(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120799
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】車両装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/50 20160101AFI20230823BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20230823BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20230823BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20230823BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20230823BHJP
【FI】
B60W20/50
B60K6/48 ZHV
B60W10/06 900
B60L50/16
B60L3/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023863
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519314766
【氏名又は名称】株式会社BluE Nexus
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】園田 芳裕
(72)【発明者】
【氏名】加藤 準人
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB00
3D202BB05
3D202BB37
3D202BB64
3D202CC53
3D202DD05
3D202DD07
3D202DD10
3D202DD18
3D202DD20
3D202DD24
3D202DD26
3D202DD27
3D202DD39
3D202FF06
3D202FF13
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BB00
5H125EE08
5H125EE09
5H125EE16
(57)【要約】
【課題】 車両を発進させるときに内燃機関の始動不良の可能性を検出することができる車両装置を提供する。
【解決手段】 車両装置は、回転電機、前記回転電機に三相交流電流を供給するインバータ、及び、前記回転電機の駆動軸にクランクシャフトが接続された内燃機関を備える車両に搭載される車両装置において、前記インバータが前記三相交流電流の供給を停止しているとき、前記内燃機関の始動を制御する制御手段と、前記インバータの一相短絡の有無を判定する判定手段と、前記判定手段が前記一相短絡の有無を判定した後、前記クランクシャフトの回転数に応じて前記車両の走行可否を決定する決定手段とを有する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機、前記回転電機に三相交流電流を供給するインバータ、及び、前記回転電機の駆動軸にクランクシャフトが接続された内燃機関を備える車両に搭載される車両装置において、
前記インバータが前記三相交流電流の供給を停止しているとき、前記内燃機関の始動を制御する制御手段と、
前記インバータの一相短絡の有無を判定する判定手段と、
前記判定手段が前記一相短絡の有無を判定した後、前記クランクシャフトの回転数に応じて前記車両の走行可否を決定する決定手段とを有する、
車両装置。
【請求項2】
前記一相短絡が有ると前記判定手段が判定した場合、前記制御手段は、前記回転電機に生じる引きずりトルクに応じた前記内燃機関のトルク損失を補償するように前記内燃機関の始動制御を行う、
請求項1に記載の車両装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記回転電機の前記引きずりトルク及び回転数の相関関係を示すデータに基づき、前記回転電機の回転数から前記引きずりトルクを算出する、
請求項2に記載の車両装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記回転電機の回転数が閾値を超えたとき、前記一相短絡の有無を判定する、
請求項1乃至3の何れかに記載の車両装置。
【請求項5】
前記判定手段は、前記回転電機の回転数が閾値を超えた後、前記一相短絡が一定時間検出されない場合、前記一相短絡が無いと判定する、
請求項1乃至4の何れかに記載の車両装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、エンジンのクランクシャフトとモータのロータが互いに接続されたハイブリッド車両において、モータ系の故障状態を検出し、十分な距離を走行することができるようにフェイルセーフ動作を行う点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のハイブリッド車両では、クランクシャフトの回転に伴ってロータが回転するため、車両の発進時にインバータの一相短絡故障が発生した場合、モータの巻線には、クランクシャフトの回転方向とは逆方向に作用するトルク(引きずりトルク)が生ずるように電流が流れる。したがって、モータの引きずりトルクによってエンジンのトルクが損失することで、エンジンストールなどのエンジンの始動不良が起きるおそれがある。エンジンが始動不良である場合、ハイブリッド車両を発進させることが不可能となるため、事前にエンジンの始動不良を予知して対処することが望まれる。
【0005】
そこで本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、車両を発進させるときに内燃機関の始動不良の可能性を検出することができる車両装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両装置は、回転電機、前記回転電機に三相交流電流を供給するインバータ、及び、前記回転電機の駆動軸にクランクシャフトが接続された内燃機関を備える車両に搭載される車両装置において、前記インバータが前記三相交流電流の供給を停止しているとき、前記内燃機関の始動を制御する制御手段と、前記インバータの一相短絡の有無を判定する判定手段と、前記判定手段が前記一相短絡の有無を判定した後、前記クランクシャフトの回転数に応じて前記車両の走行可否を決定する決定手段とを有する。
【0007】
上記の構成において、前記一相短絡が有ると前記判定手段が判定した場合、前記制御手段は、前記回転電機に生じる引きずりトルクに応じた前記内燃機関のトルク損失を補償するように前記内燃機関の始動制御を行ってもよい。
【0008】
上記の構成において、前記制御手段は、前記回転電機の前記引きずりトルク及び回転数の相関関係を示すデータに基づき、前記回転電機の回転数から前記引きずりトルクを算出してもよい。
【0009】
上記の構成において、前記判定手段は、前記回転電機の回転数が閾値を超えたとき、前記一相短絡の有無を判定してもよい。
【0010】
上記の構成において、前記判定手段は、前記回転電機の回転数が閾値を超えた後、前記一相短絡が一定時間検出されない場合、前記一相短絡が無いと判定してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、車両を発進させるときに内燃機関の始動不良の可能性を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ハイブリッド車両システムの一例を示す構成図である。
【
図4】エンジンの始動処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】一相短絡故障の判定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】一相短絡が無い場合のエンジンの始動動作の一例を示すタイムチャートである。
【
図7】一相短絡が有る場合のエンジンの始動動作の一例を示すタイムチャートである。
【
図8】一相短絡が有る場合のエンジンの始動動作の他の例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(ハイブリッド車両システムの構成)
図1は、ハイブリッド車両システム9の一例を示す構成図である。ハイブリッド車両システム9は、例えばハイブリッド車両に搭載され、車両制御装置1、エンジン2、クラッチ3、モータジェネレータ(MG)4、スタータ21、ギア装置22,ソレノイドバルブ30、電動ポンプ31、トルクコンバータ(T/C)52、自動変速機(A/T)53、及び駆動輪54を有する。なお、ハイブリッド車両は車両の一例である。
【0014】
エンジン2のクランクシャフト20は、クラッチ3を介してMG4の駆動軸40に接続されている。MG4の駆動軸40は、さらにトルクコンバータ52の入力軸50に接続され、トルクコンバータの52の入力軸50は自動変速機53の入力軸51に接続されている。自動変速機53の出力軸52は、不図示のディファレンシャルギアなどを介して駆動輪54に接続されている。
【0015】
エンジン2は内燃機関の一例である。エンジン2は燃焼室内に供給されたガソリン及び空気の混合気を圧縮して点火することによりシリンダ内のピストンを往復運動させることでクランクシャフト20を回転させる。クランクシャフト20は、ギア装置22を介してスタータ21と接続されている。スタータ21はエンジン2の始動を補助するモータである。スタータ21の回転軸はギア装置22に連結されているため、スタータ21の回転に伴いクランクシャフト20が回転する。
【0016】
クラッチ3はクランクシャフト20及び駆動軸40を係合状態及び非係合状態の間で切り替える。クラッチ3は、ソレノイドバルブ30で制御される油圧に応じ、クランクシャフト20側のクラッチ板と駆動軸40側のクラッチ板を互いに係合させ、または離間させる。電動ポンプ31はソレノイドバルブ30に対して所定の油圧を与える。
【0017】
また、ハイブリッド車両システム9は、MG4を駆動するため、バッテリ41、システムメインリレー(SMR: System Main Relay)42、及びインバータ45を有する。バッテリ41は、例えばリチウムイオン電池であり、MG4に電力を供給する。SMR42は、バッテリ41及びインバータ45の間に接続されている。SMR42は、車両制御装置1にオンオフされる。SMR42がオン状態である場合、MG4に電力が供給され、SMR42がオフ状態である場合、MG4に電力が供給されない。
【0018】
インバータ45は、バッテリ41の直流電流を複数のスイッチ素子のスイッチングにより三相交流電流に変換してMG4に供給する。インバータ45は、u相、v相、及びw相の各電流を生成する。なお、スイッチ素子としては、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が挙げられるが、これに限定されない。
【0019】
MG4は回転電機の一例である。MG4は発電機及びモータの両方の機能を備える。MG4は、モータとして動作する場合、インバータ45から三相交流電流が三相巻線に流れることにより駆動される。MG4には不図示のロータ及びステータが備えられ、三相交流電流によりステータから発生した回転磁界によりロータが回転する。駆動軸40はロータの中心に設けられている。
【0020】
また、ハイブリッド車両システム9は、回転数センサ23,47及び電流センサ46を有する。回転数センサ23はエンジン2のクランクシャフト20の単位時間当たりの回転数(回転速度)を検出する。回転数センサ23は、例えばクランク角センサの検出値から回転数を検出してもよい。回転数センサ47はMG4の駆動軸40の単位時間当たりの回転数(回転速度)を検出する。回転数センサ47は、例えばリゾルバの検出値(ロータの位置)から回転数を検出してもよい。電流センサ46は、インバータ45から出力される三相交流電流の各電流値をそれぞれ検出する。回転数センサ23,47及び電流センサ46は検出値をそれぞれ車両制御装置1に出力する。
【0021】
また、ハイブリッド車両システム9は、アクセル開度センサ90、シフトポジションセンサ91、イグニッションスイッチ(IG-SW)92、マルチインフォメーションディスプレイ(ディスプレイ)93を有する。アクセル開度センサ90は、ハイブリッド車両のアクセル(不図示)の開度を検出して車両制御装置1に出力する。シフトポジションセンサ91は、ハイブリッド車両のシフトレバー(不図示)の操作位置を検出する。IG-SW92はハイブリッド車両の走行を開始する操作に用いられる。ディスプレイ93は、車両制御装置1から入力される情報信号に基づいて、ハイブリッド車両の状態に関する各種の情報を表示する。
【0022】
車両制御装置1は車両装置の一例である。車両制御装置1は、例えばエンジン2、インバータ45、及びA/T53などを制御する各種のECU(Electronic Control Unit)を含む。車両制御装置1は、アクセル開度センサ90、シフトポジションセンサ91、IG-SW92、回転数センサ23,47、及び電流センサ46の各検出値に応じてハイブリッド車両の動作を制御する。
【0023】
図2は、車両制御装置1の一例を示す構成図である。車両制御装置1は、制御部10、記憶部11、及び通信処理部12を有する。制御部10は、例えばCPU(Central Processing Unit)などの演算回路であり、記憶部11は、例えばフラッシュROM(Read Only Memory)などのメモリである。通信処理部12は、上記の各種のセンサ、エンジン2、インバータ45、及びA/T53と信号の送受信を行うための通信回路である。制御部10は記憶部11及び通信処理部12にアクセスすることができる。
【0024】
制御部10は、動作制御部100、エンジン制御部101、MG制御部102、及び故障判定部103を含む。動作制御部100、エンジン制御部101、MG制御部102、及び故障判定部103は、複数のECUに分けて実現してもよいし、単一のECUで実現してもよい。動作制御部100は、所定のシーケンスに従ってエンジン制御部101、MG制御部102、及び故障判定部103にそれぞれ動作を指示する。
【0025】
エンジン制御部101は制御手段の一例である。エンジン制御部101は、ユーザの操作に従い、各種のセンサの検出値に基づいてエンジン2を制御する。例えばエンジン制御部101は、動作制御部100からのトルク出力の指令値に応じてエンジン2の吸気量及び点火タイミングなどを制御する。
【0026】
エンジン制御部101は、IG-SW92が押下されたとき、動作制御部100からの指示に従ってエンジン2の始動を制御する。エンジン制御部101は、エンジン2の始動時、スタータ21に回転を開始させた後、クラッチ3を係合させる。これにより、クランクシャフト20及び駆動軸40が回転を開始する。エンジン2は、クランクシャフト20の回転数が上昇して自律的に回転可能になると、完爆状態となる。
【0027】
MG制御部102はMG4の駆動を制御する。MG制御部102は、インバータ45のスイッチング制御を行うことによりMG4を駆動する。エンジン制御部101がエンジン2を始動するとき、MG制御部102はMG4の駆動を停止する。このため、駆動軸40はクランクシャフト20の回転に伴って回転する。
【0028】
故障判定部103は判定手段の一例である。故障判定部103は、エンジン2の始動中、動作制御部100からの指示に従ってインバータ45の一相短絡の有無を判定する。故障判定部103は、インバータ45からMG4に出力される三相交流電流の各電流値を電流センサ46から取得する。故障判定部103は、三相交流電流の各電流値に基づき一相短絡故障を判定する。故障判定部103は一相短絡故障の判定結果を動作制御部100に通知する。
【0029】
動作制御部100は、IG-SW92の押下を検出したとき、エンジン制御部101にエンジン2の始動を指示する。また、動作制御部100は、エンジン2の始動中、駆動軸40の回転数を回転数センサ47から取得し、回転数が閾値を超えた場合、故障判定部103に一相短絡故障の判定を指示する。
【0030】
動作制御部100は、故障判定部103から一相短絡故障の発生の通知を受けた場合、一相短絡によりMG4に生ずる引きずりトルクに応じたエンジン2の出力トルクの増加をエンジン制御部101に指示する。引きずりトルクはクランクシャフト20の回転を阻害するように作用する。このため、エンジン制御部101は、引きずりトルクによるエンジン2の出力トルクの損失を補償するようにエンジン2の出力トルクを増加させる。
【0031】
例えばエンジン制御部101は、駆動軸40の回転数を回転数センサ47から取得し、記憶部11に予め記憶されたトルクマップデータ110に基づき、回転数から引きずりトルクを算出する。
【0032】
図3は、トルクマップデータ110の一例を示す図である。トルクマップデータ110は、引きずりトルク(N・m)(縦軸)及び駆動軸40の回転数(rpm)(横軸)の相関関係を示すデータの一例である。引きずりトルクは、クランクシャフト20の回転を阻害する方向に作用するため、回転数に対して負の値となる。
【0033】
引きずりトルクは所定の回転数Vに対してピーク値を示し、V以上の回転数の増加に対しては緩やかに減少する。なお、トルクマップデータ110は予め実験やシミュレーション結果から取得されて記憶部11に書き込まれる。
【0034】
再び
図2を参照すると、動作制御部100は、クランクシャフト20の回転数及び他の条件に基づきハイブリッド車両の走行可否を判定する。動作制御部100は、ハイブリッド車両の走行が可能であると判定した場合、Readyオンをディスプレイ93に表示する。
【0035】
Readyオンの表示後、ユーザがシフトレバーをドライブポジションに操作したとき、動作制御部100はユーザのアクセルペダルの操作を受け付ける。つまり、動作制御部100は、ドライブポジションを示す通知信号がシフトポジションセンサ91から入力された場合、アクセル開度センサ90から入力される検出値に応じてエンジン2の出力トルクの指令値を算出してエンジン制御部101に指示する。
【0036】
動作制御部100は決定手段の一例である。動作制御部100は、故障判定部103が一相短絡の有無を判定した後、ハイブリッド車両の走行可否を決定する。つまり、動作制御部100は、走行可否の判定タイミングを一相短絡の有無の判定後まで遅延させる。このため、動作制御部100は、ハイブリッド車両を発進させるとき、一相短絡によるエンジン2の始動不良の可能性を検出することができる。
【0037】
(エンジン始動処理)
図4は、エンジン2の始動処理の一例を示すフローチャートである。本処理は、ハイブリッド車両が停止状態である場合に実行される。また、本処理において、MG制御部102は、システムメインリレー42をオフにすることにより、インバータ45からMG4への三相交流電流の供給を停止させている。
【0038】
まず動作制御部100は、IG-SW92がオンされたか否かを判定する(ステップSt0)。このとき、動作制御部100は、IG-SW92のオン状態またはオフ状態を示す通知信号をIG-SW92から受信する。IG-SW92がオフ状態である場合(ステップSt0のNo)、再びステップSt0の処理が実行される。
【0039】
IG-SW92がオン状態である場合(ステップSt0のYes)、エンジン制御部101は、インバータ45の三相交流電流の供給が停止中か否かを判定する(ステップSt1)。これにより、エンジン制御部101は、MG4が動作していないことを確認する。三相交流電流の供給が停止中ではない場合(ステップSt1のNo)、再びステップSt1の処理が実行される。
【0040】
エンジン制御部101は、三相交流電流の供給が停止中である場合(ステップSt1のYes)、スタータ21を起動する(ステップSt2)。これにより、スタータ21の回転がギア装置22を介してクランクシャフト20に伝達されるため、クランクシャフト20が回転し始める。このとき、エンジン制御部101は、所定のエンジン2の始動パタンに従ってスタータ21の回転数を制御する。
【0041】
次にエンジン制御部101はエンジン2の始動制御を開始する(ステップSt3)。エンジン制御部101は、動作制御部100からのトルク出力の指令値に応じてエンジン2の吸気量及び点火タイミングなどを制御する。動作制御部100は、所定の始動パタンに従ってトルク出力の指令値を算出する。
【0042】
次にエンジン制御部101はソレノイドバルブ30を制御することによりクラッチ3を係合させる(ステップSt4)。これにより、クランクシャフト20と駆動軸40が一体的に回転することができる。故障判定部103は、エンジン2の始動制御が開始した後、以下に述べるように一相短絡の有無を検出する。
【0043】
故障判定部103は、駆動軸40の回転数センサ47から回転数Nmを取得する(ステップSt5)。次に故障判定部103は、回転数Nmと閾値kを比較する(ステップSt6)。回転数Nmが閾値k以下である場合(ステップSt6のNo)、再びステップSt6の処理が実行される。
【0044】
故障判定部103は、回転数Nmが閾値kを超えた場合(ステップSt6のYes)、一相短絡の有無を判定する(ステップSt7)。ここで一相短絡故障の判定処理の詳細は後述する。
【0045】
このように、MG4の回転数Nmが閾値kを超えたとき、一相短絡の有無を判定する。このため、回転数Nmが閾値kを超えることより三相交流電流の各電流値が十分に増加したとき、故障判定部103は各電流値から一相短絡を高精度に検出することができる。
【0046】
次にエンジン制御部101は、故障判定部103の判定結果から一相短絡が発生したか否かを判定する(ステップSt8)。エンジン制御部101は、一相短絡が発生している場合(ステップSt8のYes)、回転数センサ47から駆動軸40の回転数Nmを取得する(ステップSt9)。
【0047】
次にエンジン制御部101は、トルクマップデータ110に基づいて回転数NmからMG4の引きずりトルクを算出する(ステップSt10)。このとき、エンジン制御部101は、例えば回転数Nmに対応する引きずりトルクをトルクマップデータ110から検索する。このように、エンジン制御部101はトルクマップデータ110に基づいて引きずりトルクを算出するため、複雑な演算処理を抑えて容易に引きずりトルクを算出することができる。
【0048】
次にエンジン制御部101は、引きずりトルクに応じてエンジン2の出力トルクを増加する(ステップSt11)。このとき、エンジン制御部101は、引きずりトルクに応じたエンジン2のトルク損失を補償するようにエンジン2の始動制御を行う。例えばエンジン制御部101は、引きずりトルクを打ち消すように、引きずりトルクと実質的に同じトルクを出力トルクの指令値に加算し、加算後の指令値に基づきエンジン2の出力トルクを制御する。
【0049】
これにより、引きずりトルクによるエンジン2の出力トルクの低下を抑えてクランクシャフト20の回転数を増加させ、エンジン2の始動を正常に完了することが可能となる。また、エンジン制御部101は、一相短絡が発生していない場合(ステップSt8のNo)、上記のステップSt9~11の各処理を行わない。
【0050】
次に動作制御部100はクランクシャフト20の回転数センサ23から回転数Neを取得する(ステップSt12)。動作制御部100はクランクシャフト20の回転数Neと閾値THを比較する(ステップSt13)。回転数Neが閾値TH以下である場合(ステップSt13のNo)、再びステップSt12の処理が行われる。
【0051】
回転数Neが閾値THを超える場合(ステップSt13のYes)、動作制御部100は、不図示の他の複数のセンサからハイブリッド車両の走行に関する各種のパラメータを取得する(ステップSt14)。次に動作制御部100は、回転数Ne以外のエンジン2の始動が完了するための各種の条件(始動条件)の成否を各種パラメータに基づき判定する(ステップSt15)。始動条件が不成立である場合(ステップSt15のNo)、再びステップSt12の処理が行われる。
【0052】
動作制御部100は、始動条件が成立する場合(ステップSt15のYes)、Readyオンの処理を実行する(ステップSt16)。このとき、例えば動作制御部100は、ディスプレイ93にReadyオンを表示する。
【0053】
Readyオンの後、動作制御部100は、シフトポジションセンサ91がドライブポジションを示す場合にアクセル開度センサ90の検出値に応じてエンジン2の出力トルクをエンジン制御部101に指示する。このため、ユーザはハイブリッド車両を発進させることができる。これに対し、回転数Neが閾値TH未満である場合、または始動条件が設立しない場合、Readyオフの状態が維持される。Readyオフの状態において、動作制御部100は、シフトポジションセンサ91がドライブポジションを示している場合でも、ハイブリッド車両を走行させないようにアクセル開度センサ90の検出値を受け付けない。
【0054】
このように、エンジン制御部101は、インバータ45が三相交流電流の供給を停止しているとき、エンジン2の始動を制御し、故障判定部103は、インバータ45の一相短絡の有無を判定する。動作制御部100は、故障判定部103が一相短絡の有無を判定した後、クランクシャフト20の回転数Neに応じてハイブリッド車両の走行可否を決定する。
【0055】
したがって、車両制御装置1は、走行可否の決定に先立ってインバータ45の一相短絡の有無を判定するため、ハイブリッド車両の発進時、事前にエンジン2の始動不良を検出することができる。また、車両制御装置1は、インバータ45の一相短絡が発生した場合、MG4の引きずりトルクに応じてエンジン2の出力トルクを増加させることにより、エンジン2の始動を完了することができる。
【0056】
図5は、一相短絡故障の判定処理の一例を示すフローチャートである。本処理は、上記のステップSt7において行われる。
【0057】
まず故障判定部103は、判定継続時間を計時するため、タイマをスタートさせる(ステップSt21)。タイマは、ハードウェアまたはソフトウエアの機能により実現され、一定間隔のパルス信号に従ってカウントアップまたはカウントダウンする。
【0058】
次に故障判定部103は、電流センサ46から三相交流電流の各電流値を取得する(ステップSt22)。次に故障判定部103は、各相(u,v,w)のピーク電流を検出する(ステップSt23)。ピーク電流は、例えば所定回数にわたり取得した相ごとの電流値の最大値として検出することができる。
【0059】
次に故障判定部103は、各相のピーク電流に基づき一相の短絡電流を検出する(ステップSt24)。例えば、ある1相のピーク電流が他の2相のピーク電流より高い場合、一相の短絡電流を検出する。故障判定部103は、一相の短絡電流を検出した場合(ステップSt24のYes)、一相短絡が有ると判定する(ステップSt25)。
【0060】
また、故障判定部103は、一相の短絡電流を検出していない場合(ステップSt24のNo)、タイマが満了したか否かを判定する(ステップSt26)。タイマが満了していない場合(ステップSt26のNo)、再びステップSt22以降の各処理が行われる。また、タイマが満了している場合(ステップSt26のYes)、故障判定部103は一相短絡が無いと判定する(ステップSt27)。つまり、故障判定部103は、タイマが満了するまでの一定時間、一相短絡が検出されない状態が継続した場合、一相短絡は無いと判定する。
【0061】
このように、故障判定部103は、MG4の回転数Neが閾値kを超えた後、一相短絡が一定時間検出されない場合、一相短絡が無いと判定する。このため、故障判定部103は、高精度に一相短絡が無いことを判定することができる。一方、故障判定部103は、一相短絡が検出された場合、タイマの満了前であっても故障判定処理を終了する。なお、タイマの満了時間は、例えば故障判定部103の判定所要時間及び判定結果の通信処理時間などを考慮して決定される。このように故障判定処理は実行される。
【0062】
(エンジン始動動作)
図6は、一相短絡が無い場合のエンジン2の始動動作の一例を示すタイムチャートである。
図6には、ハイブリッド車両の走行可否状態、エンジン2の回転数(Ne)、MG4の回転数(Nm)、一相短絡判定の可否、判定経過時間、一相短絡判定状態、エンジン2の出力トルクのそれぞれの時刻変化の例が示されている。
【0063】
走行可否状態はReadyオン及びReadyオフの何れかを示す。動作制御部100は、クランクシャフト20の回転数NeがNsを超え、さらに他のエンジン2の始動条件が成立した場合、走行可否状態をReadyオフからReadyオンに変更する。
【0064】
エンジン2の回転数Neは、クランクシャフト20の回転数センサ47から取得される。MG4の回転数Nmは、駆動軸40の回転数センサ23から取得される。
【0065】
一相短絡判定可否は一相短絡故障の判定処理の可否を示す。故障判定部103は、MG4の回転数Nmが閾値kを超えた場合、三相交流電流の各電流値が十分に増加したことにより一相短絡故障の判定処理が可能と判断する。
【0066】
判定経過時間は、一相短絡故障の判定処理におけるタイマの計時時間を示す。判定経過時間は0からTmまで増加する。ここでTmはタイマの満了時間である。
【0067】
一相短絡判定状態は、一相短絡判定が未実行(未判定)、実行中(判定中)、及び完了(判定完了)の何れの状態であるかを示す。判定完了の場合、さらに判定結果として、一相短絡の有無が示される。
【0068】
エンジン出力トルクは、エンジン2からクランクシャフト20に出力されるトルクを示す。
【0069】
エンジン制御部101は、時刻T0にエンジン2の始動制御を開始する。エンジン2の始動制御が開始すると、エンジン2の回転数Ne及び出力トルクは時刻経過とともに増加する。本例では、エンジン2の始動直後にクラッチ3が係合制御されるため、MG4の回転数Nmも、エンジン2の回転数Neと同様に増加する。
【0070】
MG4の回転数Nmは時刻T1において閾値kを超えると、故障判定部103は、一相短絡判定を可能と判定し(判定可能)、タイマをスタートさせて判定を開始する(判定中)。判定経過時間は、時刻T3においてタイマ満了によりTmとなる。このとき、故障判定部103は、一相短絡が有ると判定して判定を完了する(判定完了)。なお、MG制御部102は、一相短絡が有ると判定された場合、一相短絡によるMG4の加熱を抑制するため、インバータ45の三相のスイッチ素子をオン制御してもよい。
【0071】
また、動作制御部100は、一相短絡故障の判定処理の完了後、時刻T4においてハイブリッド車両の走行可否を決定する。ここで時刻T4は、一相短絡故障の判定処理の所要時間に、例えばエンジン制御部101と故障判定部103の通信処理の所要時間などのマージンを見込んで設定されている。エンジン2の回転数Neは、一相短絡故障の判定処理の完了前の時刻T2において閾値THを超えている。また、他のエンジン2の始動条件は満たされているとする。このため、動作制御部100は、走行可否状態をReadyオフからReadyオンに変更する。
【0072】
図7は、一相短絡が有る場合のエンジン2の始動動作の一例を示すタイムチャートである。
図7において、
図6と共通する内容の説明は省略する。
【0073】
エンジン2の出力トルクは、エンジン2の始動制御中の時刻T1aにおいて、一相短絡により生じたMG4の引きずりトルクによって減少し、エンジン2及びMG4の各回転数Ne,Nmの増加は停止する。また、故障判定部103は、その後の時刻T1bにおいて一相短絡が有ると判定する(判定完了)。
【0074】
このため、エンジン制御部101は、引きずりトルクによる出力トルクの損失を補償するように出力トルクを増加させる(「増加」参照)。このため、エンジン2の回転数Neは、増加を再開し、時刻T2において閾値THを超える。このため、動作制御部100は、時刻T4において走行可否状態をReadyオンに変更することができる。なお、MG4の回転数Nmも同様に増加を再開する。
【0075】
点線TDは、エンジン2の出力トルクを増加させない場合の出力トルクを示す。また、点線RDは、エンジン2の出力トルクを増加させない場合の回転数Neを示す。この場合、エンジン2の回転数Neは、走行可否状態をReadyオンとするための閾値THに到達しない。したがって、エンジン2は完爆することなく、走行可否状態はReadyオフのままとなる。
【0076】
本例では、クランクシャフト20及び駆動軸40の間のクラッチ3が、エンジン2の始動制御開始時刻からほとんど遅れずに係合状態になる場合を仮定したが、これに限定されない。
【0077】
図8は、一相短絡が有る場合のエンジン2の始動動作の他の例を示すタイムチャートである。
図8において、
図7と共通する内容の説明は省略する。
【0078】
エンジン制御部101は、時刻T0においてエンジン2の始動制御を開始する。その後、エンジン制御部101は、時刻T0より大きく遅れた時刻T0aにおいてクラッチ3を係合状態に制御する。このため、MG4の回転数Nmは、時刻T0まで0であるが、クラッチ3が係合される時刻T0aにおいて増加を開始する。その後、MG4の回転数Nmはエンジン2の回転数Neに実質的に一致する。
【0079】
時刻T1において、MG4の回転数Nmは閾値kを超えるため、上記と同様に一相短絡故障の判定処理が行われる。
【0080】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 車両制御装置(車両装置)
2 エンジン(内燃機関)
4 モータジェネレータ(回転電機)
20 クランクシャフト
23,47 回転数センサ
40 駆動軸
100 動作制御部(決定手段)
101 エンジン制御部(制御手段)
102 MG制御部
103 故障判定部(判定手段)
110 トルクマップデータ(データ)