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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120366
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】ウイルス様粒子及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20230822BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230822BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230822BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20230822BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230822BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230822BHJP
   C12N 15/88 20060101ALN20230822BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20230822BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20230822BHJP
   C07K 14/005 20060101ALN20230822BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20230822BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20230822BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N7/01 ZNA
C12N5/10
A61P31/00
A61P35/00
A61K31/7105
A61K35/76
A61K48/00
C12N15/88 Z
C07K19/00
C07K14/47
C07K14/005
C12N15/11 Z
C12N15/63 Z
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101919
(22)【出願日】2023-06-21
(62)【分割の表示】P 2020530277の分割
【原出願日】2019-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2018133682
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、難治性疾患実用化研究事業、「独自送達技術開発による先天性筋疾患に対するゲノム編集治療法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】堀田 秋津
(72)【発明者】
【氏名】ジー ピーター デビド
(57)【要約】      (修正有)
【課題】対象タンパク質及び/又は対象RNAが封入されたウイルス様粒子、および前記ウイルス様粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】対象タンパク質が封入されたウイルス様粒子であって、前記ウイルス様粒子はGagタンパク質を含み、前記Gagタンパク質は前記対象タンパク質と2量体を形成しており、前記Gagタンパク質はFK506-binding protein(FKBP12)との融合タンパク質であり、前記対象タンパク質はFKBP12-rapamycin associated protein 1,FRAP1 fragment(FRB)との融合タンパク質であり、前記2量体において、前記FKBP12と、ラパマイシン又はラパマイシン誘導体と、前記FRBとが結合している、ウイルス様粒子で、FKBP12が前記Gagタンパク質のN末端に融合されている融合タンパクを含むウイルス粒子を除く。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象タンパク質が封入されたウイルス様粒子であって、前記ウイルス様粒子はGagタンパク質を含み、前記Gagタンパク質は前記対象タンパク質と2量体を形成しており、
前記Gagタンパク質はFK506-binding protein(FKBP12)との融合タンパク質であり、
前記対象タンパク質はFKBP12-rapamycin associated protein 1,FRAP1 fragment(FRB)との融合タンパク質であり、
前記2量体において、前記FKBP12と、ラパマイシン又はラパマイシン誘導体と、前記FRBとが結合している、ウイルス様粒子(但し、対象タンパク質が封入されたウイルス様粒子であって、前記ウイルス様粒子はGagタンパク質を含み、前記Gagタンパク質は前記対象タンパク質と2量体を形成しており、前記Gagタンパク質はFKBP12との融合タンパク質であり、前記FKBP12は前記Gagタンパク質のN末端に融合されており、前記対象タンパク質はFRBとの融合タンパク質であり、前記2量体において、前記FKBP12と、ラパマイシン又はラパマイシン誘導体と、前記FRBとが結合している、ウイルス様粒子を除く。)。
【請求項2】
前記対象タンパク質がCasファミリータンパク質である、請求項1に記載のウイルス様粒子。
【請求項3】
第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれたgRNA配列並びにパッケージングシグナル配列を有するmRNA又は前記mRNAの自己切断産物が更に封入された、請求項2に記載のウイルス様粒子。
【請求項4】
ゲノム編集された細胞の製造方法であって、前記細胞に請求項3に記載のウイルス様粒子を接種することを含む方法。
【請求項5】
下記工程(1)、(2)を含む、対象タンパク質が封入されたウイルス様粒子の製造方法:
(1)ラパマイシン又はラパマイシン誘導体の存在下で、
細胞に、FKBP12とGagタンパク質との融合タンパク質、及び、FRBと対象タンパク質との融合タンパク質を発現させる工程、
(2)前記対象タンパク質が封入されたウイルス様粒子を含む培地を得る工程(但し、下記工程(a)、(b)を含む、対象タンパク質が封入されたウイルス様粒子の製造方法を除く:(a)ラパマイシン又はラパマイシン誘導体の存在下で、細胞に、FKBP12とGagタンパク質との融合タンパク質、及び、FRBと対象タンパク質との融合タンパク質を発現させる工程であって、前記FKBP12は前記Gagタンパク質のN末端に融合されている工程、(b)前記対象タンパク質が封入されたウイルス様粒子を含む培地を得る工程。)。
【請求項6】
前記工程(1)において、前記融合タンパク質をコードする核酸を、リポフェクション法又はエレクトロポレーション法を用いて前記細胞に導入する、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
下記工程(1)、(2)を含む、Casファミリータンパク質及びgRNAが封入されたウイルス様粒子の製造方法:
(1)ラパマイシン又はラパマイシン誘導体の存在下で、
細胞に、FKBP12とGagタンパク質との融合タンパク質、及び、FRBとCasファミリータンパク質との融合タンパク質、並びに、
第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれたgRNA配列並びにパッケージングシグナル配列を有するmRNA、
を発現させる工程、
(2)前記Casファミリータンパク質及びgRNAが封入されたウイルス様粒子を含む培地を得る工程(但し、下記工程(a)、(b)を含む、Casファミリータンパク質及びgRNAが封入されたウイルス様粒子の製造方法を除く:(a)ラパマイシン又はラパマイシン誘導体の存在下で、細胞に、FKBP12とGagタンパク質との融合タンパク質、及び、FRBとCasファミリータンパク質との融合タンパク質、並びに、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれたgRNA配列並びにパッケージングシグナル配列を有するmRNA、を発現させる工程であって、前記FKBP12は前記Gagタンパク質のN末端に融合されている工程、(b)前記Casファミリータンパク質及びgRNAが封入されたウイルス様粒子を含む培地を得る工程。)。
【請求項8】
前記工程(1)において、前記融合タンパク質又は前記mRNAをコードする核酸を、リポフェクション法又はエレクトロポレーション法を用いて前記細胞に導入する、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
対象タンパク質が封入されたウイルス様粒子の製造用キットであって、
FKBP12とGagタンパク質との融合タンパク質の発現ベクターを含む、キット(但し、対象タンパク質が封入されたウイルス様粒子の製造用キットであって、FKBP12とGagタンパク質との融合タンパク質の発現ベクターを含み、前記FKBP12は前記Gagタンパク質のN末端に融合されている、キットを除く。)。
【請求項10】
Casファミリータンパク質が封入されたウイルス様粒子の製造用キットであって、
FKBP12とGagタンパク質との融合タンパク質の発現ベクター、及び、FRBとCasファミリータンパク質との融合タンパク質発現ベクター、を含む、キット(但し、Casファミリータンパク質が封入されたウイルス様粒子の製造用キットであって、FKBP12とGagタンパク質との融合タンパク質の発現ベクター、及び、FRBとCasファミリータンパク質との融合タンパク質発現ベクター、を含み、前記FKBP12は前記Gagタンパク質のN末端に融合されている、キットを除く。)。
【請求項11】
第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれた、対象RNAの塩基配列又はマルチクローニングサイト、並びにパッケージングシグナル配列を有するmRNAの発現ベクターを更に含む、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
請求項3に記載のウイルス様粒子を有効成分として含む、遺伝子変異を原因とする疾患、感染症又はガンの治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象タンパク質及び/又は対象RNAが封入されたウイルス様粒子及びその使用に関する。より具体的には、Casファミリータンパク質又はCasファミリータンパク質/RNA RNP複合体が封入されたウイルス様粒子、前記ウイルス様粒子の製造方法、前記ウイルス様粒子の製造用キット、及び、ゲノムDNAを配列特異的に切断した細胞の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CRISPR-Cas9/gRNA RNP複合体等のゲノム編集酵素を細胞や生体へ導入することにより、ゲノム上の任意の場所でDNA切断、塩基置換、エピジェネティック状態の変更等を行うことができる。
【0003】
Cas9タンパク質、Cas9遺伝子、gRNA等を細胞内へ導入する方法として、脂質を用いたリポフェクション法や脂質ナノ粒子(LNP)法、物理的に導入するエレクトロポレーション法やマイクロインジェクション法、ウイルスの細胞侵入機構を利用するウイルスベクター法等、様々な方法が開発されている。
【0004】
中でも、ウイルスベクター法は広く用いられており、特に、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターやレンチウイルスベクター等は、導入効率が高く細胞毒性が低いことが知られている。
【0005】
しかしながら、ウイルスベクターによる外来遺伝子の発現は長期間持続する。このため、例えば、ウイルスベクター法により細胞内にCas9遺伝子を導入した場合、細胞内でCas9タンパク質の発現が長期間持続することになる。その結果、標的配列以外の配列を切断してしまうオフターゲット変異導入リスクが高まってしまう。
【0006】
そこで、ウイルスの複製機構や感染持続機能を排除し、ウイルスの外皮だけから構成されたウイルス様粒子(Virus-like particle、以下、「VLP」という場合がある。)を利用して、ウイルスの細胞侵入機構だけを利用する技術が開発されている。VLPは一度細胞内へ進入すると、内部の外来遺伝子を放出して消滅するため、一過性の発現パターンを示す点が大きな特徴である。ウイルス様粒子は、少なくとも一つ以上のウイルス由来タンパク質を含む、直径1,000nm以下の粒子であり、脂質二重膜を持つものと持たないものに分類される。
【0007】
例えば、非特許文献1には、レンチウイルスのGag構造タンパク質とCas9タンパク質との融合タンパク質を利用して、Cas9タンパク質をVLPの内部に封入する方法が報告されている。
【0008】
また、クロンテック社より、VLPの内部へのCas9タンパク質の封入効率を高めたGesicleシステムが販売されている。Gesicleシステムでは、膜局在型蛍光タンパク質であるCherryPickerとCas9タンパク質を、iDimerize Inducible Heterodimer Systemを利用して、化合物A/C Heterodimerizer依存的に会合させることにより、VLPの内部へのCas9タンパク質の封入効率を高めている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Choi J. G., et al., Lentivirus pre-packed with Cas9 protein for safer gene editing, Gene Therapy, vol 23, 627-633, 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法では、VLPへのCas9タンパク質の封入効率及びゲノム切断効率は低かった。
また、クロンテック社のGesicleシステムでは、CherryPicker蛍光タンパク質がVLPに特異的に取り込まれるわけではないため、Cas9の封入効率が不十分な場合がある。
【0011】
さらに、活性のあるCas9/gRNA RNP複合体を十分量内包したVLPの製造は容易ではなかった。VLP内で活性のあるCas9/gRNA RNP複合体を形成させるには、まず、十分量のCas9とgRNAがVLPに封入される必要がある。そして、gRNAがVLPに効率良く封入されるには、gRNAがVLP産生細胞内において(核から)細胞質に輸送され、且つ、VLPの出芽時にその近傍に局在する必要がある。
【0012】
しかしながら、従来の汎用の方法では、gRNAは産生細胞の核内に留まり易く、VLPに封入されにくいという事情があった。
【0013】
そこで、本発明は、対象タンパク質、又は、対象タンパク質及び対象RNAをウイルス様粒子(VLP)に効率よく封入する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記従来技術が抱える課題に対し、発明者らは、VLP産生細胞において、対象タンパク質とともにGagタンパク質を発現させ、更にこれらのタンパク質をFK506-binding protein(FKBP12)又はFKBP12-rapamycin associated protein 1,FRAP1 fragment(FRB)のいずれか一方との融合タンパク質としてそれぞれ発現させることで、ラパマイシン化合物の存在依存的に前記対象タンパク質が効率良くVLP内に封入されることを見出した。
【0015】
さらに、発明者らは、gRNAの配列を自己スプライシング活性を有する2つのRNA(Self-cleaving RNA、以降、リボザイムと呼ぶ場合がある)配列で挟み、その上流にレトロウイルスのパッケージングシグナルを配し、更にLTRプロモーターによって転写制御されるmRNAとして発現させることで、前記mRNAがVLP内に能動的に封入され、且つ、当該mRNAから前記gRNAが自動的に切り出されて、従来よりも粒子当たりのCas9活性が高いVLPが得られることを見出した。
これらの結果に基づき、発明者らは本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
[1]対象タンパク質が封入されたウイルス様粒子であって、前記ウイルス様粒子はGagタンパク質を含み、前記Gagタンパク質は前記対象タンパク質と2量体を形成している、ウイルス様粒子。
[2]前記Gagタンパク質及び前記対象タンパク質の一方がFK506-binding protein(FKBP12)との融合タンパク質であり、他方がFKBP12-rapamycin associated protein 1,FRAP1 fragment(FRB)との融合タンパク質であり、前記2量体において、前記FKBP12と、ラパマイシン又はラパマイシン誘導体と、前記FRBとが結合している、請求項1に記載のウイルス様粒子。
[3]前記対象タンパク質がCasファミリータンパク質である、[1]又は[2]に記載のウイルス様粒子。
[4]第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれたgRNA配列並びにパッケージングシグナル配列を有するmRNA又は前記mRNAの自己切断産物が更に封入された、[3]に記載のウイルス様粒子。
[5]ゲノム編集された細胞の製造方法であって、前記細胞に[4]に記載のウイルス様粒子を接種することを含む方法。
[6]下記工程(1)、(2)を含む、対象タンパク質が封入されたウイルス様粒子の製造方法:(1)ラパマイシン又はラパマイシン誘導体の存在下で、細胞に、FKBP12とGagタンパク質との融合タンパク質、及び、FRBと対象タンパク質との融合タンパク質、又は、FRBとGagタンパク質との融合タンパク質、及び、FKBP12と対象タンパク質との融合タンパク質、を発現させる工程、(2)前記対象タンパク質が封入されたウイルス様粒子を含む培地を得る工程。
[7]前記工程(1)において、前記融合タンパク質をコードする核酸を、リポフェクション法又はエレクトロポレーション法を用いて前記細胞に導入する、[6]に記載の製造方法。
[8]下記工程(1)、(2)を含む、Casファミリータンパク質及びgRNAが封入されたウイルス様粒子の製造方法:(1)ラパマイシン又はラパマイシン誘導体の存在下で、細胞に、FKBP12とGagタンパク質との融合タンパク質、及び、FRBとCasファミリータンパク質との融合タンパク質、又は、FRBとGagタンパク質との融合タンパク質、及び、FKBP12とCasファミリータンパク質との融合タンパク質、並びに、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれたgRNA配列並びにパッケージングシグナル配列を有するmRNA、を発現させる工程、(2)前記Casファミリータンパク質及びgRNAが封入されたウイルス様粒子を含む培地を得る工程。
[9]前記工程(1)において、前記融合タンパク質又は前記mRNAをコードする核酸を、リポフェクション法又はエレクトロポレーション法を用いて前記細胞に導入する、[8]に記載の製造方法。
[10]対象タンパク質が封入されたウイルス様粒子の製造用キットであって、FKBP12とGagタンパク質との融合タンパク質の発現ベクター、又は、FRBとGagタンパク質との融合タンパク質の発現ベクターを含む、キット。
[11]Casファミリータンパク質が封入されたウイルス様粒子の製造用キットであって、FKBP12とGagタンパク質との融合タンパク質の発現ベクター、及び、FRBとCasファミリータンパク質との融合タンパク質発現ベクター、又は、FRBとGagタンパク質との融合タンパク質の発現ベクター、及び、FKBP12とCasファミリータンパク質との融合タンパク質の発現ベクター、を含む、キット。
[12]第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれた、対象RNAの塩基配列又はマルチクローニングサイト、並びにパッケージングシグナル配列を有するmRNAの発現ベクターを更に含む、[11]に記載のキット。
[13]対象RNAが封入されたウイルス様粒子であって、前記ウイルス様粒子はGagタンパク質を含み、前記対象RNAは、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれた対象RNAの塩基配列並びにパッケージングシグナル配列を有するmRNA又は前記mRNAの自己切断産物の形態で封入されている、ウイルス様粒子。
[14]下記工程(1)、(2)を含む、対象RNAが封入されたウイルス様粒子の製造方法:(1)細胞に、Gagタンパク質、及び、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれた対象RNAの塩基配列並びにパッケージングシグナル配列を有するmRNAを発現させる工程、(2)前記細胞の培地中に、前記対象RNAが、前記mRNA又は前記mRNAの自己切断産物の形態で封入された前記ウイルス様粒子を得る工程。
[15]前記工程(1)において、前記mRNAをコードする核酸を、リポフェクション法又はエレクトロポレーション法を用いて前記細胞に導入する、[14]に記載の製造方法。
[16]対象RNAが封入されたウイルス様粒子の製造用キットであって、Gagタンパク質の発現ベクター、並びに、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれた、対象RNAの塩基配列又はマルチクローニングサイト、及び、パッケージングシグナル配列を有するmRNAの発現ベクター、を含む、キット。
[17][1]~[4]又は[13]に記載のウイルス様粒子を有効成分として含む、遺伝子変異を原因とする疾患、感染症又はガンの治療薬。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、対象タンパク質をウイルス様粒子に効率よく封入する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)はHIVのGag-Pol(以下、「WT Gag-PolHIV」という場合がある。)の構造を示す模式図である。(b)は、HIVのGag-PolのN末端にFKBP12ドメインを付加した融合タンパク質(以下、「FKBP12-Gag-PolHIV」という場合がある。)の構造を示す模式図である。(c)は、HIVのGagのN末端にFKBP12ドメインを付加した融合タンパク質(以下、「FKBP12-GagHIV」という場合がある。)の構造を示す模式図である。
図2】SSA-EGFPレポーター実験を説明する模式図である。
図3】実験例1におけるフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。
図4】実験例1におけるウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。
図5】実験例1におけるフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。
図6】(a)は、FKBP12ドメインをVSV-G(水疱性口内炎ウイルスのエンベロープタンパク質)のC末端(細胞質内ドメイン側)に融合した、VSVG-FKPB12融合タンパク質の発現ベクター(pHLS-EF1a-VSVG-FKBP12)の構造、及び、VSVG-FKPB12融合タンパク質を含むVLPの構造を示す模式図である。(b)は、FKBP12ドメインをEGFPのN末端に融合したFKBP12-EGFP融合タンパク質の発現ベクターの構造、及び、FKBP12-EGFP融合タンパク質を含むVLPの構造を示す模式図である。(c)は、FKBP12ドメインをGagHIVのN末端に融合したFKBP12-GagHIV融合タンパク質の発現ベクターの構造、及び、FKBP12-GagHIV融合タンパク質を含むVLPの構造を示す模式図である。
図7】実験例2におけるウエスタンブロッティングの結果を示す画像である。
図8】実験例2における電気泳動の結果を示す画像である。
図9図8の結果を数値化したグラフである。
図10】実験例3におけるT7EI(T7 Endonuclease I)アッセイの結果を示す画像である。
図11図10の結果を数値化したグラフである。
図12】実験例3におけるフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。
図13】(a)~(c)は、実験例4におけるフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。
図14】実験例5におけるフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。
図15】(a)は、FRBドメインとCas9タンパク質との融合タンパク質の構造、及び、FKBP12ドメインとGagHIVとの融合タンパク質の構造を示す模式図である。(b)は、GagMLVとCas9タンパク質との融合タンパク質の構造、及び、GAG-PolMLVの構造を示す模式図である。(c)は、Cas9タンパク質とGag-PolHIVとの融合タンパク質の構造、及び、GAG-PolHIVの構造を示す模式図である。(d)は、実験例6におけるフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。
図16】実験例7におけるフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。
図17】実験例7におけるフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。
図18】(a)~(c)は、実験例8におけるフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。
図19】実験例9における蛍光顕微鏡写真である。
図20】(a)~(c)は、sgRNAの発現方法による、VLP(ウイルス様粒子)生産細胞におけるsgRNAの動態を説明する模式図である。
図21】(a)及び(b)は、実験例10におけるT7EIアッセイの結果を示すグラフである。
図22】(a)は、RRE配列を含むsgRNAの発現ベクターの構造を示す模式図である。(b)は、(a)に示す発現ベクターからPRE配列を除去した発現ベクターの構造を示す模式図である。(c)~(h)は、実験例11におけるフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。
図23】実験例12におけるリアルタイムPCRの結果を示すグラフである。
図24】(a)~(c)は、実験例13におけるフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。
図25】実験例14におけるフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。
図26】実験例14におけるフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。
図27】実験例15におけるフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。
図28】実験例16におけるT7EIアッセイの結果を示す画像である。
図29】(a)~(c)は、実験例17における蛍光顕微鏡写真である。
図30】(a)~(e)は、実験例18におけるフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。
図31図30(a)~(e)の結果を数値化したグラフである。
図32】(a)及び(b)は、2種類のsgRNAを送達する方法を説明する模式図である。
図33】(a)及び(b)は、実験例19におけるT7EIアッセイの結果を示すグラフである。
図34】実験例20における電気泳動の結果を示す画像である。
図35】実験例21における電気泳動の結果を示す画像である。
図36】(a)~(d)は、実験例22におけるフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。
図37】実験例23における電気泳動の結果を示す画像である。
図38】実験例24におけるフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。
図39】(a)は、実験例25で使用したEGxxFPレポーターコンストラクトの構造を説明する模式図である。(b)は、実験例25における蛍光顕微鏡による観察結果を示す写真である。(c)は、実験例25におけるフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。
図40】(a)は実験例26の実験スケジュールを示す図である。(b)は、実験例26におけるT7EIアッセイの結果を示す代表的な画像である。(c)は、実験例26におけるゲノム編集活性の経時変化を示すグラフである。
図41】(a)は、実験例27におけるT7EIアッセイの結果を示すグラフである。(b)は、実験例27において、オフターゲット切断に対するオンターゲット切断の割合を示すグラフである。
図42】実験例28の結果を示すグラフである。
図43】(a)は、実験例29における電気泳動の結果を示す画像である。(b)は、(a)の結果を数値化したグラフである。(c)は、実験例29におけるウエスタンブロッティングの結果を示す画像である。
図44】(a)~(c)は、実験例30で作製したVLPの構造を説明する模式図である。
図45】実験例30におけるウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。
図46】実験例30におけるルシフェラーゼ活性の測定結果を示すグラフである。
図47】実験例31におけるインビボ発光・蛍光イメージングの結果を示すグラフである。
図48図47の結果を数値化したグラフである。
図49】実験例32で用いた遺伝子導入ルシフェラーゼレポーターマウスモデルを説明する図である。
図50】(a)は、実験例32において、VLPの投与後1~160日間のインビボ発光・蛍光イメージングの結果を示す写真である。(b)は、VLPの投与後126日目のインビボ発光・蛍光イメージングの結果を示す代表的な写真である。
図51】(a)は、実験例33において、ヒトTリンパ球細胞株であるJurkat細胞にVLPを導入し、T7EIアッセイを行った結果を示す画像である。(b)は、(a)の結果を数値化したグラフである。
図52】実験例33におけるフローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。
図53】(a)は、実験例33で使用したSAMHD1遺伝子に対するsgRNA#1及びsgRNA#2の位置を示す模式図である。(b)は、実験例33においてヒトiPS細胞から分化した神経細胞の写真である。(c)は、実験例33におけるT7EIアッセイの結果を示す画像である。
図54】(a)及び(b)は、実験例34において、EGFPの蛍光を測定した結果を示すグラフである。
図55】(a)は、実験例34において、活性Cas9/sgRNA RNP複合体を定量した結果を示すグラフである。(b)は、実験例34において、挿入欠失変異(Indel)の誘導を測定した結果を示すグラフである。
図56】(a)及び(b)は、実験例35におけるウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。
図57】(a)及び(b)は、実験例35において撮影した、VLPの代表的な電子顕微鏡写真である。(c)及び(d)は、実験例35においてVLPの粒子径を測定した結果を示すグラフである。
図58】(a)及び(b)は、実験例35において、VLPのブラウン運動計測から粒子径を測定した結果を示すグラフである。
図59】(a)は、実験例35におけるDNA切断活性の標準曲線を示す画像である。(b)は、VLP内のCas9/sgRNA RNP複合体を用いて基質を切断した結果を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[対象タンパク質が封入されたウイルス様粒子]
1実施形態において、本発明は、対象タンパク質が封入されたウイルス様粒子であって、前記ウイルス様粒子はGagタンパク質を含み、前記Gagタンパク質は前記対象タンパク質と2量体を形成している、ウイルス様粒子を提供する。
【0020】
実施例において後述するように、本実施形態のウイルス様粒子(以下、「VLP」という場合がある。)によれば、対象タンパク質を効率よく封入することができる。本実施形態のVLPを細胞に侵入させることにより、対象タンパク質を効率よく細胞内に導入することができる。
【0021】
VLPとは、ウイルスの複製機構や感染持続機能を排除し、ウイルスの外皮だけから構成された粒子である。本実施形態のVLPはGagタンパク質を含む。Gagタンパク質としては、レトロウイルス由来のGagタンパク質が挙げられる。Gagタンパク質としては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来のGagタンパク質、マウス白血病ウイルス(MLV)由来のGagタンパク質等を好適に利用することができる。
【0022】
HIV由来のGagタンパク質のアミノ酸配列を配列番号1に示し、MLV由来のGagタンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。Gagタンパク質は、本実施形態のVLPの効果が得られる限り、変異を有していてもよい。
【0023】
本実施形態のVLPにおいて、Gagタンパク質は、マトリックス(MA)、カプシド(CA)、ヌクレオカプシド(NC)等に切断されていてもよいし、これらが結合したままであってもよい。
【0024】
実施例において後述するように、本実施形態のVLPはレトロウイルス由来のPolを含まないことが好ましい。VLPがPolを含む場合、Polのプロテアーゼにより対象タンパク質が分解されてしまう場合がある。
【0025】
ところで、VLPを細胞に侵入させるためには、ウイルス膜と細胞膜との膜融合の過程を必要とする。膜融合の過程を担うのが、エンベロープタンパク質と呼ばれるウイルスタンパク質である。エンベロープ(Env)タンパク質はエンベロープウイルスのウイルス表面に存在し、膜融合能をもつ。
【0026】
本実施形態のVLPの外皮は、当該分野において周知のウイルスエンベロープタンパク質を含んでいてもよい。エンベロープタンパク質としては、例えば、レトロウイルス科のウイルス(ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、猫免疫不全ウイルス(FIV)、馬伝染性貧血ウイルス(EIAV)、ヒトTリンパ好性ウイルス(HTLV)、マウス白血病ウイルス(MLV)、猫白血病ウイルス(FLV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、内在性レトロウイルス等)のEnvタンパク質、ラブドウイルス科のウイルス(水泡口炎ウイルス(VSV)、狂犬病ウイルス、モコラウイルス等)のEnvタンパク質(Gタンパク質)、アレナウイルス科のウイルス(リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)等)のEnvタンパク質、トガウイルス科(シンドビスウイルス等)のEnvタンパク質、パラミクソウイルス科のウイルス(麻疹ウイルス等)のEnvタンパク質(ヘマグルチニン(HA)タンパク質、フュージョン(F)タンパク質)、オルトミクソウイルス科のウイルス(インフルエンザウイルス等)のエンベロープタンパク質(ヘマグルチニン(HA)タンパク質、ノイラミニダーゼ(NA)タンパク質)等を好適に用いることができる。このうち、VSV由来の糖タンパク質であるVSV-Gを特に好適に用いることができる。VSV-Gのアミノ酸配列を配列番号3に示す。ここで、VLPを侵入させる対象の宿主細胞としては、ヒト由来の細胞、非ヒト動物由来の細胞、生体内の細胞等が挙げられる。また、生体としてはヒト又は非ヒト動物が挙げられる。
【0027】
本実施形態のVLPにおいて、対象タンパク質は特に限定されず、例えば、RNA誘導型ヌクレアーゼ、人工ヌクレアーゼ等の配列特異的DNA切断酵素;Oct3/4タンパク質、Sox2タンパク質、Klf4タンパク質、c-Mycタンパク質等の細胞の初期化を誘導するタンパク質;MyoDタンパク質、GATA4タンパク質、MEF2Cタンパク質、TBX5タンパク質、FOXA1タンパク質、FOXA2タンパク質、FOXA3タンパク質、HNF4Aタンパク質、ASCL1タンパク質、BRN2タンパク質、MYT1Lタンパク質等の細胞種を変換するタンパク質;蛍光タンパク質(mCherry等);ルシフェラーゼタンパク質等が挙げられる。
【0028】
対象タンパク質が配列特異的DNA切断酵素である場合、本実施形態のVLPを細胞に侵入させることにより、細胞内に配列特異的DNA切断酵素を効率よく導入することができる。その結果、ゲノム上の任意の場所でDNA切断、塩基置換、エピジェネティック状態の変更等を行うことができる。
【0029】
配列特異的DNA切断酵素は、RNA誘導型ヌクレアーゼと人工ヌクレアーゼに大別される。配列特異的DNA切断酵素はRNA誘導型ヌクレアーゼであってもよく、人工ヌクレアーゼであってもよい。
【0030】
RNA誘導型ヌクレアーゼとは、ガイドとなる短鎖RNAが標的配列に結合し、2つのDNA切断ドメイン(ヌクレアーゼドメイン)を有するヌクレアーゼをリクルートして配列特異的な切断を誘導する酵素である。RNA誘導型ヌクレアーゼとしては、CRISPR-Casファミリータンパク質が挙げられる。
【0031】
CRISPR-Casファミリータンパク質としては、例えば、Cas9、Cpf1(別名Cas12a)、C2C1(別名Cas12b)、C2C2(別名Cas13a)、CasX、CasY、Cas1、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas10等が挙げられる。RNA誘導型ヌクレアーゼは、CRISPR-Casファミリータンパク質のホモログであってもよく、CRISPR-Casファミリータンパク質が改変されたものであってもよい。例えば、2つ存在する野生型のヌクレアーゼドメインの一方を不活性型に改変したニッカーゼ改変型のヌクレアーゼであってもよいし、両方を不活性型に改変したdCas9であってもよい。あるいは、標的特異性の向上したCas9-HFやHiFi-Cas9、eCas9等であってもよい。また、それらのCas9に別のタンパク質(酵素等)を融合させたものであってもよい。
【0032】
Cas9は、例えば、化膿性レンサ球菌、黄色ブドウ球菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ゲオバチルス・ステアロサーモフィルス等に由来するものが挙げられる。Cpf1としては、例えば、アシダミノコッカス、ラクノスピラ、クラミドモナス、フランシセラ-ノビサイダ等に由来するものが挙げられる。
【0033】
化膿性レンサ球菌由来のCas9タンパク質(以下、「SpCas9タンパク質」という場合がある。)のアミノ酸配列を配列番号4に示す。
【0034】
人工ヌクレアーゼは、標的配列に特異的に結合するように設計・作製されたDNA結合ドメインと、ヌクレアーゼドメイン(制限酵素であるFokIのDNA切断ドメイン等)とを有する人工制限酵素である。人工ヌクレアーゼとしては、Zinc finger nuclease(ZFN)、Transcription activator-like effector nuclease(TALEN)、メガヌクレアーゼ等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0035】
本実施形態のVLPにおいて、Gagタンパク質は対象タンパク質と2量体を形成している。ここで、2量体を形成しているとは、可逆的に結合していることを意味する。したがって、Gagタンパク質は対象タンパク質との融合タンパク質ではないことが好ましい。
【0036】
Gagタンパク質と対象タンパク質とが解離可能であることにより、本実施形態のVLPをターゲット細胞に侵入させて対象タンパク質を細胞内に導入した後、Gagタンパク質と対象タンパク質を解離させ、対象タンパク質を十分に機能させることができる。
【0037】
また、Gagタンパク質及び対象タンパク質が2量体を形成することにより、VLP生産細胞においてVLP内に対象タンパク質を効率よく封入することができる。
【0038】
Gagタンパク質及び対象タンパク質が2量体を形成する手段は特に限定されないが、例えば、FK506-binding protein(FKBP12)とFKBP12-rapamycin associated protein 1, FRAP1 fragment(FRB)とがラパマイシン又はラパマイシン誘導体の存在下でヘテロダイマーを形成することを利用することができる。あるいは、GAI(Gibberellin insensitive)とGID1(Gibberellin insensitive dwarf1)とがgibberellin又はGA3-AMの存在下でヘテロダイマーを形成するシステム(例えば、Miyamoto T., et al., Rapid and Orthogonal Logic Gating with a Gibberellin-induced Dimerization System, Nat Chem Biol., 8 (5), 465-470, 2012を参照。)、PyL(PYR1-like,アミノ酸番号33~209)とABI1(アミノ酸番号126~423)とがS-(+)-abscisic acid(ABA)存在下でヘテロダイマーを形成することができるシステム(例えば、Liang F. S., et al., Engineering the ABA plant stress pathway for regulation of induced proximity, Sci Signal., 4 (164), rs2, 2011を参照。)等も利用することができる。
【0039】
なお、本書における「ラパマイシン誘導体」という記載は「ラパマイシン類似体」を包含し、また、「ラパマイシン」及び「ラパマイシン誘導体」を「ラパマイシン化合物」と呼ぶ場合がある。
【0040】
具体的には、VLP産生細胞(外皮構成タンパク質を発現する細胞)をラパマイシン又はラパマイシン誘導体の存在下で培養し、VLP産生細胞内で、Gagタンパク質及び対象タンパク質の一方をFKBP12との融合タンパク質として発現させ、他方をFRBとの融合タンパク質として発現させることにより、ラパマイシン又はラパマイシン誘導体を介してFKBP12ドメインとFRBドメインを2量体化させることができる。
【0041】
さらに、前記融合タンパク質(FKBP12ないしはFRBとGagとの融合タンパク質)は、細胞膜への局在を促すアミノ酸配列(以降、細胞膜局在化配列と呼ぶ場合がある)を有していてもよい。VLP産生細胞内において前記融合タンパク質が細胞膜に局在することにより、前記FKBP12ドメイン-FRBドメイン間相互作用を介して対象タンパク質が効率良く細胞膜近傍にリクルートされて、細胞膜近傍で前記2量体が形成され得る。その結果、VLPの出芽時に前記2量体がVLP内に効率良く封入されるため、従来法で作製するよりも多量の対象タンパク質を内包するVLPの製造が可能となる。なお、本開示において細胞膜に局在とは、対象とする分子が、細胞膜を構成する脂質又はタンパク質と直接又は他の因子を介して結合している状態を指す。
【0042】
細胞膜局在化配列の例としては、ファルネシル化、パルミトイル化、ミリストイル化、GPIアンカー化等のタンパク質翻訳後修飾を促す配列、疎水性のアミノ酸残基からなる膜貫通ドメインを構成する配列、細胞膜構造中に存在するタンパク質に結合性を有するドメインやペプチド配列などが挙げられる。これらの配列は、特に限定されることはなく、当該分野において周知のものを適宜使用することができる。このうち、タンパク質翻訳後修飾(脂質修飾を含む)を促す配列を好適に用いることができる。
【0043】
例えば、実施例において後述するように、Gagタンパク質にFKBP12を融合させ、対象タンパク質にFRBを融合させてもよい。例えば、対象タンパク質がCas9タンパク質である場合、Gagタンパク質のN末端側にFKBP12を融合させることが好ましい。また、Cas9タンパク質のN末端側にFRBを融合させることが好ましい。
【0044】
FKBP12タンパク質のアミノ酸配列を配列番号5に示し、FRBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号6に示す。FKBP12タンパク質又はFRBタンパク質は、本実施形態のVLPの効果が得られる限り、変異を有していてもよい。
【0045】
ラパマイシン誘導体としては、例えば、AP21967(C-16-(S)-7-methylindolerapamycin)を好適に利用することができる。
【0046】
[対象タンパク質及び対象RNAが封入されたウイルス様粒子]
本実施形態のVLPは、対象タンパク質に加えて対象RNAが更に封入されたものであってもよい。例えば、対象タンパク質がCasファミリータンパク質であり、対象RNAがgRNAであってもよい。この場合、VLPを細胞に侵入させることにより、細胞のゲノムDNAの標的配列部位においてゲノム編集を誘導することができる。
【0047】
しかしながら、gRNAは、通常、100塩基程度以下の長さの短鎖RNAである。従来、gRNA等の短鎖RNAを効率よくVLPに封入することはできなかった。
【0048】
これに対し、発明者らは、実施例において後述するように、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれたgRNA配列並びにパッケージングシグナル配列を含むmRNAをVLP産生細胞中で発現させることにより、当該mRNAを効率よくVLPに封入することに成功した。上記mRNAは、VLP内で、又は、ゲノム編集を誘導する対象の細胞内で、リボザイムの自己切断活性によりgRNA部分を切り出して、自己切断産物としてgRNAを生成する。
【0049】
すなわち、本実施形態のVLPは、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれたgRNA配列並びにパッケージングシグナル配列を含むmRNA又は前記mRNAの自己切断産物が更に封入されていてもよい。
【0050】
パッケージングシグナル配列とは、レトロウイルスのゲノムRNAがウイルス粒子内部に取り込まれるのに必須な塩基配列である。レトロウイルスのゲノムRNAが有するパッケージングシグナル配列は特徴的な2次構造をとり、Gagタンパク質上のヌクレオカプシド(NC)に特異的に結合することが知られている。
【0051】
パッケージングシグナル配列としては、レトロウイルスのΨ配列を好適に用いることができる。また、パッケージングシグナル配列が、Gagの頭の部分までも含めたExtendedパッケージングシグナル(Ψ+)であるとVLPへの封入効率が更に向上することが知られている。HIV由来のΨの塩基配列を配列番号7に示す。また、HIV由来のΨ+の塩基配列を配列番号8に示す。
【0052】
上記のmRNAにおいて、パッケージングシグナル配列の位置は特に限定されない。上記のmRNAは、例えば、パッケージングシグナル配列、第1のリボザイム配列、gRNA配列、第2のリボザイム配列をこの順に含んでいてもよいし、例えば、第1のリボザイム配列、gRNA配列、第2のリボザイム配列、パッケージングシグナル配列をこの順に含んでいてもよい。
【0053】
更に、上記のmRNAは、パッケージングシグナル配列の5’側又は3’側に1個又は複数個の任意のRNA配列を更に含んでいてもよい。任意のRNA配列は、例えばタンパク質をコードしていてもよい。
【0054】
上記のmRNAが任意のRNA配列を1個含む場合、上記のmRNAは、例えば、任意のRNA配列、パッケージングシグナル配列、第1のリボザイム配列、gRNA配列、第2のリボザイム配列をこの順に含んでいてもよいし、パッケージングシグナル配列、任意のRNA配列、第1のリボザイム配列、gRNA配列、第2のリボザイム配列をこの順に含んでいてもよいし、第1のリボザイム配列、gRNA配列、第2のリボザイム配列、任意のRNA配列、パッケージングシグナル配列をこの順に含んでいてもよいし、第1のリボザイム配列、gRNA配列、第2のリボザイム配列、パッケージングシグナル配列、任意のRNA配列をこの順に含んでいてもよい。
【0055】
また、上記のmRNAが複数個の任意のRNA配列を含む場合、各RNA配列は独立して異なる位置に含まれていてもよい。
【0056】
通常、gRNAはU6プロモーターやH1プロモーター等のポリメラーゼIIIプロモーターから転写される。このため、gRNAを長くすることは困難である。これに対し、発明者らは、実施例において後述するように、LTRプロモーター、EF1αプロモーター等のポリメラーゼIIプロモーターにより、パッケージングシグナル配列、第1のリボザイム配列、gRNA配列、第2のリボザイム配列をこの順に含む300塩基以上の長いmRNAを発現させ、リボザイムの自己切断活性によりgRNA部分を切り出すことにより、VLPへのgRNAの封入効率が劇的に上昇することを明らかにした。
【0057】
また、実施例において後述するように、この方法によりCas9タンパク質及びgRNAを封入したVLPを細胞に侵入させることにより、従来のVLPと比較して格段に高いゲノム編集活性を得ることができる。
【0058】
第1のリボザイム配列、第2のリボザイム配列としては、ハンマーヘッド(HH)リボザイム配列、hepatitis delta virus(HDV)リボザイム配列、Varkud satelliteリボザイム、ヘアピンリボザイム、glmSリボザイム等を用いることができる。第1のリボザイム配列、第2のリボザイム配列はそれぞれ同一の配列であってもよく、互いに異なる配列であってもよい。
【0059】
ハンマーヘッド(HH)リボザイム配列の一例を配列番号9に示す。また、HDVリボザイム配列の一例を配列番号10に示す。
【0060】
gRNAは、CRISPR RNA(crRNA)とトランス活性化型CRISPR RNA(tracrRNA)との複合体であってもよいし、tracrRNAとcrRNAを組み合わせた単一のgRNA(sgRNA)であってもよい。
【0061】
gRNAがcrRNAとtracrRNAとの複合体である場合、VLPに、パッケージングシグナル配列、第1のリボザイム配列、crRNA配列、第2のリボザイム配列をこの順に含むmRNA、及び、パッケージングシグナル配列、第1のリボザイム配列、tracrRNA配列、第2のリボザイム配列をこの順に含むmRNAの2種類のmRNAを封入すればよい。
【0062】
あるいは、例えば、パッケージングシグナル配列、第1のリボザイム配列、crRNA配列、第2のリボザイム配列、第3のリボザイム配列、tracrRNA配列、第4のリボザイム配列をこの順に含む1種類のmRNAを封入することもできる。ここで、第3のリボザイム配列、第4のリボザイム配列は、上述した第1のリボザイム配列、第2のリボザイム配列と同様の配列であってよい。また、crRNA配列、tracrRNA配列の位置を入れ替えることもできる。
【0063】
この結果、VLPの内部で、又は、ゲノム編集を誘導する対象の細胞内で、リボザイムの自己切断活性によりcrRNA及びtracrRNAが生成され、crRNAとtracrRNAとの複合体が形成される。
【0064】
crRNA及びtracrRNAの塩基配列は、例えば、次の塩基配列とすることができる。まず、標的塩基配列からプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を除いた塩基配列をスペーサー塩基配列とする。続いて、スペーサー塩基配列の3’末端に、スキャフォールド配列を連結した塩基配列を設計し、crRNAの塩基配列とする。例えば、標的塩基配列からPAM配列を除いた塩基配列が「5’-NNNNNNNNNNNNNNNNNNNN-3’」(配列番号11)である場合、crRNAの塩基配列は「5’-NNNNNNNNNNNNNNNNNNNNGUUUUAGAGCUAUGCUGUUUUG-3’」(配列番号12)とすることができる。また、tracrRNAの塩基配列は、例えば、「5’-CAAAACAGCAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGC-3’」(配列番号13)とすることができる。
【0065】
また、gRNAがsgRNAである場合、VLPに、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれたsgRNAの塩基配列並びにパッケージングシグナル配列を含むmRNAを封入すればよい。この結果、VLPの内部で、又は、ゲノム編集を誘導する対象の細胞内で、リボザイムの自己切断活性によりsgRNAが生成される。
【0066】
sgRNAの塩基配列は、例えば、次の塩基配列とすることができる。まず、標的塩基配列からPAM配列を除いた塩基配列をスペーサー塩基配列とする。続いて、スペーサー塩基配列の3’末端に、スキャフォールド配列を連結した塩基配列を設計する。例えば、標的塩基配列からPAM配列を除いた塩基配列が「5’-NNNNNNNNNNNNNNNNNNNN-3’」(配列番号11)である場合、標的塩基配列を特異的に認識するsgRNAの塩基配列は「5’-NNNNNNNNNNNNNNNNNNNNGUUUUAGAGCUAGAAAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGCUUUUUUU-3’」(配列番号14)とすることができる。
【0067】
本実施形態のVLPにより、医療分野において、新規のゲノム編集治療を提供することができる。例えば、CRISPR-Cas9又はCRISPR-Cas9 RNPをVLPに封入して筋肉組織に注入することにより、筋肉細胞内で目的のゲノム編集を誘導することが可能となる。また、肝臓組織に注入することにより、肝臓細胞内で目的のゲノム編集を誘導することが可能となる。
【0068】
本明細書において、ゲノム編集とは、DNA切断、DNA一本鎖切断、相同組換え誘導、塩基変換(base editing)、DNAメチル化の誘導又は除去、遺伝子発現量の制御等を意味する。
【0069】
また、採取した細胞、例えば造血幹細胞にVLPを接種し、目的のゲノム編集を誘導した細胞を再移植する等のゲノム編集治療が可能となる。このような技術は、遺伝子変異が原因の疾患に対する新規治療法となりうる。その他、ウイルスのレセプターを破壊する感染症治療や、CAR-T細胞と組み合わせたガン治療等へと応用可能であると考えられる。
【0070】
また、畜産・水産業においても、対象動物の生殖細胞、受精卵、初期胚又は個体にVLPを接種することにより、ゲノム編集部位に応じた品種改良を誘導することができる。
【0071】
本実施形態のVLPは、相同組み換え(Homologues Recombination;HR)経路による遺伝子組換えを誘導するためのドナーDNA(二本鎖DNA又は一本鎖DNA)を更に含有していてもよい。
【0072】
[ゲノム編集された細胞の製造方法]
1実施形態において、本発明は、ゲノム編集された細胞の製造方法であって、前記細胞にCasファミリータンパク質及びgRNAが封入されたVLPを接種することを含む方法を提供する。本実施形態の製造方法により、配列特異的にゲノム編集された細胞を製造することができる。
【0073】
ここでVLPを細胞に接種するとは、最終的にVLPを細胞に侵入させることを意味する。例えば、VLPを細胞に接触させることであってもよく、VLPを細胞の培地に添加すること等であってもよい。
【0074】
[対象タンパク質が封入されたVLPの製造方法]
1実施形態において、本発明は、対象タンパク質が封入されたVLPの製造方法であって、ラパマイシン又はラパマイシン誘導体の存在下で、細胞に、FKBP12とGagタンパク質との融合タンパク質、及び、FRBと対象タンパク質との融合タンパク質の組み合わせ、又は、FRBとGagタンパク質との融合タンパク質、及び、FKBP12と対象タンパク質との融合タンパク質の組み合わせ、を発現させることを含み、その結果、前記細胞の培地中に前記対象タンパク質が封入されたVLPが放出される、製造方法を提供する。本実施形態の製造方法により、対象タンパク質が封入されたVLPを製造することができる。
【0075】
本実施形態の製造方法は、下記工程(1)、(2)を含む、対象タンパク質が封入されたVLPの製造方法であるということもできる。
【0076】
(1)ラパマイシン又はラパマイシン誘導体の存在下で、細胞に、FKBP12とGagタンパク質との融合タンパク質、及び、FRBと対象タンパク質との融合タンパク質、又は、FRBとGagタンパク質との融合タンパク質、及び、FKBP12と対象タンパク質との融合タンパク質、を発現させる工程。
(2)前記対象タンパク質が封入されたVLPを含む培地を得る工程。
【0077】
前記工程(1)において、前記融合タンパク質をコードする核酸を、リポフェクション法又はエレクトロポレーション法(フローエレクトロポレーション法を含む)を用いて前記細胞に導入することが好ましい。また、核酸の導入後に、前記細胞をエンドヌクレアーゼで処理してもよい。
【0078】
フローエレクトロポレーション法とは、DNA、mRNA、siRNA、タンパク等を種々の細胞に高効率、高生存率で、50μL~1L容量のスケールで導入可能なエレクトロポレーション法である。このため、フローエレクトロポレーション法を採用することにより、VLPを容易に大量生産することが可能になる。
【0079】
また、実施例において後述するように、フローエレクトロポレーションにより核酸を導入した後、細胞をエンドヌクレアーゼ処理することにより、VLPの形成量を増大させることができる。これは、エンドヌクレアーゼ処理によって未導入の核酸を除去することにより、細胞の生存率を上昇させることができるためであると考えられる。
【0080】
また、VLPを医療応用するためには、動物由来の成分を使用せずに(xeno-free)、VLPを製造することが好ましい。このため、細胞の培地は血清不含培地であることが好ましい。
【0081】
本実施形態の製造方法において、FKBP12とGagタンパク質との融合タンパク質、FRBと対象タンパク質との融合タンパク質、FRBとGagタンパク質との融合タンパク質、FKBP12と対象タンパク質との融合タンパク質は、VLP産生細胞で機能する発現ベクターにより発現させればよい。また、培地中に放出されたVLPは、例えば超遠心、ポリエチレングリコール(PEG)沈殿、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等により濃縮することができる。
【0082】
本実施形態の製造方法において、VLP、対象タンパク質、ラパマイシン誘導体、Gagタンパク質、FKBP12、FRBについては上述したものと同様である。また、VLP産生細胞としては、ヒト細胞、非ヒト動物細胞を利用することができる。しかしながら、VLPを生体に接種する場合には、免疫原性を低減させる観点から、接種対象の種と同じ種に由来する細胞をVLP産生細胞に用いることが好ましい。具体的なVLP産生細胞としては、特に限定されず、例えば、ヒト胎児腎由来細胞株であるHEK293T細胞、HEK293細胞等を用いることができる。
【0083】
本実施形態の製造方法によれば、従来技術と比較して対象タンパク質がVLPに効率よく封入される。このため、VLPにより多くの対象タンパク質を封入(内包)することができる。VLP 1粒子あたりに封入することができる対象タンパク質は、例えば3分子以上であり、4分子以上であることが好ましく、5分子以上であることがより好ましく、6分子以上であることが更に好ましく、7分子以上であることが最も好ましい。
【0084】
[Casファミリータンパク質及びgRNAが封入されたVLPの製造方法]
1実施形態において、本発明は、Casファミリータンパク質及びgRNAが封入されたVLPの製造方法であって、ラパマイシン又はラパマイシン誘導体の存在下で、細胞に、FKBP12とGagタンパク質との融合タンパク質、及び、FRBとCasファミリータンパク質との融合タンパク質の組み合わせ、又は、FRBとGagタンパク質との融合タンパク質、及び、FKBP12とCasファミリータンパク質との融合タンパク質の組み合わせ、並びに、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれたgRNA配列並びにパッケージングシグナル配列を含むmRNA、を発現させることを含み、その結果、前記細胞の培地中にCasファミリータンパク質及びgRNAが封入されたVLPが放出される、製造方法を提供する。
【0085】
本実施形態の製造方法は、下記工程(1)、(2)を含む、Casファミリータンパク質及びgRNAが封入されたVLPの製造方法であるということもできる。
【0086】
(1)ラパマイシン又はラパマイシン誘導体の存在下で、細胞に、FKBP12とGagタンパク質との融合タンパク質、及び、FRBとCasファミリータンパク質との融合タンパク質、又は、FRBとGagタンパク質との融合タンパク質、及び、FKBP12とCasファミリータンパク質との融合タンパク質、並びに、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれたgRNA配列並びにパッケージングシグナル配列を有するmRNA、を発現させる工程。
(2)前記Casファミリータンパク質及びgRNAが封入されたVLPを含む培地を得る工程。
【0087】
前記工程(1)において、前記融合タンパク質又は前記mRNAをコードする核酸を、リポフェクション法又はエレクトロポレーション法(フローエレクトロポレーション法を含む)を用いて前記細胞に導入することが好ましい。また、核酸の導入後に、前記細胞をエンドヌクレアーゼで処理してもよい。また、細胞の培地は血清不含培地であることが好ましい。フローエレクトロポレーション法、エンドヌクレアーゼ処理については上述したものと同様である。
【0088】
本実施形態の製造方法によれば、従来技術と比較してCasファミリータンパク質及びgRNAがVLPに効率よく封入される。このため、VLPにより多くのCasファミリータンパク質及びgRNAの複合体(リボヌクレオタンパク質、RNP)を封入することができる。VLP 1粒子あたりに封入することができるRNPは、例えば3分子以上であり、4分子以上であることが好ましく、5分子以上であることがより好ましく、6分子以上であることが更に好ましく、7分子以上であることが最も好ましい。
【0089】
本実施形態の製造方法により、Casファミリータンパク質及びgRNAが封入されたVLPを製造することができる。また、培地中に放出されたVLPは、例えば超遠心、PEG沈殿、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等により濃縮することができる。
【0090】
本実施形態の製造方法において、VLP、Casファミリータンパク質、gRNA、ラパマイシン誘導体、Gagタンパク質、FKBP12、FRB、パッケージングシグナル配列、リボザイム配列、VLP産生細胞については上述したものと同様である。
【0091】
本実施形態の製造方法において、FKBP12とGagタンパク質との融合タンパク質、FRBとCasファミリータンパク質との融合タンパク質、FRBとGagタンパク質との融合タンパク質、FKBP12とCasファミリータンパク質との融合タンパク質、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれたgRNA配列並びにパッケージングシグナル配列を含むmRNAは、VLP産生細胞で機能する発現ベクターにより発現させればよい。
【0092】
特に、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれたgRNA配列並びにパッケージングシグナル配列を含むmRNAはポリメラーゼIIプロモーターにより発現させることが好ましい。ポリメラーゼIIプロモーターとしては、例えばLTRプロモーター(レンチウイルスの5’LTR)、EF1αプロモーター等が挙げられる。LTRプロモーターとしては、HIVの5’LTRを特に好適に用いることができる。
【0093】
また、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれたgRNA配列並びにパッケージングシグナル配列を含むmRNAをLTRプロモーターにより発現させる場合には、VLP産生細胞にTatタンパク質を発現させることが好ましい。
【0094】
[対象タンパク質が封入されたVLPの製造用キット]
1実施形態において、本発明は、対象タンパク質が封入されたVLPの製造用キットであって、FKBP12とGagタンパク質との融合タンパク質の発現ベクター、又は、FRBとGagタンパク質との融合タンパク質の発現ベクターを含む、キットを提供する。本実施形態のキットにより、対象タンパク質が封入されたVLPを製造することができる。
【0095】
本実施形態のキットにおいて、VLP、対象タンパク質、Gagタンパク質、FKBP12、FRBについては上述したものと同様である。
【0096】
本実施形態のキットは、FKBP12と対象タンパク質との融合タンパク質の発現ベクター作製用ベクター、FKBP12と対象タンパク質との融合タンパク質の発現ベクター、FRBと対象タンパク質との融合タンパク質の発現ベクター作製用ベクター、FRBと対象タンパク質との融合タンパク質の発現ベクター等を更に含んでいてもよい。
【0097】
ここで、FKBP12と対象タンパク質との融合タンパク質の発現ベクター作製用ベクターとは、例えば、プロモーターの下流にFKBP12をコードする遺伝子及びマルチクローニングサイトを含むベクターが挙げられる。
【0098】
本明細書において、マルチクローニングサイトとは、制限酵素に認識される1種又は複数の塩基配列が並んだ領域である。マルチクローニングサイトにおいて、制限酵素部位は1個であってもよいし、複数であってもよい。
【0099】
上記のベクターのマルチクローニングサイトに対象タンパク質をコードする遺伝子を組み込むことにより、FKBP12と対象タンパク質との融合タンパク質の発現ベクターを作製することができる。ここで、マルチクローニングサイトは、FKBP12をコードする遺伝子の5’側に位置していてもよいし、3’側に位置していてもよい。
【0100】
同様に、FRBと対象タンパク質との融合タンパク質の発現ベクター作製用ベクターとは、例えば、プロモーターの下流にFRBをコードする遺伝子及びマルチクローニングサイトを含むベクターが挙げられる。このマルチクローニングサイトに対象タンパク質をコードする遺伝子を組み込むことにより、FRBと対象タンパク質との融合タンパク質の発現ベクターを作製することができる。ここで、マルチクローニングサイトは、FRBをコードする遺伝子の5’側に位置していてもよいし、3’側に位置していてもよい。
【0101】
本実施形態のキットは、ラパマイシン又はラマパイシン誘導体、VLP産生用細胞等を更に含んでいてもよい。ラパマイシン又はラマパイシン誘導体、VLP産生用細胞については上述したものと同様である。
【0102】
[Casファミリータンパク質が封入されたVLPの製造用キット]
1実施形態において、本発明は、Casファミリータンパク質が封入されたVLPの製造用キットであって、FKBP12とGagタンパク質との融合タンパク質の発現ベクター、及び、FRBとCasファミリータンパク質との融合タンパク質発現ベクターの組み合わせ、又は、FRBとGagタンパク質との融合タンパク質の発現ベクター、及び、FKBP12とCasファミリータンパク質との融合タンパク質の発現ベクターの組み合わせ、を含む、キットを提供する。本実施形態のキットにより、Casファミリータンパク質が封入されたVLPを製造することができる。
【0103】
本実施形態のキットにおいて、VLP、Casファミリータンパク質、Gagタンパク質、FKBP12、FRBについては上述したものと同様である。
【0104】
例えば、実施例において後述するように、Gagタンパク質にFKBP12を融合させ、Casファミリータンパク質にFRBを融合させてもよい。この場合、Gagタンパク質のN末端側にFKBP12を融合させることが好ましい。また、Casファミリータンパク質のN末端側にFRBを融合させることが好ましい。
【0105】
本実施形態のキットは、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれた、対象RNAの塩基配列又はマルチクローニングサイト、並びにパッケージングシグナル配列を含むmRNAの発現ベクターを更に含んでいてもよい。この場合、本実施形態のキットにより、Casファミリータンパク質及び対象RNAを封入したVLPを製造することができる。
【0106】
ここで、パッケージングシグナル配列、リボザイム配列については上述したものと同様である。また、対象RNAとしては、短鎖RNAが挙げられ、例えばgRNAが挙げられる。本明細書において、短鎖RNAとしては、例えば200塩基程度以下、例えば150塩基程度以下、例えば100塩基程度以下の長さのRNAが挙げられる。
【0107】
第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれたマルチクローニングサイト並びにパッケージングシグナル配列を含むmRNAの発現ベクターのマルチクローニングサイトに対象RNAをコードするDNA断片を組み込むことにより、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれた対象RNAの塩基配列並びにパッケージングシグナル配列を含むmRNAの発現ベクターを作製することができる。
【0108】
本実施形態のキットは、ラパマイシン又はラマパイシン誘導体、VLP産生用細胞等を更に含んでいてもよい。ラパマイシン又はラマパイシン誘導体、VLP産生用細胞については上述したものと同様である。
【0109】
[対象RNAが封入されたVLP]
1実施形態において、本発明は、対象RNAが封入されたVLPであって、前記VLPはGagタンパク質を含み、前記対象RNAは、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれた対象RNAの塩基配列並びにパッケージングシグナル配列を含むmRNA又は前記mRNAの自己切断産物の形態で封入されている、VLPを提供する。
【0110】
本実施形態のVLPは、対象タンパク質の代わりに対象RNAが封入されている点において上述したVLPと主に異なっている。
【0111】
実施例において後述するように、本実施形態のVLPによれば、対象RNAを効率よく封入することができる。本実施形態のVLPを細胞に侵入させることにより、対象RNAを効率よく細胞内に導入することができる。
【0112】
対象RNAとしては、短鎖RNAが挙げられる。本明細書において、短鎖RNAとしては、例えば200塩基程度以下、例えば150塩基程度以下、例えば100塩基程度以下の長さのRNAが挙げられる。対象RNAとしては、例えば、siRNA、shRNA、miRNA、gRNA等が挙げられる。
【0113】
本実施形態のVLPにおいて、VLP、Gagタンパク質、パッケージングシグナル配列、リボザイム配列、gRNAについては上述したものと同様である。
【0114】
[対象RNAが封入されたVLPの製造方法]
1実施形態において、本発明は、対象RNAが封入されたVLPの製造方法であって、細胞に、Gagタンパク質、及び、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれた対象RNAの塩基配列並びにパッケージングシグナル配列を含むmRNAを発現させることを含み、その結果、前記細胞の培地中に、前記対象RNAが封入されたウイルス様粒子が放出され、前記対象RNAは、前記mRNA又は前記mRNAの自己切断産物の形態で前記ウイルス様粒子に封入されている、製造方法を提供する。
【0115】
本実施形態の製造方法は、下記工程(1)、(2)を含む、対象RNAが封入されたVLPの製造方法であるということもできる。
【0116】
(1)細胞に、Gagタンパク質、及び、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれた対象RNAの塩基配列並びにパッケージングシグナル配列を有するmRNAを発現させる工程。
(2)前記対象RNAが、前記mRNA又は前記mRNAの自己切断産物の形態で封入されたVLPを含む培地を得る工程。
【0117】
前記工程(1)において、前記mRNAをコードする核酸を、リポフェクション法又はエレクトロポレーション法(フローエレクトロポレーション法を含む)を用いて前記細胞に導入することが好ましい。また、核酸の導入後に、前記細胞をエンドヌクレアーゼで処理してもよい。また、細胞の培地は血清不含培地であることが好ましい。フローエレクトロポレーション法、エンドヌクレアーゼ処理については上述したものと同様である。
【0118】
本実施形態の製造方法により、対象RNAが封入されたVLPを製造することができる。本実施形態の製造方法において、VLP、Gagタンパク質、パッケージングシグナル配列、第1のリボザイム配列、対象RNA、第2のリボザイム配列、VLP産生細胞については上述したものと同様である。また、培地中に放出されたVLPは、例えば超遠心、PEG沈殿、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等により濃縮することができる。
【0119】
本実施形態の製造方法によれば、従来技術と比較して対象RNAがVLPに効率よく封入される。このため、VLPにより多くの対象RNAを封入することができる。VLP 1粒子あたりに封入することができる対象RNAは、例えば3分子以上であり、4分子以上であることが好ましく、5分子以上であることがより好ましく、6分子以上であることが更に好ましく、7分子以上であることが特に好ましく、8分子以上であることが最も好ましい。
【0120】
[対象RNAが封入されたVLPの製造用キット]
1実施形態において、本発明は、対象RNAが封入されたVLPの製造用キットであって、Gagタンパク質の発現ベクター、並びに、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれた、対象RNAの塩基配列又はマルチクローニングサイト、及び、パッケージングシグナル配列を含むmRNAの発現ベクターを含む、キットを提供する。本実施形態のキットにより、対象RNAが効率よく封入されたVLPを製造することができる。
【0121】
本実施形態のキットにおいて、VLP、対象RNA、パッケージングシグナル配列、リボザイム配列、マルチクローニングサイトについては上述したものと同様である。
【0122】
上述したように、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれたマルチクローニングサイト並びにパッケージングシグナル配列を含むmRNAの発現ベクターのマルチクローニングサイトに対象RNAをコードするDNA断片を組み込むことにより、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれた対象RNAの塩基配列並びにパッケージングシグナル配列を含むmRNAの発現ベクターを作製することができる。
【0123】
また、上述したように、VLP産生細胞内で、Gagタンパク質、及び、第1のリボザイム配列及び第2のリボザイム配列に挟まれた対象RNAの塩基配列並びにパッケージングシグナル配列を含むmRNAを発現させると、mRNA上のパッケージングシグナル配列は特徴的な2次構造をとり、Gagタンパク質上のヌクレオカプシド(NC)に特異的に結合し、VLPに効率よく封入される。
【0124】
本実施形態のキットは、VLP産生用細胞等を更に含んでいてもよい。VLP産生用細胞については上述したものと同様である。
【0125】
[遺伝子変異を原因とする疾患、感染症又はガンの治療薬]
1実施形態において、本発明は、上述したウイルス様粒子を有効成分として含む、遺伝子変異を原因とする疾患、感染症又はガンの治療薬を提供する。遺伝子変異を原因とする疾患としては、例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、筋硬直性ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、血友病、先天性脳症、フェニルケトン尿症、ビオプテリン代謝異常症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、白皮症、色素性乾皮症等が挙げられるがこれらに限定されない。本実施形態の治療薬を投与して、ゲノム編集によりエクソンスキッピングを誘導したり、遺伝子変異を修復したり、異常遺伝子を削除することにより、遺伝子変異を原因とする疾患を治療することができる。
【0126】
感染症としては、エイズ、Β型肝炎、EBV感染症等が挙げられる。本実施形態の治療薬を投与して、感染したウイルスや細菌の遺伝子を破壊することにより、あるいはウイルスや細菌の感染に必要なセレプター遺伝子を破壊することにより、感染症をを治療することができる。
【0127】
本明細書において、「ガン」とは、上皮細胞から発生する癌に限られず悪性腫瘍全体を意味する。ガンとしては、先天性小児ガン等が挙げられる。本実施形態の治療薬を投与して、ガン細胞の生存に必須の遺伝子やガン遺伝子を破壊したり、ガン抑制遺伝子の変異を修復することにより、ガンを治療することができる。
【0128】
本実施形態の治療薬の投与方法、投与量は特に限定されず、患者の症状、体重、年齢、性別等に応じて適宜決定すればよい。例えば、注射剤の形態で、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与すること等が挙げられる。
【0129】
[その他の実施形態]
1実施形態において、本発明は、対象タンパク質が封入されたVLP、対象RNAが封入されたVLP、又は、対象タンパク質及び対象RNAが封入されたVLPの有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、遺伝子変異が原因の疾患、感染症、又は、ガンの治療方法を提供する。
【0130】
1実施形態において、本発明は、遺伝子変異が原因の疾患、感染症又はガンの治療のための、対象タンパク質が封入されたVLP、対象RNAが封入されたVLP、又は、対象タンパク質及び対象RNAが封入されたVLPを提供する。
【0131】
1実施形態において、本発明は、遺伝子変異が原因の疾患の治療薬、感染症の治療薬又はガンの治療薬を製造するための、対象タンパク質が封入されたVLP、対象RNAが封入されたVLP、又は、対象タンパク質及び対象RNAが封入されたVLPの使用を提供する。
【0132】
上記各実施形態において、対象タンパク質が封入されたVLP、対象RNAが封入されたVLP、対象タンパク質及び対象RNAが封入されたVLPについては上述したものと同様である。
【0133】
上記各実施形態において、VLPは、対象タンパク質、又は対象タンパク質及び対象RNAが封入されたVLPである。対象タンパク質はCasファミリータンパク質であり、対象RNAはgRNAであってもよい。あるいは、VLPは、対象RNAが封入されたVLPであり、対象RNAは、siRNA、shRNA、miRNA、gRNA等であってもよい。
【実施例0134】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0135】
[実験方法]
(細胞培養)
ヒト胎児腎由来細胞株であるHEK293T細胞、レポーターコンストラクトであるEGxxFPを導入したHEK293T細胞(以下、「HEK293T EGxxFP細胞」という場合がある。)、ヒトDMD遺伝子のエクソン45の5’側(スプライシングアクセプター付近)を標的とするsgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)を恒常的に発現させたHEK293T EGxxFP細胞は、10%ウシ胎児血清、ペニシリン及びストレプトマイシンを含むDMEM培地で培養した。
【0136】
健常人由来iPS細胞(404C2株及び138D2株)は、iMatix511-E8でコートした培養皿上にて、StemFit AK03N培地(味の素ヘルシーサプライ株式会社)で培養した。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者由来iPS細胞は、iMatix511-E8でコートした培養皿上にて、StemFit AK03N培地で培養した。
【0137】
マウス横紋筋由来細胞株であるC2C12細胞は、15%ウシ胎児血清、0.1mM必須アミノ酸、100mMピルビン酸ナトリウム、100mM 2-メルカプトエタノール、ペニシリン及びストレプトマイシンを含むDMEM培地で培養した。
【0138】
C2C12細胞の分化誘導培地には、5%ウマ血清、0.1mM必須アミノ酸、100mMピルビン酸ナトリウム、100mM 2-メルカプトエタノール、0.5%ペニシリン及びストレプトマイシンを含むDMEM培地を用いた。
【0139】
(VLPの作製方法)
3×10個のHEK293T細胞を10cmプレートに播種した。続いて、翌日にlipofectamine 2000(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて、pHLS-EF1a-FKBP12-GagHIV(配列番号16)10μg、pHLS-EF1a-FRB-SpCas9-A(配列番号17)10μg、pL-sin-RGR-AmCyan-A(配列番号18)10μg、pcDNA3.1-TatHIV(配列番号19)2μg、pMD-VSVG(配列番号20)5μgをトランスフェクションした。なお、これらの各発現ベクターは、実験により適宜変更した。
【0140】
続いて、翌日に培地を300nMのAP21967(クロンテック社)を含む新しい培地10mLに交換した。続いて、トランスフェクションから36~48時間後に培養液上清を回収し、ポアサイズ0.45μmのシリンジフィルターで細胞の残骸を除去し、Avanti JXN-30遠心機(ベックマン・コールター社)を用いて100,000×gで3時間遠心し、VLPを濃縮した。
【0141】
続いて、VLPを含む沈殿を100μLのHBSS(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)に再懸濁し、1.5mLチューブに分注して-80℃で保存した。
【0142】
(VLPの細胞導入)
1ウェルあたり2.5×10~5.0×10個のHEK293T EGxxFP細胞を48ウェルプレートに播種した。続いて、翌日にVLP溶液を加え、その3日後にLSR3 Flow Cytometerを用いてEGFPの蛍光を解析した。
【0143】
(T7EIアッセイ)
MonoFas Genomic DNA Extraction kit(ジーエルサイエンス株式会社)を用いてプロトコル通りに培養細胞からゲノムDNAを回収した。続いて、ゲノムDNA 100ngと増幅領域に対するプライマー、及びPrimeSTAR GXL DNA Polymerase(タカラバイオ株式会社)を用いてPCRを行い、PCR産物をWizard SV Gel and PCR Clean-up System(プロメガ社)を用いて精製した。
【0144】
続いて、400ngのPCR産物をNEBuffer 2.1バッファー(NEB社)中で、95度、5分間熱変性後、ゆっくり温度を下げることで再アニーリングさせた。温度は、95℃から85℃まで-2℃/秒、85℃から25℃まで-0.1℃/秒で低下させた。続いて、10ユニットのT7エンドヌクレアーゼI(T7EI)酵素を加え、37℃で15分間反応させた。続いて、EDTAを6mMになるように加えて反応を停止させた。続いて、DS1000 High Sensitivity Screen TapeとTapeStation 2200(アジレントテクノロジーズ社)を用いて切断産物を解析した。
【0145】
[実験例1]
(VLPによるCas9送達の検討)
Gag-Pol又はGagを用いたVLPでCas9タンパク質を送達し、SSA-EGFPレポーター実験を行い、ゲノム編集効率を評価した。
【0146】
図1(a)はHIVのGag-Pol(以下、「WT Gag-PolHIV」という場合がある。)の構造を示す模式図である。図1(a)に示すように、Gag部分は、マトリックス(MA)、カプシド(CA、p24とも呼ばれる。)、ヌクレオカプシド(NC)、p6(トランスフレーム)から構成される。また、Polは、プロテアーゼ(PR)、逆転写酵素(RT)、RNase H(RN)、インテグラーゼ(IN)から構成される。
【0147】
図1(b)は、HIVのGag-PolのN末端にFKBP12ドメインを付加した融合タンパク質(以下、「FKBP12-Gag-PolHIV」という場合がある。)の構造を示す模式図である。FKBP12はFK506結合タンパク質である。
【0148】
図1(c)は、HIVのGagのN末端にFKBP12ドメインを付加した融合タンパク質(以下、「FKBP12-GagHIV」という場合がある。)の構造を示す模式図である。
【0149】
Polの一部であるプロテアーゼ(PR)は、もともとGag-Polタンパク質の特定部位(図1中、ハサミマークで示す。)を切断する活性を持つ。一方、PRを含むPolを削除したVLPでは、プロテアーゼターゲット配列は残るが、プロテアーゼが供給されないため、タンパク質切断は発生しない。
【0150】
図2は、SSA-EGFP(以下、「EGxxFP」という場合がある。)レポーター実験を説明する模式図である。細胞としては、ヒトDystrophin(DMD)遺伝子を標的とするsgRNAを恒常的に発現し、EGxxFPレポーターコンストラクト(配列番号21)がゲノムに挿入されたHEK293T細胞を使用した。EGxxFPレポーターコンストラクトは、前記sgRNAの標的配列を含む配列がEGFP cDNA配列中に挿入されていることにより、機能的なEGFPタンパク質が発現しないようにデザインされたコンストラクトである。
【0151】
図2に示すように、この細胞にCas9が封入されたVLPを導入すると、Cas9タンパク質と前記sgRNAの複合体(RNP複合体)が形成されて、前記挿入配列が切断される。続いて、切断されたEGFP cDNAは一本鎖アニーリング(Single Strand Annealing、SSA)により修復され、この結果、機能的なEGFPが発現して、EGFPの蛍光が観察できるようになる。この実験系では、細胞におけるEGFPの蛍光をフローサイトメーターで定量することにより、細胞集団中においてCas9タンパク質による標的遺伝子の切断効率(ゲノム編集効率)を評価することができる。
【0152】
まず、ダルナビル(Darunavir、HIVのプロテアーゼ阻害剤)の存在下又は非存在下で、HIV由来の野生型Gag-PolHIV又はFKBP12-Gag-PolHIVで構成され、FRBドメインを融合させたCas9タンパク質(以下、「FRB-Cas9タンパク質」という場合がある。)を封入したVLP(図1の(a)と(b))を作製した。なお、FKBP12ドメインとFRB(FKBP12-rapamycin associated protein1、FRAP1 fragment)ドメインは、ラパマイシン類似薬の存在下でヘテロダイマーを形成することが知られている。
【0153】
続いて、作製した各VLP(15μL)を、HEK293T EGxxFPレポーター細胞(5×10個、sgRNA発現有り)に導入した。続いて、3日後にフローサイトメーターでGFP陽性細胞の割合を解析した。
【0154】
図3は、フローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。図3中、縦軸はGFP陽性細胞の割合を示す。その結果、WT Gag-PolHIV VLPよりも、FKBP12-Gag-PolHIV VLPの方が、FRB-Cas9送達によるゲノム編集効率が高いことが明らかとなった(ダルナビル非添加群間の比較)。さらに、VLP作製時に細胞にHIVプロテアーゼ阻害剤であるダルナビルを添加すると、FKBP12-Gag-PolHIV VLPを導入した細胞において、ゲノム編集効率がより一層向上したことが明らかとなった(図3中、矢印は、ゲノム編集効率の向上を示す。)。
【0155】
続いて、上記の各VLP中のFKBP12-Gag-PolHIVと、HAタグを持つFRB-Cas9タンパク質をウエスタンブロッティングにより定量した。図4は、ウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。図4に示すように、VLP作製時に細胞にHIVプロテアーゼ阻害剤であるダルナビルを添加したものでは、ダルナビル非添加のものと比べて、FKBP12-Gag-PolHIV図4中の「p55+12」)とHAタグを持つFRB-Cas9タンパク質(図4中の「Full length」)の量が大幅に増加していた。一方、ダルナビル非添加のものでは、ダルナビル添加のものに比べて、より低分子の分子種(図4中の「p41+12」、「p24 Capsid」,「Cleaved 1,2」)が増加していた(ダルナビル+と-間での比較)。すなわち、ダルナビルを添加したものでは、Gagタンパク質の切断とCas9タンパク質の分解が抑制されることが明らかとなった。
【0156】
続いて、FKBP12-Gag-PolHIVからPol部分を削除したFKBP12-GagHIV図1の(c))を用いてFRB-Cas9タンパク質を封入したVLPを作製し、SSA-EGFPレポーター実験によりゲノム編集効率を検討した。図5は、フローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。図5中、縦軸はGFP陽性細胞の割合を示す。
【0157】
その結果、FKBP12-Gag-PolHIV VLPよりも、FKBP12-GagHIV VLPのほうが、FRB-Cas9送達によるゲノム編集効率が高いことが明らかとなった。
【0158】
これらの結果より、Gagタンパク質をPolまで含む形で発現させると、Pol中のプロテアーゼの作用により、Gagタンパク質だけでなくCas9タンパク質も分解されることも明らかとなった。よって、Gagタンパク質をPolまで含む形で発現させる方法で製造された従来のVLP(例として、非特許文献1)では、Polから発現するプロテアーゼによってCas9タンパク質が分解されるためにVLP内に保持されるCas9タンパク質量が少なく、それゆえ十分なレベルのゲノム切断効率が得られなかったと考えられる。
【0159】
[実験例2]
(FKBP12ドメイン結合箇所の検討1)
FRB-Cas9の送達のために、FKBP12ドメインをVLPのどこに局在させるのがよいか検討した。
【0160】
図6(a)は、FKBP12ドメインをVSV-G(水疱性口内炎ウイルスのエンベロープタンパク質)のC末端(細胞質内ドメイン側)に融合した、VSVG-FKPB12融合タンパク質の発現ベクター(pHLS-EF1a-VSVG-FKBP12)の構造、及び、VSVG-FKPB12融合タンパク質を含むVLPの構造を示す模式図である。VSV-Gは指向性(トロピズム)が広く、レンチウイルスやレトロウイルスのシュードタイプウイルス作製に一般に用いられるエンベロープタンパクであり、本開示に係るVLP外皮の主構成成分である。よって、このベクターから発現する前記融合タンパク質のFKPB12ドメイン部分は、VLPの外皮内側膜上に突き出た形で存在する(膜上局在)。
【0161】
図6(b)は、FKBP12ドメインをEGFPのN末端に融合したFKBP12-EGFP融合タンパク質の発現ベクターの構造、及び、FKBP12-EGFP融合タンパク質を含むVLPの構造を示す模式図である。このベクターから発現する前記融合タンパク質のFKPB12ドメイン部分は、VLPの内部に存在する(細胞質局在)。
【0162】
図6(c)は、FKBP12ドメインをGagHIVのN末端に融合した、N末端にミリストイル化シグナルを有するFKBP12-GagHIV融合タンパク質の発現ベクターの構造、及び、FKBP12-GagHIV融合タンパク質を含むVLPの構造を示す模式図である。このベクターから発現する前記融合タンパク質のFKPB12ドメイン部分は、VLPの外皮膜内側に結合した状態で存在する(膜内側局在)。
【0163】
まず、ラパマイシン類似薬であるAP21967の存在下又は非存在下で、VSVG-FKPB12融合タンパク質、FKBP12-EGFP融合タンパク質、FKBP12-GagHIV融合タンパク質をそれぞれ含み、FRB-Cas9を封入したVLPを作製した。
【0164】
続いて、各VLPに含まれるFRB-Cas9タンパク質量を定量した。具体的には、濃縮した各VLPをLysisバッファー(120nM HEPES、pH7.5、100mM KCl、5mM MgCl、1mM DTT、5%glycerol、0.1%Triton X-100、プロテアーゼ阻害剤)中で溶解し、プロテインシンプル社の全自動ウエスタンブロット装置Wesを用いて抗Cas9抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った。図7は、ウエスタンブロッティングの結果を示す画像である。
【0165】
その結果、図7中、矢印で示すように、VLPに封入されたCas9量は、FKPB12ドメインをVSV-G(膜上局在)やEGFP(細胞質局在)に結合させたVLPよりも、GagHIV(膜内側局在)と結合させたVLPで高いことが明らかとなった。
【0166】
続いて、VLPに含まれるCas9タンパク質量を検定するため、試験管内でのDNA切断活性を測定した。具体的には、濃縮した各VLPにLysisバッファーを添加し、氷上で10分間静置してVLPを溶解した。
【0167】
続いて、Cas9タンパク質を含むVLP溶解産物を、ジストロフィン標的配列を含んだDNA(700bp)、及び、試験管内転写(IVT)反応で作製した、ヒトDMD遺伝子のエクソン45の5’側(スプライシングアクセプター付近)を標的とするsgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)と共にバッファー(20mM HEPES、pH7.5、100mM KCl、5mM MgCl、1mM DTT、5%glycerol、0.5%BSA)中で混合し、37℃で1時間反応させた。反応後、sgRNAを除去するためにRNase Aを加えて37℃で30分間反応させた。さらに、タンパク質を除去するためにproteinase Kを加えて50℃で20分間反応させた。
【0168】
続いて、これらのサンプルを2200 TapeStation(high sensitivity D1000 TapeScreen、アジレント・テクノロジー社)を用いて電気泳動し、ジストロフィン標的配列を含んだDNAが切断された割合を測定した。
【0169】
図8は、電気泳動の結果を示す画像である。また、図9は、図8の結果を数値化したグラフである。その結果、FKBP12-GagHIVを含むVLPが最も切断活性が高く、更にFKBP12とFRBの2量体化を誘導するAP21967の添加により、Cas9のVLPへの封入効率が向上したことが明らかとなった。
【0170】
[実験例3]
(FKBP12ドメイン結合箇所の検討2)
FRB-Cas9の送達のために、FKBP12ドメインをVLPのどこに結合させるのがよいか検討した。
【0171】
sgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)を恒常的に発現させた、HEK293T EGxxFP細胞に実験例2と同様の各VLPを導入後、ゲノム上の標的DMD遺伝子の切断活性をT7EIアッセイで測定した。
【0172】
具体的には、まず、各VLPをsgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)を恒常的に発現させたHEK293T EGxxFP細胞に導入した。続いて、3日後に各細胞からゲノムDNAを抽出した。続いて、ゲノム上のDMD遺伝子の標的領域をPCRで増幅した。続いて、PCR産物をカラム精製し、得られたDNA 400ngを用いて、T7EIアッセイにより変異導入効率を測定した。
【0173】
図10は、T7EIアッセイの結果を示す画像である。また、図11は、図10の結果を数値化したグラフである。また、図12は、本実験例の各細胞における、EGxxFPレポーターコンストラクトからのGFP陽性細胞の割合をフローサイトメーターによって解析した結果を示すグラフである。
【0174】
その結果、FKBP12-GagHIVを含むVLPが最も切断活性が高く、更にFKBP12とFRBの2量体化を誘導するAP21967の添加により、Cas9のVLPへの封入効率が向上したことが明らかとなった。
【0175】
[実験例4]
(VLPへのCas9タンパク質の封入効率の検討1)
MLV(Murine Leukemia Virus)由来Gagを用いてCas9タンパク質を封入したVLP(以下、「FKBP12-GagMLV VLP」という場合がある。)及びHIV由来Gagを用いてCas9タンパク質を封入したVLP(以下、「FKBP12-GagHIV VLP」という場合がある。)を作製し、Cas9タンパク質の送達効率を検討した。
【0176】
具体的には、sgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)を恒常的に発現させた、HEK293T EGxxFP細胞(2.5×10個)に、10μLの各VLPを接種した。対照として、VLPを接種しなかった細胞を用意した。続いて、3日後に各細胞サンプルのEGxxFPレポーターコンストラクトの蛍光をフローサイトメーターによって解析した。
【0177】
図13(a)~(c)は、フローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。図13(a)は対照細胞の結果であり、図13(b)はFKBP12-GagMLV VLPを接種した結果であり、図13(c)はFKBP12-GagHIV VLPを接種した結果である。その結果、FKBP12-GagMLV VLPよりもFKBP12-GagHIV VLPの方がCas9タンパク質の送達効率が高いことが明らかとなった。
【0178】
[実験例5]
(VLPへのCas9タンパク質の封入効率の検討2)
AP21967の存在下又は非存在下で、FRBドメインをN末端に結合させたCas9、FRBドメインをC末端に結合させたCas9、及び、FRBドメインをN末端とC末端の両方に結合させたCas9をそれぞれ含むVLPを作製し、VLPへのCas9タンパク質の封入効率を検討した。
【0179】
AP21967はFRBドメインの2098残基目のスレオニンをロイシンに置換したFRB(T2098L)に特異的に結合することが知られている。このため、FRBとしてはFRB(T2098L)を使用した。
【0180】
具体的には、sgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)を恒常的に発現させた、HEK293T EGxxFP細胞(2.5×10個)に、150ngのp24量相当の各VLPを接種した。続いて、3日後に各細胞サンプルのEGxxFPレポーターコンストラクトの蛍光をフローサイトメーターによって解析した。
【0181】
図14は、フローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。図14中、縦軸はGFP陽性細胞の割合を示す。その結果、いずれのVLPにおいてもAP21967依存的なCas9タンパク質の送達が認められた。また、Cas9タンパク質のN末端にFRBドメインを結合させた場合が最もCas9タンパク質の送達効率が高いことが明らかとなった。
【0182】
[実験例6]
(VLPへのCas9タンパク質の封入効率の検討3)
FKBP12ドメインとFRBドメインの結合を介してCas9タンパク質をVLPに封入した場合と、Cas9タンパク質をGagに直接融合させてVLPに封入した場合でVLPへのCas9タンパク質の封入効率を検討した。
【0183】
図15(a)は、FRBドメインとCas9タンパク質との融合タンパク質の構造、及び、FKBP12ドメインとGagHIVとの融合タンパク質の構造を示す模式図である。この場合、AP21967を介した2量体化によりCas9タンパク質がVLPに封入される。
【0184】
また、図15(b)は、GagMLVとCas9タンパク質との融合タンパク質の構造、及び、GAG-PolMLVの構造を示す模式図である。この場合、VLP粒子形成を促進するために、Gag-PolMLVを追加した。
【0185】
また、図15(c)は、Cas9タンパク質とGag-PolHIVとの融合タンパク質の構造、及び、GAG-PolHIVの構造を示す模式図である。この場合、VLP粒子形成を促進するために、Gag-PolHIVを追加した。
【0186】
具体的には、sgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)を恒常的に発現させた、HEK293T EGxxFP細胞に、各VLPを接種した。続いて、3日後に各細胞サンプルのEGxxFPレポーターコンストラクトの蛍光をフローサイトメーターによって解析した。
【0187】
図15(d)はフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。図15(d)中、縦軸はGFP陽性細胞の割合を示す。その結果、Cas9タンパク質を直接GagやGag-Polに融合して作製したVLPよりも、FKBP12ドメインとFRBドメインの結合を利用して作製したVLPの方がCas9タンパク質の送達効率が高いことが明らかとなった。
【0188】
[実験例7]
(AP21967の濃度の検討)
ヘテロ2量化リガンドである、AP21967の濃度を0、3、30、300nMに変化させてVLPを作製した。続いて、sgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)を恒常的に発現させた、HEK293T EGxxFP細胞(5×10個)に、各VLPを接種した。続いて、3日後に各細胞サンプルのEGxxFPレポーターコンストラクトの蛍光をフローサイトメーターによって解析した。
【0189】
図16図17はフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。図16図17中、縦軸はGFP陽性細胞の割合を示す。その結果、VLP作製時のAP21967の濃度依存的にゲノム編集効率が向上する蛍光が認められた。また、AP21967存在下で作製したVLPは、VLPの接種量依存的にCas9を送達してゲノム編集を誘導することができることが明らかとなった。
【0190】
[実験例8]
(FRBドメインの検討)
AP21967は2098残基目のスレオニンをロイシンに置換したFRBドメイン(T2098L)に特異的に結合することが知られている。一方、2098残基目のスレオニンをアラニンに置換したFRBドメイン(T2098A)はAP21967との結合能を失うことが知られている。
【0191】
そこで、各FRBドメインを含むCas9を用いてVLPを作製し、ゲノム編集効率を測定した。具体的には、sgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)を標的とするsgRNAを恒常的に発現させた、HEK293T EGxxFP細胞に、各VLPを接種した。続いて、3日後に各細胞サンプルのEGxxFPレポーターコンストラクトの蛍光をフローサイトメーターによって解析した。
【0192】
図18(a)~(c)は、フローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。図18(a)~(c)中、縦軸はGFP陽性細胞の割合を示す。また、「+」はAP21967の存在下でVLPを作製した結果であることを示し、「-」はAP21967の非存在下でVLPを作製した結果であることを示す。
【0193】
その結果、FRBドメイン(T2098A)変異体と結合したCas9タンパク質を含むVLPでは、AP21967依存的なCas9送達が阻害されることが明らかとなった。この結果は、Cas9タンパク質の効率的な送達のためには、FRBドメイン(T2098L)を介したCas9タンパク質とGagとの2量体化が必要であることを更に支持するものである。
【0194】
[実験例9]
(FRB-Cas9タンパク質の局在の検討)
FRB-Cas9タンパク質の細胞内における局在を検討した。具体的には、FRB-SpCas9(核移行シグナル付き)に、蛍光タンパク質であるmCherryを結合させた融合タンパク質を含むVLPを作製した。続いて、濃縮したVLP(8μL)を48ウェルプレート上のHEK293T細胞(5×10個)に接種し、接種20時間後にKeyence BX-700顕微鏡の20倍対物レンズを用いてmCherryの蛍光を解析した。
【0195】
図19は、解析結果を示す蛍光顕微鏡写真である。図19中、「DAPI」は4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドールで核を染色した結果であることを示し、「mCherry」は、mCherryの蛍光を検出した結果であることを示し、「Merge」はDAPIの蛍光とmCherryの蛍光をマージした結果であることを示す。その結果、FRB-Cas9タンパク質は核に局在することが確認された。図19中、矢印は核に局在したmCherryの蛍光を示す。
【0196】
[実験例10]
(sgRNAのVLPへの封入方法の検討1)
図20(a)~(c)は、sgRNAの発現方法による、VLP生産細胞(HEK293T)におけるsgRNAの動態を説明する模式図である。
【0197】
図20(a)は、ポリメラーゼIIIプロモーターを用いてsgRNAを転写した場合を示す模式図である。sgRNAは100塩基程度の短いRNAであるため、多くの場合、U6やH1プロモーター等のポリメラーゼIIIプロモーターを用いて転写される。しかしながら、この場合、図20(a)に示すように、sgRNAが主に核内に集積することが報告されている。
【0198】
図20(b)は、ポリメラーゼIIプロモーターを用いてmRNAを転写した場合を示す模式図である。sgRNAの前後に自己切断配列であるリボザイム(ハンマーヘッド(HH)リボザイム及びhepatitis delta virus(HDV)リボザイム)を付加することにより、本来のsgRNAより長いmRNAとしてポリメラーゼIIプロモーター(LTRプロモーター、EF1αプロモーター等)から転写することが可能である。この場合、図20(b)に示すように、mRNAは細胞質に分布する。
【0199】
図20(c)は、本実験例で検討した、sgRNAのVLPへの封入方法を説明する模式図である。本実験例では、mRNAとして転写されるsgRNAを、より効率的にVLPに封入させるために、mRNAにHIV由来のパッケージングシグナル(Ψ)を付加することを検討した。パッケージングシグナル(Ψ)は、MLVやHIV等のレトロウイルスやレンチウイルスが、自身のゲノムmRNAをウイルス粒子に取り込ませるために備えている配列である。
【0200】
Gagタンパク質とパッケージングシグナルが結合することにより、ウイルス粒子中にウイルスゲノムmRNAが取り込まれることが知られている。発明者らは、この機構をsgRNAのVLPへの封入に応用することを検討した。
【0201】
なお、パッケージングシグナル配列はGagの頭の部分までも含めたExtendedパッケージングシグナル(Ψ+)の方がウイルス粒子中への取り込み効率が高いことが知られている。本実験例においてもΨ+配列を用いた。なお、この部分のGagにおける開始コドンには変異が入れてあり、タンパク質は翻訳されないようになっている。
【0202】
本実験例では、まず、U6プロモーターからsgRNAを転写させた場合(図21(a)及び(b)中、「U6」と示す。)、LTRプロモーターから、Ψ+を含むmRNAとしてsgRNAが転写されるが、リボザイム配列を含まない場合(図21(a)及び(b)中、「LTR-Ψ n.r.」と示す。)、EF1αプロモーターからΨ+とリボザイム配列を持つsgRNAが転写される場合(図21(a)及び(b)中、「EF1a」と示す。)、HIV LTRプロモーターを活性化するTatタンパク質の存在下(図21(a)及び(b)中、「LTR-Ψ +Tat」と示す。)又は非存在下(図21(a)及び(b)中、「LTR-Ψ -Tat」と示す。)において、Ψ+とリボザイム配列を持つsgRNAが転写される場合について、FRB-Cas9の存在下でそれぞれVLPを作製した。続いて、VLP生産細胞のゲノムDNAを回収し、DMD遺伝子の標的塩基配列をT7EIアッセイで解析し、ゲノム編集効率を検証した。
【0203】
図21(a)は、VLP生産細胞におけるT7EIアッセイの結果を示すグラフである。その結果、U6プロモーターが最も活性型sgRNAを多く転写できることが明らかとなった。また、ポリメラーゼIIプロモーター(LTR又はEF1α)からmRNAとして転写させた場合、リボザイム配列を持っていればsgRNAとして切り出され、ゲノム編集を誘導できることが明らかとなった。
【0204】
続いて、作製した各VLP 1、3及び10μLを、HEK293T EGxxFPレポーター細胞(5×10個)にそれぞれ導入した。続いて、3日後にフローサイトメーターでGFP陽性細胞の割合を解析した。
【0205】
図21(b)は、フローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。図21(b)中、縦軸はGFP陽性細胞の割合を示す。その結果、VLP生産細胞で高いゲノム編集活性を示したU6プロモーターでは、VLPへのsgRNAの封入効率が低く、ゲノム編集活性が高くない結果となった。
【0206】
一方、Tatタンパク質存在下において、LTRプロモーターからΨ+とリボザイム配列を持つsgRNAを転写させた場合(図21(b)中、「LTR-Ψ +Tat」と示す。)、VLPを介したsgRNAの送達効率が最も高いことが明らかとなった。
【0207】
[実験例11]
(sgRNAのVLPへの封入方法の検討2)
HIV Revタンパク質は、RNA上のRRE(Rev responsive element)配列に結合し、PREを持つウイルスRNAを細胞質に輸送することが知られている。そして、ほとんどのレンチウイルスベクターにはRRE配列が組み込まれている。実験例10で使用したsgRNAの発現ベクターにもRRE配列が含まれていたため、Revタンパク質の必要性を検討した。
【0208】
具体的には、Revタンパク質の存在下又は非存在下、RRE配列の存在下又は非存在下において、それぞれVLPを生産し、ゲノム編集効率を検討した。図22(a)は、RRE配列を含むsgRNAの発現ベクター(配列番号22)の構造を示す模式図である。また、図22(b)は、図22(a)に示す発現ベクターからPRE配列を除去した発現ベクター(配列番号23)の構造を示す模式図である。
【0209】
sgRNAはHIV LTRプロモーターより転写されており、HIV LTRプロモーターの活性化のためにはHIVのTatタンパク質が必要である。そこで、Tatタンパク質の存在下又は非存在下、Revタンパク質の存在下又は非存在下で、図22(a)に示す発現ベクターからsgRNAを転写させてVLPを作製し、作製した各VLPによるゲノム編集効率を解析した。
【0210】
具体的には、各VLPをHEK293T EGxxFPレポーター細胞にそれぞれ導入し、3日後にフローサイトメーターでGFP陽性細胞の割合を解析した。図22(c)~(f)は、フローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。図22(c)~(f)中、「-Tat」はTatタンパク質の非存在下でVLPを作製した結果であることを示し、「+Tat」はTatタンパク質の存在下でVLPを作製した結果であることを示し、「-Rev」はRevタンパク質の非存在下でVLPを作製した結果であることを示し、「+Rev」はRevタンパク質の存在下でVLPを作製した結果であることを示す。その結果、Tatタンパク質の存在下で高いゲノム編集効率が観察された。また、Revタンパク質の存在下と非存在下でゲノム編集効率は同程度であった。
【0211】
また、Tatタンパク質の存在下又は非存在下で、図22(b)に示す発現ベクターからsgRNAを転写させてVLPを作製し、作製した各VLPによるゲノム編集効率を解析した。具体的には、各VLPをHEK293T EGxxFPレポーター細胞にそれぞれ導入し、3日後にフローサイトメーターでGFP陽性細胞の割合を解析した。
【0212】
図22(g)及び(h)は、フローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。図22(g)及び(h)中、「-Tat」はTatタンパク質の非存在下でVLPを作製した結果であることを示し、「+Tat」はTatタンパク質の存在下でVLPを作製した結果であることを示し、「-PRE」はPRE配列を除去した発現ベクターでVLPを作製した結果であることを示す。その結果、PRE配列が存在しなくても高いゲノム編集効率が得られることが明らかとなった。
【0213】
以上の結果から、sgRNAの発現ベクターにはRRE配列が不要であり、Revタンパク質も不要であることが明らかとなった。
【0214】
[実験例12]
(sgRNAのVLPへの封入方法の検討3)
上述したように、sgRNAはHIV LTRプロモーターより転写されており、HIV LTRプロモーターの活性化のためにはHIVのTatタンパク質が必要である。そこで、VLP生産細胞においてTatタンパク質の存在下及び非存在下で、VLP産生細胞におけるsgRNAの発現量をリアルタイムPCRにより定量した。また、VLP中のsgRNAの量も同様にして定量した。
【0215】
図23はリアルタイムPCRの結果を示すグラフである。図23中、縦軸はsgRNAの発現量(相対値)を示し、「+」は存在下であることを示し、「-」は非存在下であることを示し、「ND」は検出限界以下であったことを示す。
【0216】
その結果、VLP生産細胞においてTatタンパク質を共発現させることにより、sgRNAの発現量及びVLPへのsgRNAの封入量を増加させることができることが明らかとなった。
【0217】
[実験例13]
(sgRNAのVLPへの封入方法の検討4)
sgRNA発現ベクターにおけるパッケージングシグナル(Ψ+)の効果を検討した。具体的には、Ψ+を有するsgRNA発現ベクター又はΨ+を削除したsgRNA発現ベクターを用いてVLPを作製した。
【0218】
続いて、各VLPをHEK293T EGxxFPレポーター細胞にそれぞれ導入し、3日後にフローサイトメーターでGFP陽性細胞の割合を解析した。図24(a)~(c)は、フローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。図24(a)はVLPを接種しなかった対照の結果であり、図24(b)はΨ+を削除したsgRNA発現ベクターを用いて作製したVLPの結果であり、図24(c)はΨ+を有するsgRNA発現ベクターを用いて作製したVLPの結果である。
【0219】
その結果、sgRNA発現ベクターからΨ+を削除すると、VLPを介したsgRNAの送達効率が減少したことが明らかとなった。この結果は、sgRNAの封入効率を高めるためには、パッケージングシグナルが重要であることを示す。
【0220】
[実験例14]
(sgRNA発現ベクターにおけるsgRNAのコピー数の検討)
EF1αプロモーターの制御下で、リボザイムで挟まれたsgRNA(以下、「RGR」という場合がある。)を発現するベクターにおいて、sgRNAカセットを1コピーから4コピーまで増加させ、ゲノム編集効率を検討した。
【0221】
具体的には、各VLPをHEK293T EGxxFPレポーター細胞にそれぞれ導入し、3日後にフローサイトメーターでGFP陽性細胞の割合を解析した。図25は、フローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。図25中、EF1αプロモーターの制御下において、(i)はsgRNAカセットを1コピー有するsgRNA発現ベクターの構造を示す模式図であり、(ii)はsgRNAカセットを2コピー有するsgRNA発現ベクターの構造を示す模式図であり、(iii)はsgRNAカセットを3コピー有するsgRNA発現ベクターの構造を示す模式図であり、(iv)はsgRNAカセットを4コピー有するsgRNA発現ベクターの構造を示す模式図である。
【0222】
その結果、EF1αプロモーターの制御下において、sgRNA発現ベクターに最大4コピーまでのsgRNAを含めた場合においてもVLPを生産でき、sgRNAを送達してゲノム編集を誘導することができることが明らかとなった。
【0223】
続いて、LTRプロモーターの制御下で、リボザイムで挟まれたsgRNA(以下、「RGR」という場合がある。)を発現するベクターにおいて、sgRNAカセットを1コピーから4コピーまで増加させ、ゲノム編集効率を検討した。
【0224】
具体的には、各VLPをHEK293T EGxxFPレポーター細胞にそれぞれ導入し、3日後にフローサイトメーターでGFP陽性細胞の割合を解析した。図26は、フローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。図26中、(i)はsgRNAカセットを1コピー有するsgRNA発現ベクターの構造を示す模式図であり、(ii)はsgRNAカセットを2コピー有するsgRNA発現ベクターの構造を示す模式図であり、(iii)はsgRNAカセットを3コピー有するsgRNA発現ベクターの構造を示す模式図であり、(iv)はsgRNAカセットを4コピー有するsgRNA発現ベクターの構造を示す模式図である。
【0225】
その結果、LTRプロモーターの制御下において、sgRNA発現ベクターに最大4コピーまでのsgRNAを含めた場合においてもVLPを生産でき、sgRNAを送達してゲノム編集を誘導することができることが明らかとなった。
【0226】
[実験例15]
(VLPによるCas9タンパク質及びsgRNAの同時送達1)
FRB-Cas9タンパク質及びsgRNA(RGR)を同時に封入したVLPを作製した。続いて、作製したVLPをHEK293T EGxxFPレポーター細胞に導入し、3日後にフローサイトメーターでGFP陽性細胞の割合を解析した。図27は、フローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。その結果、VLPの用量依存的に非常に高い効率でゲノム編集活性が観察された。
【0227】
[実験例16]
(VLPによるCas9タンパク質及びsgRNAの同時送達2)
FRB-Cas9タンパク質及びsgRNA(RGR)を同時に封入したVLPを作製した。続いて、作製したVLP 1.25、2.5、5、10、20μLを導入したヒトiPS細胞(404C2株)に導入した。続いて、3日後にゲノムDNAを回収し、標的塩基配列であるDMD遺伝子領域をPCRで増幅し、T7EIアッセイによりゲノム編集効率を検討した。図28は、T7EIアッセイの結果を示す画像である。その結果、VLPの用量依存的に、非常に高い効率でゲノム編集活性が観察された。
【0228】
[実験例17]
(既存システムとの比較)
エキソソーム様小胞(Gesicle)を用いてCas9タンパク質/sgRNA RNP複合体を送達するシステム(Gesicleシステム、クロンテック社)と、VLPを用いたシステムとの比較を行った。
【0229】
Gesicleシステムは、Cas9タンパク質/sgRNA RNP複合体と赤色蛍光タンパク質CherryPickerがGesicleの中で会合し、Gesicle内に効率よく封入されるシステムである。赤色蛍光タンパク質CherryPickerとは、赤色蛍光タンパク質mCherryとトランスフェリンレセプター膜アンカードメインの融合タンパク質である。
【0230】
本実験例では、まず、VSV-GだけでVLPを作製し、Cas9タンパク質及びsgRNAを自由拡散によって封入したVLP(図29中、「VSVG Only VLP」と示す。)、Gesicleシステム(クロンテック社、図29中、「Clontech Gesicle System」と示す。)、FRB-Cas9タンパク質及びΨ+を有するsgRNA発現ベクターから発現させたsgRNAを封入したFKBP12-GagHIV VLP(図29中、「FKBP12-GagHIV VLP」と示す。)をそれぞれ作製した。
【0231】
続いて、各VLP又はGesicle 5μLをHEK293T EGxxFPレポーター細胞(2.5×10個)に接種し、72時後に蛍光顕微鏡及びフローサイトメトリーにより解析した。
【0232】
図29(a)~(c)は、GFPの蛍光を観察した蛍光顕微鏡写真である。また、図29(d)は、フローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。図29(d)中、縦軸はGFP陽性細胞の割合を示す。その結果、FKBP12-GagHIV VLPが、他のVLP又はGesicleと比較して、顕著に高いゲノム編集効率を示すことが明らかとなった。
【0233】
[実験例18]
(VLPによるCas9タンパク質及びsgRNAの同時送達3)
様々なVLPでCas9タンパク質及びsgRNAを同時に送達し、ゲノム編集効率を検討した。
【0234】
具体的には、まず、次の(a)~(e)のVLPを作製した。(a)VSV-GだけでVLPを作製し、Cas9タンパク質及びsgRNAを自由拡散によって封入したVLP(図30中、「VSVG Only VLP」と示す。)。(b)Cas9タンパク質のC末端にGag-MLVを直接融合して封入したVLP(図30中、「Cas9-Gag-PolHIV Fusion VLP」と示す。)。VLP粒子形成を促進するために、Gag-PolHIVを追加した。(c)Cas9タンパク質のN末端にGagMLVを直接融合して封入したVLP(図30中、「GagMLV-Cas9 Fusion VLP」と示す。)。VLP粒子形成を促進するために、Gag-PolMLVを追加した。(d)Cas9をFRBと融合し、また、GagMLVにFKBP12を融合することで、AP21967を介した2量体化によりCas9を封入したVLP(図30中、「FKBP12-GagMLV Fusion VLP」と示す。)。(e)Cas9をFRBと融合し、GagHIVにFKBP12を融合することで、AP21967を介した2量体化によりCas9を封入したVLP(図30中、「FKBP12-GagHIV Fusion VLP」と示す。)。
【0235】
続いて、作製した各VLPをHEK293T EGxxFPレポーター細胞に導入し、3日後にフローサイトメーターでGFP陽性細胞の割合を解析した。図30(a)~(e)は、フローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。図30(a)~(e)は、それぞれ上述した(a)~(e)のVLPを細胞に導入した結果である。また、図31は、図30(a)~(e)の結果を数値化したグラフである。図31中、縦軸はGFP陽性細胞の割合を示す。その結果、FKBP12-GagHIV Fusion VLPとFKBP12-GagMLV Fusion VLPで非常に高い効率でゲノム編集活性が観察された。
【0236】
[実験例19]
(2種類のsgRNAのVLP送達の検討1)
2種類のsgRNAをVLPで細胞に送達する場合、別々のsgRNAを封入した2種類のVLPを共導入する方法と、2種類のsgRNAを封入した1種類のVLPを導入する方法が想定される。図32(a)及び(b)は、これらの方法を説明する模式図である。図32(a)は、別々のsgRNAを封入した2種類のVLPを共導入する方法を説明する模式図である。また、図32(b)は、2種類のsgRNAを封入した1種類のVLPを導入する方法を説明する模式図である。本実験例では、これらの2つの方法で2種類のsgRNAを細胞に送達する検討を行った。
【0237】
まず、Cas9及びヒトDMD遺伝子のエクソン45の5’側(スプライシングアクセプター付近)を標的とするsgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)を封入したVLP(以下、「DMD1 VLP」という場合がある。)と、Cas9及び3’側(スプライシングドナー付近)を標的とするsgRNA DMD#23(標的配列を配列番号24に示す。)を封入したVLP(以下、「DMD23 VLP」という場合がある。)の2種類のVLPを作製した。
【0238】
続いて、これらのVLP 10μLずつを単独で又は混合して、2.5×10個ずつ12ウェルプレートに播種した4種類の標的iPS細胞に導入した。標的iPS細胞として、健常者由来iPS細胞株である404C2株及び1383D2株、エクソン44欠損DMD患者由来のiPS細胞(以下、「ΔEx44 iPS Cells」という場合がある。)、エクソン46~47欠損DMD患者由来iPS細胞(以下、「ΔEx46~47 iPS Cells」という場合がある。)を用いた。続いて、各iPS細胞からゲノムDNAをそれぞれ抽出し、各標的部位におけるゲノム編集効率をT7EIアッセイにて計測した。
【0239】
図33(a)及び(b)は、T7EIアッセイの結果を示すグラフである。図33(a)はsgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)の標的部位におけるゲノム編集効率を示すグラフであり、図33(b)はsgRNA DMD#23(標的配列を配列番号24に示す。)の標的部位におけるゲノム編集効率を示すグラフである。
【0240】
その結果、iPS細胞株ごとにゲノム編集効率の違いは見られたが、sgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)を封入したVLPと、sgRNA DMD#23(標的配列を配列番号24に示す。)を封入したVLPを共導入しても、単独VLPの場合と同等のゲノム編集効率が確認できた。
【0241】
[実験例20]
(2種類のsgRNAのVLP送達の検討2)
実験例19と同様にして作製した、Cas9及びsgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)を封入したVLPと、Cas9及びsgRNA DMD#23(標的配列を配列番号24に示す。)を封入したVLP 10μLずつを単独で又は混合して、2.5×10個ずつ12ウェルプレートに播種した2種類の標的iPS細胞に導入した。標的iPS細胞として、健常者由来iPS細胞株である404C2株及び1383D2株を用いた。続いて、各iPS細胞からゲノムDNAをそれぞれ抽出し、双方のsgRNAの標的部位を含む300塩基の領域をPCRで増幅し、電気泳動システム(2200 TapeStation、アジレント・テクノロジー社)を用いた解析を行った。
【0242】
図34は、電気泳動の結果を示す画像である。その結果、2種類のVLPを共導入することにより、両者の標的部位間のゲノム配列を切り取る約150塩基の大きな欠損を誘導することができたことが確認された。
【0243】
この方法は、例えばアウトオブフレーム変異により正常ジストロフィンタンパク質が発現できない場合に、特定の単独又は複数のエクソンを削除することによりエクソンスキッピングを誘導し、タンパク質の読み枠を回復させることにも応用することができる。
【0244】
[実験例21]
(2種類のsgRNAのVLP送達の検討3)
sgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)及びsgRNA DMD#23(標的配列を配列番号24に示す。)を1つの発現ベクターにタンデムに搭載し、1種類のVLP中にCas9及び2種類のsgRNAを同時に封入したVLP(以下、「Tandem1/23」という場合がある。)を作製した。
【0245】
続いて、作製したVLPを、DMD患者由来のiPS細胞に導入した。DMD患者由来のiPS細胞として、エクソン44欠損DMD患者由来のiPS細胞(以下、「ΔEx44 iPS Cells」という場合がある。)、及び、エクソン46~47欠損DMD患者由来iPS細胞(以下、「ΔEx46~47 iPS Cells」という場合がある。)を用いた。
【0246】
また、比較のために、実験例19と同様にして作製した、Cas9及びsgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)を封入したVLPと、Cas9及びsgRNA DMD#23(標的配列を配列番号24に示す。)を封入したVLPを混合して導入した細胞も用意した。
【0247】
続いて、各iPS細胞からゲノムDNAをそれぞれ抽出し、双方のsgRNAの標的部位を含む300塩基の領域をPCRで増幅し、電気泳動システム(2200 TapeStation、アジレント・テクノロジー社)を用いた解析を行った。
【0248】
図35は、電気泳動の結果を示す画像である。その結果、2種類のsgRNAを同時に封入したVLPを用いた場合においても、両者の標的部位間のゲノム配列を切り取る約150塩基の大きな欠損を誘導することができたことが確認された。
【0249】
[実験例22]
(VLPを用いる方法と他の方法との比較1)
HEK293T EGxxFP細胞に、VLPを用いる方法及び他の方法により、Cas9及びsgRNAを導入した。続いて、3日後に各細胞サンプルのEGxxFPレポーターコンストラクトの蛍光をフローサイトメーターによって解析した。
【0250】
具体的には、次の(a)~(d)の方法により、Cas9及びsgRNAを導入した。(a)対照として、Cas9及びsgRNAのいずれも導入しない細胞を用意した。(b)Cas9発現プラスミド0.5μg及びsgRNA発現プラスミド0.5μgを、リポフェクション試薬(FuGENE 6又はFuGENE HD、プロメガ社)によりHEK293T EGxxFP細胞に導入した(図36中、「Plasmid DNA Transfection」と示す。)。(c)精製Cas9タンパク質(1μg)とsgRNA(0.25μg)を混合して複合体(リボヌクレオタンパク質、RNP)を形成し、リポフェクション試薬(CRISPR-MAX、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)によりHEK293T EGxxFP細胞に導入した(図36中、「RNP transfection」と示す。)。(d)VLP(50μL)を用いてSpCas9及びsgRNAをHEK293T EGxxFP細胞に導入した(図36中、「VLP」と示す。)。
【0251】
図36(a)~(d)は、フローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。図36(a)~(d)は、それぞれ上述した(a)~(d)の細胞を解析した結果である。HEK293T細胞はもともと遺伝子導入効率が高い細胞であり、プラスミドDNA導入やRNP導入により十分高効率でゲノム編集が可能であるが、VLPにより、これらの既存の方法と同等以上のゲノム編集活性を示すことが明らかとなった。
【0252】
[実験例23]
(VLPを用いる方法と他の方法との比較2)
ヒトiPS細胞株である404C2細胞に、VLPを用いる方法及び他の方法により、Cas9及びsgRNAを導入した。続いて、2日後に、T7EIアッセイにより、sgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)の標的部位である、ヒトDMD遺伝子のエクソン45の5’側(スプライシングアクセプター付近)の領域のゲノム編集効率を検討した。
【0253】
具体的には、次の(a)~(f)の方法により、Cas9及びsgRNAを導入した。(a)Cas9及びsgRNAのいずれも導入せず、T7EIアッセイにおいてT7エンドヌクレアーゼI(T7EI)を添加しなかった(図37中、「No Transfection,-T7EI」と示す。)。(b)Cas9及びsgRNAのいずれも導入せず、T7EIアッセイにおいてT7EIを添加した(図37中、「No Transfection,+T7EI」と示す。)。(c)Cas9発現プラスミド0.5μg及びsgRNA発現プラスミド0.5μgを、リポフェクション試薬(FuGENE 6又はFuGENE HD、プロメガ社)により404C2細胞に導入した(図37中、「DNA Transfection,+T7EI」と示す。)。(d)精製Cas9タンパク質(1μg)とsgRNA(0.125μg)を混合して複合体(リボヌクレオタンパク質、RNP)を形成し、リポフェクション試薬(CRISPR-MAX、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)により404C2細胞に導入した(図37中、「RNP Transfection,+T7EI」と示す。)。(e)VLP(80μL)を用いてSpCas9及びsgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)を404C2細胞に導入した(図37中、「DMD1 VLP,+T7EI」と示す。)。(f)VLP(80μL)を用いてSpCas9及びsgRNA DMD#23(標的配列を配列番号24に示す。)を404C2細胞に導入した(図37中、「DMD23 VLP,+T7EI」と示す。)。
【0254】
図37は、電気泳動の結果を示す画像である。ヒトiPS細胞は、FuGENE試薬を用いたリポフェクションによるプラスミドDNA導入は困難であり、RNP導入によりゲノム編集誘導が可能であるが、VLPにより、RNP導入と同等のゲノム編集活性を示すことが明らかとなった。
【0255】
[実験例24]
(筋細胞へのVLP導入による効率的なゲノム編集1)
VLPを用いてマウス筋芽細胞株C2C12にゲノム編集を誘導する検討を行った。具体的には、まず、EGxxFPレポーターコンストラクトを導入したマウス筋芽細胞株C2C12を、コラーゲンIコートした12ウェルプレートに2.5×10個/ウェルで播種した。
【0256】
続いて、細胞に、FRB-Cas9及びsgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)を封入したVLP 0、1、3、10、30μLを接種した。続いて、3日後にフローサイトメーターでGFP陽性細胞の割合を解析した。
【0257】
図38は、フローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。図38中、縦軸は細胞数を示し、横軸はGFPの蛍光強度を示す。また、グラフの右側にGFP陽性細胞の割合を示す。その結果、VLPの接種量依存的に非常に高い効率でゲノム編集が誘導されたことが明らかとなった。
【0258】
[実験例25]
(筋細胞へのVLP導入による効率的なゲノム編集2)
マウス筋芽細胞株C2C12を筋繊維に分化誘導させた後に、VLPを用いてゲノム編集を誘導する検討を行った。具体的には、まず、EGxxFPレポーターコンストラクトを導入したマウス筋芽細胞株C2C12を、コラーゲンIコートした12ウェルプレートに2.5×10個/ウェルで播種した。
【0259】
続いて、培地を分化誘導培地(DMEM、5%ウマ血清、100mMピルビン酸ナトリウム、100mM 2メルカプトエタノール、ペニシリン&ストレプトマイシン)に交換し、4日間かけて筋繊維に分化誘導した。
【0260】
続いて、20μLのVLPを接種した。VLPとして、Cas9及びsgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)を封入したVLP(以下、「DMD1 VLP」という場合がある。)又はCas9及びsgRNA DMD#23(標的配列を配列番号24に示す。)を封入したVLP(以下、「DMD23 VLP」という場合がある。)を接種した。続いて、接種4日後に、EGxxFPレポーターコンストラクトの蛍光を蛍光顕微鏡(キーエンス社)又はフローサイトメトリーで解析した。
【0261】
図39(a)は、本実験例で使用したEGxxFPレポーターコンストラクトの構造を説明する模式図である。図39(a)に示すように、EGxxFPレポーターコンストラクトは、sgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)の標的配列だけを持ち、sgRNA DMD#23(標的配列を配列番号24に示す。)の標的配列は持たない。このため、DMD1 VLPを接種した場合にのみ、EGxxFPレポーターコンストラクトの切断が誘導される。
【0262】
図39(b)は、蛍光顕微鏡による観察結果を示す写真である。図39(b)中、「Bright Field」は明視野(位相差)観察画像であることを示し、「GFP Field」はGFPの蛍光検出画像であることを示す。その結果、DMD1 VLPを導入した場合にのみ、EGxxFPレポーターコンストラクトにおけるゲノム編集が誘導され、GFPの蛍光が観察されたことが明らかとなった。
【0263】
図39(c)はフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。図39(c)中、縦軸はGFP陽性細胞の割合を示す。その結果、DMD1 VLPを導入した場合にのみ、EGxxFPレポーターコンストラクトにおけるゲノム編集が誘導され、GFPの蛍光が観察されたことが明らかとなった。
【0264】
一般的に分化した細胞は細胞増殖が止まり、遺伝子導入やゲノム編集が困難となる。これに対し、VLPを用いることにより、分化した細胞においても効率的にゲノム編集を誘導できることが明らかとなった。
【0265】
[実験例26]
(VLP導入によるゲノム編集活性の経時変化)
VLP導入によるゲノム編集活性の経時変化を検討した。具体的には、まず、404C2 iPS細胞を、1.0×10細胞/24ウェルプレートの細胞密度で播種した。続いて、Cas9及びsgRNAを封入したVLPを接種した。続いて、経時的にゲノムDNAを回収し、T7EIアッセイによりゲノム編集効率を測定した。
【0266】
図40(a)は実験スケジュールを示す図である。図40(b)は、T7EIアッセイの結果を示す代表的な画像である。図40(c)は、ゲノム編集活性の経時変化を示すグラフである。その結果、Cas9及びsgRNAをVLPで導入後、8時間ではゲノム編集活性が認められないことが明らかとなった。また、VLPの導入から12時間後以降において、徐々にゲノム編集が蓄積し、36~時間後にほぼプラトーに達することが明らかとなった。
【0267】
[実験例27]
(VLPシステムの安全性の検討1)
VEGFA遺伝子を標的とするsgRNA(標的配列を配列番号25に示す。)は、目的外配列での変異導入が起こりやすいことが報告されている。そこで、一過性の発現を示すVLP導入において、目的部位及び目的外部位でのゲノム編集効率を検討した。
【0268】
まず、Cas9及びVEGFA遺伝子を標的とするsgRNA(標的配列を配列番号25に示す。)を封入したVLP(図41中、「VEGFA VLP」と示す。)を作製した。続いて、作製したVLP 100、200、300ng(p24量相当)を、5×10個のHEK293T細胞に接種した。
【0269】
また、比較のために、Cas9及びsgRNAを発現するプラスミドDNAを導入した細胞も用意した。続いて、3日後に各細胞からゲノムDNAを回収し、VEGFAの標的部位領域(On-Target)におけるゲノム編集効率をT7EIアッセイにより検討した。また、標的配列と類似の非標的部位領域(Off-Target)におけるゲノム編集効率をT7EIアッセイにより検討した。
【0270】
下記表1に、sgRNAの標的配列、On-Target配列、Off-Target配列を示す。
【0271】
【表1】
【0272】
図41(a)は、T7EIアッセイの結果を示すグラフである。図41(a)中、「DNA Plasmid」は、Cas9及びsgRNAを発現するプラスミドDNAを導入した結果であることを示し、「Empty Plasmid」は空のプラスミドDNAを導入した結果であることを示す。
【0273】
図41(b)は、オフターゲット切断に対するオンターゲット切断の割合を示すグラフである。図41(b)中、「VEGFA DNA Plasmid」は、Cas9及びsgRNAを発現するプラスミドDNAを導入した結果であることを示し、「VEGFA VLP」はVLPを導入した結果であることを示す。
【0274】
その結果、VLPを300ng(p24量相当)導入した細胞の標的部位領域において、プラスミドDNAを導入した細胞におけるゲノム編集効率以上のゲノム編集効率が観察された。
【0275】
また、プラスミドDNAの導入では、オフターゲット部位への意図しない変異導入が確認された。これに対し、VLPの導入では、オフターゲット部位に変異導入は確認されなかった。VLPの導入では、Cas9の存在時間が短く、オフターゲット部位に変異が導入される前に消失するため、プラスミドDNA導入と比較して標的塩基配列特異性が高いことが確認された。
【0276】
[実験例28]
(VLPシステムの安全性の検討2)
HEK293T EGxxFP細胞(1×10個)にCas9及びsgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)を封入したVLP 6μLを導入して、ゲノム編集を誘導した。また、比較のために、空のVLPを同量導入した細胞も用意した。
【0277】
続いて、48時間後にゲノム編集効率をフローサイトメーターで測定した。また、生存した細胞数をトリパンブルーで染色し、自動細胞計測機(名称「Countess II」、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いてカウントした。
【0278】
図42は、結果を示すグラフである。図42中、上段はフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。グラフの縦軸はGFP陽性細胞の割合を示す。また、「DMD1 VLP」はCas9及びsgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)を封入したVLPを導入した結果であることを示し、「Empty VLP」は空のVLPを導入した結果であることを示し、「Not treated」は、何もしていないHEK293T EGxxFP細胞の結果であることを示す。また、図42下段は生存した細胞数をカウントした結果を示すグラフである。グラフの縦軸は細胞数を示す。その結果、十分なゲノム編集活性を示すVLP導入条件下においても、生存した細胞数はほとんど減少しておらず、VLPの細胞毒性が低いことが確認された。
【0279】
[実験例29]
(ヒト骨格筋細胞におけるエクソンスキッピングの誘導)
本発明に係るVLPがヒト骨格筋細胞においてもエクソンスキッピングを誘導できるか否かを検討した。まず、ドキシサイクリン誘導性にMYOD1遺伝子を発現する、エクソン44欠損DMD患者由来iPS細胞の培地にドキシサイクリンを添加してMYOD1遺伝子を過剰発現させることにより、骨格筋細胞に分化誘導した。
【0280】
続いて、実験例19と同様にして作製した、Cas9及びsgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)を封入したVLP(以下、「DMD1 VLP」という場合がある。)と、Cas9及びsgRNA DMD#23(標的配列を配列番号24に示す。)を封入したVLP(以下、「DMD23 VLP」という場合がある。)10μLずつを単独で又は混合して、得られたヒト骨格筋細胞に導入した。
【0281】
続いて、各ヒト骨格筋細胞から全RNAをそれぞれ抽出して、RT-PCRによりDMD遺伝子のcDNAのエクソン45を含む領域をPCRで増幅し、電気泳動システム(2200 TapeStation、アジレント・テクノロジー社)を用いた解析を行った。
【0282】
図43(a)は、電気泳動の結果を示す画像である。図43(a)の上側の矢印で示すバンドはエクソン45を含むcDNAに由来するバンドである。また、図43(a)の下側の矢印で示すバンドはエクソンスキッピングによりエクソン45を有しないcDNAに由来するバンドである。
【0283】
また、図43(b)は、図43(a)の結果を数値化したグラフである。図43(b)では、図43(a)における上側のバンド及び下側のバンドの合計強度に対する下側のバンドの強度の割合をエクソン45のエクソンスキッピング効率(%)として示す。図43(a)及び(b)中、「DMD1」はDMD1 VLPを示し、「DMD23」はDMD23 VLPを示し、「+」はヒト骨格筋細胞に導入したことを示し、「-」はヒト骨格筋細胞に導入しなかったことを示す。また、図43(b)中、「****」は、one-way ANOVAによる解析の結果、P<0.0001で有意差が存在することを示す。
【0284】
その結果、DMD1 VLPを単独で導入することにより、ヒト骨格筋細胞において、約36%の効率でエクソン45のエクソンスキッピングを誘導することができたことが明らかとなった。一方、DMD23 VLPを単独で導入した場合には、エクソンスキッピング効率は低いことが明らかとなった。これに対し、DMD1 VLP及びDMD23 VLPの2種類のVLPを共導入することにより、約92%の非常に高い効率でエクソンスキッピングを誘導できたことが明らかとなった。
【0285】
また、各ヒト骨格筋細胞におけるジストロフィンタンパク質の発現を検討した。具体的には、プロテインシンプル社の全自動ウエスタンブロット装置Wesを用いて抗ジストロフィン抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った。また、ローディングコントロールとして、ミオシン重鎖タンパク質を検出した。また、対照として、ジストロフィンcDNAを過剰発現させたHEK293T細胞を同様に解析した。
【0286】
図43(c)は、ウエスタンブロッティングの結果を示す画像である。図43(c)中、「DYS Ctrl.」は対照の結果であることを示し、「DMD1」はDMD1 VLPを単独で導入した結果であることを示し、「DMD23」はDMD23 VLPを単独で導入した結果であることを示し、「DMD1+23」はDMD1 VLP及びDMD23 VLPを共導入した結果であることを示す。
【0287】
その結果、ヒト骨格筋細胞におけるジストロフィンタンパク質の発現量は、エクソンスキッピング効率と相関し、DMD1 VLP及びDMD23 VLPの2種類のVLPを共導入することにより高いジストロフィンタンパク質の発現を誘導することができたことが明らかとなった。
【0288】
この結果は、アウトオブフレーム変異により正常ジストロフィンタンパク質が発現できない場合に、特定の単独又は複数のエクソンを削除することにより、エクソンスキッピングを誘導し、タンパク質の読み枠を回復させることができることを示す。
【0289】
[実験例30]
(ルシフェラーゼを封入したVLPの作製)
ルシフェラーゼタンパク質を封入したVLPを作製した。図44(a)~(c)は、本実験例で作製したVLPの構造を説明する模式図である。図44(a)は、HIVのGagのN末端にFKBP12ドメインを付加した融合タンパク質(以下、「FKBP12-GagHIV」という場合がある。)の発現コンストラクトの構造を示す模式図である。図44(b)は、FRBドメインを融合させたルシフェラーゼタンパク質(以下、「FRB-Luc」という場合がある。)の発現コンストラクトの構造を示す模式図である。図44(c)は、FKBP12-GagHIV及びFRB-LucをVLPに封入する様子を示す模式図である。
【0290】
ラパマイシン類似薬であるAP21967の存在下又は非存在下で、FRB-Luc、FKBP12-GagHIV、VSV-Gを、図45に示す組み合わせでHEK293T細胞で発現させ、VLPを作製した。図45中、「+」は導入したことを示し、「-」は導入しなかったことを示す。
【0291】
続いて、上記の各VLP中のFRB-Luc、FKBP12-Gag、VSV-Gをウエスタンブロッティングにより定量した。図45は、ウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。その結果、AP21967の存在下で作製したVLPでは、非存在下と比較して多くのルシフェラーゼタンパク質が封入されたことが確認された。
【0292】
続いて、HEK293T細胞を96ウェルプレートに播種し、上記の各VLPを導入した。続いて、16時間後に細胞を破砕して、ルシフェラーゼ活性を測定した。図46はルシフェラーゼ活性の測定結果を示すグラフである。図46中、「対照」はFRB-Lucを含まないVLPの結果を示す。また、「Luc VLP」は、FRB-Luc、FKBP12-GagHIV及びVSV-Gを発現させて作製したVLPの結果を示す。また、「-」はAP21967の非存在下で作製したVLPの結果であることを示し、「+」はAP21967の存在下で作製したVLPの結果であることを示す。
【0293】
その結果、AP21967の存在下で作製したVLPは、AP21967の非存在下で作製したVLPと比較して12倍のルシフェラーゼタンパク質をHEK293T細胞に送達したことが明らかとなった。
【0294】
[実験例31]
(VLPを用いた生体内におけるタンパク質の送達)
VLPを用いて生体内へとタンパク質を送達する検討を行った。C57BL/6マウスに、実験例30で作製したLuc VLP 30μL又は60μLを腓腹筋内投与した。また、対照としてPBSを投与した群も用意した。続いて、16時間後、2日後及び3日後に、ルシフェラーゼの発光を検出した。
【0295】
具体的には、解析の5~15分前にイソフルランを用いてマウスを麻酔し、ルシフェリン3mg/匹を静脈内投与した。続いて、IVISイメージング装置(パーキンエルマー社)を用いたインビボ発光・蛍光イメージングによりルシフェラーゼの発光を検出した。
【0296】
図47は、IVIS解析の結果を示す写真である。また、図48図47の結果を数値化したグラフである。その結果、Luc VLPを注射したマウスの筋肉付近において、用量依存的にルシフェラーゼの発光が観察された。また、肝臓その他の臓器への漏出はほぼ認められなかった。また、Luc VLPの導入から3日以内にルシフェラーゼタンパク質の完全な消失が認められた。この結果は、VLPによるタンパク質の送達が一過性であることを示す。
【0297】
[実験例32]
(生体内におけるエクソンスキッピングの誘導)
VLPを用いて生体内でエクソンスキッピングを誘導する検討を行った。図49は、本実験例で用いたルシフェラーゼレポーターノックインマウスモデルを説明する図である。図49に示すように、C57BL/6マウスのGt(ROSA)26Sor遺伝子座にゲノム編集によりルシフェラーゼレポーター遺伝子をノックインした。このルシフェラーゼレポーター遺伝子には、ヒトDMD遺伝子のエクソン45及びその5’側及び3’側のイントロンが導入されていた。
【0298】
図49に示すように、このエクソン45がスプライシングの過程でルシフェラーゼmRNAに取り込まれるとはアウトオブフレームとなるため、正常なルシフェラーゼタンパク質を発現することができない。しかしながら、このルシフェラーゼレポーターノックインマウスモデルに、実験例19と同様のDMD1 VLP及びDMD23 VLPを導入すると、エクソン45のエクソンスキッピングを誘導し、正常なルシフェラーゼタンパク質を発現させることが可能となる。
【0299】
上記のルシフェラーゼレポーターノックインマウスモデルに、実験例19と同様のDMD1 VLP 50μL及びDMD23 VLP 50μLを腓腹筋内投与した。続いて、実験例31と同様にして、IVISイメージング装置(パーキンエルマー社)を用いたインビボ発光・蛍光イメージングにより、経時的にルシフェラーゼの発光を検出した。
【0300】
図50(a)は、VLPの投与後1~160日間のIVIS解析の結果を示す写真である(n=5)。また、図50(b)は、VLPの投与後126日目のIVIS解析の結果を示す代表的な写真である。その結果、VLPを注射した部位に特異的に、エクソンスキッピングによるルシフェラーゼの発現が認められた。
【0301】
Luc VLPを注射した場合と異なり、DMD1 VLP及びDMD23 VLPの1回の投与により、3日後にはルシフェラーゼの活性が認められ、7日後にはプラトーに達し、その後少なくとも160日間ルシフェラーゼの活性が検出された。この結果は、マウスの筋肉内において、安定的にエクソン45のエクソンスキッピングが維持されたことを示す。
【0302】
[実験例33]
(VLPを用いた様々な細胞におけるゲノム編集)
Cas9及び様々な標的配列に対するsgRNAを封入したVLPを様々な細胞に導入し、ゲノム編集効率を検討した。
【0303】
《Tリンパ球細胞》
図51(a)は、ヒトTリンパ球細胞株であるJurkat細胞に、HIVの共受容体であるCCR5遺伝子に対するsgRNA(標的配列を配列番号28に示す。)及びCas9を封入したVLPを導入し、T7EIアッセイによりゲノム編集効率を測定した結果を示す写真である。また、図51(b)は、図51(a)の結果を数値化したグラフである。その結果、VLPの導入により用量依存的に挿入欠失変異(Indel)が導入され、最大48%に達したことが明らかとなった。
【0304】
《単球細胞》
ヒト単球細胞株であるU937細胞にEFGPを安定的に発現させた細胞(EGFP-U937)に、EGFP遺伝子に対するsgRNA(標的配列を配列番号29に示す。)及びCas9を封入したVLPを導入した。また、対照として、U937細胞にSAMHD1遺伝子を安定的に発現させた細胞(SAMHD1-U937)にもCas9及びEGFP遺伝子に対するsgRNA(標的配列を配列番号29に示す。)を封入したVLPを導入した。続いて、VLPの導入から3日後に、EGFPの蛍光をフローサイトメトリーにより解析した。
【0305】
図52は、フローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。図52中、「-」はVLPを導入しなかったことを示し、「+」はVLPを導入したことを示す。その結果、VLPを導入した群では、VLPを導入しなかった群と比較して、EGFPの蛍光強度の平均値が約50%に減少したことが明らかとなった。
【0306】
《神経細胞》
ヒトiPS細胞にNeurogenin2遺伝子(NGN2-IRES-mCherry)を過剰発現させることにより、大脳皮質ニューロン様の神経細胞に分化させた。続いて、得られた神経細胞にSAMHD1遺伝子に対するsgRNA及びCas9を封入したVLPを導入した。SAMHD1遺伝子に対するsgRNAとしては、sgRNA#1(標的配列を配列番号30に示す。)及びsgRNA#2(標的配列を配列番号31に示す。)の2種類をそれぞれ使用した。
【0307】
図53(a)は、SAMHD1遺伝子に対するsgRNA#1及びsgRNA#2の位置を示す模式図である。図53(b)は、ヒトiPS細胞から分化誘導した神経細胞の写真である。図53(c)は、T7EIアッセイによりゲノム編集効率を測定した結果を示す画像である。図53(c)中、「anti-SAMHD1 VLP」は、Cas9及びSAMHD1遺伝子に対するsgRNAを封入したVLPを示し、「-」はVLPを導入しなかったことを示し、「#1」はsgRNA#1を封入したVLPを導入したことを示し、「#2」はsgRNA#2を封入したVLPを導入したことを示す。
【0308】
その結果、VLPの導入により、先天性脳症の関連遺伝子であるSAMHD1遺伝子を効率的にゲノム編集できることが明らかとなった。挿入欠失変異(Indel)の導入効率はsgRNA#1及びsgRNA#2のいずれのsgRNAを用いた場合においても約36%であった。
【0309】
[実験例34]
(VLPの大量生産)
医療応用を目指し、動物由来の成分を使用せずに(xeno-free)、VLPを大量生産する方法を検討した。まず、SV40ラージT抗原を発現し、血清不含培地で浮遊培養可能なHEK293細胞株を樹立した。
【0310】
《エレクトロポレーション条件の検討》
フローエレクトロポレーション装置(「MaxCyte STX」、MaxCyte社)を用いて、低エレクトロポレーションエネルギー条件である「E4」又は高エレクトロポレーションエネルギー条件である「E9」で、上記のHEK293細胞に、VLPを形成するための発現ベクターを導入した。
【0311】
発現ベクターとしては、FKBP12-GagHIVの発現ベクター、FRB-SpCas9の発現ベクター、リボザイムで挟まれたsgRNA(以下、「RGR」という場合がある。)の発現ベクター、TatHIVの発現ベクター、VSVGの発現ベクターを使用した。
【0312】
エレクトロポレーション後、エンドヌクレアーゼ(「benzonase」、メルク社)の存在下又は非存在下で40分間細胞をインキュベートした。続いて、細胞の培地にAP21967を添加し、100rpmで撹拌しながら浮遊培養した。
【0313】
続いて、エレクトロポレーションから36~48時間後に培養液上清を回収し、ポアサイズ0.45μmのシリンジフィルターで細胞の残骸を除去し、Avanti JXN-30遠心機(ベックマン・コールター社)を用いて100,000×gで3時間遠心し、VLPを回収した。
【0314】
続いて、各条件で作製したVLPを、レポーターコンストラクトであるEGxxFPを導入したHEK293T細胞(以下、「HEK293T EGxxFP細胞」という場合がある。)にそれぞれ導入した。続いて、3日後にフローサイトメーターを用いて各細胞のEGFPの蛍光を測定し、ゲノム編集効率を測定した。
【0315】
図54(a)は、EGFPの蛍光を測定した結果を示すグラフである。その結果、「E9」のエレクトロポレーション条件でエレクトロポレーションを行い、エレクトロポレーション後、細胞をエンドヌクレアーゼ処理した場合が最もゲノム編集効率が高いことが明らかとなった。この結果は、上記の条件において最もVLPの形成量が多かったことを示す。
【0316】
《Tat及びAP21967の検討》
フローエレクトロポレーション装置(「MaxCyte STX」、MaxCyte社)を用いて、E9の条件でVLPを作製した。ここで、TatHIVの発現ベクターの存在下又は非存在下、AP21967の存在下又は非存在下の条件を検討した。
【0317】
続いて、各条件で作製したVLPを、HEK293T EGxxFP細胞にそれぞれ導入した。続いて、3日後にフローサイトメーターを用いて各細胞のEGFPの蛍光を測定し、ゲノム編集効率を測定した。
【0318】
図54(b)は、EGFPの蛍光を測定した結果を示すグラフである。その結果、TatHIV及びAP21967の存在下でVLPを作製した場合が最もゲノム編集効率が高いことが明らかとなった。この結果は、TatHIV及びAP21967の存在が、sgRNA及びCas9のVLPへの封入に重要であることを更に支持するものである。
【0319】
《接着培養と浮遊培養によるVLP作製の比較》
10cmディッシュを48枚用い、10%ウシ胎児血清(FBS)を含む培地でHEK293T細胞を接着培養し、リポフェクション試薬を用いて各発現ベクターを導入することにより、合計480mLスケールでVLPを作製した。
【0320】
また、240mL培地の1Lフラスコを2つ用い、動物由来の成分を使用しない血清不含培地でHEK293細胞を浮遊培養し、フローエレクトロポレーションで各発現ベクターを導入することにより、480mLスケールでVLPを作製した。
【0321】
続いて、各VLPを一晩遠心して濃縮した。続いて、Triton-Xを用いてVLPを溶解し、基質(ジストロフィン標的配列を含んだDNA、700bp)と反応させて、活性Cas9/sgRNA RNP複合体の存在量を定量した。定量には、実験例2と同様にして、組換えspCas9タンパク質及び化学合成したsgRNAを用いて作成した標準曲線を使用した。
【0322】
図55(a)は、活性Cas9/sgRNA RNP複合体を定量した結果を示すグラフである。図55(a)中、「48×10cm」は接着培養により作製したVLPの結果を示し、「2×1L」は浮遊培養により作製したVLPの結果を示す。
【0323】
その結果、血清不含培地を用いた浮遊培養により、合計8.1μgのCas9/sgRNA RNP複合体を作成できたことが明らかとなった。これは、同じスケールで血清含有培地を用いた接着培養により作製したVLPと比較して約30%少なかった。しかしながら、医療応用のためには、動物由来の成分は使用すべきでない。以上の結果は、浮遊培養によるVLPの作製はスケールアップすることができ、工業的に生産して医療応用することができることを示す。
【0324】
また、図55(b)はsgRNA DMD#1(標的配列を配列番号15に示す。)を含む活性RNP複合体を0.26μg含むVLPを、DMD患者由来のiPS細胞に導入して挿入欠失変異(Indel)の誘導を測定した結果を示すグラフである。図55(b)中、「No RNP」はCas9/sgRNA RNP複合体を導入しなかったことを示し、「RNP Electrop.」は、Cas9/sgRNA RNP複合体をエレクトロポレーションにより導入したことを示す。
【0325】
その結果、VLPは、10μgの組換えRNPをiPS細胞にエレクトロポレーションした場合と比較してより高い効率で挿入欠失変異を誘導したことが明らかとなった。この結果は、VLPが標的細胞に効率的にCRISPR-Cas9 RNPを送達し、高い切断活性を発揮することを示す。
【0326】
[実験例35]
(VLP粒子の解析)
VLP粒子のサイズ、VLP 1粒子内の活性Cas9/sgRNA RNP複合体の分子数を解析した。まず、VLPをモノリス型シリカカラムに吸着させた。続いて、NaCl濃度を0.1M、0.2M、0.65M、1Mにそれぞれ調整したバッファーで抽出して精製した。続いて、各塩濃度で溶出した溶出画分に含まれるVLPをウエスタンブロッティングに供し、SpCas9タンパク質及びカプシド(CA、p24とも呼ばれる。)を検出した。
【0327】
図56(a)はSpCas9タンパク質のウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。また、図56(b)はp24のウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。その結果、塩濃度0.65M及び塩濃度1Mの溶出画分にVLPが含まれていると考えられた。
【0328】
《粒子径の測定》
続いて、精製したVLPを電子顕微鏡で観察し、粒子径を測定した。図57(a)は塩濃度0.65Mの溶出画分に含まれていたVLPの代表的な電子顕微鏡写真である。また、図57(b)は塩濃度1Mの溶出画分に含まれていたVLPの代表的な電子顕微鏡写真である。また、図57(c)は、電子顕微鏡写真に基づいて、塩濃度0.65Mの溶出画分に含まれていたVLPの粒子径(長径と短径)を測定した結果を示すグラフである。また、図57(d)は、電子顕微鏡写真に基づいて、塩濃度1Mの溶出画分に含まれていたVLPの粒子径(長径と短径)を測定した結果を示すグラフである。
【0329】
図58(a)は、市販の装置(「NanoSight」、マルバーン・パナリティカル社)を用いて、塩濃度0.65Mの溶出画分に含まれていたVLPの粒子径を測定した結果を示すグラフである。また、図58(b)は、市販の装置(「NanoSight」、マルバーン・パナリティカル社)を用いて、塩濃度1Mの溶出画分に含まれていたVLPの粒子径を測定した結果を示すグラフである。図58(a)及び(b)中、縦軸はVLPの濃度(10個/mL)を示し、横軸は粒子径(nm)を示す。
【0330】
《Cas9の分子数の解析》
VLP 1粒子内のCas9タンパク質の分子数(活性Cas9/sgRNA RNP複合体の分子数)を解析した。まず、Triton-Xを用いて、塩濃度0.65Mの溶出画分に含まれていたVLP及び塩濃度1Mの溶出画分に含まれていたVLPを溶解し、基質(ジストロフィン標的配列を含んだDNA、700bp)と反応させて、活性Cas9/sgRNA RNP複合体の存在量を定量した。定量には、実験例2と同様にして、組換えspCas9タンパク質及び化学合成したsgRNAを用いて作成した標準曲線を使用した。
【0331】
図59(a)は標準曲線を示す画像である。また、図59(b)は塩濃度0.65M及び1Mの溶出画分にそれぞれ含まれていたVLP内のCas9/sgRNA RNP複合体を用いて基質(ジストロフィン標的配列を含んだDNA、700bp)を切断した結果を示す画像である。図59(a)及び(b)中、「% Cleavage Activity」は切断された基質の割合(切断活性)を示す。
【0332】
その結果、塩濃度0.65Mの溶出画分中のCas9タンパク質の濃度は、3.4μg/mLと計算された。また、塩濃度1Mの溶出画分中のCas9タンパク質の濃度は、13.3μg/mLと計算された。下記表2に、VLPの粒子径、VLPの濃度、Cas9タンパク質の濃度、VLP1粒子あたりのCas9タンパク質の分子数の計算値を示す。
【0333】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0334】
本発明によれば、対象タンパク質をウイルス様粒子に効率よく封入する技術を提供することができる。
図1
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【配列表】
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