(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120734
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】画像処理プログラム、画像処理方法、および画像処理装置
(51)【国際特許分類】
G01T 1/161 20060101AFI20230823BHJP
A61B 6/03 20060101ALI20230823BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
G01T1/161 B
G01T1/161 D
A61B6/03 377
A61B6/03 360B
A61B5/055 380
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023746
(22)【出願日】2022-02-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り Journal of the Neurological Sciences Vol.423(2021)doi:10.1016/j.jns.2021.Article 117363
(71)【出願人】
【識別番号】000181826
【氏名又は名称】社会福祉法人兵庫県社会福祉事業団
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(71)【出願人】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113549
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 守
(74)【代理人】
【識別番号】100115808
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 真司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 竜一
(72)【発明者】
【氏名】石井 一成
(72)【発明者】
【氏名】氏川 正規
【テーマコード(参考)】
4C093
4C096
4C188
【Fターム(参考)】
4C093AA25
4C093CA18
4C093DA04
4C093FA35
4C093FF09
4C093FF21
4C093FF37
4C096AA18
4C096AB36
4C096DC33
4C096DC40
4C188EE02
4C188FF04
4C188KK24
4C188KK33
4C188LL13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】DATの減少を伴う疾患の適切な鑑別に役立つ画像処理技術を提供する。
【解決手段】画像処理プログラムは、ドパミントランスポーター画像の画像処理を行うためのプログラムであって、コンピュータに、被験者のドパミントランスポーター画像を入力する入力ステップ(S10)と、線条体以外の所定の脳領域へのドパミントランスポーターの集積を非特異的集積とし、非特異的集積に対するドパミントランスポーターの集積比を求めて、脳のSBR画像を生成するSBR画像生成ステップ(S14)と、SBR画像の脳の対称軸を基準としてSBR画像を反転し、反転SBR画像を生成する反転ステップ(S15)と、SBR画像と反転SBR画像との差に基づいて、被験者のSBR画像の非対称性を示すAI画像を生成するAI画像生成ステップ(S16)と、AI画像を出力する出力ステップ(S19)とを実行させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドパミントランスポーター画像の画像処理を行うためのプログラムであって、コンピュータに、
被験者のドパミントランスポーター画像を入力する入力ステップと、
線条体以外の所定の脳領域へのドパミントランスポーターの集積を非特異的集積とし、前記非特異的集積に対するドパミントランスポーターの集積比を求めて、脳のSBR画像を生成するSBR画像生成ステップと、
前記SBR画像の脳の対称軸を基準としてSBR画像を反転し、反転SBR画像を生成する反転ステップと、
前記SBR画像と前記反転SBR画像との差に基づいて、被験者のSBR画像の非対称性を示すAI画像を生成するAI画像生成ステップと、
前記AI画像を出力する出力ステップと、
を実行させる画像処理プログラム。
【請求項2】
前記AI画像生成ステップでは、
|SBR画像-反転SBR画像|/{(SBR画像+反転SBR画像)/2}
の計算を行うことにより、前記AI画像を生成させる請求項1に記載の画像処理プログラム。
【請求項3】
前記AI画像において視床下核領域に関心領域を設定するステップと、
前記視床下核領域のAI指標値を算出するステップと、
を実行させる請求項1または2に記載の画像処理プログラム。
【請求項4】
進行性核上性麻痺患者とパーキンソン病患者のAI指標値を予めROC解析して求めたカットオフ値を記憶部から読み出すステップと、
被験者のAI指標値と記憶部から読み出したカットオフ値とを出力するステップと、
を実行させる請求項3に記載の画像処理プログラム。
【請求項5】
前記入力ステップでは、前記ドパミントランスポーター画像に加え、SPECT/CTでドパミントランスポーター画像と共に撮像されたCT画像と、別途撮像されたMRI画像の入力を受け付け、
CT画像とMRI画像との位置合わせを行うステップと、
MRI画像の解剖学的標準化を行い、解剖学的標準化を行ったときの変換パラメータを記憶するステップと、
前記変換パラメータを用いて、ドパミントランスポーター画像の解剖学的標準化を行うステップと、
を実行させる、請求項1~4のいずれか1項に記載の画像処理プログラム。
【請求項6】
画像処理装置によってドパミントランスポーター画像の画像処理を行う方法であって、
被験者のドパミントランスポーター画像を入力する入力ステップと、
前記ドパミントランスポーター画像の解剖学的標準化を行う標準化ステップと、
線条体以外の所定の脳領域へのドパミントランスポーターの集積を非特異的集積とし、前記非特異的集積に対するドパミントランスポーターの集積比を求めて、脳のSBR画像を生成するSBR画像生成ステップと、
前記SBR画像の脳の対称軸を基準としてSBR画像を反転し、反転SBR画像を生成する反転ステップと、
前記SBR画像と前記反転SBR画像との差に基づいて、被験者のSBR画像の非対称性を示すAI画像を生成するAI画像生成ステップと、
前記AI画像を出力する出力ステップと、
を備える画像処理方法。
【請求項7】
前記AI画像生成ステップでは、
|SBR画像-反転SBR画像|/{(SBR画像+反転SBR画像)/2}
の計算を行うことにより、前記AI画像を生成する請求項6に記載の画像処理方法。
【請求項8】
前記AI画像において視床下核領域に関心領域を設定するステップと、
前記視床下核領域のAI指標値を算出するステップと、
を備える請求項6または7に記載の画像処理方法。
【請求項9】
進行性核上性麻痺患者とパーキンソン病患者のAI指標値を予めROC解析して求めたカットオフ値を記憶部から読み出すステップと、
被験者のAI指標値と記憶部から読み出したカットオフ値とを出力するステップと、
を備える請求項8に記載の画像処理方法。
【請求項10】
前記入力ステップでは、前記ドパミントランスポーター画像に加え、SPECT/CTでドパミントランスポーター画像と共に撮像されたCT画像と、別途撮像されたMRI画像の入力を受け付け、
前記標準化ステップは、
CT画像とMRI画像との位置合わせを行うステップと、
MRI画像の解剖学的標準化を行い、解剖学的標準化を行ったときの変換パラメータを記憶するステップと、
前記変換パラメータを用いて、ドパミントランスポーター画像の解剖学的標準化を行うステップと、
を備える、請求項6~9のいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項11】
ドパミントランスポーター画像の画像処理を行う装置であって、
被験者のドパミントランスポーター画像を入力する入力部と、
線条体以外の所定の脳領域へのドパミントランスポーターの集積を非特異的集積とし、前記非特異的集積に対するドパミントランスポーターの集積比を求めて、脳のSBR画像を生成するSBR画像生成部と、
前記SBR画像の脳の対称軸を基準としてSBR画像を反転して反転SBR画像を生成し、前記SBR画像と前記反転SBR画像との差に基づいて、被験者のSBR画像の非対称性を示すAI画像を生成するAI画像生成部と、
前記AI画像を出力する出力部と、
を備える画像処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理プログラム、画像処理方法、画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドパミントランスポーター(DAT)は、脳の線条体内に存在する黒質線条体ドパミン神経の終末部に高発現する。パーキンソン病(PD)、進行性核上性麻痺(PSP)などのパーキンソン症候群(PS)やレビー小体型認知症(DLB)では、この発現量が低下することが知られているため、これらの病気の診断には、123I-FP-CITのようなドパミントランスポーターを画像化する放射性医薬品を用いたSPECT(単一光子放射断層撮影、Single photon emission computed tomography)検査やPET(陽電子放射断層撮影、Positron emission tomography)検査によってドパミントランスポーターの脳内分布の評価が行われる。
【0003】
ドパミントランスポーター画像の定量的指標として、線条体の特異的結合による放射能と非特異的結合による放射能との比が用いられる。この手法の一つとして、例えば、Boltらによって提唱されたSBR(Specific binding ratio)が知られている。この手法では、線条体にVOI(Volume of interest)を設定してVOIのカウント値を得ると共に、例えば小脳のように放射性医薬品の集積が疾患の影響を受けにくい非特異的集積部位のカウント値との比を取って、SBRを求める。
【0004】
線条体SBRや線条体SBRの非対称性指数(AI、Asymmetry Index)は、パーキンソン病、パーキンソン症候群やレビー小体型認知症などDATの減少を伴う疾患の診断バイオマーカーとして利用されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-26144号公報
【特許文献2】特開2013-250085号公報
【特許文献3】特開2014-508340号公報
【特許文献4】特開2020-043927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、パーキンソン病や進行性核上性麻痺などのDATの減少を伴う疾患同士の鑑別においては、線条体のSBRやAIは、両疾患とも異常を示すため、正確に鑑別することが困難であった。
【0007】
そこで、本発明は上記背景に鑑み、DATの減少を伴う疾患の適切な鑑別に役立つ画像処理技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の画像処理プログラムは、ドパミントランスポーター画像の画像処理を行うためのプログラムであって、コンピュータに、被験者のドパミントランスポーター画像を入力する入力ステップと、線条体以外の所定の脳領域へのドパミントランスポーターの集積を非特異的集積とし、前記非特異的集積に対するドパミントランスポーターの集積比を求めて、脳のSBR画像を生成するSBR画像生成ステップと、前記SBR画像の脳の対称軸を基準としてSBR画像を反転し、反転SBR画像を生成する反転ステップと、前記SBR画像と前記反転SBR画像との差に基づいて、被験者のSBR画像の非対称性を示すAI画像を生成するAI画像生成ステップと、前記AI画像を出力する出力ステップとを実行させる。
【0009】
このように全脳におけるSBR画像の非対称性を示すAI画像を生成することにより、DATの減少を伴う疾患同士の鑑別を行うための情報を提供できる。
【0010】
本発明の画像処理方法は、画像処理装置によってドパミントランスポーター画像の画像処理を行う方法であって、被験者のドパミントランスポーター画像を入力する入力ステップと、前記ドパミントランスポーター画像の解剖学的標準化を行う標準化ステップと、線条体以外の所定の脳領域へのドパミントランスポーターの集積を非特異的集積とし、前記非特異的集積に対するドパミントランスポーターの集積比を求めて、脳のSBR画像を生成するSBR画像生成ステップと、前記SBR画像の脳の対称軸を基準としてSBR画像を反転し、反転SBR画像を生成する反転ステップと、前記SBR画像と前記反転SBR画像との差に基づいて、被験者のSBR画像の非対称性を示すAI画像を生成するAI画像生成ステップと、前記AI画像を出力する出力ステップとを備える。
【0011】
本発明の画像処理装置は、ドパミントランスポーター画像の画像処理を行う装置であって、被験者のドパミントランスポーター画像を入力する入力部と、線条体以外の所定の脳領域へのドパミントランスポーターの集積を非特異的集積とし、前記非特異的集積に対するドパミントランスポーターの集積比を求めて、脳のSBR画像を生成するSBR画像生成部と、前記SBR画像の脳の対称軸を基準としてSBR画像を反転して反転SBR画像を生成し、前記SBR画像と前記反転SBR画像との差に基づいて、被験者のSBR画像の非対称性を示すAI画像を生成するAI画像生成部と、前記AI画像を出力する出力部とを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、DAT集積の非対称性を示すAI画像を生成することにより、DATの減少を伴う疾患同士の鑑別を行うための情報を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態に係る画像処理装置の構成を示す図である。
【
図2】画像処理装置によって行われる画像処理方法の処理を示すフローチャートである。
【
図5】グラスブレイン内に表示された患者と健常対照群とのAI画像における群間比較の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において「ドパミントランスポーター画像」とは、被験者に対し放射性ドパミントランスポーター画像化剤を投与して核医学検査を行うことにより取得された脳画像である。放射性ドパミントランスポーター画像化剤としては、例えば123I-FP-CIT、[18F]FP-CIT([18F]フルオロプロピルカルボメトキシヨードフェニルノルトロパン)、[99mTc]TRODAT-1([99mTc][2-[[2-[[[3-(4-クロロフェニル)-8-メチル-8-アザビシク[3.2.1]オクト-2-イル]メチル](2-メルカプトエチル)アミノ]エチル]-アミノ]エタンチオレート-(3-)-N2,N2’,S2,S2’]オキソ-[1R-(エキソ-エキソ)])、[11C]CFT((1S,5R)-3β-(4-フルオロフェニル)-8-[11C]メチル-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-2β-カルボン酸メチル)、[123I]β-CIT((2β-カルボメトキシ-3β-(4-[123I]ヨードフェニル)トロパン)が挙げられる。
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る画像処理プログラム、画像処理方法および画像処理装置1について説明する。以下の説明では、画像処理装置1について最初に説明する。
図1は、実施の形態に係る画像処理装置1の構成を示す図である。画像処理装置1は、入力部10と演算処理部11と出力部12とMRI標準脳テンプレート13とを備えている。
【0016】
入力部10は、SPECT/CT装置で撮像した123I-FP-CIT画像(以下、「FP-CIT画像」という)とCT画像の入力を受け付ける。FP-CIT画像とCT画像は、一つの装置で同時に撮像されているので、脳画像の各部位の位置が合っている。また、入力部10は、同じ被験者のMRI画像の入力を受け付ける。
【0017】
演算処理部11は、入力されたFP-CIT画像とCT画像とMRI画像とに基づいて、SBR画像の非対称性を示すAI画像を生成すると共に、AI指標値を算出する機能を有する。演算処理部11は、標準化部20と、SBR画像生成部21と、AI画像生成部22と、関心領域設定部23と、AI指標値算出部24の各機能を有している。各機能の詳細については、
図2を参照して後述する。
【0018】
出力部12は、演算処理部11にて生成されたAI画像およびAI指標値を出力する機能を有している。出力部12のハードウェアは、例えば、演算結果を表示するディスプレイや、演算結果を外部の装置に出力するインターフェースである。
【0019】
MRI標準脳テンプレート13には、脳の特定の位置にある組織を座標で表した標準脳のテンプレートが記憶されている。
【0020】
図2は、画像処理装置1によって行われる画像処理方法の処理を示すフローチャートである。
図2を参照して、画像処理装置1が行う処理について説明すると共に、画像処理装置1の各構成について説明する。
【0021】
(ステップS10)
画像処理装置1の入力部10は、SPECT/CT装置で同時に撮像されたFP-CIT画像およびCT画像と、別途撮像された同じ被験者のMRI画像の入力を受け付ける。
【0022】
(ステップS11~S13)
画像処理装置1の標準化部20は、FP-CIT画像を解剖学的標準化する処理を行う。FP-CIT画像は、DATが特異的に集積した画像であるため、脳の形態が明確ではない。標準化部20は、FP-CIT画像と同時撮像されたCT画像と別途撮像されたMRI画像を利用してFP-CIT画像の解剖学的標準化を行う。
【0023】
図3は、解剖学的標準化の手順を示す図である。
図3も参照しつつ、
図2に示す動作について説明する。
図3において、CT画像とFP-CIT画像は、SPECT/CT装置で同時撮像された画像である。MRI画像は、別途撮像された同じ被験者のMRI画像である。標準化部20は、CT画像をMRI画像に位置合わせ(co-registration)する(S11)。
【0024】
標準化部20は、
図3に示すように、MRI画像を解剖学的標準化し、このときに解剖学的標準化に用いた変換パラメータを取得する(S12)。標準化部20は、MRI画像の解剖学的標準化で得た変換パラメータを用いて、FP-CIT画像の解剖学的標準化を行う(S13)。
【0025】
FP-CIT画像とCT画像は同時に撮像されたものであり、脳画像の位置があっているので、CT画像と位置合わせされたMRI画像の変換パラメータを用いることで、FP-CIT画像を解剖学的標準化できる。
【0026】
ここでは、MRI画像を用いて解剖学的標準化を行う例を挙げているが、MRI画像を用いることは必須ではない。CT画像の解剖学的標準化を行って変換パラメータを求め、当該変換パラメータを用いてFP-CIT画像の解剖学的標準化を行ってもよい。なお、本実施の形態では、SPECT/CT装置で撮像されたFP-CIT画像とCT画像を用いているが、FP-CIT画像のみを取得した場合には、別の方法によって解剖学的標準化を行ってもよい。
【0027】
(ステップS14)
画像処理装置1のSBR画像生成部21は、標準化されたFP-CIT画像に基づいてSBR画像を生成する。SBR画像は、全脳におけるDATのSBRをピクセル単位で示す画像である。DATは線条体に特異的に集積するだけでなく、線条体以外にも非特異的に集積するが、SBR画像は非特異的集積に対するDATの集積比を求めて生成した画像である。
【0028】
SBR画像生成部21は、線条体以外の所定の脳領域へのDATの集積を非特異的集積として求める。本実施の形態では、所定の領域として小脳の領域を用いる。SBR画像生成部21は、次式による計算を行ってSBR画像を生成する。
SBR画像=(原画像-平均小脳カウント)/(平均小脳カウント)
【0029】
(ステップS15~S16)
画像処理装置1のAI画像生成部22は、SBR画像に基づいて、SBR画像の非対称性を示すAI画像を生成する。
【0030】
図4は、AI画像生成の手順を示す図である。
図4も参照しつつ、
図2に示す動作について説明する。AI画像生成部22は、SBR画像の脳の対称軸を基準としてSBR画像を反転し、反転SBR画像を生成する(S15)。
図4においてSBR画像がSBR画像生成部21で生成されたSBR画像である。SBR画像の右側に、SBR画像を反転させた反転SBR画像を示している。
【0031】
AI画像生成部22は、SBR画像と反転SBR画像との差に基づいて、次式により、被験者のSBR画像の非対称性を示すAI画像を生成する(S16)。
AI画像=|SBR画像-反転SBR画像|/{(SBR画像+反転SBR画像)/2}
【0032】
(ステップS17)
画像処理装置1の関心領域設定部23は、AI画像において本実施の形態では視床下核領域に関心領域を設定する。AI画像は、解剖学的標準化がなされた標準脳であるので、一例として、MRI標準脳テンプレート13から視床下核領域の座標データを読み出し、当該座標データを用いることで、視床下核領域に関心領域を設定することができる。なお、関心領域の設定は、ユーザーに行わせるようにしてもよい。この場合、関心領域設定部23は、関心領域を指定するための画面を表示し、ユーザーから関心領域の設定を受け付ける。この際、MRI標準脳テンプレート13から読みだした視床下核領域をデフォルトで示してもよい。なお、本実施の形態では視床下核領域に関心領域を設定したが、視床下核領域以外の領域に関心領域を設定してもよい。
【0033】
(ステップS18)
画像処理装置1のAI指標値算出部24は、関心領域として設定された視床下核領域のAI指標値を算出する。AI指標値は、視床下核領域におけるDATの集積の非対称性を評価する指標である。AI指標値算出部24は、視床下核領域内の関心領域のAIの平均をとることでAI指標値を求める。
【0034】
(ステップS19)
画像処理装置1の出力部12は、AI画像とAI指標値のデータをディスプレイに出力する。これにより、ユーザーは、AI画像とAI指標値のデータに基づいてDATの減少を伴う疾患同士の鑑別に役立つ情報を提供することができる。
【0035】
なお、AI指標値を出力する際に、進行性核上性麻痺とパーキンソン病の鑑別の評価基準であるROC解析のカットオフ値を併せて出力することとしてもよい。この場合、進行性核上性麻痺患者とパーキンソン病患者のAI指標値を予めROC解析して求めたカットオフ値を記憶部に記憶しておく。出力部12は、カットオフ値を記憶部から読み出し、AI指標値と共にカットオフ値を出力する。このように被験者のAI指標値と共に鑑別の目安となるカットオフ値を出力することで、進行性核上性麻痺とパーキンソン病の鑑別に役立つ。
【0036】
以上、本実施の形態の画像処理装置1および画像処理方法について説明した。上記した画像処理装置1のハードウェアの例は、CPU、RAM、ROM、ハードディスク、ディスプレイ、キーボード、マウス、通信インターフェース等を備えたコンピュータである。上記した演算処理部11の各機能を実現するモジュールを有するプログラムをRAMまたはROMに格納しておき、CPUによって当該プログラムを実行することによって、上記した画像処理装置1が実現される。本実施の形態のプログラムは、コンピュータに、上記した画像処理方法の各ステップを実行させるプログラムである。
【実施例0037】
次に、本実施の形態の画像処理装置を用いた画像処理の実施例について説明する。
(実施例1)
[被験者]
次の(1)(2)の基準を満たす患者を対象とした。
(1)2018年4月から2019年12月までの間に兵庫県立リハビリテーション西播磨病院にて123I-FP-CITによるDATシンチグラフィが行われ、国際運動障害学会のprobable PDの診断基準を満たしたPD患者と、リチャードソン症候群を伴う probable PSPの診断基準を満たしたPSP患者。
(2)生年、性別、臨床診断の結果、脳3D-MRI検査結果、DATシンチグラフィから作成されたAI画像、ミニメンタルステート検査(MMSE)結果、Hoehn-Yahrの重症度分類の結果が診療録から入手できる患者。
【0038】
上記基準で選択された被験者は、健常者20名、レビー小体型認知症患者64名、パーキンソン病患者111名、リチャードソン症候群の進行性核上性麻痺患者18名である。
【0039】
[SPECT/CT]
被験者に167MBqの123I-FP-CITを静注した。123I-FP-CITの静注から180分後に、FP-CIT画像とCT画像を同時撮像した。この撮像には、拡張型低エネルギー汎用コリメータを備えたデュアルヘッドOptima NM/CT 640ガンマカメラ(GE,Boston,MA)を用いた。続いて、撮像により取得した画像データに対し、散乱補正とCT画像による減弱補正を行った。画素サイズは3.05mm×3.05mm、マトリックス=128×128であった。
【0040】
[画像処理]
FP-CIT画像の解剖学的位置合わせ、解剖学的標準化、統計処理は、Statistical Parametric Mapping for Windows, version 12(SPM 12; Wellcome Department of Cognitive Neurology, London, United Kingdom)を用いて実施した。
【0041】
計算と画像マトリックスの操作は、MATLAB(登録商標) R2015a(Math Works Inc.、Natick、MA、USA)を用いて行った。各患者のROIベースのSBRとAIは、Tossici-Bolt法(SBRBolt)を用いて求めた。
【0042】
[SBR画像とAI画像の生成]
画像処理装置は、CT画像を対応するMRI画像に位置合わせした。次に、画像処理装置は、MRI画像のDARTEL(diffeomorphic anatomical registration through exponentiated Lie algebra)変換プロセスを通じて作成した変換パラメータを用いて解剖学的標準脳に変換した。画像処理装置は、MRI画像の解剖学的標準化で得た変換パラメータを用いて、FP-CIT画像の解剖学的標準化を行った。
【0043】
同時に、画像処理装置は、次式により標準定位空間におけるSBR画像を作成した。DATの非特異的集積部位として、小脳の平均カウントを用いた。
SBR画像=(原画像-平均小脳カウント)/(平均小脳カウント)
【0044】
次に、画像処理装置は、正規化したSBR画像をX軸方向に反転して反転SBR画像を作成し、続いて、以下の式に従ってAI画像を作成した。
AI画像=|SBR画像-反転SBR画像|/{(SBR画像+反転SBR画像)/2}
【0045】
ピクセル単位の比較のため、AI画像は等方性8mmガウスカーネルを用いて平滑化し、S/N比を高め、個人間の解剖学的差異を補正した。SBR画像は、元の画像が群間比較で許容できるS/N比を達成したため、平滑化は行わなかった。年齢、性別、罹病期間を攪乱変数とした一元配置分散分析を行い、群間比較を行った。皮質領域は、DATがまばらに存在し、FP-CIT画像では正確に測定できないため、マスクにより解析から除外した。
【0046】
脳領域は、SPM12に実装されたNeuromorphometricsのアトラスを用いて同定した。視床下核領域は、モントリオール神経研究所の視床下核の座標に関するレビュー(G. de Hollander, M.C. Keuken, B.U. Forstmann,「The subcortical cocktail problem; mixed signals from the subthalamic nucleus and substantia nigra,」PLoS One 10 (3) (2015), e0120572, https://doi.org/10.1371/journal.pone.0120572.)のアプローチで同定した。
【0047】
[結果]
図5は、グラスブレイン内に表示された患者と健常対照群とのAI画像における群間比較の例を示す図である。
図5(a)は、パーキンソン病患者と健常対照者との比較を示す。
図5(a)では、パーキンソン病患者と健常対照者とを比較して、パーキンソン病患者の方が値が高かったピクセルを表示している。パーキンソン病では、両側の前島(anterior insula)から被殻、前脳基底部にかけてrAIの増加を示した。
【0048】
図5(b)は進行性核上性麻痺患者と健常対照者との比較を示す図である。
図5(b)では、進行性核上性麻痺患者と健常対照者とを比較して、進行性核上性麻痺患者の方が値が高かったピクセルを表示している。進行性核上性麻痺では、視床下核、中脳に広がる被殻でrAIの増加を示した。
【0049】
図5(c)はパーキンソン病患者と核上性麻痺患者との比較を示す。
図5(b)では、進行性核上性麻痺患者とパーキンソン病患者とを比較して、進行性核上性麻痺患者の方が値が高かったピクセルを表示している。パーキンソン病患者と比較して、進行性核上性麻痺患者では視床下核でrAIの増加を示した。
【0050】
(実施例2)
[被験者]
実施例1と同じである。
[SPECT/CT]
実施例1と同じである。
[SBRとAI画像の生成]
実施例1と同じである。
【0051】
[ROC解析]
進行性核上性麻痺患者とパーキンソン病患者の視床下核領域のAI指標値を求め、ROC解析を行った。PD群とPSP群のAI指標値を用いて両疾患鑑別のROC曲線を作成し、鑑別のためのAI指標値のカットオフ値、感度、特異度を算出した。ROC解析には、EZR(Easy R)(Bone Marrow Transplantation 2013: 48, 452-458)を用いた。なお、ROC解析には、Statistical Package for the Social Sciences (SPSS, version 23, IBM, Armonk, NY, USA)又はJMPを用いてもよい。
【0052】
PD111例、PSP18例から、A群(PD56例とPSP9例)、B群(PD55例とPSP9例)を、無作為に抽出した。A群のROC解析の結果に基づいてカットオフ値を定めた。
【0053】
図6は、A群のデータのROC曲線を示す図である。カットオフ値が0.283のときに、感度100%、特異度78.6%、AUCが0.887となった。A群で定めたカットオフ値(0.283)を用いてB群のPSPとPDの鑑別した際の感度、特異度を算出した。
【0054】
[結果]
A群のROC解析の結果に基づいて設定したカットオフ値(0.283)を用いた鑑別診断精度を表1に示す。
【表1】
この結果に示されるように、PSP陽性の感度は88.9%、特異度は72.7%と良好な鑑別診断精度が得られた。