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  • 特開-骨固定部材 図1
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  • 特開-骨固定部材 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120755
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】骨固定部材
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/80 20060101AFI20230823BHJP
   A61B 17/86 20060101ALN20230823BHJP
【FI】
A61B17/80
A61B17/86
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023786
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】390034740
【氏名又は名称】株式会社日本エム・ディ・エム
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 久
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL21
4C160LL33
4C160LL44
(57)【要約】      (修正有)
【課題】運動負荷に耐える締結強度を有し、かつ、疼痛、皮下組織への血流阻害等を防ぎ、骨の再生を阻害しない骨固定部材を提供する。
【解決手段】骨固定部材100は、骨の表面に当接させるプレート10と、プレートを骨に固定するスクリュー20、21から成り、プレートにはスクリューのネジ部を貫通させるスクリューホール30、31が複数設けられ、スクリューホールの内周にはネジ溝24が設けられ、スクリューの頭部の外周には、スクリューホールのネジ溝に嵌合するネジ山25が設けられ、スクリューのネジ部はスクリューホールを通して骨の中に挿入される。プレートの骨側の面が、骨の形状に適合するように湾曲しており、この湾曲部上のスクリューホールの皮膚側、および/または骨接触面側の周囲の内、スクリューの中心軸をプレートの骨側の面の垂線に対して傾斜させる方向とは逆側の前記プレートの厚さが、周囲の部分から徐々に肉厚化されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨の表面に当接させるプレートと、該プレートを骨に固定するスクリューから成る骨固定部材であって、
前記プレートには、前記スクリューのネジ部を貫通させるスクリューホールが複数設けられ、前記スクリューホールの内周にはネジ溝が設けられ、
前記スクリューのネジ部は、骨に挿入され骨を固定するためのネジを有し、前記スクリューの頭部の外周には、前記スクリューホールの内周のネジ溝に嵌合するネジ山が設けられ、
前記プレートの骨側の面が、骨の外形に適合するようにされた湾曲部を含み、
前記湾曲部の前記スクリューホールの皮膚側の周囲、および/または骨接触面側の周囲の内、前記スクリューの中心軸を前記プレートの前記骨側の面の垂線に対して傾斜させる方向とは逆側の前記プレートの厚さが、周囲の部分から徐々に肉厚化されている
ことを特徴とする骨固定部材。
【請求項2】
前記湾曲部の前記骨側の面の断面形状が円弧の一部をなし、前記スクリューの中心軸と前記円弧の垂線とのなす角度が30°以上の場合に、前記スクリューホールの周囲の一部に肉厚化部分を設ける、請求項1に記載の骨固定部材。
【請求項3】
前記肉厚化する領域は、前記円弧の2/3以下である、請求項2に記載の骨固定部材。
【請求項4】
前記肉厚化する部分の前記スクリューホール周囲での厚さが、スクリューピッチに換算して0.5~3条に相当する厚さである、請求項1~3のいずれか1項に記載の骨固定部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨折部分の骨の外側にプレートを接触させ、スクリューで固定して骨折の治療を補助する骨固定部材の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の骨固定部材は、通常、骨プレート(以下では単にプレートとも呼ぶ)とスクリューから成り、例えば引用文献1、2に開示されているように、プレートはチタンあるいはチタン合金製の骨の長手方向に沿った細長い平板である。図1は骨固定部材の基本的な使用法を示し、プレートの外側から骨折部へスクリューを挿入してそのネジによりプレートと骨折部を固定する。スクリューの頭部とプレートのスクリューホールにはネジは形成されておらず、スクリューを締めこむと、最初にスクリューのネジ部が骨折面の両側の骨の中に挿入されて両者を密着固定し、さらにスクリューを増し締めすると、骨折面がプレート側に引き寄せられて骨がプレートに当接する。
【0003】
骨を解剖学的にみると、中心部は、「海綿骨」とそれを取り囲む「皮質骨」で構成され、さらに「皮質骨」の外側を強靭な繊維性の「骨膜」が覆っている。「骨膜」は「繊維層」と「骨形成層」とから構成され、この「骨形成層」には骨芽細胞や血管、神経が豊富に存在して骨形性能を有し、骨折などの骨組織損傷時の修復過程に重要な役割を担っている。スクリューによって骨折面両側の骨同志が密着することは、骨折部が修復されるためには重要な条件である。しかし同時に、プレートと骨を密着させ過ぎると、骨の表面にある「骨膜」の血流が悪くなり、骨の再生に必要な血流が十分補給されないという重大な問題が生じる。
【0004】
そこで、骨膜の血流を確保しながら治癒を促進するために開発されたのが、ロッキングプレートと呼ばれるシステムである(特許文献3)。ロッキングプレート(以下では単に「プレート」とも呼ぶ)は、スクリュー頭部の外側とプレートのスクリューホールの内側に互いに嵌合するネジ溝/ネジ山を設けることにより、プレートを骨に密着させることなく、骨折部の骨同士、およびスクリューとプレートを別個に締結固定することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表第2008―541970号公報
【特許文献2】特公昭61―000103号公報
【特許文献3】特開第2018―171446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ロッキングプレートは、骨膜へのプレートの圧迫を低減し、骨再生による治療効果を損ねることなく骨折面の固定を実現することを可能にした。しかしながら、神経損傷リスクを低減させるため、あるいは関節部に適合させるため湾曲させた形状のプレートでスクリューを骨に締結する場合には、スクリューの骨表面に対する挿入角度を傾斜させる必要が生じることがある。しかし、そのような場合には次のような新たな問題が発生する。
【0007】
図2はスクリューの挿入角度を傾斜させる例を示す。ロッキングプレート15の厚さを薄く一定に保ちながら、複数のスクリューをほぼ平行に骨(非図示)に挿入し固定する場合、プレートの中心付近のスクリュー20はプレートに対してほぼ垂直に挿入することができ、そのスクリュー頭部のネジ山25の大部分をプレートホールのネジ溝24に嵌合させて締結することができる。これに対して、プレートの端部に近い位置のスクリュー21では、プレートの内周面は骨の外周に適合するように横断面が円弧状となっている。そのため、スクリューの中心線(破線)と円弧の垂線(矢印)との間に角度ができ、スクリュー頭部に設けられたネジ山25の一部が、プレート外側(皮膚側)または内側(骨接触面側)、あるいはその両方に露出する(鎖線で囲んだ部分)。
【0008】
スクリュー21の中心線が円弧の垂線となす角度がさらに大きくなると、ネジ山25とネジ溝24の噛み合わせ数がさらに減少してスクリュー21とプレート15間の固定力が低下するという問題が生じる。また、プレート21とスクリューホール15の締結ネジ山数が少ないと、スクリューの方向が不安定で斜めに挿入され易く、その結果、正常に締結されない状態(クロススレッド)になり易くなる。特許文献3では、スクリューをプレートに対して傾斜させて締結するため、上下方向から円錐形に抉られた形状のスクリューホールの最小内径部分に、傾斜した特殊なネジ溝を設けて対応しているが、スクリューとプレート間の固定力の低下、締結方向の不安定化の問題は解決されていない。
【0009】
このスクリュー21/プレート15間の固定力の低下等の問題を解消する最も簡単な方法は、プレート15の厚さを増す方法である。しかしその場合、プレート15の体積が増え、皮膚を含む軟部組織を持ち上げるため、患者への負担が増加するので好ましい解決法ではない。体積の増大を最小限度に保ちながら噛み合わせ量を増加させることが必要であるが、これは容易には実現できない課題である。
【0010】
スクリュー21とプレート15のネジの噛み合わせ数を増やすために、スクリュー頭部の部分に相当するプレートの一部分の厚さを増す例もあるが(特許文献3、第[0021]欄)、この厚さの増加量が大きいと、皮膚側の軟部組織を局所的に押し上げるため、疼痛や皮下組織への血流阻害の原因になる危険性がある。
【0011】
逆に、プレートの骨接触面側のネジ部の厚さを増すと、プレート全体が骨から浮いてしまう結果、外側へ増加させる場合よりも広範囲の皮下組織を押し上げてしまう恐れがあり、この場合も疼痛や皮下組織への血流阻害の原因になる危険性がある。さらに、骨接触面側の厚さを増加させた部分の骨膜への接触圧力が大きくなる結果、骨膜の血流阻害に繋がる危険性もある。このように、従来の解決策では、それぞれに新たな問題が生じ、プレートへスクリューの角度を傾斜させて締結する場合の解決法を見出すことは容易ではない。
【0012】
本発明の目的は、施術後に想定される患者の運動負荷に耐える締結強度を有し、かつ、疼痛や皮下組織への血流阻害などを防ぎ、骨膜への血流阻害がなく、骨再生を阻害しない骨プレートを含む骨固定部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の骨固定部材は、以下のような特徴を有する。
骨の表面に当接させるプレートと、該プレートを骨に固定するスクリューから成る骨固定部材であって、
前記プレートには、前記スクリューのネジ部を貫通させるスクリューホールが複数設けられ、前記スクリューホールの内周にはネジ溝が設けられ、
前記スクリューのネジ部は、骨に挿入され骨を固定するためのネジを有し、前記スクリューの頭部の外周には、前記スクリューホールの内周のネジ溝に嵌合するネジ山が設けられ、
前記プレートの骨側の面が、骨の外形に適合するようにされた湾曲部を含み、
前記湾曲部の前記スクリューホールの皮膚側の周囲、および/または骨接触面側の周囲の内、前記スクリューの中心軸を前記プレートの前記骨側の面の垂線に対して傾斜させる方向とは逆側の前記プレートの厚さが、周囲の部分から徐々に肉厚化されている。
【0014】
また、前記湾曲部の前記骨側の面の断面形状が円弧の一部をなし、前記スクリューの中心軸と前記円弧の垂線とのなす角度が30°以上の場合に、前記スクリューホールの周囲の一部に肉厚化部分を設けてることが好ましい。
さらに、前記肉厚化する領域は、前記円弧の2/3以下であることが好ましい。
さらに、前記肉厚化する部分の前記スクリューホール周囲での厚さが、スクリューピッチに換算して0.5~3条に相当する厚さであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
このような構造にすることにより、想定される運動負荷に耐える締結強度を有し、かつ、疼痛、皮下組織への血流阻害などを防ぎ、骨膜への血流阻害がなく骨再生を阻害しない骨固定部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、骨折部を骨プレートとスクリューで固定する方法を示す模式的断面図である。
図2図2は、従来技術による骨プレート/スクリューの断面図である。
図3図3は、本発明による骨プレート/スクリューの断面図である。。
図4図4は、本発明による骨プレート/スクリューの特徴部分を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図3は、本発明による骨固定部材100の横方向の断面図を示したものである。スクリュー20の頭部の外側とスクリューホール30の内側にはネジ溝24とネジ山25が形成されている。スクリュー20をスクリューホール30に貫通させて締めこむと、最初にスクリュー20のネジ部26が骨折面の両側の骨(非図示)に挿入され、両者が密着固定される。次に、プレート10を骨に近接させ、スクリュー20の頭部のネジ山25をスクリューホールのネジ溝24に嵌合させて締結が完了する。この場合、プレート10と骨の間の圧力は、このネジの締め付け強度を加減して過大にならないように調整することができる。
【0018】
スクリューを骨に挿入する角度は、常に骨の表面に対して垂直であるとは限らない。例えばHTO(高位脛骨骨切り術)の場合のように関節部に近い部位でプレートとスクリューを締結する場合には、スクリューの中心軸の角度を骨の表面に対して傾斜させる必要が生じる場合がある。関節に近い部分は骨組織の外形が太くなっているため、そこに取り付けるプレートは、骨の径が変化する部分の傾斜に沿って湾曲した形状を持つことが多く、その傾斜部付近では、スクリューをプレートの内面に対して垂直に挿入できない場合がある。
【0019】
図3に示す例では、プレートの内側の湾曲が円弧状となっており、その円弧(点線)の中心部付近のスクリュー20の中心線(破線)は、円弧の垂線に対してほぼ平行であるため、スクリュー頭部に設けられたネジ山25の大部分がプレートホール30の内側のネジ溝24と嵌合し締結されている。これに対して、プレートの円弧の端部に近い位置のプレートホール31の場合、スクリュー21を中心部のスクリュー20と平行に締結するには、スクリュー21を円弧の垂線(矢印)に対して右側に傾斜させて締結する必要がある。
【0020】
本発明のプレートは、図2の従来の方式のロッキングプレート15と比較すれば分かるように、スクリュー21に対応するプレートホール31の周囲の内、皮膚側の円弧の端部側(スクリューの傾斜方向とは逆の側)のプレート10の厚さが厚くされ、肉厚となっている。さらに、プレートホール31の骨接触面側の周囲の円弧の中心側(スクリューの傾斜方向とは逆の側)のプレートの厚さも厚くされている。図4は、これら肉厚化した部分の拡大図を示している。ベースとなるプレート10の厚さに対して厚くした部分12、13を斜線で示してある。しかし、図3の例のように必ずしも両側を厚くする必要はなく、プレートの用途、骨の形状等に応じて皮膚側、骨接触面側の片方だけを厚くしてもよい。いずれの場合も、上述のように皮下組織や骨膜に有害な凸部を形成しないように、プレート10の厚さから徐々に厚くしていくことが必要である。
【0021】
図3に示したように、プレートの底面が円弧の一部をなす場合、スクリュー21の中心軸が円弧の垂線方向から30°以上傾く場合に、スクリューホール31の周囲の皮膚側あるいは骨接触面側に、上記肉厚部分を設ける必要がある。30°未満でも15°以上であれば、肉厚部分を設けることが好ましい場合がある。しかし15°未満であれば、肉厚部を設けなくても十分なネジ部の噛み合わせ量を確保できることが多い。
【0022】
肉厚部を設ける領域は、好ましくは上記円弧の2/3以下、より好ましくは半分以下、さらに好ましくは1/3以下であることが望ましい。肉厚部分のスクリューホール31の周囲の高さは、スクリューピッチに換算して0.5~3条、好ましくは0.5~2条、さらに好ましくは0.5~1条程度に相当する高さとする。さらに、この高さは骨接触面側と皮膚側で同じ大きさでなくてもよい。このような領域、高さ以内であれば、埋植されるプレートの体積が大きく増加することはなく、疼痛、皮下組織への血流阻害がないことが確認されている。このように本発明によれば、想定される運動負荷に耐える締結強度を有するため、スクリューがプレートから外れるバックアウトが起こり難く、かつ、疼痛、皮下組織への血流阻害等を防ぎ、骨膜への血流阻害がなく骨再生を阻害しない骨プレートが実現できる。
【0023】
上記実施例では、プレートの横断面が円弧の一部である場合について説明したが、プレートがその他の形状で湾曲してる場合、あるいは平坦な場合にも適用できる。そのようなプレート形状のスクリューホールにおいて、スクリューをプレート内面の垂線に対して傾斜させて締結する場合、スクリューホールの皮膚側の周囲、あるいは、骨接触面側の周囲の内、スクリューの中心軸をプレート内面の垂線に対して傾斜させる方向とはそれぞれ逆側のプレートの厚さを周囲の部分から徐々に肉厚化すればよい。
【0024】
なお、本発明の説明は上記実施例に基づいてなされたが、本発明はそれに限定されず、本発明の精神と添付の請求の範囲の範囲内で種々の変更、及び修正をすることができることは当業者に明らかである。例えば、本発明は骨折した骨を固定する用途を例に説明したが、骨折以外の場合の骨の固定にも適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0025】
100 骨固定部材
10、15 プレート
12、13 肉厚部
20、21 スクリュー
24 ネジ溝
25、ネジ山
26 スクリューのネジ部
30、31 プレートホール
図1
図2
図3
図4