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  • 特開-音の透過性向上構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120510
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】音の透過性向上構造
(51)【国際特許分類】
   A47F 9/00 20060101AFI20230823BHJP
   E04B 2/74 20060101ALN20230823BHJP
【FI】
A47F9/00 Z
E04B2/74 561L
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023428
(22)【出願日】2022-02-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)日本音響学会講演論文集 飛沫防止用仕切り板の音響透過性の向上その1 2021年3月発行 (2)日本音響学会講演論文集 飛沫防止用仕切り板の音響透過性の向上その2 2021年3月発行 (3)日本音響学会講演論文集 飛沫防止用仕切り板の音響透過性の向上その3 2021年9月発行
(71)【出願人】
【識別番号】000173728
【氏名又は名称】一般財団法人小林理学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100085257
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 有
(72)【発明者】
【氏名】杉江 聡
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 肇
(72)【発明者】
【氏名】新田 龍馬
(57)【要約】

【課題】 遮音性を有する仕切り部材の音の透過性能を向上する構造を提供する。
【解決手段】
飛沫防止用パーティションは、支持ブロック4の二股部に上から板状の透明仕切り部材1を差し込むか被せることで固定される。透明仕切り部材1の両側には共鳴機構を形成する透明有孔板2が固着されている。固着方法は透明有孔板2の四隅に形成された凹部に永久磁石5が嵌め込まれ、対向する透明有孔板2の永久磁石5は極性が逆になるようにしている。したがって、透明仕切り部材1を挟んで2つの透明有孔板2を近づけることで、透明有孔板2は互いに吸着固定される。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮音性を有する仕切り部材の両側に空気層を介して有孔板を設置することで、前記仕切り部材の両側に音の透過性能を向上させる共鳴機構を形成したことを特徴とする音の透過性向上構造。
【請求項2】
請求項1に記載の音の透過向上構造において、前記仕切り部材は飛沫防止用パーティションであることを特徴とする音の透過性向上構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の音の透過向上構造において、前記両側の有孔板は磁石を備え、磁石による吸着力により仕切り部材を挟んで互いに固定されることを特徴とする音の透過性向上構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、COVID19などの感染症拡大防止のために、病院や銀行の窓口、商店のレジなどの人と人が直接会話する箇所に設置される飛沫防止用パーティションなどの遮音性を有する仕切り部材に適用される音の透過性を向上する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、台板に一対の脚部を固着し、脚部のスリットに上から透明パネルを差し込み、透明パネルをビスにより脚部に固定した飛沫防止パーティションが開示されている。
【0003】
特許文献2には、パネル板と支柱からなる衝立型間仕切りが開示されている。この衝立型間仕切りパネル板の板厚方向に開口した1又は2以上のネジ止め用の穴と、支柱の軸方向に延びる1又は2以上の案内溝と、案内溝に案内されて軸方向に移動可能な1又は2以上のナット部材と、ネジ止め用の穴を介してナット部材に螺合するネジとを備えた構造である。
【0004】
透明板や薄いビニールシートであっても仕切り板として用いると、中高音域において比較的大きな減音が生じ、会話が聞きにくくなる不具合が発生する。
このため、非特許文献1において本発明者等は共鳴機構を備えた飛沫防止用仕切り板を提案した。この飛沫防止用仕切り板の構造は、透明板(単層板)の前面に空気層を介して有孔板を設置することによる共鳴透過を利用したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3231849号公報
【特許文献2】特許第6822600号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「共鳴機構を付加した単層板の透過音制御」公益社団法人日本騒音制御工学会研究発表会講演論文集、杉江聡 鈴木肇 新田龍馬、2020年11月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1または2に開示されるようなアクリル板などの単板からなる飛沫防止用仕切り板は、飛沫防止はできても中高音域における減音が大きい。
【0008】
非特許文献1に開示されるように、透明板(単層板)の前面に空気層を介して有孔板を設置することで、中高音域における減音を少なくすることができたが、音の透過性能はまだ十分なものではない。
【0009】
また、非特許文献1にあっては共鳴周波数の透明板への依存が大きいため、音の透過性能を上げるために使用する透明板についても最適な条件を考慮する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため本発明に係る音の透過性向上構造は、遮音性を有する仕切り部材の両側に空気層を介して有孔板を設置することで、仕切り部材の両側に音の透過性能を向上させる共鳴機構を形成した。
【0011】
前記仕切り部材としては、例えば飛沫防止用パーティションが挙げられる。また、仕切り部材に対する有孔板の取り付け手段としては、磁石による吸着力により仕切り部材を挟んで互いに固定することが考えられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来の透明板やビニールシートなどの遮音性を有する仕切り部材を音の透過性能を向上させることができる。
【0013】
特に、非特許文献1で示した仕切り部材の片側のみに有孔板を配置した構成に比べて、仕切り部材を挟んだ向こう側への透過性能を向上することができる。
【0014】
更に、仕切り部材の両側に共鳴機構を形成することで、共鳴周波数が仕切り部材に依存する度合いが少なくなり、設計が楽になる。
【0015】
また、永久磁石を用いて両側の有孔板を仕切り部材を挟んで固着する構成とすることで、使用者の体格などに合わせて有孔板の位置を簡単に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)は付加共鳴器の設計に用いた装置の正面図、(b)は断面図
図2】垂直入射音響損失の推定結果を示すグラフ
図3】インテンシティ音響透過損失計測結果を示すグラフ
図4】模擬カウンターの配置図
図5】音圧レベル差の計測結果を示すグラフ
図6】製品化した飛沫防止用パーティションの斜視図
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1に示すように、板状の仕切り部材1の左右に有孔板2を空気層3を介して配置して付加共鳴器(共鳴機構)を形成した。有孔板は枠を用いて仕切り部材1との間隔を規定した。
【0018】
付加共鳴器の設計に用いた装置の構造は無限大に広いと仮定し、平面波が垂直入射した条件の音響透過損失を伝達行列法を用いて算出する。本構造においては、二つの共鳴周波数(frp1、frp2)が現れるが、低い方のfrp1を1000Hzに固定し、開口率φと空気層厚lを変化させて推定した。垂直入射音響透過損失R0の推定結果を図2に示す。有孔板の音響インピーダンスZphは下式(1)を用いた。
【0019】
【数1】
【0020】
図2によると、lとφが小さい条件では、二つの共鳴周波数における落ち込みは分離しているが、それらが増加すると、高い方に現れるfrp2の落ち込みがfrp1に近づき、一つの落ち込みのようになる。
【0021】
frp1周辺の落ち込みの周波数範囲が広い方が実測結果においても大きく低下すると考えられる。よって、l=20mm(φ=3.7%)程度が効果的に遮音性能を低下させることができると考えられる。
【0022】
この推定結果を検証するために、500mm角の小試験体を用いたインテンシティ音響透過損失R1の計測結果を図3に示す。
ただし、frp1を約900Hzとして各パラメータを変化させている。本結果はランダム入射条件におけるものではあるが、実測結果においても、l=20mmが最も低いことが分かる。
【0023】
次に、模擬実験について述べる。
音響透過損失試験用のTypeII試験室の開口部(W3650×H2740)に図4に示す商店の受付を模擬したカウンターを設置し、開口部上端部から仕切りシート(厚さ0.3mmの軟質塩化ビニルシート)を吊り下げた。ただし、カウンター及びシートとも開口部の幅方向全体に設置した。また、シートとカウンターの間には250mmの開口を設けた。なお、試験室内に吸音材を設置し、室内の残響時間を約0.5秒に調整した。
【0024】
指向性スピーカを仕切りシートから600mm離れた点(高さ1600mm)で設置し、反対側の面内で且つ付加共鳴器の正面から外れない領域に、5本の無指向性マイクロホン一様に分散させた。ただし、そのうちの1本はスピーカ正面に配置されている。
【0025】
2体の付加共鳴器(500mm角)を、その中心がスピーカの軸線上に位置するようにビニールシートを挟んで設置した。付加共鳴器には、厚さ0.4mmの軟質塩化ビニルに、d=10mm、φ=2.6%で穿孔したシートを用いた。取付用の1mm厚のマグネットシートを枠に貼ったために、空気層厚lは21mmとなる。frp1とfrp2の計算値はそれぞれ883Hz、1288Hzである。
【0026】
仕切りシートがある条件とそれに付加共鳴器を取り付けた条件のそれぞれから仕切りシートのない条件を差し引いた音圧レベル差Dの計測結果(負の値が大きいほど遮蔽効果が大きい)を図5に示す。ただし、音源としてノイズを発生させ、20秒間の時間平均および5点の空間平均した結果である。
【0027】
図5から分かるように、仕切りシートで仕切ることで、反対側の音圧レベルは315Hz以下では殆ど変化しないが、500Hzで約2dBの低下がみられ、更に周波数を増加すると徐々に低下する。一方、付加共鳴器を設置すると、共鳴透過周波数付近で音圧レベル差Dは0dBに近づき、仕切りシートのない条件程度まで音圧レベルが上昇した。
【0028】
また、飛沫感染防止のために一般に設置されている軽量軟質シート(0.3~0.4mm)を対象に、その両側に有孔板を用いた付加共鳴器(共鳴機構)を設置し、効果的に透過性を向上させる開口率と空気層厚を検討した。
検討の結果、開口率は約3%、空気層厚は約20mmにおいて、共鳴周波数付近で大きく透過性能が向上した。
【0029】
仕切りシートをビニールシートよりも厚くて重いアクリル透明板に変更して製品化した飛沫防止用パーティションを図6に示す。
飛沫防止用パーティションは、支持ブロック4の二股部に上から板状の透明仕切り部材1を差し込むか、支持ブロック4の下端部に形成した袋部を二股部の外側に被せることで固定される。
【0030】
透明仕切り部材1の両側には共鳴機構を形成する透明有孔板2が固着されている。固着方法は透明有孔板2の四隅に形成された凹部に永久磁石5が嵌め込まれ、対向する透明有孔板2の永久磁石5は極性が逆になるようにしている。したがって、透明仕切り部材1を挟んで2つの透明有孔板2を近づけることで、透明有孔板2は互いに吸着固定される。
【0031】
また、永久磁石5の背部には指を差し込めるリングが付けられているので、透明仕切り板1から透明有孔板2を簡単に取り外すことができる。そして、対話する人の座高などに合わせて透明有孔板2の位置を調整することもできる。
また、磁石としては枠材の木口にマグネットシートを貼り付ける、或いは透明有効板の縁部(縁部の一部)に沿ってマグネットシートを貼り付けるなどの形態も考えられる。
【0032】
尚、透明有孔板2に形成した孔径は10mm、空気層の厚みを決定する透明有孔板2の縁部の高さは11mmとしたが、透明有孔板の孔径、孔の形状及び透明有孔板の縁部の高さはこの数値に限定されない。
【0033】
製品化例としては、飛沫防止用パーティションを示したが、本発明に係る音の透過性向上構造は他の用途にも適用できる。
例えば、セキュリティを高めるために設けられるタクシーの運転席と客席の間を仕切る透明ボード、発券売り場や両替所の客との間を仕切るボードの他、住宅の玄関ドアやガラス窓、フェイスシールド、電子レンジ等の窓、ビニールハウス等の出入り口や壁面にも適用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1…仕切り部材、2…有孔板、3…空気層、4…支持ブロック、5…永久磁石。
図1
図2
図3
図4
図5
図6