(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120801
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】トランス
(51)【国際特許分類】
H01F 30/10 20060101AFI20230823BHJP
H05K 1/02 20060101ALI20230823BHJP
H05K 1/16 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
H01F30/10 D
H01F30/10 S
H05K1/02 Q
H05K1/16 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023865
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 貴規
【テーマコード(参考)】
4E351
5E338
【Fターム(参考)】
4E351BB15
4E351GG07
5E338AA03
5E338BB05
5E338CC08
5E338CD24
5E338EE02
(57)【要約】
【課題】複数の平面コイルが積層されたトランスに関し、寄生容量を低減する。
【解決手段】本明細書が開示するトランスは、第1コイルから第8コイルまでの8個の平面コイルがこの順で積層されたトランスであり、夫々のコイルの一端をA端、他端をB端と称したとき、次の接続関係を有する。第1コイルと第8コイルのA端が1次側の第1入力端に接続される。第1コイルのB端と第8コイルのB端と第4コイルのA端と第5コイルのA端が接続される。第4コイルと第5コイルのB端が1次側の第2入力端に接続される。第2コイルと第6コイルのA端が2次側の第1出力端に接続される。第2コイルのB端と第3コイルのA端が接続される。第6コイルのB端と第7コイルのA端が接続される。第3コイルと第7コイルのB端が2次側の第2出力端に接続される。隣り合う第2コイルと第3コイルが同電位となるため、両者の間に寄生容量が発生しない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1コイル(11)から第8コイル(18)までの8個の平面コイルがこの順で積層されたトランス(10、10a)であり、夫々のコイルの一端をA端、他端をB端と称したとき、
第1コイルと第8コイルのA端が1次側の第1入力端に接続されており、
第1コイルのB端と第8コイルのB端と第4コイル(14)のA端と第5コイル(15)のA端が接続されており、
第4コイルと第5コイルのB端が1次側の第2入力端に接続されており、
第2コイル(12)と第6コイル(16)のA端が2次側の第1出力端に接続されており、
第2コイルのB端と、第3コイル(13)または第7コイル(17)の一方のA端が接続されており、
第6コイルのB端と、第3コイルまたは第7コイルの他方のA端が接続されており、
第3コイルと第7コイルのB端が2次側の第2出力端に接続されている、
トランス。
【請求項2】
第2コイルと第6コイルのB端と第3コイルと第7コイルのA端が接続されている、請求項1に記載のトランス(10a)。
【請求項3】
第1コイル(21)から第6コイル(26)までの6個の平面コイルがこの順で積層されたトランス(20)であり、夫々のコイルの一端をA端、他端をB端と称したとき、
第1コイルと第6コイルのA端が1次側の第1入力端に接続されており、
第1コイルのB端と第6コイルのB端と第3コイル(23)のA端と第4コイル(24)のA端が接続されており、
第3コイルと第4コイルのB端が1次側の第2入力端に接続されており、
第2コイル(22)のA端が2次側の第1出力端に接続されており、
第2コイルのB端と第5コイル(25)のA端が接続されており、
第5コイルのB端が2次側の第2出力端に接続されている、
トランス。
【請求項4】
各平面コイルは、
基板の上に形成された巻線パターン(11)と、
巻線パターンを囲むように基板の上に形成された放熱パターン(34)であって巻線パターンから絶縁された放熱パターンと、
を備えている、請求項1から3のいずれか1項に記載のトランス。
【請求項5】
積層された複数の放熱パターンに接する熱連結部材(35)を備えている、請求項4に記載のトランス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術はトランスに関する。特に、複数の平面コイルを積層したトランスに関する。
【背景技術】
【0002】
平面内に巻線を巻回した複数の平面コイルを積層したトランスが知られている(特許文献1-3、非特許文献1)。平面コイルを積層したトランスでは、1次コイル(または2次コイル側)の起磁力が大きいほど巻線の交流抵抗が大きくなることが知られている(非特許文献1)。
【0003】
そこで、非特許文献1では、交流抵抗を抑えるべく、次の構造が提案されている。1次コイルと2次コイルの夫々を、直列に接続した複数の平面コイルで実現する。1次側の平面コイルと2次側の平面コイルを交互に積層する。複数の1次コイルと複数の2次コイルを1個ずつ交互に積層する。1次コイルで生じた起磁力は、隣り合う2次コイルで消費される。それゆえ、1次コイル全体の起磁力が小さくなる。1次コイルと2次コイルを積層することで起磁力は相殺され、トランス全体における起磁力が小さくなり、交流抵抗が抑えられる。非特許文献1によると、上記の構造は、漏れインダクタンスの低減効果も得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-096725号公報
【特許文献2】特開2013-168401号公報
【特許文献3】特開2009-105180号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Riccardo Pittini, Zhe Zhang, Michael A.E. Andersen : “High Current Planar Transformer for Very High Efficiency Isolated Boost DC-DC Converters”, Proceedings of IEEE The 2014 International Power Electronics Conference, pp. 3905-3912, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複数の平面コイルを積層すると、隣り合う平面コイルの電位差により寄生容量が発生する。寄生容量はトランスの性能に影響する。特に、高周波電流が流れるトランスでは、寄生容量はトランスで生じる電力損失を増大させる。また、寄生容量はトランスの駆動周波数を低下させる。本明細書は、交流抵抗を低減するとともに寄生容量も低減するトランスを実現する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示するトランス(10、10a)の一態様は、第1コイル(11)から第8コイル(18)までの8個の平面コイルがこの順で積層されたトランスに具現化される。説明の便宜上、夫々のコイルの一端をA端、他端をB端と称する。8個の平面コイルの電気的な接続関係は次の通りである。第1コイルと第8コイルのA端が1次側の第1入力端に接続される。第1コイルと第8コイルのB端と第4コイル(14)と第5コイル(15)のA端が一点で接続される。第4コイルと第5コイルのB端が1次側の第2入力端に接続される。第2コイル(12)と第6コイル(16)のA端が2次側の第1出力端に接続される。第2コイルのB端と、第3コイル(13)または第7コイル(17)の一方のA端が接続される。第6コイルのB端と、第3コイルまたは第7コイルの他方のA端が接続される。第3コイルと第7コイルのB端が2次側の第2出力端に接続される。なお、変形例として、第2コイルと第6コイルのB端と第3コイルと第7コイルのA端が接続されていてもよい。
【0008】
第1、第4、第5、第8コイルが1次コイルに相当する。複数の1次コイルは、電気的には1個の等価コイルで表すことができる。第2、第3、第6、第7コイルが2次コイルに相当する。複数の2次コイルは、電気的には1個の等価コイルで表すことができる。上記の8層のトランスは、電気的には1個の1次コイルと1個の2次コイルで構成されるトランスと等価である。
【0009】
一方、物理的には1次コイルも2次コイルもそれぞれ4個の平面コイルで構成され、それらが積層される。1次コイルと2次コイルが交互に積層されるので、交流抵抗が低減される。また、第4コイルと第5コイルは電気的には並列に接続される。従って、第4コイルと第5コイルは等電位となり、第4コイルの隣りに第5コイルが積層されても両者の間に寄生容量は発生しない。上記の接続関係は、寄生容量を低減する。
【0010】
本明細書が開示するトランスの別の態様は、第1コイル(21)から第6コイル(26)までの6個の平面コイルがこの順で積層されたトランス(20)に具現化される。この場合も、説明の便宜上、夫々のコイルの一端をA端、他端をB端と称する。6個の平面コイルの電気的な接続関係は次の通りである。第1コイルと第6コイルのA端が1次側の第1入力端に接続される。第1コイルと第6コイルのB端と第3コイル(23)と第4コイル(24)のA端が一点で接続される。第3コイルと第4コイルのB端が1次側の第2入力端に接続される。第2コイル(22)のA端が2次側の第1出力端に接続される。第2コイルのB端と第5コイル(25)のA端が接続される。第5コイルのB端が2次側の第2出力端に接続される。
【0011】
上記した6層のトランスでは、第3コイルと第4コイルが隣同士で積層されるがそれらの電気的には並列に接続されているため、第3コイルと第4コイルに寄生容量が発生しない。
【0012】
本明細書は、積層された平面コイルの放熱性を向上させる技術も提供する。各平面コイルは、基板の上に形成された巻線パターン(11)と、放熱パターン(34)を備える。放熱パターンは、巻線パターンを囲むように基板の上に形成される。また、放熱パターンは、巻線パターンからは絶縁されている。巻線パターンを囲む放熱パターンが巻線パターンの熱を拡散させる。積層された複数の放熱パターンに接する熱連結部材(35)を備えているとなお良い。熱連結部材を介して複数の放熱パターンが熱的に連結されるので、巻線パターンの熱が積層方向に拡散する。巻線パターンが効果的に冷却される。
【0013】
本明細書が開示するトランスは、特に、多層PCB(Print Circuit Board)に実現されることが好適である。夫々の平面コイルは、多層PCB基板上の導電パターンで具現化される。本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図4】
図3のIV-IV線でカットしたトランスの断面図である。
【
図5】
図3のV-V線でカットしたトランスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施例)
図1-
図5を参照して第1実施例のトランス10を説明する。
図1は、トランス10の回路図である。
図1は、トランス10の一つの適用例であり、トランス10とDC/AC変換回路50と整流回路60によりDC/DCコンバータ2を構成した例である。トランス10の1次側(入力端19a、19b)にDC/AC変換回路50が接続されており、トランス10の2次側(出力端19c、19d)に整流回路60が接続されている。整流回路60はブリッジタイプの整流回路である。
【0016】
DC/DCコンバータ2は、入力される直流電力の電圧を変換するデバイスである。
図1は、DC/DCコンバータ2の入力端50a、50bに直流電源98が接続されており、DC/DCコンバータ2の出力端60a、60bに負荷デバイス99が接続されている例を示している。
図1では、負荷デバイス99を抵抗の記号で表している。負荷デバイス99は、例えばDCモータである。
【0017】
DC/AC変換回路50は、
図1に示すように、4個のスイッチング素子51a-51dで構成されており、その入力端50a、50bに直流電源98が接続される。DC/AC変換回路50の出力端は、トランス10の入力端19a、19bに接続される。DC/AC変換回路50は、4個のスイッチング素子51a-51dを適宜にオンオフすることで、直流電源98が出力する直流電力を交流電力に変換してトランス10へ供給する。
【0018】
整流回路60は、
図1に示すように、4個のスイッチング素子61a-61dと、リアクトル62と、平滑コンデンサ63で構成されている。整流回路60は、トランス10から供給される交流電力を直流電力に変換して出力端60a、60bから出力する。出力端60a、60bには、直流電力で動作する負荷デバイス99が接続される。
【0019】
図1のDC/AC変換回路50、整流回路60はよく知られているので、詳しい説明は省略する。
【0020】
トランス10を説明する。トランス10は、8個のコイル11-18で構成されており、1次側の入力端19a、19bに入力された交流電力の電圧を変換して2次側の出力端19c、19dへ出力する。コイル11とコイル18は並列に接続されており、コイル14とコイル15も並列に接続されている。コイル11、18の並列接続と、コイル14、15の並列接続が直列に接続されている。コイル11、14、15、18がトランス10の1次側のコイルに相当する。
【0021】
コイル12、13、16、17がトランス10の2次側のコイルに相当する。コイル12とコイル16が並列に接続されており、コイル13とコイル17が並列に接続されている。コイル12、16の並列接続と、コイル13、17の並列接続が直列に接続されている。
【0022】
トランス10と電気的に等価な回路を
図2に示す。
図1のトランス10は、
図2のトランス100と電気的に等価である。トランス100は、1個の1次コイル101と1個の2次コイル102で構成される最も単純なトランスである。
図1のコイル11、14、15、18の回路全体が
図2の1次コイル101と電気的に等価であり、
図1のコイル12、13、16、17の回路全体が
図2の2次コイル102と電気的に等価である。ただし、
図2のように1次側と2次側をそれぞれ複数のコイルで構成することで特別の効果が得られる。
【0023】
8個のコイル11-18の接続関係を詳しく説明する。
図1の下側に、トランス10の回路の拡大図を示す。説明の便宜上、8個のコイル11-18のそれぞれを、第1コイル11、第2コイル12、第3コイル13、第4コイル14、第5コイル15、第6コイル16、第7コイル17、第8コイル18と称する。それぞれのコイルには2個の端があるが、説明の便宜上、コイルの一方の端をA端と称し、他方の端をB端と称する。「A端」/「B端」との呼称を付したのは、単に、「一方の端」/「他方の端」と呼ぶよりも簡単だからである。第1コイル11のA端を符号11aで表し、B端を符号11bで表す。他のコイルについても同様である。
【0024】
8個のコイル11-18の接続関係は次の通りである。第1コイル11と第8コイル18のA端11a、18aが1次側の第1入力端19aに接続されている。第1コイル11のB端11bと第8コイル18のB端18bと第4コイル14のA端14aと第5コイル15のA端15aが接続されている。第4コイル14と第5コイル15のB端14b、15bが1次側の第2入力端19bに接続されている。先に述べたように、第1コイル11と第8コイル18は並列に接続され、第4コイル14と第5コイル15も並列に接続される。コイル11、18の並列接続とコイル14、15の並列接続が直列に接続される。コイル11、14、15、18がトランス10の1次側を構成する。
【0025】
第2コイル12と第6コイル16のA端12a、16aが2次側の第1出力端19cに接続されている。第2コイル12のB端12bと、第3コイル13のA端13aが接続されている。第6コイル16のB端16bと、第7コイル17のA端17aが接続されている。第3コイル13と第7コイル17のB端13b、17bが2次側の第2出力端19dに接続されている。第2コイル12と第3コイル13は直列に接続され、第6コイル16と第7コイル17も直列に接続される。第2コイル12と第3コイル13の直列接続と、第6コイル16と第7コイル17の直列接続が、並列に接続される。コイル12、13、16、17がトランス10の2次側を構成する。
【0026】
8個のコイル11-18はいずれも平面タイプのコイル(平面コイル30)である。
図3に、トランス10の平面図を示す。トランス10はコア39を有するが、
図3では、第1コイル11の構造が見えるように、コア39は仮想線で描いてある。
【0027】
平面コイル30は絶縁性の基板31の上に銅箔でらせん状に形成された巻線パターンで実現される。理解を助けるために、
図3では、巻線パターンを太線で描いてある。
図3の巻線パターンが第1コイル11に相当する。巻線パターンは基板31の一方の面に形成されており、第1コイル11のA端11aは、らせん状の巻線パターンの最外側の端であり、巻線パターンと同一の面に形成されている。B端11bは、らせん状の巻線パターンの最内側に位置する。B端11bは、基板31の裏面を通じて巻線パターンの外側へ導かれている。
【0028】
基板31には第1コイル11の巻線パターンを囲むように放熱パターン34が形成されている。理解を助けるために、
図3では、放熱パターン34をグレーのハッチングで表してある。放熱パターン34も銅箔で形成されているが、第1コイル11に相当するらせん状の巻線パターンからは絶縁されている。
【0029】
基板31の中心(巻線パターンの中心)には貫通孔32が設けられており、巻線パターンの外側にも基板31に貫通孔33が設けられている。
図3のIV-IV線に沿った断面を
図4に示す。
図4では、中心線CLから右半分の図示は省略してある。
図4では、いくつかの平面コイル30では部品の符号を省略してある。
【0030】
積層された複数の基板31をコア39が貫通している。貫通孔32を貫通しているコアと、貫通孔33を貫通しているコア39は、複数の基板31の積層方向の両側で連結されている。
【0031】
基板31、第1コイル11に相当する巻線パターン、放熱パターン34を合わせて平面コイル30と称する。
【0032】
8個のコイル11-18は、全て、
図3の平面コイル30と同じ構造を有している。
図4に示すように、8個の平面コイル30は積層されている。なお、
図4では、らせん状の巻線パターン(すなわちコイル11-18)を単純な矩形で簡略化して描いてある。複数の平面コイル30の積層体は、多層PCB(Print Circuit Board)に実現されることが好適である。夫々の平面コイル30は、多層PCB基板上の導電パターンで具現化される。
【0033】
トランス10は、8個の平面コイル30の積層体である。8個の平面コイル30は全て同じ構造を有しているが、
図1の回路図との対応関係と積層体での各コイルの配置を対応付けるため、積層された8個の平面コイル30を、端から順に、8個のコイル11-18と対応付ける。すなわち、
図1に示した8個のコイル11-18は、この順で積層されている。
【0034】
図1の接続関係と
図3、
図4の構造を有するトランス10の利点を説明する。一般に、トランスを複数の平面コイルの積層体で実現すると、トランスを小型化することができる。しかし、その一方で、隣り合う平面コイルの間に寄生容量が発生する。寄生容量はトランスの性能を低下させる。特に、トランスに流れる交流の周波数が高いほど、寄生容量に起因する損失が大きくなる。トランスに供給される交流の周波数が、寄生容量とコイルのインダクタンスで規定されるカットオフ周波数を超えると、トランスとして機能しなくなる。
【0035】
実施例のトランス10では、
図4に示すように、第4コイル14と第5コイル15が隣接している。第4コイル14と第5コイル15は並列に接続されているので電位が等しい。それゆえ、隣り合う第4コイル14と第5コイル15では寄生容量が生じない。第1実施例のトランス10は、平面コイルの積層体で具現化されるトランスにおいて寄生容量を抑えることができる。
【0036】
トランス10のその他の利点について説明する。一般に、1次コイル(または2次コイル)の起磁力が大きいほど平面コイルの積層体における近接効果の影響が大きくなり、巻線交流抵抗が大きくなることが知られている。トランス10は、コイルを並列化することで、コイル1個のときと同じインダクタンスを得るのにコイル1個当たりの起磁力を小さくできる。また、1次側のコイルと2次側のコイルが交互に積層されている。1次側の平面コイル30で生じた起磁力は、隣接する2次側の平面コイル30で相殺される。それゆえ、巻線交流抵抗を抑えることができる。
【0037】
さらに、直列に接続されている第2コイル12と第3コイル13が隣り合うように積層されている。第2コイル12と第3コイル13をつなぐ導通経路が短くなるため、トランス10の内部抵抗を小さくすることができる。直列に接続される第6コイル16と第7コイル17も積層体において隣り合うように配置される。第6コイル16と第7コイル17をつなぐ導通経路が短くなり、トランス10の内部抵抗をさらに小さくすることができる。
【0038】
それぞれの平面コイル30の基板31に形成された放熱パターン34の効果について説明する。放熱パターン34は銅箔で作られており、放熱性に優れている。第1コイル11は交流が流れると発熱する。第1コイル11を構成する巻線パターンの熱は、巻線パターンを囲んでいる放熱パターン34を介して外部に拡散される。放熱パターン34は第1コイル11の熱を効果的に拡散させる利点を有する。
【0039】
積層されている複数の平面コイル30のそれぞれが、放熱パターン34を有している。トランス10は、積層されている複数の平面コイル30を貫通する金属ピン35を備えている。
図3のV-V線に沿った断面を
図5に示す。
図5は、コイル11(12-18)の中心CLと、金属ピン35を通る平面でカットしたトランス10の断面を示している。
図5でも、中心線CLの右側は図示を省略した。金属ピン35は、積層されている全ての放熱パターン34に接している。金属ピン35を介して複数の放熱パターン34が熱的に連結される。金属ピン35により、複数の巻線パターン(コイル11-18)の熱が積層方向に拡散する。複数の放熱パターン34と、それらに接する金属ピン35により、コイル11-18が効果的に冷却される。
【0040】
金属ピン35は、それぞれの平面コイル30において、基板31と放熱パターン34を貫通している。金属ピン35は、複数の放熱パターン34と熱的に結合する熱連結部材に相当する。
【0041】
(第2実施例)
図6に、第2実施例のトランス10aを含むDC/DCコンバータ2aの回路図を示す。トランス10aは、第2コイル12のB端12b、第6コイル16のB端16b、第3コイル13のA端13a、第7コイル17のA端17aが接続されている点が第1実施例のトランス10と相違する。それ以外のトランス10aの接続構造は、トランス10の接続構造と同じである。トランス10aの物理的な構造は
図3、
図4で表される。
【0042】
第2コイル12のB端12b、第6コイル16のB端16b、第3コイル13のA端13a、第7コイル17のA端17aの接続点は、トランス10aの2次側のセンタータップ19eに相当する。
【0043】
第2実施例のトランス10aは、2次側にセンタータップ19eを有する。従って、トランス10aの2次側には、3極の入力端を有する整流回路70が接続される。整流回路70は、2個のスイッチング素子71a、71b、リアクトル72、平滑コンデンサ73、74で構成される。整流回路70もよく知られた一般的な回路である。
図6のトランス10aも第1実施例のトランス10と同じ利点を有する。
【0044】
(第3実施例)
図7、8を参照して第3実施例のトランス20を説明する。
図7は、トランス20を含むDC/DCコンバータ2bの回路図である。DC/DCコンバータ2bも、第1実施例のDC/DCコンバータ2と同様に、入力される直流電力の電圧を変えて出力するデバイスである。トランス20の1次側にはDC/AC変換回路50が接続され、2次側には整流回路70が接続される。
【0045】
図8は、トランス20の縦断面図である。
図8でも、中心線CLの右側は図示を省略した。トランス20は、6個の平面コイル30が積層された構造を有する。複数の平面コイル30のそれぞれは、第1実施例の平面コイル30と同じ構造である。説明の便宜上、6個の平面コイル30を第1コイル21~第6コイル26と称する。6個の平面コイル30(第1コイル21~第6コイル26)は、この順に積層されている(
図8参照)。
【0046】
図7を参照しつつ、6個のコイル21~26の接続関係を説明する。第1コイル21と第6コイル26のA端21a、26aが1次側の第1入力端29aに接続されている。第1コイル21のB端21bと第6コイル26のB端26bと第3コイル23のA端23aと第4コイル24のA端24aが接続されている。第3コイル23と第4コイル24のB端23b、24bが1次側の第2入力端29bに接続されている。第2コイル22のA端22aが2次側の第1出力端29cに接続されている。第2コイル22のB端22bと第5コイル25のA端25aが接続されている。第2コイル22のB端22bと第5コイル25のA端25aの接続点は、2次側のセンタータップ29eに相当する。第5コイル25のB端25bが2次側の第2出力端29dに接続されている。
【0047】
第3実施例のトランス20は、第1実施例のトランス10において、並列に接続された第2コイル12と第6コイル16を一つのコイル(第2コイル22)で置き換え、並列に接続された第3コイル13と第7コイル17を別の一つのコイル(第5コイル25)で置き換えたものである。すなわち、トランス20は、トランス10において二次側の構造を単純化したものである。
【0048】
図8に示すように、第1コイル21から第6コイル26は、この順に積層されている。第3コイル23と第4コイル24は隣り合う。一方、
図7に示すように、第3コイル23と第4コイル24は並列に接続されているため、同電位となる。それゆえ、隣り合う第3コイル23と第4コイル24の間には寄生容量が発生しない。第3実施例のトランス20も、寄生容量を低減するという効果が得られる。
【0049】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。
図1において、第3コイル13と第7コイル17が入れ替わっていてもよい。すなわち、第2コイル12のB端12bと、第3コイル13または第7コイル17の一方のA端が接続されており、第6コイル16のB端16bと、第3コイル13または第7コイル17の他方のA端が接続されていればよい。
【0050】
トランスの記号における黒丸は、コイルの極性を表している。
図1では、第1入力端19aが1次側の正極に相当し、第2入力端19bが1次側の負極に相当する。第1出力端19cが2次側の正極に相当し、第2出力端19dが2次側の負極に相当する。
【0051】
また、
図1では、1次側のコイル11、14、15、18のA端が正極であり、2次側のコイル12、13、16、17のA端が正極であった。1次側のコイル11、14、15、18のB端を正極にしてもよい。あるいは、2次側のコイル12、13、16、17のB端を正極にしてもよい。
【0052】
金属ピン35に代表される熱連結部材は、熱伝導率の高い材料で作られていればよい。熱連結部材は、銅やアルミニウムの熱伝導率と同等の熱伝導率を有する材料で作られていればよい。
【0053】
放熱パターン34は、回路のグランドに接続されていてもよい。導電性のパターンで形成されており巻線パターンを囲んでいる放熱パターンは、巻線パターン(コイル)が発する電磁波を遮断する磁気シールドとして機能する。
【0054】
実施例のDC/DCコンバータ2(2a、2b)は、次のように表現できる。DC/DCコンバータ2(2a、2b)は、上記した特徴を有するトランスと、トランスの1次側(入力端)に接続されるDC/AC回路と、トランスの2次側(出力端)に接続される整流回路を備える。
【0055】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0056】
2、2a、2b:DC/DCコンバータ 10、10a、20:トランス 11-18、21-26:コイル 19a、19b、29a、29b:入力端 19c、19d、29c、29d:出力端 19e、29e:センタータップ 30:平面コイル 31:基板 32、33:貫通孔 34:放熱パターン 35:金属ピン 39:コア 50:DC/AC変換回路 50a、50b:入力端 51a-51d、61a-61d、71a-71d:スイッチング素子 60、70:整流回路 60a、60b:出力端 62、72:リアクトル 63、73、74:コンデンサ 98:直流電源 99:負荷デバイス 100:トランス 101:1次コイル 102:2次コイル