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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120788
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】無励磁作動型電磁ブレーキ
(51)【国際特許分類】
   F16D 55/28 20060101AFI20230823BHJP
   F16D 65/18 20060101ALI20230823BHJP
   H01F 7/06 20060101ALI20230823BHJP
   F16D 121/22 20120101ALN20230823BHJP
【FI】
F16D55/28 B
F16D65/18
H01F7/06 P
F16D121:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023846
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000103792
【氏名又は名称】オリエンタルモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】金木 敏兼
【テーマコード(参考)】
3J058
5E048
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA58
3J058AA78
3J058AA79
3J058AA88
3J058BA67
3J058CC14
3J058CC72
3J058CC76
3J058CC77
3J058FA42
5E048AB06
5E048AC05
(57)【要約】
【課題】全て同方向に励磁される複数の電磁コイルと永久磁石とを備えた無励磁作動型電磁ブレーキを提供する。
【解決手段】無励磁作動型電磁ブレーキ100において、円板状のヨーク31の中心に円筒状のインナーポール32が設けられ、該インナーポールの径方向外側に複数の円柱状のアウターポール33が周方向等間隔に設けられて静止体4に固定され、前記複数のアウターポールのそれぞれに電磁コイルが巻かれて電磁石組立体3が構成され、リング状の永久磁石2が前記ヨークと前記インナーポールとの間に設けられ、前記電磁石組立体と軸方向に対向し、前記電磁石組立体に対して接離可能にアーマチュア11が配置され、前記アーマチュアは回転軸9に一体的に設けられ、前記アーマチュアを前記電磁石組立体から引き離す方向に付勢する付勢手段13が設けられる。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状のヨークの中心に円筒状のインナーポールが設けられ、該インナーポールの径方向外側に複数の円柱状のアウターポールが周方向等間隔に設けられて静止体に固定され、
前記複数のアウターポールのそれぞれに電磁コイルが巻かれて電磁石組立体が構成され、
リング状の永久磁石又はリングを周方向に所定の間隔で略円弧状に分割した形状の永久磁石が、前記ヨークと前記インナーポールとの間に設けられ、
前記電磁石組立体と軸方向に対向し、前記電磁石組立体に対して接離可能にアーマチュアが配置され、
前記アーマチュアは、前記静止体から突出し前記複数のアウターポールに取り囲まれるように配置された回転軸に一体的に設けられ、
前記アーマチュアを前記電磁石組立体から引き離す方向に付勢する付勢手段が設けられ、
前記電磁コイルが励磁されない状態では、前記永久磁石により、前記アーマチュアが前記付勢手段の付勢力に抗して前記電磁石組立体に吸着されて前記回転軸の回転が制動され、
前記電磁コイルが励磁されると前記永久磁石の磁束を打ち消す磁束が発生し、前記付勢手段の付勢力により前記アーマチュアが前記吸着から解放され、前記回転軸に対する制動が解除される、無励磁作動型電磁ブレーキ。
【請求項2】
前記インナーポールの軸方向前記ヨーク側の面に凹部が形成され、
前記ヨークの軸方向前記インナーポール側の面に凹部が形成され、
前記インナーポールにおける前記凹部と、前記ヨークにおける前記凹部とに、軸方向に着磁された前記永久磁石が配置され、
前記インナーポールにおける前記凹部の周囲にある凸部と、前記ヨークにおける前記凹部の周囲にある凸部との間に軸方向のギャップが設けられる、請求項1に記載の無励磁作動型電磁ブレーキ。
【請求項3】
前記インナーポールの軸方向前記ヨーク側の面と、前記ヨークの軸方向前記インナーポール側の面とのいずれか一方に凹部が形成され、
前記凹部に、軸方向に着磁された前記永久磁石が配置され、
前記インナーポールの軸方向前記ヨーク側の面と、前記ヨークの軸方向前記インナーポール側の面とのいずれか一方と、前記凹部の周囲にある凸部との間に軸方向のギャップが設けられる、請求項1に記載の無励磁作動型電磁ブレーキ。
【請求項4】
前記ギャップが、非磁性体からなるリング状のギャップ材により形成される、請求項2または3に記載の無励磁作動型電磁ブレーキ。
【請求項5】
ハブを備え、
前記アーマチュアは、該アーマチュアを前記電磁石組立体から引き離す方向に付勢する付勢手段を介して、前記ハブに組み付けられ、
前記ハブは、前記回転軸に対し、前記インナーポールの内部において締結され、前記回転軸と一体的に設けられている、請求項1~4のいずれか一項に記載の無励磁作動型電磁ブレーキ。
【請求項6】
円板状のヨークの中心に円筒状のインナーポールが設けられ、該インナーポールの径方向外側に複数の円柱状のアウターポールが周方向等間隔に設けられて静止体に固定され、
前記複数のアウターポールのそれぞれに電磁コイルが巻かれて電磁石組立体が構成され、
前記電磁石組立体と軸方向に対向し、前記電磁石組立体に対して接離可能にアーマチュア組立体が配置され、
前記アーマチュア組立体は、前記静止体から突出し前記複数のアウターポールに取り囲まれるように配置された回転軸に一体的に設けられ、
該前記アーマチュア組立体を前記電磁石組立体から引き離す方向に付勢する付勢手段が設けられ、
前記アーマチュア組立体内に永久磁石が配置され、
前記電磁コイルが励磁されない状態では、前記永久磁石により、前記アーマチュア組立体が前記付勢手段の反発力に抗して前記電磁石組立体に吸着されて前記回転軸の回転が制動され、
前記電磁コイルが励磁されると前記永久磁石の磁束を打ち消す磁力が発生し、前記付勢手段の付勢力により前記アーマチュア組立体が前記吸着から解放され、前記回転軸に対する制動が解除される、無励磁作動型電磁ブレーキ。
【請求項7】
前記アーマチュア組立体が、
環状の磁性体を軸方向に分割してなる複数のアーマチュア要素と、
前記複数のアーマチュア要素の間に配置され、軸方向に着磁された環状の永久磁石と、
前記永久磁石が介在しない前記複数のアーマチュア要素の間に設けられた空隙または非磁性体と
を備える、請求項6に記載の無励磁作動型電磁ブレーキ。
【請求項8】
前記円筒状のインナーポールに、工具挿入用の穴が設けられている、請求項1~7のいずれか一項に記載の無励磁作動型電磁ブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無励磁作動型電磁ブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
無励磁作動型電磁ブレーキの一例が特許文献1に記載されている。同文献には、サーボモータに使用する電磁ブレーキであって、前記サーボモータのシャフト外周方向延長部に配設され、該シャフトの軸線と平行な軸線を有する偶数個のブレーキ用励磁鉄心と、該各ブレーキ用鉄心に巻回装備されたブレーキ用励磁巻線とを具備し、作動時には互いに隣接した前記各ブレーキ用励磁鉄心が互いに逆磁極に励磁されてブレーキ用励磁磁束が互いに隣接した前記ブレーキ用励磁鉄心間で閉ループを構成する多極型電磁ブレーキが開示されている。
【0003】
電磁ブレーキは、電磁コイルの励磁時に制動力が生じる励磁作動型と、電磁コイルの無励磁時に制動力が生じる無励磁作動型とに大別される。
【0004】
特許文献1に記載の電磁ブレーキにおいては、摩擦板、固定板及びアーマチュアは、制動力発生ばねによって端板に押し付けられている(制動されている。)。アーマチュアは磁性材料から成り、従ってブレーキ用励磁巻線に通電すると、制動力発生ばねの付勢力に打ち勝ってアーマチュアを端板から隔離する方向に吸引し、摩擦板と端板、固定板及びアーマチュアとの間には摩擦力が発生しなくなり制動が解除される。このように、特許文献1の記載の電磁ブレーキは無励磁作動型である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63-52660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の無励磁作動型電磁ブレーキにあっては、永久磁石が設けられていないことを前提とし、互いに隣接したブレーキ用励磁鉄心間が互いに逆磁極に励磁されるようになっている。他方、電磁石組立体のヨーク部又はアーマチュア組立体に永久磁石が組み込まれ、小型で制動トルクが大きく応答性の良い永久磁石型の無励磁作動型電磁ブレーキにおいては、特許文献1とは異なり、互いに隣接したブレーキ用励磁鉄心間が互いに逆磁極となるように励磁することはできない。
【0007】
本発明は、このような従来技術に鑑みてなされたものであり、全て同方向に励磁される複数の電磁コイルと永久磁石とを備えた無励磁作動型電磁ブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る無励磁作動型電磁ブレーキにおいて、円板状のヨークの中心に円筒状のインナーポールが設けられ、該インナーポールの径方向外側に複数の円柱状のアウターポールが周方向等間隔に設けられて静止体に固定され、前記複数のアウターポールのそれぞれに電磁コイルが巻かれて電磁石組立体が構成され、リング状の永久磁石又はリングを周方向に所定の間隔で略円弧状に分割した形状の永久磁石が、前記ヨークと前記インナーポールとの間に設けられ、前記電磁石組立体と軸方向に対向し、前記電磁石組立体に対して接離可能にアーマチュアが配置され、前記アーマチュアは、前記静止体から突出し前記複数のアウターポールに取り囲まれるように配置された回転軸に一体的に設けられ、前記アーマチュアを前記電磁石組立体から引き離す方向に付勢する付勢手段が設けられ、前記電磁コイルが励磁されない状態では、前記永久磁石により、前記アーマチュアが前記付勢手段の付勢力に抗して前記電磁石組立体に吸着されて前記回転軸の回転が制動され、前記電磁コイルが励磁されると前記永久磁石の磁束を打ち消す磁束が発生し、前記付勢手段の付勢力により前記アーマチュアが前記吸着から解放され、前記回転軸に対する制動が解除される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、全て同方向に励磁される複数の電磁コイルと永久磁石とを備えた無励磁作動型電磁ブレーキを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】第1実施形態に係る無励磁作動型電磁ブレーキの横断面図である。
図1B図1AのA-A線断面図である。
図2A】第1実施形態に係る無励磁作動型電磁ブレーキにおいて、永久磁石による磁束状態を示す横半断面図である。
図2B】第1実施形態に係る無励磁作動型電磁ブレーキにおいて、電磁コイルによる磁束状態を示す横半断面図である。
図3】ヨーク板及びアウターポールを示す斜視図である。
図4】インナーポール及びアウターポールを示す斜視図である。
図5】アーマチュア、ハブの外径を示す説明図である。
図6A】無励磁作動型電磁ブレーキの別の例を示す横断面図である。
図6B】無励磁作動型電磁ブレーキの更なる別の例を示す横断面図である。
図7A】第2実施形態に係る無励磁作動型電磁ブレーキにおいて、永久磁石による磁束状態を示す横半断面図である。
図7B】第2実施形態に係る無励磁作動型電磁ブレーキにおいて、電磁コイルによる磁束状態を示す横半断面図である。
図8A】他の無励磁作動型電磁ブレーキの横断面図である。
図8B図8AのB-B線断面図である。
図9】インナーポールを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態を説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態によって限定されるものではない。
【0012】
[第1実施形態]
図1A及び図1Bにおける符号100は、モーターハウジング等の静止体8から水平方向に突出して設けられた回転軸9に装備された無励磁作動型電磁ブレーキである。この無励磁作動型電磁ブレーキ100は、回転軸9に一体的に設けられたリング状のアーマチュア11と、静止体8に固定され、かつアーマチュア11と回転軸方向に対向して配置された電磁石組立体3とを備えている。無励磁作動型電磁ブレーキ100の作動時において、アーマチュア11は電磁石組立体3に接している。非作動時においては、アーマチュア11と電磁石組立体3との間に回転軸方向のギャップ(後述する図2Bの符号Ga)が形成される。
【0013】
静止体8がモーターハウジングである場合に、モーターの仕事をする出力軸(不図示)とは正反対の方向にモーターハウジングから突出した回転軸9に対して、無励磁作動型電磁ブレーキ100が取り付けられる。矢印Y1は回転軸9の反出力軸方向を示し、矢印Y2は回転軸9の出力軸方向を示す。
【0014】
電磁石組立体3は、静止体8の反出力軸方向を臨む面に固定された円板状のヨーク板31を備えている。このヨーク板31の中心部には、反出力軸方向に突出した略円筒状のインナーポール32が設けられ、ヨーク板31の外周縁部には、反出力軸方向に突出した6個の略円柱状のアウターポール33が周方向等間隔に設けられている。
インナーポール32の内周面において、回転軸方向の中央部と回転軸方向の出力軸側の端部との間には、径方向内側に延びる延出部32aが形成されている。また、延出部32aにおける出力軸側の面32bの外周縁部から出力軸方向に突出するようにリング状の凸部32cが形成されている。他方、ヨーク板31の反出力軸方向側の面31aには、反出力軸方向に突出するリング状の凸部31cが形成されている。ヨーク板31の凸部31cとインナーポール32の凸部32cとは回転軸方向に対向しており、両凸部の間には非磁性体材料からなるリング状のギャップ材4が設けられ、両凸部の間に回転軸方向に沿った所定のギャップが形成されている。なお、ギャップ材4は必須ではなく、上記所定のギャップが形成されていればよい。インナーポール32の面32b及び凸部32cと、ヨーク板31の面31a及び凸部31cと、ギャップ材4とに囲まれるように、リング状の永久磁石2が回転軸9と同軸に設けられている。永久磁石2は、反出力軸方向側がN極、出力軸方向側がS極となるように、回転軸方向に着磁されている。
6個のアウターポール33のそれぞれには電磁コイル33aが巻かれている。6個の電磁コイル33aは、直列に接続されていても並列に接続されていてもよい。さらには、6個の電磁コイル33aにおいて、直列に接続された複数の電磁コイル33aが並列に接続されていてもよい。
【0015】
静止体8から突出する回転軸9は、電磁石組立体3の中心を通り、インナーポール32の中心に位置する。
ハブ12は、回転軸と同軸に設けられた円筒状の本体部12bと、本体部12bの反出力軸方向側の端部全周から径方向外側に延びる円板部12aとを備えている。アーマチュア11は、軟磁性材料により成形されているとともに、円板部12aの出力軸側の面に設けられたばねプレート13により支持されている。本体部12bの内周面は回転軸9に取り付けられる。
【0016】
略円筒状のインナーポール32の内部において、ハブ12の円筒状の本体部12bは、回転軸9と嵌合締結されている。アーマチュア11は、インナーポール32の反出力軸方向側の端部32dと、アウターポール33の反出力軸方向の端部33dとに対して回転軸方向に対向し、端部32d及び33dと接離可能に設けられている。そして、ばねプレート13は、アーマチュア11を、端部32d及び33dから引き離す方向に付勢している。
【0017】
ハブ12の本体部12bには、本体部12bを回転軸9に固定するためのセットスクリューのねじ穴12b1が設けられている。
ヨーク板31の外周縁部には、アウターポール33及び電磁コイル33aと干渉しない位置に、ヨーク板31を静止体8に固定するための穴31dが設けられている。電磁石組立体3は、ヨーク板31の穴31d及びボルト(不図示)により静止体8に締結される。静止体8の回転軸9は、ヨーク板31の中心部に設けられた孔と、永久磁石2の中心部に設けられた孔と、インナーポール32の延出部32aの中心部に設けられた孔とを通り、インナーポール32の中空部の中心で回転する。
インナーポール32には、レンチなどの工具を挿入できる径方向の穴32eが設けられている。この穴32eは、径方向視において、周方向に隣り合う2つのアウターポール33の間に位置する。
ハブ12の本体部12bは、インナーポール32の中空部に挿入され、本体部12bの中空部が回転軸9と嵌合し、ねじ穴12b1及びセットスクリュー(不図示)により回転軸9に固定される。この固定は、前述したインナーポール32の穴32eに工具を挿入して行われる。
このようにして、回転軸9と、ハブ12と、円板部12aにばねプレート13により支持されているアーマチュア11とが、一体となっている。
【0018】
続いて、無励磁作動型電磁ブレーキ100の作用を説明する。図2Aに示すように、電磁コイル33aが無励磁状態の場合、永久磁石2により、アーマチュア11とヨーク板31とインナーポール32とアウターポール33とを還流する点線矢印で示した磁束φmが形成される。この磁束φmにより、アーマチュア11はばねプレート13の力に抗し、インナーポール32の端部32dとアウターポール33の端部33dとに吸着される。このように、永久磁石2の磁束φmによりアーマチュア11が電磁石組立体3に吸着されて、一定のブレーキトルクが発生する。
これに対し、図2Bに示すように、全ての電磁コイル33aに、永久磁石2による磁束φmを打ち消す方向に所定値の電流を流すと、励磁された電磁コイル33aにより実線矢印で示した磁束φcが生じる。この磁束φcは、アーマチュア11とヨーク板31とインナーポール32とアウターポール33とを、磁束φmとは逆方向に還流する。磁束φcと磁束φmとが打ち消し合うことで、磁束φmが減少し、あるいは零になる。その結果、ばねプレート13の付勢力によりアーマチュア11は電磁石組立体3への吸着から解放されるため、ブレーキトルクは零となる。なお、図2Bにおいては、永久磁石2による磁束φmの図示を省略している。
電磁コイル33aに流す電流をさらに増加させると、電磁コイル33aの磁力によってアーマチュア11は再び電磁石組立体に吸着される。
したがって、永久磁石2による磁界の強さとばねプレート13による付勢力とに対応させて励磁電流の方向及び値を調整することにより、ブレーキトルクを制御することができる。
【0019】
次に、ヨーク板31及びアウターポール33の製造例を示す。
図3に示すように、金型や複雑な加工を必要とせず、安価にヨーク板31に対してアウターポール33を形成することができる。円板状のヨーク板31において、円柱状のアウターポール33の外径より少し小さな穴31eを穴31dと干渉しないように設け、その穴31eにアウターポール33を圧入固定する。続いて磁気焼鈍処理を施すことで、高い締結力と高い磁気特性を併せ持ったヨーク板31及びアウターポール33を安価に製作することができる。
あるいは、ヨーク板31と、アウターポール33と、ヨーク板31の凸部31cとを圧粉磁心により成形しても良い。
【0020】
アーマチュア11が吸着されるアウターポール33の端部を、符号33dに示したような円柱状ではなく、図4の符号33eに示すような、反出力軸方向と同軸の半円柱状とすることことができる。この半円柱状部33eの曲線部は、当該アウターポールの中心よりも径方向内側に位置するように形成することができる。このように、アーマチュア11が吸着されるアウターポールの端部を、符号33dよりも小さい半円柱状部33eとすることで、永久磁石2による磁束φmを半円柱状部33eに集中させることができる。
また、図5に示すように、半円柱状部33eに合わせて、アーマチュア11及びハブ12の外径を小さくすることができる。図5におけるアーマチュア11及びハブ12の外径D2は、図1Aにおけるアーマチュア11及びハブ12の外径D1よりも小さい。外径を小さくすることで、アーマチュア11やハブ12の慣性モーメントも小さくなり、静止体8がモーターである場合、回転軸9を駆動する際に必要となる加速トルクが有効に使えるようになる。
【0021】
[変形例]
永久磁石2がリング状である例を示したが、これに限られない。永久磁石は、リングを周方向に所定の間隔で分割してできる複数の略円弧状部材で構成してもよい。
また、アウターポール33の個数は、6個に限られず、電磁ブレーキの外径に応じて適宜定めることができる。アウターポールの個数は3個以上であることが好ましい。
【0022】
図1Aに、リング状の永久磁石2が、インナーポール32の面32b及び凸部32cと、ヨーク板31の面31a及び凸部31cと、ギャップ材4とに囲まれるように配置されている形態を示したが、これに限られない。
例えば、図6Aに示す無励磁作動型電磁ブレーキ100aにおいて、インナーポール32の出力軸側の面32bに凸部32cを設けず、面32bを平面とする。インナーポール32の出力軸側の面32bとヨーク板31の凸部31cとの間に、ギャップ材4が配置される。
あるいは、図6Bに示す無励磁作動型電磁ブレーキ100bにおいて、ヨーク板31の面31aに凸部31cを設けないこととする。そして、ヨーク板31の面31aと、インナーポール32の面32b及び凸部32cと、ギャップ材4とに囲まれるように永久磁石2を設けることができる。
【0023】
[第2実施形態]
図7A及び図7Bに、永久磁石20がアーマチュア組立体110に組み込まれた無励磁作動型電磁ブレーキ101を示す。無励磁作動型電磁ブレーキ100とは異なり、永久磁石が電磁石組立体30には組み込まれていない。円筒状のインナーヨーク320は、円板状のヨーク板31に直接形成されている。インナーヨーク320は、圧入固定、圧粉磁心により成形することができる。
【0024】
図7Aには、無励磁状態における永久磁石20による磁束φmを示し、図7Bに、励磁状態のコイル電流による磁束φcを示している。
【0025】
アーマチュア組立体110は、環状の磁性体材料を軸方向に沿って二つに分割してなるアーマチュア要素110a及び110bと、アーマチュア要素110aとアーマチュア要素110bとの間に配置され軸方向に着磁された環状の永久磁石20とを備えている。
【0026】
アーマチュア要素110aは、軸方向に大径部110aaと小径部110abを有する環状体で構成される。アーマチュア要素110bも環状体で構成される。アーマチュア要素110bの内周面は、前記小径部110abに、非磁性体からなるバイパスギャップ材40(ギャップGb)を挟んで嵌合し、アーマチュア要素110bの外周面と前記大径部110aaの外周面とは径方向位置が合致している。アーマチュア要素110aとアーマチュア要素110bとで永久磁石20を軸方向に挟持している。
永久磁石20の内周面と前記小径部110abの外周面との間には、軸方向をアーマチュア要素110a、110b相互間に挟まれて磁気遮断部41が設けられており、この磁気遮断部41は、空隙、または銅、ステンレス、樹脂モールド等の非磁性体で構成されている。この磁気遮断部41とアーマチュア要素110bの内周面側には、前記電磁石組立体30側に向けてバイパスギャップ材40が設けられている。バイパスギャップ材40には接着剤を充填して非磁性体部を形成している。同時に、磁気遮断部41にも接着剤を充填し、磁気遮断部41及びバイパスギャップ材40の非磁性体部を形成しても良い。
アーマチュア組立体110とハブ12、ばねプレート13の構成は、第1の実施例と同じなので省略する。
また、アーマチュア組立体の構造は、特開2014-084911号公報の他、同公報の先行例など各種の構造が開示されているが、どのアーマチュア組立体の構造においても、基本的に、本願、第2の実施例に採用できる。
【0027】
さらに、静止体2がハイブリッド型ステッピングモーターの場合について述べる。ハイブリッド型ステッピングモーターのローターと電磁石組立体3とに、永久磁石のもととなる着磁前の素材を組み込んだうえで、電磁ブレーキ100をハイブリッド型ステッピングモーターに組み付ける。その後、ローター内の着磁前の素材と電磁石組立体3内の着磁前の素材とに対して同時に着磁を施すことができる。これにより、工数を削減することができる。
同様に、ハイブリッド型ステッピングモーターのローターとアーマチュア組立体110とに、永久磁石のもととなる着磁前の素材を組み込んだうえで、電磁ブレーキ101をハイブリッド型ステッピングモーターに組み付ける。その後、ローター内の着磁前の素材とアーマチュア組立体110内の着磁前の素材とに対して同時に着磁を施すことができる。
【0028】
以上のような実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られる。
・アウターポールが複数設けられた多極型電磁ブレーキにおいても、小型で制動トルクが大きく応答性の良い、永久磁石型の無励磁作動型電磁ブレーキが実現できる。永久磁石は、電磁石組立体のヨーク部又はアーマチュア組立体に組み込まれる。複数の電磁コイルは全て同方向に励磁される。
・インナーポール32に対し、径方向視において、周方向に隣接する2つの電磁コイルに挟まれるように、工具を挿入できる穴32eを設け、アーマチュアを回転軸に固定するハブの本体部をインナーポールの中空部に収納し、セットスクリューなどにより上記穴32eから工具を挿入してハブの本体部を回転軸に固定することができる。さらに、ハブの本体部がインナーポールの中空部に収納されるため、電磁ブレーキの回転軸方向の寸法増加を抑えることができる。
・電磁ブレーキの回転軸方向の寸法増加が抑えられることで永久磁石の磁路が比較的短くなるため、永久磁石そのものを小型(薄型)にすることができる。
【0029】
アウターポールを複数設けて多極化することによる効果を以下に述べる。
(1)アウターポールが単一であり、しかもそのアウターポールの寸法が多極化後の各アウターポールの寸法よりも大きい電磁ブレーキにおいては、高価な鍛造金型や絞り金型でアウターポールのカップ形状を成形する必要がある。これに対し、アウターポールが複数設けられる前述の実施形態によれば、アウターポール1個当たりの寸法が、多極化前の単一のアウターポールの寸法よりも小さくなる結果、図3を参照しながら述べたように金型が不要となり、小ロット生産が可能になる。
前述の実施形態によれば、アウターポールをミガキ棒材の切断又は端面部の切削加工により製作することが可能になる。自動機での加工が可能であり、安価に製作できる。
【0030】
(2)モーターなどの静止体における電磁ブレーキの取付面は、旋盤で加工される。そのため、取付面は円形状になる。
図8A及び図8Bに、単一の電磁コイル233aを備えた単極型の電磁ブレーキ200を示す。ねじ293により静止体に取り付けられための取付板291において、電磁コイル233aの周囲にあるアウターポール233の径方向外側にねじ穴292が配置されることになる。そのため、アウターポール233の外径よりも取付面の直径をだいぶ大きくする必要がある。
これに対し、前述の実施形態に係る電磁ブレーキは、円形状の取付面の縁により近い位置にアウターポール(ボビン)を配置することができる。また、取付用のねじ穴を、周方向に隣り合う2つのアウターポールの間のスペースに配置することが可能である。つまり、設計の自由度が高まる。
加えて、多極化後は多極化前に比べて、取付面のスペースを有効に利用できることから、電磁ブレーキの回転軸方向の寸法を小さくすることができる。
【0031】
図9に示すように、インナーポール32の出力軸側の端部に、径方向外側に突出した鍔部32fを設け、さらに同鍔部に切欠き32gを設けることができる。この切欠き部32gに隣接するようにアウターポール(ボビン)を設けることで、切欠きが無い場合に比べてアウターポールの外径を大きくすることができる。つまり、取付面が同一寸法であっても、多極化前と同程度の量の銅線をアウターポールに巻くことができ、電磁石組立体の回転軸方向の寸法(ヨーク高さ)を(一例として2~3mm)小さくすることができる。さらに、ハブの本体部をインナーポールの中空部に挿入できることとあわせて、電磁ブレーキの回転軸方向の寸法を多極化前に比べて小さくすることができる。一例として、多極化後は多極化前に比べて、回転軸方向の寸法を比率にして25%ほど小さくすることができる。
【0032】
これまでに説明した実施形態に関し、以下の付記を開示する。
[付記1]
円板状のヨークの中心に円筒状のインナーポールが設けられ、該インナーポールの径方向外側に複数の円柱状のアウターポールが周方向等間隔に設けられて静止体に固定され、
前記複数のアウターポールのそれぞれに電磁コイルが巻かれて電磁石組立体が構成され、
リング状の永久磁石又はリングを周方向に所定の間隔で略円弧状に分割した形状の永久磁石が、前記ヨークと前記インナーポールとの間に設けられ、
前記電磁石組立体と軸方向に対向し、前記電磁石組立体に対して接離可能にアーマチュアが配置され、
前記アーマチュアは、前記静止体から突出し前記複数のアウターポールに取り囲まれるように配置された回転軸に一体的に設けられ、
前記アーマチュアを前記電磁石組立体から引き離す方向に付勢する付勢手段が設けられ、
前記電磁コイルが励磁されない状態では、前記永久磁石により、前記アーマチュアが前記付勢手段の付勢力に抗して前記電磁石組立体に吸着されて前記回転軸の回転が制動され、
前記電磁コイルが励磁されると前記永久磁石の磁束を打ち消す磁束が発生し、前記付勢手段の付勢力により前記アーマチュアが前記吸着から解放され、前記回転軸に対する制動が解除される、無励磁作動型電磁ブレーキ。
[付記2]
前記インナーポールの軸方向前記ヨーク側の面に凹部が形成され、
前記ヨークの軸方向前記インナーポール側の面に凹部が形成され、
前記インナーポールにおける前記凹部と、前記ヨークにおける前記凹部とに、軸方向に着磁された前記永久磁石が配置され、
前記インナーポールにおける前記凹部の周囲にある凸部と、前記ヨークにおける前記凹部の周囲にある凸部との間に軸方向のギャップが設けられる、付記1に記載の無励磁作動型電磁ブレーキ。
[付記3]
前記インナーポールの軸方向前記ヨーク側の面と、前記ヨークの軸方向前記インナーポール側の面とのいずれか一方に凹部が形成され、
前記凹部に、軸方向に着磁された前記永久磁石が配置され、
前記インナーポールの軸方向前記ヨーク側の面と、前記ヨークの軸方向前記インナーポール側の面とのいずれか一方と、前記凹部の周囲にある凸部との間に軸方向のギャップが設けられる、付記1に記載の無励磁作動型電磁ブレーキ。
[付記4]
前記ギャップが、非磁性体からなるリング状のギャップ材により形成される、付記2または3に記載の無励磁作動型電磁ブレーキ。
[付記5]
ハブを備え、
前記アーマチュアは、該アーマチュアを前記電磁石組立体から引き離す方向に付勢する付勢手段を介して、前記ハブに組み付けられ、
前記ハブは、前記回転軸に対し、前記インナーポールの内部において締結され、前記回転軸と一体的に設けられている、付記1~4のいずれか一項に記載の無励磁作動型電磁ブレーキ。
[付記6]
円板状のヨークの中心に円筒状のインナーポールが設けられ、該インナーポールの径方向外側に複数の円柱状のアウターポールが周方向等間隔に設けられて静止体に固定され、
前記複数のアウターポールのそれぞれに電磁コイルが巻かれて電磁石組立体が構成され、
前記電磁石組立体と軸方向に対向し、前記電磁石組立体に対して接離可能にアーマチュア組立体が配置され、
前記アーマチュア組立体は、前記静止体から突出し前記複数のアウターポールに取り囲まれるように配置された回転軸に一体的に設けられ、
該前記アーマチュア組立体を前記電磁石組立体から引き離す方向に付勢する付勢手段が設けられ、
前記アーマチュア組立体内に永久磁石が配置され、
前記電磁コイルが励磁されない状態では、前記永久磁石により、前記アーマチュア組立体が前記付勢手段の反発力に抗して前記電磁石組立体に吸着されて前記回転軸の回転が制動され、
前記電磁コイルが励磁されると前記永久磁石の磁束を打ち消す磁力が発生し、前記付勢手段の付勢力により前記アーマチュア組立体が前記吸着から解放され、前記回転軸に対する制動が解除される、無励磁作動型電磁ブレーキ。
[付記7]
前記アーマチュア組立体が、
環状の磁性体を軸方向に分割してなる複数のアーマチュア要素と、
前記複数のアーマチュア要素の間に配置され、軸方向に着磁された環状の永久磁石と、
前記永久磁石が介在しない前記複数のアーマチュア要素の間に設けられた空隙または非磁性体と
を備える、付記6に記載の無励磁作動型電磁ブレーキ。
[付記8]
前記円筒状のインナーポールに、工具挿入用の穴が設けられている、付記1~7のいずれか一項に記載の無励磁作動型電磁ブレーキ。
【0033】
上記において、本発明に係る無励磁作動型電磁ブレーキの特定の実施形態について具体的に説明した。しかし、本発明は、このような実施形態に限定されず、当業者にとって明らかな変更、修正は、全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0034】
100 無励磁作動型電磁ブレーキ
11 アーマチュア
12 ハブ
12a 円板部
12b 本体部
13 ばねプレート
2 永久磁石
3 電磁石組立体
31 ヨーク板
32 インナーポール
33 アウターポール
33a 電磁コイル
4 ギャップ材
8 静止体
9 回転軸
Ga アーマチュアギャップ
Gb アーマチュアに形成したギャップ(バイパスギャップ)
φc 電磁コイルによる磁束
φm 永久磁石による磁束
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9