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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120247
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】負イオン照射装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 27/14 20060101AFI20230822BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20230822BHJP
   H05H 1/26 20060101ALI20230822BHJP
   H05H 1/50 20060101ALI20230822BHJP
   C23C 16/50 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
H01J27/14
H01J37/08
H05H1/26
H05H1/50
C23C16/50
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094106
(22)【出願日】2023-06-07
(62)【分割の表示】P 2019063359の分割
【原出願日】2019-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】前原 誠
(72)【発明者】
【氏名】酒見 俊之
(72)【発明者】
【氏名】北見 尚久
(57)【要約】
【課題】プラズマを導くプラズマ誘導部を構成する部材を保護することができる負イオン生成装置を提供する。
【解決手段】負イオン生成装置1では、ガス供給部12が負イオンの原料となるガスをチャンバ10内に供給する。そして、プラズマ生成部11は、チャンバ10内にプラズマPを生成し、プラズマ誘導部13が当該プラズマPを導く。これにより、チャンバ10内でプラズマPが広がる。プラズマ生成部11がプラズマPの生成を停止すると、チャンバ10内では負イオンが生成される。ここで、プラズマ誘導部13では、陽極31の内部に磁石32が配置されている。従って、磁石32は、陽極31によってチャンバ10内の負イオンから保護される。また、陽極31のプラズマ生成部11側の表面には、めっき層37が形成される。従って、陽極31は、めっき層37によってチャンバ10内の負イオンから保護される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負イオンを生成する負イオン生成装置であって、
内部で前記負イオンの生成が行われるチャンバと、
前記負イオンの原料となるガスを前記チャンバに供給するガス供給部と、
前記チャンバ内において、プラズマを生成するプラズマ生成部と、
陽極及び磁石を有し、前記プラズマを導くプラズマ誘導部と、を備え、
前記プラズマ誘導部では、
前記陽極の内部に前記磁石が配置され、前記陽極の前記プラズマ生成部側の表面には、めっき層が形成される、負イオン生成装置。
【請求項2】
前記プラズマ誘導部は、前記磁石に対して前記プラズマ生成部と反対側に配置されるヨークを有し、前記ヨークは前記磁石を囲むように配置されて前記プラズマ生成部側へ突出する突出部を有する、請求項1に記載の負イオン生成装置。
【請求項3】
前記磁石の前記プラズマ生成部側の端部には、前記プラズマ生成部側から見て前記磁石よりも大きい磁性体による蓋部材が設けられている、請求項1または2に記載の負イオン生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負イオン生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、負イオン生成装置として、特許文献1に記載されたものが知られている。この負イオン生成装置は、チャンバ内へ負イオンの原料となるガスを供給するガス供給部と、チャンバ内において、プラズマを生成するプラズマ生成部と、を備えている。プラズマ生成部は、チャンバ内でプラズマを間欠的に生成することで負イオンを生成し、対象物へ照射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-025407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述のような負イオン生成装置においては、プラズマ生成部が生成したプラズマは、プラズマ誘導部に導かれる。ここで、このようなプラズマ誘導部を構成する部材がチャンバ内の負イオンによって影響を受ける場合があった。従って、プラズマ誘導部を構成する部材を保護することが求められていた。
【0005】
そこで本発明は、プラズマを導くプラズマ誘導部を構成する部材を保護することができる負イオン生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る負イオン生成装置は、負イオンを生成する負イオン生成装置であって、内部で負イオンの生成が行われるチャンバと、負イオンの原料となるガスをチャンバに供給するガス供給部と、チャンバ内において、プラズマを生成するプラズマ生成部と、陽極及び磁石を有し、プラズマを導くプラズマ誘導部と、を備え、プラズマ誘導部では、陽極の内部に磁石が配置され、陽極のプラズマ生成部側の表面には、めっき層が形成される。
【0007】
本発明に係る負イオン生成装置では、ガス供給部が負イオンの原料となるガスをチャンバ内に供給する。そして、プラズマ生成部は、チャンバ内にプラズマを生成し、プラズマ誘導部が当該プラズマを導く。これにより、チャンバ内でプラズマが広がる。プラズマ生成部がプラズマの生成を停止すると、チャンバ内では負イオンが生成される。ここで、プラズマ誘導部では、陽極の内部に磁石が配置されている。従って、磁石は、陽極によってチャンバ内の負イオンから保護される。また、陽極のプラズマ生成部側の表面には、めっき層が形成される。従って、陽極は、めっき層によってチャンバ内の負イオンから保護される。以上より、プラズマを導くプラズマ誘導部を構成する部材を保護することができる。
【0008】
プラズマ誘導部は、磁石に対してプラズマ生成部と反対側に配置されるヨークを有し、ヨークは磁石を囲むように配置されてプラズマ生成部側へ突出する突出部を有してよい。この場合、ヨークの突出部が磁石による磁場をコントロールすることができるため、チャンバの外部への漏れ磁場を抑制することができる。
【0009】
磁石のプラズマ生成部側の端部には、プラズマ生成部側から見て磁石よりも大きい磁性体による蓋部材が設けられていてよい。この場合、蓋部材が、磁石からの磁束を広い範囲に放射させることができる。これにより、プラズマの入射ビームの径を広げることができ、ビーム集中による陽極の過熱を抑制できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プラズマを導くプラズマ誘導部を構成する部材を保護することができる負イオン生成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る負イオン生成装置の構成について説明する。
図2】プラズマ誘導部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る負イオン生成装置について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
まず、図1を参照して、本発明の実施形態に係る負イオン生成装置の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る負イオン生成装置の構成を示す概略断面図である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の負イオン生成装置1は、プラズマによって負イオンを生成すると共に、当該負イオンを基板Wに照射することができる装置である。
【0015】
負イオン生成装置1は、チャンバ10、プラズマ生成部11、ガス供給部12、プラズマ誘導部13、基板配置部14及び制御部20を備えている。
【0016】
負イオン照射の対称となる基板Wとして、例えば、基材の表面にITO、IWO、ZnO、Ga、AlN、GaN、SiONなどの膜を形成したものが採用される。基材として、例えばガラス基板やプラスチック基板などの板状部材が採用される。
【0017】
チャンバ10は、基板Wを収納し成膜処理を行うための部材である。チャンバ10は、導電性の材料からなり接地電位に接続されている。チャンバ10の内部空間は真空に保たれる。
【0018】
チャンバ10は、例えば六面体の箱型形状を有しており、互いに対向する壁部10a,10bと、互いに対向する壁部10c,10dと、紙面前後方向に互いに対向する一対の壁部を有する。ただし、チャンバ10の形状は特に限定されず、円筒形のチャンバが採用されてもよい。なお、以降の説明では、壁部10a,10bが対向する方向をX軸方向とし、紙面前後方向をY軸方向とし、壁部10c,10dが対向する方向をZ軸方向として説明を行う場合がある。壁部10aがX軸方向の正側であり、紙面前側がY軸方向の正側であり、壁部10c側がZ軸方向の正側であるものとする。
【0019】
続いて、プラズマ生成部11の構成について詳細に説明する。プラズマ生成部11は、チャンバ10内において、プラズマ及び電子を生成する。プラズマ生成部11は、プラズマガン7を有している。このプラズマガン7は、X軸方向の正側の壁部10aに形成されている。
【0020】
プラズマガン7は、例えば圧力勾配型のプラズマガンであり、その本体部分が壁部10aのプラズマ口を介してチャンバ10の内部空間に接続されている。プラズマガン7は、チャンバ10内でプラズマPを生成する。プラズマガン7において生成されたプラズマPは、プラズマ口から内部空間へビーム状に出射される。これにより、チャンバ10の内部空間にプラズマPが生成される。
【0021】
プラズマガン7は、陰極60により一端が閉塞されている。陰極60とプラズマ口との間には、第1の中間電極61(グリッド)と、第2の中間電極62(グリッド)とが同心的に配置されている。第1の中間電極61内にはプラズマPを収束するための環状永久磁石が内蔵されている。第2の中間電極62内にもプラズマPを収束するため電磁石コイルが内蔵されている。
【0022】
プラズマガン7は、負イオンを生成するときは、チャンバ10内において間欠的にプラズマPを生成する。具体的には、プラズマガン7は、後述の制御部20によって間欠的にプラズマPを生成するように制御されている。この制御については、制御部20の説明において詳述する。
【0023】
ガス供給部12は、チャンバ10の外部に配置されている。ガス供給部12は、チャンバ10のX軸方向の負側の壁部10bに設けられたガス供給口21を通し、チャンバ10内へガスを供給する。ガス供給部12は、負イオンの原料となるガスを供給する。ガスとして、例えば、Oなどの負イオンの原料となるO、NH などの窒化物の負イオンの原料となるNH、その他、CやSiなどの負イオンの原料となるC、SiHなどが採用される。なお、ガスは、Arなどの希ガスも含む。
【0024】
プラズマ誘導部13は、陽極31及び磁石32を有し、プラズマPを導く部分である。プラズマ誘導部13は、チャンバ10のX軸方向の負側の壁部10bに設けられている。プラズマ誘導部13は、プラズマガン7とX軸方向において対向する位置に設けられている。従って、プラズマガン7で生成されたプラズマPは、X軸方向の負側へ向かって進行し、プラズマ誘導部13に導かれる。プラズマ誘導部13の詳細な構成については後述する。
【0025】
基板配置部14は、基板Wを配置するための部分である。基板配置部14は、チャンバ10のZ軸方向の負側の壁部10dに設けられている。すなわち、基板配置部14は、プラズマガン7とプラズマ誘導部13とが対向する方向に対して直交する方向に配置される。基板配置部14は、プラズマPを回避する位置に配置される。基板配置部14は、基板Wをチャンバ10の内部空間で載置させるための載置部22と、載置部22と連結されてチャンバ10の外部まで延びる導体部23と、を備える。
【0026】
導体部23には、バイアス電圧印加部24が接続されている。バイアス電圧印加部24は、基板Wに正のバイアス電圧を印加するための機器である。バイアス電圧印加部24は、基板Wに正のバイアス電圧(以下、単に「バイアス電圧」ともいう)を印加するための電源等を備えて構成される。バイアス電圧印加部24は、バイアス電圧として、周期的に増減する矩形波である電圧信号(周期的電気信号)を印加する。バイアス電圧印加部24は、印加するバイアス電圧の周波数を制御部20の制御によって変更可能に構成されている。バイアス電圧印加部24は、制御部20によってバイアス電圧印加のON/OFFが切り替えられる。バイアス電圧印加部24が基板Wにバイアス電圧を印加したら、チャンバ10の内部空間にて生成された負イオンが基板W側に導かれると共に、当該基板Wに照射される。
【0027】
制御部20は、負イオン生成装置1全体を制御する装置であり、装置全体を統括的に管理するECU[Electronic Control Unit]を備えている。ECUは、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、CAN[Controller Area Network]通信回路等を有する電子制御ユニットである。ECUでは、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。ECUは、複数の電子ユニットから構成されていてもよい。
【0028】
制御部20は、チャンバ10の外部に配置されている。また、制御部20は、プラズマ生成部11、ガス供給部12、及びバイアス電圧印加部24と電気的に接続されている。制御部20は、ガス供給部12によるガス供給を制御し、プラズマ生成部11によるプラズマPの生成を制御し、バイアス電圧印加部24によるバイアス電圧の印加を制御する。
【0029】
制御部20は、ガス供給部12を制御して、チャンバ10内にガスを供給する。続いて、制御部20は、プラズマガン7からのプラズマPをチャンバ10の内部空間で間欠的に生成するようにプラズマ生成部11を制御する。例えば、制御部20によって、スイッチのON/OFF状態が所定間隔で切り替えられることにより、プラズマガン7からのプラズマPがチャンバ10の内部空間で間欠的に生成される。
【0030】
プラズマガン7からのプラズマPがチャンバ10内に出射される状態では、チャンバ10の内部空間にプラズマPが生成される。プラズマPは、中性粒子、正イオン、負イオン(酸素ガスなどの負性気体が存在する場合)、及び電子を構成物質としている。従って、チャンバ10の内部空間には、電子が生成されることとなる。プラズマガン7からのプラズマPがチャンバ10内に出射されない状態では、チャンバ10の内部空間におけるプラズマPの電子温度が急激に低下する。このため、チャンバ10の内部空間に供給されたガスの粒子に、電子が付着し易くなる。これにより、チャンバ10の内部空間では、負イオンが効率的に生成される。
【0031】
制御部20は、バイアス電圧印加部24によるバイアス電圧の印加を制御する。制御部20は、所定のタイミングにて、バイアス電圧印加部24によるバイアス電圧を印加する。なお、バイアス電圧印加部24によるバイアス電圧の印加を開始するタイミングは、制御部20にて予め設定される。バイアス電圧印加部24によって基板Wに正のバイアス電圧が付与されることで、チャンバ10内の負イオンが基板Wへ導かれる。これにより、負イオンが基板Wへ照射される。また、チャンバ10内に電子が存在している場合は、電子も基板Wへ導かれる。
【0032】
次に、図2を参照して、プラズマ誘導部13の詳細な構成について説明する。図2は、プラズマ誘導部13の拡大断面図である。図2に示すように、プラズマ誘導部13は、チャンバ10の壁部10bに形成された開口部10eに設けられている。プラズマ誘導部13は、陽極31と、磁石32と、ヨーク33と、を主に備えている。なお、プラズマ誘導部13は、流路等を除き、X軸方向に延びる中心軸線CLを基準として回転対称な構成を有しているため、中心軸線CLを基準として説明を行う場合がある。
【0033】
陽極31は、プラズマPを受けるための部材である。陽極31は、端壁部31aと、側壁部31bと、フランジ部31cと、を備える。陽極31は、例えば、無酸素銅、その他アルミニウム、SUS304などの材料によって構成される。
【0034】
端壁部31aは、壁部10bの開口部10eに対応する位置に配置され、中心軸線CLと直交する方向へ広がる円形の部材である。図2では、X軸方向において、端壁部31a及び壁部10bは、チャンバ10の内部空間側の端面が略一致するような位置に配置されている。ただし、端壁部31aのX軸方向の位置は特に限定されず、チャンバ10の内部空間まではみ出してよく、開口部10e内に収まっていてもよい。なお、チャンバ10には、SUS304などによって形成されるシールド板39が設けられる。シールド板39は、中心軸線CLを中心とする円環状の板材であり、チャンバ10の壁部10bのX軸方向の正側に固定される。シールド板39は、開口部10eの内周面と端壁部31aの外周側の縁部との間に形成される空間を塞ぐ。
【0035】
側壁部31bは、端壁部31aの外周縁からX軸方向の負側へ向かって延びる円筒状の部材である。側壁部31bは、中心軸線CLを中心としてチャンバ10の外部まで延びる。フランジ部31cは、側壁部31bのX軸方向の負側の端部から外周側へ向かって広がる。フランジ部31cは、中心軸線CLを中心として、当該中心軸線CLと直交する方向へ広がる円環状の部材である。
【0036】
陽極31のフランジ部31cのX軸方向の負側の面には、陽極ベース36が固定される。陽極ベース36は、中心軸線CLを中心として、当該中心軸線CLと直交する方向へ広がる円板状の部材である。陽極ベース36は、側壁部31bのX軸方向の負側に形成される開口部を塞ぐことができる。これにより、陽極31には、端壁部31a、側壁部31b、及び陽極ベース36によって囲まれる領域に、内部空間が形成される。陽極ベース36の材料として、SUS304などの材料が採用される。
【0037】
陽極31は、支持部材34及び絶縁スペーサ35を介して、壁部10bの外部側の面に固定される。具体的には、壁部10bのX軸方向の負側の面には、陽極31を取り囲む支持部材34が設けられる。また、支持部材34のX軸方向の負側の面には、陽極31を取り囲む絶縁スペーサ35が設けられる。支持部材34及び絶縁スペーサ35は、中心軸線CLを中心として、当該中心軸線CLと直交する方向へ広がる円環状の部材である。陽極31は、フランジ部31cのX軸方向の正側の面において、絶縁スペーサ35のX軸方向の負側の面に固定される。これにより、陽極31は、絶縁スペーサ35によってチャンバ10との絶縁性が確保された状態にて、当該チャンバ10に固定される。なお、絶縁スペーサ35の材料として、PTFE、その他アルミナセラミックスなどの材料が採用される。
【0038】
プラズマ誘導部13では、陽極31のプラズマ誘導部13側の表面には、めっき層37が形成される。ここで、プラズマ誘導部13側の表面とは、プラズマPが存在するチャンバ10の内部空間に面する方の表面である。ここでは、めっき層37は、端壁部31aのX軸方向の正側の表面、側壁部31bの外周側の表面に形成されている。なお、フランジ部31cのX軸方向の正側の表面のうち、絶縁スペーサ35で覆われていない部分にも、めっき層37が形成される。めっき層37として、イオン化傾向の小さい金めっき、白金めっきなどが採用される。なお、陽極31のプラズマ誘導部13と反対側の表面、すなわち陽極31の内部空間に面する表面には、めっき層が形成されていなくてよい。
【0039】
磁石32は、陽極31の内部に配置される。磁石32は、陽極31の内部空間において、ヨーク33を介して蓋部材31dに固定される。磁石32は、中心軸線CLを中心とした円柱状の形状を有する。また、磁石32のX軸方向の正側の端部は、端壁部31aからX軸方向の負側へ離間するように配置される。磁石32は、プラズマ生成部11側(X軸方向の正側)がS極であり、プラズマ生成部11と反対側(X軸方向の負側)がN極となるように配置される。なお、磁石32は、外周側において樹脂製のマグネットカバー44に支持されている。
【0040】
磁石32のプラズマ生成部11側の端部32aには、磁石32よりも径が大きい磁性体による蓋部材38が設けられている。蓋部材38は、中心軸線CLを中心とする円板状の部材である。蓋部材38の外周面は、磁石32の端部32aからX軸方向の正側へ向かうに従って径が大きくなるように傾斜している。蓋部材38は、磁石32の端部32aよりも大きい径を有することで、当該端部32aよりも広範囲に磁束MLを放射させることができる。これにより、蓋部材38は、プラズマPの入射ビームの径を広げることができる。
【0041】
ヨーク33は、磁石32による磁場分布を調整するための部材である。ヨーク33は、磁石32に対してプラズマ生成部11と反対側、すなわちX軸方向の負側に配置される部材である。具体的には、ヨーク33は、底部41と、突出部42と、を備えており、底部41が、磁石32に対してX軸方向の負側に配置される。底部41は、陽極31の内部空間において、陽極ベース36のX軸方向の正側の面に対して固定されている。底部41は、中心軸線CLを中心として、当該中心軸線CLと直交する方向へ広がる円板状の部材である。底部41の外周面は、陽極31の側壁部31bの内周面と径方向に離間して対向するように配置される。また、底部41のX軸方向の正側の面には磁石32が固定される。
【0042】
突出部42は、磁石32を囲むように配置されてプラズマ生成部11側(X軸方向の正側)へ突出する部材である。突出部42は、底部41の外周側の縁部から、X軸方向の正側へ向かって延びる。突出部42は、中心軸線CLを中心とする円筒状の形状を有しており、磁石32の側面と径方向において互いに離間して対向するように配置され、側壁部31bの内周面と径方向において互いに離間して対向するように配置される。突出部42のX軸方向の正側の端部は、X軸方向において、端壁部31aから負側へ離間して対向するように配置される。
【0043】
突出部42の突出量、すなわち突出部42のX軸方向の正側の端部は、チャンバ10の内部空間への磁場分布、及びチャンバ10の外部への漏れ磁場を調整するように、適宜設定すればよい。例えば、突出部42を設けなかった場合のチャンバ10内への磁場分布を「中」とし、チャンバ10の外部への漏れ磁場を「大」とする。また、磁束MLが放射される面(すなわち、蓋部材38のX軸方向の正側の面)の底部41に対する高さを「L」とする。このとき、突出部42の高さを0.5L~0.8L程度の範囲に設定すると、チャンバ10内への磁場分布を「大」とし、チャンバ10の外部への漏れ磁場を「小」とすることができる。勿論、突出部42の突出量は当該範囲に限定されない。例えば、突出部42の高さを上記範囲より大きくしてL程度の高さに設定すると、チャンバ10内への磁場分布を「小」はとなるが、チャンバ10の外部への漏れ磁場を「小」とすることができる。突出部42の高さは上記範囲より小さくてよい。
【0044】
なお、陽極31の内部空間で、冷却水が循環する。陽極ベース36には、冷却水の流路46a,46bが形成される。冷却水は流路46aから供給されて、流路46bから排出される。また、支持部材34には、ガス供給部12(図1参照)からのガスを通過させるガス供給口21が形成される。
【0045】
次に、本実施形態に係る負イオン生成装置1の作用・効果について説明する。
【0046】
まず、比較例に係る負イオン生成装置について説明する。比較例に係る負イオン生成装置として、イオンプレーティング式の成膜装置の構成を負イオン生成装置として機能させたものが挙げられる。この場合、成膜装置における主ハース(銅部材)に成膜材料の代わりに耐熱材料であるタングステンの材料を配置して、プラズマを生成することで負イオンを生成する。当該装置において、例えば酸素負イオンの照射を行った場合、酸化力の強い酸素負イオンが、正電位である陽極としてのタングステン、主ハース及び輪ハースに引き込まれ、これらの部材が酸化して絶縁化する場合がある。このような酸化が生じると、放電が不安定となる。また、タングステンの酸化物は昇華しやすいため、冷却が十分で無いことにより昇華温度まで達すると、昇華したタングステン酸化物が、負イオン照射の対象物の中に不純物として入る可能性がある。また、成膜装置では、昇華した成膜材料がプラズマガン側に飛来することを防止するため、プラズマを90°曲げているが、負イオン照射の際には当該機能は必要なく、放電効率を向上することが求められる。また、陽極には、効率よくビームを導くために磁石が用いられるが、チャンバの外部への漏れ磁場が大きくなる場合もある。
【0047】
これらに対し、本実施形態に係る負イオン生成装置1では、ガス供給部12が負イオンの原料となるガスをチャンバ10内に供給する。そして、プラズマ生成部11は、チャンバ10内にプラズマPを生成し、プラズマ誘導部13が当該プラズマPを導く。これにより、チャンバ10内でプラズマPが広がる。プラズマ生成部11がプラズマPの生成を停止すると、チャンバ10内では負イオンが生成される。ここで、プラズマ誘導部13では、陽極31の内部に磁石32が配置されている。従って、磁石32は、陽極31によってチャンバ10内の負イオンから保護される。また、陽極31のプラズマ生成部11側の表面には、めっき層37が形成される。従って、陽極31は、めっき層37によってチャンバ10内の負イオンから保護される。以上より、プラズマPを導くプラズマ誘導部13を構成する部材を保護することができる。
【0048】
なお、プラズマ誘導部13は、プラズマガン7とX軸方向に対向する位置に設けられているため、プラズマガン7から出射されたプラズマPは、チャンバ10内で真っ直ぐに延びることができる。これにより、放電効率を向上することができる。
【0049】
プラズマ誘導部13は、磁石32に対してプラズマ生成部11と反対側に配置されるヨーク33を有し、ヨーク33は磁石32を囲むように配置されてプラズマ生成部11側へ突出する突出部42を有する。この場合、ヨーク33の突出部42が磁石32による磁場をコントロールすることができるため、チャンバ10の外部への漏れ磁場を抑制することができる。
【0050】
磁石32のプラズマ生成部11側の端部32aには、磁石32よりも径が大きい磁性体による蓋部材38が設けられている。この場合、蓋部材38が、磁石32からの磁束MLを広い範囲に放射させることができる。これにより、プラズマPの入射ビームの径を広げることができ、ビーム集中による陽極31の過熱を抑制できる。
【0051】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、プラズマ誘導部の構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更してもよい。例えば、プラズマ誘導部は、必ずしもプラズマ生成部11と水平をなすように対向する位置に配置されていなくともよく、水平からずれた位置に配置されてもよい。
【0052】
また、ヨークの突出部や磁石の蓋部材は、適宜省略されてもよい。その他、陽極の固定のための構造も、適宜変更されてよい。
【符号の説明】
【0053】
1…負イオン生成装置、10…チャンバ、11…プラズマ生成部、12…ガス供給部、13…プラズマ誘導部、31…陽極、32…磁石、33…ヨーク、37…めっき層、42…突出部。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-06-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負イオンを生成し、対象物へ照射する負イオン照射装置であって、
内部に対象物を配置可能なチャンバと、
前記負イオンの原料となるガスが供給された前記チャンバの内部で間欠的にプラズマを生成するプラズマ生成部と、
生成された前記プラズマを受ける陽極と、を備え、
前記陽極は、前記プラズマ生成部側の表面に前記陽極よりも酸化されにくい導電層が設けられる、負イオン照射装置。
【請求項2】
前記導電層は、金である、請求項1に記載の負イオン照射装置。
【請求項3】
前記チャンバの内部に磁場を生じさせる磁場発生部を有し、
前記陽極は、前記磁場発生部の前記プラズマ生成部側に設けられる、請求項1又は2に記載の負イオン照射装置。
【請求項4】
前記磁場発生部は磁石であり、
更に、前記磁石に対して前記プラズマ生成部と反対側に配置されるヨークを有し、
前記ヨークは、前記プラズマ生成部側と前記反対側との間において前記磁石の周囲、および前記磁石の前記プラズマ生成部側と反対側に配置される、請求項3に記載の負イオン照射装置。
【請求項5】
前記磁石の前記プラズマ生成部側の端部には、磁性体による蓋部材が設けられている、請求項4に記載の負イオン照射装置。
【請求項6】
前記蓋部材は、前記プラズマ生成部側から見て前記磁石よりも大きい、請求項5に記載の負イオン照射装置。
【請求項7】
前記プラズマ生成部は、前記陽極と対向する位置に配置される、請求項1~6のいずれか1項に記載の負イオン照射装置。
【請求項8】
前記チャンバは、対象物を配置可能な配置部を有し、
前記配置部は、前記プラズマ生成部と前記陽極とが対向する第1方向と交差する第2方向に配置される、請求項7に記載の負イオン照射装置。