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特開2023-120321チタン多孔質体及び、チタン多孔質体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120321
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】チタン多孔質体及び、チタン多孔質体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/08 20060101AFI20230822BHJP
   C22C 14/00 20060101ALI20230822BHJP
   B22F 3/11 20060101ALI20230822BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230822BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20230822BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20230822BHJP
   B22F 1/10 20220101ALI20230822BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
C22C1/08 F
C22C14/00 Z
B22F3/11 A
B22F1/00 R
B22F1/05
B22F9/04 D
B22F9/04 C
B22F1/10
B28B1/30 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098619
(22)【出願日】2023-06-15
(62)【分割の表示】P 2022012824の分割
【原出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋介
(57)【要約】
【課題】比較的薄いシート状でハンドリング時に破損しにくく、少なくとも一方の表面が平滑なチタン多孔質体及び、チタン多孔質体の製造方法を提供する。
【解決手段】この発明のチタン多孔質体は、シート状のものであって、厚みが0.3mm以下であり、破断曲げひずみが0.005以上であり、少なくとも一方の表面の三次元表面性状について、算術平均高さSaが2.5μm以下、最大高さSzが30μm以下、表面性状のアスペクト比Strが0.93以上、山頂の算術平均曲率Spcが4.8(1/μm)以下であるというものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状のチタン多孔質体であって、
厚みが0.3mm以下であり、
破断曲げひずみが0.005以上であり、
少なくとも一方の表面の三次元表面性状について、算術平均高さSaが2.5μm以下、最大高さSzが30μm以下、表面性状のアスペクト比Strが0.93以上、山頂の算術平均曲率Spcが4.8(1/μm)以下であるチタン多孔質体。
【請求項2】
空隙率が30%以上かつ50%以下である請求項1に記載のチタン多孔質体。
【請求項3】
チタン含有量が97質量%以上である請求項1又は2に記載のチタン多孔質体。
【請求項4】
炭素含有量が0.01質量%以上かつ0.06質量%以下である請求項1~3のいずれか一項に記載のチタン多孔質体。
【請求項5】
シート状のチタン多孔質体を製造する方法であって、
水素含有量が0.1質量%以下である粉砕粉末のチタン粉末、有機バインダー及び有機溶媒を含んで水及び発泡剤を含まないペーストを用いて、基材上に塗布された前記ペーストを前記基材上で、100℃以上かつ130℃以下の温度に加熱して乾燥させ、シート状の成形体を得る乾燥工程と、
前記成形体を加熱し、前記成形体中の有機物を揮発させる予備加熱工程と、
前記予備加熱工程後の成形体を加熱し、前記成形体中のチタン粉末を焼結させる焼結工程と
を含み、
厚みが0.3mm以下であるチタン多孔質体を製造する、チタン多孔質体の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥工程で得られる前記成形体を前記基材から分離させた後、前記予備加熱工程を行う、請求項5に記載のチタン多孔質体の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥工程で用いる前記ペースト中の前記チタン粉末の10%粒子径D10が、5μm以上かつ15μm以下であって、90%粒子径D90が15μm以上かつ25μm以下である、請求項5又は6に記載のチタン多孔質体の製造方法。
【請求項8】
前記乾燥工程で、前記ペーストとして、前記有機バインダーの質量Mbに対する前記有機溶媒の質量Msの比(Ms/Mb)が2.0以上かつ9.0以下であるペーストを用いる、請求項5~7のいずれか一項に記載のチタン多孔質体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シート状のチタン多孔質体及び、チタン多孔質体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のチタン多孔質体やその製造方法としては、たとえば特許文献1及び2に記載されたものがある。
【0003】
特許文献1には、「金属粉末を焼結させた金属焼結体からなり、内部に分散配置された複数の空孔部を有し、その気孔率が10体積%以上50体積%以下とされ、前記空孔部の平均孔径が1μm以上30μm以下とされており、複数の前記空孔部の一部が表面に開口するように配置されていることを特徴とする電気化学部材用焼結金属シート材」であって、「前記金属焼結体が、Cの含有率が0.5質量%以下、Oの含有率が1質量%以下とされたTiで構成されている」ものが開示されている。特許文献1には、この「電気化学部材用焼結金属シート材」の製造方法として、「スラリー作製工程」、「成形工程」、「乾燥工程」、「脱脂工程」及び「焼結工程」を行うことが記載されている。「スラリー作製工程」では、「チタン原料粉末に、有機バインダー、水及び必要に応じて可塑剤を混合してスラリーを作製する。」としている。また、「乾燥工程」については、「この乾燥槽25内は、例えば温度40~90℃に調整されており、薄板状に成形されたスラリーSが、この乾燥槽25内を、例えば10~30分かけて通過する。」との記載がある。
【0004】
特許文献2では、「チタン一次粒子が球状に凝集したチタン二次粒子を製造する工程と、チタン二次粒子をバインダーと混合してスラリーとする工程と、前記スラリーを板状の成形体に加工する工程と、その成形体を乾燥する工程と、乾燥して得られた成形体を加熱して成形体中のバインダーを除去する工程と、バインダーを除去して得られた成形体を焼結する工程とを含むチタン粉末焼結体の製造方法」が提案されている。特許文献2には、「スラリー」に関し、「製造されたチタン球状二次粒子は、溶剤及び溶剤可溶性バインダーなどとの混合によりスラリーとされる。」との記載及び、「溶剤についても特に種類を問うものではなく、一般に使用されているものを一般的な配合比で使用すればよく、例えば水、各種アルコール類、各種ケトン類など広く使用することができる。」との記載がある。また特許文献2には、「用意した焼結原料チタン粉末を、水溶性アクリル系バインダー(ユケン工業(株),AP-2)10重量%、可塑剤(ユケン工業(株),VL-A試1)3.5重量%及び水と共に混練して、スラリーとした。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-99146号公報
【特許文献2】国際公開第2007/138806号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、チタン多孔質体は、多数の細孔による通気性ないし通液性及び、電気伝導性を有し、また、表面に不動態皮膜が形成されること等により高い耐食性をも有するものである。このため、チタン多孔質体は、PEM水電解装置の腐食が生じ得る環境下にあるPTL(Porous Transport Layer)等として用いることが検討されている。
【0007】
そのような用途では、装置の小型化や取扱いの容易さの観点から、厚みが薄いシート状で、搬送時や装置に取り付ける際等のハンドリング時に破損しにくいチタン多孔質体が要求され得る。
【0008】
また、上記のPEM水電解装置等では、チタン多孔質体を、電極層等の他の部材に密着させて配置することがある。この場合、チタン多孔質体と他の部材との密着性を高めるため、チタン多孔質体の少なくとも一方の表面が平滑であることが望ましい。
【0009】
特許文献1及び2では、チタン多孔質体の表面を平滑にすることについて何ら着目されていない。また、特許文献1及び2に記載された製造方法のように、「スラリー」に水を含ませると、最終的に得られるチタン多孔質体の表面の平滑さが損なわれることが新たにわかった。
【0010】
この発明の目的は、比較的薄いシート状でハンドリング時に破損しにくく、少なくとも一方の表面が平滑なチタン多孔質体及び、チタン多孔質体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は鋭意検討の結果、チタン粉末及びペーストの組成、並びに、ペーストの乾燥温度を調整することにより、比較的薄いシート状であっても、ハンドリング時に破損しにくく、少なくとも一方の表面が所要の平滑性を有するチタン多孔質体が得られることを見出した。具体的には、水素含有量が0.1質量%以下である粉砕粉末のチタン粉末を使用して、水及び発泡剤を含まないペーストを、基材上にて100℃以上かつ130℃以下の温度で乾燥させる。それにより、成形体が得られる。その後、成形体中の有機物を揮発させ、チタン粉末を焼結させる。このようにして、上記のチタン多孔質体が得られる。
【0012】
この発明のチタン多孔質体は、シート状のものであって、厚みが0.3mm以下であり、破断曲げひずみが0.005以上であり、少なくとも一方の表面の三次元表面性状について、算術平均高さSaが2.5μm以下、最大高さSzが30μm以下、表面性状のアスペクト比Strが0.93以上、山頂の算術平均曲率Spcが4.8(1/μm)以下であるというものである。
【0013】
上記のチタン多孔質体は、空隙率が30%以上かつ50%以下であることが好ましい。
【0014】
上記のチタン多孔質体は、チタン含有量が97質量%以上である場合がある。
【0015】
上記のチタン多孔質体は、炭素含有量が0.01質量%以上かつ0.06質量%以下である場合がある。
【0016】
この発明のチタン多孔質体の製造方法は、シート状のチタン多孔質体を製造する方法であって、水素含有量が0.1質量%以下である粉砕粉末のチタン粉末、有機バインダー及び有機溶媒を含んで水及び発泡剤を含まないペーストを用いて、基材上に塗布された前記ペーストを前記基材上で、100℃以上かつ130℃以下の温度に加熱して乾燥させ、シート状の成形体を得る乾燥工程と、前記成形体を加熱し、前記成形体中の有機物を揮発させる予備加熱工程と、前記予備加熱工程後の成形体を加熱し、前記成形体中のチタン粉末を焼結させる焼結工程とを含むものである。
【0017】
上記の製造方法では、前記乾燥工程で得られる前記成形体を前記基材から分離させた後、前記予備加熱工程を行うことが好ましい。
【0018】
上記の製造方法では、前記乾燥工程で用いる前記ペースト中の前記チタン粉末の10%粒子径D10が、5μm以上かつ15μm以下であって、90%粒子径D90が15μm以上かつ25μm以下であることが好ましい。
【0019】
前記乾燥工程では、前記ペーストとして、前記有機バインダーの質量Mbに対する前記有機溶媒の質量Msの比(Ms/Mb)が2.0以上かつ9.0以下であるペーストを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
この発明のチタン多孔質体は、比較的薄いシート状でハンドリング時に破損しにくく、少なくとも一方の表面が平滑なものである。この発明のチタン多孔質体の製造方法は、そのようなチタン多孔質体の製造に適している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態のチタン多孔質体は、厚みが0.3mm以下であるシート状のものであって、破断曲げひずみが0.005以上であり、その少なくとも一方の表面が所定の三次元表面性状(面粗さ)を有するものである。所定の三次元表面性状とは、算術平均高さSaが2.5μm以下、最大高さSzが30μm以下、表面性状のアスペクト比Strが0.93以上、山頂の算術平均曲率Spcが4.8(1/μm)以下であるというものである。このチタン多孔質体は、破断曲げひずみが大きいことによりハンドリング時に破損しにくく、また上記の表面は、所定の用途で求められる所要の平滑性を有するものであるといえる。
【0022】
上記のチタン多孔質体を製造する方法には、チタン粉末、有機バインダー及び有機溶媒を含むペーストを基材上で、100℃以上かつ130℃以下の温度に加熱して乾燥させ、シート状の成形体を得る乾燥工程と、成形体を加熱し、成形体中の有機物を揮発させる予備加熱工程と、予備加熱工程後の成形体を加熱し、成形体中のチタン粉末を焼結させる焼結工程とが含まれる。この方法はさらに、乾燥工程の前に、上記のペーストを作製するペースト作製工程、及び、そのペーストを基材上に塗布するペースト塗布工程を含むことがある。
【0023】
上記の製造方法では、ペーストが、水素含有量が0.1質量%以下である粉砕粉末のチタン粉末を含み、水及び発泡剤を含まないこと、並びに、乾燥工程で、ペーストを100℃以上かつ130℃以下の温度に加熱することが重要である。
水素含有量がある程度多いチタン粉末を用いると、焼結時の加熱で水素が脱離することにより収縮し、チタン多孔質体の表面の平滑性が低下する。また、粉砕粉末のチタン粉末を用いることにより、チタン多孔質体の破断曲げひずみの値が大きくなる。ペーストに有機溶媒に加えて水を含ませた場合は、有機溶媒と水との乾燥挙動の違いの影響で、ペースト中でのチタン粉末や有機バインダーの混合状態が乱れて、チタン多孔質体の表面にピンホールが発生する。乾燥挙動の違いとは、乾燥時に有機溶媒が水よりも先に揮発除去されることや、有機溶媒と水とでチタン粉末や有機バインダーとの親和性が異なること等が挙げられる。また、ペーストが発泡剤を含むと、チタン多孔質体に、発泡剤に起因する局所的に大きな空隙が形成されるので、表面の平滑性が低下するとともに、ハンドリング時に割れやすくなる。
乾燥温度が高すぎると、ペースト中の有機溶媒等が沸騰しやすくなる傾向があり、それによってチタン多孔質体の表面に荒れが発生する。一方、乾燥温度が低すぎると、乾燥に長時間を要し、その間にペースト中の液体がまばらに存在してチタン粉末や有機バインダーの混合状態が乱れるので、ピンホールが生じること等により、チタン多孔質体の表面の平滑性が悪化する。
この実施形態の製造方法では、上述したような問題の発生が抑えられるので、良好なチタン多孔質体を製造することができる。
【0024】
(組成)
チタン多孔質体は、チタン製である。チタン製であれば、ある程度の相対密度で高い電気伝導性を有するチタン多孔質体が得られる。チタン多孔質体のチタン含有量は、97質量%以上であり、好ましくは98質量%以上である。チタン含有量は多いほうが望ましいが、99.8質量%以下となることがあり、99質量%以下となることがある。
【0025】
チタン多孔質体は不純物としてFeを含有することがあり、Fe含有量は、たとえば0.25質量%以下である。またチタン多孔質体には、たとえば製造過程に起因する不可避的不純物として、Ni、Cr、Al、Cu、Zn、Snが含まれる場合がある。Ni、Cr、Al、Cu、Zn、Snの各々の含有量は0.10質量%未満、それらの合計の含有量は0.30質量%未満であることが好適である。
【0026】
この実施形態のチタン多孔質体は、後述するようなチタン粉末を含むペーストを用いて製造された場合、ペーストに含まれる有機物中の炭素が残存していることがあり、炭素含有量がある程度多くなる。具体的には、チタン多孔質体の炭素含有量は、0.01質量%以上かつ0.06質量%以下である場合があり、典型的には0.01質量%以上かつ0.04質量%以下となる場合がある。炭素含有量は、燃焼赤外線吸収法により測定することができる。
【0027】
なお、チタン多孔質体は、酸素含有量及び窒素含有量を除き、JIS H 4600(2012)の純チタン1~4種、典型的には1~2種に相当する純度である場合がある。
【0028】
(厚み)
シート状のチタン多孔質体の厚みは、0.3mm以下であり、好ましくは0.02mm以上かつ0.3mm以下、さらに好ましくは0.02mm以上かつ0.2mm以下である。用途によっては、この程度の薄い厚みのものが求められることがある。なお、チタン多孔質体についての「シート状」とは、平面視の寸法に対して厚みが小さい板状もしくは箔状を意味し、平面視の形状については特に問わない。
【0029】
厚みは、チタン多孔質体の周縁の4点と中央の1点の計5点について、例えばミツトヨ製デジタルシックネスゲージ(型番547-321)等の、測定子がΦ10mmのフラット型で測定精度が0.001~0.01mmのデジタルシックネスゲージを用いて測定し、それらの測定値の平均値とする。シート状のチタン多孔質体が平面視で矩形状をなす場合は、上記の周縁の4点は、四隅の4点とする。
【0030】
(空隙率)
チタン多孔質体の空隙率は、好ましくは30%以上かつ50%以下、より好ましくは35%以上かつ50%以下である。空隙率がこの程度の範囲であれば、用途に応じた所要の通気性もしくは通液性を確保しつつ、ハンドリング時の破損を抑制することができる。空隙率が30%以上である場合は、良好な通気性もしくは通気性が得られる。一方、空隙率が50%以下である場合は、ハンドリング時に割れが発生しにくくなる。
【0031】
チタン多孔質体の空隙率εは、チタン多孔質体の幅、長さ及び厚みより求められる体積並びに、質量から算出した見かけ密度ρ´と、チタン多孔質体を構成するチタンの真密度ρ(4.51g/cm3)を用いて、式:ε=(1-ρ´/ρ)×100により算出する。
【0032】
なお、後述するようなチタン粉末を用いてチタン多孔質体を製造した場合、チタン多孔質体の空隙を区画する三次元網目構造の骨格が、スポンジチタン状になる傾向がある。このスポンジチタン状である三次元網目構造の骨格は、クロール法で製造したスポンジチタンと形状が類似している。一方、チタン繊維を用いた場合は、チタン多孔質体の空隙を区画する三次元網目構造の骨格が不織布状のものになることが多い。また、チタン粉末や有機バインダー等を含むペーストを用いて、そのペーストを乾燥させた後にチタン粉末を焼結させる方法において、ペーストに発泡剤を含ませると、それにより製造されるチタン多孔質体は、発泡剤の影響により、骨格内にも空隙が形成されやすくなる。
【0033】
(破断曲げひずみ)
チタン多孔質体の破断曲げひずみは、0.005以上である。破断曲げひずみが大きいと、破損し難くハンドリング性に優れたものであるといえる。実施例の項目で後述するように、破断曲げひずみの試験にてチタン多孔質体が破断しないこともある。そのようなチタン多孔質体は、破断しにくくハンドリング性に優れるものであるといえる。このため、破断曲げひずみの好ましい上限値は特にない。但し、用途などに鑑みて、破断曲げひずみの好ましい上限値がある場合もある。
【0034】
チタン多孔質体の破断曲げひずみは、三点曲げ試験にて測定する。検体の寸法は長さ60mm、幅15mmとし、支点間距離は22.5mm、圧子径及び支点径はR5mm、試験速度は2mm/minとする。この他の条件はJIS K 7171(プラスチック曲げ特性の求め方)に従う。たわみをs(mm)、試験片厚さをh(mm)、支点間距離をL(mm)とすると、曲げひずみεfは、式:εf=6sh/L2にて求められる。破断曲げひずみは検体が破断した際の曲げひずみである。なお、測定装置は、例えば、ミヤベヤ製Techno Graph TG-1KNが使用可能である。
【0035】
(三次元表面性状)
チタン多孔質体の少なくとも一方の表面における面粗さの算術平均高さSaは、2.5μm以下である。算術平均高さSaは、表面の平均面からの高さの絶対値の平均値を意味する。算術平均粗さSaが2.5μm以下であれば、面としての平滑性が担保される。その結果、PEM水電解装置等にてチタン多孔質体に隣接して配置される隣接部材を傷つけにくくなる。この観点から、チタン多孔質体の少なくとも一方の表面の算術平均高さSaは、好ましくは2.0μm以下である。チタン多孔質体の少なくとも一方の表面の算術平均高さSaは、例えば1.0μm以上かつ2.5μm以下になることがあり、また例えば1.0μm以上かつ2.0μm以下になることがある。
【0036】
チタン多孔質体の少なくとも一方の表面における面粗さの最大高さSzは、30μm以下である。最大高さSzは、表面の最も高い点から最も低い点までの距離を意味する。最大高さSzが30μm以下であることにより、面としての平滑性が担保されるので、隣接部材を傷つけにくい。チタン多孔質体の少なくとも一方の表面の最大高さSzは、好ましくは25μm以下である。チタン多孔質体の少なくとも一方の表面の最大高さSzは、例えば18μm以上かつ30μm以下になることがあり、また例えば18μm以上かつ25μm以下になることがある。
【0037】
チタン多孔質体の少なくとも一方の表面における面粗さの表面性状のアスペクト比Strは、0.93以上である。表面性状のアスペクト比Strは、水平面(表面と平行な平面)上における等方性、異方性を表す。表面性状のアスペクト比Strは0~1の値になり、0に近い値である場合は筋目状のような異方性があることを意味し、この一方で、1に近い値である場合は方向に依存せず等方性を有するといえる。表面性状のアスペクト比Strが0.93以上であれば、等方性があり、流体の拡散をより均一にできる。また、等方性が高いゆえにチタン多孔質体の隣接部材を傷つけにくい。表面性状のアスペクト比Strは0.95以上が好ましい。チタン多孔質体の少なくとも一方の表面の表面性状のアスペクト比Strは、0.99以下となることがある。少なくとも一方の表面の表面性状のアスペクト比Strは、例えば0.93以上かつ0.99以下となることがあり、また例えば0.95以上かつ0.99以下になることがある。
【0038】
チタン多孔質体の少なくとも一方の表面における面粗さの山頂の算術平均曲率Spcは、4.8(1/μm)以下である。山頂の算術平均曲率Spcは、山頂の先端部の平均曲率(平均的な鋭さ)を意味する。山頂の算術平均曲率Spcが4.8(1/μm)以下である場合は、山頂の先端部が緩やかであり、隣接部材を傷つけにくい。チタン多孔質体の少なくとも一方の表面の山頂の算術平均曲率Spcは、好ましくは4.0(1/μm)以下であり、より好ましくは3.6(1/μm)以下である。チタン多孔質体の少なくとも一方の表面の山頂の算術平均曲率Spcは、例えば2.0(1/μm)以上かつ4.8(1/μm)以下であることがあり、また例えば2.0(1/μm)以上かつ4.0(1/μm)以下であることがあり、また例えば2.0(1/μm)以上かつ3.6(1/μm)以下になることがある。
【0039】
上記の算術平均高さSa、最大高さSz、表面性状のアスペクト比Str及び、山頂の算術平均曲率Spcを測定するには、レーザー顕微鏡を使用し、具体的にはキーエンス製の形状解析レーザー顕微鏡VK-X1000/1050が使用可能である。表面形状測定モードにて、倍率50倍で縦500μm横750μmの領域を測定する。これを、1つのサンプルあたり5箇所で測定し、Sa、Sz、Str、Spcについて5箇所の測定値の平均値が前述の所定の数値の基準を満たすものであればよい。すなわち、この実施形態のチタン多孔質体は、少なくとも一方の表面について、算術平均高さSaの5箇所における平均値が2.5μm以下、最大高さSzの5箇所における平均値が30μm以下、表面性状のアスペクト比Strの5箇所における平均値が0.93以上、山頂の算術平均曲率Spcの5箇所における平均値が4.8(1/μm)以下である。VK-X1000/1050を使用すれば、Sa、Sz、Str、Spcは、特段の設定変更をすることなく標準的に算出されるパラメータであるため、その詳細な算出式は割愛するが、Saは表面の平均面からの高さの絶対値の平均値、Szは表面の最も高い点から最も低い点までの距離を表し、ISO25178で規格化されている。Strは表面性状のアスペクト比を表し、自己相関値が0.2に減衰する横方向の最短距離rminと最長距離rmaxの比(rmin/rmax)で算出される。Spcは、山頂の先端部の平均的な鋭さを表し、輪郭曲面の最大振幅の5%よりも高い山頂を対象に、山頂の曲率を求め、その算術平均値をSpcとする。
【0040】
少なくとも一方の表面が上述した三次元表面性状を有するチタン多孔質体は、たとえばPEM水電解装置に使用した場合、電解質膜等の隣接部材との密着性に優れる他、セル抵抗低減や電極層へのダメージ防止といった効果が期待される。加えて、表面性状が安定しているため、電解性能の安定化につながる。
【0041】
なお、シート状のチタン多孔質体は、一方の表面及びその裏側の他方の表面がともに、上述した三次元表面性状を有するものであってもよい。但し、チタン多孔質体の少なくとも一方の表面が当該三次元表面性状を有するものであれば、PEM水電解装置等にて、その表面が電極層等の他の部材側を向くように配置することで、当該他の部材との密着性の向上等の効果が得られる。
【0042】
(製造方法)
上述したようなチタン多孔質体は、たとえば、以下に述べるようにして製造されることがある。
【0043】
はじめに、ペースト作製工程で、チタン粉末、有機バインダー及び有機溶媒を含むペーストを作製する。
【0044】
ここでは、チタン粉末として水素含有量が0.1質量%以下であるものを準備し、これをペーストに含ませる。チタン粉末は水素含有量が0.1質量%よりも多い場合、焼結工程で焼結させる際に、多量の水素が離脱して大きく収縮する。これによりピンホールが発生しうる他、チタン多孔質体の表面の所要の平滑性を確保できなくなる。なお、チタン粉末の水素含有量は50質量ppm以上である場合がある。チタン粉末は純度が高いものが好適であり、純チタン粉末を使用できる。チタン粉末のチタン含有量は99質量%以上である場合がある。
【0045】
また、チタン粉末は粉砕粉末とする。粉砕粉末のチタン粉末を用いたときは、当該粉砕粉末を構成する粒子どうしの接触点が多くなり、破断曲げひずみの値が大きくなる点で好ましい。粉砕粉末とは、塊等を粉砕することにより作製された粉末である。そのような粉砕粉末の一例としては、スポンジチタン等を水素化して粉砕した後に脱水素して得られる水素化脱水素チタン粉末(いわゆるHDH粉末)がある。水素化脱水素チタン粉末は、水素含有量が十分に少ない傾向があるので、この点でも特に好ましい。なお、アトマイズ粉末であるチタン粉末を使用したときは、同等の空隙率とした場合に破断曲げひずみの値が小さくなったり、より高温で焼結するとうねりが大きくなりシート形状を維持できなくなったりするといった不具合が懸念される。
【0046】
チタン粉末は、10%粒子径D10が5μm以上かつ15μm以下であることが好ましい。また、チタン粉末の90%粒子径D90は、15μm以上かつ25μm以下であることが好適である。チタン粉末の10%粒子径D10及び90%粒子径D90がそれぞれ上記の範囲内であれば、チタン粉末が微細であることから、薄いシート形状かつ、大きな破断曲げひずみのチタン多孔質体を製造できる。
【0047】
ペーストは、水及び発泡剤を含まないものとする。ペーストが水を含む場合の、乾燥時の有機溶媒と水との乾燥挙動の違いによるチタン多孔質体の表面へのピンホールの発生を抑制するためである。また、ペーストが発泡剤を含まないようにすることで、チタン多孔質体に、発泡剤の発泡に起因する局所的に大きな空隙が形成されなくなる。その結果、チタン多孔質体は、表面の三次元表面性状が平滑なものになるとともに、ハンドリング時に割れが生じにくくなる。
【0048】
ペーストに使用する有機バインダー及び有機溶媒としては、それぞれ様々なものを適宜選択して用いることができる。たとえば、有機バインダーとしては、メチルセルロース系、ポリビニルアルコール系、エチルセルロース系、アクリル系、ポリビニルブチラール系等のものを挙げることができる。疎水性を示す有機バインダーが好ましい。また、有機溶媒としては、アルコール(エタノール、イソプロパノール、ターピネオール、ブチルカルビトール等)、トルエン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン等を使用可能である。但し、ここで挙げたものに限らない。一例として、有機バインダーはポリビニルブチラール、有機溶媒はイソプロピルアルコールとすることがある。ペーストには、さらに、可塑材(グリセリン、エチレングリコール等)や、界面活性材(アルキルベンゼンスルホン酸塩等)を含ませてもよい。
【0049】
ペーストに含ませる有機バインダーと有機溶媒との質量比として、有機バインダーの質量Mbに対する有機溶媒の質量Msの比(Ms/Mb)は、2.0以上かつ9.0以下であることが好ましい。有機バインダーに対する有機溶媒の質量比(Ms/Mb)を2.0以上かつ9.0以下とすることにより、ペーストが適切な粘度となって所定の厚さの平滑なシートを得られる他、焼結後のチタン多孔質体の空隙率が30%以上かつ50%以下と好ましい範囲内となる。また、この質量比(Ms/Mb)は、2.5以上かつ6.0以下とするのがより好ましく、3.0以上かつ5.0以下とするのがさらに好ましい。ペーストでは、たとえば、チタン粉末100gに対し、有機バインダーは5g以上かつ15g以下、有機溶媒は25g以上かつ45g以下の含有量とすることがある。
【0050】
ペーストは、上述したようなチタン粉末、有機バインダー及び有機溶媒等を、たとえば攪拌機付混合機、回転混合機又は三本ロールミル等を用いて混合させることにより作製することができる。このとき、振動ミル、ビーズミルその他の粉砕混合機等を用いて粉砕してもよい。
【0051】
ペースト塗布工程では、上記のペーストを基材上に比較的薄く塗布する。基材には予め離型層を設けておくことができる。この場合、離型層を介して基材上にペーストを塗布する。基材に離型層を設けた場合は、乾燥工程後にペーストが乾燥して得られる成形体を基材から分離させることが容易になる。
【0052】
基材としては、樹脂基材が、ある程度安価に入手できる点で好ましい。また、樹脂基材は、可撓性を有することから取扱いが容易であるという利点もある。樹脂基材の具体的な材質としては、たとえば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)等のポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール等のポリビニル類が挙げられるが、なかでも、PETは安価であり、後述する乾燥工程後に基材から成形体を容易に分離させることができる点で好ましい。
【0053】
基材上に離型層を設けることは任意であるが、離型層を設ける場合、シリコーンコーティング等を離型層として用いることができる。例えば、東レ製のセラピール(登録商標)など、そのような材料が予め塗布された基材を選択することにより、基材上に離型層を設けることができる。基材上に離型層を設けることで、乾燥工程後に得られる薄いシート状の成形体を、基材から容易に分離させることが可能になる。
【0054】
乾燥工程では、たとえば炉内や乾燥機内等にて基材上でペーストを乾燥させる。これにより、ペースト中の有機溶媒が蒸発し、基材上にシート状の成形体が得られる。
【0055】
乾燥温度は、100℃以上かつ130℃以下とする。この範囲内の温度でペーストを加熱して乾燥させることにより、ペースト中の有機溶媒等の成分の沸騰を抑制しつつ、比較的短時間のうちに乾燥を終了させることができる。これを言い換えると、乾燥温度を130℃よりも高くすると、ペースト中の有機溶媒等が沸騰するおそれがあり、このことが、チタン多孔質体の表面、特に基材側を向いていた側の表面への局所的な多数の荒れの発生を招く。つまり、チタン多孔質体の表面の平滑性が損なわれる。一方、乾燥温度を100℃よりも低くした場合は、ペーストをある程度長い時間にわたって加熱して乾燥することが必要になる。この場合、チタン多孔質体にピンホールが形成されやすくなり、チタン多孔質体の表面の平滑性が悪化する。
【0056】
乾燥時間は特に限定されず適宜決定すればよく、例えば5分以上かつ20分以下とすることができる。ペーストから有機溶媒を有効に除去するとの観点から、乾燥は、炉内や乾燥機内等から気体を排出させながら行うことが望ましい。炉内や乾燥機内から排気するに当たり、炉内や乾燥機内は、減圧雰囲気とすることができる他、大気等の気体の供給により、外部と同等の圧力としてもよい。
【0057】
乾燥工程が終了したとき、予備加熱工程の前に、ペーストが乾燥して得られた成形体を、基材から剥離させる等して分離させることができる。この段階で成形体を基材から分離させておくことにより、基材とともに後の予備加熱工程や焼結工程を行った場合の、基材の変形によるチタン多孔質体のシート形状の不良化や、基材の材質によるチタン多孔質体の汚染を抑制することができる。樹脂基材を使用したときは、基材からの成形体の分離が容易になる。金属基材は、基材から成形体を分離させることが難しい場合がある。
【0058】
次いで、予備加熱工程で上記の成形体を炉内で加熱し、成形体中の有機バインダー等の有機物を揮発させて除去する。予備加熱工程では、たとえば、成形体を大気雰囲気下で、300℃以上かつ450℃未満の温度に3時間以上かつ12時間以下の時間で加熱することができる。予備加熱工程の加熱温度は、好ましくは350℃超かつ450℃未満である。
【0059】
その後、予備加熱工程を経た成形体に対して焼結工程を行い、成形体中のチタン粉末を焼結させる。焼結工程は、成形体中のチタン粉末が焼結すれば、その条件は特に限らない。たとえば、焼結工程では、成形体を、700℃以上かつ850℃以下の温度に1時間以上かつ4時間以下の時間にわたって加熱することがある。この実施形態のチタン多孔質体は、比較的厚みが薄いので、ある程度の低温かつ短時間の加熱で、チタン粉末の焼結が適切に行われ得る。焼結時の雰囲気は、たとえば1.0×10-2Pa以下の真空、又は、ArやHeの不活性雰囲気とすることができる。
【0060】
焼結工程後、チタン多孔質体が得られる。このチタン多孔質体は、先述したもののように、比較的薄いシート状でハンドリング時に破損しにくく、少なくとも一方の表面が良好な平滑性を有するものになる。
【実施例0061】
次に、この発明のチタン多孔質体を試作し、その性能を評価したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0062】
チタン粉末として、実施例1~4ならびに比較例1~4及び6ではHDH粉末(粉砕粉末)を準備し、比較例5では脱水素処理が軽度であるHDH粉末(粉砕粉末)を準備した。比較例7では、アトマイズ粉末を使用した。いずれのチタン粉末も、チタン含有量が99質量%以上であった。チタン粉末の種別、水素含有量、10%粒子径D10及び90%粒子径D90を、表1に示す。
【0063】
上記のチタン粉末を、有機バインダーとしてのポリビニルブチラール、及び、有機溶媒としてのイソプロピルアルコールと混合させて、ペーストを作製した。ペーストは、有機バインダー及び有機溶媒を、表1に示す質量比(Ms/Mb)で含むものとした。なお、比較例6では、水を含むペーストを使用した。より詳細には、比較例6のペーストは水を3質量%含み、その分有機バインダー及び有機溶媒を他の例と比較して3質量%低減させた。比較例6における質量比(Ms/Mb)は表1に示す通りである。
【0064】
そして、基材(東レ製のセラピール(登録商標))上にペーストを塗布し、その基材上のペーストを表1に示す温度で加熱して乾燥させ、シート状の成形体を得た。乾燥時間は10分とした。乾燥後、成形体を基材から分離させた。なおここでは、詳細な説明を省略するが、PET製の樹脂基材ではなく金属基材にペーストを塗布して乾燥させた場合、乾燥後に金属基材からの成形体の分離が困難になることがあった。
【0065】
次いで、予備加熱として、成形体を大気雰囲気の下、360℃に360分加熱して、有機バインダー等の有機物を揮発させた。その後、成形体を800℃に1時間にわたって加熱して、成形体中のチタン粉末を焼結させ、焼結体としてチタン多孔質体を得た。焼結時の雰囲気は、1.0×10-2Pa以下の真空とした。なお、比較例7では、チタン多孔質体の空隙率が約40%になるように焼結温度を調整した。空隙率はチタン多孔質体の通気性や通液性に影響するため、比較例7は他の例と空隙率が同程度となるように焼結温度を調整した。
【0066】
チタン多孔質体の厚み、炭素含有量(炭素量)、空隙率及び、破断曲げひずみは、先述した各方法で確認したところ、表1に示すとおりであった。なお、いずれのチタン多孔質体も、チタン含有量は98質量%以上であった。
【0067】
また、トライテック製トレース台A2-450により、チタン多孔質体を光にかざしてピンホールの有無を確認した。その結果を表1に示す。ピンホールとは、肉眼にて光の透過が確認できる穴のことをいう。
【0068】
【表1】
【0069】
また、チタン多孔質体の基材側を向いていた表面(基材側表面)の三次元表面性状として、算術平均高さSa、最大高さSz、表面性状のアスペクト比Str及び山頂の算術平均曲率Spcのそれぞれを、基材側表面A~Eの5箇所について先述した方法で測定した。各基材側表面A~Eにおける測定結果及び、その平均値を表2に示す。
【0070】
なお、比較例3~6は、チタン多孔質体にピンホールが形成されていたことから、良好なチタン多孔質体であるとはいえず、このため、空隙率、破断曲げひずみ及び三次元表面性状の確認を行わなかった。ピンホールが形成された理由として、比較例3及び4では乾燥温度が低すぎたので乾燥が長期化したこと、比較例5ではチタン粉末の水素含有量が多かったことから焼結時に多くの水素が脱離して大きく収縮したこと、比較例6ではペーストが水を含んでいたので乾燥時に有機溶媒と異なる挙動を示したことがそれぞれ考えられる。
【0071】
【表2】
【0072】
実施例1~4では、水素含有量が少ないチタン粉末を用いて、水及び発泡剤を含まないペーストを作製し、所定の温度で乾燥させたことにより、チタン多孔質体の算術平均高さSa、最大高さSz、表面性状のアスペクト比Str及び山頂の算術平均曲率Spcはいずれも、望ましい値となった。また、実施例1~4では破断曲げひずみの確認結果も良好であった。
【0073】
比較例1及び2では、乾燥温度が高かったことにより、チタン多孔質体の算術平均高さSa、最大高さSz、表面性状のアスペクト比Str及び山頂の算術平均曲率Spcのうちの少なくとも一つの面粗さが、望ましくない値となった。特に、比較例1及び2では、四つの面粗さについて測定箇所の5箇所に、基準を満たす箇所と基準を満たさない箇所が存在し、いずれの面粗さが望ましくない値となるか事前に予測しにくい結果となった。一方、5箇所の平均値で確認すれば、基準を満たしているかどうかの判断することが可能であるから有効である。なお、実施例1~4はいずれも、平均値だけでなく、5箇所の測定結果のすべてが基準を満たしていることから、広い面積にわたって良好な平滑性を実現していると考えられる。
【0074】
比較例7は、チタン粉末を粉砕粉末からアトマイズ粉末に変更したことを除いて、実施例3と実質的に同様のペースト組成及び乾燥温度にて、チタン多孔質体を製造したものである。なお、比較例7では、チタン多孔質体の空隙率が約40%になるように、焼結温度を調整した。その結果、比較例7のチタン多孔質体は、面粗さがいずれも望ましい値となったものの、破断曲げひずみが小さくなって所望の空隙率と破断曲げひずみを両立することができなかった。
【0075】
以上より、この発明によれば、比較的薄いシート状でハンドリング時に破損しにくく、少なくとも一方の表面が平滑なチタン多孔質体が得られることがわかった。