(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120706
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】シトラール変質抑制剤及びそれを含む食品
(51)【国際特許分類】
C11B 9/02 20060101AFI20230823BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20230823BHJP
A23L 27/12 20160101ALI20230823BHJP
A23L 27/20 20160101ALI20230823BHJP
A23L 2/00 20060101ALN20230823BHJP
A23L 2/44 20060101ALN20230823BHJP
A23L 29/256 20160101ALN20230823BHJP
A23L 2/56 20060101ALN20230823BHJP
A23L 2/52 20060101ALN20230823BHJP
【FI】
C11B9/02
A23L27/00 Z
A23L27/12
A23L27/20 G
A23L27/20 H
A23L27/20 D
A23L2/00 B
A23L2/00 P
A23L29/256
A23L2/56
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023709
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 直子
(72)【発明者】
【氏名】嵜本 捺愛
(72)【発明者】
【氏名】勝木 淳
【テーマコード(参考)】
4B041
4B047
4B117
4H059
【Fターム(参考)】
4B041LC01
4B041LD01
4B041LH10
4B041LK05
4B041LK11
4B041LP01
4B041LP16
4B047LB03
4B047LB08
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4B047LF07
4B047LF09
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4B047LG06
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4B047LG37
4B047LP01
4B117LC03
4B117LK06
4B117LK08
4B117LK12
4B117LL01
4B117LL02
4B117LL07
4H059BA37
4H059BB14
4H059BB15
4H059BB18
4H059BB19
4H059BB22
4H059BB45
4H059BC12
4H059CA12
4H059CA75
4H059CA76
4H059DA09
4H059EA01
4H059EA03
(57)【要約】
【課題】食品本来の風味を損なわずに、シトラールの変質を抑えて、シトラールからp-メチルアセトフェノン及びp-クレゾールの生成を抑制することにより、オフフレーバーの発生を抑制できるシトラール変質抑制剤、及びシトラールの変質が抑制されたシトラール含有食品を提供すること。
【解決手段】シトラール変質抑制剤の製造方法であって、前記シトラール変質抑制剤は、カテキン、エピガロカテキン、p-メンタ-1,5,8-トリエン、及び、p-メンタ-1,3,8-トリエンを含有し、カテキン及びエピガロカテキンの合計含有量が128~570ppmで、且つ、(カテキン+エピガロカテキン)/(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)(重量比)が15~1400であり、レモンマートルを、比エネルギー0.005~1110kJ/kg、電界強度3~55kV/cm、パルス幅500~40000nsの条件でパルス電界処理した後、抽出処理をする工程を有する、シトラール変質抑制剤の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シトラール変質抑制剤の製造方法であって、
前記シトラール変質抑制剤は、カテキン、エピガロカテキン、p-メンタ-1,5,8-トリエン、及び、p-メンタ-1,3,8-トリエンを含有し、
カテキン及びエピガロカテキンの合計含有量が128~570ppmで、且つ、(カテキン+エピガロカテキン)/(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)(重量比)が15~1400であり、
レモンマートルを、比エネルギー0.005~1110kJ/kg、電界強度3~55kV/cm、パルス幅500~40000nsの条件でパルス電界処理した後、抽出処理をする工程を有する、シトラール変質抑制剤の製造方法。
【請求項2】
カテキン、エピガロカテキン、p-メンタ-1,5,8-トリエン、及び、p-メンタ-1,3,8-トリエンを含有し、
カテキン及びエピガロカテキンの合計含有量が128~570ppmであり、且つ(カテキン+エピガロカテキン)/(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)(重量比)が15~1400である、シトラール変質抑制剤。
【請求項3】
更に、2-エチリデン-6-メチル-3,5-ヘプタジエナールを含有し、
(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)/2-エチリデン-6-メチル-3,5-ヘプタジエナール(重量比)が2~9である、請求項2に記載のシトラール変質抑制剤。
【請求項4】
カテキン、エピガロカテキン、p-メンタ-1,5,8-トリエン、及び、p-メンタ-1,3,8-トリエンがレモンマートル由来の抽出物である、請求項2又は3に記載のシトラール変質抑制剤。
【請求項5】
前記レモンマートル由来の抽出物が、
レモンマートルを、比エネルギー0.005~1110kJ/kg、電界強度3~55kV/cm、パルス幅500~40000nsの条件でパルス電界処理した後、抽出処理をして抽出されたものである、請求項4に記載のシトラール変質抑制剤。
【請求項6】
カテキン、エピガロカテキン、p-メンタ-1,5,8-トリエン、p-メンタ-1,3,8-トリエン、及び、シトラールを含有し、
カテキン及びエピガロカテキンの合計含有量が0.005~50ppm、(カテキン+エピガロカテキン)/(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)(重量比)が15~1400であり、且つシトラール含有量が1~100ppmである食品。
【請求項7】
請求項2~5の何れかに記載のシトラール変質抑制剤を50~2000ppm含有する、請求項6に記載の食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シトラールの変質抑制剤、及びそれを含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
シトラールはハーブや柑橘類に含まれている香味成分であり、柑橘調の香味が強いため、柑橘系の香味を創出する香味材として使用されている。しかし、シトラールは熱や光に非常に不安定であり、異臭、変異臭又は悪臭等のオフフレーバーの原因となる物質に容易に変質してしまう。前記オフフレーバーの原因となる代表物質として、p-メチルアセトフェノンやp-クレゾールが知られており、これらの生成を抑制することが長年の課題となっていた。
【0003】
特許文献1には、シトラールを含有する製品に抗酸化性成分と遷移金属イオンを含有させることにより、p-クレゾールの生成を抑制する方法が開示され、前記抗酸化性成分としてエピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、没食子酸、クエルシトリン、アスコルビン酸が好ましい旨が記載されている。
【0004】
更に非特許文献1には、カテキンの単独添加及びエピガロカテキンの単独添加の何れによってもp-メチルアセトフェノンの生成が抑制される旨が記載されている。
【0005】
しかし、前記カテキンやエピガロカテキンは特有の強い風味を呈するため、上記の方法では何れも、特に風味の穏やかな食品に添加した場合や、効果を高めるため一定量以上添加した場合に、食品本来の風味を損なってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】2015年度博士学位論文、中部大学、植野壽夫、13-24頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記状況に鑑み、我々は、食品本来の風味を損なわずに、シトラールを含有する食品においてp-メチルアセトフェノンやp-クレゾールなどのオフフレーバーの原因物質の生成を抑制できる方法を検討してきた。そこで本発明の目的は、食品本来の風味を損なわずに、シトラールの変質を抑えて、シトラールからp-メチルアセトフェノン及びp-クレゾールの生成を抑制することにより、オフフレーバーの発生を抑制できるシトラール変質抑制剤、及びシトラールの変質が抑制されたシトラール含有食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、カテキン及びエピガロカテキンの合計含有量が特定の範囲であり、p-メンタ-1,5,8-トリエンとp-メンタ-1,3,8-トリエンの合計量に対するカテキン及びエピガロカテキンの合計量の比が特定の範囲のシトラール変質抑制剤を、シトラールを含有する食品に添加することで、その食品本来の風味を損なうことなく、シトラールからp-メチルアセトフェノン及びp-クレゾールの生成を抑制することにより、オフフレーバーの発生を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の第一は、シトラール変質抑制剤の製造方法であって、前記シトラール変質抑制剤は、カテキン、エピガロカテキン、p-メンタ-1,5,8-トリエン、及び、p-メンタ-1,3,8-トリエンを含有し、カテキン及びエピガロカテキンの合計含有量が128~570ppmで、且つ、(カテキン+エピガロカテキン)/(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)(重量比)が15~1400であり、レモンマートルを、比エネルギー0.005~1110kJ/kg、電界強度3~55kV/cm、パルス幅500~40000nsの条件でパルス電界処理した後、抽出処理をする工程を有する、シトラール変質抑制剤の製造方法に関する。本発明の第二は、カテキン、エピガロカテキン、p-メンタ-1,5,8-トリエン、及び、p-メンタ-1,3,8-トリエンを含有し、カテキン及びエピガロカテキンの合計含有量が128~570ppmであり、且つ(カテキン+エピガロカテキン)/(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)(重量比)が15~1400である、シトラール変質抑制剤に関する。好ましい実施態様は、前記シトラール変質抑制剤において、更に、2-エチリデン-6-メチル-3,5-ヘプタジエナールを含有し、(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)/2-エチリデン-6-メチル-3,5-ヘプタジエナール(重量比)が2~9である。より好ましい実施態様は、前記シトラール変質抑制剤において、カテキン、エピガロカテキン、p-メンタ-1,5,8-トリエン、及び、p-メンタ-1,3,8-トリエンがレモンマートル由来の抽出物である。更に好ましい実施態様は、前記シトラール変質抑制剤において、前記レモンマートル由来の抽出物が、レモンマートルを、比エネルギー0.005~1110kJ/kg、電界強度3~55kV/cm、パルス幅500~40000nsの条件でパルス電界処理した後、抽出処理をして抽出されたものである。本発明の第三は、カテキン、エピガロカテキン、p-メンタ-1,5,8-トリエン、p-メンタ-1,3,8-トリエン、及び、シトラールを含有し、カテキン及びエピガロカテキンの合計含有量が0.005~50ppm、(カテキン+エピガロカテキン)/(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)(重量比)が15~1400であり、且つシトラール含有量が1~100ppmである食品に関する。好ましい実施態様は、前記食品において、前記シトラール変質抑制剤を50~2000ppm含有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に従えば、食品本来の風味を損なわずに、シトラールの変質を抑えて、シトラールからp-メチルアセトフェノン及びp-クレゾールの生成を抑制することにより、オフフレーバーの発生を抑制できるシトラール変質抑制剤、及びシトラールの変質が抑制されたシトラール含有食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明につき、更に詳細に説明する。本発明のシトラール変質抑制剤は、カテキン、エピガロカテキン、p-メンタ-1,5,8-トリエン(英語表記の化学名:1,5,8-p-Menthatriene)及びp-メンタ-1,3,8-トリエン(英語表記の化学名:1,3,8-p-Menthatriene)を特定量含有する。当該シトラール変質抑制剤は、シトラールを含有する食品に対する添加剤として使用することができ、特定量食品に添加することにより、シトラールからp-メチルアセトフェノン及びp-クレゾールの生成を好適に抑制することができる。
【0013】
前記カテキンは、フラボノイドの1種でCAS番号:154-23-4、英語表記の化学名が(+)-Catechinのものをいう。また、前記エピガロカテキンは、CAS番号:970-74-1、英語表記の化学名が(-)-Epigallocatechinのものをいう。
【0014】
前記カテキン及び前記エピガロカテキンの合計含有量は、前記シトラール変質抑制剤中128~570ppmが好ましく、138~550ppmがより好ましく、195~530ppmが更に好ましく、270~530ppmが特に好ましい。前記カテキン及び前記エピガロカテキンの合計含有量が128ppmより少ないと、シトラールの変質を抑制する効果が得られない場合があり、570ppmよりも多いと、食品本来の風味が損なわれる場合がある。
【0015】
前記シトラール変質抑制剤において、(カテキン+エピガロカテキン)/(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)(重量比)は、15~1400が好ましく、15~1000がより好ましく、15~650が更に好ましく、17~440が特に好ましい。該重量比が15より小さいと、カテキン及びエピガロカテキンに特有の強い風味に対するマスキング効果が頭打ちになる場合があり、1400より大きいと、カテキン及びエピガロカテキンに特有の強い風味に対するマスキング効果が十分に発揮されず、食品本来の風味が損なわれる場合がある。
【0016】
前記シトラール変質抑制剤は、更に、2-エチリデン-6-メチル-3,5-ヘプタジエナール(英語表記の化学名:3,5-Heptadienal,2-ethylidene-6-methyl)を含有することが好ましい。
【0017】
カテキン及びエピガロカテキンに特有の強い風味に対するマスキング効果がより高く食品本楽の風味をより感じられるという観点から、(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)/2-エチリデン-6-メチル-3,5-ヘプタジエナール(重量比)が2~9を満たす範囲で前記2-エチリデン-6-メチル-3,5-ヘプタジエナールを含有することが好ましく、前記範囲は3.5~9がより好ましく、6~9が更に好ましい。
【0018】
前記シトラール変質抑制剤及び前記食品における前記カテキン及び前記エピガロカテキンの含有量の測定方法としては、液体クロマトグラフィー質量分析法等が挙げられる。具体的には、試料液をメタノールで適宜希釈し、LC/MS/MS分析すればよい。その際の測定条件は、以下の通りである。
【0019】
[LC/MS/MS操作条件]
(HPLC条件)
装置:島津製作所製 Nexeraシステム
カラム:ACQUITY UPLC BEH C18、2.1×100mm、1.7μm(Waters製)
移動相:(A)0.1%ギ酸含有水溶液、(B)0.1%ギ酸含有アセトニトリル
流量:0.3mL/min
カラム温度:35℃
【0020】
(MS/MS条件)
装置:AB SCIEX製「QTRAP 5000」
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法(負イオン検出モード)
モニタリングイオン:
カテキン ;289.0→109.0(Da)
エピガロカテキン;305.0→125.0(Da)
【0021】
また、前記シトラール、前記p-メチルアセトフェノン、前記p-クレゾール、前記2-エチリデン-6-メチル-3,5-ヘプタジエナール、前記p-メンタ-1,5,8-トリエン、及び、前記p-メンタ-1,3,8-トリエンの含有量の測定方法としては、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS)等が挙げられる。具体的には、試料液に内部標準物質を適宜混合し、ダイナミックヘッドスペース(DHS)-GC/MS分析法にて各成分と内部標準物質のピーク面積比率を算出し、GC/MSにて分析すればよい。その際の測定条件は、以下の通りである。
【0022】
[GC/MS操作条件]
(前処理条件)
装置:GERSTEL製「MPS2-XT」
加温時間・温度:40℃・5分
捕集管:Tenax TA
内部標準物質:o-クレゾール-d8
【0023】
(GC/MS条件)
装置:Agilent Technologies製 7890A、Agilent Technologies製 5975C Inert
カラム:DB-WAX
【0024】
前記カテキン、前記エピガロカテキン、前記p-メンタ-1,5,8-トリエン、及び、前記p-メンタ-1,3,8-トリエンは、それらの含有量の調整が容易であることから、レモンマートル由来の抽出物であることが好ましい。ここでレモンマートルは、オーストラリア原産のフトモモ科の植物の1種であり、学名はBackhousia citriodoraという。
【0025】
前記レモンマートル由来の抽出物を得るには、例えば、レモンマートルから溶媒を用いて抽出すればよい。溶媒を用いて抽出するための方法としては、食品分野で使用可能な方法であればよく、例えば、パルス電界処理による抽出、加熱しながらの攪拌抽出、還流抽出等が挙げられ、特に抽出効率の観点から、パルス電界処理が好ましい。
【0026】
前記パルス電界処理とは、一対の電極間に印加したパルス電圧により生じる電界中に試料を暴露し、試料中の細胞の性質を変化させる処理方法をいう。
【0027】
前記溶媒としては、水、エタノール、プロピレングリコール、トリアセチン、グリセリン、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、アセトン、及び、酢酸エチルからなる群より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。なお、抽出効率や消費者の安全志向の観点から、水及び/又はエタノールが好ましい。
【0028】
前記シトラール変質抑制剤を、シトラールを含む食品に使用することで、本発明の効果をより良好に享受することができる。ここでシトラールとは、レモン及びグレープフルーツ等の柑橘類の果皮;並びにレモングラス、レモンマートル、及びこれらと同属種の植物の葉等に含まれるモノテルペンアルデヒドの一種で、CAS番号は5392-40-5であり、強い柑橘類の香りをもつ油性液体である。
【0029】
前記シトラールを含む食品としては、例えば、炭酸飲料、清涼飲料、果汁飲料類、乳飲料類、乳酸菌飲料類、ドリンク剤類、豆乳、茶飲料等の飲料類;チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒等のアルコール飲料類;アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓、ヨーグルト、プリン、ゼリー等のデザート類;キャラメル、キャンディー、錠菓、クラッカー、ビスケット、クッキー、パイ、チョコレート、スナック、チューインガム等の菓子類;和風スープ、洋風スープ等のスープ類;ジャム類;ポン酢、ドレッシング等の風味調味料類;各種インスタント飲料類;各種インスタント食品類等が挙げられる。この中でも、飲料類、アルコール飲料類、デザート類が好ましい。
【0030】
前記シトラールを含む食品中のカテキン及びエピガロカテキンの合計含有量は、0.005~50ppmが好ましく、0.005~35ppmがより好ましく、0.01~35ppmが更に好ましく、0.01~2ppmが特に好ましい。合計含有量が0.005ppmより少ないと、シトラールの変質を抑制する効果が得られない場合があり、50ppmより多いと、食品本来の風味が損なわれる場合がある。
【0031】
前記シトラールを含む食品中の(カテキン+エピガロカテキン)/(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)(重量比)は、15~1400が好ましく、15~1000がより好ましく、15~650が更に好ましく、17~440が特に好ましい。該重量比が15より小さいと、カテキン及びエピガロカテキンに特有の強い風味に対するマスキング効果が頭打ちになる場合があり、1400より大きいと、カテキン及びエピガロカテキンに特有の強い風味に対するマスキング効果が十分に発揮されず、食品本来の風味が損なわれる場合がある。
【0032】
前記シトラールを含む食品中のシトラール含有量は、1~100ppmが好ましく、1~50ppmがより好ましく、1~10ppmが更に好ましい。シトラール含有量が1ppmより少ないと、シトラールの香味が十分に創出されない場合があり、100ppmより多いと、その食品本来の風味を損なわずに、シトラールの変質を十分に抑制できない場合がある。
【0033】
また、本発明の効果をより良好に享受する観点から、前記シトラールを含む食品中のシトラール/(カテキン+エピガロカテキン)(重量比)は0.3~150が好ましく、1~55がより好ましく、1~35が更に好ましく、1~25が特に好ましい。
【0034】
前記シトラールを含む食品中にカテキン、エピガロカテキン、p-メンタ-1,5,8-トリエン、p-メンタ-1,3,8-トリエン、及び2-エチリデン-6-メチル-3,5-ヘプタジエナールを添加する際、夫々の成分を個別に添加しても、全ての成分を混合してから添加しても構わないが、目的とする含有量の範囲に容易に調整できることから、前記シトラール変質抑制剤を使用することが好ましい。
【0035】
前記シトラール変質抑制剤を食品に使用する場合、食品中のシトラール変質抑制剤の含有量は、シトラールを含む食品中50~2000ppmが好ましく、60~2000ppmがより好ましく、70~2000ppmが更に好ましい。シトラール変質抑制剤の含有量が50ppmより少ないと、シトラールの変質を抑制する効果が十分に得られない場合があり、2000ppmより多いと、効果が頭打ちになる場合や、食品本来の風味が損なわれる場合がある。
【0036】
本発明におけるシトラール変質抑制剤の製造方法の一実施態様を以下に例示する。即ち、レモンマートルを、比エネルギー0.005~1110kJ/kg、電界強度3~55kV/cm、パルス幅500~40000nsの条件でパルス電界処理した後、抽出処理をする工程を有するものが好ましい。抽出処理の後、好適には必要に応じて抽出残渣を除去する工程を有することができる。
【0037】
より具体的には、例えば、適宜細断した前記レモンマートルと溶媒を、レモンマートル(乾燥重量)/溶媒(重量比)が好適には0.05~0.2となるように混ぜ合わせて混合物を得、当該混合物についてパルス電界処理を行った後、抽出処理を行うことができる。
【0038】
前記パルス電界処理時の温度は、5~80℃が好ましく、5~60℃がより好ましい。5℃より低いと有効成分の抽出効率が悪くなる場合や、シトラール変質抑制剤の製造が困難になる場合がある。80℃より高いと、レモンマートルの風味や抽出した有効成分の変質等が生じ、目的とするレモンマートル由来の抽出物(有効成分)が得られない場合がある。ここで、有効成分は、少なくともカテキン、エピガロカテキン、p-メンタ-1,5,8-トリエン、及びp-メンタ-1,3,8-トリエンを含むものであり、好適には更に2-エチリデン-6-メチル-3,5-ヘプタジエナーを含むものである。
【0039】
前記パルス電界処理時の比エネルギーは、0.005~1110kJ/kgが好ましく、0.08~1110kJ/kgがより好ましく、6.3~1110kJ/kgが更に好ましく、45~1110kJ/kgが特に好ましい。比エネルギーが0.005kJ/kgより小さいと、シトラール変質抑制効果における有効成分が得られない場合がある。また1110kJ/kgより大きいと、生産時間がかかり過ぎたり、設備化コストが膨大になって製造が困難になる場合がある。なお、前記比エネルギーは、レモンマートルに付与するエネルギーを指し、レモンマートルと溶媒の混合物の導電率×電界強度の2乗×パルス幅×パルスショット数で算出される。
【0040】
前記パルス電界処理時の電界強度は、3~55kV/cmが好ましく、10~53kV/cmがより好ましく、10~28kV/cmが更に好ましい。電界強度が3kV/cmより小さいと、シトラール変質抑制効果における有効成分が得られない場合があり、55kV/cmより大きいと、設備化コストが膨大になる場合がある。なお、前記電界強度とは、出力電圧(kV)と電極間の距離(cm)より算出される値である。電圧のかかっている2枚の平板導体の間に電荷を入れると、その電荷には電気的な力が働く。その電荷に力が働く領域を電界いい、その力の強さを電界強度という。
【0041】
前記パルス電界処理時のパルス幅は、500~40000nsが好ましく、500~2000nsがより好ましく、500~1450nsが更に好ましく、580~1450nsが特に好ましい。パルス幅が上記範囲を外れると、シトラール変質抑制効果における有効成分が得られない場合がある。なお、前記パルス幅とはパルスが継続する時間であり、波形は特に限定されるものではなく、例えば、矩形波状、三角波状、正弦波状等の何れであっても良い。前記パルスパワー発生装置の回路構成を変えることで調整でき、該波形はオシロスコープで観察することができる。
【0042】
前記抽出処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、加圧抽出、加熱攪拌抽出、還流抽出等が挙げられる。
【0043】
前記抽出処理において加圧抽出を行う場合の抽出条件を以下に例示する。加圧条件は、0.01~50MPa(ゲージ圧)が好ましく、0.05~5MPa(ゲージ圧)がより好ましく、0.1~0.5MPa(ゲージ圧)が更に好ましい。加圧条件が0.01MPa(ゲージ圧)より低いと抽出効率が低下する場合があり、50MPa(ゲージ圧)より高いと製造設備が大掛かりになり製造コストが高くなる場合がある。なお、ゲージ圧とは、大気圧をゼロとする相対的な圧力のことである。
【0044】
加圧抽出を行う際の温度は、0~100℃が好ましく、20~80℃がより好ましく、40~60℃が更に好ましい。抽出温度が0℃より低いと抽出効率が低下する場合があり、100℃より高いと、焦げた香味、不快な後味などの好ましくない香味が生成される場合がある。
【0045】
加圧抽出に要する時間は、30秒間~600分間が好ましく、5~120分間がより好ましく、30~60分間が更に好ましい。抽出時間が30秒間より短いと抽出効率が悪くなる場合があり、600分間より長くても抽出効率が頭打ちになる場合がある。
【0046】
前記抽出残渣の除去方法としては、特に限定されないが、例えば、濾過、遠心分離、沈降分離、圧搾等が挙げられる。
【0047】
本発明のシトラール変質抑制剤としては、レモンマートル由来の抽出物を用いて調製する場合、レモンマートルについてパルス電界処理及び抽出処理をした抽出物そのもの、パルス電界処理及び抽出処理後に残渣を除去した抽出物そのもの、又は、これらの抽出物を濃縮した濃縮物若しくは希釈した希釈物を使用することができる。
【0048】
また、前記シトラール変質抑制剤の形態は前記抽出物を乾燥して得られる固形物であってもよい。前記固形物の形状は特に限定されず、粉末状、顆粒状、ブロック状等の形状であってもよい。
【0049】
前記シトラール変質抑制剤は、カテキン、エピガロカテキン、p-メンタ-1,5,8-トリエン、及び、p-メンタ-1,3,8-トリエン以外の任意成分を含有してもよい。そのような任意成分としては、発明の効果を阻害しない限り特に限定されず、レモンマートル由来の抽出物の抽出に用いる溶媒;バレンセン,ヌートカトン等のテルペン炭化水素;α,β-シネンオール,α-テルピネオール,ボルネオールを含むテルペンアルコール等の柑橘風味を有する成分;並びにアルコール類、糖類等の食品成分等が挙げられる。
【0050】
本発明のシトラール変質抑制剤を食品に使用する方法は特に限定されず、常法に従えばよく、例えば、食品の製造中又は製造後に添加及び混合する等して食品に配合すればよい。
【実施例0051】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0052】
また、実施例及び比較例で使用した原料は以下の通りである。
1)(株)カーギルジャパン製「オーストラリア産レモンマートル」
2)山一化学工業(株)製「特定95度発酵アルコール」を、水でアルコール濃度を60%に希釈したもの
3)山一化学工業(株)製「特定95度発酵アルコール」
4)富士フィルム和光純薬(株)製「プロピレングリコール食品添加物」
5)富士フィルム和光純薬(株)製「(+)-カテキン標準品」
6)富士フィルム和光純薬(株)製「(-)-エピガロカテキン標準品」
7)日新製糖(株)製「グラニュ糖」
8)DSP五協フード&ケミカル(株)製「クエン酸(無水)」
9)扶桑化学工業(株)製「精製クエン酸ナトリウム」
10)富士フィルム和光純薬(株)製「シトラール(cis-,trans-混合物)」
11)(株)長野サンヨーフーズ製「レモン濃縮果汁400GPL混濁」
12)伊那食品工業(株)製「イナアガーL」
【0053】
<各含有量の測定方法>
カテキン、エピガロカテキンの含有量は、前述したLC/MS/MS分析法に基づいて分析した。また、シトラール、p-メチルアセトフェノン、p-クレゾール、2-エチリデン-6-メチル-3,5-ヘプタジエナール、p-メンタ-1,5,8-トリエン、及び、p-メンタ-1,3,8-トリエンの含有量は、前述したGC/MS分析法に基づいて測定した。
【0054】
<シトラール変質抑制効果の評価>
グラニュ糖:7.5重量部、クエン酸:0.2重量部、クエン酸Na:0.04重量部を、全体量が100重量部になるように水に溶解後、80℃で10分間加熱殺菌処理して評価用飲料を作製した。該評価用飲料99.85重量部とシトラール変質抑制剤0.15重量部を混合し、該評価用飲料中のシトラール含有量が10ppmになるようにシトラールを添加し、評価用飲料(試験区)を作製した。一方、評価用飲料100重量部にシトラール10ppmを添加し、シトラール変質抑制剤を含まない評価用飲料(対照区)を調製した。これらの評価用飲料を遮光下、55℃で2週間保管した後、夫々のp-メチルアセトフェノン及びp-クレゾールの生成量をDHS―GC/MS分析法により測定し、次式によりシトラール変質率(%)求め、以下の基準にて評価した。
【0055】
シトラール変質率(%)={(試験区のp-メチルアセトフェノン量)/(対照区のp-メチルアセトフェノン量)}×100+{(試験区のp-クレゾール量)/(対照区のp-クレゾール量)}×100
5点:シトラール変質率が、0%以上、40%未満であり、シトラール変質抑制効果が非常に高い
4点:シトラール変質率が、40%以上、60%未満であり、シトラール変質抑制効果が高い
3点:シトラール変質率が、60%以上、80%未満であり、シトラール変質抑制効果がやや劣るが、商品品質上は問題ないレベルである
2点:シトラール変質率が、80%以上、100%未満であり、シトラール変質抑制効果が低い
1点:シトラール変質率が、100%以上、200%以下であり、シトラール変質抑制効果が非常に低い
【0056】
<シトラール含有食品の評価>
実施例及び比較例で得られた各シトラール含有食品を製造後、所定の条件で保管してから熟練した10人のパネラーが各評価を行い、その評価点の平均値を官能評価とした。その際の評価基準は以下の通りとした。
【0057】
(食品本来の風味)
シトラール変質抑制剤が無添加で製造直後のシトラール含有食品(参考例1~5)との比較
5点:参考例と同等で、シトラール含有食品本来の風味がしっかりと感じられる
4点:参考例よりも僅かに劣るが、シトラール含有食品本来の風味が感じられる
3点:参考例よりも劣り、シトラール含有食品本来の風味が若干弱く感じられるが、商品品質上は問題ないレベルである
2点:参考例よりも悪く、シトラール含有食品本来の風味があまり感じられない
1点:参考例よりも非常に悪く、シトラール含有食品本来の風味が全く感じられない
【0058】
(オフフレーバーの無さ)
シトラール変質抑制剤が無添加で製造直後のシトラール含有食品(参考例1~5)との比較
5点:参考例と同等で、オフフレーバーは全く感じられない
4点:参考例よりも僅かに劣るが、オフフレーバーは感じられない
3点:参考例よりも劣り、オフフレーバーが若干感じられるが、商品品質上は問題ないレベルである
2点:参考例よりも悪く、オフフレーバーが感じられる
1点:参考例よりも非常に悪く、オフフレーバーが明らかに感じられる
【0059】
(総合評価)
食品本来の風味、及び、オフフレーバーの無さの評価結果を基に、総合評価を行った。その際の評価基準は以下の通りである。
A:食品本来の風味、及び、オフフレーバーの無さの評価がどちらも4.0点以上5.0点以下を満たしているもの
B:食品本来の風味、及び、オフフレーバーの無さの評価がどちらも3.5点以上5.0点以下であって、且つ3.5点以上4.0点未満が少なくとも一つあるもの
C:食品本来の風味、及び、オフフレーバーの無さの評価がどちらも3.0点以上5.0点以下であって、且つ3.0点以上3.5点未満が少なくとも一つあるもの
D:食品本来の風味、及び、オフフレーバーの無さの評価がどちらも2.0点以上5.0点以下であって、且つ2.0点以上3.0点未満が少なくとも一つあるもの
E:食品本来の風味、及び、オフフレーバーの無さの評価において、2.0点未満が少なくとも一つあるもの
【0060】
(実施例1) パルス電界処理抽出物の作製
表1に記載の配合に従い、試料として乾燥レモンマートル(カーギル社):14.3重量部及び溶媒として60wt%エタノール水溶液:85.7重量部を高電圧パルス処理システムの試料処理槽に入れ、表1に記載の条件(比エネルギー:101kJ/kg、電界強度:25kV/cm、パルス幅600ns)でパルス電界処理を行った。パルス電界処理後、前記試料処理槽内の試料及び溶媒を撹拌機付きガラス容器(耐圧硝子工業株式会社製;TEM-U1000N)に移し、表1に記載の抽出条件(ゲージ圧:0.2MPa、温度:40℃、抽出時間:30min)で抽出を行った。抽出後、ろ紙(ADVANTEC社製 No.2)により濾過を行うことで固形分を除去し、パルス電界処理抽出物を得て、これをそのままシトラール変質抑制剤とした。得られたパルス電界処理抽出物(シトラール変質抑制剤)の成分含有量測定、及び、シトラール変質抑制効果の結果を表1に示した。
【0061】
【0062】
(実施例2) パルス電界処理抽出物の作製
表1に従って、溶媒として60wt%エタノール水溶液を95wt%エタノール水溶液に、比エネルギー:101kJ/kgを0.009kJ/kgに、電界強度:25kV/cmを4kV/cmに、パルス幅600nsを1400nsに変更した以外は、実施例1と同様にして、パルス電界処理抽出物を得て、これをそのままシトラール変質抑制剤とした。得られたパルス電界処理抽出物(シトラール変質抑制剤)の成分含有量測定、及び、シトラール変質抑制効果の結果を表1に示した。
【0063】
(実施例3) パルス電界処理抽出物の作製
表1に従って、溶媒として60wt%エタノール水溶液を50wt%プロピレングリコール水溶液に、比エネルギー:101kJ/kgを48kJ/kgに変更した以外は、実施例1と同様にして、パルス電界処理抽出物を得て、これをそのままシトラール変質抑制剤とした。得られたパルス電界処理抽出物(シトラール変質抑制剤)の成分含有量測定、及び、シトラール変質抑制効果の結果を表1に示した。
【0064】
(実施例4) パルス電界処理抽出物の作製
表1に従って、試料として乾燥レモンマートル:14.3重量部を6.5重量部に、溶媒として60wt%エタノール水溶液:85.7重量部を93.5重量部に、比エネルギー:101kJ/kgを24kJ/kgに変更した以外は、実施例1と同様にして、パルス電界処理抽出物を得て、これをそのままシトラール変質抑制剤とした。得られたパルス電界処理抽出物(シトラール変質抑制剤)の成分含有量測定、及び、シトラール変質抑制効果の結果を表1に示した。
【0065】
(実施例5) パルス電界処理抽出物の作製
表1に従って、比エネルギー:101kJ/kgを8kJ/kgに、電界強度:25kV/cmを4kV/cmに、パルス幅600nsを35000nsに変更した以外は、実施例1と同様にして、パルス電界処理抽出物を得て、これをそのままシトラール変質抑制剤とした。得られたパルス電界処理抽出物(シトラール変質抑制剤)の成分含有量測定、及び、シトラール変質抑制効果の結果を表1に示した。
【0066】
(比較例1) パルス電界処理抽出物の作製
表1に従って、試料として乾燥レモンマートル:14.3重量部を6.5重量部に、溶媒として60wt%エタノール水溶液:85.7重量部を93.5重量部に、比エネルギー:101kJ/kgを0.028kJ/kgに、電界強度:25kV/cmを2kV/cmに、パルス幅600nsを1200nsに変更した以外は、実施例1と同様にして、パルス電界処理抽出物を得た。得られたパルス電界処理抽出物の成分含有量測定、及び、シトラール変質抑制効果の結果を表1に示した。
【0067】
(比較例2) パルス電界処理抽出物の作製
表1に従って、試料として乾燥レモンマートル:14.3重量部を6.5重量部に、溶媒として60wt%エタノール水溶液:85.7重量部を93.5重量部に、比エネルギー:101kJ/kgを0.003kJ/kgに、電界強度:25kV/cmを4kV/cmに変更した以外は、実施例1と同様にして、パルス電界処理抽出物を得た。得られたパルス電界処理抽出物の成分含有量測定、及び、シトラール変質抑制効果の結果を表1に示した。
【0068】
比エネルギーが0.005~1110kJ/kg、電界強度が3~55kV/cm、パルス幅が500~40000nsの条件でパルス電界処理することにより、カテキン及びエピガロカテキンの合計含有量が128~570ppmであり、且つ(カテキン+エピガロカテキン)/(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)(重量比)が15~1400であるパルス電界処理抽出物(シトラール変質抑制剤)が得られた(実施例1~5)。表1から明らかなように、これらのシトラール変質抑制剤は、何れもシトラール変質抑制効果の評価が良好であった。
【0069】
一方、電界強度が2kV/cmと低い条件でパルス電界処理することにより、カテキン及びエピガロカテキンの合計含有量が110ppmと低く、(カテキン+エピガロカテキン)/(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)(重量比)が44000と高いパルス電界処理抽出物が得られ(比較例1)、比エネルギーが0.003kJ/kgと低い条件でパルス電界処理することにより、カテキン及びエピガロカテキンの合計含有量が125ppmと低く、(カテキン+エピガロカテキン)/(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)(重量比)が62500と高いパルス電界処理抽出物が得られた(比較例2)。表1から明らかなように、これらのパルス電界処理抽出物は、何れもシトラール変質抑制効果の評価が劣った。
【0070】
(実施例6) シトラール変質抑制剤の作製
表2に従って、実施例4で得られたパルス電界処理抽出物:99.9825重量部、カテキン:0.010重量部、エピガロカテキン:0.0075重量部を混合して、シトラール変質抑制剤を作製した。得られたシトラール変質抑制剤の成分含有量測定、及び、シトラール変質抑制効果の結果を表2に示した。
【0071】
【0072】
表2から明らかなように、カテキン及びエピガロカテキンの合計含有量が128~570ppmで、(カテキン+エピガロカテキン)/(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)(重量比)が15~1400で、且つ、(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)/2-エチリデン-6-メチル-3,5-ヘプタジエナール(重量比)が2~9の範囲にあるシトラール変質抑制(実施例4及び6)は、シトラール変質抑制効果の評価が良好であった。
【0073】
(実施例7) シトラール含有飲料の作製
表3の配合に従い、グラニュ糖:7.5重量部、クエン酸:0.2重量部、クエン酸3Na:0.04重量部、シトラール:0.0005重量部、実施例1のシトラール変質抑制剤:0.15重量部を、水:92.1095重量部に溶解後、80℃で10分間加熱殺菌処理して、シトラール含有飲料を作製した。得られたシトラール含有飲料を、遮光下、55℃で14日間保管した後の食品本来の風味、及び、オフフレーバーの無さについて評価した結果を表3に示した。
【0074】
【0075】
(比較例3) シトラール含有飲料の作製
表3の配合に従い、実施例1のシトラール変質抑制剤を配合せず、水で全体量を調整した以外は、実施例7と同様にして、シトラール含有飲料を作製した。得られたシトラール含有飲料を、遮光下、55℃で14日間保管した後の食品本来の風味、及び、オフフレーバーの無さについて評価した結果を表3に示した。
【0076】
(参考例1)
比較例3で得たシトラール含有飲料を、製造直後で保管前に官能評価を行った結果を参考例1として表3に示したように、実施例7及び比較例3と比較検討した。
【0077】
表3から明らかなように、シトラール変質抑制剤を配合したシトラール含有飲料(実施例7)は、遮光下、55℃で14日間保管した後も、食品本来の風味が感じられ、オフフレーバーの発生は無く、良好な評価であった。一方、シトラール変質抑制剤を配合しなかったシトラール含有飲料(比較例3)は、保管後に食品本来の風味が損なわれ、オフフレーバーも感じられて、総合評価はEであった。
【0078】
(実施例8) シトラール含有飲料の作製
表3の配合に従い、実施例1のシトラール変質抑制剤を、実施例2のシトラール変質抑制剤に変更し、シトラール:0.0005重量部を0.0010重量部に変えて、全体量を水で調整した以外は、実施例7と同様にして、シトラール含有飲料を作製した。得られたシトラール含有飲料を、遮光下、55℃で14日間保管した後の食品本来の風味、及び、オフフレーバーの無さについて評価した結果を表3に示した。
【0079】
(比較例4) シトラール含有飲料の作製
表3の配合に従い、実施例2のシトラール変質抑制剤を配合せず、水で全体量を調整した以外は、実施例8と同様にして、シトラール含有飲料を作製した。得られたシトラール含有飲料を、遮光下、55℃で14日間保管した後の食品本来の風味、及び、オフフレーバーの無さについて評価した結果を表3に示した。
【0080】
(参考例2)
比較例4で得たシトラール含有飲料を、製造直後で保管前に官能評価を行った結果を参考例2として表3に示したように、実施例8及び比較例4と比較検討した。
【0081】
表3から明らかなように、シトラール変質抑制剤を配合したシトラール含有飲料(実施例8)は、遮光下、55℃で14日間保管した後も、食品本来の風味が感じられ、オフフレーバーの発生は無く、良好な評価であった。一方、シトラール変質抑制剤を配合しなかったシトラール含有飲料(比較例4)は、保管後に食品本来の風味が損なわれ、オフフレーバーも感じられて、総合評価はEであった。
【0082】
(実施例9) シトラール含有飲料の作製
表3の配合に従い、実施例1のシトラール変質抑制剤を、実施例3のシトラール変質抑制剤に変更し、シトラール:0.0005重量部を0.0020重量部に変え、全体量を水で調整した以外は、実施例7と同様にして、シトラール含有飲料を作製した。得られたシトラール含有飲料を、遮光下、55℃で14日間保管した後の食品本来の風味、及び、オフフレーバーの無さについて評価した結果を表3に示した。
【0083】
(比較例5) シトラール含有飲料の作製
表3の配合に従い、実施例3のシトラール変質抑制剤を、比較例1のパルス電界処理抽出物に変更した以外は、実施例9と同様にして、シトラール含有飲料を作製した。得られたシトラール含有飲料を、遮光下、55℃で14日間保管した後の食品本来の風味、及び、オフフレーバーの無さについて評価した結果を表3に示した。
【0084】
(比較例6) シトラール含有飲料の作製
表3の配合に従い、実施例3のシトラール変質抑制剤を配合せず、水で全体量を調整した以外は、実施例9と同様にして、シトラール含有飲料を作製した。得られたシトラール含有飲料を、遮光下、55℃で14日間保管した後の食品本来の風味、及び、オフフレーバーの無さについて評価した結果を表3に示した。
【0085】
(参考例3)
比較例6で得たシトラール含有飲料を、製造直後で保管前に官能評価を行った結果を参考例3として表3に示したように、実施例9及び比較例5、6と比較検討した。
【0086】
表3から明らかなように、シトラール変質抑制剤(実施例3)を配合した、カテキン及びエピガロカテキンの合計含有量が0.005~50ppm、(カテキン+エピガロカテキン)/(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)(重量比)が15~1400であり、且つシトラール含有量が1~100ppmの範囲にあるシトラール含有飲料(実施例9)は、遮光下、55℃で14日間保管した後も、食品本来の風味が感じられ、オフフレーバーの発生は無く、良好な評価であった。一方、比較例1のパルス電界処理抽出物を配合した、カテキン+エピガロカテキン)/(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)(重量比)が44000と大きいシトラール含有飲料(比較例5)は、保管後に食品本来の風味が損なわれ、オフフレーバーも感じられて、総合評価はDであった。また、シトラール変質抑制剤を配合しなかったシトラール含有飲料(比較例6)は、保管後に食品本来の風味が明らかに損なわれ、オフフレーバーも非常に感じられて、総合評価はEであった。
【0087】
(実施例10及び11、比較例7) シトラール含有飲料の作製
表4の配合に従い、シトラール:0.0005重量部を0.0025重量部に変え、実施例1のシトラール変質抑制剤を、実施例4のシトラール変質抑制剤(実施例10)、実施例6のシトラール変質抑制剤(実施例11)、又は、比較例2のパルス電界処理抽出物(比較例7)に変更し、全体量を水で調整した以外は、実施例7と同様にして、シトラール含有飲料を作製した。得られたシトラール含有飲料を、遮光下、55℃で14日間保管した後の食品本来の風味、及び、オフフレーバーの無さについて評価した結果を表4に示した。
【0088】
【0089】
(比較例8) シトラール含有飲料の作製
表4の配合に従い、実施例4のシトラール変質抑制剤を配合せず、水で全体量を調整した以外は、実施例10と同様にして、シトラール含有飲料を作製した。得られたシトラール含有飲料を、遮光下、55℃で14日間保管した後の食品本来の風味、及び、オフフレーバーの無さについて評価した結果を表3に示した。
【0090】
(参考例4)
比較例8で得たシトラール含有飲料を、製造直後で保管前に官能評価を行った結果を参考例4として表4に示したように、実施例10、11及び比較例7、8と比較検討した。
【0091】
表4から明らかなように、シトラール変質抑制剤(実施例4及び6)を配合した、カテキン及びエピガロカテキンの合計含有量が0.005~50ppm、(カテキン+エピガロカテキン)/(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)(重量比)が15~1400であり、且つシトラール含有量が1~100ppmの範囲にあるシトラール含有飲料(実施例10及び11)は、遮光下、55℃で14日間保管した後も、食品本来の風味が感じられ、オフフレーバーの発生は無く、良好な評価であった。一方、比較例2のパルス電界処理抽出物を配合した、カテキン+エピガロカテキン)/(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)(重量比)が62500と大きいシトラール含有飲料(比較例7)は、保管後に食品本来の風味が損なわれ、オフフレーバーも感じられて、総合評価はDであった。また、シトラール変質抑制剤を配合しなかったシトラール含有飲料(比較例8)は、保管後に食品本来の風味が明らかに損なわれ、オフフレーバーも非常に感じられて、総合評価はEであった。
【0092】
(実施例12) シトラール含有ゼリーの作製
表5の配合に従い、グラニュ糖:15.0重量部、クエン酸:0.2重量部、レモン果汁5倍濃縮1.0重量部、粉末寒天2.5重量部、水81.149重量部を混合し、80℃で10分間加熱殺菌後、品温が50℃になるまで冷却したところに、実施例1のシトラール変質抑制剤:0.15重量部、シトラール:0.001重量部を添加し、遮光性の容器に充填し5℃まで冷却して、シトラール含有ゼリーを作製した。得られたシトラール含有ゼリーを、遮光下、55℃で7日間保管した後の食品本来の風味、及び、オフフレーバーの無さについて評価した結果を表5に示した。
【0093】
【0094】
(比較例9) シトラール含有ゼリーの作製
表5の配合に従い、実施例1のシトラール変質抑制剤を比較例2のパルス電界処理抽出物に変更した以外は、実施例12と同様にして、シトラール含有ゼリーを作製した。得られたシトラール含有ゼリーを、遮光下、55℃で7日間保管した後の食品本来の風味、及び、オフフレーバーの無さについて評価した結果を表5に示した。
【0095】
(比較例10) シトラール含有ゼリーの作製
表5の配合に従い、実施例1のシトラール変質抑制剤を配合せず、水で全体量を調整した以外は、実施例12と同様にして、シトラール含有ゼリーを作製した。得られたシトラール含有ゼリーを、遮光下、55℃で7日間保管した後の食品本来の風味、及び、オフフレーバーの無さについて評価した結果を表5に示した。
【0096】
(参考例5)
比較例10で得たシトラール含有ゼリーを、製造直後で保管前に官能評価を行った結果を参考例5として表5に示したように、実施例12及び比較例9、10と比較検討した。
【0097】
表5から明らかなように、シトラール変質抑制剤(実施例1)を配合した、カテキン及びエピガロカテキンの合計含有量が0.005~50ppm、(カテキン+エピガロカテキン)/(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)(重量比)が15~1400であり、且つシトラール含有量が1~100ppmの範囲にあるシトラール含有ゼリー(実施例12)は、遮光下、55℃で7日間保管した後も、食品本来の風味が感じられ、オフフレーバーの発生は無く、良好な評価であった。一方、比較例2のパルス電界処理抽出物を配合した、カテキン+エピガロカテキン)/(p-メンタ-1,5,8-トリエン+p-メンタ-1,3,8-トリエン)(重量比)が62500と大きいシトラール含有ゼリー(比較例9)は、保管後に食品本来の風味が損なわれ、オフフレーバーも感じられて、総合評価はDであった。また、シトラール変質抑制剤を配合しなかったシトラール含有ゼリー(比較例10)は、保管後に食品本来の風味が明らかに損なわれ、オフフレーバーも非常に感じられて、総合評価はEであった。