(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120873
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】酸化物超電導線材及び接続構造体
(51)【国際特許分類】
H01B 12/06 20060101AFI20230823BHJP
H01R 4/68 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
H01B12/06
H01R4/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023987
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】栗原 駿
(72)【発明者】
【氏名】羽生 智
【テーマコード(参考)】
5G321
【Fターム(参考)】
5G321AA02
5G321AA04
5G321AA05
5G321CA04
5G321CA24
5G321CA27
5G321CA28
5G321CA42
(57)【要約】
【課題】超電導層と保護層との間の界面抵抗を低減することができる酸化物超電導線材と、この酸化物超電導線材を備えた接続構造体とを提供する。
【解決手段】酸化物超電導線材1は、基材10と、前記基材10の上方に設けられ、酸化物超電導体によって構成された超電導層12と、前記超電導層12上に設けられ、前記超電導層に接する保護層13と、を備る。前記超電導層12と前記保護層13との界面は、前記酸化物超電導体を構成する結晶のc軸に沿っている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の上方に設けられ、酸化物超電導体によって構成された超電導層と、
前記超電導層上に設けられ、前記超電導層に接する保護層と、
を備え、
前記超電導層と前記保護層との界面は、前記酸化物超電導体を構成する結晶のc軸に沿っている、
酸化物超電導線材。
【請求項2】
前記超電導層と前記保護層との間において、前記超電導層には、内壁面を有する複数の凹部が形成されており、
前記保護層は、前記複数の凹部内に形成されており、
前記内壁面は、前記c軸に平行である、
請求項1に記載の酸化物超電導線材。
【請求項3】
前記超電導層と前記保護層との間において、前記超電導層には、内壁面を有する複数の凹部が形成されており、
前記保護層は、前記複数の凹部内に形成されており、
前記内壁面は、前記c軸に対して傾斜している、
請求項1に記載の酸化物超電導線材。
【請求項4】
前記酸化物超電導線材が延在する延在方向及び前記酸化物超電導線材の厚さ方向に直交する前記酸化物超電導線材の幅方向において、前記超電導層は、前記超電導層の端部を含む2つの端領域と、前記2つの端領域の間にある中央領域とを有し、
前記端領域において前記超電導層に形成されている前記複数の凹部の単位面積あたりの個数は、前記中央領域において前記超電導層に形成されている前記複数の凹部の単位面積あたりの個数よりも多い、
請求項2又は請求項3に記載の酸化物超電導線材。
【請求項5】
前記酸化物超電導線材が延在する延在方向及び前記酸化物超電導線材の厚さ方向に直交する前記酸化物超電導線材の幅方向において、前記超電導層は、前記超電導層の端部を含む2つの端領域と、前記2つの端領域の間にある中央領域とを有し、
前記中央領域において前記超電導層に形成されている前記複数の凹部の単位面積あたりの個数は、前記端領域において前記超電導層に形成されている前記複数の凹部の単位面積あたりの個数よりも多い、
請求項2又は請求項3に記載の酸化物超電導線材。
【請求項6】
前記凹部の深さは、前記超電導層の平均厚さよりも小さい、
請求項2から請求項5のいずれか一項に記載の酸化物超電導線材。
【請求項7】
平面視において前記超電導層の面積に対する複数の前記凹部の合計の開口面積の比率は、0.30%以上0.60%以下である、
請求項2から請求項6のいずれか一項に記載の酸化物超電導線材。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の酸化物超電導線材と、接続対象物とを接続する接続構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材及び接続構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基材上に、中間層、超電導層、及び保護層が順に積層された構造を有する酸化物超電導線材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の酸化物超電導線材では、超電導層と保護層との間の界面抵抗が高いという問題がある。超電導層と保護層との間の界面抵抗が高い場合、酸化物超電導線材と、酸化物超電導線材に接続される接続対象との間における接続抵抗が高くなるという問題がある。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされ、超電導層と保護層との間の界面抵抗を低減する酸化物超電導線材と、この酸化物超電導線材を備えた接続構造体とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来の酸化物超電導線材を検討した結果、以下の知見を得た。
従来の酸化物超電導線材においては、銀等の金属で構成された保護層は、基材の厚さ方向に沿って超電導層の表面にそのまま積層されている。このような酸化物超電導線材に電極を接続して電極に電流を流すと、基材の厚さ方向に向けて超電導層から保護層に電流が流れる。
【0007】
ところで、酸化物超電導線材は特徴的な結晶構造を有しており、a軸方向又はb軸方向に対しては電流がよく流れるが、c軸方向には電流が流れにくいことが知られている。このため、上述した積層構造を有する従来の酸化物超電導線材は、超電導層と保護層との間においてc軸方向に電流が流れる構造を有するため、超電導層と保護層との間の界面抵抗を低減することが困難であった。
本発明者らは、上記の知見に基づいて鋭意検討を行った結果、本発明に想到した。
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る酸化物超電導線材は、基材と、前記基材の上方に設けられ、酸化物超電導体によって構成された超電導層と、前記超電導層上に設けられ、前記超電導層に接する保護層と、を備える。前記超電導層と前記保護層との界面は、前記酸化物超電導体を構成する結晶のc軸に沿っている。
【0009】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材と、後述する本発明の一態様に係る接続構造体とにおいて、文言「基材の上方に設けられた超電導層」とは、基材上に超電導層が設けられていることを意味するだけでなく、基材と超電導層との間に中間層等の層膜が配置されている構造において基材の上方に超電導層基材が設けられていることも意味する。
【0010】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材によれば、超電導層と保護層との界面が酸化物超電導体の結晶のc軸に沿っていることで、酸化物超電導体を構成する結晶のa軸方向又はb軸方向に沿って、超電導層から保護層に電流が流れやすくなる。この結果、超電導層と保護層との間の界面抵抗を低減することができる。
【0011】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材においては、前記超電導層と前記保護層との間において、前記超電導層には、内壁面を有する複数の凹部が形成されており、前記保護層は、前記複数の凹部内に形成されており、前記内壁面は、前記c軸に平行であってもよい。
【0012】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材によれば、超電導層に形成された複数の凹部の内壁面がc軸に平行である構造が得られる。この構造において、酸化物超電導体を構成する結晶のa軸方向又はb軸方向に沿って、超電導層から保護層に電流が流れやすくなる。この結果、超電導層と保護層との間の界面抵抗を低減することができる。さらに、複数の凹部を超電導層に形成することで、超電導層の表面積が増加する。このため、超電導層の酸素熱処理を効率的に実施することができる。
【0013】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材においては、前記超電導層と前記保護層との間において、前記超電導層には、内壁面を有する複数の凹部が形成されており、前記保護層は、前記複数の凹部内に形成されており、前記内壁面は、前記c軸に対して傾斜してもよい。
【0014】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材によれば、超電導層に形成された複数の凹部の内壁面に傾斜部が形成された構造が得られる。この構造において、酸化物超電導体を構成する結晶のa軸方向又はb軸方向に沿って、超電導層から保護層に電流が流れやすくなる。この結果、超電導層と保護層との間の界面抵抗を低減することができる。さらに、複数の凹部を超電導層に形成することで、超電導層の表面積が増加する。このため、超電導層の酸素熱処理を効率的に実施することができる。
【0015】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材においては、前記酸化物超電導線材が延在する延在方向及び前記酸化物超電導線材の厚さ方向に直交する前記酸化物超電導線材の幅方向において、前記超電導層は、前記超電導層の端部を含む2つの端領域と、前記2つの端領域の間にある中央領域とを有し、前記端領域において前記超電導層に形成されている前記複数の凹部の単位面積あたりの個数は、前記中央領域において前記超電導層に形成されている前記複数の凹部の単位面積あたりの個数よりも多くてもよい。
【0016】
一般的な酸化物超電導線材においては、中央領域に比べて端領域では電流が流れにくい。これに対し、本発明の一態様に係る酸化物超電導線材においては、端領域に形成されている複数の凹部の単位面積あたりの個数を中央領域に形成されている複数の凹部の単位面積あたりの個数よりも多くしている。このため、中央領域に流れる電流に比べて、端領域においては電流が流れやすくなる。したがって、端領域における界面抵抗を軽減することができる。さらに、端領域において超電導層の表面積が増加するので、端領域における超電導層の酸素熱処理を効率的に実施することができる。
【0017】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材においては、前記酸化物超電導線材が延在する延在方向及び前記酸化物超電導線材の厚さ方向に直交する前記酸化物超電導線材の幅方向において、前記超電導層は、前記超電導層の端部を含む2つの端領域と、前記2つの端領域の間にある中央領域とを有し、前記中央領域において前記超電導層に形成されている前記複数の凹部の単位面積あたりの個数は、前記端領域において前記超電導層に形成されている前記複数の凹部の単位面積あたりの個数よりも多くてもよい。
【0018】
一般的な酸化物超電導線材においては、端領域に比べて中央領域では電流が流れ易い。これに対し、本発明の一態様に係る酸化物超電導線材においては、中央領域に形成されている複数の凹部の単位面積あたりの個数を端領域に形成されている複数の凹部の単位面積あたりの個数よりも多くしている。このため、中央領域により多くの電流が流れる。したがって、中央領域における界面抵抗をさらに軽減することができる。また、中央領域において超電導層の表面積が増加するので、中央領域における超電導層の酸素熱処理を効率的に実施することができる。
【0019】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材においては、前記凹部の深さは、前記超電導層の平均厚さよりも小さくてもよい。
【0020】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材によれば、超電導層を貫通しないように凹部が超電導層に形成されている。これにより、超電導層の導電性を維持しつつ、超電導層と保護層との間の界面抵抗を低減することができる。
【0021】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材においては、平面視において前記超電導層の面積に対する複数の前記凹部の合計の開口面積の比率は、0.30%以上0.60%以下であってもよい。
【0022】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材によれば、超電導層と保護層との間の界面抵抗を低減することができる。
【0023】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る接続構造体は、上述した態様に係る酸化物超電導線材と、接続対象物とを接続する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の上記態様によれば、超電導層と保護層との間の界面抵抗を低減することができる酸化物超電導線材と、この酸化物超電導線材を備えた接続構造体とを提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る酸化物超電導線材を模式的に示す拡大断面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る酸化物超電導線材を構成する超電導層を模式的に示す拡大断面図であって、超電導層に凹部を形成する方法を説明する図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る酸化物超電導線材を構成する超電導層を模式的に示す拡大断面図であって、超電導層に凹部を形成する方法を説明する図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る酸化物超電導線材を構成する超電導層を模式的に示す拡大断面図であって、超電導層に凹部を形成する方法を説明する図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る酸化物超電導線材を構成する超電導層に形成された凹部を模式的に示す拡大断面図である。
【
図6】本発明の第1実施形態に係る酸化物超電導線材を構成する超電導層に形成された凹部を模式的に示す拡大断面図である。
【
図7】本発明の第1実施形態に係る酸化物超電導線材を構成する超電導層を模式的に示す拡大平面図であって、超電導層において複数の凹部が形成される領域を説明する図である。
【
図8】本発明の第2実施形態に係る接続構造体の一部を模式的に示す拡大断面図である。
【
図9】本発明の第3実施形態に係る接続構造体の一部を模式的に示す拡大断面図である。
【
図10】本発明の実施例を説明する実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る酸化物超電導線材及び接続構造体について、図面を参照して詳細に説明する。説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするため、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0027】
以下の説明において参照される図面においては、3次元直交座標系に相当するX方向、Y方向、及びZ方向が示されている(符号X、Y、Z)。X方向は、酸化物超電導線材の幅方向に対応している。Y方向は、酸化物超電導線材が延在する延在方向に対応している。Z方向は、酸化物超電導線材の厚さ方向に対応している。以下の説明において、「平面視」とは、酸化物超電導線材をZ方向から見た図面を示している。
【0028】
(第1実施形態)
(酸化物超電導線材)
第1実施形態に係る酸化物超電導線材について
図1を参照して説明する。
本実施形態に係る酸化物超電導線材1は、基材10と、基材10上に設けられた中間層11と、中間層11上に設けられた超電導層12と、超電導層12上に設けられた保護層13と、保護層13上に設けられた安定化層14とを備える。酸化物超電導線材1は、基材10、中間層11、超電導層12、保護層13、及び安定化層14を覆う絶縁被覆層を備えてもよい。
【0029】
酸化物超電導線材1の高さ、すなわち、基材10の下面から保護層13の上面までの長さ(
図1のZ方向における長さ)は、例えば、80μmである。
酸化物超電導線材1の幅、すなわち、酸化物超電導線材1の左端から右端までの長さ(
図1のX方向における長さ)は、例えば、12mmである。
【0030】
(基材10)
基材10は、テープ状の金属基板である。金属基板を構成する金属の具体例として、ハステロイ(登録商標)に代表されるニッケル合金、ステンレス鋼、ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni-W合金などが挙げられる。
【0031】
(中間層11)
中間層11は、多層構成を有してよく、例えば、基材10から超電導層12に向かう順で、拡散防止層、ベッド層、配向層、キャップ層等を有してもよい。これら複数の層が中間層11に設けられている構造において、各層の数は、1つに限定されない。中間層11を構成するこれら複数の層のうちの一部の層が省略されてもよい。さらに、同種の層が2以上繰り返して積層された構造が採用されてもよい。中間層11は、金属酸化物であってもよい。配向性に優れた中間層11の上に超電導層12を成膜することにより、配向性に優れた超電導層12を得ることが容易になる。
【0032】
(保護層13)
保護層13は、超電導層12上に設けられ、超電導層12に接している。
保護層13は、酸化物超電導線材1への通電時において、何らかの事故により発生する過電流が流れるバイパス経路として機能する電流路となる。保護層13は、金属材料により形成されている。このため、保護層13を金属保護層と称することもできる。保護層13は、銀(Ag)あるいは少なくとも銀(Ag)を含む材料から形成されることが好ましい。保護層13は、例えば、銀合金であってもよいし、銀を含む混合物であってもよい。また、保護層13を形成する材料は、金(Au)、プラチナ(Pt)などの貴金属と銀(Ag)とを含む混合物もしくは合金であってもよく、これらの複数の材料が用いられてもよい。
【0033】
(安定化層14)
安定化層14の材料としては、銅、Cu-Zn合金(黄銅)、Cu-Ni合金等の銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス等の材質が選択される。
安定化層14は、複数の層から構成されてもよい。また、安定化層14は、金属めっきにより形成されてもよい。安定化層14は、基材10と、保護層13と、基材10と保護層13との間にある層を含む積層体の全体がめっき層で覆われた構造を有してもよい。
【0034】
(超電導層12)
後述するように、超電導層12は、表面12Fと、表面12Fに形成された複数の凹部12Gとを有する。言い換えると、超電導層12と保護層13との間において、超電導層12には、内壁面12I及び底面12Bを有する複数の凹部12Gが形成されている。
超電導層12は、超電導状態の時に電流を流す機能を有する。
超電導層12は、希土類系高温超電導体によって構成されている。
具体的に、超電導層12に用いられる材料としては、通常知られている組成の酸化物超電導体を広く適用することができ、例えば、Y系超電導体、Bi系超電導体などの銅酸化物超電導体などが挙げられる。
【0035】
Y系超電導体の組成としては、例えば、REBa2Cu3O7-x(REは、Y、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表し、xは酸素欠損を表す。)が挙げられる。
Y系超電導体の具体的な組成としては、Y123(YBa2Cu3O7-x)、Gd123(GdBa2Cu3O7-x)が挙げられる。
Bi系超電導体の組成としては、例えば、Bi2Sr2Can-1CunO4+2n+δ(nはCuO2の層数を表し、δは過剰酸素を表す。)が挙げられる。この酸化物超電導体の母物質は絶縁体であるが、酸素アニール処理により酸化物超電導体が酸素を取り込むことで結晶構造の整った酸化物超電導体となり、超電導特性を示す性質を持つ。
【0036】
(超電導層12の凹部12Gの構造)
複数の凹部12Gは、内壁面12Iと底面12Bとを有する。超電導層12は、表面12F、内壁面12I、及び底面12Bにおいて、保護層13と接している。言い換えると、保護層13は、複数の凹部12Gの内部に形成されている。
図5に示す例では、内壁面12Iと底面12Bとがなす角度が直角であるように、凹部12Gの形状が示されている。凹部12Gの形状は、
図5に示す形状に限定されない。内壁面12Iと底面12Bの間の角部がR形状(丸みを有する形状)を有してもよい。
さらに、
図5に示す例では、底面12Bが平面である。底面12Bは、平面に限定されない。底面12Bの少なくとも一部が曲面であってもよい。底面12Bの全面が曲面を有してもよい。言い換えると、内壁面12I及び底面12Bを有する凹部12Gは、略U字状に形成されてもよい。凹部12Gは、溝と称してもよい。
【0037】
凹部12Gの深さdは、凹部12Gを形成する前の超電導層12の平均厚さtよりも小さい。すなわち、凹部12Gの深さをdと超電導層12の平均厚さtとは、d<tの関係を満たす。本実施形態において、超電導層12の平均厚さtは、例えば、約2.1μmである。凹部12Gの深さdは、例えば、約0.5μmである。凹部12Gの直径は、例えば、約50μmである。
【0038】
図2~
図4を参照して、超電導層12を形成する方法を説明する。
まず、
図2に示すように、公知の方法により、基材10上に中間層11を積層し、中間層11上に超電導層12を積層する。
【0039】
次に、
図3に示すように、超電導層12の表面12Fにレーザ光を照射する。これにより、レーザ光が照射された位置に対応するように、超電導層12の表面12Fが部分的にエッチングされ、凹部12Gが形成される。レーザ光の発光状態(ON)と非発光状態(OFF)とを切り替えながら、レーザ光源と超電導層12とを相対的な位置を変えることで、複数の凹部12Gを連続的に超電導層12上に形成することができる。平面視において、複数の凹部12Gを有する凹部の平面パターンは、例えば、ドットパターンである。
【0040】
レーザ光を照射する条件は、特に限定されない。超電導層12の表面12Fに対するレーザ光の照射時間やレーザ光の強度を調整することで、複数の凹部12Gの各々の深さを調整することができる。
【0041】
平面視において、凹部12Gの形状は、例えば、円形である。変形例として、凹部12Gの形状は、楕円でもよいし、直線状の辺を有する略三角形形状、略矩形形状、略多角形形状、略星型形状等の公知の形状であってもよい。なお、このような公知の形状においては、2つの辺が交差する部分に位置する角部は、面取りされた形状を有してもよい。
【0042】
平面視における凹部12Gの形状は、超電導層12の表面12Fを照射して凹部12Gを形成する際に用いられるレーザ光の照射形状、すなわち、超電導層12の表面12Fに投影されるレーザ光の形状に依存する。このようなレーザ光の照射形状の自由度に応じて、平面視における凹部12Gの形状は自由に設定される。
【0043】
次に、超電導層12の表面12Fに複数の凹部12Gが形成された後、
図4に示すように、超電導層12の表面12Fに保護層13を形成する。保護層13は、超電導層12の表面12Fに形成されるとともに、複数の凹部12Gの内部に入り込むように、複数の凹部12Gの各々に形成される。複数の凹部12Gの内部において、保護層13は、内壁面12Iと底面12Bとに接する。
【0044】
(凹部12Gの内壁面12Iにおける結晶構造)
次に、
図5及び
図6を参照し、超電導層12の凹部12Gの内壁面12Iにおける結晶構造について説明する。
図5及び
図6において、符号cは、超電導層12を構成する酸化物超電導体の結晶構造のc軸方向を示している。符号a、bは、超電導層12を構成する酸化物超電導体の結晶構造のa軸方向及びb軸方向を示している。
【0045】
図5に示すように、超電導層12と保護層13との界面BFは、酸化物超電導体の結晶構造のc軸に沿っている。言い換えると、超電導層12と保護層13との界面BFは、凹部12Gの内壁面12Iは、c軸に平行である。具体的に説明すると、内壁面12Iにおいては、酸化物超電導体を構成する複数の結晶CRが、c軸に平行に並んでいる。このように配列した複数の結晶CRは、界面BFの一部である。
複数の結晶CRの各々は、結晶CRは、c軸に沿う結晶面CFを有している。言い換えると、結晶面CFは、c軸に平行である。このため、界面BFにおいては、a軸又はb軸に起因する高い導電性が得られている。
【0046】
図6は、
図5に示す凹部12Gの内壁面12Iをさらに拡大した断面図であって、内壁面12Iに傾斜部12Kが形成された場合を示す図である。
図1及び
図3~
図5に示すように、凹部12Gの内壁面12Iは、酸化物超電導線材の厚さ方向に向けて延在しており、すなわち、Z方向に平行である。
【0047】
しかしながら、内壁面12Iを微視的に観察すると、内壁面12Iは、必ずしもZ方向に平行であるとは限らない。
図6に示すように、内壁面12Iに傾斜部12Kが形成されている場合がある。傾斜部12Kは、Z方向に対して傾斜する傾斜方向Dに沿っている。
【0048】
傾斜部12Kは、超電導層12と保護層13との界面BFの一部を形成している。
傾斜部12Kにおいては、酸化物超電導体を構成する複数の結晶CRは、階段状に並んでいる。階段状に配列した複数の結晶CRは、界面BFの一部である。
複数の結晶CRの各々は、結晶CRは、c軸に沿う結晶面CFを有している。言い換えると、結晶面CFは、c軸に平行である。
【0049】
内壁面12Iが傾斜方向Dに沿って延在している状態で、結晶面CFは、符号Rに示す領域において保護層13と接している。つまり、内壁面12Iの全体が傾斜方向Dに沿って傾斜しているかZ方向に沿って延在しているかに拘わらず、超電導層12と保護層13との界面BFにおいて、結晶面CFはc軸に沿って伸びている。このため、界面BFにおいては、a軸又はb軸に起因する高い導電性が得られている。
【0050】
(複数の凹部12Gが形成される領域)
図7は、超電導層12を模式的に示す拡大平面図である。
図7を参照し、超電導層12において複数の凹部が形成される領域を説明する。
X方向において、超電導層12は、超電導層12の端部12Eを含む2つの端領域12ERと、2つの端領域12ERの間にある中央領域12Cとを有する。
本実施形態では、端領域12ERにおいて超電導層12に形成されている複数の凹部12Gの単位面積あたりの個数は、中央領域12Cにおいて超電導層12に形成されている複数の凹部12Gの単位面積あたりの個数よりも多い。
【0051】
次に、以上のように構成された酸化物超電導線材1の作用及び効果について説明する。
酸化物超電導線材1は、超電導層12と保護層13との界面BFは、超電導層12の酸化物超電導体を構成する結晶CRのc軸に沿っている。これにより、酸化物超電導体を構成する結晶CRのa軸方向又はb軸方向に沿って、超電導層12から保護層13に電流が流れやすくなる。この結果、超電導層12と保護層13との間の界面抵抗を低減することができる。
【0052】
さらに、超電導層12と保護層13との間において、超電導層12には、内壁面12Iを有する複数の凹部12Gが形成されている。保護層13は、複数の凹部12G内に形成されている。内壁面12Iは、c軸に平行である。これにより、超電導層12に形成された複数の凹部12Gの内壁面12Iがc軸に平行である構造が得られる。この構造において、酸化物超電導体を構成する結晶CRのa軸方向又はb軸方向に沿って、超電導層12から保護層13に電流が流れやすくなる。この結果、超電導層12と保護層13との間の界面抵抗を低減することができる。複数の凹部12Gを超電導層12に形成することで、超電導層12の表面積が増加する。このため、超電導層12の酸素熱処理を効率的に実施することができる。
【0053】
また、内壁面12Iには、傾斜部12Kが形成されてもよい。この構造において、酸化物超電導体を構成する結晶CRのa軸方向又はb軸方向に沿って、超電導層12から保護層13に電流が流れやすくなる。この結果、超電導層12と保護層13との間の界面抵抗を低減することができる。
【0054】
また、超電導層12の平面視において、端領域12ERにおいて超電導層12に形成されている複数の凹部12Gの単位面積あたりの個数は、中央領域12Cにおいて超電導層12に形成されている複数の凹部12Gの単位面積あたりの個数よりも多い。このため、中央領域12Cに流れる電流に比べて、端領域12ERにおいては電流が流れやすくなる。したがって、端領域12ERにおける界面抵抗を軽減することができる。端領域12ERにおいて超電導層12の表面積が増加するので、端領域12ERにおける超電導層12の酸素熱処理を効率的に実施することができる。
【0055】
さらに、凹部12Gの深さdは、超電導層12の平均厚さtよりも小さいので、超電導層12を貫通しないように凹部12Gが超電導層12に形成されている。これにより、超電導層12の導電性を維持しつつ、超電導層12と保護層13との間の界面抵抗を低減することができる。
【0056】
また、平面視において超電導層12の面積に対する複数の凹部12Gの合計の開口面積の比率は、0.30%以上0.60%以下である。これにより、超電導層12と保護層13との間の界面抵抗を低減することができる。
【0057】
(第1実施形態の変形例)
上述した第1実施形態においては、
図7を参照し、端領域12ERにおいて超電導層12に形成されている複数の凹部12Gの単位面積あたりの個数が、中央領域12Cにおいて超電導層12に形成されている複数の凹部12Gの単位面積あたりの個数よりも多い場合を説明した。本発明は、このような構成に限定されない。
【0058】
第1実施形態の変形例の変形例として、中央領域12Cにおいて超電導層12に形成されている複数の凹部12Gの単位面積あたりの個数は、端領域12ERにおいて超電導層12に形成されている複数の凹部12Gの単位面積あたりの個数よりも多くてもよい。
この場合、端領域12ERに比べて、中央領域12Cにより多くの電流が流れる。したがって、中央領域12Cにおける界面抵抗をさらに軽減することができる。中央領域12Cにおいて超電導層12の表面積が増加するので、中央領域12Cにおける超電導層12の酸素熱処理を効率的に実施することができる。
【0059】
(第2実施形態)
(接続構造体)
第2実施形態に係る接続構造体について
図8を参照して説明する。
図8において、第1実施形態と同一部材には同一符号を付して、その説明は省略または簡略化する。また、
図8においては、安定化層14の図示が省略されている。
本実施形態に係る接続構造体20においては、上述した第1実施形態に係る酸化物超電導線材1(第1酸化物超電導線材)と接続対象物とが、はんだ15を介して接続されている。
【0060】
本実施形態においては、接続対象物は、酸化物超電導線材1と同じ構成を有する酸化物超電導線材2(第2酸化物超電導線材)である。つまり、本実施形態においては、接続対象物は、2つの酸化物超電導線材がZ方向において互いに重なり合うように接続された構造を有する。酸化物超電導線材1を一方の酸化物超電導線材と称し、かつ、酸化物超電導線材2を他方の酸化物超電導線材と称してもよい。「一方の酸化物超電導線材」を第1酸化物超電導線材と称してもよい。
【0061】
酸化物超電導線材2は、
図1に示す構造と同様に、基材10と、基材10上に設けられた中間層11と、中間層11上に設けられた超電導層12と、超電導層12上に設けられた保護層13とを備える。酸化物超電導線材2の超電導層12の表面12Fには、複数の凹部12Gが形成されている。
【0062】
図8に示すように、酸化物超電導線材1(
図8において下方に位置する酸化物超電導線材)の保護層13の表面と、酸化物超電導線材2(
図8において上方に位置する酸化物超電導線材)の保護層13の表面とが対向している。
この状態で、酸化物超電導線材1の端部に位置する保護層13と、酸化物超電導線材2の端部に位置する保護層13とが、はんだ15を介して電気的に接続されている。さらに、酸化物超電導線材1、2の各々の超電導層12に形成されている複数の凹部12Gの形成領域12Hは、はんだ15に対向している。
【0063】
なお、
図8には示されていないが、2つの酸化物超電導線材の各々の端部には、はんだを介して別の酸化物超電導線材が接続されている。この接続構造においても、
図8に示すはんだ15を用いた電気接続構造が採用されている。つまり、酸化物超電導線材の延在方向に沿って、複数の酸化物超電導線材がはんだ接続された長尺の酸化物超電導線材(接続構造体)が得られる。
【0064】
このような構成を有する接続構造体20によれば、超電導層12と保護層13との間の界面抵抗を低減することができる酸化物超電導線材1、2を用いているので、酸化物超電導線材1、2との接続抵抗を低減することができる。したがって、接続抵抗が低減された長尺の酸化物超電導線材を製造することができる。
【0065】
上述したように、複数の凹部12Gは、超電導層12と保護層13との間の界面抵抗の低減に寄与する。このため、複数の凹部12Gの形成領域12Hがはんだ15に対向していることで、接続構造体20の接続抵抗をさらに低減することができる。
【0066】
なお、
図8に示す構造では、酸化物超電導線材1、2の安定化層14が省略されているが、本発明の実施形態に係る接続構造体20は、
図8に示す構造に限定されない。
図1に示すように酸化物超電導線材1、2の各々が安定化層14を備えてもよい。この場合、酸化物超電導線材1の安定化層14と、酸化物超電導線材2の安定化層14とがはんだ15を介して接続される。この構造においても、接続抵抗が低減された長尺の酸化物超電導線材を製造することができる。
【0067】
また、
図8に示す構造では、酸化物超電導線材2の超電導層12に複数の凹部12Gが形成されているが、酸化物超電導線材2の超電導層12に凹部12Gが形成されていなくてもよい。この構造では、複数の凹部12Gが形成されている超電導層12を備える酸化物超電導線材1と、複数の凹部12Gが形成されていない超電導層12を備える酸化物超電導線材2とが接続される。この場合においても、接続構造体20の接続抵抗を低減させる効果が得られる。
【0068】
(第3実施形態)
(接続構造体)
第3実施形態に係る接続構造体について
図9を参照して説明する。
図9において、第1実施形態と同一部材には同一符号を付して、その説明は省略または簡略化する。また、
図9においては、安定化層14の図示が省略されている。
本実施形態に係る接続構造体30においては、上述した第1実施形態に係る酸化物超電導線材1(第1酸化物超電導線材)と接続対象物とが、はんだ15を介して接続されている。
【0069】
本実施形態においては、接続対象物は、電極25である。
図9に示す例では、接続対象物として電極25のみが示されているが、電極25は、基板に設けられてもよい。
つまり、本実施形態においては、接続対象物は、Z方向において酸化物超電導線材1と電極25とが互いに重なり合うように接続された構造を有する。
【0070】
図9に示すように、酸化物超電導線材1(
図9において下方に位置する)の保護層13の表面と、電極25(
図9において上方に位置する)の表面とが対向している。
この状態で、酸化物超電導線材1の端部に位置する保護層13と、電極25とが、はんだ15を介して電気的に接続されている。さらに、酸化物超電導線材1の超電導層12に形成されている複数の凹部12Gの形成領域12Hは、はんだ15に対向している。
【0071】
このような構成を有する接続構造体30によれば、超電導層12と保護層13との間の界面抵抗を低減することができる酸化物超電導線材1を用いているので、酸化物超電導線材1と電極25との接続抵抗を低減することができる。したがって、接続抵抗が低減された接続構造体を製造することができる。
【0072】
上述したように、複数の凹部12Gは、超電導層12と保護層13との間の界面抵抗の低減に寄与する。このため、複数の凹部12Gの形成領域12Hがはんだ15に対向していることで、接続構造体20の接続抵抗をさらに低減することができる。
【0073】
なお、
図9に示す構造では、酸化物超電導線材1の安定化層14が省略されているが、本発明の実施形態に係る接続構造体30は、
図9に示す構造に限定されない。
図1に示すように酸化物超電導線材1が安定化層14を備えてもよい。この場合、酸化物超電導線材1の安定化層14と、電極25の安定化層14とがはんだ15を介して接続される。
この構造においても、接続抵抗が低減された接続構造体を製造することができる。
【0074】
なお、
図8に示す接続構造体20及び
図9に示す接続構造体30の各々は、はんだ15を介して、酸化物超電導線材と接続対象物とが接続された構造を有する。
【0075】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明し、上記で説明してきたが、これらは本発明の例示的なものであり、限定するものとして考慮されるべきではないことを理解すべきである。追加、省略、置換、およびその他の変更は、本発明の範囲から逸脱することなく行うことができる。したがって、本発明は、前述の説明によって限定されていると見なされるべきではなく、請求の範囲によって制限されている。
【0076】
上述した実施形態では、基材10と超電導層12との間に中間層11が配置されている構造(第1実施形態)について説明した。
本発明においては、基材の上方に超電導層が設けられていればよく、基材上に超電導層が設けられてもよいし、基材上に超電導層が直接的に接触してもよい。
【実施例0077】
次に、実施例を参照して、本発明を具体的に説明する。
【0078】
(1)超電導層12と保護層13との間の界面抵抗の測定結果
表1は、凹部12Gの深さ及び凹部12Gの面積比率を変化させた場合において超電導層12と保護層13との間の界面抵抗を測定した結果を示している。
【表1】
【0079】
表1に示す界面抵抗(超電導層/Ag保護層の界面抵抗)の測定方法について説明する。
まず、
図8に示すように、2つの酸化物超電導線材1、2が接合された接続構造体を用意する。2つの酸化物超電導線材1、2の各々は、同じ層構成(同じ仕様)を有している。2つの酸化物超電導線材1、2の各々は、基材10上に、中間層11、凹部12Gが形成されている超電導層12、及び保護層13が順に積層された層構成を有する。2つの酸化物超電導線材1、2の保護層13は、はんだ15を介して接続されている。
【0080】
次に、接続構造体を超電導状態にした状態で、酸化物超電導線材1の保護層13と酸化物超電導線材2の保護層13との間の抵抗値を測定する。このときの抵抗値は、酸化物超電導線材1における超電導層12と保護層13との界面における界面抵抗R1と、酸化物超電導線材2における超電導層12と保護層13との界面における界面抵抗R2との合計となる。なお、界面抵抗R1と界面抵抗R2とは同じ値である。
【0081】
したがって、1本の酸化物超電導線材における超電導層12と保護層13との間の界面抵抗の値は、上述のように測定された抵抗値の1/2となる。なお、保護層13とはんだ15との間にも抵抗が存在するが、この抵抗値は、上述の界面抵抗R1、R2に比べれば非常に小さい。このため、保護層13とはんだ15との間の抵抗値は無視できる。
【0082】
表1において、比較例は、超電導層12に凹部12Gが形成されていない酸化物超電導線材を示している。実施例1、2は、超電導層12に複数の凹部12Gが形成されている酸化物超電導線材を示している。
実施例1、2の各々においては、超電導層12の表面12Fに対してレーザ光を照射し、表面12Fを部分的にエッチングし、複数の凹部12Gを形成した(
図3参照)。複数の凹部12Gの各々のサイズに関し、深さは0.5μmとし、直径は50μmとした。超電導層12の平均厚さは、2.1μmであった。
【0083】
これに対し、表1に示す実施例3は、凹部12Gの深さの点で実施例1とは異なっており、実施例3における凹部12Gの深さは、1.0μmとした。なお、実施例3においては、互いに隣り合う2つの凹部12Gの間の間隔が0.16mmとしたため、実施例3の凹部12Gの面積比率は、実施例1と同じである。
【0084】
表1に示す界面抵抗(超電導層12と保護層13との間の界面抵抗)の結果から明らかなように、比較例の界面抵抗の値は30(×10-9Ω/cm2)であり、実施例1の界面抵抗の値は27(×10-9Ω/cm2)であり、実施例2の界面抵抗の値は25(×10-9Ω/cm2)であり、実施例3の界面抵抗の値は24(×10-9Ω/cm2)であった。
【0085】
表1に示す結果から、超電導層12に複数の凹部12Gが形成されていない比較例の界面抵抗よりも、超電導層12に複数の凹部12Gが形成されている実施例1~3の界面抵抗が低いことが明らかとなった。
実施例1、2を比較すると、凹部12Gの面積比率を高めることで、界面抵抗が低くなることが明らかとなった。
実施例1、3を比較すると、凹部12Gの深さを大きくすることで、界面抵抗が低くなることが明らかとなった。
【0086】
(2)酸素熱処理時間の測定結果
図10は、上述した比較例、実施例1、及び実施例2の酸化物超電導線材に関し、熱処理時間と臨界電流値との関係を調べた結果を示している。
図10の結果は、以下の条件に基づいて得られている。
【0087】
(熱処理条件1)
熱処理炉の雰囲気を酸素雰囲気とした。酸化物超電導線材を熱処理炉内に配置した。熱処理炉内の温度が200℃以上に設定された状態を4時間~12時間保持した。熱処理が終了した後、かつ、熱処理炉の温度が50℃以下になった後、熱処理炉から酸化物超電導線材を取り出した。
【0088】
(熱処理条件2)
熱処理炉の雰囲気を酸素雰囲気とした。酸化物超電導線材を熱処理炉内に配置した。熱処理炉内の温度が500℃以上に設定された状態を12時間保持した。熱処理が終了した後、かつ、熱処理炉の温度が50℃以下になった後、熱処理炉から酸化物超電導線材を取り出した。熱処理条件2は、酸素熱処理を十分に行うための熱処理条件である。
【0089】
(臨界電流(Ic)の測定)
熱処理条件1により、比較例、実施例1、及び実施例2の酸化物超電導線材に熱処理を施し、その後、比較例、実施例1、及び実施例2の酸化物超電導線材の各々の臨界電流(Ic)を測定した。
【0090】
(基準臨界電流(Ic0)の測定)
熱処理条件2により、比較例、実施例1、及び実施例2の酸化物超電導線材に熱処理を施し、その後、比較例、実施例1、及び実施例2の酸化物超電導線材の各々の基準臨界電流(Ic0)を測定した。
【0091】
(臨界電流の規格化)
比較例、実施例1、及び実施例2の酸化物超電導線材の各々の臨界電流(Ic)をI0で規格化した。すなわち、Ic/Ic0の値を求めた。Ic/Ic0の値が0.97以上となった点を最小酸素熱処理時間と定義した。
【0092】
図10から明らかなように、比較例における最小酸素熱処理時間は10時間であった。実施例1における最小酸素熱処理時間は9時間であった。実施例2における最小酸素熱処理時間は8時間であった。
つまり、超電導層12に凹部12Gが形成されている実施例1、2の酸化物超電導線材においては、超電導層12に凹部12Gが形成されていない比較例の酸化物超電導線材よりも、最小酸素熱処理時間を短縮することができることが明らかとなった。
さらに、複数の凹部12Gの開口面積の比率が0.6%である実施例2においては、複数の凹部12Gの開口面積の比率が0.3%である実施例1よりも、最小酸素熱処理時間を短縮することができることが明らかとなった。
1…酸化物超電導線材(第1酸化物超電導線材)、2…酸化物超電導線材(第2酸化物超電導線材)、10…基材、11…中間層、12…超電導層、12B…底面、12C…中央領域、12E…端部、12ER…端領域、12F…表面、12G…凹部、12H…形成領域、12I…内壁面、12K…傾斜部、13…保護層、14…安定化層、15…はんだ、20…接続構造体、25…電極、30…接続構造体、BF…界面、CF…結晶面、CR…結晶