(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120729
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】異常呼吸相判定装置、予測モデル生成装置、異常呼吸相判定方法、異常呼吸相判定プログラム、及び予測モデル生成方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/113 20060101AFI20230823BHJP
A61B 5/08 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
A61B5/113
A61B5/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023739
(22)【出願日】2022-02-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年3月10日の日本生体医工学会 生体画像と医用人工知能研究会で公開 令和3年8月2日のHealthcare 2021、9、981で公開 令和3年6月15日の日本生体医工学会 第60回日本生体医工学会大会で公開 令和3年11月12日の日本コンピュータ外科学会で公開
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】和田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】奥宮 保郎
(72)【発明者】
【氏名】谷高 幸司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克典
(72)【発明者】
【氏名】小林 正嗣
(72)【発明者】
【氏名】中島 義和
(72)【発明者】
【氏名】中島 康裕
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038SV01
4C038SX07
4C038VA04
4C038VB32
4C038VB33
(57)【要約】
【課題】本発明は、機械学習モデルを用いて精度良く異常呼吸相の有無を判定することができる異常呼吸相判定装置(1)の提供を課題とする。
【解決手段】本発明の異常呼吸相判定装置(1)は、生体表面に設置され、肺の拡幅に応じた生体表面の伸縮を検出可能な歪センサ素子(11)を有するセンサユニット(10)と、歪センサ素子(11)の伸縮の時間変化を表す時間変動曲線を取得する取得部(20)と、前記時間変動曲線のウェーブレット変換によりウェーブレットスペクトルを得る変換部(30)と、前記ウェーブレットスペクトルの圧縮により圧縮データを得る圧縮部(40)と、前記圧縮データを含むデータを入力データとし、既知の入力データとその入力データに対する異常呼吸相の発現を判定する判定値とを教師データとして機械学習された予測モデル(100)を用いて、前記入力データから判定値を出力する判定部(80)とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体表面に設置され、肺の拡幅に応じた生体表面の伸縮を検出可能な歪センサ素子を有するセンサユニットと、
前記歪センサ素子の伸縮の時間変化を表す時間変動曲線を取得する取得部と、
前記時間変動曲線のウェーブレット変換によりウェーブレットスペクトルを得る変換部と、
前記ウェーブレットスペクトルの圧縮により圧縮データを得る圧縮部と、
前記圧縮データを含むデータを入力データとし、既知の入力データとその入力データに対する異常呼吸相の発現を判定する判定値とを教師データとして機械学習された予測モデルを用いて、前記入力データから判定値を出力する判定部と
を備える異常呼吸相判定装置。
【請求項2】
前記予測モデルの機械学習として、ニューラルネットワークが用いられている請求項1に記載の異常呼吸相判定装置。
【請求項3】
前記ニューラルネットワークがLSTMである請求項2に記載の異常呼吸相判定装置。
【請求項4】
前記圧縮部の圧縮が、時間軸及び周波数軸に対して2次元的に分割された領域単位での前記ウェーブレットスペクトルの平均化により行われる請求項3に記載の異常呼吸相判定装置。
【請求項5】
前記圧縮部の圧縮が、ウェーブレットスペクトルの強度パターンが格納される記憶テンプレートを用い、少なくとも時間軸に対して分割された領域単位で前記ウェーブレットスペクトルを機械学習によりパターン化することにより行われる請求項3又は請求項4に記載の異常呼吸相判定装置。
【請求項6】
前記ウェーブレットスペクトルからのピーク周波数の抽出によりピーク周波数データを得る最大値抽出部を備え、
前記入力データが、前記ピーク周波数データを含む請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の異常呼吸相判定装置。
【請求項7】
前記時間変動曲線からの包絡線の抽出により包絡線データを得る包絡線抽出部を備え、
前記入力データが、前記包絡線データを含む請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の異常呼吸相判定装置。
【請求項8】
前記変換部が、ハイパスフィルタを含む請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の異常呼吸相定装置。
【請求項9】
前記センサユニットが、複数の前記歪みセンサ素子を有し、
前記歪センサが、長手方向に伸縮する糸状又は帯状であり、
少なくとも一対の前記歪センサ素子の中心軸同士が交差している請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の異常呼吸相判定装置。
【請求項10】
前記一対の歪センサ素子が、左右の胸郭の動きを検出可能であり、互いに離間して左右対称に配置され、上方から下方に向けて対向方向外側に傾斜している請求項9に記載の異常呼吸相判定装置。
【請求項11】
異常呼吸相の発現を判定するための予測モデル生成装置であって、
生体表面に設置され、肺の拡幅に応じた生体表面の伸縮を検出可能な歪センサ素子を有するセンサユニットと、
前記歪センサ素子の伸縮の時間変化を表す時間変動曲線を取得する取得部と、
前記時間変動曲線のウェーブレット変換によりウェーブレットスペクトルを得る変換部と、
前記ウェーブレットスペクトルの圧縮により圧縮データを得る圧縮部と、
前記圧縮データを含むデータを入力データとし、前記センサユニット、前記取得部、前記変換部及び前記圧縮部を用いて、複数の入力データを取得する入力データ取得部と、
前記複数の入力データそれぞれに対応する異常呼吸相の発現を判定した複数の判定値を取得する判定値取得部と、
前記複数の入力データ及び前記複数の判定値を教師データとして用い、入力データに対する判定値を出力とする予測モデルを機械学習により構築するモデル構築部と
を備える予測モデル生成装置。
【請求項12】
前記センサユニットが、複数の前記歪みセンサ素子を有し、
複数の前記歪センサ素子の伸縮が、前記生体の左右の胸郭の動きに基づく伸縮である請求項11に記載の予測モデル生成装置。
【請求項13】
生体表面に設置され、肺の拡幅に応じた生体表面の伸縮を検出する歪センサ素子の伸縮の時間変化を計測することで時間変動曲線を取得する計測ステップと、
前記時間変動曲線のウェーブレット変換によりウェーブレットスペクトルを得る変換ステップと、
前記ウェーブレットスペクトルの圧縮により圧縮データを得る圧縮ステップと、
前記圧縮データを含むデータを入力データとし、既知の入力データとその入力データに対する異常呼吸相の発現を判定する判定値とを教師データとして機械学習された予測モデルを用いて、前記入力データから判定値を出力する判定ステップと
を備える異常呼吸相判定方法。
【請求項14】
生体表面に設置され、肺の拡幅に応じた生体表面の伸縮を検出する歪センサ素子の伸縮の時間変化を計測することで時間変動曲線を取得する計測ステップと、
前記時間変動曲線のウェーブレット変換によりウェーブレットスペクトルを得る変換ステップと、
前記ウェーブレットスペクトルの圧縮により圧縮データを得る圧縮ステップと、
前記圧縮データを含むデータを入力データとし、既知の入力データとその入力データに対する異常呼吸相の発現を判定する判定値とを教師データとして機械学習された予測モデルを用いて、前記入力データから判定値を出力する判定ステップと
をコンピュータに実行させる異常呼吸相判定プログラム。
【請求項15】
生体表面に設置され、肺の拡幅に応じた生体表面の伸縮を検出する歪センサ素子の伸縮の時間変化を計測することで時間変動曲線を取得する計測ステップと、
前記時間変動曲線のウェーブレット変換によりウェーブレットスペクトルを得る変換ステップと、
前記ウェーブレットスペクトルの圧縮により圧縮データを得る圧縮ステップと、
前記圧縮データを含むデータを入力データとし、前記計測ステップ、前記変換ステップ及び前記圧縮ステップを繰り返し、複数の入力データを取得する入力データ取得ステップと、
前記複数の入力データそれぞれに対応する異常呼吸相の発現を判定した複数の判定値を取得する判定値取得ステップと、
前記複数の入力データ及び前記複数の判定値を教師データとして用い、入力データに対する判定値を出力とする予測モデルを機械学習により構築するモデル構築ステップと
を備える予測モデル生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常呼吸相判定装置、予測モデル生成装置、異常呼吸相判定方法、異常呼吸相判定プログラム、及び予測モデル生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
呼吸に基づく生体表面の伸縮を検出することで、例えば片側の肺の切除手術後に発生する異常呼吸相の合併症を早期に発見することができる。この生体表面の伸縮を検出可能なセンサユニットとして、長手方向に伸縮する糸状又は帯状の複数の歪センサ素子を用いたものが公知である(特開2020-151294号公報参照)。
【0003】
前記センサユニットは、少なくとも一対の前記歪センサ素子の中心軸同士が交差するように保持部材に保持されており、被検者に負担の少ない簡易な方法で生体表面の動きを容易に検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記センサユニットを用いた異常呼吸相の発見は、例えば以下の手順で行われる。まず、前記センサユニットの検出信号から経過時間と周波数の変位との時間-変位曲線を求める。次に、この時間-変位曲線の包絡線を取得し、所定時間単位で前記包絡線をフーリエ変換等によって変換することで単位時間毎の周波数特性を求める。この周波数特性から異常呼吸相の有無を判定する。
【0006】
異常呼吸相の有無の判定は、例えば周波数特性のピーク値を予め定められた閾値と比較する等の方法により行えるが、一般には抽出されるのは異常呼吸相が疑わしいケースであり、最終的には時間-変位曲線に対する熟練した医師の判断を必要とする場合が多い。
【0007】
このように判定に熟練を要する事象に対して判定精度を高める方法としては、機械学習モデル、いわゆる人工知能(AI)を用いる方法が公知である。時間-変位曲線と医師の判断との間には相関性があると考えられ、その相関を機械学習することで、より精度の高い判定ができると考えられるからである。しかし、実際には前記時間-変位曲線をそのまま機械学習させても実用的な予測モデルを構築できず、従ってこの時間-変位曲線から直接構築した予測モデルを用いても精度良く異常呼吸相の有無を判定することができない。
【0008】
本発明は、このような事情に基づいてなされたものであり、機械学習モデルを用いて精度良く異常呼吸相の有無を判定することができる異常呼吸相判定装置、異常呼吸相判定方法及び異常呼吸相判定プログラムの提供を課題とする。また、本発明は、当該異常呼吸相判定装置、当該異常呼吸相判定方法及び当該異常呼吸相判定プログラムの予測モデルとして好適に用いることができる予測モデルを構築する予測モデル生成装置及び予測モデル生成方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る異常呼吸相判定装置は、生体表面に設置され、肺の拡幅に応じた生体表面の伸縮を検出可能な歪センサ素子を有するセンサユニットと、前記歪センサ素子の伸縮の時間変化を表す時間変動曲線を取得する取得部と、前記時間変動曲線のウェーブレット変換によりウェーブレットスペクトルを得る変換部と、前記ウェーブレットスペクトルの圧縮により圧縮データを得る圧縮部と、前記圧縮データを含むデータを入力データとし、既知の入力データとその入力データに対する異常呼吸相の発現を判定する判定値とを教師データとして機械学習された予測モデルを用いて、前記入力データから判定値を出力する判定部とを備える。
【0010】
前記予測モデルの機械学習として、ニューラルネットワークが用いられているとよい。
【0011】
前記ニューラルネットワークがLSTMであるとよい。
【0012】
前記圧縮部の圧縮が、時間軸及び周波数軸に対して2次元的に分割された領域単位での前記ウェーブレットスペクトルの平均化により行われるとよい。
【0013】
前記圧縮部の圧縮が、ウェーブレットスペクトルの強度パターンが格納される記憶テンプレートを用い、少なくとも時間軸に対して分割された領域単位で前記ウェーブレットスペクトルを機械学習によりパターン化することにより行われるとよい。
【0014】
前記ウェーブレットスペクトルからのピーク周波数の抽出によりピーク周波数データを得る最大値抽出部を備え、前記入力データが、前記ピーク周波数データを含むとよい。
【0015】
前記時間変動曲線からの包絡線の抽出により包絡線データを得る包絡線抽出部を備え、前記入力データが、前記包絡線データを含むとよい。
【0016】
前記変換部が、ハイパスフィルタを含むとよい。
【0017】
前記センサユニットが、複数の前記歪みセンサ素子を有し、前記歪センサが、長手方向に伸縮する糸状又は帯状であり、少なくとも一対の前記歪センサ素子の中心軸同士が交差しているとよい。
【0018】
前記一対の歪センサ素子が、左右の胸郭の動きを検出可能であり、互いに離間して左右対称に配置され、上方から下方に向けて対向方向外側に傾斜しているとよい。
【0019】
本発明の別の一態様に係る予測モデル生成装置は、異常呼吸相の発現を判定するための予測モデル生成装置であって、生体表面に設置され、肺の拡幅に応じた生体表面の伸縮を検出可能な歪センサ素子を有するセンサユニットと、前記歪センサ素子の伸縮の時間変化を表す時間変動曲線を取得する取得部と、前記時間変動曲線のウェーブレット変換によりウェーブレットスペクトルを得る変換部と、前記ウェーブレットスペクトルの圧縮により圧縮データを得る圧縮部と、前記圧縮データを含むデータを入力データとし、前記センサユニット、前記取得部、前記変換部及び前記圧縮部を用いて、複数の入力データを取得する入力データ取得部と、前記複数の入力データそれぞれに対応する異常呼吸相の発現を判定した複数の判定値を取得する判定値取得部と、前記複数の入力データ及び前記複数の判定値を教師データとして用い、入力データに対する判定値を出力とする予測モデルを機械学習により構築するモデル構築部とを備える。
【0020】
前記センサユニットが、複数の前記歪みセンサ素子を有し、複数の前記歪センサ素子の伸縮が、前記生体の左右の胸郭の動きに基づく伸縮であるとよい。
【0021】
本発明の別の一態様に係る異常呼吸相判定方法は、生体表面に設置され、肺の拡幅に応じた生体表面の伸縮を検出する歪センサ素子の伸縮の時間変化を計測することで時間変動曲線を取得する計測ステップと、前記時間変動曲線のウェーブレット変換によりウェーブレットスペクトルを得る変換ステップと、前記ウェーブレットスペクトルの圧縮により圧縮データを得る圧縮ステップと、前記圧縮データを含む入データを入力データとし、既知の入力データとその入力データに対する異常呼吸相の発現を判定する判定値とを教師データとして機械学習された予測モデルを用いて、前記入力データから判定値を出力する判定ステップとを備える。
【0022】
本発明の別の一態様に係る異常呼吸相判定プログラムは、生体表面に設置され、肺の拡幅に応じた生体表面の伸縮を検出する歪センサ素子の伸縮の時間変化を計測することで時間変動曲線を取得する計測ステップと、前記時間変動曲線のウェーブレット変換によりウェーブレットスペクトルを得る変換ステップと、前記ウェーブレットスペクトルの圧縮により圧縮データを得る圧縮ステップと、前記圧縮データを含むデータを入力データとし、既知の入力データとその入力データに対する異常呼吸相の発現を判定する判定値とを教師データとして機械学習された予測モデルを用いて、前記入力データから判定値を出力する判定ステップとをコンピュータに実行させる。
【0023】
本発明の別の一態様に係る予測モデル生成方法は、生体表面に設置され、肺の拡幅に応じた生体表面の伸縮を検出する歪センサ素子の伸縮の時間変化を計測することで時間変動曲線を取得する計測ステップと、前記時間変動曲線のウェーブレット変換によりウェーブレットスペクトルを得る変換ステップと、前記ウェーブレットスペクトルの圧縮により圧縮データを得る圧縮ステップと、前記圧縮データを含むデータを入力データとし、前記計測ステップ、前記変換ステップ及び前記圧縮ステップを繰り返し、複数の入力データを取得する入力データ取得ステップと、前記複数の入力データそれぞれに対応する異常呼吸相の発現を判定した複数の判定値を取得する判定値取得ステップと、前記複数の入力データ及び前記複数の判定値を教師データとして用い、入力データに対する判定値を出力とする予測モデルを機械学習により構築するモデル構築ステップとを備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一態様に係る異常呼吸相判定装置、異常呼吸相判定方法及び異常呼吸相判定プログラムでは、ウェーブレット変換を利用し、さらにそのウェーブレットスペクトルを圧縮することで、データ量が圧縮され、歪みセンサ素子により検出される肺の拡幅に応じた時間変動曲線から、異常呼吸相の発現につながるような特徴量の抽出が容易化される。当該異常呼吸相判定装置、当該異常呼吸相判定方法及び当該異常呼吸相判定プログラムは、この特徴量の抽出を容易化した入力データを入力とするので、いわゆるAIを用いて、容易にかつ精度よく異常呼吸相の有無を判定することができる。
【0025】
また、本発明の別の一態様に係る予測モデル生成装置及び予測モデル生成方法は、ウェーブレット変換され、さらに圧縮された入力データを教師データとして、異常呼吸相の発現を判定する予測モデルを機械学習により構築する。従って、当該予測モデル生成装置及び当該予測モデル生成方法によって構築される予測モデルは、当該異常呼吸相判定装置、当該異常呼吸相判定方法及び当該異常呼吸相判定プログラムの予測モデルとして好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る異常呼吸相判定装置を示す模式的構成図である。
【
図2】
図2は、
図1のセンサユニットを示す模式的平面図(外面図)である。
【
図3】
図3は、
図1のセンサユニットを生体に取り付けた状態を示す模式図である。
【
図4】
図4は、
図1の取得部で得られる時間変動曲線の一例を示すグラフである。
【
図5】
図5は、
図1の変換部で得られるウェーブレットスペクトルを説明するグラフである。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る異常呼吸相判定方法を示すフロー図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態に係る予測モデル生成装置を示す模式的構成図である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施形態に係る予測モデル生成方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
〔第1実施形態〕
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の第1の実施形態を詳説する。
【0028】
[異常呼吸相判定装置]
図1に示す異常呼吸相判定装置1は、センサユニット10と、取得部20と、変換部30と、圧縮部40と、最大値抽出部50と、包絡線抽出部60と、判定部70と、表示部80とを備える。
【0029】
当該異常呼吸相判定装置1の変換部30、後述する圧縮部40、最大値抽出部50、包絡線抽出部60及び判定部70は、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置等を有するコンピュータで構成される。
【0030】
<センサユニット>
センサユニット10は、生体表面に設置され、肺の拡幅に応じた生体表面の伸縮を検出可能な歪センサ素子11を有する。具体的には、センサユニット10は、
図2に示すように、長手方向に伸縮する糸状又は帯状の一対の歪センサ素子11と、この一対の歪センサ素子11に接続され、これらの歪センサ素子11の生体表面に対する位置関係を定める保持部材12とを備える。一対の歪センサ素子11の中心軸M同士は交差している。なお、「帯状」とは、厚さに対して幅の大きい長尺状を意味し、厚さ及び幅が部分的に異なる構成を含む。
【0031】
センサユニット10は、歪センサ素子11の両端側の抵抗値を測定することで、生体の動作に応じて変化する生体表面の長さの増減を検出可能に構成されている。センサユニット10は、一対の歪センサ素子11が生体表面の伸縮に対応して長手方向に伸縮するので、被検者の生体表面を圧迫し難い。そのため、センサユニット10は、被検者に違和感及び不快感を与え難く、被検者の生体表面の自然な動きを検出することができる。
【0032】
(歪センサ素子)
歪センサ素子11は、それぞれ直線状に配置される。歪センサ素子11は、両端部で保持部材12に固定される。歪センサ素子11の両端部は、金属製の支持部材を介して保持部材12に固定されてもよく、接着剤等によって直接的に保持部材12に固定されてもよい。前記支持部材としては、歪センサ素子11の端部と接続される金属製の柱が挙げられる。歪センサ素子11が支持部材を介して保持部材12に固定される場合、支持部材は粘着テープ等を用いて保持部材12に固定される。一方、歪センサ素子11が接着剤によって保持部材12に固定される場合、歪センサ素子11を保持部材12に固定する接着剤としては、歪センサ素子11の伸縮を阻害しない接着剤が好適に用いられる。この接着剤としては、例えば湿気硬化型ポリウレタン接着剤が挙げられる。
【0033】
歪センサ素子11は、長手方向に伸縮性を有し、伸縮に応じて電気的特性が変化するものであればよく、伸縮により電気抵抗が変化する歪抵抗素子が好適に用いられる。中でも、歪センサ素子11としては、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう)を用いたCNT歪センサが特に好適に用いられる。
【0034】
図3に示すように、一対の歪センサ素子11は、使用状態で生体の胸部表面に配置される。一対の歪センサ素子11は、左右の胸郭の動きを検出可能であり、互いに離間して左右対称に配置される。一対の歪センサ素子11は、上方から下方に向けて対向方向外側に傾斜して配置される。一対の歪センサ素子11は、胸郭の最も大きく変形する領域の伸縮を検出できるよう第6肋骨と第9肋骨とを横断するように配置されることが好ましい。センサユニット10は、片側の肺の切除手術後に発生する異常呼吸相の合併症を低コスト、かつ被検者Xに負担の少ない簡易な方法で早期発見するのに適している。センサユニット10は、前述のように一対の歪センサ素子11が胸部表面に配置されることで、一対の歪センサ素子11によって被検者Xの胸郭が最も大きく変形する領域における最も変形量の大きい方向の伸縮を検出することができる。センサユニット10は、被検者Xの左右の肺呼吸の状態を各歪センサ素子11で別々に連続的にモニタリングすることで、左右いずれの肺の異常呼吸相についても容易に早期発見することができる。
【0035】
一対の歪センサ素子2の中心軸M同士のなす角度α(
図2参照)の下限としては、30°が好ましく、50°がより好ましく、70°がさらに好ましい。一方、前記なす角度αの上限としては、120°が好ましく、100°がより好ましく、90°がさらに好ましい。前記なす角度αが前記範囲外であると、一対の歪センサ素子2の長手方向を被検者Xの胸郭が最も大きく変形する方向に沿って配置し難くなるおそれがある。
【0036】
(保持部材)
保持部材12は、例えば伸縮性を有する布帛13と、この布帛13に積層される粘着部14及び補強部材15とで構成することができる。
【0037】
布帛13は、生体表面を被覆可能に構成される。布帛13の外面(生体表面に対向する側と反対側の面)には一対の歪センサ素子11が配置される。
【0038】
粘着部14は、布帛13を生体表面に貼着可能に構成されている。粘着部14は、布帛13の内面に積層される。粘着部14は、平面視において歪センサ素子11と重なり合う領域及び歪センサ素子11の長手方向の外側に位置する領域の少なくともいずれかを含む領域に配置される。粘着部14は、歪センサ素子11の端部に対して1対1で設けられることが好ましい。粘着部14は、例えばアクリル系粘着剤等、人の皮膚に直接貼り付けても皮膚の炎症等を招来し難い材質の粘着剤を用いて構成することができる。また、粘着部14は、センサユニット10を安価に製造する観点から、市販の粘着テープによって構成することも可能である。
【0039】
補強部材15は、平面視で歪センサ素子11の端部に配置される。粘着部14が歪センサ素子11の端部に設けられている場合、補強部材15は、歪センサ素子11の端部とこの端部に対応する粘着部14とを含む領域に配置される。これにより、補強部材15は、歪センサ素子11の端部とこの端部に対応する粘着部14との平面方向距離の変化を抑制することができる。その結果、センサユニット10は、歪センサ素子11の伸縮と被検者Xの生体表面の伸縮とを十分に一致させることができ、歪センサ素子11の検出感度を高めることができる。補強部材15としては、織物、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート等を主成分とする合成樹脂製フィルム、前記織物と前記合成樹脂製フィルムとの積層体等が挙げられる。布帛13への補強部材15の固定方法は、接着剤による接合とすることができる。補強部材15が織物を含む場合には縫い付けをしてもよい。なお、補強部材15は、布帛13の内面及び外面のいずれの面に積層されていてもよい。
【0040】
<取得部>
取得部20は、歪センサ素子11の伸縮の時間変化を表す時間変動曲線を取得する。
【0041】
取得部20は、例えば一対の歪センサ素子11による検出信号を電気信号に変換するA/Dコンバータで構成することができる。前記A/Dコンバータは、一対の歪センサ素子11の両端側の抵抗値を電気信号に変換可能である。また、前記A/Dコンバータは、前記コンピュータにより制御され、電気信号を取得する。
【0042】
一対の歪センサ素子11の両端側の抵抗値は、肺の拡幅に応じた生体表面の伸縮に伴う歪センサ素子11の伸縮は、歪センサ素子11の両端側の抵抗値に変化をもたらすから、このA/Dコンバータにより得られる電気信号(例えば電圧)は、歪センサ素子11の伸縮を代表する。従って、この電気信号の強度を継続的に取得することで、歪センサ素子11の伸縮の時間変化(時間変動曲線、例えば
図4)を取得することができる。
【0043】
一般に異常呼吸相の特徴的なウェーブレットスペクトル(後述)の変化は、50秒以上70秒以下の周期で現れることが多い。これは異常呼吸相の患者が50秒から70秒の周期で異常呼吸相に特有の呼吸を行うことによると考えられる。このことから、前記時間変動曲線を取得する期間の下限としては、120秒が好ましく、400秒がより好ましい。取得期間が前記下限未満であると、異常呼吸相を精度よく判定できないおそれがある。なお、取得期間の上限は特に限定されず、例えば被検者Xの健康が回復するまでの期間について常時連続的に取得してもよい。
【0044】
<変換部>
変換部30は、取得部20で得られる前記時間変動曲線のウェーブレット変換によりウェーブレットスペクトルを得る。
【0045】
ウェーブレット変換は、信号の周波数解析の1手法である。周波数解析として代表的なフーリエ変換では時間に関する情報が失われてしまうのに対し、ウェーブレット変換では時間の情報を残せるため、時間と周波数とに関する情報を同時に抽出することができる。すなわち、ウェーブレット変換を行うことで、例えば
図5に示すように、ある時間(
図5横軸)のある周波数(
図5の縦軸)に対する強度(
図5では波の高さで表現)が分かる。当該異常呼吸相判定装置1では、ウェーブレット変換手法として、正規化複素ウェーブレット変換(NCWT)を好適に用いることができる。
【0046】
このウェーブレット変換は、時間軸に対して離散的に行うこと(離散ウェーブレット変換)もできるが、連続して行うこと(連続ウェーブレット変換)が好ましい。
【0047】
変換部30は、ハイパスフィルタを含むとよい。すなわち一定周波数未満の周波数成分はウェーブレット変換しないことが好ましい。本来は、歪センサ素子11の伸縮が同じであれば、同じ伸縮信号が得られるはずであるが、わずかに低周波数で揺らぎが生じる場合がある。また、例えば被験者Xが横向きになると下側の歪みセンサ素子11は伸び易く、上側の歪みセンサ素子11は縮み易い等、被検者Xの所作により、歪センサ素子11の伸縮の傾向が変わる場合がある。ハイパスフィルタにより、この揺らぎや伸縮傾向の変化に起因する成分を除去することができるので、当該異常呼吸相判定装置1の判定精度を高めることができる。
【0048】
ウェーブレット変換を行う周波数の下限としては、0.05Hzが好ましく、0.1Hzがより好ましい。一方、前記周波数の上限としては、1Hzが好ましく、0.5Hzがより好ましい。異常呼吸相の発現の有無は、前記周波数範囲内のウェーブレットスペクトルの変化に現れ易い。このため、前記周波数範囲外のウェーブレット変換を行うと、そのデータ量の増大に対して得られる効果が少ないおそれがある。また、前記周波数の下限未満の周波数についてウェーブレット変換を行うと、上述の歪みセンサ素子11の揺らぎや伸縮傾向の変化に起因する成分の影響を受けて、当該異常呼吸相判定装置1の判定精度が低下するおそれや1周期内に1回の呼吸が収まらないおそれがある。逆に、前記周波数の上限を超える周波数についてウェーブレット変換を行うと、他の生体信号が混入し、当該異常呼吸相判定装置1の判定精度が低下するおそれがある。
【0049】
<圧縮部>
圧縮部40は、変換部30で得られる前記ウェーブレットスペクトルの圧縮により圧縮データを得る。
【0050】
当該異常呼吸相判定装置1では、圧縮部40の圧縮は、時間軸及び周波数軸に対して2次元的に分割された領域単位での前記ウェーブレットスペクトルの平均化により行う。つまり、周波数軸方向についてウェーブレット変換を行った周波数範囲をn分割し、時間軸方向についてウェーブレット変換を行った時間範囲をm分割したn×mの領域それぞれについて、ウェーブレットスペクトルの強度の平均値を求める次元圧縮により行われる。このような平均化処理を行うことで、当該異常呼吸相判定装置1の判定精度の低下を抑止しつつ機械学習を効率的に行える。
【0051】
各領域の平均化処理を行うにあたっては、領域内の任意の位置のウェーブレットスペクトルの強度を必要とするが、ウェーブレットスペクトルが離散的に求められている場合にあっては、至近の離散値を代表値として平均化処理を行ってもよく、あるいは近傍の複数の離散値からの補完処理により代表値を算出してもよい。
【0052】
時間範囲の分割数mは、1領域の時間幅によって決まるが、1領域の時間幅の下限としては、1秒が好ましく、2秒がより好ましい。一方、1領域の時間幅の上限としては、5秒が好ましく、4秒がより好ましい。1領域の時間幅が前記下限未満であると、圧縮率が不十分となるおそれがある。逆に、1領域の時間幅が前記上限を超えると、1領域に複数の呼吸が含まれ、当該異常呼吸相判定装置1の判定精度が低下するおそれがある。
【0053】
<最大値抽出部>
最大値抽出部50は、変換部30で得られる前記ウェーブレットスペクトルからのピーク周波数の抽出によりピーク周波数データを得る。
【0054】
ピーク周波数は、ある時間におけるウェーブスペクトルの強度が最大となる周波数であり、
図5の最も右側のスペクトルでは、最大値Pに対応する周波数を意味する。ピーク周波数は、時間ごとに規定されるので、時間に依存した量として抽出される。このピーク周波数は、異常呼吸相が発現すると高周波側へずれる傾向にある。
【0055】
<包絡線抽出部>
包絡線抽出部60は、取得部20で得られる前記時間変動曲線からの包絡線の抽出により包絡線データを得る。
【0056】
包絡線とは、曲線群が与えられたときに,全ての曲線とどこかで接するような曲線をいう。当該異常呼吸相判定装置1で測定される時間変動曲線の包絡線から被検者Xの呼吸の周期性を判定することができる。
【0057】
<判定部>
判定部70は、前記圧縮データを含むデータを入力データとし、既知の入力データとその入力データに対する異常呼吸相の発現を判定する判定値とを教師データとして機械学習された予測モデル90を用いて、前記入力データから判定値を出力する。当該異常呼吸相判定装置1は、機械学習された予測モデル90、いわゆるAIを用いて、前記入力データから異常呼吸相の有無を判定することができる。
【0058】
前記入力データは、圧縮部40で得られる前記圧縮データを含むほか、当該異常呼吸相判定装置1では、前記入力データは、最大値抽出部50で得られる前記ピーク周波数データ及び包絡線抽出部60で得られる前記包絡線データを含む。前記入力データにピーク周波数データ及び包絡線データを含めることで、当該異常呼吸相判定装置1の判定精度を高めることができる。
【0059】
「既知の入力データ」とは、実際に判定を行う入力データと同一の歪センサ素子あるいは同一の生体表面から取得された入力データであることを必ずしも要しない。その一部又は全部が、異なる歪みセンサ素子あるいは異なる生体表面から取得されたものであってもよい。
【0060】
予測モデル90の機械学習として、ニューラルネットワークが用いられているとよい。このようにニューラルネットワークを用いることで、機械学習を効率的に行うことができる。
【0061】
前記ニューラルネットワークとしては、時系列データを扱えるRNN(Recurrent Newral Network)、LSTMなどが公知であるが、前記ニューラルネットワークがLSTMであるとよい。LSTMは、異常呼吸相の呼吸に基づく信号に内在する長期的な周波数変化を捉え易い。
【0062】
<表示部>
表示部80は、判定部70で判定された判定値を表示する。
【0063】
表示部80は、例えば液晶ディスプレイで構成される。表示部80は、前記判定値に加えて、取得部20で得られる時間変動曲線、変換部30で得られるウェーブレットスペクトル、最大値抽出部50で得られるピーク周波数、包絡線抽出部60で得られる包絡線等の情報を表示してもよい。これらの表示は、前記コンピュータにより制御される。
【0064】
また、表示部80に代えて、あるいは表示部80と共に、異常呼吸相が発現したことを音声等で知らせる警報器を備えてもよい。前記警報器の動作についても前記コンピュータにより制御される。
【0065】
[異常呼吸相判定方法]
図6に示す異常呼吸相判定方法は、計測ステップS1と、変換ステップS2と、圧縮ステップS3と、最大値抽出ステップS4と、包絡線抽出ステップS5と、判定ステップS6とを備える。当該異常呼吸相判定方法は、
図1に示す異常呼吸相判定装置1を用いて行うことができる。
【0066】
<計測ステップ>
計測ステップS1では、生体表面に設置され、肺の拡幅に応じた生体表面の伸縮を検出する歪センサ素子11の伸縮の時間変化を計測することで時間変動曲線を取得する。
【0067】
計測ステップS1は、当該異常呼吸相判定装置1の取得部20で行われ、計測結果として時間変動曲線が得られる。
【0068】
<変換ステップ>
変換ステップS2では、計測ステップS1で得られる前記時間変動曲線ウェーブレット変換によりウェーブレットスペクトルを得る。
【0069】
変換ステップS2は、当該異常呼吸相判定装置1の変換部30で行われ、その結果としてウェーブレットスペクトルが得られる。
【0070】
<圧縮ステップ>
圧縮ステップS3では、変換ステップS2で得られる前記ウェーブレットスペクトルの圧縮により圧縮データを得る。
【0071】
圧縮ステップS3は、当該異常呼吸相判定装置1の圧縮部40で行われ、その結果としてウェーブレットスペクトルの圧縮データが得られる。
【0072】
<最大値抽出ステップ>
最大値抽出ステップS4では、変換ステップS2で得られる前記ウェーブレットスペクトルからのピーク周波数の抽出によりピーク周波数データを得る。
【0073】
最大値抽出ステップS4は、当該異常呼吸相判定装置1の最大値抽出部50で行われ、その結果として時間に依存したピーク周波数データが得られる。なお、最大値抽出ステップS4と圧縮ステップS3とは独立して行うことができるので、これらの処理の順序は問わない。
【0074】
<包絡線抽出ステップ>
包絡線抽出ステップS5では、計測ステップS1で得られる前記時間変動曲線からの包絡線の抽出により包絡線データを得る。
【0075】
包絡線抽出ステップS5は、当該異常呼吸相判定装置1の包絡線抽出部60で行われ、その結果として包絡線データが得られる。なお、包絡線抽出ステップS5と圧縮ステップS3及び最大値抽出ステップS4とは独立して行うことができるので、これらの処理の順序は問わない。
【0076】
<判定ステップ>
判定ステップS6では、圧縮ステップS3で得られる前記圧縮データを含むデータを入力データとし、既知の入力データとその入力データに対する異常呼吸相の発現を判定する判定値とを教師データとして機械学習された予測モデル90を用いて、前記入力データから判定値を出力する。
【0077】
また、前記入力データは、最大値抽出ステップS4で得られる前記ピーク周波数データ及び包絡線抽出ステップS5で得られる前記包絡線データを含む。
【0078】
判定ステップS6は、当該異常呼吸相判定装置1の判定部70で行われ、その結果は表示部80に表示される。
【0079】
[異常呼吸相判定プログラム]
当該異常呼吸相判定方法の各ステップは、当該異常呼吸相判定装置1のコンピュータに格納されたプログラムにより当該異常呼吸相判定装置1を機能させることで実行可能である。すなわち、本発明の別の一態様に係る異常呼吸相判定プログラムは、生体表面に設置され、肺の拡幅に応じた生体表面の伸縮を検出する歪センサ素子11の伸縮の時間変化を計測することで時間変動曲線を取得する計測ステップと、前記時間変動曲線のウェーブレット変換によりウェーブレットスペクトルを得る変換ステップと、前記ウェーブレットスペクトルの圧縮により圧縮データを得る圧縮ステップと、前記ウェーブレットスペクトルからのピーク周波数の抽出によりピーク周波数データを得る最大値抽出ステップと、前記時間変動曲線からの包絡線の抽出により包絡線データを得る包絡線抽出ステップと、前記圧縮データ、前記ピーク周波数データ及び前記包絡線データを含むデータを入力データとし、既知の入力データとその入力データに対する異常呼吸相の発現を判定する判定値とを教師データとして機械学習された予測モデル90を用いて、前記入力データから判定値を出力する判定ステップとをコンピュータに実行させる。
【0080】
当該異常呼吸相判定プログラムは、通常前記コンピュータの記憶装置に格納されている。なお、当該異常呼吸相判定プログラムの各ステップでは、当該異常呼吸相判定方法の対応するステップの動作が、前記コンピュータのCPUにより実行される。
【0081】
[予測モデル生成装置]
図7に示す予測モデル生成装置2は、異常呼吸相の発現を判定するための予測モデル生成装置であって、
図1に示す当該異常呼吸相判定装置1の予測モデル90を生成することができる。
【0082】
当該予測モデル生成装置2は、生体表面に設置され、肺の拡幅に応じた生体表面の伸縮を検出可能な歪センサ素子11を有するセンサユニット10と、歪センサ素子11の伸縮の時間変化を取得する取得部20と、前記時間変動曲線のウェーブレット変換によりウェーブレットスペクトルを得る変換部30と、前記ウェーブレットスペクトルの圧縮により圧縮データを得る圧縮部40と、前記ウェーブレットスペクトルからのピーク周波数の抽出によりピーク周波数データを得る最大値抽出部50と、前記時間変動曲線からの包絡線の抽出により包絡線データを得る包絡線抽出部60とを備える。センサユニット10、取得部20、変換部30、圧縮部40、最大値抽出部50及び包絡線抽出部60は、
図1に示す当該異常呼吸相判定装置1と同一の構成とされるので、同一符号を付して詳細説明を省略する。
【0083】
また、当該予測モデル生成装置2は、入力データ取得部100と、判定値取得部110と、モデル構築部120とを備える。
【0084】
<入力データ取得部>
入力データ取得部100は、前記圧縮データ、前記ピーク周波数データ及び前記包絡線データを含むデータを入力データとし、センサユニット10、取得部20、変換部30、圧縮部40、最大値抽出部50及び包絡線抽出部60を用いて、複数の入力データを取得する。
【0085】
入力データ取得部100で取得される前記入力データは、当該異常呼吸相判定装置1の判定部70に入力されるデータと同じ方法で取得される。複数の前記入力データは、時間的に連続する1つの入力データを複数に分割したものであってもよいが、異常呼吸相が発現しているデータと、異常呼吸相が発現していないデータとを含む。なお、入力データの分割には、実際にデータ分割を行う場合に加えて、異なる時間範囲を複数箇所指定して利用する場合を含む。
【0086】
前記入力データ数の下限としては、100が好ましく、500がより好ましく、1000がさらに好ましい。前記入力データ数が上記下限未満であると、予測モデル90の精度が不十分となるおそれがある。一方、前記入力データ数の上限としては、特に限定されず多いほどよいが、例えば10000とできる。
【0087】
<判定値取得部>
判定値取得部110は、前記複数の入力データそれぞれに対応する異常呼吸相の発現を判定した複数の判定値を取得する。
【0088】
判定値取得部110では、各入力データに対して異常呼吸相の発現の有無を判定し、その結果を判定値として割り付ける。異常呼吸相の発現の有無の判定は、時間変動曲線及びウェーブレットスペクトルのいずれかにより異常呼吸相を判定できる者(熟練者)が行うことが好ましい。予測モデル90は、機械学習により学習することでモデルが構築される。従って、熟練者の判断を学習させることで、予測モデル90の精度を高められる。
【0089】
前記判定値は、単に有/無の2値データとすることもできるが、例えば、正常呼吸相、どちらかと言えば正常呼吸相、どちらかと言えば異常呼吸相、異常呼吸相の4値といったような確度を示す複数値で表現してもよい。このように確度を加えることで、予測モデル90の精度を高められる。
【0090】
さらに、各入力データは時系列変化であるため、前記判定値の判断根拠となった時間軸の区間情報を判定値に加えてもよい。また、外乱によるウェーブレットスペクトルの乱れが認められる場合は、外乱が認められる時間軸の区間情報を判定値に加えてもよい。このような情報を加えても予測モデル90の精度を高めることができる。
【0091】
<モデル構築部>
モデル構築部120は、前記複数の入力データ及び前記複数の判定値を教師データとして用い、入力データに対する判定値を出力とする予測モデル90を機械学習により構築する。
【0092】
モデル構築部120では、当該異常呼吸相判定装置1の判定部70で用いられている機械学習に対応した予測モデル90が構築される。この予測モデル90の構築には、AIに関する公知の推定技術を用いることができる。具体的には、入力データ及び判定値を対とした複数のデータ群から、モデル構築部120は入力データと判定値との相関を学習し、予測モデル90を構築することができる。
【0093】
[予測モデル生成方法]
図8に示す予測モデル生成方法は、生体表面に設置され、肺の拡幅に応じた生体表面の伸縮を検出する歪センサ素子11の伸縮の時間変化を計測することで時間変動曲線を取得する計測ステップS1と、前記時間変動曲線のウェーブレット変換によりウェーブレットスペクトルを得る変換ステップS2と、前記ウェーブレットスペクトルの圧縮により圧縮データを得る圧縮ステップS3と、前記ウェーブレットスペクトルからのピーク周波数の抽出によりピーク周波数データを得る最大値抽出ステップS4と、前記時間変動曲線からの包絡線の抽出により包絡線データを得る包絡線抽出ステップS5とを備える。計測ステップS1、変換ステップS2、圧縮ステップS3、最大値抽出ステップS4及び包絡線抽出ステップS5は、
図6に示す当該異常呼吸相判定方法と同一であるので、同一符号を付して詳細説明を省略する。
【0094】
また、当該予測モデル生成方法は、入力データ取得ステップS7と、判定値取得ステップS8と、モデル構築ステップS9とを備える。
【0095】
<入力データ取得ステップ>
入力データ取得ステップS7では、前記圧縮データ、前記ピーク周波数データ及び前記包絡線データを含むデータを入力データとし、計測ステップS1、変換ステップS2、圧縮ステップS3、最大値抽出ステップS4及び包絡線抽出ステップS5を繰り返し、複数の入力データを取得する。
【0096】
入力データ取得ステップS7は、当該予測モデル生成装置2の入力データ取得部100で行われ、その結果として複数の入力データが得られる。
【0097】
<判定値取得ステップ>
判定値取得ステップS8では、前記複数の入力データそれぞれに対応する異常呼吸相の発現を判定した複数の判定値を取得する。
【0098】
判定値取得ステップS8は、当該予測モデル生成装置2の判定値取得部110で行われ、その結果として各入力データに対する判定値が得られる。
【0099】
<モデル構築ステップ>
モデル構築ステップS9では、前記複数の入力データ及び前記複数の判定値を教師データとして用い、入力データに対する判定値を出力とする予測モデル90を機械学習により構築する。
【0100】
モデル構築ステップS9は、当該予測モデル生成装置2のモデル構築部120で行われ、その結果として予測モデル90が得られる。
【0101】
[利点]
当該異常呼吸相判定装置1、異常呼吸相判定方法及び異常呼吸相判定プログラムでは、ウェーブレット変換を利用し、さらにそのウェーブレットスペクトルを圧縮することで、データ量が圧縮され、歪センサ素子11により検出される肺の拡幅に応じた時間変動曲線から、異常呼吸相の発現につながるような特徴量の抽出が容易化される。当該異常呼吸相判定装置1、当該異常呼吸相判定方法及び当該異常呼吸相判定プログラムは、この特徴量の抽出を容易化した入力データを入力とするので、いわゆるAIを用いて、容易にかつ精度よく異常呼吸相の有無を判定することができる。また、異常呼吸相の判定は、歪センサ素子11による検出を行いながらリアルタイムに実施できるので、実際に異常呼吸相が生じた際、速やかに異常呼吸相が発現したことを判定することができる。
【0102】
また、当該予測モデル生成装置2及び当該予測モデル生成方法は、ウェーブレット変換され、さらに圧縮された入力データを教師データとして、異常呼吸相の発現を判定する予測モデル90を機械学習により構築する。従って、当該予測モデル生成装置2及び当該予測モデル生成方法によって構築される予測モデル90は、当該異常呼吸相判定装置1、当該異常呼吸相判定方法及び当該異常呼吸相判定プログラムの予測モデル90として好適に用いることができる。
【0103】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2の実施形態を詳説する。
【0104】
[異常呼吸相判定装置]
第2実施形態に係る異常呼吸相判定装置は、生体表面に設置され、肺の拡幅に応じた生体表面の伸縮を検出可能な歪センサ素子を有するセンサユニットと、前記歪センサ素子の伸縮の時間変化を表す時間変動曲線を取得する取得部と、前記時間変動曲線のウェーブレット変換によりウェーブレットスペクトルを得る変換部と、前記ウェーブレットスペクトルの圧縮により圧縮データを得る圧縮部と、前記圧縮データを含むデータを入力データとし、既知の入力データとその入力データに対する異常呼吸相の発現を判定する判定値とを教師データとして機械学習された予測モデルを用いて、前記入力データから判定値を出力する判定部とを備える。
【0105】
当該異常呼吸相判定装置は、圧縮部40の圧縮方法が異なる点以外は、
図1に示す第1実施形態に係る異常呼吸相判定装置1と同様に構成することができるので詳細説明を省略する。以下、
図1等を参照しつつ、圧縮部40の圧縮方法について説明する。
【0106】
<圧縮部>
圧縮部40は、変換部30で得られる前記ウェーブレットスペクトルの圧縮により圧縮データを得る。
【0107】
当該異常呼吸相判定装置では、圧縮部40の圧縮は、ウェーブレットスペクトルの強度パターンが格納される記憶テンプレートを用い、少なくとも時間軸に対して分割された領域単位で前記ウェーブレットスペクトルを機械学習によりパターン化することにより行われる。
【0108】
上記機械学習には、畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Newral Network;CNN)を用いることが好ましい。この圧縮処理により前記ウェーブレットスペクトルから経時変化の学習が行い易くなる。このため、経時変化の学習を好適に行えるLSTM(Long Short-Term Memory)を予測モデル90の機械学習として用いるとよく、特にConvolutional LSTMをCNNと組み合わせて用いることが好ましい。これによりさらに当該異常呼吸相判定装置の判定精度を高めることができる。
【0109】
以下に記憶テンプレートを用いた圧縮について、CNNを用いた場合を例にとり詳細を説明するが、上記機械学習がCNNに限定されることを意味するものではない。
【0110】
上述したように異常呼吸相の特徴的なウェーブレットスペクトルの変化は、50秒以上70秒以下の周期で現れるから、まず1周期に相当する時間でウェーブレットスペクトルを分割する。周波数軸方向については、分割しなくともよいし、ウェーブレット変換を行った周波数範囲を所定の分割数で分割してもよい。このようにして少なくとも時間軸に対して分割された領域を得る。この領域についてパターン化が行われる。
【0111】
前記領域のパターン化は、前記領域単位で、周波数軸方向にX、時間軸方向にYがマトリックス状に並んだX×Y個のテンプレートに分割して行う。X、Yとしては、5以上10以下が好ましく、X=Yであることがより好ましい。X、Yが前記下限未満であると、1領域の特徴が十分に抽出できないおそれがある。逆に、X、Yが前記上限を超えると、後述する記憶テンプレートのパターン数が削減できず、各領域に共通する特徴が抽出し難くなるおそれがある。また、X=Yとすることで、記憶テンプレートで右上がり、右下がり等のパターンの表現が容易となり、パターン化し易くできる。
【0112】
パターン化の処理はCNNにより行う。CNNは、1領域内あるいは複数の領域間でテンプレートをパターン化し、いくつかの記憶テンプレートを生成する。ここで記憶テンプレートとは、例えば時間軸及び周波数軸によらず強度が一定であるパターン、強度が右上がりである(つまり時間経過とともにピークが周波数の高い側にシフトしていく)パターンなどである。そして、CNNは、テンプレートに代えて対応する記憶テンプレートを割り付ける。このような処理を行うと、共通する特徴を有する複数のテンプレートは、1つの記憶テンプレートに割り付けられるので、パターン数を削減できる。また、この処理を行う物理的意味として、例えば被検者Xの嚥下や体動等による僅かなウェーブレットスペクトルの乱れ(外乱)が除去されることになる。従って、微小な違いをセンシティブに捉えやすいLSTMが外乱を捉えることを抑止し、逆に異常呼吸相に起因する微小な違いを的確に捉え易くさせることができる。なお、上記記憶テンプレートの生成数の上限は予め設定されていることが好ましい。
【0113】
最後に、時間軸方向に連続する複数の領域を集めてデータ化する。1つのデータに含まれる領域数としては、2以上4以下が好ましい。このデータが圧縮データとして用いられる。
【0114】
[異常呼吸相判定方法及び異常呼吸相判定プログラム]
当該異常呼吸相判定装置を用いた異常呼吸相判定方法及び異常呼吸相判定プログラムは、第1実施形態の異常呼吸相判定方法及び異常呼吸相判定プログラムと同様であるので、詳細説明を省略する。
【0115】
[予測モデル生成装置及び予測モデル生成方法]
当該異常呼吸相判定装置の予測モデルに係る予測モデル生成装置及び予測モデル生成方法は、第1実施形態の予測モデル生成装置及び予測モデル生成方法と同様であるので、詳細説明を省略する。
【0116】
[利点]
当該異常呼吸相判定装置では、少なくとも時間軸に対して分割された領域単位で前記ウェーブレットスペクトルをパターン化することにより、前記ウェーブレットスペクトルの特徴量が失われることを抑止しつつ、圧縮することができる。
【0117】
[その他の実施形態]
前記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、前記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて前記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0118】
前記実施形態では、センサユニットが一対の歪センサ素子を備える場合を説明したが、ひずみセンサ素子の数は、一対つまり2個に限定されるものではなく、1個あるいは3個以上であってもよい。
【0119】
また、前記センサユニットの保持部材は、複数の歪センサ素子の生体表面に対する位置関係を定めることができるものであればよく、隣接して配置される歪センサ素子同士を接続する糸状部材、紐状部材、帯状部材等であってもよい。
【0120】
前記実施形態では、異常呼吸相判定装置の判定部に入力される入力データが、ピーク周波数データ及び包絡線データを含む場合を説明したが、本発明の異常呼吸相判定装置は、前記入力データにピーク周波数データ及び包絡線データの一方又は両方を含まない構成とすることもできる。当該異常呼吸相判定装置は、ピーク周波数データ及び包絡線データの一方又は両方を含まなくとも同様の効果を奏する。なお、入力データにピーク周波数データを含まない場合は、最大値抽出部を省略可能であり、包絡線データを含まない場合は、包絡線抽出部を省略可能である。同様に異常呼吸相判定装置が入力データにピーク周波数データを含まない場合は、対応する予測モデル生成装置における最大値抽出部と、異常呼吸相判定方法、異常呼吸相判定プログラム及び予測モデル生成方法における最大値抽出ステップも省略可能である。また、異常呼吸相判定装置が入力データに包絡線データを含まない場合は、対応する予測モデル生成装置における包絡線抽出部と、異常呼吸相判定方法、異常呼吸相判定プログラム及び予測モデル生成方法における包絡線抽出ステップも省略可能である。
【0121】
前記実施形態では、第1実施形態で次元圧縮を用いる場合、第2実施形態でパターン化による圧縮を用いる場合を説明したが、これらの圧縮方法は併用してもよい。これらの圧縮方法を併用する場合は、次元圧縮を行った後にパターン化を行うことが好ましい。
【実施例0122】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0123】
[データの準備]
呼吸器疾患症例として20例を準備した。各症例は、肺切除後の1~3日間にわたって肺の拡幅(呼吸)を計測した歪センサ素子の伸縮の時間変化を表す時間変動曲線(サンプリング周波数10Hz)を含む。なお、前記時間変動曲線から嚥下、体動等により時間変動曲線が乱れている箇所は除去した。
【0124】
呼吸器外科医1名が前記時間変動曲線に対して、正常呼吸相又は異常呼吸相のラベリングを行ったうえで、前記時間変動曲線をウェーブレット変換してウェーブレットスペクトルを得た。その結果、正常呼吸相として6,426,909サンプル、異常呼吸相として1,153,934サンプルのデータ群を得た。
【0125】
[予想モデルの生成]
前記データ群のうち、約65%のデータ(1データは384秒分のウェーブレットスペクトル)をランダムに選択し、機械学習用の教師データとした。
【0126】
<No.1>
前記教師データのうちウェーブレットスペクトルについて、時間軸及び周波数軸に対して2次元的に分割された領域単位でウェーブレットスペクトルの平均化により次元圧縮を行った。なお、周波数軸方向についてウェーブレット変換を行った周波数範囲を24分割し、時間軸方向についてウェーブレット変換を行った時間範囲を4秒ごとに分割、すなわち96分割して1領域とした。
【0127】
前記教師データについて、圧縮後の前記ウェーブレットスペクトルを入力データとし、呼吸器外科医1名がラベリングした正常呼吸相又は異常呼吸相の判定値を出力データとして、機械学習を行い、予測モデルを生成した。
【0128】
このとき入力データは、4秒(1分割分)を1単位として96群に分けて入力した。なお、ニューラルネットワークにはLSTMを用いた。また、学習条件としては、バッチサイズを128とし、損失関数には交差エントロピー誤差、最適化手法にはNadam(0.0001)を用いた。
【0129】
<No.2>
入力データを、64秒(16分割分)を1単位として6群に分けて入力した以外はNo.1と同様にして予測モデルを生成した。
【0130】
<No.3>
No.2の入力データ1単位に対してパターン化を行った以外は、No.2と同様にして予測モデルを生成した。なお、パターン化は、周波数軸方向に7、時間軸方向に7がマトリックス状に並んだ7×7個のテンプレートに分割して行い、8種類の記憶テンプレートを用いてパターン化した。
【0131】
<No.4>
前記教師データのうちウェーブレットスペクトルを次元圧縮することなく、そのまま入力データとした以外は、No.1と同様にして機械学習を行った。しかし、学習が収束せず、予測モデルを得られなかった。なお、入力データは、分割することなく384秒を1単位として入力した。
【0132】
[評価]
前記No.1~No.3の予測モデルを用いて、異常呼吸相の発現の判定を行った。
【0133】
入力データには、前記データ群のうち、教師データと重複しない約10%のデータをランダムに選択して用いた。この入力データをNo.1~No.3の各予測モデルに入力して判定した結果について、呼吸器外科医1名がラベリングした正常呼吸相又は異常呼吸相の判定値を正解として適合率及び再現率を算出した。結果を表1に示す。
【0134】
なお、「適合率」は、予測モデルが正常呼吸相又は異常呼吸相と判定したデータのうち、判定が正解であった割合を指し、「再現率」は、正解が正常呼吸相又は異常呼吸相であるデータのうち、予測モデルの判定が正しかった割合を指す。例えば異常呼吸相において、適合率=100%とは、予測モデルが異常呼吸相と判定したデータは全て実際に異常呼吸相であったことを意味し、正常呼吸相を異常呼吸相と誤判断した場合がなかったことになる。一方、再現率=100%とは、実際に異常呼吸相であるデータは全て予測モデルが異常呼吸相と判定したことを意味し、異常呼吸相を正常呼吸相と誤判断した場合がなかったことになる。
【0135】
【0136】
表1において、「-」は、予測モデルが生成できなかったため、異常呼吸相の発現の判定が行えず、結果が存在しないことを示している。
【0137】
表1の結果から、入力データの前処理を行っているNo.1~No.3のいずれの予測モデルを用いても正常呼吸相及び異常呼吸相を精度よく判定できていることが分かる。これに対し、いずれの前処理も行っていないNo.4では、予測モデルを生成することができず、異常呼吸相の発現の判定を行うことができなかった。このことから、ウェーブレットスペクトルを圧縮することで、容易にかつ精度よく異常呼吸相の有無を判定することができることが分かる。
【0138】
特に前処理として、次元圧縮及びテンプレート化を用いたNo.3の予測モデルでは、異常呼吸相の適合率が90%を超えており、テンプレート化の前処理を加えることで異常呼吸相の誤検出を低く抑えることができている。なお、No.3は、機械学習が最も安定しており、少ない学習回数で収束できるものでもあった。
以上説明したように、本発明に係る異常呼吸相判定装置、異常呼吸相判定方法及び異常呼吸相判定プログラムは、機械学習モデルを用いて精度良く異常呼吸相の有無を判定することができる。また、本発明に係る予測モデル生成装置及び予測モデル生成方法によって構築される予測モデルは、当該異常呼吸相判定装置、当該異常呼吸相判定方法及び当該異常呼吸相判定プログラムの予測モデルとして好適に用いることができる。