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特開2023-120699空間音響再生装置、空間音響再生方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120699
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】空間音響再生装置、空間音響再生方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04R 23/00 20060101AFI20230823BHJP
   H01S 3/00 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
H04R23/00 310
H01S3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023691
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】高田 規
【テーマコード(参考)】
5D021
5F172
【Fターム(参考)】
5D021DD04
5F172AM08
5F172ZZ20
(57)【要約】
【課題】レーザ光の掃引によって空間に再生される音響の周波数を可変にする。
【解決手段】空間音響再生装置10は、レーザ光18を出力するレーザ光源12と、レーザ光18の照射方向を変化させる駆動機構14と、レーザ光源12および駆動機構14の少なくとも一方を間欠的に動作させ、レーザ光18が空気中において音速で掃引される位置における音響パルス30の発生間隔を可変制御する制御部16と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出力するレーザ光源と、
前記レーザ光の照射方向を変化させる駆動機構と、
前記レーザ光源および前記駆動機構の少なくとも一方を間欠的に動作させ、前記レーザ光が空気中において音速で掃引される位置における音響パルスの発生間隔を可変制御する制御部と、を備える空間音響再生装置。
【請求項2】
前記駆動機構は、前記レーザ光の照射方向を周期的に変化させるよう動作し、
前記制御部は、前記駆動機構の動作周期に合わせて、前記レーザ光の出力のオンオフを制御する、請求項1に記載の空間音響再生装置。
【請求項3】
前記制御部は、音声波形をパルス密度変調した信号に基づいて、前記レーザ光源および前記駆動機構の少なくとも一方を間欠的に動作させる、請求項1または2に記載の空間音響再生装置。
【請求項4】
前記駆動機構は、前記レーザ光を反射させるミラーアレイを含み、前記ミラーアレイを構成する複数のミラーの向きを変化させ、前記複数のミラーから出射する複数のレーザ光のそれぞれの照射方向を変化させるよう動作し、
前記制御部は、前記複数のミラーのそれぞれの動作を制御することにより、前記複数のレーザ光の少なくとも一つが空気中において音速で掃引される位置における音響パルスの発生間隔を可変制御する、請求項1から3のいずれか一項に記載の空間音響再生装置。
【請求項5】
レーザ光の出力および照射方向の少なくとも一方を間欠的に変化させ、前記レーザ光が空気中において音速で掃引される位置における音響パルスの発生間隔を可変にすることを含む、空間音響再生方法。
【請求項6】
レーザ光を出力するレーザ光源および前記レーザ光の照射方向を変化させる駆動機構の少なくとも一方を間欠的に動作させ、前記レーザ光が空気中において音速で掃引される位置における音響パルスの発生間隔を可変制御する機能をプロセッサに実行させるよう構成されるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間音響再生装置および空間音響再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中の水蒸気などのガスをレーザ光で励起し、光音響効果によって可聴音を生成する技術が知られている。例えば、レーザ光を所定の周期で掃引することにより、レーザ光が空気中において音速で掃引される位置において局所的な音響パルスを発生させて可聴音を生成できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Ryan M. Sullenberger, Sumanth Kaushik, and Charles M. Wynn, "Photoacoustic communications: delivering audible signals via absorption of light by atmospheric H2O,"Optics Letters Vol. 44, Issue 3, pp. 622-625 (2019).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1の技術では、レーザ光の掃引周期に一致した周波数の可聴音が生成されるため、可聴音の周波数を変更することが容易ではない。
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、レーザ光の掃引によって空間に再生される音響の周波数を可変にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の空間音響再生装置は、レーザ光を出力するレーザ光源と、レーザ光の照射方向を変化させる駆動機構と、レーザ光源および駆動機構の少なくとも一方を間欠的に動作させ、レーザ光が空気中において音速で掃引される位置における音響パルスの発生間隔を可変制御する制御部と、を備える。
【0007】
本発明の別の態様は、空間音響再生方法である。この方法は、レーザ光の出力および照射方向の少なくとも一方を間欠的に変化させ、レーザ光が空気中において音速で掃引される位置における音響パルスの発生間隔を可変にすることを含む。
【0008】
本発明のさらに別の態様は、プログラムである。このプログラムは、レーザ光を出力するレーザ光源および前記レーザ光の照射方向を変化させる駆動機構の少なくとも一方を間欠的に動作させ、前記レーザ光が空気中において音速で掃引される位置における音響パルスの発生間隔を可変制御する機能をコンピュータに実行させるよう構成される。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レーザ光の掃引によって空間に再生される音響の周波数を可変にする技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る空間音響再生装置の構成を模式的に示す図である。
図2】空間音響再生装置の動作例を模式的に示すタイムチャートである。
図3】パルス密度変調した信号に基づく動作例を模式的に示すタイムチャートである。
図4】第2実施形態に係る空間音響再生装置の構成を模式的に示す図である。
図5】空間音響再生装置の動作例を模式的に示すタイムチャートである。
図6】第3実施形態に係る空間音響再生装置の構成を模式的に示す図である。
図7】第4実施形態に係る空間音響再生装置の構成を模式的に示す図である。
図8】第5実施形態に係る空間音響再生装置の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の概要を説明する。本発明は、空気中においてレーザ光を音速で掃引することにより音響パルスを発生させ、空間に音響を再生させる空間音響再生装置である。本発明では、レーザ光の出力および照射方向の少なくとも一方を間欠的に変化させ、音響パルスの発生間隔を可変制御することにより、空間に再生される音響の周波数を可変にする。
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。かかる実施の形態に示す具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、図面において、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る空間音響再生装置10の構成を模式的に示す図である。空間音響再生装置10は、レーザ光源12と、駆動機構14と、制御部16とを備える。
【0015】
レーザ光源12は、レーザ光18を出力する。レーザ光18は、空気中の水蒸気などのガスに吸収される波長を有し、例えば、0.7μm~3μmの赤外域から選択される波長を有する。レーザ光源12の種類は問わず、半導体レーザ、ファイバレーザ、固体レーザまたはガスレーザ等を用いることができる。
【0016】
駆動機構14は、レーザ光18の照射方向を周期的に変化させ、空気中においてレーザ光18を周期的に掃引するよう構成される。駆動機構14は、ポリゴンミラー20と、モータ22とを含む。ポリゴンミラー20は、正多角柱となる形状を有し、正多角柱のn個の側面のそれぞれに反射面24が設けられる。ポリゴンミラー20の1枚の反射面24が設けられる角度範囲θは、θ=2π/nである。モータ22は、ポリゴンミラー20を矢印Rで示される方向に一定の角速度ωで回転させる。ポリゴンミラー20の回転周波数fを用いると、ω=2πfである。
【0017】
レーザ光18は、一定の角速度ωで回転するポリゴンミラー20の反射面24にて反射し、1枚の反射面24が設けられる角度範囲θの2倍となる掃引角度範囲2θにて繰り返し掃引される。レーザ光18が掃引される角速度ωは、ポリゴンミラー20が回転する角速度ωでの2倍であり、ω=2ω=4πfである。レーザ光18の掃引周波数fは、ポリゴンミラー20の回転周波数fに反射面24の枚数nを掛け合わせたものであり、f=nfである。
【0018】
レーザ光18は、空気中の水蒸気などのガスを励起する。レーザ光18によって励起されたガスは膨張して正の圧力波を周囲に発生させる。発生した圧力波は、音速vで周囲に伝搬する。可聴音となる音響パルス30は、レーザ光18が音速vで掃引される音速掃引位置28において発生する。音響パルス30は、レーザ光18が音速vで掃引される掃引開始位置32から掃引終了位置34までの掃引範囲において発生する圧力波が重畳することにより生成される。音速掃引位置28では、レーザ光18によって生成される圧力波の発生位置が掃引開始位置32から掃引終了位置34に向けて音速vで進行する。その結果、圧力波が音速vで進行する位置にて新たな圧力波が生成され、新たに発生する圧力波が連続して重畳して大きな衝撃波に成長し、可聴音となる音響パルスが生成される。
【0019】
レーザ光18がポリゴンミラー20に入射する入射位置26から音速掃引位置28までの距離rについて、v=rωの関係が成立するため、距離r=v/ω=v/4πfとなる。したがって、ポリゴンミラー20の回転周波数fが決まると、音響パルス30が発生する音速掃引位置28の距離rが決まる。
【0020】
レーザ光18が連続して照射される場合、音響パルス30は、レーザ光18の掃引開始位置32から掃引終了位置34までの1回の掃引ごとに生成される。したがって、音響パルス30の発生周波数fは、レーザ光18の掃引周波数fに等しい。音響パルス30の発生周波数fは、音響パルス30によって再生される音響の周波数に相当する。したがって、音響パルス30の発生周波数fを可変制御できれば、音響パルス30によって再生される音響の周波数を可変制御できる。
【0021】
制御部16は、レーザ光源12および駆動機構14の動作を制御する。制御部16により提供される各種機能は、例えば、ハードウェアおよびソフトウェアの連携によって実現されうる。制御部16のハードウェアは、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現される。制御部16のソフトウェアは、コンピュータプログラム等によって実現される。
【0022】
制御部16は、駆動機構14の動作周期に合わせて、レーザ光源12によるレーザ光18の出力のオンオフを制御し、音響パルス30の発生間隔を制御する。制御部16は、レーザ光18の掃引周期に合わせてレーザ光源12をオンオフさせ、レーザ光源12を間欠的に動作させることにより、音響パルス30の発生周波数fを可変制御する。
【0023】
制御部16は、例えば、ポリゴンミラー20が角度θだけ回転するごとにレーザ光源12のオンオフを切り替えし、ポリゴンミラー20の複数枚の反射面24に向けて1枚おきにレーザ光18が照射されるようにする。これにより、音響パルス30の発生周波数fをレーザ光18の掃引周波数fの半分にする。
【0024】
図2は、空間音響再生装置10の動作例を模式的に示すタイムチャートである。図2は、駆動機構14によるレーザ光18の掃引位置と、レーザ光源12によるレーザ光18のオンオフの時系列を示す。レーザ光18の掃引位置は、1回の掃引によって掃引開始位置32から掃引終了位置34に向けて変化した後、掃引開始位置32に戻る。レーザ光18の1回の掃引にかかる掃引時間Tsは、レーザ光18の掃引周波数fの逆数である。したがって、Ts=1/f=1/nfである。
【0025】
図2(a)は、レーザ光18を連続してオンにする場合を示す。この場合、音響パルス30は、レーザ光18の1回の掃引ごとに発生する。そのため、音響パルス30の発生間隔T1は、レーザ光18の1回の掃引時間Tsと同じであり、音響パルス30の発生周波数f=fである。
【0026】
図2(b)は、レーザ光18のオンオフを1回の掃引ごとに切り替える場合を示す。レーザ光18のオンオフは、レーザ光18が掃引終了位置34から掃引開始位置32に戻るタイミングにて切り替えされる。この場合、音響パルス30の発生間隔T2は、レーザ光18の1回の掃引時間Tsの2倍であり、音響パルス30の発生周波数f=f/2である。
【0027】
図2(c)は、レーザ光18を1回の掃引時間Tsにわたってオンにした後、2回の掃引時間2Tsにわたってオフにする場合を示す。この場合、音響パルス30の発生間隔T3は、レーザ光18の1回の掃引時間Tsの3倍であり、音響パルス30の発生周波数f=f/3である。
【0028】
以上を一般化すれば、レーザ光18を1回の掃引時間Tsにわたってオンにした後、k-1回の掃引時間(k-1)Tsにわたってオフにするようにレーザ光源12を間欠的に動作させることにより、音響パルス30の発生周波数fをレーザ光18の掃引周波数fの1/k(つまり、f=f/k)にできる。
【0029】
制御部16は、レーザ光源12によるレーザ光18の出力のオンオフの周期を切り替えることにより、時分割で異なる周波数の音響が再生されるようにしてもよい。例えば、音響パルス30の発生間隔を第1周波数f=f/kとした後に、音響パルス30の発生間隔を第1周波数f1と異なる第2周波数f=f/kとなるようにしてもよい。
【0030】
一例として、音響パルス30が発生する音速掃引位置28までの距離r=2.5mとし、音速v=340m/sとする場合、ポリゴンミラー20の回転周波数f=v/4πr≒10.8Hzとすればよい。つまり、モータ22の回転数を毎分648回転とすればよい。このとき、ポリゴンミラー20の反射面24の枚数n=32であれば、レーザ光18の掃引周波数f=nf≒346Hzとなる。この場合、空間音響再生装置10は、346Hzを任意の正の整数kで割った周波数f=346/k[Hz]の音響を再生できる。空間音響再生装置10は、例えば、k=1となる346Hzの音響を再生した後に、k=2となる173Hzの音響を再生できる。
【0031】
図3は、パルス密度変調した信号に基づく動作例を模式的に示すタイムチャートである。図3(a),(b)は、それぞれ異なる周波数の音声を再生させる場合を示す。制御部16は、再生すべき音声波形をパルス密度変調した信号(PDM信号)を生成し、PDM信号に基づいてレーザ光源12を間欠的に動作させる。PDM信号におけるオンオフの切替周期は、レーザ光18の1回の掃引周期Tsに対応する。PDM信号がオンとなる場合にレーザ光18がオンとなり、レーザ光18の1回の掃引時間Tsにつき1個の音響パルス30が生成される。PDM信号がオフとなる場合にはレーザ光18がオフとなり、音響パルス30が生成されない。空間音響再生装置10をPDM駆動することにより、レーザ光18の掃引周波数fの1/kとは異なる周波数の音声を生成できる。
【0032】
空間音響再生装置10をPDM駆動する場合、再生すべき音声の周波数fの数十倍(例えば64倍)の周波数でレーザ光18を掃引させる必要がある。例えば、再生すべき音声の周波数f=216Hzの場合、レーザ光18の掃引周波数f=64×216=13,824Hzとする必要がある。レーザ光18の掃引周波数f=nfであるため、f=10.8Hzの場合、反射面24の枚数n=1280とすればよい。
【0033】
なお、ポリゴンミラー20の回転周波数fおよび反射面24の枚数nは、空間音響再生装置10に必要とされる距離rや周波数fの仕様に応じて、適宜設定することができる。
【0034】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態に係る空間音響再生装置40の構成を模式的に示す図である。第2実施形態では、レーザ光18の照射方向を変化させる駆動機構42として、ポリゴンミラー20とは異なる機構を用いる。以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に説明し、共通点については適宜省略する。
【0035】
空間音響再生装置40は、レーザ光源12と、駆動機構42と、制御部16とを備える。レーザ光源12および制御部16は、上述の第1実施形態と同様に構成されてもよい。駆動機構42は、レーザ光18を反射させるミラー44と、ミラー44の向きを変化させるアクチュエータ46とを含む。駆動機構42は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーや高速ステアリングミラーなどである。
【0036】
制御部16は、レーザ光源12および駆動機構42の少なくとも一方を間欠的に動作させ、レーザ光18が空気中において音速で掃引される音速掃引位置28における音響パルス30の発生間隔を可変制御する。制御部16は、例えば、レーザ光18を連続的にオンにしたまま、ミラー44の向きを矢印Aで示されるように間欠的に変化させることにより、音響パルス30の発生間隔を可変制御する。
【0037】
制御部16は、ミラー44の向き(角度)の変化速度(角速度ω)が一定となるようにミラー44の向きを変化させてもよい。これにより、レーザ光18が音速vで掃引される音速掃引位置28までの距離rを一定に維持しながら、音響パルス30を発生させることができる。
【0038】
制御部16は、ミラー44の向き(角度)の変化範囲が一定となるようにミラー44の向きを変化させてもよい。制御部16は、例えば、所定の掃引開始角度θaから、所定の掃引終了角度θbまでの角度範囲θ(=θb-θa)においてミラー44の向きを変化させてもよい。掃引開始角度θaは、レーザ光18を掃引開始位置32に向けて照射するためのミラー44の向きに対応する。掃引終了角度θbは、レーザ光18を掃引終了位置34に向けて照射するためのミラー44の向きに対応する。この場合、レーザ光18が掃引される掃引角度範囲2θは、掃引開始角度θaと掃引終了角度θbの差の2倍(つまり、2(θb-θa))となる。
【0039】
図5は、空間音響再生装置40の動作例を模式的に示すタイムチャートである。図5では、レーザ光18をオンにしたまま、ミラー44の向きを掃引開始角度θaから掃引終了角度θbまで変化させる制御例を示す。
【0040】
図5(a)は、ミラー44の向きを連続的に変化させる場合を示す。この場合、音響パルス30は、ミラー44を掃引開始角度θaから掃引終了角度θbまで変化させた後に掃引開始角度θaに戻すまでの1回の掃引時間Tpごとに発生する。音響パルス30の発生間隔T4は、レーザ光18の1回の掃引時間Tpに一致し、音響パルス30の発生周波数f=1/Tpとなる。
【0041】
図5(b)は、ミラー44の向きを間欠的に変化させる場合を示す。ミラー44の向きを掃引開始角度θaから掃引終了角度θbまで1回変化させた後、ミラー44の向きを掃引開始角度θaに戻して掃引開始角度θaのまま固定させる。なお、ミラー44の向きを掃引終了角度θbに固定したままとした後に掃引開始角度θaに戻してもよい。
【0042】
図5(b)においてミラー44の向きが変化しない場合、レーザ光18が掃引されないため、可聴音となる音響パルス30は発生しない。そのため、音響パルス30の発生間隔T5は、ミラー44の1回の掃引時間Tpと、ミラー44の掃引を停止させる停止時間Tqとの合計(つまり、T5=Tp+Tq)となる。つまり、音響パルス30の発生周波数f=1/(Tp+Tq)となる。
【0043】
第2実施形態において、レーザ光18が掃引される角速度ωは、ω=2θ/Tpである。また、ミラー44から音速掃引位置28までの距離rは、r=v/ω=vTp/2θである。一例として、1/Tp=780Hz、θ=5度とした場合、r=2.5mとなる。この場合、停止時間Tqを変更することにより、780Hz以下の範囲で任意の周波数fの音響を再生できる。
【0044】
なお、ミラー44の1回の掃引における掃引時間Tpおよび角度範囲θは、空間音響再生装置40に必要とされる距離rや再生すべき音響の周波数fの仕様に応じて、適宜設定することができる。
【0045】
第2実施形態では、必ずしもミラー44を連続的に動作させる必要がないため、ミラー44の停止時間Tqを任意に設定することができる。そのため、第1実施形態に比べて、音響パルス30の発生間隔をより柔軟に変更できる。
【0046】
第2実施形態において、制御部16は、駆動機構42の動作に合わせて、レーザ光源12を間欠的に動作させてもよい。制御部16は、例えば、ミラー44の向きが掃引開始角度θaから掃引終了角度θbに向けて変化している期間Tpにおいてのみレーザ光18の出力をオンにし、それ以外の期間はレーザ光18の出力をオフにしてもよい。制御部16は、例えば、ミラー44の向きが固定されている期間Tqや、ミラー44の向きが掃引終了角度θbから掃引開始角度θaに戻るまでの期間においてレーザ光18の出力をオフにしてもよい。
【0047】
第2実施形態において、制御部16は、ミラー44の向き(角度)の変化速度(角速度ω)を可変にしてもよい。制御部16は、ミラー44の向きを第1角速度ωR1で変化させることにより、音響パルス30の発生位置までの距離を第1距離r1とし、ミラー44の向きを第2角速度ωR2で変化させることにより、音響パルス30の発生位置までの距離を第2距離r2としてもよい。これにより、音響パルス30の発生位置までの距離rを可変にしてもよい。
【0048】
第2実施形態において、制御部16は、再生すべき音声波形をパルス密度変調した信号(PDM信号)を生成し、PDM信号に基づいてミラー44の向きを変化させてもよい。制御部16は、PDM信号がオンとなる場合、ミラー44の向きを一定の角速度ωで掃引開始角度θaから掃引終了角度θbまで変化させるようにし、PDM信号がオフとなる場合、ミラー44の向きを固定するようにしてもよい。
【0049】
第2実施形態において、ミラー44の向きを掃引終了角度θbから掃引開始角度θaに戻す復路においても音響パルス30を発生させるようにしてもよい。例えば、ミラー44の向きを掃引開始角度θaから掃引終了角度θbまで変化させる往路におけるミラー44の角速度と、ミラー44の向きを掃引終了角度θbから掃引開始角度θaまで変化させる復路におけるミラー44の角速度とを同じにすることで、音響パルス30の発生位置までの距離rを固定したまま、両方向に音響パルス30を発生できる。例えば、往路と復路においてレーザ光18を連続照射した場合、両方向に同一周波数の音響を発生できる。なお、ミラー44の角速度を往路と復路において異ならせることにより、往路と復路において異なる距離rに音響パルス30を発生させてもよい。また、往路と復路においてレーザ光18のオンオフの周期を異ならせたり、ミラー44の停止時間Tqを異ならせたりすることにより、両方向のそれぞれに発生する音響の周波数を異ならせてもよい。
【0050】
(第3実施形態)
図6は、第3実施形態に係る空間音響再生装置50の構成を模式的に示す図である。第3実施形態では、レーザ光18の照射方向を変化させる駆動機構52として、複数のミラー54a,54b,54c,54dがアレイ状に配列されたMEMSミラーアレイを用いる。以下、第3実施形態について、第2実施形態との相違点を中心に説明し、共通点については適宜省略する。
【0051】
空間音響再生装置50は、レーザ光源12と、駆動機構52と、制御部16とを備える。レーザ光源12および制御部16は、上述の第1実施形態または第2実施形態と同様に構成されてもよい。
【0052】
駆動機構52は、複数のミラー54a~54dと、複数のミラー54a~54dのそれぞれの向きを独立して変化させるアクチュエータ56とを含む。図6の例では、駆動機構52が4枚のミラー54a~54dを含むが、駆動機構52に含まれるミラーの枚数は問わない。駆動機構52に含まれる複数のミラー54a~54dは、所定方向に一列に配置されてもよいし、二次元アレイ状に配置されてもよい。
【0053】
レーザ光源12は、複数のミラー54a~54dのそれぞれの反射面全体にレーザ光18の光束を照射する。レーザ光18の光束のサイズは、複数のミラー54a~54dの反射面が占める面積よりも大きい。
【0054】
制御部16は、駆動機構52の動作を制御し、複数のミラー54a~54dのそれぞれの向きを変化させる。複数のミラー54a~54dのそれぞれで反射されたレーザ光18a,18b,18c,18dは、空気中において音速で掃引される音速掃引位置28a,28b,28c,28dにて音響パルス30a,30b,30c,30dを発生させる。制御部16は、複数のミラー54a~54dのそれぞれの動きを個別に制御することにより、複数のミラー54a~54dに対応する複数の音響パルス30a~30dのそれぞれの発生位置および発生間隔を独立して制御する。
【0055】
制御部16は、複数のミラー54a~54dのそれぞれの向き(角度)の変化速度(角速度ω)が一定となる条件下で、複数のミラー54a~54dの向きを変化させてもよい。これにより、複数のミラー54a~54dに対応する複数の音速掃引位置28a~28dまでの距離を一定に維持しながら、複数の音響パルス30a~30dを発生させることができる。
【0056】
制御部16は、複数のミラー54a~54dのそれぞれの向き(角度)の変化速度(角速度ω)を互いに異ならせてもよい。この場合、複数のミラー54a~54dに対応する複数の音速掃引位置28a~28dまでの距離を互いに異ならせることができ、距離の異なる位置に複数の音響パルス30a~30dを発生させることができる。
【0057】
制御部16は、複数のミラー54a~54dのそれぞれの掃引時間Tp、停止時間Tqおよび角度範囲θの少なくとも一つを互いに異ならせることにより、複数の音響パルス30a~30dの発生間隔を互いに異ならせてもよい。この場合、複数の音響パルス30a~30dのそれぞれの発生周波数fa~fdを異ならせることができ、複数の周波数成分を有する音響を再生できる。
【0058】
制御部16は、複数のミラー54a~54dのうち、一部のミラー(例えば、第1ミラー54aと第2ミラー54b)の動きを同一にしてもよい。例えば、第1ミラー54aと第2ミラー54bが第1周波数の音響を再生させるように動作し、第3ミラー54cが第2周波数の音響を再生させるように動作し、第4ミラー54dが第3周波数の音響を再生させるように動作してもよい。この場合、第1ミラー54aおよび第2ミラー54bによって再生される第1周波数の成分を相対的に強くし、第3ミラー54cおよび第4ミラー54dによって再生される第2周波数および第3周波数の成分を相対的に弱くでき、周波数成分ごとに強弱をつけた音響を提供できる。
【0059】
第3実施形態において、制御部16は、再生すべき音声波形をパルス密度変調した信号(PDM信号)を生成し、PDM信号に基づいて複数のミラー54a~54dの向きを変化させてもよい。制御部16は、再生すべき音声波形を複数の周波数成分に対応する複数の音声波形に分解し、複数の音声波形のそれぞれに対応する複数のPDM信号を生成してもよい。制御部16は、複数のPDM信号に基づいて、複数のミラー54a~54dの向きを変化させてもよい。
【0060】
(第4実施形態)
図7は、第4実施形態に係る空間音響再生装置60の構成を模式的に示す図である。第4実施形態では、複数のレーザ光源62を駆動機構64によって回転させることにより、複数のレーザ光源62のそれぞれから出力される複数のレーザ光68の照射方向を変化させるよう構成される。以下、第4実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に説明し、共通点については適宜省略する。
【0061】
空間音響再生装置60は、複数のレーザ光源62と、駆動機構64と、制御部16とを備える。制御部16は、上述の第1実施形態と同様に構成されてもよい。
【0062】
駆動機構64は、回転軸70を中心に回転する回転台72を含む。駆動機構64は、モータ(不図示)などによって回転台72を矢印Rで示されるように一定の角速度ωで回転させるよう構成される。
【0063】
複数のレーザ光源62は、駆動機構64の回転台72に取り付けられる。複数のレーザ光源62は、回転軸70のまわりに周方向に等間隔に配置される。図7の例では、12台のレーザ光源62が30度間隔で配置される。複数のレーザ光源62のそれぞれは、回転軸70から離れる方向(つまり、回転台72の径方向)にレーザ光68を出力するよう配置される。
【0064】
複数のレーザ光源62のそれぞれは、複数のレーザ光68を出力する。一つのレーザ光源62から出力される複数のレーザ光68の照射方向は、回転台72の面内において互いに異なっており、例えば、所定の角度差δで異なる。図7の例では、一つのレーザ光源62から10本のレーザ光68が照射され、各レーザ光68の角度差δが3度である。一つのレーザ光源62から出力される複数のレーザ光68は、例えば、回折光学素子などによってレーザ光束を複数に分割することにより生成される。
【0065】
制御部16は、駆動機構64の動作周期に合わせて、複数のレーザ光源62のそれぞれの出力のオンオフを制御し、レーザ光68が空気中において音速で掃引される音速掃引位置28における音響パルス30の発生間隔を可変制御する。制御部16は、第1実施形態に係る図2のタイムチャートと同様の原理によって、音響パルス30の発生間隔を可変制御する。
【0066】
複数のレーザ光源62をオンにしたままとする場合、特定の音速掃引位置28における音響パルス30の発生間隔Trは、回転台72の角速度ωと、複数のレーザ光68の角度差δによって決まり、Tr=δ/ωとなる。音響パルス30の発生間隔Trは、第1実施形態における1回の掃引時間Tsに相当する。回転軸70から音速掃引位置28までの距離rは、回転台72の角速度ωによって決まり、r=v/ωとなる。
【0067】
複数のレーザ光源62を間欠的に動作させた場合、特定の音速掃引位置28における音響パルス30の発生間隔は、複数のレーザ光源62をオンにしたままとする場合の発生間隔Trよりも長くなる。例えば、図2(b)と同様に、1回の掃引時間Trごとに複数のレーザ光源62のオンオフを切り替えれば、音響パルス30の発生間隔を2Trにできる。また、図2(c)と同様に、1回の掃引時間Trにわたって複数のレーザ光源62をオンにした後、2回の掃引時間2Trにわたって複数のレーザ光源62をオフにすれば、音響パルス30の発生間隔を3Trにできる。一般化すれば、複数のレーザ光源62を1回の掃引時間Trにわたってオンにした後、k-1回の掃引時間(k-1)Trにわたってオフにするように間欠的に動作させれば、音響パルス30の発生周波数fを掃引周波数f=1/Trの1/k(つまり、f=f/k)にできる。
【0068】
一例として、複数のレーザ光68の角度差δ=3度とし、音響パルス30が発生する音速掃引位置28までの距離r=2.5mとし、音速v=340m/sとする場合、回転台72の回転周波数f=v/2πr≒21.7Hz(毎分1300回転)とすればよい。δ=3度の場合、複数のレーザ光68の本数n=120であるため、レーザ光68の掃引周波数f=nf≒2.6[kHz]となる。この場合、空間音響再生装置60は、2.6[kHz]を任意の正の整数kで割った周波数f=2,600/k[Hz]の音響を再生できる。
【0069】
第4実施形態において、回転台72の回転周波数fおよび複数のレーザ光68の本数nは、空間音響再生装置60に必要とされる距離rや周波数fの仕様に応じて、適宜設定することができる。第4実施形態において、空間音響再生装置60をPDM駆動させてもよい。制御部16は、再生すべき音声波形をパルス密度変調した信号(PDM信号)を生成し、PDM信号に基づいて複数のレーザ光源62の動作を制御してもよい。
【0070】
第4実施形態によれば、回転軸70から所定の距離rとなる円周66の全体において音響パルス30を発生させ、円周66上の全体において可聴となる音響を再生できる。第4実施形態によれば、複数のレーザ光源62のオンオフを全て同じように制御することにより、円周66上の全体において同じ音響を提供できる。なお、複数のレーザ光源62のオンオフを独立して制御すれば、円周66上の異なる場所において異なる音響を提供できる。
【0071】
(第5実施形態)
図8は、第5実施形態に係る空間音響再生装置80の構成を模式的に示す図である。第5実施形態では、レーザ光18が歳差運動をするようにレーザ光18を照射するよう構成される。以下、第5実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に説明し、共通点については適宜省略する。
【0072】
空間音響再生装置80は、レーザ光源12と、駆動機構82と、制御部16とを備える。レーザ光源12および制御部16は、上述の第1実施形態と同様に構成されてもよい。駆動機構82は、レーザ光18を反射させるミラー84と、ミラー84を回転させるモータ86と、回転軸88とを含む。ミラー84は、回転軸88に対して傾斜して取り付けられる。モータ86は、回転軸88を中心としてミラー84を一定の角速度ωで回転させる。
【0073】
レーザ光18は、回転軸88に沿ってミラー84に入射する。ミラー84で反射されるレーザ光18は、歳差運動をするように照射方向が変化する。レーザ光18は、回転軸88と直交する平面において、回転軸88の延長線上の点90を中心とする円周92に沿って周回するように照射される。レーザ光18は、円周92に沿った掃引速度が音速vとなる音速掃引位置28において音響パルス30を発生させる。円周92の半径をdとした場合、v=dωとなる円周92上において音響パルス30が発生する。
【0074】
レーザ光源12をオンにしたままとする場合、特定の音速掃引位置28における音響パルス30の発生間隔Tsは、円周92におけるレーザ光18の回転周期によって決まり、Ts=2π/ωとなる。ミラー84から円周92の中心点90までの距離hは、音響パルス30の発生間隔Tsに依存しないため、任意に設定することができる。ミラー84から円周92の中心点90までの距離hは、回転軸88に対するミラー84の傾斜角によって調整できる。
【0075】
制御部16は、駆動機構82の動作周期に合わせて、レーザ光源12によるレーザ光18の出力のオンオフを制御し、音響パルス30の発生間隔を制御する。制御部16は、レーザ光18の掃引周期に合わせてレーザ光源12をオンオフさせ、レーザ光源12を間欠的に動作させることにより、音響パルス30の発生周波数fを可変制御する。例えば、レーザ光18を1回の掃引時間Tsにわたってオンにした後、k-1回の掃引時間(k-1)Tsにわたってオフにするようにレーザ光源12を間欠的に動作させることにより、音響パルス30の発生周波数fをレーザ光18の掃引周波数f=1/Tsの1/k(つまり、f=f/k)にできる。
【0076】
一例として、ミラー84の回転周波数f=217Hz(毎分13,000回転)とすれば、レーザ光18の掃引周波数f=f=217Hzとなり、fを任意の正の整数kで割った周波数f=217/k[Hz]の音響を再生できる。このとき、円周92の半径d=v/2πf=0.25mとなる。
【0077】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、各表示例に示す構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。
【0078】
本実施の形態は、空間音響再生方法として提供されてもよい。この方法は、レーザ光の出力および照射方向の少なくとも一方を間欠的に変化させ、レーザ光が空気中において音速で掃引される位置における音響パルスの発生間隔を可変にすることを含んでもよい。この方法は、上述のいずれかの実施形態に係る音響再生装置を用いて、空間に音響を再生してもよい。
【0079】
本実施の形態は、プログラムとして提供されてもよい。このプログラムは、レーザ光を出力するレーザ光源および前記レーザ光の照射方向を変化させる駆動機構の少なくとも一方を間欠的に動作させ、前記レーザ光が空気中において音速で掃引される位置における音響パルスの発生間隔を可変制御する機能をコンピュータに実行させるよう構成されてもよい。このプログラムは、上述のいずれかの実施形態に係る音響再生装置が備える制御部に含まれるプロセッサによって実行されてもよい。
【符号の説明】
【0080】
10,40,50,60,80…空間音響再生装置、12,62…レーザ光源、14,42,52,82…駆動機構、16…制御部、18,68…レーザ光、28…音速掃引位置、30…音響パルス。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8