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特開2023-120880データ処理装置、データ処理方法、データ処理プログラムおよび磁気共鳴イメージング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120880
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】データ処理装置、データ処理方法、データ処理プログラムおよび磁気共鳴イメージング装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20230823BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20230823BHJP
   G01R 33/46 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
A61B5/055 380
A61B5/055 311
G01N24/00 530K
G01R33/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023997
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹島 秀則
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AA13
4C096AB44
4C096AD06
4C096AD07
4C096AD14
4C096BA05
4C096BA20
4C096BA25
4C096BB03
4C096DC22
4C096DC28
4C096DC33
(57)【要約】
【課題】信号の視認性を向上させること。
【解決手段】本実施形態に係るデータ処理装置は、生成部と、取得部と、推定部とを含む。生成部は、選択された周波数帯域がそれぞれ異なる2以上のMRS(Magnetic Resonance Spectroscopy)パルスシーケンスを生成する。取得部は、前記2以上のMRSパルスシーケンスによりそれぞれ収集された、複数のMRS信号を取得する。推定部は、分子の種類に依存した周波数プロファイルの共起性を利用し、前記複数のMRS信号から測定対象領域に含まれる各分子の相対量を推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抑制対象として選択された周波数帯域がそれぞれ異なる2以上のMRS(Magnetic Resonance Spectroscopy)パルスシーケンスを生成する生成部と、
前記2以上のMRSパルスシーケンスによりそれぞれ収集された、複数のMRS信号を取得する取得部と、
分子の種類に依存した周波数プロファイルの共起性を利用し、前記複数のMRS信号から測定対象領域に含まれる各分子の相対量を推定する推定部と、
を具備するデータ処理装置。
【請求項2】
前記MRSパルスシーケンスは、複数の異なる周波数プロファイルに対応した周波数帯域を選択する周波数選択パルスを含む、請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項3】
前記生成部は、前記周波数選択パルスを含まないMRSパルスシーケンスをさらに生成し、
前記取得部は、前記周波数選択パルスを含まないMRSパルスシーケンスにより、MRS信号をさらに取得する、請求項2に記載のデータ処理装置。
【請求項4】
前記周波数選択パルスは、MEGAパルスまたは周波数選択型のプリパルスである、請求項2または請求項3に記載のデータ処理装置。
【請求項5】
前記周波数選択パルスを含む2以上のMRSパルスシーケンスの一部は、周波数帯域が重複したパルスシーケンスである、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載のデータ処理装置。
【請求項6】
前記MRSパルスシーケンスは、複数の周波数帯域を一度に励起するパルスシーケンスである、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のデータ処理装置。
【請求項7】
前記複数のMRS信号は、前記2以上のMRSパルスシーケンスを1セットとして、複数セット繰り返し収集されることにより取得される、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のデータ処理装置。
【請求項8】
前記推定部は、複数の分子の基底スペクトルの積和に基づくスペクトル信号を入力データとし、前記複数の分子それぞれの相対量を正解データとしてモデルを学習させた学習済みモデルを用いて、前記複数のMRS信号それぞれを前記学習済みモデルに入力し、前記測定対象領域に含まれる1以上の分子の相対量を出力する、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のデータ処理装置。
【請求項9】
前記推定部は、前記複数のMRS信号のうちの第1MRS信号と第2MRS信号との差分である差分信号を前記学習済みモデルに入力する、請求項8に記載のデータ処理装置。
【請求項10】
前記学習済みモデルを利用する場合、所定の周波数帯域候補を選択可能に画面に表示させる表示制御部をさらに具備する、請求項8または請求項9に記載のデータ処理装置。
【請求項11】
学習済みモデルを利用しない場合、データ再構成を実行可能な周波数帯域候補を選択可能または入力可能に画面に表示させる表示制御部をさらに具備する、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のデータ処理装置。
【請求項12】
抑制対象として選択された周波数帯域がそれぞれ異なる2以上のMRS(Magnetic Resonance Spectroscopy)パルスシーケンスを生成し、
前記2以上のMRSパルスシーケンスによりそれぞれ収集された、複数のMRS信号を取得し、
分子の種類に依存した周波数プロファイルの共起性を利用し、前記複数のMRS信号から測定対象領域に含まれる各分子の相対量を推定する、
データ処理方法。
【請求項13】
コンピュータに、
抑制対象として選択された周波数帯域がそれぞれ異なる2以上のMRS(Magnetic Resonance Spectroscopy)パルスシーケンスを生成する生成機能と、
前記2以上のMRSパルスシーケンスによりそれぞれ収集された、複数のMRS信号を取得する取得機能と、
分子の種類に依存した周波数プロファイルの共起性を利用し、前記複数のMRS信号から測定対象領域に含まれる各分子の相対量を推定する推定機能と、
を実現させるデータ処理プログラム。
【請求項14】
抑制対象として選択された周波数帯域がそれぞれ異なる2以上のMRS(Magnetic Resonance Spectroscopy)パルスシーケンスを生成する生成部と、
前記2以上のMRSパルスシーケンスに基づきRF信号を送信し、測定対象領域から、各MRSパルスシーケンスに対応する複数のMRS信号を収集する収集部と、
分子の種類に依存した周波数プロファイルの共起性を利用し、前記複数のMRS信号から前記測定対象領域に含まれる各分子の相対量を推定する推定部と、
を具備する磁気共鳴イメージング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、データ処理装置、データ処理方法、データ処理プログラムおよび磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRスペクトロスコピー(MRS:Magnetic Resonance Spectroscopy)は、収集されたデータから生体内の分子(代謝物)の種類を分析することができる。分子の種類によっては、信号のピークが複数個存在するJカップリングという現象が生じうる。Jカップリングは分子ごとに固有の特性(周波数プロファイルともいう)を有するため、Jカップリングを考慮した信号分析によって分子の識別性能を向上できる可能性がある。
しかし、似たようなケミカルシフトを有する分子が多く存在するため、分子からの信号が弱い場合、他の信号に埋もれて検出できない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-159928号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本磁気共鳴医学会プロジェクト研究 Proton MRSの臨床有用性検討会編,”Proton MRSの臨床有用性コンセンサスガイド 2013年度版”,[online],2013年6月10日,[2022年1月11日検索]、インターネット<URL:http://fa.kyorin.co.jp/jsmrm/haifuryo_new_MRS_guideline2013.pdf”>
【非特許文献2】Hidenori Takeshima, ”Deep Learning and Its Application to Function Approximation for MR in Medicine: An Overview”、[Online]、2021年9月17日、Magnetic Resonance in Medical Sciences、[2022年1月11日検索]、インターネット<URL:https://doi.org/10.2463/mrms.rev.2021-0040>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、信号の視認性を向上させることである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態に係るデータ処理装置は、生成部と、取得部と、推定部とを含む。生成部は、抑制対象として選択された周波数帯域がそれぞれ異なる2以上のMRS(Magnetic Resonance Spectroscopy)パルスシーケンスを生成する。取得部は、前記2以上のMRSパルスシーケンスによりそれぞれ収集された、複数のMRS信号を取得する。推定部は、分子の種類に依存した周波数プロファイルの共起性を利用し、前記複数のMRS信号から測定対象領域に含まれる各分子の相対量を推定する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置を示すブロック図である。
図2図2は、データ処理装置を含む磁気共鳴イメージング装置の動作を示すフローチャート。
図3図3は、MRSパルスシーケンスの第1例を示す図である。
図4図4は、MRSパルスシーケンスの第2例を示す図である。
図5図5は、MRSパルスシーケンスで抑制対象として選択される周波数帯域の一例を示す図である。
図6図6は、複数のRFパルスを用いる場合の組み合わせの一例を示すテーブルである。
図7図7は、機械学習モデルの学習段階を示す図である。
図8図8は、機械学習モデルの推論段階を示す図である。
図9図9は、周波数帯域の入力を受け付けるユーザインタフェースの第1例を示す図である。
図10図10は、周波数帯域の入力を受け付けるユーザインタフェースの第1例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係わるデータ処理装置、データ処理方法、データ処理プログラムおよび磁気共鳴イメージング装置について説明する。以下の実施形態では、同一の参照符号を付した部分は同様の動作をおこなうものとして、重複する説明を適宜省略する。以下、一実施形態について図面を用いて説明する。
【0009】
本実施形態に係るデータ処理装置は、磁気共鳴イメージング装置により収集された磁気共鳴信号(以下、MR信号)を処理する。データ処理装置は、磁気共鳴イメージング装置に組み込まれてもよいし、磁気共鳴イメージング装置とは別体であってもよい。
【0010】
図1は、本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1の構成例を示すブロック図である。図1に示すように、磁気共鳴イメージング装置1は、架台11、寝台13、傾斜磁場電源21、送信回路23、受信回路25、寝台駆動装置27、シーケンス制御回路29及びデータ処理装置(ホストコンピュータ)50を有する。
【0011】
架台11は、静磁場磁石41と傾斜磁場コイル43とを有する。静磁場磁石41と傾斜磁場コイル43とは架台11の筐体に収容されている。架台11の筐体には中空形状を有するボアが形成されている。架台11のボア内には送信コイル45と受信コイル47とが配置される。
【0012】
静磁場磁石41は、中空の略円筒形状を有し、略円筒内部に静磁場を発生する。静磁場磁石41としては、例えば、永久磁石、超伝導磁石または常伝導磁石等が使用される。ここで、静磁場磁石41の中心軸をZ軸に規定し、Z軸に対して鉛直に直交する軸をY軸に規定し、Z軸に水平に直交する軸をX軸に規定する。X軸、Y軸及びZ軸は、直交3次元座標系を構成する。
【0013】
傾斜磁場コイル43は、静磁場磁石41の内側に取り付けられ、中空の略円筒形状に形成されたコイルユニットである。傾斜磁場コイル43は、傾斜磁場電源21からの電流の供給を受けて傾斜磁場を発生する。より詳細には、傾斜磁場コイル43は、互いに直交するX軸、Y軸、Z軸に対応する3つのコイルを有する。当該3つのコイルは、X軸、Y軸、Z軸の各軸に沿って磁場強度が変化する傾斜磁場を形成する。X軸、Y軸、Z軸の各軸に沿う傾斜磁場は合成されて互いに直交するスライス選択傾斜磁場Gs、位相エンコード傾斜磁場Gp及び周波数エンコード傾斜磁場Grが所望の方向に形成される。スライス選択傾斜磁場Gsは、任意に撮像断面(スライス)を決めるために利用される。位相エンコード傾斜磁場Gpは、空間的位置に応じて磁気共鳴信号(以下、MR信号と呼ぶ)の位相を変化させるために利用される。周波数エンコード傾斜磁場Grは、空間的位置に応じてMR信号の周波数を変化させるために利用される。なお、以下の説明においてスライス選択傾斜磁場Gsの傾斜方向はZ軸、位相エンコード傾斜磁場Gpの傾斜方向はY軸、周波数エンコード傾斜磁場Grの傾斜方向はX軸であるとする。
【0014】
傾斜磁場電源21は、シーケンス制御回路29からのシーケンス制御信号に従い傾斜磁場コイル43に電流を供給する。傾斜磁場電源21は、傾斜磁場コイル43に電流を供給することにより、X軸、Y軸及びZ軸の各軸に沿う傾斜磁場を傾斜磁場コイル43により発生させる。当該傾斜磁場は、静磁場磁石41により形成された静磁場に重畳されて被検体Pに印加される。
【0015】
送信コイル45は、例えば、傾斜磁場コイル43の内側に配置され、送信回路23から電流の供給を受けて高周波パルス(以下、RFパルスと呼ぶ)を発生する。
【0016】
送信回路23は、被検体P内に存在する対象プロトンを励起するためのRFパルスを、送信コイル45を介して被検体Pに印加するために、送信コイル45に電流を供給する。RFパルスは、対象プロトンに固有の共鳴周波数で振動し、対象プロトンを励起させる。励起された対象プロトンからMR信号が発生され、受信コイル47により検出される。送信コイル45は、例えば、全身用コイル(WBコイル)である。全身用コイルは、送受信コイルとして使用されても良い。
【0017】
受信コイル47は、RFパルスの作用を受けて被検体P内に存在する対象プロトンから発せられるMR信号を受信する。受信コイル47は、MR信号を受信可能な複数の受信コイルエレメントを有する。受信されたMR信号は、有線又は無線を介して受信回路25に供給される。図1に図示しないが、受信コイル47は、並列的に実装された複数の受信チャネルを有している。受信チャネルは、MR信号を受信する受信コイルエレメント及びMR信号を増幅する増幅器等を有している。MR信号は、受信チャネル毎に出力される。受信チャネルの総数と受信コイルエレメントの総数とは同一であっても良いし、受信チャネルの総数が受信コイルエレメントの総数に比して多くてもよいし、少なくてもよい。
【0018】
受信回路25は、励起された対象プロトンから発生されるMR信号を受信コイル47を介して受信する。受信回路25は、受信されたMR信号を信号処理してデジタルのMR信号を発生する。デジタルのMR信号は、空間周波数により規定されるk空間にて表現することができる。よって、以下、デジタルのMR信号をk空間データと呼ぶことにする。k空間データは、MR収集信号の一例である。k空間データは、有線又は無線を介してデータ処理装置50に供給される。
【0019】
なお、上記の送信コイル45と受信コイル47とは一例に過ぎない。送信コイル45と受信コイル47との代わりに、送信機能と受信機能とを備えた送受信コイルが用いられても良い。また、送信コイル45、受信コイル47及び送受信コイルが組み合わされても良い。
【0020】
架台11に隣接して寝台13が設置される。寝台13は、天板131と基台133とを有する。天板131には被検体Pが載置される。基台133は、天板131をX軸、Y軸、Z軸各々に沿ってスライド可能に支持する。基台133には寝台駆動装置27が収容される。寝台駆動装置27は、シーケンス制御回路29からの制御を受けて天板131を移動する。寝台駆動装置27は、例えば、サーボモータやステッピングモータ等の如何なるモータ等を含んでも良い。
【0021】
シーケンス制御回路29は、ハードウェア資源として、CPU(Central Processing Unit)あるいはMPU(Micro Processing Unit)のプロセッサとROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のメモリとを有する。シーケンス制御回路29は、処理回路51の生成機能511により設定されたデータ収集条件に基づいて傾斜磁場電源21、送信回路23及び受信回路25を同期的に制御し、当該データ収集条件に応じたデータ収集を被検体Pに施して、被検体Pに関するk空間データを収集する。シーケンス制御回路29は、シーケンス制御部の一例である。
【0022】
本実施形態に係るシーケンス制御回路29は、ケミカルシフト計測の一種であるMRスペクトロスコピー(以下、MRSともいう)のためのデータ収集を実行する。ケミカルシフト計測は、化学的環境の違いに応じて生じる、水素原子核等の対象プロトンの共鳴周波数の微小な差異であるケミカルシフトを計測する技術である。MRSは、単一ボクセルについてデータ収集を行うシングルボクセル法や複数ボクセルについてデータ収集を行うマルチボクセル法があり、本実施形態は何れの方法にも適用可能である。マルチボクセル法は、ケミカルシフトイメージング(CSI:Chemical Shift Imaging)やMRSイメージング(MRSI:MRS Imaging)等とも呼ばれる。計測対象領域のボクセルを関心ボクセルと呼ぶ。
【0023】
シーケンス制御回路29は、被検体Pに対し、MRSのためのデータ収集を実行する。MRSのためのデータ収集を実行することにより、被検体Pの関心ボクセルから自由誘導減衰(FID:Free Induction Decay)信号又はスピンエコー信号が発生される。受信回路25は、受信コイル47を介してFID信号又はスピンエコー信号を受信し、受信されたFID信号又はスピンエコー信号を信号処理して、関心ボクセルに関するk空間データを収集する。収集されるk空間データは、関心ボクセルから発せられた信号強度値を時間関数で表すデジタルデータであるとする。MRSのためのパルスシーケンスは積算回数(NEX:number of excitation)分だけ繰り返され、積算回数分のk空間データが収集される。以下、MRSにより収集されたk空間データをMRSkデータと呼ぶことにする。MRSkデータは、MRS信号の一例である。
【0024】
図1に示すように、データ処理装置50は、処理回路51、メモリ53、ディスプレイ55、入力インタフェース57および通信インタフェース59を有するコンピュータである。
【0025】
処理回路51は、ハードウェア資源としてCPU等のプロセッサを有する。処理回路51は、磁気共鳴イメージング装置1の中枢として機能する。例えば、処理回路51は、各種プログラムの実行により生成機能511、取得機能512、推定機能513、表示制御機能514および学習機能515を実現する。
【0026】
生成機能511により処理回路51は、抑制対象として選択された周波数帯域がそれぞれ異なる2以上のMRSパルスシーケンスを生成する。MRSパルスシーケンスは、自動的又は手動的に設定される。具体的には、MRSパルスシーケンスの一例として、複数の異なる周波数プロファイルに対応した周波数選択パルスを含むパルスシーケンスを用いる。MRSパルスシーケンスとしては、例えば、PRESS(point resolved spectroscopy)やSTEAM(stimulated echo acquisition mode)、semi-LASER(semi-localization by adiabatic selective refocusing)、LASER等が知られている。
【0027】
また、本実施形態においては、MRSに関するデータ収集条件もあわせて設定される。MRSに関するデータ収集条件としては、例えば、上述のMRSパルスシーケンスのほか、繰り返し時間(TR)、エコー時間(TE)、積算回数、スペクトル幅、サンプリング数、データ収集法、領域選択パルス等の条件項目がある。
例えば、処理回路51は、MRSkデータに基づいて、ケミカルシフト毎の信号強度を示すスペクトル(以下、MRSスペクトルと呼ぶ)を生成する。MRSスペクトルは、MRS信号の一例である。
【0028】
取得機能512により処理回路51は、2以上のMRSパルスシーケンスによりそれぞれ収集された、複数のMRS信号を取得する。
【0029】
推定機能513により処理回路51は、分子(代謝物)の種類に依存した周波数プロファイルの共起性を利用し、複数のMRS信号から測定対象領域に含まれる各分子の相対量(相対強度)を推定する。分子の種類に依存した周波数プロファイルとは、分子ごとに固有のケミカルシフトの値であり、MRSスペクトル上のピーク位置に対応する。例えば、非特許文献1に開示されるように、代謝物それぞれが固有のケミカルシフトの値を1つ以上有する。
【0030】
表示制御機能514により処理回路51は、学習済みモデルを利用する場合、所定の周波数帯域候補を選択可能に画面に表示させる。また、表示制御機能514により処理回路51は、学習済みモデルを利用しない場合、データ再構成を実行可能な周波数帯域候補を選択可能に画面に表示させる。
【0031】
学習機能515により処理回路51は、訓練データを用いてモデルを訓練し、学習済みモデルを生成する。訓練データおよび学習方法については後述する。
【0032】
メモリ53は、種々の情報を記憶するHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、集積回路記憶装置等の記憶装置である。また、メモリ53は、CD-ROMドライブやDVDドライブ、フラッシュメモリ等の可搬型記憶媒体との間で種々の情報を読み書きする駆動装置等であっても良い。例えば、メモリ53は、物質量推定NN、データ収集条件、MRS信号、制御プログラム等を記憶する。
【0033】
ディスプレイ55は、表示制御機能514より種々の情報を表示する。ディスプレイ55としては、例えば、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、プラズマディスプレイ、又は当技術分野で知られている他の任意のディスプレイが適宜利用可能である。
【0034】
入力インタフェース57は、ユーザからの各種指令を受け付ける入力機器を含む。入力機器としては、キーボードやマウス、各種スイッチ、タッチスクリーン、タッチパッド等が利用可能である。なお、入力機器は、マウス、キーボードなどの物理的な操作部品を備えるものだけに限らない。例えば、磁気共鳴イメージング装置1とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、受け取った電気信号を種々の回路へ出力するような電気信号の処理回路も入力インタフェース57の例に含まれる。また、入力インタフェース57は、マイクロフォンにより収集された音声信号を指示信号に変換する音声認識装置でもよい。
【0035】
通信インタフェース59は、LAN(Local Area Network)等を介して磁気共鳴イメージング装置1と、ワークステーションやPACS(Picture Archiving and Communication System)、HIS(Hospital Information System)、RIS(Radiology Information System)等とを接続するインタフェースである。通信インタフェース59は、各種情報を接続先のワークステーション、PACS、HIS及びRISとの間で送受信する。
【0036】
次に、本実施形態に係るデータ処理装置50を含む磁気共鳴イメージング装置1の動作例について図2のフローチャートを参照して説明する。
【0037】
ステップS201では、処理回路51が、MRSパルスシーケンスに基づき励起される、複数の異なる周波数帯域を抑制対象として選択する。例えば、表示制御機能514により処理回路51が、ユーザから複数の異なる周波数帯域の入力または選択を受け付ければよい。または、生成機能511により処理回路51が、予め定められた複数の異なる周波数帯域を選択してもよい。
ステップS202では、生成機能511により処理回路51が、抑制対象として選択された周波数帯域ごとにMRSパルスシーケンスを生成する。
ステップS203では、例えばシーケンス制御回路29が、複数のMRSパルスシーケンスを順番に繰り返し実行し、MRSパルスシーケンスごとにMRS信号を収集する。MRSパルスシーケンスを繰り返す回数は、例えばMRS信号の積算回数に基づいて決定される。
【0038】
ステップS204では、取得機能512により処理回路51が、MRSパルスシーケンスごとに収集された複数のMRS信号を取得する。
ステップS205では、推定機能513により処理回路51が、得られた複数のMRS信号から、測定対象領域に含まれる各分子の相対量を推定する。推定処理は、例えば、学習済みモデルに得られた複数のMRS信号を入力することで、学習済みモデルから各分子の相対量の推定結果を得ればよい。
【0039】
次に、本実施形態で想定するMRSパルスシーケンスの第1例について図3を参照して説明する。
図3は、MEGA-PRESS法(非特許文献:M.Mescher et al. Solvent Suppression Using Selective Echo Dephasing. J. Magnetic Reasonance Series A 123, Article No. 0242, 226-229 (1996))によるMRSパルスシーケンス図である。
【0040】
PRESS法による3度のRFパルスの照射間に、周波数選択パルスであるMEGAパルスを照射する。図3の例では、Z軸に沿う傾斜磁場310を印加することでz軸方向のスライス面を選択しながら励起パルス301(90度パルス)を照射する。続いて、MEGAパルス350(180度パルス)を照射し、その後、Y軸に沿う傾斜磁場310を印加することでY軸方向のスライス面を選択しながら反転パルス302(180度パルス)を照射する。続いて、MEGAパルス350(180度パルス)を照射し、その後、X軸に沿う傾斜磁場310を印加することでX軸方向のスライス面を選択しながら反転パルス303(180度パルス)を照射する。受信回路25では、以上の操作により選択されたボクセルである測定対象領域から発生するエコー信号305を、MRS信号として受信できる。
【0041】
また、周波数帯域を選択せずに撮像する場合は、MEGAパルス350は照射されずに、通常のPRESS法によるシーケンス、すなわち、励起パルス301、反転パルス302および反転パルス303が順に照射される。
なお、図3、MEGA-PRESS法を用いる場合を例に説明したが、PRESS法でなくてもよく、例えばSTEAM、semi-LASER、LASERであってもよい。
【0042】
次に、本実施形態に係るMRSパルスシーケンスの第2例について図4を参照して説明する。
図4では、MEGAパルス350相当の周波数選択に関するプリパルス401として、90度パルスを励起パルス301の前に照射する。また、横磁化を消失させるためのクラッシャーとなる傾斜磁場402を各軸で印加する。パルスシーケンスのうちMEGAパルス以外の部分については、一般的なPRESS法のパルスシーケンスを用いればよい。
【0043】
なお、図3および図4ともに、水、脂肪といった信号を抑制するための処理を実行してもよい。例えば、水、脂肪のピークに対応する周波数のRFパルスをプリパルスとして照射してもよい。図3および図4では、MRSパルスシーケンスとして、PRESS法を想定しているが、STEAM、semi-LASER、LASERといった、他のパルスシーケンスであってもよい。
【0044】
次に、MRSパルスシーケンスで抑制対象として選択される周波数帯域の一例について図5を参照して説明する。
図5は、2つのMRSパルスシーケンスでそれぞれ抑制対象として選択された周波数帯域と、周波数帯域を選択しないMRSパルスシーケンスに関する周波数帯域とを示す。図5以降の例では、3つのMRSパルスシーケンスを1セットとして繰り返し、3つのMRSパルスシーケンスごとにMRS信号を取得するが、これに限らず、抑制対象として2以上の異なる周波数帯域が選択されたMRSパルスシーケンスを1セットとし、各MRSパルスシーケンスに対応する2以上のMRS信号を収集してもよい。
【0045】
図3または図4に示すMRSパルスシーケンスは、ある分子の周波数プロファイルに対応した、MEGAによる周波数選択パルスが持つ帯域のみを抑制した1つのMR信号を得るための時間TR(repetition time)に対するパルスシーケンスである。異なる3つの周波数帯域を抑制するのであれば、図3および図4に示すMRSパルスシーケンスを、抑制対象として選択する周波数帯域ごとに設定し、3つのMRSパルスシーケンスを1セットとして、加算回数分、複数セット繰り返される。また、1セットに含まれるMRSパルスシーケンスのうちの1つは、特定の周波数選択パルスを抑制対象としない、広周波数帯域に係るMRSパルスシーケンスでもよい。
【0046】
具体的に図5の例では、第1周波数帯域501を抑制するMRSパルスシーケンス#1-1、第1周波数帯域501とは異なる第2周波数帯域502を抑制するMRSパルスシーケンス#2-1、および、MEGAパルスをOFFとした、抑制対象の周波数帯域を選択しない(言い換えれば、広周波数帯域503を指定する)MRSパルスシーケンス#3-1を順に実行する。その後、MRSパルスシーケンス#1~#3を1セットとして、MRSパルスシーケンス#3-1の収集に続き、2回目のセットが実行される。すなわち、第1周波数帯域501を抑制するMRSパルスシーケンス#1-2、第2周波数帯域502を抑制するMRSパルスシーケンス#2-2、およびMEGAパルスをOFFとしたMRSパルスシーケンス#3-2、といったように、セットごとにMRSパルスシーケンスが繰り返される。
【0047】
なお、広周波数帯域503を指定するMRSパルスシーケンスではなく、第1周波数帯域501および第2周波数帯域502と異なる周波数帯域を抑制対象として選択するMRSパルスシーケンスにより1セットが構成されてもよい。
なお、広周波数帯域503を指定するMRSパルスシーケンスにおいても、水および脂肪の少なくとも一方を抑制するパルスを含んでもよい。すなわち、本実施形態に係る「広周波数帯域」とは、水および脂肪のピークに対応する帯域のみを選択的に抑制する(例えば、4.8ppmや1.3ppmを中心とした)周波数帯域である場合も含む。
【0048】
MRS信号は、各MRSパルスシーケンスで収集されるMRS信号ごとに加算される。すなわち、MRSパルスシーケンス#1-1,1-2,...,1-NまでのN個の信号が加算されることで、MRSパルスシーケンス#1のMRS信号が生成される。MRSパルスシーケンス#2およびMRSパルスシーケンス#3についても同様である。これにより、体動などによるMRS信号のズレを平均化することができる。
【0049】
ここで、同一の周波数帯域を収集するMRSパルスシーケンスは、各順において、異なる位相の励起パルスを用いてもよい。例えば、1回目のMRSパルスシーケンス#1-1では、ゼロ度の位相の励起パルスを照射し、2回目のMRSパルスシーケンス#1-2では、90度の位相の励起パルスを照射し、1回目のMRSパルスシーケンス#1-3では、180度の位相の励起パルスを照射し、といったように、励起パルスの位相を変化させる。
【0050】
なお、1セット内で抑制対象として選択された周波数帯域が異なるMRSパルスシーケンス間でも励起パルスの位相を変化させてもよい。例えば、MRSパルスシーケンス#1-1では、ゼロ度の位相の励起パルスを照射し、MRSパルスシーケンス#2-1では、90度の位相の励起パルスを照射し、MRSパルスシーケンス#3-1では、180度の位相の励起パルスを照射し、といったように励起パルスの位相を変化させればよい。さらに、同一の周波数帯域を収集するMRSパルスシーケンスの各順と、1セット内で抑制対象として選択された周波数帯域が異なるMRSパルスシーケンス間との両方で、異なる位相の励起パルスを用いてもよい。
【0051】
また、1セットにおけるMRSパルスシーケンス#1~#3の周波数帯域は、一部が重複してもよい。具体的には、第1周波数帯域501が「1.3ppm±0.6ppm」であり、第2周波数帯域502が「1.7ppm±0.6ppm」でもよい。この場合、「1.1ppm~1.9ppm」の帯域で重複する。
【0052】
なお、上述の各MRSパルスシーケンスでは、1箇所の周波数帯域を抑制対象として選択することを想定したが、抑制対象として選択される周波数帯域を複数合成(エンコード)してもよい。
抑制対象として複数の周波数帯域を選択する場合の組み合わせの一例について図6を参照して説明する。
図6に示すテーブルは、縦列はMRSパルスシーケンス(図6の説明においては単にシーケンスという)であり、横列は抑制対象として選択される周波数帯域を示す。例えば、シーケンス#1では、帯域1(1.5ppm±0.2ppm)と帯域3(2.3ppm±0.2ppm)との2帯域を抑制対象として選択する。また、シーケンス#3では、帯域1(1.5ppm±0.2ppm)と、帯域2(2.3ppm±0.2ppm)と、帯域4(2.7ppm±0.2ppm)との3帯域を抑制対象として選択する。このように、1つのMRSパルスシーケンスで複数の周波数帯域を抑制対象として選択されてもよい。
【0053】
1セットに含まれるMRSパルスシーケンス間で抑制対象として選択される周波数帯域の組み合わせは、各周波数帯域が個別に復元可能な組み合わせでエンコードされればよい。言い換えれば、図6に示すテーブルの「on」「off」を「1」「0」でそれぞれ表現した場合、逆行列が存在するような組み合わせであればよい。
【0054】
次に、ステップS205に示すMRS信号に基づく分子の相対量の推定処理について詳細に説明する。
複数のMRS信号は、例えば推定機能513により、複数回収集した、同一の周波数帯域を抑制対象として選択したMRSパルスシーケンスにより複数回収集したMRS信号を加算し、当該周波数帯域に関する1つのMRS信号を生成する。このとき、複数回収集したMRS信号に対して位相補正処理を実行してから加算してもよい。これにより、MRS信号の劣化を低減することができる。
【0055】
また、MRS信号は、各分子の信号値の積和と考えることができ、例えば以下の(1)式で表現できる。
【0056】
S(f,k)=ΣP(i,k,TE)+n (1)
fは、周波数(ppm単位)であり、kはMRSパルスシーケンスのインデックス(例えば、#1,#2など)、iは分子の種類のインデックスであり、Pは、分子の既知の周波数パターンであり、wは算出したい信号強度であり、nはノイズである。
【0057】
また、Jカップリングにより、スペクトル上で複数の異なる周波数においてピークを持つ分子が存在する。例えば2ppm周辺、3ppm周辺および4ppm周辺といった周波数帯域でそれぞれピークを持つ、複数の分子の信号が混在し得る。本実施形態に係るMRSパルスシーケンスの収集方法により、各MRSパルスシーケンスによって得られたMRS信号を、例えば非線形回帰を用いて解くことで、測定対象領域に存在する所望の分子の相対量を算出できる。
【0058】
また、解析的に解くことに限らず、機械学習モデルを利用して算出してもよい。
機械学習モデルを用いた分子の相対量の推定処理の一例について図7および図8を参照して説明する。
【0059】
図7は、機械学習モデルの学習段階を示す図である。
学習機能515は、複数の分子の基底スペクトルの積和に基づき算出された2以上のスペクトル信号を入力データとし、複数の分子それぞれの相対量を正解データとしてネットワークモデル702を学習させる。分子の基底スペクトルは、例えば、単一の分子に関するファントムを用いて収集したMRS信号から生成すればよい。複数の異なる分子の基底スペクトルに対して信号合成処理701を実行し、入力データとなる2以上のスペクトル信号が生成される。
【0060】
信号合成処理701は、複数の異なる分子の基底スペクトルに対する、(1)式に基づく積和演算を実施する。例えば、2つの異なる周波数帯域を抑制対象として選択したMRSパルスシーケンス、および広周波数帯域のMRSパルスシーケンスをそれぞれシミュレーションし、複数の異なる分子の基底スペクトルが含まれる3つのスペクトル信号を生成すればよい。なお、複数の異なる分子の基底スペクトルが収集された際のTE(echo time)が不一致である場合は、TEに依存する基底スペクトルの補正式を予め算出しておけばよい。スペクトル信号を生成する際に、信号合成処理701において、TEが揃うように基底スペクトルを補正したのちに積和演算すればよい。
【0061】
学習機能515により処理回路は、推論時のロバスト性を高めるため、算出したい信号強度w、分子の既知の周波数パターンPのピークの値、およびノイズnの値を大小に振って積和演算し、スペクトル信号を生成してもよい。
【0062】
ネットワークモデル702のネットワーク構造および学習方法については、例えば、ニューラルネットワーク、畳み込みニューラルネットワークを用いて誤差逆伝播法によりロス関数を最小化するといった方法を用いればよい。これに限らず、回帰タスクにおける教師あり学習または自己教師あり学習などで用いられ得るネットワーク構造および学習方法であれば、どのようなネットワーク構造および学習方法であってもよい。学習が所定の終了条件を満たして終了した場合、例えばロス関数が閾値以下となった場合は学習を終了し、学習済みモデル703が生成される。
【0063】
次に、機械学習モデルの推論段階について図8を参照して説明する。
推定機能513により処理回路51が、生成された学習済みモデル703に対し、収集された複数のMRS信号それぞれを入力し、学習済みモデル703から、測定対象領域に含まれる1以上の分子の相対量を出力することができる。
【0064】
図8の例では、推定機能513により処理回路51が、取得機能512により取得した、抑制対象とする周波数帯域がそれぞれ異なるMRS信号#1、MRS信号#2およびMRS信号#3を学習済みモデル703に入力することで、分子1の相対量(例えば、NAA(N-Acetyl-L-aspartic Acid)=107.5)、分子2の相対量(例えば、GABA(gamma-aminobutylic acid)=15.3)といったように、各分子の相対量を推定する。
【0065】
なお、ここでは、MRS信号(スペクトル信号)を想定しているが、これに限らずk空間データであるMRSkデータを入力としてもよい。MRSkデータを学習済みモデル703の入力として利用する場合は、複数の基底スペクトルの積和演算により算出されたスペクトルデータから生成されるMRSkデータを入力データとしてネットワークモデル702を学習すればよい。
また、未知の分子に関する学習を組み込んでもよい。例えば、入力される既知の分子の相対量の他に未知の分子の相対量を一定量として、正解データに追加する。推論結果として、合計値が出力されるようにしておけば、当該合計値から、推論された相対量を減算した残りの相対量が、「未分類(その他)」として推論できる。
【0066】
なお、学習済みモデル703に入力される各MRSパルスシーケンス信号は、それぞれ分解能が異なってもよい。例えば、MRS信号#1が3×3×3のボクセルサイズ、MRS信号#2が1.5×1.5×1.5のボクセルサイズといったように、分解能が異なる信号を入力としてもよい。
さらに、学習済みモデル703に差分信号をさらに入力できるようにしてもよい。例えば、ネットワークモデル702の学習時に、MRSパルスシーケンス#1に対応するスペクトル信号とMRSパルスシーケンス#2に対応するスペクトル信号との差分信号を入力データとしてさらに学習する。推論段階において、MRS信号#1と、MRS信号#2と、MRS信号#3とに加え、「MRS信号#1-MRS信号#2」である差分信号を学習済みモデル703に入力すればよい。
【0067】
次に、ステップS201に係る、周波数帯域の入力を受け付けるユーザインタフェースの第1例について図9を参照して説明する。
図9の例では、どのようなMRSパルスシーケンスを利用するかをチェックボックスにチェックすることで、処理を有効とするユーザインタフェースを示す。学習済みモデルを利用する場合、ここでは「ディープラーニング再構成」のチェックボックスにチェックが入っている場合を想定する。表示制御機能514が、所定の周波数帯域の候補を抑制対象として選択可能にウインドウ901に表示させる。
【0068】
具体的には、ウインドウ901を指定すると、プルダウン形式で抑制対象として選択可能な周波数帯域の候補を表示させる。すなわち、学習済みモデルの生成の際に設定した周波数帯域のセットが表示される。図9の例では、全周波数帯域のMRS信号#3を用いることを前提とする。残りの他の周波数帯域の抑制対象として選択として、1.9ppm周辺と1.5ppm周辺とを抑制対象として選択することを示す「1.9ppm+1.5ppm」を、1.9ppm周辺と3.0ppm周辺とを抑制対象として選択することを示す「1.9ppm+3.0ppm」といったように、抑制対象として選択可能な周波数帯域のセットが表示される。
【0069】
次に、周波数帯域の入力を受け付けるユーザインタフェースの第2例について図10を参照して説明する。
図10は、図9と同様であるが、学習済みモデルを利用しない場合を想定する。つまり、「ディープラーニング再構成」のチェックボックスにチェックが入っていない場合を想定する。表示制御機能514は、学習済みモデルを利用しない場合は学習済みモデルで学習させた周波数帯域という制約が無いため、データ再構成を実行可能な周波数帯域候補を抑制対象として選択可能または入力可能に画面に表示させる。具体的には、ウインドウ1001において、ユーザが手動で選択する周波数帯域の値を入力してもよいし、プルダウン形式などで選択的に入力させてもよい。周波数帯域の値を入力する際は、追加ボタン1002を押下することで、選択される周波数領域を確定させてもよい。また、削除ボタン1003を押下することで、選択される周波数帯域を削除してもよい。
【0070】
なお、図示しないが、ユーザが検出したい所望の分子を入力可能なウインドウを設定し、当該ウインドウに分子に関する情報が入力された場合は、例えば、学習済みモデルの学習時に用いた分子固有の基底スペクトルの情報に基づき、抑制対象として選択すべき周波数帯域がプリセットされるようにしてもよい。
【0071】
以上に示した本実施形態によれば、抑制対象として選択された周波数帯域がそれぞれ異なる2以上のMRSパルスシーケンスを生成し、各MRSパルスシーケンスで得られたMRS信号から、分子の種類に依存した周波数プロファイルの共起性を利用して、測定対象領域に含まれる各分子の相対量を推定する。
これにより、複数の分子の信号が重なっているMRS信号、および、所望の信号が弱く他の信号に埋もれてしまうような状態でも、分子の信号の視認性を高めることができる。よって、例えば分子の分別精度を向上できる。
【0072】
なお、上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))などの回路を意味する。プロセッサが例えばCPUである場合、プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。一方、プロセッサが例えばASICである場合、プログラムが記憶回路に保存される代わりに、当該機能がプロセッサの回路内に論理回路として直接組み込まれる。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、図における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
【0073】
加えて、実施形態に係る各機能は、前記処理を実行するプログラムをワークステーション等のコンピュータにインストールし、これらをメモリ上で展開することによっても実現することができる。このとき、コンピュータに前記手法を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(ハードディスクなど)、光ディスク(CD-ROM、DVDなど)、半導体メモリなどの記憶媒体に格納して頒布することも可能である。
【0074】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0075】
以上の実施形態に関し、発明の一側面及び選択的な特徴として以下の付記を開示する。
(付記1)
抑制対象として選択された周波数帯域がそれぞれ異なる2以上のMRS(Magnetic Resonance Spectroscopy)パルスシーケンスを生成する生成部と、
前記2以上のMRSパルスシーケンスによりそれぞれ収集された、複数のMRS信号を取得する取得部と、
分子の種類に依存した周波数プロファイルの共起性を利用し、前記複数のMRS信号から測定対象領域に含まれる各分子の相対量を推定する推定部と、
を具備するデータ処理装置。
【0076】
(付記2)
前記MRSパルスシーケンスは、複数の異なる周波数プロファイルに対応した周波数帯域を抑制対象として選択する周波数選択パルスを含んでもよい。
【0077】
(付記3)
前記生成部は、前記周波数選択パルスを含まないMRSパルスシーケンスさらに生成してもよい。取得部は、前記周波数選択パルスを含まないMRSパルスシーケンスにより、MRS信号をさらに取得してもよい。
【0078】
(付記4)
前記周波数選択パルスは、MEGAパルスまたは周波数選択型のプリパルスでもよい。
【0079】
(付記5)
前記周波数選択パルスを含む2以上のMRSパルスシーケンスの一部は、周波数帯域が重複したパルスシーケンスでもよい。
【0080】
(付記6)
前記MRSパルスシーケンスは、複数の周波数帯域を一度に励起するパルスシーケンスでもよい。
【0081】
(付記7)
前記複数のMRS信号は、前記2以上のMRSパルスシーケンスを1セットとして、複数セット繰り返し収集されることにより取得されてもよい。
【0082】
(付記8)
前記推定部は、複数の分子の基底スペクトルの積和に基づくスペクトル信号を入力データとし、前記複数の分子それぞれの相対量を正解データとしてモデルを学習させた学習済みモデルを用いて、前記複数のMRS信号それぞれを前記学習済みモデルに入力し、前記測定対象領域に含まれる1以上の分子の相対量を出力してもよい。
【0083】
(付記9)
前記推定部は、前記複数のMRS信号のうちの第1MRS信号と第2MRS信号との差分である差分信号を前記学習済みモデルに入力してもよい。
【0084】
(付記10)
前記学習済みモデルを利用する場合、所定の周波数帯域候補を抑制対象として選択可能に画面に表示させる表示制御部をさらに含んでもよい。
【0085】
(付記11)
前記学習済みモデルを利用しない場合、データ再構成を実行可能な周波数帯域候補を抑制対象として選択可能または入力可能に画面に表示させる表示制御部をさらに含んでもよい。
【0086】
(付記12)
抑制対象として選択された周波数帯域がそれぞれ異なる2以上のMRS(Magnetic Resonance Spectroscopy)パルスシーケンスを生成し、
前記2以上のMRSパルスシーケンスによりそれぞれ収集された、複数のMRS信号を取得し、
分子の種類に依存した周波数プロファイルの共起性を利用し、前記複数のMRS信号から測定対象領域に含まれる各分子の相対量を推定する、
データ処理方法。
【0087】
(付記13)
コンピュータに、
抑制対象として選択された周波数帯域がそれぞれ異なる2以上のMRS(Magnetic Resonance Spectroscopy)パルスシーケンスを生成する生成機能と、
前記2以上のMRSパルスシーケンスによりそれぞれ収集された、複数のMRS信号を取得する取得機能と、
分子の種類に依存した周波数プロファイルの共起性を利用し、前記複数のMRS信号から測定対象領域に含まれる各分子の相対量を推定する推定機能と、
を実現させるデータ処理プログラム。
【0088】
(付記14)
抑制対象として選択された周波数帯域がそれぞれ異なる2以上のMRS(Magnetic Resonance Spectroscopy)パルスシーケンスを生成する生成部と、
前記2以上のMRSパルスシーケンスに基づきRF信号を送信し、測定対象領域から、各MRSパルスシーケンスに対応する複数のMRS信号を収集する収集部と、
分子の種類に依存した周波数プロファイルの共起性を利用し、前記複数のMRS信号から前記測定対象領域に含まれる各分子の相対量を推定する推定部と、
を具備する磁気共鳴イメージング装置。
【符号の説明】
【0089】
1 磁気共鳴イメージング装置
11 架台
13 寝台
21 傾斜磁場電源
23 送信回路
25 受信回路
27 寝台駆動装置
29 シーケンス制御回路
41 静磁場磁石
43 傾斜磁場コイル
45 送信コイル
47 受信コイル
50 データ処理装置
51 処理回路
53 メモリ
55 ディスプレイ
57 入力インタフェース
59 通信インタフェース
131 天板
133 基台
301 励起パルス
302,303 反転パルス
305 エコー信号
310 傾斜磁場
350 MEGAパルス
401 プリパルス
402 傾斜磁場
501 第1周波数帯域
502 第2周波数帯域
503 広周波数帯域
511 生成機能
512 取得機能
513 推定機能
514 表示制御機能
515 学習機能
701 信号合成処理
702 ネットワークモデル
703 学習済みモデル
901,1001 ウインドウ
1002 追加ボタン
1003 削除ボタン


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10