(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120562
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】プレス成形品の製造方法およびプレス成形用金型
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20230823BHJP
【FI】
B21D22/26 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023503
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391002498
【氏名又は名称】フタバ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】宮城 隆司
(72)【発明者】
【氏名】細川 明宏
(72)【発明者】
【氏名】中村 憲一
(72)【発明者】
【氏名】野崎 貴行
(72)【発明者】
【氏名】名取 純希
(72)【発明者】
【氏名】菅原 稔
(72)【発明者】
【氏名】川喜田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】大橋 沙季
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA01
4E137AA08
4E137AA18
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC01
4E137CA09
4E137CA24
4E137EA03
4E137GA01
4E137GA16
4E137GB03
4E137HA08
(57)【要約】
【課題】縦壁部の湾曲部における縦壁エッジ部とその近傍の板厚減少率を低減することが可能なプレス成形品の製造方法およびプレス成形用金型を提供する。
【解決手段】板状の被加工材をプレス成形して、天板部20と、天板部20の縁部20eから垂れ下がる縦壁部30と、天板部20と縦壁部30とを接続する稜線部40とを含み、縦壁部30が、天板部20側の面30aと反対側の面30bが稜線部40に沿って凹面状に形成された湾曲部50を有するプレス成形品10を製造するための製造方法であって、被加工材を曲げ成形して縦壁部30を成形する際に、稜線部40となる部分に沿って縦壁部30となる部分に含まれる後行部分に対して、後行部分両側に位置する先行部分から先行して曲げ加工を開始して、遅れて後行部分の曲げ加工を開始して縦壁部30を成形することを特徴とする、プレス成形品の製造方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の被加工材をプレス成形して、
天板部と、前記天板部の縁部から垂れ下がる縦壁部と、前記天板部と前記縦壁部とを接続する稜線部とを含み、
前記縦壁部が、前記天板部側の面と反対側の面が前記稜線部に沿って凹面状に形成された湾曲部を有するプレス成形品を製造するための製造方法であって、
前記被加工材を曲げ成形して前記縦壁部を成形する際に、
前記稜線部となる部分に沿って前記縦壁部となる部分に含まれる後行部分に対して、前記後行部分両側に位置する先行部分から先行して曲げ加工を開始して、遅れて前記後行部分の曲げ加工を開始して前記縦壁部を成形する
ことを特徴とするプレス成形品の製造方法。
【請求項2】
前記被加工材を曲げ成形する際に、前記被加工材において前記天板部となる部分において、前記被加工材の板厚方向における移動を抑制する
ことを特徴とする請求項1に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項3】
上下方向に配されかつ、互いに相対移動可能な第一金型および第二金型を備えるプレス成形用金型であって、
前記第一金型が、前記上下方向と交差する方向に延在し凸面形状の湾曲領域を有する第一側面と、前記上下方向と交差しかつ前記第二金型側を向くダイフェース面と、前記第一側面と前記ダイフェース面とを接続するダイフェース縁部とを含み、
前記第二金型が、前記上下方向と交差する第一支持面と、前記第一支持面の稜線部と、前記稜線部を介して前記第一支持面と連続する第二側面とを含み、
前記第一金型において、
前記ダイフェース縁部が、前記第二金型から離間する方向にへこむ形状となる凹部を有し、
前記凹部の頂点が前記湾曲領域内に位置する
ことを特徴とするプレス成形用金型。
【請求項4】
前記第二金型の前記第一支持面に対向する第二支持面を含み、前記第二金型との間で被加工材を挟み込む第三金型をさらに備える
ことを特徴とする請求項3に記載のプレス成形用金型。
【請求項5】
前記凹部において、前記上下方向における前記凹部の両端部から前記ダイフェース縁部までの距離が、前記両端部から前記頂点へ向けて漸進的に大きくなる
ことを特徴とする請求項3又は4に記載のプレス成形用金型。
【請求項6】
前記第一側面に沿った前記凹部の幅が1mm以上である
ことを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載のプレス成形用金型。
【請求項7】
前記第一側面に沿った前記凹部の高さをh、前記第一支持面に垂直な方向の平面視における前記湾曲領域の最も小さい曲率半径をUR、前記第一支持面に垂直な方向の平面視における前記湾曲領域の曲率半径の線長をRLとしたとき、下記の式1を満たす
ことを特徴とする請求項3から6のいずれか1項に記載のプレス成形用金型。
11 > {h×UR/(10×RL)}1/2 > 0.1 ...式1
【請求項8】
前記ダイフェース縁部が、前記第一側面に沿った形状が直線でありかつ前記上下方向と交わる直線部をさらに有し、前記凹部が、前記凹部の少なくとも一方の端部において前記直線部に接続される
ことを特徴とする請求項3から7のいずれか1項に記載のプレス成形用金型。
【請求項9】
前記第二金型に近接する方向に凸となる第一R部をさらに有し、前記凹部と前記直線部とが前記第一R部を介して接続される
ことを特徴とする請求項8に記載のプレス成形用金型。
【請求項10】
前記凹部が、前記第二金型から離間する方向に凸となりかつ前記頂点を含む第二R部を有する
ことを特徴とする請求項3から9のいずれか1項に記載のプレス成形用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形品の製造方法およびプレス成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突安全性向上と軽量化を両立するため、ボデー骨格部品には高強度鋼板の適用が進んでおり、適用部品も小型で単純な形状の補強部品から大型で複雑な形状の主要骨格部品へ拡がっている。一方、高強度鋼板は軟鋼板に比べて伸び限界が低いためプレス成形性が低く、複雑な形状の部品に適用することが難しい。
【0003】
成形が難しい代表的な部品としては、フロントピラーヒンジR/FやセンターピラーヒンジR/F、リアサイドメンバ―のような、コの字断面形状を有しかつ上面視で湾曲した形状を有する部品が挙げられる。当該部品では、成形中にフランジ相当部位から上面視で湾曲した縦壁の面直方向に材料が流入する事で縦壁エッジ部が上面視で湾曲した縦壁に沿った周方向に伸ばされる伸びフランジ成形となる。そのため、板厚減少により縦壁エッジ部に割れが発生するため、材料の軟質化や形状緩和が必要となる。
【0004】
例えば、特許文献1には、外周縁の一部が内方に凹んだ凹状外周縁部を有する平板部と、凹状外周縁部に沿って曲げ成形されたフランジ部とを有するプレス成形品を、金型を用いてプレス成形するプレス成形方法が開示されている。この方法では、平板部に相当するブランク材の部位に板押えとパンチ、又は、ダイとパンチで凹形状又は凸形状の塑性変形を与えて、当該塑性変形を与えた部位に材料が引き込まれることによって、フランジ部の屈曲部に相当する部位に材料が引き寄せられて、当該屈曲部相当部位に板厚方向にたわみを生じさせて余肉を付与する余肉付与工程と、フランジ部を前記ダイと前記パンチによって成形するフランジ成形工程とを備えることで、伸びフランジ割れの発生を防止しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、フランジ部を有する成形品について、伸びフランジ割れを抑制する技術が検討されている。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、フランジ成形工程の前に、さらに余肉付与工程が必須となる。また、余肉(ビード)の付与が必須であり、この余肉が製品に反映されてしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、縦壁部の湾曲部における縦壁エッジ部とその近傍の板厚減少率を低減することが可能なプレス成形品の製造方法およびプレス成形用金型を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の一態様に係るプレス成形品の製造方法は、
板状の被加工材をプレス成形して、
天板部と、天板部の縁部から垂れ下がる縦壁部と、天板部と縦壁部とを接続する稜線部とを含み、
縦壁部が、天板部側の面と反対側の面が稜線部に沿って凹面状に形成された湾曲部を有するプレス成形品を製造するための製造方法であって、
被加工材を曲げ成形して縦壁部を成形する際に、
稜線部となる部分に沿って縦壁部となる部分に含まれる後行部分に対して、後行部分両側に位置する先行部分から先行して曲げ加工を開始して、遅れて後行部分の曲げ加工を開始して縦壁部を成形する
ことを特徴とする。
【0009】
上記の構成からなるプレス成形品の製造方法によれば、縦壁部を曲げ成形する際に、縦壁部となる部分に含まれる後行部分に対して、後行部分両側に位置する先行部分から先行して曲げ加工を開始して、遅れて後行部分の曲げ加工を開始することで、湾曲部周方向の端部側から中央部側へ向けて順次縦壁を成形し、成形時に囲い込んだ材料を縦壁部の湾曲部の縦壁エッジ部へ向けて供給することで、縦壁エッジ部とその近傍の板厚減少率を低減させることができる。
【0010】
(2)上記(1)に記載のプレス成形品の製造方法では、
被加工材を曲げ成形する際に、被加工材において天板部となる部分において、被加工材の板厚方向における移動を抑制してもよい。
上記の構成からなるプレス成形品の製造方法によれば、天板部となる部分においてその板厚方向の移動を抑制することで、成形性良くプレス成形品を製造することができる。
【0011】
(3)本発明の一態様に係るプレス成形用金型は、
上下方向に配されかつ、互いに相対移動可能な第一金型および第二金型を備えるプレス成形用金型であって、
第一金型が、前記上下方向と交差する方向に延在し凸面形状の湾曲領域を有する第一側面と、上下方向と交差しかつ第二金型側を向くダイフェース面と、第一側面とダイフェース面とを接続するダイフェース縁部とを含み、
第二金型が、上下方向と交差する第一支持面と、第一支持面の稜線部と、稜線部を介して第一支持面と連続する第二側面とを含み、
第一金型において、
ダイフェース縁部が、第二金型から離間する方向にへこむ形状となる凹部を有し、
凹部の頂点が湾曲領域内に位置することを特徴とする。
【0012】
上記の構成からなるプレス成形用金型によれば、被加工材に接触して曲げ加工の起点となるダイフェース縁部の形状が凹部を有し、凹部の頂点が湾曲領域内に位置している金型を用いることで、湾曲部周方向の端部側から中央部側へ向けて順次縦壁を成形できる。これにより、成形時に囲い込んだ材料を縦壁部の湾曲部の縦壁エッジ部へ向けて供給でき、縦壁エッジ部とその近傍の板厚減少率を低減させることができる。
【0013】
(4)上記(3)に記載のプレス成形用金型では、
第二金型の第一支持面に対向する第二支持面を含み、第二金型との間で被加工材を挟み込む第三金型をさらに備えてもよい。
上記の構成からなるプレス成形用金型によれば、第一支持面と第二支持面によって被加工材を挟み込むことで、成形性良くプレス成形品を製造することができる。
【0014】
(5)上記(3)又は(4)に記載のプレス成形用金型では、
凹部において、上下方向における凹部の両端部からダイフェース縁部までの距離が、両端部から頂点へ向けて漸進的に大きくなってもよい。
上記の構成からなるプレス成形用金型によれば、上記のようなダイフェース縁部の形状とすることで、歩留まり良くプレス成形品を製造することができる。
【0015】
(6)上記(3)から(5)のいずれか1項に記載のプレス成形用金型では、
第一側面に沿った凹部の幅が1mm以上であってもよい。
上記の構成からなるプレス成形用金型によれば、上記のように凹部の幅を規定することで、プレス成形品の縦壁部において広範囲に割れの発生を抑制することができる。
【0016】
(7)上記(3)から(6)のいずれか1項に記載のプレス成形用金型では、
第一側面に沿った凹部の高さをh、第一支持面に垂直な方向の平面視における湾曲領域の最も小さい曲率半径をUR、第一支持面に垂直な方向の平面視における湾曲領域の曲率半径の線長をRLとしたとき、下記の式1を満たしてもよい。
11 > {h×UR/(10×RL)}1/2 > 0.1 ...式1
【0017】
(8)上記(3)から(7)のいずれか1項に記載のプレス成形用金型では、
ダイフェース縁部が、第一側面に沿った形状が直線でありかつ上下方向と交わる直線部をさらに有し、凹部が、凹部の少なくとも一方の端部において直線部に接続されてもよい。
上記の構成からなるプレス成形用金型によれば、直線部においては通常のプレス成形を実施し、凹部においては成形時に囲い込んだ材料を縦壁部の湾曲部の縦壁エッジ部へ向けて供給できるため、歩留まり良くプレス成形品を製造することができる。
【0018】
(9)上記(8)に記載のプレス成形用金型では、
第二金型に近接する方向に凸となる第一R部をさらに有し、凹部と直線部とが第一R部を介して接続されてもよい。
上記の構成からなるプレス成形用金型によれば、直線部と凹部が第一R部を介して接続されるため、プレス成形品の縦壁部において割れが集中することを抑制できる。
【0019】
(10)上記(3)から(9)のいずれか1項に記載のプレス成形用金型では、
凹部が、第二金型から離間する方向に凸となりかつ頂点を含む第二R部を有してもよい。
上記の構成からなるプレス成形用金型によれば、第二R部を有することで、プレス成形品の縦壁部において広範囲に割れの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、縦壁部の湾曲部における縦壁エッジ部とその近傍の板厚減少率を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係るプレス成形品の一例を説明するための概略的な斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る被加工材の一例を説明するための概略的な斜視図である。
【
図3】プレス成形に用いられる被加工材を板厚方向から見た概略的な平面図である。
【
図4】
図4の(A)~(E)は、
図3の各位置における断面を説明するための概略的な断面図である。
【
図5】
図4の状態から、曲げ加工を開始した状態を説明するための概略的な断面図である。
【
図6】
図5の状態から、さらに曲げ加工を進めた状態を説明するための概略的な断面図である。
【
図7】曲げ成形が完了し、縦壁部が成形された状態を説明するための概略的な断面図である。
【
図8】プレス成形に用いられる被加工材を板厚方向から見た概略的な平面図である。
【
図9】
図9の(A)~(E)は、
図8の各位置における断面を説明するための概略的な断面図である。
【
図10】
図9の状態から、曲げ加工を開始した状態を示す概略的な断面図である。
【
図11】
図10の状態から、さらに曲げ加工を進めた状態を説明するための概略的な断面図である。
【
図12】
図11の状態から、さらに曲げ加工を進めた状態を説明するための概略的な断面図である。
【
図13】
図12の状態から、さらに曲げ加工を進めた状態を説明するための概略的な断面図である。
【
図14】曲げ成形が完了し、縦壁部が成形された状態を説明するための概略的な断面図である。
【
図15】曲げ成形途中の半成形品を説明するための概略的な斜視図である。
【
図16】本発明の一実施形態に係るプレス成形用金型の一例を説明するための概略的な斜視図である。
【
図17】本発明の一実施形態に係る第一金型をプレス方向に見た概略的な平面図である。
【
図18】本発明の一実施形態に係る第一金型を側面の湾曲領域側から見た概略的な斜視図である。
【
図19】本発明の一実施形態に係る第一金型を側面の湾曲領域側から見た概略的な斜視図であり、第一金型の一部の断面を示す図である。
【
図20】本発明の一実施形態に係る第一金型を側面の湾曲領域側から見た概略的な斜視図であり、第一金型の一部の断面を示す図である。
【
図21】本発明の変形例に係る第一金型を側面の湾曲領域側から見た概略的な斜視図である。
【
図22】本発明の変形例に係る第一金型を側面の湾曲領域側から見た概略的な斜視図であり、第一金型の一部の断面を示す図である。
【
図23】本発明の変形例に係る第一金型を側面の湾曲領域側から見た概略的な斜視図であり、第一金型の一部の断面を示す図である。
【
図24】
図24の(A)~(D)は、ダイフェース縁部の形状の一例を説明するための概略的な平面図であって、第一側面に沿ったダイフェース縁部の形状を平面に展開した図である。
【
図25】
図25の(A)~(C)は、本発明の一実施形態に係るプレス成形用金型を用いて被加工材をプレス成形する過程を説明するための図であって、第二金型と第三金型で被加工材を挟持した状態を示す概略的な断面図である。
【
図26】
図25の(A)~(C)の状態から、曲げ加工を開始した状態を示す概略的な断面図である。
【
図27】
図26の状態から、さらに曲げ加工を進めた状態を説明するための概略的な断面図である。
【
図28】
図27の状態から、さらに曲げ加工を進めた状態を説明するための概略的な断面図である。
【
図29】曲げ成形が完了し、縦壁部が成形された状態を説明するための概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されないことは自明である。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。また、以下の実施形態の各構成要素は、互いに組み合わせることができる。
【0023】
[第一実施形態]
図1に本実施形態に係るプレス成形品の一例を示す。
図1に示すプレス成形品10は、天板部20と、天板部20の縁部20eから垂れ下がる縦壁部30と、天板部20と縦壁部30とを接続する稜線部40とを含み、縦壁部30が、天板部20側の面30aと反対側の面30bが稜線部40に沿って凹面状に形成された湾曲部50を有する。なお、
図1では、湾曲部50とその周辺以外の部分は図示していない。
【0024】
天板部20は、面20aと面20aとは反対側の面20bを有する。天板部20の面20aは縦壁部30の面30aと接続され、面20aと反対側の面20bは縦壁部30の面30bと接続される。天板部20の縁部20eには、稜線部40を介して縦壁部30が接続される。本実施形態では、便宜上、天板部20の面20aが向く側を内側、天板部20の面20bが向く側を外側とも称する。
【0025】
稜線部40は稜線部湾曲部40cを含む。稜線部湾曲部40cは、天板部20と直交する方向の平面視において、湾曲しかつ、天板部20側へ向けてへこむ形状を有している。稜線部40の稜線部湾曲部40cと接する縁部20eは、天板部20と直交する方向の平面視において、稜線部湾曲部40cに対応して湾曲している。稜線部40は、稜線部40の各点における稜線部40が延在する方向に垂直な平面において、天板部20の面20aと縦壁部30の面30aとが接続される内側部分で凹曲線状に形成されている。また稜線部40は、稜線部40の各点における稜線部40が延在する方向に垂直な平面において、天板部20の面20bと縦壁部30の面30bとが接続される外側部分で凸曲線状に形成されている。
【0026】
縦壁部30は、天板部20側に位置する面30aと面30aとは反対側の面30bを有する。縦壁部30の縁部30eには、稜線部40を介して天板部20が接続される。縦壁部30は、縁部30eと反対側に縦壁エッジ部30gを有している。
【0027】
縦壁部30は湾曲部50を有している。湾曲部50は、天板部20と直交する方向の平面視において、天板部20側へ向けてへこむ凹面状に形成されている。湾曲部50は、稜線部40の稜線部湾曲部40cに接続され、稜線部湾曲部40cに対応して湾曲している。
【0028】
図2に、本実施形態に係る被加工材の一例を示す。
図2に示す被加工材1は、面1aと面1aとは反対側の面1bとを有している。被加工材1は、その一部が湾曲する外縁部1gを有している。外縁部1gは、被加工材1がプレス成形されてプレス成形品10となったときに、縦壁エッジ部30gとなる。本実施形態において、板状の被加工材とは平板状の材料を意味する。
【0029】
本実施形態に係る被加工材1は、塑性加工が可能な金属材料であることが好ましく、鋼板、アルミ板、Cu-Al合金板など、プレス成形に適した金属材料であることが好ましい。特に、本実施形態に係る被加工材1は、延性が低い引張強度が440MPa以上の鋼板であることが、板厚の減少が抑制されるという理由で好ましい。被加工材1には、予め孔や切り欠きなどが設けられていてもよく、めっき処理、塗装、その他の処理が施されていてもよい。また被加工材1には、予め曲げ加工が施されていてもよい。プレス成形時の被加工材の温度は、常温あってもよく、1000℃以下に加熱されていてもよい。
【0030】
ここで、従来のプレス成形方法について説明する。
図3は、被加工材1Aをその板厚方向から見た平面図である。なお、本実施形態の説明では、板厚方向とは、板状の材料が厚さを有する方向を意味する。
【0031】
図4の(A)は、
図3のA-Aを通りかつ被加工材1Aの板厚方向に平行な平面で被加工材1Aを断面視した断面図である。1Agは被加工材1Aの外縁部である。同様に
図4の(B)~(E)は、それぞれ、
図3のB-B~E-Eを通り被加工材1Aの板厚方向に平行な各平面で被加工材1Aを断面視した断面図である。
【0032】
図5~
図7は、
図4の状態から、金型(図示せず)を用いて被加工材1Aの一部を曲げる曲げ加工の過程を示している。
図5は、
図4の状態から、曲げ加工を開始した状態を示している。
図6は、
図5の状態から、さらに曲げ加工を進めた状態を示している。
図7は、曲げ加工が完了し、縦壁部30Aが成形された状態を示している。なお、
図4~
図7の(A)は、同じ位置における断面を示す。
図4~
図7の(B)~(E)についても同様である。
【0033】
図4~
図7に示すように、従来のプレス成形方法では、被加工材1Aの一部を曲げ成形して縦壁部30Aを成形する際に、縦壁部30Aの湾曲部50Aを含む、天板部20Aと縦壁部30Aとを接続する稜線部40Aとなる部分に沿った断面の全てにおいて、一様に曲げ成形を行っていた。
【0034】
これに対し、本実施形態に係るプレス成形品の製造方法では、縦壁部30を成形する際に、稜線部40となる部分に沿って、縦壁部30となる部分に含まれる後行部分33に対して、後行部分33の両側に位置する先行部分32から先行して曲げ加工を開始して、遅れて後行部分33の曲げ加工を開始して縦壁部30を成形する。
【0035】
図8は、本実施形態に係るプレス成形品の製造方法に用いられる被加工材1を板厚方向から見た平面図である。以下では、被加工材1において、稜線部40となる部分に沿った線を仮想線41とする。また、被加工材1において、天板部20となる部分を第一範囲21とし、縦壁部30となる部分を第二範囲31とする。被加工材1においては、仮想線41を挟み、第一範囲21と第二範囲31とが隣接する。
【0036】
第二範囲31には、先行部分32と後行部分33が含まれている。先行部分32と後行部分33の範囲は、互いに重複しなければ特に限定されない。稜線部40となる部分に沿った仮想線41の延在方向に沿って、先行部分32は、後行部分33の両側に位置する。
【0037】
図9の(A)は、
図8のA-Aを通りかつ被加工材1の板厚方向に平行な平面で被加工材1を断面視した断面図である。同様に
図9の(B)~(E)は、それぞれ、
図9のB-B~E-Eを通り被加工材1の板厚方向に平行な各平面で被加工材1を断面視した断面図である。
図10~
図14は、
図9の状態から金型(図示せず)を用いて被加工材1の一部を曲げる過程を示している。なお、
図9の(A)~
図14の(A)は、同じ位置における断面を示す。
図9~
図14の(B)~(E)についても同様である。
【0038】
図10は、曲げ成形の初期段階で、
図9の状態から曲げ加工を開始した状態を示している。この段階では、(A)および(E)の位置で曲げ加工が開始されている。一方、(B)~(D)の位置では曲げ加工が開始されていない。すなわち、被加工材1の(A)および(E)の位置が先行部分32に相当し、被加工材1の(B)~(D)の位置が後行部分33に相当する。
【0039】
図11は、
図10の状態から、さらに曲げ加工を進めた状態を示している。この段階では、(A)および(E)の位置でさらに曲げ成形が進み、(B)および(D)の位置で曲げ加工が開始されている。
【0040】
図12は、
図11の状態から、さらに曲げ加工を進めた状態を示している。この段階では、(A)および(E)の位置で縦壁部30が成形され、(C)の位置で曲げ加工が開始されている。
【0041】
図13は、
図12の状態から、さらに曲げ加工を進めた状態を示している。この段階では、(B)および(D)の位置で縦壁部30が成形されている。
【0042】
図14は、曲げ成形が完了し、全ての位置で縦壁部30が成形された状態を示している。
【0043】
上述のように、本実施形態に係るプレス成形品の製造方法では、仮想線41の両端部側から曲げ加工を開始する。そして、遅れて後行部分、すなわち先行部分の間に位置する部分の曲げ加工を開始する。換言すれば、仮想線41に沿って、仮想線41の一方の端部側から他方の端部側へ向けて順次曲げ加工を開始し、さらに仮想線41の他方の端部側から一方の端部側へ向けて順次曲げ加工を開始する。なお、仮想線41の一方の端部側から他方の端部側へ向けて実施する曲げ加工と、仮想線41の他方の端部側から一方の端部側へ向けて実施する曲げ加工は、同時に実施してもよい。あるいは、仮想線41の一方の端部側から他方の端部側へ向けて順次曲げ加工を開始した後に、仮想線41の他方の端部側から一方の端部側へ向けて順次曲げ加工を開始してもよい。
【0044】
図15に、曲げ成形途中の半成形品11の斜視図を示す。半成形品11の状態では、縦壁部30の一部となる第二範囲31が先行部分32と後行部分33とを含み、先行部分32では曲げ加工が開始され、後行部分33では曲げ加工が開始されていない。半成形品11の状態から、さらに曲げ加工を進めることで、すなわち、後行部分33の曲げ加工を先行部分32側から後行部分33側へ向けて順次開始することで、縦壁部30が成形される。ここで、曲げ加工が開始されるとは、例えば成形のための金型が被加工材又は半成形品に接触することで、曲げ加工線がつく状態を意味する。なお、先行部分32で曲げ加工が開始されることで、材料の変形が伝播し、後行部分33においても曲げ加工線がつき始めることがある。
【0045】
本実施形態に係るプレス成形品の製造方法では、縦壁部30が成形された部分では、縦壁部30は稜線部40を介して天板部20と接続される。よって、本実施形態に係るプレス成形品の製造方法は、換言すれば、被加工材1の仮想線41に沿って、仮想線41の各端部側から中央部側へ向けて稜線部40を進展させる方法であるとも言える。
【0046】
本実施形態に係るプレス成形品の製造方法では、被加工材1の一部を曲げ成形する際に、被加工材1において天板部20となる部分において、被加工材1の板厚方向における移動を抑制してもよい。天板部20となる部分をその板厚方向における移動を抑制することで、成形性良くプレス成形品を製造することができる。なお、移動の抑制とは、被加工材1がその板厚方向に移動しないように、被加工材1でのしわの発生を抑制できる程度に適切な圧力を加えて保持することを意味する。一方、天板部20となる部分を、被加工材1の板厚方向に垂直な方向に移動可能に挟持してもよい。これにより、成形性が優れるという利点がある。
【0047】
本実施形態に係るプレス成形品の製造方法では、縦壁部30を成形する際に、稜線部40となる部分に沿って、縦壁部30となる部分に含まれる後行部分33に対して、後行部分33の両側に位置する先行部分32から先行して曲げ加工を開始して、遅れて後行部分33の曲げ加工を開始して縦壁部30を成形するため、湾曲部50における縦壁エッジ部30gに沿った材料の伸び量を低減させることができ、縦壁エッジ部30gとその近傍の板厚減少率を低減させることができる。そのため、伸び性が低いとされる引張強度が高い材料の成形が可能になるという利点がある。また本実施形態に係るプレス成形品の製造方法では、縦壁エッジ部30gとその近傍の板厚減少率を低減させることができるため、成型量の制限を緩和することができ、プレス成形品10の縦壁部30の高さを確保することができる。よって、本実施形態に係るプレス成形品の製造方法によって製造されるプレス成形品には、引張強度が高い材料を用いること、あるいはプレス成形品の縦壁部の高さを確保することで、衝突性能を確保できるという効果がある。
【0048】
本実施形態に係るプレス成形品の製造方法によれば、縦壁部を曲げ成形する際に、縦壁部となる部分に含まれる後行部分に対して、後行部分両側に位置する先行部分から先行して曲げ加工を開始して、遅れて後行部分の曲げ加工を開始することで、湾曲部周方向の端部側から中央部側へ向けて順次縦壁を成形し、成形時に囲い込んだ材料を縦壁部の湾曲部の縦壁エッジ部へ向けて供給することで、縦壁エッジ部とその近傍の板厚減少率を低減させることができる。ここで、湾曲部周方向とは、天板部の板厚方向と直交する方向かつ縦壁部の板面が延在する方向を意味する。
【0049】
[第二実施形態]
図16に、本実施形態に係るプレス成形用金型の一例を示す。
図16に示すプレス成形用金型1000は、第一金型100と第二金型200と、第三金型300とを備える。第一金型100は上下方向の上側に配され、第二金型200は上下方向の下側に配される。
図16では上下方向をZ方向として、Z方向と直交しかつ互いに直交する方向をX方向およびY方向とする。
図16の矢印はプレス方向Pを示す。
【0050】
本実施形態においては、上下方向とプレス方向が平行でありかつ、第一金型100から第二金型200へ向かう下方向とプレス方向が一致するものとして説明する。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、上下方向とプレス方向が平行であり、プレス方向と上方向が一致してもよい。また、上下方向とプレス方向が交差してもよい。例えば、プレス成形用金型がカム機構を備えている場合、上下方向とプレス方向とは一致しない場合がある。
【0051】
第一金型100は、プレス方向Pと交差する方向に延在し凸面形状の湾曲領域111を有する第一側面110と、プレス方向Pと交差しかつ第二金型200側を向くダイフェース面120と、第一側面110とダイフェース面120とを接続するダイフェース縁部130とを含む。
【0052】
第一側面110に沿ったダイフェース縁部130は、プレス方向Pと逆の方向(第二金型200から離間する方向)へ向けてへこむ形状となる凹部131を有している。凹部131の頂点131aは、湾曲領域111内に位置する。
【0053】
第二金型200は、第一金型100に対して相対的に移動可能である。第二金型200は、プレス方向と交差する第一支持面230と、第一支持面230の稜線部220と、稜線部220を介して第一支持面230と連続する第二側面210とを含む。
【0054】
第二金型200の稜線部220は、プレス方向Pの平面視において、第一金型100の第一側面110の湾曲領域111に対応する湾曲領域221を有していてもよい。湾曲領域221において、プレス方向Pの平面視における稜線部220の形状は、第一支持面230側へ向けてへこむ凹面形状となる。第二金型200の第二側面210は、
図16に例示するように、第一金型100の第一側面110の湾曲領域111に対応する湾曲領域221を有していてもよい。あるいは、第二金型200において稜線部220がプレス成形品の形状を担保できる所望の形状を有していれば、第二側面210の形状は限定されない。例えば、第二側面210の一部が、稜線部220よりも第一支持面230側に位置していてもよい。この場合、第一金型100が下死点に到達した状態で、被加工材1に対して第二側面210が接触しない箇所が存在する。
図16に例示するように、第二金型200は、第二側面210の第一支持面230と接続される側とは反対側に、底面部240を含んでいてもよい。
【0055】
第三金型300は、第二金型200の第一支持面230に対向する第二支持面310を含む。第二金型200と第三金型300とは、互いに相対移動可能であり、第三金型300の第二支持面310と第二金型200の第一支持面230との間で被加工材1を挟み込むことができる。第一支持面230と第二支持面310によって被加工材1を挟み込むことで、成形性良くプレス成形品を製造することができる。第三金型300は、プレス方向Pと交差する方向へ向き、第二支持面310と接続される第三側面320を有していてもよい。第三側面320の形状は特に限定されないが、例えば、第一金型100の第一側面110の形状に対応した形状としてもよい。
【0056】
なお、
図16の例では、第三金型300を例示したが、本発明に係るプレス成形用金型1000では、第三金型300は必須ではない。第一金型100、第二金型200、あるいはプレス成形品の形状によっては、第三金型300が不要な場合がある。この場合、例えば、第三金型300の第二支持面310に相当する支持面が第一金型100に設けられていてもよい。第一金型100および第二金型200のみで被加工材1を固定するために、例えば、被加工材1に孔や切り欠き、突起部を設け、これらに対応するピンや突起部を第二金型200に設けることで、被加工材1と第二金型200との相対位置が維持されるように構成してもよい。
【0057】
次に、第一金型100について詳細に説明する。
図17に、第一金型100をプレス方向に見た平面図を示す。
図17に示すように、第一金型100は、プレス方向Pと交差する方向に延在する第一側面110に、湾曲領域111を有している。湾曲領域111では、プレス方向Pの平面視で、湾曲領域111の両端部を結ぶ線分よりも第一側面110が向く方向へ凸となる形状を有している。湾曲領域111のプレス方向Pの平面視における形状は特に限定されず、所望のプレス成形品の縦壁部の湾曲部に対応した形状とする。湾曲領域111以外の第一側面110は、平面であってもよく、あるいはプレス方向Pの平面視においてなだらかな曲面を有していてもよい。
【0058】
図18に、
図17に示す第一金型100を、第一金型100を第一側面110の湾曲領域111側から見た斜視図を示す。第一側面110とダイフェース面120とは、ダイフェース縁部130によって接続され、第一側面110に沿ったダイフェース縁部130は、プレス方向Pと逆の方向へ向けてへこむ形状となる凹部131を有している。よって、第一側面110のプレス方向P側(Z方向側)に配されるダイフェース面120は、従来の金型のような平面状ではなく、ダイフェース縁部130の形状に対応した曲面を有している。このようなダイフェース面120の曲面となる部分をダイフェース曲面部121とも称する。このダイフェース曲面部121は、ダイフェース縁部130の凹部131を介して第一側面110に接続される。また、凹部131の頂点131aは、湾曲領域111内に位置する。
【0059】
図19に、ダイフェース曲面部121を説明するための斜視図を示す。
図19は、
図18と同じ方向から第一金型100を見た図であり、
図17のG-Gを通り且つ
図17のZ方向に平行な平面における第一金型100の一部の断面を示している。
図20は、
図19と同様に、ダイフェース曲面部121を説明するための斜視図であり、
図17のH-Hを通り且つ
図17のZ方向に平行な平面における第一金型100の一部の断面を示している。
図19又は
図20に示すように、本実施形態に係る第一金型100では、ダイフェース曲面部121は、ダイフェース縁部130の凹部131から、第一側面110の湾曲領域111と交わる方向に延在している。このダイフェース曲面部121は、第一金型100の第一側面110以外の側面まで到達してもよい。
【0060】
なお、曲げ成形の際に、変形途中の被加工材がダイフェース曲面部121と接触して曲げ成形に支障をきたさなければ、ダイフェース曲面部121の形状は特に限定されない。
図21~
図23にダイフェース曲面部121の変形例を示す。
図21は、
図18と同じ方向から、変形例に係る第一金型100を見た図である。
図21の例では、ダイフェース縁部130の形状は
図18と同様であるが、ダイフェース曲面部121が閉鎖型となっている。すなわち、
図21に示すダイフェース曲面部121は、ダイフェース縁部130の凹部131と、境界部121aとによって規定されている。境界部121aは、ダイフェース曲面部121とダイフェース面120の平面部との境界である。
【0061】
図22は、
図21と同じ方向から第一金型100を見た図であり、
図17のG-Gを通り且つ
図17のZ方向に平行な平面における第一金型100の断面を示している。
図23は、
図17のH-Hを通り且つ
図17のZ方向に平行な平面における第一金型100の断面を示している。
図22又は
図23に示すように、変形例に係る第一金型100では、ダイフェース曲面部121は、第一側面110を延長した仮想面と、ダイフェース面120の平面部を延長した仮想面と、ダイフェース曲面部121とによって閉鎖された空間を有している。このようなダイフェース曲面部121とすることで、曲げ成形時に、縦壁部へ向けて均等に材料を供給することができるという効果がある。
【0062】
次に、ダイフェース縁部130の形状について、
図24の(A)~(D)の例を用いて説明する。
図24の(A)~(D)は、第一側面110に沿ったダイフェース縁部130の形状を平面に展開した図である。本実施形態では、第一側面110に沿ったダイフェース縁部130の形状をダイフェース縁部130の形状とする。よって「ダイフェース縁部が、プレス方向と逆の方向へ向けてへこむ形状となる凹部を有する」とは、第一側面110に沿ったダイフェース縁部130の形状が、プレス方向Pと逆の方向(第二金型200から離間する方向)へ向けてへこむ形状となる凹部形状を有することを意味する。
【0063】
本実施形態に係るダイフェース縁部130の形状は凹部131を有しかつ、凹部131の頂点131aが第一側面110の湾曲領域111内に位置すればよい。ここで、凹部131の頂点131aとは、凹部131のうちで、プレス方向Pにおける端部131bおよび131cからの距離Dが最も遠くなる点を意味する。
【0064】
本実施形態に係る第一金型100では、
図24の(A)~(C)に示すように、ダイフェース縁部130が、第一側面110に沿った形状が直線でありかつプレス方向Pと交わる直線部132をさらに有し、凹部131が、凹部131の少なくとも一方の端部において直線部132に接続されてもよい。これにより、直線部132においては通常のプレス成形を実施し、凹部131においては成形時に囲い込んだ材料を縦壁部の湾曲部の縦壁エッジ部へ向けて供給できるため、歩留まり良くプレス成形品を製造することができる。なお、ダイフェース面120に座面やビードが設けられた場合、直線部132において、座面やビードの一部が重なり、直線部132の一部が直線形状とはならない場合もある。
【0065】
本実施形態に係る第一金型100では、
図24の(A)~(C)に示すように、第二金型に近接する方向(本実施形態では、プレス方向P)に凸となる湾曲する第一R部133をさらに有し、凹部131と直線部132とが第一R部133を介して接続されてもよい。これにより、プレス成形品の縦壁部において割れが集中することを抑制することができる。
【0066】
本実施形態に係る第一金型100では、
図24の(A)~(C)に示すように、凹部131が、第二金型から離間する方向(本実施形態では、プレス方向Pと逆の方向)に凸となりかつ頂点131aを含む第二R部134を有してもよい。これにより、プレス成形品の縦壁部において広範囲に割れを抑制することができる。なお、第一R部133、第二R部134の形状は、真円の一部を構成する曲線、楕円の一部を構成する曲線、異なる曲率を組み合わせた曲線であってもよく、曲線部同士の間に直線部があってもよい。
【0067】
図24の(A)に例示するダイフェース縁部130は、凹部131が、第一R部133と第二R部134によって構成されている。
図24の(A)に示すように、第一R部133と第二R部134は、接続点133aで接続されていてもよい。この場合、第一R部133と第二R部134との接続点133aは、凹部131におけるダイフェース縁部の形状の変曲点となる。これにより、割れが集中することを緩和できるという効果がある。
【0068】
図24の(B)に例示するダイフェース縁部130は、凹部131が、第一R部133と、第二R部134と、第一R部133と第二R部134を結ぶ連結部135とによって構成されている。連結部135は、接続点135aで第一R部133と接続され、接続点135bで第二R部134と接続される。
図24の(B)に示すように、第一R部133と第二R部134は、連結部135を介して接続されることにより、割れが集中する箇所を選択できるという効果がある。なお、連結部135は、
図24の(B)に例示するような直線形状であってもよい。
【0069】
図24の(C)に例示するダイフェース縁部130は、凹部131が、2つの頂点131aを結ぶ頂点連結部136と、頂点連結部136の両端に接続される連結部135とを含む。頂点連結部136と連結部135との間、ならびに連結部135と直線部との間には、真円の一部を構成する曲線、楕円の一部を構成する曲線、異なる曲率を組み合わせた曲線から構成されるR部が設けられていてもよい。このような形状の凹部131では、割れが集中する箇所を選択できるという効果がある。なお、頂点131aは、
図24の(C)に例示するように、2つあってもよく、3つ以上あってもよい。
【0070】
本実施形態に係る第一金型100では、
図24の(D)に示すように、ダイフェース縁部130の全長にわたり、凹部131が形成されていてもよい。なお、
図24の(D)に示すような凹部131の形状は、真円の一部を構成する曲線、楕円の一部を構成する曲線、異なる曲率を組み合わせた曲線であってもよい。凹部131をこのような形状とすることで、割れの集中を均等化できるという効果がある。
【0071】
本実施形態に係る第一金型100では、凹部131において、プレス方向Pにおける凹部131の両方の端部131bおよび131cからダイフェース縁部130までの距離Dが、端部131bおよび131cから頂点131aへ向けて漸進的に大きくなってもよい。これにより、歩留まり良くプレス成形品を製造することができる。なお、プレス方向Pにおける凹部131の端部131bと131cの位置が異なる場合、プレス方向Pにおける凹部131の頂点131aまでの距離が短い方の端部を、距離Dを決めるための基準とする。
【0072】
本実施形態に係る第一金型100では、第一側面110に沿った凹部131の幅が1mm以上であってもよい。これにより、プレス成形品の縦壁部において広範囲に割れの発生を抑制することができる。ここで、第一側面110に沿った凹部131の幅とは、第一支持面230と水平な方向おける凹部131の両方の端部131bから131cまでの、第一側面110に沿った長さを意味する。なお、本実施形態では、プレス方向Pと第一支持面230とは直交する。
【0073】
本実施形態に係る第一金型100では、第一側面110に沿った凹部131の高さをh、第一支持面230に垂直な方向の平面視における湾曲領域111の最も小さい曲率半径をUR、第一支持面230に垂直な方向の平面視における湾曲領域111の曲率半径の線長をRLとしたとき、下記の式1を満たすことで、材料を縦壁エッジ部に供給する効果がある。ここで、凹部131の高さhとは、頂点131aにおける高さであり、上述した距離Dの最大値である。湾曲領域111の最も小さい曲率半径URとは、第一支持面230に垂直な方向の平面視における湾曲領域111の曲率半径のうちで、最小の値を意味する。湾曲領域111の幅とは、第一支持面230に垂直な方向の平面視における、湾曲領域111に沿った湾曲領域111の両端部間の長さを意味する。
【0074】
11 > {h×UR/(10×RL)}1/2 > 0.1 ...式1
【0075】
上記実施形態に係るプレス成形用金型1000は、プレス成形装置の一部として構成されてもよい。プレス成形装置は、第一金型100と第二金型200、第二金型200と第三金型300を、それぞれ相対移動させる駆動部を備えていてもよい。
【0076】
上記実施形態に係るプレス成形用金型1000では、第二金型200を固定して、第一金型100を第二金型200に対して移動させる場合について説明した。しかし、上記実施形態に係るプレス成形用金型1000では、第一金型100を固定して、第二金型200を第一金型100に対して移動させてもよい。また、上記実施形態に係るプレス成形用金型1000では、プレス方向Pは、垂直方向又は水平方向に平行であってもよく、垂直方向又は水平方向に対して角度を有していてもよい。
【0077】
本実施形態に係るプレス成形用金型によれば、被加工材に接触して曲げ加工の起点となるダイフェース縁部の形状が凹部を有し、凹部の頂点が湾曲領域内に位置している金型を用いることで、湾曲部周方向の端部側から中央部側へ向けて順次縦壁を成形できる。これにより、成形時に囲い込んだ材料を縦壁部の湾曲部の縦壁エッジ部へ向けて供給でき、縦壁エッジ部とその近傍の板厚減少率を低減させることができる。
【0078】
[第三実施形態]
次に、第二実施形態に係るプレス成形用金型1000を用いて、第一実施形態に係るプレス成形品の製造方法を実施する方法について説明する。以下の説明では、プレス成形時の被加工材の具体的な挙動やプレス成形用金型の具体的な構成の説明は省略し、符号は第一実施形態および第二実施形態と同様のものを用いる。
【0079】
本実施形態で説明するプレス成形用金型1000の第一金型100、第二金型200および第三金型300と、被加工材1との位置関係は、
図16と同様とする。
【0080】
図25の(A)は、
図17のF-Fを通りかつ
図17のZ方向に平行な平面で、第一金型100、第二金型200、第三金型300並びに被加工材1を断面視した断面図である。同様に
図25の(B)は、
図17のG-Gを通りかつ
図17のZ方向に平行な平面で、第一金型100、第二金型200、第三金型300並びに被加工材1を断面視した断面図であり、
図25の(C)は、
図17のH-Hを通りかつ
図17のZ方向に平行な平面で、第一金型100、第二金型200、第三金型300並びに被加工材1を断面視した断面図である。
図25の(A)~(C)では、被加工材1を第二金型200の第一支持面230と第三金型300の第二支持面310によって挟持した状態を示している。
【0081】
【0082】
図26は、
図25の状態から、第一金型100を第二金型200に対してプレス方向Pに相対移動させた状態を示す図であり、曲げ成形の初期段階で、
図25の状態から曲げ加工を開始した状態を示している。この段階では、(A)の位置で被加工材1に第一金型100のダイフェース縁部130が接触して、曲げ加工が開始されている。一方、(B)および(C)の位置では曲げ加工が開始されていない。これらの位置は、ダイフェース縁部130の凹部131に対応し、被加工材1に第一金型100のダイフェース縁部130が接触していないためである。すなわち、被加工材1の(A)の位置が上述した先行部分32に相当し、被加工材1の(B)および(C)の位置が後行部分33に相当する。
【0083】
図27は、
図26の状態から、さらに曲げ加工を進めた状態を示している。すなわち、
図26の状態から、第一金型100をプレス方向Pにさらに移動させた状態を示している。この段階では、(B)の位置で被加工材1に第一金型100のダイフェース縁部130の凹部131が接触して、曲げ加工が開始されている。また、(A)の位置でさらに曲げ成形が進み、縦壁部30の一部が成形されている。
【0084】
図28は、
図27の状態から、さらに曲げ加工を進めた状態を示している。この段階では、(C)の位置で被加工材1に第一金型100のダイフェース縁部130の凹部131が接触して、曲げ加工が開始されている。(B)の位置では、さらに曲げ成形が進み、縦壁部30の一部が成形されている。
【0085】
図29は、曲げ成形が完了してプレス成形品10が得られた状態を示している。この状態では、第一金型100は下死点に到達し、(A)~(C)の全ての位置で、第一金型100の第一側面110(湾曲領域111を含む)と第二金型200の第二側面210(湾曲領域221を含む)との間で縦壁部30が成形された状態を示している。この状態のプレス成形品10は、天板部20、縦壁部30、稜線部40および湾曲部50を有している。
【0086】
本実施形態に係るプレス成形品の製造方法では、湾曲部周方向の端部側から中央部側へ向けて順次縦壁を成形し、成形時に囲い込んだ材料を縦壁部の湾曲部の縦壁エッジ部へ向けて供給することで、縦壁エッジ部とその近傍の板厚減少率を低減させることができる。
【0087】
なお、上記実施形態では、プレス成形品10の天板部20と縦壁部30とが、直交する場合を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、天板部20と縦壁部30とがなす角度は、所望の製品形状に応じて適宜設定されてもよい。
【0088】
また、上記実施形態では、プレス成形品10の縦壁部30の湾曲部50近傍の図を例示したが、プレス成形品10の図示した部分以外の部分については、特に限定されない。例えば、プレス成形品10は、天板部20の板厚方向から見た場合に、湾曲部50を1つ有するL字形状であってもよい。あるいは、プレス成形品10は、天板部20を挟んで互いに向き合うように配される2つの縦壁部30および湾曲部50を有し、天板部20の板厚方向から見た場合に、T字形状であってもよい。プレス成形品10が含む縦壁部30および湾曲部50の数は特に限定されない。
【実施例0089】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件に係る例であり、本発明は、この例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0090】
本実施例では、表1に示す各引張強度および板厚tの鋼板について、
図16に示すようなプレス成形用金型を用いて、
図1に示すような形状のプレス成形品を作製した。各実験例のプレス成形用金型について、第一支持面230に垂直な方向の平面視における湾曲領域111の最も小さい曲率半径URおよび湾曲領域111の曲率半径の線長RL、ならびに第一側面110に沿った凹部131の高さhを表1の通りとした。また、表1に示すように、実施例1~14のプレス成形用金型の第一金型100には、
図24の(A)~(C)の形状に相当する凹部131を設けた。表1に、各実施例における凹部の形状を示す。一方、比較例1~7では、凹部は設けず、ダイフェース面は平坦な形状とした。また、各実験例における、{h×UR/(10×RL)}
1/2の計算結果を表1に示す。比較例1~7では凹部が設けられていないため、{h×UR/(10×RL)}
1/2の数値は0とした。
【0091】
各実験例で得られたプレス成形品について、エッジ割れの評価を行った。エッジ割れについては、プレス成形品の縦壁のエッジ部について目視によってエッジ割れを評価した。エッジ割れが発生しない場合を「○」と評価し、エッジ割れが発生する場合を「×」と評価した。表1からわかるように、本発明に係る実施例1~14のプレス成形品では、エッジ割れが生じなかった。
【0092】
本発明のプレス成形品の製造方法およびプレス成形用金型によれば、縦壁部の湾曲部における縦壁エッジ部とその近傍の板厚減少率を低減することができるため、産業上極めて有用である。