(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120229
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】信号対雑音比および信号対バックグラウンド比が改善された誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20230822BHJP
H01J 49/10 20060101ALI20230822BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20230822BHJP
H01J 49/06 20060101ALI20230822BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20230822BHJP
H01J 49/42 20060101ALN20230822BHJP
【FI】
G01N27/62 G
H01J49/10 500
H01J49/00 500
H01J49/06 300
H01J49/00 310
H01J49/04 500
H01J49/42 150
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092104
(22)【出願日】2023-06-05
(62)【分割の表示】P 2019047927の分割
【原出願日】2019-03-15
(31)【優先権主張番号】62/644,896
(32)【優先日】2018-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】399117121
【氏名又は名称】アジレント・テクノロジーズ・インク
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】山田 憲幸
(72)【発明者】
【氏名】清水 恵理奈
(57)【要約】 (修正有)
【課題】誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムにおいて干渉を抑制するようにコリジョン/リアクションセルを動作させるための方法を提供する。
【解決手段】イオンがコリジョン/リアクションセルへ送られる。イオンがセルを出ることを防止するために有効なDCポテンシャル障壁を生成するためにセルの出口に第1の大きさで、DC電位が印加される。DCポテンシャル障壁は、相互作用を実行するために閉じ込め期間中に維持される。閉じ込め期間後、検査対象イオン又はプロダクトイオンは、検査対象イオン又はプロダクトイオンがパルスとしてセル出口を通過することを可能にするのに有効な第2の大きさに出口DC電位を切り換えることにより、質量分析計に送られる。次いで、検査対象イオン又はプロダクトイオンは測定期間中に計数される。相互作用は、イオン-分子反応またはイオン-分子衝突であることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムにおいて干渉を抑制するためにコリジョン/リアクションセルを動作させるための方法であって、
周囲空気を前記コリジョン/リアクションセルへ流入し、
イオンを前記コリジョン/リアクションセルへ送り、前記イオンが検査対象イオンを含み、
前記検査対象イオンを前記周囲空気の酸素分子と反応させてプロダクトイオンを生成し、前記プロダクトイオンが、酸化物イオンであり、前記反応が、前記コリジョン/リアクションセルにおいて干渉イオンの存在下で行なわれ、前記干渉イオンが、前記検査対象イオンの質量対電荷比に等しい質量対電荷比を有し、
前記プロダクトイオンを質量分析計に送り、
前記プロダクトイオンを測定するように前記質量分析計を動作させることを含む、方法。
【請求項2】
以下の特徴、即ち、
前記第2の大きさが前記第1の大きさより負の方であること、
前記第1の大きさが正またはゼロの大きさであり、前記第2の大きさが負またはゼロの大きさであること、
前記第1の大きさが0Vから+100Vの範囲内であること、
前記第2の大きさが-200Vから0Vの範囲内であること、
前記切り換えることが、0.01msから0.1msの範囲の持続時間を有すること、
前記閉じ込め期間が、0msから1000msの範囲の持続時間を有すること、
前記測定期間が、前記パルスのピークのFWHMから前記FWHMの5倍までの範囲の持続時間を有すること、
前記パルスの持続時間が0.01msから1msの範囲内であることの1つ又は複数を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多極イオンガイドに沿って軸方向DC電位勾配を印加することを含み、閉じ込められたイオンが、前記閉じ込め期間中、前記入口を介して前記コリジョン/リアクションセルを出ることが防止される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
閉じ込められた検査対象イオンが前記入口を介して前記コリジョン/リアクションセルを出ることを防止し且つ干渉イオンが前記入口を介して前記コリジョン/リアクションセルに入ることを防止するのに有効な前記閉じ込め期間の少なくとも後半中に、前記入口に入口DC電位を印加すること、
干渉イオンが前記入口を介して、前記コリジョン/リアクションセルに入ることを防止するのに有効な前記測定期間中に、前記入口に入口DC電位を第1の大きさで印加すること、
上記の双方からなるグループから選択されるステップを実行することを含む、請求項1~3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
イオンを、前記入口を介して前記コリジョン/リアクションセルへ送る前に、
前記試料を誘導結合プラズマにさらすことによりイオンを生成すること、
前記試料を誘導結合プラズマにさらすことによりイオンを生成し、前記試料をさらすことが、プラズマトーチを動作させることを含むこと、
前記試料をネブライザ又はスプレーチャンバから前記プラズマトーチへ流入し、前記プラズマトーチにより生成された誘導結合プラズマに前記試料をさらすことによってイオンを生成することからなるグループから選択されたステップ(単数または複数)を実行することを含む、請求項1~4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
前記検査対象イオンが、第1の質量の第1の検査対象イオンであり、前記干渉イオンが、第1の干渉イオンであり、前記閉じ込め期間が、第1の持続時間の第1の閉じ込め期間であり、前記パルスが第1のパルスであり、前記検査対象イオンは、前記第1の質量と異なる第2の質量の第2の検査対象イオンを更に含み、
前記第1のパルスに含まれる前記第1の検査対象イオンを測定後、前記第1の持続時間と異なる第2の持続時間の第2の閉じ込め期間にわたって前記第1の大きさで前記出口に前記出口DC電位を再び印加し、
前記第2の閉じ込め期間中、前記衝突/反応ガスを、前記第2の検査対象イオンに干渉する第2の干渉イオンと反応させ、又は干渉を抑制するために、前記衝突/反応ガスを前記第2の検査対象イオンと反応させ、
前記第2の閉じ込め期間後、前記出口DC電位を前記第2の大きさに切り換えることにより、第2のパルスを前記質量分析計に送り、
前記第2のパルスに含まれる前記第2の検査対象イオン、又は前記第2の検査対象イオンから形成されたプロダクトイオンを測定することを更に含む、請求項1~5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
以下のこと、即ち、
前記第1の検査対象イオンの化学的識別性に基づいて前記第1の持続時間、及び前記第2の検査対象イオンの化学的識別性に基づいて前記第2の持続時間を選択すること、
前記第1の閉じ込め期間中、前記衝突/反応ガスを前記コリジョン/リアクションセルへ流量で流入し、前記第2の閉じ込め期間中、前記衝突/反応ガスを前記コリジョン/リアクションセルへ同じ流量で流入することの少なくとも1つを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
試料を分析するための方法であって、
前記試料から検査対象イオンを生成し、
請求項1~7の何れかに記載された前記コリジョン/リアクションセルへ前記検査対象イオンを送り、
請求項1~7の何れかに記載された方法に従って前記コリジョン/リアクションセルを動作させ、
前記検査対象イオン又は前記プロダクトイオンを前記質量分析計の質量分析器へ送ることを含む、方法。
【請求項9】
誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムであって、
プラズマを生成し且つ前記プラズマにおいて検査対象イオンを生成するように構成されたイオン源と、
請求項1~8の何れかに記載された前記コリジョン/リアクションセルと、
電子プロセッサ及びメモリを含み、請求項1~8の何れかに記載された方法のステップを制御するように構成されたコントローラとを含む、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2018年3月19日に出願され、「INDUCTIVELY COUPLED PLASMA MASS SPECTROMETRY (ICP-MS) WITH IMPROVEDSIGNAL-TO-NOISE AND SIGNAL-TO BACKGROUND RATIOS」と題する米国仮特許出願第62/644896号の35 U.S.C. §119 (e)の下で恩典を請求しており、当該米国仮特許出願の内容は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は概して、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)に関し、特にコリジョン/リアクションセルを利用するICP-MSに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)は、試料中の微量金属の濃度を測定するような、試料の元素分析のために利用されることが多い。ICP-MSシステムは、試料の分子を原子へ分解し、次いで元素分析に備えて原子をイオン化するためのプラズマを生成するプラズマベースのイオン源を含む。一般的な動作において、液体試料は、ネブライザ(一般にニューマティック支援型からなる)により霧状にされ、即ちエアロゾル(微細な噴霧またはミスト)に変換され、エアロゾル化した試料がプラズマ源により生成されたプラズマプルームへ送られる。プラズマ源は、2つ以上の同心管を有する流入(flow-through:フロースルー)プラズマトーチとして構成されることが多い。一般に、アルゴンのようなプラズマ形成ガスがトーチの外管を流れ、適切なエネルギー源(一般に、無線周波数(RF)をエネルギー源とする負荷コイル)によりプラズマへ付勢される。エアロゾル化した試料は、トーチの同軸中心管(又はキャピラリ)を流れて、生成されたままのプラズマへ放出される。プラズマにさらされることにより、試料の分子は原子へ分解され、又は代案として試料の分子は部分的に分子断片へ分解され、原子または分子断片がイオン化される。
【0004】
一般に正に帯電された結果としての検査対象イオンは、プラズマ源から抽出され、イオンビームとして質量分析器へ送られる。質量分析器は、それらの質量対電荷(m/z)比に基づいて異なる質量のイオンをスペクトル的(分光的)に分解するために、時間的に変化する電場、又は電場と磁場の組み合わせを印加し、イオン検出器が、質量分析器からイオン検出器に到着する所与のm/z比の各タイプのイオンをカウント(計数)することが可能になる。代案として、質量分析器は、飛行管の中を通って押し流されるイオンの飛行時間を測定し、それからm/z比が導出され得る飛行時間型(TOF)分析器であることができる。次いで、ICP-MSシステムは、質量(m/z比)のピークのスペクトルとして取得されたようにデータを提示する。各ピークの強度は、試料の対応する元素の濃度(存在度)を示す。
【0005】
分析が試みられる検査対象イオンに加えて、プラズマは、バックグラウンド(非検査対象)イオンを生成する。干渉(妨害)イオンと呼ばれる特定のタイプの非検査対象イオンは、特定のタイプの被検物質の分析を妨げる可能性がある。干渉イオンは、プラズマ形成ガス(例えば、アルゴン)、試料のマトリックス成分、試料に含まれる溶剤/酸、又はシステムへ混入された空気(酸素および窒素)から生成されるかもしれない。例えば、干渉イオンは、検査対象イオンと同じ公称の質量を有する同重体の干渉物質であるかもしれない。特定の検査対象イオンの検出と共に係る干渉イオンを検出することは、分析データにおけるスペクトルの重複につながり、それにより分析の品質が低下する。干渉イオンの例は、双方のイオンが質量スペクトルにおいてm/z=56で出現するので鉄同位体56Fe+に干渉するアルゴン酸化物40Ar16O+のような多原子イオン、及び双方のイオンがm/z=40で出現するのでカルシウム同位体40Ca+に干渉するアルゴン40Ar+を含む。
【0006】
スペクトル干渉の問題に対処する及びICP-MSシステムの性能を改善するための既知の手法は、マトリックスの分離における改善、低温プラズマ技術の使用、及び分析データの処理における数学的補正方程式の使用を含む。これら手法は既知の限界を有する。当該問題に更に対処するために、ICP-MSシステムにおいてイオン源と質量分析器との間にコリジョン/リアクションセルを設けることも知られている。当該セルは、当該セルの中心軸に沿ってイオンビームを収束するイオンガイドを含む。当該セルは、衝突ガス又は反応ガスで満たされる。衝突ガス(例えば、ヘリウム、He)の使用は、多原子イオン干渉が抑制され得る運動エネルギー弁別(KED)に依存する。当該セル内の検査対象イオン及び多原子干渉イオンの双方は、衝突ガス分子との複数の衝突を受け、運動エネルギー(KE)を失い、ひいては結果として減速する。しかしながら、多原子イオンは、検査対象イオンより大きな横断面を有するので、多原子干渉イオンは、検査対象イオンよりも大きい数の衝突を受け、ひいてはより多くの運動エネルギーを失う。コリジョン/リアクションセルの外側の質量分析器の四重極電極を、セルのイオンガイドより数ボルト正の方へバイアスすることによってのような、正の大きさの直流(DC)ポテンシャル障壁が形成される。DCポテンシャル障壁の大きさは、より低いエネルギーの干渉イオンが質量分析器に入ることを阻止するのに十分に高く設定されるが、より高いエネルギーの検査対象イオンが、干渉イオンのない質量分析器に入ることを可能にするのに十分に低い。このように、質量スペクトルデータに対する干渉イオンの寄与が抑制される。
【0007】
代案として、当該セルは、反応ガスで満たされる。反応ガスの化学的性質に依存して、使用するために選択された反応ガスは、干渉イオン又は検査対象イオンと反応する。干渉イオンと反応する場合、反応は、干渉イオンを非干渉イオンに変換する(干渉イオンの質量を、検査対象イオンの質量に干渉しない質量に変更することにより)、又は干渉イオンを中和する。検査対象イオンと反応する場合、実際において反応は、元の干渉イオンが干渉しないプロダクトイオンを形成することにより、検査対象イオンの質量をより大きい質量にシフトする。全ての係る場合において、当該セルは、干渉イオン又は検査対象イオンとの反応の十分な効率を得るために、特定の圧力において反応ガスで満たされる。しかしながら、最適な圧力(ガス密度)は、1つの元素から別の元素まで異なることが多い。それ故に、反応ガスの流量(流速)は、元素毎に良好な信号対バックグラウンド(S/B)比を得るために、様々な元素が測定される際に変更されなければならない。
【0008】
従って、改善されたICP-MSシステム、及び干渉の問題に対処するためにICP-MSシステムを動作させるための方法が必要とされ続けている。
【発明の概要】
【0009】
全体的に又は部分的に、上記の問題、及び/又は当業者により認められる得る他の問題に対処するために、本開示は、以下に記載された具現化形態の一例として説明されるような、方法、プロセス、システム、装置、機器、及び/又はデバイスを提供する。
【0010】
一実施形態によれば、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムにおいて干渉を抑制するようにコリジョン/リアクションセルを動作させるための方法は:衝突/反応ガスをコリジョン/リアクションセルに流入し、コリジョン/リアクションセルが、入口、出口、及び入口と出口との間に配置された多極イオンガイドを含み;イオンを、入口を介してコリジョン/リアクションセルへ送り;イオンがコリジョン/リアクションセルを出ることを防止するのに有効なDCポテンシャル障壁を生成するために出口DC電位を出口に第1の大きさで印加し;閉じ込め期間中、出口DC電位を第1の大きさで維持し;閉じ込め期間後、検査対象イオン又は検査対象イオンから生成されたプロダクトイオンがパルス持続時間を有するパルスとして出口を通過することを可能にするのに有効な第2の大きさに出口DC電位を切り換えることにより、検査対象イオン又はプロダクトイオンを質量分析計に送り;パルス持続時間にほぼ等しい持続時間を有する測定期間にわたって検査対象イオン又はプロダクトイオンを測定することを含む。
【0011】
一実施形態において、方法は、閉じ込め期間中、衝突/反応ガスとイオンとの間で相互作用を実行することを含む。相互作用は、質量分析計により測定され得る際に干渉イオン信号強度(イオン信号強度の干渉)を抑制するのに有効であるものであることができる。相互作用は、イオン-分子反応および/またはイオン-分子衝突であることができる。かくして、一実施形態において、相互作用は、干渉イオンを非干渉イオンに又は中性種に変換するのに有効な反応に従って干渉イオンを衝突/反応ガスと反応させること、及びコリジョン/リアクションセルにおいて検査対象イオンを減速し且つ閉じ込めるのに有効な複数回、検査対象イオンを衝突/反応ガスと衝突させることを含む。別の実施形態において、相互作用は、プロダクトイオンを生成するのに有効な反応に従って検査対象イオンを衝突/反応ガスと反応させること、及びコリジョン/リアクションセルにおいてプロダクトイオンを減速し且つ閉じ込めるのに有効な複数回、プロダクトイオンを衝突/反応ガスと衝突させることを含む。
【0012】
別の実施形態によれば、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムのコリジョン/リアクションセルを動作させるための方法は、本明細書で開示された実施形態の何れかに従って構成されたコリジョン/リアクションセルに衝突/反応ガスを流入し;イオンを、入口を介してコリジョン/リアクションセルへ送り;イオンがコリジョン/リアクションセルを出ることを防止するのに有効なDCポテンシャル障壁を生成するために出口DC電位を出口に第1の大きさで印加し;閉じ込め期間中、出口DC電位を第1の大きさで維持し;閉じ込め期間中、イオンを衝突/反応ガスと衝突させ、イオンは、コリジョン/リアクションセルにおいてイオンを減速し且つ閉じ込めるのに有効な複数回の衝突を受け;閉じ込め期間後、閉じ込められたイオンの少なくとも検査対象イオン、又は検査対象イオンから生成されたプロダクトイオンがパルス持続時間を有するパルスとして出口を通過することを可能にするのに有効な第2の大きさに出口DC電位を切り換えることにより、検査対象イオン又はプロダクトイオンを質量分析計に送り;パルス持続時間にほぼ等しい持続時間を有する測定期間にわたって検査対象イオン又はプロダクトイオンを測定することを含む。
【0013】
別の実施形態によれば、試料を分析するための方法は、試料から検査対象イオンを生成し;本明細書に開示された実施形態の何れかに従って構成されたコリジョン/リアクションセルへ検査対象イオンを送り;本明細書に開示された方法の何れかに従ってコリジョン/リアクションセルを動作させ;検査対象イオンを質量分析計の質量分析器へ送ることを含む。
【0014】
別の実施形態によれば、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムは、プラズマを生成し且つプラズマにおいて検査対象イオンを生成するように構成されたイオン源と;コリジョン/リアクションセルであって、イオン源から検査対象イオンを受け取るように構成された入口、コリジョン/リアクションセルの長手方向軸に沿って入口から離隔された出口、及び入口と出口との間に配置され且つ長手方向軸に直交する半径方向にイオンを閉じ込めるように構成された多極イオンガイドを含む、コリジョン/リアクションセルと;出口と連絡する質量分析計と;電子プロセッサ及びメモリを含み、以下の動作、即ち、衝突/反応ガスをコリジョン/リアクションセルに流入し;イオンを、入口を介してコリジョン/リアクションセルへ送り;イオンがコリジョン/リアクションセルを出ることを防止するのに有効なDCポテンシャル障壁を生成するために第1の大きさで出口に出口DC電位を印加し;閉じ込め期間中に出口DC電位を第1の大きさに維持し;閉じ込め期間後、検査対象イオン又は検査対象イオンから生成されたプロダクトイオンがパルス持続時間を有するパルスとして出口を通過することを可能にするのに有効な第2の大きさに出口DC電位を切り換えることにより、検査対象イオン又はプロダクトイオンを質量分析計に送り;パルス持続時間にほぼ等しい持続時間を有する測定期間にわたって検査対象イオン又はプロダクトイオンを測定することを含む動作を制御するように構成されたコントローラとを含む。
【0015】
一実施形態において、ICP-MSシステムのコントローラは、閉じ込め期間中、相互作用を制御するように構成される。一実施形態において、相互作用は、干渉イオンを非干渉イオンに又は中性種に変換するのに有効な反応に従って干渉イオンを衝突/反応ガスと反応させること、及びコリジョン/リアクションセルにおいて検査対象イオンを減速し且つ閉じ込めるのに有効な複数回、検査対象イオンを衝突/反応ガスと衝突させることを含む。別の実施形態において、相互作用は、プロダクトイオンを生成するのに有効な反応に従って検査対象イオンを衝突/反応ガスと反応させること、及びコリジョン/リアクションセルにおいてプロダクトイオンを減速し且つ閉じ込めるのに有効な複数回、プロダクトイオンを衝突/反応ガスと衝突させることを含む。
【0016】
別の実施形態によれば、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムは、プラズマを生成し且つプラズマにおいて検査対象イオンを生成するように構成されたイオン源と;本明細書に開示された実施形態の何れかによるコリジョン/リアクションセルと;電子プロセッサ及びメモリを含み、本明細書に開示された方法の何れかのステップを制御するように構成されたコントローラとを含む。
【0017】
本発明の他のデバイス、装置、システム、方法、特徴および利点は、以下の図面および詳細な説明を考察する際に当業者に明らかである又は明らかになるであろう。係る全ての追加のシステム、方法、特徴および利点は本説明内に含まれること、本発明の範囲内にあること、及び添付の特許請求の範囲により保護されることが意図されている。
【0018】
本発明は以下の図面を参照することによってより良く理解され得る。図面の構成要素は必ずしも一律の縮尺に従っておらず、むしろ本発明の原理を示すことに重点が置かれている。図面において、同様の参照符号は、異なる図の全体にわたって対応する部品を示す。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本開示の一実施形態による、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムの一例の略図である。
【
図2】本開示の一実施形態による、コリジョン/リアクションセル用のイオンガイドの一例の略斜視図である。
【
図3】
図2に示されたイオンガイドの略側面(長手方向)図である。
【
図4】質量分析計により測定され得る際に、測定時間の関数(msの単位)として、イオン強度(秒あたりカウント、即ちcps)Iとして定義されたパルスピークの略図である。
【
図5A】本開示の一実施形態による、閉じ込め期間中のコリジョン/リアクションセルのイオンガイド及びセル出口レンズ、及びイオンガイドの軸方向長さに沿ってセル出口レンズまでのDC電位を示す略図である。
【
図5B】本開示の一実施形態による、
図5Aに示された同じコリジョン/リアクションセル、及び測定期間中のDC電位を示す略図である。
【
図6A】本開示による、閉じ込め期間および後続の測定期間中に、Co
+、Y
+、及びTl
+イオンが導入される、酸素ガスで満たされた本明細書で説明されるようなコリジョン/リアクションセルから生成されたイオンパルスを表す一組の曲線である。
【
図6B】
図6Aに示されたイオンパルスの立ち下がり区間を表す一組の曲線である。
【
図7】コリジョン/リアクションセルにおけるイオン閉じ込め持続期間(又は貯蔵時間または反応時間、msの単位)中の関数として0.1ppbのカルシウム溶液からm/z=40における
40Ca
+イオン信号強度(cpsの単位)、イオン閉じ込め持続期間の関数として脱イオン水(DIW)又はブランクからの干渉バックグラウンド・イオン(
40Ar
+イオン)強度、及びイオン閉じ込め持続期間の関数として計算されたバックグラウンド相当濃度、即ちBEC(pptの単位)を表す一組の曲線である。
【
図8】本開示の一実施形態による、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムにおいてコリジョン/リアクションセルを動作させるための方法の一例を示す流れ図である。
【
図9】
図1に示されたICP-MSシステムのような分光分析システムの一部であることができる又は当該分光分析システムと通信することができるシステム・コントローラ(或いはコントローラ、又はコンピューティング・デバイス)の一例の略図である。
【
図10】本開示の別の実施形態による、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システム、特にトリプル四重極(QQQ)構成を有するシステムの一例の略図である。
【
図11】非浄化周囲空気または浄化周囲空気が
図10に示されたようなICP-MSシステムのリアクションセルへ導入された場合に、
40Ar
+と非浄化周囲空気の成分との間の反応および
40Ar
+と浄化周囲空気の成分との間の反応からそれぞれ生成されたプロダクトイオン(m/z)のイオン強度(cpsの単位)の2つのスペクトルのプロットである。
【
図12】本開示の別の実施形態による、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムのコリジョン/リアクションセルを動作させるための方法の一例を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
本明細書で使用される限り、用語「流体」は、導管を流れることが可能な任意の物質に言及するために一般的な意味で使用される。かくして、用語「流体」は一般に、特別の定めのない限り又は文脈が別段に示さない限り、液体またはガスを意味することができる。
【0021】
本明細書で使用される限り、用語「液体」は一般に、溶液、混濁液、又は乳剤を意味することができる。固体粒子および/または気泡は、液体内に存在することができる。
【0022】
本明細書で使用される限り、用語「エアロゾル」は一般に、ガス状媒質に懸濁された液滴および/または固体粒子の集合を意味する。エアロゾルの小滴または粒子のサイズは一般に、マイクロメートル(μm)のオーダーである。Kulkarni他著、「Aerosol Measurement, 3rd ed」、John Wiley & Sons, Inc. 2011年、821頁を参照。かくして、エアロゾルは、液滴および/または固体粒子、及び液滴および/または固体粒子を混入させる又は担っているガスを含むものとみなされ得る。
【0023】
本明細書で使用される限り、用語「原子化」は、分子を原子に分解するプロセスを意味する。例えば、原子化は、プラズマ助長環境において行なわれ得る。液体試料の場合、「霧化」は、エアロゾルを形成するために液体試料を霧状にすることを必然的に伴うことができ、後にエアロゾルをプラズマにさらす又はプラズマからの熱にさらすことが続く。
【0024】
本明細書で使用される限り、「液体試料」は、液体マトリックスに溶解した又は保持された関心のある1つ又は複数の異なるタイプの被検物質を含む。液体マトリックスは、マトリックス成分を含む。「マトリックス(基質)成分」の例は、以下に限定されないが、水および/または他の溶剤、酸、塩および/または溶解固形物のような可溶性物質、非溶解固形物質または微粒子、及び分析の関心の無い任意の他の化合物を含む。
【0025】
本開示の便宜上、特別の定めのない限り又は文脈が別段に示さない限り、「コリジョン/リアクションセル」は、コリジョンセル、リアクションセル、或いは例えば衝突モードと反応モードとの間で切換え可能であることによりコリジョンセル及びリアクションセルの双方として動作するように構成されたコリジョン/リアクションセルを意味する。
【0026】
本開示の便宜上、特別の定めのない限り又は文脈が別段に示さない限り、「衝突/反応ガス」は、コリジョン/リアクションセル内のイオンと反応せずに係るイオンと衝突するために利用される不活性衝突ガス、又はコリジョン/リアクションセル内で検査対象イオン又は干渉イオンと反応するために利用される反応ガスを意味する。
【0027】
本明細書で使用される限り、用語「検査対象イオン」は一般に、質量スペクトルデータが求められる、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムにより分析されている試料の成分をイオン化することにより生成される任意のイオンを意味する。ICP-MSの具体的状況において、検査対象イオンは一般に、金属、又は希(ノーブル)ガス(例えば、アルゴン)を除いた他の元素の正の単原子イオンであるか、或いは衝突/反応ガスを、金属、又は希ガスを除いた他の元素の正の単原子イオンと反応させることにより生成されたプロダクトイオンである。
【0028】
本明細書で使用される限り、用語「干渉イオン」は一般に、検査対象イオンに干渉する、質量分析システム内に存在する任意のイオンを意味する。干渉イオンの例は、以下に限定されないが、正のプラズマ(例えば、アルゴン)イオン、プラズマ形成ガス(例えば、アルゴン)を含む多原子イオン、並びに試料の成分を含む二重に帯電した同重体および多原子イオンを含む。試料の成分は、検査対象元素、或いは試料または他のバックグラウンド種のマトリックス成分から導出され得るような非検査対象種であることができる。
【0029】
図1は、一実施形態による、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システム100の一例の略図である。一般に、ICP-MSシステムの様々な構成要素の構造および動作は、当業者に知られており、従って、開示されている主題を理解するための必要性に応じて、本明細書で簡潔に説明されるだけである。
【0030】
本例示的な実施形態において、ICP-MSシステム100は一般に、試料導入部104、イオン源108、インターフェース部112、イオン光学部114、イオンガイド部116、質量分析部118、及びシステム・コントローラ120を含む。また、ICP-MSシステム100は、システム100の様々な内部領域を真空にするように構成された真空システムも含む。真空システムは、当該内部領域において所望の内圧または真空レベルを維持し、そのように行なう際にICP-MSシステム100から関心のある検査対象でない中性分子を除去する。真空システムは、
図1の矢印128、132及び136により示されるように、適切なポンプ、及び真空にされるべき領域のポートと連絡する通路を含む。
【0031】
試料導入部104は、分析されるべき試料を供給するための試料供給源140、ポンプ144、試料をエアロゾルに変換するためのネブライザ148、エアロゾル化された試料からより大きな液滴を除去するためのスプレーチャンバ150、及び適切な試料インジェクターを含むことができる、試料をイオン源108に供給するための試料供給導管152を含むことができる。例えば、ネブライザ148は、下向きの矢印により示されるように、試料をエアロゾル化するためにガス源156(例えば、加圧リザーバ)からのアルゴン又は他の不活性ガス(霧化ガス)の流れを利用することができる。霧化ガスは、イオン源108においてプラズマを形成するために利用されるプラズマ形成ガスと同じガスであることができるか、又は異なるガスであることができる。ポンプ144(例えば、蠕動ポンプ、シリンジポンプなど)は、試料供給源140とネブライザ148との間に接続されて、ネブライザ148への液体試料の流れを確立する。試料の流量は、例えば1分当たり0.1から数ミリリットル(mL/分)の範囲内にあることができる。例えば、試料供給源140は、1つ又は複数のバイアル(小瓶)を含むことができる。複数のバイアルは、1つ又は複数の試料、様々な標準溶液、チューニング液、較正液、リンス液などを含むことができる。試料供給源140は、様々なバイアルを切換えるように構成された自動装置を含むことができ、それによりICP-MSシステム100において現在使用するための特定のバイアルの選択が可能になる。
【0032】
別の実施形態において、試料は、ガスであることができ、ネブライザ148を必要としない。別の実施形態において、試料供給源140は、液体またはガスの試料を収容する加圧リザーバである又は当該加圧リザーバを含むことができ、ポンプ144を必要としない。別の実施形態において、試料供給源140は、例えば、液体クロマトグラフィー(LC)又はガス・クロマトグラフィー(GC)機器のような、分析分離機器の出力であることができる。ICP-MSシステムへの試料導入用の他のタイプのデバイス及び手段は、知られており、本明細書で説明される必要がない。
【0033】
イオン源108は、試料を原子化およびイオン化するためのプラズマ源を含む。図示された実施形態において、プラズマ源は、ICPトーチ160のような流入プラズマトーチである。ICPトーチ160は、中央または試料インジェクター164、及び試料インジェクター164の周りに同心円状に配列された1つ又は複数の外管を含む。図示された実施形態において、ICPトーチ160は、中間管168及び最外管172を含む。試料インジェクター164、中間管168及び最外管172は、例えば石英、ホウケイ酸ガラス又はセラミックから構築され得る。代案として、試料インジェクター164は、例えば白金のような金属から構築され得る。ICPトーチ160は、イオン化チャンバ(又は「トーチボックス」)176内に位置する。ワークコイル(負荷コイル又はRFコイルとも呼ばれる)180は、無線周波数(RF)電源185に結合され、ICPトーチ160の排出端部に配置される。
【0034】
動作中、ガス源156は最外管172にプラズマ形成ガスを供給する。プラズマ形成ガスは一般に、必ずしもアルゴンではない。RF電力が、RF電源185によりワークコイル180に印加される一方で、プラズマ形成ガスが中間管168と最外管172との間に形成された環状チャネルを流れ、それによりプラズマ形成ガスがさらされる高周波数の高エネルギー電磁場が生成される。ワークコイル180は、プラズマ形成ガスからプラズマを生成および維持するために有効な周波数および電力で動作する。スパークを利用して、プラズマを最初に生じさせるためのシード電子を提供することができる。結果として、プラズマプルーム184が、ICPトーチ160の排出端部からサンプリングコーン188へ流入する。補助ガスが、試料インジェクター164と中間管168との間に形成された環状チャネルに流されて、放電184の上流端部を試料インジェクター164の端部と中間管168の端部から離れるように保つことができる。補助ガスは、プラズマ形成ガスと同じガスであるか、又は異なるガスであることができる。中間管168及び最外管172へガス(単数または複数)を導くことは、ガス源156から上方へ向けられた矢印により、
図1に示される。試料は、矢印186により示されるように、試料インジェクター164を流れ、試料インジェクター164から放出されて、活性プラズマ184へ導入される。当業者により理解される原理に従って、試料はICPトーチ160の加熱ゾーンを流れ、プラズマ184と最終的に相互作用する際、試料は、乾燥、気化、原子化およびイオン化を受け、それにより検査対象イオンが試料の成分(特に原子)から生成される。
【0035】
インターフェース部112は、大気圧(101.3kPa(760トル))で又はおおよそ大気圧で一般に動作しているイオン源108とICP-MSシステム100の真空領域との間の減圧の第1段階を提供する。例えば、インターフェース部112は、機械的粗引きポンプ(例えば、回転ポンプ、スクロールポンプなど)により例えば約133.3~266.6Pa(1~2トル)の動作真空に維持されることができるが、質量分析器158は、高真空ポンプ(例えば、ターボ分子ポンプなど)により、例えば約1.33×10-4Pa(10-6トル)の動作圧力に維持されることができる。インターフェース部112は、ICPトーチ160の排出端部からイオン化チャンバ176を横切って配置されたサンプリングコーン188、及びサンプリングコーン188から小さい軸方向距離に配置されたスキマーコーン192を含む。サンプリングコーン188及びスキマーコーン192は、互いに及びICPトーチ160の中心軸と位置合わせされた円錐構造体の中心に小さいオリフィスを有する。サンプリングコーン188及びスキマーコーン192は、トーチからのプラズマ184を真空チャンバへ抽出するのに役立ち、また、イオン源108からインターフェース部112に入るガスの量を制限するためのガス伝導性バリヤとしての機能も果たす。サンプリングコーン188及びスキマーコーン192は金属(又は少なくともそれらのアパーチャを画定する先端部が金属であることができる)であることができ、電気的に接地され得る。インターフェース部112に入る中性ガス分子および微粒子は、真空ポート128を介してICP-MSシステム100から排出され得る。
【0036】
イオン光学部114及び後続のイオンガイド部116は、スキマーコーン192と質量分析部118との間の減圧の第2段階に設けられ得る。イオン光学部114は、レンズアセンブリ196を含み、当該レンズアセンブリ196は、インターフェース部112からイオンを抽出し、イオンをイオンビーム106として収束し、イオンをイオンガイド部116へ加速することに役立つ一連の(一般に静電)イオンレンズを含むことができる。イオン光学部114は、適切なポンプ(例えば、ターボ分子ポンプ)により、例えば約0.133Pa(10
-3トル)の動作圧力に維持され得る。
図1に特に示されていないが、レンズアセンブリ196は、イオンビーム106がオフセットを介して操向される状態で、レンズアセンブリ196を通るイオン光学軸がイオンガイド部116を通るイオン光学軸からオフセット(長手方向軸に直交する半径方向において)するように構成され得る。係る構成は、イオン経路からの中性種および光子の除去を容易にする。
【0037】
イオンガイド部116は、コリジョン/リアクションセル(又はセル・アセンブリ)110を含む。コリジョン/リアクションセル110は、軸方向においてセル入口とセル出口との間でセルハウジング187内に配置されたイオンガイド146を含む。本実施形態において、セル入口とセル出口はイオン光学構成要素により設けられる。即ち、セル入口レンズ122がセル入口に配置され、セル出口レンズ124がセル出口に配置される。イオンガイド146は、イオンガイド146の長手方向の共通中心軸に沿って互いに平行に配列された複数(例えば、4本、6本または8本)のロッド電極103を含む線形多極(例えば、四重極、六重極、又は八重極)構成を有する。ロッド電極103はそれぞれ、長手方向軸から半径方向距離に配置され、長手方向軸の回りに互いから円周方向に間隔を置いて配置される。簡単にするために、2つだけの係るロッド電極103が
図1に示される。RF電源(更に後述される)は、ロッド電極103間に二次元のRF電場を生成する既知の方法で、イオンガイド146のロッド電極103にRF電位を印加する。当該RF場は、長手方向軸に対して半径方向にイオンの偏倚を制限することにより、長手方向軸に沿ってイオンビーム106を収束する働きをする。一般的な実施形態において、イオンガイド146は、質量フィルタリングの能力を備えないRFのみのデバイスである。別の実施形態において、イオンガイド146は、当業者により理解されるように、DC電位をRF電位に重畳することにより、質量フィルタの役割を果たすことができる。
【0038】
衝突(コリジョン)/反応(リアクション)ガス源138(例えば、加圧リザーバ)は、セルハウジング187の内部につながる衝突/反応ガス供給導管およびポート142を介してコリジョン/リアクションセル110の内部へ衝突/反応ガスの1つ又は複数(例えば、混合物)を流入するように構成される。ガスの流量は、1分当たりミリリットル(mL/分)又は1分当たりミリグラム(mg/分)のオーダーである。ガスの流量は、コリジョン/リアクションセル110内の圧力を決定する。例えば、セルの動作圧力は、0.133Pa~13.33Pa(0.001トル~0.1トル)の範囲にあることができる。衝突/反応ガスの例は、以下に限定されないが、ヘリウム、ネオン、アルゴン、水素、酸素、水、アンモニア、メタン、フッ化メタン(CH3F)、及び亜酸化窒素(N2O)、並びに上記の組み合わせ(混合物)又は上記の2つ以上を含む。ヘリウム、ネオン及びアルゴンのような不活性(非反応性)ガスは、衝突ガスとして利用される。本開示によるコリジョン/リアクションセル110の動作は、より詳細に後述される。
【0039】
質量分析部118(本明細書において質量分析計とも呼ばれる)は、質量分析器158及びイオン検出器161を含み、減圧の第3(最終)段階を構成する。質量分析器158は、ICP-MSに適した任意のタイプであることができる。質量分析器の例は、以下に限定されないが、多極電極構造(例えば、四重極マスフィルタ、線形イオントラップ、三次元ポール・トラップなど)、飛行時間型(TOF)分析器、磁場型および/または電場型機器、静電的トラップ(例えば、Kingdon, Knight and ORBITRAP(登録商標)トラップ)、及びイオンサイクロトロン共鳴(ICR)トラップ(FT-ICR又はFTMS、ペニング・トラップとしても知られている)を含む。本開示された内容の一態様によれば、コリジョン/リアクションセル110は、(更に後述されるように)イオンパルス又はイオンパケットとしてイオンを放出するように構成されるが、非パルス動作、セクタ機器(例えば、二重収束機器を含む、磁気セクタ及び/又は電気セクタ(扇形電場)を含む)などのために構成された四重極マスフィルタ又は他の多極デバイスのような、コリジョン/リアクションセル110からイオンパルス(単数または複数)を受け取る連続ビーム(例えば、非パルス動作、非トラッピング又は非貯蔵)質量分析機器と連係して利用され得る。イオン検出器161は、質量分析器158から出力された、質量識別されたイオンの流動(又は流れ)を収集および測定するように構成された任意のデバイスであることができる。イオン検出器の例は、以下に限定されないが、電子増倍管、光電子増倍管、マイクロチャネルプレート(MCP)検出器、イメージ電流検出器、及びファラデーカップを含む。
図1の図の便宜上、イオン検出器161(イオンを受け取る少なくとも前方部)は、質量分析器158のイオン出口に対して90度の角度に向けられるように示される。しかしながら、他の実施形態において、イオン検出器161は、質量分析器158のイオン出口と軸上にあることができる。
【0040】
動作中、質量分析器158は、コリジョン/リアクションセル110からイオンビーム166を受け取り、それらの異なる質量対電荷(m/z)比に基づいてイオンを分離または分類する。分離されたイオンは質量分析器158を通過し、イオン検出器161に到着する。イオン検出器161は、各イオンを測定(即ち、検出および計数)し、電子検出器信号(イオン測定値信号)をシステム・コントローラ120のデータ収集構成要素に出力する。質量分析器158により行なわれる質量識別により、イオン検出器161が、他のm/z比を有するイオン(試料の異なる検査対象元素から導出される)とは別に、特定のm/z比を有するイオンを検出および計数することが可能になり、それにより、分析されている各イオン質量(ひいては各検査対象元素)のイオン測定値信号が生成される。様々なm/z比を有するイオンは、順次に検出および計数され得る。システム・コントローラ120は、イオン検出器161から受け取った信号を処理し、検出された各イオンの相対信号強度(存在量)を示す質量スペクトルを生成する。所与のm/z比(従って、所与の検査対象元素)で測定されたそのような信号強度は、ICP-MSシステム100により処理された試料のその元素の濃度に正比例する。このように、分析されている試料に含まれる化学元素の存在が確認されることができ、且つ化学元素の濃度が求められ得る。
【0041】
図1に特に示されていないが、イオンガイド146及びセル出口レンズ124を通るイオン光学軸は、質量分析器158への入口を通るイオン光学軸からオフセットすることができ、イオン光学系は、当該オフセットを介してイオンビーム166を操向するように設けられ得る。この構成により、更なる中性種がイオン経路から除去される。
【0042】
システム・コントローラ(又はコントローラ、又はコンピューティング・デバイス)120は、例えば、試料導入部104、イオン源108、イオン光学部114、イオンガイド部116及び質量分析部118の動作を制御する、並びに真空システム及び様々なガス流量、温度および圧力条件、及び制御を必要とするICP-MSシステム100に設けられた他の試料処理構成要素を制御するような、ICP-MSシステム100の様々な機能面を制御する、監視する及び/又はタイミングをとるように構成された1つ又は複数のモジュールを含むことができる。システム・コントローラ120は、コリジョン/リアクションセル110を動作させるために利用される電気回路(例えば、RF及びDC電圧源)を表す。また、システム・コントローラ120は、イオン検出器161からの検出信号を受け取り、分析中の試料を特徴付けるデータ(例えば、質量スペクトル)を生成する必要に応じて、データ取得および信号分析に関連する他のタスクを実行するように構成され得る。システム・コントローラ120は、本明細書で開示された方法の何れかを実行するための持続性命令を含む持続性コンピュータ可読媒体を含むことができる。システム・コントローラ120は、ICP-MSシステム100の様々な構成要素を動作させる必要に応じて、1つ又は複数のタイプのハードウェア、ファームウェア及び/又はソフトウェア、並びに1つ又は複数のメモリ及びデータベースを含むことができる。システム・コントローラ120は一般に、全体の制御を行なうメイン電子プロセッサを含み、専用制御動作または特定の信号処理タスクのために構成された1つ又は複数の電子プロセッサを含むことができる。また、システム・コントローラ120は、ユーザ入力デバイス(例えば、キーボード、タッチ・スクリーン、マウス、及び同類のもの)、ユーザ出力デバイス(例えば、ディスプレイ画面、プリンタ、可視的表示器または警報、可聴式指示器または警報、及び同類のもの)、ソフトウェアにより制御されるグラフィカル・ユーザ・インターフェース(GUI)、及び電子プロセッサにより読み取り可能な媒体をロードするためのデバイス(例えば、ソフトウェア、データ及び同類のもので具現化された持続性論理命令)のような、1つ又は複数のタイプのユーザ・インターフェース・デバイスも含むことができる。システム・コントローラ120は、システム・コントローラ120の様々な機能を制御および管理するためのオペレーティング・システム(例えば、Microsoft Windows(登録商標)ソフトウェア)を含むことができる。
【0043】
理解されるように、
図1は、本明細書で開示されるICP-MSシステム100のハイレベルな概略描写である。当業者により理解されるように、ICP-MSシステム100が所与の用途に如何にして構成されるかに応じて、実際の具現化形態に必要とされる場合に、追加の構造、デバイス、及び電子回路のような他の構成要素が含まれ得る。
【0044】
例えば、一実施形態において、ICP-MSシステム100は、トリプル四重極ICP-MSシステムとして構成され、ICP-MS/MS(タンデムMS)又はICP-QQQシステムと呼ばれ得る。係る実施形態において、追加の真空チャンバ(図示せず)が、イオン光学部114とイオンガイド部116との間に設けられ、第1の(又は事前セル)四重極マスフィルタQ1(図示せず)が追加の真空チャンバに配置される。この場合の質量分析器158は、第2の(最終)四重極マスフィルタQ2に対応する。四重極マスフィルタは、本明細書において簡単に説明され、当業者には一般に知られている。コリジョン/リアクションセル110のイオンガイド146は、QQQ構成において中央の「Q」に対応するが、本明細書の他の所で記載されるように、四重極の代わりに八重極または六重極であることができる。質量分析器158を含む質量分析部118と同様に、第1の、事前セル・マスフィルタQ1を含む追加の真空チャンバは、第1のマスフィルタが(必要に応じて)単位質量分解能(1Da質量ウィンドウ)で動作することを可能にするために非常に低い圧力(高真空)で動作する。かくして、ガスが充満したコリジョン/リアクションセル110は、第1の、事前セル・マスフィルタQ1を含む真空チャンバ、及び第2の、最終四重極マスフィルタQ2(質量分析器158)を含む質量分析部118の双方よりも高い圧力で動作する。ICP-MSシステム100の真空システムは、適切に選択および構成されたポンプ、ガス通路などを利用することにより、3つの真空段階において異なる圧力状況を維持するように構成される。
【0045】
動作中、第1の、事前セル・マスフィルタQ1は、ターゲットの検査対象イオン質量のみをコリジョン/リアクションセル110へ送る一方で、全ての他のイオン質量を排除するように設定される。結果として、ターゲットの検査対象イオン及びオンマスの多原子干渉イオン(もしあれば)のみが、コリジョン/リアクションセル110に入る。この追加の事前セル質量(マス)選択ステップは、コリジョン/リアクションセル110で生じるイオン-分子反応化学にわたって、より大きな予測可能性、一貫性およびコントロールを提供することができる。例えば、ターゲットでない検査対象イオン及びマトリックス成分イオンを排除することにより、第1の、事前セル・マスフィルタQ1は、コリジョン/リアクションセル110における不要な(及び潜在的に干渉する)プロダクトイオンの形成を防止することができる。次いで、コリジョン/リアクションセル110は、本明細書で説明されるように干渉を除去する。干渉イオンがコリジョン/リアクションセル110においてガスと反応する場合、第2の、最終四重極マスフィルタQ2(質量分析器158)は、ターゲットの検査対象イオンのみをイオン検出器161に送るように設定される。代案として、ターゲットの検査対象イオンがガスと反応する場合、質量分析器158は、ターゲットのプロダクトイオン(係る反応により元の検査対象イオンから導出された)のみをイオン検出器161に送るように設定される。
【0046】
別の実施形態において、事前セル・マスフィルタが設けられるが、それはイオン質量の選択された範囲にまたがる帯域通過ウィンドウ(例えば、10Daのウィンドウ幅)を有する帯域通過フィルタとして動作する。係る実施形態により提供される部分的な質量排除は、幾つかの応用形態において有用であることができる。係る実施形態において、事前セル・マスフィルタは、今上述したようにイオンガイド部116に先行する追加の真空チャンバ(図示せず)に、又はコリジョン/リアクションセル110と共にイオンガイド部116に直接的に配置され得る。
【0047】
事前セル質量選択が必要とされない又は要望されない応用形態において、今説明された事前セル・マスフィルタ(ICP-MSシステムに設けられる場合)は、イオンビームをコリジョン/リアクションセル110へ送ることに役立つRFのみのイオンガイドとして動作することができる。ICP-MSシステムの事前セル・マスフィルタの使用法の例は、Yamada他に対する米国特許第8610053号、及びMcCurdy, Ed, 著、「The Benefits of MS/MS for Reactive Cell Gas Methods in ICP-MS」、Agilent ICP-MSJournal、70号、2017年10月、2-3頁に説明され、それらのそれぞれの内容は、参照により本明細書に全体として組み込まれる。
【0048】
図2は、一実施形態による、イオンガイド246の一例の略斜視図である。
図3は、イオンガイド246の略側面(長手方向)図である。イオンガイド246は、本明細書で説明され
図1に示されたコリジョン/リアクションセル・アセンブリ110のようなコリジョン/リアクションセル・アセンブリの動作のために構成される。イオンガイド246は、セル入口とセル出口との間に配置される。セル入口レンズ222がセル入口に配置されることができ、セル出口レンズ224がセル出口に配置され得る。
【0049】
イオンガイド246は、複数のイオンガイド電極203(又は「ロッド電極」)を含む。イオンガイド電極203は、イオンガイド246の長手方向軸Lの回りに互いから円周方向に間隔を置いて配置される。各イオンガイド電極203は、長手方向軸Lから(長手方向軸に直交する)半径方向距離に配置され、長手方向軸Lにそって延ばされている(細長くされている)。従って、イオンガイド電極203は、セル入口レンズ222の近くにイオンガイド入口207を画定し、イオンガイド出口209は、イオンガイド電極203の軸長だけイオンガイド入口207から軸方向に離隔されて、セル出口レンズ224の近くにあり、軸方向に細長いイオンガイド内部211は、イオンガイド入口207からイオンガイド出口209に延びている。
【0050】
図2は、イオンガイド246が、四重極構成(4本のイオンガイド電極)を有する一実施形態を示す。他の実施形態において、イオンガイド246は、より高次の多極構成、例えば六重極(6本のイオンガイド電極)、八重極(8本のイオンガイド電極)、又は更に高次の多極構成を有することができる。
図2に示されるように、イオンガイド電極203は、円形断面を有する円柱状であることができる。代案として、四重極の場合、イオンガイド内部211に面するイオンガイド電極203の表面は、双曲線の輪郭を有することができる。別の代案として、イオンガイド電極203は、多角形(角柱、例えば正方形、長方形など)断面を有することができる。
【0051】
図3は更に、様々な構成要素にRF及びDC電位を印加するために利用され得る電子回路(電気回路)を概略的に示す。上述された及び
図1に示されたシステム・コントローラ120は、係る電子回路を表しているとみなされ得る。
図3において、電子回路は、電圧源RF+DC1として概略的に示されるような、イオンガイド電極203と連絡する第1のDC源DC1に重畳されるRF源RFを含む。電子回路は更に、セル出口レンズ224と連絡する第2のDC源DC2を含み、セル入口レンズ222と連絡する第3のDC源DC3を更に含むことができる。また、様々なRF及びDC源は、ひとまとめにして「電圧源(単数または複数)」とも呼ばれ得る。
【0052】
動作中、RF+DC1源が、イオンガイド246に二次元の時間的に変化するRF場を生成するのに有効な周波数および振幅で、DCバイアス電位DC1に重畳されたRF電位RF(即ち、RF+DC1)をイオンガイド電極203に印加する。一般に、イオンガイド電極203のそれぞれの対向する対は、電気的に相互接続される。イオンガイド電極203の1つの対向する対に印加されるRF電位は、当業者により理解されるように、イオンガイド電極203の隣接する対向する対に印加されるRF電位(-RF+DC1、
図3に示されず)と180度位相がずれている。RF場はイオンガイド246においてイオンを半径方向に閉じ込め、即ち半径方向におけるイオンの移動を制限し、それによりイオンを、長手方向軸Lに集中されたイオンビームとして収束する。このように、イオンガイド246は、RF場が長手方向軸Lに沿ってイオンを収束するためだけに機能するRFのみのイオンガイドとして動作する。
【0053】
しかしながら、イオンガイド246が四重極電極構造を有する別の実施形態において、異極性±Uを有するDC場が、RF場に重畳されて、イオンガイド246が質量フィルタとして機能することを可能にすることができる。即ち、+RF+U+DC1がイオンガイド電極203の一方の対に印加されることができ、-RF-U+DC1がイオンガイド電極203の他方の対に印加されることができる。既知の原理に従って、合成RF/DC場の動作パラメータ(RF振幅、RF周波数、及びDC振幅)を適切に選択することにより、イオンガイド246は、単一のイオン質量のみ又は狭い範囲のイオン質量(低い質量遮断点から高い質量遮断点まで)がイオンガイド246を通過することを可能にする質量範囲(帯域通過)を課すように構成され得る。質量帯域通過内の質量を有するイオンは、安定した飛翔経路を有し、イオンガイド246の全長を通過することができる。質量帯域通過外の質量を有するイオンは、不安定な飛翔経路を有し、かくして排除される。即ち、係るイオンは、RF閉じ込め場を乗り越え、イオンガイド246を出る可能性なしに、イオンガイド246から除去される。質量帯域通過は、合成RF/DC場の動作パラメータの1つ又は複数を調整することによって調整されることができ、それにより特定のイオン質量(単数または複数)の選択が、任意の所与の時間においてイオンガイド246から送り出されることを可能にする。幾つかの実施形態において、この「スキャニング」機能は、本明細書の他の場所で説明されるように、質量スペクトルデータに対して干渉イオンの寄与を抑制するプロセスを容易にするために実施され得る。
【0054】
一実施形態において、第1のDC源DC1は、長さに沿って一定であるイオンガイド電極203に負のDCバイアス電位を印加する。
【0055】
別の実施形態において、第1のDC源DC1は、イオンガイド電極203の長さに沿って軸方向DC電位勾配を生成するように構成され得る。このために、第1のDC源は、イオンガイド電極203の入口端部と出口端部のそれぞれに結合され得る2つの異なるDC電位、DC1a及びDC1bを供給する。例えば、DC電位DC1a及びDC1bは、導電材料または抵抗材料から作成される、イオンガイド電極203の入口端部と出口端部にそれぞれ結合されることができる。例えば、内容が参照により本明細書に全体として組み込まれる米国特許第6111250号で説明されるように、軸方向DC電位勾配は、イオンガイドロッド間に挿入されるセグメント化されたイオンガイド又は補助的電極を含む他の技術によっても生成され得る。軸方向DC電位勾配の印加は、イオンを順方向に移動させ続け且つイオンがセル入口レンズ222を通ってイオンガイド246を脱出することを防止するために有用であることができる。更に、第2のDC源DC2は、セル出口レンズ224に出口DC電位を印加する。軸方向DC電位勾配に対して更に又は代案として、所望の時間量の間にイオンをイオンガイド246へ伝達した後、セル入口レンズ222に印加されるDC電位DC3は、イオンがセル入口レンズ222を通ってイオンガイド246を脱出することを防止するために、且つ追加のイオンがイオン源108(
図1)からイオンガイドへ送られることを防止するために増加され得る。言い換えれば、セル入口レンズ222に印加されるDC電位DC3は、イオンがセル入口レンズ222を通ってイオンガイド246に入る又はイオンガイド246から出ることを防止するのに有効なDCポテンシャル障壁を形成する第1の大きさと、イオンがイオンガイド246に入ることを可能にするために当該DCポテンシャル障壁を除去(又は低減)する第2の大きさとの間で切換えられ得る。
【0056】
ICP-MSシステムの動作において、理想的にはプラズマベースのイオン源において生成された検査対象イオンのみが、質量分析器に伝達される。しかしながら、本開示において前述されたように、イオン源は、バックグラウンド(非検査対象)イオンも生成し、それらの幾つかは、所与の試料の分析に干渉するという点で「干渉イオン」として働く可能性がある。干渉イオンは、プラズマ形成ガス(例えば、アルゴン)、試料のマトリックス成分、試料に含まれる溶剤/酸、及びシステムへ混入された空気(酸素および窒素)から生成されるかもしれない。幾つかの干渉イオンは、コリジョン/リアクションセルにおいて直接的に生成され得る。上述の通り、干渉イオンの例は、単原子検査対象イオンと同じ質量を有する多原子干渉物質である。特定の検査対象イオン(干渉イオンが干渉する)の検出と共に係る干渉イオンを検出することは、分析データにおけるスペクトルの重複につながり、それにより分析の品質が低下する。
【0057】
本明細書で説明されるコリジョン/リアクションセル110は、干渉イオンを除去(低減または排除)するように構成され、それにより干渉イオンが質量分析器158へ送られることを防止する(又は質量分析器158へ送られる干渉イオンの量を少なくとも低減する)。結果として、コリジョン/リアクションセル110の動作は、ICP-MSシステム100の性能、及びそれにより生成された質量スペクトルデータの品質を改善する。コリジョン/リアクションセル110は、物理的な非反応イオン-分子衝突メカニズム、又は化学的に反応するイオン-分子反応を実施することにより、これを達成することができる。一実施形態において、コリジョン/リアクションセル110は、3つの異なる動作モードで動作する(又は3つの異なる動作モード間で切り換えられる)ように構成され、3つの異なる動作モードは、衝突ガスがコリジョン/リアクションセル110へ流入される衝突モード、反応ガスがコリジョン/リアクションセル110へ流入される反応モード、及び衝突/反応ガスのタイプがコリジョン/リアクションセル110へ流入されない「ガス無し」又は標準モードである。特定のモードの選択は、測定されている検査対象イオン(単数または複数)のタイプ、及びもしあれば除去されるべき干渉イオン(単数または複数)のタイプに依存することができる。「タイプ」によるは、検査対象イオン(例えば、カルシウム、鉄、セレンなど)の化学的(元素的)識別性(同一性)、及び干渉イオン(例えば、Ar+、ArO+、Ar2
+など)の化学的識別性を意味する。他の実施形態において、コリジョン/リアクションセル110は、衝突動作のためだけに(又は主として)、又は反応動作のためだけに(又は主として)構成され得る。
【0058】
ガス無しモードにおいて、コリジョン/リアクションセル110は、検査対象イオンを質量分析器158へ移送するためのイオンガイドとしてのみ利用される。即ち、イオンガイド146は、衝突/反応ガスが無い状態で動作する。ガス無しモードは、干渉を抑制するための衝突動作または反応動作が必要とされないような、干渉イオンが存在しない場合に有用であることができる。
【0059】
衝突モード又は反応モードの動作において、コリジョン/リアクションセル110への衝突/反応ガスの流れは、衝突/反応ガス源138及び衝突/反応ガス供給導管およびポート142を介して確立される。ガス流量は、測定されている特定の元素(検査対象イオン)に対して最適化されるように設定され得る。ガス流量は、例えば除去されることが期待される干渉イオン(単数または複数)のタイプ(単数または複数)及び強度(単数または複数)のような、他の要因に依存することができる。衝突/反応ガスがコリジョン/リアクションセル110へ流入するが、イオンビーム106は、セル入口レンズ122を介してコリジョン/リアクションセル110へ及びイオンガイド146へ送られる。イオンビーム106は、検査対象イオン及び様々な非検査対象イオンの双方を含む。非検査対象イオン種の1つが測定されるべき検査対象イオンと同じm/z比を有する場合、非検査対象イオンは、バックグラウンド・イオンとして検査対象イオンの検出に干渉する。各非検査対象イオン種の形成が分析中の試料、及び試料導入部104及びイオン源108の動作条件に依存するので、イオンビーム106は干渉イオンを含むかもしれないし、又は含まないかもしれない。イオンビーム106がコリジョン/リアクションセル110へ送られている間に、イオンガイド146は、イオンガイド146の中央長手方向軸に沿ってイオンビーム106を半径方向に閉じ込める、上述されたRF閉じ込め場を生成するために能動的にパワー(電力)を供給される。衝突/反応ガスは、イオンガイド146内のイオンビーム106のイオンと相互作用する。コリジョン/リアクションセル110の構成または動作モードに依存して、この相互作用は、イオン-分子衝突またはイオン-分子反応を含む。次いで、結果としてのイオンビーム166は、セル出口レンズ124を介してイオンガイド146及びコリジョン/リアクションセル110を出て、上述されたようにイオンが質量分析を受ける質量分析器158へ送られる。理想的には、この出射イオンビーム166は、入射イオンビーム106からの干渉イオンを全然有さない(又は少なくともはるかに低い濃度)のが当然であり、コリジョン/リアクションセル110において直接的に新たに形成された干渉イオンを全然有さない(又は少なくとも最小量)のが当然である。
【0060】
一実施形態において、反応モードは、検査対象イオン及び干渉イオンと反応ガスの相対反応速度に基づく。例えば、干渉イオンとの反応が発熱性である一方で、検査対象イオンとの反応が吸熱性である場合、干渉イオンとの反応は急速であることができる一方で、反応ガスは、検査対象イオンと有効に反応しない又は検査対象イオンと完全に反応しないかもしれない。生じる(例えば、電荷移動、プロトン移動など)反応の特定のタイプは、利用される反応ガスのタイプ及び除去されるべき干渉イオンのタイプに依存する。一般に、反応は、干渉イオンを非干渉イオン又は中性種に変換する。干渉イオンの非干渉イオンへの変換は、干渉イオンの組成を変更することを含み、それにより干渉イオンの質量が、検査対象イオンの質量と異なる(ひいてはもはや干渉しない)質量に変更される。干渉イオンの中性種への変換の場合、中性種は、電場または磁場により影響を受けない。かくして、中性種は、他の中性ガス分子と共に真空システムにより(例えば、ポート132又はポート136を介して)除去されることができ、いずれにしても質量分析器158に「不可視」である。一例は、アルゴンイオンから水素分子への電荷移動、即ちH2+40Ar+→Ar+H2
+を介して、カルシウム同位体40Ca+に干渉するアルゴンイオン40Ar+を、中性アルゴン原子Arに変換するために、水素ガスH2を使用することである。
【0061】
反応モードの別の実施形態において、イオン-分子反応は、干渉イオンの代わりに検査対象イオンを含む。即ち、反応は、検査対象イオンを新たな検査対象イオン種に変換する、即ち元の検査対象イオンの組成を変更する。新たな検査対象イオン種は、元の検査対象イオン種の質量と異なる(一般により大きい)質量を有し、それ故に干渉イオンの質量とも異なる。また、検査対象イオンとの反応は、実際には干渉イオンの非干渉イオンへの変換として特徴付けられ得る。新たな検査対象イオン(又は「プロダクトイオン」)が検出され、質量スペクトルの一部分になり、それが調査中の元の単原子検査対象イオンに対応するので、有用な情報を提供する。
【0062】
一般に、反応モードは、今説明されたように、ガスが反応するイオンのタイプに依存する干渉イオン又は検査対象イオンである関心のあるイオンと、衝突/反応ガスが反応するモードである。反応モードの一実施形態において、関心のあるイオンの反応ガスとして役立つことに加えて、衝突/反応ガスは非反応性イオンの衝突ガスとしても役立つ。かくして、ガスが干渉イオンと反応する場合、ガスは、非反応性検査対象イオンの衝突ガスとして役立つことができる。その一方で、ガスが検査対象イオンと反応する場合、ガスは、結果としての非反応性プロダクトイオンの衝突ガスとして役立つことができる。
【0063】
本開示において前述されたように、コリジョン/リアクションセル110は、干渉イオン又は検査対象イオン(調査されている元素から導出された)との反応の十分な効率性を得るために、特定の圧力において反応ガスで満たされる。しかしながら、干渉-抑制反応を実行するための最適な圧力(又はガス密度)は、様々な元素によって異なることが多い。従って、様々な元素が測定される場合、元素毎に許容可能な高い信号対バックグラウンド(S/B)比を得るように、コリジョン/リアクションセルへの反応ガスの流量を変更(調整)することが従来続けられていた。また、コリジョン/リアクションセルを連続ビーム機器として動作させることが従来続けられていた。即ち、従来のコリジョン/リアクションセルは、(コリジョン/リアクションセルの多極イオンガイドにより生成されたRF閉じ込め場を用いて)イオンを半径方向にのみ閉じ込め、軸方向に閉じ込めないように構成されていた。従って、従来、コリジョン/リアクションセルにおける所与のイオンの滞留時間、ひいては衝突/反応ガスとイオンとの間の反応時間は、セル入口からセル出口まで移動する際にイオンによって費やされる通過時間により決定されており、滞留/反応時間は、能動的に制御されていなかった。
【0064】
本開示の一態様によれば、ガス流量(ひいてはコリジョン/リアクションセルにおけるガス密度)を制御する代わりに、反応時間(即ち、コリジョン/リアクションセルにおけるイオンの滞留時間)が制御される。言い換えれば、分析中の異なる元素毎に最適な反応条件を達成するためにガス流量を変更する代わりに、反応時間が、分析中の異なる元素毎に最適な反応条件を達成する必要に応じて変更(調整)される。反応時間は、所定の閉じ込め期間にわたってコリジョン/リアクションセルにおいて軸方向に並びに半径方向にイオンを閉じ込めることによって延ばされる。閉じ込め期間は、測定されるべき検査対象イオンの特定のタイプ毎に干渉-抑制反応の十分な効率性を得ようとする所望の持続時間を有する。一実施形態によれば、コリジョン/リアクションセル110に入る全てのイオン(分析物および非分析物)は、所望(所定)の閉じ込め期間の持続時間にわたってセル出口に高い正の出口DC電位(DCポテンシャル障壁)を生成することにより、イオンガイド146(又は246)において軸方向に閉じ込められる。一実施形態において、DCポテンシャル障壁は、セル出口レンズ124(又は224)に出口DC電位を印加することにより形成される。更に、閉じ込められるイオンは、
図3に関連して上述されたように、イオンガイド146に沿って軸方向DC電位勾配を印加することにより、及び/又はセル入口レンズ122(222)に高い入口DC電位を印加することにより、閉じ込め期間中にセル入口を介してコリジョン/リアクションセル110を出ることが防止され得る。更に、イオンは、上述されたように、イオンガイド146により生成されたRF閉じ込め場を印加することにより、半径方向に閉じ込められる。従って、イオンは、閉じ込め期間中にイオンガイド146に完全に閉じ込められる。
【0065】
所望の持続時間の閉じ込め期間にわたってこのようにコリジョン/リアクションセル110にイオンを貯蔵することは、衝突/反応ガスとターゲットの干渉イオン(又は実施形態に依存して、検査対象イオン)との間の十分な数の反応が生じることを確実にすることができる。かくして、当該閉じ込めは、上述されたようにイオンを貯蔵または閉じ込めない従来のコリジョン/リアクションセルと比べて、干渉のより大きな低減、ひいては増大したS/B比という結果になることができる。更に、閉じ込め期間により、検査対象イオン(又は反応が検査対象イオンと衝突/反応ガスとの間である場合に検査対象プロダクトイオン)が、運動エネルギー損失を通じて検査対象イオン(又はプロダクトイオン)を減速するのに効果的である、衝突/反応ガス分子と多数回衝突し、それにより、閉じ込め期間中、コリジョン/リアクションセル110における検査対象イオン(又はプロダクトイオン)の閉じ込めが強化される。
【0066】
ターゲットの干渉イオン(又は実施形態に依存して、検査対象イオン)との十分な数の反応が生じた後、閉じ込め期間は、閉じ込められたイオンがコリジョン/リアクションセル110から流出して、後続の測定期間中に質量分析され且つ検出/計数されることを可能にするために、セル出口に印加された高いDC電位を迅速に取り除く(又は高いDC電位の正の大きさを迅速に低減する)ことによって終了する。質量分析器158は、測定のためにターゲットの検査対象イオン(又はプロダクトイオン)のみをイオン検出器161に送り、質量分析器158により受け取られた全ての他のイオンを排除するように構成され得る。
【0067】
かくして、本開示は、セル出口における高い出口DC電位(DCポテンシャル障壁)が除去(又は低減)される非常に短い時間間隔を必要とする測定期間と閉じ込め期間との間の遷移(変り目)と共に、測定期間が後続する閉じ込め期間を含むコリジョン/リアクションセルを動作させるための方法を含む。一実施形態において、高い出口DC電位の生成および後続の除去(又は低減)は、以下のように特徴付けられることができ、即ち、イオンがコリジョン/リアクションセル110を出ることを防止するのに有効であるDCポテンシャル障壁を生成するために第1の大きさでセル出口に出口DC電位を印加し、閉じ込め期間の持続時間(この場合、持続時間は干渉される検査対象イオンに最適である)にわたって第1の大きさで出口DC電位を維持し、閉じ込め期間後、出口DC電位を第1の大きさから第2の大きさに切り換え(調整し)、当該第2の大きさは、検査対象イオンがセル出口を通って質量分析器158に送られることを可能にするのに有効である。
【0068】
様々な実施形態において、第1のDC電位の大きさ及び第2のDC電位の大きさは、以下の属性の1つ又は複数を有し、即ち、第2のDC電位の大きさは、第1のDC電位の大きさより負の方であり;第1のDC電位の大きさは正またはゼロの大きさであり、第2のDC電位の大きさは負またはゼロの大きさであり;第1のDC電位の大きさは0Vから100Vの範囲内であり;及び/又は第2のDC電位の大きさは、-200Vから0Vの範囲内である。
【0069】
一般に、閉じ込め期間の持続時間は、衝突/反応ガスと干渉イオン又は検査対象イオンとの間の相互作用が干渉の抑制を最適化または最大化することを確実にするのに必要とされるのと同じ長さである。非排他的な例として、閉じ込め期間は、0msから1000ms、又は5msから500ms、又は10msから100msの範囲内の持続時間を有することができる。閉じ込め期間の持続時間は、分析されている検査対象イオンに依存し(ひいては当該検査対象イオンに基づいて選択され得る)、様々な検査対象イオンによって異なるかもしれない。様々な検査対象イオンの閉じ込め期間の持続時間は、ICP-MSシステム100による試料元素の適切な実験を通じて実験的に求められ得る。様々な検査対象イオンの閉じ込め期間の持続時間は、システム・コントローラ120のメモリに格納された又は当該メモリによりアクセス可能なルックアップテーブル又はデータベースにおいてのような、システム・コントローラ120のメモリにより提供され得る。様々な検査対象イオンの閉じ込め期間の持続時間は、機器に依存しているかもしれない。即ち、1つのICP-MSシステムにより分析されるべき所与の検査対象元素の閉じ込め期間の持続時間は、たとえ他のICP-MSシステムが最初のICP-MSシステムと同じに構成されたとしても、別のICP-MSシステムにより分析されるべき同じ検査対象元素の閉じ込め期間の持続時間と異なるかもしれない。
【0070】
一般に、セル出口におけるDC電位を第1の大きさから第2の大きさに切り換えるのに必要な時間間隔は、DC電位を印加するために利用される電子回路により呈される過渡遅延によってのみ制限される。1つの非排他的な例として、切り換えは、0.01msから0.1msの範囲内の持続時間を有することができる。
【0071】
本開示された主題の別の態様として、DC電位を第1の大きさから第2の大きさに(及び第1の大きさと第2の大きさとの間の差を)急激に切り換えることにより、検査対象イオンが、特定の短いパルス持続時間を有するパルスとして、コリジョン/リアクションセル110を出る。1つの非排他的な例として、パルス持続時間は、0.1msから1msの範囲内であることができる。一実施形態において、このようにDC電位を急激に切り換えることの効果は、コリジョン/リアクションセル110からイオンパルス(又はイオンパケット)を噴出することとして特徴付けられ得る。
【0072】
一実施形態において、検査対象イオンが測定される又は計数される測定期間の持続時間は、パルス持続時間より長くない、又はパルス持続時間にほぼ等しい(ほぼ同じ)である。本文脈において、パルス持続時間は、パルスピークの半値全幅(FWHM)に等しいか又は当該半値全幅より長くなることができるが、パルス形状に依存して、FWHMの約5倍に等しいか又はそれより短くなることができる。「ほぼ等しい」(又は「ほぼ」は、「ほとんど」、「約」、及び同様の語句と同じ)は、測定期間の持続時間がパルスピークのFWHMからFWHMの5倍までの範囲内の値であることを意味することができる。例えば、パルスのFWHMが0.2msである場合、ほぼ等しい測定期間の持続時間は、0.2msから1.0msの範囲内にあることができ、この場合、端点の0.2ms及び/又は1.0msは、範囲内に含まれ得る。FWHMの例が
図4に示される。特に、
図4は、質量分析計により測定され得る際に測定時間(msの単位)tの関数として、イオン強度(秒あたりカウント、即ちcpsの単位)Iとして定義されたパルスピーク402の略図である。パルスピーク402の頂点は、このパルスピーク402のイオン信号の最大強度値I
maxに対応する。最大強度値の半分は、I
max/2として示される。パルスピーク402のFWHMは、I
max/2におけるピークの幅であり、(t
1-t
2)の時間分に対応する。
【0073】
測定期間持続時間をパルス持続時間にほぼ等しくなるように設定することは、本明細書に開示された閉じ込め期間を実施することの結果として、S/B比が確実に改善されることに役立つことができる。パルス持続時間後、検査対象イオン及び干渉イオンの信号は、それらの定常状態レベルで安定化し、改善されていないS/B比、即ち従来のコリジョン/リアクションセルから得られるものと同じS/B比を提供する。従って、測定期間がパルス後期間まで延ばされる場合、S/B比は、従来のコリジョン/リアクションセルから得られる値の方へ劣化する。さもなければ、前の実施形態の1つにおいて言及されたように、増大したDC電位DC3がセル入口レンズ222に印加されて、追加のイオンがイオンガイド246へ送られることが防止される。増大したDC電位DC3がパルス持続時間の後でも維持される場合、イオン信号は、パルスが終わった場合に観測されない。この場合、パルス期間後の測定は有用でない。
【0074】
測定期間は、連続ビーム質量分析器(例えば、四重極マスフィルタ、セクタ機器、又は同種のもの)又は非連続ビーム質量分析器(例えば、TOF分析器、イオントラップベースの分析器など)を利用する場合、コリジョン/リアクションセル110のパルス持続時間にほぼ等しくなるように制御され得る。どちらにしても、コリジョン/リアクションセル110からのイオンビームのパルス状部分のみが、質量分析器により測定され、それにより、より高いS/B比および/またはS/N比を達成する。本文脈において、測定期間の持続時間は、コリジョン/リアクションセル110のパルス持続時間に(少なくともほぼ)制限される、質量分析器へのイオン注入の持続時間であると考えられ得る。理解されるように、このパルス持続時間は、TOF分析器の飛行管への後続の抽出パルス、TOF分析器の飛行管を通るイオン飛行時間、又はトラップベースの分析器におけるトラップ時間のような、非連続ビーム質量分析器の任意の「パルス状」動作と必ずしも同じではない。
【0075】
本開示された主題の別の態様として、イオンが閉じ込め期間中にイオン源108からコリジョン/リアクションセル110に入り続ける場合、それらはコリジョン/リアクションセル110において蓄積する。上述されたように、閉じ込め後に得られたイオン信号は、非常に短いパルスである。閉じ込め期間の持続時間に依存して、このパルスのピーク強度は、閉じ込め無しで通常に観測されるイオン信号より10から300倍大きい。しかしながら、ノイズ(電気ノイズ及び非イオン源から導出される中性ノイズ)は、閉じ込められず、又は蓄積されない。従って、信号対雑音(S/N)比は、スペクトル的に干渉されようがされまいが、任意のイオンの閉じ込めにより改善される。理想的には、分析計の出力は、被分析物濃度がゼロである場合(ブランクが測定される場合)にゼロであるべきである。しかしながら、これは実務の場合でない。非ゼロ出力、所謂「バックグラウンド」は、ICP-MSシステムにおける被検物質汚染、干渉イオン、真空チャンバにおける残留イオン、プラズマからの光子、高エネルギー中性分子(主としてAr原子)、電気ノイズなどのような、ICP-MSにおける多くの要因により生じる。イオン光学部114において生成された高エネルギー中性分子は、真空チャンバ内の表面またはガス分子との衝突から二次粒子を生成するのに十分にエネルギッシュであることができる。二次粒子は、表面からの電子またはイオンであることができ、それらはイオン検出器161に到達する際にノイズ(雑音)という結果になる。電気ノイズは、イオン検出器161の散弾雑音(例えば、電子増倍管のダイノードからの電子の自然放出)、イオン計数電子回路の熱雑音、又は高電圧構成要素による微小放電から生じるノイズであることができる。これら非イオン源(光子、中性分子、電気ノイズ)により生成されたバックグラウンドは、「ランダム・ノイズ」と呼ばれることが多く、質量スペクトルにおいてゼロレベルからの質量に依存しないギザギザのオフセットとして出現する(質量スペクトルのピークとして現われない)。バックグラウンドに対するランダム・ノイズの寄与は、ターゲットの被検物質が干渉イオンを被る場合の干渉イオンのそれよりも遙かに小さいことが多い。しかしながら、干渉されない検査対象イオンの場合、ランダム・ノイズは、バックグラウンドに大幅に寄与する可能性がある。イオンとは異なり、ランダム・ノイズは、コリジョン/リアクションセル110に閉じ込められず、又は蓄積されない。従って、S/N比は、パルスとして閉じ込められたイオンを測定することにより改善される。
【0076】
従って、本明細書で開示された実施形態により提供されるような、コリジョン/リアクションセルにおいてパルス動作が後続するイオン閉じ込めは、衝突モードにおいて干渉されない検査対象イオンを測定する場合に、並びに反応モードにおいて干渉される検査対象イオンを測定する場合に利点を提供する。即ち、干渉されない検査対象イオンのバックグラウンドは、中性ノイズ及び電気ノイズに主として起因する。干渉イオンが存在しないので、コリジョン/リアクションセル110に閉じ込められたイオンは、検査対象イオンのみであり、中性分子は閉じ込められない。従って、パルス動作が後続するイオン閉じ込めは、衝突モードにおいて動作する場合にS/N比を改善する。
【0077】
一実施形態において、セル入口を介してコリジョン/リアクションセル110へイオンを送ることは、入口DC電位を第2の大きさに保持することにより、閉じ込め期間中に行なわれ続ける。第2の大きさの入口DC電位は、イオンがセル入口を介して送られることを可能にするのに有効である。即ち、閉じ込め期間の開始後、イオン源108からのイオンは、コリジョン/リアクションセル110に入り続けることを可能にされる。従って、検査対象イオンは、コリジョン/リアクションセル110に蓄積し、それにより、イオンパルスにおける検査対象イオンの数、ひいては閉じ込め期間の終わりに生じるイオンパルスのピーク強度が増大される。
【0078】
別の実施形態において、第1の大きさの入口DC電位が、閉じ込め期間の少なくとも後半(即ち、閉じ込め期間の終わりを含む閉じ込め期間の一部)の間に、セル入口(例えば、上述されたようなセル入口レンズ122)に印加される。第1の大きさの入口DC電位は、閉じ込められた検査対象イオンがセル入口を介してコリジョン/リアクションセル110を出ることを防止し、同時に干渉イオンがセル入口を介してコリジョン/リアクションセル110に入ることを防止するのに有効である。
【0079】
代案として又は更に、第1の大きさの入口DC電位は、測定期間中、セル入口に印加され得る。第1の大きさの入口DC電位は、干渉イオンが入口を介してコリジョン/リアクションセル110に入ることを防止するのに有効である。
【0080】
本開示された主題は、多元素分析において実施され得る。かくして、第1のタイプの元素を分析後、方法は、第2のタイプの元素などを分析するために繰り返され得る。様々な元素に対する閉じ込め期間の持続時間は、上述されたように異なる可能性があり、ひいては分析されるべき元素のタイプ毎に調整され得る。係る調整は、通常数秒よりも多く時間を費やすガス流量の調整よりも遙かに迅速であることができ、試料運転のための方法開発の一部分として開発された所定のプログラムに従って、ICP-MSシステム100の動作を制御するシステム・コントローラ120により行なわれ得る。また、利用されるべき衝突/反応ガスのタイプは、様々な元素によって異なることができる。かくして、方法は、様々な元素に対して衝突/反応ガスのタイプを切り換えることを必要とすることができ、それはプログラムの一部分でもあることができ且つ上述されたルックアップテーブル、データベース又はメモリにおいて動作パラメータとしても提供され得る。システム・コントローラ120は、このために衝突/反応ガス源138を制御することができる。特に、干渉の抑制は、特定の元素に対して必要とされないかもしれず、この場合、衝突/反応ガスの選択はこれら元素に関して行なわれず、代わりにコリジョン/リアクションセル110はイオンガイドとしてガス無しモードで動作する。
【0081】
従って、多元素分析を実施する方法の実施形態において、検査対象イオンは、少なくとも第1の質量の第1の検査対象イオン、及び第1の質量と異なる第2の質量の第2の検査対象イオンを含む。衝突/反応ガスのコリジョン/リアクションセル110への流れが確立される。少なくとも検査対象イオンを含むイオンは、コリジョン/リアクションセル110へ送られる。本明細書で説明されたように、出口DC電位が、第1の持続時間の第1の閉じ込め期間にわたってセル出口に第1の大きさで印加され、それにより第1の閉じ込め期間中にイオンがコリジョン/リアクションセル110を出ることを防止するのに有効であるDCポテンシャル障壁が生成される。第1の閉じ込め期間中、衝突/反応ガスは、第1の検査対象イオンに干渉する第1の干渉イオンと反応されるか、又は衝突/反応ガスは、干渉を抑制するために第1の検査対象イオンと反応される。即ち、本明細書で説明されたように、質量分析計(例えば、
図1に示された質量分析部118)により測定されるべきイオン信号強度の干渉を抑制するために有効である相互作用が実行される。当該相互作用は、本明細書で説明されたように、干渉イオンの衝突/反応ガスとの反応、又は検査対象イオンの衝突/反応ガスとの反応を含むことができる。第1の閉じ込め期間後、イオンの第1のパルスが質量分析計に送られる。これは、第1の検査対象イオン(又は第1の検査対象イオンから形成されたプロダクトイオン)がパルスとしてセル出口を通過することを可能にするのに有効である第2の大きさに、出口DC電位を切り換えることにより行なわれる。第1のパルスは、少なくとも第1の検査対象イオン(又はそれらから導出されたプロダクトイオン)を含むが、(最終の)質量分析器158の上流の質量選択が実施されていない場合、第2の検査対象イオンのような他のイオンも含むかもしれない。次いで、第1のパルスに含まれる少なくとも第1の検査対象イオン(又はそれらから導出されたプロダクトイオン)は、質量分析計により測定される。例えば、本明細書で説明されるように、質量分析器158は、測定のために第1の検査対象イオン(又はそれらから導出されたプロダクトイオン)のみをイオン検出器161に送り、質量分析器158により受け取られた全ての他のイオンを排除するように構成(例えば、調整)され得る。
【0082】
この実施形態を続けると、第1のパルスに含まれた第1の検査対象イオンを測定後、出口DC電位が再び、第1の持続時間と異なる第2の持続時間の第2の閉じ込め期間にわたって第1の大きさでセル出口に印加される。第2の閉じ込め期間中、衝突/反応ガスは、第2の検査対象イオンに干渉する第2の干渉イオンと反応されるか、又は干渉を抑制するために第2の検査対象イオンと反応される。第2の閉じ込め期間後、第2のパルスは、出口DC電位を第2の大きさに切り換えることにより、質量分析計に送られる。第2のパルスは、少なくとも第2の検査対象イオン(又はそれらから導出されたプロダクトイオン)を含むが、(最終の)質量分析器158の上流の質量選択が実施されていない場合、第1の検査対象イオンのような他のイオンも含むかもしれない。次いで、第2のパルスに含まれる少なくとも第2の検査対象イオン(又はそれらから導出されたプロダクトイオン)は、質量分析計により測定される。一例として、この時、質量分析器158は、測定のために第2の検査対象イオン(又はそれらから導出されたプロダクトイオン)のみをイオン検出器161に送り、質量分析器158により受け取られた全ての他のイオンを排除するように調整され得る。
【0083】
今説明された方法は、試料の追加の元素を分析するために追加の検査対象イオンに対して繰り返され得る。
【0084】
多元素分析を実施する方法の別の実施形態において、方法は、コリジョン/リアクションセル110の前のような、質量分析器158の前で質量選択を実施することもできる。例えば、ICP-MSシステム100は、本明細書で説明されたように、QQQシステムとして構成され得る。この実施形態の一例として、質量選択の適切な技術を実施することにより、第2の検査対象イオン又は他の検査対象イオンを有さずに、第1の検査対象イオンのみがコリジョン/リアクションセル110へ送られる。次いで、第1の検査対象イオン(及び第1の検査対象イオンに干渉する何らかの第1の干渉イオン)が、上述されたように、第1の閉じ込め期間中に閉じ込められる。第1の閉じ込め期間中、干渉抑制の相互作用が、上述したように実行される。その結果として、第1の検査対象イオン(又はプロダクトイオン)が、上述されたように、第1のパルスにおいて質量分析計に送られて測定される。第1の検査対象イオンの測定後、質量選択を実施することにより第1の検査対象イオン又は他の検査対象イオンを有さずに、第2の検査対象イオンが、コリジョン/リアクションセル110へ送られる。次いで、第2の検査対象イオン(及び第2の検査対象イオンに干渉する何らかの第2の干渉イオン)が、第2の閉じ込め期間中に閉じ込められる。第2の閉じ込め期間中、干渉抑制の相互作用が、再び実行される。その結果として、第2の検査対象イオン(又はプロダクトイオン)が、第2のパルスにおいて質量分析計に送られて測定される。この方法は、試料の追加の元素を分析するために追加の検査対象イオンに対して繰り返され得る。
【0085】
閉じ込め期間中、干渉イオン強度が低減(バックグラウンドが低減)された状態で検査対象イオン信号が測定され得るように、干渉イオン(又は実施形態に依存して検査対象イオン)の反応ガスとの反応が進行する。即ち、干渉イオン強度は、ガスの流量を増大せずに、又は測定されるべき様々な検査対象元素に対してガス流量を調整する必要なしに、低減され得る。言い換えれば、「最も簡単な」元素に十分である固定の反応ガス流量を用いて、他のより「困難な」元素が、元素毎に適切である閉じ込め期間の持続時間にわたってコリジョン/リアクションセル110にそれらのそれぞれを閉じ込めることにより、反応の効率性が改善された状態で測定され得る。例えば、Arプラズマで生成された干渉イオン、40Ar+及び40Ar16O+の強度はそれぞれ、一般に秒あたり約1010及び107カウント(計数値)である。干渉される検査対象イオン、40Ca+及び56Fe+の信号強度はそれぞれ、同じオーダーの大きさである。従って、Caの干渉は、Feの干渉より強い。同様に改善されたS/B比がCa及びFeに対して得られるように、Ar+をArO+と同じレベルまで抑制するために、より大きい流量の反応ガスが必要である。この意味で、Caは、Feよりも困難な元素である。同じ反応ガス(例えば、H2又はNH3又はH2O)が、Ar+及びArO+の双方を低減するために利用可能である。次いで、例えば、Ar+に関するCa+に必要な値より低い、ArO+に関するFe+(「より簡単な」元素)に対する最適な値に設定されたH2Oの流量を用いて、Ca+の閉じ込めが後続するCa+イオンパルスの測定が、H2Oの流量を増大せずにCa分析を可能にする。
【0086】
従って、方法の実施形態は、(第1の元素を分析するための)第1の閉じ込め期間中に所定のガス流量でコリジョン/リアクションセルへ衝突/反応ガスを流入すること、及びガスの流量を変更せずに、(第2の元素を分析するための)第2の閉じ込め期間中にコリジョン/リアクションセルへ衝突/反応ガスを流入することを必要とする。ガス流量は、追加の元素(第3の元素、第4の元素など)の分析において変更されない状態のままであることができるが、閉じ込め期間の持続時間は、追加の元素毎に反応条件を最適化ための必要に応じて、追加の元素毎に調整され得る。
【0087】
動作の例
さて、本開示によるコリジョン/リアクションセルを動作させる1つの非排他的な例が、
図5A及び
図5Bに関連して説明される。
図5Aは、閉じ込め期間中のコリジョン/リアクションセルのイオンガイド546及びセル出口レンズ524、及びイオンガイド546の軸方向長さに沿ってセル出口レンズ524までのDC電位531を示す略図である。
図5Bは、
図5Aに示された同じコリジョン/リアクションセル、及び測定期間中のDC電位531を示す略図である。本例において、イオンガイド546の軸方向長さに沿ったDC電位531の部分は、DC電位531の大きさがセル出口レンズ524に向かう方向において軸に沿って徐々に減少する(より大きい負になる)、軸方向DC電位勾配535である。軸方向DC電位勾配535は、閉じ込め期間(
図5A)及び測定期間(
図5B)の双方の間で維持され得る。また、
図5A及び
図5Bは、コリジョン/リアクションセルのハウジング(図示せず)内の衝突/反応ガス533も示し、この場合、ガス分子はドットにより表されている。
【0088】
閉じ込め期間中(
図5A)、イオン506(検査対象イオン、及びもしあれば、干渉イオン)は、イオンガイド546内へ進み、本明細書で説明されるように、イオンガイド546のロッド電極により印加されたRF場により半径方向に閉じ込められる。第1の大きさ(本例において+100V)の出口DC電位がセル出口レンズ524に印加され、それによりセル出口レンズ524にDCポテンシャル障壁537が形成される。イオン506は、矢印539により示されるように、特定の運動エネルギーを有するセルに入り、イオンガイド546を通って進み、DCポテンシャル障壁537により反射されて、イオンガイド546の入口の方へ戻るように進む。このストローク中、イオンは、衝突/反応ガスとの多数の衝突を通じて減速し、それらの一部は停止にさえ至り、かくしてセル内に閉じ込められる。更に、軸方向DC電位勾配535が生成される場合、別の矢印541により示されるように、反射されたイオンの一部は、跳ね返されてイオンガイド546の出口の方へ戻るように駆り立てられ、それによりセル出口の近くに閉じ込められる。DCポテンシャル障壁537は、閉じ込め期間の全体にわたって維持され、その持続時間は、本開示の他の場所で説明されるように決定される。
【0089】
動作の反応モードの場合、衝突/反応ガス533は、反応ガスである。反応ガスは、不必要な干渉イオン(バックグラウンド・イオン)と反応するが、同重体の干渉される検査対象イオン(信号イオン)と反応しない。干渉イオンの反応時間に対応する十分な閉じ込め期間後、干渉イオンの大部分は、ガスとの反応を通じて取り除かれ、前の段落で説明されたように、検査対象イオンは閉じ込められた状態のままである。その結果として、コリジョン/リアクションセルにおける検査対象イオンの濃度対干渉イオンの濃度の比は、増大し、検査対象イオンは、後続の測定期間中、改善されたS/B比で測定される。代案として、測定されるイオンは、検査対象イオン(このような場合に反応しやすい)とガスとの間の反応により生成されたプロダクトイオンである。この場合、検査対象イオンは、反応ガスと反応し、結果として得られたプロダクトイオン(もはやガスと反応しない)は、閉じ込め期間中、セル内に閉じ込められる。
【0090】
所望量の閉じ込め期間の持続時間後、コリジョン/リアクションセルの動作は、
図5Bに示されたように、検査対象イオン566がコリジョン/リアクションセルを出て、下流の質量分析器(図示せず)に入ることを可能にするためにDCポテンシャル障壁537を急速に除去(又は少なくとも低減)することにより、閉じ込め期間から測定期間に切り換えられる。DCポテンシャル障壁537は、セル出口レンズ524の出口DC電位を第1の大きさから、より低い第2の大きさ(本例において、-50V)に急速に切り換えることによって除去される。このように、非常に短いイオンパルスが測定期間中に得られ、それは改善されたS/N比でもってイオン測定のために利用可能である。
【0091】
軸方向DC電位勾配535は、閉じ込め期間中のイオン閉じ込めの効率性、及び測定期間中のイオン放出の効率性を改善するために印加され得る。
【0092】
実験的例
本明細書で説明されたような、コリジョン/リアクションセル、及びそれを動作させるための方法を評価するために、実験が行なわれた。コバルト(Co)、イットリウム(Y)、及びタリウム(Tl)の、10億分の1(ppb)の溶液が、アルゴン(Ar)プラズマへ注入され、結果としてのイオンがコリジョン/リアクションセルへ送られた。酸素ガス(O2)が、0.45立方センチメートル毎分(sccm)の流量でコリジョン/リアクションセルへ放出され、非常に短いイオンパルスの生成を試験した。O2は、Co+及びTl+の衝突ガスとして働き、その理由は、これら2つのイオンがO2と反応しないからであり、及びO2は、Y+の反応ガスとして働き、その理由は、Y+がO2と反応してプロダクトイオンYO+を形成し、YO+がもはやO2と反応しないからである。従って、Co+、YO+及びTl+が、本明細書で説明されるように実施された閉じ込め期間中にセル内に閉じ込められた。
【0093】
図6A及び
図6Bは、60msの閉じ込め期間後、出口DC電位を約0.05msの間に+100Vから-50Vに切り換えることにより、コリジョン/リアクションセルから放出されたCo
+、YO
+及びTl
+のイオンパルスを示す。特に、
図6Aは、Co
+イオン(曲線602)、YO
+イオン(曲線604)及びTl
+イオン(曲線606)の測定されたイオンパルスを表す一組の曲線(セル出口電位を切り換えた後の時間の関数(msの単位)として、秒あたりカウント、又はCPSの単位でのイオン信号強度)であり、
図6Bは、
図6Aに示された3つのイオンパルスの立ち下がり区間を表す一組の曲線である。負の入口DC電位が、閉じ込め期間および測定期間の双方の間にセル入口レンズに印加されて、イオンがセルに入り続けることを可能にする。閉じ込め期間の終了後(測定期間の開始時点)の約0.1msから0.8msまで、msより下の幅のイオンパルスが検出された。パルスピーク高さは、
図6Aに示されるように、Co
+に関して4×10
8秒あたりカウント(cps)であり、YO
+に関して5×10
8cpsであり、Tl
+に関して2.8×10
8cpsであった。これら強度(計数率)は、
図6Bに示されるようにパルス後(1msから1.8ms)の3つのイオンに関して観測された定常状態信号レベル(1~2×10
6cps)より2桁大きい大きさより大きかった。
【0094】
別の実験が、本明細書で説明されたようなコリジョン/リアクションセル及びそれを動作させるための方法を評価するために行なわれた。ブランク溶液(脱イオン水、DIW)がアルゴン(Ar)プラズマへ注入され、結果としてのイオンがコリジョン/リアクションセルへ送られ、40Ar+イオンである、m/z=40のイオンを測定するために質量分析された。次に、10億分の0.1(ppb)のカルシウム溶液がアルゴン(Ar)プラズマへ注入され、結果としてのイオンがコリジョン/リアクションセルへ送られ、40Ar+及び40Ca+イオンの混合物である、m/z=40のイオンを測定するために質量分析された。従って、アルゴンイオン40Ar+は、m/z=40において、カルシウムイオン40Ca+に干渉する。水蒸気(H2O)が、この干渉を抑制するための反応ガスとして利用された。当該水蒸気は、ヘリウム(He)ガスと共に0.1ミリグラム毎分(mg/min)の固定流量でコリジョン/リアクションセルへ放出された。この追加のヘリウムガスとの衝突は、効率的な閉じ込めのためにCa+イオンの減速、及びH2Oとの効率的な反応のためにAr+イオンの減速を促すことができる。アルゴンイオン40Ar+は、アルゴンイオン40Ar+から水分子への電荷移動を介して、非干渉中性アルゴン原子Arに変換される。その一方で、水蒸気は、カルシウムイオン40Ca+と反応しない。かくして、この例における干渉抑制に関連する反応は、以下の通りである。即ち、
H2O+Ar+→H2O++Ar
H2O+Ca+→無反応。
【0095】
従って、閉じ込め期間中、Ca
+イオンは、セル内に閉じ込められ及び蓄積され、Ar
+イオンは水と反応し、それにより、セル内の多量のAr
+イオンが低減される。セル出口レンズに印加された出口DC電位が、測定期間を開始するために約0.05msで+100Vから-50Vに切り換えられた。測定持続時間(イオン計数期間)は、
図5Aに示されたような、予想されたパルス持続時間に対応する0.5msに設定された。
【0096】
図7は、実験の結果を示す一組の曲線である。Ca溶液信号からブランク信号を減算することにより得られた曲線702は、コリジョン/リアクションセルにおけるイオン閉じ込め持続時間(或いは貯蔵時間または反応時間、ms単位)の関数として、0.1ppbカルシウム溶液からm/z=40における正味の
40Ca
+イオン信号強度(秒あたりカウント、即ちcpsの単位)を表す。曲線704は、イオン閉じ込め持続時間の関数として、脱イオン水(DIW)又はブランクからの干渉バックグラウンド・イオン(
40Ar
+イオン)強度を表す。曲線706は、イオン閉じ込め持続時間の関数として、計算されたバックグラウンド相当濃度、即ちBEC(兆分率、即ちpptの単位)を表す。BECは、以下により表されるように、S/B比に反比例する。即ち
BEC=(バックグラウンド強度/信号強度)*被検物質の濃度。
【0097】
BEC曲線706は、コリジョン/リアクションセルのイオン閉じ込めの持続時間(それ故に反応時間)が増加するにつれて、S/B比が増加することを示す。かくして、
図7は、本明細書で開示されたコリジョン/リアクションセル及びそれを動作させるための方法により提供される利点を実証する。
【0098】
図8は、一実施形態による、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムにおけるコリジョン/リアクションセルを動作させるための方法の一例を示す流れ
図800である。衝突/反応ガスが、コリジョン/リアクションセルへ流入される(ステップ802)。コリジョン/リアクションセルは、入口、コリジョン/リアクションセルの長手方向軸に沿って入口から離隔された出口、入口と出口との間に配置された多極イオンガイドを含む。多極イオンガイドが、長手方向軸に直交する半径方向にイオンを閉じ込めるように構成される。イオンは、入口を介してコリジョン/リアクションセルへ送られる(ステップ804)。送られたイオンは、分析中である試料をイオン化することから生成された少なくとも検査対象イオンである。幾つかの実施形態において、干渉イオンも、試料をイオン化する際に利用されるプラズマ形成ガスから生成され、コリジョン/リアクションセルへも送られる。イオンがコリジョン/リアクションセルを出ることを防止するのに有効なDCポテンシャル障壁を生成するために、出口DC電位が出口に第1の大きさで印加される(ステップ806)。ステップ802~806の開始の順序に課される特定の制限はなく、ステップ802~806の2つ以上は、同時に又はほぼ同時に開始され得る。出口DC電位は、イオンと衝突/反応ガスとの間の相互作用を実行するために、閉じ込め期間中に第1の大きさに維持される(ステップ808)。相互作用のタイプは、実施されている動作のモードに依存する。相互作用は、質量分析計により測定される際に、イオン信号強度の干渉を抑制するのに有効であることができる。例として、1つのモード(もしあれば、干渉イオンの反応モード、及び検査対象イオンの衝突モード)において、もしあれば、干渉イオンは、干渉イオンを非干渉イオンに又は中性種に変換するのに有効な反応に従って衝突/反応ガスと反応され、検査対象イオンは、コリジョン/リアクションセルにおいて検査対象イオンを減速し且つ閉じ込めるのに有効な複数回、衝突/反応ガスと衝突される。別のモード(検査対象イオンの反応モード、及びプロダクトイオンの衝突モード)において、検査対象イオンは、質量分析計により測定されるべきプロダクトイオンを生成するのに有効な反応に従って衝突/反応ガスと反応され、プロダクトイオンはコリジョン/リアクションセルにおいてプロダクトイオンを減速し且つ閉じ込めるのに有効な複数回、衝突/反応ガスと衝突される。この後者のモードにおいて、干渉イオンは、衝突/反応ガスと反応せず、ひいては被検物質から導出されたプロダクトイオンに干渉する新たなイオンをコリジョン/リアクションセルにおいて生成しない。閉じ込め期間後、検査対象イオン又はプロダクトイオンは、検査対象イオン又はプロダクトイオンがパルス持続時間を有するパルスとして出口を通過することを可能にするのに有効な第2の大きさに、出口DC電位を切り換えることにより質量分析計に送られる(ステップ810)。次いで、検査対象イオン又はプロダクトイオンは、測定期間にわたって測定または計数される(ステップ812)。測定期間は、パルス持続時間にほぼ等しい持続時間を有することができる。
【0099】
一実施形態において、流れ
図800は、ステップ802~812を実行するために構成された、コリジョン/リアクションセル、又はコリジョン/リアクションセル及び関連する電子回路、又はコリジョン/リアクションセル及び関連するICP-MSシステムを表すことができる。このために、当業者により理解されるように、プロセッサ、メモリ及び他の構成要素を含むコントローラ(例えば、
図1に示されたコントローラ120)は、例えばステップ802~812を実行する際に必要とされるICP-MSシステムの構成要素(例えば、セル、電子回路など)を制御することにより、ステップ802~812の実行を制御するために設けられ得る。
【0100】
図9は、
図1に示されたICP-MSシステム100のような分光分析システムの一部であることができる又は当該分光分析システムと通信(連絡)することができるシステム・コントローラ(或いはコントローラ、又はコンピューティング・デバイス)120の制限しない例の略図である。図示された実施形態において、システム・コントローラ120は、全体的な制御を提供するメイン電子プロセッサ、及び専用の制御動作または特定の信号処理タスクのために構成された1つ又は複数の電子プロセッサ(例えば、グラフィックス・プロセッシング・ユニット、即ちGPU、デジタル・シグナル・プロセッサ、即ちDSP、特定用途向け集積回路、即ちASIC、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ、即ちFPGAなど)を表すことができるプロセッサ902(一般に電子回路ベース)を含む。また、システム・コントローラ120は、データ及び/又はソフトウェアを格納するための1つ又は複数のメモリ904(揮発性および/または不揮発性)も含む。また、システム・コントローラ120は、1つ又は複数のタイプのユーザ・インターフェース・デバイスを制御する及び当該ユーザ・インターフェース・デバイスと当該ユーザ・インターフェース・デバイスと通信するシステム・コントローラ120の構成要素との間にインターフェースを提供するための1つ又は複数のデバイスドライバ906も含むことができる。係るユーザ・インターフェース・デバイスは、ユーザ入力デバイス908(例えば、キーボード、キーパッド、タッチ・スクリーン、マウス、ジョイスティック、トラックボール、及び同類のもの)、及びユーザ出力デバイス910(例えば、ディスプレイ画面、プリンタ、可視的表示器または警報、可聴式指示器または警報、及び同類のもの)を含むことができる。様々な実施形態において、システム・コントローラ120は、1つ又は複数のユーザ入力デバイス908及び/又はユーザ出力デバイス910を含むと、又は少なくともそれらと通信するとみなされ得る。また、システム・コントローラ120は、メモリに及び/又は1つ又は複数のタイプのコンピュータ可読媒体914に包含された1つ又は複数のタイプのコンピュータ・プログラム又はソフトウェア912も含むことができる。コンピュータ・プログラム又はソフトウェアは、ICP-MSシステム100の様々な動作を制御または実行するための持続性命令(例えば、論理命令)を含むことができる。コンピュータ・プログラム又はソフトウェアは、アプリケーション・ソフトウェア及びシステム・ソフトウェアを含むことができる。システム・ソフトウェアは、ハードウェアとアプリケーション・ソフトウェアとの間の相互作用を含む、システム・コントローラ120の様々な機能を制御および管理するためのオペレーティング・システム(例えば、Microsoft Windows(登録商標)オペレーティング・システム)を含むことができる。特に、オペレーティング・システムは、ユーザ出力デバイス910を介して表示可能であり、且つユーザがユーザ入力デバイス908の使用と相互作用することができる、グラフィカル・ユーザ・インターフェース(GUI)を提供することができる。また、システム・コントローラ120は、GUIによりグラフ形状で提示するためのフォーマット・データを含む、イオン検出器161(
図1)により出力されたイオン測定値信号を受け取って処理するための1つ又は複数のデータ取得/信号調整構成要素(DAQ)916(ハードウェア、ファームウェア及び/又はソフトウェアで具現化されるような)も含むことができる。
【0101】
システム・コントローラ120は更に、コリジョン/リアクションセル110の動作を制御する、及びイオン源108、イオン光学部114、質量分析部118及び
図1に示されたICP-MSシステム100に設けられる任意の他のイオン処理デバイスの動作とセルの動作を調和させる及び/又は同期させるように構成されたセル・コントローラ(又は制御モジュール)918を含むことができる。かくして、セル・コントローラ918は、コリジョン/リアクションセル110を動作させるための方法を含む、本明細書で開示された方法の全て又は当該方法の任意の一部を制御する又は実行するように構成され得る。これらの目的のために、セル・コントローラ918は、当業者により理解されるように、ソフトウェア及び/又は電子回路(ハードウェア及び/又はファームウェア)で具現化され得る。
【0102】
理解されるように、
図9は、本開示と首尾一貫したシステム・コントローラ120の一例のハイレベルな概略描写である。追加の構造、デバイス、電子回路、及びコンピュータ関連または電子プロセッサ関連の構成要素のような他の構成要素が、実際の具現化形態に必要とされることに応じて、含まれ得る。また、理解されるように、システム・コントローラ120は、提供され得る構造(例えば、回路、メカニズム、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェアなど)を表すことが意図された機能ブロックとして
図9に概略的に表されている。様々な機能ブロック及びそれらの間の何らかの信号リンクが、例示のためだけに任意に配置されており、何らかの態様を制限しない。当業者により理解されるように、実際には、システム・コントローラ120の機能は、様々な態様で実施されることができ、
図9に示された及び本明細書において例により説明された正確な態様で必ずしも実施されない。
【0103】
様々な衝突/反応ガスが、コリジョン/リアクションセルを備えた四重極ICP-MSにおいてスペクトル干渉を解決するために利用されていた。係るガスは、He、H2、NH3、CH4、O2、N2O、及びNH3とHe、又はArとH2のような2つのガスの混合物を含む。係るガスの高純度産業用ガスを使用することは、一般的且つ従来の慣例であった。「PerkinElmer, NexION 1000/2000ICP-MS, PREPARING YOUR LAB (2018)」、2018年;Quarles, Jr.他著、「Analytical method for totalchromium and nickel in urine using an inductively coupled plasma-universal celltechnology-mass spectrometer (ICP-UCT-MS) in kinetic energy discrimination(KED) mode」J. Anal. At. Spectrom.、Vol. 29、297-303頁、2014年;Guo 他著、「Application of ion molecule reaction to eliminate WOinterference on mercury determination in soil and sediment samples by ICP-MS」、J. Anal. At. Spectrom.、Vol. 26、1198-1203頁、2011年;及び「ThermoFisher scientific, iCAP RQ ICP-MSPre-Installation Requirements Guide」、BRE0009927 Revision A、2016年11月を参照。係る文献のそれぞれの内容は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。高純度産業用ガスは通常、加圧ガスシリンダの形態でガス供給業者から供給されていた。安全上の理由から、H2ガスは、水素発生器、又は水素吸蔵合金を含む容器からも利用可能であった。しかしながら、H2は、例外である。O2ガスを含む他の衝突/反応ガスの場合、高圧産業用ガスが、ICP-MSのリアクションセルに利用されていた。
【0104】
反応ガスとして、O2は、ICP-MSにおける特定のスペクトル干渉の問題を解決するために有用であった。リアクションセルの内部では、以下の式(1)により表されるように、特定の検査対象イオンM+が、O2分子と反応して、酸化物イオンMO+を生成する。M+と同じm/zを有する干渉イオンX+がO2との反応によりXO+を生成しない場合(以下の式(2)を参照)、MO+がこの時点でX+干渉物質から免れているので、MO+を測定することにより、元素Mを求めるることができる。即ち、
M++O2→MO++O (1)
X++O2→無反応またはXO+の生成無し (2)。
【0105】
また、N2O、及びCO2のような他の産業用ガスも、以下の式(3)及び(4)により表されるように、コリジョン/リアクションセルにおいてMO+を生成するために利用可能であった。内容が参照により全体として本明細書に組み込まれる米国特許第6875618号を参照。即ち、
M++N2O→MO++N2 (3)
M++CO2→MO++CO (4)。
【0106】
周囲空気は、O2ガスを含むので、MO+を生成することができる。しかしながら、周囲空気は、安全且つ無料であるにもかかわらず、ICP-MSにおいてこの目的に利用されていなかった。周囲空気は、周囲空気を構成する多数の成分および/または周囲空気中の不純物(汚染物質)がリアクションセルの性能に悪影響を及ぼすという懸念に起因して、反応ガスとして使用することを検討されていなかったかもしれない。
【0107】
本開示の一態様によれば、周囲空気は、従来に利用されている市販の純O2ガス(例えば、産業用ガス供給者から)の代用品または代替品として、ICP-MSシステムのリアクションセルの反応ガスとして有効に利用され得る。特に、本発明者は、周囲空気が、トリプル四重極(QQQ)構成を有するICP-MSシステムにおいて特に有効であることを見出した。
【0108】
図10は、本開示の別の実施形態による、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システム1000、特にトリプル四重極(QQQ)構成を有するシステムの一例の略図である。
図10に示されるように、及び本開示で前述されたように、係るICP-MSシステム1000は、イオンのプロセスの流れの順に、ICPイオン源1008、第1の(又は事前セル)四重極マスフィルタ(Q1)1026、リアクションセル1010(又は、本明細書で定義されるような、「コリジョン/リアクションセル」)、第2の(最終)四重極マスフィルタ(Q2)1058、及びイオン検出器1061を含む。ガス入口1042(例えば、ポート、供給導管、ポンプなどを含む)は、周囲空気をリアクションセル1010の内部へ流入するように構成される。幾つかの実施形態において、ガス入口1042は、入来する周囲空気から不純物または汚染物質を取り除くように構成されたガス清浄器を含むことができる。非排他的な例として、ガス清浄器は、分子篩(例えば、シリカ及びアルミナを含み且つ3オングストロームの孔径を有する複合材料である「分子篩3Å」又は同種のもの)のような浄化要素(例えば、フィルタ、トラップなど)、活性炭などのような収着剤、又は浄化要素の異なるタイプの組み合わせを含むことができる。ICP-MSシステム1000は、
図1に関連して上述されたような1つ又は複数の他の構成要素を有することができる。トリプル四重極構成を有するICP-MSシステム1000は、本開示で前述されたように動作することができる。
【0109】
図10に示されたICP-MSシステム1000と一致した機器が、市販された純O
2ガスと比べて、反応ガスとしての周囲空気の有効性を評価するために動作された。特に、周囲空気が、リアクションセル1010へ導入され、リン(P)及び硫黄(S)が被検物質として測定された。元素
31Pは、m/z=31に設定された第1のマスフィルタ(Q1)1026、及びm/z=47に設定された第2のマスフィルタ(Q2)1058を用いてプロダクトイオン
31P
16O
+として測定された。同様に、元素
32Sは、m/z=32に設定された第1のマスフィルタ(Q1)1026、及びm/z=48に設定された第2のマスフィルタ(Q2)1058を用いてプロダクトイオン
32S
16O
+として測定された。第1のマスフィルタ(Q1)1026、及び第2のマスフィルタ(Q2)1058の双方は、単位質量分解能で動作された。
【0110】
P+(m/z=31)及びS+(m/z=32)に関する典型的な干渉物質はそれぞれ、イオン源1008において又はイオン源1008の直ぐ下流で生成される多原子イオン14N16OH+及び16O2
+である。リアクションセル内のO2ガスは、P及びSがそれぞれ、PO+(m/z=47)及びSO+(m/z=48)として測定される場合、これら干渉物質を取り除き、その理由は、以下の式(5)~(8)により表されるように、O2ガスがP+及びS+と効率的に反応するが、NOH+及びO2
+と反応しないからである。即ち、
P++O2→PO++O (5)
NOH++O2→無反応またはNOOH+の生成無し (6)
S++O2→SO++O (7)
O2
++O2→無反応またはO3
+の生成無し (8)。
【0111】
以下の表1は、反応ガスとして周囲空気を用いて、P及びSに関する感度(秒あたりカウント/10億分の1(cps/ppb)の単位)及びバックグラウンド相当濃度(BEC(ppbの単位))に関して取得されたデータを示す。比較のために、表1は、反応ガスとして高純度(100%又はほぼ100%純粋)O2を用いてP及びSに関して取得された同じデータも示す。
【0112】
【0113】
リアクションセル1010へ導入される周囲空気および純O2ガスの流量は、酸素イオン信号(PO+及びSO+の強度)が最大化するように調整された。周囲空気のO2含有量が21%しかなくても、周囲空気の必要な流量(0.4sccm)は、純O2ガスの流量(0.3sccm)とほぼ等しかった。これは、更に後述されるように、N2及び周囲空気中の他の不活性ガス分子による反応の促進に主に起因した。
【0114】
周囲空気を用いたP及びSに関する感度は、純O2ガスを用いたP及びSに関する感度より低いが、多くの分析目的に十分である。周囲空気を用いて得られたBECは、純O2ガスを用いたものとほぼ同じ、又は純O2ガスを用いたものよりまさに僅かに良く(低い)、周囲空気による干渉の低減の程度が、純O2ガスによる干渉の低減の程度に匹敵することを示す。従って、干渉の低減に関して周囲空気のO2分子以外の物質の悪影響は、P及びSの測定に関して無視できる。
【0115】
これら結果の説明は以下の通りである。
【0116】
乾燥空気は、(近似のパーセンテージの単位)N2(78%)、O2(21%)、Ar(0.93%)、CO2(0.04%)、Ne(18ppm)、He(5ppm)、及び1桁のppmレベル又はそれより低い他の軽微な成分からなる。周囲空気は更に、様々な濃度(0.001%~5%)の水蒸気(H2O)、及び場合によっては人為的起源を有する様々な不純物を含有する。
【0117】
空気のO2分子は、リアクションセル1010においてM+からMO+を生成するのに利用可能であり、空気のN2、Ar、-Ne及びHeは全て不活性ガスであり、O2とM+との間の反応を促進するためにリアクションセルにおける緩衝ガスの機能を果たす。同様に、空気のO2、CO2及び水(H2O)は、上記の式(4)及び以下の式(9)によりそれぞれ表されるように、MO+イオンを生成するために特定のM+イオンとも反応する。即ち、
M++H2O→MO++H2 (9)。
【0118】
その一方で、周囲空気中の気体不純物Bj(j=1、2、3、・・)、典型的な水蒸気および様々な炭化水素は、様々な反応生成物Cij
+及びびDij(以下の式(10)を参照)を生成するために、M+、Ai
+(i=1、2、3、・・)以外のイオン種と反応する。即ち、
Ai
++Bj→Cij
++Dij (10)
プロダクトイオン種Cij
+の1つが、MO+と同じm/zを有する場合、MO+の干渉の無い検出は、もはや可能でない。
【0119】
また、周囲空気中の不純物から生成されたイオンが、実験的に観測された。第1のマスフィルタ(Q1)1026は、40Ar+がリアクションセル1010に入ることを可能にするために、m/z=40に設定された。第2のマスフィルタ(Q2)1058が、以下の式(11)により表されるように、周囲空気で満たされたリアクションセル1010で生じる40Ar+とBjとの間の反応から生成された様々なイオンを測定するために走査された。即ち、
40Ar++Bj→Cj
++Dj (11)。
【0120】
留意されるべきは、式(11)は一次反応であり、後続反応がCj
+以外の新たなイオンを生成するCj
+とBjとの間または40Ar+とDjとの間で生じるかもしれない。
【0121】
図11は、
40Ar
+とB
jとの間の反応、及びその後続反応から生成されたC
j
+及び他のイオンを表す測定の結果を示す。測定は、周囲空気がリアクションセル1010へそのままで(その自然な状態で、浄化せず)導入された状態、並びに分子篩3Å及び活性炭を含むガス清浄器を介して周囲空気が導入された状態で行なわれた。プロダクトイオンの全体的な強度は、ガス清浄器が利用された場合に、より低い。リアクションセル1010に入る反応性イオン
40Ar
+の強度は、2つのスペクトル(浄化されていない周囲空気(非浄化周囲空気)および浄化された周囲空気(浄化周囲空気)をそれぞれ利用することから得られた)が測定される場合に一定であった。従って、プロダクトイオンの強度は、リアクションセル1010に導入されるB
jの量を反映する。観測されたプロダクトイオンは、1つのイオン種Ar
+と周囲空気の成分との間の反応から生じる。他のイオン種がリアクションセル1010に入る場合、プロダクトイオンは、強度および種類の点で異なるはずである。
【0122】
P及びSに加えて、他の被検物質が、反応ガスとして周囲空気を用いるICP-MSシステムで処理され得る。例は、以下に限定されないが、チタン(Ti)、ヒ素(As)、セレン(Se)及びウラン(U)を含む。
【0123】
イオンとの反応を通じて干渉イオン(MO
+と同じm/zを有するイオン)を生成する不純物の危険性は、本明細書で説明された及び
図10に示されたトリプル四重極構成を有するICP-MSシステム1000においてリアクションセル1010を動作させることにより大幅に低減され得る。これは、第1のマスフィルタ(Q1)1026が、リアクションセル1010に入るイオン種を1つのm/z(M
+のm/z)だけに制限するように設定(又は調整)されることができ、それにより、もしそうでなければガス成分(式(10)の(B
j))及びリアクションセル1010の前に放出されなかった様々なイオン種との間に生じるセル内反応が抑制されるからである。例えば、トリプル四重極構成を有し、第1のマスフィルタ(Q1)1026がm/z=31に設定され及び第2のマスフィルタ(Q2)1058がm/z=47に設定された状態のICP-MSシステム1000において、リン(
31P)が測定される場合、第1のマスフィルタ(Q1)1026により、
31P
+、及び
14N
16OH
+のような同重体干渉イオンのみがリアクションセル1010に入ることが可能になる。従って、例えば、
40Ar
+イオンが、リアクションセル1010の前の第1のマスフィルタ(Q1)1026によりイオンビームから放出され、ひいては
図11のスペクトルに示されたm/z=47のイオンを生成するように決して反応しない。第1のマスフィルタ(Q1)1026を備えないシステム(又は
単一の四重極構成)において、イオン源1008からの
40Ar
+及び他のイオンは、リアクションセル1010に(P
+と共に)入り、不純物ガスと反応して様々な反応生成物を生成し、それらの一部は、MO
+と同じm/zを有することに起因してMO
+に干渉する可能性がある。
【0124】
周囲空気の湿度は、環境条件の変化に起因して変化する。式(9)により示されるように、検査対象イオンMO
+の産出量は、リアクションセル1010内のH
2O並びにO
2の濃度により影響を受ける。たとえ天気または研究室の環境が変化したとしても、イオン信号の安定性を確実にするために、浄化周囲空気がリアクションセル1010へ導入され得る。周囲空気は、リアクションセル1010に入る周囲空気が環境条件に関係なく成分が一定または均一の状態のままであるように、ガス清浄器を利用することにより、リアクションセル1010に流入する前に浄化され得る。上述されたように、オプションの(しかし、幾つかの応用形態に対して好ましい)ガス清浄器が、
図10の略図におけるガス入口1042と関連付けられ得る。非排他的な例として、ガス清浄器は、分子篩(例えば、水分トラップとして)、又は分子篩および活性炭の組み合わせ(例えば、炭化水素トラップとして)を含む流入(フロースルー)構成を有することができる。一般に、このタイプのガス清浄器は、周囲空気を純O
2ガスに変換するためにO
2を除く全ての成分をフィルタリングして除くことは決してできず、即ち、決して完全に分離できず、O
2分子のみをリアクションセル1010へ送ることを決して可能にできない。従って、多くの応用形態に関して、トリプル四重極構成は、適切に機能するために(又は、所与の応用形態において分析の目的で許容可能とみなされる有効性のレベルで機能するために)浄化周囲空気に依然として必要とされる。
【0125】
本開示の文脈において、用語「周囲空気」は一般に、上述された組成、即ち、主としてN2及びO2、及びより少ない濃度の特定の他のガス、及びまた様々な濃度の水蒸気の混合物を有する大気を意味する。周囲空気は、高純度窒素および高純度酸素を混合することにより生成され、様々な工業目的に使用されるべき容器に貯蔵された合成空気と区別される。また、周囲空気は、特定の汚染要因物または汚染物質も含む可能性があり、それらの一部は、ガス分子ではない粒子であるかもしれない。コリジョン/リアクションセルへ入れられる周囲空気は、浄化されない又は浄化されることができる。浄化されない周囲空気(非浄化周囲空気)は、コリジョン/リアクションセルへ入れられる前に浄化(例えば、フィルタリング、トラッピング、洗浄、クリーニングなど)プロセスを受けない周囲空気である。浄化された周囲空気(浄化周囲空気)は、周囲空気のO2以外の1つ又は複数の成分(ガス及び/又は粒子)を除去(又は濃度を少なくとも低減)するように、コリジョン/リアクションセルへ入れられる前に或る程度の浄化を受ける周囲空気である。用語「周囲空気」は、上述された態様においてのように(例えば、ガスシリンダ、缶、又は同種のもののような容器、一般に産業用ガス供給業者から得られる)最初に貯蔵されずに又は閉じ込められずに、コリジョン/リアクションセルの外側(又はコリジョン/リアクションセルが一部である機器またはシステムの外側)の局所環境からコリジョン/リアクションセルへ入れられることができる空気を意味することができる。即ち、コリジョン/リアクションセルへ入れられる周囲空気の供給源は、コリジョン/リアクションセルの外側の局所環境であることができ、純O2ガスで充填された容器ではない。周囲空気の供給源は、コリジョン/リアクションセルが動作する建物(例えば、研究室)の内部の部屋または空間であることができる。本開示のために、係る部屋または空間の内部は、コリジョン/リアクションセルの外側の局所環境の一例であるとみなされ、貯蔵される又は閉じ込められる空気であるとみなされない。上記の定義の1つの例外は、幾つかの実施形態において、周囲空気(上述された多数の成分の組成物を有する)は、加圧容器(即ち、周囲空気の供給源が圧縮空気であることができる)からコリジョン/リアクションセルに供給され得る。
【0126】
図12は、別の実施形態による、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムにおいて干渉を抑制するためにコリジョン/リアクションセルを動作させるための方法の一例を示す流れ
図1200である。周囲空気がコリジョン/リアクションセルへ流入される(ステップ1202)。コリジョン/リアクションセルへの周囲空気の流入の開始後、イオンがコリジョン/リアクションセルへ送られる(ステップ1204)。送られたイオンは、少なくとも検査対象イオン(M
+)であり、干渉イオン(X
+)も含むかもしれない。検査対象イオンは、コリジョン/リアクションセルにおいて、プロダクトイオンを生成するために周囲空気の酸素分子(O
2)と反応される(ステップ1206)。プロダクトイオンは、酸化物イオン(MO
+)、即ち検査対象イオンの酸化物(又は酸化された検査対象イオン)である。反応は、コリジョン/リアクションセルにおいて干渉イオン(X
+)の存在下で行なわれ、当該干渉イオンは、検査対象イオンの質量対電荷比に等しい質量対電荷比を有する。次いで、プロダクトイオンが、質量分析計に送られる(ステップ1208)。質量分析計は、プロダクトイオンを測定するように動作する(ステップ1210)。
【0127】
上述されたように、周囲空気は、コリジョン/リアクションセルへ周囲空気を流入する(ステップ1202)前に浄化されない又は浄化され得る。後者の場合、方法は、周囲空気を
コリジョン/リアクションセルに流入する前に、周囲空気の酸素分子以外の1つ又は複数の成分の濃度を除去または低減するために周囲空気を浄化することを含む。
【0128】
一実施形態において、イオンをコリジョン/リアクションセルへ送ること(ステップ1204)は、検査対象イオン、及び(もしあれば)検査対象イオンの質量対電荷比に等しい質量対電荷比を有する干渉イオンのみを送ることを含む。更に、質量分析計の動作(ステップ1210)は、プロダクトイオン及び(もしあれば)プロダクトイオンの質量対電荷比に等しい質量対電荷比を有する他のイオンのみを測定することを含む。
【0129】
例えば、方法は、イオンをコリジョン/リアクションセルへ送る(ステップ1204)前に、検査対象イオン、及び検査対象イオンの質量対電荷比に等しい質量対電荷比を有する干渉イオンのみが、コリジョン/リアクションセルへ送られることを可能にするように設定された第1のマスフィルタへイオンを送ることを含むことができる。更に、プロダクトイオンを質量分析計に送ること(ステップ1208)は、プロダクトイオンを質量分析計の第2のマスフィルタへ送ることを含むことができ、質量分析計の動作(ステップ1210)は、プロダクトイオン及びもしあれば、プロダクトイオンの質量対電荷比に等しい質量対電荷比を有する他のイオンのみが質量分析計のイオン検出器に送られることを可能にするために第2のマスフィルタを設定することを含むことができる。
【0130】
更なる実施形態において、
図1~
図9に関連して上述された方法の1つ又は複数の態様は、反応ガスとして周囲空気を利用する場合に適用され得る。
【0131】
一実施形態において、流れ
図1200は、ステップ1202~1210を実行するために構成された、コリジョン/リアクションセル、又はコリジョン/リアクションセル及び関連する電子回路、又はコリジョン/リアクションセル及び関連するICP-MSシステムを表すことができる。このために、当業者により理解されるように、プロセッサ、メモリ及び他の構成要素を含むコントローラ(例えば、
図1に示されたコントローラ120)は、例えばステップ1202~1210を実行する際に必要とされるICP-MSシステムの構成要素(例えば、セル、電子回路など)を制御することにより、ステップ1202~1210の実行を制御するために設けられ得る。
【0132】
例示的な実施形態
本開示された主題に従って提供される例示的な実施形態は、以下に限定されないが、以下のことを含む。
1.誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムのコリジョン/リアクションセルを動作させるための方法であって、
衝突/反応ガスを前記コリジョン/リアクションセルに流入し、前記コリジョン/リアクションセルが、入口、前記コリジョン/リアクションセルの長手方向軸に沿って前記入口から離隔された出口、前記入口と前記出口との間に配置され且つ前記長手方向軸に直交する半径方向にイオンを閉じ込めるように構成された多極イオンガイドを含み、
イオンを、前記入口を介して前記コリジョン/リアクションセルへ送り、
イオンが前記コリジョン/リアクションセルを出ることを防止するのに有効なDCポテンシャル障壁を生成するために出口DC電位を前記出口に第1の大きさで印加し、
閉じ込め期間中、前記出口DC電位を前記第1の大きさで維持し、
前記閉じ込め期間中、イオンを衝突/反応ガスと衝突させ、イオンは、前記コリジョン/リアクションセルにおいてイオンを減速し且つ閉じ込めるのに有効な複数回の衝突を受け、
前記閉じ込め期間後、前記閉じ込められたイオンの少なくとも検査対象イオンがパルス持続時間を有するパルスとして前記出口を通過することを可能にするのに有効な第2の大きさに前記出口DC電位を切り換えることにより、前記検査対象イオンを質量分析計に送り、
前記パルス持続時間にほぼ等しい持続時間を有する測定期間にわたって前記検査対象イオンを計数することを含む、方法。
2.誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムにおいて干渉を抑制するためにコリジョン/リアクションセルを動作させるための方法であって、
衝突/反応ガスを前記コリジョン/リアクションセルに流入し、前記コリジョン/リアクションセルが、入口、前記コリジョン/リアクションセルの長手方向軸に沿って前記入口から離隔された出口、前記入口と前記出口との間に配置され且つ前記長手方向軸に直交する半径方向にイオンを閉じ込めるように構成された多極イオンガイドを含み、
イオンを、前記入口を介して前記コリジョン/リアクションセルへ送り、イオンは、検査対象イオン及びプラズマ形成ガスを利用して分析中の試料をイオン化することから生成された干渉イオンを含み、
イオンが前記コリジョン/リアクションセルを出ることを防止するのに有効なDCポテンシャル障壁を生成するために出口DC電位を前記出口に第1の大きさで印加し、
質量分析計により測定される際に干渉イオン信号強度(イオン信号強度の干渉)を抑制するのに有効な相互作用を実行するための閉じ込め期間中、前記出口DC電位を前記第1の大きさで維持し、前記相互作用は、
前記干渉イオンを非干渉イオンに又は中性種に変換するのに有効な反応に従って、前記干渉イオンを衝突/反応ガスと反応させ、前記検査対象イオンは、前記コリジョン/リアクションセルにおいて前記検査対象イオンを減速し且つ閉じ込めるのに有効な複数回、前記衝突/反応ガスと衝突し、
プロダクトイオンを生成するのに有効な反応に従って前記検査対象イオンを前記衝突/反応ガスと反応させ、前記プロダクトイオンが前記コリジョン/リアクションセルにおいて前記プロダクトイオンを減速し且つ閉じ込めるのに有効な複数回、前記衝突/反応ガスと衝突することからなるグループから選択され、
前記閉じ込め期間後、前記検査対象イオン又は前記プロダクトイオンがパルス持続時間を有するパルスとして前記出口を通過することを可能にするのに有効な第2の大きさに前記出口DC電位を切り換えることにより、前記検査対象イオン又は前記プロダクトイオンを質量分析計に送り、
前記パルス持続時間にほぼ等しい持続時間を有する測定期間にわたって前記検査対象イオン又は前記プロダクトイオンを計数することを含む、方法。
3.前記第1の大きさ及び前記第2の大きさが、以下のこと、即ち前記第2の大きさが前記第1の大きさより負の方であること、前記第1の大きさが正またはゼロの大きさであり、前記第2の大きさが負またはゼロの大きさであること、前記第1の大きさが0Vから+100Vの範囲内であること、前記第2の大きさが-200Vから0Vの範囲内であること、及び上記の2つ又は3つ以上の組み合わせからなるグループから選択される、実施形態1又は2に記載の方法。
4.前記切り換えることは、0.01msから0.1msの範囲の持続時間を有する、実施形態1~3の何れかに記載の方法。
5.前記閉じ込め期間が、0msから1000msの範囲の持続時間を有する、実施形態1~4の何れかに記載の方法。
6.前記測定期間が、前記パルスのピークのFWHMから前記FWHMの5倍の範囲の持続時間を有する、実施形態1~5の何れかに記載の方法。
7.前記パルス持続時間が、0.01msから1msの範囲内である、実施形態1~6の何れかに記載の方法。
8.前記出口DC電位を前記出口に印加することが、前記コリジョン/リアクションセルの出口レンズに前記出口DC電位を印加することを含む、実施形態1~7の何れかに記載の方法。
9.前記多極イオンガイドに沿って軸方向DC電位勾配を印加することを含み、前記閉じ込められたイオンが、前記閉じ込め期間中、前記入口を介して前記コリジョン/リアクションセルを出ることが防止される、実施形態1~8の何れかに記載の方法。
10.前記閉じ込め期間中、イオンを、前記入口を介して前記コリジョン/リアクションセルへ送り続けることを含む、実施形態1~9の何れかに記載の方法。
11.閉じ込められた検査対象イオンが前記入口を介して前記コリジョン/リアクションセルを出ることを防止し且つ干渉イオンが前記入口を介して前記コリジョン/リアクションセルに入ることを防止するのに有効な前記閉じ込め期間の少なくとも後半中に、前記入口に入口DC電位を印加することを含む、実施形態1~9の何れかに記載の方法。
12.干渉イオンが前記入口を介して、前記コリジョン/リアクションセルに入ることを防止するのに有効な前記測定期間中に、前記入口に入口DC電位を印加することを含む、実施形態1~11の何れかに記載の方法。
13.イオンを、前記入口を介して前記コリジョン/リアクションセルへ送る前に、前記試料を誘導結合プラズマにさらすことによりイオンを生成することを含む、実施形態1~12の何れかに記載の方法。
14.前記試料をさらすことが、プラズマトーチを動作させることを含む、実施形態13に記載の方法。
15.前記試料をネブライザ又はスプレーチャンバから前記プラズマトーチへ流入することを含む、実施形態13又は14に記載の方法。
16.検査対象イオンの化学的識別性および干渉イオンの化学的識別性に基づいて前記衝突/反応ガスを選択することを含む、実施形態1~15の何れかに記載の方法。
17.前記検査対象イオンが、第1の質量の第1の検査対象イオンであり、前記干渉イオンが、第1の干渉イオンであり、前記閉じ込め期間が、第1の持続時間の第1の閉じ込め期間であり、前記パルスが第1のパルスであり、前記検査対象イオンは、前記第1の質量と異なる第2の質量の第2の検査対象イオンを更に含み、
前記第1のパルスに含まれる前記第1の検査対象イオンを測定後、前記第1の持続時間と異なる第2の持続時間の第2の閉じ込め期間にわたって前記第1の大きさで前記出口に前記出口DC電位を再び印加し、
前記第2の閉じ込め期間中、前記衝突/反応ガスを、前記第2の検査対象イオンに干渉する第2の干渉イオンと反応させ、又は干渉を抑制するために、前記衝突/反応ガスを前記第2の検査対象イオンと反応させ、
前記第2の閉じ込め期間後、前記出口DC電位を前記第2の大きさに切り換えることにより、第2のパルスを前記質量分析計に送り、
前記第2のパルスに含まれる前記第2の検査対象イオン、又は前記第2の検査対象イオンから形成されたプロダクトイオンを測定することを更に含む、実施形態1~16の何れかに記載の方法。
18.前記検査対象イオンが、第1の質量の第1の検査対象イオンであり、前記干渉イオンが、第1の干渉イオンであり、前記閉じ込め期間が、第1の持続時間の第1の閉じ込め期間であり、前記パルスが第1のパルスであり、
前記第1の検査対象イオンを計数後、前記入口を介して前記コリジョン/リアクションセルへ、前記第1の質量と異なる第2の質量の第2の検査対象イオンを送り、及び前記第2の検査対象イオンに干渉する第2の干渉イオンを送り、
前記第1の持続時間と異なる第2の持続時間の第2の閉じ込め期間中、前記第2の検査対象イオン及び前記第2の干渉イオンが前記第2の閉じ込め期間中に前記コリジョン/リアクションセルを出ることを防止するために、前記第1の大きさで前記出口に前記出口DC電位を印加し、
前記第2の閉じ込め期間中、干渉イオン信号強度(イオン信号強度の干渉)を抑制するために前記第2の干渉イオン又は前記第2の検査対象イオンと前記衝突/反応ガスを反応させ、
前記第2の閉じ込め期間後、第2のパルスとして前記出口を通過させるために前記出口DC電位を前記第2の大きさに切り換えることにより、前記第2の検査対象イオン、又は前記第2の検査対象イオンから形成されたプロダクトイオンを前記質量分析計に送ることを更に含む、実施形態1~17の何れかに記載の方法。
19.前記第1の検査対象イオン及び前記第1の干渉イオンの化学的識別性に基づいて前記第1の持続時間、及び前記第2の検査対象イオン及び前記第2の干渉イオンの化学的識別性に基づいて前記第2の持続時間を選択することを含む、実施形態17又は18に記載の方法。
20.前記第1の閉じ込め期間中、前記衝突/反応ガスを前記コリジョン/リアクションセルへ流量で流入し、前記第2の閉じ込め期間中、前記衝突/反応ガスを前記コリジョン/リアクションセルへ同じ流量で流入することを含む、実施形態17~19の何れかに記載の方法。
21.前記衝突/反応ガスが、ヘリウム、ネオン、アルゴン、水素、酸素、水、空気、アンモニア、メタン、フッ化メタン、亜酸化窒素、及び上記の2つ又は3つ以上の組み合わせからなるグループから選択される、実施形態1~20の何れかに記載の方法。
22.前記検査対象イオンが、金属、又は希ガスを除く他の元素の正の単原子イオン;及び金属、又は希ガスを除く他の元素の正の単原子イオンと前記衝突/反応ガスを反応させることにより生成されたプロダクトイオンからなるグループから選択される、実施形態1~21の何れかに記載の方法。
23.前記干渉イオンが、正のアルゴンイオン;アルゴンを含む多原子イオン;前記試料の成分を含む二重に帯電したイオン;前記試料の成分を含む同重体のイオン;及び前記試料の成分を含む多原子イオンからなるグループから選択される、実施形態1~22の何れかに記載の方法。
24.試料を分析するための方法であって、前記試料から検査対象イオンを生成し;実施形態1~23の何れかに記載された前記コリジョン/リアクションセルへ前記検査対象イオンを送り;実施形態1~23の何れかに記載された方法に従って前記コリジョン/リアクションセルを動作させ;前記検査対象イオン又は前記プロダクトイオンを前記質量分析計の質量分析器へ送ることを含む、方法。
25.誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムであって、プラズマを生成し且つ前記プラズマにおいて検査対象イオンを生成するように構成されたイオン源と、実施形態1~24の何れかに記載された前記コリジョン/リアクションセルと、電子プロセッサ及びメモリを含み、実施形態1~24の何れかに記載された方法のステップを制御するように構成されたコントローラとを含む、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システム。
26.誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムであって、プラズマを生成し且つ前記プラズマにおいて検査対象イオンを生成するように構成されたイオン源と;コリジョン/リアクションセルであって、前記イオン源から前記検査対象イオンを受け取るように構成された入口、前記コリジョン/リアクションセルの長手方向軸に沿って前記入口から離隔された出口、及び前記入口と前記出口との間に配置され且つ前記長手方向軸に直交する半径方向にイオンを閉じ込めるように構成された多極イオンガイドを含む、コリジョン/リアクションセルと;前記出口と連絡する質量分析計と;電子プロセッサ及びメモリを含み、以下の動作、即ち、衝突/反応ガスを前記コリジョン/リアクションセルへ流入し;イオンを、前記入口を介して前記コリジョン/リアクションセルへ送り、前記イオンが検査対象イオン及び前記イオン源において生成された干渉イオンを含み;前記イオンが前記コリジョン/リアクションセルを出ることを防止するのに有効なDCポテンシャル障壁を生成するために第1の大きさで前記出口に出口DC電位を印加し;前記質量分析計により測定される際に干渉イオン信号強度(イオン信号強度の干渉)を抑制するのに有効な相互作用を実行するための閉じ込め期間中に前記出口DC電位を前記第1の大きさに維持し、前記相互作用は、もしあれば、前記干渉イオンを、前記干渉イオンを非干渉イオンに又は中性種に変換するのに有効な反応に従って衝突/反応ガスと反応させ、前記検査対象イオンは、前記コリジョン/リアクションセルにおいて前記検査対象イオンを減速し且つ閉じ込めるのに有効な複数回、前記衝突/反応ガスと衝突され;質量分析計により測定されるべきプロダクトイオンを生成するのに有効な反応に従って前記検査対象イオンを前記衝突/反応ガスと反応させ、前記プロダクトイオンが前記コリジョン/リアクションセルにおいて前記プロダクトイオンを減速し且つ閉じ込めるのに有効な複数回、前記衝突/反応ガスと衝突されることからなるグループから選択され;閉じ込め期間後、前記検査対象イオン又は前記プロダクトイオンがパルス持続時間を有するパルスとして前記出口を通過することを可能にするのに有効な第2の大きさに前記出口DC電位を切り換えることにより、前記検査対象イオン又は前記プロダクトイオンを前記質量分析計に送り;前記パルス持続時間にほぼ等しい持続時間を有する測定期間にわたって前記検査対象イオン又は前記プロダクトイオンを測定することを含む動作を制御するように構成されたコントローラとを含む、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システム。
27.前記コントローラが、前記多極イオンガイドに沿って軸方向DC電位勾配を印加することを制御するように構成され、閉じ込められたイオンが、前記閉じ込め期間中に前記入口を介して前記コリジョン/リアクションセルを出ることが防止される、実施形態25又は26に記載のICP-MSシステム。
28.出口レンズを含み、前記コントローラが、前記出口レンズに前記出口DC電位を印加するように構成されている、実施形態25~27の何れかに記載のICP-MSシステム。
29.前記イオン源がプラズマトーチを含む、実施形態25~28の何れかに記載のICP-MSシステム。
30.前記衝突/反応ガスを前記コリジョン/リアクションセルへ流入するように構成された衝突/反応ガス源を含む、実施形態25~29の何れかに記載のICP-MSシステム。
31.前記質量分析計が、パルス動作しない機器である、実施形態1~30の何れかに記載の方法またはシステム。
32.前記パルス動作しない機器が、パルス動作しない動作のために構成された多極デバイス又はセクタ機器を含む、実施形態31に記載の方法またはシステム。
33.誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムにおいて干渉を抑制するためにコリジョン/リアクションセルを動作させるための方法であって、
周囲空気を前記コリジョン/リアクションセルへ流入し;イオンを前記コリジョン/リアクションセルへ送り、前記イオンが検査対象イオン(M+)を含み;前記検査対象イオンを前記周囲空気の酸素分子(O2)と反応させてプロダクトイオンを生成し、前記プロダクトイオンが、酸化物イオン(MO+)であり、前記反応が、前記コリジョン/リアクションセルにおいて干渉イオン(X+)の存在下で行なわれ、前記干渉イオンが、前記検査対象イオンの質量対電荷比に等しい質量対電荷比を有し;前記プロダクトイオンを質量分析計に送り;前記プロダクトイオンを測定するように前記質量分析計を動作させることを含む、方法。
34.前記周囲空気は、前記周囲空気を前記コリジョン/リアクションセルに流入する前に浄化されない、実施形態33に記載の方法。
35.前記周囲空気を前記コリジョン/リアクションセルに流入する前に、前記周囲空気の酸素分子以外の1つ又は複数の成分の濃度を除去または低減するために前記周囲空気を浄化することを含む、実施形態33に記載の方法。
36.前記イオンを前記コリジョン/リアクションセルへ送ることは、前記検査対象イオン、及び前記検査対象イオンの質量対電荷比に等しい質量対電荷比を有する干渉イオンのみを送ることを含み、前記質量分析計を動作させることは、前記プロダクトイオン、及びもしあれば前記プロダクトイオンの質量対電荷比に等しい質量対電荷比を有する他のイオンのみを測定することを含む、実施形態33~35の何れかに記載の方法。
37.イオンを前記コリジョン/リアクションセルへ送る前に、前記検査対象イオン及び前記検査対象イオンの質量対電荷比に等しい質量対電荷比を有する干渉イオンのみが前記コリジョン/リアクションセルへ送られることを可能にするように設定された第1のマスフィルタへイオンを送ることを含み、前記プロダクトイオンを前記質量分析計に送ることは、前記プロダクトイオンを前記質量分析計の第2のマスフィルタへ送ることを含み、前記質量分析計を動作させることは、前記プロダクトイオン、及びもしあれば前記プロダクトイオンの質量対電荷比に等しい質量対電荷比を有する他のイオンのみが前記質量分析計のイオン検出器に送られることを可能にするために前記第2のマスフィルタを設定することを含む、実施形態33~36の何れかに記載の方法。
38.前記コリジョン/リアクションセルは、検査対象イオンを含むイオンが送られる入口と、前記プロダクトイオンが前記質量分析計に送られる出口と、前記入口と前記出口との間に配置された多極イオンガイドとを含む、実施形態33~37の何れかに記載の方法。
39.イオンが前記コリジョン/リアクションセルを出ることを防止するのに有効なDCポテンシャル障壁を生成するために出口DC電位を前記出口に第1の大きさで印加し;閉じ込め期間中、前記出口DC電位を前記第1の大きさで維持することを含み、前記検査対象イオンの酸素分子との反応が、前記閉じ込め期間中に行なわれ;前記プロダクトイオンを前記質量分析計に送ることは、前記閉じ込め期間後に行なわれ、前記プロダクトイオンがパルス持続時間を有するパルスとして前記出口を通過することを可能にするのに有効な第2の大きさに前記出口DC電位を切り換えることを含む、実施形態38に記載の方法。
40.前記質量分析計を動作させることは、前記パルス持続時間にほぼ等しい持続時間を有する測定期間にわたって前記プロダクトイオンを測定することを含む、実施形態39に記載の方法。
41.実施形態3~20、22及び/又は23の何れかに記載された特徴またはステップの1つ又は複数を含む、実施形態33~40の何れかに記載の方法。
42.試料を分析するための方法であって、前記試料から検査対象イオンを生成し;前記検査対象イオンを実施形態33~41の何れかに記載された前記コリジョン/リアクションセルへ送り;実施形態33~41の何れかに記載された方法に従って前記コリジョン/リアクションセルを動作させ;前記プロダクトイオンを前記質量分析計の質量分析器へ送ることを含む、方法。
43.誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムであって、プラズマを生成し且つ前記プラズマにおいて検査対象イオンを生成するように構成されたイオン源と;実施形態33~41の何れかに記載された前記コリジョン/リアクションセルと;電子プロセッサ及びメモリを含み、実施形態33~42の何れかに記載された方法のステップを制御するように構成されたコントローラとを含む、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システム。
【0133】
理解されるように、本明細書で説明されたプロセス、サブプロセス及びプロセス・ステップの1つ又は複数は、1つ又は複数の電子制御された又はデジタル的に制御されたデバイス上で、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又はそれらの2つ以上の組み合わせにより実行され得る。ソフトウェアは、例えば
図1に概略的に示されたコンピューティング・デバイス120のような、適切な電子処理構成要素またはシステムにおけるソフトウェアメモリ(図示せず)に常駐することができる。ソフトウェアメモリは、論理機能を実施するための実行可能な命令の順序付けられたリストを含むことができる(即ち、「論理」は、デジタル回路またはソースコードのようなデジタル形式で、又はアナログ電気信号、音声信号、又はビデオ信号のようなアナログ源のようなアナログ形式で実施され得る)。命令は、例えば1つ又は複数のマイクロプロセッサ、汎用プロセッサ、プロセッサの組み合わせ、デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、又は特定用途向け集積回路(ASIC)を含む処理モジュール内で実行され得る。更に、模式図は、機能の構造または物理的なレイアウトにより制限されない物理的な(ハードウェア及び/又はソフトウェア)具現化形態を有する機能の論理的部分を記述する。本明細書で説明されるシステムの例は、様々な構成で実施されることができ、単一のハードウェア/ソフトウェアのユニット又は別個のハードウェア/ソフトウェアのユニットのハードウェア/ソフトウェア構成要素として動作することができる。
【0134】
実行可能な命令は、電子システム(例えば、
図1のコンピューティング・デバイス120)の処理モジュールにより実行される場合に、命令を実行するために当該電子システムに命じる、内部に格納された命令を有するコンピュータ・プログラム製品として実現され得る。コンピュータ・プログラム製品は、命令実行システム、装置、又はデバイスから命令を選択的にフェッチして当該命令を実行することができる電子コンピュータベースのシステム、プロセッサ内蔵システム又は他のシステムのような、命令実行システム、装置、又はデバイスにより使用するための又は当該命令実行システム、装置、又はデバイスと接続する任意の持続性コンピュータ可読記憶媒体に選択的に具現化され得る。本開示の文脈において、コンピュータ可読記憶媒体は、命令実行システム、装置、又はデバイスにより使用するための又は当該命令実行システム、装置、又はデバイスに関連するプログラムを格納することができる任意の持続性手段である。持続性コンピュータ可読記憶媒体は抜粋して、例えば電子的、磁気的、光学的、電磁気的、赤外線、又は半導体のシステム、装置、又はデバイスであることができる。持続性コンピュータ可読媒体のより具体的な例の包括的でないリストは、1つ又は複数のワイヤ(電子的)を有する電気接続;携帯用フロッピー(登録商標)・ディスク(磁気的);ランダム・アクセス・メモリ(電子的);読み出し専用メモリ(電子的);例えばフラッシュメモリのような消去可能プログラマブルROM(電子的);例えばCD-ROM、CD-R、CD-RWのようなコンパクト・ディスク・メモリ(光学的);デジタル多用途ディスク・メモリ、即ちDVD(光学的)を含む。留意されるべきは、持続性コンピュータ可読記憶媒体は、プログラムが、例えば紙または他の媒体の光学走査によって電子的にキャプチャされ、次いでコンパイルされ、解釈され、又は必要に応じて適切な方法で処理され、次いでコンピュータ・メモリ又はマシン・メモリに格納され得る場合に、プログラムが印刷された紙または別の適切な媒体であることさえできる。
【0135】
また、理解されるように、本明細書で使用されるような用語「信号通信において」は、2つ以上のシステム、デバイス、構成要素、モジュール又はサブモジュールが或るタイプの信号経路を介して伝わる信号によって互いと通信(連絡)することができることを意味する。信号は、情報、電力またはエネルギーを第1のシステム、デバイス、構成要素、モジュール又はサブモジュールから第2のシステム、デバイス、構成要素、モジュール又はサブモジュールへ、第1と第2のシステム、デバイス、構成要素、モジュール又はサブモジュール間の信号経路に沿って伝達することができる、通信信号、電力信号、データ信号またはエネルギー信号であることができる。信号経路は、物理的接続、電気接続、磁気的接続、電磁気的接続、電気化学的接続、光接続、有線接続、又は無線接続を含むことができる。また、信号経路は、第1と第2のシステム、デバイス、構成要素、モジュール又はサブモジュール間に追加のシステム、デバイス、構成要素、モジュール又はサブモジュールを含むことができる。
【0136】
より一般的には、「連絡(通信)する」及び「・・と連通」(例えば、第1の構成要素が第2の構成要素「と連絡する」又は第2の構成要素「と連通する」)というような用語は、2つ以上の構成要素または要素間の構造的、機能的、機械的、電気的、信号的、光学的、磁気的、電磁気的、イオン的または流体的関係を示すために本明細書で使用される。そういうものだから、1つの構成要素が第2の構成要素と連絡すると言われる事実は、追加の構成要素が、第1の構成要素と第2の構成要素との間に存在する、及び/又は第1の構成要素と第2の構成要素と動作可能なように関連付けられ得る又は結合され得る可能性を排除することが意図されていない。
【0137】
理解されるように、本発明の様々な態様または細部は、本発明の範囲から逸脱せずに変更され得る。更に、上記の説明は、例示のためだけであり、制限のためではなく、本発明は特許請求の範囲により規定される。