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特開2023-120828イオン伝導性フィラーおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120828
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】イオン伝導性フィラーおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/02 20060101AFI20230823BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20230823BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20230823BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20230823BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20230823BHJP
   C08K 3/16 20060101ALI20230823BHJP
   C08G 65/22 20060101ALI20230823BHJP
   C08G 81/00 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
C08L1/02
C08K9/06
C08L71/02
C08K3/24
C08K5/098
C08K3/16
C08G65/22
C08G81/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023909
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【弁理士】
【氏名又は名称】津村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】豊田 慶
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】浜辺 理史
(72)【発明者】
【氏名】今西 正義
【テーマコード(参考)】
4J002
4J005
4J031
【Fターム(参考)】
4J002AB011
4J002CH022
4J002DD086
4J002DE196
4J002EG026
4J002FB091
4J002FB261
4J002FD116
4J002GQ02
4J005AA09
4J005BB02
4J005BC00
4J031AA03
4J031AA53
4J031AB06
4J031AC13
4J031AD01
4J031AF25
(57)【要約】      (修正有)
【課題】帯電防止機能を有するイオン伝導性フィラーおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】イオン伝導体と、前記イオン伝導体により修飾された天然物由来の有機フィラーと、を含み、前記イオン伝導体は、金属カチオンと、前記金属カチオンに配位したポリエーテル鎖と、を有し、前記ポリエーテル鎖は、下記式(A):

(式中、Xは、ケイ素原子を含有する有機基であり、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭化水素基であり、RまたはRとXとは結合していてもよい。)で表される繰り返し単位を有し、少なくとも1つの前記Xに含まれる、少なくとも1つの前記ケイ素原子と、前記有機フィラーに含まれる炭素原子とが、Si-O-C結合を形成している、イオン伝導性フィラー。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導体と、
前記イオン伝導体により修飾された天然物由来の有機フィラーと、を含み、
前記イオン伝導体は、
金属カチオンと、
前記金属カチオンに配位したポリエーテル鎖と、を有し、
前記ポリエーテル鎖は、下記式(A):
【化1】
(式中、Xは、ケイ素原子を含有する有機基であり、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭化水素基であり、RまたはRとXとは結合していてもよい。)
で表される繰り返し単位を有し、
少なくとも1つの前記Xに含まれる、少なくとも1つの前記ケイ素原子と、前記有機フィラーに含まれる炭素原子とが、Si-O-C結合を形成している、イオン伝導性フィラー。
【請求項2】
前記Xは、下記式(a1):
【化2】
(式中、YおよびYは、それぞれ独立して単結合または二価の有機基であり、Ra1およびRb1は、それぞれ独立して一価の有機基である。)
で表される、請求項1に記載のイオン伝導性フィラー。
【請求項3】
前記式(A)において、R、RおよびRは水素であり、
前記式(a1)において、Yは下記式:
-CH-O-
で表される、請求項2に記載のイオン伝導性フィラー。
【請求項4】
前記有機フィラーは、セルロースを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のイオン伝導性フィラー。
【請求項5】
前記金属カチオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンよりなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のイオン伝導性フィラー。
【請求項6】
エポキシ基および末端に加水分解性シリル基を有するシラン化合物を、金属塩の存在下、前記エポキシ基の開環により重合させて、前記金属塩由来の金属カチオンと、前記金属カチオンに配位したポリエーテル鎖と、を有するイオン伝導性の重合物を得る工程と、
前記重合物を天然物由来の有機フィラーに接触させる工程と、を備え、
前記ポリエーテル鎖は、下記式(A’):
【化3】
(式中、X1’は、末端に加水分解性シリル基を有する有機基であり、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭化水素基であり、RまたはRとX1’とは結合していてもよい。)
で表され、
前記接触させる工程において、少なくとも1つの前記X1’に含まれる、少なくとも1つのケイ素原子と、前記有機フィラーに含まれる炭素原子との間で、Si-O-C結合を形成させる、イオン伝導性フィラーの製造方法。
【請求項7】
前記金属塩は、過塩素酸リチウム、トリフルオロ酢酸ナトリウムおよびヨウ化カリウムよりなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項6に記載のイオン伝導性フィラーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性フィラーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気候の温暖化や海洋汚染など、地球規模で環境問題が深刻化しており、脱炭素社会の実現は、社会全体の大きな課題である。そのため、化石燃料の燃焼によるエネルギー生成や、化石燃料を原料としたプラスチック製品の使用が見直されている。なかでも、プラスチックを生物由来の材料で製造することは、化石燃料の使用量を減らす事に直接つながり、注目されている。さらに、生物由来の材料が自然界で分解可能であれば、海洋汚染が抑制されることも期待される。加えて、現生生物由来の製品を燃焼処分しても、生物生存圏における炭素量は変化しないため、二酸化炭素などの温暖化ガスの発生抑制も期待される。
【0003】
このような背景のもと、植物由来のセルロースファイバーをプラスチックに混合させて、化石燃料の使用を減らす技術が提案されている。例えば、特許文献1は、水中で熱可塑性樹脂およびセルロースを加熱しながら分散させて製造される、樹脂組成物を開示している。特許文献2は、カルボキシメチル化されたセルロースファイバー、アミノ基を有する高分子および酸変性されたポリオレフィン樹脂との複合材料を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-043976号公報
【特許文献2】国際公開第2014/087767号
【特許文献3】特開2004-058562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セルロースファイバーおよび合成樹脂は、いずれも絶縁体である、そのため、これらの混合物からなる物品の表面は帯電しやすく、静電気が発生し得る。静電気は、日常生活や社会生活、工業製品の量産現場等において、異物の吸着や不快感、電子機器の故障、絶縁破壊などの様々な問題を引き起こし得る。
【0006】
従来、帯電防止性を付与するために、合成樹脂に導電性粒子を添加する方法が提案されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、導電性粒子は、一般に光の吸光度が大きいため、得られる物品の色味や風合いが損なわれ易い。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みて発明者らの鋭意努力の結果なされたものであり、帯電防止機能を有するイオン伝導性フィラーおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様1は、
イオン伝導体と、
前記イオン伝導体により修飾された天然物由来の有機フィラーと、を含み、
前記イオン伝導体は、
金属カチオンと、
前記金属カチオンに配位したポリエーテル鎖と、を有し、
前記ポリエーテル鎖は、下記式(A):
【化1】
(式中、Xは、ケイ素原子を含有する有機基であり、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭化水素基であり、RまたはRとXとは結合していてもよい。)
で表される繰り返し単位を有し、
少なくとも1つの前記Xに含まれる、少なくとも1つの前記ケイ素原子と、前記有機フィラーに含まれる炭素原子とが、Si-O-C結合を形成している、イオン伝導性フィラーである。
【0009】
本発明の態様2は、
前記Xが、下記式(a1):
【化2】
(式中、YおよびYは、それぞれ独立して単結合または二価の有機基であり、Ra1およびRb1は、それぞれ独立して一価の有機基である。)
で表される、態様1に記載のイオン伝導性フィラーである。
【0010】
本発明の態様3は、
前記式(A)において、R、RおよびRは水素であり、
前記式(a1)において、Yは下記式:
-CH-O-
で表される、態様2に記載のイオン伝導性フィラーである。
【0011】
前記有機フィラーは、セルロースを含む、態様1から3のいずれかに記載のイオン伝導性フィラーである。
【0012】
本発明の態様5は、
前記金属カチオンが、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンよりなる群から選択される少なくとも1つを含む、態様1から4のいずれかに記載のイオン伝導性フィラーである。
【0013】
本発明の態様6は、
エポキシ基および末端に加水分解性シリル基を有するシラン化合物を、金属塩の存在下、前記エポキシ基の開環により重合させて、前記金属塩由来の金属カチオンと、前記金属カチオンに配位したポリエーテル鎖と、を有するイオン伝導性の重合物を得る工程と、
前記重合物を天然物由来の有機フィラーに接触させる工程と、を備え、
前記ポリエーテル鎖は、下記式(A’):
【化3】
(式中、X1’は、末端に加水分解性シリル基を有する有機基であり、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭化水素基であり、RまたはRとX1’とは結合していてもよい。)
で表され、
前記接触させる工程において、少なくとも1つの前記X1’に含まれる、少なくとも1つのケイ素原子と、前記有機フィラーに含まれる炭素原子との間で、Si-O-C結合を形成させる、イオン伝導性フィラーの製造方法である。
【0014】
本発明の態様7は、
前記金属塩が、過塩素酸リチウム、トリフルオロ酢酸ナトリウムおよびヨウ化カリウムよりなる群から選択される少なくとも1つを含む、態様6に記載のイオン伝導性フィラーの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、帯電防止機能を有するイオン伝導性フィラーおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係るイオン伝導性フィラーの製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2】実施例1で得られた反応物および3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランの、全反射FTIRによる分析結果を示すグラフである。
図3】実施例1で得られた反応物および過塩素酸リチウムの、Li-NMRによる分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態は、天然物由来の有機フィラーそのものに帯電防止性を付与することを着想してなされたものである。これにより、得られる物品の色味や風合い、有機フィラーによる効果を損なうことなく、帯電防止性が発揮される。さらに、他の帯電防止剤の使用を必ずしも要しないため、生産性が向上し、コストが抑制され得る。
【0018】
すなわち、本実施形態に係るイオン伝導性フィラーは、イオン伝導体と、イオン伝導体により修飾された天然物由来の有機フィラーと、を含む。イオン伝導体は、金属カチオンと、金属カチオンに配位したポリエーテル鎖と、を有する。
【0019】
ポリエーテル鎖は、下記式(A):
【化4】
(式中、Xは、ケイ素原子を含有する有機基であり、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭化水素基であり、RまたはRとXとは結合していてもよい。)
で表される繰り返し単位を有する。
【0020】
<有機フィラー>
有機フィラーは、天然物由来の有機物を意味する。天然物は、植物性であってよく、動物性であってよい。植物性の天然物は、セルロースを含んでいてよい。換言すれば、有機フィラーは、セルロースを含んでいてよい。セルロースを含む有機フィラーは、表面構造が安定しており、また、表面修飾しやすい。植物性の天然物は、繊維状のセルロースであってよい。有機フィラーは、繊維状のセルロース(セルロース繊維)由来であってよい。
【0021】
セルロースは、典型的には、グルコース(C10)がβ-1,4結合した重合体である。セルロースは、グルコースの重合体とともに、ヘミセルロースやリグニンを含むリグノセルロースであってよい。ヘミセルロースは、グルコースとともに、キシロース等を構成要素として含む重合体である。
【0022】
セルロース繊維は、天然セルロース繊維、再生繊維およびセルロースナノファイバーに大別される。天然セルロース繊維としては、例えば、綿(コットン)、麻、亜麻(リネン)、ジュート、竹、パルプが挙げられる。再生繊維は、植物素材(典型的には、木材)から天然セルロースを溶剤で溶かし、これを紡糸することにより得られる。再生繊維としては、例えば、レーヨン、ポリノジックレーヨン、キュプラ、テンセル、リヨセルが挙げられる。セルロースナノファイバーは、植物素材(典型的には、木材)を、必要に応じて化学的に処理した後、機械的に解繊することにより得られる。
【0023】
有機フィラーは、例えば、セルロース繊維を裁断あるいは粉砕するなどして得られる。有機フィラーは、粒子状であってよく、繊維状であってよい。
【0024】
粒子状とは、アスペクト比が1以上2未満である形状を言う。繊維状とは、アスペクト比が2を超える形状を言う。アスペクト比は、長径と短径との長さの比である。繊維状フィラーのアスペクト比は、平均繊維径を平均繊維長で除した値(平均繊維長/平均繊維径)である。繊維状有機フィラーのアスペクト比は、例えば、10以上、20以上、25以上、100以上であってよい。繊維状有機フィラーのアスペクト比は、例えば、2,000以下、1,000以下、500以下であってよい。
【0025】
粒子状有機フィラーの平均粒子径は、特に限定されない。平均粒子径とは、直径の平均値である。粒子状有機フィラーの直径は、以下のようにして算出できる。まず、複数の有機フィラーの電子顕微鏡の画像から、任意に10個のフィラーを選択し、これらの面積と同じ面積を有する円(相当円)の直径をそれぞれ算出する。この算出された直径を、それぞれのフィラーの直径とみなす。10個のフィラーの直径の平均値を、粒子状有機フィラーの平均粒子径とする。
【0026】
粒子状有機フィラーの平均粒子径は、例えば、50nm以上500μm以下であってよい。平均粒子径が50nm以上であると、凝集が抑制されて、その表面が修飾され易い。平均粒子径が500μm以下であると、比表面積が大きいため、帯電防止機能が発揮され易い。平均粒子径は、100nm以上であってよく、1μm以上であってよく、10μm以上であってよい。平均粒子径は、100μm以下であってよく、80μm以下であってよい。
【0027】
繊維状有機フィラーの平均繊維長は、特に限定されない。繊維状有機フィラーの平均繊維長は、以下のようにして算出できる。まず、複数の有機フィラーの電子顕微鏡の画像から、任意に10個のフィラーを選択し、その繊維長をそれぞれ測定する。10個のフィラーの繊維長の平均値を、繊維状有機フィラーの平均繊維長とする。
【0028】
繊維状有機フィラーの平均繊維長は、同様に、例えば、50nm以上500μm以下であってよい。平均繊維長は、100nm以上であってよく、1μm以上であってよい。平均繊維長は、100μm以下であってよく、80μm以下であってよい。
【0029】
繊維状有機フィラーの平均繊維径は、アスペクト比が1を超える限り、特に限定されない。平均繊維径は、1nm以上であってよく、10μm以上であってよい。平均繊維径は、1,000μm以下であってよく、100μm以下であってよい。
【0030】
<イオン伝導体>
イオン伝導体は有機フィラーの表面を修飾しており、有機フィラーにイオン伝導性を付与する。イオン伝導体は、金属カチオンと、金属カチオンに配位したポリエーテル鎖と、を有する。
【0031】
ポリエーテル鎖は、下記式(A):
【化5】
(式中、Xは、ケイ素原子を含有する有機基であり、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭化水素基であり、RまたはRとXとは結合していてもよい。)
で表される繰り返し単位を有する。
【0032】
ポリエーテル鎖は、エーテル酸素上に大きな双極子モーメントを有している。そのため、ポリエーテル鎖は、隣接する複数の酸素原子によって、カチオンに配位することができる。さらにカチオンは、高分子のセグメント運動に伴って、相互作用するセグメントを連続的に変えながら移動することができる。これらの作用により、イオン伝導体は、高いイオン伝導性を示す。ポリエーテル鎖は、クラウンエーテル構造を有していてよく、クラウンエーテル構造を有していなくてもよい。
【0033】
は、加水分解性シリル基の残基であって、-Si-O-構造を有する。加水分解性シリル基の加水分解反応によって、有機フィラーとイオン伝導体とが化学的に結合している。具体的には、イオン伝導性フィラーにおいて、少なくとも1つのXに含まれる、少なくとも1つのケイ素原子と、有機フィラーに含まれる炭素原子とが、Si-O-C結合を形成している。この状態を、有機フィラーがイオン伝導体により修飾されているという。
【0034】
、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭化水素基である。R、RおよびRにおける炭化水素基は、例えば、炭素数1~8のアルキル基である。これにより、原料モノマーの重合反応が進行し易くなって、イオン伝導体が得られ易い。炭化水素基の炭素数は、1~5であってよく、1または2であってよい。R、RおよびRはいずれも、水素であってよい。
【0035】
式(A)において、Xは、末端に-Si-O-構造を有する一価の有機基であってよい。このようなXは、例えば、下記式(a1):
【化6】
(式中、YおよびYは、それぞれ独立して単結合または二価の有機基であり、Ra1およびRb1は、それぞれ独立して一価の有機基である。)
で表される。
【0036】
およびYは、それぞれ独立して単結合または二価の有機基である。反応制御の観点から、YおよびYはいずれも重合性基を有さないことが望ましい。重合性基としては、例えば、エポキシ基、グリシジル基、アルケニル基、アルキニル基、メタクリル基、アクリル基、イソシアネート基、アリル基が挙げられる。YおよびYは、それぞれ独立して、炭素数1~8のアルキレン基であってよい。YおよびYは、それぞれ独立して、エーテル結合およびエステル結合の少なくとも一方を含んでいてよい。YおよびYの合計の炭素数が1~8であってよい。
【0037】
a1およびRb1は、それぞれ独立して、一価の有機基である。反応制御の観点から、Ra1およびRb1は、上記の重合性基を有さないことが望ましい。Ra1およびRb1は、それぞれ独立して、炭素数1~8のアルキル基であってよい。Ra1は、炭素数1~5のアルキル基を有するアルコキシ基であってよい。Rb1は、炭素数1~5のアルキル基であってよい。
【0038】
立体障害が小さくなる点で、Ra1およびRb1は、それぞれ独立して、炭素数1または2のアルキル基であってよい。Ra1は、炭素数1または2のアルキル基を有するアルコキシ基であってよい。有機フィラーとの反応性の観点から、Ra1は、炭素数1~5のアルコキシ基であってよく、Rb1は、炭素数1~5のアルキル基であってよい。加水分解が起こり易く、反応が制御され易い点で、Ra1は、炭素数1または2のアルキル基を有するアルコキシ基であってよい。Rb1は、炭素数1または2のアルキル基であってよい。
【0039】
炭素数1~8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基およびその異性体基が挙げられる。
炭素数1~5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、およびこれらの異性体基が挙げられる。
【0040】
炭素数1~5のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基およびこれらの異性体等が挙げられる。
【0041】
イオン伝導体の原料が有するエポキシ基の反応性が高まり易い点で、Yは、(-CH-O-)であってよい。
この場合、ポリエーテル鎖は、例えば、下記式(A1):
【化7】
(式中、R、RおよびRは、式(A)と同意義であり、Y、Ra1およびRb1は、式(a1)と同意義である。)
で表される。
【0042】
式(A1)において、R、RおよびRは、いずれも水素であってよく、Y2は、n-プロピレン基であってよい。この場合、Ra1およびRb1はいずれもメチル基であってよい。Ra1はメトキシ基であってよい。
【0043】
は、さらにシロキサン結合を有していてよい。言い換えれば、Xは、さらに-Si-O-Si-Z構造を有していてよい。例えば、上記式(a1)において、Rb1は、-Si-Zで表される基であってよい。シロキサン結合により、イオン伝導体の柔軟性が向上し、有機フィラーは広く強固に修飾され得る。
【0044】
-Si-Zは、他の加水分解性シリル基の残基である。他の加水分解性シリル基の残基(-Si-Z)は、例えば、後述する第2のシラン化合物に由来し、第2のシラン化合物から、アルコキシ基を1つ除いたものに相当する。-Si-O-Si-Z構造は、例えば、上記式(a1)の-O-Rb1および第2のシラン化合物のアルコキシシリル基の加水分解および脱水縮合反応(すなわち、ゾルゲル反応)によって形成される。
【0045】
(金属カチオン)
ポリエーテル鎖は、金属カチオンに配位している。金属カチオンが、ポリエーテル鎖の相互作用するセグメントを連続的に変えながら移動することにより、イオン伝導性が発揮される。
【0046】
金属カチオンは特に限定されない。イオン化エネルギーが小さい点で、アルカリ金属および第2族元素のカチオンが挙げられる。金属カチオンとして、具体的には、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンおよびストロンチウムイオンが挙げられる。
【0047】
[イオン伝導性フィラー]
イオン伝導性フィラーは、イオン伝導体と、イオン伝導体により修飾された天然物由来の有機フィラーと、を含む。
【0048】
有機フィラーがセルロースである場合、イオン伝導性フィラーは、模式的に以下のように示される。下記模式図では、イオン伝導体のケイ素原子を含有する有機基(-Si-O-)とセルロースの炭素原子とが、化学的な結合(Si-O-C)を形成している。
【化8】
(式中、R、RおよびRは、式(A)と同意義であり、Y、Y、Ra1およびRb1は、式(a1)と同意義である。)
【0049】
イオン伝導体と有機フィラーとの化学的な結合(Si-O-C)は、複数の箇所にあってよい。これにより、イオン伝導性はさらに向上する。
【0050】
イオン伝導性フィラーは、例えばフィルムなどの樹脂製品の添加剤として使用される。イオン伝導性フィラーの原料の一つである有機フィラーは、天然物由来である。有機フィラーは、典型的には透明から白色である。イオン伝導性フィラーの使用によって、樹脂製品を製造するために必要な石油由来のプラスチック量を減らすことができる。さらに、イオン伝導性フィラーによって、樹脂製品の色味や風合いを損なうことなく、帯電防止機能が付与される。
【0051】
[イオン伝導性フィラーの製造方法]
イオン伝導性フィラーは、エポキシ基および末端に加水分解性シリル基を有するシラン化合物を、金属塩の存在下、エポキシ基の開環により重合させて、金属塩由来の金属カチオンと、金属カチオンに配位したポリエーテル鎖と、を有するイオン伝導性の重合物を得る工程と、この重合物を天然物由来の有機フィラーに接触させる工程と、を備える方法により製造される。
【0052】
イオン伝導性の重合物におけるポリエーテル鎖は、下記式(A’):
【化9】
(式中、X1’は、末端に加水分解性シリル基を有する有機基であり、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭化水素基であり、RまたはRとX1’とは結合していてもよい。)
で表される。
【0053】
、RおよびRは、上記の式(A)と同意義であり、例えば、炭素数1~8のアルキル基である。炭素数が9以上であると、立体障害が大きくなって、重合反応が進行し難い場合がある。重合反応の際に立体障害になり難い点で、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素、あるいは、炭素数1~5の炭化水素基であってよい。R、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1または2の炭化水素基(メチル基あるいはエチル基)であってよく、水素であってよい。
【0054】
1’は、末端に加水分解性シリル基を有する有機基である。加水分解性シリル基は特に限定されない。加水分解性シリル基として、代表的には、トリアルコキシシリル基、ジアルコキシアルキルシリル基、モノアルコキシジアルキルシリル基が挙げられる。加水分解性シリル基において、アルコキシ基が有するアルキル基の炭素数は、1~5であってよく、1または2であってよい。
【0055】
接触させる工程において、少なくとも1つのXに含まれる、少なくとも1つのケイ素原子と、有機フィラーに含まれる炭素原子との間で、Si-O-C結合が形成される。
図1は、本実施形態に係るイオン伝導性フィラーの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0056】
(1)イオン伝導性の重合物を得る工程
エポキシ基および末端に加水分解性シリル基を有するシラン化合物(以下、第一のシラン化合物と称する。)を、金属塩の存在下、エポキシ基の開環により重合させる。これにより、金属塩由来の金属カチオンと、金属カチオンに配位したポリエーテル鎖と、を有するイオン伝導性の重合物が得られる。
【0057】
第一のシラン化合物は、エポキシ基を有し、末端に加水分解性シリル基を有する。加水分解性シリル基は特に限定されない。加水分解性シリル基の代表例は、上記の通りである。加水分解性シリル基において、アルコキシ基が有するアルキル基の炭素数は、1~5であってよく、1または2であってよい。
【0058】
イオン伝導性の重合物におけるポリエーテル鎖は、第一のシラン化合物由来の加水分解性シリル基を有する。ポリエーテル鎖は金属カチオンに配位し、加水分解性シリル基は有機フィラーとの結合に関与する。
【0059】
イオン伝導性の重合物(以下、単に重合物と称する場合がある。)の数平均分子量は特に限定されない。
【0060】
イオン伝導性の重合物は、例えば、第一のシラン化合物を含む液体に、金属塩を溶解させて、重合液を調製する工程と、この重合液を加熱して、第一のシラン化合物を重合させる工程と、を備える方法により得られる。以下、この方法によりイオン伝導性の重合物を得る場合を例に挙げて説明する。ただし、イオン伝導性の重合物を得る工程はこれに限定されない。
【0061】
(1-1)重合液の調製(S1-1)
第一のシラン化合物を含む液体に金属塩を添加して、溶解させる。金属塩の溶解は、熱攪拌により行ってよい。これにより重合液が得られる。
【0062】
第一のシラン化合物の濃度は特に限定されない。
【0063】
金属塩の濃度は特に限定されない。イオン伝導性の観点から、金属塩の濃度は、例えば、重合液の1質量%以上であってよく、3質量%以上であってよい。金属塩の濃度は、例えば、20質量%以下であってよく、10質量%以下であってよい。
【0064】
加熱温度は特に限定されない。溶解性の観点から、加熱温度は、60℃以上であってよく、70℃以上であってよく、80℃以上であってよい。重合液調製時における第一のシラン化合物の重合を抑制する観点から、加熱温度は、100℃以下であってよく、90℃以下であってよく、85℃以下であってよい。撹拌速度および加熱時間は、溶解の程度などを考慮して、適宜設定される。一態様において、加熱温度は、60℃以上100℃以下である。加熱温度が上記の範囲であると、金属塩を1時間以内に溶解させることができる。
【0065】
<第一のシラン化合物>
第一のシラン化合物は、下記式(S1):
【化10】
(式中、X1’は、末端に加水分解性シリル基を有する有機基であり、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭化水素基であり、RまたはRとXとは結合していてもよい。)
で表される。
【0066】
、RおよびRは、上記の式(A’)と同意義であり、例えば、炭素数1~8のアルキル基である。炭素数が9以上であると、立体障害が大きくなって、重合反応が進行し難い場合がある。重合反応の際に立体障害になり難い点で、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素、あるいは、炭素数1~5の炭化水素基であってよい。R、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1または2の炭化水素基(メチル基あるいはエチル基)であってよく、水素であってよい。
【0067】
1’は、上記の式(A’)と同意義であり、末端に加水分解性シリル基を有する有機基である。加水分解性シリル基の代表例は、上記の通りである。
【0068】
1’は、一価の有機基であってよい。一価の有機基であるX1’は、例えば、下記式(s1):
【化11】
で表される。
【0069】
およびYは、上記の式(a1)と同意義であり、例えば、それぞれ独立して、炭素数1~8のアルキレン基であってよい。YおよびYは、それぞれ独立して、エーテル結合およびエステル結合の少なくとも一方を含んでいてよい。YおよびYの合計の炭素数は1~8であってよい。
【0070】
a1およびRb1は、上記の式(a1)と同意義であり、例えば、それぞれ独立して、炭素数1~8のアルキル基であってよい。Ra1およびRb1は、それぞれ独立して、炭素数1~5のアルキル基であってよく、炭素数1または2のアルキル基であってよい。Ra1は、炭素数1~5のアルキル基を有するアルコキシ基であってよく、炭素数1または2のアルキル基を有するアルコキシ基であってよい。
【0071】
c1は、炭素数1~5のアルキル基である。炭素数が6以上であると、立体障害が大きくなって、第一のシラン化合物同士が接近し難くなる。その結果、重合反応が進行し難くなる場合がある。加水分解反応が起こり易く、反応が制御され易い点で、Rc1は、炭素数1または2のアルキル基であってよい。
【0072】
式(s1)においてYが(-CH-O-)で表される場合、第一のシラン化合物は、例えば、下記式(S1-1):
【化12】
(式中、R、RおよびRは、式(A)と同意義であり、Y、Ra1、Rb1およびRc1は、式(s1)と同意義である。)
で表される、グリシドキシ基含有アルコキシシランである。
【0073】
式(S1-1)において、R、RおよびRはいずれも、水素であってよい。
【0074】
式(S1)において、RとX1’とが結合する場合、第一のシラン化合物は、例えば、下記式(S1-2):
【化13】
(式中、Yは、単結合または二価の有機基であり、Ra1、Rb1およびRc1は、式(s1)と同意義である。)
で表される、エポキシシクロヘキシル基含有アルコキシシランである。
【0075】
は、単結合または二価の有機基である。Yは、Yと同意義であってよい。Yは上記の重合性基を有さないことが望ましい。Yは、炭素数1~8のアルキレン基であってよい。Yは、エーテル結合およびエステル結合の少なくとも一方を含んでいてよい。Yは単結合であってよい。
【0076】
第一のシラン化合物として、具体的には、3―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3―グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3―グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3―グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3―グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、3―グリシドキシオクチルメチルジメトキシシラン、3―グリシドキシオクチルトリエトキシシラン、3―グリシドキシオクチルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)トリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルジエトキシシランが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0077】
3つのアルコキシ基を有するケイ素原子(Ra1およびRb1がいずれもアルコキシ基である)を含む第一のシラン化合物と、2つのアルコキシ基を有するケイ素原子(Ra1およびRb1のいずれか一方がアルコキシ基である)を含む第一のシラン化合物と、を併用してもよい。これにより、アルコキシシリル基同士のゾルゲル反応が抑制されて、イオン伝導体のゲル化による収縮が抑制される。よって、有機フィラーの表面が、イオン伝導体によって均一に修飾され易くなる。
【0078】
<金属塩>
金属塩によって、第一のシラン化合物が有するエポキシ基の開環が誘起されて、重合が促進される。金属塩は、重合物の金属カチオン源でもある。
【0079】
金属塩は特に限定されない。イオン化エネルギーが小さい点で、金属塩は、アルカリ金属塩および第2族元素の塩の少なくとも一方を含んでいてよい。
【0080】
金属塩を構成するカチオンとして、具体的には、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンおよびストロンチウムイオンよりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。電子吸引性が高く、エポキシ基の開環重合を誘起し易い点で、カチオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンよりなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。
【0081】
金属塩を構成するアニオンは、特に限定されない。アニオンとして、具体的には、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン(AsF )およびヘキサフルオロリン酸イオン(PF )よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。溶解性の観点から、アニオンは、過塩素酸イオン、トリフルオロ酢酸イオンおよびヨウ化物イオンよりなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。
【0082】
金属塩は、例えば、上記のカチオンの少なくとも一種と、上記のアニオンの少なくとも一種とから形成される。重合反応が促進され易い点で、金属塩は、過塩素酸リチウム、トリフルオロ酢酸ナトリウムおよびヨウ化カリウムよりなる群から選択される少なくとも1つを含んでいてよい。
【0083】
<溶媒>
重合液に用いられる溶媒は特に限定されない。
【0084】
<第二のシラン化合物>
第一のシラン化合物とともに、シラン化合物(以下、第二のシラン化合物と称する。)を用いてもよい。第二のシラン化合物は、第一のシラン化合物とSi-O-Si結合を形成して、重合物の一部を構成する。
【0085】
第二のシラン化合物は、例えば、下記式(S2):
41 42 43 Si(OR(OR(OR (S2)
(式中、p、q、r、a、b、cは、いずれも整数であって、1≦p+q+r≦3、1≦a+b+c≦3、および、p+q+r+a+b+c=4を満たし、
41、R42およびR43は、それぞれ独立して、炭素数1~20の炭化水素基であり、
、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1~5のアルキル基である。)
で表される。
【0086】
41、R42およびR43はそれぞれ、例えば、下記の一般式:
2s+1-2t-4u
(式中、sは1~20の整数であり、tは炭素-炭素間二重結合および環構造の数の合計であり、uは炭素-炭素間三重結合の数である。)
で表される。
【0087】
41、R42およびR43はそれぞれ、同一の基であってよく、異なる基であってよい。R41、R42およびR43は、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基であってよく、脂環式炭化水素基を有していてよく、芳香族炭化水素基を有していてよい。
【0088】
41、R42およびR43の炭素数は、それぞれ1以上20以下である。これにより、重合反応が阻害され難い。R41、R42およびR43の炭素数は、それぞれ15以下であってよく、12以下であってよい。
【0089】
41、R42およびR43として、具体的には、それぞれメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、フェニル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基、アリル基が挙げられる。
【0090】
OR、ORおよびORのいずれかは、第一のシラン化合物のケイ素原子に結合するアルコキシ基(例えば、-O-Rb1)と反応して、Si-O-Si結合を形成し得る。これにより、得られる重合体の側鎖がより柔軟になって、有機フィラーに接触し易くなる。
【0091】
重合反応が進行し易い点で、tのうち、環構造の数は1以下であってよく、0であってよい。tのうち、炭素-炭素間二重結合の数は1以下であってよく、0であってよい。同様に、uは、1以下であってよく、0であってよい。第二のシラン化合物が重合性基を有さない場合、第二のシラン化合物は重合物の主鎖の一部に組み込まれることなく、第一のシラン化合物と反応することができて、柔軟な側鎖がより形成され易くなる。
【0092】
3つのアルコキシ基を有するケイ素原子を含む第二のシラン化合物(a+b+c=3)と、2つのアルコキシ基を有するケイ素原子を含む第二のシラン化合物(a+b+c=2)と、を併用すると、有機フィラーの多くの表面を、広く強固に修飾することができる。
【0093】
第二のシラン化合物の濃度は特に限定されない。
第一および第二のシラン化合物の質量比は特に限定されない。イオン伝導性の観点から、第二のシラン化合物の質量部は、第一および第二のシラン化合物の合計100質量部に対して、30質量部以上であってよい。40質量部以上であってよい。同様の観点から、第二のシラン化合物の質量部は、第一および第二のシラン化合物の合計100質量部に対して、50質量部以下であってよい。
【0094】
(1-2)第一のシラン化合物の重合(S1-2)
調製された重合液を加熱する。これにより、第一のシラン化合物がエポキシ基の開環により重合して、金属カチオンとこれに配位するポリエーテル鎖とを有する重合物が得られる。重合物は、上記の式(A’)で表される。
【0095】
重合液は、静置された状態で、一定の温度に加熱されることが望ましい。加熱温度は特に限定されない。加熱温度は、60℃以上120℃以下であってよい。これにより、生産性が向上し、また、第一のシラン化合物の過剰な反応が抑制されて、得られる重合物の硬化が防止できる。
【0096】
反応時間は、加熱温度に応じて適宜設定される。反応時間は、例えば、18時間以上48時間以内であってよい。反応時間は、20時間以上であってよく、22時間以上であってよい。反応時間は、32時間以内であってよく、28時間以内であってよい。
【0097】
(2)イオン伝導性フィラーの製造
得られたイオン伝導性の重合物を、有機フィラーに接触させる。これにより、イオン伝導性フィラーが得られる。
【0098】
イオン伝導性フィラーは、重合物と極性有機溶媒とを混合し、表面修飾用溶液を調製する工程と、有機フィラーに表面修飾用溶液を接触させる工程と、極性有機溶媒を除去する工程と、を備える方法により得られる。以下、この方法によりイオン伝導性フィラーを得る場合を例に挙げて説明する。ただし、イオン伝導性フィラーを得る工程はこれに限定されない。
【0099】
(2-1)表面修飾用溶液の調製(S2-1)
重合物と極性有機溶媒とを混合して、表面修飾用溶液を調製する。表面修飾用溶液は、例えば、重合物を容器に収容して、そこに極性有機溶媒を投入し、その後、重合物の溶解を完了させることにより得られる。溶解の完了は、容器の内容物の色の変化により確認できる。重合物は、通常、黄色または褐色を呈している。重合物が溶解するに従い、内容物の色が均一になっていく。この色の変化は肉眼で確認できる。
【0100】
極性有機溶媒の投入後、内容物は静置されてよく、撹拌されてもよい。撹拌により、短時間で重合物の溶解が完了し得る。撹拌には、マグネティックスターラや攪拌翼と攪拌モータとを組み合わせた攪拌装置などが用いられる。
【0101】
重合物の濃度は特に限定されない。重合物の濃度は、表面修飾用溶液の質量の5質量%以上であってよく、8質量%以上であってよい。重合物の濃度は、80質量%以下であってよく、50質量%以下であってよい。重合物の濃度が5質量%以上であると、有機フィラーの表面を効率よく修飾できる。重合物の濃度が80質量%以下であると、表面修飾用溶液の粘度増加が抑制されて、有機フィラーの分散性が向上する。
【0102】
<極性有機溶媒>
極性有機溶媒は、極性を有する有機溶媒である。極性有機溶媒は、水の溶解性が高く、重合物が有する加水分解性シリル基の加水分解反応が起こり易い。極性有機溶媒中において、加水分解性シリル基の加水分解反応は、処理環境中から有機フィラーが吸着した水分によって生じる。
【0103】
極性有機溶媒は、イオン伝導性の重合物を溶解できる限り、特に限定されない。極性有機溶媒としては、例えば、一価のアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、スルホン類が挙げられる。一価のアルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1-プロパノール、ブタノール、ヘプタノール、ヘキサノールが挙げられる。多価アルコール類としては、例えば、グリコール、エチレングリコール、プロピレングリコールが挙げられる。ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが挙げられる。スルホン類としては、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドが挙げられる。水との親和性が高く、揮発し易い点で、一価のアルコール類であってよい。
【0104】
加水分解性シリル基の加水分解反応を促進する観点から、極性有機溶媒とともに、水を用いてもよい。水が占める割合は、極性有機溶媒と水との合計質量の30質量%以下であってよく、20質量%以下であってよく、15質量%以下であってよい。水の占める範囲が30質量%以下であると、過剰な加水分解反応が抑制されて、第一のシラン化合物がゾルゲル化することが抑制され易い。第一のシラン化合物がゾルゲル化すると、有機フィラーとの接触が困難になる。水が占める割合は、5質量%以上であってよい。一態様において、水が占める割合は、極性有機溶媒と水との合計質量の5質量%以上30質量%以下であってよい。
【0105】
(2-2)有機フィラーと表面修飾用溶液との接触(S2-2)
有機フィラーに、表面修飾用溶液を接触させる。接触方法は特に限定されない。接触方法としては、例えば、噴霧、滴下および含浸が挙げられる。
【0106】
噴霧は、公知のスプレー装置により行うことができる。滴下は、例えば、ドライブレンド用の撹拌機で有機フィラーを空気中で攪拌しながら、撹拌機内にシリンジで表面修飾用溶液を注入することにより行われる。含浸は、例えば、表面修飾用溶液が収容された容器内に有機フィラーを投入し、十分に分散させることにより行われる。有機フィラーは、通常ヒドロキシ基を有しており、親水性である。そのため、有機フィラーは、極性有機溶媒に均一に容易に分散し得る。分散を促進するために、容器の内容物を攪拌してもよい。撹拌は、上記の方法により行うことができる。
【0107】
表面修飾用溶液の量は特に限定されず、有機フィラー全体が、表面修飾用溶液によって十分に濡れる程度であればよい。接触処理の後、有機フィラーを回収し、余分な表面修飾用溶液を除去してもよい。余分な表面修飾用溶液は、不織布による拭き取り等により除去され得る。
【0108】
(2-3)極性有機溶媒の除去(S2-3)
有機フィラーの表面に付着している表面修飾用溶液から、極性有機溶媒、さらには水を除去する。これにより、表面修飾されたイオン伝導性フィラーが得られる。
【0109】
極性有機溶媒等を除去する過程において、重合物に含まれる加水分解性シリル基が水分によって加水分解されて、シラノール基が生成する。シラノール基は、有機フィラー中の反応基(典型的には、ヒドロキシ基)と反応して、脱水縮合する。これにより、重合物と有機フィラーとの間でSi-O-C結合が形成されて、両者は化学的に結合する。ポリエーテル鎖は金属イオンに配位しているため、有機フィラーにはイオン伝導性が付与され、優れた帯電防止機能が発揮される。
【0110】
極性有機溶媒等の除去は、例えば、加熱乾燥、風乾、減圧乾燥によって行われる。乾燥時間は特に限定されず、極性有機溶媒等が除去される程度行われる。
【実施例0111】
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
[実施例1]
(1)イオン伝導性の重合物の製造
(1-1)重合液の調製
第一のシラン化合物として3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランを50質量部、金属塩として過塩素酸リチウムを5.8質量部、用意した。両者をビーカー内で混合し、80℃で10分間攪拌して、重合液を得た。
【0112】
(1-2)重合
重合液を80℃で24時間静置して、反応物を得た。反応物が、目的のイオン伝導性の重合物であることを、全反射フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR、島津製作所製、IRPrestige-21)を用いて確認した。
【0113】
図2は、実施例1で得られた反応物および3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランのFTIRによる分析結果を示すグラフである。
【0114】
3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランのスペクトルでは、グリシドキシ基に特徴的な908.5cm-1のピークが確認される。一方、このピークは、反応物のスペクトルからは確認されない。反応物のスペクトルにおいて、メトキシ基の存在を示す1190.1cm-1のピークは消失せずに残存している。さらに、反応物のスペクトルでは、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランのスペクトルと比較して、1000~1150cm-1近辺に強いピークが検出されている。このピークは、グリシドキシ基の開環重合により生成するポリエーテル構造が増加していることを示す。以上により、反応物は、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン由来のグリシドキシ基が開環重合することにより形成されたポリエーテル鎖と、メトキシ基とを有していることが確認された。
【0115】
さらに、Li-NMRによる分析により、反応物は、配位されたリチウムイオンを有していることを確認した。
【0116】
図3は、実施例1で得られた反応物および過塩素酸リチウムの、Li-NMR(Bruker社製、AVANCE500)による分析結果を示すグラフである。
【0117】
図3に示されるように、検出されたLi原子に相当するピークは、過塩素酸リチウムのLi原子のピークよりも低磁場にシフトしている。これは、反応物において、リチウム原子の電子密度が低下しており、カチオン性がより大きくなっていることを示している。さらに、反応物に含まれるLiのピーク形状はよりブロードである。これは、Li原子の運動性が低下していることを示している。これらより、過塩素酸リチウムに含まれていたLi原子は、ポリエーテル鎖中の酸素原子から配位を受けていることが示唆された。
【0118】
(2)イオン伝導性フィラーの製造
(2-1)表面修飾用溶液の調製
スクリュー管瓶に、得られた反応物(イオン伝導性の重合物)10質量部を投入し、次いで、エタノール100質量部と水1質量部との混合溶媒を投入した。その後、室温で5時間静置し、イオン伝導性の重合物を混合溶媒に溶解させて、表面修飾用溶液を得た。
【0119】
(2-2)表面修飾用溶液の接触
有機フィラーとして、セルロース粒子A(日本製紙株式会社製、KCフロック(W-100G)、平均粒子径約37μm)を準備した。
このセルロース粒子10質量部に上記の表面修飾用溶液をスプレー噴霧し、全体を濡らした。その後、濡れたセルロース粒子をアルミパレット上で24時間、大気中に静置し、風乾させた。これにより、イオン伝導性フィラーを得た。
【0120】
得られるイオン伝導性フィラーの概念図を以下に示す。イオン伝導性の重合物のポリエーテル鎖は、Si-O-C結合を介して、複数の箇所でセルロース粒子と結合し得る。そのため、セルロース粒子の表面は、イオン伝導体によって均一に修飾される。
【0121】
【化14】
【0122】
[実施例2]
第一のシラン化合物として、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを使用したこと以外、実施例1と同様にして、イオン伝導性の重合物およびイオン伝導性フィラーを製造した。
【0123】
[実施例3]
有機フィラーとして、セルロース粒子B(日本製紙株式会社製、KCフロック(W-200G)、平均粒子径約32μm)を使用したこと以外、実施例1と同様にして、イオン伝導性の重合物およびイオン伝導性フィラーを製造した。
【0124】
[実施例4]
金属塩として、トリフルオロ酢酸ナトリウムを7.4質量部使用したこと以外、実施例1と同様にして、イオン伝導性の重合物およびイオン伝導性フィラーを製造した。
【0125】
[比較例1]
表面修飾用溶液に替えて、エタノール100質量部と水1質量部との混合溶媒を用いたこと以外、実施例1と同様にして、フィラーを製造した。
【0126】
[静電気量の評価]
ハンディ型の静電電位測定器(春日電機株式会社製、デジタル静電電位測定器 KSD-2000)により、各実施例で得られたイオン伝導性フィラーおよび比較例1のフィラーの静電気量を測定した。具体的には、気温23℃、湿度45%の室内で、ポリプロピレン製の漏斗の先端から、各フィラー5質量部をそれぞれシャーレ内に落下させた。漏斗の先端部とシャーレの底部との距離は10cmとした。次いで、静電電位測定器の検出部を、シャーレの底部の法線であって、シャーレ内に落下したフィラーを通る直線との角度が約45度になるように、かつ、対象のフィラーとの距離が3cmになるように、設置して、当該フィラーの静電気量を測定した。結果を表1に示す。
【0127】
【表1】
【0128】
表1からわかるように、実施例1~5において製造されたフィラーは、静電気発生を抑制するのに有効である。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明のイオン伝導性フィラーは、静電気の抑制に有効であり、様々な分野で使用される樹脂製品の添加剤として有用である。
図1
図2
図3