(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120615
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】自律走行型配達ロボット
(51)【国際特許分類】
B25J 5/00 20060101AFI20230823BHJP
B60P 1/00 20060101ALI20230823BHJP
B60P 1/44 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
B25J5/00 Z
B60P1/00 Z
B60P1/44 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023562
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130498
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 禎哉
(72)【発明者】
【氏名】中西 章
(72)【発明者】
【氏名】濱口 雄一
(72)【発明者】
【氏名】中口 和馬
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707BS21
3C707CS08
3C707HS27
3C707KS10
3C707KS20
3C707KS33
3C707KS36
3C707KV01
3C707KV06
3C707KX05
3C707LT06
3C707MT05
3C707NS06
3C707WA16
3C707WL04
(57)【要約】
【課題】配達員が行う置き配サービスと同等品質の置き配処理を自動で行うことが可能な自律走行型配達ロボットを提供する。
【解決手段】荷室を有するロボット本体1に搭載された置き配装置2と、置き配処理を実行する制御部Cとを備えた自律走行型配達ロボットRであり、配達先に到着した際にロボット本体1が荷物搬出方向31xに対向する面(壁)Wとロボット本体1との距離を相互に異なる位置から検出する2以上の対向面離間距離検出部9と、対向面離間距離検出部9の検出値に基づいて対向面Wに対するロボット本体1の角度を算出するロボット本体角度算出部C2とを備え、対向面離間距離検出部9の検出値及びロボット本体角度算出部C2の算出値に基づいてロボットRの位置及び姿勢を予め設定した目標位置及び目標姿勢に補正する置き配前補正処理と、荷物を荷物配送面に置いた状態で荷物を対向面Wに向かって押し出す仕上げ押し処理とを行う構成にした。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律走行可能な走行手段と、内部空間の一部を荷室に設定したロボット本体と、前記ロボット本体に搭載された置き配装置と、少なくとも置き配処理を実行する制御部とを備えた自律走行型配達ロボットであり、
前記置き配装置は、
荷物を収容可能な可動カゴ部と、
前記可動カゴ部を当該可動カゴ部全体が前記荷室に収容される収容位置から前記可動カゴ部の底板部の少なくとも一部が配送先の荷物配送面に接触または近接する置き配位置までリフトダウンさせるリフトダウン機構と、
配達先に到着した際に前記ロボット本体が荷物搬出方向に対向する面である対向面と当該ロボット本体との距離を相互に異なる位置から検出する2以上の対向面離間距離検出部と、
前記対向面離間距離検出部の検出値に基づいて前記対向面に対する前記ロボット本体の角度を算出するロボット本体角度算出部とを備え、
前記制御部によって前記リフトダウン機構を作動させて置き配処理を実行する前の時点において、前記対向面離間距離検出部の検出値及び前記ロボット本体角度算出部の算出値に基づいて前記ロボット本体の位置及び姿勢を予め設定した目標位置及び目標姿勢に補正する置き配前補正処理と、
前記リフトダウン機構を作動させて前記可動カゴ部を前記収容位置から前記置き配位置までリフトダウンさせた時点以降において、前記可動カゴ部から前記荷物配送面に移動した荷物を前記対向面に向かって押し出す仕上げ押し処理とを行うことを特徴とする自律走行型配達ロボット。
【請求項2】
前記仕上げ押し処理実行中に前記荷物に優先して接触する荷物優先接触部と、
前記荷物に接触した前記荷物優先接触部に作用する力を測定する力計測部とを備え、
前記仕上げ押し処理中に前記力計測部の計測値が所定の閾値を超えた時点で前記仕上げ押し処理を停止するように構成している請求項1に記載の自律走行型配達ロボット。
【請求項3】
前記仕上げ押し処理が、前記走行手段により前記ロボット本体を前記対向面から離間する方向に移動させる退避処理に続いて行う処理であり、
当該仕上げ押し処理において、前記退避処理時の退避移動距離と同じ距離だけ前記対向面に向かって移動させた時点以降に前記力計測部の計測値のモニタを開始するように構成している請求項2に記載の自律走行型配達ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律走行型ロボット(AMR;Autonomous Mobile Robot)に関し、特にロボット内部の荷室に収容された荷物を配達先である目的地に置き配可能な自律走行型配達ロボット装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EC(electronic commerce)の普及・拡大、また新型コロナウイルス禍によるEC特需等を背景に近年は荷物数が急増しており、宅配便市場は活況を呈している。国土交通省によれば、緊急事態宣言が発令された2020年4月以降、宅配便の荷物数は前年を1割ほど上回った状況が続いている。一方で、宅配荷物の増加に伴い、宅配ドライバーの負荷は増大し、人手不足が物流業界で問題となっている。また、新型コロナウイルス禍で求められる非対面や非接触の配送需要も増大しており、新型コロナウイルス禍中及びアフターコロナでは非接触の配送需要は益々増大するものと考えられる。
【0003】
このような宅配荷物の増加と宅配ドライバーの負荷増大、人手不足への対応の1つとして、宅配ドライバーの仕事の一部を自律走行型ロボット(AMR)に任せて、自動配達することにより、業務負荷の増大を抑えようとする国内実証が進んでおり、海外では実用化が進んでいる(下記、非特許文献1参照)。
【0004】
また、宅配ドライバーの負荷増大、人手不足、さらには非接触配送需要への対応の1つとして、宅配ドライバーの仕事のうち置き配(配達員が受取人に荷物を直接手渡しするのではなく、指定された場所に荷物を置く配達方式)に関しては自律走行型ロボットに任せて、届け先において当該ロボットにより自動で置き配する実証実験が進められている(下記、非特許文献2参照)。置き配については、配達員が荷物を手渡しせず、在宅でも留守であっても指定された場所に荷物を置くことで配達が済むため、再配達の手間・時間を効果的に省くことで作業効率(配送効率)の向上に大きく貢献するという側面もある。なお、コロナ禍で外出自粛という状況下において再配達率が大幅に低下したことで、配送効率が改善しているという報告もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“配達ロボット・デリバリーロボット DeliRo(デリロ)”,[online],[令和3年5月20日検索],インターネット,<URL:https://www.zmp.co.jp/products/lrb/deliro>
【非特許文献2】“Amoeba Energy、日本郵便/ロボットによる連続置き配に成功”,[online],[令和3年5月20日検索],インターネット,<URL:https://www.lnews.jp/2020/01/m0130401.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載の配達ロボットを利用すると、荷物の受取人は配達ロボットのボックスから荷物を取り出すことで荷物を受け取ることができる一方、配達先において受取人が不在の場合には、ロボットが配達先で一定期間待機し続けるか、拠点へと引き返した後に再配達しなければならない。
【0007】
また、非特許文献2に記載の配達ロボットであれば、ロボット単体で自動置き配することができるため、受取人が不在の場合であっても、配達先で一定期間待機し続けたり、拠点へと引返した後に再配達するという事態を回避することができるものの、以下のような不具合がある。先ず、非特許文献2に記載の配達ロボットであれば、荷物の床置きに適するように荷物の搭載スペースを床付近に設定しているため、通常配送時であっても受取人は荷物を受け取るために一旦しゃがみこむ姿勢になることが強いられる。このことは、配送拠点等において配送する荷物を搭載スペースに出し入れする作業時においても同様であり、作業員による荷物搭載作業の効率性が低下する要因になる。また、非特許文献2に記載の配達ロボットは、走行手段として左右一対の専用のクローラー部を採用しているため、より実用的なタイヤ等を有する配達ロボットに適用・置換することは不可能または極めて困難であり、その点での自由度は低いといえる。
【0008】
なお、人手不足をカバーしつつ非接触配送にも対応可能な配達ロボットの需要は、宅配業界に限らず、小売りや病院、ホテル業界等にもあるとみられ、ラストワンマイルの物流サービス(最終拠点からエンドユーザへの物流サービス)をどのような手段によって実現するのかということは、荷物の配送を必要とする業界にとっても重要な問題になっている。
【0009】
本出願人は、このような現状を考慮し、
図19に示すような、自律走行型配達ロボットR’を開発し、実用化へ向けて試験を重ねている(特願2021-101787)。自律走行型配達ロボットR’は、自律走行可能な走行手段T’と、荷室を有するロボット本体1’に搭載された置き配装置2’とを備え、置き配装置2’のリフトダウン機構4’によって可動カゴ部3’の底板部31’が配送先の床に接触する置き配位置までリフトダウンさせて実行する置き配処理と、リフトダウン機構4’を作動させることなく通常配送を実行する処理とを選択可能に構成されたものである。
【0010】
このような配達ロボットR’では、荷物N’のリフトダウン動作に伴うリフトダウン機構4’の動きに連動するメカニカルなリンク部材を介して可動カゴ部3’の底板部31’を傾斜させることで、荷物N’を排出する構成が採用されている。
【0011】
しかしながら、このような構成であれば、ロボットが自己位置推定アルゴリズム(例えばAMCL:adaptive Monte Carlo localization)に基づいて配達地点に到着した場合、単純に、到着地点で直ぐに置き配処理を実施しただけでは、配達目標地点に位置、姿勢がズレた状態で荷物を置いてしまうことがある。
【0012】
さらに、リフトダウン機構を備えた置き配装置では、可動カゴ部の底板部を傾斜させて荷物を荷物配送面(床、台など)に排出後、自律走行ロボットが後退走行することにより、床に荷物全体を完全に設置させるように構成した場合において、荷物の底面(転がり面)は平滑であるとは限らず、また荷物の重心が偏心していると、転がり排出されるときに荷物の位置や姿勢のズレが発生することがある。
【0013】
また、荷物のサイズは様々であるため、ロボットの荷室内で姿勢の変化が生じないようにサイズに応じて予めガイドしておこうとすると可動ガイド機構や姿勢センシング手段を荷室内に実装する必要があり、構造の複雑化を招来し、荷室に荷物を搭載する際の余計な作業が配達元で発生する。
【0014】
さらに、荷物が軽量である場合には、リフトダウン処理完了後に荷物が可動カゴ部から完全に排出されていない状態になり易く、ロボットの後退走行によって荷物を一定程度後方へ引きずってしまうことになり、荷物の目標姿勢及び目標位置に対するズレが発生してしまう要因になる。
【0015】
荷物を配達先の壁に対して直行する姿勢で目標位置に置くことは、お客様の印象を左右する重要なサービス品質の1つであり、配達員が配達する場合と同等の置き配サービスの質が求められる。例えば、昨今、配達員が乱雑な置き配をする様子が監視カメラに記録されてクレームに至った事例等があり、丁寧な荷物置きは、物流、小売り、病院、ホテルなどの業界で検討が進んでいる自律走行型配達ロボットでも必要とされていくと考えられる。
【0016】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、主たる目的は、荷物を置き配することができるとともに、置かれた荷物の姿勢及び壁との隙間距離が適切な姿勢及び距離(位置)となるように調整し、配達員が配達した場合と同等な品質で置き配処理を実行可能な自律走行型配達ロボットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち、本発明に係る自律走行型配達ロボットは、自律走行可能な走行手段と、内部空間の一部を荷室に設定したロボット本体と、ロボット本体に搭載された置き配装置と、少なくとも置き配処理を実行する制御部とを備えたものであり、置き配装置として、荷物を収容可能な可動カゴ部と、可動カゴ部を当該可動カゴ部全体が荷室に収容される収容位置から可動カゴ部の底板部の少なくとも一部が配送先の荷物配送面に接触または近接する置き配位置までリフトダウンさせるリフトダウン機構と、配達先に到着した際にロボット本体が荷物搬出方向に対向する面(対向面)と当該ロボット本体との距離を相互に異なる位置から検出する2以上の対向面離間距離検出部と、対向面離間距離検出部の検出値に基づいて対向面に対するロボット本体の角度を算出するロボット本体角度算出部と、制御部によってリフトダウン機構を作動させて置き配処理を実行する前の時点において、対向面離間距離検出部の検出値及びロボット本体角度算出部の算出値に基づいてロボットの位置及び姿勢を予め設定した目標位置及び目標姿勢に補正する置き配前補正処理と、リフトダウン機構を作動させて可動カゴ部を収容位置から置き配位置までリフトダウンさせた時点以降に、可動カゴ部から荷物配送面に移動した荷物を対向面に向かって押し出す仕上げ押し処理とを行うことを特徴としている。ここで、本発明における「配達先に到着した際にロボット本体が荷物搬出方向に対向する面(対向面)」としては、家の外壁や内壁等の「壁」を挙げることができる。なお、本発明における「対向面」は、壁のように全面がフラットな面でなくても、フラットな面が部分的に存在する面であればよく、家の外壁や内壁等の壁以外の例として、屋外構造物(エクステリア)として壁やフェンス、塀、門扉、あるいは、柱(家の柱や梁)、ポール(駐車場のポール等)、机や台等の脚部、箱状の物品(ゴミ箱、棚、パレット、タンス等)、階段(玄関前の階段、家内の階段等)、宅配ボックス、エレベータ、ガレージ等を挙げることができる。
【0018】
このように本発明に係る自律走行型配達ロボットは、荷室に収容されていた荷物を配達先の荷物配送面(床、地面等)に移動させる置き配処理を実行するに際して、リフトダウン機構を作動させて可動カゴ部を置き配位置まで移動(リフトダウン移動)させる前の時点で、2以上の対向面離間距離検出部の検出値に基づいて対向面に対するロボット本体の離間距離を予め設定した目標位置に補正するとともに、ロボット本体角度算出部の算出値に基づいて対向面に対するロボット本体の姿勢を予め設定した目標姿勢に補正する置き配前補正処理を行うように構成している。ここで、本発明に係る自律走行型配達ロボットは、対向面とロボット本体との距離を相互に異なる位置から検出する2以上の対向面離間距離検出部を備えているため、各対向面離間距離検出部の検出値が例えば相互に等しく且つ距離の絶対値が置き配に適した目標距離に近付くように走行手段によってロボット本体を移動させることで、対向面に対するロボット本体の離間距離を目標位置に補正することができる。また、本発明に係る自律走行型配達ロボットは、対向面離間距離検出部の検出値に基づいて対向面に対するロボット本体の角度を算出するロボット本体角度算出部を備えているため、ロボット本体角度算出部の算出値が予め設定した値に近付くように走行手段によってロボット本体の向きを変更させることで、対向面に対するロボット本体の角度を目標角度に補正することができる。
【0019】
したがって、確率論に基づいた推定である自己位置推定アルゴリズム(例えばAMCL:adaptive Monte Carlo localization)に基づいてロボット本体が配達目標地点に到着した場合であっても、置き配前補正処理を実行することで、配達目標地点に位置や姿勢がズレた状態で荷物を置いてしまうという事態を回避することができる。このようなメリットは、車輪接地に基づくオドメトリを自律走行に利用している場合に地面の性状や傾斜に起因する累積ズレが発生している場合においても当該ズレを解消する効果としても期待できる。
【0020】
さらに、本発明に係る自律走行型配達ロボットであれば、リフトダウン機構を作動させて可動カゴ部を収容位置から置き配位置までリフトダウンさせた時点以降において、可動カゴ部から荷物配送面に移動した荷物を対向面に向かって押し出す仕上げ押し処理を実行するため、置き配前補正処理時点のロボット本体の角度のまま荷物を対向面に向かって押し出すことで、荷物排出完了時点で荷物の底面(転がり面)の平滑度合いや荷物の偏重心に起因して荷物の配達位置や配達姿勢にズレが発生した場合であっても、荷物を所定の配達姿勢に矯正した状態で対向面付近まで移動させることができる。
【0021】
このような本発明に係る自律走行型配達ロボットによれば、ロボット本体内の荷室で搭載姿勢の変化が生じないようにサイズに応じて予め荷物をガイドしておくための機構や姿勢センシング手段を荷室内に実装する必要もなく、構造の複雑化を回避し、荷室に荷物を搭載する際の余計な作業が配達元で発生する事態も回避することができる。
【0022】
本発明における仕上げ押し処理実行中に荷物を対向面に向かって押し出すための具体的な手段(押出手段)は特に限定されず、可動カゴ部の一部またはリフトダウン機構の一部を押出手段として機能させる態様や、自律走行型配達ロボットの適宜箇所に実装した専用品によって押出手段を構成する態様、これらの態様も本発明に含まれる。押出手段として機能する部分または専用品は、何れも仕上げ押し処理実行中に荷物に優先して接触する荷物優先接触部として捉えることができる。
【0023】
特に、本発明に係る自律走行型配達ロボットが、仕上げ押し処理実行中に荷物に優先して接触する荷物優先接触部と、荷物に接触した荷物優先接触部に作用する力(掛かる力)を測定する力計測部とを備え、仕上げ押し処理中に力計測部の計測値が所定の閾値を超えた時点で仕上げ押し処理を停止するように構成したものであれば、力計測部の計測値の変化に基づいて荷物が対向面に到達したことを検出することが可能になり、荷物を対向面に到達する位置まで移動させた状態で仕上げ押し処理を終了することで、荷物を対向面に寄せた適正な位置に移動させることができる。
【0024】
本発明における仕上げ押し処理は、可動カゴ部を収容位置から置き配位置までリフトダウンさせた直後に、その時点のロボット本体を走行手段によって対向面に近付く方向に移動させることで、荷物を対向面に向かって押し出す処理であってもよいが、荷物を可動カゴ部から荷物配送床面に完全に移動させることを優先する場合には、可動カゴ部を収容位置から置き配位置までリフトダウンさせた直後に、走行手段によりロボット本体を対向面から離間する方向に移動させる退避処理を行い、退避処理に続いて仕上げ押し処理を行う構成であることが好ましい。後者の場合、すなわち、仕上げ押し処理が、走行手段によりロボット本体を対向面から離間する方向に移動させる退避処理に続いて行う処理である場合、仕上げ押し処理中において力計測部の計測値のモニタを開始するタイミングは、退避処理時の退避移動距離(走行手段によりロボット本体を対向面から離間する方向に移動させた距離)と同じ距離だけ対向面に向かって移動させた時点以降のタイミングであることが最良である。その理由は以下の通りである。つまり、荷物が重量物である場合、退避状態(後退状態)から再度対向面に向かって移動(前進移動)し始めた比較的早いタイミングで力計測部の計測値が大きく変化するが、これは、荷物が対向面に到達する前よりも前の時点であって重量物の荷物に接触した時点の変化であり、この変化に基づいて仕上げ押し処理を停止すると、荷物を対向面に近付けることができない状態で配達完了になり、配達員が行う置き配サービスよりも配達の質が低下する要因になり得る。
【0025】
そこで、本発明において、退避処理時の退避移動距離と同じ距離だけ対向面に向かって移動(前進移動)させた時点以降に力計測部の計測値のモニタを開始するように構成すると、荷物が対向面に到達する前よりも前の時点であって重量物の荷物に接触した時点では力計測部の計測値のモニタを開始していないため、当該時点の計測値の変化は無視することになり、力計測部の計測値モニタ開始後最初の計測値の変化に基づいて荷物が対向面に到達したことを確実に検出することができ、当該変化に基づいて仕上げ押し処理を停止すると、荷物を対向面に近付けた状態で配達を完了することができる。
【0026】
本発明において、荷物が軽量である場合にリフトダウン処理完了時点で荷物が可動カゴ部から荷物配送面に完全に排出されていない状態で退避処理を実施すると、当該退避移動によって荷物が一定程度後方(ロボット本体の退避方向)へ引きずられてしまい、本来予定していた荷物の位置や姿勢にズレが発生する場合がある。しかしながら、本発明に係る自律走行型配達ロボットであれば、上述の仕上げ押し処理を実行することにより、ズレを矯正した適正な配達目標姿勢にした荷物を対向面付近の適切な配達目標位置まで移動させるができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、置き配処理を実行する前の時点で対向面(代表例として壁)に対するロボット本体の位置及び姿勢(向き)を適切な目標位置及び目標姿勢に矯正し、その矯正した状態で置き配処理を実行し、さらに、仕上げ押し処理を実行することで、置き配荷物として荷物配送面に置かれた荷物を適切な姿勢で対向面に接触させた状態または近接させた状態にして配達し終えることができ、配達員が配達した場合と同等な品質で置き配処理を実行することができる自律走行型配達ロボットを提供することが可能となる。なお、本発明に係る自律走行型配達ロボットは、宅配分野に限定されず、小売りや病院、ホテル等の分野でも利用可能なものである。したがって、本発明に係る自律走行型配達ロボットは、物を送り届ける機能、物を運び届ける機能、あるいは物を運び送る機能を有する自律走行型ロボットとして、多くの業種・分野で活用可能な汎用性に富むものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態に係る自律走行型配達ロボットの全体概略図。
【
図2】同実施形態において置き配完了時点の自律走行型配達ロボットの全体斜視図。
【
図3】同実施形態において通常配送処理実行中の自律走行型配達ロボットを示す図。
【
図4】同実施形態におけるイニシャル動作直後の置き配装置の機構を一部省略して示す側面図。
【
図5】同実施形態におけるイニシャル動作直後の置き配装置の機構を一部省略して示す背面図。
【
図6】同実施形態におけるリフトダウン処理完了時点を
図4に対応して示す図。
【
図7】同実施形態におけるリフトダウン処理完了時点を
図5に対応して示す図。
【
図8】同実施形態においてリフトダウン処理中の状態を
図4に対応して示す図。
【
図9】同実施形態においてリフトダウン処理中であって補助輪の接地開始時点の状態を
図4に対応して示す図。
【
図10】同実施形態においてリフトダウン処理中であって補助輪の接地反力によって底板部が傾動している状態を
図4に対応して示す図。
【
図11】同実施形態における置き配前補正処理の処理内容を模式的に示す図。
【
図12】同実施形態における配達処理(置き配)に関するフローチャート。
【
図13】同実施形態におけるイニシャル動作直後の自律走行型配達ロボットの側面模式図。
【
図14】同実施形態における開扉処理完了時点を
図13に対応して示す図。
【
図15】同実施形態におけるアウトリガー接地処理完了時点を
図13に対応して示す図。
【
図16】同実施形態におけるリフトダウン処理完了時点を
図13に対応して示す図。
【
図17】同実施形態における仕上げ押し処理中における力計測部の計測値の変化を模式的に表す図。
【
図18】同実施形態の置き配前補正処理における目標位置設定条件を模式的に示す図。
【
図19】本出願人が先に特許出願した自律走行型配達ロボットの全体図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0030】
本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRは、
図1及び
図2に示すように、自律走行可能な走行手段Tと、内部空間の一部を荷室1Sに設定したロボット本体1と、ロボット本体1に搭載された置き配装置2と、選択された配送種別(配達方法)に応じて置き配処理または通常配送処理を実行するように当該自律走行型配達ロボットRの作動を制御する制御部Cとを備えたものである。なお、
図1には、配達先到着時において配達処理を実行していない状態(ノーマル状態)の自律走行型配達ロボットRの全体外観図を示し、
図2には、置き配処理を実行している自律走行型配達ロボットRの全体外観図を示している。なお、何れの図面にも荷物を図示していないが、本実施形態の自律走行型配達ロボットRは、
図19に示す荷物N’のように例えば外観形状が箱型(荷物を梱包した箱)の荷物の置き配処理に適したものである。もちろん外観形状が箱型以外の荷物であっても本実施形態の自律走行型配達ロボットRによって置き配することが可能である。
【0031】
本実施形態では、走行手段Tとして、前輪T1及び後輪T2をそれぞれ2本ずつ備え、前輪T1及び後輪T2が並ぶ前後方向Xに進退移動が可能であり、停車した状態ですえ切り(前輪T1及び後輪T2をそれぞれ90度旋回させて進退移動方向を異ならせる処理)を行うことで横方向Yへの移動が可能なものを適用している。前輪T1や後輪T2の向きを変える(首振りする)ことで左折・右折することもできる。自律走行型配達ロボットRのうち、このような走行手段Tが設けられ且つロボット本体1を支持する部分を台車Bとして捉えることができる。
【0032】
ロボット本体1は、走行手段Tによって自律的に目的地に移動可能なものであり、周辺状況を認識する機能を有する自律走行型ロボット(AMR;Autonomous Mobile Robot)である。本実施形態のロボット本体1は、箱状をなし、内部空間を開閉可能な扉Dを備えている。ロボット本体1の内部空間の一部を荷物を収容可能な荷室1Sに設定している(
図2参照)。本実施形態では、前輪T1及び後輪T2が並ぶ前後方向Xに長尺な平面形状を有し、所定の高さ寸法を有する略直方体状のロボット本体1を適用し、ロボット本体1のうち一方の側面にのみ形成した開口部Kを扉D(右扉D1、左扉D2)によって開閉可能に構成している。具体的には、一対の扉D(右扉D1、左扉D2)を観音開き方式で開閉可能に構成している(
図2参照)。本実施形態では、一対の扉Dを前後方向Xに並べて配置している。以下の説明では、前輪T1側の扉Dを左扉D2とし、後輪T2側の扉Dを右扉D1とする。
【0033】
本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRは、荷室1Sにセットされた可動カゴ部3に荷物を収容可能に構成している。そして、
図3に示すように、左右の扉D(右扉D1、左扉D2)の少なくとも一方の扉Dが開状態(DB)にあればユーザ(荷物受取人P、あるいは荷分け作業員等)は開口部Kを通じて荷室1Sにアクセスすることができ、荷物受取人Pであれば荷室1Sにセットされた荷物を取り出すことが可能になり、荷分け作業員であれば荷室1Sに荷物を搭載(収容)したり、荷室1Sから荷物を取り出す(集荷)ことができる。
【0034】
本実施形態では、
図3に示すように、荷室1Sにセットされた可動カゴ部3に対して平均的な身長の成人Pがしゃがむことなくアクセスすることが可能な高さ位置に可動カゴ部3を実装している。すなわち、通常配送である場合に荷室1Sにセットされた可動カゴ部3に対して荷物受取人Pが荷物を取出し易い適正な高さ位置に可動カゴ部3を実装している。このことは、配送元(配達元)において荷分け作業員が荷室1Sにセットされた可動カゴ部3に対して荷物を収容・集荷し易い適正な高さ位置に可動カゴ部3を実装しているということでもある。
【0035】
可動カゴ部3は、
図2、
図4及び
図5に示すように、荷物を置くことが可能な底板部31と、底板部31のうち前輪T1側の縁部及び後輪T2側の縁部からそれぞれ起立姿勢で配置された一対の起立板部32とを備えたものである。可動カゴ部3の底板部31のうち荷物に直接接する所定領域に回転可能なコロ34を複数列状に配置している(
図2参照)なお、
図4及び
図5ではコロ34を含む底板部31の一部を省略している。起立板部32の上端部同士は棒状の連結部35によって連結している(
図4及び
図5参照)。可動カゴ部3は、置き配装置2を構成するものであり、リフトダウン機構4によって移動可能なものである。
【0036】
置き配装置2は、荷室1Sにセットされている可動カゴ部3を床Fに接触または近接する位置までリフトダウンさせる機能を発揮するリフトダウン機構4と、ロボット本体1の外側に向かって張り出して転倒を防止する機能を発揮するアウトリガー機構5と、扉D(右扉D1、左扉D2)を開閉する機能を発揮する扉開閉機構(図示省略)とを備えている。本実施形態では、制御部Cによって台車Bの走行及び各機構(リフトダウン機構4、アウトリガー機構5、扉開閉機構)の作動を制御可能に構成したものである。なお、制御部Cは、自律走行型配達ロボットRにおける適宜の位置に搭載されるものであり、
図1にのみ模式的に示している。
【0037】
本実施形態の自律走行型配達ロボットRは、上述した各機能を持つアセンブリ(リフトダウン機構4、アウトリガー機構5、扉開閉機構)等からなる置き配装置2とその制御部Cを台車Bの上部に実装している。
【0038】
リフトダウン機構4は、
図4乃至
図7に示すように、可動カゴ部3を当該可動カゴ部3全体が荷室1Sに収容される収容位置(3A)から可動カゴ部3の底板部31の少なくとも一部が配送先の床F(荷物配送面)に接触または近傍する置き配位置(3B)までリフトダウンさせるものである。なお、
図4、
図5は、それぞれ可動カゴ部3を収容位置(3A)にセットした状態の置き配装置2の内部機構を一部省略して示す側面図、背面図である。また、
図6、
図7は、それぞれ可動カゴ部3を置き配位置(3B)に移動させた状態を
図4、
図5に対応して示す図である。
【0039】
本実施形態では、平行リンク機構41を用いてリフトダウン機構4を構成している。平行リンク機構41は、一端部を駆動入力軸42(平行リンク第1軸42)に取り付けた第1リンクアーム43と、平行リンク第1軸42に比較的近い位置に固定された平行リンク第2軸44に一端部を取り付けた第2リンクアーム45とを備え、第1リンクアーム43の他端側を可動カゴ部3の起立板部32に軸(平行リンク第3軸46)を介して取り付けるとともに、第2リンクアーム45の他端部を可動カゴ部3の起立板部32に軸(平行リンク第4軸47)を介して取り付けたリンク機構である。このような平行リンク機構41は、第1リンクアーム43及び第2リンクアーム45が起立姿勢(所定角度傾斜した起立姿勢)で略平行に並んだ姿勢でロボット本体1の内部空間に収納される収納姿勢(4A)(
図4及び
図5参照)と、荷室1Sから可動カゴ部3をロボット本体1の開口部Kを通じて荷室1S外へ放り出す方向に第1リンクアーム43及び第2リンクアーム45を傾倒させてこれら第1リンクアーム43及び第2リンクアーム45が横向きの姿勢(所定角度傾斜した横向き姿勢)で高さ方向に重なるリフトダウン姿勢(4B)(
図6及び
図7参照)との間で切り替わる。このような平行リンク機構41を収納姿勢(4A)からリフトダウン姿勢(4B)に切り替えることで、可動カゴ部3を収容位置(3A)から置き配位置(3B)までリフトダウンさせることができ、荷室1Sに収容された荷物を配送先の床Fの近傍まで降ろすように構成している。
【0040】
リフトダウン機構4は、平行リンク機構41を収納姿勢(4A)とリフトダウン姿勢(4B)との間で駆動させるリフト駆動用モータ(図示省略)を備えている。本実施形態では、リフト駆動用モータを駆動させることで、駆動出力軸(ギヤヘッド出力軸)の回転が各平行リンク機構41に関連付けて設けた減速ギヤ列を介して、平行リンク機構41のうち第1リンクアーム43の下端部に取り付けた入力軸(平行リンク第1軸42)が回転し、その結果、平行リンク機構41が収納姿勢(4A)とリフトダウン姿勢(4B)との間で姿勢変更するように設定している。
【0041】
リフトダウン機構4は、平行リンク機構41を構成する第1リンクアーム43または第2リンクアーム45のうち少なくとも何れか一方の絶対角度を検出するリフトダウン角度エンコーダ4Eを備えている(
図5及び
図7参照)。本実施形態では、何れか一方の平行リンク機構41のうち第1リンクアーム43の下端部にリフトダウン角度エンコーダ4Eを設けている。リフトダウン角度エンコーダ4Eによる検出値(検出角度)に基づいて、平行リンク機構41を予めセットされる目標角度範囲(0度乃至目標角度)で往復動(収納姿勢(4A)とリフトダウン姿勢(4B)との間での往復動)するように設定している。
【0042】
また、リフトダウン機構4は、可動カゴ部3が収容位置(3A)に戻る際の物理的なストロークリミットを検出する収容位置側リミッタ(例えばフォトセンサ、図示省略)を備え、収容位置側リミッタで可動カゴ部3が収容位置(3A)に到達したことを検出した時点でリフト駆動用モータを停止するように設定している。なお、リフトダウン角度エンコーダ4Eによる検出角度に基づいて可動カゴ部3が収容位置(3A)に到達したことを検出した時点でリフト駆動用モータを停止するように設定してもよい。
【0043】
リフトダウン機構4は、可動カゴ部3を配達先の床F付近まで降りた置き配位置(3B)に移動させた際の物理的なストロークリミットを検出する置き配位置側リミッタ(例えばフォトセンサ、図示省略)を備え、置き配位置側リミッタで可動カゴ部3が置き配位置(3B)に到達したことを検出した時点でリフト駆動用モータを停止するように設定している。なお、リフトダウン角度エンコーダ4Eによる検出角度に基づいて可動カゴ部3が置き配位置(3B)に到達したことを検出した時点でリフト駆動用モータを停止するように設定してもよい。
【0044】
このようなリフトダウン機構4は、イニシャル動作後にリフトダウン角度エンコーダ4Eの値(絶対角度)が0度(原点位置)であるか、収容位置側リミッタで可動カゴ部3が収容位置(3A)にあることを検出している。この状態で、リフト駆動用モータを駆動させると、駆動出力軸(ギヤヘッド出力軸)の回転が各平行リンク機構41に関連付けて設けた減速ギヤ列を介して、平行リンク機構41のうち第1リンクアーム43の下端部に取り付けた入力軸(平行リンク第1軸42)が回転し、その結果、平行リンク機構41が収納姿勢(4A)からリフトダウン姿勢(4B)に姿勢変更する。この際、リフトダウン角度エンコーダ4Eによる検出値は増加する。
【0045】
本実施形態の自律走行型配達ロボットRは、
図8乃至
図10に示すように、リフトダウン機構4によって可動カゴ部3を収容位置(3A)から置き配位置(3B)に向かってリフトダウンさせる際に、可動カゴ部3のうち荷物が載置されている底板部31が荷物配送面F(床)に所定距離まで近付いた時点で、底板部31よりも優先して荷物配送面F(床)に接地する優先接地部8を備えている。優先接地部8は、底板部31に取り付けられたものであり、具体的には、底板部31に固定したブラケット81と、ブラケット81の下端部に回転可能に支持された補助輪82とを備えたものである。本実施形態では、
図5及び
図7に示すように、底板部31の幅方向wの両端部(底板部31の両サイド)にそれぞれ優先接地部8を設けている。本実施形態における底板部31の幅方向wは、
図1中のX方向と同一方向である。また、平面において底板部31の幅方向wに直交する方向d(底板部31の奥行き方向)は、
図1中のY方向と同一方向である。優先接地部8は、底板部31よりも下方に突出する向きで底板部31に固定されている。
【0046】
このような優先接地部8を下方に突出する姿勢で一体的に設けた底板部31は、底板部31のうち荷物搬出方向31x側の端部に配置した底板部回転軸31Aを中心に回動可能に構成されている(
図2参照)。したがって、可動カゴ部3を収容位置(3A)から置き配位置(3B)に向かってリフトダウンさせる途中で優先接地部8が荷物配送面F(床)に接地した時点(
図9参照)以降、さらに置き配位置(3B)に向かって可動カゴ部3を降下させると、底板部31は、優先接地部8が受ける接地反力によって底板部回転軸31Aを中心に荷物搬出方向31xに向かって回動して、全体的に漸次傾斜する(
図10参照)。本実施形態では、可動カゴ部3を置き配位置(3B)に到達させた時点(
図6及び
図7参照)で、底板部31の傾斜角度が予め設定している荷物排出に適した最大傾斜角度になるように設定している。その結果、可動カゴ部3を収容位置(3A)から置き配位置(3B)に向かってリフトダウンさせることによって、荷物を自重で底板部31の傾斜方向(荷物搬出方向31xと同一方向、
図2参照)に滑らせて荷物配送面F(床)に排出することができる。
【0047】
本実施形態では、
図4に示すように、可動カゴ部3の起立板部32に、底板部31の傾斜動作をガイドする部分円弧状のガイド溝36を形成し、底板部31に設けたガイドピン37がガイド溝36に沿って移動することで、底板部31の傾斜動作時の移動軌跡及び傾斜姿勢から通常姿勢(底板部31が略フラットな姿勢)に戻る時の移動軌跡が一定になるように構成している。可動カゴ部3の起立板部32には、傾動する優先接地部8との干渉を回避する切欠38を形成している(
図4等参照)。
【0048】
また、本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRは、
図2及び
図6等に示すように、後述する仕上げ押し処理S5実行中に荷物に優先して接触する荷物優先接触部48を底板部31に実装している。具体的には、底板部31の先端部(荷物搬出方向31x側の端部)に、荷物搬出方向31x側に出っ張った状態で荷物優先接触部48を配置している。荷物優先接触部48は、荷物を押圧するフラットな押圧面を先端部に有し、押圧面全体が荷物に接触するように設定されたものである。底板部31の先端部には荷物排出用の送り出しローラ39を配置しており、荷物優先接触部48は送り出しローラ39よりも荷物搬出方向31x側に突出した形態で配置されている。本実施形態では、底板部31の先端部における幅方向w両端部分と幅方向w中央部分の計3箇所に荷物優先接触部48を所定ピッチで配置している。
【0049】
本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRは、荷物優先接触部48に作用する力(掛かる力)を測定する力計測部49を備えている。力計測部49は、各荷物優先接触部48に実装されている。圧力センサや歪みゲージによって力計測部49を構成することができるが、これら以外の適宜のセンサ等によって力計測部49を構成することもできる。
【0050】
アウトリガー機構5は、
図2、
図4乃至
図10に示すように、リフトダウン機構4による荷物の昇降時に自律走行型配達ロボットRが転倒しないように支持するための機構である。アウトリガー機構5は、可動カゴ部3を収容位置(3A)から置き配位置(3B)に向かってリフトダウンさせる方向に張り出した状態で先端部が床Fに接地する接地アーム51を備えている。本実施形態では、接地アーム51の先端部に設けた脚輪52が床Fに接地するように構成している。具体的には、床Fのうち後に接地してくることになる可動カゴ部3の底板部31の幅方向w両端の近傍であって、且つ底板部31を幅方向wに挟んで対峙する位置に左右の脚輪52が床Fに接地するように構成している(
図7参照)。接地アーム51は、可動カゴ部3の起立板部32の外側(外向き面側)において外部に露出しない収納姿勢(5A)と、収納姿勢(5A)からロボット本体1の開口部Kを通じて先端部の脚輪52が床Fに接地する角度まで傾倒した接地姿勢(5B)との間で切り替わる。可動カゴ部3の各起立板部32の外側に設けた接地アーム51の基端部同士を回転軸53に連結し、回転軸53を中心に一対の接地アーム51が収納姿勢(5A)と接地姿勢(5B)との間で回動する。アウトリガー機構5は、接地アーム51の収納姿勢(5A)から接地姿勢(5B)までの回動角度を検出するアウトリガー角度エンコーダ5Eを備えている(
図5及び
図7参照)。接地アーム51を収納姿勢(5A)から接地姿勢(5B)まで回動させた際のアウトリガー角度エンコーダ5Eによる検出値(接地検出角度)をリフトダウン機構4の目標角度(置き配位置(3B)の角度)の設定に利用することができる。すなわち、本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRは、制御部Cによってアウトリガー機構5を作動させて荷物配送面F(床)にアウトリガー接地部である接地アーム51の先端部(脚輪52)を接地させた時点の接地角度を検出する接地角度検出部と、接地角度検出部による検出値(接地検出角度)に基づいてリフトダウン機構4のリフトダウン目標角度を算出するリフトダウン目標角度算出部C1とを備えている。本実施形態では、アウトリガー角度エンコーダ5Eを用いて接地角度検出部を構成し、特に、アウトリガー角度エンコーダ5Eとして回転角度の絶対値を出力するアブソリュートエンコーダを適用している。そして、リフトダウン目標角度算出部C1は、このアブソリュートエンコーダ5Eの出力値に基づいてリフトダウン機構4のリフトダウン目標角度を算出するものであり、本実施形態では、荷物配送面F(床)にアウトリガー接地部である接地アーム51の先端部(脚輪52)が接地した時点のアウトリガー角度エンコーダ5Eの検出値をリフトダウン機構4のリフトダウン目標角度として算出するように設定している。リフトダウン目標角度算出部C1は、
図7にのみ模式的に示している。なお、本実施形態では、イニシャル動作後において接地アーム51を収納姿勢(5A)に位置付けた際のアウトリガー角度エンコーダ5Eの絶対角度が原点位置(0度)にあるように設定している。
【0051】
アウトリガー機構5は、アウトリガー駆動用モータ(図示省略)を備え、接地アーム51が収納姿勢(5A)にある状態で、アウトリガー駆動用モータを駆動(FW)させると、ギヤ列を介して回転軸53(例えば減速比1/200)が回転し、アウトリガー駆動用モータに関して接地検出相当の電流を検出したらアウトリガー駆動用モータを停止し、この時点におけるアウトリガー角度エンコーダ5Eの検出値を記録する。アウトリガー駆動用モータの停止後はアウトリガー駆動用モータに内包される無励磁作動型の電磁ブレーキにより接地アーム51を接地姿勢(5B)に保持する。
【0052】
このようなアウトリガー機構5は、リフトダウン機構4の動作前に脚輪52が床Fに接地することで、リフトダウン機構4の動作に伴うロボットRの重心移動に起因するロール方向への転倒を防止することができる。接地アーム51を接地姿勢(5B)から収納姿勢(5A)に戻す場合は、リフトダウン機構4によって可動カゴ部3を収容位置(3A)に移動させた後にアウトリガー駆動用モータを駆動(BW)させて、アウトリガー角度エンコーダ5Eの検出値が0度に達した時点(収納姿勢(5A)となる原点位置に到達した時点)でアウトリガー駆動用モータを停止する。この際、前回のアウトリガー動作時に記録したアウトリガー角度エンコーダ5Eの値(アウトリガー駆動用モータに関して接地検出相当の電流を検出してアウトリガー駆動用モータを停止した時点におけるアウトリガー角度エンコーダ5Eの検出値)をクリアすることで、次回のアウトリガー接地処理実施時における接地アーム51の収納姿勢(5A)から接地姿勢(5B)まで回動させた際のアウトリガー角度エンコーダ5Eの値を新たに記録することができる。
【0053】
アウトリガー機構5は、アウトリガー角度エンコーダ5Eによる接地アーム51の収納姿勢(5A)時の検出値の誤差を考慮して、接地アーム51の先端部に設けた脚輪52の位置(接地アーム51の収納姿勢(5A)時における脚輪52の位置または接地アーム51の接地姿勢(5B)時における脚輪52の位置)を検出する第1サブセンサ(図示省略)を備えることもできる。第1サブセンサによって設計上の接地姿勢(5B)時の脚輪52の位置より少し高い位置に脚輪52が到達したことを検出して電流検出モードへの切り替え判断に使用することも可能である。また、アウトリガー機構5は、脚輪52が接地して大きなトルクが必要になった瞬間を検出してアウトリガー駆動用モータを停止する第2サブセンサ(図示省略)を備えたものであってもよい。脚輪52が接地して大きなトルクが必要になった瞬間を第2サブセンサで検出し、当該検出時点でアウトリガー駆動用モータを停止するように設定することができる。第2サブセンサとしては、慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)に電流検出機能を発揮するものを挙げることができる。なお、自律走行型配達ロボットRが斜めになっているとき、アウトリガー機構5及びリフトダウン機構4も斜めになっているため、IMUによる目標角度の補正が不要であれば第2サブセンサを省略することもできる。
【0054】
本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRは、このような各機構(リフトダウン機構4、アウトリガー機構5)の作動を制御部Cによって制御する。また、走行手段Tの作動も共通の制御部Cによって制御している。
【0055】
また、本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRは、
図11に示すように、配達先に到着した際にロボット本体1が荷物搬出方向31xに対向する面(対向面)Wとロボット本体1との距離を検出する対向面離間距離検出部9を備えている。対向面Wとしては建物の壁を挙げることができる。本実施形態では、ロボット本体1のうち開口部Kを囲むドア枠の左枠部分と右枠部分にそれぞれ対向面離間距離検出部9である距離センサを実装している。すなわち、本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRは、相互に異なる位置から対向面Wとロボット本体1との距離d1,d2を検出する2つの対向面離間距離検出部9を備えている。なお、2つの対向面離間距離検出部9を実装する位置として、ロボット本体1におけるドア枠以外の位置や、ロボット本体1を支持する台車Bの適宜箇所を選択することもできる。2つの対向面離間距離検出部9は、互いに同じ高さ位置であって且つ荷物搬出方向31xにおいて同じ位置、換言すれば底板部31の幅方向wにおいて幅方向w中心を境に左右対称となる位置に配置することが好適である。なお、対向面離間距離検出部9を構成する距離センサは、近接式、超音波式、赤外線式、レーザー式等の種類から適宜選択したものであればよい。また、GPSを利用したり、画像による測距技術を利用して対向面Wとロボット本体1との距離を検出する対向面離間距離検出部9を構成することもできる。
【0056】
さらに、本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRは、対向面離間距離検出部9の検出値に基づいて対向面Wに対するロボット本体1の角度を算出するロボット本体角度算出部C2を備えている。ロボット本体角度算出部C2は、一方の対向面離間距離検出部9の検出値を「d1」とし、他方の対向面離間距離検出部9の検出値を「d2」とし、対向面離間距離検出部9同士の離間距離を「Q」とした場合に、以下の式1によって対向面Wに対するロボット本体1の角度θを算出するものである。
tanθ=(|d2-d1|)/Q ・・・式1
ロボット本体角度算出部C2は、
図11にのみ模式的に示している。
【0057】
次に、本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRが行う配達処理(置き配サービス)について
図12に示すフローチャートを参照して説明する。以下では、荷室1Sにセットした可動カゴ部3に1つの荷物を収容した状態で、この荷物を配送先に置き配する場合について説明する。
【0058】
配送元において配送作業員等のオペレータによって荷物が荷室1Sの可動カゴ部3に搭載された時点以降であって、配送先(目的地)に到着した時点(
図1参照)で、本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRは、置き配装置2を起動させる信号(置き配対象荷物の指定情報を含む)に基づき、置き配処理を実行する前処理として、置き配前補正処理S01を実施する。
【0059】
置き配前補正処理S01は、対向面離間距離検出部9の検出値d1,d2及びロボット本体角度算出部C2の算出値に基づいてロボットRの位置及び姿勢を予め設定した目標位置及び目標姿勢に補正する処理である。具体的には、配送先(目的地)においてロボットRに対向する面(対向面、代表例として壁)Wとの距離を対向面離間距離検出部9(距離センサ)の検出値に基づいて適正な距離(目標位置)に補正すべく、所定の間隔QでロボットRに実装した2つの対向面離間距離検出部9(距離センサ)によって対向面Wとの距離d1,d2を検出し、その検出値(d1,d2)をサンプリングしながら各検出値d1,d2が相互に等しく且つ距離d1,d2の絶対値が置き配に適した目標距離(目標位置)となるように走行手段Tを適宜駆動させてロボットRを移動させる。置き配に適した目標距離(目標位置)は荷物のサイズ等に応じて適宜設定することができる。また、置き配前補正処理S01では、目標位置に補正する処理と同時に、ロボットRの姿勢を目標姿勢に補正すべく、ロボット本体角度算出部C2の算出値をサンプリングしながら算出値が置き配に適した目標角度(目標姿勢)となるように走行手段Tを適宜駆動させてロボットRを移動させたり、ロボットRの向きを変更する。置き配に適した目標角度(
図11に示す対向面Wに平行な基準ラインWLとロボットRのなす角度θ)は略0度(0度±数度)に設定することが好ましい。
【0060】
このように、置き配前補正処理S01では、制御部Cが2つの対向面離間距離検出部9(測距センサ)の検出値d1,d2の監視しながら、ロボット本体角度算出部C2の算出値も監視して、ロボットRと対向面Wとの離間距離d1,d2の検出処理と、ロボットRと対向面Wのなす角度θの演算処理を所定時間継続して行い、それぞれの値が目標値(目標距離、目標角度)となるようにロボットRを補正走行させて、ロボットRと対向面Wとの距離及び対向面Wに対するロボットRの姿勢を目標値範囲に保証した状態にする。このような置き配前補正処理S01における走行手段Tによる移動形態としては、台車Bを
図1に示すY方向に移動(カニ歩き)させたり、スピンターンやピボットターンを挙げることができる。置き配前補正処理S01完了時点の自律走行型配達ロボットRの全体図(側面図)を
図13に示す。なお、同図ではロボット本体1の内部に収納された状態にある各機構・各パーツを陰線で示している。また、同図では対向面Wを省略している。
【0061】
本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRは、置き配前補正処理S01に続いて、制御部Cが置き配装置2の扉開閉機構を作動させて閉状態(DA)にある右扉D1及び左扉D2を開状態(DB)に切り替える(開扉処理S1、
図14参照)。次いで、制御部Cがアウトリガー機構5を作動させて当該アウトリガー機構5の先端部(脚輪52)を荷物配送面である床Fに設地させる(アウトリガー接地処理S2、
図15参照)。
図14及び
図15は、それぞれ開扉処理S1完了時点、アウトリガー接地処理S2完了時点の自律走行型配達ロボットRを
図13に対応して示す図である。
【0062】
アウトリガー接地処理S2は、アウトリガー機構5のアウトリガー駆動用モータを駆動(アウトリガー機構5を起動)させることで接地アーム51を収納姿勢(5A)から接地姿勢(5B)に切り替える処理である。本実施形態では、接地アーム51を収納姿勢(5A)から接地姿勢(5B)まで回動させた時点のアウトリガー角度エンコーダ5Eによる検出値(接地角度に関するエンコーダ情報)を取得し、この検出値に基づいて、リフトダウン目標角度算出部C1によりリフトダウン機構4のリフトダウン目標角度を算出する。
【0063】
次に、本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRは、制御部Cがリフトダウン機構4を作動させて、可動カゴ部3を収容位置(3A)から置き配位置(3B)に移動させる処理(リフトダウン処理S3)を実行する。リフトダウン処理S3完了時点の自律走行型配達ロボットRを
図16に示す。なお、可動カゴ部3は、リフトダウン処理S3開始前までは、荷室1Sに固定された置き配装置2のベースフレーム20上にセットされた収容位置(3A)に維持される(
図4、
図13乃至
図15参照)。
【0064】
リフトダウン処理S3は、リフト駆動用モータを駆動させることで、リフトダウン機構4の平行リンク機構41を収納姿勢(4A)からリフトダウン姿勢(4B)に姿勢変更し、可動カゴ部3を配送先の床F面まで降下させる処理である。この際、制御部Cは、リフトダウン角度エンコーダ4E(アブソリュートエンコーダ)の検出値をチェックしながら、リフトダウン角度エンコーダ4Eの検出値がリフトダウン目標角度算出部C1で算出したリフトダウン機構4のリフトダウン目標角度と同角度になるまでリフトダウン機構4を降下させる。
図8には、リフトダウン処理S3の実行開始直後であって、可動カゴ部3が収容位置(3A)から荷物搬出方向31xに向かって所定距離移動した時点(荷室1Sに固定された置き配装置2のベースフレーム20上から離れて底板部31がベースフレーム20よりも低い位置まで移動した時点)のリフトダウン機構4及びアウトリガ機構5を示す。
【0065】
本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRは、
図9に示すように、リフトダウン機構4によって可動カゴ部3を収容位置(3A)から置き配位置(3B)に向かってリフトダウンさせる際に、可動カゴ部3の底板部31が荷物配送面F(床)に所定距離(本実施形態では荷物配送面F(床)から10cm程度まで近付いた時点で、底板部31に取り付けられた優先接地部8が底板部31よりも優先して荷物配送面F(床)に接地する。当該時点では、リフトダウン角度エンコーダ4Eの検出値は、リフトダウン目標角度算出部C1で算出したリフトダウン機構4のリフトダウン目標角度に到達していない。つまり、可動カゴ部3は置き配位置(3B)に到達していない。当該時点以降、可動カゴ部3を置き配位置(3B)に向かってさらにリフトダウンさせていくと(リフトダウン目標角度に近付けると)、
図10に示すように、優先接地部8の下端に加わる接地反力(優先接地部8が受ける接地反力の方向を同図中に相対的に太い矢印で模式的に示す)で底板部31が底板部回転軸31Aを中心に回動し、荷物搬出方向31xに漸次傾斜する。リフトダウン角度エンコーダ4Eによる検出値が、リフトダウン目標角度算出部C1で算出した目標値であるリフトダウン目標角度(接地アーム51を収納姿勢(5A)から接地姿勢(5B)まで回動させた時点のアウトリガー角度エンコーダ5Eによる検出値を参照して設定された目標値)に一致する時点まで可動カゴ部3をリフトダウンさせると、可動カゴ部3は置き配位置(3B)に到達し、この時点で底板部31の傾斜角度は置き配処理中における最大傾斜角度になる(
図2、
図5及び
図6参照)。その結果、荷物が自重で底板部31の傾斜方向(荷物搬出方向31xと同一方向)に滑り、底板部31のうち荷物との接触部分に設けたコロ34によってスムーズに滑りながら底の一部(底の一辺)が床Fに接触する位置まで移動する。
【0066】
リフトダウン処理S3の実行中、底板部31に設けたガイドピン37が、可動カゴ部3の起立板部32に形成したガイド溝36に沿って移動することで、底板部31の傾斜動作時の移動をスムーズに行うことができ、底板部31が傾動しながら幅方向wにずれるという事態も回避することができる(
図4乃至
図10参照)。
【0067】
リフトダウン角度エンコーダ4Eによる検出値が、リフトダウン目標角度算出部C1で算出したリフトダウン目標角度に到達した時点でリフト駆動用モータを停止し、リフトダウン機構4によるリフトダウン処理S3を終了する。なお、置き配位置側リミッタによって可動カゴ部3が置き配位置(3B)に到達したことを検出した時点でリフト駆動用モータを停止し、リフトダウン機構4によるリフトダウン処理S3を終了してもよい。
【0068】
リフトダウン処理S3に続いて、制御部Cが自律走行型配達ロボットRの台車Bの走行手段T(前輪T1、後輪T2)を作動させて、台車Bを
図1中の矢印Y方向に沿って対向面Wから離間する方向に移動(カニ歩き)させる(退避処理S4)。その結果、荷物は可動カゴ部3から配送先の荷物配送面F(床)に完全に搬出される。このように、ロボット本体1を対向面(壁)Wから離間する方向に移動させることで、自律走行型配達ロボットRは荷物から所定距離離間した退避状態(後退状態)になる。本実施形態では、置き配前補正処理S01を実行する際に、制御部Cが自律走行型配達ロボットRの台車Bの走行手段T(前輪T1、後輪T2)をすえ切りする処理を実施している場合があり、この場合、リフトダウン処理S3に続く退避処理S4ではすえ切り処理を改めて実行することなく、退避処理S4を実行することができる。なお、リフトダウン処理S3を終了時点で、走行手段T(前輪T1、後輪T2)による台車の進行方向が
図1中の矢印X方向である場合には、退避処理S4を実行する前にすえ切り処理を実施する必要がある。
【0069】
退避処理S4の実行中、荷物配送面F(床)に接触しているパーツは走行手段(前輪T1、後輪T2)と、接地アーム51の先端部に設けた脚輪52と、優先接地部8の補助輪82のみであり、駆動車輪である走行手段(前輪T1、後輪T2)の走行移動に伴って、脚輪52及び補助輪82が従動車輪として荷物配送面F(床)上を転動(従動)する。
【0070】
本実施形態では退避処理S4の終了時点で、荷物配送面F(床)に荷物を完全に搬出することができる。特に、置き配前補正処理S01を実施した後に上述の処理S1乃至S4を実施しているため、対向面(壁)Wに対して適切な方向(対向面Wに対して荷物が真正面または略真正面を向く方向)に荷物を配送先の荷物配送面F(床)に排出することができる。また、荷物排出時の勢いと荷物配送面F(床)との段差で荷物に排出方向31xへのモーメントが掛かるが、置き配前補正処理S01を予め実施しているため、荷物は対向面(壁)Wに対して所定距離まで近付いた位置に排出され、対向面(壁)W側に凭れ掛かるような姿勢になったとしてもそれ以上に倒れてしまうことはない。
【0071】
そして、本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRは、退避処理S4を実行した直後に、荷物を対向面(壁)Wに近付ける方向に押し出す仕上げ押し処理S5を実行する。仕上げ押し処理S5では、先ず、リフトダウン処理S3後の退避処理S4時に対向面(壁)Wから離間する方向に移動した距離(退避移動量)と同じ距離だけ対向面(壁)Wに近付く方向にロボットRを移動させる。この際の移動量は、予め設定した定寸送り量であり、好適な定寸送り量の値としては、扱う荷物の荷物搬出方向31xの長さの半分程度の値を挙げることができる。
【0072】
自律走行型配達ロボットRを定寸送り量だけ対向面(壁)Wに向かって移動させる途中の時点で、荷物優先接触部48が荷物に接触し、さらに自律走行型配達ロボットRを同一方向(対向面Wに近付く方向)に移動させることで荷物を対向面(壁)Wに向かって押し始めることになる。この際、荷物優先接触部48による押圧方向が対向面(壁)Wの面に対して平面視直交(または略直交)する方向になるため、荷物の姿勢を対向面(壁)Wの面に対して荷物の前後方向(奥行き方向)が直交(または略直交)する姿勢に矯正・補正することができる。本実施形態では、退避処理S4時の退避移動量と同じ距離だけ対向面(壁)Wに向かって移動(前進移動)した時点で、制御部Cによって力計測部49の計測値の変化量(電圧変化量)をモニタする処理を開始する。モニタ処理開始時点以降において力計測部49の計測値の変化量が閾値を超えた時点で対向面(壁)Wに近付く方向への移動(前進移動)を停止する。
【0073】
ここで、
図17に示すように、モニタ処理開始時点Pt5以降において力計測部49の計測値の変化量が閾値を超える時点は、荷物が対向面(壁)Wに接触した時点Pt6の直後の時点Pt7であり、荷物が対向面(壁)Wに到達したことを特定できる。荷物が比較的重量物である場合、ロボットRが退避処理S4完了直後に対向面(壁)Wに向かって前進移動を開始した時点Pt2以降、退避移動量(Pt1からPt2までの走行距離)と同じ移動量に至らない時点で荷物優先接触部48が荷物に接触し、力計測部49の計測値が大きく変化する(同図中Pt3)。この変化の検出に基づいてロボットRの前進移動を停止させると、荷物に接触しただけで荷物を対向面(壁)Wに向かって押し出す(移動させる)ことはできず、荷物の姿勢及び位置を積極的に矯正・補正することはできない。荷物優先接触部48が荷物に接触した時点Pt3以降、荷物配送面F(床、台など)と荷物の静止最大摩擦力を超えるまで荷物は移動せず、静止最大摩擦力を超えた時点Pt4で移動し始める。したがって、本実施形態では、計測値の変化量(電圧変化量)モニタ開始時点Pt5を退避移動距離と同じ距離だけ対向面(壁)Wに向かって移動(前進移動)し終えた時点Pt5に設定している。
【0074】
一方、荷物が比較的軽量物である場合には、ロボットRが退避状態から対向面(壁)Wに向かって前進移動を開始した時点Pt2以降、退避移動量(Pt1からPt2までの走行距離)と同じ移動量に至らない時点Pt3で荷物優先接触部48が荷物に接触するものの、力計測部49の計測値は大きく変化しない(同図中では計測値に変化がない場合を例示)。このような重量の異なる荷物にも適切且つ柔軟に仕上げ押し処理S5を実行するために、本実施形態では、計測値の変化量(電圧変化量)モニタ開始時点Pt5を退避移動距離と同じ距離だけ対向面(壁)Wに向かって移動(前進移動)し終えた時点Pt5に設定している。なお、重量荷物に対して仕上げ押し処理S5を実行する際の閾値(力計測部49の計測値の変化量に関する閾値)と、軽量荷物に対して仕上げ押し処理S5を実行する際の閾値とを相互に異ならせてもよいし、同じ値に設定してもよい。また閾値として、計測値の変化量(変化の程度)を捉えることを前提とした値を採用することが好ましいが、計測値の実値そのものの変化を捉えることを前提にした値にしても構わない。
【0075】
このように、荷物配送面F(床)に一度排出し終えた荷物の向きや位置を対向面(壁)Wを基準にさらに良好な向き及び位置となるように荷物を押しながら行う仕上げ押し処理S5を実行することで、可動カゴ部3から荷物配送面F(床)に排出した荷物を対向面(壁)Wに隙間なく接触させた状態で、しかも対向面(壁)Wに対して荷物が真正面を向く整った姿勢で置き配することができる。
【0076】
仕上げ押し処理S5では、モニタ処理開始時点Pt5以降において力計測部49の計測値の変化量が閾値を超えた時点Pt7で対向面(壁)Wに近付く方向への移動(前進移動)を停止し、続いて荷物優先接触部48による押圧力を開放するために、再度対向面(壁)Wから離間する方向に所定距離移動(後退移動)する。この後退移動終了時点で仕上げ押し処理S5は完了する。なお、仕上げ押し処理S5の実行中、ロボットRのうち荷物配送面F(床)に接触しているパーツは、上述の退避処理S4実行中と同様に、走行手段(前輪T1、後輪T2)と脚輪52と補助輪82のみであり、走行手段(前輪T1、後輪T2)の走行移動(前進移動、後退移動)に伴って脚輪52及び補助輪82が転動(従動)する。
【0077】
仕上げ押し処理S5完了後は、制御部Cがリフトダウン機構4を作動させて荷物が載置されていない可動カゴ部3を置き配位置(3B)から収容位置(3A)に移動させ(リフトダウン復帰処理S6)、次いで、アウトリガー機構5を作動させて接地アーム51を接地姿勢(5B)から収納姿勢(5A)に切り替え(アウトリガー復帰処理S7)、これら各機構(リフトダウン機構4、アウトリガー機構5)をロボット本体1の内部空間であって荷室1Sに露出しないスペースに収納する。なお、各機構(リフトダウン機構4、アウトリガー機構5)をロボット本体1の内部空間に収納する処理を実行する時点では、ロボットRが対向面(壁)Wから所定距離離間した位置に移動(後退移動)しているため、各機構(リフトダウン機構4、アウトリガー機構5)と荷物との干渉を回避することができる。
【0078】
アウトリガー復帰処理S7に続いて、扉開閉機構を作動させて扉D(右扉D1、左扉D2)を開状態(DB)から閉状態(DA)に切り替え(閉扉処理S8)、制御部Cが置き配処理を完了した旨の信号(置き配完了信号)を出力し、すえ切りした状態にある走行手段T(前輪T1、後輪T2)を元に戻す(すえ切り復帰処理S9)ことで、次の配達目標地点または所定のロボット格納拠点に向かう準備が整うことになる。
【0079】
このようにして、本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRは、前処理である置き配前補正処理S01、及び仕上げ処理(後処理)である仕上げ押し処理S5、これら全ての処理を含む置き配サービスの提供を完遂することができる。
【0080】
このように、本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRによれば、リフトダウン機構4による可動カゴ部3のリフトダウン移動を許容する状態(左右の扉Dを開いた状態)でリフトダウン機構4を作動させて可動カゴ部3を置き配位置(3B)までリフトダウン移動させることによって、荷室1Sに収容されていた置き配対象荷物を配達先の荷物配送面F(床)に移動させることができる。
【0081】
特に、本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRによれば、リフトダウン機構4を作動させて可動カゴ部3を置き配位置(3B)まで移動(リフトダウン移動)させる前の時点で、2以上の対向面離間距離検出部9の検出値に基づいて対向面(壁)Wに対するロボット本体1の離間距離を予め設定した目標位置に補正するとともに、ロボット本体角度算出部C2の算出値に基づいて対向面(壁)Wに対するロボット本体1の姿勢を予め設定した目標姿勢に補正する置き配前補正処理S01を行うように構成している。したがって、確率論に基づいた推定である自己位置推定アルゴリズム(例えばAMCL:adaptive Monte Carlo localization)に基づいてロボット本体1が配達目標地点に到着した場合であっても、置き配前補正処理S01を実行することで、配達目標地点に位置や姿勢がズレた状態で荷物を置いてしまうという事態を回避することができる。同様に、車輪接地に基づくオドメトリを自律走行に利用している場合に地面の性状や傾斜に起因する累積ズレが発生している場合においても、置き配前補正処理S01を行うことで、そのようなズレを解消することができる。置き配前補正処理S01における目標位置(目標距離,対向面Wに対するロボット本体1の離間距離)としては、例えば
図18に示すように、可動カゴ部3の持ち出し量H(可動カゴ部3をロボット本体1の外面のうち対向面(壁)Wに正対する面10から対向面(壁)Wに向かって差し出す距離)と、荷物の傾きを考慮した荷物の搬出方向31xの長さ(同図中の「I’」+「J’」)との総和(H+I’+J’)以上の距離を挙げることができる。同図における説明通り、「I’」の最大値はIcosθであり、「I’」をIcosθよりも小さい値に設定することもできる。もちろん「H+I’+J’」以外の演算式等によって目標位置(目標距離)を設定することも可能である。そして、置き配前補正処理S01によって対向面Wに対するロボット本体1の離間距離を目標位置(目標距離)に補正することで、荷物を可動カゴ部3から搬出した際にその勢いや荷物自体の偏重心によって荷物搬出方向31xに倒れ掛かった場合であっても、対向面(壁)Wに当たったり、対向面(壁)Wに凭れ掛かることで荷物の転倒を防止することができる。
【0082】
さらに、本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRによれば、リフトダウン機構4を作動させて可動カゴ部3を置き配位置(3B)までリフトダウンさせた後に、荷物から所定距離離間した退避状態(後退状態)になる(つまり、上述の退避処理S4を実行する)ことで、荷物配送面Fに荷物全体を完全に置くことができるとともに、退避状態から対向面(壁)Wに向かって移動(前進移動)させることで荷物を対向面(壁)Wに向かって押し出す仕上げ押し処理S5を実行することで、置き配前補正処理S01完了時点のロボット本体1の角度のまま荷物を可動カゴ部3の先端部(荷物搬出方向31x側の端部)によって対向面(壁)Wに近付く方向に押し出すことになり、可動カゴ部3からの荷物排出時点で荷物の底面(転がり面)の平滑度合いや荷物の偏重心に起因して荷物の配達位置や配達姿勢にズレが発生した場合であっても、荷物の配達姿勢を対向面(壁)Wに正対する姿勢に矯正しながら対向面(壁)Wに接触または近接する所定の配達位置まで移動させることができる。
【0083】
また、本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRによれば、荷物が軽量である場合に可動カゴ部3から荷物が完全に排出されていない状態でロボットRの後退走行(退避処理S4)によって一定程度後方へ引きずられてしまった場合であっても、仕上げ押し処理S5を実行することにより、ズレを矯正した適正姿勢にある荷物を対向面(壁)Wに隙間なく接した状態で置くことができる。
【0084】
このような本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRによれば、ロボット本体1内の荷室1Sにおいて搭載姿勢の変化が生じないようにサイズに応じて予め荷物をガイドしておくための機構や姿勢センシング手段を荷室S1に実装する必要もなく、構造の複雑化を回避し、荷室1Sに荷物を搭載する際の余計な作業が配達元で発生する事態も回避することができる。
【0085】
特に、本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRによれば、仕上げ押し処理S5実行中に荷物に優先して接触する荷物優先接触部48と、荷物に接触した荷物優先接触部48に作用する力を測定する力計測部49とを備えているため、仕上げ押し処理S5中に力計測部49の計測値が所定の閾値を超えた事象に基づいて、荷物が対向面(壁)Wに到達したことを検出することができる。そして、力計測部49の計測値が所定の閾値を超えた時点で対向面Wに向かって荷物を押し出す処理を停止することによって、荷物を対向面(壁)Wに寄せた適正な位置に移動させることができる。本実施形態では、可動カゴ部3のうち底板部31の前端部(荷物搬出方向31x側の端部)に他の部品やパーツよりも前方(荷物搬出方向31x)側に突出させた形態で荷物優先接触部48を設けているため、退避処理S4完了直後に、置き配位置(3B)にリフトダウン移動させた可動カゴ部3を収容位置(3A)に復帰させる処理をせずに、そのままの姿勢(可動カゴ部3を置き配位置(3B)にしたままの姿勢)で対向面(壁)Wに向かってロボットRを移動させることで仕上げ押し処理S5を実行することができ、退避処理S4完了直後に可動カゴ部3を置き配位置(3B)から収容位置(3A)に復帰させる処理を必要とする態様と比較して、処理内容の単純化及び処理時間の短縮化を図ることができる。
【0086】
本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRでは、仕上げ押し処理S5時に、走行手段Tによりロボット本体1を対向面(壁)Wから離間する方向に移動させた距離(退避移動距離;荷物の寸法のうち荷物搬出方向31xに沿った寸法の最大値より大きい値と等しい距離)と同じ距離だけ対向面(壁)Wに向かって移動(前進移動)させた時点から力計測部49の計測値のモニタを開始するように構成した。したがって、荷物が対向面(壁)Wに到達する前よりも前の時点で荷物に接触し始めた時点Pt3では力計測部49の計測値のモニタを開始していないため、当該時点の計測値の変化は無視することになり、力計測部49の計測値モニタ開始時点Pt5以降、最初の計測値の変化に基づいて荷物が対向面(壁)Wに到達したことを確実に検出することができ、当該変化に基づいて仕上げ押し処理S5を停止すると、荷物を対向面(壁)Wに接触させた状態または近付けた状態で置くことができる。
【0087】
以上のように、本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRは、荷物配送面F(床)における目標位置に荷物を目標姿勢で排出する確率が格段に高くなり、さらに荷物配送面F(床)に排出された荷物の姿勢及び対向面(壁)Wとの隙間距離を適切な姿勢及び距離(位置)に調整することができ、配達員が配達した場合と同等な品質で置き配処理を実行することができる。また、本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRは、複数の荷物を搭載することも可能である、その場合、ロボット本体1の荷室1Sにおいて置き配対象の荷物だけを可動カゴ部3の底板部31に載置した状態で可動カゴ部3をリフトダウン移動させることで置き配処理を適切に行うことができ、一度の巡回配送で複数の配達先に荷物を対向面(壁)Wに寄せた位置に適正な姿勢で配達することができる。さらに、本実施形態に係る自律走行型配達ロボットRは、通常配送と置き配配達を柔軟に組み合わせた運用を実施することもでき、上述に述べた種々の作用効果を発揮することで、荷物の増加や配達ドライバーの負荷増大、ドライバー不足、非接触の配送需要といった現状の問題点を悉く解消することができる。
【0088】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、荷物優先接触部を底板部の先端部に所定ピッチで3つ配置した態様を例示したが、荷物優先接触部の数は2以下または4以上であってもよく、荷物優先接触部の配置箇所も適宜選択・変更することができる。したがって、可動カゴ部のうち底板部以外の箇所、例えば左右一対の起立板部に荷物優先接触部を設けた構成や、可動カゴ部以外の箇所、例えばリフトダウン機構を構成するリンク機構の適宜箇所に荷物優先接触部を設けた構成、或いは扉の適宜箇所や台車の適宜箇所に荷物優先接触部を設けた構成も本発明に含まれる。荷物優先接触部の素材や形状は適宜選択・変更することができる。また、専用品の荷物優先接触部(上述の荷物優先接触部48)によって荷物押出用の手段(押出手段)を構成する態様に代えて、可動カゴ部の先端部(荷物搬出方向側端部)自体を押出手段(荷物優先接触部)として機能させる態様を採用することもできる。
【0089】
可動カゴ部を収容位置から置き配位置までリフトダウンさせた時点以降に荷物を対向面に向かって移動させる仕上げ押し処理を実行するタイミングは、上述の実施形態で述べた退避処理直後のタイミングに限定されず、例えば、リフトダウン復帰処理直後のタイミングで仕上げ押し処理を行う態様や、アウトリガー復帰処理直後のタイミングで仕上げ押し処理を行う態様、或いは、閉扉処理直後のタイミングで仕上げ押し処理を行う態様も本発明に含まれる。アウトリガー復帰処理直後のタイミングで仕上げ押し処理を行う態様や、閉扉処理直後のタイミングで仕上げ押し処理を行う態様であっても、扉や台車のうち対向面に対峙する部分自体を押出手段(荷物優先接触部)として機能させたり、扉または台車に実装した専用品によって押出手段(荷物優先接触部)を構成する態様を採用することで、押出手段による仕上げ押し処理を実行することができる。
【0090】
また、荷物優先接触部に作用する力を計測する力計測部を備えていない態様も本発明に含まれる。この場合、仕上げ押し処理では、退避処理によって対向面及び荷物から退避した状態から対向面に向かって移動する距離を、退避処理時の退避移動距離と同じ距離(定寸送り量)に設定すればよい。定寸送り量は、扱う荷物のサイズのうち荷物搬出方向の長さの最大値よりも大きい値にすることが好ましい。このような定寸送りによる仕上げ押し処理であっても、同じような荷物搬出方向の長さを有する荷物であれば荷物優先接触部で荷物を押し込むことことで、荷物の姿勢と対向面との離間距離をそれぞれ適正な姿勢・距離に補正することができる。
【0091】
一方、上述の実施形態のように、荷物優先接触部に作用する力(もしくは圧力)を力計測部の計測値に基づいて検出しながら仕上げ押し処理を行う態様であれば、サイズの異なる荷物にも柔軟に対応することができ、荷物の姿勢を正しい方向(対向面に対して真正面を向く方向)に補正した上で、配達目標地点の対向面に隙間なく接した状態または対向面に近接した状態で荷物を置くことができる。
【0092】
上述の実施形態では本発明における対向面の一例として壁を例示したが、本発明における対向面、すなわち「配達先に到着した際にロボット本体が荷物搬出方向に対向する面(対向面)」には、「壁」のように全面がフラットな面でなくても、フラットな面が部分的に存在する面も含まれる。建物の外壁や内壁等の「壁」以外の具体例としては、屋外構造物(エクステリア)として壁やフェンス、塀、門扉、あるいは、柱(家の柱や梁)、ポール(駐車場のポール等)、机や台等の脚部、箱状の物品(ゴミ箱、棚、パレット、タンス等)、階段(玄関前の階段、家内の階段等)、宅配ボックス、エレベータ、ガレージ等を挙げることができる。このような対向面とロボット本体との距離を検出する対向面離間距離検出部や力計測部を構成するパーツもそれぞれ測距センサ、圧力センサ、歪みゲージに限らず、適宜のセンサ等を適用してもよい。
【0093】
対向面離間距離検出部の検出値に基づいて対向面に対するロボット本体の角度を算出するロボット本体角度算出部の具体的な算出処理内容(演算式)は、対向面離間距離検出部の数や実装箇所等に応じて適宜最適な内容に選択・変更することができる。
【0094】
また、上述の実施形態では、荷物を可動カゴ部から荷物配送面に完全に搬出(移動)させるために、リフトダウン処理に続いて退避処理を行い、ロボット全体を対向面及び荷物から退避させた状態から対向面に向かって移動(前進移動)させることで仕上げ押し処理を実行する態様を例示した。このような態様に限らず、退避処理に代わる適宜の荷物完全排出処理を実行可能な自立走行型配達ロボットであれば、荷物完全排出処理に続いて、可動カゴ部から荷物配送面に移動した荷物を対向面に向かって押し出す仕上げ押し処理を行うように構成したり、あるいは、リフトダウン処理完了時点で荷物を可動カゴ部から荷物配送面に完全に搬出(移動)させることが可能な場合には、リフトダウン処理完了時点以降の適宜のタイミングで仕上げ押し処理を行うように構成することもできる。これらの場合、仕上げ押し処理を行うよりも前の時点でロボット全体を対向面及び荷物から離間する方向に移動させる退避処理を省くことができる。荷物完全排出処理としては、例えば、置き配位置にある可動カゴ部の底板部に載置されている荷物だけを対向面に向かって(荷物搬出方向に)移動させる強制移動手段(可動カゴ部の底板部に設けた電動の搬送コンベアまたはローラコンベア、あるいは可動カゴ部の後方側から前方に向かって移動する押圧部など)によって可動カゴ部の荷物を荷物配送面に完全に移動させる処理や、置き配位置にある可動カゴ部のうち底板部だけが対向面から離間する方向にスライド移動する(可動カゴ部の底が一時的に抜ける)ことによって可動カゴ部の荷物を荷物配送面に完全に移動させる処理等を挙げることができる。
【0095】
走行手段として、すえ切りしないものを適用したり、差動二輪タイプを適用し、左右の車輪を逆回転したスピンターン、前進後進移動、ピボットターン等を実行可能に設定することで、上述と同様の置き配サービスを提供可能な自律走行型配達ロボットを実現できる。
【0096】
本発明に係る自律走行型配達ロボットの扉は、観音開きタイプの扉に限定されず、シャッタータイプの扉、折り畳み動作可能な扉、或いは閉状態にある扉の上端部に水平姿勢で設けた作動回転軸を中心に回転させることによって開状態に切替可能な扉(アッパータイプの扉)を適用するとこもできる。
【0097】
例えば、上述した実施形態では、可動カゴ部の底板部がリフトダウン処理実行中に傾斜する構造として、優先接地部を用いて当該優先接地部に作用する接地反力で底板部を傾斜させる態様を例示したが、これに代えて、荷物のリフトダウン動作に伴うリフトダウン機構の動きに連動するメカニカルなリンク部材を介して可動カゴ部の底板部を傾斜させる態様を採用することができる。何れにしてもリフトダウン処理中に底板部を傾斜させることで、置き配対象荷物を荷物配送面に送り出す配達ロボットを実現できる。また、リフトダウン処理完了時点では水平または略水平姿勢にある可動カゴ部の底板部を、リフトダウン処理完了後に電動または適宜のリンク機構等によって傾斜させることで、置き配対象荷物を荷物配送面に送り出すようにしてもよい。
【0098】
可動カゴ部の底板部に電動の搬送コンベアまたはローラコンベアを設けた構成を採用する場合には、搬送コンベアやローラコンベア等に無励磁ブレーキを接続しておくことでロボット本体の傾斜や、走行中の各方向の加速度発生により荷物が荷室で移動する事態を防止・抑制することができる。
【0099】
本発明では、リフトダウン機構として、可動カゴ部を収容位置と置き配位置の間で昇降移動させる油圧式のリフトを適用しても構わない。なお、油圧式のリフトによって可動カゴ部を収容位置と置き配位置の間で昇降移動させる場合には、可動カゴ部を昇降移動させるアクチュエータと、荷室から開口部を通じて外部に向かう方向へ可動カゴ部を移動させるアクチューエタが必要である。
【0100】
本発明におけるロボット本体は箱状のものに限らず、筒状等の適宜の内部空間を有する形状を有するものであればよく、内部空間や荷室の大きさは仕様等に応じて適宜変更することができる。また、扉によって開閉可能な開口部の大きさも適宜変更することができる。特に、上述の実施形態では、ロボット本体の一方の側面にのみ開口部を設定し、当該開口部を扉によって開閉する態様を例示したが、ロボット本体の内部空間や荷室の大きさ等に応じてロボット本体の両方の側面にそれぞれ開口部を設定し、それぞれの開口部を扉によって開閉する態様を採用してもよい。この場合、各開口部を通じて可動カゴ部をリフトダウン機構によって収容位置から置き配位置へ移動可能に構成すれば、荷物の搬出方向の選択肢が増え、置き配作業の効率化に貢献することが期待できる。また、ロボット本体の前面または背面の何れか一方あるいは両方に開口部を設定し、扉によって開口部を開閉する態様を採用することもできる。
【0101】
本発明に係る自律走行型配達ロボットには、ロボット本体に複数の置き配装置を搭載した構成や、共通の台車に複数のロボット本体を実装し、各ロボット本体にそれぞれ置き配装置を搭載した構成も含まれる。このような構成により、置き配装置の数を増大させることで、配達先の対応数の増加(配達対象荷物の増大)にも対応することができる。
【0102】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0103】
1…ロボット本体
1S…荷室
2…置き配装置
3…可動カゴ部
31…底板部
(3A)…収容位置
(3B)…置き配位置
4…リフトダウン機構
48…荷物優先接触部(押出手段)
49…力計測部
9…対向面離間距離検出部
C…制御部
C2…ロボット本体角度算出部
R…自律走行型配達ロボット
T…走行手段