(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120669
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】メタンガス製造システム
(51)【国際特許分類】
B09B 3/65 20220101AFI20230823BHJP
C02F 11/04 20060101ALI20230823BHJP
B09B 3/60 20220101ALI20230823BHJP
【FI】
B09B3/00 C
C02F11/04 A ZAB
B09B3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023638
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】521136264
【氏名又は名称】テラサークルテクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085257
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 有
(72)【発明者】
【氏名】水口 浩
【テーマコード(参考)】
4D004
4D059
【Fターム(参考)】
4D004AA01
4D004AA12
4D004BA03
4D004CA18
4D004CA19
4D004CA22
4D004CA46
4D004CB04
4D004CB05
4D004CB43
4D004DA03
4D004DA06
4D004DA20
4D059AA07
4D059BA12
4D059BA31
4D059BA60
4D059CC10
(57)【要約】
【課題】 有機系廃棄物から発生するメタンガスの増量を図れるメタン製造システムを提供する。
【解決手段】
有機系廃棄物は高温高圧処理装置1で低分子化されてスラリー状となり、このスラリー状は好気性処理槽2でアルコールを経て有機酸となり、好気性処理槽2で生成された有機酸(好ましくは酢酸濃度10%以上)は滅菌処理部5に送られる。この滅菌処理部5では有機酸(酢酸)に残っている好気性菌(酢酸菌)を滅菌する。下流側の嫌気性槽6(メタン生成槽)に送られる好気性菌を少なくすることで、嫌気性槽6内での好気性菌と嫌気性菌の鬩ぎあいを防止し、嫌気性菌の活性化と生育を助長する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
好気性処理槽で有機系廃棄物からアルコール及び有機酸を生成し、次いで嫌気性処理槽で有機酸からメタンを生成するメタン製造システムにおいて、前記好気性処理槽の下流側に滅菌処理部を設け、この滅菌処理部において好気性処理槽で生成された有機酸に含まれる好気性菌を滅菌処理することを特徴とするメタン製造システム。
【請求項2】
請求項1に記載のメタン製造システムにおいて、前記嫌気性処理槽は複数に分割され、各分割槽に試料ガス採取部と排出口を設け、採取した試料ガスを分析した結果、処理不十分と判断した場合に前記排出口から当該分割槽内の被処理物を排出することを特徴とするメタン製造システム。
【請求項3】
請求項1に記載のメタン製造システムにおいて、前記滅菌処理部での処理条件は120~130℃、21~30分とすることを特徴とするメタン製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオガスとして利用されるメタンガスの製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では1つの槽内にて、有機物からメタンガスを生成している。有機物からメタンガスを生成するには、好気性菌によってアルコール生成と有機酸を生成し、嫌気性菌によって有機酸からメタンを生成する。
【0003】
好気性菌による処理と嫌気性菌による処理は、適正条件が異なるにも拘わらず1つの槽内で行うのは生産効率が悪い。このため、一段目の発酵を行う好気性処理槽と二段目の発酵を行う嫌気性処理槽を用意し、一段目の発酵でアルコールと有機酸(主に酢酸)を生成し、2段目の発酵で有機酸からメタンガスを生成することが行われている。
【0004】
特許文献2には、亜臨界反応による加水分解水から酸生成菌により有機酸等を生成する酸発酵槽と、酸発酵槽からの酸発酵液をメタン発酵するメタン発酵槽とを設け、酸発酵槽及びメタン発酵槽内に樹脂製の菌吸着材を配設したシステムが開示されている。
【0005】
特許文献3には、原水(有機性排水)を第一生物処理槽で好気処理し、該第一生物処理槽からの第一生物処理水を嫌気処理槽に導入し、嫌気処理する有機性排水の生物処理方法が開示されている。特に、第一生物処理槽において、有機性排水中のS.CODcrの40重量%以上を除去し、第一生物処理での全CODcrが10~50重量%かつ除去S.CODcrに対する生成菌体CODcr比率が40重量%以上となるように処理することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-148036号公報
【特許文献2】特開2016-203153号公報
【特許文献3】特開2020-157221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されるように、1つの槽内で好気性処理と嫌気性処理を行うには、それぞれの最適条件で行うことができず、メタンガスの生成効率を上げることができない。
【0008】
特許文献2、3に開示されるように、好気性処理を行う槽と嫌気性処理を行う槽を別々に用意すれば、上記の問題は解消する。しかしながら、好気性処理槽で処理された有機物(アルコールや有機酸)には好気性菌が大量に含まれている。
この好気性菌がそのまま嫌気性処理槽に持ち込まれると、嫌気性処理槽内の嫌気性菌の育成が阻害され、嫌気性処理槽内での処理効率が落ちる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、有機物を高温高圧水解処理する事により、低分子化して好気性菌の活動を高め、その後、一旦、好気性やその他の菌を殺し、嫌気性のメタン菌が活性化することを狙ったシステムである。
【0010】
具体的には、好気性処理槽で有機系廃棄物からアルコール及び有機酸を生成し、次いで嫌気性処理槽で有機酸からメタンを生成するメタン製造システムにおいて、前記好気性処理槽の下流側に滅菌処理部を設け、この滅菌処理部において好気性処理槽で生成されたアルコール及び有機酸に含まれる好気性菌等を滅菌処理する。
【0011】
前記嫌気性処理槽を複数に分割することができる。各分割槽に試料ガス採取部と排出口を設け、採取した試料ガスを分析した結果、処理不十分と判断した場合に前記排出口から当該分割槽内の被処理物を排出する。
【0012】
また、前記滅菌処理部での処理条件は、バチルス系芽胞菌も滅菌することができる120~130℃、21~25分とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
当該発明は、嫌気性処理槽に持ち込まれる好気性菌を滅菌処理により減らすことにより、それぞれの槽において、菌類の最適環境を作ることができる。その結果、菌が活性化し、結果最大効率を産み、メタン生成量を増やすことができる。
同時に菌が活性化することにより、有機物の分解する時間を減らし、分解量を増やすことができるため、プラント全体を小型化でき、加えて、排出される残滓が減り、排出残滓も減容化できる。
【0014】
また本発明では、嫌気性処理槽を複数に分割した。このように嫌気性処理槽を複数に分割することで、各分割槽での発酵具合を個別に監視することができ、不具合が発生した場合には、当該不具合が発生した槽内の被処理物のみを排除することで、未処理残滓を減らし、バイオガス発生量を増やすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係るメタン製造システムの全体構成図
【
図2】同システムを構成する好気性処理槽の構造を示す断面図
【
図3】同システムを構成する嫌気性処理槽の構造を示す断面図
【
図4】別実施例に係るメタン製造システムの全体構成図
【
図5】好気性発酵槽と嫌気性発酵槽の配置の別実施例を示した図
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1に示すように、有機系廃棄物は高温高圧処理装置1に送られる。この高温高圧処理装置1には特圧ボイラ、標準圧ボイラ及び低圧ボイラを組み合わせた蒸気発生源から、加水分解状態(0.1~2MPa、120~250℃)、過熱蒸気併用状態(1~2MPa、170~300℃)の飽和並びに過熱蒸気が供給され、有機系廃棄物は低分子化と物質によっては分子分解されてスラリー状や顆粒状となる。スラリー状態や顆粒状態を決める要因は、有機物の含水量や分子分解のし易さに左右される。
【0017】
高温高圧水解処理装置1では、100<T<300℃、0.1<P<2MPa、5分~1時間程度で処理することで、菌が活性化し易い分子構造を作り出すことと有機物に付着した細菌の活性増殖阻害要因が取り除かれ、次に投与される酢酸生成菌が活性化し増殖し易くする状態を作り出す。菌が活性化し易い分子構造とは、例えば、リグニンやセルロースは難分解性物質と称されていたが、高温高圧水解処理を行うと、リグニンは多糖質のセルロースの一部は多糖質に一部は有機酸に変わることが知られている。
【0018】
高温高圧水解処理で有機物を分解する過程で水素が発生するが、メタンガスの製造過程において、水素も必須であるため、他に転用しない。又、有機物の分子構造によっては、酢酸生成菌の増殖量や活性化や増殖阻害要因が変わってくるため、分解する過程の時間や分解量を試算できない。また、一部の有機物を高温高圧水解処理すると、アルコールや酢酸などの有機酸を生成することも分かっている。これにより、アルコール生成過程や有機酸生成過程を短縮できる。
【0019】
従来の湿式メタンガス生成システムにあっては有機物をスラリー状とするために溶融工程(可溶化槽)を組み込む必要があったが、有機物を高温高圧水解処理することによりスラリー状となり、大半の有機物は滅菌され、高温高圧水解処理した有機物は分子分解が進み、菌の生育が早くなる。
又、乾式メタンガス生成システム向けにおいては、有機物を顆粒状にする必要があるが、当該システムは、顆粒状にするための、外部(外郭)加熱装置や過熱蒸気(乾燥蒸気)発生装置を有する。
【0020】
スラリー状となった有機物は好気性の酵母及び酢酸菌などが投入された好気性処理槽2(アルコール・有機物生成槽)に送られる。
【0021】
好気性処理槽2の構造は
図2に示すように、槽内にガイド筒3が配置され、このガイド筒3内にプロペラ4が臨んでいる。プロペラ4を回転させることで、好気性処理槽2内ではガイド筒3内側には上昇流、外側には下降流のゆっくりとした循環流が形成される。循環流の方向は逆向きもよく、プロペラの代わりにポンプなどを用いることもできる。
【0022】
上記の循環流により有機物とアルコール酵母及び酢酸菌が混合され、発酵が促進される。
アルコール酵母が活動する最適温度は35~38℃で、PH(水素イオン指数)は4~6の弱酸性である。10℃以下では活動が低下し、55℃以上では死滅する。
【0023】
酢酸菌は好気性細菌であり、酸素の豊富な液面でよく生育するばかりでなく、空気中の酸素を使ってアルコールを酢酸に変化させるため酸味を帯びてくる。酢酸菌の生育に最適な温度は20~30℃であり、基質であるアルコール濃度は5~10%の範囲内がよく、また、生成した酢酸濃度が10%以上になると酢酸菌は死滅する。
【0024】
好気性処理槽2で生成された有機酸(好ましくは酢酸濃度10%以上)は滅菌処理部5に送られる。この滅菌処理部5では有機酸(酢酸)に残っている好気性菌(酢酸菌)を滅菌する。下流側の嫌気性槽6(メタン生成槽)に送られる好気性菌を少なくすることで、嫌気性槽6内での好気性菌と嫌気性菌の鬩ぎあいを防止し、嫌気性菌の活性化と生育を助長する。
【0025】
嫌気性槽6内に投入されるメタン生成菌は嫌気条件でメタンを合成する古細菌である。淡水堆積物は発酵性真正細菌の働きが活発であり、硫酸イオンに乏しい。そのため、有機物はほとんど二酸化炭素、ギ酸、酢酸にまで分解される。また有機酸を電子供与体として水素も発生するので、メタン生成菌の生育の場としては理想的である。特に、淡水中では酢酸の量が多く、淡水で発生するメタン生成の60%は酢酸、40%は水素、二酸化炭素経由である。
【0026】
メタン菌の至適増殖温度に関しては最低が15℃ (Methanogenium frigidum)、最高が105℃(Methanopyrus kandleri Strain 116) である。淡水からも多くのメタン生成菌は分離されているが、高度好塩性のメタン生成菌としては Methanohalobium evestigatum(至適増殖NaCl濃度 4.3 M)がある。
【0027】
実施例では、嫌気性槽6の構造を
図3に示すように、上下方向に3段重ねた構造としている。
具体的には、仕切り板7によって1つの嫌気性槽6を上段槽8、中段槽9及び下段槽10に分割し、仕切り板7には上の槽内のスラリー状有機物を下の槽内に送り込む連通穴11が形成され、また各槽には共有の回転軸12を通し、回転軸12に取付けたスクリュー13…により、各層内で前記と同様の循環流が生じるようにしている。
【0028】
上段槽8、中段槽9及び下段槽10の各々の上部には試料ガス取出し部14が取付けられ、また上段槽8、中段槽9及び下段槽10の下部には処理途中のスラリー状有機物を排出する排出口15が設けられている。
【0029】
前記試料ガス取出し部14で採取したガスを分析器16で分析し、分析結果により上段槽8、中段槽9及び下段槽10のうちの1つの槽での発酵状況がうまくいっていないと判断した場合には、当該槽の排出口15を開けてその槽内のスラリー状有機物を排出する。このようにすることで、全部の有機物を無駄にすることがない。
【0030】
嫌気性槽6で生成されたバイオガスは、メタンガスや二酸化炭素やその他の物質を含む。そのため、発電不要物質と炭酸ガスを分離し、純度の高いメタンガスを取り出す。分離された炭酸ガスは例えばエタノールやスーパーフルボ酸(二酸化炭素とフルボ酸との結合体)の原料として用いる。精製されたメタンガスはガスホルダー内に蓄えられ、発電装置に供給される。
【0031】
嫌気性槽6で生成されたバイオガスの残渣として消化液が発生する。本実施例ではこの消化液からアンモニアを回収してアンモニア発電を行う。
【0032】
また、消化液を固液分離装置17にそのまま投入すると、悪臭や発酵菌の飛散、また害虫が発生することがある消化液を高温高圧水解処理を行い、無菌化や無毒化、固液分離をし易くする。高温高圧水解処理装置18での処理条件は、0.1~2MPa、120~200℃、21分以上(21~30分)とするのが好ましい。
【0033】
高温高圧水解処理装置18としては前記高温高圧水解装置1と同じ装置を用いてもよい。これら高温高圧水解処理装置1、18を加熱するためのボイラに前記ガスホルダーの余剰ガスを用いることもできる。
【0034】
固液分離装置17で分離された固形物は肥料などとして利用され、更に沈殿槽19を介して、上澄み水が廃棄される。
【0035】
好気性処理槽2をアルコール生成槽2aと有機酸生成槽2bに分割した例であり、有機酸生成槽2bと嫌気性処理槽6(メタン生成槽)との間に滅菌処理部5が設けられている。
【0036】
図5は、
図1で示した構成から嫌気性発酵槽6の配置を異ならせた別実施例を示し、この実施例では嫌気性発酵槽6を上下に分割した多段状とせず、横方向に分離展開している。スペース上の制約がない場合には有利である。
【符号の説明】
【0037】
1…高温高圧処理装置、2…好気性処理槽、2a…アルコール生成槽、2b…有機酸生成槽、3…ガイド筒、4…プロペラ、5…滅菌処理部、6…嫌気性槽、7…仕切り板、8…上段槽、9…中段槽、10…下段槽、11…連通穴、12…回転軸、13…スクリュー、14…試料ガス取出し部、15…排出口、16…分析器、17…固液分離装置、18…高温高圧水解処理装置、19…沈殿槽。