した。
【0074】
(4)層Cの灰分
ロール状に巻き取った液体展開用シート無作為に抽出した3箇所で100mm×100mmの正方形状に切り出し、層Cを削り出し、これを集めて試験サンプルとし、JISK7250-1:2006に準拠し、温度850℃で焼却して灰分を測定し、3箇所の平均値を算出し層Cの灰分とした。
【0075】
(5)表面抵抗値
ロール状に巻き取った液体展開用シートをロール表層の3箇所で100mm×100mmの正方形状に切り出して試験片とし、試験片の層A表面の表面抵抗値を抵抗率計(日東精工アナリテック株式会社製、ハイレスターUX MCP-HT800)を用いて測定し、3箇所の平均値を算出した。
【0076】
(6)液体展開性
ロール状に巻き取った液体展開用シートをフィルム全長の10%、50%、90%の3箇所100mm×100mmの正方形状に切り出して測定用サンプルとし、ブドウ糖注射液(大塚製薬社製「大塚糖液50%」)5μlを測定用サンプルの層A表面に滴下し、滴下30秒後のブドウ糖注射液の拡がりを測定した。拡がりは液の直径を測定し、液が楕円状の場合は短径を直径とみなした。3箇所の平均値を算出し、ブドウ糖注射液の拡がりが5mm以上であるときを合格とした。但し、拡がりが5mm以上であっても層Aの裏面側にブドウ糖注射液が流れる場合は、Nとし不合格とした。
【0077】
(7)層Aの表面自由エネルギー
ロール状に巻き取った液体展開用シートをロールの表層の3箇所で100mm×100mmの正方形状に切り出して、室温23℃、相対湿度65%の条件下で24時間調湿し、測定用サンプルとした。測定用サンプルの層Aについて、水、エチレングリコ-ル、及びヨウ化メチレンの3種類の測定液について、接触角計(協和界面科学株式会社製DMs-401)を用いて静的接触角を求めた。続いて、J.Panzer :J.Colloid Interface Sci.,44,142 (1973).に記載の、各液体の表面自由エネルギーの分散項、極性項、水素結合項を、北崎寧昭、畑 敏雄:日本接着協会紙,8,(3) 131(1972).に記載の「畑、北崎の拡張ホークスの式」に導入し、表面自由エネルギー解析アドインソフトウェア(協和界面科学株式会社製FAMAS)連立方程式を解くことにより撥水層の表面自由エネルギーを算出し、3箇所の平均値を算出した。そして以下の基準で評価してC以上を合格とした。
A:80mN/m超過
B:75mN/m以上80mN/m以下
C:70mN/m以上75mN/m以下
D:70mN/m未満。
【0078】
(8)層Dの表面自由エネルギー
ロール状に巻き取った液体展開用シートを無作為に抽出した3箇所で100mm×100mmの正方形状に切り出して、室温23℃、相対湿度65%の条件下で24時間調湿し、測定用サンプルとした。測定用サンプルの層Dについて、水、エチレングリコ-ル、及びヨウ化メチレンの3種類の測定液について、接触角計(協和界面科学株式会社製DMs-401)を用いて静的接触角を求めた。続いて、J.Panzer :J.Colloid Interface Sci.,44,142 (1973).に記載の、各液体の表面自由エネルギーの分散項、極性項、水素結合項を、北崎寧昭、畑 敏雄:日本接着協会紙,8,(3) 131(1972).に記載の「畑、北崎の拡張ホークスの式」に導入し、表面自由エネルギー解析アドインソフトウェア(協和界面科学株式会社製FAMAS)連立方程式を解くことにより撥水層の表面自由エネルギーを算出し、3箇所の平均値を算出した。そして以下の基準で評価してB以上を合格とした。
A:20mN/m未満
B:20mN/m以上30mN/m以下
C:30mN/m超過。
【0079】
(9)層Aと基材Bとの密着性
ロール状に巻き取った液体展開用シートを無作為に抽出した3箇所で100mm×100mmの正方形状に切り出して、層Aと基材Bとの密着性をクロスカットガイドCCJ-1(コーテックス株式会社製)を用いて、JIS K5600-5-6(1999)に基づき、層Aと基材Bとの密着性を以下の基準で評価し、C以上を合格とした。
A:分類0
B:分類1
C:分類2
D:分類3、分類4、分類5
(10)層Aの塗工性
層C及び層D積層フィルムの層Dと反対側の面に、上記層A用塗布組成物をグラビアコート法で塗工した際の塗工性を以下の基準で評価し、C以上を合格とした。
A:層Aの塗布抜け及びハジキなし。
B:長径1mm以上のハジキが層A塗布面の20%未満発生する。
C:長径1mm以上のハジキが層A塗布面の20%以上50%未満発生する。
D:長径1mm以上のハジキが層A塗布面の50%以上発生する。
【0080】
[材料]
(ポリエステル樹脂)
熱硬化性飽和ポリエステル樹脂(高松油脂株式会社製“ペスレジン”(登録商標)S140)
(界面活性剤A)
アセチレングリコール類のエチレンオキサイド付加物界面活性剤(日信化学工業株式会社製“オルフィン”(登録商標)E1004)
(界面活性剤B)
アルキルトリメチルアンモニウム塩界面活性剤(東邦化学工業株式会社製“カチナール”(登録商標)LTC-35A)
(導電性樹脂A)
第4級アンモニウム塩重合物(東邦化学工業株式会社製“アンステックス”(登録商標)C-200X)
(導電性樹脂B)
アルキルアミンオキサイド(ライオン株式会社“カデナックス”(登録商標)DM10D-W)
(有機ケイ素化合物A)
エポキシ基含有オルガノアルコキシシラン(ダウ・東レ株式会社製“DOWSIL”(登録商標)BY24-846B)
(有機ケイ素化合物B)
γ-メタクリロキシ基含有オルガノアルコキシシラン(ダウ・東レ株式会社製“DOWSIL”(登録商標)OFS-6030)
(アルミニウムキレート化合物)
ダウ・東レ株式会社製“DOWSIL”(登録商標)BY24-846E
(シリコーン樹脂)
付加反応型シリコーン樹脂(ダウ・東レ株式会社製“DOWSIL”(登録商標)LTC750A)
(白金触媒)
ダウ・東レ株式会社製“DOWSIL”(登録商標)SRX212Catalyst。
【0081】
[実施例1]
(基材B)
厚み50μmのポリエステルフィルム(東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)S10)を、基材Bとして用いた。
【0082】
(層C用塗布組成物)
表1に示す組成の材料をメチルエチルケトンに溶解して、ホモディスパー(プライミクス株式会社製)を用いて原料を混合分散し、固形分濃度1.0質量%の層C用塗布組成物とした。
【0083】
(層C積層フィルム)
上記基材Bの一方の面に、上記層C用塗布組成物をグラビアコート法で塗工し、120℃で乾燥後、厚み0.05μmの層Cを有する層C積層フィルムを得て、これをロール状に巻き取った。
【0084】
(層D用塗布組成物)
表1に示す組成の材料をメチルエチルケトンに溶解して、ホモディスパー(プライミクス株式会社製)を用いて原料を混合分散し、固形分濃度3.0質量%の層D用塗布組成物とした。
【0085】
(層D積層フィルム)
上記層C積層フィルムの層Cの表面に、上記層D用塗布組成物をグラビアコート法で塗工し、120℃で乾燥後、厚み0.05μmの層Dを有する層D積層フィルムを得て、これをロール状に巻き取った。
【0086】
(層A塗布組成物)
表1に示す組成の材料をメチルエチルケトンに溶解して、ホモディスパー(プライミクス株式会社製)を用いて原料を混合分散し、固形分濃度10.0質量%の層A用塗布組成物とした。
【0087】
(液体展開用シート)
上記層D積層フィルムの層Dと反対側の面に、上記層A用塗布組成物をグラビアコート法で塗工し、120℃で乾燥後、厚み1.5μmの層Aを有する液体展開用シートを得て、これをロール状に巻き取った。
【0088】
[実施例2~9、比較例1~4]
各層の、溶媒を除く組成を表1に記載のとおりとし、比較例3においては層Cの形成を省略し、比較例4においては層Dの形成を省略した以外は実施例1と同様にして、液体展開用シートを製造した。評価結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
【符号の説明】
【0090】
1:層A
2:基材B
3:層C
4:層D
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の液体展開用シートは、液体、例えば、血液や尿等の生体液成分を検査・定量する際に好ましく用いられ、生体液展開用シートとして好適に用いることができる。
図1