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特開2023-120208補体成分C5または血清アルブミンと結合するポリペプチドおよびその融合タンパク質
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120208
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】補体成分C5または血清アルブミンと結合するポリペプチドおよびその融合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230822BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230822BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20230822BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230822BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230822BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230822BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230822BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230822BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230822BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230822BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20230822BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20230822BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230822BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 15/06 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230822BHJP
   A61K 38/47 20060101ALI20230822BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K16/46 ZNA
C07K16/18
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K47/64
A61K47/65
A61K47/68
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61P9/10
A61P11/06
A61P13/12
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P13/02
A61P27/02
A61P25/02
A61P3/00
A61P7/02
A61P7/04
A61P21/04
A61P9/14
A61P15/06
A61P17/04
A61P25/00
A61K38/47
A61K39/395 N
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023085796
(22)【出願日】2023-05-24
(62)【分割の表示】P 2020500686の分割
【原出願日】2018-07-11
(31)【優先権主張番号】62/531,215
(32)【優先日】2017-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】503102674
【氏名又は名称】アレクシオン ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パッファー,ブリジット
(72)【発明者】
【氏名】チャンドラー,ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】ジェラ,ニミッシュ
(72)【発明者】
【氏名】シェリダン,ダグラス エル.
(72)【発明者】
【氏名】ジンダル,シドハース
(72)【発明者】
【氏名】タンブリーニ,ポール ピー.
(57)【要約】      (修正有)
【課題】補体成分C5または血清アルブミンに特異的に結合する改変ポリペプチドを提供する。
【解決手段】ヒト補体成分C5に特異的に結合する改変ポリペプチドと、ヒト血清アルブミンに特異的に結合する改変ポリペプチドとを含む融合タンパク質であって、ヒト補体成分C5に特異的に結合する前記改変ポリペプチドが、ヒト血清アルブミンに特異的に結合する前記ポリペプチドに、直接またはペプチドリンカーを介して融合されている、融合タンパク質を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト補体成分C5に特異的に結合する改変ポリペプチドと、ヒト血清アルブミンに特異的に結合する改変ポリペプチドとを含む融合タンパク質であって、
ヒト補体成分C5に特異的に結合する前記改変ポリペプチドが、ヒト血清アルブミンに特異的に結合する前記ポリペプチドに、直接またはペプチドリンカーを介して融合されている、融合タンパク質。
【請求項2】
ヒト血清アルブミンに特異的に結合する前記ポリペプチドのC末端残基は、ヒト補体成分C5に特異的に結合する前記ポリペプチドのN末端残基に直接またはリンカーを介して融合される、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
ヒト補体成分C5に特異的に結合する前記ポリペプチドのC末端残基は、ヒト血清アルブミンに特異的に結合する前記ポリペプチドのN末端残基に、直接またはリンカーを介して融合される、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
ヒト補体成分C5に特異的に結合する前記ポリペプチドは、配列番号1~12およびそれらのフラグメントからなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、ヒト血清アルブミンに特異的に結合する前記ポリペプチドは、配列番号22~34およびそれらのフラグメントからなる群から選択されるアミノ酸を含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
ヒト補体成分C5に特異的に結合する前記ポリペプチドは配列番号11のアミノ酸配列を含み、ヒト血清アルブミンに特異的に結合する前記ポリペプチドは配列番号26のアミノ酸配列を有する、請求項4に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
配列番号102または103のアミノ酸配列を有するペプチドリンカーをさらに含む、請求項5に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
前記ペプチドリンカーは、配列番号102のアミノ酸配列を有する、請求項6に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
配列番号96~101からなる群から選択される配列と少なくとも95%同一の配列を有する、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
配列番号96~101からなる群から選択される配列からなる、請求項8に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
配列番号96のポリペプチド配列からなる、請求項9に記載の融合タンパク質。
【請求項11】
ヒト補体成分C5に特異的に結合する前記ポリペプチドは、3つの相補性決定領域CDR1、CDR2およびCDR3を含み、CDR1は配列番号13~17のアミノ酸配列のうちのいずれか1つを含み、CDR2は配列番号18または19のアミノ酸配列を含み、CDR3は配列番号20または21のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項12】
ヒト血清アルブミンに特異的に結合する前記ポリペプチドは、3つの相補性決定領域CDR1、CDR2およびCDR3を含み、CDR1は配列番号35~43のアミノ酸配列のうちのいずれか1つを含み、CDR2は配列番号44~51のアミノ酸配列のうちのいずれか1つを含み、CDR3は配列番号52~63のアミノ酸配列のうちのいずれか1つを含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項13】
ヒト補体成分C5またはアルブミンに結合する前記ポリペプチドのうちの一方または両方は、pH依存的な形で結合する、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項14】
治療有効量の、請求項1~13のいずれか1項に記載の融合タンパク質と、薬学的に許容される担体と、を含む医薬組成物。
【請求項15】
ヒアルロニダーゼをさらに含む、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
請求項1~13のいずれか1項に記載の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する核酸分子。
【請求項17】
請求項16に記載の前記核酸分子を含む、発現ベクター。
【請求項18】
請求項16に記載の前記核酸分子を含む、単離された宿主細胞。
【請求項19】
請求項17に記載の前記発現ベクターを含む、単離された宿主細胞。
【請求項20】
哺乳動物細胞または酵母細胞である、請求項19に記載の単離された宿主細胞。
【請求項21】
配列番号1~12からなる群から選択される配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する、ヒト補体成分C5に結合する改変ポリペプチド。
【請求項22】
配列番号1~12およびそれらのフラグメントからなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項21に記載の改変ポリペプチド。
【請求項23】
配列番号22~34のアミノ酸配列のうちのいずれか1つと少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する、ヒト血清アルブミンに特異的に結合する改変ポリペプチド。
【請求項24】
前記改変ポリペプチドは、配列番号22~34およびそれらのフラグメントからなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項23に記載の改変ポリペプチド。
【請求項25】
前記ポリペプチドは、3つの相補性決定領域CDR1、CDR2およびCDR3を含み、CDR1は配列番号35~43からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CDR2は配列番号44~51からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CDR3は配列番号52~63からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項24に記載の改変ポリペプチド
【請求項26】
前記ポリペプチドは、ヒト血清アルブミン上のAlb1と同じエピトープに特異的に結合する、請求項22に記載の改変ポリペプチド
【請求項27】
請求項1~13のいずれか1項に記載の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する少なくとも1つの核酸分子を宿主細胞で発現させることを含む、前記融合タンパク質を作製するための方法。
【請求項28】
(a)ラベルを含む容器と、
(b)請求項1~13のいずれか1項に記載の前記融合タンパク質を含む組成物と、を含み、
前記ラベルは、前記組成物が補体による障害のある患者またはそのような障害が疑われる患者に投与される組成物であることを示す、治療用キット。
【請求項29】
ヒアルロニダーゼをさらに含む、請求項28に記載のキット。
【請求項30】
補体による障害を有する患者を治療するための方法であって、請求項1~13のいずれか1項に記載の融合タンパク質を治療有効量で前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項31】
前記補体による障害は、関節リウマチ、ループス腎炎、喘息、虚血再灌流障害、非定型溶血性尿毒症症候群、膜性増殖性糸球体腎炎II型、発作性夜間血色素尿症、黄斑変性、HELLP症候群、ギランバレー症候群、CHAPLE症候群、重症筋無力症、視神経脊髄炎、造血幹細胞移植後の血栓性微小血管障害症(HSCT後TMA)、骨髄移植後TMA(BMT後TMA)、デゴス病、ゴーシェ病、糸球体腎炎、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、自然流産、寡免疫性の血管炎、表皮水疱症、習慣性流産、多発性硬化症(MS)、外傷性脳損傷および心筋梗塞、心肺バイパス、血液透析に起因する損傷からなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2017年7月11日に出願された米国仮出願第62/531,215号の優先日の利益を主張するものであり、その内容全体を本明細書に援用する。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、その全体を本明細書に援用する。前述のASCIIコピーは2018年7月24日に作成され、ファイル名がAXJ-251PC_SL.txtであり、大きさは376,575バイトである。
【背景技術】
【0003】
補体成分5(C5)は補体の5番目の成分であり、炎症および細胞殺傷過程で重要な役割を果たす。活性化ペプチドC5aは、強力な痙攣誘発性活性および走化性活性を有するアナフィラトキシンであり、C5転換酵素での切断によってαポリペプチドから形成される。C5b高分子切断産物は、C6補体成分との間で複合体を形成することができ、この複合体は、別の補体成分を含む膜侵襲複合体(MAC)の形成の基礎となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
C5の調節が不適切であると、過剰な細胞分解を特徴とする、免疫が低下した患者または障害(例えば、C5による溶血が原因の溶血性障害など)につながる可能性がある。
【0005】
C5の誤調節は重度で破壊的な表現型につながる可能性があるため、好ましい医薬特性(例えば、半減期など)を持つC5活性のモジュレーターが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、sdAbまたはIg可変ドメインであってもよい、補体成分C5または血清アルブミンに特異的に結合する改変ポリペプチドを提供する。いくつかの実施態様では、改変ポリペプチドは、FcRnへの血清アルブミンの結合を大幅に低減または阻害することがないか、血清アルブミンの半減期を大幅に低減することがない。また、本開示は、そのような改変ポリペプチドを含む、多価の多重特異性融合タンパク質であってもよい融合タンパク質を提供する。さらに、本開示は、そのような改変ポリペプチドまたは融合タンパク質をコードする核酸分子およびそのような改変ポリペプチドまたは融合タンパク質を作製する方法を提供する。さらに、本開示は、そのような改変ポリペプチドまたは融合タンパク質を含む医薬組成物およびそのような改変ポリペプチドまたは融合タンパク質を使用する治療方法を提供する。
【0007】
一実施態様では、本開示は、ヒト補体成分C5に特異的に結合する改変ポリペプチドと、ヒト血清アルブミンに特異的に結合する改変ポリペプチドとを含む融合タンパク質であって、ヒト補体成分C5に特異的に結合する改変ポリペプチドが、ヒト血清アルブミンに特異的に結合するポリペプチドに、直接またはペプチドリンカーを介して融合されている、融合タンパク質に関する。特定の実施態様では、ヒト血清アルブミンに特異的に結合するポリペプチドのC末端残基は、ヒト補体成分C5に特異的に結合するポリペプチドのN末端残基に直接またはリンカーを介して融合される。特定の実施態様では、ヒト補体成分C5に特異的に結合するポリペプチドのC末端残基は、ヒト血清アルブミンに特異的に結合するポリペプチドのN末端残基に、直接またはリンカーを介して融合される。特定の実施態様では、ヒト補体成分C5に特異的に結合するポリペプチドは、配列番号1~12およびそれらのフラグメントからなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、ヒト血清アルブミンに特異的に結合するポリペプチドは、配列番号22~34およびそれらのフラグメントからなる群から選択されるアミノ酸を含む。特定の実施態様では、ヒト補体成分C5に特異的に結合するポリペプチドは配列番号11のアミノ酸配列を含み、ヒト血清アルブミンに特異的に結合するポリペプチドは配列番号26のアミノ酸配列を有する。特定の実施態様では、本明細書に記載の融合タンパク質は、配列番号102または103のアミノ酸配列を有するペプチドリンカーをさらに含む。特定の実施態様では、融合タンパク質は、配列番号96~101からなる群から選択される配列と少なくとも95%同一の配列を有する。特定の実施態様では、融合タンパク質は、配列番号96~101からなる群から選択される配列からなる。特定の実施態様では、融合タンパク質は、配列番号96のポリペプチド配列からなる。特定の実施態様では、ヒト補体成分C5に特異的に結合するポリペプチドは、3つの相補性決定領域CDR1、CDR2およびCDR3を含み、CDR1は配列番号13~17のアミノ酸配列のうちのいずれか1つを含み、CDR2は配列番号18または19のアミノ酸配列を含み、CDR3は配列番号20または21のアミノ酸配列を有する。特定の実施態様では、ヒト血清アルブミンに特異的に結合するポリペプチドは、3つの相補性決定領域CDR1、CDR2およびCDR3を含み、CDR1は配列番号35~43のアミノ酸配列のうちのいずれか1つを含み、CDR2は配列番号44~51のアミノ酸配列のうちのいずれか1つを含み、CDR3は配列番号52~63のアミノ酸配列のうちのいずれか1つを含む。いくつかの実施態様では、本明細書に記載の抗原結合ドメインは、例えば、高いpHでの、抗原に対する高い親和性、低めのpHでの抗原結合に対する低めの親和性、またはその逆など、pH依存的な形で抗原に結合するように改変またはさらに改変することができる。
【0008】
一実施態様では、本開示は、治療有効量の本明細書に記載の融合タンパク質と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物に関する。特定の実施態様では、医薬組成物は、ヒアルロナンを分解または不活性化する薬剤、例えばヒアルロニダーゼまたは組換えヒアルロニダーゼを含むことができる。
【0009】
一実施態様では、本開示は、本明細書に記載の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する単離された核酸分子に関する。核酸分子は、例えば、発現ベクターであってもよい。本開示は、宿主細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HEK293細胞、Pichia pastoris細胞、哺乳動物細胞、酵母細胞、植物細胞など)および本明細書に記載の融合タンパク質をコードする核酸を含むまたは利用する発現系に関する。
【0010】
一実施態様では、本開示は、配列番号1~12およびそれらのフラグメントからなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、ヒト補体成分C5に結合する改変ポリペプチドに関する。特定の実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号1~12からなる群から選択される配列と少なくとも90%同一の(例えば、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一の)アミノ酸配列を有する。例えば、一実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列または配列番号1に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号2に記載のアミノ酸配列または配列番号2に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号3に記載のアミノ酸配列または配列番号3に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号4に記載のアミノ酸配列または配列番号4に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号5に記載のアミノ酸配列または配列番号5に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号6に記載のアミノ酸配列または配列番号6に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号7に記載のアミノ酸配列または配列番号7に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号8に記載のアミノ酸配列または配列番号8に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号9に記載のアミノ酸配列または配列番号9に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号10に記載のアミノ酸配列または配列番号10に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号11に記載のアミノ酸配列または配列番号11に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号12に記載のアミノ酸配列または配列番号12に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。
【0011】
もうひとつの実施態様では、配列番号1~12およびそれらのフラグメントからなる群から選択されるアミノ酸配列からなる、ヒト補体成分C5に結合する改変ポリペプチドが提供される。例えば、一実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号5に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号6に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号7に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号9に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号11に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号12に記載のアミノ酸配列からなる。
【0012】
一実施態様では、本開示は、配列番号22~34およびそれらのフラグメントからなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、ヒト血清アルブミンに特異的に結合する改変ポリペプチドに関する。特定の実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号22~34のアミノ酸配列のうちのいずれか1つと少なくとも90%同一の(例えば、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一の)アミノ酸配列を有する。例えば、一実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号22に記載のアミノ酸配列または配列番号22に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号23に記載のアミノ酸配列または配列番号23に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号24に記載のアミノ酸配列または配列番号24に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号25に記載のアミノ酸配列または配列番号25に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号26に記載のアミノ酸配列または配列番号26に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号27に記載のアミノ酸配列または配列番号27に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号28に記載のアミノ酸配列または配列番号28に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号29に記載のアミノ酸配列または配列番号29に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号30に記載のアミノ酸配列または配列番号30に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号31に記載のアミノ酸配列または配列番号31に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号32に記載のアミノ酸配列または配列番号32に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号33に記載のアミノ酸配列または配列番号33に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号34に記載のアミノ酸配列または配列番号34に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。
【0013】
もうひとつの実施態様では、ヒト血清アルブミンに特異的に結合する改変ポリペプチドは、配列番号22~34およびそれらのフラグメントからなる群から選択されるアミノ酸配列からなる。例えば、一実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号22に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号23に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号24に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号25に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号26に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号27に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号28に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号29に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号30に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号31に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号32に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号33に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号34に記載のアミノ酸配列からなる。
【0014】
特定の実施態様では、ヒト血清アルブミンに特異的に結合するポリペプチドは、3つの相補性決定領域CDR1、CDR2およびCDR3を含み、CDR1は配列番号35~43からなる群から選択されるアミノ酸配列のうちのいずれか1つを含み、CDR2は配列番号44~51からなる群から選択されるアミノ酸配列のうちのいずれか1つを含み、CDR3は配列番号52~63からなる群から選択されるアミノ酸配列のうちのいずれか1つを含む。特定の実施態様では、ポリペプチドは、ヒト血清アルブミン上のAlb1と同じエピトープに特異的に結合する。
【0015】
一実施態様では、本開示は、本明細書に記載の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する少なくとも1つの核酸分子を宿主細胞で発現させることを含む、本明細書に記載の融合タンパク質を作製するための方法に関する。
【0016】
一実施態様では、本開示は、(a)ラベルを含む容器と、(b)本明細書に記載の融合タンパク質を含む組成物とを含み、ラベルは、組成物が補体が介在した障害のある患者またはそのような障害が疑われる患者に投与される組成物であることを示す、治療用キットに関する。このキットには、ヒアルロナンを分解または不活性化する薬剤、例えばヒアルロニダーゼまたは組換えヒアルロニダーゼを任意に含むことができる。
【0017】
一実施態様では、本開示は、補体による障害を有する患者を治療するための方法であって、本明細書に記載の融合タンパク質を治療有効量で患者に投与することを含む、方法に関する。特定の実施態様では、補体による障害は、関節リウマチ、ループス腎炎、喘息、虚血再灌流障害、非定型溶血性尿毒症症候群、膜性増殖性糸球体腎炎II型、発作性夜間血色素尿症、黄斑変性、HELLP症候群、ギランバレー症候群、CHAPLE症候群、重症筋無力症、視神経脊髄炎、造血幹細胞移植後の血栓性微小血管障害症(HSCT後TMA)、骨髄移植後TMA(BMT後TMA)、デゴス病、ゴーシェ病、糸球体腎炎、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、自然流産、寡免疫性の血管炎、表皮水疱症、習慣性流産、多発性硬化症(MS)、外傷性脳損傷および心筋梗塞、心肺バイパス、血液透析に起因する損傷からなる群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A図1Aは、抗C5VHHドメインの補体古典経路(CCP)溶血アッセイの結果を示す。
図1B図1Bは、抗C5VHHドメインの補体古典経路(CCP)溶血アッセイの結果を示す。
図2図2は、抗C5VHHドメインのC5a遊離アッセイの結果を示す。
図3A図3Aは、二重特異性融合タンパク質のCCP溶血アッセイの結果を示す。
図3B図3Bは、二重特異性融合タンパク質のCCP溶血アッセイの結果を示す。
図3C図3Cは、二重特異性融合タンパク質のCCP溶血アッセイの結果を示す。
図3D図3Dは、二重特異性融合タンパク質のCCP溶血アッセイの結果を示す。
図4図4は、二重特異性融合タンパク質のWieslab CCPアッセイの結果を示す。
図5図5は、二重特異性融合タンパク質のC5a遊離アッセイの結果を示す。
図6A図6Aは、二重特異性融合タンパク質の薬物動態を示す、LC-MSに基づく定量アッセイの結果を示す。
図6B図6Bは、二重特異性融合タンパク質の薬物動態を示す、LC-MSに基づく定量アッセイの結果を示す。
図7図7Aは、VHHドメインをもたないHSA(対照)に対するHBS-EP緩衝液中におけるpH6.0でのFcRnの結合を示す、Biacoreのセンサーグラムを示す。図7Bは、MSA21に対するHBS-EP緩衝液中におけるpH6.0でのFcRnの結合を示す、Biacoreのセンサーグラムを示す。図7Cは、HAS040に対するHBS-EP緩衝液中におけるpH6.0でのFcRnの結合を示す、Biacoreのセンサーグラムを示す。図7Dは、HAS041に対するHBS-EP緩衝液中におけるpH6.0でのFcRnの結合を示す、Biacoreのセンサーグラムを示す。
図8図8Aは、Alb1 VHHと競合するVHHドメインHAS040によるアルブミンの結合を示す、Biacoreのセンサーグラムを示す。図8Bは、Alb1 VHHと競合するVHHドメインHAS041によるアルブミンの結合を示す、Biacoreのセンサーグラムを示す。図8Cは、Alb1 VHHと競合するVHHドメインHAS020によるアルブミンの結合を示す、Biacoreのセンサーグラムを示す。図8Dは、Alb1 VHHと競合するVHHドメインHAS044によるアルブミンの結合を示す、Biacoreのセンサーグラムを示す。
図9A図9Aは、様々な二重特異性融合タンパク質の溶血を阻害する能力を示す。
図9B図9Bは、様々な二重特異性融合タンパク質の溶血を阻害する能力を示す。
図10図10は、CRL0952(配列番号96)が溶血防止においてCRL0500と機能的に極めて類似していることを示す。CRL0500は、(GS)(配列番号106)リンカーで結合した二重特異性C5・アルブミン結合性融合タンパク質である。
図11A図11Aは、ヒスチジン置換融合タンパク質のpH依存性結合を示す。
図11B図11Bは、ヒスチジン置換融合タンパク質のpH依存性結合を示す。
図11C図11Cは、ヒスチジン置換融合タンパク質のpH依存性結合を示す。
図11D図11Dは、ヒスチジン置換融合タンパク質のpH依存性結合を示す。
図12A図12Aは、ヒスチジン置換融合タンパク質のpH依存性結合を示す。
図12B図12Bは、ヒスチジン置換融合タンパク質のpH依存性結合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示は、血清アルブミンまたは補体成分C5に特異的に結合する改変ポリペプチドであって、例えば、単一ドメイン抗体(sdAb)または免疫グロブリン(IgG)可変ドメインであってもよい改変ポリペプチドを提供する。いくつかの実施形態では、改変ポリペプチドは、FcRnへの血清アルブミンの結合を大幅に低減または阻害することがないか、血清アルブミンの半減期を大幅に短縮することがない。また、本開示は、改変ポリペプチドを含む融合タンパク質であって、例えば、多価の多重特異性融合タンパク質であってもよい融合タンパク質を提供する。さらに、本開示は、改変ポリペプチドまたは融合タンパク質をコードする核酸分子およびそのような改変ポリペプチドまたは融合タンパク質を作製する方法を提供する。さらに、本開示は、改変ポリペプチドまたは融合タンパク質を含む医薬組成物およびそのような改変ポリペプチドまたは融合タンパク質を使用する治療方法も提供する。
【0020】
標準的な組換えDNA方法論を使用して、本開示の改変ポリペプチドまたは融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを構築し、そのようなポリヌクレオチドを組換え発現ベクターに組み込み、そのようなベクターを宿主細胞に導入して本開示の改変ポリペプチドまたは融合タンパク質を生成する。例えば、Sambrook et al., 2001, MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 3rd ed.)を参照のこと。具体的な定義がなされない限り、本明細書に記載の分析化学、合成有機化学、医薬化学に関連して用いられる命名法、実験室手順、技術は、従来技術において知られており、一般的に使用されるものである。同様に、化学合成、化学分析、医薬品の調製、製剤化、デリバリー、患者の治療に、従来の技術を用いることが可能である。
【0021】
定義
本開示に従って用いる場合、以下の用語は、特に明記しない限り以下の意味を有すると理解されるものとする。文脈で特に必要とされない限り、単数形の用語には複数形が含まれ、複数形の用語には単数形が含まれる。
【0022】
本明細書で使用する場合、「結合ドメイン」という用語は、抗原と相互作用するアミノ酸残基を含むタンパク質または抗体の一部をいう。結合ドメインには、抗体(例えば、全長抗体)およびその抗原結合部分が含まれるが、これらに限定されるものではない。結合ドメインは、抗原に対する自己の特異性と親和性を結合因子に与える。また、この用語には、免疫グロブリン結合ドメインと相同であるか大部分が相同である結合ドメインを有するタンパク質も包含される。
【0023】
本明細書で言及される「抗体」という用語は、抗体全体および任意の抗原結合フラグメント(すなわち、「抗原結合部分」)またはその一本鎖ヴァージョンを含む。「抗体」は、好ましい一実施形態では、ジスルフィド結合によって互いに結合された少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質またはその抗原結合部をいう。重鎖は各々、重鎖可変領域(本明細書ではVと略す)と重鎖定常領域で構成されている。重鎖定常領域は、CH1、CH2、CH3の3つのドメインで構成されている。軽鎖は各々、軽鎖可変領域(本明細書ではVと略す)と軽鎖定常領域で構成されている。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLで構成されている。V領域およびV領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域にさらに区分することができる。これらのCDRは、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域で分離されている。VおよびVは各々、3つのCDRと4つのFRで構成され、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順で配置されている。重鎖と軽鎖の可変領域には、抗原と相互作用する結合ドメインが含まれる。抗体の定常領域は、古典的な補体系の最初の成分(Clq)や免疫系のさまざまな細胞(例えば、エフェクター細胞など)を含む宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介することができる。
【0024】
本明細書で使用する場合、抗体の「抗原結合フラグメント」(または単に「抗体フラグメント」)という用語は、抗原に特異的に結合する能力を持つ、抗体の1つ以上のフラグメントまたは部分をいう。そのような「フラグメント」は、例えば、約8から約1500アミノ酸長、適切には約8から約745アミノ酸長、適切には約8から約300、例えば約8から約200アミノ酸または約10から約50または100アミノ酸長である。抗体の抗原結合機能は、全長抗体のフラグメントによって発揮できることが明らかになっている。抗体の「抗原結合フラグメント」という用語に包含される結合フラグメントの例として、(i)Fabフラグメントすなわち、V、V、CLおよびCH1ドメインからなる一価断片、(ii)F(ab’)フラグメントすなわち、ヒンジ領域でジスルフィド結合により連結された2つのFabフラグメントを含む二価フラグメント、(iii)VおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント、(iv)抗体の単一アームのVおよびVドメインからなるFvフラグメント、(v)VドメインからなるdAbフラグメント(Ward et al., (1989) Nature 341:544-546)、(vi)単離された相補性決定領域(CDR)または(vii)任意に合成リンカーによって結合されてもよい2つ以上の単離されたCDRの組み合わせがあげられる。さらに、Fvフラグメントの2つのドメインであるVおよびVは別々の遺伝子によってコードされるが、組換え法を使用して、VとVを単一のタンパク質鎖にできる合成リンカーによって接合することが可能である。この単一のタンパク質鎖では、V領域とV領域が対になって一価の分子(一本鎖Fv(sFv)として知られている;例えば、Bird et al. (1988) Science 242:423-426; and Huston et al.(1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883を参照のこと)が形成されている。また、そのような単鎖抗体も、抗体の「抗原結合フラグメント」という用語に含むことが意図されている。これらの抗体フラグメントは、当業者に知られている従来の技術を使用して得られ、無傷の抗体と同じ方法で有用性についてスクリーニングされる。抗原結合部は、組換えDNA技術によって、あるいは、無傷の免疫グロブリンの酵素による切断または化学的切断によって作製することができる。
【0025】
本明細書で使用する場合、「組換えヒト抗体」という用語は、(a)ヒト免疫グロブリン遺伝子のトランスジェニックまたはトランス染色体である動物(例えば、マウス)またはそれから調製されたハイブリドーマから単離された抗体(b)トランスフェクトーマなどの、抗体を発現するように形質転換された宿主細胞から単離された抗体、(c)組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体、(d)ヒト免疫グロブリン遺伝子配列を他のDNA配列にスプライシングすることを含む他の手段により調製、発現、作製または単離された抗体など、組換え手段によって調製、発現、作製または単離されるすべてのヒト抗体を含む。そのような組換えヒト抗体は、生殖細胞系列の遺伝子によりコードされる特定のヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列を利用する可変領域および定常領域を含むが、例えば抗体成熟時に生じる以後の再配列および突然変異を含む。従来技術において知られているように(例えば、Lonberg (2005) Nature Biotech. 23(9):1117-1125を参照のこと)、可変領域は抗原結合ドメインを含み、これは再構成して外来抗原に特異的な抗体を形成する様々な遺伝子によってコードされる。再配列だけでなく、可変領
域が複数の単一アミノ酸の変化(体細胞変異または超変異と呼ばれる)によってさらに修飾され、外来抗原に対する抗体の親和性が増す場合がある。定常領域は、抗原に対してさらに応答して変化することになる(すなわち、アイソタイプスイッチ)。したがって、抗原に応答して軽鎖および重鎖免疫グロブリンポリペプチドをコードする再配列および体細胞変異した核酸分子は、元の核酸分子と配列同一性を持たない場合があるが、実質的に同一または類似になる(すなわち、少なくとも80%の同一性を持つ)。
【0026】
本明細書で使用する場合、「ヒト抗体」という用語は、例えば、病原体に結合して中和するために免疫系によって使用される免疫グロブリン(Ig)をいう。この用語は、ヒト生殖細胞Ig配列に実質的に対応する可変領域および定常領域を有する抗体を含む。いくつかの実施形態では、ヒト抗体は、マウスならびにラットなどのげっ歯類およびウサギなどのウサギ類を含むがこれらに限定されるものではない非ヒト哺乳動物で産生される。他の実施形態では、ヒト抗体はハイブリドーマ細胞で産生される。さらに他の実施形態では、ヒト抗体は組換えにより産生される。本明細書で使用する場合、ヒト抗体には、例えば重鎖および軽鎖、可変領域、定常領域、タンパク質分解フラグメント、相補性決定領域(CDR)および他の機能的フラグメントを含む抗体のすべてまたは一部が含まれる。
【0027】
本明細書で使用する場合、「生物学的に活性なフラグメント」とは、所望の長さまたは生物学的機能を有する分子、例えば遺伝子、コーディング配列、mRNA、ポリペプチドまたはタンパク質の一部をいう。タンパク質の生物学的に活性なフラグメントは、例えば、タンパク質の1以上の生物学的活性を保持する全長タンパク質のフラグメントであってもよい。mRNAの生物学的に活性なフラグメントは、例えば、翻訳されたときに生物学的に活性なタンパク質フラグメントを発現するフラグメントであってもよい。さらに、生物学的に活性なmRNAフラグメントは、非コーディング配列、例えば調節配列、UTRなどの短縮バージョンを含むことができる。一般に、酵素またはシグナル伝達分子のフラグメントは、例えば、そのシグナル伝達または酵素活性を保持する分子のその部分であり得る。遺伝子またはコーディング配列のフラグメントは、例えば、発現産物フラグメントを産生する遺伝子またはコーディング配列のその部分であり得る。フラグメントは、分子全体ではないが分子の一部をいう場合もあるため、必ずしも機能的に定義される必要はないが、何らかの望ましい特性または長さを有する(例えば、制限フラグメント、タンパク質のタンパク質分解フラグメント、増幅フラグメントなど)。
【0028】
通常の哺乳動物抗体または従来の哺乳動物抗体は、一般に同じ二対のポリペプチド鎖で構成される四量体であり、それぞれの対は、完全長の「軽」鎖(一般に分子量約25kDaである)1つと完全長の「重」鎖(一般に分子量約50~70kDaである)1つを持つ。本明細書で使用する場合、「重鎖」および「軽鎖」という用語は、標的抗原に対する特異性を付与するのに十分な可変ドメイン配列を有するIgポリペプチドをいう。各軽鎖および重鎖のN末端部分は一般に、抗原認識に一般に関与する約100~110アミノ酸長またはそれ以上の可変ドメインを含む。各鎖のC末端部分は一般に、エフェクター機能を担う定常ドメインを定義する。したがって、天然に存在する抗体では、全長重鎖Igポリペプチドは可変ドメイン(VまたはVH)および3つの定常ドメイン(CH1またはCH1、CH2またはCH2、CH3またはCH3)を含み、VドメインはポリペプチドのN末端、CH3ドメインはC末端にあり、全長軽鎖Igポリペプチドは可変ドメイン(VまたはVL)および定常ドメイン(CまたはCL)を含み、VドメインはポリペプチドのN末端、CドメインはC末端にある。
【0029】
完全長の軽鎖および重鎖内で、可変ドメインおよび定常ドメインは一般に、約12個以上のアミノ酸からなる「J」領域によって接合され、重鎖は約10個以上のアミノ酸からなる「D」領域も含む。各軽/重鎖対の可変領域は一般に、抗原結合部位を形成する。天然に存在する抗体の可変ドメインは一般に、CDRと呼ばれる3つの超可変領域によって接合された、比較的保存されたフレームワーク領域(FR)の同一の一般構造を示す。各対の2つの鎖からのCDRは一般に、フレームワーク領域によって整列され、特定のエピトープへの結合を可能にする。N末端からC末端まで、軽鎖および重鎖の両方の可変ドメインは一般に、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4を含む。
【0030】
本明細書で使用する場合、「実質的に純粋」または「実質的に精製された」という表現は、組成物中に存在する主たる種である化合物または種をいう(すなわち、モル基準で、組成物中の他のどの種よりも豊富である)。例えば、実質的に精製された画分は、存在するすべての高分子種の(モル基準で)少なくとも約50%が主たる種に含まれる組成物であり得る。例えば、実質的に純粋な組成物は、組成物中に存在するすべての高分子種の約80%、85%、90%、95%または99%よりも多くを表す主たる種を含むことができる。他の実施形態では、組成物が本質的に単一の高分子種からなる場合、主たる種を実質的に均一に精製することができる(従来の検出方法では組成物中の汚染種を検出できない)。
【0031】
本明細書で使用する場合、「抗原」または「抗原標的」という用語は、抗体によって、例えば本明細書に開示される改変ポリペプチドまたは融合タンパク質を含む1つ以上のIg結合ドメインまたは他の免疫学的結合部分に結合できる分子または分子の一部をいう。抗原は、その抗原のエピトープに結合できる抗体を産生するために動物で使用することができる。抗原は、1つ以上のエピトープを有していてもよい。
【0032】
「エピトープ」または「抗原決定基」という用語は、免疫グロブリンまたは抗体が特異的に結合する抗原上の部位をいう。エピトープは、タンパク質の三次フォールディングによって隣り合うものであれば、連続したアミノ酸配列でも連続しないアミノ酸配列でも、どちらからでも形成される。連続したアミノ酸から形成されたエピトープは一般に、変性溶媒への曝露時にも保持されるのに対し、三次フォールディングによって形成されたエピトープは一般に、変性溶媒での処理時に失われる。エピトープは一般に、特有の空間コンフォメーションで少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個のアミノ酸を含む。所与の抗体がどのエピトープに結合するかを決定する方法(すなわち、エピトープマッピング)が従来技術において周知であり、例えば、抗原からの重なったペプチドまたは連続したペプチドが所与の抗体との反応性について試験される免疫ブロットおよび免疫沈降アッセイが含まれる。エピトープの空間コンフォメーションを決定する方法として、従来技術における技術および本明細書に記載の技術、例えば、X線結晶構造解析および二次元核磁気共鳴があげられる(例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology, Vol. 66, G. E. Morris, Ed. (1996)を参照のこと)。
【0033】
本開示の改変ポリペプチドまたは融合タンパク質に関して使用される「活性」「生物学的活性」または「生物学的特性」という用語には、エピトープ親和性および特異性、抗原標的の活性に拮抗する能力、本開示の改変ポリペプチドまたは融合タンパク質のin vivo安定性および本開示の改変ポリペプチドまたは融合タンパク質の免疫原性の特性が含まれるが、これらに限定されるものではない。他の識別可能な生物学的特性には、例えば、(例えば、抗原標的の非ヒトホモログ、または一般に他の抗原標的または組織との)交差反応性および哺乳動物細胞におけるタンパク質の高発現レベルを保持する能力が含まれる。
【0034】
抗体、免疫グロブリンまたは免疫学的に機能的な免疫グロブリンフラグメントもしくは本明細書で開示される改変ポリペプチドまたは融合タンパク質は、分子がタンパク質および/または高分子の複雑な混合物中でその抗原標的を優先的に認識するときに、抗原に「特異的に」結合すると言われる。本明細書で使用する場合、「特異的に結合する」という表現は、抗体、免疫グロブリンまたは免疫学的に機能的な免疫グロブリンフラグメントもしくは本開示の改変ポリペプチドまたは融合タンパク質が、Kが少なくとも約10-6M、10-7M、10-8M、10-9M、10-10M、10-11M、10-12Mまたはそれを上回るエピトープを含む抗原に結合する能力および/または非特異的抗原に対する親和性よりも親和性が少なくとも2倍大きいエピトープに結合する能力をいう。
【0035】
本明細書で使用する場合、「K」という用語は、抗体、免疫グロブリンまたは免疫学的に機能的な免疫グロブリンフラグメントもしくは本明細書で開示される改変ポリペプチドまたは融合タンパク質と抗原標的との間の相互作用の解離定数をいう。本開示の改変ポリペプチドまたは融合タンパク質が一価のIg配列を有する場合、この一価のIg配列は、好ましくは、例えば10-5~10-12Mまたはそれ未満もしくは10-7~10-12Mまたはそれ未満もしくは10-3~10-12MのKおよび/または少なくとも10-1、少なくとも10-1、少なくとも10-1または少なくとも1012-1の結合親和性で、所望の抗原に結合する。10-4Mより大きいK値は一般に、非特異的結合を示すと考えられている。いくつかの実施形態では、本開示の改変ポリペプチドまたは融合タンパク質の一価のIg配列は、500mM未満、200nM未満、10nM未満または500pM未満の親和性で所望の抗原に結合する。
【0036】
は、例えば表面プラズモン共鳴(SPR)を含む、従来技術において知られた方法によって決定することができる。一般に、SPR分析では、例えばBIAcoreシステム(Pharmacia Biosensor; Piscataway, NJ)を使用して、リガンド(バイオセンサーマトリックス上の標的抗原)と検体とのリアルタイムの結合相互作用を測定する。また、検体を固定し、リガンドを提示することによってSPR分析を行うこともできる。本開示の改変ポリペプチドまたは融合タンパク質の抗原または抗原決定基への特異的結合は、例えば、スキャッチャード分析および/または競合結合アッセイ、例えば放射免疫測定、酵素免疫測定法(EIA)およびサンドイッチ競合分析などを含む、従来技術において知られている任意の適切な方法で決定することもできる。
【0037】
「二重特異性」という用語は、2つの抗原に結合することができる本開示の融合タンパク質をいう。「多価の融合タンパク質」という用語は、2つ以上の抗原結合部位を含む融合タンパク質を意味する。
【0038】
「多重特異性融合タンパク質」という用語は、2つ以上の関連するまたは関連しない標的を結合することができる本開示の融合タンパク質をいう。
【0039】
本明細書で使用する場合、「~に融合された」という用語は、2つ(または3つ以上)のコーディング配列が単一の連続したポリペプチドに転写されて翻訳されるように、典型的には、コーディング配列などの1つの配列を、1つまたは複数の第2のコーディング配列とインフレームで発現ベクターにクローニングすることによって、2つ以上の配列を結合して作製されるポリペプチドをいう。組換え技術によって作製されることに加えて、ポリペプチドの一部を、化学反応あるいは、カスタムポリペプチドを作製するための従来技術において知られている他の手段によって、互いに「融合」することができる。
【0040】
本明細書で使用する場合、「ベクター」という用語は、コード情報を発現系(例えば、宿主細胞またはin vitro発現系)に伝達するのに使用される分子(例えば、核酸、プラスミドまたはウイルス)をいう。ベクターの1つのタイプは「プラスミド」であり、これは追加のDNAセグメントを挿入できる環状の二本鎖DNA(dsDNA)分子をいう。別のタイプのベクターはウイルスベクターであり、追加のDNAセグメントをウイルスゲノムに挿入することができる。ベクターによっては、導入先の宿主細胞での自己複製が可能である(例えば、細菌複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクターなど)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムへの組み込みが可能であり、それによって、宿主ゲノムとともに複製される。また、ベクターによっては、転写制御できるように結合されたコーディング配列を発現させることができる。そのようなベクターを、本明細書では「発現ベクター」という。
【0041】
本明細書で使用する場合、「発現調節できるように結合された」という表現は、フランキング配列が所望の機能を果たすように構成または構築された、フランキング配列の配置をいう。したがって、コーディング配列に発現調節できるように結合されたフランキング配列は、コーディング配列の複製、転写および/または翻訳に影響を与えることができてもよい。コーディング配列は、例えば、そのコーディング配列を転写させることができるようなプロモーターに、発現調節できるように結合される。フランキング配列は、正しく機能する限り、発現調節できるように結合されているとみなされるためにコーディング配列と連続している必要はない。
【0042】
本明細書で使用する場合、「宿主細胞」という用語は、発現ベクターが導入された細胞をいう。宿主細胞とは、特定の対象細胞だけでなく、そのような細胞の子孫も指すことを意図している。突然変異または環境の影響により何らかの修飾が後代で発生する可能性があるため、そのような子孫が実際には親細胞と同一ではない場合もあるが、そのような細胞も依然として本明細書で使用する「宿主細胞」という用語の範囲に含まれる。細菌、酵母、バキュロウイルスおよび哺乳動物発現系(ならびにファージディスプレイ発現系)を含む、多種多様な宿主細胞発現系を使用して、本開示の改変ポリペプチドまたは融合タンパク質を発現させることができる。
【0043】
本明細書で使用され、特定の分子に適用される「天然に存在する」という用語は、自然界に見られ、人間によって操作されていない分子をいう。同様に、本明細書で使用する場合、「天然に存在しない」という用語は、自然界には見られないか、修飾または人工的に合成された分子をいう。
【0044】
本明細書で使用され、突然変異、トランケーション、欠失、置換、付加、コンジュゲーションによって、そうでなければ、分子の一次配列、化学構造または三次元構造、化学的特徴、折り畳み挙動、グリコシル化状態または他の属性を変化させることなどによって、分子が、これに対応する天然に存在する分子とは異なるように、修飾または操作された特定の分子、例えばポリペプチドに適用される「改変」という用語。
【0045】
本明細書で使用する場合、「患者」という用語は、ヒトおよび動物の対象を含む。
【0046】
「障害」は、本開示の改変ポリペプチドまたは融合タンパク質を使用する治療から利益を得るあらゆる状態である。「障害」および「病状」は、本明細書では同義に用いられる。
【0047】
本明細書で使用する場合、「補体による障害」は、補体経路の誤った調節、例えば補体経路の活性化または抑制によって直接的または間接的に引き起こされる障害もしくは補体経路の1つ以上の成分または補体経路によって産生される産物によって直接的または間接的に媒介される障害をいう。この用語は、補体経路の1つ以上の成分によって悪化する障害または補体経路によって産生される産物もいう。
【0048】
本明細書で使用する場合、「治療」または「治療する」という用語は、治療のための処置と予防策または防止策の両方をいう。治療を必要とする人には、障害のある人ならびに障害を持つ危険がある人、あるいは、障害の予防対象となる人が含まれる。
【0049】
本明細書で使用する場合、例えば本明細書に記載の融合タンパク質または改変ポリペプチドの「治療有効」量は、投与されると、疾患症状の重症度の低下(例えば、補体による障害に関連した障害の症状の軽減、疾患症状のない期間の延長および頻度の増加、あるいは、疾患の苦痛による機能低下または能力低下の予防につながる量である。実施形態によっては、本明細書に記載の治療薬の治療有効量は、溶血を軽減するか、補体による障害の症状を改善する量(または複数回投与の場合はさまざまな量)を含み得る。
【0050】
本明細書で使用する場合、「医薬組成物」または「治療用組成物」という用語は、患者に投与したときに所望の治療効果を誘発することができる化合物または組成物をいう。
【0051】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される担体」または「生理学的に許容される担体」という用語は、本開示の改変ポリペプチドまたは融合タンパク質のデリバリーを達成または増強するのに適した1種類以上の製剤材料をいう。
【0052】
本開示の改変ポリペプチドまたは融合タンパク質を1種類以上含む医薬組成物に関して使用される「治療有効量」という用語は、所望の治療結果を生むのに十分な量または投与量をいう。具体的には、治療有効量は、補体による障害など、治療対象となっている病状に関連する臨床的に定義された病理学的過程の1つ以上を一定期間阻害するのに十分な本開示の改変ポリペプチドまたは融合タンパク質1種類以上の量である。治療有効量は、使用される特定の改変ポリペプチドまたは融合タンパク質に応じて異なる場合があり、治療中の患者および障害の重症度に関連するさまざまな要因および病状に依存する。
【0053】
補体系
補体系は、体の他の免疫系と連動して、細胞性およびウイルス性病原体の侵入を防ぐ。補体タンパク質は少なくとも25種類存在し、これらは血漿タンパク質と膜補因子の複雑な集合である。血漿タンパク質は、脊椎動物の血清に含まれるグロブリンの約10%を占めている。補体成分は、複雑ではあるが正確な一連の酵素的切断および膜結合イベントで相互作用することにより、免疫防御機能を発揮する。こうして生じる補体カスケードは、オプソニック、免疫調節および溶解機能を備えた産物の産生につながる。
【0054】
補体カスケードは、古典経路(CP)、レクチン経路または第二経路(AP)を介して進行することができる。レクチン経路は一般に、高マンノース基質へのマンノース結合レクチン(MBL)の結合で開始される。APは、抗体に依存せずに病原体表面の特定の分子によって開始することができる。CPは一般に、標的細胞上の抗原部位の抗体認識および結合により開始される。これらの経路はC3転換酵素で収束するが、ここで補体成分C3が活性プロテアーゼによって切断されてC3aとC3bが生成する。
【0055】
血液の血漿画分に豊富に存在する補体成分C3の自発的な加水分解も、AP C3転換酵素の開始を引き起こし得る。「自己活性化」として知られるこの過程は、C3のチオエステル結合が自発的に切断されてC3iまたはC3(H0)が形成されて生じる。自己活性化は、活性化されたC3の結合を支持する表面および/または中性または正電荷の特性を持つ表面(例えば、細菌細胞の表面など)の存在によって促進される。C3(H0)の形成により、血漿タンパク質因子Bの結合が可能になり、これによって、因子Dが因子Bを切断してBaとBbにすることができるようになる。BbフラグメントはC3に結合したまま、C3(H0)Bbを含む複合体すなわち「流体相」または「開始」C3転換酵素を形成する。少量しか産生されないが、流体相のC3転換酵素は複数のC3タンパク質を切断してC3aとC3bにすることができ、C3bの生成と、その後の表面(例えば、細菌表面など)への共有結合を生じる。表面結合C3bに結合した因子Bは、因子Dによって切断され、C3b,Bbを含む表面結合AP C3転換酵素複合体を形成する。
【0056】
AP C5転換酵素((C3b),Bb)は、AP C3転換酵素に第2のC3bモノマーを加えると形成される。第2のC3b分子の役割は、C5に結合し、Bbによる切断用にC5を提示することである。AP C3およびC5転換酵素は、三量体タンパク質であるプロペルジンの添加によって安定化する。しかしながら、機能する第二経路C3またはC5転換酵素を形成するのにプロペルジン結合は必要ない。
【0057】
CP C3転換酵素は、C1q、C1r、C1sの複合体である補体成分C1と、標的抗原(例えば、微生物抗原)に結合した抗体との相互作用時に形成される。C1のC1q部分が抗体抗原複合体と結合することで、C1rを活性化するC1の構造変化が引き起こされる。そうすると、活性C1rがC1に関連するC1sを切断し、活性セリンプロテアーゼが生成する。活性C1sは補体成分C4を切断してC4bとC4aにする。C3bと同様に、新たに生じたC4bフラグメントには、標的表面(例えば、微生物細胞表面など)の適切な分子と容易にアミドまたはエステル結合を形成する反応性の高いチオールが含まれている。C1sも補体成分C2を切断してC2bとC2aにする。C4bとC2aによって形成される複合体はCP C3転換酵素であり、C3を処理してC3aとC3bにすることができる。CP C5転換酵素(C4b、C2a、C3b)は、CP C3転換酵素にC3bモノマーが加わると形成される。
【0058】
C3およびC5転換酵素における役割に加えて、C3bはマクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞の表面に存在する補体受容体との相互作用を通じてオプソニンとしても機能する。C3bのオプソニック機能は通常、補体系の最も重要な抗感染機能の1つであると考えられている。C3bの機能を阻害する遺伝的障害を持つ患者は、多種多様な病原生物による感染を起こしやすいが、補体カスケードシーケンスの後半に障害を持つ患者、すなわちC5機能を阻害する障害を持つ患者は、Neisseriaだけに感染しやすく、しかもほんの少し感染しやすいだけであることが明らかになっている。
【0059】
APおよびCP C5転換酵素は、C5を切断してC5aとC5bにする。C5が切断されることで、強力なアナフィラトキシンであるC5aと、走化性因子であるC5bが放出され、これによって溶解性末端補体複合体C5b-9の形成を可能になる。C5bは、C6、C7およびC8と結合し、標的細胞の表面でC5b-8複合体を形成する。いくつかのC9分子が結合すると、膜侵襲複合体(MAC、C5b-9、末端補体複合体(「TCC」))が形成される。十分な数のMACが標的細胞膜に挿入されると、MACによって生じる開口(MACポア)がゆえに、標的細胞の急速な浸透圧溶解が引き起こされる。
【0060】
適切に機能する補体系は感染微生物をしっかり防御するが、補体経路の不適切な調節または活性化は、例えば、関節リウマチ(RA)、ループス腎炎、喘息、虚血再灌流障害、非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、膜性増殖性糸球体腎炎II型(DDD)、発作性夜間血色素尿症(PNH)、黄斑変性(例えば、加齢黄斑変性(AMD)など)、HELLP症候群、ギランバレー症候群(GBS)、タンパク質喪失性腸疾患(例えば、CHAPLE症候群など)、重症筋無力症(MG)、視神経脊髄炎(NMO)、造血幹細胞移植後の血栓性微小血管障害症(HSCT後TMA)、骨髄移植後TMA(BMT後TMA)、デゴス病、ゴーシェ病、糸球体腎炎、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、自然流産、寡免疫性の血管炎、表皮水疱症、習慣性流産、多発性硬化症(MS)、外傷性脳損傷および心筋梗塞、心肺バイパス、血液透析に起因する損傷を含むさまざまな障害の病因に関係している(Holers, V., Immunol. Rev., 223:300-16, 2008)。補体活性化の下方制御が、さまざまな動物モデルで、いくつかの疾患適応症の治療に有効であることが示されている(Rother, R. et al., Nat. Biotechnol., 25:1256-64, 2007; Wang, Y. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93:8563-8, 1996; Wang, Y. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:8955-9, 1995; Rinder, C. et al., J. Clin. Invest., 96:1564-72, 1995
; Kroshus, T. et al., Transplantation, 60:1194-202, 1995; Homeister, J. et al., J. Immunol., 150:1055-64, 1993; Weisman, H. et al., Science, 249:146-51, 1990; Amsterdam, E. et al., Am. J. Physiol., 268:H448-57, 1995; and Rabinovici, R. et al., J. Immunol., 149:1744-50, 1992)。
【0061】
ヒト血清アルブミンおよび新生児Fc受容体
ヒト血清アルブミン(HSA)に結合して治療関連タンパク質の半減期を延長できるポリペプチドが説明されている(国際公開第WO91/01743号、同第WO01/45746号、同第WO02/076489号)。しかしながら、記載のあるペプチド部分は細菌または合成起源のものであり、ヒトの治療薬に使用するには好ましくない。国際公開第WO04/041865号には、他のタンパク質(所望の標的に対する1つ以上の他の単一ドメイン抗体など)に結合して半減期を延長できる、血清アルブミン(特にHSA)に対する単一ドメイン抗体(sdAbまたはNanobodies(登録商標))について記載されている。
【0062】
「Brambell受容体」とも呼ばれる新生児Fc受容体(FcRn)は、体内循環でのアルブミンの寿命の延長に関与している(Chaudhury, C. et al., J. Exp. Med., 3:315-22, 2003)。FcRnは、3つの細胞外ドメイン、膜貫通領域、約50アミノ酸長の細胞質尾部を持つ43kDaのα鎖に非共有結合した2-ミクログロブリン(β2m)からなる可溶性軽鎖で構成される膜内在性糖タンパク質である。細胞質尾部には、受容体の内在化に関与するジヌクレオチドモチーフのエンドサイトーシスシグナルが含まれている。α鎖は、非古典的なMHC Iファミリーのタンパク質のメンバーである。FcRnの正しい折り畳みと、小胞体を出て、エンドソームおよび細胞表面へ行くために、α鎖とβ2mとの会合が重要である。
【0063】
FcRnの全体構造は、クラスI分子の構造と類似している。α-1およびα-2の領域は、MHC I分子のペプチドのクレフトに非常によく似た2つの逆平行αヘリックスで覆われた単一のβシートを形成する8つの逆平行鎖で構成されるプラットフォームに似ている。Pro162の存在によって導入されたヘリックスの切断によるα2ヘリックスのC末端部分の屈曲とα-1の全体的な再配置がゆえ、FcRnヘリックスは近接し、ペプチド結合を遮断している。FcRnのArg164の側鎖も、ペプチドN末端とMHCポケットとの潜在的な相互作用を遮断する。さらに、α-1ヘリックスとα-2ヘリックスとの間の疎水性相互作用および塩橋も、溝の閉鎖に寄与する場合がある。したがって、FcRnは抗原提示に関与せず、ペプチドのクレフトは空である。
【0064】
FcRnはIgGと結合し、母体の体内循環から胎盤の合胞体芽細胞を通して胎児の循環にIgGを輸送し、成人ではIgGが分解されないように保護する。ホメオスタシスに加えて、FcRnは組織内でのIgGのトランスサイトーシスを制御する。FcRnは、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞に局在している。
【0065】
HSAはFcRnに結合し、IgGとの三分子複合体を形成する。アルブミンおよびIgGは、いずれもFcRn上の異なる部位に非協調的に結合する。ヒトFcRnのセファロースHSAおよびセファロースhIgGへの結合はpH依存的であって、pH5で最大であり、pH7からpH8で検出不能である。FcRnがIgGに結合するのと同じようにpH依存的にアルブミンに結合するという観察結果は、アルブミンがFcRnと相互作用することで分解から保護される作用機序がIgGの場合の作用機序と同一であり、同じようにFcRnとのpH感受性の相互作用によるものであることを示唆している。表面プラズモン共鳴を使用して、固定化された可溶性hFcRn、FcRnおよびアルブミンを結合する個々のHSAドメインの能力を測定したところ、IgG結合部位とは異なる部位で、pH依存的にアルブミンのD IIIドメインを介して相互作用することが明らかになっている(Chaudhury, C. et al., Biochemistry, 45:4983-90, 2006)。
【0066】
改変ポリペプチドは補体C5または血清アルブミンに特異的に結合する
本明細書に記載されるのは、補体成分C5または血清アルブミンに結合するか、そうでなければ会合することができるIg配列、例えばIg可変ドメイン配列を有する改変ポリペプチドである。本明細書に記載の改変ポリペプチドは、改変ポリペプチドが血清アルブミン分子に結合またはそうでなければ会合する場合、FcRnへの血清アルブミン分子の結合が、ポリペプチドが結合していない場合の血清アルブミン分子のFcRnへの結合と比較して大幅に低減または阻害されることがないような状態で、血清アルブミンに特異的に結合することができる。本実施形態では、「大幅に低減または阻害することがない」とは、(例えば、SPRなどの適切なアッセイを使用して測定される)FcRnに対する血清アルブミンの結合親和性が、50%を超えて、あるいは30%を超えて、あるいは10%を超えて、あるいは5%を超えて減ることがないか、まったく減らないことを意味する。本実施形態において、「大幅に低減または阻害することがない」とは、血清アルブミン分子の半減期が大幅に短縮されないことも意味する。特に、改変ポリペプチドは、血清アルブミンのFcRnへの結合に関与しない血清アルブミン上のアミノ酸残基にすることができる。具体的には、改変ポリペプチド、例えば、ドメインIおよび/またはドメインIIの一部を形成する血清アルブミンのアミノ酸残基または配列に結合できる改変ポリペプチドは、血清アルブミンのドメインIIIの一部を形成しない血清アルブミンのアミノ酸残基または配列に結合できる。
【0067】
いくつかの実施形態では、改変ポリペプチドは、sdAbであるか、sdAbとしての使用に適しており、それ自体が重鎖可変ドメイン配列または軽鎖可変ドメイン配列の場合もあり、実施形態によっては、重鎖抗体の重鎖可変ドメイン配列である。改変ポリペプチドが、単一ドメインであるか、重鎖抗体からの重鎖可変ドメイン配列である場合、そのような配列を、VHH抗体またはVH抗体、VHH抗体フラグメントまたはVH抗体フラグメントもしくはVHHドメインまたはVHドメインと呼ぶ場合もある。
【0068】
「重鎖抗体」とは、2つの重鎖からなり、従来の抗体に見られる2つの軽鎖を欠く抗体をいう。ラクダ科動物(生物学でいうラクダ科(Camelidae)のメンバーであり、ラクダ亜目(Tylopoda)のうち生存している唯一の科;現存のラクダ科動物には、ヒトコブラクダ、フタコブラクダ、野生または野生に返ったラクダ、ラマ、アルパカ、ビクーナ、グアナコスが含まれる)は、単鎖VHH抗体を持つ唯一の哺乳動物である。ラクダ科動物の抗体の約50%は重鎖抗体であり、残りの50%は通常または従来の哺乳類の重鎖/軽鎖抗体タイプである。
【0069】
「VHHドメイン」とは、天然に存在する重鎖抗体にある可変ドメインをいい、従来の4本鎖抗体に存在する重鎖可変ドメイン(本明細書では「VHドメイン」と呼ぶ)および従来の4本鎖抗体に存在する軽鎖可変ドメイン(本明細書では「VLドメイン」と呼ばれる)とは区別される。
【0070】
VHHドメインは、単離されたVHHドメイン(のみならず、VHHドメインを基本とし、、天然に存在するVHHドメインと同じ構造的な特徴および機能特性を持つsdAb)およびVHHドメインを含むタンパク質を、機能性抗原結合ドメインまたはタンパク質として使用するのに非常に都合のよいものにする特有の構造的な特徴と機能特性を多く兼ね備えている。例えば、VLなしで抗原に結合するVHHドメインやsdAbは、単一の比較的小さい機能性抗原結合構造単位、ドメインまたはタンパク質として機能することができる。これらの分子は小さいため、VHHドメインは従来の4本鎖抗体のVHドメインおよびVLドメインとは区別される。VHHドメインおよびsdAbを単一の抗原結合タンパク質として、あるいは抗原結合ドメインとして(例えば、より大きなタンパク質またはポリペプチドの一部として)使用すると、従来のVHドメインならびにVLドメインおよびscFvまたは従来の抗体フラグメント(FabまたはF(ab’)フラグメントなど)にはない大きな利点が多数もたらされる。例えば、高い親和性と高い選択性で抗原を結合するのに必要なのは単一のドメインだけであるため、2つの別個のドメインが存在する必要はなく、これらの2つのドメインを(例えばscFvを用いる場合のように特定のリンカーを使用して)特定の空間的コンフォメーションおよび構成で確実に存在させる必要もない。VHHドメインおよびsdAbは単一の遺伝子からも発現させることが可能であり、翻訳後の折りたたみや修飾を必要としない。VHHドメインおよびsdAbは、容易に多価形式や多重特異性の形式に設計できる。VHHドメインおよびsdAbは非常に溶解性が高くもあり、凝集する傾向がなく(Ward, E. et al., Nature, 341:544-6, 1989)、熱、pH、プロテアーゼ、その他の変性剤または変成条件に対して非常に安定している(Ewert, S. et al., Biochemistry, 41:3628-36, 2002)。VHHドメインおよびsdAbは、生産に必要な規模であっても、比較的簡単かつ安価に調製できる。例えば、VHHドメイン、sdAb、VHHドメインまたはsdAbを含むポリペプチドは、従来技術で知られている方法による微生物発酵を使用して産生でき、たとえば従来の抗体フラグメントのように哺乳類発現系の使用を必要としない。VHHドメインおよびsdAbは、従来の4本鎖抗体およびその抗原結合フラグメントと比較して比較的小さく(約15kDaすなわち従来のIgGの10分の1)、したがって、(固形腫瘍および他の密度の高い組織を含むがこれらに限定されるものではない)組織への進入性が高い。VHHドメインおよびsdAbは、(例えばCDR3ループが拡張されているため)いわゆる「キャビティ結合」特性を示すことができ、従来の4本鎖抗体およびその抗原結合フラグメントにはアクセスできない標的およびエピトープにアクセスすることができる。VHHドメインおよびsdAbは、例えば、酵素を阻害できることが示されている(国際公開第WO97/49805号、Transue, T. et al., Proteins, 32:515-22, 1998; Lauwereys, M. et al., EMBO J., 17:3512-20, 1998)。
【0071】
本明細書で使用する場合、「単一ドメイン抗体」または「sdAb」という用語は、単一の単量体可変抗体ドメインからなる抗体またはそのフラグメントである。特定の生物源または特定の調製方法に限定されるものではない。sdAbは、例えば、(1)天然に存在する重鎖抗体のVHHドメインを分離する、(2)天然に存在するVHHドメインをコードするヌクレオチド配列を発現させる、(3)天然に存在するVHHドメインの「ヒト化」またはそのようなヒト化VHHドメインをコードする核酸の発現、(4)任意の動物種、特にヒトなどの哺乳動物種に由来する、天然に存在するVHドメインの「ラクダ化」またはそのようなラクダ化VHドメインをコードする核酸の発現、(5)「ドメイン抗体」(「Dab」)の「ラクダ化」またはそのようなラクダ化VHドメインをコードする核酸の発現、(6)改変ポリペプチドまたは融合タンパク質を調製するための合成または半合成技術の使用、(7)核酸合成のための技術を使用してsdAbをコードする核酸を調製後、得られた核酸の発現および/または(8)上記の任意の組み合わせによって得ることができる。
【0072】
本明細書に記載の改変ポリペプチドまたは融合タンパク質は、例えば、天然に存在するVHH配列のアミノ酸配列の1つ以上のアミノ酸残基を、ヒト由来のVHドメインの対応する位置に生じる1つまたは複数のアミノ酸残基で置換することなどによって「ヒト化」された天然に存在するVHHドメインのアミノ酸配列を有することができる。
【0073】
本明細書に記載の改変ポリペプチドまたは融合タンパク質は、例えば、天然に存在するVH配列のアミノ酸配列の1つ以上のアミノ酸残基を、例えばラクダ化抗体のVHHドメインの対応する位置に生じる1つまたは複数のアミノ酸残基で置換することなどによって「ラクダ化」された天然に存在するVHドメインのアミノ酸配列を有することができる。これは、従来技術において知られている方法で実行することができる。そのようなラクダ化は、VH-VL界面およびいわゆる「ラクダ科ホールマーク残基」(国際公開第WO94/04678号)に存在するアミノ酸位置で優先的に起こり得る。ラクダ化配列を作製または設計するための親配列または出発材料として使用されるVHドメインまたは配列は、例えば、哺乳動物由来のVH配列、実施形態によってはヒトのVH配列であってもよい。しかしながら、そのようなラクダ化配列は、従来技術において知られている任意の適切な方法で得ることができるため、天然に存在する親VHドメインを含むポリペプチドを使用して得られたポリペプチドに厳密に限定されるものではない。
【0074】
「ヒト化」および「ラクダ化」はどちらも、それぞれ天然に存在するVHHドメインまたはVドメインをコードするヌクレオチド配列を準備した後、当業者に知られた方法で、新たなヌクレオチド配列がそれぞれヒト化またはラクダ化配列をコードするように、ヌクレオチド配列の1つ以上のコドンを当業者に既知の方法で変更することによって実行することができる。また、天然に存在するVHHドメインまたはVHドメインのアミノ酸配列またはヌクレオチド配列に基づいて、所望のヒト化またはラクダ化配列をコードするヌクレオチド配列を、従来技術において知られている核酸合成の技術を使用して、de novoで設計および合成することができ、その後、このようにして得られたヌクレオチド配列を、従来技術において知られている方法で発現させることができる。
【0075】
いくつかの実施形態では、本開示は、エクリズマブと同一のヒトC5上のエピトープに特異的に結合する改変ポリペプチドまたはC5からC5aおよびC5bへの切断を妨げるC5上のエピトープに結合する改変ポリペプチドを提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、配列番号1~12のアミノ酸配列またはそれらのフラグメントのうちのいずれか1つを含む、ヒト補体成分C5に特異的に結合する改変ポリペプチドを提供する。他の実施形態では、本開示は、配列番号1~12のアミノ酸配列のうちのいずれか1つと少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する、ヒト補体成分C5に特異的に結合する改変ポリペプチドを提供する。他の実施形態では、本開示は、配列番号1~12のアミノ酸配列のうちのいずれか1つと少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一または少なくとも99%同一のアミノ酸配列を有する、ヒト補体成分C5に特異的に結合する改変ポリペプチドを提供する。例えば、一実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列または配列番号1に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号2に記載のアミノ酸配列または配列番号2に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号3に記載のアミノ酸配列または配列番号3に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号4に記載のアミノ酸配列または配列番号4に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号5に記載のアミノ酸配列または配列番号5に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号6に記載のアミノ酸配列または配列番号6に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号7に記載のアミノ酸配列または配列番号7に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号8に記載のアミノ酸配列または配列番号8に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号9に記載のアミノ酸配列または配列番号9に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号10に記載のアミノ酸配列または配列番号10に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号11に記載のアミノ酸配列または配列番号11に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号12に記載のアミノ酸配列または当該配列と少なくとも90%同一の配列を有する。
【0076】
もうひとつの実施形態では、配列番号1~12およびそれらのフラグメントからなる群から選択されるアミノ酸配列からなる、ヒト補体成分C5に結合する改変ポリペプチドが提供される。例えば、一実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号5に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号6に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号7に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号9に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号11に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号12に記載のアミノ酸配列からなる。
【0077】
もうひとつの実施形態では、本開示は、ヒト補体成分C5に特異的に結合する改変ポリペプチドであって、3つの相補性決定領域すなわちCDR1、CDR2およびCDR3を含み、CDR1は配列番号13~17のアミノ酸配列のうちのいずれか1つを含むか、配列番号13~17と少なくとも90%同一の配列を含み、CDR2は、配列番号18または19のアミノ酸配列を有するか、配列番号18または19と少なくとも90%同一の配列を含み、CDR3は、配列番号20または21のアミノ酸配列を有するか、配列番号20または21と少なくとも90%同一の配列を有する改変ポリペプチドを提供する。
【0078】
他の実施形態では、本開示は、配列番号22~34のアミノ酸配列またはそれらのフラグメントのうちのいずれか1つを含む、ヒト血清アルブミンに特異的に結合する改変ポリペプチドを提供する。他の実施形態では、本開示は、配列番号22~34のアミノ酸配列のうちのいずれか1つと少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する、ヒト血清アルブミンに特異的に結合する改変ポリペプチドを提供する。他の実施形態では、配列番号22~34のアミノ酸配列のうちのいずれか1つと少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一または少なくとも99%同一のアミノ酸配列を有する、ヒト血清アルブミンに特異的に結合する改変ポリペプチドを提供する。例えば、一実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号22に記載のアミノ酸配列または配列番号22に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号23に記載のアミノ酸配列または配列番号23に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号24に記載のアミノ酸配列または配列番号24に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号25に記載のアミノ酸配列または配列番号25に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号26に記載のアミノ酸配列または配列番号26に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号27に記載のアミノ酸配列または配列番号27に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号28に記載のアミノ酸配列または配列番号28に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号29に記載のアミノ酸配列または配列番号29に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号30に記載のアミノ酸配列または配列番号30に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号31に記載のアミノ酸配列または配列番号31に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号32に記載のアミノ酸配列または配列番号32に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号33に記載のアミノ酸配列または配列番号33に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号34に記載のアミノ酸配列または配列番号34に記載の配列と少なくとも90%同一の配列を有する。
【0079】
もうひとつの実施形態では、ヒト血清アルブミンに特異的に結合する改変ポリペプチドは、配列番号22~34およびそれらのフラグメントからなる群から選択されるアミノ酸配列からなる。例えば、一実施態様では、改変ポリペプチドは、配列番号22に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号23に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号24に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号25に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号26に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号27に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号28に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号29に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号30に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号31に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号32に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号33に記載のアミノ酸配列からなる。もうひとつの実施形態では、改変ポリペプチドは、配列番号34に記載のアミノ酸配列からなる。
【0080】
もうひとつの実施形態では、本開示は、ヒト血清アルブミンに特異的に結合する改変ポリペプチドであって、3つの相補性決定領域すなわちCDR1、CDR2およびCDR3を含み、CDR1は配列番号35~43のアミノ酸配列のうちのいずれか1つを含むか、配列番号35~43と少なくとも90%同一の配列を含み、CDR2は、配列番号44~51のアミノ酸配列のうちのいずれか1つを含むか、配列番号44~51と少なくとも90%同一の配列を含み、CDR3は、配列番号52~63のアミノ酸配列のうちのいずれか1つを含むか、配列番号52から63と少なくとも90%同一の配列を有する改変ポリペプチドを提供する。
【0081】
本明細書で開示する改変ポリペプチドは、例えば、Alb1(AVQLVESGGG LVQPGNSLRL SCAASGFTFR SFGMSWVRQA PGKEPEWVSS ISGSGSDTLY ADSVKGRFTI SRDNAKTTLY LQMNSLKPED TAVYYCTIGG SLSRSSQGTQ VTVSS;配列番号149)と同じ、ヒト血清アルブミン上のエピトープに特異的に結合することができる。他の実施形態では、改変ポリペプチドは、Alb1のヒト血清アルブミンへの結合を競合的に阻害する。
【0082】
改変ポリペプチドがIgを含む場合、Ig可変ドメインなどのIgの適切なフラグメントも、完全なIgの代わりに使用することができる。
【0083】
所与の免疫グロブリン可変ドメイン内からCDRを同定する方法は、従来技術において知られている(Wu, T. & Kabat, E., J. Exp. Med., 132:211-50, 1970; Clothia, C. etal., Nature, 342:877-83, 1989; Al-Lazikani, B. et al., J. Mol. Biol., 273:927-48, 1997; and Ofran, Y. et al., J. Immunol., 181:6230-35, 2008)。
【0084】
補体成分C5および血清アルブミンに特異的に結合する融合タンパク質
本明細書に記載されるのは、アルブミンおよび補体成分C5に特異的に結合する改変ポリペプチドを含む融合タンパク質であって、ここでの改変ポリペプチドは直接融合されるか、1つ以上の適切なリンカーまたはスペーサーを介して結合される。本明細書で使用する場合、「ペプチドリンカー」という用語は、融合タンパク質の改変ポリペプチド間に挿入または含まれる1つ以上のアミノ酸残基をいう。ペプチドリンカーは、例えば、融合タンパク質の改変ポリペプチド間の分節部分に、配列レベルで挿入または含めることができる。リンカーにおけるアミノ酸残基の同一性と配列は、望ましい二次構造によって異なる。例えば、グリシン、セリン、アラニンは、最大限の柔軟性を持つリンカーに有用である。どのアミノ酸残基も、所望の特性によって必要に応じてより大きなペプチドリンカーを構築するために他のアミノ酸残基と同一であっても異なっていてもよい1つ以上の他のアミノ酸残基と組み合わせたリンカーと見なすことができる。他の実施形態では、リンカーは、GGGGAGGGGAGGGGS(配列番号102)である。他の実施形態では、リンカーは、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号103)である。本明細書に記載の融合タンパク質の作製に適した別のペプチドリンカーとして、例えば、G4S(配列番号104)、(G4S)2(配列番号105)、(G4S)3(配列番号106)、(G4S)4(配列番号107)、(G4S)5(配列番号108)、(G4S)6(配列番号109)、(EAAAK)3(配列番号110)、PAPAP(配列番号111)、G4SPAPAP(配列番号112)、PAPAPG4S(配列番号113)、GSTSGKSSEGKG(配列番号114)、(GGGDS)2(配列番号115)、(GGGES)2(配列番号116)、GGGDSGGGGS(配列番号117)、GGGASGGGGS(配列番号118)、GGGESGGGGS(配列番号119)、ASTKGP(配列番号120)、ASTKGPSVFPLAP(配列番号121)、G3P(配列番号122)、G7P(配列番号123)、PAPNLLGGP(配列番号124)、G6(配列番号125)、G12(配列番号126)、APELPGGP(配列番号127)、SEPQPQPG(配列番号128)、(G3S2)3(配列番号129)、GGGGGGGGGSGGGS(配列番号130)、GGGGSGGGGGGGGGS(配列番号131)、(GGSSS)3(配列番号132)、(GS4)3(配列番号133)、G4A(G4S)2(配列番号134)、G4SG4AG4S(配列番号135)、G3AS(G4S)2(配列番号136)、G4SG3ASG4S(配列番号137)、G4SAG3SG4S(配列番号138)、(G4S)2AG3S(配列番号139)、G4SAG3SAG3S(配列番号140)、G4D(G4S)2(配列番号141)、G4SG4DG4S(配列番号142)、(G4D)2G4S(配列番号143)、G4E(G4S)2(配列番号144)、G4SG4EG4S(配列番号145)および(G4E)2G4S(配列番号146)があげられる。当業者は、例えば、翻訳後修飾、例えばグリコシル化、例えばキシロシル化を低減または排除するために、リンカーを選択することができる。実施形態によっては、融合タンパク質は、少なくとも2つのsdAb、Dab、VHH抗体、VHH抗体フラグメントまたはそれらの組み合わせを含み、sdAb、Dab、VHH抗体またはVHH抗体フラグメントの少なくとも1つはアルブミンに対するものであり、sdAb、Dab、VHH抗体またはVHH抗体フラグメントのうちの1つは補体成分C5に対するものであるため、得られる融合タンパク質は多価または多重特異性になる。結合ドメインまたは部分は、例えば、HSA、カニクイザル血清アルブミン、ヒトC5および/またはカニクイザルC5に対するものにすることができる。
【0085】
いくつかの実施形態では、融合タンパク質のアルブミン結合ドメインのC末端残基は、補体成分C5結合ドメインのN末端残基に直接またはペプチドを介して融合することができる。他の実施形態では、融合タンパク質の補体成分C5結合ドメインのC末端残基は、アルブミン結合ドメインのN末端残基に直接またはペプチドを介して融合することができる。
【0086】
いくつかの実施形態では、融合タンパク質は、配列番号1~12のアミノ酸配列またはそれらのフラグメントを含む補体成分C5結合を含み、ヒト血清アルブミンに特異的に結合するポリペプチドは、配列番号22~34のアミノ酸配列またはそれらのフラグメントを含む。いくつかの実施形態では、第1のポリペプチドは、配列番号1~12のいずれかに記載のアミノ酸配列に由来し、第2のポリペプチドは、配列番号22~34のいずれかに記載のアミノ酸配列に由来する。ヒト補体成分C5結合ドメインは、例えば、配列番号5または11のアミノ酸配列を有することができ、アルブミン結合ドメインは、例えば、配列番号26のアミノ酸配列を有することができる。もうひとつの実施形態では、本開示は、配列番号64~95のアミノ酸配列のうちのいずれか1つを有する融合タンパク質を提供する。もうひとつの実施形態では、本開示は、配列番号93のアミノ酸配列を有する融合タンパク質を提供する。もうひとつの実施形態では、本開示は、配列番号77のアミノ酸配列を有する融合タンパク質を提供する。もうひとつの実施形態では、本開示は、配列番号96~101のアミノ酸配列のうちのいずれか1つを有する融合タンパク質を提供する。
【0087】
本明細書で開示する融合タンパク質は、融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する少なくとも1つの核酸分子を宿主細胞で発現させることにより作製することができる。宿主細胞は、哺乳類由来であってもよいし、植物または微生物由来であってもよい。既知の哺乳動物宿主細胞に加えて、酵母宿主細胞、例えば、Pichia pastoris、Saccharomyces cerevisiaeおよび/または植物宿主細胞を使用することができる。
【0088】
補体C5または血清アルブミンもしくはその融合タンパク質に特異的に結合するポリペプチドを含む治療用組成物およびその投与
もうひとつの実施形態では、本開示は、本明細書に開示されるアミノ酸配列を有するか、そのようなアミノ酸配列からなる改変ポリペプチドを提供する。もうひとつの実施形態では、本開示は、任意に1つ以上の適切なリンカーまたはスペーサーを介して、少なくとも1つの治療部分または標的部分に結合される本開示の少なくとも1つの改変ポリペプチドを含むか、少なくとも1つのそのような改変ポリペプチドからなる融合タンパク質、多価の多重特異性融合タンパク質を提供する。
【0089】
また、本開示は、本開示の改変ポリペプチド、またはそのような改変ポリペプチドを含むかそのような改変ポリペプチドをからなる融合タンパク質および多価の多重特異性融合タンパク質の治療的使用、あるいは、そのような改変ポリペプチド、融合タンパク質、または多価の多重特異性融合タンパク質を含む医薬組成物に関する。
【0090】
いくつかの実施形態では、治療部分または標的部分は、例えば、少なくとも1つのsdAb、Dab、VHHまたはそれらのフラグメントを含むことができる。実施形態によっては、本開示の改変ポリペプチドは、少なくとも2つのsdAb、Dab、VHH抗体、VHH抗体断片またはそれらの組み合わせを含む多価および/または多重特異性融合タンパク質である。
【0091】
いくつかの実施形態では、改変ポリペプチド、融合タンパク質、または多価の多重特異性融合タンパク質は、マウス血清アルブミンに対する親和性よりも高い、HSAに対する親和性を示す。実施形態によっては、改変ポリペプチド、融合タンパク質または多価の多重特異性融合タンパク質は、マウス血清アルブミンに対する親和性よりも高い、カニクイザル血清アルブミンに対する親和性を示す。他の実施形態では、改変ポリペプチド、融合タンパク質、または多価の多重特異性融合タンパク質は、カニクイザル血清アルブミンに対する親和性よりも高い、HSAに対する親和性を示す。
【0092】
いくつかの実施形態では、改変ポリペプチド、融合タンパク質、または多価の多重特異性融合タンパク質は、マウスC5に対する親和性よりも高い、ヒトC5に対する親和性を示す。実施形態によっては、改変ポリペプチド、融合タンパク質、または多価の多重特異性融合タンパク質は、マウスC5に対する親和性よりも高い、カニクイザルC5に対する親和性を示す。他の実施形態では、改変ポリペプチド、融合タンパク質、または多価の多重特異性融合タンパク質は、カニクイザルC5に対する親和性よりも高い、ヒトC5に対する親和性を示す。
【0093】
本明細書に記載の改変ポリペプチド、融合タンパク質、または多価の多重特異性融合タンパク質は、例えば、抗体治療薬または他の治療薬と比較した場合に、有効性、バイオアベイラビリティ、半減期または他の治療上望ましい特性の向上などの改善された治療特性を示すことができる。一実施形態では、本開示の融合タンパク質は、本明細書に開示される少なくとも1種の改変ポリペプチドおよび少なくとも1種の治療部分または標的部分を含む。そのような融合タンパク質において、融合タンパク質は、例えば、治療結合ドメインだけの場合と比較して、半減期が長くなり得る。一般に、そのような融合タンパク質は、対応する治療部分または標的部分だけの場合よりも半減期が少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、または少なくとも5倍、または少なくとも10倍、または20倍を超える。いくつかの実施形態では、本開示の融合タンパク質は、対応する治療部分または標的部分と比較して、半減期が、1時間を超えて、2時間を超えて、6時間を超えてまたは12時間を超えて長くなる。他の実施形態では、融合タンパク質の半減期は、1時間を上回る、2時間を上回る、6時間を上回る、12時間を上回る、約1日、約2日、約1週間、約2週間、約3週間または2か月以内である。
【0094】
本明細書で使用する場合、「半減期」という用語は、例えば、生理学的な作用機序による分子の分解および/または分子のクリアランスまたは分離の結果として、改変ポリペプチド、融合タンパク質または多価の多重特異性融合タンパク質の血清濃度がin vivoで50%低下するのにかかる時間をいう。薬物動態分析および半減期を決定するための方法は、当業者に知られている。
【0095】
1種類以上のVHH抗体を含む多価の多重特異性融合タンパク質およびそれらの調製物の一般的な説明は知られている(Els Conrath, K. et al., J. Biol. Chem., 276:7346-50, 2001; Muyldermans, S., J. Biotechnol., 74:277-302 2001、国際公開第WO96/34103号、同第WO99/23221号、同第WO04/041865号)。
【0096】
本明細書に開示される改変ポリペプチド、融合タンパク質、多価の多重特異性融合タンパク質は、例えば、発現ベクターなどの1つ以上の要素を含むコンストラクトから発現または会合させることができる(国際出願公開第WO04/041862号)。
【0097】
本明細書に開示される改変ポリペプチド、融合タンパク質、多価の多重特異性融合タンパク質は、例えば、本明細書に開示される改変ポリペプチド、融合タンパク質、多価の多重特異性融合タンパク質をコードする核酸分子を含む単離された宿主細胞で発現させることができる。適切な宿主細胞には、哺乳動物および酵母細胞が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0098】
本明細書に開示される治療用組成物または医薬組成物は、本明細書に開示される1種類以上の改変ポリペプチド、融合タンパク質または多価の多重特異性融合タンパク質を、治療有効量で、投与様式に合うように選択される薬学的または生理学的に許容される製剤材との混合物で含むことができる。許容可能な製剤材料は、使用される投与量および濃度でレシピエントに無毒であると好ましい。
【0099】
許容可能な製剤材料を使用して、例えば、組成物のpH、浸透圧、粘度、透明度、色、等張性、臭気、無菌性、安定性、溶解または放出の速度、吸着または進入を変更、維持または保持することができる。許容可能な製剤材料としては、アミノ酸(グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジンなど)、抗菌剤、酸化防止剤(アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウムまたは亜硫酸水素ナトリウムなど)、緩衝剤(ホウ酸塩、重炭酸塩、Tris-HCl、クエン酸塩、リン酸塩または他の有機酸など)、バルク剤(マンニトールまたはグリシンなど)、キレート剤(エチレンジアミン四酢酸(EDTA)など)、錯化剤(カフェイン、ポリビニルピロリドン、βシクロデキストリンまたはヒドロキシプロピル-βシクロデキストリンなど)、充填剤、単糖類、二糖類および他の炭水化物(グルコース、マンノースまたはデキストリンなど)、タンパク質(血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなど)、着色剤、香料、希釈薬剤、乳化剤、親水性ポリマー(ポリビニルピロリドンなど)、低分子量ポリペプチド、塩形成対イオン(ナトリウムなど)、防腐剤(塩化ベンザルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸または過酸化水素など)、溶媒(グリセリン、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなど)、糖アルコール(マンニトールまたはソルビトールなど)、懸濁化剤、界面活性剤または湿潤剤(プルロニクス、PEG、ソルビタンエステル、ポリソルベート20またはポリソルベート80などのポリソルベート、トリトン、トロメタミン、レシチン、コレステロールまたはチロキサパルなど)、安定性向上剤(スクロースまたはソルビトールなど)、等張性向上剤(アルカリ金属ハロゲン化物など、好ましくは塩化ナトリウムまたは塩化カリウムまたはマンニトールソルビトールなど)、デリバリービヒクル、希釈剤、賦形剤および/または薬学的アジュバント(例えば、内容を本明細書に援用するREMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES (18th Ed., A.R. Gennaro, ed., Mack Publishing Company 1990および同書の以後の版を参照のこと)があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0100】
当業者であれば、例えば、意図される投与経路、デリバリー形式および所望の投与量に応じて、本明細書に開示される改変ポリペプチド、融合タンパク質または多価の多重特異性融合タンパク質を含む医薬組成物を開発することができる。
【0101】
本明細書に開示される改変ポリペプチド、融合タンパク質、多価の多重特異性融合タンパク質は、例えば、半減期が長くなり得るため、いくつかの実施形態では、循環するように投与してもよい。それ自体、改変ポリペプチド、融合タンパク質または多価の多重特異性融合タンパク質が体内循環に入ることができるようにする、静脈内、皮下、注射または注入あるいは他の任意の適切な方法で、投与することができる。そのような医薬組成物の調製は、当業者の知識の範囲内である。
【0102】
本明細書に開示される改変ポリペプチド、融合タンパク質、多価の多重特異性融合タンパク質のいずれも、追加の療法と組み合わせて、すなわち他の薬剤と組み合わせて投与することができる。本明細書で使用する場合、「共投与」という用語は、投与計画の一部としての投与を含めて、本明細書に記載の改変ポリペプチド、融合タンパク質、多価の多重特異性融合タンパク質とアジュバントおよび他の薬剤との同時投与、個別投与または逐次投与のいずれかまたはすべてを含む。
【0103】
本明細書に記載の医薬組成物は、例えば治療薬のデリバリーを改善するための1種類以上の薬剤を含むことができる。追加の薬剤は、例えば、同時注射可能なものとして共投与が可能である。例えば、ヒアルロン酸を分解する薬剤を本明細書に記載の医薬組成物に含めることができ、またはそのような薬剤を本明細書に記載の医薬組成物と共投与して、例えば投与時に本明細書に記載の治療剤の分散および吸収を促進することができる。そのような薬剤の一例に、組換えヒアルロニダーゼがある。
【0104】
医薬組成物は、非経口デリバリー用にも選択することができる。あるいは、組成物は、吸入用または経口などの消化管を介したデリバリー用に選択することができる。そのような医薬組成物の調製は、当業者の知識の範囲内である。
【0105】
持続デリバリーまたは制御デリバリー用の製剤を含む製剤をはじめとして、追加の医薬組成物が当業者には明らかであろう。例えば、リポソーム担体、生体侵食性微粒子または多孔性ビーズ、デポー注射を使用して、持続デリバリーまたは制御デリバリー用の製剤を調製する技術は、当業者に知られている。
【0106】
また、本開示は、本明細書に開示される改変ポリペプチド、融合タンパク質、多価の多重特異性融合タンパク質を含む治療用キットも包含する。いくつかの実施形態では、キットは、乾燥タンパク質の入った第1の容器と水性製剤の入った第2の容器の両方を含む。他の実施形態では、キットは、シングルおよびマルチチャンバーのプレフィルドシリンジ(例えば、液体シリンジおよびリオシリンジ)を含む。
【0107】
また、本開示は、ラベルを含む容器と、本明細書に開示される改変ポリペプチド、融合タンパク質、多価の多重特異性融合タンパク質を含む組成物とを含む製品であって、ラベルが、補体による障害のある患者またはそのような障害が疑われる患者に投与される組成物であることを示す製品を包含する。
【0108】
一実施形態では、本開示は、本明細書に開示される改変ポリペプチド、融合タンパク質または多価の多重特異性融合タンパク質を使用して予防または治療できる少なくとも1種の疾患、病状または障害を予防および/または治療するための方法であって、本明細書に開示される改変ポリペプチド、融合タンパク質または多価の多重特異性融合タンパク質を、それを必要とする患者に、治療的有効量または薬学的有効量で投与することを含む方法を提供する。特定の実施形態では、障害は、例えば、関節リウマチ(RA)、ループス腎炎、喘息、虚血再灌流障害、非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、膜性増殖性糸球体腎炎II型(DDD)、発作性夜間血色素尿症(PNH)、黄斑変性(例えば、加齢黄斑変性(AMD)など)、HELLP症候群、ギランバレー症候群(GBS)、CHAPLE症候群、重症筋無力症(MG)、視神経脊髄炎(NMO)、造血幹細胞移植後の血栓性微小血管障害症(HSCT後TMA)、骨髄移植後TMA(BMT後TMA)、デゴス病、ゴーシェ病、糸球体腎炎、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、自然流産、寡免疫性の血管炎、表皮水疱症、習慣性流産、多発性硬化症(MS)、外傷性脳損傷および心筋梗塞、心肺バイパス、血液透析に起因する損傷などの補体による障害である。
【0109】
治療的に使用される、本明細書に開示される医薬組成物の有効量は、例えば、治療の内容および目的に依存することになる。当業者であれば、治療のための適切な投与量レベルが、ある程度は、デリバリーされる分子、組成物が使用される適応症、投与経路、患者の大きさ(体重、体表面または臓器の大きさ)および病状(年齢と全身の健康)に依存して変わることを理解できるであろう。
【実施例0110】
以下の実施例は、本開示の具体的な実施形態およびその様々な用途の例示である。いずれも説明のみを目的として記載されており、どのような形であろうと本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0111】
実施例1 ラマの免疫化と抗C5 VHHファージライブラリの構築
注射による一次注射から開始し、続いて二次のブーストを起こしてラマを免疫した。簡単に説明すると、ヒト補体タンパク質C5を500μg用いて一次免疫を開始し、その後、2週目(追加免疫1)、4週目(追加免疫2)、8週目(追加免疫3)、12週目(追加免疫4)に、ヒト補体タンパク質C5抗原500μgでの追加免疫を施した。血清力価をELISAで測定したところ、力価は追加免疫3の後が最大で、1:1,000,000希釈で採血前シグナルよりも10倍大きいことが明らかになった。追加免疫3の後の血液試料から、末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。トリパンブルー染色により、細胞生存率が98%であることが明らかになった。PBMCの単離直後に、RNA溶解バッファーで細胞を溶解した。全RNAをPBMCから単離し、ラマ重鎖特異的プライマーを使用してcDNAを合成した。ゲル電気泳動でVH(従来の重鎖)フラグメントからVHH(重鎖のみ)フラグメントを分離した。これらのVHHフラグメントをpADL-10b(Antibody Design Labs,カリフォルニア州サンディエゴ)にクローニングし、DNAライブラリーでTG1細胞を形質転換した。114のコロニーを無作為に配列決定したところ、101(89%)の正しい配列が得られた。このライブラリーを掻爬し、25%グリセロールに懸濁後、-80℃で保存した。
【0112】
実施例2 抗C5 VHHドメインのファージディスプレイパニングおよびスクリーニング
抗ヒト補体タンパク質C5 VHHドメインライブラリーを含むTG1細胞を、カルベニシリン100μg/mLおよび2%グルコースを含む2×YT培地で、37℃で対数期(OD600=0.4~0.8)まで増殖させた。これらの細胞に、振盪ありまたは振盪なしで、37℃で30分間、M13K07ヘルパーファージを感染させた。感染細胞を4000×gで10分間処理してペレット化し、カルベニシリン100μg/mL、カナマイシン50μg/mLおよび1mM IPTGを含む2×YT培地に再懸濁し、30℃および250rpmでの一晩培養によってバクテリオファージを増殖させた。この一晩培養物を4℃で10分間、9000×gで遠心し、氷上で1時間インキュベーションすることにより、ファージを1/5容量のPEG NaCl溶液[20%ポリエチレングリコール6000、1.5M NaCl]で沈降させた。ファージ粒子を4℃で15分間、9000×gで遠心してペレット化し、上清を廃棄した。ファージ粒子をスーパーブロックブロッキングバッファーに再懸濁し、マイクロ遠心チューブにて7500×gで10分間の遠心によって細胞片をペレット化した。ファージ粒子を含む上清を新しいチューブに移し、上述したようにしてファージを再沈殿させた。濃縮されたファージ粒子を70℃で1時間加熱を試みた。加熱前後のファージの力価を、対数期のTG1細胞による感染と、カルベニシリン100μg/mL、カナマイシン50μg/mLおよび2%グルコースを含有する2×YT寒天培地への播種によって決定した。
【0113】
ヒトとカニクイザルの両方の種に対する反応性を持つ、親和性が揃った抗C5 VHHドメインを得るために、ライブラリーの選択基準には、ビオチン化カニクイザル(cyno)補体タンパク質C5による選択と、等モル量の非ビオチン化ヒト補体タンパク質C5との競合を含めた。ファージディスプレイVHHライブラリーを、室温で1時間、Dynabeads(登録商標)M-280ストレプトアビジンで選択解除した。選択解除後のファージ粒子を、ビオチン化カニクイザルC5と非ビオチン化ヒトC5の等モル溶液でDynabeads(登録商標)M-280ストレプトアビジンを用いて室温で30分間インキュベーションすることにより、ヒトおよびカニクイザルのC5と親和性が一致するように選択した。PBSTおよびPBSで5回洗浄後、BSAを1mg/mL含有した0.1Mグリシン(pH2.2)を使用して、ファージをビーズから溶出した。溶出後の上清をpH8.0の1M Trisで中和した。対数期のTG1細胞に中和後のファージを感染させ、2YTCG培地に播種して、アウトプット力価を測定した。アウトプットとインプットの力価を比較して、濃縮比を計算した。比が大きいほど、C5特異的クローンをうまく分離できたことを示唆していた。
【0114】
個々のクローンを採取し、カルベニシリン100μg/mLおよび2%グルコースを含有する2×YT培地の96ウェル深ウェルプレートに接種し、対数期まで増殖させた。細胞にM13K07を感染させ、培養上清で個々のVHHドメインをディスプレイするファージ粒子を作るために30℃で一晩培養した。ストレプトアビジン被覆プレートに捕捉したヒトC5を含む4つの96ウェルプレートでのファージELISAスクリーニングでは、約60%の陽性クローンが示唆された。CDR H3の配列分析に基づいて、76のクローンのうち72のユニークなクローンを代表として選択した。これらの代表的なVHHクローンの配列を表1に示す。クローニングの目的で、N末端とC末端のアミノ酸を修飾し、ヒトVH-3生殖細胞のN末端とC末端のアミノ酸と一致させた。
【0115】
本開示の改変ポリペプチドで使用するのに適したアミノ酸配列には、表1に開示するアミノ酸配列またはそれらのフラグメントが含まれる。
【0116】
[表1]
【0117】
実施例3 抗C5 VHHドメインのクローニングと発現
代表的な抗C5 VHHドメインを哺乳動物の発現ベクターにサブクローニングし、Expi293F細胞においてVHH-Hisタグ融合体として発現させた。細胞生存率が50~60%に低下したら、培養上清を回収した。この上清をSDS-PAGEで還元条件下にて分析した後、クーマシーブリリアントブルーで染色した。Octet(ForteBioInc.)装置でバイオレイヤー干渉法を使用して、発現レベルを計算した。AKTA(GE Healthcare)での固定化金属アフィニティクロマトグラフィー(IMAC)によって、His-タグを付加したVHHドメインを培養上清から精製した。
【0118】
実施例4 抗C5 VHHドメインの結合と機能分析
補体成分C5に対する結合分析 Octet(ForteBio Inc.)装置でバイオレイヤー干渉法を使用して、代表的な抗C5 VHHドメインの配列を決定し、特徴を解析し、ヒト
、カニクイザル(cyno)およびマウスのC5タンパク質への結合について評価した。発現させたVHH-Hisドメインの細胞培養上清を2×カイネティクス緩衝液で濃度20μg/mLに標準化し、抗ペンタHIS(HIS1K)バイオセンサーチップ(ForteBio Inc.)に300秒間かけて捕捉して、センサーチップを完全に飽和させた。次に、飽和したチップを、別々の実験でそれぞれ600秒間、2×カイネティクス緩衝液に50nMの可溶性C5(ヒト、カニクイザルまたはマウス)を加えた溶液に曝露した後、600秒間かけて2×カイネティクス緩衝液に解離させた。ヒトのC5(hC5)またはカニクイザルのC5(cC5)に対する結合が認められたVHHドメインには、表1に「+」の印を示してある。
【0119】
C5拮抗作用の溶血アッセイ 補体古典経路(CCP)により活性化した血清への曝露時に溶解した感作ニワトリ赤血球からのヘモグロビンの放出を、溶血アッセイで測定する。His-タグを付加したVHHドメインをExpi293細胞で発現させた。予備アッセイを使用して機能的抗C5 VHHドメインを選択し、これをIMACで精製した。10の精製VHHドメインを、さまざまな濃度で、感作ニワトリ赤血球のCCPによる溶血を阻害する能力について分析した。
【0120】
このアッセイでは、完全溶血には抗体を使用せず、溶血なしの対照には20mM EDTAを使用しなかった。濃度の異なる(32μg/mL~0.5μg/mL)10のVHHドメインと抗C5 IgG対照(h5G1.1、BNJ441およびEc-CHOと表示)を、0.1mLゼラチンベロナール緩衝生理食塩水(GVB++、カタログ番号B100、Comptech)(20%正常ヒト血清(NHS)含有)とともに、室温にて30分間プレインキュベーションした。ニワトリ赤血球(Lampire Biologicals、カタログ番号7201403)400μLを、1mLのGVB++で4回洗浄し、5×10個/mLの細胞を1:500(v/v)に希釈したウサギ抗ニワトリIgG(カタログ番号203-4139、Rockland)とともにインキュベーションして感作cRBCを調製し、4℃で15分間インキュベーションした。細胞をGVB++で2回洗浄し、最終容積がGVB++ 3.6mLになるように再懸濁した。感作cRBC(細胞2.5×10個)30μLを、プレインキュベーションしたヒト血清および抗体に加え、37℃で30分間インキュベーションした。細胞を4℃で3分間、1700×gで遠心することによりペレット化し、上清(85μL)を新しい平底96ウェルプレートに移した。415nmで吸光度を測定した。VHHドメインと対照抗体の各々について、以下のようにして溶血率を計算した。
【0121】
[数1]
((A415試料-A415溶血なし)/(A415完全溶血-A415溶血なし))×100
式中、A415試料は試料抗体の415nmでの吸光度であり、A415溶血なしは溶血なしの対照(20mM EDTA)の415nmでの吸光度であり、A415完全溶血は完全溶血対照の415nmでの吸光度である。結果を図1に示す。
【0122】
C5aの遊離を阻害するVHHドメインの特定 Meso Scale Discovery (MSD)によるイムノアッセイを使用して、ヒトC5タンパク質の切断(例えば、CAPアクチベーターであるザイモサンに結合させた補体の第二経路C5転換酵素によるC5aの遊離)を測定した。抗C5-VHHドメインを前項のようにして発現させて精製し、hC5aの放出量を測定することにより、ヒトC5タンパク質の切断を遮断する能力について分析した。試料のVHHドメインの最適濃度については、パイロット実験で決定した。試料のVHHドメインと対照抗体(h5G1.1、N19/8、BNJ441およびEc-CHO)を、GVB++緩衝液(ヒトC5タンパク質(最終濃度25nM)(CompTech Inc.)、1%ゼラチンおよび2.5mM NiCl含有)でに37℃で30分間かけて加え、その後使用するまで4℃で保存した。MSD高結合96ウェルプレートに、抗C5a抗体(2μg/mLでBupHリン酸緩衝生理食塩水(ThermoFisher)に溶解)をコーティングし、1時間インキュベーションした。次に、補体の第二経路を活性化するために、ザイモサンを等割合でNHSに加えた。このザイモサンとNHSの混合物を、プレインキュベーションしておいたVHH-hC5溶液に添加し、37℃でインキュベーションした。フサンEDTAを加えることで、異なる時点(0分、30分、60分および90分)で反応を停止した。プレートを3600rpmで2分間遠心し、上清を新しいポリプロピレンプレートに移した。ブロッカーAを室温で1時間かけて添加し、コーティングされたMSDプレートへの非特異的結合を遮断した。MSDプレートを洗浄し、上記の試料の上清を加えた。このプレートを室温で15分間インキュベーションした。検出抗体ビオチンAb2942(Abcam)1μg/mLとストレプトアビジン結合スルホタグ0.5μg/mLの混合物を調製して各ウェルに加え、室温で30分間インキュベーションした。MSD 2x読み取り緩衝液を各ウェルに加え、電気化学発光シグナルを測定した。MSDワークベンチソフトウェアを使用して、生データを分析した。この実験の結果を図2に示す。
【0123】
LCP0115、LCP0146、LCP0295、LCP0296、LCP0297およびLCP0302がC5aの放出を阻害したことから、その後の特徴の解析に使用した。
【0124】
実施例5 Biacoreによる抗C5 VHHドメインのアフィニティ分析
カニクイザルC5との交差反応性に基づいて抗C5 VHHドメインに優先順位を付け、8例の精製抗C5 VHHドメインをBiacoreによるアフィニティ分析の対象とした。最初の候補8例のヒトC5とカニクイザルC5への結合の動力学的パラメーターを表2に示す。8例のアフィニティ分析候補から、5つの抗C5ドメイン(LCP0115、LCP0143、LCP0146、LCP0296およびLCP0302)を選択し、ヒトC5およびカニクイザルC5に対する適合した親和性に基づく以後の分析用に優先順位を付けた。
【0125】
[表2]
【0126】
実施例6 抗C5 VHHドメインのヒト化
優先順位を付けた5つの抗C5 VHHドメイン(LCP0115、LCP0143、LCP0146、LCP0296およびLCP0302)を、ラマ配列との配列類似性を持つヒト生殖細胞へのCDR移植によってヒト化した。CDRは、IMGTとKabatでの定義の中で、より高いアミノ酸位置の一致率に基づく。VHHドメインの安定性を維持するために、ラマFR2ホールマーク残基には復帰突然変異を起こさせた。ヒト化バリアントをExpi293細胞で発現させ、バイオレイヤー干渉法を用いてヒトC5への結合を試験した。
【0127】
いくつかのバリアントの選択されたフレームワークに、親ラマ残基への復帰突然変異をさらに導入し、ヒトC5に対する親和性を改善した。コンストラクトをHEK293F細胞で発現させ、バイオレイヤー干渉法により結合について評価した。親和性をさらに最適化するために、いくつかのバリアントでさらに変異を起こし、N末端をEVQLV(必要な場合、配列番号147)にヒト化し、C末端はWGQGTLVTVSS(必要な場合、配列番号148)にヒト化した。優先順位を付けた抗C5 VHHの得られた候補を以下の表3に示す。これらの候補のCDRを表4に示す。
【0128】
[表3]
【0129】
[表4]
【0130】
ヒト化の評価で選択されたフレームワークに、親ラマ残基への復帰突然変異を導入し、選択されたバリアントの親和力を改善した。復帰突然変異後のバリアントの配列を表5に示す。コンストラクトをHEK293F細胞で発現させ、バイオレイヤー干渉法により結合について評価した。
【0131】
[表5]
【0132】
実施例7 ヒト血清アルブミンに結合するVHHドメインの単離
アルブミンは、血清に豊富に含まれるタンパク質であり、糸球体濾過バリアによる濾過によって除去されないだけの十分な分子量を持つ。細胞内分解による血清からのアルブミン除去は、低pHで生じるFcRnとアルブミンとの相互作用によって阻害される。この相互作用により、アルブミンFcRn複合体が形質膜に戻され、形質膜で血液の中性寄りのpHに曝露されると、アルブミンが放出されて血中に戻る。
【0133】
抗HSA VHHを作製するための過程の概要
抗C5 VHHドメインおよび抗HSA VHHドメインについて、免疫したラマのB細胞から免疫バイアスVHH抗HSAファージディスプレイライブラリを作製した。HSAに対するエンドポイント力価が1,000,000を超えたら、PBMCを回収し、RNAを単離し、VHH領域を遺伝的に単離した。実施例2~4の抗C5 VHHドメインで詳細に説明したように、これらの抗HSA VHH配列をpIII融合ファージミドにクローニングし、6×10個の独立したクローンのライブラリーを得た。標準的なファージディスプレイパニング技術を使用して、HSAおよびCSA(カニクイザル血清アルブミン)に対して反応性のVHHドメインを選択した。3ラウンドのパニングの出力を、ELISAおよびサンガーシーケンスで分析した。並行して、次世代シーケンシング(NGS)を使用して、元のライブラリー内の配列の集団、またはパニングによって富化された配列の集団を調べた。合計約1000個のクローンを分離し、これらの方法を使用して分析した。
【0134】
ラマの免疫化とVHHファージライブラリの構築 ラマをHSAで免疫した。一次免疫は、完全フロイントアジュバントと混合した500μgの抗原で構成した。2週目、4週目、8週目、12週目に、不完全フロイントアジュバントで500μgの抗原の追加免疫を施した。各追加免疫の約2週間後に、血液サンプルで血清力価をモニターした。血液サンプルをELISAにより分析し、免疫応答の力価を決定した。抗HSA血清力価は、1:100,000希釈の事前採血より20倍高いシグナルで検出されたため、500mLの作製血を処理して、RNAの単離およびライブラリー作製用の約7×10個のPBMC
を得た。PBMCの全RNAをフェノール/クロロホルム抽出で精製した後、シリカスピンカラムで精製し、RNaseフリー水で全RNAを溶出した。OD260/280比を決定し、アガロースゲル電気泳動により、RNAの品質を評価した。ラマ重鎖特異的リバースプライマーを使用してcDNAを合成した。ゲル電気泳動により、VH(従来の重鎖)フラグメントからVHH(重鎖のみ)フラグメントを分離した。
【0135】
VHHフラグメントをSfiI部位で修飾し、pADL-10bにクローニングし、DNAライブラリーをTG1細胞に形質転換した。ライブラリー用に合計6×10個の独立したクローンを得た。すべてのクローンを回収し、使用するまで25%グリセロール中-80℃で保存した。正しいリーディングフレームを持つインサートの存在、一意性、プライマー配列の存在についての105個のクローンの分析によって、ライブラリーの品質を検証した。
【0136】
ファージディスプレイのパンおよびスクリーニング 3.75×1010個の細胞を含む抗HSA VHHライブラリーのグリセロールストックのアリコートを、2%グルコースおよびカルベニシリン100μg/mLを含有する2×YT培地で培養した。OD600が約0.6になるまで、細胞を約250rpmで振盪しながら37℃で増殖させた。ヘルパーファージを感染多重度(MOI)20で加え、培養を振盪せずに30分間インキュベーションし、続いて37℃で振盪しながら30分間インキュベーションした。細胞を回収し、カルベニシリン25μg/mL、カナマイシン50μg/mLおよび200μM IPTGを追加した2×YT培地に再懸濁した。培養を30℃および250rpmで一晩振盪した。培地を遠心分離により清澄化し、1/4量の10%PEG-8000/2.5M NaClの添加および氷上での30分間のインキュベーションによりファージを沈降させた。SLA3000ローターにおいて4500℃で15分間、7500rpmで遠心することによりファージをペレット化した。ペレットをスーパーブロック(Thermo Scientific、37515)に再懸濁した。
【0137】
ファージのアリコートを室温で30分間M280ストレプトアビジンビーズ(Life Technologies、11205D)で選択解除し、磁石を使用してビーズを除去し、ファージ含有上清を新しいエッペンドルフチューブに移した。ファージにビオチン化HSA10μgを加え、室温で30分間回転させながらインキュベーションした後、M280ストレプトアビジンビーズを加えてビオチン化HSAを固定した。PBS/0.05%Tween洗浄緩衝液でビーズを11回洗浄し、pH2.7の0.1Mグリシンで溶出した後、溶出緩衝液をpH9.0の1M Trisで中和した。溶出したファージを対数ファージTG1細胞にレスキューし、250cm×250cmのLBカルベニシリン、2%グルコーストレイで増殖物を回収した。ファージレスキューのアリコートの連続希釈により力価を決定した。第2ラウンドのパニングは、選択のために第1ラウンドの増殖物のアリコートおよび5μgのビオチン化HSAを使用して、基本的には上記のように実施した。
【0138】
HSAに対する反応性についてクローンをスクリーニングするために、個々のクローンを96ウェルのプレートに採取し、カルベニシリン100μg/mLおよび2%グルコースを含有する容量250μLの2×YTにて37℃で一晩培養した。5μLの高密度一晩培養物を250μLの新鮮な培地に移すことにより、各ウェルを継代培養した。ローリングサークル増幅シーケンス解析のためにアリコートを用い、コードされたインサートを決定した。細胞をOD600が約0.6になるまで増殖させた後、MOI20で1時間M13ヘルパーファージを加えた。遠心分離により細胞を回収し、カルベニシリン100μg/mLおよびカナマイシン50μg/mLを加えた、1ウェルあたり250μLの2×YTで培地を置き換えた。次に、プレートを250rpmで振盪しながら30℃で一晩インキュベーションした。培地を遠心分離により清澄化し、ELISAアッセイで使用するためのファージ上清を調製した。
【0139】
ELISA分析のために、ストレプトアビジンでコートし、予めブロックした96ウェルプレート(Pierce、15500)を、振盪しながら室温で30分間、ビオチン2μg/mLとともにインキュベーションした。プレートを洗浄した後、室温で1時間ブロッキングを繰り返した。プレートを再度洗浄し、清澄化上清50μLを室温で30分間加えた。プレートを3回洗浄した後、ブロッキングバッファー中の抗M13 HRP抗体(GE Healthcare、カタログ番号27-9421-01)とともに室温で30分間インキュベーションした。プレートを4回洗浄した後、1ステップUltra TMB ELISA試薬(Thermo Scientific、カタログ番号34029)を加え、発色させ、2M硫酸停止溶液を使用して反応を止めた。BioRad iMarkプレートリーダーを使用して、OD450の読み値を測定した。
【0140】
NGSを使用して、元のライブラリー内の配列の集団、またはパニングによって富化された配列の集団を調べた。NGSの場合、最初のライブラリー、1回目のパニング、2回目のパニングの増殖物からファージミドDNAを分離した。ファージミドから制限消化によってVHHカセットを切り出し、アガロースゲル電気泳動によりVHHをコードするバンドを分離し、DNAアフィニティーカラムを使用してDNAを精製した。このDNAを、MiSeq 2×300プラットフォームでのライブラリーの作製と分析に供した。
【0141】
実施例8 HSAに結合するVHHドメインの発現および精製
上記の方法論を使用して選択されたVHH配列を、N末端シグナルペプチドおよびC末端6×Hisタグ(配列番号324)で合成し、哺乳動物の発現コンストラクトにクローニングした。GeneBlocks(Integrated DNA Technologies)の合成および標準的な哺乳動物発現ベクターへの挿入クローニングによって、公開されたMSA21 VHHドメイン(国際公開第WO2004/062551号A2)および個々のクローンの遺伝子修飾バージョン(脱グリコシル化またはヒト化)を調製した。これらのコンストラクトを293expi細胞にトランスフェクトし、トランスフェクションの96時間後に上清を回収した。上清をPBSで透析し、標準的なクロマトグラフィー法を使用してVHH-Hisタンパク質を精製した。精製タンパク質をPBSに緩衝液交換し、ODおよび吸光係数を使用して定量化した。
【0142】
実施例9 可溶性HSA、CSAおよびマウス血清アルブミンに結合する固定化VHHドメインの特徴解析
293 expi発現系で産生されたタンパク質および112のVHH配列について、哺乳動物の発現ベクターを作製した。まず、VHH配列をSDS PAGEおよびクーマシー染色によって分析し、既知の標準に対するおおよその濃度を決定した。次に、上清濃度を標準化し、Octet HTX(Pall/ForteBio)でバイオレイヤー干渉測定を行った。ペンタHisセンサーをカイネティクス緩衝液に60秒間曝露し、ベースライン測定値を確立した。次に、センサーにVHH-His含有上清を300秒間ロードした後、カイネティクス緩衝液中120秒間で2番目のベースラインを確立した。次に、チップをカイネティクス緩衝液中100nM HSAまたはCSAとともに600秒間インキュベーションし、さらに600秒間で解離を測定した。
【0143】
分析した112個のVHHドメインのうち、12個のドメインがビオチン化HSAへの結合を示し、3つのクローン(HAS040、HAS041およびHAS042)がビオチン化CSAとビオチン化HSAの両方と相互作用した。これらの12個の抗HSA VHHドメインの配列を、その1つ以上のヒト化バージョンを含めて表6に示し、これらの抗HSA VHHドメインのCDRを表7に示す。
【0144】
[表6]
【0145】
[表7]
【0146】
実施例10 Biacoreによるアルブミン結合動態の特徴解析
Biacore 3000装置でSPRを使用して、HSAまたはCSAに対するVHHドメインHAS040およびHAS041の結合動態を決定した。デオキシリボオリゴヌクレオチドを含むビオチンCAPture試薬で飽和したCAPチップ(GE Healthcareから入手)にビオチン化アルブミンを捕捉した。精製VHHドメインの濃縮物を、流量50μL/分で5分間注入した。VHHドメイン1つあたり3つの濃縮物を評価した。結合した検体を600秒間で解離させた。濃縮のつど、6M塩酸グアニジン/0.25M NaOHを10μL/分で2分間注入することにより、チップ表面を再生した。1:1のラングミュアモデル(ローカルRmaxおよび定数RI)および二重参照減算(試料濃縮サイクルからの緩衝液濃縮サイクルの減算および並行参照フロー細胞の減算)を使用して、HBS-EP緩衝液中pH7.4およびpH6.0で反応動態を決定した)。MSA21 VHHドメイン(国際公開第WO2004/062551号A2)(配列:
LEQVQLQESGGGLVQPGGSLRLSCEASGFTFSRFGMTWVRQAPGKGVEWVSGISSLGDSTLYADSVKGRFTISRDNAKNTLYLQMNSLKPEDTAVYYCTIGGSLNPGGQGTQVTVSS(配列番号322)
を調製し、これらのアッセイにおけるコンパレーターとして使用した。
【0147】
このアッセイの結果を表8に示す。結合親和性は0.3~5nMの範囲で観察され、HAS040およびHAS041ドメインがpH6とpH7.4の両方で半減期の延長を促進するのに十分な親和性を有することが示された。さらに、これらのVHHドメインは非常に類似した親和性でCSAとHSAへの結合を示し、霊長類で行われる半減期延長試験の予測的性質を高めた。
【0148】
[表8]
【0149】
実施例11 VHHおよびFcRnによる非競合的アルブミン結合の実証
エンドサイトーシス小胞からのアルブミンのリサイクルは、FcRnとの相互作用によってなされる。したがって、VHHがHSAとFcRnの相互作用を妨げるか否かを判断することが重要であった。HAS040およびHAS041 VHHドメインがFcRnと同一のエピトープに結合するか否かを判断するために、抗HSA VHHドメインで飽和したHSAへのFcRnの結合を、HBS-EP緩衝液中pH6.0でBiacore 3000装置にて分析した。HSAをCM5チップに直接固定して、アミンカップリングを使用して250RU(共鳴ユニット)の目標密度に達した。VHHドメインを約1~10μg/mLに希釈し、注入して飽和状態にした(50μL/分で3分間)。ある濃度のFcRnをHSA:VHH表面に注入し、50μL/分で5分間の反応動態を得た。再生前に180秒間、解離させた。100μL/分で25mM NaOHを20μL注入することで、チップ表面を再生した。1:1のラングミュアモデル(ローカルRmaxおよび定数RI)および二重参照減算(試料濃縮サイクルからの緩衝液濃縮サイクルの減算および並行参照フロー細胞の減算)を使用して、反応動態を決定した。
【0150】
結果を図7に示す。図7Aでは、FcRnとHSA飽和表面との直接相互作用により、30RUの応答差が生じた。HSAとMSA21(ADL021)(図7B)、HAS040(図7C)またはHAS041(図7D)との複合体で飽和した表面に400nM FcRnを注入すると、同様のRUが得られた。これらのデータに基づいて、HAS040およびHAS041はFcRn結合を妨害せず、アルブミンとFcRnとの相互作用を介してエンドソームからリサイクルされると予想される。
【0151】
実施例12 抗C5および抗アルブミン二重特異性融合タンパク質の作製
抗C5 VHHドメインを抗アルブミンドメインに融合し、二重特異性分子を作製した。4通りのリンカー長(G4S)3(配列番号106)、(G4S)4(配列番号107)、(G4S)5(配列番号108)および(G4S)6(配列番号109)および抗アルブミンドメインの2つの異なる向き(N末端またはC末端)を評価した。コンストラクトをHEK293F細胞で発現させ、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーを使用して精製した。精製後の融合分子を、Biacore実験で評価した。ヒトC5をビオチン化してbiacoreチップに固定し、精製後の二重特異性分子を注入してチップを飽和させた後、3通りの濃度のヒト血清アルブミンを注入して反応動態を求めた。ヒト血清アルブミンに対する実測親和性を、異なるリンカー長を比較するためのプロキシとして使用した。(G4S)3(配列番号106)を、二重特異性融合を生成する最適なリンカー長として選択した。N末端またはC末端の抗アルブミン融合体も同じ実験で評価した。異なる向きが、異なる抗C5 VHHドメインに最適であることが明らかになった。表9では、コンストラクトのN対C末端の向きをコンストラクト名の下に記載し、(C5/HSA)は抗C5ドメインが抗HSAドメインのN末端に位置することを示す。同様に、(HSA/C5)は、抗HSAドメインが抗C5ドメインのN末端に位置することを示す。
【0152】
最適なリンカー長を選択した後、2つの異なる抗アルブミンドメインに融合したヒト化抗C5 VHHドメインを使用して、一連の異なる二重特異性融合分子を作製した(表8に示す)。これらのコンストラクトをExpi293細胞で発現させ、プロテインAクロマトグラフィーを使用して精製した。精製後の二重特異性融合タンパク質を溶血アッセイで試験した。結果を図3Aおよび図3Bに示す。
【0153】
[表9]
【0154】
結合および機能アッセイに基づいて、4つの二重特異性分子CRL0483、CRL0484、CRL0499およびCRL0500に優先順位を付けた。CRL0483、CRL0484、CRL0499およびCRL0500のヒトC5への結合についてのBiacore親和性測定値を表10に示し、機能的評価を図3図4図5に示す。これらの4つの二重特異性分子を、カニクイザルのin vivo薬物動態試験で評価した。
【0155】
[表10]
【0156】
実施例13 二重特異性融合タンパク質の薬物動態分析
カニクイザルに精製タンパク質を10mg/kgで静脈内投与または皮下投与した。被験物質ごとに各用量群3匹のサルを使用した。各コンストラクトに対するシグネチャペプチドを使用したLC MSベースの定量によって、二重特異性分子の薬物動態特性を測定した。PKプロファイルを図6に示し、パラメーターを表11に記載しておく。
【0157】
[表11]
【0158】
二重特異性融合タンパク質のバリアントリンカー配列も作製した。これらのバリアントリンカー配列を有する配列を表12に示す。
【0159】
[表12]
【0160】
実施例14 様々なペプチドリンカー配列
HAS042(配列番号26)アルブミン結合ドメインおよびCRL0305(配列番号11)ヒト化抗C5 VHHを使用して、コンストラクトを作製した。評価したコンストラクトを表13にあげておく。
【0161】
[表13]
【0162】
表13に列挙した26のコンストラクトを発現させ、ヒトC5およびアルブミンへの結合(表13-オクテット結合)、凝集体の生成、疎水性(HIC HPLC)およびグリコシル化(エレクトロスプレー質量分析)について融合タンパク質を評価した。オクテット分析では、ビオチン化したヒトC5をCAPチップで捕捉した後、被験二重特異性分子を注入した。その後、さまざまな濃度のアルブミンを注入した。pH7.4で反応動態を決定した(Biacore 3000)。すべての二重特異性分子がC5とアルブミンの両方に結合し、それぞれがアルブミンに対して類似の親和性(5~6nM)を有していた。
【0163】
in vitro溶血アッセイにおいて、二重特異性融合タンパク質が溶血を阻害する能力について試験した。データを図9Aおよび図9Bに示す。
【0164】
表14に、ヒトC5(hC5)およびカニクイザルC5(cC5)に結合するCRL0500およびCRL0952の結合動態を示す。
【0165】
[表14]
【0166】
表15は、Plasbumin(登録商標)およびカニクイザルアルブミンへのCRL0500およびCRL0952の結合の結合動態を示す。
【0167】
[表15]
【0168】
実施例15 抗C5 VHHドメインのpH依存性結合
抗C5 VHHドメインLCP0115、LCP0143、LCP0146、LCP0302のすべてのCDRでヒスチジンスキャンを実施した。CDRの各位置で、単一のヒスチジン置換を行った(太字の下線付きテキストで表示)。バリアントをExpi293細胞培養でトランスフェクトし、pH7.4、6.0および5.5でのpH依存性結合を評価した。抗体ごとにいくつかのバリアントがpH依存性の結合を示した。これらのバリアントを表16に列挙し、それらのpH依存性結合応答を図11A図11Dに示す。
【0169】
[表16]
【0170】
pH依存性結合について特定された単一のヒスチジン変異を組み合わせ、pH感受性を高めた。これらのバリアントの配列を表17に示す。これらのバリアントをpH依存性結合のバイオレイヤー干渉法で評価し、結果を図12Aおよび図12Bに示す。
【0171】
[表17]
【0172】
実施例16 抗C5および抗アルブミン二重特異性融合体の作製
抗C5 VHHドメインを抗アルブミンドメインに融合し、二重特異性分子を作製した。4通りのリンカー長(G4S)3(配列番号106)、(G4S)4(配列番号107)、(G4S)5(配列番号108)および(G4S)6(配列番号109)および抗アルブミンドメインのおよび抗アルブミンドメインの2つの異なる向き(N末端またはC末端)を評価した。作製した分子の配列を表18に示す。コンストラクトをHEK293F細胞で発現させ、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーを使用して精製した。精製後の融合分子を、Biacore実験で評価した。ヒトC5をビオチン化してbiacoreチップに固定し、精製後の二重特異性分子を注入してチップを飽和させた後、3通りの濃度のヒト血清アルブミンを注入して反応動態を求めた。ヒト血清アルブミンに対する実測親和性を、異なるリンカー長を比較するためのプロキシとして使用した。(G4S)3(配列番号106)を、二重特異性融合を生成する最適なリンカー長として選択した。N末端またはC末端の抗アルブミン融合体も同じ実験で評価した。異なる向きは、異なる抗C5 VHHドメインに最適であることが明らかになった。
【0173】
[表8]
【0174】
pH依存性結合ありまたはなしの状態で、ヒト化抗C5 VHHドメインを用いて一連の異なる二重特異性融合分子を作製した。抗C5 VHHドメインを2つの異なる抗アルブミンドメインに融合させ、二重特異性分子を作製した(表9に示す)。これらのコンストラクトをHEK293F細胞で発現させ、プロテインAクロマトグラフィーを使用して精製した。精製後の二重特異性融合体を溶血アッセイで試験した。結果を図3A図3Dに示す。
【0175】
結合および機能アッセイに基づいて、4つの二重特異性分子CRL0483、CRL0484、CRL0499およびCRL0500に優先順位を付けた。CRL0483、CRL0484、CRL0499およびCRL0500のヒトC5への結合についてのBiacore親和性測定値を表10に示し、機能的評価を図5図6図7に示す。これらの4つの二重特異性分子を、カニクイザルのin vivo薬物動態試験で評価した。
【0176】
実施例17 二重特異性融合分子の薬物動態分析
カニクイザルに精製タンパク質を10mg/kgで静脈内投与または皮下投与した。被験物質ごとに各用量群3匹のサルを使用した。各コンストラクトに特異的なシグネチャペプチドを使用したLC MSベースの定量アッセイによって、二重特異性分子の薬物動態を測定した。PKプロファイルを図6Aおよび図6Bに示し、パラメーターを表20に記載しておく。
【0177】
[表20]
【0178】
本開示では様々な実施形態を説明したが、当業者には変形例および改変例が思い浮かぶことが理解される。したがって、添付の特許請求の範囲は、そのような等価の変形例をすべて網羅するものとする。加えて、本明細書で使用した各項の見出しは編成目的だけのものであり、説明した主題を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0179】
本明細書で説明した実施形態は、逆である旨が別途明示されない限り、他の実施形態と組み合わせてもよい。特に、好ましいまたは有利であると示された特徴または実施形態は、逆である旨が別途明示されない限り、好ましいまたは有利であると示された他の特徴または実施形態と組み合わせることができる。
本出願で引用した参考文献を、いずれも明示的に本明細書に援用する。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図12A
図12B
【配列表】
2023120208000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2023-06-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト補体成分C5に特異的に結合する改変ポリペプチドと、ヒト血清アルブミンに特異的に結合する改変ポリペプチドとを含む融合タンパク質であって、
ヒト補体成分C5に特異的に結合する前記改変ポリペプチドが、ヒト血清アルブミンに特異的に結合する前記ポリペプチドに、直接またはペプチドリンカーを介して融合されている、融合タンパク質。
【外国語明細書】