IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ピラー工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-軸シール 図1
  • 特開-軸シール 図2
  • 特開-軸シール 図3
  • 特開-軸シール 図4
  • 特開-軸シール 図5
  • 特開-軸シール 図6
  • 特開-軸シール 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120568
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】軸シール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/24 20060101AFI20230823BHJP
   F16J 15/3236 20160101ALI20230823BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20230823BHJP
【FI】
F16J15/24 Z
F16J15/3236
F16J15/3232 201
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023510
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】ブイタン タン
(72)【発明者】
【氏名】加門 祐介
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
【Fターム(参考)】
3J006AB06
3J006AE25
3J006AE39
3J006AE50
3J006CA04
3J043AA16
3J043BA02
3J043CA02
3J043CA06
3J043CA12
3J043CB14
3J043CB20
3J043DA02
(57)【要約】
【課題】パッキンのシール圧を常温では過剰に上昇させることなく、低温では十分に高く維持することが可能な軸シールを提供する。
【解決手段】流体機器の可動軸とスタッフィングボックスとの隙間を密封するための軸シールは樹脂製のパッキンと支持体とを備えている。パッキンはパッキン押さえからの軸方向の圧力で可動軸とスタッフィングボックスとの隙間に詰められる。支持体は、可動軸を囲む環状の構造体であり、軸方向における片側をパッキンの軸方向における一端部に接触させ、反対側をスタッフィングボックスまたはパッキン押さえに接触させる。支持体は軸方向における少なくとも一部に締付領域を含む。締付領域の外周側では内周側よりも熱収縮率が高く、温度降下に伴って外周側が内周側を締め付ける。締付領域の外周側が内周側を締め付ける力が締付領域からパッキンへ軸方向の圧力として伝わるように、支持体は構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体機器の可動軸とスタッフィングボックスとの隙間を密封するための軸シールであって、
パッキン押さえからの軸方向の圧力で前記隙間に詰められる樹脂製のパッキンと、
前記可動軸を囲む環状の構造体であり、軸方向における片側を前記パッキンの軸方向における一端部に接触させ、反対側を前記スタッフィングボックスまたは前記パッキン押さえに接触させる支持体と
を備え、
前記支持体が軸方向における少なくとも一部に、
外周側では内周側よりも熱収縮率が高く、温度降下に伴って前記外周側が前記内周側を締め付ける締付領域
を含み、
前記支持体は、前記外周側が前記内周側を締め付ける力が前記締付領域から前記パッキンへ軸方向の圧力として伝わるように構成されている
ことを特徴とする軸シール。
【請求項2】
前記支持体が、
前記可動軸を囲む環状部材であり、軸方向において前記パッキンに近い側に、軸方向において端から中央へ向かうにつれて直径が狭まるように傾斜しているテーパー内周面を含む締付リングと、
前記可動軸を囲む環状部材であり、前記締付リングよりも熱収縮率が低く、軸方向において前記パッキンから遠い側に、軸方向において中央から端へ向かうにつれて直径が狭まるように傾斜しているテーパー外周面を含む押付リングと
を有し、
前記締付領域では前記テーパー内周面が前記テーパー外周面に接触する、
請求項1に記載の軸シール。
【請求項3】
前記支持体が、
前記可動軸を囲む環状部材であり、軸方向において前記パッキンから遠い側に、軸方向において中央から端へ向かうにつれて直径が広がるように傾斜しているテーパー内周面を含む押付リングと、
前記可動軸を囲む環状部材であり、前記押付リングよりも熱収縮率が低く、軸方向において前記パッキンに近い側に、軸方向において端から中央へ向かうにつれて直径が広がるように傾斜しているテーパー外周面を含む不動リングと
を有し、
前記締付領域では前記テーパー内周面が前記テーパー外周面に接触する、
請求項1に記載の軸シール。
【請求項4】
前記パッキンがVパッキンであり、
前記支持体が、
前記パッキンの軸方向における一端部に接触する雄アダプター
を有する、
請求項2または請求項3に記載の軸シール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軸シールに関し、特に、樹脂製のパッキンを含むものに関する。
【背景技術】
【0002】
「軸シール」とは、流体機器のケーシングの開口部と可動軸との隙間を密封するための部品、すなわち、その隙間からの流体の漏れ、またはその隙間への異物の侵入を防ぐための部品の総称である。軸シールには特に、スタッフィングボックスの中に詰め込まれるパッキンを含むものがある(たとえば特許文献1-6参照)。「スタッフィングボックス」は、ケーシングの開口部の内側に嵌め込まれた筒状部材であり、可動軸を囲んで自身の内周面と可動軸の外周面との間に環状の空間、すなわちパッキン室を形成する。「パッキン」は紐状または環状の可撓性部材であり、パッキン室に一般に複数詰め込まれる。パッキン室の中では複数のパッキンが、紐状であれば可動軸に巻き付けられた状態で、環状であれば内側に可動軸を通した状態で、可動軸に沿って隣り合わせで並べられ、可動軸を囲む1つの筒状構造を構成する。この筒状構造は、「パッキン押さえ」と呼ばれる環状部材によって軸方向に圧縮されると径方向へ膨張し、スタッフィングボックスの内周面と可動軸の外周面とに密着する。その結果、パッキン室が塞がれるので、ケーシングの開口部と可動軸との隙間が密封される。
【0003】
スタッフィングボックスの内周面と可動軸の外周面とに対するパッキンの圧力、すなわちシール圧は、パッキンが軸方向に圧縮されることによって径方向の応力を上昇させた結果である。したがって、パッキンに、クリープ変形、摩耗、温度降下等によって応力が低下する現象、すなわち応力緩和が生じるとシール圧が低下する。この低下に起因する流体の漏れ量の増加を防ぐには、パッキンに対するパッキン押さえの圧力を上昇させる作業、すなわち増し締めが必要である。増し締めの頻度を抑えて軸シールに関するメンテナンスの負担を軽減させるための工夫としては、パッキンを軸方向へ加圧するばねをスタッフィングボックスまたはパッキン押さえに設ける技術が知られている(たとえば特許文献3-6参照)。パッキンが応力緩和によって軸方向の応力を低下させると、ばねの圧力で軸方向に更に圧縮される。これに伴ってパッキンの径方向の応力が上昇し、応力緩和に伴うその低下が相殺されるので、シール圧が低下しにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平02-084062号公報
【特許文献2】特開2016-020711号公報
【特許文献3】特開平11-344123号公報
【特許文献4】特開2005-220832号公報
【特許文献5】特開2009-215905号公報
【特許文献6】特許第5820793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パッキンの材料としては樹脂がよく選択される。特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂は、耐熱性が高く、流体に対する化学的な安定性に優れ、かつ可動軸に対する摩擦係数が低いので多用される。しかし、可動軸やスタッフィングボックスの材料として一般的な金属に比べ、樹脂、特にフッ素樹脂は熱収縮率が10倍程度高い。これにより、軸シールに樹脂製のパッキンを利用することには以下の問題点がある。なお、「熱収縮率」とは、物体の熱収縮の割合、すなわち、温度降下に伴ってその物体の体積または長さが減少する割合を意味し、実際にはその物体の熱膨張係数と等しい。
【0006】
液化天然ガス(LNG、沸点-160℃程度)、液体窒素(沸点-196℃)、液体水素(沸点-253℃)、液体ヘリウム(沸点-269℃)等、低温(零下百数十℃以下)の流体を流体機器が扱う場合、その流体によって可動軸だけでなく軸シールも低温まで冷却される。一般に金属製である可動軸やスタッフィングボックスと比べて樹脂製のパッキンは熱収縮率が高いので、常温(零下数十℃以上、数十℃以下)から低温までの温度降下(以下、「低温化」と呼ぶ。)に伴い、パッキン室の径方向の内法よりもパッキンの径方向の幅が大きく熱収縮する。その結果、特にパッキンの外周側でシール圧が低下する。さらに、パッキン室とパッキンとの間では熱収縮率の差が大きいので、低温化に伴うシール圧の低下幅は、クリープ変形、摩耗等、常温での応力緩和に伴う低下幅よりもかなり大きい。
【0007】
特許文献3-6に開示された軸シールのように、パッキンがばねで加圧されていても、そのばねの圧力は、パッキンの常温での応力緩和に伴うシール圧の低下を防ぐ程度に過ぎず、低温化に伴うシール圧の低下を防ぐには足りない。しかし、更に強いばねでパッキンを加圧することは、スタッフィングボックスまたはパッキン押さえの構造の強化または大型化が必要である等の理由で難しい。仮に十分に強いばねがスタッフィングボックス等に取り付けられたとしても、そのばねの圧力は常温では必要な高さを超えているので、パッキンのシール圧を過剰に上昇させる。したがって、パッキンの摩耗が過剰に速く、可動軸に対するパッキンの摺動抵抗が過剰に高い。これらの不具合を避けるには、ばねの圧力を常温では低温よりも抑える工夫が必要である。しかし、そのような工夫も難しい。
【0008】
本発明の目的は上記の課題を解決することであり、特に、パッキンのシール圧を常温では過剰に上昇させることなく、低温では十分に高く維持することが可能な軸シールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの観点による軸シールは、流体機器の可動軸とスタッフィングボックスとの隙間を密封するためのものであり、樹脂製のパッキンと支持体とを備えている。パッキンはパッキン押さえからの軸方向の圧力で可動軸とスタッフィングボックスとの隙間に詰められる。支持体は、可動軸を囲む環状の構造体であり、軸方向における片側をパッキンの軸方向における一端部に接触させ、反対側をスタッフィングボックスまたはパッキン押さえに接触させる。支持体は軸方向における少なくとも一部に締付領域を含む。締付領域の外周側では内周側よりも熱収縮率が高く、温度降下に伴って外周側が内周側を締め付ける。この締め付ける力が締付領域からパッキンへ軸方向の圧力として伝わるように、支持体は構成されている。
【0010】
支持体の具体的な構成は多様である。たとえば支持体が締付リングと押付リングとを有してもよい。締付リングは、可動軸を囲む環状部材であり、軸方向においてパッキンに近い側にテーパー内周面を含む。テーパー内周面は、軸方向において端から中央へ向かうにつれて直径が狭まるように傾斜している。押付リングは、可動軸を囲む環状部材であり、締付リングよりも熱収縮率が低く、軸方向においてパッキンから遠い側にテーパー外周面を含む。テーパー外周面は、軸方向において中央から端へ向かうにつれて直径が狭まるように傾斜している。締付領域では締付リングのテーパー内周面が押付リングのテーパー外周面に接触する。
【0011】
上記の他に、支持体が押付リングと不動リングとを有してもよい。押付リングは、可動軸を囲む環状部材であり、軸方向においてパッキンから遠い側にテーパー内周面を含む。テーパー内周面は、軸方向において中央から端へ向かうにつれて直径が広がるように傾斜している。不動リングは、可動軸を囲む環状部材であり、押付リングよりも熱収縮率が低く、軸方向においてパッキンに近い側にテーパー外周面を含む。テーパー外周面は、軸方向において端から中央へ向かうにつれて直径が広がるように傾斜している。締付領域では押付リングのテーパー内周面が不動リングのテーパー外周面に接触する。
【0012】
パッキンがVパッキンであってもよい。さらに、支持体が、パッキンの軸方向における一端部に接触する雄アダプターを有してもよい。「Vパッキン」とは、断面がV字形状であるリップパッキン、すなわち「リップ」と呼ばれる張り出し部分を含む成形パッキン(材料が型で成形されたパッキン)をいう。Vパッキンでは、断面が成すV字形状の2つの上端部がリップに相当する。「雄アダプター」とは、Vパッキンをそのリップ側から支える部材をいう。
【発明の効果】
【0013】
本発明による上記の軸シールでは支持体が軸方向においてパッキン押さえとパッキンとの間、またはパッキンとスタッフィングボックスとの間に挟まれる。常温では支持体が、パッキン押さえとスタッフィングボックスとの間の結合に伴うパッキン押さえまたはスタッフィングボックスからの軸方向の圧力を、実質上そのままパッキンへ伝える。一方、低温では支持体が、パッキン押さえ等からの軸方向の圧力をパッキンへ伝えるだけでなく、自らもパッキンに対する軸方向の圧力を、以下のようにして発生させる。
【0014】
低温の流体が流体機器のケーシング内を流れる間、パッキンだけでなく支持体にも低温化が生じる。これに伴って支持体は、締付領域の外周部が内周部を締め付ける力をパッキンへ軸方向の圧力として伝える。支持体の具体的な構成は多様であり、それらには、たとえば上記のとおり、(1)締付リングと押付リングとの組み合わせと、(2)押付リングと不動リングとの組み合わせとが含まれる。
【0015】
(1)押付リングは軸方向においてパッキンと締付リングとの間に挟まれ、テーパー外周面を締付リングのテーパー内周面に接触させる。低温化に伴って押付リングが締付リングによって締め付けられると、テーパー外周面がテーパー内周面から圧力を受ける。テーパー外周面とテーパー内周面とは、パッキンに近づくにつれて直径が広がるように傾斜しているので、テーパー外周面がテーパー内周面から受ける圧力は径方向に対して傾斜している。したがって、押付リング内には軸方向の応力が発生し、押付リングからパッキンへ軸方向の圧力として伝わる。一方、テーパー外周面からテーパー内周面が受ける反力も径方向に対して傾斜しているので、締付リング内にも軸方向の応力が発生し、締付リングからスタッフィングボックスまたはパッキン押さえへ軸方向の圧力として伝わる。しかし、スタッフィングボックスもパッキン押さえも剛性が十分に高いので、締付リングからの軸方向の圧力では実質上変形も変位もしない。その結果、締付リングが軸方向へは実質上変位できないので、パッキンに対する押付リングの圧力が高い。
【0016】
(2)押付リングは軸方向においてパッキンと不動リングとの間に挟まれ、テーパー内周面を不動リングのテーパー外周面に接触させる。低温化に伴って押付リングが不動リングを締め付けると、テーパー内周面がテーパー外周面に対して圧力を加える。テーパー内周面とテーパー外周面とは、パッキンに近づくにつれて直径が狭まるように傾斜しているので、テーパー内周面がテーパー外周面に対して加える圧力は径方向に対して傾斜している。したがって、その圧力に対する反力も径方向に対して傾斜しているので、押付リング内には軸方向の応力が発生し、押付リングからパッキンへ軸方向の圧力として伝わる。一方、テーパー内周面がテーパー外周面に対して加える圧力により、不動リング内にも軸方向の応力が発生し、不動リングからスタッフィングボックスまたはパッキン押さえへ軸方向の圧力として伝わる。しかし、スタッフィングボックスもパッキン押さえも剛性が十分に高いので、不動リングからの軸方向の圧力では実質上変形も変位もしない。その結果、不動リングが軸方向へは実質上変位できないので、パッキンに対する押付リングの圧力が高い。
【0017】
こうして、低温ではパッキンが、パッキン押さえとスタッフィングボックスとの間の結合に伴う軸方向の圧力だけでなく、支持体の締付領域の熱収縮に伴う軸方向の圧力も受ける。したがって、パッキンが軸方向に更に圧縮されて径方向の応力を上昇させる。この上昇によってパッキンの低温化に伴う径方向の応力の低下を相殺し、低温でもパッキンのシール圧を十分に高く維持することは可能である。こうして、本発明による上記の軸シールはパッキンのシール圧を、常温では過剰に上昇させることなく、低温では十分に高く維持することができる。
【0018】
パッキンがVパッキンであり、支持体が雄アダプターを含む場合、Vパッキンのリップ側に支持体が位置する。したがって、低温化に伴って上昇する押付リングからの軸方向の圧力がVパッキンを軸方向に圧縮するだけでなく、Vパッキンのリップを更に大きく開かせてスタッフィングボックスと可動軸とに更に強く押し付ける。その結果、パッキンの低温でのシール性が更に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)は本発明の実施形態1による軸シールの断面図であり、(b)は、(a)が示すパッキンとその近傍との部分拡大図である。
図2図1が示す軸シールの分解図である。
図3】(a)は、低温化に伴って締付リングから押付リングへ、さらにパッキンへ伝わる力を示す模式図であり、(b)は、締付リングの熱収縮に伴うパッキンの変形と押付リングの変位とを示す模式図である。
図4】本発明の実施形態1による軸シールの変形例の断面図である。
図5】(a)は本発明の実施形態2による軸シールの断面図であり、(b)は、(a)が示すパッキンとその近傍との部分拡大図である。
図6図5が示す支持体の分解図である。
図7】(a)は、低温化に伴って押付リングから不動リングとパッキンとへ伝わる力を示す模式図であり、(b)は、押付リングの熱収縮に伴うその変位とパッキンの変形とを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態による軸シールは、たとえばバルブのケーシングの開口部とステムとの隙間のシールに利用される。「ケーシング」は「弁箱」とも呼ばれ、内側に流路を収める筐体である。「ステム」は「弁棒」とも呼ばれ、中心軸まわりの回転、または中心軸方向での往復運動により、バルブの弁体等に動力を伝達する棒状部材である。動力の伝達先はケーシング内の流路に位置するので、ケーシングにはステムを貫通させるための開口部が欠かせない。この開口部からの流体の漏れ量を本発明の実施形態による軸シールは抑える。
《実施形態1》
【0021】
図1の(a)は本発明の実施形態1による軸シール100の断面図である。軸シール100はバルブのステム510とケーシング550の開口部551との隙間を密封する。図1の(a)が示す断面はステム510の中心軸を含む。図1の(a)ではステム510の中心軸が左右方向に対して平行であり、右側にはケーシング550内の流路540が位置し、左側にはケーシング550の外部空間560が広がり、一般に外気に通じている。以下、図1の(a)が示す任意の部位に対して右側(すなわち流路540に近い側)を「流体側」と呼び、左側(すなわち流路540から遠い側)を「大気側」と呼ぶ。
【0022】
ケーシング550の開口部551の内側にはスタッフィングボックス520が嵌め込まれている。スタッフィングボックス520は、黄銅、青銅、鋼、または鋳鉄等の金属から成る円筒部材であり、ステム510を同軸に囲む。スタッフィングボックス520の流体側の端部(図1の(a)では右端部)521はケーシング550内の流路540に面し、大気側の端部(図1の(a)では左端部)522はケーシング550の外側へ突出している。スタッフィングボックス520の内周面523はステム510の外周面511との間に円筒状のパッキン室を形成している。スタッフィングボックス520の流体側の端部521からはステム510の外周面511へ向かって円環状のリブ524が突出し、流路540とパッキン室との間を仕切っている。
【0023】
スタッフィングボックス520の大気側の端部(図1では左端部)522の内側ではパッキン押さえ530が、その流体側の端部(図1では右端部)531でパッキン室の大気側(図1では左側)の開口部を閉じている。パッキン押さえ530は、黄銅、青銅、鋼、または鋳鉄等の金属から成る円環部材であり、ステム510を同軸に囲む。パッキン押さえ530の大気側の端部(図1では左端部)532から外周方向へは円環状のフランジ533が張り出している。フランジ533には複数本のボルト534がステム510に対して平行に(図1では左右方向に)貫通しており、フランジ533をスタッフィングボックス520の大気側の端部522に固定している。
[軸シールの構造]
【0024】
軸シール100は、パッキン室を塞ぐための部品群であり、パッキン120、雌アダプター140、および支持体150、160を備えている。
-パッキン-
【0025】
図1の(b)は、図1の(a)が示すパッキン120とその近傍(図1の(a)が示す破線で囲まれた領域)の部分拡大図であり、図2は軸シール100の分解図である。パッキン120はVパッキンであり、たとえば4本のVリング121で構成される。「Vリング」とは、単一の環形を成すVパッキンをいう。以下、「Vリング」との混同を防ぐ目的で、「Vパッキン」を、パッキン室に詰め込まれたVリングの全体の呼称としてのみ使用する。
【0026】
Vリング121はいずれも、PTFE等のフッ素樹脂から成る円環状の成形パッキンであり、横断面(円環形の中心軸を含む平面による断面)が、Vリング121の軸方向を上下方向とするV字形状である。このV字形の2つの上端部、すなわちリップ122、123はVリング121の軸方向における片側(図1では右側)へ張り出し、Vリング121の周方向に連なって2本の同心円環を成す。内側のリップ122は内径の最小値がステム510の直径以下であり、外側のリップ123は外径の最大値がスタッフィングボックス520の内周面523の直径以上である。リップ122、123はそれらの材料の可撓性により、V字形の開き(図1では上下方向の間隔)を増減させるように屈曲可能である。V字形の下端部124(以下、「ヒール」と呼ぶ。)はVリング121の軸方向においてリップ122、123とは反対側(図1では左側)へ突出し、Vリング121の周方向に連なって1本の円環を成す。ヒール124の横断面はVリング121の軸方向においてテーパー状であり、特に、先端に近づくにつれて内径が広がり、外径が狭まる。4本のVリング121は、リップ122、123を流体側(図1では右側)へ向け、かつ内側にステム510を同軸に通した状態でパッキン室の中に押し込まれ、ステム510に沿って隣り合わせで並べられる。このとき、各Vリング121のリップ122、123間には、流体側(図1では右側)に隣接する別のVリング121のヒール124が嵌め込まれる。これにより、4本のVリング121が単一の円筒構造、すなわちVパッキン120に一体化する。
-雌アダプター-
【0027】
雌アダプター140は、青銅またはアルミ青銅等の金属から成る円環部材であり、Vパッキン120の大気側(図1では左側)に隣接してステム510を同軸に囲む。雌アダプター140は内径がステム510の直径よりもわずかに大きく、外径がスタッフィングボックス520の内周面523の直径よりもわずかに小さい。これにより、雌アダプター140はステム510に対する摺動抵抗が十分に低く、かつステム510に沿って摺動が可能である。
【0028】
「雌アダプター」とは本来、Vパッキンをそのヒール側から支える部材をいう。雌アダプター140もVパッキン120を各Vリング121のヒール124側、すなわち大気側(図1では左側)から支持する。実際、雌アダプター140の大気側(図1では左側)の円環面141はパッキン押さえ530の流体側の端部(図1では右端部)531に接触する。一方、雌アダプター140の流体側(図1では右側)、すなわちVパッキン120と接触する側の円環面には、周方向に伸びる円環状の凹部142がある。凹部142には、最も大気側(図1では左側)に位置するVリング121のヒール124が嵌め込まれる。特に凹部142の内面全体にヒール124の外面全体が密着する。雌アダプター140はVリング121よりも剛性が高いので、そのヒール124との密着により、パッキン押さえ530からの圧力をヒール124の全周へ偏りなく伝えると共に、ステム510との摩擦や流体の圧力に起因するヒール124の過剰な変形とはみ出しとを抑える。
-支持体-
【0029】
図2は支持体150、160の分解図を含む。支持体は押付リング150と締付リング160とで構成されている。押付リング150は、青銅またはアルミ青銅等の金属から成る円環部材であり、Vパッキン120の流体側(図1では右側)に隣接してステム510を同軸に囲む。押付リング150は内径がステム510の直径よりもわずかに大きく、外径がスタッフィングボックス520の内周面523の直径よりもわずかに小さいので、ステム510に対する摺動抵抗が十分に低く、かつ、ステム510に沿って摺動が可能である。締付リング160は、PTFE等のフッ素樹脂から成る円環部材であり、押付リング150の流体側(図1では右側)に隣接してステム510を同軸に囲む。締付リング160は内径がステム510の直径よりも大きいので、ステム510に対して摺動抵抗を与えない一方、外径がスタッフィングボックス520の内周面523の直径以上であるので、その内周面523に圧入によって固定される。
【0030】
押付リング150にはVパッキン120に対する雄アダプターとしての機能がある。実際、押付リング150の大気側(図1では左側)、すなわちVパッキン120と接触する側の円環面からは、周方向に連なる円環状の凸部151が突出している。凸部151は、最も流体側(図1では右側)に位置するVリング121のリップ122、123間に嵌め込まれる。一方、押付リング150の流体側(図1では右側)の外周部にはテーパー外周面152がある。テーパー外周面152は、押付リング150の軸方向における中央から流体側の端(図1では右端)へ向かうにつれて直径が狭まるように傾斜している。テーパー外周面152は締付リング160と接触する(詳細は後述参照)。これにより、押付リング150が締付リング160を介してスタッフィングボックス520の内周面523とリブ524とによって支持される。押付リング150はVリング121よりも剛性が高いので、スタッフィングボックス520とパッキン押さえ530との間の結合に伴うスタッフィングボックス520のリブ524からの軸方向の圧力をVリング121の全周へ、特にリップ122、123の両方へ偏りなく伝えると共に、ステム510との摩擦や流体の圧力に起因するリップ122、123の過剰な変形とはみ出しとを抑える。
【0031】
締付リング160は押付リング150と接触する側、すなわち大気側(図1では左側)にテーパー内周面161を含む。テーパー内周面161は、締付リング160の大気側の端(図1では左端)から軸方向における中央へ向かうにつれて直径が狭まるように傾斜している。テーパー内周面161の最大直径、すなわち締付リング160の大気側の端(図1では左端)の内径は押付リング150のテーパー外周面152の最小直径、すなわち押付リング150の流体側の端(図1では右端)の外径よりも大きい。したがって、テーパー内周面161はテーパー外周面152に接触する。一方、締付リング160の流体側(図1では右側)の円環面162はスタッフィングボックス520のリブ524の大気側(図1では左側)の円環面525に密着する。これにより、押付リング150が締付リング160を介してスタッフィングボックス520の内周面523とリブ524とによって支持される。
[軸シールのシール作用]
【0032】
パッキン押さえ530のフランジ533がボルト534の軸力でスタッフィングボックス520の大気側の端部522に押し付けられると、パッキン押さえ530の流体側の端部(図1では左端部)531が雌アダプター140の大気側(図1では左側)の円環面141に対して軸方向(図1では右方向)の圧力を加える。この圧力は雌アダプター140の凹部142によって最も大気側(図1では左側)のVリング121のヒール124へ伝えられ、更にそのVリング121のリップ122、123によって流体側(図1では右側)のVリング121のヒール124へ伝えられる。同様な圧力の伝達が残りのVリング121の間でも繰り返されることにより、最も流体側(図1では右側)のVリング121のリップ122、123が押付リング150の凸部151に対して軸方向(図1では右方向)の圧力を加える。この圧力が押付リング150のテーパー外周面152によって締付リング160のテーパー内周面161に対して加えられるので、締付リング160がスタッフィングボックス520の内周面523とリブ524とに押し付けられる。
【0033】
スタッフィングボックス520はケーシング550に固定されていると共に剛性が高いので、締付リング160からの圧力では実質上変位も変形もしない。したがって、締付リング160はスタッフィングボックス520の内周面523とリブ524とから軸方向(図1では左方向)の強い反力を受ける。さらに、この反力が締付リング160から押付リング150を通してVパッキン120へ加わるので、Vパッキン120はこの反力とパッキン押さえ530からの圧力との両方を受けて軸方向(図1では左右方向)に圧縮され、径方向(図1では上下方向)へ膨張する。さらに、各Vリング121のリップ122、123が押付リング150の凸部151または流体側(図1では右側)のVリング121のヒール124によって押し拡げられ、V字形状の開き(図1では上下方向の間隔)を増大させる。その結果、各Vリング121では内側のリップ122がステム510の外周面511に密着し、外側のリップ123がスタッフィングボックス520の内周面523に密着する。したがって、Vパッキン120の内周面とステム510の外周面511との隙間にも、Vパッキン120の外周面とスタッフィングボックス520の内周面523との隙間にも、ごくわずかな流体しか浸透できない。こうして、ステム510とスタッフィングボックス520のリブ524との隙間が密封される。
【0034】
Vリング121のリップ122、123には更にセルフシール作用がある。押付リング150とVリング121との隙間、さらに、Vリング121間の隙間に流体が充填されると、流体の圧力により、内側のリップ122はステム510の外周面511に更に押し付けられ、外側のリップ123はスタッフィングボックス520の内周面523に更に押し付けられる。これにより、リップ122、123、特にそれらの先端部ではシール圧が更に上昇するので、Vパッキン120のシール性は高い。
[低温化に伴うシール圧の低下に対する防止作用]
【0035】
バルブがLNGまたは液体窒素等、零下百数十℃以下の低温の流体を扱う場合、その低温の流体がケーシング550内の流路540を流れる間、ステム510だけでなく軸シール100にも低温化が生じる。ステム510やスタッフィングボックス520と比べてVパッキン120は熱収縮率が高いので、低温化に伴う熱収縮がパッキン室よりもVパッキン120で大きい。しかし、軸シール100では低温化が押付リング150と締付リング160とにも生じる。これにより、パッキン室とVパッキン120との間での熱収縮の大きな差にかかわらず、低温化に伴うシール圧の低下が以下のように防止される。
【0036】
図3の(a)は、低温化に伴って締付リング160から押付リング150へ、さらにVリング121へ伝わる力を示す模式図である。締付リング160はVリング121と同様にフッ素樹脂製であるので、熱収縮率がVリング121と同程度以上に高い。これに対して、押付リング150は金属製であるので、熱収縮率がVリング121と締付リング160とのいずれよりも低く、特に1/10程度に過ぎない。したがって、締付リング160のテーパー内周面161が押付リング150のテーパー外周面152に接触する領域(以下、「締付領域」と呼ぶ。)では、低温化に伴う熱収縮によってテーパー内周面161がテーパー外周面152を締め付け、特に、締付リング160内の内周方向の応力SSがテーパー内周面161からテーパー外周面152へ圧力PAとして伝わる。テーパー内周面161とテーパー外周面152とは、Vリング121に近づく(図3の(a)では左方へ向かう)につれて直径が広がるように傾斜しているので、圧力PAは径方向(図3の(a)では上下方向)に対して傾斜している。したがって、押付リング150内に軸方向(図3の(a)では左方向)の応力が発生し、押付リング150の凸部151から、最も流体側(図3の(a)では最も右側)に位置するVリング121のリップ122、123へ軸方向(図3の(a)では左方向)の圧力PBとして伝わる。
【0037】
一方、テーパー外周面152からテーパー内周面161が受ける反力も径方向に対して傾斜しているので、締付リング160内にも軸方向(図3の(a)では右方向)の応力が発生し、締付リング160からスタッフィングボックス520のリブ524へ軸方向の圧力として伝わる。しかし、リブ524は剛性が十分に高いので、締付リング160からの軸方向の圧力では実質上変形も変位もしない。したがって、締付リング160が軸方向へは実質上変位できないので、Vリング121に対する押付リング150の圧力PBは十分に高い。
【0038】
この圧力PBはVリング121のヒール124により、その大気側(図3の(a)では左側)に隣接するVリング121のリップ122、123へ伝わる。同様な圧力PBの伝達が残りのVリング121の間でも繰り返されることにより、最も大気側(図3の(a)では最も左側)に位置するVリング121から圧力PBが雌アダプター140へ伝わる。雌アダプター140はパッキン押さえ530によって支持されているので、圧力PBでは実質上変位できない。さらに、雌アダプター140は金属製であり、Vリング121よりも剛性が高いので、圧力PBでは実質上変形もしない。したがって、各Vリング121は圧力PBによって雌アダプター140へ向かって(図3の(a)では左方へ)変位し、圧力PBに対する雌アダプター140からの反力を受けて軸方向に更に圧縮される。
【0039】
図3の(b)は、締付リング160の熱収縮に伴うVリング121の変形と押付リング150の変位とを示す模式図である。Vリング121の軸方向への変位は、押付リング150に近い(図3の(b)では右側に位置する)Vリング121ほど大きい。Vリング121の変位に合わせて押付リング150もVパッキン120へ向かって(図3の(b)では左方へ)変位する。このとき、テーパー外周面152とテーパー内周面161との傾斜により、押付リング150の変位に合わせて締付リング160の内径が縮小する。したがって、締付領域が維持され、すなわちテーパー外周面152にテーパー内周面161が接触し続けるので、押付リング150が締付リング160の圧力PAを受け続けてVパッキン120に対する圧力PBを持続させる。その結果、各Vリング121の軸方向における圧縮が十分に大きい。
【0040】
各Vリング121は軸方向における圧縮に伴って径方向(図3の(b)では上下方向)の応力を上昇させるので、低温化に伴うその低下が相殺される。さらに、各Vリング121のリップ122、123が押付リング150の凸部151または流体側(図3の(b)では右側)のVリング121のヒール124によって押し拡げられる。したがって、低温化にかかわらず、内側のリップ122はステム510の外周面511に対するシール圧PIを十分に高く維持し、外側のリップ123はスタッフィングボックス520の内周面523に対するシール圧POを十分に高く維持する。
[実施形態1の利点]
【0041】
軸シール100では、押付リング150が雄アダプターとしてVパッキン120のリップ側に嵌め込まれると共に、締付リング160を介してスタッフィングボックス520の内周面523とリブ524とによって支持される。したがって、常温では、押付リング150と締付リング160とが、スタッフィングボックス520とパッキン押さえ530との間の結合に伴うスタッフィングボックス520からの軸方向の圧力を、実質上そのままVパッキン120へ伝える。これにより、Vパッキン120が軸方向に圧縮され、シール圧を所望の高さまで上昇させる。一方、低温では、締付リング160が熱収縮によって押付リング150を締め付け、それに応じて押付リング150がVパッキン120を軸方向へ押し付ける。この圧力PBでVパッキン120が軸方向に更に圧縮されて径方向の応力を上昇させるので、低温化にかかわらず、Vパッキン120のシール圧が十分に高く維持される。このように、軸シール100はVパッキン120のシール圧を、常温では過剰に上昇させることなく、低温では十分に高く維持することができる。
【0042】
Vパッキン120と同じく締付リング160もフッ素樹脂製であるので、締付リング160の熱収縮率がVパッキン120の熱収縮率と同程度以上である。これにより、Vパッキン120の熱収縮が顕著に増大するのに合わせて、締付リング160の熱収縮に伴う押付リング150の圧力PBが上昇する。したがって、低温化に伴うVパッキン120のシール圧の低下を効果的に防ぐことができる。
【0043】
押付リング150は金属製であるので、テーパー外周面152が締付リング160のテーパー内周面161から受ける圧力PAに対して剛性が高く、その圧力PAを受けても実質上変形しない。したがって、押付リング150が低温でも常温と同程度に滑らかにステム510に沿って摺動できるので、テーパー内周面からの圧力PAをVパッキン120に対する軸方向の圧力PBへ効率良く変換することができる。
【0044】
押付リング150と締付リング160とは各Vリング121に対してリップ122、123の側に位置する。したがって、低温化に伴って上昇する押付リング150の軸方向の圧力PBがVリング121のリップ122、123を更に大きく開かせ、ステム510の外周面511とスタッフィングボックス520の内周面523とに更に強く押し付ける。その結果、Vパッキン120の低温でのシール性が更に高い。
【0045】
押付リング150と締付リング160とはVパッキン120に対し、パッキン押さえ530とは反対側に位置する。この場合、低温化に伴って上昇する押付リング150の圧力PBは、各Vリング121とその周囲510、110との間の摩擦によって弱められた上でパッキン押さえ530に到達する。したがって、押付リング150からの圧力PBに耐えきれずにボルト534が緩む可能性は低いので、その圧力PBに対してパッキン押さえ530が十分に強い反力を返すことができる。それ故、その反力と押付リング150からの圧力PBとによって各Vリング121が十分に大きく圧縮されるので、シール圧が十分に高く維持される。
[変形例]
【0046】
(1)軸シール100は、バルブのケーシング550の開口部551とステム510との隙間のシールに利用される。しかし、本発明の実施形態による軸シールは、他の流体機器のケーシングの開口部と可動軸との隙間のシールに利用されてもよい。「流体機器」には、バルブ等、流体の流れを機械的に制御する機器の他にも、ポンプ等、動力で流体の圧力を変化させる機器、および、発電機等、流体の圧力で動力を生み出す機器が含まれる。「ケーシング」は、ポンプの本体等、内側に流路を収める筐体を意味し、「可動軸」は、ポンプの駆動軸等、中心軸まわりの回転、または中心軸方向での往復運動によって動力を伝達する棒状部材を意味する。動力の伝達先が、ポンプの羽根車、ピストン等のようにケーシング内の流路に位置する場合、ケーシングには可動軸を貫通させるための開口部が欠かせない。この開口部からの流体の漏れ量を抑える目的でも、本発明の実施形態による軸シールは利用可能である。
【0047】
(2)パッキン120は、4本のVリング121で構成されたVパッキンである。しかし、本発明はこれには限定されず、Vリング121の本数が4以外であってもよく、Vリング121の間にスペーサーリング、またはフッ素樹脂とは別の樹脂から成るVリングが挿入されてもよい。Vリング121がすべて、フッ素樹脂とは別の樹脂で形成されてもよい。また、パッキン120はVパッキンであるが、本発明はこれにも限定されず、パッキンがUパッキン等の他のリップパッキン、またはグランドパッキンであってもよい。
【0048】
(3)押付リング150は金属製である。しかし、本発明はこれには限定されず、押付リングが樹脂等、金属とは異なる材質であっても、その熱収縮率が締付リングの熱収縮率よりも十分に低ければよい。さらに、押付リングの剛性は、締付リングの熱収縮に伴って締付リングから受ける圧力に対して十分に高いことが望ましい。また、押付リング150はVパッキン120に対する雄アダプターとしての機能を兼ね備えているが、本発明はこれにも限定されない。支持体が押付リングとVパッキンとの間に、雄アダプターとしての機能を備えた別の環状部材を含んでもよい。
【0049】
(4)押付リング150と締付リング160とはVパッキン120に対し、パッキン押さえ530とは反対側に位置する。しかし、本発明はこれには限定されず、押付リング150と締付リング160とがVパッキン120とパッキン押さえ530との間に配置されてもよい。パッキン押さえ530が、低温化に伴う押付リング150の軸方向の圧力を受けても実質上変位しない程度に強くスタッフィングボックス520に固定されていればよい。
【0050】
(5)押付リング150と締付リング160とはVパッキン120に対し、パッキン押さえ530とは反対側に位置する。この場合、Vパッキン120が常温での応力緩和に伴ってシール圧を低下させることを防ぐ目的で、ばねがパッキン押さえ530に組み込まれてもよい。
【0051】
図4は、実施形態1による軸シールの変形例200の断面図である。この変形例200は、図1が示す軸シール100とは、ばね210を含む点でのみ異なる。その他の要素は軸シール100の要素と共通であるので、それらについては実施形態1についての説明を援用する。
【0052】
パッキン押さえ530は、そのフランジ533をステム510に対して平行に(図4では左右方向に)貫通するボルト534により、スタッフィングボックス520の大気側の端部(図4では左端部)522に固定される。ばね210はたとえばコイルばねであり、各ボルト534に1本ずつ、そのボルト534を同軸に囲むように配置され、そのボルト534にねじ込まれたナット535の軸力によってフランジ533に押し付けられる。
【0053】
Vパッキン120がクリープ変形または摩耗等、常温での応力緩和によって軸方向の応力を低下させても、パッキン押さえ530は、ばね210の弾性によってVパッキン120を軸方向へ加圧し続ける。したがって、パッキン押さえ530からの軸方向の圧力でVパッキン120が軸方向に更に圧縮され、径方向の応力を上昇させる。これにより、応力緩和に伴う径方向の応力の低下が相殺されるので、Vパッキン120のシール圧が高く維持される。
【0054】
押付リング150と締付リング160とはVパッキン120に対し、パッキン押さえ530とは反対側に位置する。この場合、低温化に伴って上昇する押付リング150の圧力PBは、各Vリング121とその周囲510、110との間の摩擦によって弱められた上でパッキン押さえ530に到達する。したがって、押付リング150からの圧力PBに耐えきれずにばね210が更に縮む可能性は低いので、その圧力PBに対してパッキン押さえ530が十分に強い反力を返すことができる。それ故、その反力と押付リング150からの圧力PBとによって各Vリング121が十分に大きく圧縮されるので、シール圧が十分に高く維持される。
《実施形態2》
【0055】
図5の(a)は本発明の実施形態2による軸シール300の断面図であり、図5の(b)は、図5の(a)が示すパッキン120とその近傍(図5の(a)が示す破線で囲まれた領域)の部分拡大図であり、図6は支持体350、360、370の分解図である。軸シール300は、図1図2が示す軸シール100とは支持体の構成のみが異なる。その他の要素は軸シール100の要素と共通であるので、それらについては実施形態1についての説明を援用する。
-支持体-
【0056】
支持体は、雄アダプター370、押付リング350、および不動リング360で構成されている。雄アダプター370は、青銅またはアルミ青銅等の金属から成る円環部材であり、Vパッキン120の流体側(図5では右側)に隣接してステム510を同軸に囲む。雄アダプター370は内径がステム510の直径よりもわずかに大きく、外径がスタッフィングボックス520の内周面523の直径よりもわずかに小さいので、ステム510に対する摺動抵抗が十分に低く、かつ、ステム510に沿って摺動が可能である。押付リング350は、PTFE等のフッ素樹脂から成る円環部材であり、雄アダプター370の流体側(図5では右側)に隣接してステム510を同軸に囲む。押付リング350は内径がステム510の直径よりも大きいので、ステム510に対して摺動抵抗を与えない一方、外径がスタッフィングボックス520の内周面523の直径よりも小さいので、ステム510に沿って変位が可能である。不動リング360は、青銅またはアルミ青銅等の金属から成る円環部材であり、押付リング350の流体側(図5では右側)に隣接してステム510を同軸に囲む。不動リング360は内径がステム510の直径よりもわずかに大きいので、ステム510に対して摺動抵抗が十分に低い一方、外径がスタッフィングボックス520の内周面523の直径以上であるので、その内周面523に圧入によって固定される。
【0057】
雄アダプター370の大気側(図5では左側)、すなわちVパッキン120と接触する側の円環面からは、周方向に連なる円環状の凸部371が突出している。凸部371は、最も流体側(図5では右側)に位置するVリング121のリップ122、123間に嵌め込まれる。雄アダプター370はVリング121よりも剛性が高いので、スタッフィングボックス520とパッキン押さえ530との間の結合に伴うスタッフィングボックス520のリブ524からの軸方向の圧力をVリング121の全周へ、特にリップ122、123の両方へ偏りなく伝えると共に、ステム510との摩擦や流体の圧力に起因するリップ122、123の過剰な変形とはみ出しとを抑える。
【0058】
押付リング350の流体側(図5では右側)の内周部にはテーパー内周面352が位置する。テーパー内周面352は、押付リング350の軸方向における中央から流体側の端(図5では右端)へ向かうにつれて直径が広がるように傾斜している。テーパー内周面352は不動リング360と接触する(詳細は後述参照)。これにより、押付リング350が不動リング360を介してスタッフィングボックス520の内周面523とリブ524とによって支持される
【0059】
不動リング360は押付リング350と接触する側、すなわち大気側(図1では左側)にテーパー外周面361を含む。テーパー外周面361は、不動リング360の大気側の端(図5では左端)から軸方向における中央へ向かうにつれて直径が広がるように傾斜している。テーパー外周面361の最小直径、すなわち不動リング360の大気側の端(図5では左端)の内径は押付リング350のテーパー内周面352の最大直径、すなわち押付リング350の流体側の端(図5では右端)の外径よりも小さい。したがって、テーパー外周面361はテーパー内周面352に接触する。一方、不動リング360の流体側(図5では右側)の円環面362はスタッフィングボックス520のリブ524の大気側(図5では左側)の円環面525に密着する。これにより、押付リング350が不動リング360を介してスタッフィングボックス520の内周面523とリブ524とによって支持される。
[軸シールのシール作用]
【0060】
支持体350、360、370は、実施形態1による支持体150、160と同様に、パッキン押さえ530からの軸方向(図5では右方向)の圧力をVパッキン120を通して受けてスタッフィングボックス520の内周面523とリブ524とに伝え、それらからの軸方向(図5では左方向)の強い反力をVパッキン120へ返す。これにより、Vパッキン120が軸方向(図5では左右方向)に圧縮されて径方向(図5では上下方向)へ膨張し、各Vリング121のリップ122、123がステム510の外周面511とスタッフィングボックス520の内周面523とに密着する。こうして、ステム510とスタッフィングボックス520のリブ524との隙間が密封される。
[低温化に伴うシール圧の低下に対する防止作用]
【0061】
図7の(a)は、低温化に伴って支持体350、360、370の間を伝わり、さらにVリング121へ伝わる力を示す模式図である。押付リング350はVリング121と同様にフッ素樹脂製であるので、熱収縮率がVリング121と同程度以上に高い。これに対して、不動リング360と雄アダプター370とはいずれも金属製であるので、熱収縮率がVリング121と押付リング350とのいずれよりも低く、特に1/10程度に過ぎない。したがって、押付リング350のテーパー内周面352が不動リング360のテーパー外周面361に接触する領域(以下、「締付領域」と呼ぶ。)では、低温化に伴う熱収縮によってテーパー内周面352がテーパー外周面361を締め付け、特に、押付リング350内の内周方向の応力SSがテーパー内周面352からテーパー外周面361へ圧力PAとして伝わる。テーパー内周面352とテーパー外周面361とは、Vリング121に近づく(図7の(a)では左方へ向かう)につれて直径が狭まるように傾斜しているので、圧力PAも、それに対するテーパー外周面361からの反力PRも、径方向(図7の(a)では上下方向)に対して傾斜している。したがって、押付リング350内に軸方向(図7の(a)では左方向)の応力が発生するので、押付リング350が雄アダプター370を軸方向(図7の(a)では左方向)へ押し付ける。この圧力が雄アダプター370の凸部371から、最も流体側(図7の(a)では最も右側)に位置するVリング121のリップ122、123へ軸方向(図7の(a)では左方向)の圧力PBとして伝わる。
【0062】
一方、テーパー内周面352からテーパー外周面361が受ける圧力により、不動リング360内にも軸方向(図7の(a)では右方向)の応力が発生し、不動リング360からスタッフィングボックス520のリブ524へ軸方向の圧力として伝わる。しかし、不動リング360もリブ524も剛性が十分に高いので、実質上変形も変位もしない。したがって、Vリング121に対する雄アダプター370の圧力PBは十分に高い。この圧力PBは各Vリング121を通して雌アダプター140へ伝わる。雌アダプター140は圧力PBでは実質上変位も変形もしないので、各Vリング121は圧力PBによって雌アダプター140へ向かって(図7の(a)では左方へ)変位し、圧力PBに対する雌アダプター140からの反力を受けて軸方向に更に圧縮される。
【0063】
図7の(b)は、押付リング350の熱収縮に伴うその変位とVリング121の変形とを示す模式図である。Vリング121の軸方向への変位は、雄アダプター370に近い(図7の(b)では右側に位置する)Vリング121ほど大きい。Vリング121の変位に合わせて雄アダプター370も押付リング350もVパッキン120へ向かって(図7の(b)では左方へ)変位する。このとき、テーパー内周面352とテーパー外周面361との傾斜により、押付リング350の変位に合わせてその内径が縮小する。したがって、締付領域が維持され、すなわちテーパー内周面352にテーパー外周面361が接触し続けるので、押付リング350が圧力PAに対する反力PRを不動リング360から受け続け、雄アダプター370がVパッキン120に対する圧力PBを持続させる。その結果、各Vリング121の軸方向における圧縮が十分に大きい。
【0064】
各Vリング121は軸方向における圧縮に伴って径方向(図7の(b)では上下方向)の応力を上昇させるので、低温化に伴うその低下が相殺される。さらに、各Vリング121のリップ122、123が雄アダプター370の凸部371または流体側(図7の(b)では右側)のVリング121のヒール124によって押し拡げられる。したがって、低温化にかかわらず、内側のリップ122はステム510の外周面511に対するシール圧PIを十分に高く維持し、外側のリップ123はスタッフィングボックス520の内周面523に対するシール圧POを十分に高く維持する。
[実施形態2の利点]
【0065】
軸シール300では、押付リング350が雄アダプター370と共にVパッキン120のリップ側に嵌め込まれると共に、不動リング360を介してスタッフィングボックス520の内周面523とリブ524とによって支持される。したがって、常温では、押付リング350と不動リング360とが、スタッフィングボックス520とパッキン押さえ530との間の結合に伴うスタッフィングボックス520からの軸方向の圧力を、実質上そのままVパッキン120へ伝える。これにより、Vパッキン120が軸方向に圧縮され、シール圧を所望の高さまで上昇させる。一方、低温では、押付リング350が熱収縮によって不動リング360を締め付け、それに応じた不動リング360からの反力PRによって押付リング350が雄アダプター370を軸方向へ押し付ける。この圧力PBでVパッキン120が軸方向に更に圧縮されて径方向の応力を上昇させるので、低温化にかかわらず、Vパッキン120のシール圧が十分に高く維持される。このように、軸シール300はVパッキン120のシール圧を、常温では過剰に上昇させることなく、低温では十分に高く維持することができる。
【0066】
Vパッキン120と同じく押付リング350もフッ素樹脂製であるので、押付リング350の熱収縮率がVパッキン120の熱収縮率と同程度以上である。これにより、Vパッキン120の熱収縮が顕著に増大するのに合わせて、押付リング350の熱収縮に伴う圧力PBが上昇する。したがって、低温化に伴うVパッキン120のシール圧の低下を効果的に防ぐことができる。
【0067】
不動リング360は金属製であるので、テーパー外周面361が押付リング350のテーパー内周面352から受ける圧力PAに対して剛性が高く、その圧力PAを受けても実質上変形しない。したがって、テーパー内周面352が滑らかにテーパー外周面361に沿って摺動できるので、テーパー内周面352からの圧力PAをVパッキン120に対する軸方向の圧力PBへ効率良く変換することができる。
【0068】
押付リング350と不動リング360とは各Vリング121に対してリップ122、123の側に位置する。したがって、低温化に伴って上昇する押付リング350の軸方向の圧力PBがVリング121のリップ122、123を更に大きく開かせ、ステム510の外周面511とスタッフィングボックス520の内周面523とに更に強く押し付ける。その結果、Vパッキン120の低温でのシール性が更に高い。
【0069】
押付リング350と不動リング360とはVパッキン120に対し、パッキン押さえ530とは反対側に位置する。この場合、低温化に伴って上昇する押付リング350の圧力PBは、各Vリング121とその周囲510、110との間の摩擦によって弱められた上でパッキン押さえ530に到達する。したがって、押付リング350からの圧力PBに耐えきれずにボルト534が緩む可能性は低いので、その圧力PBに対してパッキン押さえ530が十分に強い反力を返すことができる。それ故、その反力と押付リング350からの圧力PBとによって各Vリング121が十分に大きく圧縮されるので、シール圧が十分に高く維持される。
[変形例]
【0070】
実施形態2も実施形態1と同様な変形が可能である。また、押付リング350の剛性が十分に高ければ、雄アダプター370が除去され、その代わりに押付リング350の大気側の端部(図5では左端部)が最も流体側(図5では最も右側)のVリング121に直に接触してもよい。
【符号の説明】
【0071】
100 軸シール
120 パッキン
121 Vリング
122 内側のリップ
123 外側のリップ
124 ヒール
140 雌アダプター
141 雌アダプターの大気側の円環面
142 雌アダプターの流体側の凹部
150 押付リング
151 押付リングの大気側の凸部
152 押付リングのテーパー外周面
160 締付リング
161 締付リングのテーパー内周面
162 締付リングの流体側の円環面
510 ステム
511 ステムの外周面
520 スタッフィングボックス
521 スタッフィングボックスの流体側の端部
522 スタッフィングボックスの大気側の端部
523 スタッフィングボックスの内周面
524 リブ
525 リブの大気側の円環面
530 パッキン押さえ
531 パッキン押さえの流体側の端部
532 パッキン押さえの大気側の端部
533 フランジ
534 ボルト
535 ナット
540 流路
550 ケーシング
551 ケーシングの開口部
560 ケーシングの外部空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7