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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120887
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】デジタル移相器
(51)【国際特許分類】
   H01P 1/18 20060101AFI20230823BHJP
   H03H 7/20 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
H01P1/18
H03H7/20 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024007
(22)【出願日】2022-02-18
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】上道 雄介
【テーマコード(参考)】
5J012
【Fターム(参考)】
5J012GA13
(57)【要約】
【課題】多列構造かつ列間接続構造において列間で隣り合うデジタル移相回路の相互干渉を抑制する。
【解決手段】信号線路、信号線路の両側に設けられた一対の内側線路、内側線路の外側に各々設けられた一対の外側線路、内側線路及び外側線路の各一端に接続された第1の接地導体、外側線路の各他端に接続された第2の接地導体、内側線路の各他端と第2の接地導体との間に設けられる一対の電子スイッチを備えた複数のデジタル移相回路が縦続接続されてなるデジタル移相器であって、複数のデジタル移相回路は前列と後列とからなる多列構造、また前列の外側線路と後列の外側線路とが接続される列間接続構造を備え、後列の最上流デジタル移相回路の入力端までのデジタル移相回路の個数は、前列の最上流デジタル移相回路の入力信号の位相と後列の最上流デジタル移相回路の入力信号の位相とが逆相になるように設定される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号線路、当該信号線路の両側に設けられた一対の内側線路、当該内側線路の外側に各々設けられた一対の外側線路、前記内側線路及び前記外側線路の各一端に接続された第1の接地導体、前記外側線路の各他端に接続された第2の接地導体、前記内側線路の各他端と前記第2の接地導体との間に各々設けられる一対の電子スイッチを少なくとも備えた複数のデジタル移相回路が縦続接続されてなるデジタル移相器であって、
前記複数のデジタル移相回路は、所定の接続回路を介して接続されることにより前列と後列とからなる多列構造を備えるとともに、少なくとも列間方向に隣り合う前記前列の前記外側線路と前記後列の前記外側線路とが所定の接地パターンによって接続される列間接続構造を備え、
前記後列の最上流デジタル移相回路の入力端までの前記デジタル移相回路の個数は、前記前列最上流デジタル移相回路に入力される信号の位相と前記後列最上流デジタル移相回路に入力される信号の位相とが逆相になるように設定されるデジタル移相器。
【請求項2】
前記信号の周波数帯域が24~30GHzの場合には、前記個数は8~14である請求項1に記載のデジタル移相器。
【請求項3】
前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の両方又は一方において、前記外側線路と前記内側線路との間及び前記外側線路の少なくとも一方は多層構造で形成されている場合には、前記個数は8~14である請求項2に記載のデジタル移相器。
【請求項4】
前記信号線路から前記内側線路までの距離が10μm未満に設定されている場合には、前記個数は8~12である請求項2に記載のデジタル移相器。
【請求項5】
前記デジタル移相回路は、上部電極が前記信号線路に接続され、下部電極が前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の少なくとも一方に接続されるコンデンサを備える請求項1~4のいずれか一項に記載のデジタル移相器。
【請求項6】
前記デジタル移相回路は、前記コンデンサの下部電極と前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の少なくとも一方との間にコンデンサ用電子スイッチをさらに備える請求項5に記載のデジタル移相器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル移相器に関する。
【背景技術】
【0002】
下記非特許文献1には、マイクロ波、 準ミリ波あるいはミリ波を対象とするデジタル制御型の移相回路(デジタル移相回路)が開示されている。このデジタル移相回路は、非特許文献1の図2に示されているように、信号線路(signal line)、当該信号線路の両側に設けられた一対の内側線路(inner lines)、一対の内側線路の外側に各々設けられた一対の外側線路(outer lines)、一対の内側線路及び一対の外側線路の各一端に接続された第1接地バー、一対の外側線路の各他端に接続された第2接地バー、一対の内側接路の各他端と第2接地バーとの間に各々設けられる一対のNMOSスイッチ等を備える。
【0003】
このようなデジタル移相回路は、信号線路における信号波の伝送に起因して一対の内側線路あるいは一対の外側線路に流れるリターン電流を一対のNMOSスイッチの開/閉に応じて切り替えることにより、動作モードを低遅延モードと高遅延モードとに切り替える。すなわち、デジタル移相回路は、一対の内側線路にリターン電流が流れる場合に動作モードが低遅延モードとなり、一対の外側線路にリターン電流が流れる場合に動作モードが高遅延モードとなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】A Ka-band Digitally-Controlled Phase Shifter with sub-degree Phase Precision (2016,IEEE,RFIC)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記デジタル移相回路は、例えばフェイズドアレイアンテナを用いた基地局等に適用されるものであり、実際には多数が縦続接続された状態で半導体基板上に実装される。すなわち、上記デジタル移相回路は、実際の移相器の構成における単位ユニットであり、各段を構成する数十個が縦続接続されることによってデジタル移相器を構成する。このデジタル移相器は、各段の単位ユニットが各々に低遅延モードあるいは高遅延モードに設定されることにより、全体として複数の移相量を実現する。
【0006】
このようなデジタル移相器を半導体基板上に実装する場合、実装スペース等の制約によって複数のデジタル移相回路(単位ユニット)を多列状態に配置する場合がある。そして、このような多列構造のデジタル移相器では、接地される線路つまり列間で隣り合う2つの外側線路や列間で隣り合う第1接地バー及び第2接地バーを相互に接続して一体の接地パターンとする場合がある。このような多列構造かつ列間接続構造のデジタル移相器では、列間で隣り合うデジタル移相回路の相互干渉が発生するので当該相互干渉を極力抑制する必要がある。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、多列構造かつ列間接続構造において列間で隣り合うデジタル移相回路の相互干渉を抑制することが可能なデジタル移相器の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、デジタル移相器に係る第1の解決手段として、信号線路、当該信号線路の両側に設けられた一対の内側線路、当該内側線路の外側に各々設けられた一対の外側線路、前記内側線路及び前記外側線路の各一端に接続された第1の接地導体、前記外側線路の各他端に接続された第2の接地導体、前記内側線路の各他端と前記第2の接地導体との間に各々設けられる一対の電子スイッチを少なくとも備えた複数のデジタル移相回路が縦続接続されてなるデジタル移相器であって、前記複数のデジタル移相回路は、所定の接続回路を介して接続されることにより前列と後列とからなる多列構造を備えるとともに、少なくとも列間方向に隣り合う前記前列の前記外側線路と前記後列の前記外側線路とが所定の接地パターンによって接続される列間接続構造を備え、前記後列の最上流デジタル移相回路の入力端までの前記デジタル移相回路の個数は、前記前列最上流デジタル移相回路に入力される信号の位相と前記後列最上流デジタル移相回路に入力される信号の位相とが逆相になるように設定される、という手段を採用する。
【0009】
本発明では、デジタル移相器に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記信号の周波数帯域が24~30GHzの場合には、前記個数は8~14である、という手段を採用する。
【0010】
本発明では、デジタル移相器に係る第3の解決手段として、上記第2の解決手段において、前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の両方又は一方において、前記外側線路と前記内側線路との間及び前記外側線路の少なくとも一方は多層構造で形成されている場合には、前記個数は8~14である、という手段を採用する。
【0011】
本発明では、デジタル移相器に係る第4の解決手段として、上記第2の解決手段において、前記信号線路から前記内側線路までの距離が10μm未満に設定されている場合には、前記個数は8~12である、という手段を採用する。
【0012】
本発明では、デジタル移相器に係る第5の解決手段として、上記第1~第4のいずれかの解決手段において、前記デジタル移相回路は、上部電極が前記信号線路に接続され、下部電極が前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の少なくとも一方に接続されるコンデンサを備える、という手段を採用する。
【0013】
本発明では、デジタル移相器に係る第6の解決手段として、上記第5の解決手段において、前記デジタル移相回路は、前記コンデンサの下部電極と前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の少なくとも一方との間にコンデンサ用電子スイッチをさらに備える、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、多列構造かつ列間接続構造において列間で隣り合うデジタル移相回路の相互干渉を抑制することが可能なデジタル移相器を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態に係るデジタル移相器A1の構成を示す正面図である。
図2】本発明の第1実施形態におけるデジタル移相回路Bの機能構成を示す概念図である。
図3】本発明の第1実施形態におけるデジタル移相回路Bにおいて、高遅延モード時のリターン電流の通電経路を示す模式図である。
図4】本発明の第1実施形態におけるデジタル移相回路Bにおいて、低遅延モード時のリターン電流の通電経路を示す模式図である。
図5】本発明の第1実施形態に係るデジタル移相器A1の特性を解析するための解析モデルである。
図6】本発明の第2実施形態に係るデジタル移相器A2の構成を示す正面図である。
図7】本発明の第2実施形態におけるデジタル移相回路Baの機能構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
最初に、本発明の第1実施形態について説明する。第1実施形態に係るデジタル移相器A1は、図1に示すように、マイクロ波、 準ミリ波あるいはミリ波等の信号(高周波信号)を入力とし、所定の移相量だけ位相シフトした高周波信号を外部に出力する高周波回路である。
【0017】
このデジタル移相器A1は、図1に示すように、複数(n個)のデジタル移相回路B~B、一対の接続回路C1,C2及び接地パターンDを備える。なお、本実施形態において、上記「n」は自然数である。また、以下の「i」は2以上かつn以下の自然数である。
【0018】
n個(複数)のデジタル移相回路B~Bは、図示するように一対の接続回路C1,C2を介して二列(多列)に配置されている。すなわち、第1実施形態に係るデジタル移相器A1は、一対の接続回路C1,C2を用いた複数のデジタル移相回路B~Bに関する多列構造を備える。なお、図1に示す二列構造は多列構造の一例であり、三列以上であってもよい。
【0019】
詳細については後述するが、デジタル移相回路B~Bは、代表としてデジタル移相回路Bに示すように、信号線路1、2つの内側線路2(第1の内側線路2a及び第2の内側線路2b)、2つの外側線路3(第1の外側線路3a及び第2の外側線路3b)、2つの接地導体4(第1の接地導体4a及び第2の接地導体4b)等を備えている。
【0020】
デジタル移相器A1において、高周波信号の伝送方向は、第1のデジタル移相回路Bから第nのデジタル移相回路Bに向かう方向である。第1のデジタル移相回路Bは、高周波信号の伝送方向において最上流(最前段)に位置し、第nのデジタル移相回路Bは、高周波信号の伝送方向において最下流(最後段)に位置している。
【0021】
n個のデジタル移相回路B~Bのうち、第1~第i-1のデジタル移相回路B~Bi-1は、前列(第1列)を構成しており、直線状に縦続接続されている。一方、第i+1~第nのデジタル移相回路Bi+1~Bは、後列(第2列)を構成しており、直線状に縦続接続されている。前列(第1列)と後列(第2列)とは、一対の接続回路C1,C2及び第iのデジタル移相回路Bを介して略平行に設けられている。
【0022】
前列(第1列)の第1~第i-1のデジタル移相回路B~Bi-1において、列方向に隣り合う信号線路1は、一列に直列接続されている。また、後列(第2列)の第i+1~第nのデジタル移相回路Bi+1~Bにおいて、列方向に隣り合う信号線路1は、一列に直列接続されている。
【0023】
また、前列(第1列)の第1~第i-1のデジタル移相回路B~Bi-1において、列方向に隣り合う第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bは、一列に直列接続されている。また、後列(第2列)の第i+1~第nのデジタル移相回路Bi+1~Bにおいて、列方向に隣り合う第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bは、一列に直列接続されている。
【0024】
また、前列(第1列)の第1~第i-1のデジタル移相回路B~Bi-1において、列方向に隣り合う第1の接地導体4aと第2の接地導体4bとは、相互に接続されている。また、後列(第2列)の第i+1~第nのデジタル移相回路Bi+1~Bにおいて、列方向に隣り合う第1の接地導体4aと第2の接地導体4bとは、相互に接続されている。
【0025】
前列(第1列)の第1~第i-1のデジタル移相回路B~Bi-1と後列(第2列)の第i+1~第nのデジタル移相回路Bi+1~Bとは、列間で隣り合う関係にある。列間で隣り合う関係の前列(第1列)の第1~第i-1のデジタル移相回路B~Bi-1と後列(第2列)の第i+1~第nのデジタル移相回路Bi+1~Bとは、列間方向に隣り合う第1の外側線路3a同士、第1の接地導体4aと第2の接地導体4b及び第2の接地導体4bと第1の接地導体4aのうち少なくとも1つが接地パターンDを介して相互接続されている。
【0026】
すなわち、接地パターンDは、電気的に接地されており、列間方向に隣り合う第1の外側線路3a同士、第1の接地導体4aと第2の接地導体4b及び第2の接地導体4bと第1の接地導体4aのうち少なくとも1つを相互接続する。このような接地パターンDを備えるデジタル移相器A1は、列間接続構造を備える。
【0027】
ここで、第1実施形態に係るデジタル移相器A1は、n個のデジタル移相回路B~Bのうち、第iのデジタル移相回路Bが前列(第1列)及び後列(第2列)を構成しておらず、一対の接続回路C1,C2に挟まれた状態で配置されている。ただし、この第iのデジタル移相回路Bについては、前列(第1列)を構成するように配置してもよい。
【0028】
一対の接続回路C1,C2は、前列(第1列)と後列(第2列)とを平行な状態で接続する回路である。一対の接続回路C1,C2のうち、第1の接続回路C1は、図示するように前列(第1列)において最後段に位置する第i-1のデジタル移相回路Bi-1と第iのデジタル移相回路Bとを接続する。この第1の接続回路C1は、図示するように5つの個別接続線路E1,E2a,E2b,E3a,E3bを備える。
【0029】
これら個別接続線路E1,E2a,E2b,E3a,E3bのうち、第1の個別接続線路E1は、第i-1のデジタル移相回路Bi-1における信号線路1の出力端(一端)と第iのデジタル移相回路Bにおける信号線路1の入力端(他端)とを接続する帯状導体である。この第1の個別接続線路E1は、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、図示するように斜めに延在している。
【0030】
第2の個別接続線路E2aは、第i-1のデジタル移相回路Bi-1における第1の内側線路2aの一端と第iのデジタル移相回路Bにおける第1の内側線路2aの他端とを接続する帯状導体である。この第2の個別接続線路E2aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、第1の個別接続線路E1と同様に斜めに延在している。
【0031】
第3の個別接続線路E2bは、第i-1のデジタル移相回路Bi-1における第2の内側線路2bの一端と第iのデジタル移相回路Bにおける第2の内側線路2bの他端とを接続する帯状導体である。この第3の個別接続線路E2bは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、第1の個別接続線路E1と同様に斜めに延在している。
【0032】
第4の個別接続線路E3aは、第i-1のデジタル移相回路Bi-1における第1の外側線路3aの一端と第iのデジタル移相回路Bにおける第1の外側線路3aの他端とを接続する帯状導体である。この第4の個別接続線路E3aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、第1の個別接続線路E1と同様に斜めに延在している。
【0033】
第5の個別接続線路E3bは、第i-1のデジタル移相回路Bi-1における第2の外側線路3bの一端と第iのデジタル移相回路Bにおける第2の外側線路3bの他端とを接続する帯状導体である。この第5の個別接続線路E3bは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、第1の個別接続線路E1と同様に斜めに延在している。
【0034】
一方、第2の接続回路C2は、図示するように第iのデジタル移相回路Bと後列(第2列)において最前段に位置する第i+1のデジタル移相回路Bi+1とを接続する、この第2の接続回路C2は、図示するように5つの個別接続線路F1,F2a,F2b,F3a,F3bを備える。
【0035】
これら個別接続線路F1,F2a,F2b,F3a,F3bのうち、第6の個別接続線路F1は、第iのデジタル移相回路Bにおける信号線路1の出力端(一端)と第i+1のデジタル移相回路Bi+1における信号線路1の入力端(他端)とを接続する帯状導体である。この第6の個別接続線路F1は、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、図示するように斜めに延在している。
【0036】
第7の個別接続線路F2aは、第iのデジタル移相回路Bにおける第1の内側線路2aの一端と第i+1のデジタル移相回路Bi+1における第1の内側線路2aの他端とを接続する帯状導体である。この第7の個別接続線路F2aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、第6の個別接続線路F1と同様に斜めに延在している。
【0037】
第8の個別接続線路F2bは、第iのデジタル移相回路Bにおける第2の内側線路2bの一端と第i+1のデジタル移相回路Bi+1における第2の内側線路2bの他端とを接続する帯状導体である。この第8の個別接続線路F2bは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、第6の個別接続線路F1と同様に斜めに延在している。
【0038】
第9の個別接続線路F3aは、第iのデジタル移相回路Bにおける第1の外側線路3aの一端と第i+1のデジタル移相回路Bi+1における第1の外側線路3aの他端とを接続する帯状導体である。この第9の個別接続線路F3aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、第6の個別接続線路F1と同様に斜めに延在している。
【0039】
第10の個別接続線路F3bは、第iのデジタル移相回路Bにおける第2の外側線路3bの一端と第i+1のデジタル移相回路Bi+1における第2の外側線路3bの他端とを接続する帯状導体である。この第10の個別接続線路F3bは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、第6の個別接続線路F1と同様に斜めに延在している。
【0040】
ここで、図1における符号P1は、前列(第1列)において最上流に位置する第1のデジタル移相回路B(前列最上流デジタル移相回路)の入力位置(前列入力位置)を示している。また、符号P2は、後列(第2列)において最前段に位置する第i+1のデジタル移相回路Bi+1(後列最上流デジタル移相回路)の入力位置(後列入力位置)を示している。
【0041】
第1実施形態に係るデジタル移相器A1は、図示するように自然数iが8~14の範囲に設定されている。すなわち、このデジタル移相器A1は、前列入力位置P1~後列入力位置P2の間におけるデジタル移相回路Bの個数が8~14に設定されている。この個数の根拠については後述する。
【0042】
続いて、第1実施形態におけるデジタル移相回路B~Bの詳細構成について説明する。これらデジタル移相回路B~Bは、図2に代表符号Bとして示すように、上述した信号線路1、一対の内側線路2(第1の内側線路2a及び第2の内側線路2b)、一対の外側線路3(第1の外側線路3a及び第2の外側線路3b)、一対の接地導体4(第1の接地導体4a及び第2の接地導体4b)に加え、コンデンサ5、複数の接続導体6、4つの電子スイッチ7(第1の電子スイッチ7a、第2の電子スイッチ7b、第3の電子スイッチ7c及び第4の電子スイッチ7d)及びスイッチ制御部8を備える。
【0043】
信号線路1は、所定方向に延在する直線状の帯状導体である。すなわち、信号線路1は、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。図2では、信号線路1には、手前側から奥側に向かって高周波信号が流れる。高周波信号は、マイクロ波、 準ミリ波、又はミリ波等の周波数帯域を有する信号である。
【0044】
なお、図2ではデジタル移相回路Bの前後方向をX軸方向とし、左右方向をY軸方向とし、上下方向(鉛直方向)をZ軸方向とする。また、+X方向は、X軸方向を手前側から奥側に向かう方向であり、-X方向は+X方向とは反対方向である。+Y方向は、Y軸方向を右に進む方向であり、-Y方向は+Y方向とは反対方向である。+Z方向は、Z軸方向を上方に進む方向であり、-Z方向は+Z方向とは反対方向である。
【0045】
一対の内側線路2(第1の内側線路2a及び第2の内側線路2b)は、信号線路1の両側に設けられた直線状の帯状導体である。第1の内側線路2aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。第1の内側線路2aは、信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。第1の内側線路2aは、信号線路1と平行に設けられており、所定の距離だけ離間している。具体的には、第1の内側線路2aは、信号線路1の一方側に所定の距離だけ離間して配置されている。換言すれば、第1の内側線路2aは、信号線路1から+Y方向に所定の距離だけ離間して配置されている。
【0046】
第2の内側線路2bは、第1の内側線路2aと同様に、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。第2の内側線路2bは、信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。第2の内側線路2bは、信号線路1と平行に設けられており、所定の距離だけ離間している。具体的には、第2の内側線路2bは、信号線路1の他方側に所定の距離だけ離間して配置されている。換言すれば、第2の内側線路2bは、信号線路1から-Y方向に所定の距離だけ離間して配置されている。
【0047】
一対の外側線路3(第1の外側線路3a及び第2の外側線路3b)は、内側線路の外側に各々設けられた直線状の帯状導体である。第1の外側線路3aは、信号線路1の一方側において、第1の内側線路2aよりも信号線路1から遠い位置に設けられる直線状の帯状導体である。
【0048】
すなわち、第1の外側線路3aは、第1の内側線路2aよりも+Y方向に配置された直線状の帯状導体である。第1の外側線路3aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。第1の外側線路3aは、信号線路1に対して第1の内側線路2aを挟んだ状態で信号線路1から所定距離を隔てて平行に設けられている。第1の外側線路3aは、第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bと同様に、信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。
【0049】
第2の外側線路3bは、信号線路1の他方側において、第2の内側線路2bよりも信号線路1から遠い位置に設けられる直線状の帯状導体である。すなわち、第2の外側線路3bは、第2の内側線路2bよりも-Y方向に配置された直線状の帯状導体である。第2の外側線路3bは、第1の外側線路3aと同様に、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。第2の外側線路3bは、信号線路1に対して第2の内側線路2bを挟んだ状態で信号線路1から所定距離を隔てて平行に設けられている。第2の外側線路3bは、第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bと同様に、信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。
【0050】
第1の接地導体4aは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bの各一端側に設けられる直線状の帯状導体である。第1の接地導体4aは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bの各一端に電気的に接続されている。第1の接地導体4aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。
【0051】
第1の接地導体4aは、同一方向に延在する第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bに直交するように設けられている。すなわち、第1の接地導体4aは、Y軸方向に延在するように配置されている。第1の接地導体4aは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bから所定距離を隔てた下方に設けられている。
【0052】
図2に示す例では、第1の接地導体4aは、+Y方向における端部である一端が、第1の外側線路3aの右側縁部と略同一位置となるように設定されている。図2に示す例では、第1の接地導体4aは、-Y方向における端部である他端が、第2の外側線路3bの左側縁部と略同一位置となるように設定されている。
【0053】
第2の接地導体4bは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bの各他端側に設けられる直線状の帯状導体である。第2の接地導体4bは、第1の接地導体4aと同様に一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。
【0054】
第2の接地導体4bは、第1の接地導体4aに対して平行に配置されており、第1の接地導体4aと同様に、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bに直交するように設けられている。第2の接地導体4bは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bから所定距離を隔てた下方に設けられている。
【0055】
第2の接地導体4bは、+Y方向における端部である一端が、第1の外側線路3aの右側縁部と略同一位置となるように設定されている。第2の接地導体4bは、-Y方向における端部である他端が、第2の外側線路3bの左側縁部と略同一位置となるように設定されている。図2では、第2の接地導体4bは、Y軸方向における位置が第1の接地導体4aと同一である。
【0056】
図2に示すように、第1の接地導体4a及び第2の接地導体4bの両方において、外側線路3と内側線路2との間は多層構造で形成されている。なお、外側線路3と内側線路2との間とは、第1の外側線路3aと第1の内側線路2aとの間と、第2の外側線路3bと第2の内側線路2bとの間とを含む。
【0057】
ただし、第1の接地導体4a及び第2の接地導体4bのいずれか一方において、外側線路3と内側線路2との間を多層構造で形成されてもよい。多層構造で形成された第1の接地導体4aは、複数のビアホールで互いに連結されている。同様に、多層構造で形成された第2の接地導体4bは、複数のビアホール(例えば、後述する接続導体6h,6i)で互いに連結されている。
【0058】
コンデンサ5は、信号線路1と第1の接地導体4a又は第2の接地導体4bとの間に設けられる。例えば、コンデンサ5は、上部電極が信号線路1に対して接続され、下部電極が第4の電子スイッチ7dに対して電気的に接続されている。例えば、コンデンサ5は、MIM(Metal Insulator Metal)構造の薄膜のコンデンサである。なお、コンデンサ5は、平行平板型のコンデンサであってもよいし、櫛歯対向型のキャパシタ(インターデジタルキャパシタ)でもよい。
【0059】
複数の接続導体6は、少なくとも接続導体6a~6iを含む。接続導体6aは、第1の内側線路2aの一端と第1の接地導体4aとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6aは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第1の内側線路2aの下面に接続し、他端(下端)が第1の接地導体4aの上面に接続する。また、接続導体6aは、第1の内側線路2aと第1の外側線路3aとの間の多層構造で形成された第1の接地導体4aを連結する。
【0060】
接続導体6bは、第2の内側線路2bの一端と第1の接地導体4aとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6bは、接続導体6aと同様にZ軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第2の内側線路2bの下面に接続し、他端(下端)が第1の接地導体4aの上面に接続する。また、接続導体6bは、第2の内側線路2bと第2の外側線路3bとの間の多層構造で形成された第1の接地導体4aを連結する。
【0061】
接続導体6cは、第1の外側線路3aの一端と第1の接地導体4aとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6cは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第1の外側線路3aの一端における下面に接続し、他端(下端)が第1の接地導体4aの上面に接続する。また、接続導体6cは、第1の内側線路2aと第1の外側線路3aとの間の多層構造で形成された第1の接地導体4aを連結する。
【0062】
接続導体6dは、第1の外側線路3aの他端と第2の接地導体4bとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6dは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第1の外側線路3aの他端における下面に接続し、他端(下端)が第2の接地導体4bの上面に接続する。また、接続導体6dは、第1の内側線路2aと第1の外側線路3aとの間の多層構造で形成された第2の接地導体4bを連結する。
【0063】
接続導体6eは、第2の外側線路3bの一端と第1の接地導体4aとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6eは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第2の外側線路3bの一端における下面に接続し、他端(下端)が第1の接地導体4aの上面に接続する。また、接続導体6eは、第2の内側線路2bと第2の外側線路3bとの間の多層構造で形成された第1の接地導体4aを連結する。
【0064】
接続導体6fは、第2の外側線路3bの他端と第2の接地導体4bとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6fは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第2の外側線路3bの他端における下面に接続し、他端(下端)が第2の接地導体4bの上面に接続する。また、接続導体6fは、第2の内側線路2bと第2の外側線路3bとの間の多層構造で形成された第2の接地導体4bを連結する。
【0065】
接続導体6gは、信号線路1の他端とコンデンサ5の上部電極とを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6gは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が信号線路1の他端における下面に接続し、他端(下端)がコンデンサ5の上部電極に接続する。
【0066】
接続導体6hと接続導体6iとは、多層構造で形成された第2の接地導体4bを互いに連結する。接続導体6hは、信号線路1よりも+Y方向における多層構造の第2の接地導体4bを連結する。接続導体6iは、信号線路1よりも-Y方向における多層構造の第2の接地導体4bを連結する。
【0067】
第1の電子スイッチ7aは、第1の内側線路2aの他端と第2の接地導体4bとの間に接続される。第1の電子スイッチ7aは、例えばMOS型FET(電界効果トランジスタ)であり、ドレイン端子が第1の内側線路2aの他端に電気的に接続され、ソース端子が第2の接地導体4bに電気的に接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に電気的に接続されている。
【0068】
図2に示すように、第1の電子スイッチ7aのソース端子は、多層構造の第2の接地導体4bのうち、近い層に接続されている。ただし、これに限定されず、第1の電子スイッチ7aのソース端子は、多層構造の第2の接地導体4bのうち、少なくとも1つの層に接続されていればよい。
【0069】
第1の電子スイッチ7aは、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて閉状態又は開状態に制御される。閉状態とは、ドレイン端子及びソース端子が導通している状態である。開状態とは、ドレイン端子及びソース端子が導通しておらず、電気的な接続が遮断している状態である。第1の電子スイッチ7aは、スイッチ制御部8の制御によって、第1の内側線路2aの他端及び第2の接地導体4bを電気的に接続した導通状態又はその電気的な接続を遮断した遮断状態にする。
【0070】
第2の電子スイッチ7bは、第2の内側線路2bの他端と第2の接地導体4bとの間に接続される。第2の電子スイッチ7bは、例えばMOS型FETであり、ドレイン端子が第2の内側線路2bの他端に接続され、ソース端子が第2の接地導体4bに接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に接続されている。図2に示すように、第2の電子スイッチ7bのソース端子は、多層構造の第2の接地導体4bのうち、近い層に接続されている。ただし、これに限定されず、第2の電子スイッチ7bのソース端子は、多層構造の第2の接地導体4bのうち、少なくとも1つの層に接続されていればよい。
【0071】
第2の電子スイッチ7bは、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて閉状態又は開状態に制御される。第2の電子スイッチ7bは、スイッチ制御部8の制御によって、第2の内側線路2bの他端及び第2の接地導体4bを電気的に接続した導通状態又はその電気的な接続を遮断した遮断状態にする。
【0072】
第3の電子スイッチ7cは、信号線路1の他端と第2の接地導体4bとの間に接続される。第3の電子スイッチ7cは、例えばMOS型FETであり、ドレイン端子が信号線路1の他端に接続され、ソース端子が第2の接地導体4bに接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に接続されている。なお、第3の電子スイッチ7cは、図2に示すように信号線路1の他端側に設けられているが、これに限定されず、信号線路1の一端側に設けられてもよい。
【0073】
第3の電子スイッチ7cは、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて閉状態又は開状態に制御される。第3の電子スイッチ7cは、スイッチ制御部8の制御によって、信号線路1の他端及び第2の接地導体4bを電気的に接続した導通状態又はその電気的な接続を遮断した遮断状態にする。
【0074】
第4の電子スイッチ7dは、信号線路1の他端と第2の接地導体4bとの間において、コンデンサ5に対して直列に接続されるコンデンサ用電子スイッチである。第4の電子スイッチ7dは、例えばMOS型FETである。第4の電子スイッチ7dは、図2に示すように、ドレイン端子がコンデンサ5の下部電極に接続され、ソース端子が第2の接地導体4bに接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に接続されている。
【0075】
第4の電子スイッチ7dは、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて閉状態又は開状態に制御される。第4の電子スイッチ7dは、スイッチ制御部8の制御によって、コンデンサ5の下部電極と第2の接地導体4bとを電気的に接続した導通状態又はその電気的な接続を遮断した遮断状態にする。
【0076】
スイッチ制御部8は、複数の電子スイッチ7である第1の電子スイッチ7a、第2の電子スイッチ7b、第3の電子スイッチ7c及び第4の電子スイッチ7dを制御する制御回路である。例えば、スイッチ制御部8は、4つの出力ポートを備えている。スイッチ制御部8は、各出力ポートから個別のゲート信号を出力して複数の電子スイッチ7の各ゲート端子に供給することにより複数の電子スイッチ7のそれぞれを個別に開状態又は閉状態に制御する。
【0077】
なお、図2ではデジタル移相回路Bの機械的構造が解り易いようにデジタル移相回路Bを斜視した模式図を示しているが、実際のデジタル移相回路Bは、半導体製造技術を利用した多層構造物である。例えば、デジタル移相回路Bは、信号線路1、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bが第1の導電層に形成されている。
【0078】
また、第1の接地導体4a及び第2の接地導体4bは、絶縁層を挟んで第1の導電層と対向する複数の第2の導電層に形成されている。第1の導電層に形成された構成要素と複数の第2の導電層に形成された構成要素とは、複数のビアホール(via hole)によって相互に接続される。また、複数の接続導体6は、絶縁層内に埋設されたビアホールに相当する。
【0079】
なお、内側線路2、外側線路3及び多層構造の接地導体4の最上層については、同一のレイヤで接続されてもよい。例えば、第1の内側線路2a、第1の外側線路3a、多層構造の第1の接地導体4a及び第2の接地導体4bの各最上層が同一のレイヤで接続される。また、第2の内側線路2b、第2の外側線路3b及び多層構造の第1の接地導体4a及び第2の接地導体4bの各最上層が同一のレイヤで接続される。
【0080】
次に、図3及び図4を参照して第1実施形態におけるデジタル移相回路Bの動作について説明する。このデジタル移相回路Bは、動作モードとして高遅延モード及び低遅延モードを有する。すなわち、デジタル移相回路Bは、高遅延モードまたは低遅延モードで動作する。
【0081】
〔高遅延モード〕
高遅延モードでは、高周波信号に第1の位相差を発生させるモードである。高遅延モードでは、図3に示すように、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bが開状態に制御され、第4の電子スイッチ7dが閉状態に制御される。
【0082】
第1の電子スイッチ7aが開状態に制御されることにより、第1の内側線路2aの他端及び第2の接地導体4bの電気的な接続が遮断された状態となる。第2の電子スイッチ7bが開状態に制御されることにより、第2の内側線路2bの他端と多層構造の第2の接地導体4bとの間の接続が遮断された状態となる。第4の電子スイッチ7dが閉状態に制御されることにより、信号線路1の他端は、コンデンサ5を介して第2の接地導体4bに接続された状態となる。
【0083】
信号線路1に入力端(他端)から出力端(一端)に向かって高周波信号が伝搬すると、高周波信号とは逆方向である一端から他端に向かってリターン電流R1が流れる。すなわち、リターン電流R1は、+X方向に流れる高周波信号とは逆方向である-X方向に向かって流れる電流である。高遅延モードでは、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bが開状態であるため、リターン電流R1は、主として、図3に示すように、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bを-X方向に流れる。
【0084】
高遅延モードでは、リターン電流R1が第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bを流れるため、低遅延モードと比較して、インダクタンス値Lが高い。また、第4の電子スイッチ7dが閉状態であるため、コンデンサ5が機能している。そのため、高遅延モードでは、低遅延モードよりも高い遅延量を得ることができる。
【0085】
〔低遅延モード〕
低遅延モードでは、高周波信号に第1の位相差よりも小さい第2の位相差を発生させるモードである。低遅延モードでは、図4に示すように、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bが閉状態に制御され、第4の電子スイッチ7dが開状態に制御される。
【0086】
第1の電子スイッチ7aが閉状態に制御されることにより、第1の内側線路2aの他端及び第2の接地導体4bが電気的に接続された状態となる。第2の電子スイッチ7bが閉状態に制御されることにより、第2の内側線路2bの他端及び第2の接地導体4bが電気的に接続された状態となる。
【0087】
低遅延モードでは、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bが閉状態であるため、リターン電流R2は、主として、図4に示すように、第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bを-X方向に流れる。低遅延モードでは、リターン電流R2が第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bを流れるため、高遅延モードと比較して、インダクタンス値Lが低い。また、第4の電子スイッチ7dが開状態であるため、コンデンサ5は機能していない。そのため、高遅延モードと比較して、静電容量値Cが小さい。そのため、低遅延モードでの遅延量は、高遅延モードでの遅延量よりも低くなる。
【0088】
ここで、高遅延モードは、低遅延モードよりも高周波信号の損失が多い。高遅延モードでの高周波信号の損失と、低遅延モードでの高周波信号の損失とが異なるため、移相量によって高周波信号の損失(信号振幅)が変わってしまう場合がある。したがって、図5に例示するような複数のデジタル移相回路B~Bを縦続接続したデジタル移相器A1では、移相量が大きい条件ほど高周波信号の損失が大きくなるという事象が起こり得る。
【0089】
各デジタル移相回路B~Bでは、高周波信号の信号振幅のアンバランス、すなわち高遅延モードにおける高周波信号の損失と低遅延モードにおける高周波信号の損失との差を低減するために、一例として内側線路2よりも外側の第1の接地導体4a及び第2の接地導体4bが多層構造で形成されている。このような構成により、外側線路3と内側線路2との間の接地導体4の抵抗値を下げることができ、高遅延モードにおける高周波信号の損失を低減することができる。したがって、高遅延モードと低遅延モードとにおける信号振幅のアンバランスを低減することができる。
【0090】
続いて、第1実施形態に係るデジタル移相器A1において、前列入力位置P1~後列入力位置P2の間における第1~第iのデジタル移相回路B~Biの個数(最適数)が8~14に設定されている理由、また当該最適数が8~14に設定することにより得られる効果について詳しく説明する。
【0091】
デジタル移相器A1における前列(第1列)、接続回路C1、デジタル移相回路B、接続回路C2及び後列(第2列)は、図5に示すように、Port1~Port4並びに前列モデル及び後列モデルを備える解析モデルによって等価的に表すことができる。Port1、Port2及び前列モデルはデジタル移相器A1の前列(第1列)、接続回路C1、デジタル移相回路B、接続回路C2に対応し、Port3、Port4及び後列モデルはデジタル移相器A1の後列(第2列)に対応する。なお、この解析モデルにおけるa~a、b~bは、電圧を基準抵抗の平方根で割った量である。
【0092】
Port1は、前列(第1列)の入力端つまり第1のデジタル移相回路Bの入力端に相当し、前列モデルに流入する量aの流入端子と前列モデルから流出する量bの出力端子とを備える。Port2は、接続回路C2の出力端つまり第i-1のデジタル移相回路Bi-1の出力端に相当し、前列モデルに流入する量aの流入端子と前列モデルから流出する量bの出力端子とを備える。
【0093】
また、Port3は、後列(第2列)の入力端つまり第i+1のデジタル移相回路Bi+1の入力端に相当し、後列モデルに流入する量aの流入端子と後列モデルから流出する量bの出力端子とを備える。Port4は、後列(第2列)の出力端つまり第nのデジタル移相回路Bの出力端に相当し、後列モデルに流入する量aの流入端子と後列モデルから流出する量bの出力端子とを備える。
【0094】
ここで、Port1に外部の信号源から第1電圧振幅Vの高周波信号が入力された場合、Port3には第3電圧振幅Vかつ第1電圧振幅Vの高周波信号に対して位相θだけ位相変化した高周波信号が入力されることになる。Port2の信号は、前列(第1列)と後列(第2列)とを接続する一対の接続回路C1,C2及び第iのデジタル移相回路Bを介して第3電圧振幅Vかつ位相θの高周波信号となり、Port3に入力される。
【0095】
この第3電圧振幅Vは、前列(第1列)の伝送損失、一対の接続回路C1,C2の伝送損失及び第iのデジタル移相回路Bの伝送損失の合計に依存する。また、上記位相θは、前列(第1列)の移相量、一対の接続回路C1,C2の移相量及び第iのデジタル移相回路Bの移相量の合計に依存する。
【0096】
仮に、前列(第1列)、一対の接続回路C1,C2及び第iのデジタル移相回路Bが無損失の場合、第3電圧振幅Vの絶対値|V|は、第1電圧振幅Vの絶対値|V|と等しくなる。また、前列モデル及び後列モデルのSパラメータを「Sjk」とすると、Port1からPort2への高周波信号の透過係数は下式(1)のように表され、またPort3からPort4への高周波信号の透過係数は下式(2)のように表される。
【0097】
/a=S21+S23・(a/a) (1)
/a=S43+S41・(a/a) (2)
【0098】
ここで、透過係数b/aの位相または透過係数b/aの位相が最小値を取るように位相θを定めることができる。位相θは、高周波信号の周波数fに基づく前列(第1列)の移相量、一対の接続回路C1,C2の移相量及び第iのデジタル移相回路Bの移相量の関数として与えられる。透過係数b/aの位相または透過係数b/aの位相が最小値を取るとき、デジタル移相器A1は、接地パターンDに基づく列間接続構造の弊害を最少化することができる。
【0099】
このデジタル移相器A1では、前列(第1列)の第1~第i-1のデジタル移相回路B~Bi-1における第1の外側線路3aと後列(第2列)の第i+1~第nのデジタル移相回路Bi+1~Bにおける第1の外側線路3aとではリターン電流R1の向きが逆向きである。また、このデジタル移相器A1では、リターン電流R1の向きが逆向きの関係にある第1の外側線路3a同士が接地パターンDによって相互接続されている。
【0100】
すなわち、デジタル移相器A1では、一方における第1の外側線路3aのリターン電流R1が他方における第1の外側線路3aのリターン電流R1の影響を受ける。この結果、接地パターンDが設けられていない場合つまり列間接続構造を備えない場合(本来の移相量)に対して移相量が変化(減少)するという弊害がある。
【0101】
このような弊害つまり本来の移相量からの変化を最少化する条件は、前列入力位置P1における高周波信号の位相と後列入力位置P2における高周波信号の位相との関係を逆相とすることである。すなわち、前列入力位置P1の位相と後列入力位置P2の位相との間に180°の位相差が発生している場合に、本来の移相量からの変化(減少)を最少化することが可能である。
【0102】
例えば、高周波信号の周波数fを「30GHz」とし、個々のデジタル移相回路B~Bの高遅延モード時における移相量を「17°」とし、第1、第2の接続回路C1,C2における各々の移相量を「8.8°」とした場合(つまり一対の接続回路C1,C2の移相量を17.6°とした場合)、前列(第1列)、接続回路C1、デジタル移相回路B及び接続回路C2に関する透過係数b/aの位相が最小となる位相θは、157°である。
【0103】
したがって、デジタル移相回路Bの最適数を「x」とすると、下式(3)が成立する。
17x+8.8×2=157 (3)
そして、この式(3)を解くことにより、最適数xとして8.2が得られるので、当該8.2を整数化することにより最適数xとして「8」が得られる。
【0104】
一方、後列(第2列)に関する透過係数b/aの位相が最小値を取るように位相θは202°である。したがって、デジタル移相回路Bの最適数を「x」とした場合に、下式(4)が成立する。
17x+8.8×2=202 (4)
そして、この式(4)を解くことにより、最適数xとして10.85が得られるので、当該10.85を整数化することにより最適数xとして「11」が得られる。
【0105】
また、高周波信号の周波数fを「24GHz」とした場合には、前列(第1列)、接続回路C1、デジタル移相回路B及び接続回路C2に関する透過係数b2/a1の位相を最小とする最適数xは10.96(整数として「11」)及び13.55(整数として「14」)となる。したがって、第1実施形態に係るデジタル移相器A1を24~30GHzの周波数帯で使用する場合、最適数xは8~14となる。
【0106】
このような第1実施形態によれば、最適数xが8~14に設定されているので、多列構造かつ列間接続構造において列間で隣り合う第1~第i-1のデジタル移相回路B~Bi-1と第i+1~第nのデジタル移相回路Bi+1~Bの相互干渉による移相量の減少を抑制することが可能である。すなわち、第1実施形態によれば、多列構造かつ列間接続構造において列間で隣り合う第1~第i-1のデジタル移相回路B~Bi-1と第i+1~第nのデジタル移相回路Bi+1~Bの相互干渉による移相量の減少を抑制することが可能なデジタル移相器A1を提供することが可能である。
【0107】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について図6及び図7を参照して説明する。
第2実施形態に係るデジタル移相器A2は、第1実施形態に係るデジタル移相器A1のデジタル移相回路Bを第2のデジタル移相回路Baに置き換えたものである。
【0108】
なお、図6及び図7では、上述した第1実施形態の構成要素と同一な構成要素には同一符号を示している。以下では、第1実施形態の構成要素と同一な構成要素については、重複するので再度の説明を省略する。
【0109】
このデジタル移相器A2は、図6に示すように、第2のデジタル移相回路Baとして構成されたn個(複数)のデジタル移相回路Ba~Ba、一対の接続回路C1,C2及び接地パターンDを備える。また、このデジタル移相器A2は、図示するように前列入力位置Pa1~後列入力位置Pa2の間における第1のデジタル移相回路Ba(前列最上流デジタル移相回路)から第iのデジタル移相回路Baiまでの間のデジタル移相回路Baの個数が8~12に設定されている。
【0110】
このようなデジタル移相器A2は、第1実施形態に係るデジタル移相器A1と同様に、複数のデジタル移相回路Ba~Baに関する多列構造を備える。また、このデジタル移相器A2は、第1実施形態に係るデジタル移相器A1と同様に、接地パターンDに基づく列間接続構造を備える。
【0111】
第2のデジタル移相回路Baは、図7に示すように、信号線路1、2つの内側線路2(第1の内側線路2a及び第2の内側線路2b)、2つの外側線路3(第1の外側線路3a及び第2の外側線路3b)、2つの接地導体4(第1の接地導体4a及び第2の接地導体4b)、コンデンサ5、複数の接続導体6、4つの電子スイッチ7(第1の電子スイッチ7a、第2の電子スイッチ7b、第3の電子スイッチ7c及び第4の電子スイッチ7d)及びスイッチ制御部8を備える。
【0112】
すなわち、第2のデジタル移相回路Baは、構成要素が第1実施形態のデジタル移相回路Bと同一であるが、信号線路1と第1の内側線路2aとの距離M及び信号線路1と第2の内側線路2bとの距離Mがデジタル移相回路Bよりも小さい。内側線路2(第1の内側線路2a及び第2の内側線路2b)は製造限界又は製造限界近くまで信号線路1に接近させることが望まく、上記距離Mは、例えば10μm未満であり、より好ましくは2μm以下である。
【0113】
また、第1実施形態のデジタル移相回路Bは、第1の接地導体4a及び第2の接地導体4bにおける外側線路3と内側線路2との間が多層構造を有している。これに対して、第2のデジタル移相回路Baにおける第1の接地導体4a及び第2の接地導体4bは、図示するように単層構造を有している。
【0114】
このような構成を備えるデジタル移相器A2について、複数のデジタル移相回路Ba~Baの最適数は、図6に示すように8~12である。すなわち、第2実施形態に係るデジタル移相器A2は、自然数iが8~12の範囲のいずれかの数に設定された構成を備える。
【0115】
第2実施形態に係るデジタル移相器A2について、第1実施形態と同様に37~40GHzの周波数帯における最適数xを個々のデジタル移相回路Ba~Baの高遅延モード時における移相量を「14.5°(37GHz)」及び「15.8°(40GHz)」とし、一対の接続回路C1,C2の移相量を「10.3°(37GHz)」及び「11.4°(40GHz)」とした場合について求めると、最適数xは8~12となる。
【0116】
このような第2実施形態によれば、最適数xが8~12に設定されているので、多列構造かつ列間接続構造を備える場合において、前列(第1列)と後列(第2列)との列間で隣り合う第1~第i-1のデジタル移相回路Ba~Bai-1と第i+1~第nのデジタル移相回路Bai+1~Baの相互干渉による移相量の減少を抑制することが可能である。
【0117】
すなわち、第2実施形態によれば、多列構造かつ列間接続構造を採用する場合において、列間で隣り合う第1~第i-1のデジタル移相回路Ba~Bai-1と第i+1~第nのデジタル移相回路Bai+1~Baの相互干渉による移相量の減少を抑制することが可能なデジタル移相器A2を提供することが可能である。
【0118】
なお、第1実施形態に係るデジタル移相器A1及び第2実施形態に係るデジタル移相器A2は、多列構造の一例として列数が2つの二列構造を備える。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、列数が3以上つまり三列以上の構造を備えるデジタル移相器にも適用可能である。
【符号の説明】
【0119】
A1,A2 デジタル移相器、B,B~B,Ba,Ba~Ba デジタル移相回路、C1,C2 接続回路、D 接地パターン、1 信号線路、2 内側線路、2a 第1の内側線路、2b 第2の内側線路、3 外側線路、3a 第1の外側線路、3b 第2の外側線路、4 接地導体、4a 第1の接地導体、4b 第2の接地導体、5 コンデンサ、6 接続導体、7 電子スイッチ、7a 第1の電子スイッチ、7b 第2の電子スイッチ、7c 第3の電子スイッチ、7d 第4の電子スイッチ(コンデンサ用電子スイッチ)、8 スイッチ制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7