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特開2023-12027伸縮性を有する細幅レース編地の加工装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023012027
(43)【公開日】2023-01-25
(54)【発明の名称】伸縮性を有する細幅レース編地の加工装置
(51)【国際特許分類】
   D06B 3/10 20060101AFI20230118BHJP
   D06B 3/24 20060101ALI20230118BHJP
【FI】
D06B3/10 A
D06B3/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021115420
(22)【出願日】2021-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】510194943
【氏名又は名称】金田繊維株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105809
【弁理士】
【氏名又は名称】木森 有平
(72)【発明者】
【氏名】金田 友彰
【テーマコード(参考)】
3B154
【Fターム(参考)】
3B154AB21
3B154AB28
3B154BA16
3B154BA19
3B154BA39
3B154BB12
3B154BB45
3B154BC01
3B154BC16
3B154BC18
3B154BE02
3B154DA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】綛揚げ工程を省き生産性の向上を図るとともに、綛の形状維持に必要なヒビロによって生じて筋跡や折れ曲がりの解消を目指し、熱処理工程においても作業者の配置を不要とすることで人員コストを削減するだけでなく人の手を介さないことによる衛生的な製品管理に貢献する伸縮性を有する細幅レース編地の加工装置を提供する。
【解決手段】細幅レース編地100が所定本数巻き取られたビームBから細幅レース編地を引き出して後工程に送り出す編地導入部500a、編地導入部500aによって送り出された細幅レース編地を熱収縮させる加熱部と加熱部によって細幅レース編地に付与された水分を除去する乾燥部を備える編地熱処理部500b、前記編地熱処理部500bによって加工された細幅レース編地を収納ボックスに収容する編地収納部500cから構成される伸縮性を有する細幅レース編地の加工装置を提供する。
【選択図】図16(b)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラッセルレース編機によって編成された伸縮性を有する細幅レース編地の加工装置であって、細幅レース編地が所定本数巻き取られたビームから細幅レース編地を引き出して後工程に送り出す編地導入部、編地導入部によって送り出された細幅レース編地を高温の蒸気によって加熱して収縮させる加熱部と加熱部によって細幅レース編地に付与された水分を除去する乾燥部を備える編地熱処理部、前記編地熱処理部によって加工された細幅レース編地を収納ボックスに収容する編地収納部、各部の動作を制御する制御部から構成されることを特徴とする伸縮性を有する細幅レース編地の加工装置。
【請求項2】
前記加熱部は、前記編地導入部によってビームから引き出された細幅レース編地を高温の蒸気で熱収縮させる加熱ボックス、前記加熱ボックスに細幅レース編地を所定の長さになるまで引き込む一方の駆動手段及び、前記加熱ボックスから細幅レース編地を引き出して後工程に送り出す他方の駆動手段を備え、前記他方の駆動手段を停止状態として前記一方の駆動手段を作動させて所定の長さの細幅レース編地を引き込んで前記加熱ボックス内で弛緩状態にするとともに、前記一方の駆動手段を停止状態として前記加熱ボックス内の細幅レース編地が緊張状態になるまで前記他方の駆動手段を作動させて後工程に送り出す制御が可能であることを特徴とする請求項1に記載の伸縮性を有する細幅レース編地の加工装置。
【請求項3】
前記加熱ボックスの底部には、前記一方の駆動手段によって引き込まれ一定箇所に蓄積する細幅レース編地を分散させるためのベルトコンベアが設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の伸縮性を有する細幅レース編地の加工装置。
【請求項4】
前記乾燥部は、細幅レース編地が含んだ水分を除去するヒータが、前記乾燥部の上流側と下流側に対向配置されて二段階で乾燥する構成であることを特徴とする請求項1に記載の伸縮性を有する細幅レース編地の加工装置。
【請求項5】
前記ヒータは、一方又は、両方を加熱した2枚の長尺の鉄板をスペーサを介して重ね合わせることで形成される空間部に細幅レース編地を引き込んで長手方向に移動させることにより乾燥させる構成であることを特徴とする請求項4に記載の伸縮性を有する細幅レース編地の加工装置。
【請求項6】
前記編地収納部は、加工を済ませた細幅レース編地を収容する収納ボックス、前記編地熱処理部から送り出された細幅レース編地を引き受けて前記収納ボックスに送り出す駆動手段、前記収納ボックスを水平方向に移動可能とする収納ベースから構成されることを特徴とする請求項1に記載の伸縮性を有する細幅レース編地の加工装置。
【請求項7】
前記収納ベースは、カム機構とモータにより水平方向に移動可能となっているとともに、駆動手段から送り出された細幅レース編地が収納ボックス内で8の字を描くように収容される構成となっていることを特徴とする請求項6に記載の伸縮性を有する細幅レース編地の加工装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛生用マスクの耳ひもにも利用できる、伸縮性を有する編地の加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
衛生用マスクに設けられ、使用者の耳に係止される耳ひもには、装着が容易であること、使用時には鼻や口に対して適度な圧迫が求められることから、伸縮性を有するものが採用されているが、新型感染症の広まりを端緒に、衛生用マスクの需要が増大し、低コストでありながら使用感の優れた耳ひもの要望が高まっている。
【0003】
従来、伸縮性を有する耳ひもには、ポリエステル系ポリウレタンをフィルム状に押し出した後にテープ状にスリットしたエラストマテープのひもや、ゴム糸やポリウレタン弾性繊維の芯糸にポリエステル繊維やポリアミド繊維等の合成繊維や改質セルロース繊維等を鞘糸として巻き付けた多重カバーリング糸や撚糸等の加工糸のひも、また、ポリウレタン弾性繊維を混用し製紐機によって製造された組ひも等が用いられてきた。
しかし、新型感染症の広まりにより、衛生用マスクは使用時間が長くなるとともに、季節を問わず使用されることになり、需要の増加への対応と使用感の向上が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、「(請求項1)マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴムであって、複数のゴム紐が編み込まれてなり、前記ゴム紐の周囲を個々に巻回するように繊維状部材が巻かれていることを特徴とするマスク用耳ゴム。」が開示され、また、「(請求項2)マスク本体部の左右に備えられるマスク用耳ゴムであって、複数のゴム紐が束ねられて形成された組が、複数編み込まれてなることを特徴とするマスク用耳ゴム。」が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、「(課題)風合いが良く、皮膚に直接接触しても不快感がなく、さらに、通常の筒状ヨコ編み機を使用して生産性良く製造できる伸縮性紐を提供する。として、(解決手段)筒状にヨコ編みされた編み紐であって、伸縮素材として、少なくとも一層としてポリトリメチレンテレフタレートを主成分とする層を含むサイドバイサイド型複合または偏芯シースコア型複合のポリエステル系複合繊維、又は、ポリウレタン弾性繊維と非伸縮性糸条とで構成された複合伸縮弾性糸を使用して編成され、かつ、30%以上の伸長率を有する伸縮性筒状ヨコ編み紐」が開示されている。
【0006】
加えて、特許文献3には、「(課題)簡単な製造手段により、丸みのある形態で、柔軟性と伸縮性を有した紐状編地を提供する。として、(解決手段)伸縮性紐状編地はシングル針床で編成された複数のループ列からなる細幅編地であって、編成糸に少なくとも弾性糸を含み、幅方向にカールして紐状をなしている。編構造は、弾性糸によるニードルループ6、非弾性糸によるニードルループ7、そしてそれぞれのシンカーループ4、5を含み、幅方向の端部がカールする現象自体は片側針床で編成された編物において通常みられる現象であって、隣接するループ間にかけ橋をするシンカーループ4、5のニードルループ6、7近傍で屈曲している箇所が、編糸自身の剛性により真っすぐに戻ろうとする力により、シンカーループ4、5面側へ戻ろうとする力が作用するためにフリーな状態の端部がシンカーループ4、5面側に反り曲がる」細幅編地が開示されている。
【0007】
本願発明者は、上記のような先行技術では解決できない課題を解決するため、ラッセルレース編機を使用して、捻れにくく形状維持が容易で、肌に触れて着圧がかかる面積をできるだけ小さくすることにより、使用環境を問わず使用感の優れた伸縮性を有する細幅レース編地と、当該伸縮性を有する細幅レース編地を複数同時に編成し、低コストを維持しつつ、生産性を向上させる製造方法を発案し提供できるようになった。
しかしながら、従来の編成後の工程として、編機によって複数同時に編成された細幅レース編地は、所定本数ごとにビームと呼ばれる大きな巻き取りボビンに巻き取られ、1本ごとに綛(かせ)と呼ばれる集束体に加工する綛揚げ工程、複数の綛を竿に吊るし加熱室で加熱し熱収縮させる熱処理工程を経て出荷状態となるが、その編成後の工程に解決が必要な新規の課題に直面した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6404413号公報
【特許文献2】特開2005-220497号公報
【特許文献3】実用新案登録第3227635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
編成後、所定本数ごとにビームに巻き取られた細幅レース編地を1本ごとに綛に加工する綛揚げ工程が必要な点、そしてヒビロと呼ばれる、綛がバラバラにならず形状を維持するための糸を用いるため細幅レース編地に筋跡や折れ曲がりが生じてしまう点、熱処理工程において、均一な伸縮力の付与のために作業者が綛ごとに竿に吊るす作業、加熱後竿から取り外す作業が必要な点、綛の状態で出荷されるので需要者にとって扱いにくい点が課題として挙げられる。
【0010】
そこで、本願発明の目的は、複数同時に編成された細幅レース編地を所定本数ごとにビームに巻き取った後、綛揚げ工程そのものを省き、生産性の向上を図るとともに、綛の形状維持に必要なヒビロによって生じて筋跡や折れ曲がりの解消を目指し、熱処理工程においても作業者の配置を不要とすることで人員コストを削減するだけでなく人の手を介さないことによる衛生的な製品管理に貢献する伸縮性を有する細幅レース編地の加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の伸縮性を有する細幅レース編地の加工装置は、細幅レース編地が所定本数巻き取られたビームから細幅レース編地を引き出して後工程に送り出す編地導入部、編地導入部によって送り出された細幅レース編地を高温の蒸気によって加熱して収縮させる加熱部と加熱部によって細幅レース編地に付与された水分を除去する乾燥部を備える編地熱処理部、前記編地熱処理部によって加工された細幅レース編地を収納ボックスに収容する編地収納部、各部の動作を制御する制御部から構成されることを特徴とする。
本発明によれば、従来、ラッセルレース編機で同時に複数編成された細幅レース編地を所定本数ごとにビームに巻き取ったあと、細幅レース編地一本ごとの集束体である綛の状態に加工する綛揚げ、綛を竿に吊るして加熱室で熱収縮させる熱処理を行っていたが、綛揚げの工程、加熱室への移動といった工程を省くことができる。
また、細幅レース編地の集束体である綛がバラバラにならないようにヒビロと呼ばれる糸で留められていることで、細幅レース編地の筋跡や折れ曲がりの原因となっていたが、このような不具合が生じる可能性も抑制できるようにる。
【0012】
つぎに、本発明の伸縮性を有する細幅レース編地の加工装置における前記加熱部は、前記編地導入部によってビームから引き出された細幅レース編地を高温の蒸気で熱収縮させる加熱ボックス、前記加熱ボックスに細幅レース編地を所定の長さになるまで引き込む一方の駆動手段及び、前記加熱ボックスから細幅レース編地を引き出して後工程に送り出す他方の駆動手段を備え、前記他方の駆動手段を停止状態として前記一方の駆動手段を作動させて所定の長さの細幅レース編地を引き込んで前記加熱ボックス内で弛緩状態にするとともに、前記一方の駆動手段を停止状態として前記加熱ボックス内の細幅レース編地が緊張状態になるまで前記他方の駆動手段を作動させて後工程に送り出す制御が可能であることを特徴とする。
そして前記加熱ボックスの底部には、前記一方の駆動手段によって引き込まれ一定箇所に蓄積する細幅レース編地を分散させるためのベルトコンベアが設けられていることを特徴とする。
本発明によれば、加熱ボックス内の細幅レース編地の一部が緊張状態であったり、細幅レース編地同士が重なり合うことで、均一な熱の付与が困難となり、品質にバラつきが生じる原因となっていたが、細幅レース編地の弛緩状態を創出し、細幅レース編地同士に重なり合いを防止することで、均一な熱の付与が可能となり、品質のバラつきの抑制に貢献する。
【0013】
さらに、本発明の伸縮性を有する細幅レース編地の加工装置における前記乾燥部は、細幅レース編地が含んだ水分を除去するヒータが、前記乾燥部の上流側と下流側に対向配置されて二段階で乾燥する構成であることを特徴とする。
そして前記ヒータは、一方又は、両方を加熱した2枚の長尺の鉄板をスペーサを介して重ね合わせることで形成される空間部に細幅レース編地を引き込んで長手方向に移動させることにより乾燥させる構成であることを特徴とする。
本発明によれば、加工装置の上流側から下流側までの距離(装置の長さ)を抑えつつ、確実な水分除去が可能となる。
【0014】
また、本発明の伸縮性を有する細幅レース編地の加工装置における前記編地収納部は、加工を済ませた細幅レース編地を収容する収納ボックス、前記編地熱処理部から送り出された細幅レース編地を引き受けて前記収納ボックスに送り出す駆動手段、前記収納ボックスを水平方向に移動可能とする収納ベースから構成されることを特徴とする。
そして、前記収納ベースは、カム機構とモータにより水平方向に移動可能となっているとともに、駆動手段から送り出された細幅レース編地が収納ボックス内で8の字を描くように収容される構成となっていることを特徴とする。
本発明によれば、簡易な装置構成ありながら、収納ボックスにおける細幅レース編地の収納容量が増加することにより生産効率が向上するとともに、需要者が使用する際、絡まりを防止する効果も期待できる。
【発明の効果】
【0015】
ラッセルレース編機によって複数同時に編成される伸縮性を有する細幅レース編地の加工工程に本発明の加工装置を導入することにより、綛揚げ工程が省かれるだけでなく、綛の形状維持に必要なヒビロの使用も不要となり、ヒビロにより細幅レース編地に生じていた筋跡や折れ曲がりの問題点も解消される。
さらに、熱処理工程における人員の削減や衛生的な細幅レース編地を得ることができ、生産性の向上と製造コストの圧縮を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態に使用されるカバーリング糸の一形態を示す模式図である。
図2】本発明の実施の形態に使用されるカバーリング糸の別形態を示す模式図である。
図3】本発明の実施形態に使用される編機を示す概略図である。
図4】本発明の実施形態における基本となるレース編地の組織を示す模式図である。
図5】本発明の実施形態における基本となるレース編地の組織を示す模式図である。
図6】本発明の実施形態によって得られる各編地を示す画像である。
図7】本発明の伸縮性を有する細幅レース編地の第一形態を示す斜視図である。
図8(a)】上記第一形態における地糸及び、連結糸の関係を示す模式図である。
図8(b)】上記第一形態における地糸及び、連結糸の関係を示す模式図である。
図8(c)】上記第一形態における地糸及び、連結糸の関係を示す模式図である。
図8(d)】上記第一形態における地糸及び、連結糸の関係を示す模式図である。
図8(e)】上記第一形態における地糸及び、連結糸の関係を示す模式図である。
図8(f)】上記第一形態における地糸及び、連結糸の関係を示す模式図である。
図9】本発明の伸縮性を有する細幅レース編地の第二形態を示す斜視図である。
図10(a)】上記第二形態における地糸及び、連結糸の関係を示す模式図である。
図10(b)】上記第二形態における地糸及び、連結糸の関係を示す模式図である。
図10(c)】上記第二形態における地糸及び、連結糸の関係を示す模式図である。
図10(d)】上記第二形態における地糸及び、連結糸の関係を示す模式図である。
図10(e)】上記第二形態における地糸及び、連結糸の関係を示す模式図である。
図11】本発明の伸縮性を有する細幅レース編地の第三形態における地糸及び連結糸の関係を示す模式図である。
図12】上記第三形態の伸縮性を有する細幅レース編地を示す斜視図である。
図13】本発明で得られる伸縮性を有する細幅レース編地の加工工程を示す図である。
図14】従来の加工装置工程における綛揚げ工程を示す図である。
図15】従来の加工工程における熱処理工程を示す図である。
図16(a)】本発明の実施の形態における伸縮性を有する細幅レース編地の加工装置の正面図である。
図16(b)】上記実施の形態における伸縮性を有する細幅レース編地の加工装置の概要図である。
図17】上記実施の形態における編地導入部及び編地熱処理部の平面図である。
図18】上記実施の形態における細幅レース編地が巻き取られたビームを示す画像である。
図19】上記実施の形態における加熱部を示す正面図である。
図20】上記実施の形態における乾燥部を示す正面図である。
図21】上記実施の形態における乾燥部の詳細を示す図である。
図22】上記実施の形態における編地収納部を示す平面図である。
図23】上記実施の形態における収納ボックス及び収納される細幅レース編地を示す画像である。
図24】上記実施の形態における収納ベースの水平移動を説明する参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施の形態)
本発明を実施するための形態を、具体的に図示した図面に基づいて、更に詳細に説明す
ると、次の通りである。
【0018】
(使用される糸)
図1及び、図2は本発明の実施の形態の伸縮性を有する細幅レース編地100の編成に用いられる糸の拡大模式図であり、芯糸となるポリウレタン、天然ゴム、合成ゴム等からなる弾性糸に他の紡績糸やフィラメント糸が巻きつけられたカバーリング糸Z(Z1)を示している。
カバーリング糸Zには、図1に示すように芯糸1aに対し、他の1本の糸(鞘糸)1bを巻きつけるシングルカバード・ヤーンZ1の他に、図2に示すような芯糸2aに対し、捲きつけた1本の糸(鞘糸)2bと逆方向にもう1本の糸2c(鞘糸)を巻きつけたダブルカバード・ヤーンZ2も適宜選択可能である。
また、レース編地全体にカバーリング糸Z(Z1及び/又はZ2)を採用することも、一部に採用することも可能であるが本実施の形態では、レース編地全体にカバーリング糸Z(Z1及び/又はZ2)を採用することにより、あらゆる方向に伸縮可能とするとともに、後述する製造工程における熱処理を行った際に、熱収縮率の相違による変形を防止した編地としている。
上記のカバーリング糸Z(Z1及び/又はZ2)を採用することで、本実施の形態の伸縮性を有する細幅レース編地100が衛生用マスクや耳ひもや、帽子の顎ひもとして使用されても、芯糸となる弾性糸が直接肌に触れることも抑制され、蒸れや肌荒れの防止に奏効する。
【0019】
(使用される編機)
本実施の形態の伸縮性を有する細幅レース編地100の編成には、ラッセルレース編機(編機R)が使用される。
ラッセルレース編機は経編機の一種であり、地糸、緯渡り糸、柄糸等、役割の異なる糸をそれぞれ編み針近傍に設けられる編成部に向けて導入する導糸手段としての筬を有する。具体的には、編機は、ジャガード筬であるジャガードバー、多数の柄筬、地筬によって実現される。このような各筬は、編み針が地糸を捕捉する編成部に向かって、編機側面からみて放射状に並ぶ。
編み針は、編機側面からみて前後方向に直交する方向に多数並んでおり、各編み針を保持する保持手段となるニードルバーに固定されている。ニードルバーは、各編み針を昇降運動する。またニードルバーが動作して、各筬に導糸されるそれぞれの糸が予め定める編成位置に導かれる。
それぞれの筬は、対応するそれぞれの糸を、編み針の昇降運動に同期させて、編み針に対して編機後方の空間で対応する各糸を、編み針が並ぶ方向に移動させるオーバーラップ(編目編成運動)と、編み針に対して編機前方の空間で対応する各糸を、編み針が並ぶ方向に移動させるアンダーラップ(挿入運動)とを行う。またこれらのラップ運動に加えて編み針が並ぶ方向に直交する方向に移動するいわゆるスイング(揺動運動)がなされる。具体的には、2つのスイング動作がある。
第1のスイング動作であるスイングイン(バックスイング)動作では、編み針の側方を通過して、編み針に対して編機後方の空間から編機前方の空間に対応する各糸を移動させる
また第2スイング動作であるスイングアウト(フロントスイング)動作では、編み針の側方を通過して、編み針に対して編機前方の空間から編機後方の空間に対応する各糸を移動させる。
各筬に取付けられたガイドが動作することによって、対応する各糸が編み針のまわりを予め定められる経路に従って通過し、対応する各糸を含むレース編地が編成される。
編成されたレース編地は通常、図3(a)に示すような編機側面からみて編成部よりも編機前方に備えられた巻き取り手段Wに巻き取られることになるが、本実施の形態において使用される編機Rは、一般的な編機では巻き取り手段Wが設けられる巻き取り位置に、編成された細幅レース編地100を所定本数ごとに巻き取るための「ビーム」と呼ばれる大きな巻き取りボビンが複数分割可能に並べられて配され、後工程がスムーズに行われるように改良されている(図3(b)に示すB)。
【0020】
(基本となる編地)
本実施の形態における、基本となるレース編地の組織に関して図4図5に示す。図4におけるVは地糸であって、編機Rによって地糸Vから編地の基本となる鎖編Cが複数形成されるとともに、隣り合う鎖編C同士が絡み合うように連結されていることを表したものであり、図5おけるSは緯渡り糸であって、緯渡り糸Sによって独立したそれぞれの鎖編Cを繋ぐように編み込まれている状態を示した図である。この複数の地糸Vのみ、または複数の地糸Vと緯渡り糸Sとの組合せにより基本となるレ-ス編地10が編成されていることを表している。図4及び、図5中に示された矢印Aは編み立て方向である。
なお、図4で示した地糸Vのみで絡み合うように連結させた実際のレース編地10の画像として図6中に示す。
当該レース編地10が上述の編機Rによって、編地の幅方向に同時に複数本編成されることになる。
ここで、本実施の形態では、鎖編Cを形成する地糸Vのみで編成されたレース編地10が使用されているが、隣り合う地糸Vを絡み合うように連結させるとともに、緯渡り糸Sを配することも可能で、図5に示すように緯渡り糸Sを用いて隣り合う独立した鎖編Cを繋ぐように配したレース編地としても良い。
なお図6に示した基本となるレース編地10では地糸Vは8本使用されているが、本実施の形態におけるレース編地10の地糸Vは所望するレース編地の幅に応じて幅方向に適宜選択可能である。
【0021】
(連結糸による細幅レース編地の第一形態)
この基本となるレース編地10から図7に示すような断面略円形の管状の細幅レース編地100となるように地糸Vと同じ筬から連結糸Mが導入される。
このとき、地糸Vは8本、連結糸Mは1本として以下、詳細に説明する。
連結糸Mは、上述の基本となる編地10を構成する複数の地糸Vと同じ編地の表側に配された筬から導入され、レース編地10の幅方向両端部を形成する地糸V(図8(a)に示すV1及び、V8)を近接させるように編み込むことにより連結組織40を形成するとともに、レース編地全体が幅方向に丸くなり断面略円形で管状細幅レース編地100(管状体T)が形成される。
ここで、図8(a)は、編み立て方向を上下方向、編地の幅方向を左右方向としたレース編地10の向きを正面と定義し、当該レース編地10を真下から見た図で、幅方向に8本の地糸V(V1~V8)が並んでいることを示しており、本実施の形態では緯渡り糸Sを用いていない。そして、編地の表側から連結糸Mが導入されていることを示している。
まず図8(b)に示すように連結糸Mを編み込む編み針(図示せず)が、レース編地10の幅方向両端部の一方に配された地糸V1をピックアップして連結糸Mを編み込み、次に図8(c)に示すように、レース編地10の幅方向両端部の他方に配された地糸V8をピックアップし連結糸Mを編み込むことで第一の連結部40aを形成する。
その後、図8(d)に示すように編み針は地糸V1の隣に配された地糸V2をピックアップして連結糸Mを編み込み、図8(e)に示すように地糸V8の隣に配された地糸V7ピックアップして連結糸Mを編み込むことで第二の連結部40bを形成する。
地糸V1→地糸V8→地糸V2→地糸V7→地糸V1・・・と幅方向左右を交互に編み込むこと及び、編地の幅方向両端部に配された地糸の編み込みと幅方向両端部に配された地糸の隣に配された地糸を交互に編み込むことで、第一の連結部40aと第二の連結部40bを編み立て方向Aに交互に連続して形成される連結組織40を形成し管状体Tとしての細幅レース編地100を編成するだけでなく、連結組織40を管状細幅レース編地100の表面側(外側)に突出させないように空間部側に内包させて(断面略円形に)形成することが可能となり、編地の側面においてシームレスな袋織や丸編と同様の形状と違和感のない使用感を実現する。
加えて、細幅レース編地100は空間部Xを有する(管状である)ことから細幅レース編地100の側面に加えられる力に対し、クッション性を有するとともに通気性や透湿性を付与し、蒸れや肌荒れを抑制にも貢献する。
なお、実際の細幅レース編地100を図6中に示す。
本実施の形態において、地糸Vを8本として説明したが、地糸Vを5本としても利用可能な細幅レース編地100(管状体T)を得ることができた。
【0022】
ここで、上記細幅レース編地100の管状体Tを形成する連結糸Mに切れや解れが発生した場合、容易に管状体Tの形成が解消してしまい、レース編地10の状態に戻ってしまうという問題が生じる。
そこで、図8(f)に示すように、レース編地10の幅方向一方端に配された地糸V1を連結糸Mで編み込む前に、連結糸Mをレース編地10を構成する地糸VにV1、V2、V3・・・の順でレース編地10の他方端に配された地糸V8まで渡らせる。そしてレース編地10の幅方向一方端に配される地糸V1を連結糸M編み込んだあと、他方端側に移動し、地糸V8、V7、V6・・・V1の順で、連結糸Mを渡して他方端に配された地糸V8を編み込む。
このように、レース編地10の幅方向の一方端側に配された地糸V(地糸V1、V2)を編み込む前に、一方端側から他方端側へ連結糸Mを渡らせるステップ、他方端側に配された地糸V(地糸V8、V7)を編み込む前に他方端側から一方端側へ連結糸Mを渡らせるというステップを追加することで、連結糸Mの切れや解れが生じても、細幅レース編地100全体に影響を及ぼさない方法を見出した。
すなわち、地糸1→地糸8の順で地糸Vに連結糸Mを渡して地糸V1を編み込み、地糸8→地糸1の順で地糸Vに連結糸Mを渡して地糸V8を編み込み地糸V1、V8を近接させて第一の連結部40aを形成し、前記第一の連結部40aを形成後、地糸1→地糸8の順で地糸Vに連結糸Mを渡して地糸V2を編み込み、地糸8→地糸1の順で地糸Vに連結糸Mを渡して地糸V7を編み込み地糸V2、V7を近接させて第二の連結部40bを形成するステップを繰り返し連続して行うことで、編成中・編成後に連結糸Mの切れや解れが生じても、影響を最小限に抑えることができる細幅レース編地100が得られる。
【0023】
(連結糸による細幅レース編地の第二形態)
さらに本願発明者は、上述の管状細幅レース編地100(管状体T)を形成するステップをさらに複雑化させ、連結糸Mを2本使用し、レース編地10の幅方向両端を形成する地糸だけでなく、レース編地10の幅方向中央部分Yも近接させることで、管状体Tを2本連結させた形態の細幅レース編地200が得られることを発案した。(図9)。
すなわち、地糸Vの本数を増やし(本実施の形態では17本)、レース編地10を幅方向に2等分する。そして2本の連結糸のうちの一方の連結糸Maにより、2等分された一方のレース編地10aの幅方向両端に位置する地糸を近接させて連結部41aを形成すると同時に、2等分したもう一方のレース編地10bも他方の連結糸Mbにより、レース編地10bの幅方向両端に位置する地糸を近接させて連結部41bを形成することで、断面略楕円形の管状体Tを二本連結させた形態の細幅レース編地200を得る。
上記細幅レース編地100の編成手順と同様に詳細を説明すると、図10(a)は、編み立て方向を上下方向、編地の幅方向を左右方向としたレース編地10の向きを正面と定義し、当該レース編地10を真下から見た図で、幅方向に17本の地糸V(V1~V17)が並び、緯渡り糸Sを用いずに、地糸により形成された鎖編のみでレース編地10を構成してていることを示した図である。そして、編地の表側から2本の連結糸Ma、Mbが導入されていることを示している。
以下、連結糸Mbの動きは、図11(a)に示した、地糸V9を通過するレース編地10を2等分する軸Lを基準に連結糸Maと線対称に表れるので説明を省略する。
まず図11(b)に示すように連結糸Maを編み込む編み針(図示せず)が、2等分されたレース編地10aの一方の端部に配される地糸V1をピックアップして連結糸Maを編み込み、次に図11(c)に示すように、2等分したレース編地10aの他方の端部に位置する地糸V8(レース編地10の幅方向の中央部分Yを形成する地糸V8)をピックアップして地糸V1とV8を近接させるように連結糸Maを編み込む。
その後、図11(d)に示すように編み針は地糸V1の隣に位置する地糸V2をピックアップして連結糸Maを編み込み、さらに図11(e)に示すように、再度地糸V8をピックアップして連結糸Maを編み込む。この動作を繰り返すことで連結部41aを形成するとともに、地糸V1が編地内部に形成された空間部側に内包されるので、連結部41aはレース編地の表面に突出しない形状となる。
ここで、他方の連結糸Mbも同様の動きを行うことにより、連結部41bが形成されるので、レース編地10の幅方向両端を形成する地糸V1と地糸V17が近接するだけでなく、レース編地10を2等分したレース編地10a及び、10bの端部に位置する(レース編地10の幅方向中央部分Yの)地糸V8、V9、V10も近接することにより連結組織41が形成され、管状体Tを2本連結させた形態の細幅レース編地200を得ることができる。
ここで得られる細幅レース編地200は、上記の基本となるレース編地10よりも、強度を有し、捻れや撓みが生じ難い構成でありながら、肌に触れる面積が小さくなる特徴と、上記断面円形の細幅レース編地100と同様に、連結組織41が編地表面に突出しない特徴と空間部を有していることから、蒸れや肌荒れを抑制し、使用感の優れた細幅レース編地となる。
なお、細幅レース編地200の実際の画像を図6中に示すが、上述のように、地糸本数を絞り、10本としても、ひと回りコンパクトな(管状体Tを2本連結させた形態の)細幅レース編地200を得ることができた。これにより、ひとつの編機Rにより同時に多くの細幅レース編地200を編成することができ、製造コスト、製造時間の圧縮に貢献することになる。
【0024】
(連結糸による細幅レース編地の第三形態)
上記の連結糸Ma、Mbを用いた細幅レース編地200の他に、レース編地10を幅方向に3等分するとともに連結糸Mcを加え、3本の連結糸M(Ma、Mb、Mc)を編成部に導糸して、図11に示すように地糸を編み込むことにより、3つの連結部42a、42b、42cで構成される連結組織42がレース編地10の幅方向両端を形成する地糸Vを近接させるとともに、管状体Tを3本連結させた形態の細幅レース編地300を得ることができる(図12)。
【0025】
上記の一連の細幅レース編地100、200、300を考察すると、ひとつの法則に則って説明することができる。
すなわち、レース編地10の幅方向両端部に配される地糸V(V1及び、V8)を1本の連結糸Mを介して近接させるように編み込むことで、1つの連結組織40を形成し、1つの管状体Tとなった細幅レース編地100を得ることができ、つぎに、レース編地10(を構成する複数の地糸V)を編地幅方向に2等分して、2等分されたレース編地10のそれぞれ両端部に位置することになる地糸V1とV8、地糸V10とV17をそれぞれ近接させるように編み込む2本の連結糸Ma及び、Mbによって2つの連結部が形成され、連結組織を構成し、管状体Tが2本連結した形態の細幅レース編地200を得ることができる。同様に、レース編地10を編地幅方向に3等分し、それぞれの両端部に位置する地糸Vを近接させるように3本の連結糸Ma、Mb、Mcで編み込んで3つの連結部42a、42b、42cにより連結組織42を構成し、管状体が3本連結した形態の細幅レース編地300が得られる。
このことから、N数は1以上の整数であることを条件に、少なくともN数×5本の地糸Vによって編成されるレース編地10を幅方向にN数等分し、N数本の連結糸Mを介して、N数等分された編地の幅方向両端に位置するそれぞれの地糸Vを近接させるように編み込んでN数の連結部を形成し、前記N数の連結部は連結組織を構成し、管状体TをN数本連結した形態の細幅レース編地が得られると定義できる。
N数を4、5・・・と変更していくことで地糸の本数、連結糸、形成される連結部、管状体の数が変動する。
この場合、N数は1以上で適宜選択可能であるが、捻れにくさや形状維持といった本願発明の課題に照らすと、特にN数は1以上5以下が好適である。
【0026】
(従来の加工工程)
編機Rの編成部によって複数同時に編成される編成工程を経て、上述の細幅レース編地100は所定本数ごとにビームBに巻き取られていく。そしてビームBに巻き取られた細幅レース編地100は図13に示すような工程を経て出荷状態となるが、以下にて詳細を説明する。
【0027】
(編成後の加工工程1 綛揚げ)
編成工程を経て複数同時に得られた細幅レース編地100は所定本数ごとにビームBに巻き取られ、次の工程である綛揚げに移行する。
綛揚げとは、ビームBに所定本数ごとに巻き取られた細幅レース編地100を一本ごとに、筒状の枠Fに巻きつけていき、一定の円周で、輪の状態とした「綛」に加工する工程であり、図14(a)に示すように行われる。綛Kはバラバラにならないように「ヒビロ」と呼ばれる糸Hで留められる(図14(b))。
従来の加工方法において、ひとつのビームに巻き取られる細幅レース編地の所定本数を10本とし、ひとつのビームから10束の綛Kが形成されることになるが、所定本数に関して特に機構上の限定は無く適宜選択可能である。
【0028】
(編成後の工程2 熱処理)
綛Kの状態となってまとめられた細幅レース編地100は、次の工程である熱処理に移行する。
通常、カバーリング糸を用いて編成された編地であっても伸縮性は乏しく、製品としては未完成であるが、熱処理によって編地(編地を編成するカバーリング糸)を加熱することによりはじめて、編地(編地を編成するカバーリング糸)が収縮し、伸縮性を有することになる。
従来の加工工程では、加熱室で綛Kを竿に吊るし、ボイラー熱を利用し95℃で90分間加熱する(図15)。このとき、ひとつの綛を構成する細幅レース編地同士が重複しないように竿に吊るすことから、編地全体にまんべんなく熱が伝わるとともに、竿と接している細幅レース編地の一部以外はほぼ弛緩状態となっており、均一な収縮と、均一な伸縮性の付与が可能となる。
【0029】
(本発明の第一の実施の形態)
上述の従来の加工工程での課題を解決すべく、本願発明者は新規の加工装置及び加工方法を発案した。
以下、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0030】
図16(a)(b)は、細幅レース編地加工装置500の正面図であり、ビームに巻き取られている細幅レース編地100を加工装置500に1本ごとに引き込む編地導入部500a、編地導入部500aによって引き込まれた細幅レース編地100を加熱し熱収縮させる編地熱処理部500b、熱収縮後の細幅レース編地100を収容し出荷状態とする編地収納部500cから構成されている。そして前記の各部を統合し、動作を制御する制御部を有している(図示せず)。
図17は、細幅レース編地加工装置500の平面図であり、ビームBには10本の細幅レース編地100が巻き取られており、1本ごとに該加工装置500に導入され、同時に加工されることを示している。図18は細幅レース編地100が巻き取られたビームBの実際の画像である。
さらに、ビームBは図18のような木製だけでなく、強化プラスチック製に置換可能である。強化プラスチック製のビームBは木製のビームに比べて軽さと強度を有するので、より長く細幅レース編地100を巻き取ることができ、途切れの無い細幅レース編地100を得ることができる点と、編成時及び加工時にビームBの着脱回数を抑制することができるので、作業効率が向上する点においてメリットがある。
本実施の形態では、10本の細幅レース編地100が巻き取られたビームBを使用して、10本同時に加工できる加工装置としているが、配置場所、生産規模等により、編地の同時加工本数及び、加工装置の増減は適宜選択可能である。
【0031】
(編地導入部について)
本実施の形態における細幅レース編地加工装置500における、編地導入部500aは、細幅レース編地100が複数本巻き取られたビームBをセットし、ビームを回転させて細幅レース編地を該装置へ送り出す第1の駆動手段Q1、細幅レース編地を1本ごとに該装置に導入するに際し、撓みや絡まり、切れ等が生じないように細幅レース編地の流れを調整する送り調整手段Oを備えるが、さらにビームBから送り出される細幅レース編地の有無を検知し、細幅レース編地の送り出しが終了した場合に第1の駆動手段Q1の動作を停止させる細幅レース編地検知手段を備えても良い(図16(b))。
ここで駆動手段とは、細幅レース編地を装置上流側から下流側へ送る回転可能のローラ及び/又は、回転動力であるモータから構成されている。
【0032】
(編地熱処理部について)
本実施の形態における細幅レース編地加工装置500における、編地熱処理部500bは、加熱部I及び、乾燥部Jから構成されている。
まず編地導入部500aから供給される細幅レース編地を引き込んで、所定の長さで弛緩状態となるように加熱部Iに溜めこみ、前記加熱部Iの内部を高温の蒸気によって高温多湿の状態として該加熱部内の細幅レース編地を熱収縮させる。
次に熱収縮させた細幅レース編地を乾燥部Jに送り、ヒータと送風により水分を排除することにより熱処理を完了させる。
【0033】
(加熱部の構成)
本実施の形態の編地熱処理部500bのうち、図19に示す加熱部Iは、高温の蒸気を供給し、細幅レース編地に付与する加熱ボックスIa、編地導入部から供給される細幅レース編地を加熱ボックスIaに導入する第2の駆動手段Q2、加熱ボックス内で熱収縮させた細幅レース編地を巻き上げるとともに後工程である乾燥部Jに供給する第3の駆動手段Q3から構成されている。
ここで、第2の駆動手段Q2によって引き込まれる細幅レース編地は、第2の駆動手段Q2から垂下するため、所定の長さを加熱ボックスIa内に溜めこむ際に、編地同士が重なり合わないように、装置の下流側へ移動させることが好ましい。そこで、加熱ボックスIaの底部にベルトコンベアIbを配し、モータPによって作動させる構成とした。これにより編地同士の重なり合いによって生じる編地への熱の付与のバラつきが抑制されることとなる。
【0034】
さらに、編地緊張検知手段Icを設けることと、第2の駆動手段Q2及び、第3の駆動手段Q3の動きを以下のように制御することで、スムーズな加工を実現する。
編地導入部500aから供給される細幅レース編地を加熱ボックスIaに引き込むに際して、第3の駆動手段Q3は停止状態として、第2の駆動手段Q2を作動させることにより、細幅レース編地を加熱ボックスIaに引き込む。
加熱ボックスIa内で所定の長さとなった細幅レース編地はベルトコンベアIbにより重なり合わず、弛緩状態となる。
所定の長さとなったタイミングで第2の駆動手段Q2を停止状態とし、高温の蒸気によって熱がバラつきなく付与される。
所定時間熱が付与され、熱収縮した細幅レース編地は、第3の駆動手段Q3を作動させることにより巻き上げられ、後工程のヒータJに送られる。
この第3の駆動手段Q3による作業は、第2の駆動手段Q2が停止状態のまま、新たな細幅レース編地の供給がない状態で行われるため、加熱ボックスIa内の細幅レース編地は徐々に短くなる。
そして、加熱ボックスIa内に設けられた編地緊張検知手段Icによって、細幅レース編地の緊張状態を検知すると、第3の駆動手段Q3の作動を停止させる。
その後、第3の駆動手段Q3を停止状態のままで第2の駆動手段Q2を再び作動させる、といったようにこの動作を繰り返し行うことで、熱の付与にバラつきがなく、加熱ボックスIa内で編地の切れ等の不具合が生じない細幅レース編地のスムーズな加工に貢献する。
【0035】
(ヒータの構成)
上記の加熱部Iでの加工を終えると、熱によって収縮した細幅レース編地は、乾燥部Jに送られる。図20に示すように乾燥部Jは、水分を含んだ細幅レース編地を乾燥させるヒータJa、ヒータの温度を調整する温度調節コントローラJb、細幅レース編地の緊張状態を検知する編地緊張検知手段Jc、上記加熱部Iを構成する第3の駆動手段Q3と同期され、細幅レース編地をヒータJaに引き込むとともに、乾燥後の細幅レース編地を後工程に送る第4の駆動手段Q4から構成されている。
ここに乾燥速度を上げるため、送風手段Jdを追加することも可能である。
【0036】
加熱部Iにおける加工により熱収縮した細幅レース編地は、第3の駆動手段Q3によって巻き上げられるとともに、前記第3の駆動手段Q3と同期した第4の駆動手段Q4により、乾燥部Jに引き込まれる。
図21はヒータJa(Ja1)の構成を示したものであり、2枚の長尺の金属板D(Da、Db)の間にスペーサを挟み込むように配することで空間部を形成し、前記空間部に細幅レース編地を通過させる。一方の金属板Dには、その長手方向にリボンヒーターが配されることで、温度調節コントローラJbによって所定温度に金属板Dが加熱され、細幅レース編地が通過中に含まれる水分を除去する。
図21(a)は2枚の金属板Da、Dbと細幅レース編地100の位置関係を示す斜視図であり、(b)はヒータJa1の正面図、側面図、(c)は金属板Da、Dbとスペーサの配置状況を示した側面図であり、(d)は金属板Da、Dbとスペーサの配置状況を示した平面図である。
本実施の形態では、該ヒータJa及び温度調節コントローラJbを2セット準備し、第1のヒータJa1及び、第1の温度調節コントローラJb1と対向するように第2のヒータJb2及び、第2の温度調節コントローラJb2を設けることで、省スペースでありながら確実な乾燥が行える装置とした(図20)。
【0037】
ここで、第1のヒータJa1と第2のヒータJa2の間に、細幅レース編地の緊張状態を検知する編地緊張検知手段Jcを設けることで、第4の駆動手段Q4の作動を制御することが可能となり、細幅レース編地の切れや伸びなどの不具合を防止することができる。
【0038】
(編地収納部について)
図22は本実施の形態における編地収納部500cの平面図を示しており、前工程である、編地熱処理部500bを経て得られた各細幅レース編地100を収容する筒状の収納ケースEが10個並んだ状態を示している。
加工を終えて上記第4の駆動手段Q4から送り出された細幅レース編地100が第5の駆動手段Q5を経由して、前記第5の駆動手段Q5の直下に配された収納ケースEに振り落とされて出荷状態となる(図23)。
【0039】
(編地収納部の構成について)
編地収納部500cは、収納ケースEが配された収納ベースN、収納ベースNは水平方向に移動可能な構成となっており、収納ベースNを水平方向8の字に移動させるカム機構G、
前記カム機構Gを作動させる動力としてモータPを備えている。
本実施の形態における、カム機構Gは、収納ベースNが図22における上下方向に等速往復運動を行うためのハートカムと、左右方向に等速往復運動を行うためのハートカムを備え、モータPにより両者のハートカムを等速回転させることにより、8の字移動を実現している(図24参考)るが、その機構に制限はなく既知の手法で8の字運動を実現してもよい。
この移動可能な収納ベースN及び、カム機構Gにより収納ケースEの内部にまんべんなく細幅レース編地を収容することができ、第5の駆動手段Q5から収納ケースEに垂下させて同一箇所に細幅レース編地を無作為に落とし込むよりも、多くの細幅レース編地を収納できるだけでなく、細幅レース編地の需要者が使用する際に、絡まりを防止する効果も期待できる。
また、収納ケースEを強化プラスチック製とし、納められた細幅レース編地100が見えるように、その側面に複数の孔を設けることで、収納ケースEを軽量化と、細幅レース編地100の適正な収納が行われているか否かの確認が可能となる。
【0040】
ここで、本実施の形態における編地収納部500の第5の駆動手段の近傍に、細幅レース編地100に含まれる水分量を測定するための近赤外線カメラを備えていてもよい。
加工後の細幅レース編地100に過剰な水分が含まれていると、収納ケースE内で結露し、カビ等の製品不良の原因となることがある。そこで乾燥部Jでの乾燥が適正かどうかを近赤外線カメラの画像から編地が含有する水分量を計測し、計測したデータに基づき、制御部において乾燥部Jにおける乾燥速度や乾燥温度を適宜設定することで、安定した製品の提供に貢献する。
なお、編地に触れず、過度な外的な力を与えずに含まれる水分量を測定するために近赤外線カメラを用いたが、編地に過度な力を加えずに水分量を計測できるものであれば、既知の手段を選択してもよい。
【0041】
上述のような細幅レース編地加工装置500を導入することにより、編機Rによって編成された細幅レース編地100をビームBに巻き取られた状態から、人の手を介さずに出荷状態まで一貫した加工が可能となり、従来の手法に比較して、製品の不具合抑制、生産性の向上、加工に携わる作業者の人的コストの削減、製品の衛生性の向上に貢献し、他の製品に対する優位性が得られることとなる。
【符号の説明】
【0042】
100,200,300 細幅レース編地、
1a,2a 芯糸、
1b,2b,2c 鞘糸、
10,10a,10b 基本となるレース編地、
40,41,42 連結組織、
40a 第一の連結部、
40b 第二の連結部、
41a,42a,41b,42b,42c 連結部、
500 細幅レース編地加工装置、
500a 編地導入部、
500b 編地熱処理部、
500c 編地収納部、
A 編み上げ方向、
B ビーム、
C 鎖編、
D,Da,Db 金属板、
E 収納ケース、
F 綛加工用の枠、
G カム機構、
H ヒビロ、
I 加熱部、
Ia 加熱ボックス、
Ib ベルトコンベア、
Ic 編地緊張検知手段、
J 乾燥部、
Ja1, 第1のヒータ、
Ja2, 第2のヒータ
K 綛、
L レース編地を等分する軸、
M,Ma,Mb,Mc 連結糸、
N 収納ベース、
O 送り調整手段、
P モータ、
Q,Q1,Q2,Q3,Q4,Q5 駆動手段、
R 編機、
S 緯渡り糸、
T 管状体、
V 地糸、
W 捲き取り手段、
X 空間部、
Y レース編地中央部分、
Z,Z1,Z2 カバーリング糸

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8(a)】
図8(b)】
図8(c)】
図8(d)】
図8(e)】
図8(f)】
図9
図10(a)】
図10(b)】
図10(c)】
図10(d)】
図10(e)】
図11
図12
図13
図14
図15
図16(a)】
図16(b)】
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24