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特開2023-120414光計測装置、方法、およびプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120414
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】光計測装置、方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20230822BHJP
   A61B 5/107 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
A61B5/00 M
A61B5/107 800
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105301
(22)【出願日】2023-06-27
(62)【分割の表示】P 2020525422の分割
【原出願日】2019-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2018117616
(32)【優先日】2018-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【弁理士】
【氏名又は名称】川喜田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100202142
【弁理士】
【氏名又は名称】北 倫子
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 尚志
(57)【要約】
【課題】比較的安価な装置によって日常的にユーザの肌の状態を評価する技術を提供する。
【解決手段】光計測装置は、パターン光を、ユーザの肌に投影する光源と、前記パターン光の投影に起因して、前記肌から戻ってきた戻り光を検出するセンサと、演算回路と、を備え、前記演算回路は、前記戻り光に基づいて、肌年齢、およびコラーゲンの状態の少なくとも一方に関する情報を生成する。
【選択図】図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターン光を、ユーザの肌に投影する光源と、
前記パターン光の投影に起因して、前記肌から戻ってきた戻り光を検出するセンサと、
演算回路と、
を備え、
前記演算回路は、前記戻り光に基づいて、肌年齢、およびコラーゲンの状態の少なくとも一方に関する情報を生成する、
光計測装置。
【請求項2】
前記情報は、前記コラーゲンの状態に関する情報である、
請求項1に記載の光計測装置。
【請求項3】
前記情報は、前記コラーゲンの量に対応する、
請求項2に記載の光計測装置。
【請求項4】
前記戻り光は、前記肌の内部で散乱された散乱光を含み、
前記演算回路は、前記散乱光に基づいて、前記情報を生成する、
請求項1に記載の光計測装置。
【請求項5】
前記演算回路は、
前記戻り光に基づいて、前記ユーザの真皮内での光の散乱の度合いを推定し、
前記光の散乱の度合いに基づいて、前記情報を生成する、
請求項1に記載の光計測装置。
【請求項6】
前記センサはイメージセンサであり、
前記イメージセンサは、前記戻り光に基づいた画像データを生成し、
前記演算回路は、前記画像データに基づいて、前記情報を生成する、
請求項1に記載の光計測装置。
【請求項7】
パターン光を、ユーザの肌に投影する光源と、
前記パターン光の投影に起因して、前記肌から戻ってきた戻り光を検出するセンサと、
を備える光計測装置を制御するコンピュータによって実行される方法であって、
前記戻り光に基づいて、肌年齢、およびコラーゲンの状態の少なくとも一方に関する情報を生成することを含む、
方法。
【請求項8】
パターン光を、ユーザの肌に投影する光源と、
前記パターン光の投影に起因して、前記肌から戻ってきた戻り光を検出するセンサと、
を備える光計測装置を制御するコンピュータによって実行されるプログラムであって、
前記プログラムは、前記コンピュータに、前記戻り光に基づいて、肌年齢、およびコラーゲンの状態の少なくとも一方に関する情報を生成することを実行させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光計測装置、方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
アンチエイジング志向の強まりにより、肌の状態を評価する重要性が高まっている。肌の状態の評価は、肌の状態の改善に役立つからである。そのため、例えば、特許文献1から特許文献3に記載されているように、大学などの研究機関、および化粧品メーカーでは、様々な肌の測定が行われている。
【0003】
後述するように、従来の測定装置は大型でかつ高価であり、熟練した技術者が測定を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-240644号公報
【特許文献2】特許第4799628号公報
【特許文献3】特許第6029379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、比較的安価な装置によって日常的にユーザの肌の状態を評価する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る肌評価装置は、第1の光によるドットパターンを、少なくとも1人のユーザの肌に投影する光源と、前記ドットパターンが投影された前記肌の画像を示す画像データを生成して出力するイメージセンサと、前記肌の状態を評価するための参照データを格納するメモリと、前記画像データと、前記参照データとに基づいて、前記肌の状態に関するデータを生成して出力する演算回路と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示の技術によれば、比較的安価な装置によって日常的にユーザの肌の状態を評価することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A図1Aは、肌の状態を評価する原理を説明する図である。
図1B図1Bは、カメラによって取得される肌表面の画像の特性を説明する図である。
図2図2は、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビン、メラニン、および水のそれぞれの光の吸収係数、ならびに体内での光の散乱係数の波長依存性を示す図である。
図3A図3Aは、本実施形態における評価装置の例を模式的に示す図である。
図3B図3Bは、カメラの構成およびユーザの画像の一例を示す図である。
図3C図3Cは、コンピュータの構成を模式的に示すブロック図である。
図4A図4Aは、カメラによって取得された画像の一例を示す図である。
図4B図4Bは、図4Aに示す太い実線によって囲まれた対象領域を拡大した図である。
図4C図4Cは、図4Bに示す画像から生成された度数分布の実測値および計算値を示す図である。
図5A図5Aは、25才のユーザから得られた度数分布の実測値および計算値を示す図である。
図5B図5Bは、40才のユーザから得られた度数分布の実測値および計算値を示す図である。
図5C図5Cは、58才のユーザから得られた度数分布の実測値および計算値を示す図である。
図6図6は、25才、40才、および58才のユーザから得られた拡散反射光の成分を示す図である。
図7図7は、年齢と、拡散反射光の成分の標準偏差との関係を示す図である。
図8図8は、本実施形態における肌評価装置の動作を示すフローチャートである。
図9図9は、携帯端末によってユーザの肌を評価する様子を模式的に示す図である。
図10図10は、本実施形態における肌評価システムを模式的に示すブロック図である。
図11図11は、25才から58才までの5人のユーザから得られた度数分布を示す図である。
図12図12は、年齢と、拡散反射光の成分の標準偏差との関係を示す図である。
図13図13は、本実施形態における肌評価システムの動作を示すフローチャートである。
図14A図14Aは、本実施形態における肌評価システムのスマートフォンへの応用例を模式的に示す図である。
図14B図14Bは、本実施形態における肌評価システムのスマートフォンへの応用例を模式的に示す図である。
図15A図15Aは、28才および58才のユーザから得られた累積度数分布を示す図である。
図15B図15Bは、図15Aに示す破線によって囲まれた部分を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の実施形態を説明する前に、本開示の基礎となった知見を説明する。
【0010】
肌の質感を現す言葉として、肌のきめ・くすみ・にごり・透明感・つや・瑞々しさなどの様々な官能的な表現が用いられる。肌の物質的な特性、または肌の光学的な特性が、肌の質感にどのように対応するのかは明確ではない。そのため、大学などの研究機関、および化粧品メーカーでは、肌の様々な測定に基づく官能試験により、肌の質感を決定するパラメータを見出す研究されてきた。それらの研究をまとめると、美しい肌、すなわち、くすみのない瑞々しい肌は、以下の特徴を有する。
(特徴1)表皮と呼ばれる肌の表面でなく、真皮とよばれる肌の深部からの高い反射率
(特徴2)全方向への均一な反射
これらの特徴は、真皮内における強い拡散反射が、美しい肌の重要な特性であることを示唆している。すなわち、真皮内での散乱係数を測定することにより、肌の状態を評価することができることを意味している。
【0011】
肌などの生体内における光散乱の起源については、様々な説がある。生体内の散乱は、生体内の屈折率差によって生じる。当該散乱は、例えば、(1)細胞膜による散乱、(2)ミトコンドリア、およびゴルジ体などの細胞内小器官による散乱、および(3)コラーゲン繊維による散乱であると考えられている。本発明者は、このうち肌の質感に最も影響を与えているファクターは(3)コラーゲン繊維による散乱であると考えている。紫外線照射および/または加齢に伴い、コラーゲン繊維は硬くなり、コラーゲン量が減少することが知られている。これに伴い真皮層は薄くなる。真皮層の散乱係数を測定することにより、コラーゲンの状態を推定することができる。これにより、肌の状態を高精度に評価することが可能になる。
【0012】
これまで、肌内部での光の拡散状態から肌の状態を評価する様々な試みがなされている。例えば、特許文献1および特許文献2は、開口部を肌に接触させて、開口部を通じて肌を光で照射する測定装置を開示している。特許文献1に記載の測定装置では、装置内部の開口部付近に遮断板を配置することにより、肌の表面で直接反射される光が除去される。これにより、肌内部で拡散した光が受光される。特許文献2に記載の測定装置では、測定領域を変えて測定することにより、拡散反射光が測定される。このような接触型の測定装置には、測定時にユーザに不快感を与えるという問題点がある。また、接触したセンサ部分の情報しか得られず、広い領域において肌の状態を評価することが困難であるという問題点もある。
【0013】
これに対し、非接触で肌を評価する方法が提案されている。例えば、特許文献3は、肌に投影されたパターン光の周辺を撮像することにより、肌内部で拡散された光を受光する方法を開示している。特許文献3に記載の方法では、高い測定精度を得るために、パターン光は高精度で肌に投影される。肌からの反射光の強度は、投影光から遠ざかるにつれて急減に低下する。このようなパターン光の投影および反射光の撮像のために、高価な光学系が用いられる。
【0014】
従来の測定装置は、大型でかつ高価である。また、測定の際には、熟練の技術者が測定装置における光学系を厳密に調整する。これらの理由により、従来の測定装置は、化粧品メーカーまたは研究機関での利用に限定されていた。そのため、一般ユーザが手軽に日常生活の中で使用することができ、かつ、肌の状態を評価することができる簡便で安価な肌評価装置および肌評価方法が、強く求められていた。
【0015】
本発明者は、以上の検討に基づき、以下の項目に記載の肌評価装置、肌評価システム、肌評価方法、肌評価のためのプログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な記録媒体、および肌評価のためのプログラムに想到した。
【0016】
[項目1]
第1の項目に係る肌評価装置は、第1の光によるドットパターンを、少なくとも1人のユーザの肌に投影する光源と、前記ドットパターンが投影された前記肌の画像を示す画像データを生成して出力するイメージセンサと、前記肌の状態を評価するための参照データを格納するメモリと、前記画像データと、前記参照データとに基づいて、前記肌の状態に関するデータを生成して出力する演算回路と、を備える。
【0017】
[項目2]
第1の項目に係る肌評価装置において、前記肌の状態に関する前記データは、前記少なくとも1人のユーザの真皮内の前記肌の状態に関していてもよい。
【0018】
[項目3]
第1の項目または第2の項目に係る肌評価装置において、前記演算回路は、前記画像データが示す前記画像の少なくとも一部の領域における画素値と、前記少なくとも一部の領域における前記画素値を有する画素の数との関係から、前記肌の状態を特徴付ける特徴データを生成し、前記特徴データと前記参照データとを比較して、前記肌の状態に関する前記データを生成して出力してもよい。
【0019】
[項目4]
第3の項目に係る肌評価装置において、前記画素値と前記画素の数との関係を示す度数分布の曲線を第1ガウス分布、第2ガウス分布及び第3ガウス分布でフィッティングしたとき、前記第2ガウス分布の平均値は、前記第1ガウス分布の平均値より大きく、前記第3ガウス分布の平均値より小さく、前記特徴データは、前記第2ガウス分布の標準偏差の値を示していてもよい。
【0020】
[項目5]
第4の項目に係る肌評価装置において、前記少なくとも1人のユーザは複数のユーザを含み、前記参照データは、前記複数のユーザの各々から得られた複数の標準偏差を示し、前記複数の標準偏差の各々は、前記少なくとも1人のユーザの前記標準偏差と同じ演算によって得られてもよい。
【0021】
[項目6]
第4の項目に係る肌評価装置において、前記参照データは、前記少なくとも1人のユーザの前記標準偏差の過去に得られた値を示していてもよい。
【0022】
[項目7]
第3の項目に係る肌評価装置において、前記特徴データは、前記画素値と、前記少なくとも一部の領域における前記画素値以下の値を有する画素の累積数との関係を示す累積度数分布における裾の広がりの値を示していてもよい。
【0023】
[項目8]
第7の項目に係る肌評価装置において、前記少なくとも1人のユーザは複数のユーザを含み、前記参照データは、前記複数のユーザの各々から得られた複数の累積度数分布における複数の裾の広がりを示し、前記複数の裾の広がりの各々は、前記少なくとも1人のユーザの前記累積度数分布における前記裾の広がりと同じ演算によって得られてもよい。
【0024】
[項目9]
第7の項目に係る肌評価装置において、前記参照データは、前記少なくとも1人のユーザの前記累積度数分布における前記裾の広がりの過去に得られた値を示していてもよい。
【0025】
[項目10]
第1の項目から第9の項目のいずれかに係る肌評価装置は、前記肌の状態に関する前記データを示す情報を表示するディスプレイをさらに備えていてもよい。
【0026】
[項目11]
第1の項目から第10の項目のいずれかに係る肌評価装置において、前記光源は、前記第1の光として、650nm以上950nm以下の波長の光を出射してもよい。
【0027】
[項目12]
第11の項目に係る肌評価装置において、前記光源は、レーザであってもよい。
【0028】
[項目13]
第1の項目から第12の項目のいずれかに係る肌評価装置は、前記少なくとも1人のユーザと前記イメージセンサとの間に配置された偏光フィルタをさらに備え、前記第1の光は、特定の偏光方向に偏光されており、前記偏光フィルタを透過する光の偏光方向は、前記特定の偏光方向に垂直であってもよい。
【0029】
[項目14]
第1の項目から第13の項目のいずれかに係る肌評価装置は、前記少なくとも1人のユーザと前記イメージセンサとの間に配置されたバンドパスフィルタをさらに備え、前記バンドパスフィルタを透過する光の波長範囲は、前記第1の光の波長を含んでいてもよい。
【0030】
[項目15]
第15の項目に係る肌評価システムは、光によるドットパターンを、ユーザの肌に投影する光源、前記ドットパターンが投影された前記肌の画像を示す画像データを生成して出力するイメージセンサ、および、前記画像データから生成された前記肌の状態を特徴付ける特徴データを外部に送信する第1の通信回路、を備える端末と、前記特徴データを受信する第2の通信回路、前記肌の状態を評価するための参照データを格納するメモリ、および、前記特徴データと、前記参照データとを比較して、前記ユーザの前記肌の状態を評価し、前記肌の状態の改善のための助言に関するデータを生成する演算回路、を備えるサーバコンピュータと、を備える。
【0031】
[項目16]
第15の項目に係る肌評価システムにおいて、前記参照データは、前記ユーザの前記肌の過去の状態を特徴付けるデータであり、前記特徴データは、前記ユーザの前記肌の現在の状態を特徴付けるデータであってもよい。
【0032】
[項目17]
第15の項目または第16の項目に係る肌評価システムにおいて、前記第2の通信回路は、前記肌の状態の改善のための助言に関する前記データを第1の通信回路に送信してもよい。
【0033】
[項目18]
第18の項目に係る肌評価方法は、コンピュータにおいて行われる肌評価方法であって、ユーザの肌の状態を特徴付ける特徴データを取得すること、前記特徴データと、メモリに記録された前記肌の状態を評価するための参照データとを比較することにより前記肌の状態を評価すること、及び前記肌の状態の改善のための助言に関するデータを生成すること、を含む。
【0034】
[項目19]
第18の項目に係る肌評価方法において、前記参照データは、前記ユーザの前記肌の過去の状態を特徴付ける第1の特徴データであり、前記特徴データは、前記ユーザの前記肌の現在の状態を特徴付ける第2の特徴データであり、前記メモリに前記第1の特徴データが記録されてから現在に至るまでの前記ユーザの少なくとも1つの行動に関する少なくとも1つの行動データを取得することをさらに含み、前記肌の状態を評価することにおいて、前記第1の特徴データと前記第2の特徴データとを比較することにより前記肌の状態の変化を評価し、前記少なくとも1つの行動データから、前記肌の状態の前記変化と関係がある第1のデータを決定し、前記肌の状態の改善のための助言に関する前記データを生成することにおいて、前記第1のデータに基づいて、前記肌の状態の改善のための助言に関する前記データとして、前記少なくとも1つの行動のうち、前記第1のデータに対応する前記ユーザの行動について変化を促す助言に関する第2のデータを生成してもよい。
【0035】
[項目20]
第20の項目に係るコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、ユーザの肌評価のためのプログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、前記プログラムが前記コンピュータによって実行されるときに、前記ユーザの肌の状態を特徴付ける特徴データを取得すること、前記特徴データと、メモリに記録された前記肌の状態を評価するための参照データとを比較することにより前記肌の状態を評価すること、及び前記肌の状態の改善のための助言に関するデータを生成すること、が実行される。
【0036】
[項目21]
本開示の一態様に係るプログラムは、ユーザの肌評価のためのコンピュータが実行可能なプログラムであって、前記ユーザの肌の状態を特徴付ける特徴データを取得すること、前記特徴データと、メモリに記録された前記肌の状態を評価するための参照データとを比較することにより前記肌の状態を評価すること、及び前記肌の状態の改善のための助言に関するデータを生成すること、をコンピュータに実行させる。
【0037】
以下において説明する実施形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施形態において示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0038】
本開示において、回路、ユニット、装置、部材又は部の全部又は一部、又はブロック図の機能ブロックの全部又は一部は、半導体装置、半導体集積回路(IC)、又はLSI(large scale integration)を含む一つ又は複数の電子回路によって実行されてもよい。LSI又はICは、一つのチップに集積されてもよいし、複数のチップを組み合わせて構成されてもよい。例えば、記憶素子以外の機能ブロックは、一つのチップに集積されてもよい。ここでは、LSIまたはICと呼んでいるが、集積の度合いによって呼び方が変わり、システムLSI、VLSI(very large scale integration)、若しくはULSI(ultra large scale integration)と呼ばれるものであってもよい。LSIの製造後にプログラムされる、Field Programmable Gate Array(FPGA)、又はLSI内部の接合関係の再構成又はLSI内部の回路区画のセットアップができるreconfigurable logic deviceも同じ目的で使うことができる。
【0039】
さらに、回路、ユニット、装置、部材又は部の全部又は一部の機能又は操作は、ソフトウエア処理によって実行することが可能である。この場合、ソフトウエアは一つ又は複数のROM、光学ディスク、ハードディスクドライブなどの非一時的記録媒体に記録され、ソフトウエアが処理装置(processor)によって実行されたときに、そのソフトウエアで特定された機能が処理装置(processor)および周辺装置によって実行される。システム又は装置は、ソフトウエアが記録されている一つ又は複数の非一時的記録媒体、処理装置(processor)、及び必要とされるハードウエアデバイス、例えばインタフェース、を備えていても良い。
【0040】
以下、実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0041】
(実施形態)
本開示の実施形態における肌評価装置は、肌の状態を高精度に定量化することを可能にする。「高精度に定量化する」とは、従来と比較して、人または専門パネラによる官能評価を、客観的な数値として表すことを意味する。肌評価装置の説明の前に、肌の状態を評価する原理を説明する。
【0042】
図1Aは、肌の状態を評価する原理を説明する図である。光源1は、光による離散的に配列された複数の点像を、ユーザの肌3を含む対象物に投影する。本明細書において、複数の点像を、「ドットパターン」と称することがある。光L0は、光源1から出射される。表面反射光L1は、肌表面4で反射される。拡散反射光L2は、肌3の内部に侵入し肌内部で散乱されて肌表面4から出ていく。カメラ2は、肌3から戻ってきた表面反射光L1、拡散反射光L2の少なくとも一部を検出し、検出した光の強度分布に応じた信号を出力する。
【0043】
図1Bは、カメラ2によって取得される肌表面4の画像の特性を説明する図である。表面反射光L1は、光源1のドットパターンのイメージを保っている。これに対し、拡散反射光L2は、肌内での強い散乱によって光源1のドットパターンのイメージを失っている。拡散反射光L2は、ドットパターン周辺の光であるとも言い得る。光によるドットパターンを肌3に投影することにより、表面反射光L1と拡散反射光L2とを空間的に容易に分離することができる。
【0044】
図1Aに示す肌3は、表皮33、真皮34、および皮下組織35を含む。肌内部に侵入した光の一部は、表皮33内のメラニン色素および/または真皮34内の毛細血管31、細動静脈32等の血管中のヘモグロビンによって吸収される。一方、当該光の大部分は、真皮34内のコラーゲン繊維による強い散乱を受け、肌表面から再放出される。これが、拡散反射光L2である。表面反射光L1は、肌表面での反射のために、肌内部のコラーゲン繊維の散乱の影響を受けず、肌内部の情報を含まない。表面反射光L1は、真皮34内のコラーゲン繊維の情報を取得する上ではノイズになる。表面反射光L1は、肌3の内部情報の取得に役立たないだけでなく、正確な肌3の内部情報の取得を妨げる。肌内部の情報を高精度で検出するためには、表面反射光L1の影響を抑制し、拡散反射光L2の情報を効率よく取得することが極めて重要になる。表面反射光L1の除去には、例えば偏光フィルタが有効である。
【0045】
本実施形態における評価装置では、光源1からの光の波長は、例えば略650nm以上略950nm以下に設定され得る。この波長範囲は、赤色から近赤外線の波長範囲に含まれる。本明細書では、可視光のみならず赤外線についても「光」の用語を使用する。上記の波長範囲は、「生体の窓」と呼ばれ、体内での吸収率が低いことで知られている。
【0046】
図2は、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビン、メラニン、および水のそれぞれの光の吸収係数、ならびに体内での光の散乱係数の波長依存性を示す図である。650nm以下の可視光領域では、血液、すなわちヘモグロビンによる吸収が大きい。一方、950nmよりも長い波長領域では、水による吸収が大きい。したがって、これらの波長領域の光は、肌内部の情報の取得には適していない。一方、略650nm以上略950nm以下の波長範囲内では、ヘモグロビンおよび水の吸収係数が比較的低く、散乱係数は比較的大きい。したがって、この波長範囲内の光は、体内に侵入した後、強い散乱を受けて体表面に戻ってくる。このため、効率的に肌深部の情報を取得することができる。
【0047】
本実施形態における肌評価装置では、主に、略650nm以上略950nm以下の波長範囲である「生体の窓」に該当する波長領域の光が利用される。
【0048】
以下、本実施形態における肌評価装置を、図3Aから図3Bを参照して具体的に説明する。
【0049】
図3Aは、本実施形態における肌評価装置100の例を模式的に示す図である。本実施形態における肌評価装置100は、光源1と、カメラ2と、コンピュータ20とを備える。
【0050】
光源1は、光によるドットパターンをユーザの肌3に投影する。光源1は、肌3から離れた位置に配置されている。光源1は、近赤外の波長領域の光を出射する。光源1は、ドットパターンを肌表面4に投影するように設計されている。ドットパターンは、典型的には2次元に配列された微小な輝点の集合である。用途によっては1次元に配列されたドットパターンを用いてもよい。本実施形態における肌評価装置100では、光源1として、米国Osela社のランダムドットパターンレーザプロジェクターRPP017ESが用いられた。このレーザ光源は、830nmの近赤外レーザ光を出射する光源である。レーザ光源は、45°×45°の視野角内に57446点のドットパターンを投影する。ドットパターンの投影に、レーザ光および回折光学素子からなるドットパターンレーザプロジェクターが用いられた。光源1をレーザ光にすることにより、肌3とカメラ2との距離が変化しても、焦点ボケなしに肌3にドットパターンを投影することが可能になる。屈折光学系を用いた従来のパターン投影では、距離の変動に伴う投影パターンの焦点ボケにより、大幅に測定精度が劣化するという問題があった。これを避けるために、従来、測定前に照明光学系が厳密に調整されていた。レーザ光の別のメリットは、レーザ光が偏光特性を有することである。レーザ光源と偏光フィルタとを併用することにより、表面反射光L1の成分の大部分を簡単に除去することが可能になる。
【0051】
図3Bは、カメラ2の構成およびユーザ3uの画像の一例を示す図である。カメラ2は、レンズ5と筐体6とを備える。レンズ5は、複数のレンズの集合体であり得る。レンズ5は、筐体6の前に配置されている。レンズ5は、筐体6と不図示のユーザ3uとの間に配置されているとも言い得る。筐体6の内部には、イメージセンサ7と、バンドパスフィルタ8とが設けられている。イメージセンサ7は、ドットパターンが投影されたユーザ3uの画像を取得する。イメージセンサ7は、ユーザ3uの画像を示す画像データを生成して出力する。図3Bの左図は、画像データから得られるユーザ3uの画像を示す。当該画像は、ドットパターンを含む。ドットパターンは、位置ごとの近赤外光の反射率に応じた画素値を有する。反射率が高いほど、画素値も高くなる。図3Bに示す例では、バンドパスフィルタ8は、レンズ5とイメージセンサ7との間に配置されている。バンドパスフィルタ8は、不図示のユーザ3uとイメージセンサ7との間に配置されているとも言い得る。バンドパスフィルタ8は、光源1の波長である830nm±10nmの波長の光のみを透過する。言い換えれば、バンドパスフィルタ8を透過する光の波長範囲は、光源1から出射された光の波長を含む。
【0052】
本実施形態における肌評価装置100では、光源1として半導体レーザ光源が用いられている。レーザ光は、直線偏光の特性を有する。このため、光源1に偏光フィルタを配置する必要はない。図3Bに示す例では、偏光フィルタ9は、レンズ5の前に配置されている。偏光フィルタ9は、不図示のユーザ3uと、イメージセンサ7との間に配置されているとも言い得る。偏光フィルタ9は、光源1の偏光方向と垂直になる方向に配置されている。いわゆる、直交ニコル配置である。言い換えれば、偏光フィルタ9を透過する光の偏光方向は、ユーザ3uに投影される光の特定の偏光方向に垂直である。偏光フィルタ9を通してカメラ2によって撮像することにより、表面反射光L1の影響を抑制することができる。偏光フィルタ9によって表面反射光L1の成分の大部分を除去することにより、肌内部の情報をより高精度に取得することが可能になる。
【0053】
図3Cは、コンピュータ20の構成を模式的に示すブロック図である。コンピュータ20は、入力インタフェース21と、演算回路22と、メモリ24と、制御回路25と、出力インタフェース23と、ディスプレイ26とを備える。カメラ2と入力インタフェース21とは、電気的に接続されている。イメージセンサ7から出力された画像データは、入力インタフェース21に入力される。メモリ24は、肌3の状態を評価するための参照データを記録する記録媒体である。演算回路22は、入力インタフェース21から画像データを取得し、メモリ24から参照データを取得する。演算回路22は、画像データと参照データとに基づいて、肌3の状態に関するデータを生成して出力する。演算回路22の具体的な処理については後述する。制御回路25は、コンピュータ20全体の動作を制御する。出力インタフェース23は、データを出力する。出力インタフェース23とディスプレイ26とは、電気的に接続されている。ディスプレイ26は、出力インタフェース23から出力されたデータが示す処理結果を表示する。
【0054】
演算回路22は、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)などの画像処理回路であり得る。制御回路25は、中央演算処理装置(CPU)またはマイクロコンピュータなどの集積回路であり得る。制御回路25は、例えばメモリ24に記録された制御プログラムを実行して、光源1の点灯、カメラ2の撮像、および演算回路22の演算を制御する。演算回路22および制御回路25は、統合された1つの回路によって実現されていてもよい。図3Cに示す例では、コンピュータ20がディスプレイ26を備えているが、ディスプレイ26は、有線または無線によって電気的に接続された外部の装置であってもよい。コンピュータ20は、不図示の通信回路によって遠隔地のカメラ2から画像データを取得してもよい。
【0055】
以下、実測データを用いて肌3の状態を評価する方法の一例を説明する。
【0056】
図4Aは、カメラ2によって取得されたユーザ3uの画像の一例を示す図である。カメラ2は、近赤外光用のカメラである。本実施形態における肌評価装置100では、偏光フィルタ9によって表面反射光L1の成分の大部分は除去されるものの、完全には除去されない。そのため、図4Aに示すように、取得された画像では、表面反射光L1に起因するドットパターンが観察される。表面反射光L1の割合が高い服の部分では明瞭なドットパターンが観察される。一方、肌3では照射光が内部に侵入し拡散反射する。そのため、ドットパターンのコントラストは、服と比較して低下する。
【0057】
図4Bは、図4Aに示す太い実線によって囲まれた対象領域を拡大した図である。当該対象領域は、額領域である。図4Bに示すように、肌領域においても、光によるドットパターンを確認することができる。
【0058】
図4Cは、図4Bに示す画像から生成された度数分布の実測値および計算値を示す図である。横軸は、画素が受光した光の強度を表す。強度は、10ビット、すなわち210=1024の整数の画素値によって表される。縦軸は当該強度の頻度を表す。頻度は、当該画素値を有する画素の数に相当する。激しく振動する曲線は、実測値である。実測値はランダムノイズを含む。度数分布の実測値から、直接反射光L1の成分、拡散反射光L2の成分、およびバックグラウンドの成分が、計算値として分離される。
【0059】
演算回路22は、直接反射光L1、拡散反射光L2、およびバックグラウンドの各成分がガウス分布であると仮定して、度数分布の実測値を3つのガウス分布でフィッティングする。3つのガウス分布のうち、最も大きい平均値を有するガウス分布が直接反射光L1の成分であり、2番目に大きい平均値を有するガウス分布が拡散反射光L2の成分であり、最も小さい平均値を有するガウス分布がバックグラウンドの成分であると考えられる。バックグラウンドの成分は、ドットパターン以外の光の反射成分であると考えられる。実際には、少ないながら、光源1からドットパターン以外の光も出射され得るからである。
【0060】
表皮33内の直接反射光L1の成分は、g(x)=Aexp{-(x-μ/(2σ )}によって表される。真皮34内の拡散反射光L2の成分は、g(x)=Aexp{-(x-μ/(2σ )}によって表される。バックグラウンドの成分は、g(x)=Aexp{-(x-μ/(2σ )}によって表される。AからAは、ピーク高さである。μからμは、平均値であり、μ>μ>μを満たす。σからσは、標準偏差である。フィッティングでは、各パラメータを変化させて、度数分布の実測値とf(x)=g(x)+g(x)+g(x)との差分が繰り返し計算される。これにより、当該差分が最小になる9個のパラメータ(A、μ、σ)、(A、μ、σ)、(A、μ、σ)が決定される。例えば、各強度における度数分布の実測値とf(x)との誤差の2乗をすべて合計した値が最小になるとき、差分が最小であると判断される。
【0061】
図4Cに示すように、上記のフィッティングによって算出した3つのガウス分布の合計値は、実測値と良く一致していることがわかる。直接反射光L1の成分と拡散反射光L2の成分とが、度数分布から分離されていることがわかる。拡散反射光L2の成分は、真皮34内での散乱の度合いを反映する。当該散乱の度合いは、美しい肌の特性を表す。したがって、拡散反射光L2の成分から肌3の状態を評価することが可能になる。
【0062】
図5Aから図5Cは、それぞれ25才、40才、および58才のユーザから得られた度数分布の実測値および計算値を示す図である。前述したフィッティングにより、各度数分布の実測値から、直接反射光L1の成分、拡散反射光L2の成分、およびバックラウンドの成分が分離されている。一見して、3つの度数分布の実測値の差は明瞭ではない。しかし、例えば、拡散反射光L2の成分を示す中央に位置するガウス分布は、ユーザごとに異なる形状を有する。
【0063】
図6は、25才、40才、および58才のユーザから得られた拡散反射光L2の成分を示す図である。強度の平均値は、年齢に関係なく、ほぼ一致する。一方、ガウス分布の幅は、年齢が上昇するにつれて狭くなる。これは、年齢が上昇するにつれて、拡散反射の度合い、すなわち散乱係数が低くなることを意味している。
【0064】
図7は、年齢と、拡散反射光L2の成分の標準偏差σskinとの関係を示す図である。白丸は、25才から58才までの14人のユーザから得られた標準偏差を表す。直線は、最小2乗法によって複数の白丸から算出された1次関数である。個人差はあるが、1次関数から、拡散反射光L2の成分の標準偏差が、年齢の増加と共に低下する傾向にあるがわかる。コラーゲンは、線維芽細胞によって生成される。加齢に伴う線維芽細胞の機能の低下により、真皮34内のコラーゲン量が減少することが知られている。コラーゲン量は、60代では20代の30%しかないというデータもある。このようなデータから、コラーゲン量の低下が肌3の老化の原因であると考えられている。前述したように、真皮34内のコラーゲン繊維による光散乱が、肌の拡散反射を決定付ける。本実施形態における肌評価装置100によって肌3の拡散反射光L2の成分を測定することにより、肌3のコラーゲン状態を推定することが可能になる。例えば、図7に示す1次関数と、拡散反射光L2の成分から算出された標準偏差との比較から得られる年齢を、肌年齢とすることができる。
【0065】
肌3のコラーゲン量は、年齢だけでなく、紫外線、高血糖、または、アミノ酸もしくはビタミンC不足などの食生活によって影響を受けることが知られている。本実施形態における肌評価装置100により、肌3のコラーゲンの状態を日常生活の中で評価することが可能になる。これにより、肌3の状態に合わせて日常生活に注意を払うことができる。その結果、美しい肌を持続することが可能になると期待される。
【0066】
図8は、本実施形態における肌評価装置100の前述の動作を示すフローチャートである。
【0067】
ステップS101において、光源1から、光によるドットパターンが、ユーザ3uの肌3に投影される。光源1は、例えば、レーザ光源である。その場合、ユーザ3uの肌3に投影される光は、特定方向に偏光している。
【0068】
ステップS102において、ユーザ3uからの反射光が、イメージセンサ7によって検出され、ユーザ3uの画像を示す画像データが出力される。光源1がレーザ光源であれば、ユーザ3uからの反射光のうちの直接反射光L1の成分の大部分は、偏光フィルタ9によって除去される。出力された画像データは、イメージセンサ7から、無線または有線によって入力インタフェース21に入力される。
【0069】
ステップS103において、演算回路22は、画像における少なくとも一部の領域を、対象領域として選択する。対象領域は、例えば、ユーザ3uの額領域である。対象領域は、ユーザ3uの鼻領域、頬領域、および顎領域でもよい。
【0070】
ステップS104において、演算回路22は、画像データから、対象領域における強度と当該強度の頻度との関係を示す度数分布を生成する。度数分布は、直接反射光L1の成分、拡散反射光L2の成分、およびバックグラウンドの成分を含む。これら3つの成分は、次のステップにおいて度数分布から分離される。
【0071】
ステップS105において、演算回路22は、度数分布を前述の3つのガウス分布g(x)、g(x)、g(x)でフィッティングして、(A、μ、σ)、(A、μ、σ)、(A、μ、σ)を決定し、肌3の状態を特徴付ける特徴データを生成する。言い換えれば、演算回路22は、画像データが示す画像の少なくとも一部の領域における強度と頻度との関係から、肌3の状態を特徴付ける特徴データを生成する。特徴データは、例えば、拡散反射光L2の成分の標準偏差σの値を示す。拡散反射光L2の成分の標準偏差σは、肌の美しさ、または若さを反映する。
【0072】
ステップS106において、演算回路22は、特徴データと、メモリ24に記録された参照データとを比較する。参照データは、例えば、図7に示す複数のユーザからそれぞれ得られた複数の標準偏差の値を示す。複数の標準偏差の各々は、ユーザ3uの標準偏差と同じ演算によって得られる。演算回路22は、例えば、図7に示す1次関数と、拡散反射光L2の成分の標準偏差とから、肌年齢を算出することができる。
【0073】
ステップS107において、演算回路22は、ユーザ3uの肌3の状態に関するデータを出力する。ディスプレイ26は、肌3の状態に関するデータを示す情報を表示する。当該情報は、例えば、肌年齢である。
【0074】
前述した実施形態では、日常生活の中で簡単に肌3の状態を評価することができる小型で安価な肌評価装置100が示された。他の実施形態として、さらに簡単な肌評価システムを説明する。
【0075】
近年、スマートフォンなどの携帯端末において、生体個人認証のために、近赤外光のドットアレーを出射する光源と、近赤外光用のカメラとが搭載された機種が発売されている。当該機種は、3D顔認証機能を有する。3D顔認証機能では、ユーザ3uの顔の凹凸を3次元像として測定することにより、個人認証が高精度に行われる。本開示とは使用目的は異なるが、近赤外光のドットアレーをユーザ3uの顔に投影し、近赤外画像を撮影するハードウェアは同じである。そこで、本発明者は、このような携帯端末によって肌3の状態を評価することが可能かどうかを調べた。
【0076】
図9は、携帯端末10によってユーザ3uの肌3を評価する様子を模式的に示す図である。携帯端末10は、前述の3D顔認証機能を有するApple社のiPhone(登録商標)Xである。iPhone(登録商標)Xでは、波長940nmの近赤外光のドットアレーを出射する光源1と、近赤外光用のカメラ2とが、上部に搭載されている。この携帯端末10を用い、光源1を点灯させた状態で、ユーザ3uの顔が、カメラ2によって撮像された。
【0077】
図10は、本実施形態における肌評価システム200の構成を模式的に示すブロック図である。本実施形態における肌評価システム200は、携帯端末10と、サーバコンピュータ30とを備える。
【0078】
携帯端末10は、不図示の光源1と、不図示のカメラ2と、入力インタフェース21と、演算回路22と、メモリ24と、制御回路25と、出力インタフェース23と、ディスプレイ26と、通信回路27とを備える。図10に示す携帯端末10の構成は、通信回路27を除いて、図3Cに示すコンピュータ20の構成と同じである。演算回路22は、強度と当該強度の頻度との関係を示すデータを生成する。通信回路27は、演算回路22によって生成されたデータを、無線通信を通じてサーバコンピュータ30における通信回路47に送信する。
【0079】
サーバコンピュータ30は、演算回路42と、メモリ44と、制御回路45と、通信回路47とを備える。メモリ44は、携帯端末10からサーバコンピュータ30に送信された各種のデータを記録する。メモリ44は、それまでに測定されたユーザ3uの過去のデータも記録する。制御回路45は、サーバコンピュータ30全体の動作を制御する。
【0080】
肌3の状態を評価は、携帯端末10とサーバコンピュータ30とに分担して演算処理され得る。各々の演算処理をどちらの演算回路22、42が実行するかは、演算回路22、42の能力およびメモリ24、44の容量に応じて決定される。本実施形態における肌評価システム200では、肌3の現在の状態は、携帯端末10によって測定され、測定された肌3の現在の状態は、サーバコンピュータ30によって評価され、評価結果は、携帯端末10によって表示されることにした。当然、肌3の現在の状態の測定および評価、ならびに評価結果の表示は、携帯端末10だけによって行われてもよい。この場合、無線通信の状態の悪い環境でも、スタンドアローンで携帯端末10を使用できるという利点がある。
【0081】
サーバコンピュータ30における演算回路42は、現在のデータと過去のデータとを比較して、両データの変化量を計算する。演算回路42は、計算結果に基づいて、肌3の状態を改善するために適切と考えられる生活上の助言に関するデータを生成する。生活上の助言は、例えば、紫外線の防御、睡眠、または摂取すべき栄養素に関する。通信回路47は、当該助言に関するデータを携帯端末10における通信回路27に送信する。
【0082】
携帯端末10は、ユーザ3uの日々の睡眠時間、摂取栄養素、および/または紫外線暴露量などのユーザ3uの行動データを別途取得する。睡眠時間は、ユーザ3uが日々の睡眠時間を入力することによって取得される。摂取栄養素は、ユーザ3uが入力する毎食の食事メニューから推定される。紫外線暴露量は、ユーザ3uが入力する1日の屋外での活動時間と、天気情報から取得したその日の紫外線量とから推定される。携帯端末10における通信回路27は、日々取得したこれらのデータと、ユーザ3uの肌3のデータとをサーバコンピュータ30における通信回路47に送信する。
【0083】
サーバコンピュータ30における演算回路42は、ユーザ3uの肌3の状態の日々の変化と、行動データとの相関を監視することにより、ユーザ3uの肌3の状態の変化の要因を特定する。演算回路42は、当該要因に応じて、ユーザ3uへの適切な助言に関するデータを生成する。例えば、真皮34内の拡散反射の度合いが低下した時期において睡眠時間が低下していた場合、十分な睡眠を促す助言に関するデータが生成される。当該時期においてビタミンCなどの特定の栄養素の摂取量が基準値以下であった場合、当該栄養素を摂取できる食事メニューの助言に関するデータが生成される。当該時期において紫外線暴露量が基準値以上であった場合は、紫外線対策を促す助言に関するデータが生成される。サーバコンピュータ30における通信回路47は、上記の助言に関するデータを、携帯端末10における通信回路27に送信する。
【0084】
本実施形態の肌評価システム200では、日常的に携帯し使用しているスマートフォンなどの携帯端末10により、簡単に定常的に肌3の状態を評価することが可能になる。特別な装置を用いることなく、空き時間に短時間で肌3の状態を評価することが可能になる。日常生活においても、簡便に肌3の状態を評価することができ、そのデータをサーバコンピュータ30上で解析することができる。そのため、個人ごとに肌3の状態の改善に有効な方法を見出して適切に助言することが可能になる。サーバコンピュータ30上に個人の行動データと肌3の状態のデータとを蓄積することにより、個人の行動習慣と肌3の状態とを紐付けすることが可能になる。このようなビッグデータの解析により、肌3の状態を有効に改善することが可能になる。
【0085】
図11は、25才から58才までの5人のユーザから得られた度数分布を示す図である。図12は、年齢と、拡散反射光L2の成分の標準偏差σskinとの関係を示す図である。白丸は、5人のユーザから得られた標準偏差を表す。直線は、最小2乗法によって複数の白丸から算出された1次関数である。標準偏差の算出方法については、前述した通りである。図12に示すように、本実施形態における肌評価システム200からも、年齢と、真皮34内における拡散反射との明確な関係が得られることがわかる。これにより、本実施形態における肌評価システム200の有効性を検証することができた。
【0086】
図13は、本実施形態における肌評価システム200の前述の動作を示すフローチャートである。ステップS201からS204、ならびに、S209およびS210は、携帯端末10の動作を示す。ステップS205からステップS208は、サーバコンピュータ30の動作を示す。
【0087】
ステップS201において、ユーザ3uの少なくとも1つの行動に関する少なくとも1つの行動データが取得される。当該行動は、メモリ44に参照データが記録されてから現在に至るまでの行動であり、例えば、屋外での活動、睡眠、および食事である。参照データは、ユーザ3uの肌3の過去の状態を特徴付ける特徴データである。
【0088】
ステップS202、S203は、それぞれ図8に示すステップS101、S102と同じである。演算回路22は、図8に示すS103からS105と同様の動作により、イメージセンサ7から出力された画像データから、ユーザ3uの肌3の現在の状態を特徴付ける特徴データを生成する。
【0089】
ステップS201と、ステップS202、S203との順番は逆でもよい。
【0090】
ステップS204において、通信回路27は、少なくとも1つの行動データと、特徴データとを外部に送信する。
【0091】
ステップS205において、通信回路47は、少なくとも1つの行動データと、特徴データとを受信する。
【0092】
ステップS206において、演算回路42は、特徴データと、参照データとを比較する。演算回路42は、過去の特徴データと現在の特徴データとを比較して肌3の状態の変化を評価する。例えば、現在の特徴データから得られた肌年齢が、過去の特徴データから得られた肌年齢よりも高ければ、肌3の状態が悪化したと評価される。
【0093】
ステップS207において、演算回路42は、肌3の状態の改善のための助言に関するデータを生成する。当該助言を生成するに際して、以下の処理が行われる。演算回路42は、少なくとも1つの行動データから、肌3の状態の変化と関係があるデータを決定する。肌3の状態が悪化した場合、その原因として、屋外での長い活動時間による紫外線暴露量の増加、短い睡眠時間、および食事からの摂取栄養素の不足が考えられる。演算回路42は、決定したデータに基づいて、助言に関するデータとして、ユーザ3uが行った行動について変化を促す助言に関するデータを生成する。当該助言は、例えば、屋外での活動時間の短縮、睡眠時間の増加、および摂取栄養素の充足に関する。
【0094】
ステップS208において、通信回路47は、助言に関するデータを通信回路27に送信する。
【0095】
ステップS209において、通信回路27は、助言に関するデータを受信する。
【0096】
ステップS210において、ディスプレイ26は、特徴データを示す情報と、助言に関するデータを示す情報とを表示する。特徴データを示す情報は、例えば、肌年齢である。助言に関するデータを示す情報は、例えば、「屋外での活動時間を短くする」、「睡眠時間を増やす」、および「栄養素の高い食事をする」である。
【0097】
図14A及び図14Bは、本実施形態における肌評価システム200のスマートフォンへの応用例を模式的に示す図である。図14A及び図14Bに示す例では、近赤外レーザ光によるドットパターンを投影する光源1と、近赤外光用のカメラ2とが搭載されたスマートフォンに、肌3の状態を評価する機能が、アプリケーションソフトウエアとして追加されている。当該ソフトウエアを起動すると、光源1から近赤外レーザ光によるドットパターンがユーザ3uの顔に投影され、顔が認識されると近赤外画像が撮影される。図14Aに示す例では、画像データから算出された肌年齢が、画面上に表示される。画面選択により、図14Bに示すように、サーバコンピュータ30に蓄積されたデータから、これまでの肌3の状態の変化が表示され、ユーザへの生活上の助言が表示される。
【0098】
前述した例では、度数分布を3つのガウス分布でフィッティングして、肌3の状態が評価された。当該フィッティングによらずに、肌3の状態を評価することも可能である。
【0099】
図15Aは、28才および58才のユーザから得られた累積度数分布を示す図である。累積度数分布は、強度と、当該強度以下の累積頻度との関係を示す。図15Aに示す例では、全画素の強度の平均値が0となるように、横軸における強度がシフトされている。すなわち、横軸における強度は、相対強度である。両ユーザの累積強度分布はよく似ている。しかし、詳細に見ると、光強度の弱い部分の裾の広がりが、28才のユーザの方が大きいことがわかる。これは、真皮34内の拡散反射光L2の成分の裾の部分が、光強度の弱い部分に現れているためである。この分布を用いて肌3の状態を評価することができる。
【0100】
図15Bは、図15Aに示す破線によって囲まれた領域を拡大した図である。例えば、累積度数0.2の相対強度を閾値として、それ以下の相対強度である累積度数の積分値を計算することにより、肌の状態を示す分布の裾の広がりを評価することができる。累積度数0.2の相対強度は、-65である。当該積分値は、光強度-∞から-65までの累積度数の総和である。または、累積度数0.2の相対強度を閾値として、累積度数がその1/4、すなわち0.05の相対強度と、当該閾値での相対強度との差d1、d2から肌3の状態を評価することができる。
【0101】
本実施形態における肌評価装置100および肌評価システム200において、特徴データは、ユーザ3uの累積度数分布における裾の広がりの値を示していてもよい。参照データは、複数のユーザからそれぞれ得られた複数の累積度数分布における複数の裾の広がりを示していてもよい。複数の裾の広がりの各々は、ユーザ3uの累積度数分布における裾の広がりと同じ演算によって得られる。例えば、図7に示す複数の白丸として、複数の標準偏差の代わりに、複数の裾の広がりがプロットされてもよい。この場合、複数の裾の広がりから最小2乗法によって1次関数を算出し、当該1次関数から肌年齢を算出してもよい。また、参照データは、ユーザ3uの累積度数分布における裾の広がりの過去の値を示していてもよい。
【0102】
前述の方法以外でも、肌3の状態を評価することができる可能性がある。例えば、図5Aから図5Cに示すように、度数分布自体の幅は、年齢と共に狭くなっている。直接反射光L1の成分の幅も、年齢と共に狭くなっている。拡散反射光L2の成分と異なり、度数分布自体および直接反射光L1の成分は、真皮34内での拡散反射の度合いを直接反映するわけではない。しかし、度数分布自体および直接反射光L1の成分は、真皮34内での拡散反射の度合いを間接的に反映している可能がある。その場合、度数分布自体の標準偏差および直接反射光L1の成分の標準偏差によって肌3の状態を評価してもよい。
【0103】
以上、本開示の実施形態が例示された。本開示は、前述の実施形態に限定されず、多様な変形が可能である。例えば、本実施形態における肌評価装置100において、メモリ24に記録された参照データは、複数のユーザからそれぞれ得られた複数の標準偏差の値以外に、ユーザ3uの肌3の過去の状態を特徴付ける特徴データであってもよい。これにより、ユーザ3uの肌3の状態の変化を調べることができる。同様に、本実施形態における肌評価システム200において、サーバコンピュータ30のメモリ44に記録された参照データは、ユーザ3uの肌3の過去の状態を特徴付ける特徴データ以外に、複数のユーザからそれぞれ得られた複数の標準偏差の値であってもよい。これにより、サーバコンピュータ30において、肌年齢を算出することができる。
【0104】
前述した各実施形態について説明した処理は、他の実施形態においても適用できる場合がある。以下、他の実施形態の例を説明する。
【0105】
前述の実施形態では、光源1にレーザ光源が用いられているが、他の種類の光源が用いられてもよい。例えば、より安価なLED光源を用いることも可能である。ただし、レーザ光源と比較して、LED光源から出射される光は、低い直進性のため、広がりやすい。そのため、使用の際に、専用の集光光学系を用いるか、または、対象物とカメラとの距離を短くするなどの工夫がなされる。
【0106】
本実施形態における肌評価装置100は、光学系の焦点を調整する調整機構を備えていてもよい。演算回路22は、イメージセンサ7から出力された画像データを用いて顔認識の処理を行う。演算回路22は、額、鼻、頬、および顎などの測定すべき肌を領域分けして、それぞれの領域における肌3の状態を評価することができる。
【0107】
演算回路22は、画像データから、肌3の表面から抽出された直接反射光L1の成分に基づいて、メラニン色素の濃度、しみの有無、およびあざの有無の少なくとも1つを含む表皮33内のデータを生成してもよい。直接反射光L1の成分の分離方法については、前述した通りである。
【0108】
以上に説明したように、本開示の実施形態によれば、高価な専用設備を用いることなく、センサなどの検出装置をユーザに接触させることなく、簡単に肌の状態を評価することが可能になる。
【0109】
本開示は、演算回路が実行する動作の方法も含む。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本開示における肌評価装置は、非接触で簡便に肌の状態を評価する用途に適用できる。
【符号の説明】
【0111】
1 光源
2 カメラ
3 肌
4 肌表面
5 レンズ
6 筐体
7 イメージセンサ
8 バンドパスフィルタ
9 偏光フィルタ
10 携帯端末
20 コンピュ-タ
21 入力インタフェース
22、42 演算回路
23 出力インタフェース
24、44 メモリ
25、45 制御回路
27、47 通信回路
30 サーバコンピュータ
31 毛細血管
32 細動静脈
33 表皮
34 真皮
35 皮下組織
L0 光
L1 表面反射光
L2 拡散反射光
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15A
図15B