(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120753
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】印刷適性評価装置および印刷適性評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/17 20060101AFI20230823BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20230823BHJP
B41J 29/393 20060101ALI20230823BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
G01N21/17 A
G06T7/00 Q
G06T7/00 350B
B41J29/393 103
B41J2/01 451
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023784
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 秀平
(72)【発明者】
【氏名】本橋 望
(72)【発明者】
【氏名】森 剛志
【テーマコード(参考)】
2C056
2C061
2G059
5L096
【Fターム(参考)】
2C056EB13
2C056EB27
2C056EB42
2C056HA58
2C061AQ01
2C061AQ04
2C061AQ05
2C061AQ06
2C061AR01
2C061KK04
2C061KK25
2C061KK28
2C061KK35
2G059AA03
2G059BB10
2G059EE02
2G059FF01
2G059KK04
2G059MM01
5L096BA07
5L096FA31
5L096FA59
5L096FA64
5L096FA70
5L096KA04
5L096MA01
(57)【要約】
【課題】印刷対象物の印刷適性を客観的かつ正確に評価することができる印刷適性評価装置および印刷適性評価方法を提供する。
【解決手段】印刷適性評価装置EAは、印刷対象物の印刷適性を評価する装置であって、印刷対象物に印刷された印刷像を撮像した撮像画像を取得する画像取得手段21と、画像取得手段21で取得された撮像画像から当該撮像画像の輝度値を取得する輝度値取得手段22と、輝度値取得手段22で取得された輝度値を表面性状パラメータに適用し、輝度値から表面性状パラメータを算出する表面性状パラメータ算出手段23と、表面性状パラメータ算出手段23で算出された表面性状パラメータに基づいて、印刷対象物の印刷適性を評価する評価手段24とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷対象物の印刷適性を評価する印刷適性評価装置であって、
前記印刷対象物に印刷された印刷像を撮像した撮像画像を取得する画像取得手段と、
前記画像取得手段で取得された前記撮像画像から当該撮像画像の輝度値を取得する輝度値取得手段と、
前記輝度値取得手段で取得された前記輝度値を表面性状パラメータに適用し、前記輝度値から前記表面性状パラメータを算出する表面性状パラメータ算出手段と、
前記表面性状パラメータ算出手段で算出された前記表面性状パラメータに基づいて、前記印刷対象物の前記印刷適性を評価する評価手段とを備えていることを特徴とする印刷適性評価装置。
【請求項2】
前記表面性状パラメータは、算術平均粗さ、二乗平均平方根高さ、最大谷深さ、最大山高さ、最大高さ粗さ、スキューネス、クルトシスのうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の印刷適性評価装置。
【請求項3】
前記表面性状パラメータは、突出山部の断面積、突出谷部の断面積、コア部の負荷長さ率1、コア部の負荷長さ率2、コア部のレベル差、突出山部の高さ、突出谷部の深さのうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の印刷適性評価装置。
【請求項4】
前記評価手段は、学習用の印刷対象物に印刷された印刷像のインク濃度と、当該印刷像を撮像した教師画像の輝度値から算出した前記表面性状パラメータと、前記学習用の印刷対象物に対する前記印刷適性の評価結果とを教師データとして機械学習させた学習済みモデルを使用し、前記印刷適性を評価することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の印刷適性評価装置。
【請求項5】
印刷対象物の印刷適性を評価する印刷適性評価方法であって、
前記印刷対象物に印刷された印刷像を撮像した撮像画像を取得する画像取得工程と、
前記画像取得工程で取得された前記撮像画像から当該撮像画像の輝度値を取得する輝度値取得工程と、
前記輝度値取得工程で取得された前記輝度値を表面性状パラメータに適用し、前記輝度値から前記表面性状パラメータを算出する表面性状パラメータ算出工程と、
前記表面性状パラメータ算出工程で算出された前記表面性状パラメータに基づいて、前記印刷対象物の前記印刷適性を評価する評価工程とを実施することを特徴とする印刷適性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷適性評価装置および印刷適性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷対象物の印刷適性を評価する印刷適性評価方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-70732号公報
【特許文献2】特開2020-90612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2に記載された評価方法では、印刷対象物に施された印刷の良否を目視で確認することで印刷適性を評価するため、評価者の主観によって評価が変わり、印刷対象物の印刷適性を客観的かつ正確に評価することができないという不都合がある。
【0005】
本発明の目的は、印刷対象物の印刷適性を客観的かつ正確に評価することができる印刷適性評価装置および印刷適性評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る印刷適性評価装置は、印刷対象物の印刷適性を評価する印刷適性評価装置であって、前記印刷対象物に印刷された印刷像を撮像した撮像画像を取得する画像取得手段と、前記画像取得手段で取得された前記撮像画像から当該撮像画像の輝度値を取得する輝度値取得手段と、前記輝度値取得手段で取得された前記輝度値を表面性状パラメータに適用し、前記輝度値から前記表面性状パラメータを算出する表面性状パラメータ算出手段と、前記表面性状パラメータ算出手段で算出された前記表面性状パラメータに基づいて、前記印刷対象物の前記印刷適性を評価する評価手段とを備えている。
【0007】
本発明の一態様に係る印刷適性評価装置において、前記表面性状パラメータは、算術平均粗さ、二乗平均平方根高さ、最大谷深さ、最大山高さ、最大高さ粗さ、スキューネス、クルトシスのうちの少なくとも1つであってもよい。
【0008】
本発明の一態様に係る印刷適性評価装置において、前記表面性状パラメータは、突出山部の断面積、突出谷部の断面積、コア部の負荷長さ率1、コア部の負荷長さ率2、コア部のレベル差、突出山部の高さ、突出谷部の深さのうちの少なくとも1つであってもよい。
【0009】
本発明の一態様に係る印刷適性評価装置において、前記評価手段は、学習用の印刷対象物に印刷された印刷像のインク濃度と、当該印刷像を撮像した教師画像の輝度値から算出した前記表面性状パラメータと、前記学習用の印刷対象物に対する前記印刷適性の評価結果とを教師データとして機械学習させた学習済みモデルを使用し、前記印刷適性を評価してもよい。
【0010】
本発明の一態様に係る印刷適性評価方法は、印刷対象物の印刷適性を評価する印刷適性評価方法であって、前記印刷対象物に印刷された印刷像を撮像した撮像画像を取得する画像取得工程と、前記画像取得工程で取得された前記撮像画像から当該撮像画像の輝度値を取得する輝度値取得工程と、前記輝度値取得工程で取得された前記輝度値を表面性状パラメータに適用し、前記輝度値から前記表面性状パラメータを算出する表面性状パラメータ算出工程と、前記表面性状パラメータ算出工程で算出された前記表面性状パラメータに基づいて、前記印刷対象物の前記印刷適性を評価する評価工程とを実施する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、印刷対象物に印刷された印刷像を撮像した撮像画像の輝度値から表面性状パラメータを算出し、表面性状パラメータに基づいて印刷適性を評価するため、評価者の主観によって評価が変わることがなく、印刷対象物の印刷適性を客観的かつ正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係る印刷適性評価システムの説明図。
【
図2】第1実施形態に係る印刷適性評価方法の説明図。
【
図4】第2実施形態に係る印刷適性評価方法で算出されるプラトー構造表面パラメータを示す図。
【
図5】第2実施形態に係る印刷適性評価方法の説明図。
【
図11】第3実施形態に係る印刷適性方法で使用する学習済みモデルの生成方法の説明図。
【
図12】第3実施形態に係る印刷適性評価方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、第2実施形態以降において、第1実施形態で説明する構成部材と同じ構成および同様な機能を有する構成には、第1実施形態の構成と同じ符号を付し、それらの説明を省略または簡略化する。
【0014】
[第1実施形態]
[装置構成]
図1において、印刷適性評価装置EAは、印刷用紙や印刷用フィルム等の印刷対象物の印刷適性を評価する装置であって、パーソナルコンピュータやサーバ等のコンピュータにより構成されている。なお、印刷対象物の印刷適性とは、要求通りの精細度、発色で印刷するために印刷対象物に必要とされる性能であり、印刷対象物におけるインクの受理性、乾燥性、吸油性等が含まれる。
印刷適性評価装置EAは、記憶手段10と、処理手段20と、操作手段30とを備え、印刷手段40と、撮像手段50と、出力手段60とで印刷適性評価システムEA1を構成している。
【0015】
記憶手段10は、メモリやハードディスク等により構成され、印刷適性評価装置EAや印刷適性評価システムEA1を制御する各種プログラムを記憶している。
本実施形態の場合、記憶手段10は、印刷対象物の印刷適性を評価するために用いられる表面性状パラメータの閾値も記憶している。
【0016】
処理手段20は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサにより構成され、画像取得手段21と、輝度値取得手段22と、表面性状パラメータ算出手段23と、評価手段24とを備えている。
【0017】
画像取得手段21は、印刷対象物に印刷された印刷像を撮像した撮像画像を撮像手段50から取得する。印刷像としては、画像、文字、模様、識別子、テスト印刷パターン等が例示できる。
【0018】
輝度値取得手段22は、画像取得手段21で取得された撮像画像から当該撮像画像の輝度値を取得する。
【0019】
表面性状パラメータ算出手段23は、輝度値取得手段22で取得された輝度値を表面性状パラメータに適用し、輝度値から表面性状パラメータを算出する。表面性状パラメータは、表面粗さや傷等の表面の微細な幾何学的特性を表すパラメータであり、輪郭曲線(断面曲線)を構成する粗さ曲線から得られる粗さパラメータ、輪郭曲面(表面性状曲面)から得られる領域パラメータ、輪郭曲線の負荷曲線(アボットの負荷曲線)や輪郭曲面の負荷曲線から得られるプラトー構造表面パラメータ(プラトー構造表面の特性評価パラメータ)、モチーフパラメータなどが含まれる。粗さパラメータは、JIS B 0601:2013、ISO 4287:1997で規定され、領域パラメータは、JIS B 0671-2:2018、ISO 25178-2:2012で規定されている。プラトー構造表面パラメータは、JIS B 0671:2002、ISO 13565:1996、ISO 25178-2:2012で規定され、モチーフパラメータは、JIS B 063:2000、ISO 12085:1996で規定されている。
【0020】
本実施形態の場合、表面性状パラメータ算出手段23は、表面性状パラメータとして粗さパラメータを算出する。粗さパラメータとしては、算術平均粗さRa、二乗平均平方根高さRq、最大谷深さRv、最大山高さRp、最大高さ粗さRz、スキューネスRsk、クルトシスRku等があり、このうちの1つまたは複数を使用することができる。
【0021】
評価手段24は、表面性状パラメータ算出手段23で算出された表面性状パラメータに基づいて、印刷対象物の印刷適性を評価する。
【0022】
操作手段30は、キーボード、操作パネル、タッチパネル、マウス、各種スイッチ、音声入力操作用のマイク等により構成され、各種操作による操作信号を印刷適性評価装置EAや印刷適性評価システムEA1に入力可能とされている。例えば、印刷対象物に施す印刷のインク濃度は、操作手段30を介して設定され、その操作信号がインク濃度の設定値とともに処理手段20や印刷手段40に送られる。
【0023】
印刷手段40は、インクジェットプリンタ、レーザプリンタ、サーマルプリンタ、ドットプリンタ、オフセット印刷機、凸版印刷機、凹版印刷機、スクリーン印刷機等により構成され、処理手段20との間で各種信号を送受信可能となっている。
【0024】
撮像手段50は、カメラ、撮影機、撮像機能付き顕微鏡、イメージングセンサ等により構成され、処理手段20との間で撮像画像や各種信号を送受信可能となっている。
【0025】
出力手段60は、ディスプレイやパネル等の表示装置や、表示灯やスピーカー等の報知装置等により構成され、印刷適性評価装置EAによる評価結果を画面に出力したり、点灯や音等で出力したりするようになっている。
【0026】
[印刷適性評価方法]
以上の印刷適性評価装置EAを備えた印刷適性評価システムEA1の場合を例として、
図2に示す以下の手順で実施される印刷適性評価方法を説明する。
先ず、印刷適性評価システムEA1に対し、当該印刷適性評価システムEA1の使用者(以下、単に「使用者」という)が、印刷対象物に施す印刷のインク濃度を操作手段30を介して設定した後、当該操作手段30を介して自動運転開始の信号を入力する。次いで、使用者または、多関節ロボットやベルトコンベア等の図示しない搬送手段が、印刷対象物を所定の位置に配置すると、処理手段20が印刷手段40を駆動し、設定されたインク濃度で印刷対象物に印刷を施す(ステップST11)。その後、処理手段20が撮像手段50を駆動し、印刷対象物に印刷された印刷像を撮像する(ステップST12)。
【0027】
次に、画像取得手段21は、撮像手段50から印刷像の撮像画像を取得する(ステップST13)。そして、輝度値取得手段22は、ステップST13で取得された撮像画像から当該撮像画像の各画素の輝度値を取得する(ステップST14)。本実施形態の場合、輝度値取得手段22は、撮像画像にグレースケール処理を施した上で、各画素の輝度値を取得する。
【0028】
次いで、表面性状パラメータ算出手段23は、ステップST14で取得された輝度値から、表面性状パラメータとして粗さパラメータを算出する(ステップST15)。本実施形態の場合、表面性状パラメータ算出手段23は、粗さパラメータとして算術平均粗さRaを算出する。算術平均粗さRaは、粗さ曲線の基準長さをl、粗さ曲線をf(x)とした場合、下記数式1で算出される。
【0029】
【0030】
その後、評価手段24は、表面性状パラメータ算出手段23で算出された粗さパラメータに基づいて印刷対象物の印刷適性を評価し、評価結果を出力手段60に出力する(ステップST16)。本実施形態の場合、評価手段24は、粗さパラメータとして算出した算術平均粗さRaと、記憶手段10に記憶された閾値との比較によって、印刷対象物の印刷適性を評価する。また、評価手段24は、印刷適性を2つのレベルに分け、印刷適性良(合格)または印刷適性不良(不合格)の判定を行う。即ち、評価手段24は、算術平均粗さRaが閾値以下の場合に、印刷対象物の印刷適性が良好であると評価し、そうでない場合は、印刷適性が不良であると評価する。本実施形態では、閾値を28に設定し、Ra≦28であれば印刷適性良と評価し、Ra>28であれば印刷適性不良と評価する。次に、出力手段60は、印刷適性の評価結果を出力して表示装置に表示したり、報知装置を点灯したり、報知装置から音を出したりして使用者に知らせる(ステップST17)。
【0031】
[評価例]
印刷対象物として、品番が異なる種々のポリ塩化ビニルフィルムのサンプル1~11を使用し、これらの印刷適性の評価を行った。
先ず、同一のインクジェットプリンタでサンプル1~11に同じカラー写真を印刷した。この際、印刷されたカラー写真の印刷像において、インクが付着していない下地の面積とインク付着部の面積とが同等になるようにインク濃度を調整することが好ましく、本評価例ではインク濃度をCMYK200とした。
【0032】
次いで、サンプル1~11に印刷されたカラー写真の印刷良否を目視で確認した後、各カラー写真の一部領域をデジタル光学顕微鏡によって倍率100倍で撮像した。その後、各撮像画像にグレースケール処理を施した上で、それらの画像データから撮像画像の各画素の輝度値を縦、横、または任意の方向のラインプロファイルとして取得した。その後、各ラインプロファイルについて数式1を用いて輝度値の算術平均粗さRaを算出し、各ラインプロファイルから得られた算術平均粗さRaを平均して、撮像画像全体の輝度値の算術平均粗さRaとした。サンプル1~11の輝度値の算術平均粗さRaおよび目視による印刷良否の確認結果を表1および
図3に示す。
【0033】
【0034】
表1および
図3に示すように、Ra≦28となって印刷適性良と評価されるサンプル1~8は、目視でも印刷適性良であることが確認され、Ra>28となって印刷適性不良と評価されるサンプル9~11は、目視でも印刷適性不良であることが確認された。
【0035】
以上のような実施形態によれば、印刷対象物に印刷された印刷像を撮像した撮像画像の輝度値から粗さパラメータを算出し、粗さパラメータに基づいて印刷適性を評価するため、評価者の主観によって評価が変わることがなく、印刷対象物の印刷適性を客観的かつ正確に評価することができる。
【0036】
[第2実施形態]
[装置構成]
本実施形態の印刷適性評価装置EAは、表面性状パラメータとしてプラトー構造表面パラメータを使用し、プラトー構造表面パラメータに基づいて印刷対象物の印刷適性を評価するように構成されている。
【0037】
表面性状パラメータ算出手段23は、輝度値取得手段22で取得された輝度値から、プラトー構造表面パラメータを算出する。プラトー構造表面パラメータとしては、
図4に示すように、突出山部の断面積(初期摩耗面積)A1、突出谷部の断面積(油溜まり面積)A2、コア部の負荷長さ率1 Mr1、コア部の負荷長さ率2 Mr2、コア部のレベル差(有効負荷粗さ)Rk、突出山部の高さ(初期摩耗高さ)Rpk、突出谷部の深さ(油溜まり深さ)Rvk等があり、このうちの1つまたは複数を使用することができる。これらのプラトー構造表面パラメータのうち、コア部の負荷長さ率1 Mr1、コア部の負荷長さ率2 Mr2、およびコア部のレベル差Rkは、
図4に示す負荷曲線の40%に相当する区間の傾きが最も小さくなる直線(等価直線)から求められる。また、突出山部の断面積A1および突出谷部の断面積A2は、コア部のレベル差Rkの幅で分断された負荷曲線の突出部分の面積であり、当該突出部分の面積と等しくなるような三角形の高さから、突出山部の高さRpkおよび突出谷部の深さRvkが求められる。
【0038】
評価手段24は、表面性状パラメータ算出手段23で算出されたプラトー構造表面パラメータに基づいて、印刷対象物の印刷適性を評価する。
【0039】
[印刷適性評価方法]
本実施形態の印刷適性評価装置EAを備えた印刷適性評価システムEA1の場合を例として、
図5に示す以下の手順で実施される印刷適性評価方法を説明する。
なお、ステップST21~ステップST24、およびステップST27で行われる処理は、第1実施形態のステップST11~ステップST14、およびステップST17と同じであるため、説明を省略する。
【0040】
ステップST24に次いで、表面性状パラメータ算出手段23は、ステップST24で取得された輝度値から、表面性状パラメータとしてプラトー構造表面パラメータを算出する(ステップST25)。本実施形態の場合、表面性状パラメータ算出手段23は、プラトー構造表面パラメータとして突出山部の断面積A1、突出谷部の断面積A2、コア部の負荷長さ率1 Mr1、突出山部の高さRpk、および突出谷部の深さRvkを算出する。
【0041】
その後、評価手段24は、表面性状パラメータ算出手段23で算出されたプラトー構造表面パラメータに基づいて印刷対象物の印刷適性を評価し、評価結果を出力手段60に出力する(ステップST26)。本実施形態の場合、評価手段24は、算出したプラトー構造表面パラメータと、記憶手段10に記憶された閾値との比較によって、印刷対象物の印刷適性を評価する。本実施形態では、印刷適性を2つのレベルに分け、突出山部の断面積A1≦1200、突出谷部の断面積A2≧4.5、コア部の負荷長さ率1 Mr1≦25、突出山部の高さRpk≦80、または突出谷部の深さRvk≧4であれば印刷適性良(合格)と評価し、そうでなければ印刷適性不良(不合格)と評価する。
【0042】
[評価例]
印刷対象物として、第1実施形態と同じサンプル1~11を使用し、これらの印刷適性の評価を行った。
先ず、第1実施形態と同じ条件で、サンプル1~11に対するカラー写真印刷、印刷良否の目視確認、印刷したカラー写真の撮像、および撮像画像の輝度値取得を行った。なお、サンプル1~11の目視による印刷良否の確認結果は、表1に示した通りである。
【0043】
次いで、取得した各ラインプロファイルから負荷曲線を得た上で、全ての負荷曲線を平均することで、画像全体の負荷曲線とした。その後、この負荷曲線について輝度値の突出山部の断面積A1、突出谷部の断面積A2、コア部の負荷長さ率1 Mr1、突出山部の高さRpk、および突出谷部の深さRvkを算出した。
図6~10に、サンプル1~11の突出山部の断面積A1、突出谷部の断面積A2、コア部の負荷長さ率1 Mr1、突出山部の高さRpk、および突出谷部の深さRvkを示す。
【0044】
図6~10に示すように、A1≦1200、A2≧4.5、Mr1≦25、Rpk≦80、またはRvk≧4の少なくとも1つの条件を満たし、印刷適性良と評価されるサンプル1~8は、目視でも印刷適性良であることが確認されており、これらの全ての条件を満たさずに印刷適性不良と評価されるサンプル9~11は、目視でも印刷適性不良であることが確認されている。
【0045】
本実施形態によれば、印刷対象物に印刷された印刷像を撮像した撮像画像の輝度値からプラトー構造表面パラメータ算出し、プラトー構造表面パラメータに基づいて印刷適性を評価するため、評価者の主観によって評価が変わることがなく、印刷対象物の印刷適性を客観的かつ正確に評価することができる。
【0046】
[第3実施形態]
[装置構成]
本実施形態の印刷適性評価装置EAは、機械学習によって得られた学習済みモデルを用いて、印刷対象物の印刷適性を評価するように構成されている。そのため、記憶手段10は、学習済みモデルを記憶している。
【0047】
[学習済みモデル]
学習済みモデルは、学習用の印刷対象物に印刷された印刷像のインク濃度と、当該印刷像を撮像した教師画像の輝度値から算出した表面性状パラメータと、当該印刷像を目視で確認して得られた印刷適性の評価結果とを教師データとして機械学習させたものであり、
図11に示す以下の手順によって生成される。
【0048】
先ず、学習用に様々な種類、組成の印刷対象物を用意し、これら学習用の印刷対象物に印刷を施す(ステップST31)。印刷は、印刷手段40で行ってもよいし、印刷手段40以外のもので行ってもよく、印刷対象物に印刷する印刷像の形状、大きさ、色等については特に限定されない。
【0049】
次いで、学習用の印刷対象物に印刷された印刷像の印刷良否を目視で確認し、学習用の印刷対象物の印刷特性を評価する(ステップST32)。その後、学習用の印刷対象物の印刷像を撮像して教師画像とする(ステップST33)。撮像は、撮像手段50で行ってもよいし、撮像手段50以外のもので行ってもよい。
【0050】
次に、ステップST33で撮像した教師画像から各画素の輝度値を取得し(ステップST34)、これらの輝度値から表面性状パラメータを算出する(ステップST35)。そして、学習用の印刷対象物に印刷された印刷像のインク濃度と、教師画像から算出した表面性状パラメータと、ステップST32で評価された印刷適性の評価結果とを教師データとして機械学習させ、印刷対象物に印刷された印刷像のインク濃度および撮像画像の輝度値の表面性状パラメータを入力、印刷対象物の印刷適性を出力とする学習済みモデルを生成する(ステップST36)。なお、学習済みモデルの生成において、ステップST32と、ステップST33~35との実施順序は特に限定されず、ステップST32を実施した後にステップST33~35を実施してもよいし、ステップST33~35を実施した後にステップST32を実施してもよい。また、機械学習の具体的な手法としては、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシン、最近傍法(ニアレストネイバー法)、ランダムフォレスト、確率的勾配法、およびカーネル近似等、公知の各種の技術が利用可能であり、特に限定されない。
【0051】
[印刷適性評価方法]
本実施形態の印刷適性評価装置EAを備えた印刷適性評価システムEA1の場合を例として、
図12に示す以下の手順で実施される印刷適性評価方法を説明する。
なお、ステップST41~ステップST44、およびステップST47は、第1実施形態のステップST11~ステップST14、およびステップST17や、第2実施形態のステップST21~ステップST24、およびステップST27と同じであるため、説明を省略する。
【0052】
ステップST44に次いで、表面性状パラメータ算出手段23は、ステップST44で取得された輝度値から、表面性状パラメータを算出する(ステップST45)。表面性状パラメータは、粗さパラメータであってもよいし、プラトー構造表面であってもよいし、それ以外のものでもよい。本実施形態では、表面性状パラメータとして粗さパラメータを使用し、算術平均粗さRa、二乗平均平方根高さRq、最大谷深さRv、最大山高さRp、最大高さ粗さRz、スキューネスRsk、およびクルトシスRkuを算出する。
【0053】
その後、評価手段24は、撮像画像の表面性状パラメータおよび印刷像のインク濃度から、学習済みモデルで印刷対象物の印刷適性を評価し、評価結果を出力手段60に出力する(ステップST46)。本実施形態の場合、評価手段24は、印刷適性良(合格)または印刷適性不良(不合格)の判定を行う。
【0054】
[評価例]
印刷対象物として、第1、第2実施形態と同じサンプル1~11を使用し、これらの印刷適性の評価を行った。
先ず、第1、第2実施形態と同様に、同一のインクジェットプリンタでサンプル1~11に同じカラー写真を印刷した。なお、インク濃度は、CMYK40、CMYK100、CMYK200、CMYK240、CMYK280とし、インク濃度ごとに印刷を行った。その後、第1、第2実施形態と同じ条件で、サンプル1~11の印刷良否の目視確認、印刷したカラー写真の撮像、および撮像画像の輝度値取得を行った。サンプル1~11のインク濃度および、および目視による印刷良否の確認結果を表2に示す。
【0055】
【0056】
次いで、各撮像画像について、表面性状パラメータを算出した。本実施形態では、表面性状パラメータとして粗さパラメータを使用し、算術平均粗さRa、二乗平均平方根高さRq、最大谷深さRv、最大山高さRp、最大高さ粗さRz、スキューネスRsk、およびクルトシスRkuを算出した。そして、サンプル1~11に印刷された全ての印刷像のうちの7割を、サンプル1~8とサンプル9~11とが半々となるように選択し、選択された印刷像のインク濃度と、当該印刷像を撮像した教師画像の輝度値から算出した表面性状パラメータと、当該印刷像に対する印刷適性の評価結果とを教師データとして機械学習させることで、印刷像のインク濃度および撮像画像の表面性状パラメータを入力、印刷対象物の印刷適性を出力とする学習済みモデルを生成した。本実施形態では、算術平均粗さRa、二乗平均平方根高さRq、最大谷深さRv、最大山高さRp、最大高さ粗さRz、スキューネスRsk、クルトシスRku、およびインク濃度について主成分分析を行い、8成分から3成分に次元を削減した後、サポートベクターマシンを用いて機械学習を行った。サンプル1~11に印刷された印刷像のうちの残りの3割について、作成された学習済みモデルを用いて印刷適性を評価したところ、90%以上の予測精度(正答率)となり、良好な結果が得られた。
【0057】
本実施形態によれば、第1、第2実施形態と同様の効果が得られる。
また、学習済みモデルを用いて印刷適性を評価するため、様々な種類、組成の印刷対象物の印刷適性の評価に適用することができる。
【0058】
以上のように、本発明を実施するための最良の構成、方法等は、前記記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。また、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれる。
【0059】
例えば、記憶手段10は、印刷適性評価装置EAに内蔵されていてもよいし、印刷適性評価装置EAに外付けするタイプであってもよい。
【0060】
画像取得手段21は、印刷対象物に印刷された印刷像の撮像画像を撮像手段50から直接取得してもよいし、撮像手段50から直接取得しなくてもよく、例えば、撮像手段50による撮像画像が蓄積されたサーバやデータベース等の画像蓄積手段から撮像画像を取得してもよい。
【0061】
輝度値取得手段22は、撮像画像にグレースケール処理を施した上で輝度値を取得してもよいし、撮像画像にグレースケール処理を施さないで輝度値を取得してもよい。
【0062】
表面性状パラメータ算出手段23は、粗さパラメータとして算術平均粗さRa、二乗平均平方根高さRq、最大谷深さRv、最大山高さRp、最大高さ粗さRz、スキューネスRsk、クルトシスRkuのうちの1つまたは複数を算出してもよいし、プラトー構造表面パラメータとして突出山部の断面積A1、突出谷部の断面積A2、コア部の負荷長さ率1 Mr1、コア部の負荷長さ率2 Mr2、コア部のレベル差Rk、突出山部の高さRpk、突出谷部の深さRvkのうちの1つまたは複数を算出してもよいし、粗さパラメータやプラトー構造表面パラメータ以外の表面性状パラメータを算出してもよい。
【0063】
評価手段24は、印刷適性良否(印刷適性合否)を評価するための表面性状パラメータの閾値を実施形態以外の値としたり、表面性状パラメータの値に応じて印刷対象物の印刷適性を3つ以上のレベルに分けて評価したりしてもよく、例えば、表面性状パラメータが算術平均粗さRaであれば、Ra≦25となった場合は印刷適性優(合格)、25<Ra≦28となった場合は印刷適性良(合格)、Ra>28となった場合は印刷適性不良(不合格)と評価してもよいし、算術平均粗さRa=0~56の範囲を例えば14ごとに4分割し、印刷適性を4段階で評価してもよいし、算術平均粗さRaの値をそのまま評価結果として出力してもよい。
評価手段24は、粗さパラメータとして算術平均粗さRa、二乗平均平方根高さRq、最大谷深さRv、最大山高さRp、最大高さ粗さRz、スキューネスRsk、クルトシスRkuのうちの1つまたは複数に基づいて、印刷対象物の印刷適性を評価してもよいし、プラトー構造表面パラメータとして突出山部の断面積A1、突出谷部の断面積A2、コア部の負荷長さ率1 Mr1、コア部の負荷長さ率2 Mr2、コア部のレベル差Rk、突出山部の高さRpk、突出谷部の深さRvkのうちの1つまたは複数に基づいて、印刷対象物の印刷適性を評価してもよいし、粗さパラメータやプラトー構造表面パラメータ以外の表面性状パラメータに基づいて、印刷対象物の印刷適性を評価してもよい。
評価手段24は、算出する表面性状パラメータの種類や表面性状パラメータの閾値をインク濃度に応じて変えてもよい。例えば、サンプル1~11では、インク濃度がCMYK100の場合とCMYK240の場合とで、コア部の負荷長さ率2 Mr2とコア部のレベル差Rkとの大小関係が変化し、有意差が見られるため、コア部の負荷長さ率2 Mr2やコア部のレベル差Rkに基づいて、印刷対象物の印刷適性を評価してもよい。
【0064】
操作手段30は、印刷適性評価装置EAから分離可能に構成されていてもよいし、分離不能に構成されていてもよい。
操作手段30は、印刷適性評価装置EAや印刷適性評価システムEA1に備わっていてもよいし、備わっていなくてもよく、備わっていない場合、外部の入力装置からの操作信号を印刷適性評価装置EAや印刷適性評価システムEA1に入力してもよい。
【0065】
印刷手段40は、印刷適性評価装置EAや印刷適性評価システムEA1に備わっていてもよいし、備わっていなくてもよく、備わっていない場合、印刷適性評価装置EAや印刷適性評価システムEA1と通信可能な外部の印刷装置で印刷対象物に印刷を施してもよい。
【0066】
撮像手段50は、印刷対象物の印刷像をカラーで撮像してもよいし、白黒で撮像してもよいし、印刷像の一部を撮像してもよいし、印刷像の全体を撮像してもよい。
撮像手段50は、印刷適性評価装置EAや印刷適性評価システムEA1に備わっていてもよいし、備わっていなくてもよく、備わっていない場合、印刷適性評価装置EAや印刷適性評価システムEA1と通信可能な外部の撮像装置で撮像した撮像画像を、画像取得手段21で取得してもよい。
【0067】
出力手段60は、印刷適性評価装置EAや印刷適性評価システムEA1に備わっていてもよいし、備わっていなくてもよく、備わっていない場合、印刷適性評価装置EAや印刷適性評価システムEA1と通信可能な外部の出力装置に評価結果を出力してもよい。
【0068】
学習済みモデルは、算出される表面性状パラメータを用いて機械学習させたものであればよく、表面性状パラメータとして粗さパラメータを用いて機械学習させたものでもよいし、表面性状パラメータとしてプラトー構造表面パラメータを用いて機械学習させたものでもよいし、粗さパラメータとして算術平均粗さRa、二乗平均平方根高さRq、最大谷深さRv、最大山高さRp、最大高さ粗さRz、スキューネスRsk、クルトシスRkuのうちの1つまたは複数を用いて機械学習させたものでもよいし、プラトー構造表面パラメータとして突出山部の断面積A1、突出谷部の断面積A2、コア部の負荷長さ率1 Mr1、コア部の負荷長さ率2 Mr2、コア部のレベル差Rk、突出山部の高さRpk、突出谷部の深さRvkのうちの1つまたは複数を用いて機械学習させたものでもよいし、粗さパラメータやプラトー構造表面パラメータ以外の表面性状パラメータを用いて機械学習させたものでもよい。
【0069】
インク濃度は、操作手段30を介して設定された値が処理手段20や印刷手段40に送られてもよいし、印刷手段40で印刷対象物にインク濃度の値を直接、またはバーコードやQRコード(登録商標)等に変換して付したものが、撮像手段50やバーコードリーダ、QRコードリーダ等で読み取られて処理手段20に送られてもよい。
【0070】
印刷対象物の種別、材質、組成等は、特に限定されることはない。例えば、印刷対象物は、紙、フィルム、接着シート、粘着シートの基材表面や当該基材表面に設けられたコート層等の印刷受理層等であってもよく、材質は、樹脂、金属、木材、セラミック等であってもよい。
【0071】
本発明における手段および工程は、それら手段および工程について説明した動作、機能または工程を果たすことができる限りなんら限定されることはなく、まして、前記実施形態で示した単なる一実施形態の構成物や工程に全く限定されることはない。例えば、画像取得手段は、印刷対象物に印刷された印刷像を撮像した撮像画像を取得可能なものであればどのようなものでもよく、出願当初の技術常識に照らし合わせてその技術範囲内のものであればなんら限定されることはない(その他の手段および工程も同じ)。
【符号の説明】
【0072】
EA…印刷適性評価装置
10…記憶手段
20…処理手段
21…画像取得手段
22…輝度値取得手段
23…表面性状パラメータ算出手段
24…評価手段
30…操作手段
40…印刷手段
50…撮像手段
60…出力手段