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  • 特開-遮音構造体 図1
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  • 特開-遮音構造体 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120839
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】遮音構造体
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20230823BHJP
   G10K 11/162 20060101ALI20230823BHJP
   G10K 11/172 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
G10K11/16 120
G10K11/162
G10K11/172
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023929
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】福山 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】久米田 健太
(72)【発明者】
【氏名】中島 友則
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061AA02
5D061AA16
5D061BB17
(57)【要約】
【課題】広範な周波数域の音に対して高い遮音性が得られる遮音構造体を提供する。
【解決手段】遮音構造体1が、板状またはシート状の支持部2と、支持部2の一方の面に取り付けられている複数の共振部3と、を有している。共振部3は、両端部が開口している中空の蛇腹状の基部4と、基部4よりも質量が大きい錘部5と、を有し、基部4の一方の端部が支持部2の一方の面に固定されており、基部4の他方の端部に錘部5が取り付けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状またはシート状の支持部と、前記支持部の一方の面に取り付けられている複数の共振部と、を有し、
前記共振部は、両端部が開口している中空の蛇腹状の基部と、前記基部よりも質量が大きい錘部と、を有し、前記基部の一方の端部が前記支持部の前記一方の面に固定されており、前記基部の他方の端部に前記錘部が取り付けられていることを特徴とする遮音構造体。
【請求項2】
前記共振部は、前記支持部の面積1000cm2あたり10個以上1000個以下設けられている、請求項1に記載の遮音構造体。
【請求項3】
前記支持部は樹脂または金属からなり、前記基部は樹脂からなり、前記錘部は金属からなる、請求項1または2に記載の遮音構造体。
【請求項4】
前記支持部は、ヤング率が1GPa以上1000GPa以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【請求項5】
前記基部の長手方向のばね定数が90N/mm以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【請求項6】
前記基部の長手方向のばね定数が80N/mm以下である、請求項5に記載の遮音構造体。
【請求項7】
前記基部は、大径部と小径部とが長手方向に沿って交互に位置する形状を有しており、前記大径部と前記小径部との組が8組以上26組以下設けられている、請求項1から6のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【請求項8】
前記共振部の初期状態における前記基部の長手方向の長さは3mm以上20mm以下である、請求項1から7のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遮音構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の乗物や建物に遮音構造体を設けることによって、騒音の伝播を抑えることがある。そのような遮音構造体の例が、特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1には、ゴム弾性を有するシートと複数の共振部とを備えた遮音構造体が開示されている。共振部は、基部と、基部に支持され且つ基部より大きな質量を有し単一の部材で構成された錘部とを備えている。共振部は、先端側において、錘部の少なくとも一部が基部に埋設されているインサート成形体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6610684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている構成では、比較的高い周波数(例えば1250Hz~1600Hz付近の周波数域)の音に対して遮音性がやや低下する。
そこで、本発明の目的は、広範な周波数域の音に対して高い遮音性が得られる遮音構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の遮音構造体は、板状またはシート状の支持部と、前記支持部の一方の面に取り付けられている複数の共振部と、を有し、前記共振部は、両端部が開口している中空の蛇腹状の基部と、前記基部よりも質量が大きい錘部と、を有し、前記基部の一方の端部が前記支持部の前記一方の面に固定されており、前記基部の他方の端部に前記錘部が取り付けられていることを特徴とする。
前記共振部は、前記支持部の面積1000cm2あたり10個以上1000個以下設けられていてよい。
前記支持部は樹脂または金属からなり、前記基部は樹脂からなり、前記錘部は金属からなるものであってよい。
前記支持部は、ヤング率が1GPa以上1000GPa以下であってよい。
前記基部の長手方向のばね定数が90N/mm以下であってよい。さらに望ましくは、前記基部の長手方向のばね定数が80N/mm以下であってよい。
前記基部は、大径部と小径部とが長手方向に沿って交互に位置する形状を有しており、前記大径部と前記小径部との組が8組以上26組以下設けられていてよい。
前記共振部の初期状態における前記基部の長手方向の長さは3mm以上20mm以下であってよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、広範な周波数域の音に対して高い遮音性が得られる遮音構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態の遮音構造体の正面図である。
図2図1に示す遮音構造体の斜視図である。
図3図1に示す遮音構造体の一部の拡大断面図である。
図4】本発明の実施例1と比較例1~3の遮音構造体の1/3オクターブ中心周波数と音響挿入損失の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1に本発明の一実施形態の遮音構造体1の正面図を示し、図2に遮音構造体1の斜視図を示し、図3に遮音構造体1の一部の拡大断面図を示している。遮音構造体1は、板状またはシート状の支持部2と、支持部2の一方の面に取り付けられている複数の共振部3と、を有する。共振部3は、両端部が開口している中空の蛇腹状の基部4を有し、基部4の一方の端部が支持部2の一方の面に固定されている。そして、基部4の他方の端部に錘部5が取り付けられている。共振部3の基部4は中空の蛇腹状の円筒であり、錘部5は基部4よりも質量が大きい部材である。
【0010】
支持部2の材料や形状や寸法には特に制約はなく、樹脂や金属などからなる平板状の部材であってよい。支持部2のヤング率は1GPa以上1000GPa以下であることが好ましい。一例としては、支持部2は厚さが0.5mmでヤング率が69GPaのアルミニウム板である。
【0011】
共振部3の基部4の材料や形状や寸法には特に制約はないが、長手方向の長さが変化するように蛇腹形状が伸縮できる柔軟性を有している。一例としては、基部4は、ポリプロピレン等の樹脂からなり、平面形状が円形であって、大径部4aと小径部4bとが長手方向に沿って交互に位置する形状(蛇腹形状)を有している。本例の基部4の大径部4aの直径(外径)は6mmであり、小径部4bの直径(外径)は4.5mmである。共振部3の初期状態(基部4に錘部5が取り付けられ、他の負荷がかかっていない状態)における基部4の長手方向の長さ(支持部2上の高さ)は3mm以上20mm以下であることが好ましく、一例としては10mmである。基部4には、大径部4aと小径部4bの組が8組以上26組以下設けられていることが好ましい。基部4の長手方向のばね定数は90N/mm以下であることが好ましく、80N/mm以下であることがより好ましい。基部4の壁厚(板厚)は実質的に一定であることが好ましい。ただし、基部4は、平面形状が楕円形や多角形等である蛇腹形状を有していてもよい。
【0012】
共振部3の錘部5の材料や形状や寸法には特に制約はないが、少なくとも基部4よりも質量が大きい部材である。一例としては、錘部5は、アルミニウム等の金属や樹脂からなり、中実の短い円柱(円板)である。本例の錘部5は、平面形状が直径6mmの円形であり、基部4の長手方向に沿う長さ(高さ)は3mmである。
【0013】
一実施形態では、厚さが0.5mmで平面形状が一辺260mmの正方形であるアルミニウム板(ヤング率:69GPa)を用意し、そのアルミニウム板の中央の一辺200mmの正方形の領域を支持部2とする。そしてこの支持部2の一方の面に、多数の共振部3が、等間隔のマトリクス状に配置されている。具体的には、共振部3は、支持部2の面積1000cm2あたり10個以上1000個以下設けられている。各共振部3の基部4の一方の端部が固定され、基部4の他方の端部には、質量が大きい錘部5が取り付けられている。
【0014】
この共振部3は、基部4の内部の空気が空気ばねとして作用し、錘部5が質量子(マス)として作用するバネマス共振器である。この共振部3の作用により板状の支持部2の振動を効率的に抑制することができ、遮音効果が得られる。特に、本実施形態の共振部3の基部4は蛇腹状であって長手方向に伸縮可能であるため、基部4の内部の空気ばねがより大きく作用することができ、また、基部4自体もばね性を有している。従って、伸縮しない単純な円筒内の空気ばねのみを利用する場合に比べて、伸縮する蛇腹状の基部4を有する本実施形態の共振部3によるとより大きなばね性が得られ、それによって大きな遮音効果が実現する。
【実施例0015】
本発明の具体的な実施例と、実施例と対比するための比較例とについて説明する。
[実施例1]
実施例1では、厚さ0.5mmでヤング率が69GPaのアルミニウム板により支持部2を形成した。ポリプロピレンにより、平面形状が円形であって大径部4aの外径が6mmで小径部4bの外径が4.5mmで、共振部3の初期状態における長手方向の長さが10mmである蛇腹状の基部4(バネ定数:70N/mm)を形成した。さらに、アルミニウムにより、基部4と平面形状が実質的に同じであって厚さが3mmの中実の短い円柱(円板)状の錘部5を形成した。錘部5は基部4よりも質量が大きい。基部4の一方の端部を、支持部2の平坦な一方の面に固定する。基部4の他方の端部に錘部5を取り付ける。このようにして支持部2に複数の共振部3を取り付けて本実施例の遮音構造体1を形成した。本実施例の遮音構造体1の面密度は1.56kg/m2である。この遮音構造体1による音響挿入損失を測定して図4に示している。具体的には、音源室が残響室であり受音室が半無響室である試験設備を用いて、試料設置時の音響インテンシティと、試料なしの開口部における音響インテンシティとから、音のエネルギーの透過率(τ)を求め、それに基づいて、音響透過損失に相当する音響挿入損失(dB)を算出した。音響挿入損失は数値が大きいほど遮音性が良好である。
【0016】
[比較例1]
比較例1として、実施例1と同様な支持部2のみを有し、共振部3が設けられていない平板状の遮音構造体を形成した。本比較例の遮音構造体の面密度は1.31kg/m2であった。この遮音構造体による音響挿入損失を測定して図4に示している。
【0017】
[比較例2]
比較例2として、実施例1と同様な支持部2に、中実の円柱状の基部と錘部とからなる共振部(図示せず)が設けられている遮音構造体を形成した。基部はシリコーンからなり、平面形状が円形であって外径が6mmで長手方向の長さが3mmである。この基部は蛇腹状ではなく伸縮しない。錘部は、実施例1の錘部5と同じ部材である。本比較例の遮音構造体の面密度は1.55kg/m2であった。この遮音構造体による音響挿入損失を測定して図4に示している。
【0018】
[比較例3]
比較例3として、実施例1と同様な支持部2に、中空の円筒状の基部と錘部とからなる共振部(図示せず)が設けられている遮音構造体を形成した。基部はポリプロピレンからなり、平面形状が円形であって外径が6mmで長手方向の長さが10mmである。この基部は蛇腹状ではなく伸縮しない。錘部は、実施例1の錘部5と同じ部材である。本比較例の遮音構造体の面密度は1.52kg/m2であった。この遮音構造体による音響挿入損失を測定して図4に示している。
【0019】
[結果]
図4を参照して、本発明の実施例および各比較例の結果を検討すると、蛇腹状の基部4を有する共振部3を備えた本発明の実施例1の遮音構造体1によると、広範な周波数域にわたって遮音性が良好であった。特に、1250~1600Hzの周波数域において、本発明の実施例1の遮音構造体1によると、比較例1~3に比べて著しく良好な遮音性が得られた。
【符号の説明】
【0020】
1 遮音構造体
2 支持部
3 共振部
4 基部
4a 大径部
4b 小径部
5 錘部
図1
図2
図3
図4