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特開2023-120494難燃性樹脂組成物、難燃性樹脂成形品、難燃性樹脂筐体及び電子機器
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  • 特開-難燃性樹脂組成物、難燃性樹脂成形品、難燃性樹脂筐体及び電子機器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120494
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】難燃性樹脂組成物、難燃性樹脂成形品、難燃性樹脂筐体及び電子機器
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20230823BHJP
   C08L 5/00 20060101ALI20230823BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20230823BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L5/00
C08L25/04
C08K5/49
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023403
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 公亮
(72)【発明者】
【氏名】濱口 進一
(72)【発明者】
【氏名】▲崎▼村 友男
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002AB052
4J002BC031
4J002BN151
4J002CF191
4J002CG001
4J002DH056
4J002EW046
4J002FD132
4J002FD136
4J002GA00
4J002GC00
4J002GG00
4J002GN00
4J002GQ00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、優れた難燃性樹脂組成物、難燃性樹脂成形品、難燃性樹脂筐体及び電子機器を提供することである。
【解決手段】本発明の難燃性樹脂組成物は、酸性多糖類と難燃剤を含有することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性多糖類と難燃剤を含有する
ことを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記難燃剤が、リン化合物である
ことを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記酸性多糖類が、酸性官能基を有する多糖類、前記酸性官能基以外の部位が改変された前記酸性官能基を有する多糖類の誘導体、及びそれらの塩から選ばれる一種以上を含む
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記酸性多糖類における単糖単位当たりの前記酸性官能基及びその塩の合計数が、0.20~1.50の範囲内である
ことを特徴とする請求項3に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記酸性多糖類に含まれる塩が、二価以上の塩である
ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
前記酸性多糖類における単糖単位当たりの前記酸性官能基及びその塩の合計数が、0.60~1.20の範囲内である
ことを特徴とする請求項3から請求項5までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
前記難燃性樹脂組成物の全質量に対する前記酸性多糖類の含有量が、5~40質量%の範囲内である
ことを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項8】
前記難燃性樹脂組成物の全質量に対する前記難燃剤の含有量が、1~20質量%の範囲内である
ことを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項9】
前記酸性官能基が、カルボキシ基又はスルホ基である
ことを特徴とする請求項3から請求項8までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項10】
前記酸性多糖類が、少なくとも、アルギン酸、アルギン酸塩、カラギーナン、ペクチン、キサンタンガム又はジェランガムを含む
ことを特徴とする請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項11】
前記アルギン酸塩が、アルギン酸カルシウムである
ことを特徴とする請求項10に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項12】
前記リン化合物が、リン酸エステルである
ことを特徴とする請求項2から請求項11までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項13】
前記難燃性樹脂組成物が、熱可塑性樹脂を含有する
ことを特徴とする請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項14】
前記熱可塑性樹脂の軟化点が、200℃以下である
ことを特徴とする請求項13に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項15】
前記熱可塑性樹脂が、ポリスチレン系樹脂である
ことを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項16】
請求項1から請求項15までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物を用いて形成された
ことを特徴とする難燃性樹脂成形品。
【請求項17】
請求項16に記載の難燃性樹脂成形品を含む
ことを特徴とする難燃性樹脂筐体。
【請求項18】
請求項16に記載の難燃性樹脂成形品を具備する
ことを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物、難燃性樹脂成形品、難燃性樹脂筐体及び電子機器に関する。より詳しくは、優れた難燃性樹脂組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の低減が求められており、石油原料を、生分解性を有するバイオマス原料で代替するバイオマス樹脂が注目を集めている。バイオマス樹脂の使用により、石油系樹脂(石油を原料として合成される樹脂)と比較して、製造時のエネルギー使用量の削減や最終焼却処分時の二酸化炭素排出量の削減が期待されている。その一方で、バイオマス樹脂を電子機器等に使用する場合には、安全性の観点から難燃性の付与が必要となる。
【0003】
難燃性を付与する方法としては、樹脂に多糖類を添加する方法が知られている。
多糖類は、ヒドロキシ基を多量に含む環状構造を基本骨格とする化合物であり、燃焼時に加熱に伴う脱水縮合の結果、水蒸気を発生させることで、多量の吸熱による冷却、燃焼ガスの希釈化、酸素の遮断等が生じ、加えて、脱水後の多糖類が炭化することにより、断熱効果のある被膜(以下、「チャー」又は「炭化層」ともいう。)が形成されるため、高い難燃効果が得られる。
【0004】
しかし、樹脂に多糖類を添加する方法では、樹脂と多糖類との相溶性によっては、多糖類が樹脂中に均一に分散しづらく、樹脂全体に均一に難燃性を付与することが困難であった。また、樹脂に多糖類を添加して混合する際に生じる熱により、多糖類の脱水縮合が進行してしまい、難燃性が低下してしまう等の問題があった。
【0005】
このような問題に対し、特許文献1では、多糖類と、リン含有化合物を含有する難燃系添加剤と、多糖類の加水分解を抑制する加水分解抑制剤とを含有する樹脂組成物に関する技術が開示されている。当該技術では、多糖類と、難燃系添加剤及び加水分解抑制剤を併用することにより、難燃性と保存特性を両立させている。
【0006】
また、特許文献2では、天然多糖類の側鎖にリン酸エステルを付加してなるリン含有多糖類を含む難燃性樹脂組成物に関する技術が開示されている。当該技術では、多糖類をリン含有多糖類とすることにより、石油依存度が低く、植物度が高く、環境負荷も低いと共に、耐衝撃性、成形性、及び難燃性を兼ね備えている。
しかし、難燃性への要求は高まる一方であり、いずれの技術においても更に改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-162872号公報
【特許文献2】特開2010-31230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、優れた難燃性樹脂組成物、難燃性樹脂成形品、難燃性樹脂筐体及び電子機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討した結果、難燃性樹脂組成物が、酸性多糖類と難燃剤を含有することにより、難燃性に優れることを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0010】
1.酸性多糖類と難燃剤を含有する
ことを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【0011】
2.前記難燃剤が、リン化合物である
ことを特徴とする第1項に記載の難燃性樹脂組成物。
【0012】
3.前記酸性多糖類が、酸性官能基を有する多糖類、前記酸性官能基以外の部位が改変された前記酸性官能基を有する多糖類の誘導体、及びそれらの塩から選ばれる一種以上を含む
ことを特徴とする第1項又は第2項に記載の難燃性樹脂組成物。
【0013】
4.前記酸性多糖類における単糖単位当たりの前記酸性官能基及びその塩の合計数が、0.20~1.50の範囲内である
ことを特徴とする第3項に記載の難燃性樹脂組成物。
【0014】
5.前記酸性多糖類に含まれる塩が、二価以上の塩である
ことを特徴とする第3項又は第4項に記載の難燃性樹脂組成物。
【0015】
6.前記酸性多糖類における単糖単位当たりの前記酸性官能基及びその塩の合計数が、0.60~1.20の範囲内である
ことを特徴とする第3項から第5項までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【0016】
7.前記難燃性樹脂組成物の全質量に対する前記酸性多糖類の含有量が、5~40質量%の範囲内である
ことを特徴とする第1項から第6項までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【0017】
8.前記難燃性樹脂組成物の全質量に対する前記難燃剤の含有量が、1~20質量%の範囲内である
ことを特徴とする第1項から第7項までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【0018】
9.前記酸性官能基が、カルボキシ基又はスルホ基である
ことを特徴とする第3項から第8項までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【0019】
10.前記酸性多糖類が、少なくとも、アルギン酸、アルギン酸塩、カラギーナン、ペクチン、キサンタンガム又はジェランガムを含む
ことを特徴とする第1項から第9項までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【0020】
11.前記アルギン酸塩が、アルギン酸カルシウムである
ことを特徴とする第10項に記載の難燃性樹脂組成物。
【0021】
12.前記リン化合物が、リン酸エステルである
ことを特徴とする第2項から第11項までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【0022】
13.前記難燃性樹脂組成物が、熱可塑性樹脂を含有する
ことを特徴とする第1項から第12項までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【0023】
14.前記熱可塑性樹脂の軟化点が、200℃以下である
ことを特徴とする第13項に記載の難燃性樹脂組成物。
【0024】
15.前記熱可塑性樹脂が、ポリスチレン系樹脂である
ことを特徴とする第13項又は第14項に記載の難燃性樹脂組成物。
【0025】
16.第1項から第15項までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物を用いて形成された
ことを特徴とする難燃性樹脂成形品。
【0026】
17.第16項に記載の難燃性樹脂成形品を含む
ことを特徴とする難燃性樹脂筐体。
【0027】
18.第16項に記載の難燃性樹脂成形品を具備する
ことを特徴とする電子機器。
【発明の効果】
【0028】
本発明の上記手段により、優れた難燃性樹脂組成物、難燃性樹脂成形品、難燃性樹脂筐体及び電子機器を提供することができる。
【0029】
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0030】
樹脂に難燃性を付与するための一つの方法として、樹脂に火を点けた際に樹脂の内部から水蒸気を発生させて樹脂の温度を下げ、燃焼を止める方法がある。具体的には、前述のとおり、樹脂に多糖類を含有させることにより、多糖類の脱水縮合反応が進行して水蒸気が発生し、温度を下げることができると考えられる。ただし、引用文献1及び2において具体的に挙げられている多糖類では、難燃性は得られるものの、その効果は十分であるとはいえず、更なる改良が求められている。
【0031】
本発明者が検討を重ねたところ、多糖類として、分子中において酸として機能する部分を有している酸性多糖類を用いることにより、難燃性が向上することがわかった。
明確ではないが、当該酸性多糖類の多くは、酸性官能基を有しているため、プロトン(H)が離脱しやすく、多糖類に含まれるヒドロキシ基との脱水縮合反応が促進されると考えられる。それにより、水蒸気が発生して樹脂の温度を下げることができ、加えて、脱水後の多糖類が炭化して炭化層を形成してより酸素の供給を断つことができるため、難燃性が向上すると考えられる。
【0032】
また、本発明者が検討を重ねたところ、更に樹脂に難燃剤を含有させることにより、酸性多糖類との相乗効果により難燃性が飛躍的に向上し、難燃剤の種類によっては、強度及び外観にも優れることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の難燃性樹脂成形品の適用例としての大型複写機の概略斜視図
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の難燃性樹脂組成物は、酸性多糖類と難燃剤を含有することを特徴とする。
この特徴は、下記実施形態に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0035】
本発明の実施形態としては、難燃性に加えて、強度や外観に優れる観点から、前記難燃剤が、リン化合物であることが好ましい。
【0036】
難燃性に優れる観点から、前記酸性多糖類が、酸性官能基を有する多糖類、前記酸性官能基以外の部位が改変された前記酸性官能基を有する多糖類の誘導体、及びそれらの塩から選ばれる一種以上を含むことが好ましい。
【0037】
難燃性に優れる観点から、前記酸性多糖類における単糖単位当たりの前記酸性官能基及びその塩の合計数が、0.20~1.50の範囲内であることが好ましい。
【0038】
難燃性に加えて、強度や外観に優れる観点から、前記酸性多糖類に含まれる塩が、二価以上の塩であることが好ましい。
【0039】
難燃性に優れる観点から、前記酸性多糖類における単糖単位当たりの前記酸性官能基及びその塩の合計数が、0.60~1.20の範囲内であることが好ましい。
【0040】
難燃性に加えて、強度や外観に優れる観点から、前記難燃性樹脂組成物の全質量に対する前記酸性多糖類の含有量が、5~40質量%の範囲内であることが好ましい。
【0041】
難燃性に加えて、強度や外観に優れる観点から、前記難燃性樹脂組成物の全質量に対する前記難燃剤の含有量が、1~20質量%の範囲内であることが好ましい。
【0042】
難燃性に優れる観点から、前記酸性官能基が、カルボキシ基又はスルホ基であることが好ましい。
【0043】
難燃性に優れる観点から、前記酸性多糖類が、少なくとも、アルギン酸、アルギン酸塩、カラギーナン、ペクチン、キサンタンガム又はジェランガムを含むことが好ましい。
【0044】
また、難燃性に加えて、強度や外観に優れる観点から、前記アルギン酸塩が、アルギン酸カルシウムであることが好ましい。
【0045】
難燃性に加えて、強度や外観に優れる観点から、前記リン化合物が、リン酸エステルであることが好ましい。
【0046】
取り扱いの容易性の観点から、前記難燃性樹脂組成物が、熱可塑性樹脂を含有することが好ましく、難燃性に加えて、強度や外観に優れる観点から、前記熱可塑性樹脂の軟化点が、200℃以下であることがより好ましく、特に、前記熱可塑性樹脂が、ポリスチレン系樹脂であることが好ましい。
【0047】
本発明の難燃性樹脂成形品は、本発明の難燃性樹脂組成物を用いて形成される。また、本発明の難燃性樹脂成形品は、本発明の難燃性樹脂筐体に含まれ、本発明の電子機器に具備される。
【0048】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0049】
≪難燃性樹脂組成物の概要≫
本発明の難燃性樹脂組成物は、酸性多糖類と難燃剤を含有することを特徴とする。
なお、本発明において、「難燃性樹脂組成物」とは、樹脂組成物のうち、以下の「難燃性」を有するもののことをいう。
【0050】
「難燃性」とは、耐熱性の一つであり、燃焼する速さは遅いが、ある程度は燃焼し続ける性質のことをいう。
具体的には、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めているUL94規格において合格基準を満たす、詳しくは、UL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)において、UL94HBで合格基準を満たすことをいう。加えて、UL94VでV-2の基準を満たすことが好ましく、V-1の基準を満たすことがより好ましく、V-0の基準を満たすことが更に好ましい。
【0051】
「燃焼」とは、光と熱の発生を伴う酸化反応のことをいい、燃焼するためには、可燃物、酸素供給源及び点火源の三要素が必要である。
樹脂(可燃物)においては、いったん火を点ける(点火源)と、下記のア~ウの現象が繰り返され、燃焼が継続する。
ア)高温により樹脂(可燃物)が溶融・分解し、多量の可燃性ガスが発生する。
イ)高温環境下により、可燃性ガスがラジカル化し、空気中の酸素(酸素供給源)との化学反応が促進されるため、相当量の光と熱が発生する。
ウ)発生した熱により高温が維持されるため、樹脂の分解が継続する。
【0052】
したがって、温度を下げる、酸素の供給を断つ、可燃性ガスを除去する、のいずれかを行うことにより、燃焼を止めることができ、火を点けた際にこのような現象が生じるよう樹脂を設計することで、樹脂に難燃性を付与することができる。
【0053】
具体的には、例えば、樹脂の内部から水蒸気を発生させて温度を下げる(多量の吸熱による冷却)、樹脂の内部から多量の不燃性ガスを発生させ酸素濃度を下げて酸素の供給を断つ、樹脂の表面を炭化させてバリヤー層(本発明では、「チャー」又は「炭化層」に相当する。)を形成し酸素の供給を断つ、等が挙げられる。
【0054】
本発明においては、樹脂組成物が酸性多糖類を含有することにより、上記現象を発現させることができ、難燃性を付与することができると考えられる。また、樹脂組成物が更に難燃剤を含有することにより、難燃性を向上させることができると考えられる。
【0055】
樹脂組成物は、適当な形態及び形状に成形することにより、電子機器等における筐体や部品としても使用できるが、特に筐体として使用する場合には、難燃性に加えて、より優れた強度や外観が求められる。
【0056】
強度については、硬化後において強度の高い樹脂を用いることにより、その効果を高めることができるが、難燃性の観点から、樹脂は酸性多糖類及び難燃剤との相溶性にも優れている必要があると考えられる。また、外観については、原因の一つとして、樹脂組成物に用いられる各材料の物性、特に温度に対する物性の違いにより、成形時に色むらが生じると考えられているため、色むらの生じにくい材料の組合せとする必要があると考えられる。
【0057】
このような観点から、適切な材料を選択し、適切な条件(配合比率等)で材料を混合し、場合によってはその後成形することにより、難燃性に加えて、より優れた強度や外観を付与することができると考えらえる。
【0058】
≪難燃性樹脂組成物の構成≫
本発明の難燃性樹脂組成物は、酸性多糖類と難燃剤を含有することを特徴とする。
以下、難燃性樹脂組成物を構成する各成分について説明する。なお、環境負荷の低減の観点から、本発明の難燃性樹脂組成物に用いられる材料は、バイオマス材料であることが好ましいが、バイオマス材料以外の材料を用いてもよい。
【0059】
[1 酸性多糖類]
本発明の難燃性樹脂組成物は、酸性多糖類を含有する。
本発明の難燃性樹脂組成物は、酸性多糖類を含有することにより、難燃性を付与することができる。
【0060】
本発明において、「酸性多糖類」とは、分子中において、酸として機能する部分を有する多糖類のことをいう。
【0061】
「多糖類」とは、グリコシド結合により多数の単糖分子が脱水縮合した物質のことをいい、その総称である。多糖類の構成単位となる単糖の種類は1又は2以上である。
【0062】
なお、「単糖」とは、それ以上加水分解できない糖のことをいい、その総称である。構造としては、アルデヒド基又はケトン基をもつ鎖式ポリヒドロキシ化合物であり、通常、分子内でヘミアセタール化した環状の形で存在する。当該単糖としては、五炭糖(ペントース)又は六炭糖(ヘキソース)であることが好ましく、六炭糖であることがより好ましい。
【0063】
多糖類の重合度は、例えば、50~20000の範囲内であることが好ましく、200~1500の範囲内であることがより好ましく、200~1100の範囲内であることが更に好ましい。
【0064】
多糖類の分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で求められるポリスチレン基準の重量平均分子量において、1万~25万の範囲内であることが好ましく、2万~8万の範囲内であることがより好ましい。
【0065】
また、「酸として機能する」とは、結合に関与する電子対を受け取る受容体(アクセプター)として機能することをいう(ルイスの定義)。当該機能には、プロトン(H)の供与体としての機能も含まれる(ブレンステッドの定義)。
【0066】
中でも、難燃性に優れる観点から、酸性多糖類は、酸性官能基を有する多糖類、酸性官能基以外の部位が改変された酸性官能基を有する多糖類の誘導体、又はそれらの塩であることが好ましく、これらの一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0067】
酸性官能基以外の部位が改変された酸性官能基を有する多糖類の誘導体としては、酸性官能基を有する多糖類の酸性官能基以外の部位の原子を異なる原子や置換基で置き換えた化合物や、酸性官能基を有する多糖類の糖鎖が元来有するヒドロキシ基等の酸性官能基以外の官能基を介して他の化合物又は当該酸性官能基を有する多糖類の他の分子と結合して得られる化合物等が挙げられ、具体的には、後述する架橋多糖類が挙げられる。
【0068】
酸性多糖類が有する酸性官能基としては、例えば、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SOH)、チオカルボキシ基(-CSOH)、スルフィノ基(-SOH)、スルフェノ基(-SOH)、ホスホ基(-OP(=O)(OH))、ホスホノ基(-P(=O)(OH))、ボロノ基(-B(OH))等が挙げられ、中でも、難燃性の観点から、カルボキシ基又はスルホ基であることが好ましい。なお、酸性官能基は、スルホ基を有する酸性官能基、例えば、スルホ基が酸素原子に結合した酸性官能基(-O-SOH)であってもよい。
【0069】
酸性官能基の塩としては、Li、Na、K等のアルカリ金属との塩、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属との塩、及びアルキルアンモニウム(「R-」で表され、Rはそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数が1~3の範囲内であるアルキル基である。ただし、4つのRのうちの少なくとも1つはアルキル基である。)塩が挙げられる。
【0070】
中でも、二価以上の塩であることが好ましい。二価以上の塩であることにより、分子内又は分子間において架橋構造が形成され、剛直な構造となる。そのため、耐熱性が飛躍的に向上し、溶融混練時や成形時において樹脂組成物の変形を防ぐことができるため、強度や外観に優れる。
【0071】
また、更に難燃性に優れる観点から、酸性多糖類における単糖単位当たりの酸性官能基及びその塩の合計数(以下、単に、「酸性官能基数」ともいう。)が、0.20~1.50の範囲内であることが好ましく、0.60~1.20の範囲内であることがより好ましく、0.60~1.00の範囲内であることが更に好ましい。
酸性官能基数が0.20以上であることにより、脱水縮合反応が生じやすく、難燃性を向上させることができる。また、1.50以下であることにより、樹脂組成物中における酸性多糖類の分散性の低下をより抑制できるため、樹脂組成物の表面に均一にチャーを形成しやすく、難燃性を向上させることができる。
【0072】
酸性多糖類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。酸性多糖類を二種以上併用する場合には、酸性多糖類全体としての酸性官能基数が上記範囲内であることが好ましいが、必ずしも組み合わせる個々の酸性多糖類の酸性官能基数は上記範囲内である必要はなく、組み合わせて得られる酸性多糖類全体において、酸性官能基数が上記範囲内となるように、個々の酸性多糖類を選択すればよい。
【0073】
つまり、酸性多糖類が二種以上の酸性多糖類の組合せからなる場合、組み合わせる個々の酸性多糖類は必ずしも酸性官能基数が0.20~1.50の範囲にある必要はなく、組み合わせて得られる酸性多糖類全体において酸性官能基数が0.20~1.50の範囲となるように、個々の酸性多糖類を選択すればよい。
【0074】
なお、酸性官能基数は、酸性官能基又はその塩(以下、これらをまとめて、「酸性官能基等」ともいう。)を適宜導入又は分離することにより、調整することができる。
【0075】
酸性多糖類は、環境負荷を低減する観点から、天然に存在する酸性多糖類であることが好ましい。また、天然に存在する多糖類に、酸性官能基等を適宜導入又は分離することにより、好適な酸性官能基数に調整してもよい。
【0076】
酸性多糖類の誘導体としては、例えば、上記天然に存在する酸性多糖類又は上記天然に存在する多糖類に酸性官能基等が導入された酸性多糖類において、酸性官能基等以外の部位の原子、例えば水素原子を、ハロゲン原子又は炭化水素基等の置換基で置き換えた化合物が挙げられる。
【0077】
また、当該酸性多糖類の糖鎖が元来有するヒドロキシ基と、ヒドロキシ基と反応性を有する官能基を有する化合物と、を反応させて得られるエステル誘導体、エーテル誘導体等が挙げられる。酸性多糖類がヒドロキシ基以外の官能基を有する場合も同様に、当該官能基を用いて他の化合物と反応させて誘導体としてもよい。また、誘導体は、後述する架橋多糖類であってもよい。
【0078】
酸性多糖類としては、具体的に、例えば、ペクチン、アルギン酸、アルギン酸プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、アラビアガム、カラヤガム、オオバコ、キシラン、アラビン酸、トラガカント酸、ハバ(khava)ガム、亜麻仁酸、セルロン酸、リケニンウロン酸、ジェランガム、ラムザンガム、ウェランガム、カラギーナン、グリコサミノグリカン類(例えば、ヒアルロン酸、コンドロイチン-4-硫酸塩、コンドロイチン-6-硫酸塩、デルマタン硫酸塩、ケラチン硫酸塩、及びヘパリン)及びその塩が挙げられる。中でも、アルギン酸、アルギン酸塩、カラギーナン、ペクチン、キサンタンガム又はジェランガムであることが好ましく、アルギン酸カルシウムであることがより好ましい。
【0079】
酸性官能基数は、分子構造式からの算出や、中和滴定法による測定及び算出により求められる。
以下、アルギン酸及びカラギーナンにおける分子構造式と、分子構造式から酸性官能基数を算出する方法について説明する。
【0080】
例えば、アルギン酸は下記式(A)で分子構造が示される。式(A)のとおり、アルギン酸が有する酸性官能基はカルボキシ基(-COOH)である。式(A)における分子構造からアルギン酸の酸性官能基数は、1.00とすることができる。
【0081】
【化1】
【0082】
また、例えば、カラギーナンとしては、下記式(C1)で分子構造が表されるκカラギーナン、下記式(C2)で分子構造が表されるιカラギーナン、下記式(C3)で分子構造が表されるλカラギーナンの3種類がある。式(C1)~(C3)のとおり、カラギーナンが有する酸性官能基は、スルホ基、より詳細には、スルホ基が酸素原子に結合した酸性官能基(-O-SOH)である。式(C1)~(C3)においては、当該酸性官能基が電離した状態(-OSO )で記載されている。
【0083】
式(C1)における分子構造からκカラギーナンの酸性官能基数は、0.50とすることができ、式(C2)における分子構造からιカラギーナンの酸性官能基数は、1.00とすることができる。式(C3)中、典型的には、RはH(30%)又はSO (70%)とされ、式(C3)における分子構造からλカラギーナンの酸性官能基数は、1.35とすることができる。
【0084】
【化2】
【0085】
また、酸性多糖類が二種以上の酸性多糖類の組合せからなる場合の酸性官能基数は、各酸性多糖類における単糖単位当たりの酸性官能基数とモル数比から、次式(1)及び(2)を用いて求めることができる。
式(1):酸性官能基数=A×R+A×R+B×R+…
式(2):R=B/(B+B+B+…)
【0086】
ただし、各記号については、以下のとおりである。
:各酸性多糖類における単糖単位当たりの酸性官能基数
:各酸性多糖類における単糖単位当たりのモル数(各酸性多糖類の含有質量を、単糖の分子量で割って算出したもの)
:各酸性多糖類における単糖単位当たりのモル数比
【0087】
また、酸性官能基数は、以下の方法でも求めることができる。
難燃性樹脂組成物中に含有された酸性多糖類について酸性官能基数を求める場合は、まず、適当な方法で難燃性樹脂組成物から酸性多糖類を抽出する。抽出された酸性多糖類について、熱重量分析、赤外分光法(IR)等にて分子構造を特定する。
【0088】
〔酸性官能基数の測定方法〕
酸性多糖類における単糖単位当たりの酸性官能基数は、例えば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、抽出された酸性多糖類を約1g精秤した後スラリーとし、強酸性イオン交換樹脂で処理する。次いで、0.1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHの変化を観察し、滴定曲線を得る。滴定開始から滴定曲線の変曲点までに必要とした水酸化ナトリウムのモル数が、滴定に使用した酸性多糖類の酸のモル数と等しくなる。得られた酸のモル数と分子構造から単糖単位あたりの酸性官能基数を算出することができる。
【0089】
また、カルボキシメチルセルロースにおいては、カルボキシメチル基の置換度を測定することにより、酸性官能基数を算出することができる。
カルボキシメチルセルロースは、セルロースにカルボキシメチル基を導入して酸性多糖類としたものである。また、カルボキシメチルセルロースは、製造条件を調整することで、酸性官能基数を好適な範囲内に調整することができる。
【0090】
カルボキシメチルセルロースは、公知の製造方法で製造することができ、具体的には、特開2000-34301号公報に記載された、セルロースとアルカリとを温度20~50℃の範囲内で反応させてアルカリセルロースを生成させる工程と、アルカリセルロースとモノクロロ酢酸との反応によりカルボキシメチルセルロースを生成させる工程とを有する方法により製造することができる。
【0091】
また、別な方法、例えば、特開2012-12553号公報に記載された方法に従って、セルロースとアルカリ剤とモノハロ酢酸又はその塩とを混合した後、40~90℃の範囲内で加熱して反応させることでカルボキシメチルセルロースを製造することもできる。
【0092】
いずれの方法においても、セルロースに対するモノクロロ酢酸又はモノハロ酢酸の添加量を調整することで、得られるカルボキシメチルセルロースの酸性官能基数を調整することができる。
【0093】
カルボキシメチルセルロースの構造式は、例えば、下記一般式(CMC)で表すことができる。式(CMC)中、Rは、それぞれ独立に、H又はCHCOOHを表す。例えば、分子内で平均した際に、式(CMC)中のRの0.2~1.5個がCHCOOHとなるように調整することにより、より難燃性に優れたカルボキシメチルセルロースとすることができる。
【0094】
【化3】
【0095】
セルロースに酸性官能基等を導入した酸性多糖類として、カルボキシメチルセルロース以外に、カルボキシアルキル(例えば、炭素数が2~3の範囲内)セルロース、スルホエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート等が挙げられる。また、本発明においては、セルロース以外の酸性官能基等を有しない多糖類、例えば、デンプン、アガロース、グァーガム等に酸性官能基等を導入した酸性多糖類を用いることもできる。
【0096】
〔カルボキシメチル基の置換度の測定方法〕
カルボキシメチルセルロースにおいては、カルボキシメチル基の置換度を測定することにより、酸性官能基数を算出することができる。以下に、その方法を示す。なお、他の酸性多糖類についても、以下の方法を参考にして酸性官能基数を算出することができる。
【0097】
カルボキシメチル基の置換度は、試料中のカルボキシメチルセルロースを中和するのに必要な水酸化ナトリウム等の塩基の量を測定して、算出することができる。なお、カルボキシメチルエーテル基が塩の形態である場合には、測定前に予めカルボキシメチルセルロースに変換しておく。
【0098】
(カルボキシメチルセルロースへの変換)
試料約2.0gを精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。硝酸メタノール(メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液)100mLを加え、室温で3時間振とうし、カルボキシメチルセルロース塩をカルボキシメチルセルロースに変換する。
【0099】
(カルボキシメチルセルロースの置換度の測定)
絶乾したカルボキシメチルセルロースを約1.5g精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れ、80%メタノール15mLでカルボキシメチルセルロースを湿潤させる。その後、0.1Nの水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を100mL加え、室温で3時間振とうし、指示薬としてフェノールフタレインを用いて、0.1Nの硫酸(HSO)で過剰のNaOHを逆滴定する。
【0100】
カルボキシメチルセルロースの置換度を、次式(i)及び(ii)を用いて算出する。
式(i):A=(100×f-a×f)/試料の質量(g)
式(ii):置換度=(162×A)/(10000-58×A)
【0101】
ただし、各記号及び数値については、以下のとおりである。
A:試料(絶乾したカルボキシメチルセルロース)1gの中和に要する0.1Nの水酸化ナトリウム溶液の量(mL)
a:0.1Nの硫酸の滴定量(mL)
:0.1Nの水酸化ナトリウム溶液のファクター
:0.1Nの硫酸のファクター
100:0.1Nの水酸化ナトリウム溶液の使用量(mL)
162:無水グルコース(C10)の分子量
58:CHCOOH(分子量59)とH(分子量1)との分子量の差
【0102】
酸性多糖類としては、さらに、上記酸性多糖類の誘導体としての架橋多糖類を用いることができる。
【0103】
本発明において、「架橋多糖類」とは、二つ以上の多糖類の分子の糖鎖中のヒドロキシ基間を架橋させた構造を有する化合物のことをいう。架橋多糖類は、例えば、多糖類の少なくとも異なる分子間でヒドロキシ基同士を、架橋剤を用いて架橋することで得られる。なお、異なる分子間で架橋している限り、同一分子内で2つのヒドロキシ基が架橋剤を介して結合した構造を含んでもよい。架橋される多糖類の分子の種類は同じであっても異なってもよい。
【0104】
本発明に用いられる架橋多糖類は、酸性多糖類の架橋体であり、架橋多糖類を構成する酸性多糖類としては、前述の酸性多糖類が特に制限なく使用できる。架橋多糖類の製造(合成)に用いられる酸性多糖類としては、アルギン酸、アルギン酸塩、カラギーナン、ペクチン、キサンタンガム及びジェランガムから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。これらは、一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0105】
酸性多糖類から架橋多糖類を得る際に用いられる架橋剤としては、ヒドロキシ基と反応性を有する官能基を2つ以上有する化合物が挙げられる。官能基としては、例えば、エポキシ基、クロロ基、シリル基、イソシアネート基、酸無水物等が挙げられる。架橋剤としては、例えば、エピクロロヒドリン、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラエチルシリケート等が挙げられ、中でも、エピクロロヒドリンであることが好ましい。
【0106】
エピクロロヒドリンを用いた酸性多糖類の架橋は、例えば、以下の式(I-1)及び式(I-2)に示される反応により行うことができる。各式において「※」は、酸性多糖類の糖骨格との結合部分を示す。
【0107】
式(I-1)は、アルカリ条件下で行われ、エピクロロヒドリンのエポキシ環が開環し、多糖分子のOH基と反応して中間体(P)が得られる。さらに、式(I-2)により、中間体(P)におけるエピクロロヒドリン由来の末端クロロ基が、別の多糖分子のOH基と反応して、2つの多糖分子は、連結基(-CH-CH(OH)-CH-)で架橋される。
【0108】
前述では、式(I-1)及び式(I-2)に示される反応を分子間の反応として説明したが、式(I-1)及び式(I-2)に示される反応は、並行して1つの分子内で行われる場合もある。また、最終的に得られる反応物において、中間体(P)と同様の分子末端(-CH-CH(OH)-CH-Cl)が残存する場合もある。
【0109】
【化4】
【0110】
架橋多糖類における架橋の程度は、酸性多糖類に対する架橋剤の添加量で調整できる。架橋多糖類における架橋の程度は、得られる架橋多糖類の重量平均分子量が、前述の酸性多糖類の重量平均分子量の好ましい範囲内と同程度であることが好ましい。
【0111】
なお、得られる架橋多糖類の酸性官能基数は、理論的には、原料として用いる酸性多糖類の酸性官能基数と同じである。しかしながら、製造(合成)時に酸性官能基が反応してしまう場合があり、通常は、得られる架橋多糖類の酸性官能基数は、原料として用いる酸性多糖類の酸性官能基数より小さい値となる。したがって、本発明において、架橋多糖類を合成して用いる場合は、得られた架橋多糖類の酸性官能基数は、中和滴定法により測定し算出することが好ましい。
【0112】
難燃性に加えて、強度や外観に優れる観点から、酸性多糖類の含有量は、難燃性樹脂組成物の全質量に対して5~40質量%の範囲内であることが好ましく、20~30質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0113】
[2 難燃剤]
本発明の難燃性樹脂組成物は、難燃剤を含有する。
本発明の難燃性樹脂組成物は、難燃剤を含有することにより、更に難燃性を向上させることができる。
【0114】
本発明において、「難燃剤」とは、樹脂に含有させることにより、難燃性を付与することができるもののことをいう。すなわち、前述の酸性多糖類と併用せず、単独で、樹脂に含有させても、樹脂に難燃性を付与する(UL94試験において、UL94HBで合格基準を満たす)ことができるもののことをいう。
【0115】
本発明においては、前述の酸性多糖類と当該難燃剤を併用することにより、難燃性が飛躍的に向上し、難燃剤の種類によっては、より優れた強度や外観を更に付与することができる。なお、本発明において、難燃剤は、一般的に難燃剤として使用されている化合物を用いることができる。
【0116】
難燃剤としては、例えば、リン化合物、赤リン、臭素化合物、塩素化合物、アンチモン化合物、ホウ素化合物、窒素化合物、金属水酸化物、シリコーン化合物、本発明に係る酸性多糖類に該当しない多糖類等が挙げられる。これらは、一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
中でも、難燃性に加えて、強度や外観に優れる観点から、リン化合物を用いることが好ましい。
【0117】
難燃性に加えて、強度や外観に優れる観点から、難燃剤の含有量は、難燃性樹脂組成物の全質量に対して、1~20質量%の範囲内であることが好ましく、2~16質量%の範囲内であることがより好ましく、3~12質量%の範囲内であることが更に好ましい。
【0118】
[2.1 リン化合物]
難燃性に加えて、強度及び外観に優れる観点から、難燃剤はリン化合物であることが好ましい。また、赤リンと比較して、取り扱いが容易である。
【0119】
難燃剤としてリン化合物を用いる場合の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
燃焼により、リン化合物に含まれるリンが、空気中の酸素と水と結合して、リン酸が生成し、炭化した多糖類とリン酸が混ざり、チャーを形成する。また、リン酸を生成する際に水と結合するため、酸性多糖類における脱水縮合反応が促進される。さらに、リン酸と酸性多糖類は共に水素結合を形成しやすく、親和性が高いため、樹脂組成物中において、リン酸と酸性多糖類は比較的近接しており、リン酸と酸性多糖類による相乗効果が得られやすいと考えられる。
【0120】
リン化合物としては、リン酸エステル、リン酸塩等が挙げられる。
リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(t-ブチル化フェニル)ホスフェート、トリス(i-プロピル化フェニル)ホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート等の芳香族リン酸エステル;1,3-フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、1,3-フェニレンビス(ジキシレニル)ホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)等の芳香族縮合リン酸エステル;トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート等の含ハロゲンリン酸エステル;2,2-ビス(クロロメチル)トリメチレンビス(ビス(2-クロロエチル)ホスフェート)、ポリオキシアルキレンビスジクロロアルキルホスフェート等の含ハロゲン縮合リン酸エステル;等が挙げられる。
【0121】
リン酸塩としては、例えば、モノリン酸塩としては、リン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等のアンモニウム塩;リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜リン酸一ナトリウム、亜リン酸二ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム等のナトリウム塩;リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、亜リン酸一カリウム、亜リン酸二カリウム、次亜リン酸カリウム等のカリウム塩;リン酸一リチウム、リン酸二リチウム、リン酸三リチウム、亜リン酸一リチウム、亜リン酸二リチウム、次亜リン酸リチウム等のリチウム塩;リン酸二水素バリウム、リン酸水素バリウム、リン酸三バリウム、次亜リン酸バリウム等のバリウム塩、リン酸一水素マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸三マグネシウム、次亜リン酸マグネシウム等のマグネシウム塩;リン酸二水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸三カルシウム、次亜リン酸カルシウム等のカルシウム塩;リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、次亜リン酸亜鉛等の亜鉛塩、第一リン酸アルミニウム、第二リン酸アルミニウム、第三リン酸アルミニウム、亜リン酸アルミニウム、次亜リン酸アルミニウム等のアルミニウム塩;等が挙げられる。
【0122】
リン酸塩は、高分子量であることが好ましく、ポリリン酸塩であることがより好ましい。
ポリリン酸塩としては、例えば、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸ピペラジン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸アンモニウムアミド、ポリリン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0123】
リン化合物の含有量は、難燃性樹脂組成物の全質量に対して、1~20質量%の範囲内であることが好ましく、1~15質量%の範囲内であることがより好ましく、3~15質量%の範囲内であることが更に好ましい。
【0124】
[2.2 赤リン]
赤リンは、単体であってもよいが、赤リンに樹脂、金属水酸化物、金属酸化物等を被覆又は混合させたものであってもよい。
【0125】
赤リンに被覆又は混合させる樹脂としては、特に制限されないが、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0126】
難燃性の観点から、赤リンに金属水酸化物を被覆又は混合させたものであることが好ましく、金属酸化物は、後述の難燃剤として用いられる金属酸化物と同様のものを用いることができる。
【0127】
[2.3 臭素化合物]
臭素化合物としては、分子構造中に臭素を含有し、常温、常圧で固体となる化合物であれば、特に制限されないが、例えば、臭素化芳香環含有芳香族化合物等が挙げられる。なお、ヘキサブロモシクロドデカン等の臭素化芳香環含有芳香族化合物以外の化合物であってもよい。
【0128】
臭素化芳香環含有芳香族化合物としては、例えば、ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモトルエン、ヘキサブロモビフェニル、デカブロモビフェニル、デカブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモジフェニルエーテル、ビス(ペンタブロモフェノキシ)エタン、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、テトラブロモビスフェノールA等の臭素化合物モノマーが挙げられる。
【0129】
また、臭素化芳香環含有芳香族化合物は、臭素化合物ポリマーであってもよい。具体的には、臭素化ビスフェノールAを原料として製造されたポリカーボネートオリゴマー、このポリカーボネートオリゴマーとビスフェノールAとの共重合体等の臭素化ポリカーボネート、臭素化ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応によって製造されるジエポキシ化合物、等が挙げられる。
【0130】
さらには、臭素化フェノール類とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるモノエポキシ化合物等の臭素化エポキシ化合物、ポリ(臭素化ベンジルアクリレート)、臭素化ポリフェニレンエーテルと臭素化ビスフェノールAと塩化シアヌールとの臭素化フェノールの縮合物、臭素化(ポリスチレン)、ポリ(臭素化スチレン)、架橋臭素化ポリスチレン等の臭素化ポリスチレン、架橋又は非架橋臭素化ポリ(-メチルスチレン)等が挙げられる。
【0131】
[2.4 塩素化合物]
塩素化合物としては、例えば、ポリ塩化ナフタレン、クロレンド酸等が挙げられる。
【0132】
[2.5 アンチモン化合物]
アンチモン化合物としては、例えば、酸化アンチモン、アンチモン酸塩、ピロアンチモン酸塩等が挙げられる。
酸化アンチモンとしては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等が挙げられる。
アンチモン酸塩としては、例えば、アンチモン酸ナトリウム、アンチモン酸カリウム等が挙げられる。
ピロアンチモン酸塩としては、例えば、ピロアンチモン酸ナトリウム、ピロアンチモン酸カリウム等が挙げられる。
【0133】
[2.6 ホウ素化合物]
ホウ素化合物としては、例えば、ホウ砂、酸化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸塩等が挙げられる。
【0134】
酸化ホウ素としては、例えば、三酸化二ホウ素、三酸化ホウ素、二酸化二ホウ素、三酸化四ホウ素、五酸化四ホウ素等が挙げられる。
ホウ酸塩としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、周期表第4族、第12族、第13族の元素、アンモニウム等のホウ酸塩が挙げられる。具体的には、ホウ酸リチウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸セシウム等のホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸バリウム等のホウ酸アルカリ土類金属塩、その他、ホウ酸ジルコニウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸アンモニウム等が挙げられる。
【0135】
[2.7 窒素化合物]
窒素化合物としては、例えば、脂肪族アミン化合物、芳香族アミン化合物、含窒素複素環化合物、シアン化合物、脂肪族アミド化合物、芳香族アミド化合物、尿素及びチオ尿素等が挙げられる。
【0136】
脂肪族アミン化合物としては、例えば、エチルアミン、ブチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロオクタン等が挙げられる。
【0137】
芳香族アミン化合物としては、例えば、アニリン、フェニレンジアミン等が挙げられる。
含窒素複素環化合物としては、例えば、尿酸、アデニン、グアニン、2,6-ジアミノプリン、2,4,6-トリアミノピリジン、トリアジン化合物等が挙げられる。
【0138】
トリアジン化合物は、トリアジン骨格を有する化合物であり、例えば、トリアジン、メラミン、ベンゾグアナミン、メチルグアナミン、シアヌール酸、メラミンシアヌレート、メラミンイソシアヌレート、トリメチルトリアジン、トリフェニルトリアジン、アメリン、アメリド、チオシアヌール酸、ジアミノメルカプトトリアジン、ジアミノメチルトリアジン、ジアミノフェニルトリアジン、ジアミノイソプロポキシトリアジン、ポリリン酸メラミン等が挙げられる。中でも、メラミンシアヌレート、メラミンイソシアヌレート、ポリリン酸メラミンであることが好ましい。
【0139】
シアン化合物としては、例えば、ジシアンジアミド等が挙げられる。
脂肪族アミド化合物や芳香族アミド化合物としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミドやN,N-ジフェニルアセトアミド等が挙げられる。
【0140】
[2.8 金属水酸化物]
金属水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化鉄、水酸化ニッケル、水酸化ジルコニウム、水酸化チタン、水酸化亜鉛、水酸化銅、水酸化バナジウム、水酸化スズ等が挙げられる。
【0141】
金属水酸化物の形態としては、粒子であることが好ましい。粒子の形状は、特に制限されず、球状、紡錘状、板状、鱗片状、針状、繊維状等が挙げられる。また、金属水酸化物の粒子の平均一次粒子径は、10nm~100μmの範囲内であることが好ましく、10~100nmの範囲内であることがより好ましい。金属水酸化物の粒子の平均一次粒子径は、例えば、体積基準のメジアン径(D50)であり、体積基準のメジアン径は、例えば、レーザー回折・散乱法により、LA-960S2(HORIBA社製)等を用いて計測できる。
【0142】
金属水酸化物の粒子は、必要に応じて表面修飾剤により表面修飾されていてもよい。表面修飾に用いる表面修飾剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)等のアルキルシラザン系化合物、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン系化合物、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン等のクロロシラン系化合物、シリコーンオイル、シリコーンワニス、各種脂肪酸等を用いることができる。これらの表面修飾剤は、一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0143】
金属水酸化物の含有量は、難燃性樹脂組成物の全質量に対して、5~20質量%の範囲内であることが好ましく、5~10質量%の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であることにより、得られる成形品において、難燃性に加えて、強度や外観を両立させることができる。
【0144】
[2.9 シリコーン化合物]
シリコーン化合物としては、例えば、(ポリ)オルガノシロキサン構造を有するシリコーン化合物が挙げられる。中でも、分子末端や主鎖に、エポキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、エーテル基等の置換基を有する変性(ポリ)オルガノシロキサン構造を有するシリコーン化合物であることが好ましい。
【0145】
また、シリコーン化合物は、変性(ポリ)オルガノシロキサンで被覆されたシリカ粒子であってもよい。変性(ポリ)オルガノシロキサンで被覆されたシリカ粒子の体積平均粒子径は、5~250μmの範囲内であることが好ましく、嵩比重は、0.1~0.7の範囲内であることが好ましい。
【0146】
変性(ポリ)オルガノシロキサンで被覆されたシリカ粒子としては、市販品を用いることができ、市販品としては、例えば、「SiパウダーDC4-7051」、「7081」、「7105」、「DC1-9641」(以上、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)等が挙げられる。
【0147】
[3 樹脂]
本発明の難燃性樹脂組成物は、樹脂を含有する。
樹脂の種類は、特に制限されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、熱・光硬化性樹脂等が挙げられる。中でも、取り扱いの容易性の観点から、樹脂は熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0148】
環境負荷の削減の観点から、本発明に係る樹脂は、バイオマス樹脂であることが好ましいが、本発明は、バイオマス樹脂以外の樹脂においても適用できる。また、バイオマス樹脂とバイオマス樹脂以外の樹脂とを組み合わせて用いてもよい。
【0149】
樹脂の含有量は、難燃性樹脂組成物の全質量に対して、30~95質量%の範囲内であることが好ましく、40~90質量%の範囲内であることがより好ましく、50~80質量%の範囲内であることが更に好ましい。
なお、本発明において、「樹脂の含有量」とは、難燃性樹脂組成物から酸性多糖類、難燃剤及び任意に含有するその他の各種添加剤の含有量を除いた分の質量のことをいう。
【0150】
[3.1 熱可塑性樹脂]
本発明に係る樹脂は、取り扱いの容易性の観点から、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
熱可塑性樹脂の種類は、特に制限されないが、酸性多糖類の分解を抑制でき、難燃性に加えて、強度や外観に優れる観点から、熱可塑性樹脂の軟化点は200℃以下であることが好ましい。
【0151】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイト樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、1,2-ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体系熱可塑性エラストマー、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー、塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0152】
また、熱可塑性樹脂としては、熱可塑性のバイオマス樹脂を用いてもよい。熱可塑性のバイオマス樹脂としては、例えば、脂肪族ポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニルアルコール、ポリアルキレングリコール及びこれらを含む共重合体が挙げられる。
熱可塑性樹脂は、一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0153】
ポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)等が挙げられる。
【0154】
芳香族ポリエステル樹脂としては、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル誘導体成分と、脂肪族ジオールや脂環族ジオール等のジオール成分とがエステル反応により連結した構造を有する芳香族ポリエステルが挙げられる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレン-1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4´-ジカルボキシレートなどのほか、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレートなどの共重合ポリエステルが挙げられる。
【0155】
脂肪族ポリエステルとしては、オキシ酸の共重合体であるポリオキシ酸及び脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸の重縮合体が挙げられる。ポリオキシ酸としては、例えば、ポリ-L-乳酸(PLLA)、ポリ-D-乳酸(PDLA)、L-乳酸とD-乳酸とのランダム共重合体、L-乳酸とD-乳酸とのステレオコンプレックス等のポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸等が挙げられる。脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸の重縮合体としては、例えば、ポリエチレンスクシネート、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンアジペート等が挙げられる。
【0156】
環境負荷を低減できる観点から、熱可塑性のバイオマス樹脂を用いることが好ましい。また、熱可塑性のバイオマス樹脂と、熱可塑性のバイオマス樹脂以外の樹脂を組み合わせ、両者の有する利点を併せ持つ熱可塑性樹脂として用いてもよい。
【0157】
強度及び取り扱いの容易性の観点から、熱可塑性樹脂は、芳香環を有する樹脂であることが好ましく、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂等であることが好ましい。
【0158】
熱可塑性樹脂の市販品としては、「パンライト(登録商標)」(ポリカーボネート樹脂、帝人化成社製)、「ジュラネックス(登録商標)」(ポリブチレンテレフタレート、ポリプラスチック社製)、「クラペット(登録商標)」(ポリエチレンテレフタレート、クラレ社製)、「アラミン」(ポリアミド樹脂、東レ社製)、「レイシア(登録商標)」(ポリ乳酸樹脂、三井化学社製)、「テラマック(登録商標)」(ポリ乳酸樹脂、ユニチカ社製)等が挙げられる。
【0159】
[3.1.1 ポリスチレン系樹脂]
本発明に係る熱可塑性樹脂は、強度及び取り扱いの容易性の観点から、ポリスチレン系樹脂であることが好ましい。
また、難燃剤としてリン化合物を用いる場合には、本発明に係る熱可塑性樹脂が、ポリスチレン系樹脂であることにより、リン化合物のブリード(浸み出し)を抑制できる。
【0160】
本発明において、「ポリスチレン系樹脂」とは、少なくともスチレン系単量体を単量体成分として含む重合体のことをいう。ここで、「スチレン系単量体」とは、その構造中にスチレン骨格を有する単量体のことをいう。
【0161】
スチレン系単量体としては、その構造中にスチレン骨格を有する単量体であれば特に制限されず、例えば、スチレン;o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン等の核アルキル置換スチレン;α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン等のα-アルキル置換スチレン等の芳香族ビニル化合物単量体が挙げられ、中でも、スチレンであることが好ましい。
【0162】
ポリスチレン系樹脂は、スチレン系単量体の単独重合体でも、スチレン系単量体と他の単量体成分との共重合体であってもよい。スチレン系単量体と共重合可能な単量体成分としては、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルフェニルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート等のアルキルメタクリレート単量体、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート単量体等の不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ケイ皮酸等の不飽和カルボン酸単量体;無水マレイン酸、イタコン酸、エチルマレイン酸、メチルイタコン酸、クロルマレイン酸などの無水物である不飽和ジカルボン酸無水物単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体;1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等の共役ジエン単量体などが挙げられ、これらの二種以上を共重合してもよい。このような他の単量体成分の共重合の割合は、スチレン系単量体の全質量に対して、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。
【0163】
ポリスチレン系樹脂としては、耐熱性等の観点から、ポリスチレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体等であることが好ましい。
【0164】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)において、機械的強度、耐熱性の観点から、共重合体中のアクリロニトリルの共重合の割合が、ABS樹脂の全質量に対して、1~40質量%の範囲内であることが好ましく、1~30質量%の範囲内であることがより好ましく、1~25質量%の範囲内であることが更に好ましい。
【0165】
スチレン-メタクリル酸共重合体において、耐熱性の観点から、共重合体中のメタクリル酸の共重合の割合が、スチレン-メタクリル酸共重合体の全質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましい。また、透明性を付与する場合には、50質量%以下であることが好ましい。耐熱性と透明性を両立させる場合には、0.1~40質量%の範囲内であることがより好ましく、0.1~30質量%の範囲内であることが更に好ましい。
【0166】
スチレン-無水マレイン酸共重合体において、耐熱性の観点から、共重合体中のメタクリル酸の共重合の割合が、スチレン-無水マレイン酸共重合体の全質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましい。また、透明性を付与する場合には、50質量%以下であることが好ましい。耐熱性と透明性を両立させる場合には、0.1~40質量%の範囲内であることがより好ましく、0.1~30質量%の範囲内であることが更に好ましい。
【0167】
ポリスチレン系樹脂の市販品としては、「クリアレン(登録商標)」(電気化学工業社製)、「アサフレックス(登録商標)」(旭化成ケミカルズ社製)、「Styrolux(登録商標)」(BASF社製)、「PSJ(登録商標)-ポリスチレン」(PSジャパン社製)等が挙げられる。
【0168】
ポリスチレン系樹脂の含有量は、熱可塑性樹脂の全質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。また、本発明の難燃性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂はポリスチレン系樹脂のみで構成されることが特に好ましい。
【0169】
[3.2 熱硬化性樹脂]
本発明に係る樹脂としては、熱硬化性樹脂を用いてもよい。
熱硬化性樹脂の種類は、特に制限されないが、酸性多糖類の分解を抑制でき、難燃性に加えて強度や外観に優れる観点から、熱硬化性樹脂の硬化点は200℃以下であることが好ましい。
【0170】
熱硬化性樹脂としては、加熱による架橋反応に利用できる官能基、例えば、ヒドロキシ基、フェノール性ヒドロキシ基、メトキシメチル基、カルボキシ基、アミノ基、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリン基、オキサジン基、アジリジン基、チオール基、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、ブロック化カルボキシ基、シラノール基等を一分子中に一つ以上有する樹脂であればよい。
【0171】
例えば、アクリル樹脂、マレイン酸樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール系樹脂、アルキド樹脂、アミノ樹脂、ポリ乳酸樹脂、オキサゾリン樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。
【0172】
また、本発明における熱硬化性樹脂は、上記の樹脂に加え、必要に応じて上記の官能基と反応し化学的架橋を形成する樹脂又は低分子化合物などの所謂「硬化剤」と称する化合物を含んでもよい。
【0173】
アクリル樹脂の市販品としては、「アクリディック(登録商標)」(ヒドロキシ基又はカルボキシ基含有アクリル樹脂、DIC株式会社製)、「8UA」(ヒドロキシ基含有ウレタングラフトアクリル樹脂、大成ファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。
【0174】
マレイン酸樹脂の市販品としては、「マルキード(登録商標)」(マレイン酸樹脂、荒川化学株式会社製)、「アラスター(登録商標)」(スチレン-マレイン酸樹脂、荒川化学株式会社製)、「イソバン(登録商標)」(イソブチレン-無水マレイン酸ブロックコポリマー、株式会社クラレ製)等が挙げられる。
【0175】
ポリジエン系樹脂の市販品としては、「Poly bd(登録商標)」(ヒドロキシ基末端ポリブタジエン、出光興産株式会社製)、「Poly ip(登録商標)」(ヒドロキシ基末端ポリイソプレン、出光興産株式会社製)、「エポール(登録商標)」(ヒドロキシ基末端水添ポリイソプレン、出光興産株式会社製)、「NISSO-PB」(ポリブタジエン系樹脂、日本曹達株式会社製)等が挙げられる。
【0176】
ポリエステル樹脂の市販品としては、「エリーテル(登録商標)」(ヒドロキシ基末端又はカルボキシ基末端ポリエステル、ユニチカ株式会社製)、「バイロン(登録商標)」(ヒドロキシ基末端又はカルボキシ基末端非晶質ポリエステル、東洋紡績株式会社製)、「ニチゴーポリエスター(登録商標)」(日本合成化学株式会社製)等が挙げられる。
【0177】
ポリウレタン樹脂の市販品としては、「バイロン(登録商標)UR」(ヒドロキシ基末端又はカルボキシ基含有ポリエステルウレタン、東洋紡績株式会社製)等が挙げられる。
エポキシ樹脂の市販品としては、「エポトート(登録商標)」(東都化成株式会社製)、「jER(登録商標)」(三菱化学株式会社製)、「エピクロン」(DIC株式会社製)等が挙げられる。
【0178】
オキセタン樹脂の市販品としては、「アロンオキセタン(登録商標)」(東亜合成株式会社製)、「エタナコール(登録商標)」(宇部興産株式会社製)等が挙げられる。
フェノキシ樹脂の市販品としては、「jER(登録商標)1256」、「4275」、「4250」(以上、三菱化学株式会社製)、「PKHH」、「PKHB」(以上、InChem社製)等が挙げられる。
【0179】
ポリイミド樹脂の市販品としては、「ユニディック(登録商標)V-8000」(カルボキシ基含有分岐ポリイミド樹脂、DIC株式会社製)等が挙げられる。
ポリアミド樹脂の市販品としては、「ニューマイド」(ハリマ化成株式会社製)、「トレジン(登録商標)」(ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
【0180】
フェノール系樹脂の市販品としては、「ハリフェノール」(ロジン変性フェノール樹脂、ハリマ化成株式会社製)、「フドウライト(登録商標)」(フドー株式会社製)、「ニカノール(登録商標)」(キシレン樹脂、フドー株式会社製)、「マルカリンカー(登録商標)」(ポリパラビニルフェノール樹脂、丸善石油化学株式会社製)、「フェノライト(登録商標)」(ノボラック型フェノール樹脂、DIC株式会社製)等が挙げられる。
【0181】
アルキド樹脂の市販品としては、「ベッコゾール(登録商標)」(DIC株式会社製)、「ハリフタール」(ハリマ化成株式会社製)等が挙げられる。
アミノ樹脂の市販品としては、「ベッカミン(登録商標)」(DIC株式会社製)、「サイメル」(三井サイテック株式会社製)、「メラン(登録商標)」(日立化成工業株式会社製)等が挙げられる。
【0182】
ポリ乳酸樹脂の市販品としては、「バイロエコール(登録商標)BE」(ヒドロキシ基含有ポリ乳酸樹脂、東洋紡績株式会社製)などが挙げられる。
オキサゾリン樹脂の市販品としては、「エポクロス(登録商標)」(日本触媒株式会社製)、「1,3-PBO」(三國製薬工業株式会社製)等が挙げられる。
【0183】
ベンゾオキサジン樹脂の市販品としては、「P-d」、「F-a」(以上、四国化成工業株式会社製)等が挙げられる。
シリコーン樹脂の市販品としては、「KR」、「ES」(以上、信越シリコーン株式会社製)、「サイラプレーン(登録商標)」(チッソ株式会社製)、「ゼムラック(登録商標)」(株式会社カネカ製)等が挙げられる。
【0184】
フッ素樹脂の市販品としては、「ルミフロン(登録商標)」(旭硝子株式会社製)、「フルオネート(登録商標)」(ヒドロキシ基含有フッ素樹脂、DIC株式会社製)等が挙げられる。
【0185】
[3.3 光硬化性樹脂]
本発明に係る樹脂としては、光硬化性樹脂を用いてもよい。
光硬化性樹脂としては、光照射による架橋反応に利用できる官能基、例えば、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、ビニル基、オキセタニル基などを一分子中に一つ以上有する樹脂であれば特に限定されず、低分子化合物である所謂「単量体」又は「モノマー」と称する化合物、オリゴマーなどもこれに属するものとする。
【0186】
例えば、アクリル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、ジエポキシド樹脂、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0187】
アクリル(メタ)アクリレートの市販品としては、「8KX」(大成ファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。
【0188】
ウレタン(メタ)アクリレートの市販品としては、「紫光(登録商標)」(日本合成化学株式会社製)、「ビームセット(登録商標)500」(荒川化学株式会社製)、「ユニディック(登録商標)V-4000」(DIC株式会社製)、「EBECRYL(登録商標)」(ダイセル・サイテック株式会社製)、「アートレジン(登録商標)」(根上工業株式会社製)等が挙げられる。
【0189】
ポリエステル(メタ)アクリレートの市販品としては、「ビームセット(登録商標)700」(荒川化学株式会社製)、「EBECRYL(登録商標)」(ダイセル・サイテック株式会社製)等が挙げられる。
ポリエーテル(メタ)アクリレートの市販品としては、「EBECRYL(登録商標)80」、「81」、「83」(以上、ダイセル・サイテック株式会社製)等が挙げられる。
【0190】
エポキシ(メタ)アクリレートの市販品としては、「KAYARAD(登録商標)ZAR」、「ZFR」(以上、日本化薬株式会社製)、「ディックライト(登録商標)」(DIC株式会社製)、「リポキシ(登録商標)」(昭和高分子株式会社製)等が挙げられる。
ポリカーボネート(メタ)アクリレートの市販品としては、「PCD-DM」、「PCD-DA」(以上、宇部興産株式会社製)等が挙げられる。
【0191】
ジエポキシド樹脂の市販品としては、「UVACURE(登録商標)」(ダイセル・サイテック株式会社製)等が挙げられる。
脂環式エポキシ樹脂の市販品としては、「セロキサイド(登録商標)2021P」(ダイセル・サイテック株式会社製)等が挙げられる。
【0192】
[3.4 熱・光硬化性樹脂]
本発明に係る樹脂としては、熱・光硬化性樹脂を用いてもよい。
熱・光硬化性樹脂としては、光照射による架橋反応に利用できる官能基に加え、加熱による架橋反応に利用できる官能基を共に有する樹脂であれば特に制限されない。
【0193】
熱・光硬化性樹脂の市販品としては、「サイクロマー(登録商標)P」(ダイセル・サイテック株式会社製)、「ディックライト(登録商標)」(DIC株式会社製)、「リポキシ(登録商標)PR」、「SPC」(以上、昭和高分子株式会社製)、「KAYARAD(登録商標)ZFR1122」(日本化薬株式会社製)等が挙げられる。
【0194】
なお、光照射による架橋反応に利用できる官能基、及び加熱による架橋反応に利用できる官能基は、同一のものであってもよい。上記樹脂は一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0195】
[4 その他添加剤]
本発明の難燃性樹脂組成物は、目的に応じて、本発明の効果を損なわない程度で、その他添加剤を含有してもよい。
【0196】
添加剤としては、例えば、酸化防止剤、フィラー、結晶核剤等が挙げられる。添加剤の含有量は、難燃性樹脂組成物の全質量に対して、0~30質量%の範囲内であることが好ましく、0~20質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0197】
≪難燃性樹脂組成物の製造方法≫
本発明の難燃性樹脂組成物の製造方法は、特に制限されないが、樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、溶融混練法を用いることが好ましく、公知の溶融混練法を用いることができる。また、樹脂が熱可塑性樹脂以外の樹脂である場合には、各成分を均一に混合する公知の方法を用いることができる。
以下、溶融混練法を用いて、本発明の難燃性樹脂組成物を製造する方法について説明する。
【0198】
溶融混練法としては、例えば、酸性多糖類、難燃剤、樹脂等を、タンブラーやヘンシェルミキサーとして知られた高速ミキサー等の各種混合機を用いて予備混合した後、バンバリミキサー、ロール、プラストグラフ、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー等の混練装置で溶融混練する方法が挙げられる。
【0199】
中でも、生産効率の観点から、押出機を用いることが好ましく、二軸押出機を用いることがより好ましい。押出機を用いて材料を溶融混練し、混練物をストランド状に押し出した後、混練物をペレット状やフレーク状等の形状に加工することができる。
【0200】
なお、予め材料を混合する予備混合を行う前に、各材料を十分に乾燥しておくことが好ましい。乾燥温度は、特に制限されないが、60~120℃の範囲内であることが好ましく、乾燥時間は、特に制限されないが、2~6時間の範囲内であることが好ましい。また、乾燥がより進行しやすい観点から、減圧下で乾燥することが好ましい。上記乾燥は、予備混合の後に行ってもよい。
【0201】
溶融混練の温度は、特に制限されないが、用いる樹脂の種類等に応じて適宜選択することが好ましく、具体的には150~280℃の範囲内であることが好ましい。ここで、溶融混練の温度は、例えば、二軸押出機等の混練装置におけるシリンダ温度に相当する。また、シリンダ温度とは、混練装置のシリンダにおいて複数の温度設定がなされる場合には、最も高いシリンダ部の温度のことをいう。混練圧力は、特に制限されないが、1~20MPaの範囲内であることが好ましい。
【0202】
混練装置からの吐出量は、特に制限されないが、溶融混練が十分に行われる観点から、10~100kg/hrの範囲内であることが好ましく、20~70kg/hrの範囲内であることがより好ましい。
【0203】
上記の方法で混練装置により溶融混練された混練物は、混練装置から押し出された後、冷却処理されることが好ましい。冷却処理の方法は、特に制限されず、例えば、混練物を0~60℃の範囲内の水に浸漬して水冷する方法、-40~60℃の範囲内の気体で冷却する方法、-40~60℃の範囲内の金属に接触させる方法等が挙げられる。
【0204】
本発明の難燃性樹脂組成物の形態及び形状は、特に制限されず、例えば、粉末状、顆粒状、タブレット(錠剤)状、ペレット状、フレーク状、繊維状等の固体状であっても、液体状であってもよい。
【0205】
≪難燃性樹脂成形品≫
本発明の難燃性樹脂成形品は、前述の難燃性樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とする。
本発明の難燃性樹脂成形品は、前述の難燃性樹脂組成物を用いて形成されることにより、樹脂成形品に難燃性を付与することができる。また、難燃剤としてリン化合物を用いる場合には、難燃性に加えて、強度や外観を両立させることができる。
【0206】
樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、本発明の難燃性樹脂成形品は、前述の難燃性樹脂組成物を各種成形機内で溶融し、成形することにより得られる。成形方法としては、成形品の形態及び用途に応じて適宜選択することができ、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、インフレーション成形等が挙げられる。また、押出成形、カレンダー成形等で得られたシート状又はフィルム状の成形品について、真空形成や圧空成形等の二次成形を行ってもよい。
【0207】
また、樹脂が熱可塑性樹脂以外の硬化性樹脂である場合には、前述の難燃性樹脂組成物を硬化することにより成形品が得られる。なお、硬化する方法は、従来公知の方法を用いることができる。
【0208】
難燃性樹脂成形品としては、特に制限されず、例えば、家電製品及び自動車等の分野における部品(電気電子部品、電装部品、外装部品、内装部品等)、各種包装資材、家庭用品、事務用品、配管、農業用資材等が挙げられる。
【0209】
≪難燃性樹脂筐体及び電子機器≫
本発明の難燃性樹脂筐体は、前述の難燃性樹脂成形品を含むことを特徴とする。また、本発明の電子機器は、前述の難燃性樹脂成形品を具備することを特徴とする。
すなわち、前述の難燃性樹脂成形品は、電子機器等において、当該電子機器を収容する筐体として用いても、部品として用いてもよい。
なお、本発明において、「電子機器」とは、電子工学の技術を応用した電気製品のことをいう。
【0210】
本発明の難燃性樹脂筐体が収容する物品は特に制限されないが、電子機器等を収容することが好ましい。その他、一般的に難燃性の樹脂で製造されることが好ましい筐体においても、本発明の難燃性樹脂筐体を適用することができる。
【0211】
また、難燃剤としてリン化合物を用いる場合には、難燃性に加えて、強度や外観に優れた難燃性樹脂筐体とすることができる。
【0212】
電子機器としては、特に制限されず、例えば、コンピューター、スキャナー、複写機、プリンター、ファクシミリ装置、これらの機能を兼ね備えたMFP(Multi Function Peripheral)と称される複合機等のOA機器、商業印刷用のデジタル印刷システム等が挙げられる。
【0213】
図1に、本発明の電子機器の具体例を示す。図1は、本発明の難燃性樹脂成形品を外装部品とする大型複写機10の概略斜視図である。図1に示すように、大型複写機10は、外装部品G1~G9で外装されている。このような外装部品に、本発明の難燃性樹脂成形品を用いることができる。
【実施例0214】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
また、下記実施例において、特記しない限り操作は室温(25℃)で行われた。
【0215】
[樹脂組成物の調製]
実施例における樹脂組成物の構成材料として、以下の樹脂、多糖類及び難燃剤を使用した。
【0216】
(樹脂)
樹脂として、以下の市販品を使用した。なお、混合樹脂の軟化点は、200℃以上であり、その他の樹脂の軟化点は200℃以下であった。
1.ポリスチレン系樹脂
ポリスチレン樹脂(PS):「H9152」(製品名、PSジャパン社製)
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS):「トヨラック(登録商標)700-314」(製品名、東レ社製)
2.その他熱可塑性樹脂
ポリ乳酸樹脂(PLA):「テラマック(登録商標)TE-8303」(製品名、ユニチカ社製)
混合樹脂(PC/ABS):「マルチロン(登録商標)T-3750」(製品名、帝人社製)
【0217】
(多糖類)
多糖類として、以下の市販品及び合成例で得られたものを使用した。なお、多糖類A1~A12は、本発明に用いられる酸性多糖類に該当する。
A1:アルギン酸カルシウム:「スノーアルギンSAW-80」(製品名、キミカ社製)
A2:カラギーナン:「カラギーナンWG-108」(製品名、三晶社製)
A3:キサンタンガム:「キサンタンガム」(製品名、東京化成工業社製)
A4:アルギン酸ナトリウム:「キミカアルギンI-3G」(製品名、キミカ社製)
A5:カルボキシメチルセルロース:「Aqualon(登録商標)CMC-7LF」(製品名、ASHland社製)
A10:ペクチン:「ペクチン,かんきつ類由来」(製品名、富士フイルム和光純薬社製)
A11:ジェランガム:「ゲランガム」(製品名、富士フイルム和光純薬社製)
C1:セルロース:「セルロース,粉末,38μm通過品」(製品名、富士フイルム和光純薬社製)
【0218】
(A6:カルボキシメチルセルロースの合成)
5Lフラスコ中に、下記成分を入れ、室温にて撹拌した。
イソプロピルアルコール 2500質量部
水 180質量部
粉末セルロース(セルロース,粉末,38μm通過品(富士フイルム和光純薬社製)、多糖類C1)
100質量部
【0219】
これに、下記成分を溶解させた溶液を添加し、35℃にて1時間撹拌した。
水酸化ナトリウム 21.6質量部
水 25質量部
【0220】
その後、下記成分を混合した混合液を滴下し、65℃にて2時間撹拌、反応させた。
モノクロロ酢酸 11.6質量部
イソプロピルアルコール 15質量部
【0221】
得られた反応液を室温に冷却後、取り出し、下記成分を添加して撹拌し、余剰の水酸化ナトリウムを中和した。
70質量%メタノール水溶液 1000質量部
酢酸 0.1質量部
【0222】
その後、下記成分を追加し、撹拌した後、スラリーをろ過し、アセトン洗浄、乾燥することで、多糖類A6としてカルボキシメチルセルロース103質量部を得た。
70質量%メタノール水溶液 3000質量部
得られた多糖類A6の酸性官能基数を、前述のカルボキシメチル基の置換度の測定方法を用いて確認したところ、0.20であった。
【0223】
(A7:カルボキシメチルセルロースの合成)
5Lフラスコ中に、下記成分を入れ、室温にて撹拌した。
イソプロピルアルコール 2500質量部
水 180質量部
粉末セルロース(セルロース,粉末,38μm通過品(富士フイルム和光純薬社製)、多糖類C1)
100質量部
【0224】
これに、下記成分を溶解させた溶液を添加し、35℃にて1時間撹拌した。
水酸化ナトリウム 56.1質量部
水 60質量部
【0225】
その後、下記成分を混合した混合液を滴下し、65℃にて2時間撹拌、反応させた。
モノクロロ酢酸 63.4質量部
イソプロピルアルコール 45質量部
【0226】
得られた反応液を室温に冷却後、取り出し、下記成分を添加して撹拌し、余剰の水酸化ナトリウムを中和した。
70質量%メタノール水溶液 1000質量部
酢酸 3.7質量部
【0227】
その後、下記成分を追加し、撹拌した後、スラリーをろ過し、アセトン洗浄、乾燥することで、多糖類A7としてカルボキシメチルセルロース123質量部を得た。
70質量%メタノール水溶液 3000質量部
得られた多糖類A7の酸性官能基数を、前述のカルボキシメチル基の置換度の測定方法を用いて確認したところ、0.61であった。
【0228】
(A8:カルボキシメチルセルロースの合成)
5Lフラスコ中に、下記成分を入れ、室温にて撹拌した。
イソプロピルアルコール 2500質量部
水 180質量部
粉末セルロース(セルロース,粉末,38μm通過品(富士フイルム和光純薬社製)、多糖類C1)
100質量部
【0229】
これに、下記成分を溶解させた溶液を添加し、35℃にて1時間撹拌した。
水酸化ナトリウム 160質量部
水 150質量部
【0230】
その後、下記成分を混合した混合液を滴下し、65℃にて2時間撹拌、反応させた。
モノクロロ酢酸 180質量部
イソプロピルアルコール 130質量部
【0231】
得られた反応液を室温に冷却後、取り出し、下記成分を添加して撹拌し、余剰の水酸化ナトリウムを中和した。
70質量%メタノール水溶液 1000質量部
酢酸 8.2質量部
【0232】
その後、下記成分を追加し、撹拌した後、スラリーをろ過し、アセトン洗浄、乾燥することで、多糖類A8としてカルボキシメチルセルロース152質量部を得た。
70質量%メタノール水溶液 3000質量部
得られた多糖類A8の酸性官能基数を、前述のカルボキシメチル基の置換度の測定方法を用いて確認したところ、1.70であった。
【0233】
(A9:アルギン酸マグネシウムの調製)
アルギン酸ナトリウム(A4)を水に溶解し、10質量%のアルギン酸ナトリウム水溶液を調製した。ここに、10質量%の塩化マグネシウム水溶液を滴下し、析出したアルギン酸マグネシウムをろ過して乾燥させた。
【0234】
(A12:アルギン酸カルシウム及びセルロース混合物の調製)
アルギン酸カルシウム(A1)及びセルロース(C1)を、単糖単位当たりのモル数比3:1で混合させた。
得られた多糖類A12の酸性官能基数を確認したところ、0.75であった。
【0235】
(難燃剤)
難燃剤として、以下の市販品を使用した。
芳香族縮合リン酸エステル(縮合リン酸エステル):「PX-200」(製品名、大八化学工業社製)
トリフェニルホスフェート(リン酸エステル):「TPP」(製品名、大八化学工業社製)
ポリリン酸アンモニウム:「タイエンK」(製品名、太平化学産業社製)
【0236】
各樹脂組成物の構成を表Iに示す。なお、「-」は含有しないことを表す。
【0237】
【表1】
【0238】
(樹脂組成物の作製)
混練前の事前乾燥として、樹脂及び多糖類をそれぞれ80℃で4時間乾燥させた。そして、表Iに示される成分比(質量%)で秤量し、ドライブレンドした。次いで、二軸押出混練機「KTX-30」(株式会社神戸製鋼所製)の原材料供給口(ホッパー)から、ドライブレンドして得られた混合物を毎時10kgで供給し、シリンダ温度200℃(樹脂組成物28のみ240℃)、スクリュー回転数200rpmの条件で溶融混練を行った。混練後の溶融樹脂を30℃の水槽にて冷却した後、ペレタイザーにてペレット化して、樹脂組成物を得た。
【0239】
≪評価≫
(評価1:外観)
得られたペレット状の各樹脂組成物を、80℃で5時間、熱風循環式乾燥機により乾燥させた後、射出成型機「J1300E-C5」(株式会社日本製鋼所製)を用いて、図1に示す大型複写機の外装部品G8想定した模擬成形品を、シリンダ温度200℃(樹脂組成物28のみ240℃)及び金型温度80℃にて成形し、中央部分よりサンプルを採取した。得られたサンプルについて、目視にて外観を観察し、以下の基準で評価を行った。
【0240】
◎:外観不良無し。
〇:多少色むらがあるが、外装部品として使用できる。
△:色むらがあるが、内装部品や目立たない箇所の部品として使用できる。
×:色むらが多く、使用できない。
なお、△以上を実用上問題がなく、合格とした。
【0241】
(評価2:難燃性)
得られたペレット状の各樹脂組成物を、80℃で4時間乾燥させた後、射出成型機「J55ELII」(株式会社日本製鋼所製)を用いて、シリンダ温度200℃(樹脂組成物28のみ240℃)及び金型温度50℃にて成形し、縦125mm、横13mm、厚さ1.6mmの短冊型試験片を得た。
【0242】
次いで、得られた試験片を、温度23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間調湿し、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して難燃性試験を行った。試験は、UL94V試験法を実施し、難燃性の序列を確認し、以下の基準で評価を行った。
【0243】
◎:V-0
〇:V-1
△:V-2
×:規格外
なお、△以上は、UL94HBの合格基準を満たしており、実用上問題がなく、合格とした。
【0244】
(評価3:強度)
得られたペレット状の各樹脂組成物を、80℃で4時間乾燥させた後、射出成型機「J55ELII」(株式会社日本製鋼所製)を用いて、シリンダ温度200℃(樹脂組成物28のみ240℃)及び金型温度50℃にて成形し、縦80mm、横10mm、高さ4.0mmの試験片を得た。
【0245】
成形数は、300ショットを捨てショットとした後、連続100ショットを成形した。得られた100個の試験片の曲げ強度のばらつきXTS(%)を、下記式から求め、以下の基準で評価を行った。
【0246】
XTS(%)=(TRmax-TRmin)/(TRav)×100
なお、上記式中、TRmaxは、100個の試験片の曲げ強度の最大値(MPa)を表し、TRminは、100個の試験片の曲げ強度の最小値(MPa)を表し、TRavは、100個の試験片の曲げ強度の平均値(MPa)を表す。試験片の曲げ強度は、JIS-K7171に基づいて測定された値である。
【0247】
◎:TRavが20MPa以上、かつXTSが0.5%未満である。
〇:TRavが20MPa以上、かつXTSが0.5%以上、5%未満である。
△:TRavが20MPa以上、かつXTSが5%以上、15%未満である。
×:TRavが20MPa未満、又はXTSが15%以上である。
【0248】
評価結果を表IIに示す。
【0249】
【表2】
【0250】
評価結果より、本発明の樹脂組成物は、酸性多糖類と難燃剤を含有することにより、難燃性に優れることがわかる。
なお、酸性多糖類のみを含有する参考例(樹脂組成物100)においても、実用上十分な難燃性は有しているが、更に難燃剤を含有する樹脂組成物1及び26においては、難燃性に加えて、外観がより優れることがわかる。
【0251】
樹脂組成物1~8及び101の比較から、本発明の樹脂組成物が酸性多糖類を含有することにより、難燃性に優れることがわかる。
樹脂組成物1~3、5~8、24、25、29及び101の比較から、中でも特に、樹脂組成物5~8の比較から、本発明に係る酸性多糖類における酸性官能基数が、0.20~1.50の範囲内、より好ましくは0.60~1.20の範囲内であることにより難燃性に優れることがわかる。
【0252】
樹脂組成物1、4及び23の比較から、本発明に係る酸性多糖類に含まれる塩が、二価以上の塩であることにより、難燃性に加えて、強度や外観に優れることがわかる。また、アルギン酸塩の中でも、アルギン酸カルシウムであることにより、強度や外観に優れることがわかる。
樹脂組成物1、9~12、19及び20の比較から、本発明に係る酸性多糖類の含有量が5~40質量%の範囲内であることにより、難燃性に加えて、強度や外観に優れることがわかる。
樹脂組成物1、13、16、21及び22の比較から、本発明に係る難燃剤の含有量が1~20質量%の範囲内であることにより、難燃性に加えて、強度や外観に優れることがわかる。
【0253】
樹脂組成物1、26及び27の比較から、本発明に係るリン化合物がリン酸エステルであることにより、難燃性に優れることがわかる。
樹脂組成物1及び28の比較から、熱可塑性樹脂の軟化点が200℃以下であることにより、難燃性に加えて、強度や外観に優れることがわかる。
【符号の説明】
【0254】
10 大型複写機
G1~G9 外装部品
図1