(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120232
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】電磁波抑制シート
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20230822BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20230822BHJP
【FI】
H05K9/00 V
H05K9/00 M
B32B7/025
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092354
(22)【出願日】2023-06-05
(62)【分割の表示】P 2019067134の分割
【原出願日】2019-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】正田 亮
(72)【発明者】
【氏名】豊田 将之
(57)【要約】
【課題】透明性に優れる電磁波抑制シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本開示に係る電磁波抑制シートは、導電性及び透明性を有する電磁波透過層と、透明性を有する抑制層と、横線及び縦線によって構成される開口を有する導電メッシュと、透明性を有する粘着層とをこの順序で外側から内側に向けて備え、導電メッシュの開口において、抑制層と粘着層が接している領域を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性及び透明性を有する電磁波透過層と、
透明性を有する抑制層と、
横線及び縦線によって構成される開口を有する導電メッシュと、
透明性を有する粘着層と、
をこの順序で外側から内側に向けて備え、
前記開口において、前記抑制層と前記粘着層が接している領域を有する、電磁波抑制シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電磁波抑制シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器から発生する電磁波が他の電子機器の誤作動を引き起こすことがある。これを防止するための技術として、例えば、電磁波抑制シート及びこれに使用するコーティング剤が提案されている(特許文献1~3参照)。電磁波抑制シートのタイプは、反射型と透過型に大別される。反射型は入射する電磁波と反射する電磁波とを干渉させることによって電磁波を低減するものである。透過型は電磁波を吸収する性能を有する磁性体を利用し、これを含む層に電磁波を通過させることで電磁波を低減するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-153542号公報
【特許文献2】特開2017-112253号公報
【特許文献3】特開2017-216337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、導電性を有する材料からなるメッシュ(以下、「導電メッシュ」という。)を用いた反射型の電磁波抑制シートの開発過程において、優れた透明性を有する電磁波抑制シートに潜在的なニーズがあると考え、その開発を進めた。具体的には、電磁波抑制シートが透明であれば、例えば、これを電子機器の表面に貼り付けた状態であっても、電子機器の表面に記載された文字等(例えば、メーカー名、型番及びロゴ)を視認できるという利点がある。また、IoT(Internet of Things)の導入が進む工場等において、企業秘密を含む信号が外部に漏れることを防止するため、工場全体を反射型の電磁波抑制シートで覆うことが考えられる。これに透明性に優れる電磁波抑制シートを利用すれば、窓から太陽光を取り入れることができる一方、窓から電磁波が外部に漏洩することを防ぐことができる。
【0005】
本開示は透明性に優れる電磁波抑制シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る電磁波抑制シートは、導電性及び透明性を有する電磁波透過層と、透明性を有する抑制層と、横線及び縦線によって構成される開口を有する導電メッシュと、透明性を有する粘着層とをこの順序で外側から内側に向けて備え、導電メッシュの開口において、抑制層と粘着層が接している領域を有する。
【0007】
上記電磁波抑制シートは、外側(電磁波透過層側)から入射した電磁波が導電メッシュで反射するように構成されており、反射型に分類されるものである。上記のとおり、導電メッシュは、横線及び縦線から形成されたものであることから、ある程度立体的な構造を有する。したがって、抑制層と粘着層との間に導電メッシュを単に配置して電磁波抑制シートを製造した場合、抑制層と粘着層の間に空気層が介在することになる。本発明者らは、抑制層と、粘着層と、これらの間に配置された導電メッシュとを含む積層体に対して厚さ方向に押圧力を加え、これにより、抑制層及び/又は粘着層に導電メッシュを埋め込ませることによって抑制層と粘着層の間に介在する空気をなるべくなくすようにして電磁波抑制シートを作製した。その結果、押圧力を加えない場合と比較して、透明性に優れる電磁波抑制シートを得ることができた。本発明者らが実施した評価試験によれば、抑制層と粘着層の接合面積が大きくなるにしたがって(加える押圧力を大きくするにしたがって)クラリティ(透明度)が高くなることが確認された(
図6参照)。
【0008】
電磁波抑制シートは内側に粘着層を備えていなくてもよい。すなわち、本開示に係る電磁波抑制シートは、導電性及び透明性を有する電磁波透過層と、透明性を有する抑制層と、横線及び縦線によって構成される開口を有する導電メッシュとをこの順序で外側から内側に向けて備え、導電メッシュは、その厚さ方向において、少なくとも一部が抑制層に埋め込まれている態様であってもよい。この態様の電磁波抑制シートは、そのまま使用してもよいし、用途等に応じて抑制層の内側に他の層を設けて使用してもよい。
【0009】
上記電磁波抑制シートは以下の工程を含む製造方法によって製造することができる。すなわち、本開示に係る電磁波抑制シートの製造方法は、抑制層と、これに接するように配置された導電メッシュとを含む積層体を作製する工程と、抑制層の方向に導電メッシュに対して押圧力を加える工程とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、透明性に優れる電磁波抑制シート及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は本開示に係る電磁波抑制シートの一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2(a)及び
図2(b)は透明ガスバリア層の態様を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は導電メッシュの構成を模式的に示す平面図である。
【
図4】
図4は離型フィルムを備える電磁波抑制シートを模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5(a)は試験1に係る積層体の顕微鏡写真であり、
図5(b)は試験2に係る積層体の顕微鏡写真であり、
図5(c)は試験3に係る積層体の顕微鏡写真であり、
図5(d)は比較試験1に係る積層体の顕微鏡写真である。
【
図6】
図6は接合面積割合と、電磁波抑制シートのクラリティ及びヘイズとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本開示の複数の実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0013】
<電磁波抑制シート>
図1に示す電磁波抑制シート10は、透明ガスバリア層(表面保護層)1と、電磁波透過層2と、抑制層3と、導電メッシュ5と、粘着層7とをこの順序で外側から内側に向けて備える。電磁波抑制シート10は、外側(
図1の上側)から入射した電磁波が導電メッシュ5で反射するように構成されており、反射型に分類されるものである。電磁波抑制シート10は、導電メッシュ5の開口5gにおいて、抑制層3と粘着層7が接している領域Rを有する。これにより、電磁波抑制シート10は、優れた透明性を有し、具体的には、ヘイズ(曇り度)が十分に小さく且つクラリティ(透明度)が十分に高い。なお、ヘイズ(%)は、透明材料(試料)を透過した光(全光線透過率)に対し、平均して2.5°以上の角度で拡散した光の割合である。他方、クラリティ(%)は、2.5°よりも狭い角度で評価されるものである。
【0014】
ヘイズ(曇り度)は透明材料による広角度散乱が反映される値である。ヘイズの値が大きくなるに従って、透明材料を介して見える画像のコントラストが低下し、曇ったような画像となる。電磁波抑制シート10のヘイズは、透明性の観点から、好ましくは40%未満であり、より好ましくは30%以下である。
【0015】
クラリティ(透明度)は透明材料による狭角度散乱が反映される値である。クラリティの値が小さくなるに従って、透明材料を介して見える画像の輪郭がゆがめられ、はっきりと見えなくなる傾向にある。つまり、クラリティは細かい文字等の解像度に影響を与える。電磁波抑制シート10のクラリティは、細かい文字等の視認性の観点から、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上である。
【0016】
電磁波抑制シート10は、後述のとおり、抑制層3と、粘着層7と、これらの層の間に配置された導電メッシュ5とを含む積層体を圧縮する方向の力を加える工程を経て製造される。この工程を経ても、抑制層3及び粘着層7の軟らかさの程度によっては、
図1に示すように、抑制層3と粘着層7の間であって導電メッシュ5の線材に近い領域に空気(
図1における白抜き部分)が残存する。また、導電メッシュ5を挟んだ状態で抑制層3と粘着層7が圧縮されるため、
図1に示すように、抑制層3と粘着層7の界面にうねりが生じる。残存している空気及び当該界面のうねりの影響による透明性の低下を抑制する観点から、抑制層3と粘着層7を構成する材料として、両者の屈折率がなるべく近いものを使用することが好ましい。すなわち、両者の屈折率の差は0.2以下であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましい。両者の屈折率の差は0.2以下であることで、抑制層3と粘着層7との界面における光の屈折をより高度に抑制できる。
【0017】
(透明ガスバリア層)
透明ガスバリア層1は、電磁波抑制シート10の内部に空気中の水分及び酸素が侵入することを防止するための層である。後述のとおり、電磁波透過層2が導電性を有する有機材料を含む場合、透明ガスバリア層1を設けることで、空気中の水分等によって電磁波透過層2が経時的に変色したり導電性が低下したりすることを抑制できる。透明ガスバリア層1は、例えば、
図2(a)に示すとおり、透明基材フィルム1aと、蒸着層1vと、ガスバリア性被覆層1cとによって構成されている。
【0018】
透明基材フィルム1aは、十分に無色透明であることが好ましい。透明基材フィルム1aの全光線透過率は85%以上であることが好ましい。透明基材フィルム1aとして、例えば、透明性が高く、耐熱性に優れたフィルムとして、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)、ポリエチレンナフタレートフィルムなどを用いることができる。透明基材フィルム1aの厚さは9~50μmであり、好ましくは12~30μmである。透明基材フィルム1aの厚さが9μm以上であれば、透明基材フィルム1aの強度を十分に確保することができ、他方、50μm以下であれば、ロール状の透明ガスバリア層1を効率的且つ経済的に製造することができる。
【0019】
本実施形態においては、透明基材フィルム1aの一方の面上に蒸着層1vが設けられ、蒸着層1vの上にガスバリア性被覆層1cが更に設けられている(
図2(a)参照)。透明基材フィルム1aと蒸着層1vとの密着性を向上させるために、透明基材フィルム1aの表面に、プラズマ処理などの処理を施したり、アクリル樹脂層、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂などからなるアンカーコート層(不図示)を設けたりしてもよい。なお、
図2(b)に示すように、蒸着層1vとガスバリア性被覆層1cとを交互に積層してもよい。
【0020】
蒸着層1vは、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化マグネシウムあるいはそれらの混合物を透明基材フィルム1aに蒸着させることによって形成することができる。これら無機材料の中でも、バリア性、生産性の観点から、酸化アルミニウム又は酸化ケイ素を用いることが望ましい。蒸着層は、真空蒸着法、スパッタ法、CVD等の手法により形成される。
【0021】
蒸着層1vの厚さ(膜厚)は5~500nmの範囲内とすることが好ましく、10~100nmの範囲内とすることがより好ましい。膜厚が5nm以上であると、均一な膜を形成しやすく、ガスバリア材としての機能をより十分に果たすことができる傾向がある。一方、膜厚が500nm以下であると、十分なフレキシビリティを保持させることができ、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、薄膜に亀裂を生じることをより確実に防ぐことができる傾向がある。
【0022】
ガスバリア性被覆層1cは後工程での二次的な各種損傷を防止するとともに、高いバリア性を付与するために設けられるものである。ガスバリア性被覆層1cは、優れたバリア性を得る観点から、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、金属アルコキシド加水分解物及び金属アルコキシド重合物からなる群より選択される少なくとも一種を成分として含有していることが好ましい。
【0023】
水酸基含有高分子化合物としては、具体的には、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン等の水溶性高分子が挙げられるが、特にポリビニルアルコールを用いた場合にバリア性が最も優れる。
【0024】
金属アルコキシドは、一般式:M(OR)n(MはSi、Ti、Al、Zr等の金属原子を示し、Rは-CH3、-C2H5等のアルキル基を示し、nはMの価数に対応した整数を示す)で表される化合物である。具体的には、テトラエトキシシラン〔Si(OC2H5)4〕、トリイソプロポキシアルミニウム〔Al(O-iso-C3H7)3〕などが挙げられる。テトラエトキシシラン、トリイソプロポキシアルミニウムは、加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定であるので好ましい。また、金属アルコキシドの加水分解物及び重合物としては、例えば、テトラエトキシシランの加水分解物や重合物としてケイ酸(Si(OH)4)などが、トリプロポキシアルミニウムの加水分解物や重合物として水酸化アルミニウム(Al(OH)3)などが挙げられる。
【0025】
ガスバリア性被覆層1cの厚さ(膜厚)は50~1000nmの範囲内とすることが好ましく、100~500nmの範囲内とすることがより好ましい。膜厚が50nm以上であると、より十分なガスバリア性を得ることができる傾向があり、1000nm以下であると、十分なフレキシビリティを保持できる傾向がある。
【0026】
透明ガスバリア層1が
図2(a)及び
図2(b)に示すように蒸着層1v及びガスバリア性被覆層1cを有する場合、透明ガスバリア層1の向きはガスバリア性被覆層1cと電磁波透過層2が対面する向きであることが好ましい。なお、透明ガスバリア層1は透明基材フィルム1aの一方の面上に蒸着層1vが形成された態様(ガスバリア性被覆層1cが形成されていない態様)であってもよく、この場合、透明ガスバリア層1の向きは蒸着層1vと電磁波透過層2が対面する向きであることが好ましい。また、透明ガスバリア層1が透明基材フィルム1a(例えば、PETフィルム)からなる態様(蒸着層1v及びガスバリア性被覆層1cが形成されていない態様)であってもよい。
【0027】
(電磁波透過層)
電磁波透過層2は外側から入射してきた電磁波を抑制層3へと至らしめるための層である。すなわち、電磁波透過層2は、電磁波抑制シート10が使用される環境に応じてインピーダンスマッチングをするための層である。電磁波抑制シート10が空気(インピーダンス:377Ω/□)中で使用される場合、電磁波透過層2のシート抵抗は、例えば、350~400Ω/□の範囲に設定される。
【0028】
電磁波透過層2は、導電性を有する無機材料や有機材料を有する。導電性を有する無機材料としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛アルミニウム(AZO)、カーボンナノチューブ、グラフェン、Ag、Al、Au、Pt、Pd、Cu、Co、Cr、In、Ag-Cu、Cu-AuおよびNiナノ粒子からなる群から選択される1つ以上を含むナノ粒子、又は及びナノワイヤーが挙げられ、導電性を有する有機材料としては、ポリチオフェン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、が挙げられる。
特に柔軟性、成膜性、安定性、377Ω/□のシート抵抗の観点から、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を含む導電性ポリマーが好ましい。電磁波透過層2は、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PPS)との混合物(PEDOT/PSS)を含むものであってもよい。
【0029】
電磁波透過層2のシート抵抗値は、例えば、導電性を有する有機材料の選定、膜厚の調節によって適宜設定することができる。電磁波透過層2の厚さ(膜厚)は0.1~2.0μmの範囲内とすることが好ましく、0.1~0.4μmの範囲内とすることがより好ましい。膜厚が0.1μm以上であると、均一な膜を形成しやすく、電磁波透過層2としての機能をより十分に果たすことができる傾向がある。一方、膜厚が2.0μm以下であると、十分なフレキシビリティを保持させることができ、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、薄膜に亀裂を生じることをより確実に防ぐことができる傾向がある。電磁波透過層2のシート抵抗値は例えばロレスターGP MCP-T610(商品名、株式会社三菱化学アナリテック製)を用いて測定することができる。
【0030】
(抑制層)
抑制層3は、入射する電磁波と反射した電磁波を干渉させるための層である。抑制層3は、以下の式で表される条件を満たすように厚さ等が設定されている。
d=λ/(4(εr)1/2)
式中、λは抑制すべき電磁波の波長(単位:m)を示し、εrは抑制層3を構成する材料の比誘電率、dは抑制層3の厚さ(単位:m)を示す。
【0031】
抑制層3を構成する透明材料としては、シリコーン粘着剤、アクリル粘着剤、ウレタン粘着剤等が挙げられ、耐候性の観点から、シリコーン粘着剤を使用することが好ましい。抑制層3を構成する材料として、例えば、誘電率3.0のシリコーン粘着剤を使用した場合、以下のとおり、抑制すべき電磁波の波長に応じて抑制層3の厚さを設定すればよい。例えば、抑制対象の電磁波がミリ波であって波長1~10mmである場合、抑制層3の厚さは0.144~1.4mm程度とすればよい。抑制対象の電磁波がサブミリ波(テラヘルツ波)であって波長100~1000μm(周波数3.0~0.3THz)である場合、抑制層3の厚さは14.4~144μm程度とすればよい。製造効率の観点から、抑制層3を適度の厚さとする観点から、これに適した誘電率を有する透明材料を抑制層3として採用してもよい。
【0032】
(導電メッシュ)
導電メッシュ5は、
図3に示すように、横線5a及び縦線5bが織られることによって形成されたものである。横線5a及び縦線5bは互いに同じであっても異なってもいてもよい。横線5a及び縦線5bは、例えば、直径20~30μm程度の銅線からなる。横線5a及び縦線5bは、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)からなる芯材と、その表面を覆うように形成された銅層とによって構成されたものであってよい。この銅層は黒化処理が施されたものであってもよい。
また、導電メッシュ5は銅板等の金属板にエッチング等の周知の方法を用いて開口5gを形成したものであっても良い。
【0033】
導電メッシュ5は、隣接する二本の横線5a,5aと、隣接する二本の縦線5b,5bによって構成される、多数の開口5gを有する。開口5gの形状は、平面視において、略正方形である。なお、開口5gの形状は、例えば、長方形であってもよい。開口5gの一辺の長さは、反射させるべき電磁波の波長に応じて設定すればよい。抑制対象の電磁波がミリ波であって波長1~10mmである場合、開口5gの一辺の長さは100~500μm程度であればよい。抑制対象の電磁波がサブミリ波であって波長100~1000μmである場合、開口5gの一辺の長さは25~300μm程度であればよい。
【0034】
(粘着層)
粘着層7は、電磁波抑制シート10を所定の箇所に貼り付けるための層である。粘着層7は、抑制層3とともに導電メッシュ5を挟み込む層でもある。上述のとおり、導電メッシュ5の開口5gにおいて、抑制層3と粘着層7が接している領域Rを有することで、電磁波抑制シート10が優れた透明性を実現している。粘着層7を構成する透明材料としては、シリコーン粘着剤、アクリル粘着剤、ウレタン粘着剤等が挙げられ、透明性、密着性又は価格の観点から適宜選択されることが好ましい。透明性の観点では、抑制層との屈折率差を小さくするため、抑制層と同一材料とすることが好ましい。密着性の観点では、抑制層、導電メッシュ、用途に応じた被着体との相溶性が大きくなるよう、適宜選択されることが好ましい。価格の観点では、アクリル粘着剤が選択されることが好ましい。なお、粘着層7にほこり等が付着し、透明性や、被着体への密着性低下を防止するため、
図4に示すように、粘着層7の外側に離型フィルム9を貼り合わせることが好ましい。
【0035】
導電メッシュ5の開口5gの面積を基準として、抑制層3と粘着層7が接している領域Rの面積の割合(以下、「接合面積割合」という。)は、好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%である。この割合が60%以上であることで、電磁波抑制シート10の小さいヘイズ(曇り度)及び高いクラリティ(透明度)を両立することができる。
【0036】
電磁波抑制シート10は、以下の工程を含む方法によって製造することができる。すなわち、電磁波抑制シート10の製造方法は、抑制層3と、粘着層7と、これらの層の間に配置された導電メッシュ5とを含む積層体を作製する工程と、この積層体に対して押圧力を加える工程とを備える。押圧力は抑制層3及び粘着層7の軟らかさの程度に応じて適宜設定すればよい。例えば、一対のローラの間を通過させることによって上記積層体に押圧力を加える場合、一対のローラによる線圧は0.5~7.0N/mm(好ましくは1.0~5.0N/mm)程度とすればよい。
【0037】
以上、本開示の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、電磁波透過層2が導電性ポリマー(有機材料)からなる場合を例示したが、これに代わりに、酸化スズインジウム(ITO)等の無機材料であってもよい。
【0038】
上記実施形態においては、表面保護層として、透明ガスバリア層1を形成する場合を例示したが、これの代わりに又は透明ガスバリア層1の外側に、例えば、硬度の高い層を形成することによって電磁波抑制シート10の表面を物理的に保護してもよい。
【0039】
上記実施形態においては、内側に粘着層7が形成された態様を例示したが、例えば、電磁波抑制シートを貼り付ける対象が粘着性を有する場合などにあっては、電磁波抑制シートは粘着層7が形成されていないものであってもよい。この態様の電磁波抑制シートは、抑制層3と、これに接するように配置された導電メッシュ5とを含む積層体を作製する工程と、抑制層3の方向に導電メッシュ5に対して押圧力を加える工程とを経て製造することができる。
【0040】
<透明性の評価>
接合面積割合が電磁波抑制シートの透明性(ヘイズ、クラリティ及び写像性)に与える影響を次のような手法で評価した。すなわち、ロールから引き出したベースフィルム(幅340mmのPETフィルム)をラミネート装置に設置した。このベースフィルムの表面上に、以下の導電メッシュ、抑制層及びPETフィルムがこの順序で積層された積層体を形成した。
・粘着層…MHM-FWV100(商品名、日栄化工株式会社製)、サイズ330mm×330mm、材質:アクリル系OCA(Optically Clear Adhesive)、厚さ:100μm、
・導電メッシュ…Su-4G-13227(商品名、セーレン株式会社製)、サイズ:340mm×340mm、線径:58μm、開口形状:正方形(0.2mm×0.2mm)
・抑制層…MHM-SI500(商品名、日栄化工株式会社製)、サイズ:310mm×310mm、材質:シリコーン系OCA(Optically Clear Adhesive)、厚さ:500μm
・PETフィルム…東レ株式会社製、サイズ:340mm×340mm、厚さ:75μm
【0041】
(試験1)
一対のローラ(金属製のローラ及びゴム製のローラ)によって上記積層体に対して押圧力(線圧:0.7N/mm)を加えることによって、導電メッシュの少なくとも一部を抑制層と粘着層に埋め込ませ、導電メッシュの開口部に粘着層と抑制層の接合部を得た。一対のローラを通過する積層体の速度(ライン速度)は1.0m/分とした。
【0042】
(試験2)
線圧を0.7N/mmとする代わりに、2.2N/mmとしたことの他は、試験1と同様にして導電メッシュの少なくとも一部を抑制層と粘着層に埋め込ませ、導電メッシュの開口部に粘着層と抑制層の接合部を得た。
【0043】
(試験3)
線圧を0.7N/mmとする代わりに、4.3N/mmとしたことの他は、試験1と同様にして導電メッシュの少なくとも一部を抑制層と粘着層に埋め込ませ、導電メッシュの開口部に粘着層と抑制層の接合部を得た。
【0044】
(比較試験1)
一対のローラの間を上記積層体を通過させたものの、押圧力を加えなかった。
【0045】
(1)接合面積割合の測定
ベースフィルム側から試験1~3及び比較試験1に係る積層体を観察することによって、接合面積を求め、その値を用いて接合面積割合を算出した。
図5(a)~
図5(d)は試験1~3及び比較試験1に係る積層体の顕微鏡写真である。これらの写真において、破線で囲った領域Rが抑制層と粘着層が接している領域である。
表1に結果を示す。
【0046】
(2)ヘイズ及びクラリティの測定
Haze-gard Plus(BYK社製)を使用し、試験1~3及び比較試験1に係る積層体のヘイズ及びクラリティを測定した。表1に結果を示す。
図6は、接合面積割合と、電磁波抑制シートのヘイズ及びクラリティとの関係を示すグラフである。
【0047】
(試験4)
試験2と同様にして、導電メッシュの少なくとも一部が抑制層と粘着層に埋め込まれている積層体を準備した。写像性測定器(スガ試験機株式会社製)を使用し、試験4及び比較試験1に係る積層体の写像性の評価を評価した。なお、写像性の測定は、幅の異なる複数の光学くしを使用して行われるものである。写像性はクラリティと相関があるパラメータであり、この数値が高いほど文字等の解像度が高いことを示すパラメータである。表2に結果を示す。なお、表2には試験4及び比較試験1に係る積層体の全光線透過率の測定値も記載した。
【0048】
【0049】
【符号の説明】
【0050】
1…透明ガスバリア層(表面保護層)、1a…透明基材フィルム、1c…ガスバリア性被覆層、1v…蒸着層、2…電磁波透過層、3…抑制層、5…導電メッシュ、5a…横線、5b…縦線、5g…開口、7…粘着層、10…電磁波抑制シート、R…領域