(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120535
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】円筒形アルカリ蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/28 20060101AFI20230823BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20230823BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20230823BHJP
【FI】
H01M10/28 A
H01M50/403 E
H01M50/449
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023471
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】高須 大
【テーマコード(参考)】
5H021
5H028
【Fターム(参考)】
5H021AA06
5H021BB12
5H021CC04
5H021EE34
5H021HH10
5H028AA05
5H028BB07
5H028CC08
5H028CC12
5H028EE09
5H028HH01
(57)【要約】
【課題】所定の電気特性を損なうことなく、電解液がセパレータ全体へ円滑に浸透する電極群を有するアルカリ蓄電池を提供する。
【解決手段】第1セパレータ19と、正極16と、第2セパレータ20と、負極18と、が重ね合わされて渦巻き状に巻回されて円柱形状をなす電極群12を備え、この電極群は、正極が少なくとも3層積層された第1領域13と、正極が第1領域よりも1層多く積層された第2領域14と、界面活性剤塗布層と、を含む。界面活性剤塗布層は、第1セパレータおよび第2セパレータの一方または両方の、正極に接触している面および負極に接触している面の一方または両方に設けられ、電解液の浸透を促進する。界面活性剤塗布層は、電極の円柱形状の底部から上端部に亘って連続して延在し、電極群の円周方向において、第2領域の一部または全部を含む範囲に限定して設けられる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1セパレータと、正極と、第2セパレータと、負極と、が重ね合わされて渦巻き状に巻回されて円柱形状をなす電極群であって、前記第1セパレータが前記正極の内側に接触し、前記第2セパレータが前記正極の外側に接触する電極群と、
前記電極群を浸漬するアルカリ電解液と、を備え、
前記電極群は、前記正極が少なくとも3層積層された第1領域と、前記正極が前記第1領域よりも1層多く積層された第2領域と、界面活性剤塗布層と、を含み、
前記界面活性剤塗布層は、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの一方または両方の、前記正極に接触している面および前記負極に接触している面の一方または両方に設けられ、前記界面活性剤塗布層は、前記電極群の前記円柱形状の底部から前記円柱形状の上端部に亘って連続して延在し、前記電極群の円周方向において、第2領域の一部または全部を含む範囲に限定して設けられ、前記界面活性剤塗布層は、前記界面活性剤塗布層が設けられた界面において、前記アルカリ電解液の浸透を促進する、円筒形アルカリ蓄電池。
【請求項2】
前記電極群の円周方向において、前記界面活性剤塗布層が設けられる範囲は、前記第2領域の周方向中央を含む、前記円周方向における円周の2分の1以下の範囲である、請求項1に記載の円筒形アルカリ蓄電池。
【請求項3】
前記第1セパレータおよび前記第2セパレータは、いずれも親水化処理がなされており、前記界面活性剤塗布層は、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータのうち、少なくとも親水性が低い方に設けられる、請求項1または2に記載の円筒形アルカリ蓄電池。
【請求項4】
前記界面活性剤塗布層は、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの両方に設けられる、請求項1または2に記載の円筒形アルカリ蓄電池。
【請求項5】
負極端子を構成し、上端開口を有する有底円筒形の電池缶と、
正極端子を含み、前記電池缶の前記上端開口を封止する電池蓋と、を備え
前記電極群が、前記電池缶の中に収容されて、前記負極が前記電池缶からなる負極端子に接続され、
前記電池缶、前記電池蓋、および前記電極群に囲まれた電池内空間に配置され、前記正極と前記正極端子を接続する集電タブを有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の円筒形アルカリ蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は円筒形アルカリ蓄電池に関し、特に、円筒形アルカリ蓄電池を構成するセパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電子機器をはじめ種々の装置の電源として、円筒形アルカリ蓄電池が広く採用されている。円筒形アルカリ蓄電池では、一般に、正極と負極との間にセパレータを介在させて積層した積層体を、渦巻き状に巻回して円柱形状の電極群を形成し、その電極群を有底円筒形の電池缶に収容して、さらに電解液で電極群を浸漬する構成となっている。
【0003】
このような円筒形アルカリ蓄電池の電池容量を高容量化するために、正極の巻回数を多くして電極面積を増加させる手法が採用されている。ところが、蓄電池を搭載する電子部品では小型化を推進されており、巻回数の増加に応じて電池缶を大型化することは困難である。したがって、巻回数を増加させた電極群では、セパレータが薄くなる、また、電池缶に収容した時にセパレータに加わる圧力が大きくなる箇所が生じる、などの影響で電解液が浸透しにくくなる傾向がある。
【0004】
しかしながら、サイクル寿命等の電池特性を維持するためには、正極と負極との間に介在するセパレータに電解液を浸透させ、充分に含浸させることが必須である。例えば、特許文献1には、電解液のセパレータへの浸透を促進するために、セパレータの上端部の表面に界面活性剤を塗布する技術が開示されている。
【0005】
一方、セパレータ表面の全体に界面活性剤を塗布すると、電極への析出や分解反応により、アルカリ蓄電池のサイクル寿命の低下や自己放電の増大などの充放電特性を悪化させる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示はこのような課題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、所定のサイクル寿命や自己放電特性を損なうことなく、電解液がセパレータ全体へ円滑に浸透する電極群を有するアルカリ蓄電池を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の1つの態様による円筒形アルカリ蓄電池では、第1セパレータと、正極と、第2セパレータと、負極と、が重ね合わされて渦巻き状に巻回されて円柱形状をなす電極群であって、第1セパレータが正極の内側に接触し、第2セパレータが正極の外側に接触する電極群と、電極群を浸漬するアルカリ電解液と、を備え、この電極群は、正極が少なくとも3層積層された第1領域と、正極が第1領域よりも1層多く積層された第2領域と、界面活性剤塗布層と、を含み、界面活性剤塗布層は、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの一方または両方の、前記正極に接触している面および前記負極に接触している面の一方または両方に設けられ、界面活性剤塗布層は、電極群の円柱形状の底部から円柱形状の上端部に亘って連続して延在し、電極群の円周方向において、第2領域の一部または全部を含む範囲に限定して設けられ、界面活性剤塗布層は、界面活性剤塗布層が設けられた界面において、アルカリ電解液の浸透を促進する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示の円筒形アルカリ蓄電池によれば、所定のサイクル寿命や自己放電特性を損なうことなく、電解液がセパレータ全体へ円滑に浸透する電極群を有するアルカリ蓄電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態の円筒形アルカリ蓄電池の高さ方向の断面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態の円筒形アルカリ蓄電池の径方向の断面図である。
【
図3】
図3は、
図1の電極群の上端部、中央部および底部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した実施形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
<実施形態>
図1に、一実施形態の円筒形アルカリ蓄電池1の高さ方向の断面図を示す。この円筒形アルカリ蓄電池1は、有底円筒形の電池缶11と、電池蓋24と、電池缶11に収容された電極群12と、この電極群12を浸漬するアルカリ電解液と、により構成される。電池缶11は上端開口を有し、この上端開口は電池蓋24により封止されている。電池缶11は、それ自体が負極端子として機能し、電池蓋24は正極端子30を含む。
【0013】
電極群12は、第1セパレータ19と、正極16と、第2セパレータ20と、負極18と、が重ね合わされて渦巻き状に巻回されて円柱形状をなす。また、電極群12は、第1セパレータ19が正極16の内側に接触し、第2セパレータ20が正極の16外側に接触するように巻回されている。この電極群12をアルカリ電解液で浸漬することで、第1セパレータ19および第2セパレータ20にアルカリ電解液を含侵させている。
【0014】
この円柱形状の電極群12の最外周は負極18で覆われており、電極群12を電池缶11に収容したときに、負極18が、それ自体が負極端子として機能する電池缶11と接触して電気的に接続される。
【0015】
また、電極群12の上端部近傍には、電池缶11、電池蓋24、および電極群12に囲まれた電池内空間がある。この電池内空間には集電タブ22が配置されており、集電タブ22の一端は正極16の上端部と接続され、他端は電池蓋24と接続されている。電池蓋24には正極端子30が配置されており、電極群12の正極16は、集電タブ22および電池蓋24を介して正極端子30と電気的に接続される。
【0016】
電池缶11の上端開口を電池蓋24により封止する際に、電池缶11と電池蓋24との間に絶縁ガスケット32を配置して、電池缶11と電池蓋24とを電気的に絶縁分離し得る。また、電池蓋24にガス抜き孔26および弁体28を設置することで、電極群12からガスが発生し電池内空間に充満したとしても、電池缶11の破裂等の事故を回避し得る。
【0017】
本発明の一実施形態の円筒形アルカリ蓄電池1は、例えば、円筒形ニッケル水素蓄電池であり得る。また、円筒形ニッケルカドミウム蓄電池、あるいは円筒形リチウムイオン蓄電池であってもよい。
【0018】
図2に、一実施形態の円筒形アルカリ蓄電池1の径方向の断面図を示す。電極群12は、正極16が少なくとも3層以上(
図2においては4層)積層された第1領域13と、正極16が第1領域13よりも1層多く(
図2においては5層)積層された第2領域14と、を含む。このように、正極16が多数積層された電極群12ではその円周方向において、正極16がn層積層された領域と正極16がn+1層積層された領域とが混在する構成となっていること一般的である。
【0019】
この電極群12は、正極16が少なくとも3層以上積層された第1領域13と、正極16が第1領域13よりも1層多く積層された第2領域14と、を含む。このような正極16の積層数が異なる構造の電極群12において、積層数が多い第2領域14では、その径方向(すなわち積層方向)に加わる圧力が局所的に大きくなる傾向があり、特に、第2領域14の周方向中央14aの近傍でその傾向が大きい。
【0020】
これにより、第1領域13との境界近傍に対して、周方向中央14aの近傍の方が、第1セパレータ19および第2セパレータ20へのアルカリ電解液の浸透に時間を要する傾向となる。したがって、電極群12の第2領域14の周方向においては、第2領域14の周方向中央14aまでアルカリ電解液を充分に浸透させることが重要である。
【0021】
また、アルカリ電解液は、
図1に示すように電極群12が電池缶11に収容された状態で、電池缶11の上端開口から投入される。このとき、電極群12の上端部にはアルカリ電解液が直接供給されるので、第1セパレータ19および第2セパレータ20においても、それらの上端部からアルカリ電解液が浸透する。また、電極群12の巻回中心の近傍には、電極群12の底部まで貫通する空隙があり、この空隙をとおして電池缶11の底にアルカリ電解液が供給されるため、電極群12の底部からも、第1セパレータ19および第2セパレータ20にアルカリ電解液が浸透する。
【0022】
したがって、円柱形状の電極群12において、その上端部および底部のそれぞれからの遠端となる高さ方向での中央近傍が、アルカリ電解液の浸透に最も時間を要する領域であり、その領域にアルカリ電解液を充分に浸透させることが重要である。
【0023】
そのため、第1セパレータ19および第2セパレータ20のそれぞれには、あらかじめ親水化処理を施されており、この処理は、アルカリ電解液の各セパレータへの浸透を容易にする。さらに、第1セパレータ19の正極16と接触している表面側に界面活性剤塗布層19aが設けられている。この界面活性剤塗布層19aは、第1セパレータ19と正極16との界面へのアルカリ電解液の浸透をさらに促進する。
【0024】
ここで、電極群12の第2領域14の周方向においてアルカリ電解液の到達に最も時間を要するのは、第2領域14の周方向中央14aの近傍であるから、少なくとも周方向中央14aを含む領域に界面活性剤塗布層19aを設けることが好ましい。ただし、第1領域13では第2領域14よりもアルカリ電解液が浸透しやすく、かつ、第2領域14であっても第1領域13との境界に近い側ではアルカリ電解液が浸透しやすいことを考慮すると、第2領域14が電極群12の円周の過半数の領域を占める場合であっても、界面活性剤塗布層19aは、電極群12の円周の概ね2分の1以下の範囲に設けることで、アルカリ電解液を電極群12の円周方向の全体に充分に浸透させることが可能になるといえる。
【0025】
また、界面活性剤塗布層19aを設ける領域は、第2領域14の周方向中央14aを対称軸とした線対称となるように配置することがより好ましく、例えば、
図2に界面活性剤塗布領域15として図示される領域に設置し得る。
【0026】
さらに、アルカリ電解液は、電極群12の上端部および底部から浸透することから、界面活性剤塗布層19aは、電極群12の円柱形状の底部から円柱形状の上端部に亘って連続して延在するように設置することが好適である。このように設置された界面活性剤塗布層19aは、電極群12の高さ方向におけるアルカリ電解液の浸透を促進し、上端部および底部それぞれからの遠端となる高さ方向での中央近傍まで充分に浸透させることを可能にする。
【0027】
図3は、
図1に示された電極群12の上端部、中央部および底部の拡大断面図である。
図1に示された断面図は、
図2において、第2領域14の周方向中央14aを通る直径に沿って切断したときの切断面を示す。
図1および
図3に示された断面図では、電極群12の左側半分が、
図2の第1領域13における構造を示し、右側半分が第2領域14における構造を示している。
【0028】
正極16と接触している側の第1セパレータ19の表面には、界面活性剤塗布層19aが配置される。界面活性剤塗布層19aは、円柱形状の電極群12の高さ方向において、底部から中央部を経て上端部まで連続して延在する。この界面活性剤塗布層19aは、渦巻き状に巻回して円柱形状とする前に、第1セパレータ19の表面にあらかじめ界面活性剤を塗布することで形成可能である。
【0029】
次に、本発明を円筒形ニッケル水素蓄電池に適用した場合の具体的な実施例について説明する。
【0030】
<実施例>
正極16として水酸化ニッケル、負極18として希土類-ニッケル系の水素吸蔵合金を用いた。第1セパレータ19は親水化処理としてあらかじめスルフォン化処理がなされた不織布であり、第2セパレータ20は親水化処理としてあらかじめフッ素処理がなされた不織布である。
【0031】
これらを、第1セパレータ19、正極16、第2セパレータ20、負極18の順で積層し、第1セパレータ19が正極16の内側で接触し、第2セパレータ20が正極16の外側で接触するように渦巻き状に巻回して円柱形状の電極群12を形成した。正極16の積層数は第1領域13で4層、第2領域14で5層である。
【0032】
第1セパレータ19が、正極16と直接接触する側の表面には、あらかじめ界面活性剤が塗布された界面活性剤塗布層19aが設けられている。界面活性剤塗布層19aは、円柱形状の電極群12の底部(
図1の電池缶11の底面側)から上端部(
図1の集電タブ22が設置されている側)に亘って連続して延在する。また、電極群12の円周方向においては、
図2に界面活性剤塗布領域15として示されるとおり、第2領域14の周方向中央14aを対称軸とした線対称となるよう、円周方向の2分の1の範囲に配置されている。
【0033】
界面活性剤塗布層19aは、第1セパレータ19および第2セパレータ20の少なくともいずれかに設置すればよいが、本実施例では、フッ素処理がなされた第2セパレータ20よりも、相対的に親水性の弱いスルフォン化処理がなされた第1セパレータ19に界面活性剤塗布層19aを設置した。界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩やアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩を用いることができる。
【0034】
このように作成した電極群12を、有底円筒形の電池缶11に収容し、アルカリ電解液として水酸化カリウム溶液を投入して電極群12を浸漬し、電池蓋24で電池缶11の上端開口を封止して、
図1に示す構造の円筒形ニッケル水素蓄電池を得た。
【0035】
この実施例の円筒形ニッケル水素蓄電池について、充放電サイクルおよび自己放電特性に関する試験を行った。界面活性剤塗布層19aの効果および副作用を検証するために、界面活性剤塗布層19aを設置した範囲が異なる比較例1-3についても同様な試験をおこなった。
【0036】
本実施例および比較例1-3の仕様および試験結果について、表1にまとめた。充放電試験の試験条件については、表2にまとめられている。本実施例および比較例1-3のいずれも電池容量は2700mAhである。比較例1が、界面活性剤塗布層19aを設置していない仕様であり、この仕様の試験結果が界面活性剤塗布層19aの効果および副作用を検証する基準となる。
【0037】
【0038】
【0039】
<1Cサイクル試験>
円筒形ニッケル水素蓄電池では、充放電を繰り返すことにより放電容量が低下する現象が観察される。1回の充電と1回の放電を行うことを1サイクル(cyc.)と定義し、この充放電サイクルを繰り返すことにより、放電容量がどの程度低下するかを検証するのがサイクル試験である。本実施例の試験条件は表2に示すとおり、1C(本実施例では電池容量が2700mAhにつき2700mA)で充電を行い、その後20分休止、1Cで放電を行い、その後10分休止、のサイクルを繰り返し、放電容量が、初期値の60%以下に低下するまでのサイクル数を計数した。
【0040】
表1によれば、界面活性剤塗布層19aを設置していない比較例1では、150サイクルであったのに対して、本実施例では180サイクルと大幅な向上が確認された。また、比較例1では、第1セパレータ19においてアルカリ電解液の未浸透箇所(浸透していない箇所)が残存しているのに対して、本実施例ではアルカリ電解液が第1セパレータ19の全体に浸透していることが確認されている。したがって、本実施例による充放電のサイクル特性の向上は、界面活性剤塗布層19aを第1セパレータ19の表面に設置することでアルカリ電解液の未浸透箇所がなくなったことに起因すると考えられる。
【0041】
一方、界面活性剤塗布層19aを第1セパレータ19の表面全体に設置した比較例2では、アルカリ電解液の未浸透箇所は観察されなかったものの、サイクル特性は135サイクルであった。本実施例の試験結果によれば、アルカリ電解液の未浸透箇所がなくなると、180サイクルに向上することが期待されるが、それに反して、界面活性剤塗布層19aを設置していない比較例1の150サイクルよりも悪化している。この結果は、界面活性剤にサイクル特性を悪化させる要因があり、界面活性剤塗布層19aの設置範囲が広すぎると、その悪化させる要因による副作用が支配的になることを示唆する。比較例2では、この副作用により、サイクル特性が180サイクルから135サイクルに悪化したと理解し得る。
【0042】
さらに、界面活性剤塗布層19aを第1セパレータ19の上端部の円周方向全体に設置した比較例3では、145サイクルであった。比較例3では、アルカリ電解液の未浸透箇所が残存しており、このことが、比較例1の150サイクルと概ね同等のサイクル特性となった要因であると考えられる。
【0043】
<自己放電試験>
自己放電試験は、充電後に休止した状態で保管し、その間にどの程度放電容量が低下するかを評価するものである。まず、初期設定として、1C充電を行って1時間休止、次に0.2C放電を行って1時間休止した。そして、1C充電を行い、周囲温度40℃において14日間休止した後、0.2C放電により放電容量を測定した。結果は、初期の放電容量の対する比率としてまとめた。
【0044】
本実施例の結果は86.7%であり、比較例1の86.7%と同じ結果となった。このことは、本実施例の界面活性剤塗布層19aの設置による自己放電特性の変化はないことを示している。それに対して、比較例2では、85.5%に低下しており、サイクル試験と同様に、界面活性剤には自己放電特性を悪化させる要因があり、界面活性剤塗布層19aの設置範囲が広すぎると、その要因による低下が有意差として観察されると考えられる。一方、比較例3では、86.4%であり、比較例1の86.7%に対して微差であることから、比較例3と比較例1との有意差はなさそうである。
【0045】
上述のとおり、本実施例の円筒形ニッケル水素蓄電池では、界面活性剤塗布層19aを設置することで、アルカリ電解液をセパレータ全体へ円滑に浸透させてサイクル寿命を向上し、また、界面活性剤塗布層19aの設置範囲を適正な範囲内に留めることにより、サイクル寿命および自己放電特性への副作用の顕在化を回避することが可能である。
【0046】
本実施例では、第1セパレータ19が正極18と接する表面に界面活性剤塗布層19aを設けた例を示した。ただし、これに限定されるものではなく、第1セパレータ19および第2セパレータ20のうちのいずれか一方に界面活性剤塗布層19aを設ける構成でもよい。このとき、第1セパレータ19および第2セパレータ20のうち、より親水性の低い方に界面活性剤塗布層19aを設けることが好適である。なお、界面活性剤塗布層19aは第1セパレータ19および第2セパレータ20の両方に設けてもよい。
【0047】
また、本実施例では、界面活性剤塗布層19aを正極16の内側の表面に接する側に設けているが、正極16の外側の表面に接する側に設けてもよく、内側の表面および外側の表面のそれぞれが接する両側に設けてもよい。さらに、本実施例では、界面活性剤塗布層19aを正極16と接する面に設けているが、第1セパレータ19および第2セパレータ20のうちのいずれか一方が、負極18と接する面に設けてもよい。また、負極18が第1セパレータ19および第2セパレータ20のそれぞれと接する面、すなわち、負極の内側で接する面および負極の外側で接する面の両方に界面活性剤塗布層19aを設けてもよい。このように、界面活性剤塗布層19aを設ける位置は円筒形アルカリ蓄電池に適用し得るいずれも構成においても、本実施例に開示の構成と同様な効果を奏することができる。
【0048】
さらに、本実施例では、第1セパレータ19としてスルフォン化処理がなされた不織布を用い、第2セパレータ20としてフッ素処理がなされた不織布を用いた例を示した。ただし、これに限定されるものではなく、第1セパレータ19としてフッ素処理がなされた不織布、第2セパレータ20としてスルフォン化処理がなされた不織布を用いてもよい。また、第1セパレータ19および第2セパレータ20の両方にスルフォン化処理がなされた不織布を用いてもよく、第1セパレータ19および第2セパレータ20の両方にフッ素処理がなされた不織布を用いてもよい。なお、親水化処理は、スルフォン化処理やフッ素処理に限定するものではなく、その他の手法も採用し得る。
【0049】
さらに、第1セパレータ19および第2セパレータ20のように、2枚のセパレータを用いることは必須ではなく、例えば、1枚のセパレータを途中で折り返して、正極16を両面から挟むように巻回する構成でもよい。このように、セパレータの仕様および界面活性剤塗布層19aを設ける位置は、円筒形アルカリ蓄電池に適用し得るいずれも構成であっても、本実施例に開示の構成と同様な効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 円筒形アルカリ蓄電池
11 電池缶
12 電極群
13 第1領域
14 第2領域
14a 周方向中央
16 正極
18 負極
19 第1セパレータ
19a 界面活性剤塗布層
20 第2セパレータ
22 集電タブ
24 電池蓋
30 正極端子