(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120770
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】励磁回路、電流センサ及び測定装置
(51)【国際特許分類】
G01R 15/18 20060101AFI20230823BHJP
【FI】
G01R15/18 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023808
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柄澤 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】池田 健太
(72)【発明者】
【氏名】中沢 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】夏 沛宇
(72)【発明者】
【氏名】山岸 君彦
【テーマコード(参考)】
2G025
【Fターム(参考)】
2G025AB14
2G025AC01
(57)【要約】
【課題】交流励磁電圧によって一対のフラックスゲートに生じる磁束間の差を抑制する。
【解決手段】励磁回路20は、第一フラックスゲートを構成する第一コイルに対して第一励磁電流を供給するオペアンプ21と、第二フラックスゲートを構成する第二コイルに対して第二励磁電流を供給するオペアンプ22とを備える。さらに励磁回路20は、オペアンプ21及び22の入力信号を生成する信号生成回路201を備える。信号生成回路201は、オペアンプ21の入力信号として、一対のフラックスゲート10を励磁するための交流励磁電圧Vexに基づいて反転電圧又は非反転電圧を生成するオペアンプ23と、オペアンプ22の入力信号として、交流励磁電圧Vexに基づいて反転電圧又は非反転電圧を生成するオペアンプ24とを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の物理量を検出するための一対のフラックスゲートを励磁する励磁回路であって、
第一フラックスゲートを構成する第一コイルに対して第一励磁電流を供給する第一オペアンプと、
第二フラックスゲートを構成する第二コイルに対して第二励磁電流を供給する第二オペアンプと、
前記第一オペアンプの入力信号及び前記第二オペアンプの入力信号を生成する信号生成回路と、を備え、
前記信号生成回路は、
前記第一オペアンプの入力信号として、前記一対のフラックスゲートを励磁するための交流励磁電圧に基づいて反転電圧又は非反転電圧を生成する第三オペアンプと、
前記第二オペアンプの入力信号として、前記交流励磁電圧に基づいて反転電圧又は非反転電圧を生成する第四オペアンプと、を含む、
励磁回路。
【請求項2】
請求項1に記載の励磁回路であって、
前記信号生成回路は、前記第一オペアンプの入力信号の位相を調整可能な位相調整回路をさらに含み、
前記第三オペアンプは、前記交流励磁電圧に基づいて前記非反転電圧を生成し、
前記第四オペアンプは、前記交流励磁電圧に基づいて前記反転電圧を生成する、
励磁回路。
【請求項3】
請求項2に記載の励磁回路であって、
前記位相調整回路は、前記交流励磁電圧を出力する回路と前記第三オペアンプの非反転入力端子との間に接続される、
励磁回路。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の励磁回路であって、
前記第四オペアンプにおける反転入力端子と出力端子との間には、前記第二オペアンプの入力信号の振幅を調整可能な可変抵抗素子が接続される、
励磁回路。
【請求項5】
請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の励磁回路であって、
前記一対のフラックスゲートは、前記測定対象物の周方向に沿って配置され、
前記第一コイルは、前記第二コイルに対して同じ向きに巻き回される、
励磁回路。
【請求項6】
請求項5に記載の励磁回路であって、
前記第一オペアンプの非反転入力端子は、前記第三オペアンプの出力端子に接続され、
前記第二オペアンプの非反転入力端子は、前記第四オペアンプの出力端子に接続され、
前記第一オペアンプ及び前記第二オペアンプの反転入力端子間は、抵抗素子を介して接続される、
励磁回路。
【請求項7】
請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の励磁回路であって、
前記一対のフラックスゲートは、前記測定対象物の周方向に沿って配置され、
前記第一コイルは、前記第二コイルに対して逆向きに巻き回され、
前記第一オペアンプの反転入力端子が第一抵抗素子を介して前記第三オペアンプの出力端子に接続されるとともに前記第一オペアンプの非反転入力端子が基準電位に接続され、
前記第二オペアンプの反転入力端子が第二抵抗素子を介して前記第四オペアンプの出力端子に接続されるとともに前記第二オペアンプの非反転入力端子が前記基準電位に接続される、
励磁回路。
【請求項8】
請求項7に記載の励磁回路であって、
前記第三オペアンプを含む第一増幅回路と前記第四オペアンプを含む第二増幅回路とは、互いに同じ回路構成を有する、
励磁回路。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の励磁回路と、
前記第一オペアンプの出力信号と前記第二オペアンプの出力信号とに基づいて前記測定対象物を流れる電流の大きさを検出する検出回路と、
を含む電流センサ。
【請求項10】
請求項9に記載の電流センサであって、
前記励磁回路に前記交流励磁電圧を供給する供給回路をさらに含み、
前記供給回路は、
前記交流励磁電圧を生成するためのクロック信号を発生する発振回路と、
前記発振回路から出力される前記クロック信号の低周波成分を通過させるローパスフィルタと、を有する、
電流センサ。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の電流センサと、
前記電流センサにより検出される検出信号に基づいて前記測定対象物の物理量を測定する測定部と、
を含む測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックスゲートを励磁する励磁回路、電流センサ及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第1コアに巻回された第1励磁コイルが反転入力端子と出力端子との間に接続される第1オペアンプと、第二コアに巻き回された第2励磁コイルが反転入力端子と出力端子との間に接続される第2オペアンプと、を備えるフラックスゲート型電流センサが開示されている。このような電流センサにおいては、第1コア及び第1励磁コイルが第1フラックスゲートを構成し、第2コア及び第2励磁コイルが第2フラックスゲートを構成する。
【0003】
上記の電流センサにおいては、第1オペアンプの非反転入力端子と第2オペアンプの反転入力端子とが抵抗を介して互いに接続されている。そして第2オペアンプの非反転入力がグランド電位に規定された状態において第1オペアンプの非反転入力端子に交流励磁電圧が供給される。また、第1オペアンプ及び第2オペアンプにより構成される一対のオペアンプの出力信号が加算される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような回路構成では、上記一対のオペアンプの一方のオペアンプに対する他方のオペアンプの動作遅延によって、第1励磁コイル及び第2励磁コイルにより構成される一対の励磁コイルに供給される励磁電流間に位相差が生ずる。
【0006】
その結果、上記一対のオペアンプの出力信号同士を合成した合成信号には、交流励磁電圧によって第1フラックスゲート及び第2フラックスゲートにより構成される一対のフラックスゲートに生じる磁束同士が相殺されることなく残留した一部の磁束成分が励磁ノイズとして測定対象物に流れる電流の大きさを示す検出信号に重畳されてしまう。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、交流励磁電圧によって一対のフラックスゲートに生じる磁束間の差を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様において、測定対象物の物理量を検出するための一対のフラックスゲートを励磁する励磁回路は、第一フラックスゲートを構成する第一コイルに対して第一励磁電流を供給する第一オペアンプと、第二フラックスゲートを構成する第二コイルに対して第二励磁電流を供給する第二オペアンプと、を含む。さらに前記励磁回路は、前記第一オペアンプの入力信号及び前記第二オペアンプの入力信号を生成する信号生成回路を含む。前記信号生成回路は、前記第一オペアンプの入力信号として、前記一対のフラックスゲートを励磁するための交流励磁電圧に基づいて反転電圧又は非反転電圧を生成する第三オペアンプと、前記第二オペアンプの入力信号として、前記交流励磁電圧に基づいて反転電圧又は非反転電圧を生成する第四オペアンプと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
上記の態様によれば、一対のフラックスゲートを励磁する一対の励磁回路同士が独立して動作するように構成するとともにその一対の励磁回路同士のオペアンプを対称的な構成にした。これにより、励磁回路の双方は他方の励磁回路の影響によって信号の遅れを生じず、かつ励磁回路の双方においては励磁電流の遅延に影響を与えるオペアンプ同士が同等の動作をする。したがって、一対の励磁電流の位相差の基準値からのズレが抑制されるため、一対の励磁回路が独立して動作しない回路構成に比べて、一対のフラックスゲートに生じる磁束間の差を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の第一実施形態における励磁回路を備える測定装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、第一実施形態における励磁回路の構成例を示す回路図である。
【
図3】
図3は、検波部の出力信号に含まれる励磁ノイズの一例を示す図である。
【
図4】
図4は、第二実施形態における励磁回路の構成を示す回路図である。
【
図5】
図5は、第三実施形態における電流センサの構成を示す図である。
【
図6】
図6は、検波部の出力信号に含まれる励磁ノイズの一例を示す図である。
【
図7】
図7は、電流センサを構成する励磁回路の第一変形例を示す回路図である。
【
図8】
図8は、電流センサを構成する励磁回路の第二変形例を示す回路図である。
【
図9A】
図9Aは、第四実施形態における信号供給部の構成例を示す回路図である。
【
図9B】
図9Bは、信号供給部の構成の他の例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の各実施形態について説明する。
【0012】
(第一実施形態)
図1は、第一実施形態における励磁回路を備える測定装置の構成を示す図である。
図2は、第一実施形態における励磁回路の構成を示す回路図である。
【0013】
図1に示す測定装置1は、測定対象物2に生じる物理量を測定するための装置である。測定対象物2は、例えば、電流が流れる電路であり、電路としては、単相又は三相の電源ケーブルなどが挙げられる。また、測定対象物2の物理量としては、電流値、電圧値、磁束値又は電力値などが挙げられる。
【0014】
第一実施形態における測定装置1は、測定対象物2を流れる電流の大きさを測定する。測定装置1は、電流センサ100及び測定部200を備える。
【0015】
電流センサ100は、測定対象物2の物理量を検出するためのフラックスゲート型電流センサである。第一実施形態における電流センサ100は、一対のフラックスゲート10と、励磁回路20と、検出部30と、を備える。
【0016】
一対のフラックスゲート10は、測定対象物2が挿通される一対の磁気コア11と、一対の磁気コア11に巻き回される一対の励磁コイル12と、を備える。
【0017】
第一実施形態において、一対のフラックスゲート10は、第一フラックスゲートとしてのフラックスゲート101、及び第二フラックスゲートとしてのフラックスゲート102により構成される。
【0018】
そして、一対の磁気コア11は、第一コアとしての磁気コア111及び第二コアとしての磁気コア112により構成される。一対の励磁コイル12は、第一コイルとしての励磁コイル121及び第二コイルとしての励磁コイル122により構成されている。
【0019】
一対の磁気コア11は、測定対象物2が挿通可能となるよう環状に形成される。ここにいう環状には、円形状、楕円形状、矩形状、及び多角形状などが含まれる。第一実施形態における磁気コア11の各々は、円環状に形成されている。
【0020】
励磁コイル12の各々は、磁気コア11の各々の全部を覆うように巻き回せれてもよく、磁気コア11の各々の一部を覆うように巻き回されてもよい。また、一対の励磁コイル12の巻線方向は、互いに同一方向でもよく、互いに異なる方向であってもよい。
【0021】
第一実施形態における一対の励磁コイル12については、磁気コア111の全体に巻き回された励磁コイル121の巻線方向と、磁気コア112の全体に巻き回される励磁コイル122の巻線方向と、が互いに同一方向である。また、励磁コイル121の巻き数と励磁コイル122の巻き数とが互いに同一である。
【0022】
一対の磁気コア11は、例えば、パーマロイのような鉄材により構成されてもよく、中空構造であってもよい。また、一対の磁気コア11は、開閉可能な分割型に構成されてもよく、開閉不可能な貫通型(非分割型)に構成されてもよい。
【0023】
図2に示す励磁回路20は、測定対象物2の物理量を検出するための一対のフラックスゲート10を励磁するための電気回路である。励磁回路20は、一対のオペアンプ21,22と、信号生成回路201と、を含む。信号生成回路201は、少なくとも一対のオペアンプ23,24を含む。
【0024】
オペアンプ21及びオペアンプ23は、第一励磁回路である励磁回路301を構成し、これらに対をなすオペアンプ22及びオペアンプ24は、第二励磁回路である励磁回路302を構成する。すなわち、励磁回路20は、一対のフラックスゲート10を励磁する一対の回路であって、オペアンプ21乃至24を対称的に有する一対の励磁回路301,302を備えている。
【0025】
オペアンプ21は、フラックスゲート101を構成する励磁コイル121に対して第一励磁電流である励磁電流I1を供給する第一オペアンプとして機能する。
【0026】
オペアンプ21における反転入力端子(-)と出力端子との間に延びる負帰還経路には、フラックスゲート101が配置される。
【0027】
第一実施形態においては、オペアンプ21の非反転入力端子(+)にグランド電位Gが基準電位として接続されている。そしてオペアンプ21の反転入力端子(-)には励磁コイル121の一端121aが接続されるとともに、オペアンプ21の出力端子には励磁コイル121の一端121bが接続されている。これにより、オペアンプ21の出力端子から反転入力端子(-)へは励磁電流I1が流れる。
【0028】
オペアンプ22は、フラックスゲート102を構成する励磁コイル122に対して第二励磁電流である励磁電流I2を供給する第二オペアンプとして機能する。オペアンプ22は、オペアンプ21と同様の構成を有する。
【0029】
オペアンプ22における反転入力端子(-)と出力端子との間に延びる負帰還経路には、フラックスゲート102が配置される。
【0030】
第一実施形態においては、オペアンプ22の非反転入力端子(+)にグランド電位Gが基準電位として接続されている。そしてオペアンプ22の反転入力端子(-)には励磁コイル122の一端122aが接続されとともに、オペアンプ22の出力端子には励磁コイル122の一端122bが接続されている。これにより、オペアンプ22の出力端子から反転入力端子(-)へは励磁電流I2が流れる。
【0031】
信号生成回路201は、励磁電流I1によって作られる交流磁束Φ1と励磁電流I2によって作られる交流磁束Φ2との差を抑制するために、オペアンプ21に入力される入力信号及びオペアンプ22に入力される入力信号を生成する。
【0032】
信号生成回路201は、位相調整回路210と、オペアンプ23で構成されるボルテージフォロワ回路220とを備える。さらに信号生成回路201は、オペアンプ24によって構成される反転増幅回路240を備える。反転増幅回路240は、利得調整抵抗241と、利得調整可変抵抗242とを備える。
【0033】
位相調整回路210は、オペアンプ21の入力信号の位相を調整可能な回路である。位相調整回路210は、例えばローパスフィルタにより構成される。位相調整回路210の入力端子は、励磁回路20の入力端子T1に接続される。
【0034】
第一実施形態における位相調整回路210は、一対のフラックスゲート10を励磁するための交流励磁電圧Vexを受け付けると、その交流励磁電圧Vexの位相を調整する。位相調整回路210は、位相を調整した後の交流励磁電圧Vexをオペアンプ23の入力端子に出力する。
【0035】
オペアンプ23は、交流励磁電圧Vexに基づいて当該交流励磁電圧Vexの正負の極性が反転する反転電圧、又は当該交流励磁電圧Vexの正負の極性が反転しない非反転電圧を生成する第三オペアンプとして機能する。オペアンプ23は、生成した交流電圧をオペアンプ21の入力信号として出力する。
【0036】
第一実施形態におけるオペアンプ23は、ボルテージフォロワ回路220を構成する。そのため、オペアンプ23の非反転入力端子(+)は、位相調整回路210の出力端子に接続され、オペアンプ23における反転入力端子(-)及び出力端子が互いに接続されている。
【0037】
そのため、オペアンプ23は、自己の非反転入力端子(+)から位相調整後の交流励磁電圧Vexを受け付けると、その交流励磁電圧Vexの正負の極性が反転しない非反転電圧を電流調整抵抗230に出力する。
【0038】
電流調整抵抗230は、オペアンプ21の反転入力端子(-)に入力される電流の大きさを調整するための抵抗素子である。電流調整抵抗230は、例えば一つの抵抗器又は複数の抵抗器により構成される。電流調整抵抗230の一端はオペアンプ23の出力端子に接続され、他端はオペアンプ21の反転入力端子(-)に接続されている。
【0039】
オペアンプ24は、交流励磁電圧Vexに基づいて反転電圧又は非反転電圧を生成する第四オペアンプとして機能する。オペアンプ24は、生成した電圧をオペアンプ22の入力信号として出力する。
【0040】
第一実施形態におけるオペアンプ24は、反転増幅回路240を構成する。反転増幅回路240は、オペアンプ24に加えて、反転増幅回路240自身の利得を調整するための利得調整抵抗241及び利得調整可変抵抗242を備える。
【0041】
利得調整抵抗241は、一又は複数の固定抵抗器により構成され、利得調整可変抵抗242は、オペアンプ22の入力信号の振幅を調整可能な可変抵抗素子であり、少なくとも一つの可変抵抗器により構成される。
【0042】
反転増幅回路240において、利得調整抵抗241の一端が励磁回路20の入力端子T1に接続されている。そしてオペアンプ24の非反転入力端子(+)にグランド電位Gが接続され、オペアンプ24の反転入力端子(-)には利得調整抵抗241の他端が接続されている。そしてオペアンプ24の出力端子と反転入力端子(-)との間には、利得調整可変抵抗242が接続されている。
【0043】
そのため、反転増幅回路240においてオペアンプ24は、自己の反転入力端子(-)から交流励磁電圧Vexを受け付けると、その交流励磁電圧Vexの正負の極性が反転した反転電圧を生成する。より詳細には、オペアンプ24は、利得調整可変抵抗242の抵抗値を利得調整抵抗241の抵抗値で除した比率で交流励磁電圧Vexの振幅を増幅した反転電圧を生成する。オペアンプ24は、生成した反転電圧を電流調整抵抗250に出力する。
【0044】
電流調整抵抗250は、オペアンプ22の反転入力端子(-)に入力される電流の大きさを調整するための抵抗素子である。電流調整抵抗250は、例えば一つの抵抗器又は複数の抵抗器により構成される。電流調整抵抗250の一端はオペアンプ24の出力端子に接続され、他端はオペアンプ22の反転入力端子(-)に接続されている。
【0045】
第一実施形態では電流調整抵抗230と電流調整抵抗250との両方が固定抵抗器により構成されているが、電流調整抵抗230及び電流調整抵抗250のうち少なくとも一つが可変抵抗器によって構成されてもよい。
【0046】
続いて、
図1を参照して、電流センサ100を構成する検出部30について説明する。
【0047】
検出部30は、オペアンプ21の出力信号とオペアンプ22の出力信号とに基づいて測定対象物2を流れる電流の大きさを検出する検出回路として機能する。
【0048】
本実施形態における検出部30は、励磁回路20の入力端子T1に交流励磁電圧Vexを供給する。この状態において検出部30は、励磁回路20の出力端子T2から出力される出力電圧Vo1及び出力端子T3から出力される出力電圧Vo2に基づいて測定対象物2を流れる測定対象電流Iobの大きさを示す検出信号Vdを生成する。
【0049】
検出部30は、信号供給部31と、加算部32と、フィルタ33と、検波部34とを備える。
【0050】
信号供給部31は、所定の周波数fを持つ交流励磁電圧Vexを生成する。第一実施形態における信号供給部31は、基本周波数がfの正弦波又は三角波の交流励磁電圧Vexを生成し、生成した交流励磁電圧Vexを励磁回路20の入力端子T1に供給する。すなわち、信号供給部31は、励磁回路20に交流励磁電圧Vexを供給する供給回路として機能する。
【0051】
また、信号供給部31は、交流励磁電圧Vexに同期した信号であって所定の周波数fを二倍した周波数を持つ同期信号Vsyを生成し、生成した同期信号Vsyを検波部34に供給する。
【0052】
加算部32は、オペアンプ21の出力信号としての出力電圧Vo1とオペアンプ22の出力信号としての出力電圧Vo2とを加算する。これにより、加算部32は、励磁コイル121に生じる誘起電圧V1と、励磁コイル122に生じる誘起電圧V2との差分を示す加算信号Vaddを生成する。
【0053】
加算信号Vaddは、交流励磁電圧Vexと誘起電圧V1との和電圧(Vex+V1)から、交流励磁電圧Vexと誘起電圧V2との和電圧{-(Vex+V2)}を加算することにより得られる電圧値(V1-V2)を示す。
【0054】
測定対象物2に測定対象電流Iobが流れている状態において、測定対象物2の周囲に発生している磁界に起因した磁束Φ0が、励磁コイル121及び励磁コイル122の双方に同じ向きに発生する。励磁コイル121及び励磁コイル122の双方に生じる磁束は、上記の磁束Φ0の影響を受けて変化する。
【0055】
例えば、
図1に示す向きに、上記の磁束Φ0、交流磁束Φ1及び交流磁束Φ2が発生しているときには、磁気コア111では、交流磁束Φ1と磁束Φ0の向きが逆になることから、内部に発生しているトータルの合成磁束Φaは、次式により表すことができる。
Φa=Φ1-Φ0
【0056】
一方、磁気コア112では、交流磁束Φ2と磁束Φ0の向きが同じになることから、内部に発生しているトータルの合成磁束Φbは、交流磁束Φ1の向きを基準とすると、次式により表すことができる。
Φb=-(Φ2+Φ0)
【0057】
このように、磁気コア111内の合成磁束Φa及び磁気コア112内の合成磁束Φbがともに変化することにより、励磁コイル121に生じる誘起電圧V1の振幅、及び励磁コイル122に生じる誘起電圧V2の振幅も変化する。このため、誘起電圧V1及び誘起電圧V2の差電圧を示す加算信号Vadd(=V1-V2)は、交流励磁電圧Vexの周波数fを2倍した検波周波数2fの信号成分が測定対象電流Iobの振幅によって変調された振幅変調信号となっている。
【0058】
フィルタ33は、例えば、通過帯域が上記の検波周波数2fを含む狭帯域に規定されたバンドパスフィルタにより構成される。第一実施形態におけるフィルタ33は、加算部32からの加算信号Vaddに含まれている検波周波数2fの信号成分を選択的に通過させる。これにより、誘起電圧V1と誘起電圧V2との差電圧の大きさを示す抽出信号Vfを出力する。
【0059】
抽出信号Vfは、加算信号Vaddに含まれている外来ノイズなどに起因した検波周波数2f以外の周波数成分であるノイズ成分が除去されて、主として検波周波数2fの信号成分によって構成される。この種のノイズ成分が極めて小さく、ノイズ成分に伴う加算信号Vaddへの影響を無視し得る場合は、フィルタ33を省くことも可能である。
【0060】
検波部34は、フィルタ33から出力された抽出信号Vfを、信号供給部31から出力された同期信号Vsyによって同期検波する。これにより、測定対象物2に流れる測定対象電流Iobの電流値に比例して電圧値が変化する検出信号Vdを出力する。
【0061】
以上の構成が電流センサ100についての説明である。続いて測定装置1を構成する測定部200について説明する。
【0062】
測定部200は、電流センサ100により検出される検出信号Vdに基づいて測定対象物2の物理量を測定する。測定部200は、例えば、オシロスコープ又はスペクトルアナライザなどにより構成される。
【0063】
第一実施形態において測定部200は、検出信号Vdの電圧値に基づいて測定対象物2を流れる測定対象電流Iobの電流値を演算する。測定部200は、一例として処理部40及び出力部50を備える。
【0064】
処理部40は、例えば、A/D変換器、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータによって構成される。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processor Unit)などが挙げられる。
【0065】
第一実施形態における処理部40は、検波部34から出力される検出信号Vdの瞬時値を時系列に示す波形データに変換する。そして処理部40は、変換した波形データに基づいて測定対象電流Iobの波形を示す電流波形データを算出してその電流波形データをメモリに記憶する。
【0066】
処理部40は、メモリに記憶された電流波形データに基づいて測定対象電流Iobの電流値、例えば、振幅、平均値又は実効値などを算出してその電流値をメモリに記憶する。このように、処理部40は、測定対象電流Iobの電流値を測定する。また、処理部40は、測定対象電流Iobの電流値又は電流波形データを示す結果情報を出力部50に出力する。
【0067】
出力部50は、一例として、LCDなどのディスプレイ装置により構成される。そして出力部50は、処理部40から出力された結果情報に基づいて測定対象電流Iobの電流値又は波形を表示画面に表示する。
【0068】
出力部50は、上記のディスプレイ装置に代えて、種々のインターフェース回路により構成されてもよい。例えば、出力部50は、メディアインターフェース回路としてリムーバブルメディアに結果情報を記憶させたり、ネットワークインターフェース回路としてネットワーク経由で外部装置に結果情報を伝送させたりする構成を採用することもできる。
【0069】
次に、第一実施形態における測定装置1の動作について説明する。ここでは、一対の磁気コア11の各々において、
図1に示すように、測定対象電流Iobが流れている測定対象物2が挿通されているものとする。
【0070】
電流センサ100においては、上述のように、信号供給部31が、位相調整回路210を介してボルテージフォロワ回路220を構成するオペアンプ23の非反転入力端子(+)に周波数fの交流励磁電圧Vexを出力する。
【0071】
これと共に、信号供給部31は、上記の交流励磁電圧Vexを、反転増幅回路240を構成するオペアンプ24の反転入力端子(-)に出力する。さらに信号供給部31は、検波周波数2fの同期信号Vsyを検波部34に出力する。
【0072】
このとき、位相調整回路210においては、励磁コイル121に供給される励磁電流I1と、励磁コイル122に供給される励磁電流I2との位相差が、基準値である180度となるように交流励磁電圧Vexの位相角が調整される。この位相角は、例えば、実験又は試験を通じてあらかじめ定められている。
【0073】
また、反転増幅回路240においては、励磁電流I1と励磁電流I2との振幅差がゼロとなるように利得調整可変抵抗242の抵抗値が調整される。この抵抗値は、例えば、実験又は試験を通じてあらかじめ定められている。
【0074】
このような状態において、オペアンプ23は、位相調整回路210によって位相角が調整された交流励磁電圧Vexの非反転電圧を、電流調整抵抗230を介してオペアンプ21の反転入力端子(-)に出力する。これと共にオペアンプ24は、信号供給部31から出力された交流励磁電圧Vexの反転電圧を、電流調整抵抗250を介してオペアンプ22の反転入力端子(-)に出力する。
【0075】
そして、オペアンプ21は、負帰還動作して出力電圧Vo1をオペアンプ23からの非反転電圧に応じて変化させる。これにより、オペアンプ21は、交流励磁電圧Vexの電圧値に応じた電流値の励磁電流I1を励磁コイル121に供給する。
【0076】
これと共に、オペアンプ22は、負帰還動作して出力電圧Vo2をオペアンプ23からの反転電圧に応じて変化させる。これにより、オペアンプ22は、交流励磁電圧Vexの電圧値に応じた電流値の励磁電流I2を励磁コイル122に対し、磁気コア112に生じる交流磁束Φ2の向きが磁気コア111に生じる交流磁束Φ1の向きと逆になるように供給する。
【0077】
このとき、励磁電流I1と励磁電流I2の双方の周波数は、交流励磁電圧Vexの周波数fと同じである。また、上述のように、双方の位相差が第一実施形態の基準値の180度となるように、オペアンプ23に入力される交流励磁電圧Vexの位相角が位相調整回路210によって調整される。
【0078】
これに加え、励磁電流I1と励磁電流I2との振幅差が無くなるように反転増幅回路240の利得調整可変抵抗242によって、オペアンプ24から出力される反転電圧の振幅が調整される。
【0079】
そのため、励磁電流I1と励磁電流I2とは振幅がほぼ同一であり、双方の位相が180度反転している。このような励磁電流I1と励磁電流I2とが励磁コイル121及び励磁コイル122に供給されている状態では、上述したように、測定対象物2の測定対象電流Iobに起因して各磁気コア111,112に同じ向きの磁束Φ0が発生する。
【0080】
上記の磁束Φ0の影響を受けて、磁気コア111及び磁気コア112内に発生している合成磁束Φa及び合成磁束Φbが共に変化することにより、励磁コイル121及び励磁コイル122の両端に生じる誘起電圧V1及び誘起電圧V2の振幅もそれぞれ変化する。
【0081】
そして加算部32は、誘起電圧V1を含む出力電圧Vo1(=Vex+V1)と、誘起電圧V2を含む出力電圧Vo2(=-(Vex+V2))とを互いに加算する。これにより、誘起電圧V1と誘起電圧V2との差電圧を示すとともに検波周波数2fの信号成分で構成される加算信号Vadd(=V1-V2)が生成される。
【0082】
続いて、フィルタ33は、上記の加算信号Vaddに含まれているノイズ成分を除去した抽出信号Vfを検波部34に出力する。そして検波部34は、抽出信号Vfを同期信号Vsyで同期検波することにより、測定対象物2に流れる測定対象電流Iobの電流値に比例して電圧値が変化する検出信号Vdを出力する。
【0083】
測定装置1においては、このようにして電流センサ100から出力される検出信号Vdが処理部40に入力される。そして処理部40は、検出信号Vdをその瞬時値を示す波形データに変換し、変換した波形データに基づいて測定対象電流Iobの電流波形データを算出してメモリに記憶する。
【0084】
さらに処理部40は、メモリに記憶した電流波形データに基づいて測定対象電流Iobの電流値を算出してメモリに記憶する。これと共に処理部40は、算出した測定対象電流Iobの電流値及び波形を示す測定結果情報を出力部50に出力する。
【0085】
そしてディスプレイ装置で構成された出力部50は、処理部40から出力された測定結果情報を表示画面上に表示する。これにより、電流センサ100を備えた測定装置1による測定対象電流Iobの測定が完了する。
【0086】
次に、本実施形態の励磁回路20によって生成される励磁電流I1及び励磁電流I2について説明する。
【0087】
図3は、第一実施形態における励磁電流I1と励磁電流I2との位相差を説明するためのタイムチャートである。ここでは、励磁回路20のモデルを作成して理想的な条件でシミュレーションを実施した結果が示されている。
【0088】
図3には、第一実施形態の励磁回路20によって生成される励磁電流I1と励磁電流I2とを加算した合成信号(I1+I2)が実線により示されている。これに加え、比較対象として特開2018-179689号公報に開示された回路構成によって各励磁コイルに供給される電流同士を加算した合成信号が破線により示されている。
【0089】
励磁電流I1と励磁電流I2との位相差が基準値の180度から離れるほど、合成信号(I1+I2)の振幅が大きくなる。ここでの基準値の180度は、交流磁束Φ1と交流磁束Φ2とが完全に相殺される理想状態のときの励磁電流I1と励磁電流I2との位相差のことである。また、基準値は、励磁コイル121が励磁コイル122に対して同じ向きに巻き回されているので180度になるが、励磁コイル121が励磁コイル122に対して逆向きに巻き回されるときは0度になる。
【0090】
図2に示したボルテージフォロワ回路220の前段に配置された位相調整回路210により、
図3に示すように、比較対象の回路構成に比べて、第一実施形態における合成信号(I1+I2)の振幅が小さくなっている。このように、励磁回路20に位相調整回路210を配置することにより、励磁電流I1と励磁電流I2との位相差を180度に近づけることが可能となる。これにより、励磁ノイズを低減することができる。
【0091】
次に、第一実施形態による作用効果について説明する。
【0092】
第一実施形態において励磁回路20は、測定対象物2の物理量を検出するための一対のフラックスゲート10を励磁する。この励磁回路20は、オペアンプ21(第一オペアンプ)と、オペアンプ22(第二オペアンプ)と、信号生成回路201と、を備える。
【0093】
そして、オペアンプ21は、フラックスゲート101(第一フラックスゲート)を構成する励磁コイル121(第一コイル)に対して第一励磁電流である励磁電流I1を供給する。オペアンプ22は、フラックスゲート102(第二フラックスゲート)を構成する励磁コイル122(第二コイル)に対して第二励磁電流である励磁電流I2を供給する。このように一対のフラックスゲート10をそれぞれ一対のオペアンプ21,22の帰還経路に配置することにより、応答性の高い検出を実現することができる。
【0094】
信号生成回路201は、オペアンプ21の入力信号及びオペアンプ22の入力信号を生成する。信号生成回路201は、オペアンプ23(第三オペアンプ)とオペアンプ24(第四オペアンプ)とを含む。
【0095】
そして、オペアンプ23は、オペアンプ21の入力信号として、前記一対のフラックスゲートを励磁するための交流励磁電圧Vexに基づいて当該交流励磁電圧Vexの反転電圧又は非反転電圧を生成する。オペアンプ24は、オペアンプ22の入力信号として、交流励磁電圧Vexに基づいて当該交流励磁電圧Vexの反転電圧又は非反転電圧を生成する。
【0096】
この構成によれば、一対のフラックスゲート101,102を励磁する一対の回路であって、オペアンプ21,23を有する励磁回路301、及びオペアンプ22,24を有する励磁回路302により構成される一対の励磁回路301,302同士が独立して動作する。
【0097】
つまり、一対の励磁回路301,302は、双方の励磁回路が他方の励磁回路の出力を待ったり、双方の励磁回路が他方の励磁回路の出力信号を用いて負帰還したりしないように構成されている。これにより、各励磁回路は他方の励磁回路の影響による信号の遅れが抑えられるので、励磁電流I1と励磁電流I2との位相差の基準値からのズレが抑制される。
【0098】
さらに、上記構成によれば、一対の励磁回路301,302同士のオペアンプ21,23,22,24が対称的な構成である。具体的には、励磁回路301を構成するオペアンプ21,23と、励磁回路302を構成するオペアンプ22,24と、が対称的に構成されている。
【0099】
つまり、双方の励磁回路301,302のオペアンプの個数を合わせ、かつ、双方の違いが反転増幅と非反転増幅の違い、固定抵抗と可変抵抗の違い、又は位相調整回路の有無に抑えられている。このため、励磁回路300,301の双方で励磁電流の遅延に影響を与えるオペアンプが互いに同等の動作、つまりほぼ等しい動作をするので、励磁電流I1と励磁電流I2との位相差の基準値からのズレが抑制される。これにより、交流励磁電圧Vexによって一対のフラックスゲート10に生じる交流磁束Φ1及び交流磁束Φ2間の差を抑制することができる。
【0100】
したがって、一対のフラックスゲート10に生じる交流磁束Φ1及び交流磁束Φ2間の差に起因する励磁ノイズの測定対象物2の信号成分への重畳を抑制することができる。
【0101】
また、第一実施形態における信号生成回路201は、オペアンプ21の入力信号の位相を調整可能な位相調整回路210をさらに含む。そしてオペアンプ23は、交流励磁電圧Vexに基づいて当該交流励磁電圧Vexの非反転電圧を生成し、オペアンプ24は、交流励磁電圧Vexに基づいて当該交流励磁電圧Vexの反転電圧を生成する。
【0102】
この構成によれば、非反転電圧を生成するオペアンプ23と位相調整回路210とを組み合わせることにより、信号生成回路201の構成を簡素にしつつ、励磁電流I1及び励磁電流I2間の位相差を基準値の180度に近づけることができる。また、上記の構成は、反転電圧を生成するオペアンプ24と位相調整回路210とを組み合わせる構成に比べて簡素な構成であるため、励磁電流I1及び励磁電流I2間の位相差を基準値に近づける作業負担を軽減することができる。
【0103】
また、第一実施形態における位相調整回路210は、交流励磁電圧Vexを出力する回路として機能する信号供給部31と、オペアンプ23の非反転入力端子(+)との間に接続される。
【0104】
この構成によれば、位相調整回路210は、オペアンプ23とオペアンプ21との間に接続される場合に比べてオペアンプ23とオペアンプ21との間に流れる電流の影響を受けることがない。それゆえ、位相調整回路210の採用に伴うノイズを低減することができる。また、励磁電流I1及び励磁電流I2間の位相差を基準値に近づける調整をする作業を容易に実施できる。
【0105】
また、第一実施形態において、交流励磁電圧Vexの反転電圧を生成するオペアンプ24における反転入力端子(-)と出力端子との間には、オペアンプ22の入力電圧の振幅を調整可能な可変抵抗として利得調整可変抵抗242が接続される。
【0106】
この構成によれば、利得調整可変抵抗242を用いることにより、信号生成回路201の配置に伴う励磁電流I1及び励磁電流I2間の振幅差を低減することができる。
【0107】
これに加え、励磁回路20は、励磁電流I1の生成において励磁電流I1及び励磁電流I2間の位相差を基準値に近づける調整をするとともに励磁電流I2の生成において励磁電流I1及び励磁電流I2間の振幅同士を近づける調整をする回路構成となるため、その位相差と振幅を独立して調整することが可能となる。これにより、一方の励磁電流I1又はI2の生成において励磁電流I1及び励磁電流I2間の位相差と振幅差とを纏めて小さくして調整を行う構成に比べて、調整に要する作業時間を短縮しつつ作業量を軽減することができる。
【0108】
第一実施形態における一対のフラックスゲート10は、測定対象物2の周方向に沿って配置されるとともに、励磁コイル121は、励磁コイル122に対して同じ向きに巻き回される。そして上述のとおり、オペアンプ23は、交流励磁電圧Vexの非反転電圧をオペアンプ21の非反転入力端子(-)に供給し、オペアンプ24は、交流励磁電圧Vexの反転電圧をオペアンプ22の非反転入力端子(-)に供給する。
【0109】
この構成によれば、電流センサ100の検出部30において測定対象物2の測定対象電流Iobを示す検出信号Vdを生成するために、オペアンプ21の出力信号とオペアンプ22の出力信号とを加算する加算部32を用いることが可能となる。
【0110】
加算部32の回路構成は、オペアンプ21の出力電圧Vo1とオペアンプ22の出力電圧Vo2との差分を算出する減算回路に比べて簡素な回路構成にすることができる。したがって、電流センサ100の検出部30の回路構成を簡素にすることが可能となる。
【0111】
また、第一実施形態における電流センサ100は、上記の励磁回路20と、オペアンプ21の出力電圧Vo1とオペアンプ22の出力電圧Vo2とに基づいて測定対象物2を流れる測定対象電流Iobの大きさを検出する検出回路としての検出部30と、を含む。
【0112】
例えば、検出部30は、オペアンプ21の出力電圧Vo1とオペアンプ22の出力電圧Vo2との加算信号Vaddを、交流励磁電圧Vexの周波数fを二倍した検波周波数2fの同期信号Vsyで同期検波する。これにより、測定対象電流Iobの大きさを示す検出信号Vdを取得することができる。
【0113】
この構成によれば、励磁回路20により励磁電流I1及び励磁電流I2間の位相差を基準値に近づけることができるので、検出信号Vdにおける位相差の基準値からのズレに起因する励磁ノイズを低減することができる。
【0114】
また、第一実施形態における測定装置1は、上記の電流センサ100と、電流センサ100により検出される検出信号Vdに基づいて測定対象物2の物理量を測定する測定部200と、を含む。
【0115】
この構成によれば、
図3の破線で示した比較対象に比べて、検出信号Vdに重畳される励磁ノイズが小さいので、測定対象物2の物理量についての測定精度を向上させることができる。
【0116】
次に、他の実施形態について説明する。以下では第一実施形態と同じ構成については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0117】
(第二実施形態)
図4は、第二実施形態における励磁回路20Aの回路構成を示す回路図である。励磁回路20Aは、
図2に示した励磁回路20に対応し、励磁回路20に代えて測定装置1の電流センサ100に備えられる。励磁回路20Aは、
図2に示した一対の励磁回路301,302に対応する一対の励磁回路301A,302Aを備えている。
【0118】
第二実施形態の励磁回路20Aは、第一実施形態の励磁回路20に比べてオペアンプ21及びオペアンプ22の接続構成が異なる。これに伴って励磁回路20Aは、
図2に示した励磁回路20を構成する二つの電流調整抵抗230及び電流調整抵抗250に代えて一つの電流調整抵抗260を備えている。その他の構成については、
図2に示した励磁回路20と同じ構成である。
【0119】
励磁回路20Aにおいては、オペアンプ23の出力端子がオペアンプ21の非反転入力端子(+)に接続されるとともに、オペアンプ24の出力端子がオペアンプ22の非反転入力端子(+)に接続されている。さらに、オペアンプ21の反転入力端子(-)とオペアンプ22の反転入力端子(-)との間には電流調整抵抗260が接続されている。
【0120】
電流調整抵抗260は、一対の励磁コイル12の各々に流れる励磁電流I1及び励磁電流I2の振幅を調整するための抵抗素子である。電流調整抵抗260は、一つの抵抗器又は複数の抵抗器により構成される。
【0121】
第二実施形態のようにオペアンプ21及びオペアンプ22の接続構成を採用することによって、一つの電流調整抵抗260を用いるだけで励磁電流I1及び励磁電流I2の双方を同一の電流値に設定することができる。
【0122】
それゆえ、第一実施形態の励磁回路20に比べて励磁回路20Aの構成を簡素にすることができる。また、一つの電流調整抵抗260の抵抗値を変更するだけで励磁電流I1及び励磁電流I2の双方の電流値を同一の値にしつつ調整することができる。
【0123】
例えば、第一実施形態の励磁回路20では電流調整抵抗230及び電流調整抵抗250として同じ種類の抵抗素子を使用したとしても、個々の抵抗素子のバラツキにより励磁電流I1及び励磁電流I2間の振幅差が生じ得る。これに対し、第二実施形態では励磁電流I1及び励磁電流I2の双方の電流値が同一の値となるため、振幅差を発生させることなく双方の電流値を調整することができる。
【0124】
続いて、第二実施形態による作用効果について説明する。
【0125】
第二実施形態における励磁回路20Aは、第一実施形態と同様、オペアンプ21とオペアンプ22と信号生成回路201とを備える。信号生成回路201は、オペアンプ23とオペアンプ24とを備える。これにより、第一実施形態と同様、交流励磁電圧Vexによって一対のフラックスゲート10に生じる磁束間の差を抑制することができる。
【0126】
また、第二実施形態では、オペアンプ23及びオペアンプ24の出力端子につながるインピーダンスが第一実施形態と比べて高くなるため、消費電力を低減することができる。
【0127】
また、第二実施形態における信号生成回路201は、第一実施形態と同様、オペアンプ21の入力信号の位相を調整可能な位相調整回路210をさらに含む。そしてオペアンプ23は、交流励磁電圧Vexに基づいて当該交流励磁電圧Vexの非反転電圧を生成し、オペアンプ24は、交流励磁電圧Vexに基づいて当該交流励磁電圧Vexの反転電圧を生成する。
【0128】
さらに、一対のフラックスゲート10は、測定対象物2の周方向に沿って配置され、その励磁コイル121は、励磁コイル122に対して同じ向きに巻き回される。そしてオペアンプ21の非反転入力端子(+)は、オペアンプ23の出力端子に接続されるとともに、オペアンプ22の非反転入力端子(+)は、オペアンプ24の出力端子に接続される。オペアンプ21及びオペアンプ22の反転入力端子(-)間は、抵抗素子を構成する電流調整抵抗260を介して接続される、
【0129】
この構成によれば、第一実施形態の励磁回路20に比べて、励磁回路20Aの回路構成を簡素にし、かつ、電流調整抵抗260の抵抗値を変更することにより容易に励磁電流I1及び励磁電流I2を同じ電流値のまま調整することができる。
【0130】
(第三実施形態)
図5は、第三実施形態における測定装置1Bの構成を示す図である。
【0131】
測定装置1Bにおいては、一対の励磁コイル12Bの各々の巻線方向が互いに異なり、かつ、一対の励磁コイル12Bに接続される回路構成が互いに同一である点が、第一実施形態及び第二実施形態とは異なる。
【0132】
測定装置1Bは、第一実施形態における測定装置1の電流センサ100に代えて電流センサ100Bを備えている。電流センサ100Bは、
図2又は
図4に示した励磁回路20又は20Aに代えて励磁回路20Bを備えるとともに、
図1に示した検出部30の加算部32に代えて減算部32Bを備えている。
【0133】
電流センサ100Bは、
図1に示した一対のフラックスゲート10に代えて一対のフラックスゲート10Bを備えている。一対のフラックスゲート10Bは、
図1に示した一対の磁気コア11と、巻線方向が互いに異なる一対の励磁コイル12Bと、を有する。
【0134】
一対の励磁コイル12Bは、
図1に示した励磁コイル121と、励磁コイル121に対して巻き数が同じであって巻線方向が逆方向である励磁コイル123と、により構成される。
【0135】
励磁回路20Bは、第一実施形態における位相調整回路210及びボルテージフォロワ回路220に代えて反転増幅回路220Bを備えている。他の構成については、
図2に示した構成と同一である。励磁回路20Bは、
図2に示した一対の励磁回路301,302に対応する一対の励磁回路301B,302Bを備えている。
【0136】
反転増幅回路220Bは、反転増幅回路240と同様の回路構成を有し、
図2に示したオペアンプ23に対応するオペアンプ23Bと、利得調整抵抗221と、利得調整抵抗222と、を備えている。すなわち、反転増幅回路220Bは、オペアンプ23Bを含む第一増幅回路を構成し、反転増幅回路240は、オペアンプ24を含む第二増幅回路を構成する。そして反転増幅回路220B及び反転増幅回路240は、互いに同じ回路構成を有する。
【0137】
反転増幅回路220Bにおいて、その入力端子T1には利得調整抵抗221の一端が接続されている。そしてオペアンプ23Bの非反転入力端子(+)にグランド電位Gが接続され、オペアンプ23Bの反転入力端子(-)には利得調整抵抗221の他端が接続されている。また、オペアンプ23Bの出力端子と反転入力端子(-)との間には利得調整抵抗222が接続されている。
【0138】
このように励磁回路20Bにおいては、オペアンプ21、反転増幅回路220B及び電流調整抵抗230を有する第一励磁回路と、オペアンプ22、反転増幅回路240及び電流調整抵抗250を有する第二励磁回路と、が対称となる構成である。
【0139】
したがって、位相調整回路210を配置しなくても、一対の励磁コイル12Bの各々に供給される励磁電流I1及び励磁電流I2間の位相差の基準値からのズレを抑えることができる。したがって、励磁回路20Bの製造コスト及びサイズを低減しつつ、励磁電流I1及び励磁電流I2の位相差の基準値からのズレを抑制することができる。
【0140】
第三実施形態における減算部32Bは、オペアンプ21の出力電圧Vo1とオペアンプ22の出力電圧Vo2との差分を算出する。出力電圧Vo1は、交流励磁電圧Vexと誘起電圧V1との和(Vex+V1)であり、出力電圧Vo2は、交流励磁電圧Vexと誘起電圧V2との差(Vex-V2)である。
【0141】
それゆえ、出力電圧Vo1と出力電圧Vo2との差分を示す減算信号Vsubは、次式のように表すことができる。
Vsub=Vex+V1-(Vex-V2)=V1-V2
【0142】
このように、減算信号Vsubは、第一実施形態及び第二実施形態における加算信号Vaddと同様、誘起電圧V1と誘起電圧V2との差電圧を示す。減算部32Bは、算出した減算信号Vsubを、フィルタ33を介して検波部34に出力する。
【0143】
そして第一実施形態及び第二実施形態と同様、検波部34は、フィルタ33から出力された抽出信号Vfを、信号供給部31から出力された同期信号Vsyによって同期検波する。これにより、測定対象物2に流れる測定対象電流Iobの電流値に比例して電圧値が変化する検出信号Vdを出力する。
【0144】
図6は、第三実施形態における励磁電流I1と励磁電流I2との位相差の基準値からのズレを説明するためのタイムチャートである。ここでは、
図5に示した励磁回路20Bのモデルを作成して理想的な条件でシミュレーションを実施した結果が示されている。
【0145】
図6には、第三実施形態の励磁回路20Bによって生成される励磁電流I1と励磁電流I2との差分を示す合成信号(I1-I2)が実線により示されている。これに加え、比較対象として第一実施形態の励磁回路20によって生成される励磁電流I1と励磁電流I2との差分を示す合成信号が破線により示されている。励磁電流I1と励磁電流I2との位相差が基準値0度から離れるにつれて合成信号の振幅が大きくなる。
【0146】
図5に示したように、励磁回路20Bにおいては、励磁電流I1を生成する第一励磁回路と、励磁電流I2を生成する第二励磁回路と、が互いに同じ回路構成を有する。これにより、
図6に示すように、第一実施形態における励磁回路20に比べて、合成信号(I1-I2)の振幅が小さくなっている。
【0147】
このように励磁回路20B内の二つの系統を対称に構成することにより、励磁電流I1と励磁電流I2との位相差を0度に近づけることが可能となる。よって、励磁ノイズを低減することができる。
【0148】
続いて、第三実施形態による作用効果について説明する。
【0149】
第三実施形態において、一対のフラックスゲート10Bは、測定対象物2の周方向に沿って配置され、励磁コイル121は、励磁コイル123に対して逆向きに巻き回されている。そして、オペアンプ21の反転入力端子(-)が電流調整抵抗230(第一抵抗素子)を介してオペアンプ23B(第三オペアンプ)の出力端子に接続されるとともにオペアンプ21の非反転入力端子(+)がグランド電位Gに接続される。
【0150】
さらに、オペアンプ22の反転入力端子(-)が電流調整抵抗250(第二抵抗素子)を介してオペアンプ24の出力端子に接続されるとともにオペアンプ22の非反転入力端子(+)がグランド電位Gに接続される。グランド電位Gは、電流センサ100の基準電位である。
【0151】
この構成によれば、オペアンプ21及びオペアンプ23Bの接続構成と、オペアンプ22及びオペアンプ24Bの接続構成と、が互いに対称となり得るため、励磁電流I1及び励磁電流I2間の位相差の基準値からのズレを抑制することができる。これにより、交流励磁電圧Vexによって一対のフラックスゲート10Bに生じる交流磁束Φ1及び交流磁束Φ2間の差を抑制することができる。
【0152】
また、信号生成回路201にオペアンプ23B及びオペアンプ24を配置することにより、オペアンプ21及びオペアンプ22の各反転入力端子(-)に供給される電流を減少させることができる。それゆえ、電流調整抵抗230及び電流調整抵抗250での発熱及び電力損失を低減することができる。
【0153】
また、第三実施形態において、オペアンプ23Bを含む反転増幅回路220B(第一増幅回路)とオペアンプ24を含む反転増幅回路240(第二増幅回路)とは、互いに同じ回路構成を有する。これにより、第一実施形態及び第二実施形態に比べて、励磁電流I1及び励磁電流I2間の位相差の基準値からのズレを抑制することができる。
【0154】
次に、第三実施形態における励磁回路20Bの変形例について
図7及び
図8を参照して説明する。
【0155】
図7は、第一変形例における励磁回路20Cの構成を示す回路図である。励磁回路20Cは、
図5に示した励磁回路20Bに対応し、一対の励磁回路301B,302Bに対応する一対の励磁回路301C,302Cを備えている。
【0156】
第一変形例における励磁回路20Cは、反転増幅回路220B及び反転増幅回路240に代えて、非反転増幅回路220C及び非反転増幅回路240Cを備えている。
【0157】
非反転増幅回路220Cは、オペアンプ23Cと、利得調整抵抗223と、利得調整抵抗224と、を備えている。非反転増幅回路240Cは、オペアンプ24Cと、利得調整抵抗243と、利得調整可変抵抗244と、を備えている。
【0158】
本変形例において、非反転増幅回路220Cは、オペアンプ23Cを含む第一増幅回路を構成し、非反転増幅回路240Cは、オペアンプ24Cを含む第二増幅回路を構成する。そして非反転増幅回路220C及び非反転増幅回路240Cは、第三実施形態と同様、互いに同じ回路構成を有する。
【0159】
非反転増幅回路220Cにおいては、励磁回路20Cの入力端子T1がオペアンプ23Cの非反転入力端子(+)に接続され、オペアンプ23Cにおける反転入力端子(-)と出力端子との間に利得調整抵抗223が接続されている。さらに、オペアンプ23Cの反転入力端子(-)とグランド電位Gとの間に利得調整抵抗224が接続されている。
【0160】
非反転増幅回路240Cにおいては、励磁回路20Cの入力端子T1がオペアンプ24Cの非反転入力端子(+)に接続され、オペアンプ24Cにおける反転入力端子(-)と出力端子との間に利得調整抵抗243が接続されている。さらにオペアンプ24Cの反転入力端子(-)とグランド電位Gとの間に利得調整可変抵抗244が接続されている。
【0161】
このように、非反転増幅回路220C及び非反転増幅回路240Cを備える励磁回路20Cであっても、
図5に示した励磁回路20Bと同様、交流磁束Φ1及び交流磁束Φ2間の差を抑制することができる。
【0162】
図8は、第二変形例における励磁回路20Dの構成を示す回路図である。励磁回路20Dは、
図5に示した励磁回路20Bに対応し、一対の励磁回路301B,302Bに対応する一対の励磁回路301D,302Dを備えている。
【0163】
第二変形例における励磁回路20Dは、反転増幅回路220B及び反転増幅回路240に代えて、ボルテージフォロワ回路220D及びボルテージフォロワ回路240Dを備えている。
【0164】
ボルテージフォロワ回路220D及びボルテージフォロワ回路240Dは、それぞれ、
図2に示したオペアンプ23に対応するオペアンプ23Dと、
図2に示したオペアンプ24に対応するオペアンプ24Dと、を備えている。
【0165】
本変形例において、ボルテージフォロワ回路220Dは、オペアンプ23Dを含む第一増幅回路を構成し、ボルテージフォロワ回路240Dは、オペアンプ24Dを含む第二増幅回路を構成する。そしてボルテージフォロワ回路220D及びボルテージフォロワ回路240Dは、互いに同じ回路構成を有する。
【0166】
ボルテージフォロワ回路220Dにおいては、励磁回路20Dの入力端子T1がオペアンプ23Dの非反転入力端子(+)に接続され、オペアンプ23Dにおける反転入力端子(-)と出力端子とが互いに接続されている。
【0167】
ボルテージフォロワ回路240Dにおいては、励磁回路20Dの入力端子T1がオペアンプ24Dの非反転入力端子(+)に接続され、オペアンプ24Dにおける反転入力端子(-)と出力端子とが互いに接続されている。
【0168】
(第四実施形態)
次に、第四実施形態における測定装置1を構成する信号供給部31について
図9A及び
図9Bを参照して説明する。他の構成については、第一実施形態又は第二実施形態と同様の構成であるため、同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0169】
図9Aは、第四実施形態における信号供給部31の構成の一例を示す回路図である。第四実施形態における信号供給部31は、励磁回路20乃至20Dのうち、一例として励磁回路20に交流励磁電圧Vexを供給する。
【0170】
信号供給部31は、発振回路311と、ローパスフィルタ312と、バンドパスフィルタ313と、増幅回路314と、を備える。
【0171】
発振回路311は、クロック信号を発生する。発振回路311は、発生したクロック信号をローパスフィルタ312に出力する。
【0172】
ローパスフィルタ312は、発振回路311から出力されたクロック信号の高周波成分を減衰させるとともに低周波成分を通過させる。ローパスフィルタ312は、クロック信号に対して低周波成分を通過させるフィルタ処理が施されたLP信号をバンドパスフィルタ313に出力する。
【0173】
バンドパスフィルタ313は、ローパスフィルタ312から出力されるLP信号の特定の周波数成分を通過させる。バンドパスフィルタ313は、LP信号に対して特定の周波数成分を通過させるフィルタ処理が施された正弦波信号を増幅回路314に出力する。
【0174】
増幅回路314は、バンドパスフィルタ313から出力される正弦波信号を増幅し、増幅した正弦波信号を交流励磁電圧Vexとして励磁回路20に供給する。
【0175】
第四実施形態によれば、信号供給部31にローパスフィルタ312を配置することにより、オペアンプ21乃至24の各々の入力端子に対する高周波成分の入力を抑制することができる。これにより、高周波成分に対してオペアンプ21乃至24が追従しきれない場合には、オペアンプ21乃至24の出力信号に生じるスパイク状のノイズを低減することができる。
【0176】
このように、ローパスフィルタ312が設けられていない信号供給部に比べて、入力信号の高周波成分に対するオペアンプ21乃至24の追従不足に起因する励磁電流I1及び励磁電流I2に含まれるスパイク状のノイズを低減することができる。
【0177】
図9Bは、第四実施形態における信号供給部31の他の例を示す回路図である。
【0178】
本例において信号供給部31は、三角波の交流励磁電圧Vexを励磁回路20に供給する。信号供給部31は、
図9Aに示したバンドパスフィルタ313及び増幅回路314に代えて積分増幅回路315を備えている。
【0179】
積分増幅回路315は、ローパスフィルタ312から出力されるLP信号を積分して増幅する。積分増幅回路315は、積分して増幅した三角波信号を交流励磁電圧Vexとして励磁回路20に供給する。
【0180】
本例においても、信号供給部31にローパスフィルタ312を配置することにより、
図9Aに示した信号供給部31と同様、オペアンプ21乃至24の各々の入力端子に対する高周波成分の入力を抑制することができる。これにより、高周波成分に対してオペアンプ21乃至24が追従しきれない場合には、オペアンプ21乃至24の出力信号に生じるスパイク状のノイズを低減することができる。
【0181】
次に、第一実施形態及び第二実施形態における測定装置1の変形例について
図10乃至
図12を参照して説明する。
【0182】
(第一変形例)
図10は、第一変形例における測定装置1Eの構成を示す図である。
【0183】
測定装置1Eは、
図1に示した電流センサ100に対応する電流センサ100Eを備えており、誘起電圧V1と誘起電圧V2との差電圧を検出するための手法が第一実施形態乃至第三実施形態とは異なる。
【0184】
電流センサ100Eは、
図1に示した電流センサ100の検出部30に代えて、検出部30Eを備えている。検出部30Eは、
図1に示した信号供給部31、フィルタ33及び検波部34と、検出コイル321と、増幅部322と、を備えている。
【0185】
検出コイル321は、磁気コア111及び磁気コア112に亘って所定の巻回数で巻回されている。この構成により、検出コイル321は、その端子321aと端子321bとの間に、誘起電圧V1と誘起電圧V2との差電圧(V1-V2)となる誘起電圧V3を発生させる。
【0186】
増幅部322は、検出コイル321の両端子321a及び321b間の誘起電圧V3を所定のレベルに増幅する。増幅部322は、増幅した信号であって誘起電圧V1と誘起電圧V2との差電圧を示す増幅信号Vap(=V1-V2)をフィルタ33に出力する。
【0187】
上記した実施形態と同様、フィルタ33は、増幅信号Vapに含まれている検波周波数2fを選択的に通過させることにより、誘起電圧V1と誘起電圧V2との差電圧を示す抽出信号Vfを出力する。検波部34は、抽出信号Vfを、信号供給部31から出力される同期信号Vsyで同期検波することにより、測定対象物2に流れる測定対象電流Iobの電流値を示す検出信号Vdを出力する。
【0188】
電流センサ100Eを備えた測定装置1Eにおいても、
図1に示した測定装置1と同様、励磁コイル121に流れる励磁電流I1と、励磁コイル122に流れる励磁電流I2との間の基準となる位相差180度からのズレを小さくすることができる。したがって、検出信号Vdの励磁ノイズを抑制することができる。
【0189】
なお、本変形例は、第三実施形態における測定装置1Bの構成並びに測定装置1Bの第一変形例及び第二変形例の構成に対しても適用することができる。
【0190】
(第二変形例)
上記実施形態における一対の磁気コア11は、測定対象物2が挿通される状態において測定対象物2に測定対象電流Iobが流れることによって測定対象物2の周囲に発生する不図示の磁界内に配設される構成である。しかしながら、このような構成に限定されるものではない。
【0191】
図11は、第二変形例における電流センサ100Fの構成を示す図である。
【0192】
第二変形例の電流センサ100Fにおいて、
図1に示した一対のフラックスゲート10に対応する一対のフラックスゲート10Fとは異なるコア13が別途設けられている点が上記実施形態とは異なる。
【0193】
コア13は、環状に形成され、環状の一部にギャップGPが形成されているコアである。一対のフラックスゲート10Fは、コア13のギャップGP内に配設される。一対のフラックスゲート10Fは、励磁コイル124が巻き回された磁気コア114と、励磁コイル125が巻き回された磁気コア115と、により構成される。
【0194】
本例では磁気コア114及び磁気コア115の各々は柱状に形成されているが、これに代えて環状に形成されてもよい。また、コア13に二つのギャップを形成して、磁気コア114及び磁気コア115を別々のギャップ内に配設する構成であってもよい。
【0195】
電流センサ100Fにおいては、コア13に測定対象物2が挿通される。この状態では測定対象電流Iobが流れることによって測定対象物2の周囲に発生する不図示の磁界内にコア13が配設されている。
【0196】
測定対象物2の周囲に発生する磁界に起因してコア13内に磁束が生じる。この磁束はギャップGPも通過することから、このギャップGP内に配設された磁気コア114及び磁気コア115にも磁束が生じる。
【0197】
また、電流センサ100は、測定対象物2がコア13に挿通されない形態でも、測定対象電流Iobが流れることによって測定対象物2の周囲に発生する不図示の磁界内に磁気コア114及び磁気コア115が配設される構成となっている。
【0198】
なお、本変形例ではギャップGP内に磁気コア114及び磁気コア115が配設されたコア13に測定対象物2を挿通させる構成以外の構成要素は、上記した実施形態のいずれかの構成要素と同一である。それゆえ、
図11においては、同一の構成要素については図示せず、また説明についても省略する。
【0199】
このような電流センサ100Fの構成であっても、上記した実施形態と同様の作用効果を奏することができる。なお、本変形例は、上記実施形態の各構成に対して適用することができる。
【0200】
(第三変形例)
図12は、第三変形例における測定装置1Gの構成を示す図である。測定装置1Gは、ゼロフラックス型の電流センサ100Gを備えている。
【0201】
電流センサ100Gは、
図1に示した電流センサ100の構成に加えて、一対のメインコア91,92と、帰還巻線93と、駆動部94と、検出抵抗95と、増幅部96とを備えている。
【0202】
メインコア91及び92の各々は、断面凹字形を呈し、かつ平面視形状が同一の環状体にそれぞれ磁性材料を用いて形成されている。この構成により、メインコア91及び92の各々は、互いに凹部同士が対向する状態で付き合わされた状態において、不図示の環状の中空部が内部に形成された一つの環状コアに構成されている。また、中空部内には、励磁コイル121が巻回された磁気コア111と、励磁コイル122が巻回された磁気コア112とが重ねられた状態で収容されている。
【0203】
帰還巻線93は、一対のメインコア91,92で構成された環状コアの外周面に巻回されている。駆動部94は、検波部34から出力される検出信号Vdに基づいて駆動電流Idを生成して帰還巻線93の一端に供給する。
【0204】
また、駆動部94は、検波部34から出力される検出信号Vdの振幅を低下させる(ゼロに近づける)ように、駆動電流Idの振幅を制御する。これにより、駆動電流Idが帰還巻線93を流れることによって一対のメインコア91,92で構成される環状コアに発生する磁束で、測定対象物2に測定対象電流Iobが流れることによってこの環状コアに発生する磁束が打ち消される。
【0205】
検出抵抗95は、帰還巻線93の他端とグランド電位Gとの間に接続され、駆動電流Idを電圧信号Vd1に変換する。増幅部96は、変換した電圧信号Vd1を電圧信号Vd2に増幅して処理部40に出力する。出力される電圧信号Vd2は、測定対象物2に流れる測定対象電流Iobの電流値に比例して電圧値が変化する信号である。
【0206】
電流センサ100Gであっても、上記した実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、電流センサ100Gによれば、一対のメインコア91,92で構成される環状コア内に生じる磁束をほぼゼロに維持できることから、電流値の大きな測定対象電流Iobについても磁気飽和を回避しつつ測定することが可能となる。
【0207】
なお、本変形例は、第三実施形態における測定装置1Bの構成、並びに測定装置1Bの第一変形例及び第二変形例の構成についても適用することができる。
【0208】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0209】
励磁電流I1と励磁電流I2の電流値を同一にするとともに一対の励磁コイル12の巻き数を同一にしたが、交流励磁電圧Vexによって一対の励磁コイル12に生じる誘起電圧V1及び誘起電圧V2が同一の大きさとなればよく、これに限られるものではない。
【0210】
例えば、励磁電流I1と励磁電流I2の電流値が異なるようにしてもよく、この場合、励磁コイル121の巻き数に対する励磁コイル122の巻き数の比率は、励磁電流I1に対する励磁電流I2の比率の逆数に定められる。
【0211】
また、位相調整回路210をなくしたり、利得調整可変抵抗242又は244を固定抵抗器から可変抵抗器に置き換えたりしてもよい。
【符号の説明】
【0212】
1、1B、1E、1G 測定装置
2 測定対象物
100、100B、100E~100G 電流センサ
200 測定部
10 一対のフラックスゲート
11 一対の磁気コア
101 フラックスゲート(第一フラックスゲート)
102 フラックスゲート(第二フラックスゲート)
111 磁気コア
112 磁気コア
121 励磁コイル(第一コイル)
122 励磁コイル(第二コイル)
20、20A~20D 励磁回路
21 オペアンプ(第一オペアンプ)
22 オペアンプ(第二オペアンプ)
23、23B~23D オペアンプ(第三オペアンプ)
24、24C、24D オペアンプ(第四オペアンプ)
210 位相調整回路
220、220D ボルテージフォロワ回路(第一増幅回路)
220B 反転増幅回路(第一増幅回路)
220C 非反転増幅回路(第一増幅回路) 230 電流調整抵抗(第一抵抗素子)
240 反転増幅回路(第二増幅回路)
240C 非反転増幅回路(第二増幅回路)
240D ボルテージフォロワ回路(第二増幅回路)
242 利得調整可変抵抗(可変抵抗素子)
250 電流調整抵抗(第二抵抗素子)
260 電流調整抵抗(抵抗素子)
30、30E 検出部(検出回路)
301,302、301A~301D,302A~302D 一対の励磁回路
311 発振回路
312 ローパスフィルタ
Iob 測定対象電流(物理量)
I1 励磁電流(第一励磁電流)
I2 励磁電流(第二励磁電流)
G グランド電位(基準電位)