(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120222
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】車両の電気駐車ブレーキシステムによりパッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力を推定する方法、及びこのような方法を実施する車両の電気駐車ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
B60T 8/171 20060101AFI20230822BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20230822BHJP
F16D 66/00 20060101ALI20230822BHJP
F16D 65/18 20060101ALI20230822BHJP
F16D 121/24 20120101ALN20230822BHJP
F16D 125/22 20120101ALN20230822BHJP
【FI】
B60T8/171 Z
B60T13/74 G
F16D66/00 Z
F16D65/18
F16D121:24
F16D125:22
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023089012
(22)【出願日】2023-05-30
(62)【分割の表示】P 2020504104の分割
【原出願日】2018-07-27
(31)【優先権主張番号】102017000086468
(32)【優先日】2017-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(71)【出願人】
【識別番号】501016696
【氏名又は名称】ブレンボ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】BREMBO S.P.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】ステファノ・ドッシ
(72)【発明者】
【氏名】アルフォンソ・トランティーニ
(72)【発明者】
【氏名】ジュリオ・カラマイ
(72)【発明者】
【氏名】ジャンマルコ・ラッロ
(72)【発明者】
【氏名】シモーネ・フォルメンティン
(72)【発明者】
【氏名】セルジオ・マッテオ・サヴァレージ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】車両の電気駐車ブレーキシステムによりパッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力を推定する方法を提供する。
【解決手段】車両の電気駐車ブレーキシステムは、ブレーキキャリパのパッド対のパッドに動作可能に接続され、前記ブレーキキャリパの前記パッド対とブレーキディスクとの間に制動力を付与するように、前記ブレーキキャリパの前記パッド対を押し付けるように作動させることが可能なピストンと、電動機の回転運動を前記ピストンの直線運動に変換するように構成された電気機械機構により、前記ピストンに動作可能に接続された電動機と、データ処理ユニットと、電動機の電気量を検出するためのセンサを備え、前記センサにより前記電動機に供給される電流及び前記電動機に給電するための電圧の瞬間値を、駐車ブレーキ操作中に検出し、瞬間制動力値を決定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(1)の電気駐車ブレーキシステム(100)によりパッド(4)とブレーキディスク(3)との間に付与可能な制動力を推定する方法(200)であって、
前記車両(1)は、
少なくとも第1の移動部材(2)と、
前記少なくとも第1の移動部材(2)に取り付けられた第1のブレーキディスク(3)と、
前記第1のブレーキディスク(3)に動作可能に関連付けられ、前記第1のブレーキディスク(3)に制動力を付与するように作動されるように構成された第1のパッド対を備える第1のブレーキキャリパ(4)と、を備え、
前記システム(100)は、
前記第1のブレーキキャリパ(4)の前記第1のパッド対の第1のパッドに動作可能に接続され、前記第1のブレーキキャリパ(4)の前記第1のパッド対と前記第1のブレーキディスク(3)との間に制動力を付与するように、前記第1のブレーキキャリパ(4)の前記第1のパッド対を押し付けるように作動させることが可能な第1のピストン(5)と、
電動機(6)であって、前記電動機(6)の回転運動を前記第1のピストン(5)の直線運動に変換するように構成された電気機械機構(7)により、前記第1のピストン(5)に動作可能に接続された電動機(6)と、
前記電動機(6)のアクチュエータに動作可能に接続されたデータ処理ユニット(8)と、
前記データ処理ユニット(8)に動作可能に接続され、前記電動機(6)の電気量を検出するための1つ以上のセンサ(10)と、を備え、
前記電動機(6)の電気量の前記1つ以上のセンサ(10)により、前記電動機(6)に供給される電流i(t)及び前記電動機(6)に給電するための電圧v(t)の瞬間値を、駐車ブレーキ操作中に検出するステップ(201)であって、前記駐車ブレーキ操作は、前記駐車ブレーキ操作の開始を表す第1の時点(t1)と、前記第1のブレーキキャリパ(4)の前記第1のパッド対の前記第1のパッドと前記第1のブレーキディスク(3)との間の接触の開始を表す第2の時点(t2)との間である、前記第1のブレーキキャリパ(4)の前記第1のパッド対と前記第1のブレーキディスク(3)との間の第1の非接触段階(F1)を含み、前記駐車ブレーキ操作は、更に、前記第2の時点(t2)と、前記駐車ブレーキ操作の終了を表す第3の時点(t3)との間である、前記第1のブレーキキャリパ(4)の前記第1のパッド対と前記第1のブレーキディスク(3)との間の第2の接触段階(F2)を含み、前記第2の時点(t2)と前記第3の時点(t3)との間の前記第2の接触段階F2において、更なる設定時点(ts)が定められる、検出するステップ(201)と、
推定時点における瞬間制動力値を、前記第2の時点(t2)と前記推定時点との間で検出された前記電流i(t)と前記第2の時点(t2)と前記推定時点との間で検出された前記電圧v(t)とに基づいて、前記更なる設定時点(ts)から前記データ処理ユニット(8)により決定するステップ(202)と、を含む方法(200)。
【請求項2】
前記瞬間制動力値は、前記推定時点において、前記更なる設定時点(ts)から前記データ処理ユニット(8)により、前記第2の時点(t2)と前記推定時点との間に検出された前記電流i(t)と、前記第2の時点(t2)と前記推定時点との間に検出された前記電圧v(t)との線形関数として決定される、請求項1に記載の方法(200)。
【請求項3】
前記瞬間力値は、前記推定時点において、前記更なる設定時点(ts)から前記データ処理ユニット(8)により、前記第2の時点(t2)と前記推定時点との間に検出された前記電流i(t)の積分と、前記第2の時点(t2)と前記推定時点との間に検出された前記電圧v(t)の積分との関数として決定される、請求項1に記載の方法(200)。
【請求項4】
前記更なる設定時点(ts)から前記データ処理ユニット(8)により前記推定時点における前記瞬間制動力値を決定可能な、前記第2の時点(t2)と前記推定時点との間に検出された前記電流i(t)の積分と、前記第2の時点(t2)と前記推定時点との間に検出された前記電圧v(t)の積分との関数は、線形型関数である、請求項3に記載の方法(200)。
【請求項5】
前記決定するステップ(202)は、前記データ処理ユニット(8)により、このような線形関数の複数の線形係数を計算するステップ(203)を含み、そのそれぞれは、前記第1の時点(t1)と前記更なる設定時点(ts)との間で検出された前記電動機(6)の前記電流i(t)の傾向及び前記電圧v(t)の傾向を表す複数のパラメータと、係数行列との線形関数として計算される、請求項4に記載の方法(200)。
【請求項6】
前記計算するステップ(203)は、前記データ処理ユニット(8)により、前記第1の時点(t1)と前記更なる設定時点(ts)との間で検出された前記電動機(6)の前記電流i(t)の傾向及び前記電圧v(t)の傾向を表す前記複数のパラメータを計算するステップ(204)を含む、請求項5に記載の方法(200)。
【請求項7】
前記係数は、パッドとブレーキディスクとの間の前記瞬間制動力値が力センサにより提供される駐車ブレーキ方法の動作試験の結果と、パッドとブレーキディスクとの間の前記瞬間制動力値が、駐車ブレーキシステムによりパッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力を推定する方法により提供される駐車ブレーキ方法の結果とを相互に比較することで、オフラインで事前に計算され、前記制動力の実際の測定値に対して前記制動力の推定により生じる誤差を最小化する、請求項6に記載の方法(200)。
【請求項8】
駐車ブレーキ方法(300)であって、
車両(1)の電気駐車ブレーキシステム(100)のデータ処理ユニット(8)により、駐車ブレーキ要求を受信するステップ(301)と、
前記データ処理ユニット(8)により制御可能なアクチュエータにより、前記システム(100)の電動機(6)を作動させるステップ(302)であって、前記システム(100)の電磁機構(7)は、電動機(6)の回転運動を、前記車両(1)のブレーキキャリパ(4)の第1のパッド対に推力を付与するように構成された第1のピストン(5)の直線運動に変換し、前記車両(1)の前記ブレーキキャリパ(4)の前記第1のパッド対は、前記車両(1)の少なくとも第1の移動部材(2)に取り付けられた第1のブレーキディスク(3)に制動力を加える、作動させるステップ(302)と、
前記ブレーキキャリパ(4)の前記第1のパッド対と前記第1のブレーキディスク(3)との間に付与される瞬間制動力を前記データ処理ユニット8により推定するステップ(303)であって、請求項1から請求項7のいずれか一項による、車両(1)の駐車ブレーキシステム(100)によりパッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力を推定する前記方法(200)のステップを含む、推定するステップ(303)と、
前記データ処理ユニット(8)により、前記瞬間制動力の推定値を基準制動力と比較するステップ(304)と、を含み、
前記瞬間制動力の推定値が前記基準制動力よりも低い場合、前記作動させるステップ(302)に進み、
前記瞬間制動力の推定値が前記基準制動力値に等しい場合、前記データ処理ユニット(8)により前記電動機(6)を停止するステップ(305)を含む、方法(300)。
【請求項9】
車両(1)の電気駐車ブレーキシステム(100)であって、前記車両(1)は、
少なくとも第1の移動部材(2)と、
前記少なくとも第1の移動部材(2)に取り付けられた第1のブレーキディスク(3)と、
前記第1のブレーキディスク(3)に動作可能に関連付けられ、前記第1のブレーキディスク(3)に制動力を付与するように作動されるように構成された第1のパッド対を備える第1のブレーキキャリパ(4)と、を備え、
前記システム(100)は、
前記第1のブレーキキャリパ(4)の前記第1のパッド対の第1のパッドに動作可能に接続され、前記第1のブレーキキャリパ(4)の前記第1のパッド対と前記第1のブレーキディスク(3)との間に制動力を付与するように、前記第1のブレーキキャリパ(4)の前記第1のパッド対を押し付けるように作動させることが可能な第1のピストン(5)と、
電動機(6)であって、前記電動機(6)の回転運動を前記第1のピストン(5)の直線運動に変換するように構成された電気機械機構(7)により、前記第1のピストン(5)に動作可能に接続された電動機(6)と、
前記電動機(6)のアクチュエータに動作可能に接続されたデータ処理ユニット(8)と、
前記データ処理ユニット(8)に動作可能に接続され、前記電動機(6)の電気量を検出するための1つ以上のセンサ(10)と、を備え、
前記データ処理ユニット(8)は、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の方法(200)のステップを実行するように構成される、車両(1)の電気駐車ブレーキシステム(100)。
【請求項10】
前記データ処理ユニット(8)は、請求項8に記載の方法(300)を実行するように構成される、請求項9に記載の電気システム(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気駐車ブレーキシステムに関し、特に、車両の電気駐車ブレーキシステムによりパッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力を推定する方法、及びこのような方法を実施する車両の電気駐車ブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両の電気駐車ブレーキシステムは、受信した駐車ブレーキ要求コマンド(手動又は自動)に応答して、内部に電動機が存在するアクチュエータを制御するように構成された電子制御ユニットにより構成される。
【0003】
次に、電動機の回転運動は、電気機械運動変換ギア機構により、車両の車輪に動作可能に接続されたブレーキディスクに対してパッドを押し付けるように構成されたピストンの直線運動に変換される。
【0004】
ディスクブレーキ上でのパッドの推力は、安全な駐車ブレーキ作用を確保するように構成された最小付与制動力値に達するまで付与される。
【0005】
パッドとブレーキディスクとの間に付与可能な最小制動力値は、最大車両荷重、道路勾配、ブレーキディスクの物理的形状、及び他の運動学的タイプに関する考慮事項等、車両の特性及びその使用状態に応じて、電子制御ユニットのプログラミングステップ時に決定される。
【0006】
このようなパッドとブレーキディスクとの間に付与される最小制動力値に達すると、電動機は、スイッチオフとなり、設計により不可逆的となる電気駐車ブレーキシステムが車両の駐車を保持する。
【0007】
パッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力が最小付与可能制動力に達する時点をできる限り効果的に検証し、電動機を迅速に停止させ、これにより制動力が継続して不必要に付与され、増加して害を及ぼすのを防止するために、電動機の始動から毎回、パッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力の値を決定することが基本となる。
【0008】
しかしながら、この必要性を満たすために、経済的な理由から、上述したような電気駐車ブレーキシステムに、パッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力を検出するように構成された1つ以上の力センサを装備することはできない。
【0009】
そのため、近年の傾向は、パッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力を間接的に決定する方法を定めることとなっている。
【0010】
先行技術に属する第1の方法は、電子制御ユニットにより、電動機がスイッチオンになった時点から電動機により生成された電流を測定し、この電流値を、テストベンチで得られた経験からパッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力の最小値に対応する、電子制御ユニットのメモリユニットに予め記憶された基準電流値と比較することを想定している。
【0011】
このような基準電流値に達すると、電子制御ユニットは、電動機を停止し、車両の駐車ブレーキは、電気機械式駐車ブレーキシステムの不可逆性により維持される。
【0012】
代わりに、先行技術に属する第2の方法は、電子制御ユニットにより、電動機がスイッチオンになった時点から電動機により生成された電流の測定値を、電気駐車ブレーキシステムの可能初期電源電圧(動作状態)(9V、12、16V等)毎にパッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力の最小値に対応する基準電流値を含む、電子制御ユニットのメモリユニットに予め記憶された表に含まれる基準電流値と比較することを想定している。
【0013】
この場合も、この基準電流値に達すると、電子制御ユニットは、電動機を停止し、車両の駐車ブレーキは、電気機械式駐車ブレーキシステムの不可逆性により維持される。
【0014】
上記の両方の方法は、あまり正確ではなく、車両の電気駐車ブレーキシステムのパッドとブレーキディスクとの間に付与される制動力の最小値のばらつきが大きいという欠点も示す。
【0015】
したがって、パッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力の最小値は、車両の安全上の理由から常に保証する必要があるため、電気駐車ブレーキシステムにより付与可能且つ供給される制動力の最小値のばらつきが大きいことから、電気駐車ブレーキシステム全体に過度のストレスを加えるのに十分な高い基準電流電気値を設定しなければならず、システムを大型化することでのみ収容及び支持可能となり、これにより、そのコンポーネントの一部の寸法及び全体的な生産コストが増加する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、先行技術に関して前述した欠点を少なくとも部分的に解決することを可能にすると共に、特に、車両の電気駐車ブレーキシステムが可能な限りタイムリ且つ安全に介入できるように、小さい寸法及び低コストで高い精度及び信頼性を保証する、車両の電気駐車ブレーキシステムによりパッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力を推定する方法を考案し利用可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このような目的は、請求項1記載の方法により達成される。
【0018】
本発明の他の目的は、このような方法を実施する車両の電気駐車ブレーキシステムである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明による方法及びシステムの他の特徴及び利点は、次の添付図を参照して、例示的で非限定的な例により記載した、以下の好適な実施形態の説明から明らかとなるであろう。
【0020】
【
図1】
図1は、一実施形態による、本発明の方法を実施する、車両の電気駐車ブレーキシステムをブロック図により示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態による、車両の電気駐車ブレーキシステムによりパッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力を推定する方法をブロック図により示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態による、車両用の電気式の駐車ブレーキ方法をブロック図により示す図である。
【
図4】
図4は、
図1の車両の電気駐車ブレーキシステムにおいて動作中に検出可能な電気パラメータの経時的傾向を時間図により示す図である。
【
図5】
図5は、
図1の車両の電気駐車ブレーキシステムの異なる表現を示す図である。
【
図6】
図6は、
図1のシステムの動作モードを表す開ループ制御図である。
【
図7】
図7は、
図1の車両の電気駐車ブレーキシステムにおいて動作中に検出可能な電気パラメータの経時的傾向を時間図により示す図である。
【
図8】
図8は、
図1の車両の電気駐車ブレーキシステムにおいて動作中に検出可能な電気パラメータの経時的傾向を時間図により示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1を参照すると、参照番号100は、本発明の実施形態による車両の電気駐車ブレーキシステムを示し、以下、電気システム又は単にシステムとも呼ぶ。
【0022】
図中の同等又は類似の要素は、同じ参照数字又は英数字により示すことを留意されたい。
【0023】
本明細書において、「車両」という用語は、2つ、3つ、4つ、又はそれ以上の車輪を有する市販型の任意の車両又はオートバイを意味し、
図1には部分的にのみ図示しており、全体を参照番号1により示す。
【0024】
再び
図1の実施形態を参照すると、車両1は、車両1の少なくとも第1の移動部材2(例えば、車輪)を含む。
【0025】
車両1は、更に、少なくとも1つの第1の移動部材2に取り付けられた第1のブレーキディスク3を備える。
【0026】
車両1は、更に、第1のブレーキディスク3と動作可能に関連付けられた第1のブレーキキャリパ4を備える。
【0027】
第1のブレーキキャリパ4は、第1のブレーキディスク3に制動力を付与するために作動されるように構成された第1のパッド対を備える。
【0028】
システム100に戻ると、システムは、更に、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対の第1のパッドに動作可能に接続され、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対と第1のブレーキディスク3との間に制動力を付与することにより制動駐車作用を保証するように、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対を押し付けるように作動させることが可能な第1のピストン5を備える。
【0029】
第1のブレーキディスク3に制動力を付与するために、第1のピストン5は、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対の第1のパッドに直接作用するように構成されている一方、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対の第2のパッドは、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対の第1のパッドの移動による第1のブレーキキャリパ4の本体の反作用により動くように構成されていることに留意されたい。
【0030】
システム100は、更に、電動機6の回転運動を第1のピストン5の直線運動に変換するように構成された
図1に図示した電気機械機構7により、第1のピストン5に動作可能に接続される電動機6を備える。
【0031】
電気機械機構7は、回転運動を直線運動に変換するように構成された複数の歯車、例えば、ねじとナット型の歯車を含む。
【0032】
システム100は、更に、電動機6のアクチュエータ(
図1に図示なし)に動作可能に接続されたデータ処理ユニット8、例えば、マイクロプロセッサ又はマイクロコントローラを備える。
【0033】
システム100は、更に、データ処理ユニット8に動作可能に接続され、データ処理ユニット8により実行可能な1つ以上のプログラムコードを記憶し、前記1つ以上のプログラムコードの実行時にデータ処理ユニット8により処理されたデータを記憶するように構成されたメモリユニット9を備える。
【0034】
システム100は、更に、データ処理ユニット8に動作可能に接続された、電動機6の電気量を検出するための1つ以上のセンサ10を備える。
【0035】
電動機6の電気量は、電動機6に供給される瞬間電流と、電動機6に給電するための瞬間電圧との両方を意味し、共にシステム100から供給される。
【0036】
例として、電動機6の電気的パラメータを検出するための前記1つ以上のセンサ10(
図1に図示)は、少なくとも電流センサ及び電圧センサである。
【0037】
図5は、車両1に関連するシステム100の別の図を示している。
【0038】
図1に用いたものと同じ参照符号を
図5にも用いている。
【0039】
図5において、車両1は、少なくとも1つの第1の移動部材(
図5に図示なし)に取り付けられた第1のブレーキディスク3を備える。
【0040】
車両1は、更に、第1のブレーキディスク3と動作可能に関連付けられた第1のブレーキキャリパ4を備える。
【0041】
更に、第1のブレーキキャリパ4は、第1のブレーキディスク3に制動力を付与するために作動されるように構成された第1のパッド対4’、4”を備える。
【0042】
再び
図5を参照すると、車両1は、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対4’、4”の第1のパッド4’に動作可能に接続され、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対4’、4”と第1のブレーキディスク3との間に制動力を付与することにより制動駐車作用を保証するように、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対4’、4”を押すように作動させることが可能な第1のピストン5を備える。
【0043】
第1のブレーキディスク3に制動力を付与するために、第1のピストン5は、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対4’、4”の第1のパッド4’に直接作用するように構成されている一方、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対4’、4”の第2のパッド4”は、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対4’、4”の第1のパッド4’の移動による第1のブレーキキャリパ4の本体の反作用により動くように構成されていることに留意されたい。
【0044】
図5のシステム100は、更に、電動機6の回転運動を第1のピストン5の直線運動に変換するように構成された
図5に図示した電気機械機構7により、第1のピストン5に動作可能に接続される電動機6を備える。
【0045】
電気機械機構7は、例えば、電動機6の回転運動を第1のピストン5の直線運動に変換するように構成された複数の歯車7’及びボールねじ7”を備える。
【0046】
図5のシステム100は、更に、電動機6のアクチュエータ(
図5に図示なし)に動作可能に接続されたデータ処理ユニット8と、メモリユニット9と、電動機6の電気パラメータを検出するための1つ以上のセンサ10を上述したように備える。
【0047】
図1及び
図5の両方を参照すると、一般に、データ処理ユニット8は、車両の電気駐車ブレーキシステムによりパッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力を推定する方法を実行するように構成される。
【0048】
更に、データ処理ユニット8は、車両1の電気式の駐車ブレーキの方法を実行するように構成される。
【0049】
以下に示すように、車両の電気駐車ブレーキシステムによりパッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力を推定する方法は、より一般的な車両の電気駐車ブレーキ方法の複数のサブステップを表すものであることに留意されたい(
図4)。
【0050】
前述した両方の方法を、
図1に加えて
図2、3、及び4も参照して以下に説明する。
【0051】
両方の方法は、以下、
図2及び3を特に参照して説明する。
【0052】
図1又は
図5のシステム100に戻ると、明細書では、簡潔にするために、車両1の少なくとも1つの第1の移動部材2に取り付けられた第1のブレーキディスク3と接触するように構成された第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対の第1のパッドに対する作用を参照することに留意されたい。
【0053】
図示していない他の実施形態によれば、システム100は、更に、一つ以上のピストンを含んでもよく、一つ以上のピストンは、それぞれの電動機により動作可能であり、それぞれの電動機の回転運動をそれぞれのピストンの直線運動に変換するように構成されたそれぞれの電気機械機構により、それぞれ他のブレーキキャリパの他のパッド対の他のパッドの推力を付与するように構成され、他のブレーキキャリパは、車両1の他のそれぞれの車輪に取り付けられた他のそれぞれのブレーキディスクと接触するように構成されており、これにより、システム100により駐車制動力を付与することができる。
【0054】
次に
図2及び4を参照して、前述したもののような車両の駐車ブレーキシステムによりパッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力を推定する方法300を説明する。
【0055】
最初に、システム100によりパッドとブレーキディスクとの間に付与可能な瞬間制動力値を推定するために、出願者は、費用効率が高い形で、電動機6に供給される瞬間電流i(t)と、電動機6に給電するための瞬間電圧v(t)とを検出し、検出された瞬間電流i(t)及び瞬間電圧v(t)に基づいて、基準制動力値FTと瞬時に比較されるべきパッドとブレーキディスクとの間に付与される瞬間制動力値F(t)を推定することが可能であることに気付いた。
【0056】
ここで説明する開ループ制御は、
図6のブロック図の論理的な観点から例示されており、参照番号601は、電動機6のための制御信号SCを生成するように構成されたコントローラモジュールを示し、電動機6は、次に、電気機械式アクチュエータモジュール602により、図に単に参照符号Fとして示した瞬間制動力値F(t)を生成し、これがパッドとブレーキディスクとの間に付与されて、電気駐車ブレーキ作用が達成される。
【0057】
制御信号SCは、検出された電流i(t)及び電圧v(t)に基づいて推定器モジュール603により生成された、パッドとブレーキディスクとの間に付与された瞬間制動力値の推定値ハット記号付きFと、基準制動力値FTとの瞬時比較に基づいて、コントローラモジュール601により生成される。
【0058】
コントローラモジュール601及び推定モジュール603は、上述したシステム100のデータ処理ユニット8に対応し得るものであり、一方、電気機械アクチュエータモジュール602は、電動機6の回転運動を、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対に作用するように構成されたピストン5の直線運動に変換するように構成された電気機械機構7に対応し得ることに留意されたい。
【0059】
図6の開ループ制御は、システム100の動作状態の変動も考慮し、したがって公称電圧V、温度T、及び摩耗Aの変動も考慮することに留意されたい。
【0060】
次に
図4も参照すると、出願者は、駐車ブレーキ操作を時間的観点から分割することが可能な次の段階も特定している:第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対と、第1のブレーキディスク3との間の第1の非接触段階F1(以下、単に非接触段階とも称する)、及び第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対と第1のブレーキディスク3との間の第2の接触段階F2(以下、単に接触段階とも称する)。
【0061】
第1の非接触段階F1は、電動機6がスイッチオンされる駐車ブレーキ操作の開始時の第1の時点t1(突入段階)から始まり、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対がブレーキディスク6に接触する第2の時点t2までとなる。
【0062】
第2の接触段階F2は、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対がブレーキディスク6と接触する第2の時点t2から始まり、駐車ブレーキ操作の終了に対応する第3の時点t3までとなる。
【0063】
アイドル又はギャップ段階とも呼ばれる場合がある第1の非接触段階F1において、第1のピストン5は、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対の第1のパッドに向かって進んだ後、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対の第1のパッドを第1のブレーキディスク3と接触させるのに必要な推力を付与し、その後、第1のブレーキキャリパ4の本体の反作用により、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対の第2のパッドも第1のブレーキディスク3と接触するように構成される(後続の第2の接触段階F2の開始)ことに留意されたい。
【0064】
したがって、第1の非接触段階F1において、電動機6は空転して、第1のピストン5を第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対の第1のパッドに向かって進めるように構成され、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対とブレーキディスク3との間に接触が明らかに存在しない状態では、如何なる制動力FNも付加しないように構成されている。
【0065】
このため、
図4を参照すると、電動機6に供給される電流i(t)の傾向は、第1の時点t1において検出可能な、電動機6のスイッチオンにより生じる第1の瞬間突入値を除き、電動機6の回転摩擦及び第1のピストン5の前進のみのため、第1の非接触段階F1の継続時間に亘り低い値を有する。
【0066】
力又はクランプ段階とも呼ばれる場合がある第2の接触段階F2において、第1のピストン5は、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対の第1のパッドに接触し、第1のピストン5の推力の下で、第1のパッドは、第1のブレーキディスク3に接触している。
【0067】
その結果、第1のブレーキキャリパ4の本体の反作用により、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対の第2のパッドも、第1のブレーキディスク3と接触する。
【0068】
そのため、第2の接触段階F2において、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対の第1のパッドは、第1のピストン5の作用下で、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対の第1のパッドと第1のブレーキディスク3との間に制動力FNを加えるように構成されている。
【0069】
そのため、第2の接触段階F2において、電動機6は、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対と第1のブレーキディスク3との間に制動力FNを与えるために回転するように構成されている。
【0070】
このため、再び
図4を参照すると、電動機6に供給される電流i(t)の傾向は、第2の接触段階F2の継続時間に亘り、第2の時点t2から始まる増加傾向を有する。
【0071】
再び
図4を参照すると、電動機6に給電するための電圧v(t)の経時的傾向は、代わりに、電動機6がスイッチオンされると、実質的に瞬時に所定の動作値まで増加し、第1の非接触段階F1において実質的に一定のままとなり、第2の接触段階F2では、電動機6に供給される電流i(t)の増加により低下し始める。
【0072】
上記信号の別の例示を
図7に示しており、電動機6に供給される電流i(t)と、電動機6に給電するための電圧v(t)と、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対及び第1のブレーキディスク3間に電動機6により付与される制動力FNとの経時的傾向を示している。
【0073】
図7は、初期時点t0’と第1の時点t1’との間の電動機6のスイッチオン段階(
図4を参照して上述した、参照符号INRで示した突入段階)と、第1の時点t1’と第2の時点t2’の間の第1の非接触段階F1(又は上述したギャップ段階)と、第2の時点t2’と第3の時点t3’との間の第2の接触段階F2(
図4を参照して上述した力又はクランプ段階)と、第3の時点t3’から始まる駐車ブレーキ保持段階HDとを示していることに留意されたい。
【0074】
特に第2の接触段階F2及び
図4を参照して、出願者が、第2の接触段階F2において、第2の時点t2と第3の時点t3との間に含まれ、以下に説明する方法200によれば、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対と第1のブレーキディスク3との間に付与可能な制動力FNの推定が開始される更なる設定時点tsを定義していることに留意されたい。
【0075】
方法200を参照して以下に説明するように、更なる設定時点tsの前に、データ処理ユニット8は、その後の第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対と第1のブレーキディスク3との間の制動力FNの推定において使用されるデータ(変数及び/又はパラメータ)を、第2の時点t2と第2の接触段階F2の更なる設定時点tsとの間の電流i(t)及び電圧v(t)の瞬間的な傾向に基づいて、計算するように構成されている。
【0076】
代わりに、更なる設定時点tsから、データ処理ユニット8は、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対と第1のブレーキディスク3との間の制動力FNを、以前に更なる設定時点tsまでに計算されたデータにも基づいて、推定するように構成されている。
【0077】
したがって、更なる設定時点tsの選択は、制動力FNの推定においてどの程度の精度が得られるべきかと、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対と第1のブレーキディスク3との間の制動力FNの推定をどれだけ迅速に開始するべきかとの間の折衷を表すため、重要であることに留意されたい。
【0078】
実際、更なる設定時点tsが高い(例えば、数百ミリ秒に等しい)場合、データ処理ユニット8は、電流i(t)及び電圧v(t)の傾向に関する情報を、後続の推定で使用すべきデータ(変数及び/又はパラメータ)の計算に基づいてより多く自由に利用可能となり、そのデータの精度は高くなる。しかしながら、制動力FNの推定の開始の遅れは、結果として高い初期値で制動力FNの推定を開始することを意味する。
【0079】
逆に、更なる設定時点tsが上の場合よりも低い(例えば、数十ミリ秒に等しい)場合、データ処理ユニット8は、制動力FNの推定をより早く開始し、初期の低い値から制動力FNを推定し始めることができる。しかしながら、そうすることで、データ処理ユニット8は、後続の推定で使用すべきデータ(変数及び/又はパラメータ)の計算に基づいて自由に利用可能な電流i(t)及び電圧v(t)の傾向に関する情報は少なくなり、結果としてデータの精度は低くなる。
【0080】
次に
図2を参照すると、方法200は、開始のシンボリックステップSTを含む。
【0081】
繰り返すと、車両1は、少なくとも第1の移動部材2と、少なくとも1つの第1の移動部材2に取り付けられた第1のブレーキディスク3と、第1のブレーキディスク3と動作可能に関連付けられた第1のブレーキキャリパ4と、を備える。第1のブレーキキャリパ4は、第1のブレーキディスク3に制動力を付与するために作動されるように構成された第1のパッド対を備える。
【0082】
更に、システム100は、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対の第1のパッドに動作可能に接続され、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対と第1のブレーキディスク3との間に制動力を付与するように、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対を押し付けるように作動させることが可能な第1のピストン5と、電動機6の回転運動を第1のピストン5の直線運動に変換するように構成された電気機械機構7により、第1のピストン5に動作可能に接続された電動機6と、電動機6のアクチュエータに動作可能に接続されたデータ処理ユニット8と、データ処理ユニット8に動作可能に接続された、電動機6の電気量を検出するための1つ以上のセンサ10と、を備える。
【0083】
方法200は、データ処理ユニット8に動作可能に接続された電動機6の電気量の1つ以上のセンサ10により、電動機6に供給される電流i(t)及び電動機6に給電するための電圧値v(t)を、駐車ブレーキ操作中に検出する第1のステップ201を含む。
【0084】
駐車ブレーキ操作は、駐車ブレーキ操作の開始を表す第1の時点t1と、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対及び第1のブレーキディスク3間の接触の開始を表す第2の時点t2との間である、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対と第1ディスク3との間の第1の非接触段階F1(アイドル又はギャップ段階)を含む。
【0085】
駐車ブレーキ操作は、更に、第2の時点t2と、駐車操作の終了を表す第3の時点t3との間に含まれる、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対と第1のブレーキディスク3との間の第2の接触段階F2(力又はクランプ段階)を含む。
【0086】
駐車ブレーキの保持段階は、
図7を参照して既に定めた第3の時点t3から保証されることに留意されたい。
【0087】
第2の時点t2と第3の時点t3との間の第2の接触段階F2中に、更なる設定時点tsが定められる。
【0088】
方法200に戻ると、更に、推定時点における瞬間制動力値を、第2の時点t2と推定時点との間で検出された電流i(t)と第2の時点t2と推定時点との間で検出された電圧v(t)とに基づいて、更なる設定時点tsからデータ処理ユニット8により決定するステップ202を含む。
【0089】
実際、電気駐車ブレーキシステム、即ち電動機を備えたシステムの適用範囲にある場合、出願者は、ピストンと(回転から直線への)変換動作用の電気機械機構により電動機がパッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力は、適切に簡略化すれば、基本的な運動学及び電動機の方程式から導出可能であり、前段落で示したように、電流i(t)及び電圧v(t)に基づいて表現し得ることに気付いた。
【0090】
特に、図示していない実施形態において、上記と組み合わせて、瞬間制動力FN値は、推定時点において、更なる設定時点tsからデータ処理ユニット8により、第2の時点t2と推定時点との間に検出された電流i(t)と、第2の時点t2と推定時点との間に検出された電圧v(t)との線形関数として決定される。
【0091】
上記とは別の図示していない他の実施形態によれば、瞬間制動力FN値は、推定時点において、更なる設定時点tsからデータ処理ユニット8により、第2の時点t2と推定時点との間に検出された電流i(t)の積分と、第2の時点t2と推定時点との間に検出された電圧v(t)の積分との関数として決定される。
【0092】
実際、出願者は、適切に簡略化すれば基本的な運動学及び電動機の方程式から導出可能な、ピストンと(回転から直線への)変換動作用の電気機械機構により電動機がパッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力は、前段落で述べたように、電流i(t)の積分及び電圧v(t)の積分の関数として実際に表現し得ることに気付いた。
【0093】
図示していない他の実施形態において、上記のものと組み合わせて、更なる設定時点(ts)からデータ処理ユニット8により推定時点における瞬間制動力値を決定し得る、第2の時点t2と推定時点との間に検出された電流i(t)の積分と、第2の時点t2と推定時点との間に検出された電圧v(t)の積分との関数は、線形型関数である。
【0094】
図2の実施形態に戻ると、方法200は、終了のシンボリックステップEDを含む。
【0095】
図に破線により示す実施形態によれば、上述した実施形態と組み合わせて、決定するステップ202は、データ処理ユニット8により、このような線形関数の複数の線形係数θ0~θmを計算するステップ203を含み、そのそれぞれは、第1の時点t1と更なる設定時点tsとの間で検出された電動機6の電流i(t)の傾向及び電圧v(t)の傾向を表す複数のパラメータτ1~τnと、係数行列αとの線形関数として計算される。
【0096】
この実施形態によれば、上述した関係は、次の式で表現することもできる。
【0097】
【0098】
更に詳細には、計算するステップ203は、データ処理ユニット8により、第1の時点t1と更なる設定時点tsとの間で検出された電動機6の電流i(t)の傾向及び電圧v(t)の傾向を表す複数のパラメータτ1~τnを計算するステップ204を含む。
【0099】
複数のパラメータτ1~τnの計算ステップ204に関して、nが6に等しい場合、以下に留意されたい:
第1のパラメータτ1は、電動機6がスイッチオンされる時の第1の時点t1における突入時の電流i(t)のピーク値として計算され、
第2のパラメータτ2は、第1の時点t1と第2の時点t2との間で電動機6に給電するための電圧v(t)の平均値として計算され、
第3のパラメータτ3は、第1の時点t1及び第2の時点t2の後、第1の非接触段階F1において電動機6に供給される電流値i(t)として計算され、
第4のパラメータτ4は、第1の時点t1及び第2の時点t2の後、第1の非接触段階F1において電動機6に供給される電流値i(t)の処理(例えば分散)として計算され、
第5のパラメータτ5は、第2の時点t2と更なる設定時点tsとの間で電動機6に給電するための電圧v(t)の勾配(時間微分)として計算され、
第6のパラメータτ6は、第2の時点t2と更なる設定時点tsとの間に電動機6に供給される電流v(t)の勾配(時間微分)として計算される。
【0100】
このリストは、非限定的な例として示している。
【0101】
実際、計算するステップ204は、このような複数のパラメータτ1~τnの全て又は一部のみを、得られる推定の精度及び信頼性のレベルの関数として計算することにより実行できることに留意されたい。
【0102】
更に、複数のパラメータτ1~τnのパラメータ数は、システム100のタイプに応じて、利用可能な計算リソースに基づいて削減することができる。
【0103】
他の場合には、複数のパラメータτ1~τnは、上記のリストに追加される他のパラメータ、例えば、第1の時点t1と第2の時点t2との間の電流i(t)の積分値、又は第1の時点t1と後続の10~20msの間の電流i(t)の積分(突入電流ピークの積分)を含んでもよい。
【0104】
複数のパラメータτ1~τnは、システム100全体の動作点、即ち電気機械機構7の電動機6の組立品(ねじとナット型のねじ歯車、第1のピストン5等)を特定することに留意されたい。
【0105】
実際、「動作点」とは、システム100が既に可使時間を有する場合に、システム100に固有の特性のセット(システム効率100、電動機6の特性、電動機6の動作温度、電動機6の可使時間)を意味する。
【0106】
係数行列αに関して、このような係数αは、パッドとブレーキディスクとの間の瞬間制動力値FNが力センサにより提供される駐車ブレーキ方法の動作試験の結果と、パッドとブレーキディスクとの間の瞬間制動力値FNが、
図2を参照して説明したような、駐車ブレーキシステムによりパッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力を推定する方法により提供される駐車ブレーキ方法の結果とを相互に比較することで、オフラインで事前に計算され、これにより、制動力の実際の測定値に対して制動力の推定により生じる誤差を最小化できる。
【0107】
オフラインで計算されると、係数αはシステム100のメモリユニット9に保存される。
【0108】
一実施形態(図示なし)によれば、上述したものの何れかと組み合わせて、決定するステップ202は、次の式を線形関数として利用するステップを含む。
【0109】
【0110】
図8は、計算するステップ204により決定可能な複数のパラメータτ
1~τ
nの非限定的な例として別のリストを示している。
【0111】
この例によれば、nが7に等しい場合、以下に留意されたい:
第1のパラメータτ1は、電動機6がスイッチオンされる時、即ち突入段階中の、第1の時点t0における電流i(t)の突入ピーク値として計算され、
第2のパラメータτ2は、第1の時点t0と第2の時点t1との間、即ち突入段階中の、電流i(t)の積分値として計算され、
第3のパラメータτ3は、第2の時点t1と第3の時点t2との間の第1の非接触段階F1において電動機6に供給される平均電流値i(t)として計算され、
第4のパラメータτ4は、第2の時点t1と第3の時点t2との間の第1の非接触段階F1において電動機6に給電するための平均電圧値v(t)として計算され、
第5のパラメータτ5は、第2の時点t1と第3の時点t2との間の第1の非接触段階F1において電動機6に供給される電流i(t)の分散値として計算され、
第6のパラメータτ6は、第2の接触段階F2中に、第4の時点t3と更なる設定時点tsとの間に電動機6に供給される電流i(t)の勾配(時間微分)として計算され、
第7のパラメータτ7は、第2の接触段階F2中に、第4の時点t3と更なる設定時点tsとの間に電動機6に給電するための電圧v(t)の勾配(時間微分)として計算される。
【0112】
図8において、参照符号t5は、駐車ブレーキ操作を停止するためにコマンドが送信される第5の時点を示していることに留意されたい。
【0113】
次に、
図3を参照して、本発明の実施形態による駐車ブレーキ方法300を説明する。
【0114】
方法300は、上述した車両1の駐車ブレーキシステム100により実行される。
【0115】
方法300は、開始のシンボリックステップSTを含む。
【0116】
方法300は、システム100のデータ処理ユニット8により駐車ブレーキ要求を受信するステップ301を含む。
【0117】
方法300は、更に、データ処理ユニット8により制御されるアクチュエータにより、電動機6を作動させるステップ302を含む。
【0118】
システム100の電気機械機構7は、電動機6の回転運動を、車両1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対に推力を付与するように構成された第1のピストン5の直線運動に変換する。
【0119】
車両1の第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対は、次に、車両1の少なくとも第1の移動部材2に取り付けられた第1のブレーキディスク3に制動力を加える。
【0120】
実際、第1のピストン5は、車両1の第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対の第1のパッドに推力を加えるように構成され、その後、更に第1のブレーキキャリパ4の本体の反作用により、第1のブレーキキャリパ4の第1のパッド対の第2のパッドを第1のブレーキディスク3と接触させるように構成されている。
【0121】
方法300は、ブレーキキャリパ4の第1のパッド対と第1のブレーキディスク3との間に付与される瞬間制動力FNをデータ処理ユニット8により推定するステップ303を含み、推定するステップ303は、異なる実施形態により上述した、車両1の駐車ブレーキシステムによりパッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力を推定する方法200のステップを含む。
【0122】
方法300は、データ処理ユニット8により、瞬間制動力FNの推定値を基準制動力と比較するステップ304を含む。
【0123】
瞬間制動力FNの推定値が基準制動力よりも低い場合、方法300は、作動するステップ302に進む。
【0124】
瞬間制動力FNの推定値が基準制動力値に等しい場合、方法300は、データ処理ユニット8により電動機6を停止するステップ305を含む。
【0125】
これにより、システム100の適切な安全性が保証される。
【0126】
加えて、電気駐車ブレーキシステムの不可逆性により、電動機6のスイッチオフ後に、車両1の駐車を保持することが可能になる。
【0127】
方法300は、終了のシンボリックステップEDを含む。
【0128】
本発明の目的が完全に達成されることに留意されたい。
【0129】
パッドとブレーキディスクとの間に付与可能な制動力を推定する方法は、車両のそれぞれの電気駐車ブレーキシステムの基本的な電動機及び運動学の方程式に基づいている。
【0130】
したがって、システムの物理特性間にはつながりがあるため、推定方法の精度が改善される。
【0131】
推定方法は、パッドとブレーキディスクとの間に加えられる制動力の瞬間値を提供することが可能であり、これにより、付与される制動力の測定値を瞬間毎に提供する力センサの挙動を効果的にシミュレートする。
【0132】
したがって、本発明の目的である方法及びそれぞれのシステムにより、パッドとブレーキディスクとの間に付与される制動力の推定値を取得することが可能となり、これにより寸法が低減され、低コストとなる。
【0133】
更に、電動機に供給される電流の積分と電動機に給電するための電圧の積分を計算するのではなく、電動機に供給される電流の瞬間測定に基づいてパッドとブレーキディスクとの間に付与される制動力を推定する背景技術を参照して説明した方法に対して、本発明の目的である推定方法及びこのような方法を実施するそれぞれのシステムにより、パッドとブレーキディスクとの間に付与される制動力の推定精度を改善することができる。
【0134】
また、推定方法は、大きく異なるシステム動作状態に柔軟に適応可能であるという点で、非常に用途が広い。
【0135】
更に、推定方法は、物理モデルに基づいているため、精度の高い結果が得られる。
【0136】
加えて、推定方法は、物理的だけでなく線形なモデルであるため、キャリブレーションステップ時及び作成中のデータセットに基づいて、様々な目標に対して柔軟且つ堅牢となる。
【0137】
最後に、データ処理ユニットは、推定方法を実行するために第1の低レベル制御ロジックを実行するように構成されると共に、推定方法により瞬時に推定される制動力FNを利用する駐車ブレーキ方法を実行するために第2の高レベル制御ロジックを代わりに実行するように構成されることに留意されたい。
【0138】
この状態により、それぞれの理由から付与する力の目標が異なる上位レベルの制御ロジックと同じキャリブレーションにより、下位レベルの制御ロジックを利用することが可能となる。
【0139】
例えば、第1の状態では、適切且つ安全な駐車を達成するために少なくとも10KNの第1の制動力を付与する必要があり、第2の状態では、代わりに少なくとも15KNの第2の制動力を付与する必要がある車両の場合、付与すべき2種類の制動力があるという事実は、上位の制御ロジックにのみ知られ、下位の制御ロジックは変更されない。
【0140】
このようにして、車両が入り得る状態に応じて目標ブレーキが異なる用途において、同じ推定方法をどれだけ使用できるかについて、より大きな柔軟性が保証される。
【0141】
本発明による推定方法は、電気駐車ブレーキシステムによりパッドとブレーキディスクとの間に付与可能なブレーキの堅牢な制御を可能にする。
【0142】
実際、推定方法は、ブレーキシステムまたは車両の物理的パラメータの知識を全く必要とすることなく、様々な動作状態について収集された実験データに依存している。特に、物理推定モデルには、システムの電動機の瞬間電流i(t)及び瞬間電圧v(t)のみが供給される。
【0143】
本発明による推定方法は、システム100の電気変数のスカラ特性を利用して、システム100の「動作点」(システム100の効率、電動機6の特性、電動機6の電圧及び公称動作温度、電動機6の可使時間)を知ることを可能にする点、また、システム100自体の経時的な動作摩耗とは無関係であるため堅牢である点に留意されたい。
【0144】
当業者は、添付の特許請求の範囲の保護範囲から逸脱することなく、上述した方法及びそれぞれのシステムの変更及び適合化を行ってよく、又は要素を機能的に同等なものと置き換えて、付随する必要性を満たすことができる。可能な一実施形態に属するものとして上述した全ての特徴は、他の説明した実施形態から独立して実施し得る。
【手続補正書】
【提出日】2023-06-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(1)の電気駐車ブレーキシステム(100)によりパッド(4)とブレーキディスク(3)との間に付与可能な制動力を推定する方法(200)であって、
前記車両(1)は、
少なくとも第1の移動部材(2)と、
前記少なくとも第1の移動部材(2)に取り付けられた第1のブレーキディスク(3)と、
前記第1のブレーキディスク(3)に動作可能に関連付けられ、前記第1のブレーキディスク(3)に制動力を付与するように作動されるように構成された第1のパッド対を備える第1のブレーキキャリパ(4)と、を備え、
前記システム(100)は、
前記第1のブレーキキャリパ(4)の前記第1のパッド対の第1のパッドに動作可能に接続され、前記第1のブレーキキャリパ(4)の前記第1のパッド対と前記第1のブレーキディスク(3)との間に制動力を付与するように、前記第1のブレーキキャリパ(4)の前記第1のパッド対を押し付けるように作動させることが可能な第1のピストン(5)と、
電動機(6)であって、前記電動機(6)の回転運動を前記第1のピストン(5)の直線運動に変換するように構成された電気機械機構(7)により、前記第1のピストン(5)に動作可能に接続された電動機(6)と、
前記電動機(6)のアクチュエータに動作可能に接続されたデータ処理ユニット(8)と、
前記データ処理ユニット(8)に動作可能に接続され、前記電動機(6)の電気量を検出するための1つ以上のセンサ(10)と、を備え、
前記電動機(6)の電気量の前記1つ以上のセンサ(10)により、前記電動機(6)に供給される電流i(t)及び前記電動機(6)に給電するための電圧v(t)の瞬間値を、駐車ブレーキ操作中に検出するステップ(201)であって、前記駐車ブレーキ操作は、前記駐車ブレーキ操作の開始を表す第1の時点(t1)と、前記第1のブレーキキャリパ(4)の前記第1のパッド対の前記第1のパッドと前記第1のブレーキディスク(3)との間の接触の開始を表す第2の時点(t2)との間である、前記第1のブレーキキャリパ(4)の前記第1のパッド対と前記第1のブレーキディスク(3)との間の第1の非接触段階(F1)を含み、前記駐車ブレーキ操作は、更に、前記第2の時点(t2)と、前記駐車ブレーキ操作の終了を表す第3の時点(t3)との間である、前記第1のブレーキキャリパ(4)の前記第1のパッド対と前記第1のブレーキディスク(3)との間の第2の接触段階(F2)を含み、前記第2の時点(t2)と前記第3の時点(t3)との間の前記第2の接触段階F2において、更なる設定時点(ts)が定められる、検出するステップ(201)と、
推定時点における瞬間制動力値を、前記第2の時点(t2)と前記推定時点との間で検出された前記電流i(t)と前記第2の時点(t2)と前記推定時点との間で検出された前記電圧v(t)とに基づいて、前記更なる設定時点(ts)から前記データ処理ユニット(8)により決定するステップ(202)と、を含む方法(200)。
【外国語明細書】