(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120441
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】ペリクル、露光原版、露光装置、ペリクルの製造方法及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/62 20120101AFI20230822BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
G03F1/62
G03F7/20 503
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107557
(22)【出願日】2023-06-29
(62)【分割の表示】P 2022541568の分割
【原出願日】2021-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2020133262
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 陽介
(57)【要約】
【課題】ペリクル膜の破損を抑制できるペリクル、露光原版及び露光装置、並びにペリクル膜の破損を抑制できるペリクルの製造方法及び半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】炭素含有率が40質量%以上である炭素系の膜を含むペリクル膜と、ペリクル膜を支持する支持枠と、を含み、ペリクル膜と支持枠とが接触しており、下記の条件1及び条件2の少なくとも一方を満足するペリクル。〔条件1〕支持枠は、ペリクル膜と接触している面の粗度Raが1.0μm以下である。〔条件2〕支持枠は、ペリクル膜と接触している面側にありかつペリクルの内部側にある縁部において、凹凸の幅が10μm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素含有率が40質量%以上である炭素系の膜、ポリシリコン、及び炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1つを含むペリクル膜と、
前記ペリクル膜を支持する支持枠と、を含み、
前記ペリクル膜と前記支持枠とが接触しており、
下記の条件1及び条件2の少なくとも一方を満足するペリクル。
〔条件1〕
前記支持枠は、前記ペリクル膜と接触している面の粗度Raが1.0μm以下である。
〔条件2〕
前記支持枠は、前記ペリクル膜と接触している面側にありかつペリクルの内部側にある縁部において、凹凸の幅が10μm以下である。
【請求項2】
前記ペリクル膜が、前記炭素含有率が40質量%以上である炭素系の膜を含む請求項1に記載のペリクル。
【請求項3】
前記炭素系の膜がカーボンナノチューブを含む膜である請求項1又は請求項2に記載のペリクル。
【請求項4】
前記条件1及び前記条件2の両方を満足する請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のペリクル。
【請求項5】
前記支持枠が、前記ペリクル膜を支持する第1の支持枠と、前記第1の支持枠に接続される第2の支持枠と、を備える請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のペリクル。
【請求項6】
パターンを有する原版と、
前記原版のパターンを有する側の面に装着された請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のペリクルと、
を含む露光原版。
【請求項7】
請求項6に記載の露光原版を有する露光装置。
【請求項8】
露光光を放出する光源と、
請求項6に記載の露光原版と、
前記光源から放出された前記露光光を前記露光原版に導く光学系と、を有し、
前記露光原版は、前記光源から放出された前記露光光が前記ペリクル膜を透過して前記原版に照射されるように配置されている露光装置。
【請求項9】
前記露光光がEUV光である請求項8に記載の露光装置。
【請求項10】
カーボンナノチューブを準備する工程と、
支持枠を準備する工程と、
前記カーボンナノチューブをシート状に成膜してペリクル膜を製造する工程と、
前記ペリクル膜を、開口部を有する支持枠の前記開口部を覆うように支持枠に接続する工程と、
を含み、
前記支持枠は、製造されるペリクルにおいてペリクル膜と接触する面の粗度Raが1.0μm以下であり、
前記支持枠は、製造されるペリクルにおいてペリクル膜と接触する面側にありかつペリクルの内部側にある縁部において、凹凸の幅が10μm以下であるペリクルの製造方法。
【請求項11】
光源から放出された露光光を、請求項6に記載の露光原版の前記ペリクル膜を透過させて前記原版に照射し、前記原版で反射させる工程と、
前記原版によって反射された露光光を、前記ペリクル膜を透過させて感応基板に照射することにより、前記感応基板をパターン状に露光する工程と、
を含む半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ペリクル、露光原版、露光装置、ペリクルの製造方法及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品、プリント基板、ディスプレイパネル等の物体の表面に感光性の物質を塗布し、パターン状に露光してパターンを形成する技術(フォトリソグラフィー)では、フォトマスクと呼ばれる片面にパターンが形成された透明基板が使用されている。
近年、露光パターンの高精細化が進むにつれて、露光の光源として、DUV(Deep
UltraViolet:遠紫外)光に代えて、より短波長のEUV(ExtremeUltraViolet:極端紫外)光の利用が拡大している。EUV光を用いる露光方法では、露光光を反射する反射層を備えるフォトマスクが使用されることがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、ペリクル枠内側面の表面粗さが、Ra0.3~0.9μm、Rt4.0~8.5μm、RMS0.3~1.1μmの範囲にあり、枠内側面が粘着性樹脂によってコーティングされていることを特徴とするリソグラフィー用が開示されている。
【0004】
例えば、特許文献2には、ペリクル面積が1000cm2以上の液晶用大型ペリクルにおいて、フレームのペリクル膜接着面の表面粗度がRa0.4μm~4μmであり、接着剤を介してペリクル膜が貼り付けられることを特徴とする液晶用大型ペリクルが開示されている。
【0005】
例えば、特許文献3には、ペリクルの枠体にごみ等が付着した場合に検知し易くするためブラスト処理を施すことが開示されている。
【0006】
特許文献1:特開平11-167198号公報
特許文献2:特開2006-184704号公報
特許文献3:特開2012-159671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フォトリソグラフィーにおいて、EUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外)光による露光は真空環境下で行われる。
露光が開始される際は、露光装置全体が真空引きされており、露光装置内部に接続されているロードロックチャンバー内にペリクル及びフォトマスクが配置され、ロードロックチャンバー内部で大気圧環境から真空環境へと変化する。
このロードロックチャンバーの真空引きの際、ペリクル外部の気圧低下速度がペリクル内部の気圧低下速度よりも速くなる傾向にある。そのため、
図1に示すように、露光装置の真空引きにより、ペリクル10の内部からペリクル10の外部へ向かう方向に、支持枠14に支持されたペリクル膜12が膨らむ。
一方で、露光が終了する際は、露光装置内からロードロックチャンバーへとペリクルが搬送され、ロードロックチャンバー内部が真空環境から大気圧環境へと変化する。そのため、
図2に示すように、露光が終了する際、ペリクル10の外部からペリクル10の内部へ向かう方向に、支持枠14に支持されたペリクル膜12が押される。
ここで、
図3(a)及び(b)に示すように、支持枠とペリクル膜との接触面のうち、支持枠のペリクル内部側の縁部に応力集中が生じやすくなり、ペリクル膜が破損しやすくなるという課題が存在する。
さらに、特許文献3に記載されているように、異物を検知し易くするためにペリクルに対してブラスト処理が施される場合には、上記の課題はより顕在化すると考えられる。
また、露光装置内部における真空引き及び大気圧開放に限らず、ペリクルを装着したフォトマスクをハンドリングする際に、気流によってペリクル膜が圧力を受けることでも、
図1及び
図2のように膜の膨らみが生じる。
【0008】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、ペリクル膜の破損を抑制できるペリクル、露光原版及び露光装置を提供することである。
本開示の他の一実施形態が解決しようとする課題は、ペリクル膜の破損を抑制できるペリクルの製造方法及び半導体装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための具体的手段は以下の態様を含む。
<1> 炭素含有率が40質量%以上である炭素系の膜、ポリシリコン、及び炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1つを含むペリクル膜と、前記ペリクル膜を支持する支持枠と、を含み、前記ペリクル膜と前記支持枠とが接触しており、下記の条件1及び条件2の少なくとも一方を満足するペリクル。
〔条件1〕
前記支持枠は、前記ペリクル膜と接触している面の粗度Raが1.0μm以下である。
〔条件2〕
前記支持枠は、前記ペリクル膜と接触している面側にありかつペリクルの内部側にある縁部において、凹凸の幅が10μm以下である。
<2> 前記ペリクル膜が、前記炭素含有率が40質量%以上である炭素系の膜を含む<1>に記載のペリクル。
<3> 前記炭素系の膜がカーボンナノチューブを含む膜である<1>又は<2>に記載のペリクル。
<4> 前記条件1及び前記条件2の両方を満足する<1>~<3>のいずれか1つに記載のペリクル。
上記<4>は、以下の<4-1>の通りに換言してもよい。
<4-1> カーボンナノチューブを含むペリクル膜と、前記ペリクル膜を支持する支持枠と、を含み、前記ペリクル膜と前記支持枠とが接触しており、前記支持枠は、前記ペリクル膜と接触している面の粗度Raが1.0μm以下であり、前記支持枠は、前記ペリクル膜と接触している面側にありかつペリクルの内部側にある縁部において、凹凸の幅が10μm以下である<1>~<3>のいずれか1つに記載のペリクル。
<5> 前記支持枠が、前記ペリクル膜を支持する第1の支持枠と、前記第1の支持枠に接続される第2の支持枠と、を備える<1>~<4>のいずれか1つに記載のペリクル。
<6> パターンを有する原版と、前記原版のパターンを有する側の面に装着された<1>~<5>のいずれか1つに記載のペリクルと、を含む露光原版。
<7> <6>に記載の露光原版を有する露光装置。
<8> 露光光を放出する光源と、<6>に記載の露光原版と、前記光源から放出された前記露光光を前記露光原版に導く光学系と、を有し、前記露光原版は、前記光源から放出された前記露光光が前記ペリクル膜を透過して前記原版に照射されるように配置されている露光装置。
<9> 前記露光光がEUV光である<8>に記載の露光装置。
<10> カーボンナノチューブを準備する工程と、支持枠を準備する工程と、前記カーボンナノチューブをシート状に成膜してペリクル膜を製造する工程と、前記ペリクル膜を、開口部を有する支持枠の前記開口部を覆うように支持枠に接続する工程と、を含み、前記支持枠は、製造されるペリクルにおいてペリクル膜と接触する面の粗度Raが1.0μm以下であり、前記支持枠は、製造されるペリクルにおいてペリクル膜と接触する面側にありかつペリクルの内部側にある縁部において、凹凸の幅が10μm以下であるペリクルの製造方法。
<11> 光源から放出された露光光を、<6>に記載の露光原版の前記ペリクル膜を透過させて前記原版に照射し、前記原版で反射させる工程と、前記原版によって反射された露光光を、前記ペリクル膜を透過させて感応基板に照射することにより、前記感応基板をパターン状に露光する工程と、を含む半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一実施形態によれば、ペリクル膜の破損を抑制できるペリクル、露光原版及び露光装置を提供することができる。
本開示の他の一実施形態によれば、ペリクル膜の破損を抑制できるペリクルの製造方法及び半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】露光装置内を大気圧状態から真空状態に変化させる際のペリクルの変化を説明するための概略図
【
図2】露光装置内を真空状態から大気圧状態に変化させる際のペリクルの変化を説明するための概略図
【
図3】(a)真空引きを行う前の大気圧状態における支持枠のペリクル内部側の縁部を表す概略図、(b)露光が終了してペリクルが置かれる環境が真空環境から大気圧環境へと変化する際の支持枠のペリクル内部側の縁部を表す概略図
【
図5】粗度Raの測定における観察箇所を示す斜視図
【
図6】粗度Raの測定における測定画面を説明するための概略図
【
図8】本開示における支持枠のペリクル膜接触面及び縁部を説明するための断面図
【
図9】「支持枠における4つの長辺の中心部」を説明するための概略図
【
図10】縁部における凹凸の測定の際に用いる、縁部輪郭線1及び縁部輪郭線2を含む顕微鏡像を表す図
【
図11】本開示の露光装置の一例である、EUV露光装置の概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
本明細書において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0013】
≪ペリクル≫
本開示のペリクルは、炭素含有率が40質量%以上である炭素系の膜、ポリシリコン、及び炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1つを含むペリクル膜と、
前記ペリクル膜を支持する支持枠と、を含み、
前記ペリクル膜と前記支持枠とが接触しており、
下記の条件1及び条件2の少なくとも一方を満足する。
〔条件1〕
前記支持枠は、前記ペリクル膜と接触している面の粗度Raが1.0μm以下である。
〔条件2〕
前記支持枠は、前記ペリクル膜と接触している面側にありかつペリクルの内部側にある縁部において、凹凸の幅が10μm以下である。
【0014】
本開示のペリクルは、ペリクル膜が、前記炭素含有率が40質量%以上である炭素系の膜を含むことが好ましい。
すなわち、本開示のペリクルは、炭素含有率が40質量%以上である炭素系の膜を含むペリクル膜と、前記ペリクル膜を支持する支持枠と、を含み、前記ペリクル膜と前記支持枠とが接触しており、下記の条件1及び条件2の少なくとも一方を満足することが好ましい。
〔条件1〕
前記支持枠は、前記ペリクル膜と接触している面の粗度Raが1.0μm以下である。
〔条件2〕
前記支持枠は、前記ペリクル膜と接触している面側にありかつペリクルの内部側にある縁部において、凹凸の幅が10μm以下である。
【0015】
本開示のペリクルは、上記の構成であることで、ペリクル膜の破損を抑制できる。
特にEUV光による露光では、カーボンナノチューブ(CNTともいう)膜を用いたペリクルが検討されている。
従来のペリクルは支持枠とペリクル膜との間に接着剤層を有する場合が多かったため、接着剤層がペリクル膜と支持枠との直接的な接触を防止し、ペリクル膜の破損が発生し難かった。
しかし、CNT膜を用いたペリクルは、支持枠とペリクル膜とが直接接触する構造となる場合が多い。また、CNT膜は、従来のポリシリコンからなる膜と比較して柔らかく変形による応力集中が生じやすい。
以上のことから、CNT膜を用いたペリクルにおいて、ペリクル膜の破損という上記の課題はより顕在化する。
【0016】
「ペリクル膜と支持枠とが接触している」とは、ペリクル膜及び支持枠の少なくとも一部が樹脂接着剤層を介さずに張り付いている構成を意味し、ペリクル膜及び支持枠の全部が樹脂接着剤層を介さずに張り付いている構成であることが好ましい。
上記構成に該当する限り、ペリクル膜と支持枠とを張り付けるための材料を用いてもよい。例えば、ペリクル膜及び/又は支持枠にコーティング層等の層が設けられていてもよい。
コーティング層の材料としては、特に制限はないが、例えば、無機材材料、金属系材料、半導体系材料等であってもよく、Be、Ru、Ge、Pd、Si、Nb、Zr、Mo等を含んでいてもよい。
製造コスト及び歩留まりの観点から、ペリクル膜及び/又は支持枠にコーティング層が設けられていないことが好ましい。また、透過率をより高くする観点から、ペリクル膜にコーティング層が設けられていないことが好ましい。
【0017】
本開示のペリクルは、前記条件1及び前記条件2の両方を満足することが好ましい。
本開示のペリクルは、具体的には、以下の態様であることも好ましい。
本開示のペリクルの一実施形態は、カーボンナノチューブを含むペリクル膜と、ペリクル膜を支持する支持枠と、を含み、ペリクル膜と支持枠とが接触しており、支持枠は、ペリクル膜と接触している面(ペリクル膜接触面ともいう)の粗度Raが1.0μm以下であり、支持枠は、ペリクル膜と接触している面側にありかつペリクルの内部側にある縁部において、凹凸の幅が10μm以下である。
【0018】
以下、
図4を参照しながら、本開示に係るペリクルについて説明する。
図4は、本開示のペリクル10を示す概略断面図である。ペリクル10は、ペリクル膜12と支持枠14とが接着されて構成されており、支持枠14には、通気孔16が形成され、かつ、原版用接着剤層15が形成されている。
【0019】
<支持枠>
本開示のペリクルは、ペリクル膜を支持する支持枠を含む。
また、本開示のペリクルは、下記の条件1及び条件2の少なくとも一方を満足する。
〔条件1〕
前記支持枠は、前記ペリクル膜と接触している面の粗度Raが1.0μm以下である。
〔条件2〕
前記支持枠は、前記ペリクル膜と接触している面側にありかつペリクルの内部側にある縁部において、凹凸の幅が10μm以下である。
図4に示されるように、支持枠(即ちペリクル枠)14は、ペリクル膜12を支持するためのものである。
【0020】
図4に示されるように、支持枠14は、ペリクル10及び原版(不図示)に囲まれた領域と、EUV露光装置内との気圧を一定とするための通気孔16と、を有していてもよい。なお、上述の通り、通気孔16を設けない場合であっても、本開示のペリクル膜が不織布形状であれば、膜自身が通気性を有することで真空環境及び減圧環境を作り出すことが可能である。
EUV光による露光は、真空環境(減圧環境)下で行われるため、真空への減圧時にペリクル膜12が圧力差によって伸縮したりする。この際、ペリクル膜が破損するおそれがある。通気孔16には、ペリクル10及び原版に囲まれた領域に異物が入らないよう、フィルターが配設されることが好ましい。
フィルターとしては、ULPA(Ultra Low Penetration Air)フィルター、金属メッシュなどが挙げられる。また、支持枠14は検査しやすいように露光に支障が無い範囲で着色されていてもよい。
【0021】
また、本開示のペリクルは、条件1及び条件2の少なくとも一方を満足する。
本開示のペリクルは、条件1及び条件2の両方を満足することが好ましい。
【0022】
〔条件1〕
(支持枠の粗度Ra)
本開示のペリクルはペリクル膜と支持枠とが接触しており、条件1において、支持枠は、ペリクル膜と接触している面の粗度Raが1.0μm以下である。
これによって、支持枠とペリクル膜とが接触している面において、応力が集中することに起因するCNT膜の破損を抑制することができる。
【0023】
支持枠において、ペリクル膜接触面に対して垂直方向の凹凸が存在する場合、ペリクル膜を支持枠に張り付けた際、凹凸によってペリクル膜が引き延ばされる。凹凸の曲率が異なっている場合には、引き延ばされる割合(又は応力)が異なるため、凹凸のエッジ部分において皺及び応力の集中点が発生する。
凹凸部分により引き延ばされた箇所は、EUV露光における真空引きを行う工程等によって、さらに高い張力が加算されるため、ペリクル膜に破損が生じやすくなる。
ペリクル膜接触面の凹凸が大きいほど(即ちRaが大きいほど)、引き延ばされるペリクル膜の量は大きくなり、凹凸箇所において応力が発生しやすくなるため、ペリクル膜が破損しやすい。
【0024】
上記の観点から、本開示における支持枠のペリクル膜接触面における粗度Raが1.0μm以下であることで、応力が集中することに起因するCNT膜の破損を抑制することができる。
【0025】
支持枠は、応力が集中することに起因するCNT膜の破損を抑制する観点から、ペリクル膜接触面の粗度Raが、0.8μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。
支持枠は、ペリクル膜接触面の粗度Raの下限は特に制限はないが、0.01μm以上であってもよく、0.1μm以上であってもよい。
【0026】
粗度Raは、JISB0601(2001年)に準拠して、レーザー顕微鏡を用いて測定する。
具体的には、粗度Raは、以下の方法で測定する。
【0027】
<粗度Raの測定>
ペリクル膜と接する支持枠のペリクル膜接触面における粗度Raは、レーザー顕微鏡を用いて測定する。
具体的には、キーエンス株式会社製の形状解析レーザー顕微鏡(例えば、VKシリーズのVK-100)を用いて、対物レンズの倍率は20倍とし、ペリクル膜接触面が入射光に対して垂直になるようステージ上に支持枠を配置する。
図5は、粗度Raの測定における観察箇所を示す斜視図である。
観察箇所は、
図5に示すように、支持枠の長辺の中心部分である。また、観察箇所として、支持枠の内側(即ちペリクルの内部側)にある縁部も含むように設置する。
【0028】
図6は、粗度Raの測定における測定画面を説明するための概略図である。
測定画面において、
図6に示すように、200μmの空間を含むように、支持枠の縁部が画面内に入るようにステージ位置及びサンプル位置を配置する。
高さの測定範囲の設定は、以下の手順で行う。
レーザーでの観察モードに切り替え、上限設定は支持枠の表面を基準に5μm高い位置とし、下限位置は上限として設定された位置を基準に30μmほど低い位置に設定する。
スキャン幅(即ちレーザー観察のピッチ、及び分解能)は0.1μmとして、高さプロファイル情報を含んだ顕微鏡像を得る。
【0029】
図7は、粗度Raの測定における測定範囲を表す図である。
図7に示すように、支持枠の縁部から約100μm離れた位置において、測定範囲として(縁部に対して垂直方向に50μm)×(縁部に対して平行方向に500μm)の縁部に平行な範囲を指定し、粗度Raを求める。
【0030】
支持枠のペリクル膜接触面の粗度Raを1.0μm以下とする方法としては、特に制限はない。例えば、支持枠のペリクル膜接触面を研磨する研磨法、支持枠のペリクル膜接触面を被覆する被覆法等が挙げられる。
【0031】
〔研磨法〕
研磨法としては、バフ研磨、ベルト研磨、ブラシ法、スチールウール法、バレル法、ラップ研磨法、グラインダー研磨、CMP研磨法などの機械的研磨法を用いてもよい。
【0032】
粗度Raをさらに良好に低減させるため、以下の方法が好適である。
~化学的研磨法~
粗度Raを低減させる方法としては、化学的研磨法が挙げられる。
化学的研磨法としては、水酸化ナトリウム水溶液等を用いるアルカリエッチング法、
リン酸と硝酸と硫酸との混合液、リン酸と硝酸との混合液、リン酸と硫酸との混合液等を用いる酸性エッチング法、
フッ化水素、フッ化水素酸等のフッ素化合物を用いるエッチング法などが挙げられる。
【0033】
例えば、アルミニウムを用いた化学研磨の方法として、上述したアルカリエッチング法や酸性エッチング法を用いることができる。
また、ガラスを化学研磨する方法としては、フッ化水素、フッ化水素酸等のフッ素化合物を用いるエッチング法を用いることができる。
【0034】
~電解研磨法~
粗度Raを低減させる方法としては、電解研磨法が挙げられる。
電解研磨法は、研磨対象物を陽極側に接続し、陰極側にカーボンなどを使用して電気化学的に表面を研磨する方法である。
電解液としては、支持枠がアルミニウムの場合はリン酸-硫酸系やアルカリ系(例えば無水炭酸ナトリウム-リン酸ナトリウム)、支持枠がステンレスの場合はリン酸-硫酸系などが挙げられる。
【0035】
〔被覆法〕
被覆法としては、メッキ、塗布、物理的又は化学的な堆積方法等によって、支持枠表面に厚さ0.1μm~10μm程度の堆積物を堆積させる方法が挙げられる。
上記堆積方法によって、被覆する材料を支持枠表面に堆積させることで膜を成膜する。そして、上記膜を加熱することによって堆積層を融解させ、支持枠表面の粗度Raを低減させてもよい。
【0036】
〔条件2〕
(縁部における凹凸)
条件2において、本開示における支持枠は、ペリクル膜と接触している面側にありかつペリクルの内部側にある縁部(本開示において、単に縁部ともいう)において、凹凸の幅が10μm以下である。
これによって、支持枠の縁部において、応力が集中することに起因するCNT膜の破損を抑制することができる。
【0037】
上記の観点から、本開示における支持枠は、縁部において、凹凸の幅が、8μm以下であることが好ましく、6μm以下であることがより好ましく、4μm以下であることがさらに好ましい。
本開示における支持枠は、縁部における凹凸の下限について特に制限はないが、0.1μm超であってもよく、1μm以上であってもよい。
【0038】
本開示における支持枠において、「ペリクル膜と接触している面側にありかつペリクルの内部側にある縁部」とは、ペリクル膜の支持体の輪郭線を意味する。
具体的には、
図8を参照して説明する。
図8は、本開示における支持枠14のペリクル膜接触面101及び縁部103を説明するための断面図である。
本開示における支持枠は、ペリクル膜と接触するペリクル膜接触面101を有している。また、本開示における支持枠は、ペリクル膜と接触している面側にあり、かつ、ペリクルを製造した場合におけるペリクルの内部(即ち、支持枠の周囲によって形成される空間)側にある縁部103を有している。上記ペリクル膜接触面101と上記縁部103とは連続しており、上記縁部103において、凹凸の幅が10μm以下である。
【0039】
上述の通り、露光装置の真空引きにより、ペリクル内部からペリクル外部へ向かう方向にペリクル膜が膨らむ。一方で、露光が終了する際は、ペリクル外部からペリクル内部へ向かう方向にペリクル膜が押される。
この際、ペリクル膜には応力が集中しやすくなり、ペリクル膜が破損し易くなる。特に、ペリクル膜中、最も応力が集中する箇所は支持枠の長辺の中心部分である。
【0040】
本開示において、縁部における凹凸の幅は、
図9に示すように、支持枠における4つの長辺の中心部分において縁部における凹凸の幅を測定し、4つの中心部分のすべてにおいて縁部における凹凸の幅が10μm以下であれば、「縁部における凹凸の幅が10μm以下である」と判断する。
【0041】
<縁部における凹凸の幅の測定>
ペリクル膜と接する支持枠の縁部における凹凸の幅は、レーザー顕微鏡を用いて測定する。
具体的には、キーエンス株式会社製の形状解析レーザー顕微鏡(VKシリーズ、及びVK-100)を用いて、対物レンズの倍率は20倍とし、ペリクル膜接触面が入射光に対して垂直になるようステージ上に支持枠を配置する。
観察箇所は、支持枠における4つの長辺の中心部分である。また、観察箇所として、支持枠の内側(即ちペリクルの内部側)にある縁部も含むように設置する。
次に、上述の粗度Raの測定において記載した方法と同様の方法にて、高さプロファイル情報を含んだ顕微鏡像を得る。
【0042】
図10は、縁部における、縁部輪郭線1及び縁部輪郭線2を含む顕微鏡像を表す図である。
図10に示すように、得られた顕微鏡像について、縁部の輪郭線の抽出を行う。
顕微鏡像において、縁部で最も突出した部分(即ち凸部)に接するように、縁部に平行な線(縁部輪郭線1ともいう)を描画する。
また、顕微鏡像において、縁部で最も内側に窪んだ部分(即ち凹部)に接するように、縁部輪郭線1と水平な線(縁部輪郭線2ともいう)を描画する。
得られた縁部輪郭線1と縁部輪郭線2との差を求めて、縁部における凹凸の幅とする。
【0043】
なお、例えば、顕微鏡像において輪郭線が不明瞭な支持枠の場合には、高さプロファイルの像を表示し、ペリクル膜接触面側(最上部)から10μmほど下にある部分の等高線を輪郭線として、上述した縁部輪郭線1及び縁部輪郭線2を求め、縁部における凹凸の幅を測定する。
【0044】
縁部における凹凸の幅を10μm以下とする方法としては、特に制限はない。例えば、上述した研磨法、被覆法等を用いてもよい。
【0045】
支持枠の縁部を研磨する方法としては、シリコン基板の縁部を研磨する方法として用いられることが多いベベル研磨法が好ましい。
例えば、ベベル研磨法としては、特開2007-005661号公報に記載されている方法を用いることができる。
【0046】
(エッチング)
支持枠の縁部における凹凸の幅を10μm以下とする方法として、エッチングを用いることも好ましい。
【0047】
エッチングの方法としては、特に制限はない。
シリコンからなる支持枠のエッチングの方法としては、例えば、異方性エッチングを用いてもよく、等方性エッチングを用いてもよいが、異方性エッチングを用いることが好ましい。
【0048】
異方性エッチングの方法としては、例えば、アルカリによる異方性ウェットエッチング、及び、深堀りRIE(Reactive Ion Etching)による異方性ガスエッチングを用いることができる。
【0049】
アルカリによる異方性ウェットエッチングの薬液としては、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等を用いることができる。
【0050】
深堀りRIEに用いるガスの種類としては、C4H8、SF6等のガスを用いることができる。
【0051】
エッチングを行う際にはエッチングマスクを用いてもよい。
エッチングマスクを用いることで、エッチングを行う部分をパターニングすることが可能となる。これによって、直線性が高く粗さの少ないパターニングを容易に行うことができる。
【0052】
エッチングマスクの材質としては、例えば、アルカリによるウェットエッチングを用いる場合はSiN、SiO2,SiON等、深堀RIEを用いる場合はSiN、フォトレジスト等を用いることができる。
【0053】
異方性エッチングを行った後に、凹凸を除去する目的で、XeF2ガスなどによる等方性エッチングを行ってもよい。
【0054】
支持枠の材質、形状などは、本開示のペリクル膜を支持可能な枠であれば特に制限されない。
支持枠は、材質として、アルミニウム、チタン、ステンレス、セラミック系材料(例えばシリコン、ガラス等)ポリエチレンなどの樹脂等を含有してもよい。
上記の中でも、支持枠は、水の含有量が多くなくアウトガスの量を抑制できる観点から、材質として、アルミニウム、チタン、ステンレス、シリコン、又はガラスを含有することが好ましく、アルミニウム、チタン、又はシリコンを含有することがより好ましい。
【0055】
支持枠は、水の含有量が多くなくアウトガスの量を抑制できる観点から、表面を疎水性とするような処理を施すことが好ましく、水の含有量が多くない材料(例えば無機材料、セラミック系材料等)を用いて表面をコーティングすることも好ましい。
【0056】
支持枠は、ペリクル膜を支持する第1の支持枠と、第1の支持枠に接続される第2の支持枠と、を備えていてもよい。
また、支持枠が、第1の支持枠と第2の支持枠とを備える場合、第1の支持枠と第2の支持枠とは接着剤層を介して接着されていてもよい。
例えば、本開示において、第1の支持枠に第2の支持枠を接続する構成を有する支持枠を備えるペリクルは、ペリクル膜を支持する第1の支持枠を製造する者及び第1の支持枠に第2の支持枠を接続する者の複数で協力して製造してもよい。
本開示のペリクルは、第2の支持枠に接続される前段階における、ペリクル膜と第1の支持枠とを備える構成も含む。
【0057】
ペリクル膜を支持枠へ固定する手順や方法は特に制限されない。また、エッチングされた基板を支持枠の一部として使用してもよい。例えば、金属、シリコン基板、ガラス、樹脂、塩など、特定の処理方法で除去できる基板の上にペリクル膜を積層してもよく、その後に、ペリクル膜の配置面と反対面の基板表面に、枠のサイズに合わせてマスクを施し、マスク形状を残してエッチングまたは溶解させてもよい。これにより、基板の一部を支持枠として使用したペリクルを得ることができる。
【0058】
基板の形状を枠形状と合わせるためのトリミング方法は特に制限されない。シリコン基板を用いる場合には、機械的にウエハを割る方法や、レーザートリミングの方法を用いることができる。
【0059】
<ペリクル膜>
(炭素系の膜)
本開示におけるペリクル膜は、炭素含有率が40質量%以上である炭素系の膜を含む。
ペリクル膜が炭素系の膜を含むことで、EUV光の透過率を高めることができる。
また、炭素含有率が40質量%以上である炭素系の膜は、ペリクル膜を支持する支持枠に接続される場合に、必ずしも接着剤を用いることを要しない。炭素含有率が40質量%以上である炭素系の膜は、接着剤層を介すことなくファンデルワールス力により支持枠に接続することが可能であるためである。
【0060】
炭素系の膜は、EUV光の透過率を高める観点から、炭素含有率が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
【0061】
炭素系の膜における炭素含有率は、X線光電子分光法(XPSともいう)により測定する。
XPS測定で得られる情報は、薄膜の表面から数nmの浅い領域についての組成情報に限定されるため、表面にコート層を有する炭素系ペリクル膜を測定する場合、コート層の組成を主に検出してしまう場合がある。
そこで、XPSにより炭素系の膜における炭素含有率を測定する際には、イオンスパッタリングによってペリクル膜をエッチングしながら組成分析を行い、その深さ方向プロファイルの総量から炭素の含有率を算出する。
【0062】
炭素含有率が40質量%以上である炭素系の膜としては、例えば、カーボンナノチューブ(本開示において単に「CNT」ともいう)を含む膜(本開示において、単に「CNT膜」ともいう)、グラフェンを含む膜、グラファイトを含む膜、ダイヤモンドライクカーボンを含む膜、アモルファスカーボンを含む膜、炭化ケイ素を含む膜等が挙げられる。
【0063】
本開示のペリクルは、前記炭素系の膜が、カーボンナノチューブ(本開示においてCNTともいう)を含む膜(本開示において、単にCNT膜ともいう)であることが好ましい。
【0064】
(CNT膜)
CNT膜は、CNTを含む膜である。
ペリクル膜がCNTを含むことによって、良好な強度を得ることができる。
【0065】
CNT膜におけるCNTチューブの径は、光透過率を向上させる観点から、0.8nm以上400nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、4nm以上100nm以下であることがさらに好ましい。
カーボンナノチューブにおけるチューブの径は、ペリクル膜中において、単繊維として存在する場合は単繊維の径を指し、CNTの束(即ちバンドル)として存在する場合はバンドルの径を指す。
【0066】
CNTとしては、特に制限はなく、シングルウォールCNT又はマルチウォールCNTであってもよい。
【0067】
CNTがシングルウォールCNTである場合、光透過率を向上させる観点から、上記シングルウォールCNTにおけるバンドルの太さが、4nm~400nmであることが好ましく、4nm~40nmであることがより好ましい。
【0068】
CNTがマルチウォールCNTである場合、光透過率を向上させる観点から、上記マルチウォールCNTの単繊維の太さが、4nm~400nmであるであることが好ましく、4nm~100nmであるであることがより好ましい。
【0069】
本開示のペリクル膜において、上記CNTが不織布形状を形成していることが好ましい。
本開示のペリクル膜に含まれるCNTの形状は、通常、繊維形状であるため、本開示のペリクル膜全体として不織布形状を形成することができる。
ペリクル膜に含まれるCNTが不織布形状を形成していることで、ペリクル膜に通気性を確保することができる。
例えば、ペリクルを備える露光装置によりEUV光を用いて露光を行う場合、真空又は減圧条件下にてペリクルにEUV光を照射することが求められる。
通常、ペリクルに通気孔を設け、上記通気孔からペリクル内部の空気を除去して、真空又は減圧環境を作り出すが、通気孔を設ける手間がかかるという課題があった。
本開示のペリクル膜において、上記CNTが不織布形状を形成していることで、不織布形状によって通気性を確保することができ、容易に真空又は減圧環境を作り出すことができる。
【0070】
本開示におけるペリクル膜において、炭素系の膜と他の層とが積層されていてもよい。
本開示におけるペリクル膜において、炭素系の膜と他の層とが積層されている場合は、炭素系の膜の厚みが他の層の厚みよりも厚いことが好ましい。
炭素系の膜と他の層とが積層されている場合は、最もペリクルの外側に配置される層が他の層であることが好ましい。
炭素系の膜と他の層とが積層されている場合は、他の層を含めたペリクル膜全体の厚みに対する炭素系の膜の厚みが、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。
炭素系の膜と他の層とが積層されている場合は、他の層を含めたペリクル膜全体の厚みに対する炭素系の膜の厚みが、99%以下であってもよく、90%以下であってもよい。
また、他の層を含めたペリクル膜全体の厚みに対する炭素系の膜の厚みが、100%であってもよい。つまり、炭素系の膜と他の層とが積層されておらず、本開示のペリクル膜が炭素系の膜のみからなっていてもよい。
他の層としては、例えば下記の層が挙げられる。
【0071】
<酸化防止層>
本開示のペリクル膜において、少なくとも片面側に、酸化防止層をさらに含んでもよい。
ペリクル膜が酸化防止層をさらに含むことで、光照射又はペリクル保管の際に、ペリクル膜の酸化を抑制することができる。
【0072】
酸化防止層は、光(好ましくはEUV光)に対して安定な材料からなる層であれば、その種類は特に制限されない。例えば、SiOx(x≦2)、SixNy(x/yは0.7~1.5)、SiON、Y2O3、YN、Mo、Ru、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、またはRhからなる層等でありうる。
【0073】
光の透過を阻害しないためには、酸化防止層の厚みは1nm~10nm程度が好ましく、2nm~5nm程度がより好ましい。酸化防止層の厚みを1nm~10nm程度とすることにより、酸化防止層に光が吸収されることを抑制し、透過率の低下を抑制することができる。
【0074】
ペリクル膜の厚みに対する酸化防止層の厚みの割合は、0.03~1.0の範囲にあることが好ましい。上記数値範囲であれば、酸化防止層に光が吸収されることを抑制し、透過率の低下を抑制することができる。
【0075】
また、ペリクル膜に酸化防止層を積層すると、新たに生成した層界面、すなわち酸化防止層と空気の界面、及び酸化防止層とペリクル膜との界面で、光の反射が生じ、透過率が低下するおそれがある。これらの層界面での光の反射率は、ペリクル膜及び酸化防止層の厚み、ならびにペリクル膜及び酸化防止層を構成する元素の種類に応じて、算出することができる。そして、反射防止膜の原理と同様に膜の厚みを最適化することによって、反射率を低下させることができる。
【0076】
酸化防止層の厚みは、吸収による光の透過率低下及び反射による光の透過率低下を抑制しつつ、かつ酸化防止の性能を有する範囲で、最適な厚みとすることが好ましい。
【0077】
酸化防止層の厚み均一性や表面粗さも特に限定されない。露光のパターニング工程において、厚みの不均一性又は表面粗さに由来した透過率の不均一性、光の散乱による支障等が生じなければ、酸化防止層が連続層あるいは海島状のどちらであってもよく、また、厚みが不均一であっても表面粗さがあってもよい。
【0078】
ペリクル膜と酸化防止層とを併せたペリクル膜の平均屈折率は1.9~5.0の範囲であることが好ましい。屈折率は分光エリプソメトリーなどの手法で測定することができる。また、ペリクル膜と酸化防止層とを併せたペリクル膜の平均密度は1.5g/cm3~5.0g/cm3の範囲であることが好ましい。密度はX線反射法などの手法で測定することができる。
【0079】
ペリクル膜の厚み(二層以上からなる場合には総厚)は、例えば、10nm以上200nm以下とすることができ、10nm以上100nm以下が好ましく、10nm以上70nm以下がより好ましく、10nm以上50nm以下がさらに好ましい。
【0080】
[ペリクル膜の物性]
(放熱性及び耐熱性について)
露光の際の光として、例えばEUVを用いる場合、EUVのエネルギーが様々な緩和過程を経て熱に変わる。そのため、ペリクル膜には放熱性及び耐熱性が求められる。
本開示のペリクル膜は、CNTを含むことで、放熱性及び耐熱性を兼ね備えることができ、EUVリソグラフィー中に、ペリクル膜が破損するおそれが少ない。
したがって、従来の単結晶シリコンからなるペリクル膜は放熱性が低く、EUV光照射中に熱的ダメージを受けて変形、あるいは、破損しやすいという問題がある一方、本開示のペリクル膜を用いることによって原版を確実に保護することができる。
CNT膜が放熱性及び耐熱性を兼ね備える理由等の詳細については、再表2015/178250号公報に記載の通りである。
【0081】
<接着剤層>
本開示のペリクルは、接着剤を含有する接着剤層を含んでもよい。
接着剤層の態様としては、例えば、以下の(a)及び(b)が挙げられる。
(a)支持枠と原版とを接着させる接着剤層(原版用接着剤層ともいう)
(b)支持枠が複数ある場合において、複数の支持枠同士を接着させる接着剤層(支持枠用接着剤層ともいう)
【0082】
(接着剤)
接着剤層に含有される接着剤としては、特に制限はない。
例えば、接着剤は、アクリル樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、ポリイミド樹脂接着剤、シリコーン樹脂接着剤、無機系接着剤、両面粘着テープ、ポリオレフィン系接着剤、水添スチレン系接着剤等が挙げられる。
【0083】
(ペリクルの用途)
本開示のペリクルは、EUV露光装置内で、原版に異物が付着することを抑制するための保護部材としてだけでなく、原版の保管時や、原版の運搬時に原版を保護するための保護部材としてもよい。例えば、原版にペリクルを装着した状態(露光原版)にしておけば、EUV露光装置から取り外した後、そのまま保管すること等が可能となる。ペリクルを原版に装着する方法には、接着剤で貼り付ける方法、静電吸着法、機械的に固定する方法等がある。
【0084】
本開示のペリクルは、波長が短い露光光(例えば、EUV光、EUV光よりも更に波長が短い光、等)を用いた露光に好適に用いられる。
上記の中でも、本開示のペリクル膜は、EUV光を用いた露光に好適に用いられる。
【0085】
本開示において、EUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外)光とは、波長5nm以上30nm以下の光を指す。
EUV光の波長は、5nm以上13.5nm以下が好ましい。
本開示では、EUV光、及び、EUV光よりも波長が短い光を総称し、「EUV光等」ということがある。
【0086】
[変形例]
本開示のペリクル20の変形例としては、ペリクルを形成するペリクル膜が、膜の両面に酸化防止層が積層されていてもよい。
ペリクル膜に酸化防止層が積層されると、EUV光照射又はペリクル保管の際に、ペリクル膜の酸化が抑制される。なお、酸化防止層は、ペリクル膜の片面側のみに積層されていてもよい。
【0087】
≪ペリクルの製造方法≫
本開示のペリクルの製造方法(以下、単にペリクルの製造方法ともいう)は、 CNTを準備する工程(CNT準備工程ともいう)と、支持枠を準備する工程(支持枠準備工程ともいう)と、CNTをシート状に成膜してペリクル膜を製造する工程(ペリクル膜製造工程ともいう)と、ペリクル膜を、開口部を有する支持枠の開口部を覆うように支持枠に接続する工程(支持枠接続工程ともいう)と、を含み、
支持枠は、製造されるペリクルにおいてペリクル膜と接触する面の粗度Raが1.0μm以下であり、支持枠は、製造されるペリクルにおいてペリクル膜と接触する面側にありかつペリクルの内部側にある縁部において、凹凸の幅が10μm以下である。
【0088】
<CNT準備工程>
準備工程は、CNTを準備する工程である。
本開示のペリクルに含まれるCNTは、市販品を入手してもよく、製造して入手してもよい。
【0089】
CNTとしては、反応系に金属触媒を存在させ、かつ反応雰囲気に酸化剤を添加するCVD(ChemicalVaporDeposition:化学気相成長法)法によって、化学気相成長用基材上に形成されたものを用いることが好ましい。
CVD法としては、例えばプラズマCVD法が用いられるが、低圧CVD、または熱CVD法を用いてもよい。
このとき、上記酸化剤には水蒸気が用いられる。水蒸気の濃度としては10ppm以上10000ppm以下であってもよく、600℃以上1000℃以下の温度環境下において水蒸気を添加してもよい。
【0090】
また、金属触媒を化学気相成長用基材上に配置あるいはパターニングしてCNTを合成してもよい。
また、得られるCNTは、単層であっても複層であってもよく、化学気相成長用基材面に対して垂直方向に立設するCNTであってもよい。
詳細には、たとえば国際公開2006/011655号等を参照して製造することができる。
このようなCNTの市販品としては、例えば、日本ゼオン株式会社が販売しているスーパーグロース製法のCNTが挙げられる。
【0091】
CNT(CNTバルク構造体でもよい)としては、改良直噴熱分解合成法(EnhancedDirectInjectionPyrolyticSynthesis、以下、e-DIPS法という)法によって製造されたものを用いることが好ましい。
直噴熱分解合成法(DirectInjectionPyrolyticSynthesis、以下、DIPS法という)とは、触媒(あるいは触媒前駆体)、及び反応促進剤を含む炭化水素系の溶液をスプレーで霧状にして高温の加熱炉に導入することによって、流動する気相中で単層CNTを合成する気相流動法である。
このDIPS法を改良したe-DIPS法とは、触媒で使用されるフェロセンが反応炉内の上流下流側で粒子径が異なるという粒子形成過程に着目し、有機溶媒のみを炭素源として用いてきたDIPS法とは異なり、キャリアガス中に比較的分解されやすい。すなわち炭素源となりやすい第2の炭素源を混合することによって単層CNTの成長ポイントを制御した方法である。
詳細には、Saitoetal.,J.Nanosci.Nanotechnol.,8(2008)6153-6157を参照して製造することができる。
このようなCNTの市販品としては、例えば、名城ナノカーボン社製の商品名「MEIJOeDIPS」が挙げられる。
【0092】
<ペリクル膜製造工程>
ペリクル膜製造工程は、CNTをシート状に成膜してペリクル膜を製造する工程である。
CNTをシート状に成膜する方法としては特に制限はないが、例えば、基板上において、CNTをシート状に成膜する方法であってもよい。
【0093】
CVD法及びe-DIPS法などで得られたCNT(またはCNTバルク構造体)は、溶媒中に分散した状態で用いられ得る。
CNT(またはCNTバルク構造体)が分散した液体(分散液)を基板上に塗布し、溶媒を蒸発させて除去することにより基板上にCNT膜が形成される。
本の場合、分散液に用いた溶媒が除去されることにより、基板110の表面に対してCNTが略平行である膜が得られる。
上記塗布方法は特に限定されず、例えば、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレーコート、エレクトロスプレーコートなどが用いられてもよい。
なお、CNT形成に用いる金属触媒はEUV透過率低下の原因となる場合があるが、化学気相成長用基材からCNTを剥離した際に、CNT中に金属触媒はほとんど含まれないため影響はない。
【0094】
基板としては、無機材料を用いてもよい。
例えば、基板には、シリコン(Si)が用いられてもよい。なお、基板は、シリコン(Si)に限定されず、ゲルマニウム(Ge)、シリコンゲルマニウム(SiGe)、炭化シリコン(SiC)、砒化ガリウム(GaAs)などの半導体材料でもよいし、石英ガラス基板(酸化シリコン(SiO2))、ソーダガラス基板、ホウ珪酸ガラス基板、サファイア基板などのガラス基板、窒化シリコン(SiN)、窒化アルミニウム(AlN)基板、ジルコニア(ZrO2)基板、酸化アルミニウム(Al2O3)などでもよい。
また、基板には、CNT膜との熱ひずみを低減する観点からは、ペリクル膜と線熱膨張率の近いシリコン、サファイア、炭化シリコンの少なくともいずれかを含むことが好ましい。
また、シリコン(Si)は、単結晶シリコン、多結晶シリコン、微結晶シリコン、及びアモルファスシリコンのいずれであってもよいが、単結晶シリコンがエッチング効率の観点、及び、汎用性が高く安価である観点からは好ましい。
基板の形状は、円形でもよいし、矩形でもよい。
基板の厚さは、特に限定されないが、100μm以上3000μm以下、取り扱い上の観点から好ましくは200μm以上2000μm以下であることが好ましい。
【0095】
<支持枠準備工程>
支持枠準備工程は、支持枠を準備する工程である。また、準備する支持枠は、製造されるペリクルにおいてペリクル膜と接触する面の粗度Raが1.0μm以下であり、支持枠は、製造されるペリクルにおいてペリクル膜と接触する面側にありかつペリクルの内部側にある縁部において、凹凸の幅が10μm以下である。
【0096】
支持枠において、製造されるペリクルにおいてペリクル膜と接触する面の粗度Raを1.0μm以下とする方法は上述の通りである。
支持枠において、製造されるペリクルにおいてペリクル膜と接触する面側にありかつペリクルの内部側にある縁部において、凹凸の幅を10μm以下とする方法は上述の通りである。
【0097】
<支持枠接続工程>
支持枠接続工程は、ペリクル膜を、開口部を有する支持枠の上記開口部を覆うように支持枠に接続する工程である。
支持枠接続工程において、上述のペリクル膜と基板とを分離した後、分離したペリクル膜を支持枠(即ちペリクル枠)に接続してもよい。
【0098】
ペリクル膜と基板とを分離する方法としては、特に限定されないが、例えば以下の製造例が挙げられる。
【0099】
(基板上に犠牲層を積層して後に除去する方法)
基板上に犠牲層を積層し、その上にペリクル膜を形成して、後で犠牲層を除去することで自立膜を得ることができる。
犠牲層は、金属、酸化膜、樹脂、塩など、特定の処理方法で除去できるものとすることができる。例えば、犠牲層は、酸性溶液に溶けるアルミニウムなどの金属でありうる。具体的には、蒸着やスパッタなどでガラス基板やシリコン基板の表面に金属層を積層し、さらに金属層の上にペリクル膜を積層した後に、酸性溶液など金属層を溶かすことができる溶液に浸漬することによって、基板から膜を剥離することができる。
【0100】
基板として、自然酸化膜又は酸化ケイ素層を有するシリコン基板を用いた場合には、シリコン基板上の自然酸化膜又は酸化ケイ素層にペリクル膜をコーティングした後に、フッ酸水溶液に浸漬することによって自然酸化膜又は酸化ケイ素層を除去し、基板からペリクル膜を剥離することもできる。
【0101】
基板に積層する犠牲層を、部分けん化ポリビニルアルコール樹脂や塩化ナトリウムなどの塩のような水溶性材料としてもよい。犠牲層の上にペリクル膜を積層した後に、積層体を水に浸漬することによって、基板から膜を剥離することができる。
【0102】
基板上に積層した犠牲層を除去する方法を選定する上で、ペリクル膜のプロセス耐性、膜強度、犠牲層の除去速度、犠牲層の厚み均一性や表面粗さなどの特徴に応じて、もっとも適切な任意の手法を選定することができる。
【0103】
(基板をエッチングまたは溶解させる方法)
基板の材質を、金属、酸化膜、樹脂、塩など、特定の処理方法で除去できるものとした場合には、基板の上にペリクル膜を積層したのちに、基板をエッチングまたは溶解させることで、膜を得ることができる。
【0104】
例えば、基板として銅箔を用いた場合、銅箔表面にペリクル膜を積層した後に、塩化第二銅エッチング液に浸漬することで、銅箔基板をエッチングして基板を除去し、膜を得ることができる。
【0105】
基板をガラス基板とした場合、ガラス基板にペリクル膜を積層した後に、フッ化水素酸を用いてガラス基板をエッチングして基板を除去し、膜を得ることができる。
【0106】
基板をシリコン基板とした場合、シリコン基板にペリクル膜を積層した後に、ウェットエッチングまたはドライエッチングにより、シリコン基板をエッチングしてシリコン基板を除去し、膜を得ることができる。
ウェットエッチングは、KOHやTMAH、ヒドラジンなどのエッチング液を用いることができる。ドライエッチングは、フッ素系(SF6、CF4、NF3、PF5、BF3、CHF3、XeF2、F2+NO)、塩素系(Cl2、SiCl4)、臭素系(IBr)などのエッチングガスを用いることができる。ウェットエッチング速度は温度によって変化するため、シリコン基板上のCNTを含む膜に損傷を与えないようにエッチングするためには、液温を下げエッチングレートを下げることが好ましい。
【0107】
シリコン基板をドライエッチングする場合には、シリコン基板表面に事前にエッチングストップ層などの層を設けてもよい。
エッチングストップ層としては、SiO2やSiNからなる層などが挙げられる。エッチングストップ層は引張応力が生じる膜により構成されることが好ましい。
基板及び膜の表面に対して平行方向に働く残留応力には引張応力と圧縮応力とがある。膜内部に膜を拡げようとする力が働くときには引張応力となり、一方で膜内部に膜を収縮させようとする力が働くときは圧縮応力となる。これらの応力は主に膜の製膜過程において生じる。
残留応力をもたらす要因の一つとして、基板と膜との熱膨張率の違いがある。室温に戻すとき基板も膜も収縮するがその割合は熱膨張率により異なっており、膜の熱膨張率が基板の熱膨張率より大きければ引張応力、逆のときは圧縮応力となる。引張応力が生じる膜により、当該膜上に設けたペリクル膜に張力が加わり、皺のない膜ができるため好ましい。SiNからなる層は引張応力を生じさせるため、シリコン基板をドライエッチングして得られる、ペリクル膜を、皺のない膜とすることができる。エッチングストップ層は、シリコン基板のドライエッチングが終わった後に除去することで、目的とする自立膜を得ることができる。
【0108】
基板を塩化ナトリウムなどの塩からなる基板とした場合、基板表面にペリクル膜を積層した後に、水に浸漬して基板をエッチングして基板を除去し、膜を得ることができる。
基板をプラスチック基板とした場合、プラスチック基板表面にペリクル膜を積層した後に、プラスチック基板を可溶な溶媒に浸漬することで、プラスチック基板を溶解させて膜を得ることができる。
【0109】
(基板の表面上を剥離しやすいように前処理を施す方法)
基板に表面処理を施すことで、ペリクル膜と基板面との相互作用を制御し、溶媒への浸漬や機械的な剥離プロセスにより、基板から膜を容易に剥離することができる。
ペリクル膜と基板面との相互作用を制御する方法として、例えばシランカップリング剤による表面処理方法が挙げられる。そのほかには、水、有機溶媒、ピラニア溶液、硫酸、UVオゾン処理、などにより基板表面を洗浄する方法が挙げられる。
基板をシリコン基板とする場合には、過酸化水素水と水酸化アンモニウムとの混合液、塩酸と過酸化水素水との混合液など、RCA洗浄法で用いられる溶液などを使用することができる。
【0110】
犠牲層の製膜、基板上の表面処理は、基板をエッチングまたは溶解させる方法を、それぞれ組み合わせて用いてもよい。犠牲層の製膜又は表面処理に用いられる物質は、ペリクル膜の表面、内部等に残りにくく、また残っても容易な方法で除去できるものが好ましい。
例えば、ガスによるエッチング、熱による蒸発、溶媒による洗浄、光による分解除去などがあり、それらを組み合わせて除去を実施してもよい。
【0111】
<接着剤層形成工程>
本開示のペリクルの製造方法は、接着剤層形成工程をさらに含んでもよい。
接着剤層形成工程は、支持枠の、ペリクル膜が接続される側とは反対側の開口部における面に対して、接着剤を付与して接着剤層を形成する工程である。
これによって、フォトマスク等の原版と支持枠とを、接着剤層を介して接着することができる。
形成された接着剤層の支持枠とは反対側の面に接触するように、セパレータを配置してもよい。これによって、原版と支持枠とを接着剤層を介して接着する時まで、接着剤層の接着性を維持しながら、ペリクルを保管することができる。
【0112】
<露光原版>
本開示の露光原版は、パターンを有する原版と、上記原版におけるパターンを有する側の面に装着された本開示のペリクルと、を含む。
本開示の露光原版は、本開示のペリクルを備えるので、本開示のペリクルと同様の効果を奏する。
【0113】
本開示のペリクルに原版を装着する方法は、特に限定されない。例えば、原版を支持枠へ直接貼り付けてもよく、支持枠の一方の端面にある原版用接着剤層を介してもよく、機械的に固定する方法や磁石などの引力を利用して原版と支持枠と、を固定してもよい。
【0114】
ここで、原版としては、支持基板と、この支持基板上に積層された反射層と、反射層上に形成された吸収体層と、を含む原版を用いることができる。吸収体層が光(例えば、EUV光)を一部吸収することで、感応基板(例えば、フォトレジスト膜付き半導体基板)上に、所望の像が形成される。反射層は、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)との多層膜でありうる。吸収体層は、クロム(Cr)や窒化タンタル等、EUV光等の吸収性の高い材料でありうる。
【0115】
<露光装置>
本開示の露光装置は、上述の露光原版を有する。
より詳細には、本開示の露光装置は、露光光を放出する光源と、本開示の露光原版と、上記光源から放出された露光光を上記露光原版に導く光学系と、を有し、上記露光原版は、上記光源から放出された露光光が上記ペリクル膜を透過して上記原版に照射されるように配置されている。
このため、本開示の露光装置は、本開示の露光原版と同様の効果を奏する。
【0116】
本開示の露光装置は、露光光を放出する光源と、本開示の露光原版と、上記光源から放出された露光光を上記露光原版に導く光学系と、を備え、上記露光原版は、上記光源から放出された露光光が上記ペリクル膜を透過して上記原版に照射されるように配置されていることが好ましい。
この態様によれば、EUV光等によって微細化されたパターン(例えば線幅32nm以下)を形成できることに加え、異物による解像不良が問題となり易いEUV光を用いた場合であっても、異物による解像不良が低減されたパターン露光を行うことができる。
【0117】
本開示における露光光は、EUV光であることが好ましい。
【0118】
<半導体装置の製造方法>
本開示の半導体装置の製造方法は、光源から放出された露光光を、本開示の露光原版の上記ペリクル膜を透過させて上記原版に照射し、上記原版で反射させる工程と、上記原版によって反射された露光光を、上記ペリクル膜を透過させて感応基板に照射することにより、上記感応基板をパターン状に露光する工程と、を含む。
本開示の半導体装置の製造方法によれば、異物による解像不良が問題となり易いEUV光を用いた場合であっても、異物による解像不良が低減された半導体装置を製造することができる。
【0119】
以下、
図11を用いて本開示に係る半導体装置の製造方法の一例について説明する。
図11は、本開示の露光装置の一例である、EUV露光装置800の概略断面図である。
図11に示されるように、EUV露光装置800は、EUV光を放出する光源831と、本開示の露光原版の一例である露光原版850と、光源831から放出されたEUV光を露光原版850に導く照明光学系837と、を備える。
露光原版850は、ペリクル膜812及び支持枠814を含むペリクル810と、原版833と、を備えている。この露光原版850は、光源831から放出されたEUV光がペリクル膜812を透過して原版833に照射されるように配置されている。
原版833は、照射されたEUV光をパターン状に反射するものである。
支持枠814及びペリクル810は、それぞれ、本開示の支持枠及びペリクルの一例である。
【0120】
EUV露光装置800において、光源831と照明光学系837との間、及び照明光学系837と原版833の間には、フィルター・ウィンドウ820及び825がそれぞれ設置されている。
また、EUV露光装置800は、原版833が反射したEUV光を感応基板834へ導く投影光学系838を備えている。
【0121】
EUV露光装置800では、原版833により反射されたEUV光が、投影光学系838を通じて感応基板834上に導かれ、感応基板834がパターン状に露光される。なお、EUVによる露光は、減圧条件下で行われる。
【0122】
EUV光源831は、照明光学系837に向けて、EUV光を放出する。
EUV光源831には、ターゲット材と、パルスレーザー照射部等が含まれる。このターゲット材にパルスレーザーを照射し、プラズマを発生させることで、EUVが得られる。ターゲット材をSnとすると、波長13nm~14nmのEUVが得られる。EUV光源が発する光の波長は、13nm~14nmに限られず、波長5nm~30nmの範囲内の、目的に適した波長の光であればよい。
【0123】
照明光学系837は、EUV光源831から照射された光を集光し、照度を均一化して原版833に照射する。
照明光学系837には、EUVの光路を調整するための複数枚の多層膜ミラー832と、光結合器(オプティカルインテグレーター)等が含まれる。多層膜ミラーは、モリブデン(Mo)、シリコン(Si)が交互に積層された多層膜等である。
【0124】
フィルター・ウィンドウ820,825の装着方法は特に制限されず、接着剤等を介して貼り付ける方法や、機械的にEUV露光装置内に固定する方法等が挙げられる。
光源831と照明光学系837との間に配置されるフィルター・ウィンドウ820は、光源から発生する飛散粒子(デブリ)を捕捉し、飛散粒子(デブリ)が照明光学系837内部の素子(例えば多層膜ミラー832)に付着しないようにする。
一方、照明光学系837と原版833との間に配置されるフィルター・ウィンドウ825は、光源831側から飛散する粒子(デブリ)を捕捉し、飛散粒子(デブリ)が原版833に付着しないようにする。
【0125】
また、原版に付着した異物は、EUV光を吸収、もしくは散乱させるため、ウエハへの解像不良を引き起こす。したがって、ペリクル810は原版833のEUV光照射エリアを覆うように装着されている。EUV光はペリクル膜812を通過して、原版833に照射される。
【0126】
原版833で反射されたEUV光は、ペリクル膜812を通過し、投影光学系838を通じて感応基板834に照射される。
投影光学系838は、原版833で反射された光を集光し、感応基板834に照射する。投影光学系838には、EUVの光路を調製するための複数枚の多層膜ミラー835、836等が含まれる。
【0127】
感応基板834は、半導体ウエハ上にレジストが塗布された基板等であり、原版833によって反射されたEUVにより、レジストがパターン状に硬化する。このレジストを現像し、半導体ウエハのエッチングを行うことで、半導体ウエハに所望のパターンを形成する。
【0128】
また、ペリクル810は、原版用接着剤層等を介して原版833に装着される。原版に付着した異物は、EUVを吸収、もしくは散乱させるため、ウエハへの解像不良を引き起こす。したがって、ペリクル810は原版833のEUV光照射エリアを覆うように装着され、EUVはペリクル膜812を通過して、原版833に照射される。
【0129】
ペリクル810の原版833への装着方法としては、原版表面に異物が付着しないように原版に設置できる方法であればよく、支持枠814と原版833とを接着剤で貼り付ける方法や、静電吸着法、機械的に固定する方法などが挙げられるが特に限定されない。好ましくは、接着剤で貼り付ける方法が用いられる。
【実施例0130】
以下、実施例等により本開示をさらに詳細に説明するが、本開示の発明がこれら実施例のみに限定されるものではない。
本実施例において、ペリクル膜接触面の粗度Ra、縁部における凹凸の幅は、上述の方法により測定した。
【0131】
まず、各実施例又は比較例において用いる支持枠を、下記の通りに作製した。
(実施例1)
~酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)異方性エッチング~
厚さ725μmのシリコン基板の両面にSiN層を堆積し、片面側にSiN層をエッチングマスクとする1cmのパターンを形成した。
80℃に加熱した25質量%水酸化テトラエチルアンモニウムの水溶液に上記シリコン基板を浸漬することでSiのエッチングを行った。エッチング後に、表面のSiN層を除去することで、シリコン製の支持枠を得た。
得られた支持枠について、ペリクル膜接触面の粗度Ra、及び縁部における凹凸の幅を測定した。結果は表1に示す。
【0132】
(実施例2)
~ボッシュ法異方性エッチング~
厚さ525μmの片面研磨シリコン基板に対し、鏡面側にフォトレジストを塗布し、フォトレジスト上に1cmのパターンを描画した。
深堀RIEプロセスによりシリコン基板に1cmの貫通孔を形成した後、フォトレジストを除去することで、一方の面が鏡面、他方の面が粗面であるシリコン製の支持枠を得た。
得られた支持枠について、ペリクル膜接触面の粗度Ra、及び縁部における凹凸の幅を測定した。結果は表1に示す。
【0133】
(実施例3)
~機械的研磨、並びに、リン酸、硝酸及び硫酸処理による化学的研磨~
切削加工によって1cmの穴を形成した厚さ2mmのアルミニウム製の支持枠に対し、リン酸-硝酸-硫酸混合溶液を用いて化学的研磨処理を行うことで、アルミニウム製の支持枠を得た。
得られた支持枠について、ペリクル膜接触面の粗度Ra、及び縁部における凹凸の幅を測定した。結果は表1に示す。
【0134】
(実施例4)
~ベルト研磨~
厚さ2mmのガラス板に対し、切削加工によって1cmの穴を形成した後、縁部をベルト研磨により加工することで、ガラス製の支持枠を得た。
得られた支持枠について、ペリクル膜接触面の粗度Ra、及び縁部における凹凸の幅を測定した。結果は表1に示す。
【0135】
(実施例5)
~ブラスト処理~
ブラスト処理により表面に凹凸を形成した厚さ2mmのアルミニウム製の支持枠に対し、切削加工によって1cmの穴を形成した後、縁部をベルト研磨により加工することで、アルミニウム製の支持枠を得た。
得られた支持枠について、ペリクル膜接触面の粗度Ra、及び縁部における凹凸の幅を測定した。結果は表1に示す。
【0136】
(比較例1)
~ブラスト処理~
切削加工によって1cmの穴を形成した厚さ2mmのアルミニウム製の支持枠に対し、ブラスト処理によりペリクル膜接触面及び縁部に凹凸を形成することで、アルミニウム製の支持枠を得た。
得られた支持枠について、ペリクル膜接触面の粗度Ra、及び縁部における凹凸の幅を測定した。結果は表1に示す。
【0137】
(比較例2)
~グラインダー研磨~
厚さ2mmのステンレス(SUS304)製の板に対し、切削加工によって1cmの穴を形成した後、グラインダーの回転軸先端部にダイヤモンド砥石を取り付けて縁部を研磨加工することで、ガラス製の支持枠を得た。
得られた支持枠について、ペリクル膜接触面の粗度Ra、及び縁部における凹凸の幅を測定した。結果は表1に示す。
【0138】
(比較例3)
~機械的研磨~
ナノ秒パルスレーザーを用いて1cmの穴を形成した厚さ525μmのシリコン製の支持枠に対し、ダイヤモンド砥石を用いて表面及び端部を研磨加工することで機械的研磨を行い、シリコン製支持枠を得た。結果は表1に示す。
【0139】
<ペリクルの製造>
各実施例又は比較例で得られた支持枠を用いて、以下の通りにペリクルを製造した。
【0140】
(CNTの準備)
CNT膜の原料として、改良直噴熱分解合成法(eDIPS法)により合成された単層CNT(粗CNT、株式会社名城ナノカーボン製、商品名:EC1.5-P、チューブ径:1nm~3nm、チューブの長さ:100nm以上)を準備した。
【0141】
(CNT膜の製造)
改良直噴熱分解合成法(eDIPS法)により合成された単層CNT30mgに対して、イソプロピルアルコール70mL及びエタノール30mLを添加し、さらに添加剤としてポリアクリル酸30mgを添加し、マグネチックスターラーを用いて40℃、18時間で攪拌して懸濁液を得た。
得られた懸濁液に対して、プローブ型超音波ホモジナイザーを用いて、出力40%で合計2時間超音波分散を行った。この際、20分ごとに5分間氷冷した。超音波分散を行った後、脱泡処理を行い、粗CNTを含む分散液(粗CNT分散液)を得た。
得られた粗CNT分散液に対して、高速遠心分離機(himac 商品名CS100GX)を用いて、平均相対遠心力150,000xg、120分、10℃の条件下で遠心処理を行った。遠心処理を行った後、上澄み液を除去することで精製CNTを含む分散液(精製CNT分散液)を得た。8インチサイズのシリコン基板に精製CNT分散液を1500rpm(revolutions per minute)の回転速度にてスピンコートしシリコン基板上にCNTの膜を得た。
CNT膜の厚み測定は、得られた膜を水面上に浸漬して剥離し、シリコン基板上に転写したものを顕微分光膜厚計(大塚電子株式会社製 OPTM、型式:A-1)を用いて測定した。CNT膜の厚みは15nm±0.2nmであった。
【0142】
(ペリクルの製造)
水にシリコン基板を浸透させてCNTの膜を水の液面上に浮いている状態にし、各実施例又は比較例で得られた支持枠を用いて、支持枠の開口部を覆うようにしてCNTの膜を掬い取ることで、ペリクル膜と支持枠とを含むペリクルを製造した。
【0143】
<評価>
各実施例及び比較例で得られたペリクルについて、以下の評価を行った。
【0144】
(バルジ試験による破壊評価)
各実施例及び比較例で得られたペリクルについて、ペリクル膜のバルジ試験による破壊評価を、以下の通りに行った。
図12に示すように、体積4.6L(直径240mm、高さ100mm)のチャンバー24に対して、ペリクル膜12と支持枠14とを含むペリクルを固定した。この際、ペリクル膜12がチャンバー24の内部側になるように配置した。
流量計22を用いて、チャンバー24内部に空気を5sccm/secの加速度で流入させ、チャンバー24内部を加圧した。バラトロン差圧計20を用いてペリクル膜に加わる圧力を計測した。チャンバー24の流量の増加に伴って、差圧及びペリクル膜の膨らみが増加し、ペリクル膜が破れた時の流量及び差圧を測定した。ペリクル膜が破れる点(即ちタイミング)はカメラにて計測を行った。
結果を表1に示す。
なお、本バルジ試験において、加圧中にペリクル膜が破れず形状を維持している間は、膜の弾性挙動により膜が膨らんでいる。一方、加圧及び加圧によるペリクル膜の変形により、ペリクル膜の破壊が生じる。これによって、ペリクル膜の破壊点からガスが抜けてペリクル膜の膨らみが解消され、ペリクル膜の破壊が観察される。
【0145】
【0146】
表1中、「縁部における凹凸の幅」は、縁部における縁部輪郭線1と縁部輪郭線2との差を意味する。
【0147】
表1に示す通り、炭素含有率が40質量%以上である炭素系の膜を含むペリクル膜と、
前記ペリクル膜を支持する支持枠と、を含み、ペリクル膜と前記支持枠とが接触しており、条件1及び条件2の少なくとも一方を満足するペリクルを用いた実施例は、ペリクル膜が破壊される時点の差圧が高いため、ペリクルの破損を良好に抑制できていた。
一方、支持枠において、ペリクル膜接触面の粗度Raが1.0μm超であり、縁部における凹凸の幅が10μm超であるペリクルを用いた比較例1~比較例3は、ペリクル膜が破壊される時点の差圧が顕著に低いため、ペリクルの破損を抑制することができなかった。
実施例の中でも、条件1及び条件2の両方を満足するペリクルを用いた実施例1~実施例3は、ペリクル膜が破壊される時点の差圧が顕著に高いため、ペリクルの破損をより良好に抑制できていた。
【0148】
2020年8月5日に出願された日本国特許出願2020-133262号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。