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特開2023-120726双ドラム式連続鋳造用ダミーシートおよび薄肉鋳片の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120726
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】双ドラム式連続鋳造用ダミーシートおよび薄肉鋳片の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/06 20060101AFI20230823BHJP
【FI】
B22D11/06 330B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023735
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】諸星 隆
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 浩太
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 雅文
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004DA13
4E004RA01
4E004SA08
(57)【要約】
【課題】地金が粗大化する前に地金を除去し、安定して鋳造を開始することが可能な、双ドラム式連続鋳造用ダミーシート及び薄肉鋳片の製造方法を提供する。
【解決手段】一対の冷却ドラムに挟持されるシート本体と、該シート本体の一端から延在し溶鋼中に挿入される補強部材とを備えたダミーシートであって、該補強部材は、(a)一対の冷却ドラムの一方又は双方の周面に配設される1枚又は2枚の板又は該板幅相当の帯板群をなし、(b)シート本体幅両端位置の補強部材の外側端部に、(b1)冷却ドラム端面の接平面から10mm以下の範囲内で、(b2)冷却ドラム端面の接平面からの距離dが鋳造につれて減少する方向に傾斜する傾斜面及び鋳造方向に垂直で鋳造方向前方に面する垂直面のいずれか一方又は双方からなる鋳造方向前部端面を有し、(b3)該鋳造方向前部端面を鋳造方向の任意の200mmの範囲で1箇所以上有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶鋼溜まり部に溶鋼を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ドラム式連続鋳造装置に用いられる双ドラム式連続鋳造用ダミーシートであって、
前記一対の冷却ドラムに挟持されるシート本体と、前記シート本体の鋳片接続側の長手方向の一端から延在し、前記溶鋼中に挿入される補強部材と、を備えており、
前記補強部材は、
(a)前記一対の冷却ドラムのいずれか一方の周面または双方の周面に沿って配設される、1枚または2枚の板形状をなし、
(b)幅方向両側のそれぞれの端部に、
(b1)前記冷却ドラムの端面に接する平面から10mm以下の範囲内で、
(b2)前記冷却ドラムの端面に接する平面からの距離dが鋳造が進むにつれて減少する方向に傾斜する傾斜面、および鋳造方向に垂直で鋳造方向前方に面する垂直面、のうちのいずれか一方または双方からなる鋳造方向前部端面を有し、
(b3)前記鋳造方向前部端面を鋳造方向の任意の200mmの範囲で1箇所以上有する
ことを特徴とする、双ドラム式連続鋳造用ダミーシート。
【請求項2】
前記傾斜面の形状が、式(1)を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の双ドラム式連続鋳造用ダミーシート。
Δd/ΔL≦-5/100 ・・・(1)
ここで、
Δdは、前記傾斜面の、冷却ドラムの端面に接する平面からの距離dの変化代であり、dが減少する場合をマイナスとし、
ΔLは、Δdに対応する前記補強部材の鋳造方向移動距離である。
【請求項3】
前記補強部材は、
(a’)前記1枚または2枚の板形状に代えて、鋳造方向に延在する帯状の板を、幅方向に間隔を取らずにまたは所定の間隔を取りながら複数枚並べて、前記間隔部の幅を含めた前記複数枚の帯状の板の幅の総和が、前記1枚または2枚の板形状の幅と同じとなる、帯状の補強部材の集合体とし、
(b’)前記帯状の補強部材のうち、前記シート本体の幅方向の両端に位置する帯状の補強部材の幅方向外側の端部には、前記鋳造方向前部端面を有する
ことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の双ドラム式連続鋳造用ダミーシート。
【請求項4】
前記補強部材は、
(a’’)前記2枚の板形状に代えて、鋳造方向に延在する帯状の板を、幅方向に間隔を取らずにまたは所定の間隔を取りながら複数枚並べて、前記間隔部の幅を含めた前記複数枚の帯状の板の幅の総和が、前記2枚の板形状の幅と同じとなる、帯状の補強部材の集合体とし、
さらに、前記シート本体の幅方向の両端に位置する帯状の補強部材を除き、または、前記シート本体の幅方向の両端に位置する帯状の補強部材を含めて、
幅方向に並ぶ帯状の補強部材を、一方の冷却ドラムに対する帯状の補強部材と他方の冷却ドラムに対する帯状の補強部材とを互いに1枚ずつ省いて交互に並ぶようにし、
(b’)前記帯状の補強部材のうち、前記シート本体の幅方向の両端に位置する帯状の補強部材の幅方向外側の端部には、前記鋳造方向前部端面を有する
ことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の双ドラム式連続鋳造用ダミーシート。
【請求項5】
回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶鋼溜まり部に溶鋼を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、
鋳造開始時に、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の双ドラム式連続鋳造用ダミーシートを用いることを特徴とする、薄肉鋳片の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属溜まり部に、溶融金属を供給して薄肉鋳片を製造する双ドラム式連続鋳造装置において鋳造開始時に用いられる双ドラム式連続鋳造用ダミーシートおよび薄肉鋳片の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の薄肉鋳片を製造する方法として、内部に水冷構造を有する冷却ドラムを備え、回転する一対の冷却ドラム間に形成された溶鋼溜まり部に溶鋼を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させ、一対の冷却ドラムの外周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をドラムキス点で接合し、圧下して所定の厚さの薄肉鋳片を製造する双ドラム式連続鋳造装置を用いた製造方法が提供されている。
【0003】
このような双ドラム式連続鋳造方法において鋳造を開始する際には、例えば特許文献1、2に示すように、冷却ドラム間にダミーシートを挟持しておき、一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶鋼溜まり部に溶鋼を供給しながら冷却ドラムを回転させて、ダミーシートに連結するように薄肉鋳片を形成し、冷却ドラム間からダミーシート及びこのダミーシートに連結された薄肉鋳片を引き出している。
【0004】
なお、鋳造開始時点においては、溶鋼溜まり部への溶鋼の供給量や冷却ドラムの温度等の鋳造条件が安定していないため、ダミーシートに連結するように形成された薄肉鋳片の強度が不足し、ダミーシートを引き出した際に薄肉鋳片が破断するといったトラブルが発生し、鋳造を開始できないことがあった。このため、上述の特許文献1、2においては、ダミーシートに連結するように補強部材を配置し、この補強部材を溶融金属で鋳包ませることにより、鋳造開始時の薄肉鋳片の強度を確保する技術が提案されている。例えば特許文献2では、図8に示す様な、ダミーシートのシート本体の先端部に高融点材料の細線または太線の線状の補強部材38を取付けた双ドラム式連続鋳造用ダミーシート30が提案されている。
【0005】
ここで、凝固シェルの形成場所は、冷却ドラム周面上が想定されている。しかし、実際の操業においては、サイド堰の表面でも溶鋼が凝固して地金が生成する場合がある。この地金が成長し、回転する冷却ドラム周面上の凝固シェルと、冷却ドラム端部において融着すると、地金がサイド堰表面から剥がされて、凝固シェルと共にドラムキス点に噛みこまれ、鋳造機下方に送り出される。この際、厚さのある地金を通過させようとして、本来の鋳片厚さ以上にドラム間隔が一時的に拡大し、地金を巻き込んでいない部分(例えば幅方向中央部等)においては、未凝固で高温の溶鋼を多く含むことになる。これをホットバンドと称する。このホットバンドは、鋳造方向前後の健全部よりも高温で脆弱であることから、薄肉鋳片の自重によって破断することがある。
【0006】
ホットバンド起因の破断を防止して安定鋳造するためには、サイド堰上の地金の生成や粗大化を防止することが重要である。
ホットバンドは、湯面高さが不安定な場合にサイド堰に生成した地金が剥離することによって生じる場合が多い。同様に、鋳造初期の湯面上昇中に発生し易い。それまで溶鋼に接していなかったサイド堰表面に、溶鋼が初めて接触して冷却されるので、地金が生成し易いためである。
【0007】
ホットバンド起因の薄肉鋳片の破断を防止する方法として、例えば特許文献3には、サイド堰を十分に予熱することにより、鋳造開始時におけるサイド堰表面での地金の発生を抑制する手段が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭57-058957号公報
【特許文献2】特開昭63-224847号公報
【特許文献3】特開昭62-124051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3のようにサイド堰を予熱した場合であっても、溶鋼溜まり部を形成するためにサイド堰が冷却ドラム端面に密着させられるため、必然的にサイド堰の温度は低下してしまうことは避けられない。特に、鋳造初期の溶鋼湯面が定常レベルまで上昇する時期は、冷却ドラムの端面に押し付けられて温度低下したサイド堰に、初めて溶鋼が接するので、地金が生じやすく、ホットバンド起因の破断の危険性が非常に高い。なお、融点が高い鋼種ほど、サイド堰を高温に予熱する必要があるため、ステンレス鋼等に比べて相対的に融点が高い炭素鋼などにおいては、サイド堰の予熱が不十分となり、ホットバンドが発生しやすい。
【0010】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、鋳造開始時においてサイド堰の表面に地金が生成・成長しても、地金が粗大化する前の早い段階で地金を除去することで、ホットバンド起因による薄肉鋳片の破断を抑制し、安定して鋳造を開始することが可能な双ドラム式連続鋳造用ダミーシート、およびこの双ドラム式連続鋳造用ダミーシートを用いた薄肉鋳片の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶鋼溜まり部に溶鋼を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ドラム式連続鋳造装置に用いられる双ドラム式連続鋳造用ダミーシートであって、前記一対の冷却ドラムに挟持されるシート本体と、該シート本体の鋳片接続側の長手方向の一端から延在し、前記溶鋼中に挿入される補強部材と、を備えており、前記補強部材は、
(a)前記一対の冷却ドラムのいずれか一方の周面または双方の周面に沿って配設される、1枚または2枚の板形状をなし、
(b)幅方向両側のそれぞれの端部に、
(b1)前記冷却ドラムの端面に接する平面から10mm以下の範囲内で、
(b2)前記冷却ドラムの端面に接する平面からの距離dが鋳造が進むにつれて減少する方向に傾斜する傾斜面、および鋳造方向に垂直で鋳造方向前方に面する垂直面、のうちのいずれか一方または双方からなる鋳造方向前部端面を有し、
(b3)前記鋳造方向前部端面を鋳造方向の任意の200mmの範囲で1箇所以上有する
ことを特徴とする、双ドラム式連続鋳造用ダミーシート。
【0012】
[2]前記傾斜面の形状が、式(1)を満たすことを特徴とする、[1]に記載の双ドラム式連続鋳造用ダミーシート。
Δd/ΔL≦-5/100 ・・・(1)
ここで、Δdは、前記傾斜面の、冷却ドラムの端面に接する平面からの距離dの変化代であり、dが減少する場合をマイナスとし、ΔLは、Δdに対応する前記補強部材の鋳造方向移動距離である。
【0013】
[3]前記補強部材は、
(a’)前記1枚または2枚の板形状に代えて、鋳造方向に延在する帯状の板を、幅方向に間隔を取らずにまたは所定の間隔を取りながら複数枚並べて、前記間隔部の幅を含めた前記複数枚の帯状の板の幅の総和が、前記1枚または2枚の板形状の幅と同じとなる、帯状の補強部材の集合体とし、
(b’)前記帯状の補強部材のうち、前記シート本体の幅方向の両端に位置する帯状の補強部材の幅方向外側の端部には、前記鋳造方向前部端面を有する
ことを特徴とする、[1]または[2]に記載の双ドラム式連続鋳造用ダミーシート。
【0014】
[4]前記補強部材は、
(a’’)前記2枚の板形状に代えて、鋳造方向に延在する帯状の板を、幅方向に間隔を取らずにまたは所定の間隔を取りながら複数枚並べて、前記間隔部の幅を含めた前記複数枚の帯状の板の幅の総和が、前記2枚の板形状の幅と同じとなる、帯状の補強部材の集合体とし、さらに、前記シート本体の幅方向の両端に位置する帯状の補強部材を除き、または、前記シート本体の幅方向の両端に位置する帯状の補強部材を含めて、幅方向に並ぶ帯状の補強部材を、一方の冷却ドラムに対する帯状の補強部材と他方の冷却ドラムに対する帯状の補強部材とを互いに1枚ずつ省いて交互に並ぶようにし、
(b’)前記帯状の補強部材のうち、前記シート本体の幅方向の両端に位置する帯状の補強部材の幅方向外側の端部には、前記鋳造方向前部端面を有する
ことを特徴とする、[1]または[2]に記載の双ドラム式連続鋳造用ダミーシート。
【0015】
[5]回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶鋼溜まり部に溶鋼を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、鋳造開始時に、[1]~[4]のいずれか1項に記載の双ドラム式連続鋳造用ダミーシートを用いることを特徴とする、薄肉鋳片の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
上述のように、本発明によれば、鋳造開始時においてサイド堰の表面に地金が生成・成長しても、地金が粗大化する前の早い段階で地金を除去することで、ホットバンド起因による薄肉鋳片の破断を抑制し、安定して鋳造を開始することが可能な双ドラム式連続鋳造用ダミーシート、およびこの双ドラム式連続鋳造用ダミーシートを用いた薄肉鋳片の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態における双ドラム式連続鋳造装置の一例を示す説明図である。
図2】本発明の一実施形態である双ドラム式連続鋳造用ダミーシートの説明図であり、(a)が側面図、(b)がX-X矢視図である。
図3】本発明の第1の実施形態である板形状の補強部材を備える双ドラム式連続鋳造用ダミーシートの説明図である。
図4】本発明の第2の実施形態である帯状の補強部材を備える双ドラム式連続鋳造用ダミーシートの説明図である。
図5】本発明の第3の実施形態である帯状の補強部材を幅方向に互い違いに備える双ドラム式連続鋳造用ダミーシートを鋳造開始前に双ドラム式連続鋳造装置に装着した様子を平面図で説明する図である。
図6】本発明の一実施形態である双ドラム式連続鋳造用ダミーシートに備えられる補強部材の幅方向端部における端部境界形状の異なる実施例毎の寸法関係の説明図である。
図7】本発明の一実施形態である双ドラム式連続鋳造用ダミーシートに備えられる補強部材の幅方向端部における端部境界形状が部分円を含む実施例の寸法関係の説明図である。
図8】従来技術に係る双ドラム式連続鋳造用ダミーシートに備えられる線状の補強部材の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態である双ドラム式連続鋳造用ダミーシート(以下、単にダミーシートともいう)およびそのダミーシートを用いた薄肉鋳片の製造方法について、添付した図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
ここで、本実施形態において製造される薄肉鋳片1は、各種組成の鋼からなり、その幅が100mm以上2000mmの範囲内、厚さが1mm以上6mm以下の範囲内とされている。
【0020】
本実施形態である双ドラム式連続鋳造装置10は、図1に示すように、一対の冷却ドラム11、11と、薄肉鋳片1を曲げるベンダーロール12、12と、薄肉鋳片1を支持するピンチロール13、13と、一対の冷却ドラム11、11の幅方向端部に配設されたサイド堰15と、これら一対の冷却ドラム11、11とサイド堰15とによって画成された溶鋼溜まり部16に供給される溶鋼3を保持するタンディッシュ18と、このタンディッシュ18から溶鋼溜まり部16へと溶鋼3を供給する浸漬ノズル20と、を備えている。
【0021】
この双ドラム式連続鋳造装置10においては、溶鋼3が回転する冷却ドラム11、11に接触して冷却されることにより、冷却ドラム11、11の周面の上で凝固シェル5、5が成長し、一対の冷却ドラム11、11にそれぞれ形成された凝固シェル5、5同士がドラムキス点K(図2参照)で圧着されることによって、所定厚さの薄肉鋳片1が鋳造される。
【0022】
本実施形態である双ドラム式連続鋳造装置10においては、鋳造開始時には、図2に示すように、一対の冷却ドラム11、11の間に、本実施形態である双ドラム式連続鋳造用ダミーシート30が配置される。
この双ドラム式連続鋳造用ダミーシート30は、図2に示すように、一対の冷却ドラム11、11の下方からドラムキス点Kまで配置されるシート本体31と、このシート本体31の鋳片接続側の長手方向の一端から、溶鋼溜まり部16内へと延在して配置される補強部材32と、を備えている。
【0023】
この状態で、タンディッシュ18から浸漬ノズル20を介して溶鋼溜まり部16に向けて溶鋼3が注入される。溶鋼溜まり部16中の溶鋼3の湯面が所定位置になった時点で、冷却ドラム11、11をR方向(図1参照)に回転させる。すると、補強部材32とともに溶鋼3が冷却ドラム11、11間に移動し、溶鋼3の凝固が進行して、補強部材32と薄肉鋳片1とが接合され、ダミーシート30に続いて薄肉鋳片1が引き出される。
【0024】
なお、補強部材32は、高融点金属、例えばMoの板で形成され、その板厚は、強度および加工性を考慮して、0.2mm以上、好ましくは0.5mm以上、2mm以下の板を用いることができる。
【0025】
ここで、溶鋼溜まり部16に溶鋼3を注入した際に、サイド堰15の表面に地金が生成・成長することがある。特に、サイド堰15と冷却ドラム11と溶鋼3の三者が接する三重点、正確には、このような三重点が冷却ドラム周面に沿って連なった部位(単に、三重点部位ともいう)では、溶鋼3が冷却ドラム11およびサイド堰15の2方向から冷却されるため、その近傍のサイド堰15の表面で付着地金が生成し易い。この地金は、粗大化してドラムキス点Kに巻き込まれることで激しいホットバンドを発生させ、薄肉鋳片1の破断の原因となる。
【0026】
三重点部位で生成し易い地金を、粗大化する前に除去するために、本実施形態のダミーシート30では、生成後、成長初期段階の付着地金を、その近傍に配設される補強部材32の幅方向両側の各端部の境界形状により造りこまれる凝固シェル5の厚肉部から、外力を付与して除去する。
【0027】
ここで、補強部材32の幅方向両端部の境界形状によって造りこまれる、冷却ドラム11上の補強部材32近傍の凝固シェル5の厚肉部について説明する。凝固シェル5の厚さは、近傍に補強部材32がある場合、高融点金属製の補強部材32がそれ自体で冷却材として作用することから、冷却ドラム11の冷却作用による厚さに加え、補強部材32の冷却作用による厚さも加わった合計の厚さとなる。この現象を利用すれば、例えば、冷却ドラムの端面に接する平面(すなわち鋳造初期におけるサイド堰15の表面)までの距離dが、鋳造が進むにつれて減少するように傾斜した端部境界形状を有する補強部材32の近傍では、距離dが短くなることで増大した補強部材32の冷却作用により、凝固シェル5の厚さが鋳造方向前後より厚くなる厚肉部を形成することができる。このような凝固シェル5の厚肉部から付着地金に外力を付与することで、サイド堰15の表面から付着地金を除去することができる。
【0028】
ただし、サイド堰15の表面に付着して動かない地金と、回転する冷却ドラム11の周面に形成され鋳造方向に移動する凝固シェル5との関係から、補強部材端部の境界形状は、サイド堰15の表面までの距離dが鋳造方向で減少する部位を有することが必要である。距離dが鋳造方向で変化せずに一定であると、補強部材32の冷却作用による凝固シェル5の厚さ増分も鋳造方向で変化せず一定のままであり、サイド堰15の表面に付着している地金に対して、互いの間隔が変わらないことから新たな外力を付与できなくなるからである。またさらに、補強部材端部の境界形状が、鋳造が進むにつれてサイド堰15の表面までの距離dを逆に増大させるように傾斜した境界形状であると、補強部材端部の近傍部位では、補強部材による冷却効果が減少してきて、凝固シェル5の厚さが鋳造方向前後より厚くなる厚肉部が形成されず、サイド堰15の表面に付着している地金に対する互いの間隔が大きくなり、凝固シェル5から付着地金に新たな外力を付与できなくなるからである。
【0029】
そこで、本発明の第1の実施形態である双ドラム式連続鋳造用ダミーシート30においては、図3図6に示すように、補強部材32は、
(a)一対の冷却ドラム11のいずれか一方の周面または双方の周面に沿って配設される、1枚または2枚の板形状をなし(板状補強部材32a)、
(b)補強部材32(32a)の幅方向両側のそれぞれの端部に、
(b1)冷却ドラム11の端面に接する平面から10mm以下の範囲内で、
(b2)前記冷却ドラム11の端面に接する平面からの距離dが鋳造が進むにつれて減少する方向に傾斜する傾斜面35a、および鋳造方向に垂直で鋳造方向前方に面する垂直面35b、のうちのいずれか一方または双方からなる鋳造方向前部端面35を有し、
(b3)前記鋳造方向前部端面35を鋳造方向の任意の200mmの範囲で1箇所以上有する
ようにする。
【0030】
以上のようにして形成された凝固シェル5の幅方向端部の厚肉部は、鋳造方向前方の凝固シェル5の部位に比べて相対的に厚いので、三重点部位近傍のサイド堰15の表面の付着地金に接触した後、冷却ドラム11と付着地金の間に潜り込む形で、付着地金を冷却ドラム11の半径方向外側に押し上げる。その結果、付着地金は、サイド堰15の表面と平行で、冷却ドラム11の半径方向外側に押し出される様に移動しながら、サイド堰表面から剥離する。この剥離までに、厚肉部と付着地金の間で生じる押付力により地金と凝固シェルが融着し、結果的に、地金は、凝固シェル5に連れて移動してドラムキス点Kに巻き込まれる。このようにしてドラムキス点Kに巻き込まれる地金は粗大化する前の地金であるため、激しいホットバンドを発生させることなく最終的に溶融金属プール外へ排出される。
【0031】
ここで、ダミーシート30における冷却ドラム11の端面に接する平面とは、ダミーシート30が双ドラム式連続鋳造装置10に装着された後の鋳造開始時の冷却ドラム11の端面に接する平面を想定している。そのため、双ドラム式連続鋳造装置10に装着する前のダミーシート30においては、冷却ドラム11の端面に接する平面は、鋳片の幅方向端部が接する平面に対応するものとして、この平面を基準に距離dを規定する。実際、本実施形態の双ドラム式連続鋳造用ダミーシート30は、鋳造開始前の双ドラム式連続鋳造装置10に、ダミーシート30において規定した冷却ドラム11の端面に接する平面を、鋳造開始前の冷却ドラム11の端面に接する平面と合致するようにして装着される。また、双ドラム式連続鋳造装置10に装着前のダミーシート30においては、シート本体31の幅方向の中心線と冷却ドラム11の中心線を合わせたうえで冷却ドラム11の端面に接する平面に対して距離dを確保するように補強部材32をシート本体31に取り付ければよい。補強部材32のシート本体31への取り付けは、例えば、補強部材32およびシート本体31に設けた孔部36に金属細線を通して行うことができる。
【0032】
また、補強部材32(32a)の幅方向両端部の端面は、補強部材32(32a)の板面に垂直な平面に限らず、斜面や丸みを帯びた曲面なども含む。この端面が斜面や曲面の場合、距離dは、冷却ドラム11の端面に接する平面との最短距離で定義する。
【0033】
本実施形態では、補強部材32(32a)は、(b)幅方向両側のそれぞれの端部に、(b1)冷却ドラム11の端面に接する平面から10mm以下の範囲内で、(b2)前記冷却ドラム11の端面に接する平面からの距離dが鋳造が進むにつれて減少する方向に傾斜する傾斜面35a、および鋳造方向に垂直で鋳造方向前方に面する垂直面35b、のうちのいずれか一方または双方からなる鋳造方向前部端面35を有する。なお、鋳造方向前部端面35は、補強部材32(32a)の幅方向両端部の端部境界形状として幅方向外側に突出するように配設される幅突出部位34の鋳造方向前部の端面である。(b1)は、本実施形態での外力付与対象の地金が三重点部位近傍にあることから、外力付与のための凝固シェル5の厚肉部の、幅方向での形成範囲の条件であり、また、本実施形態の効果を十分に発揮させる凝固シェル5の鋳造方向での厚さ変化を得るための、幅突出部位34の鋳造方向前部端面35の幅方向での存在範囲の条件である。(b2)は、鋳造方向の前後に比べて、凝固シェルが相対的に厚い厚肉部を形成するための条件である。たとえ、距離dが10mm以下の範囲内であっても、距離dが変化せずに一定であれば、鋳造方向に垂直な垂直面を有する幅突出部位34の当該垂直面35b(鋳造方向前部端面35)の鋳造方向後方の限られた領域(後述の「部位(A)の換算線分率(%)」参照)を除き、幅方向端部の凝固シェル5の厚さは一定となり、付着地金と凝固シェルが接触しても押し付け力が生じず、本実施形態の付着地金除去効果を得られない。また、距離dが10mm超となる場合は、幅方向端部の凝固シェル5の厚さが減少することになるので、やはり押付力が生じず、本実施形態の付着地金除去効果を得られない。
【0034】
以上の(b1)と(b2)とを同時に満たすことが地金除去に必要である。(b1)かつ(b2)である部位を、以下の説明では部位(A)と記載する。部位(A)では、幅方向端部の凝固シェル5の厚さが距離dに応じて変化する。部位(A)による凝固シェル5の厚肉部が直接、地金を除去する。一方、(b1)、(b2)のいずれか一方を満たさない部位は、地金除去効果を奏する凝固シェル5を形成できない。この部位を、以下の説明では部位(B)と記載する。距離dが10mmを超える部位は(b1)を満たさない。距離dが一定、あるいは増加する部位は(b2)を満たさない。
【0035】
補強部材32(32a)の部位(A)を形成する部位である鋳造方向前部端面35の距離dの好ましい範囲は、距離dが短いほど、幅方向端部の凝固シェル5が付着地金に接触する時の押付力が強くなり地金除去効果が増すことから、距離dが5mm以内であることが好ましい。しかし、距離dが短くなり過ぎると、補強部材32(32a)の幅方向端部の境界形状をなす幅突出部位34がサイド堰15の表面を削り、さらにサイド堰15を破壊する懸念があるため、補強部材32(32a)の端部がサイド堰15に接触しない程度に近づければ良い。一方、補強部材32(32a)の部位(B)の距離dは10mmを超えて良い。
【0036】
(b2)の傾斜面35aの形状は、式(1)を満たすようにするのが好ましい。
Δd/ΔL≦-5/100 ・・・(1)
ここで、Δdは、幅突出部位34の傾斜面35a(鋳造方向前部端面35)の、冷却ドラム11の端面に接する平面からの距離dの変化代であり、dが減少する場合をマイナスとし、ΔLは、Δdに対応する補強部材32(32a)の鋳造方向移動距離(ΔLは絶対値とし正の値を取るものとする)である。なお、幅突出部位34の鋳造方向前部端面35が鋳造方向に垂直な垂直面35bの場合は、ΔL=0と見なせるので式(1)の左辺の値はマイナス無限大となることから、この場合も式(1)が成り立つ。
【0037】
距離dを変える手段としては、補強部材32(32a)の幅方向端部外側の端部境界の形状を、冷却ドラム11の端面に接する平面と平行な直線以外の形状に変えることが有効である。例えば、矩形、三角形、曲線などの形状でよく、特に形状は問わない。また、直線であっても、冷却ドラム11の端面に接する平面に対して傾ければ距離dを変えることができる。補強部材32(32a)の幅方向端部外側の端部境界の形状は、加工し易さ等の条件に応じて決めれば良い。また、この端部境界形状では、鋳造方向で、距離dが変化すれば良いので、距離dの鋳造方向での変化代や、その変化代に対応する鋳造方向の長さや間隔は、特に限定しない。また、この端部境界形状は、周期的でも非周期的であっても良い。
【0038】
また、本実施形態では、補強部材32(32a)は、(b1)および(b2)を満たす部位(A)の幅突出部位34の鋳造方向前部端面35を、(b3)鋳造方向の任意の200mmの範囲で1箇所以上有するようにする。補強部材32(32a)の鋳造方向前部端面35が、(b1)および(b2)のいずれか一方を満たさない部位(B)を鋳造方向に連続して200mm以上有するようになると、その間に付着地金が生成後、粗大に成長し、さらに、この粗大化した付着地金を、その後に続く部位(A)で除去することになると、激しいホットバンドを生じて、鋳片破断の危険性が増すからである。そこで、部位(B)が鋳造長手方向に連続する長さを200mm未満に抑える必要がある。部位(B)1ヶ所あたりの連続長さが200mm未満であれば、補強部材32(32a)の全長において部位(B)が複数箇所あっても良い。すなわち、鋳造長手方向に沿って連続した200mmをどこに選んでも、少なくとも1ヶ所の部位(A)を含んでいることが必要である。
【0039】
補強部材32(32a)の長さに占める部位(A)の比率(以下、部位(A)の線分率(%)ともいう)は、補強部材32(32a)の端部境界形状の加工負荷とホットバンド抑制効果とを勘案して、部位(A)と部位(B)を有する場合、鋳造方向に占める部位(A)の比率が20%以上であることが好ましく、50%以上であるとより好ましい。なお、補強部材32(32a)の幅方向端部境界形状が、鋳造方向に垂直な垂直面35b(鋳造方向前部端面35)を有して幅方向外側に突出する「矩形」の幅突出部位34を有する場合、この幅突出部位34の鋳造方向前部端面35の鋳造方向長さが極端に短く、例えば式(1)のΔLが0の場合まで含めて検討すると、この部位(A)の鋳造方向に占める比率が0と計算される場合もある。しかし、上述の式(1)の説明の際に述べた通り、鋳造方向に垂直な面が瞬時に立ち上がる場合は、式(1)の左辺がマイナス無限大となることからも、サイド堰付着地金除去効果は非常に大きいといえる。そのため、この幅突出部位34の鋳造方向前部端面35である垂直面35bの鋳造方向後方でも一定範囲でサイド堰付着地金除去効果が維持される。さらに、幅突出部位34の鋳造方向前部端面35が、鋳造が進むにつれて距離dが変化する傾斜面でないために、除去した地金は、幅突出部位34の鋳造方向前部端面35である垂直面35bの前方に堆積して、鋳造方向前方の凝固シェル5の厚さを擬似的に増大させる効果を奏することになる。発明者らが行なった試験から推算すると、矩形の高さ(補強部材幅方向)の変化、すなわち鋳造方向に垂直な垂直面35b(鋳造方向前部端面35)の距離dの変化(ただし、d≦10mmの範囲に限る)1mmにつき、鋳造方向におおむね2.5mm効果が持続すると評価された。すなわち、矩形高さ変化1mmに対して式(1)のΔL=2.5mm相当の効果があると考えられる。この様にして、幅方向端部境界形状が鋳造方向に垂直な垂直面35bとなる鋳造方向前部端面35を有する幅突出部位34を含む場合、この垂直面35bのΔLがゼロであるところ、鋳造方向に垂直な垂直面35b(鋳造方向前部端面35)の距離dの変化(ただし、d≦10mmの範囲に限る)1mmにつきΔL=2.5mmとして、補強部材32(32a)の長さに占める部位(A)の比率を換算した「部位(A)の換算線分率(%)」を用いても良い。
【0040】
さらに、本実施形態では、以上の条件(b1)~(b3)を補強部材32(32a)の幅方向両端のそれぞれで満たす必要がある。補強部材32(32a)の幅方向のいずれか一方の端部で、以上の条件(b1)~(b3)を満たさない場合は、サイド堰15の表面に生成後、粗大化した地金が、ドラムキス点Kに巻き込まれることで激しいホットバンドを発生させ、薄肉鋳片1の破断の原因となるからである。しかし、補強部材32(32a)の幅方向両端で部位(A)が鋳造方向で同じ位置である必要は無く、距離dは左右独立して変化して良い。したがって、同じ形状パターンを左右で周期をずらして繰り返したり、形状自体が左右で異なったりしても良い。
【0041】
次に、本実施形態に係るダミーシート30に設けられる補強部材32(32a)の好ましい枚数について説明する。サイド堰15は、1対の冷却ドラム11の両端でそれぞれ接しており、ドラムキス点Kから上部になるほど、溶融金属プール16に接する領域がサイド堰15の表面の左右に広がっており、逆三角形や、くさび形に類似した形状をしている。そして、サイド堰15と冷却ドラム11と溶鋼3の三者が接する三重点、正確には三重点が冷却ドラム周面に沿って連なった部位(三重点部位)は、鋳造幅方向のそれぞれの端部で鋳片厚さ方向の鋳片表裏に相当する位置に2ヶ所あり、ドラムキス点Kで鋳片厚さまで近づくことになる。
【0042】
前述した通り、三重点部位では溶鋼3が冷却ドラム11およびサイド堰15の2方向から冷却されるため地金が生成しやすい。1対の冷却ドラムの片方の幅方向端部(換言すれば片側のサイド堰15)につき2ヶ所ある三重点部位のそれぞれの近傍に形成される、それぞれの地金を除去することが、ホットバンド防止に効果的である。したがって、本実施形態の鋳造幅方向両端部の端部境界形状が鋳造方向で変化した補強部材32(32a)も、1対の冷却ドラム11のそれぞれの周面に沿うように、それぞれ1枚、計2枚が取付けられていることが好ましい。シート本体31には、この2枚が重ねられて取り付けられるので、シート本体31と補強部材32(32a)の接続部では、1枚のシート本体31と2枚の補強部材32(32a)とが重なる構造になる。そして、これらが重なった接続部はドラムキス点Kを通過する際に、2個の冷却ドラム11のそれぞれの補強部材32(32a)の周囲に形成された凝固シェル5を挟さんで重なって排出される。
【0043】
一方で、特に地金が生成し易いのは、ドラムキス点Kに近い狭い領域である。この理由は、2つの冷却ドラム11の間隔が狭まり、それぞれの三重点部位が近づくため、溶鋼3が冷却され易いためである。本実施形態の補強部材32(32a)を2つの冷却ドラム11に対して1枚用いるだけでも、この狭い領域に生成した付着地金を十分除去することができる。したがって、本実施形態の補強部材32(32a)の効果は1枚であっても十分に得ることができる。製作コスト、および2枚重ねの補強部材32(32a)を鋳造開始前にそれぞれ冷却ドラム11の周面に沿うように変形させて形状を整えてから取付ける手間と、ホットバンド抑制効果を比較して、補強部材32(32a)の枚数を選択すれば良い。
【0044】
次に、本実施形態に係るダミーシート30に設けられる補強部材32(32a)の好ましい長さについて説明する。鋳造初期で高温のために強度が不安定な、シート本体31と鋳片最先端部の接合部を含む範囲を補強するため、冷却ドラム11の1/4周程度、またはそれ以上の長さとするのが好ましい。一般的に、冷却ドラム11の直径は数百mmであることから、補強部材32の長さも数百mm程度、またはそれ以上としてもよい。
【0045】
上述のように、図3には、距離dが変化する鋳造方向前部端面35を有する幅突出部位34を幅方向両端部に設けた板形状の補強部材32(32a)をシート本体31に取り付けた本実施形態のダミーシート30の一例が示されている。この例の補強部材32(32a)では、サイド堰15の表面に相対する端部境界が矩形に変化する幅突出部位34が設けてある。この幅突出部位34の鋳造方向前部端面35で、距離dが小さくなり、鋳造方向の前後の部位より幅方向端部の凝固シェル5の厚さが相対的に厚くなるため、鋳造開始時においてサイド堰の表面に地金が生成・成長しても、地金が粗大化する前の早い段階で地金を除去することで、ホットバンド起因による薄肉鋳片の破断を抑制し、安定して鋳造を開始することが可能である。なお、図3で示した補強部材32(32a)の例は、幅方向の両端で同じ矩形パターンであるが、そのパターンの周期を鋳造方向でずらした例である。
【0046】
図4は、本発明の第2の実施形態に係る帯状の補強部材32(32b、32bc、32be)を備える双ドラム式連続鋳造用ダミーシート30を説明する図である。ここまで、第1の実施形態に係る補強部材32(32a)が板形状の場合の実施形態について説明してきたが、本発明の第2の実施形態においては、補強部材32(32b、32bc、32be)が、
(a’)鋳造方向に延在する帯状の板を、幅方向に間隔を取らずにまたは所定の間隔を取りながら複数枚並べて、前記間隔部の幅を含めた前記複数枚の帯状の板の幅の総和が、1枚または2枚の板形状の幅と同じとなる、帯状の補強部材32b(32bc、32be)の集合体とし、
(b’)前記帯状の補強部材32b(32bc、32be)のうち、シート本体31の幅方向の両端に位置する帯状の補強部材32beの幅方向外側の端面には、前記鋳造方向前部端面35を有する
双ドラム式連続鋳造用ダミーシート30である。
【0047】
この第2の実施形態での補強部材32b(32bc、32be)では、幅方向に、所定の間隔を空けて、複数の本数を幅方向に配置するのが好ましい。分割したそれぞれの帯状の補強部材32b(32bc、32be)の周囲を包み込むように凝固シェル5が形成されることにより、凝固シェル5の補強効果を高めるためである。
【0048】
また、第2の実施形態の帯状の補強部材32b(32bc、32be)のうち、幅方向両端の補強部材32beの幅方向外側の端部には、第1の実施形態と同じ形態の鋳造方向前部端面35を有する幅突出部位34を有しているので、鋳造方向で距離dを変化させれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。幅方向の複数の補強部材32b(32bc、32be)のうち、両端部以外の内側に配置した帯状の補強部材32bcは、幅が一定で幅方向側面が鋳造方向に平行な直線の帯状の補強部材であって良い。
【0049】
なお、図4で示した補強部材32b(32bc、32be)の例は、全ての帯状の板の長さが一定の場合であるが、それぞれの長さを変えても良い。
また、図4で示した補強部材32b(32bc、32be)の例は、幅方向の両端の幅端部帯状補強部材32beのそれぞれの幅方向外側で同じ矩形パターンであるが、そのパターンの周期を鋳造方向でずらした例である。
【0050】
図5は、本発明の第3の実施形態に係る帯状の補強部材32(32b、32bc、32be)を幅方向に互い違いに備える双ドラム式連続鋳造用ダミーシート30を鋳造開始前に双ドラム式連続鋳造装置10に装着した様子を平面図で説明する図である。本発明の第3の実施形態は、本発明の第2の実施形態と比べて、補強部材32b(32bc、32be)が、
(a’’)シート本体31の幅方向の両端に位置する帯状の補強部材32beを除き、または、前記シート本体31の幅方向の両端に位置する帯状の補強部材32beを含めて、幅方向に並ぶ帯状の補強部材32bc、32beを、一方の冷却ドラム11に対する帯状の補強部材32bc、32beと他方の冷却ドラム11に対する帯状の補強部材32bc、32beとを互いに1枚ずつ省いて交互に並ぶようにする点で異なる。
【0051】
この第3の実施形態での帯状の補強部材32bc、32beでは、幅方向に、互いに1枚ずつ省いて交互に並ぶようにするため、それぞれの帯状の補強部材32bc、32beの周囲を包み込むように凝固シェル5が形成されることにより、凝固シェル5の補強効果をより高めることができる。
【0052】
また、第3の実施形態の帯状の補強部材32b(32bc、32be)のうち、幅方向両端の補強部材32beの幅方向外側の端部には、第1の実施形態、第2の実施形態と同じ形態の鋳造方向前部端面35を有する幅突出部位34を有しているので、鋳造方向で距離dを変化させれば、第1の実施形態、第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。幅方向の複数の補強部材32b(32bc、32be)のうち、両端部以外の内側に配置した帯状の補強部材32bcは、幅が一定で幅方向側面が鋳造方向に平行な直線の帯状の補強部材であって良い。
【0053】
なお、図5で示した補強部材32b(32bc、32be)の例は、全ての帯状の板の長さが一定の場合であるが、それぞれの長さを変えても良い。
また、図5で示した補強部材32b(32bc、32be)の例は、幅方向の両端の幅端部帯状補強部材32beのそれぞれの幅方向外側で同じ矩形パターンであるが、そのパターンの周期を鋳造方向でずらした例である。
【実施例0054】
以下に、本発明の効果を確認すべく実施した実施例1~3の実験結果について説明する。なお、本発明は上記で実施形態として説明した各種の形態を含み、以下で説明する実施例の形態に限定されるものではない。
【0055】
実施例1~3の薄肉鋳片の製造方法の共通の実験条件は以下の通りである。
冷却ドラムの直径:1200mm
鋳造幅:1300mm
鋳造厚み:平均2.0mm
鋳造速度:平均60m/min
鋳造雰囲気:Ar
鋳造量:10トン
鋳造鋼種:低炭素鋼
【0056】
また、ダミーシートとして、以下のものを使用した。
シート本体:軟鋼製シート材、幅1290mm
補強部材の形状:帯状(複数枚を鋳造幅方向に配置)
補強部材素材:Mo製
補強部材厚さ:0.5mm
補強部材長さ:400~800mm
補強部材幅:両端部以外の補強部材は幅15mm一定(幅端部の境界形状は直線)
両端部の補強部材は幅15mmの帯材の幅外側面に所定境界形状付与
【0057】
シート本体と補強部材とは、両者の鋳造方向の端部を重ね、その重なった範囲で穴を開け針金を通して結合した。
【0058】
本発明例のNo.1-6とNo.1-7は、両端部の補強部材32b(32be)を2枚重ねた例である(図5の幅端部帯状補強部材32be参照)。その他の例は両端部の補強部材32b(32be)を重ねず1枚ずつ取り付けた(図4参照)。そして、No.1-6とNo.1-7を含めて、両端部以外の補強部材32b(32bc)は重ねず1枚ずつ取り付けた。
【0059】
鋳造幅方向に複数ある補強部材32b(32bc、32be)を、それぞれ冷却ドラムの周面に沿う様に変形してから取り付けた。より詳しくは、冷却ドラムは1対であるので、補強部材32b(32bc、32be)を変形する向きを交互に変えて、それぞれの冷却ドラムに、補強部材32b(32bc、32be)が1本おきに間隔を空けて、周面に沿う形状で取り付けた(図5で、幅方向両端部も補強部材32beを1枚ずつの取り付けに変更したもの)。ただし、No.1-6とNo.1-7の両端部は、図5のように端部境界の形状を変化させた補強部材32beを2枚重ねてダミーシート本体に取り付けてあるので、両方の冷却ドラムに、周面に沿う様に1枚ずつ取付けた。
【0060】
幅方向端部の補強部材32beの幅外側部に付与した境界形状をまとめて図6に示す。図6(a)は矩形を含み鋳造方向前部端面35に垂直面35bを含む実施例1の端部境界形状、図6(b)は三角形を含み鋳造方向前部端面35に傾斜面35aを含む実施例2の端部境界形状、図6(c)は曲線を含み鋳造方向前部端面35に傾斜面35aを含む実施例3の端部境界形状である。
【0061】
上記の条件で鋳造を実施し、鋳造開始から1分間に発生したホットバンド数、薄肉鋳片の破断の有無を目視観察し評価した。ホットバンド数の評価は、良い順に、○:1回以下、△:2、3回、×:4回以上で表した。総合評価として、破断がなくホットバンド数が1回以下のものを○、破断がなくホットバンド数が2~3回のものを△、破断があったものを×とした。実施例1~3の評価結果を、表1~3にそれぞれ示す。
【実施例0062】
実施例1は、端部境界形状が矩形を含む場合の実施例であり、端部境界形状の模式図を図6(a)に示す。図に示す1周期分を繰り返す場合で鋳造を実施した。○印が周期の開始点=終点を表す。すなわち、前の周期の終点は、次の周期の開始点に重なる。
実施例1のように端部境界形状が矩形を含む場合、端部境界形状の加工が容易である。図6(a)中の(a)、(b)部で示す鋳造方向前部端面35の様に、距離dが垂直的に減少するので、式(1)で定義する勾配はマイナス無限大で非常に大きい。なお、ここでの補強部材32の全長に占める部位(A)の線分率は、先に定義した換算線分率で表示した。評価結果は表1にまとめて示す。
【0063】
本発明例No.1-1からNo.1-7は、本発明の要件をすべて満たしていることもあり、鋳片破断は発生せず、総合評価は○または△であった。これらの中でも、部位(A)の換算線分率が高めのNo.1-1、No.1-2と、部位(A)の換算線分率が低めのNo.1-3からNo.1-5とを比較すると、部位(A)の換算線分率が高めのNo.1-1、No.1-2の方が、ホットバンド数を1回以下に抑えることができることが分かる。また、No.1-1からNo.1-5は、両端部の補強部材32beが1枚の場合の実施例であるが、No.1-6とNo.1-7は、両端の補強部材32beを2枚重ねとし、2個の冷却ドラムのそれぞれの周面端部に補強部材32beを沿う様に1枚ずつ取り付けた実施例であり、それぞれの冷却ドラムの周面端部に本発明の補強部材32beが取付けられているので、No.1-2およびNo.1-5と比較してホットバンドを一層低減できた。
【0064】
一方、比較例No.1-11は距離d3が一定で変化しないL3が200mmを超えたために、また、No.1-12は各部の距離d1~d4が全て10mmを超えたために、それぞれ地金除去効果を得られず、鋳片破断が発生し、総合評価は×であった。
【0065】
【表1】
【実施例0066】
実施例2は、端部境界形状が三角形を含む場合の実施例であり、端部境界形状の模式図を図6(b)に示す。図中L1とL4の区間が地金除去効果のある部位(A)である。ここでの評価結果を表2に示す。なお、部位(A)が全長に占める線分率(%)は、(L1+L4)/(ΣLi)×100(i=1~6)で定義できる。
また、例えば図中L1の区間では、冷却ドラム端面に接する平面から距離dがd1からd2に減少しており、△d=d2-d1となり、△L=L1となる。
【0067】
本発明例No.2-1とNo.2-2は山形に変化する形状、No.2-3~No.2-5は傾斜面の距離dが垂直的に変化する鋸刃状の形状である。
本発明例No.2-1からNo.2-5は、本発明の要件をすべて満たしていることもあり、鋳片破断は発生せず、総合評価は○または△であった。これらの中でも、No.2-1とNo.2-2とを比較すると、部位(A)の負の勾配の絶対値が相対的に小さいNo.2-2の方がホットバンド数が許容範囲内ながら増大した。また、No.2-2、No.2-3、No.2-5を比較すると、部位(A)の負の勾配の絶対値は低めで同等であり、部位(A)の線分率も高めで同等であるが、中でもNo.2-3が端部境界形状の繰り返しの1周期が相対的に短く、部位(A)の出現頻度が高くなりホットバンド数が減少した。また、No.2-4では、部位(A)が全長に占める線分率(%)は0%となるものの、鋳造方向に垂直な垂直面35bとなる鋳造方向前部端面35を有する端部境界形状であることから、実施例1で評価に用いた部位(A)の換算線分率(%)でみると、No.2-1での部位(A)の線分率(%)と同等の値を示し、さらにNo.2-1とNo.2-4は、部位(A)の負の勾配の絶対値がそれ以外の例よりも相対的に大きいためホットバンドは発生しなかった。
【0068】
一方、比較例No.2-11は距離dが増加する区間L5の長さが200mmを超えたために、また、No.2-12は区間L5とL6の合計長さが200mmを超えたために、それぞれ地金除去効果を得られず、鋳片破断が発生し、総合評価は×であった。
【0069】
【表2】
【実施例0070】
実施例3は、端部境界形状が曲線を含む例として半円や円の一部を含む場合の実施例であり、端部境界形状の模式図を図6(c)および図7に示す。図中L2とL4の区間が地金除去効果のある部位(A)である。部位(A)が全長に占める線分率(%)は、(L2+L4)/(ΣLi)×100(i=1~6)で定義できる。ここでの評価結果を表3にまとめて示す。
【0071】
本発明例No.3-1は半円を間を開けずに接触させて配置した例(図7(a)参照)、No.3-2とNo.3-3は円の一部を間を空けて配置した例(図7(b)、(c)参照)である。No.3-3には半円より大きな開口部位がある(図7(c)参照)。
本発明例No.3-1からNo.3-3は、本発明の要件をすべて満たしていることもあり、鋳片破断は発生せず、総合評価は○または△であった。これらの中でも、部位(A)の線分率が高いNo.3-1と、部位(A)の線分率が低めのNo.3-2、No.3-3とを比較すると、部位(A)の線分率が高いNo.3-1が、ホットバンド数を1回以下に抑えることができることが分かる。
【0072】
一方、比較例No.3-11は距離dが一定で変化しない区間L5の長さが200mmを超えたために地金除去効果を得られず鋳片破断が発生し、総合評価は×であった。
【0073】
なお、曲線の代表例として、実施例3では半円や円の一部を含む場合を説明したが、本発明は、円の一部に限らず、任意の曲線、例えば楕円、サイン曲線等々を用いることが出来る。
【0074】
【表3】
【符号の説明】
【0075】
1 薄肉鋳片
3 溶鋼(溶融金属)
5 凝固シェル
10 双ドラム式連続鋳造装置
11 冷却ドラム
12 ベンダーロール
13 ピンチロール
15 サイド堰
16 溶鋼溜まり部(溶融金属プール)
18 タンディッシュ
20 浸漬ノズル
30 双ドラム式連続鋳造用ダミーシート
31 シート本体
32 補強部材
32a 板状補強部材
32b 帯状補強部材
32bc 幅中央帯状補強部材
32be 幅端部帯状補強部材
34 幅突出部位
35 鋳造方向前部端面
35a 鋳造方向前部端面の傾斜面
35b 鋳造方向前部端面の垂直面
36 孔部
38 線状補強部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8