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特開2023-120528固有振動数の調整プログラム、固有振動数の調整方法および固有振動数の調整システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120528
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】固有振動数の調整プログラム、固有振動数の調整方法および固有振動数の調整システム
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20230823BHJP
【FI】
F16F15/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023462
(22)【出願日】2022-02-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 一般社団法人日本応用数理学会,日本応用数理学会2021年度年会講演予稿集,9月7日第2セッション,D-5,2021年9月1日 一般社団法人日本機械学会,Dynamics and Design Conference 2021講演論文集,OS6-3-2,405,2021年9月13日 一般社団法人日本機械学会,日本機械学会第34回計算力学講演会(CMD2021)講演論文集,No.21-36,171,2021年9月20日 数学・数理科学専攻若手研究者のための異分野・異業種研究交流会2021,オンライン(https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/icms/poster2021/p33.pdf),2021年11月13日
(71)【出願人】
【識別番号】517152450
【氏名又は名称】合同会社イチセイ
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】萩原 一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 淑恵
【テーマコード(参考)】
3J048
【Fターム(参考)】
3J048AD20
3J048CB23
(57)【要約】
【課題】振動に対する構造物の固有振動数を短時間で正しく制御することを可能にすること。
【解決手段】物体の固有振動のモードおよび固有振動数を導出する工程と、固有振動のモードにおいて運動エネルギー密度の分布を導出して運動エネルギー密度が高い要素であるマス部を特定すると共に、歪みエネルギー密度の分布を導出して歪みエネルギー密度が高い要素であるバネ部を特定する工程と、固有振動数導出手段で導出された固有振動数に対して目的の固有振動数の方が低い場合は、物体のバネ部の弱体化およびマス部の補強の少なくとも一方を行うと共に、固有振動数導出手段で導出された固有振動数に対して目的の固有振動数の方が高い場合は、物体のマス部の弱体化およびマス部の補強の少なくとも一方を行うことで、物体の固有振動数を調整する工程と、を行うことを特徴とする固有振動数の調整方法。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定められた大きさの要素が複数割り付けられた物体に対して、物体の固有振動のモードおよび固有振動数を導出する固有振動数導出手段と、
固有振動のモードにおいて、要素ごとに運動エネルギー密度の分布を導出する運動エネルギー密度分布導出手段と、
固有振動のモードにおいて、要素ごとに歪みエネルギー密度の分布を導出する歪みエネルギー密度分布導出手段と、
予め定められた第1の閾値と運動エネルギー密度とに基づいて、運動エネルギー密度が高い要素であるマス部を特定するマス部特定手段と、
予め定められた第2の閾値と歪みエネルギー密度とに基づいて、歪みエネルギー密度が高い要素であるバネ部を特定するバネ部特定手段と、
前記固有振動数導出手段で導出された固有振動数に対して目的の固有振動数の方が低い場合は、物体の前記バネ部の弱体化および前記マス部の補強の少なくとも一方を行うと共に、前記固有振動数導出手段で導出された固有振動数に対して目的の固有振動数の方が高い場合は、物体の前記マス部の弱体化および前記バネ部の補強の少なくとも一方を行うことで、物体の固有振動数を調整する振動数調整手段と、
を備えたことを特徴とする固有振動数の調整システム。
【請求項2】
物体の複数の次数の固有振動のモードおよび各次の固有振動数を導出する前記固有振動数導出手段と、
各次の固有振動のモードにおいて、前記運動エネルギー密度の分布を導出する前記運動エネルギー密度分布導出手段と、
各次の固有振動のモードにおいて、前記歪みエネルギー密度の分布を導出する前記歪みエネルギー密度分布導出手段と、
各次の固有振動のモードにおいて、弱体化および補強の少なくとも一方を行う前記振動数調整手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の固有振動数の調整システム。
【請求項3】
各次の固有振動のモードにおいて、1つの次数の固有振動のモードにおいて弱体化させる位置が、他の次数の固有振動のモードにおいてマス部でもバネ部でもない場合と弱体化させることが他の固有振動数の目的に叶う場合、あるいは矛盾しても、その影響はより優先したいモードの効果と比べて低い場合にのみ、弱体化および補強の少なくとも一方を行う前記振動数調整手段、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の固有振動数の調整システム。
【請求項4】
コンピュータを、
予め定められた大きさの要素が複数割り付けられた物体に対して、物体の固有振動のモードおよび固有振動数を導出する固有振動数導出手段、
固有振動のモードにおいて、要素ごとに運動エネルギー密度の分布を導出する運動エネルギー密度分布導出手段、
固有振動のモードにおいて、要素ごとに歪みエネルギー密度の分布を導出する歪みエネルギー密度分布導出手段、
予め定められた第1の閾値と運動エネルギー密度とに基づいて、運動エネルギー密度が高い要素であるマス部を特定するマス部特定手段、
予め定められた第2の閾値と歪みエネルギー密度とに基づいて、歪みエネルギー密度が高い要素であるバネ部を特定するバネ部特定手段、
前記固有振動数導出手段で導出された固有振動数に対して目的の固有振動数の方が低い場合は、物体の前記バネ部の弱体化および前記マス部の補強の少なくとも一方を行うと共に、前記固有振動数導出手段で導出された固有振動数に対して目的の固有振動数の方が高い場合は、物体の前記マス部の弱体化および前記バネ部の補強の少なくとも一方を行うことで、物体の固有振動数を調整する振動数調整手段、
として機能させることを特徴とする固有振動数の調整プログラム。
【請求項5】
予め定められた大きさの要素が複数割り付けられた物体に対して、物体の固有振動のモードおよび固有振動数を導出する工程と、
固有振動のモードにおいて、要素ごとに運動エネルギー密度の分布を導出して、予め定められた第1の閾値と運動エネルギー密度とに基づいて運動エネルギー密度が高い要素であるマス部を特定すると共に、要素ごとに歪みエネルギー密度の分布を導出して、予め定められた第2の閾値と歪みエネルギー密度とに基づいて歪みエネルギー密度が高い要素であるバネ部を特定する工程と、
前記固有振動数を導出する工程で導出された固有振動数に対して目的の固有振動数の方が低い場合は、物体の前記バネ部の弱体化および前記マス部の補強の少なくとも一方を行うと共に、前記固有振動数を導出する工程で導出された固有振動数に対して目的の固有振動数の方が高い場合は、物体の前記マス部の弱体化および前記バネ部の補強の少なくとも一方を行うことで、物体の固有振動数を調整する工程と、
を行うことを特徴とする固有振動数の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の固有振動数を調整する調整システム、調整プログラムおよび調整方法に関し、特に、物体の固有振動数を与えられた帯域外に移動させる計算を自動化する調整システム、調整プログラムおよび調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物体には固有振動数が存在し、固有振動数と一致する外的な振動が加わると共振する問題がある。果物や野菜、酒類、ワイン等を箱や容器に入れて運搬する場合に、箱や容器が振動すると、内容物が損傷する問題がある。特に、血液や移植用の臓器等を運搬する場合に箱や容器の共振で血液等が損傷すると問題が大きい。
運搬時に箱等が受ける外的な振動の周波数帯は運搬方法(トラックや鉄道、飛行機等)によらず、全周波数域となるが、箱の中身がダメージしやすい周波数帯域内にある輸送系の固有振動数を、この帯域外にずらすことができれば、運搬の安全性を高めることが可能になる。
【0003】
非特許文献1~3には、構造物の最適な形状位相を求める均質化法を用いた位相最適化技術が記載されている。非特許文献1~3では、構造物を有限要素に分け、各要素は均質な細かな長方形の要素からなっているとし、回転角度θも与えるため、有限要素がn個あるとすると、設計変数は3nとなる。縦、横、θも正規化し、それぞれ[0.1]の中にあるとする。この3nを設計変数とし、重量を削減したうえで目標値を最大あるいは最小、あるいは目標値に近づける最適化を行うと、各要素の3変数は[0.1]の間に分布されることになる。縦横の大きさを例えば0.2より小さい要素に穴を設け、その他は現行の板厚のままにするとして位相最適化が得られたとしている。
非特許文献4では、以上の均質化法を用いた手法に対し、各要素の板厚を設計変数とする計n個の設計変数で同様のアプローチでも検討を行い、本質的な差は見られないと報告している。この手法は、現在では密度法による位相最適化技術と称されるもので、現在ではこちらの方が良く使用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Bensoe, M.P., and Kikuchi N., “Generating Optimal Topologies in Structural Design Usin a Homogenization Method”, Comput. Methods Appl. Mech. Engrg., Vol.71,(1988), 197-224
【非特許文献2】馬正東、菊池昇、鄭仙志、萩原一郎、”振動低減のための構造最適化手法の開発(第1報、ホモジェニゼーション法を用いた構造最適化理論)”, 日本機械学会論文集(C編)59巻562号1993-6,1730-1736
【非特許文献3】馬正東、菊池昇、萩原一郎、鳥垣俊和、”振動低減のための構造最適化手法の開発(第2報、新しい最適化アルゴリズム)”, 日本機械学会論文集(C編)60巻577号1994-9,3018-3024
【非特許文献4】L. H. Tenek and I. Hagiwara , “Optimal Plate and Shell Topologies Using Thickness Distribution or Homogenization”, Comput. Methods in Appl.Mech.Engrg. Vol.115(1994-7月)Nos.1&2,pp.111-124.
【非特許文献5】Hagiwara I., “Global Optimization Method to Multiple Local Optimals with the Surface Approximation Methodology and Its Application for Industry Problems” [Online First], DOI: 10.5772/intechopen.98907.(2021-9), pp.1-41.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(従来技術の問題点)
非特許文献1~4の従来技術では、最適化の計算を行う際に、構想物を多数の有限要素に分割して計算を行うが、要素の数が多いほうが計算の精度が高くなる一方で計算に時間がかかる問題もある。具体的には、複数の固有振動数を同時に対象とするので、次の式(1)の一般化固有値指標で確認する。
ここで、fi(i=1-m),foi(i=1-m)はそれぞれi次固有振動数と目標固有振動数、mは同時に扱う固有振動数の数である。fは通常0.0に、各重みWは通常1.0に、nは通常2が使用される。なお、W(i=1-m)でWのみ1.0で他は、0.0であれば、i番目だけすなわち、一つの固有振動数を対象にする場合も式(1)は含んでいる。
【0006】
本発明は、最適化の繰り返し計算を行った後、一定以下の厚さの箇所に孔を設ける従来技術に比べて、振動に対する構造物の固有振動数を短時間で正しく制御することを可能にすることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明の固有振動数の調整システムは、
予め定められた大きさの要素が複数割り付けられた物体に対して、物体の固有振動のモードおよび固有振動数を導出する固有振動数導出手段と、
固有振動のモードにおいて、要素ごとに運動エネルギー密度の分布を導出する運動エネルギー密度分布導出手段と、
固有振動のモードにおいて、要素ごとに歪みエネルギー密度の分布を導出する歪みエネルギー密度分布導出手段と、
予め定められた第1の閾値と運動エネルギー密度とに基づいて、運動エネルギー密度が高い要素であるマス部を特定するマス部特定手段と、
予め定められた第2の閾値と歪みエネルギー密度とに基づいて、歪みエネルギー密度が高い要素であるバネ部を特定するバネ部特定手段と、
前記固有振動数導出手段で導出された固有振動数に対して目的の固有振動数の方が低い場合は、物体の前記バネ部の弱体化および前記マス部の補強の少なくとも一方を行うと共に、前記固有振動数導出手段で導出された固有振動数に対して目的の固有振動数の方が高い場合は、物体の前記マス部の弱体化および前記バネ部の位置の補強の少なくとも一方を行うことで、物体の固有振動数を調整する振動数調整手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の固有振動数の調整システムにおいて、
物体の複数の次数の固有振動のモードおよび各次の固有振動数を導出する前記固有振動数導出手段と、
各次の固有振動のモードにおいて、前記運動エネルギー密度の分布を導出する前記運動エネルギー密度分布導出手段と、
各次の固有振動のモードにおいて、前記歪みエネルギー密度の分布を導出する前記歪みエネルギー密度分布導出手段と、
各次の固有振動のモードにおいて、弱体化および補強の少なくとも一方を行う前記振動数調整手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の固有振動数の調整システムにおいて、
各次の固有振動のモードにおいて、1つの次数の固有振動のモードにおいて弱体化させる位置が、他の次数の固有振動のモードにおいてマス部でもバネ部でもない場合と弱体化させることが他の固有振動数の目的に叶う場合、あるいは矛盾しても、その影響はより優先したいモードの効果と比べて低い場合にのみ、弱体化および補強の少なくとも一方を行う前記振動数調整手段、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
前記技術的課題を解決するために、請求項4に記載の発明の固有振動数の調整プログラムは、
コンピュータを、
予め定められた大きさの要素が複数割り付けられた物体に対して、物体の固有振動のモードおよび固有振動数を導出する固有振動数導出手段、
固有振動のモードにおいて、要素ごとに運動エネルギー密度の分布を導出する運動エネルギー密度分布導出手段、
固有振動のモードにおいて、要素ごとに歪みエネルギー密度の分布を導出する歪みエネルギー密度分布導出手段、
予め定められた第1の閾値と運動エネルギー密度とに基づいて、運動エネルギー密度が高い要素であるマス部を特定するマス部特定手段、
予め定められた第2の閾値と歪みエネルギー密度とに基づいて、歪みエネルギー密度が高い要素であるバネ部を特定するバネ部特定手段、
前記固有振動数導出手段で導出された固有振動数に対して目的の固有振動数の方が低い場合は、物体の前記バネ部の弱体化および前記マス部の補強の少なくとも一方を行うと共に、前記固有振動数導出手段で導出された固有振動数に対して目的の固有振動数の方が高い場合は、物体の前記マス部の弱体化および前記バネ部の補強の少なくとも一方を行うことで、物体の固有振動数を調整する振動数調整手段、
として機能させることを特徴とする。
【0011】
前記技術的課題を解決するために、請求項5に記載の発明の固有振動数の調整方法は、
予め定められた大きさの要素が複数割り付けられた物体に対して、物体の固有振動のモードおよび固有振動数を導出する工程と、
固有振動のモードにおいて、要素ごとに運動エネルギー密度の分布を導出して、予め定められた第1の閾値と運動エネルギー密度とに基づいて運動エネルギー密度が高い要素であるマス部を特定すると共に、要素ごとに歪みエネルギー密度の分布を導出して、予め定められた第2の閾値と歪みエネルギー密度とに基づいて歪みエネルギー密度が高い要素であるバネ部を特定する工程と、
前記固有振動数を導出する工程で導出された固有振動数に対して目的の固有振動数の方が低い場合は、物体の前記バネ部の弱体化および前記マス部の補強の少なくとも一方を行うと共に、前記固有振動数を導出する工程で導出された固有振動数に対して目的の固有振動数の方が高い場合は、物体の前記マス部の弱体化および前記バネ部の補強の少なくとも一方を行うことで、物体の固有振動数を調整する工程と、
を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1,4,5に記載の発明によれば、最適化の繰り返し計算を行った後、一定以下の厚さの箇所に孔を設ける従来技術に比べて、振動に対する構造物の固有振動数を短時間で正しく制御することができる。
請求項2に記載の発明によれば、複数の次数に渡って固有振動数の制御を行うことができる。なお、式(1)などを目標値とする、非特許文献5のような応答曲面法最適化技術を利用することにより、目的の固有振動数の値に最小重量など目的の条件を満たした上で近づけることも可能である。
請求項3に記載の発明によれば、ある次数での固有振動数の調整が、他の次数での固有振動数に与える影響を確認しながら対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は本発明の実施例1の固有振動数の調整システムの説明図である。
図2図2は実施例1のコンピュータ装置における各機能の機能ブロック図である。
図3図3は実施例1のフローチャートの説明図である。
図4図4は従来の方法でのシミュレーション結果である。
図5図5は実施例1のシミュレーション結果の説明図である。
図6図6は実施例2のブロック図であり、実施例1の図2に対応する図である。
図7図7は実施例2のフローチャートであり、実施例1の図3に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例である実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例0015】
図1は本発明の実施例1の固有振動数の調整システムの説明図である。
図1において、本発明の実施例1の固有振動数の調整システム1は、情報処理装置の一例としてのコンピュータ装置2を有する。コンピュータ装置2は、コンピュータ本体3と、出力装置の一例としてのディスプレイ4、入力装置の一例としてのキーボード5やマウス6を有する。
コンピュータ本体3は、外部との信号の入出力等を行う入出力インターフェースI/Oを有する。また、コンピュータ本体3は、必要な処理を行うためのプログラムおよび情報等が記憶されたROM:リードオンリーメモリ(図示せず)を有する。また、コンピュータ本体3は、必要なデータを一時的に記憶するためのRAM:ランダムアクセスメモリ(図示せず)を有する。また、コンピュータ本体3は、ROM等に記憶されたプログラムに応じた処理を行うCPU:中央演算処理装置(図示せず)を有する。コンピュータ本体3は、ROM等に記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
【0016】
(コンピュータ本体3の機能)
図2は実施例1のコンピュータ装置における各機能の機能ブロック図である。
コンピュータ本体3には、基本ソフトウェア(オペレーティングシステム)OSや、固有振動数の調整プログラムAP1や、編集ソフトウェア等のアプリケーションソフトウェアが記憶されている。
固有振動数の調整プログラムAP1は、信号出力要素(例えば、キーボード5やマウス6)からの入力信号に応じた処理を実行して、制御要素(例えば、ディスプレイ4)に制御信号を出力する機能を有している。すなわち、固有振動数の調整プログラムAP1は次の機能(プログラムモジュール)を有している。
【0017】
物体情報記憶手段C1は、固有振動数の調整対象の物体の情報(大きさ、厚さ、外形、密度、弾性係数等や、開口がある場合は開口の大きさ、形状)を記憶する。物体情報記憶手段C1は、利用者のキーボード5やマウス6等からの入力に応じて、物体の情報を取得し、記憶する。
要素分割手段C2は、固有振動数の調整対象の物体を予め定められた大きさの要素に分割することで、物体に複数の要素を割り付ける。要素の分割は、公知の有限要素法の要素分割と同様にして行うことが可能であり、利用者のキーボード5やマウス6等の手動の入力に応じて行うことも可能であるし、形状に応じて要素1つの面積が所定値以下になるように自動で分割させることも可能である。
【0018】
固有振動数導出手段C3は、公知の有限要素法などを利用して、固有振動のモードおよび固有振動数を導出する。
なお、実施例1の固有振動数導出手段C3では、固有振動のモードとして、複数の次数(例えば、1次~11次)を導出し、各次数における固有振動数を導出する。なお、導出する次数の範囲は、設計や仕様、要求される次数等に応じて任意に変更可能であり、「1次~5次」程度としたり、「7次~10次」といった範囲とすることも可能である。他にも、対象となる次数の設定は、ユーザが手動で設定する場合に限定されず、例えば、1次~20次の固有振動数を導出した後、目的の固有振動数(例えば、7Hz~17Hz)に対して、導出された固有振動数の値の差が、所定の範囲(例えば、「5Hz以内」とか「30%以内」とか)の次数のモードを自動的に判別して、判別された次数のモードについて以降の処理を行うことも可能である。
【0019】
運動エネルギー密度分布導出手段C4は、固有値解析から運動エネルギー密度の分布を導出する。各次数の運動エネルギー密度の分布は、各要素の質量と、速度から、各要素ごとに運動エネルギーの密度を導出することで、物体全体における運動エネルギーの密度の分布を導出する。なお、運動エネルギー密度の分布は、振動モードの各次数において導出する。また、各要素の質量や速度については、公知の有限要素法のソフトウェアに組み込まれたものを使用可能であるが、一般に、要素の面積と予め入力された既知の値である厚さと密度から、質量(面積×厚さ×密度)は導出可能である。また、固有モード解析で、各節点の変位はxejωtで表現され、速度は、v=(変位の時間微分)=xjωejωtで表現される。したがって、速度の大きさはxωの絶対値で表される。ここにωは角振動数、jは虚数単位である。
【0020】
歪みエネルギー密度分布導出手段C5は、固有値解析から歪みエネルギー密度の分布を導出する。歪みエネルギー密度の分布は、各要素において、歪みと、応力から、各要素ごとに歪みエネルギーの密度を導出することで、物体全体における歪みエネルギーの密度の分布を導出する。なお、歪みエネルギー密度の分布は、振動モードの各次数において導出する。なお、歪み(歪みベクトルε)は、変位から導出でき、物体の材質ごとに既知のヤング率やポアソン比を要素とする弾性行列(E)と歪ベクトル(ε)とから応力(応力ベクトルσ=E・ε)が求まる。そして、要素ごとに、応力ベクトル(の転置ベクトル)と歪ベクトルの内積から歪みエネルギー(σ・ε/2)を求めることが可能である。
【0021】
マス部特定手段C6は、予め定められた第1の閾値と運動エネルギー密度とに基づいて、運動エネルギー密度が高い要素であるマス部を特定する。第1の閾値は、利用者のキーボード5等からの入力に基づいて設定することも可能であるし、例えば、全体の運動エネルギー密度の値の中の上位25%に相当する値を第1の閾値にするといった形にすることも可能である。なお、25%の値は例示であり、設計や仕様等に応じて任意に変更可能である。なお、マス部特定手段C6は、固有振動のモードの各次に対してマス部の特定を行う。
【0022】
バネ部特定手段C7は、予め定められた第2の閾値と歪みエネルギー密度とに基づいて、歪みエネルギー密度が高い要素であるバネ部を特定する。第2の閾値は、利用者のキーボード5等からの入力に基づいて設定することも可能であるし、例えば、全体の歪みエネルギー密度の値の中の上位25%に相当する値を第2の閾値にするといった形にすることも可能である。なお、25%の値は例示であり、設計や仕様等に応じて任意に変更可能である。なお、バネ部特定手段C7は、固有振動のモードの各次に対してバネ部の特定を行う。
【0023】
孔位置特定手段(振動数調整手段の一例)C8は、固有振動数導出手段C3で導出された固有振動数(解析固有振動数)に対して、目的の固有振動数の方が低い場合は、物体のバネ部の弱体化およびマス部の補強の少なくとも一方を行うと共に、導出された固有振動数に対して目的の固有振動数の方が高い場合は、物体のマス部の弱体化およびバネ部の補強の少なくとも一方を行うことで物体の固有振動数を調整する。実施例1の孔位置特定手段C8では、一例として、解析固有振動数に対して目的の固有振動数の方が低い場合は、物体のバネ部の位置に孔を形成させることで弱体化させると共に、導出された固有振動数に対して目的の固有振動数の方が高い場合は、物体のマス部の位置に孔を形成させることで弱体化させて、物体の固有振動数を調整する。
【0024】
なお、目的の固有振動数は、利用者のキーボード5等からの入力に応じて、振動モードの各次数に対して設定される。また、目的の固有振動数は、「特定の値そのもの」とすることも可能であるが、「特定の値以下(例えば、「7Hz以下」)」とか「特定の値以上(例えば、17Hz以上)」とか、「特定の値±5%」といった範囲(幅)を持った値とすることが好ましい。
孔位置特定手段C8は、各次の固有振動のモードにおいて、物体に形成する孔の位置を特定する。
なお、孔位置特定手段C8では、孔の位置を特定する場合に、各次の固有振動のモードにおいて、1つの次数(例えば、7次)の固有振動のモードにおいて孔を形成する位置が、他の次数(例えば、8次~10次)の固有振動のモードにおいてマス部でもバネ部でもない位置(すなわち、他の次数のモードの固有振動数に影響が少ない位置)や、例えば他の次数において固有振動数を高く(または低く)したい場合、その方向に行くことが期待される位置であるマス部(またはバネ部)に、物体に形成する孔の位置とすることが望ましい。
【0025】
実施例1の孔位置特定手段C8では、一例として、マス部とバネ部の構造物の全域における分布をディスプレイに表示して、作業者がバネ部またはマス部を判断をして入力を行うことで手動で特定することも可能であるし、マス部とバネ部の全体の分布から画像処理でバネ部またはマス部を自動で特定することも可能である。
そして、目的の固有振動数の方が低いモード(すなわち、固有振動数を下げたいモード)が複数存在する場合は、目的の固有振動数の方が低い複数のモードに跨るバネ部の位置が、目的の固有振動数の方が高い複数のモード(すなわち、固有振動数を上げたいモード)に跨るマス部であるか、固有振動数を上げたいモードでマス部でもバネ部でもない位置(要素)である場合に、その位置が孔をあける位置として、まずは、特定される。なお、目的の固有振動数の方が高いモードが複数存在する場合は、バネ部とマス部が入れ替わる。言い換えると、孔位置特定手段C8は、各次の運動エネルギー密度分布および歪みエネルギー密度分布から、お互いの目的に矛盾しない位置を、孔を空ける位置とする処理を行う。
なお、全てのモードで目的の固有振動数を満たさない状況でお互いの目的に矛盾しない位置がない場合は、お互いの目的に矛盾してもその影響はより優先したいモードの効果と比べて低い位置を、孔を空ける位置とする処理を行う(この処理の詳細については後述)。
【0026】
孔位置特定手段C8で孔をあける位置を特定する処理が完了すると、孔が形成された後の物体(すなわち、孔があくので、固有振動数が変化する)に対して、固有振動数導出手段C3の処理を行って、孔があいた後の物体の固有振動数を再計算する。再計算された固有振動数が目的の固有振動数に達していれば、処理を終了し、目的の固有振動数に達していない場合は、C4~C8の処理を繰り返す。
【0027】
(フローチャートの説明)
図3は実施例1のフローチャートの説明図である。
図3において、実施例1の固有振動数の調整処理の説明を行うが、この処理は、コンピュータ本体3の他の各種処理と並行して行われる。なお、処理が並行して行われない構成とすることも可能である。
図3の固有振動数の調整処理は、固有振動数の調整プログラムAP1が起動されて、固有振動数の調整処理の入力がされた場合に開始される。
【0028】
図3のST1において、次の処理(1)~(4)を実行し、ST2にすすむ。
(1)物体の情報を取得する。
(2)固有振動数群から問題とする周波数帯域内の固有振動数を取得する(避けるべき振動数帯域を取得する)。
(3)最大繰り返し計算回数Naを取得する。
(4)繰り返し計算回数N1を初期化する(N1=0)。
ST2において、領域を分割(要素分割)する。そして、ST3に進む。
ST3において、各次の固有値(固有モード、固有振動数)を導出する。そして、ST4に進む。
ST4において、次の処理(1)、(2)を実行し、ST5に進む。
(1)各モードにおいて、運動エネルギー密度分布を導出し、マス部を特定する。
(2)各モードにおいて、歪みエネルギー密度分布を導出し、バネ部を特定する。
【0029】
ST5において、各次数の解析固有振動数が、目的の固有振動数の範囲内であるか否かを判別する。イエス(Y)の場合はST9に進み、ノー(N)の場合はST6に進む。
ST6において、各次の運動エネルギー密度分布および歪みエネルギー密度分布から、お互いの目的に矛盾しない、あるいは矛盾するものがあっても、その影響は、他の優先したいモードにとっての効果より低い場合の最大部を、孔を空ける候補位置として、その中から適切な大きさを特定する。そして、ST7に進む。
なお、「目的」とは、各次のモードが「固有振動数を上げたい」のか「固有振動数を下げたい」のかを指す。
また、「矛盾」とは、その場所に孔を空けると、そのモードにおいて、目的とは反対の方向に固有振動数が変化することを指す。一例として、固有振動数を下げたいモードでのマス部に孔を空けると、目的が「固有振動数を下げたい」のに対して、「固有振動数が上がる」ため目的とは反対の方向に固有振動数が変化しており、「矛盾する」ことに該当する。別の例として、固有振動数を下げたいモードでのバネ部に孔を空けると、目的が「固有振動数を下げたい」のに対して、「固有振動数が下がる」ため目的とは同じ方向に固有振動数が変化しており、「矛盾しない」ことに該当する。なお、バネ部でもマス部でもない位置に孔を空けると、固有振動数はほとんど変動しないため、目的がいずれであっても「矛盾しない」ことに該当するものとして本実施例では扱う。「最大部」とは、お互いの目的に矛盾しない、あるいは矛盾してもその影響はより優先したいモードの効果と比べて低いエリアの最大部であり、一般には最大部は離散的に複数存在する。「適切な大きさ」とは、離散的に存在する複数の中から、目的の固有振動数との差に応じた広さ、を指す。すなわち、原則として、目的の固有振動数との差が大きければエリアが広いものが適切とされ、目的の固有振動数との差が小さければエリアが狭いものが適切とされる。このとき、複数のエリアの中の1つのエリアだけでは広さが足りない場合は、複数のエリアが同時に選択されることとなる。
【0030】
また、ST6では、まず「お互いの目的に矛盾しない」ものを孔を空ける候補位置として特定する。そして、全ての次数で目的の固有振動数の範囲になっていない状況で「お互いの目的に矛盾しない」ものがなくなった場合に、「矛盾するものがあっても、その影響は、他の優先したいモードにとっての効果より低い」ものを孔を空ける候補位置とする。
一例として、目的の固有振動数の範囲が7Hz以下または17Hz以上の場合(すなわち、危険周波数帯域が7Hz~17Hzの場合)に、「お互いの目的に矛盾しない」場所がなくなると共に、9次や11次の固有振動数が目的の固有振動数を満たし、10次のみ固有振動数が目的の固有振動数を満たさない状況を例に挙げて説明する。
例えば、9次の固有振動数aが5.0Hzで目的の固有振動数の境界値を満たし、10次の固有振動数bが16.5Hzで目的の固有振動数の境界値を満たさない場合、9次では境界値である7Hzまで、7-5=2Hzの差があるのに対して、10次では境界値である17Hzまで17-16.5=0.5Hzの差がある。ここで、9次は「固有振動数を下げたい」モードであり、10次は「固有振動数を上げたい」モードであるが、この例の場合は、境界値との差が小さい10次のモードを優先したいモードとして、10次において「固有振動数が上がる」位置であり且つ9次でも「固有振動数が上がる」位置、すなわち、お互いの目的に矛盾する位置を、「矛盾するものがあっても、その影響は、他の優先したいモードにとっての効果より低い」ものとして、その位置を孔を空ける候補位置とする。言い換えると、固有振動数の値が境界値に近い次数を優先して、目的の固有振動数の範囲内になるように孔を空ける候補位置を特定する。
【0031】
ST7において、繰り返し計算回数N1が最大繰り返し計算回数Naを超えているか否かを判別する。ノー(N)の場合はST8に進み、イエス(Y)の場合はST9に進む。
ST8において、繰り返し計算回数N1を1加算する。そして、ST3に戻る。
ST9において、固有振動数の調整結果をディスプレイ4に出力する。そして、固有振動数の調整処理を終了する。
【0032】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1の固有振動数の調整システム1では、非特許文献1~3のように均質化要素の最適な大きさ、非特許文献4のように各要素の最適な厚さや密度を繰り返し計算で求める従来の方法と異なり、各モードにおける運動エネルギー密度分布と歪みエネルギー密度分布から、孔をあける位置を特定する。具体的には、解析固有振動数を上げたい場合、マス部に孔をあけ、解析固有振動数を下げたい場合はバネ部に孔をあける。
ここで、n次固有振動数fは、n次等価質量mとn次等価バネ定数kに対して、f∝(k/m1/2であることが知られている。実施例1において、マス部に孔をあけることは、等価質量mが小さくなることに相当し、固有振動数fが大きくなることにつながる。一方、バネ部に孔をあけることは、等価バネ定数kが小さくなることに相当し、固有振動数fが小さくなることにつながる。よって、実施例1では、固有振動数を上げたい場合や下げたい場合に応じて、バネ部またはマス部に孔をあけることで、固有振動数の調整が可能である。よって、実施例1の固有振動数の調整システム1は、従来技術とは異なる方法で、固有振動数を調整している。
【0033】
図4は従来の方法でのシミュレーション結果である。
図4において、非特許文献4の密度法と称される技術において、7~17Hzに固有振動数が存在しない(すなわち、固有振動数が7Hz未満、または、17Hzを超える)ことを目指す場合についてシミュレーションを行った。物体としては、300mm×420mmの大きさで、厚さ1mmの平板、密度が256.9[kg/m]、ヤング率が0.664[GPa]、ポアソン比が0.34のものに対して行った。この平板の無拘束条件下での固有振動数は、7次が8.24Hz、8次が9.38Hz、9次が19.14Hz、10次が19.34Hzであった。なお、1次~6次は、剛体振動でほぼ0Hzに近く、11次以降は17Hzを十分に超えるものであったため、省略した。
【0034】
従来技術において、平板を120個、168個、224個の要素に分割して計算を行った。なお、400分割した場合は、時間内に計算結果が出なかった。また、物体が上下左右に対称な形状であるため、計算は、1/4の範囲だけすれば十分であるため、1/4の範囲、すなわち、30個、42個、56個の要素について計算を行った。また、目標の固有振動数は、7次、8次が6.5Hz、7.0Hz、9次、10次が19.14Hz、19.34Hzとした。
図4において、繰り返し計算を最大繰り返し計算回数(800回)まで行ったが、7次と8次について目的の固有振動数を達成することはできず、全体としては目標を達成できなかった。また、計算時間も、53分、2時間39分、11時間51分と長時間となった。
【0035】
図5は実施例1のシミュレーション結果の説明図である。
図5において、図4に示した比較例で224個に要素分割した場合と同様にして、実施例1の手法で固有振動数の調整を行った。
図5において、「はじめの状態」で示すように、運動エネルギー密度分布と歪みエネルギー密度分布が導出され、各分布において濃度の濃い部分がマス部、バネ部として特定される。ここで、9次と10次では、固有振動数が19.14Hz、19.34Hzであり、目標の固有振動数17.00Hzを超えているのに対し、7次と8次は、目標の固有振動数7Hzを超えている。したがって、7次と8次が固有振動数を下げたいモードとなり、9次と10次は、「はじめの状態」では、固有振動数を上げたいあるいは下げたいモードには該当しない。よって、固有振動数を下げたい7次、8次におけるバネ部の位置に孔の候補が抽出される。そして、固有振動数を下げたい7次、8次のバネ部の該当部分に孔をあけられると、繰り返し回数1回目のような状態となり、7次と8次で解析固有振動数が下がり、7次では解析固有振動数が目標の固有振動数(7Hz以下)に達した。一方で、目標の固有振動数(17Hz)に達していた9次の固有振動数も下がり、未達となった。次に、固有振動数を下げたい8次のバネ部であり且つ固有振動数を上げたい9次のマス部に相当する部分に孔をあけられると、繰り返し回数2回目のような状態となり、9次の固有振動数が上昇し、7次~10次の全てで目標に達し、処理が終了した。
【0036】
したがって、実施例1では、従来技術では達成できなかった固有振動数の調整が可能になった。さらに、実施例1では、繰り返し回数は2回で済み、計算時間は10分未満であった。よって、従来技術に比べて、大幅に計算時間を短縮できた。したがって、実施例1の固有振動数の調整システム1では、最適化の繰り返し計算を行った後一定以下の箇所に孔を設ける厚さの最適化を行う従来技術に比べて、振動に対する構造物の固有振動数を短時間で正しく制御することが可能になった。
特に、実施例1では、固有振動数の調整を行う際に、孔をあけることで調整を行っている。したがって、実施例1の固有振動数の調整システム1で導出されたとおりに物体、構造物を作製した場合、孔が形成されていない固有振動数の調整前に比べて、物体、構造物が軽量化される。よって、実施例1では、固有振動数を目的に応じて調整しつつ、物体、構造物の軽量化も実現可能である。
【実施例0037】
図6は実施例2のブロック図であり、実施例1の図2に対応する図である。
次に、実施例2の説明を行うが、実施例2は実施例1との相違点について説明をし、実施例1と同様の内容については説明を省略する。
図6において、補強位置特定手段(振動数調整手段の一例)C8′は、孔をあける位置を特定する実施例1の孔位置特定手段C8と異なり、厚さを上昇させる位置(いわば、「補強」する位置)を特定することで、物体の固有振動数を調整する。具体的には、実施例2の補強位置特定手段C8′では、一例として、固有振動数に対して目的の固有振動数の方が低い場合(固有振動数を下げたい場合)は、物体のマス部の位置を補強する(厚さを厚くする)ように補強位置を特定すると共に、固有振動数に対して目的の固有振動数の方が高い場合(固有振動数を上げたい場合)は、物体のバネ部の位置を補強するように補強位置を特定することで、物体の固有振動数を調整する。
【0038】
図7は実施例2のフローチャートであり、実施例1の図3に対応する図である。
図7において、実施例1のST6に変えて、実施例2のST6′では、孔を空ける位置ではなく、補強する位置の特定を行う。
【0039】
(実施例2の作用)
前記構成を備えた実施例2の固有振動数の調整システム1では、固有振動数を上げたい場合、バネ部を補強し、固有振動数を下げたい場合はマス部を補強する。よって、f∝(k/m1/2の関係から、バネ部を補強することは、等価バネ定数kが大きくなることに相当し、n次固有振動数fが大きくなることにつながる。一方、マス部を補強することは、n次等価質量mが大きくなることに相当し、n次固有振動数fが小さくなることにつながる。よって、実施例2でも、実施例1と同様に、固有振動数を上げたい場合や下げたい場合に応じて、バネ部またはマス部を補強することで、固有振動数の調整が可能である。
【0040】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。
例えば、物体の形状は板状に限定されず、任意の三次元形状とすることが可能である。
また、実施例では、7次~10次の場合を例示したが、これに限定されない。対象となる物体や、対象となる固有振動数の周波数帯に応じて、任意の次数を対象とすることが可能である。
さらに、実施例で例示した各数値は、設計や仕様等に応じて任意に変更可能である。
【0041】
また、前記実施例1では孔をあける場合を例示し、実施例2では補強する場合を例示したが、これに限定されない。実施例1と実施例2とを組み合わせることが可能である。例えば、まずは孔をあける位置を特定することで固有振動数を調整して、孔をあけることで固有振動数を目的の固有振動数に到達させられない場合に、実施例2の補強を適用(組み合わせる)することが可能である。他にも、例えば、固有振動数を下げたい場合は孔をあけ、固有振動数を上げたい場合は補強をするといった組み合わせ方(あるいは逆の組み合わせ方)とすることも可能である。
【0042】
なお、「補強」は、板厚を上昇させる場合を例示したが、これに限定されない。構造物を付加したり、対象の部分を剛性の高い材料に置換することで補強する構成とすることも可能である。
また、「弱体化」は、孔を空ける場合を例示したが、これに限定されない。板厚を減少させたり(板厚を薄くしたり)、対象の部分を剛性の低い材料に置換することで弱体化することも可能である。
【0043】
さらに、前記実施例1,2において、孔の大きさや補強する範囲(補強面積、補強する大きさ)は、該当するマス部やバネ部の要素全域とする場合を例示したが、これに限定されない。例えば、孔の大きさに関し、非特許文献5などで示される最適化ルーティンを組み入れて、目的の固有振動数に達するぎりぎりの大きさ(最適な大きさ)を計算することも可能である。孔の最適な大きさを繰り返し計算する時、例えば、非特許文献5に記載された応答曲面最適化法を利用することが好ましい。
また、前記実施例1,2において、孔をあけたり補強したりしても目的の固有振動数に達しない場合に、孔をあける前や補強前に戻って全体の板厚を増減することで、全てのモードの固有振動数を全体的に上下させて調整する工程を追加することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の固有振動数の調整システムは、例えば、外的な振動が計測結果に影響を及ぼす電子顕微鏡等の精密機器の固有振動数の調整に適用可能である。また、自動車やトラック等の車両において乗り心地、操縦安定性、車室内騒音などには特に搭乗者に不快感を与える周波数帯域があり、その不快な周波数帯の共振周波数を域外に移動するための調整にも適用可能である。さらに、イチゴや桃などの傷に弱い農作物や、移植用の細胞や血液等の輸送中の振動で損傷しやすい周波数帯域のあるものの容器や箱等にも好適に適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1…固有振動数の調整システム、
2…コンピュータ、
AP1…固有振動数の調整プログラム、
C3…固有振動数導出手段、
C4…運動エネルギー密度分布導出手段、
C5…歪みエネルギー密度分布導出手段、
C6…マス部特定手段、
C7…バネ部特定手段、
C8…振動数調整手段。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7