(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120903
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】樹脂シート
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230823BHJP
C08B 5/14 20060101ALI20230823BHJP
C08B 5/00 20060101ALI20230823BHJP
C08B 31/06 20060101ALI20230823BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
C08J5/18 CEP
C08B5/14
C08B5/00
C08B31/06
C03C27/12 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024041
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】512192277
【氏名又は名称】クラレイ ユーロップ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Kuraray Europe GmbH
【住所又は居所原語表記】Philipp-Reis-Strasse 4, D-65795 Hattersheim am Main, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】飯柴 一輝
(72)【発明者】
【氏名】中原 淳裕
【テーマコード(参考)】
4C090
4F071
4G061
【Fターム(参考)】
4C090AA02
4C090AA08
4C090BB95
4C090BB96
4C090DA31
4C090DA40
4F071AA09
4F071AA78
4F071AB15
4F071AC05A
4F071AC15
4F071AE04
4F071AF30
4F071AF47Y
4F071AF58
4F071AG32
4F071AH03
4F071AH07
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
4G061AA04
4G061BA01
4G061CA05
4G061CB16
4G061CD18
4G061DA38
(57)【要約】
【課題】改善された耐炎性を有する樹脂シート、該樹脂シートからなる合わせガラス用中間膜及び該ガラス用中間膜を含む合わせガラスを提供する。
【解決手段】糖骨格を主鎖とする高分子化合物を含み、以下の条件(1)および条件(2):(1)ISO1716に準拠して測定された総発熱量が10MJ/kg以下である、(2)横軸に発熱開始温度から25℃減じた値 の常用対数、縦軸に示差走査熱量測定(DSC)にて測定した発熱量の常用対数をとった場合に、標準物質である2,4-ジニトロトルエン(DNT)および過酸化ベンゾイル(BPO)についてプロットした点を結んだ判定線よりも、下の発熱量となる、を満たす、樹脂シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖骨格を主鎖とする高分子化合物を含み、以下の条件(1)および条件(2):
(1)ISO1716に準拠して測定された総発熱量が10MJ/kg以下である、
(2)横軸に発熱開始温度から25℃減じた値の常用対数、縦軸に示差走査熱量測定(DSC)にて測定した発熱量の常用対数をとった場合に、標準物質である2,4-ジニトロトルエン(DNT)および過酸化ベンゾイル(BPO)についてプロットした点を結んだ判定線よりも、下の発熱量となる
を満たす、樹脂シート。
【請求項2】
前記高分子化合物が、デンプンまたはセルロースである、請求項1に記載の樹脂シート。
【請求項3】
前記高分子化合物が、リン酸基、亜リン酸基、硫酸基、亜硫酸基およびこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つの基を有する化合物でエステル化された変性高分子化合物を含む、請求項1または2に記載の樹脂シート。
【請求項4】
ICP発光分析にて測定される樹脂シート中のリン濃度が15質量%以上である、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項5】
金属イオンで中和されたリン酸基および/または亜リン酸基を有し、ICP発光分析にて測定される樹脂シート中のリン濃度が7質量%以上、かつ金属イオン濃度が4質量%以上である、請求項1~4のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項6】
ISO1716に準拠して測定された総発熱量が4MJ/kg以下である、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項7】
0.1~40質量%の可塑剤を含み、前記可塑剤の1分子あたりの炭素含有率が40質量%以下である、請求項1~6のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の樹脂シートからなる合わせガラス用中間膜。
【請求項9】
2枚の無機ガラスと、該2枚の無機ガラスの間に配置された請求項8に記載の合わせガラス用中間膜とを含む、合わせガラス。
【請求項10】
以下の要件:
(i)合わせガラス用中間膜の厚さは1.0mm以下である、および
(ii)2枚の無機ガラスの合計厚さは、合わせガラス用中間膜の厚さの2.5倍以上である
を満たす、請求項9に記載の合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シート、該樹脂シートからなる合わせガラス用中間膜、および該合わせガラス用中間膜を含む合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス破損時の破片の飛散防止や防犯性の向上等の目的のために、無機ガラスと合わせガラス用中間膜とを組み合わせた合わせガラスが有用であることが知られており、合わせガラスは、建造物の外壁にも用いられている。合わせガラス用中間膜には、ポリビニルブチラール樹脂(以下、PVB樹脂ともいう)に代表されるポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含む樹脂組成物が広く使用されている。
【0003】
しかし、PVB樹脂から形成された合わせガラス用中間膜は、火災発生時にガラス破損部または合わせガラス端部から着火及び燃焼し、火災の延焼の原因になり得る。そのため、火災時の延焼リスクを低減するために、耐炎性に優れた合わせガラス用中間膜が求められている。特許文献1や特許文献2には、PVB樹脂に難燃剤を添加したPVB樹脂の中間膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-261837号公報
【特許文献2】特開昭62-158037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らの検討によれば、特許文献1や特許文献2に記載されている中間膜は、火災時の延焼リスクの低減を達成するためには、耐炎性が不十分であることがわかった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、改善された耐炎性を有する樹脂シートおよび該樹脂シートからなる合わせガラス用中間膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の好適な態様を提供するものである。
【0008】
〔1〕 糖骨格を主鎖とする高分子化合物を含み、以下の条件(1)および条件(2):
(1)ISO1716に準拠して測定された総発熱量が10MJ/kg以下である、
(2)横軸に発熱開始温度から25℃減じた値の常用対数、縦軸に示差走査熱量測定(DSC)にて測定した発熱量の常用対数をとった場合に、標準物質である2,4-ジニトロトルエン(DNT)および過酸化ベンゾイル(BPO)についてプロットした点を結んだ判定線よりも、下の発熱量となる
を満たす、樹脂シート。
〔2〕 前記高分子化合物が、デンプンまたはセルロースである、〔1〕に記載の樹脂シート。
〔3〕 前記高分子化合物が、リン酸基、亜リン酸基、硫酸基、亜硫酸基およびこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つの基を有する化合物でエステル化された変性高分子化合物を含む、〔1〕または〔2〕に記載の樹脂シート。
〔4〕 ICP発光分析にて測定される樹脂シート中のリン濃度が15質量%以上である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の樹脂シート。
〔5〕 金属イオンで中和されたリン酸基および/または亜リン酸基を有し、ICP発光分析にて測定される樹脂シート中のリン濃度が7質量%以上、かつ金属イオン濃度が4質量%以上である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の樹脂シート。
〔6〕 ISO1716に準拠して測定された総発熱量が4MJ/kg以下である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の樹脂シート。
〔7〕 0.1~40質量%の可塑剤を含み、前記可塑剤の1分子当たりの炭素含有率が40質量%以下である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の樹脂シート。
〔8〕 〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の樹脂シートからなる合わせガラス用中間膜。
〔9〕 2枚の無機ガラスと、該2枚の無機ガラスの間に配置された〔8〕に記載の合わせガラス用中間膜とを含む、合わせガラス。
〔10〕 以下の要件:
(i)合わせガラス用中間膜の厚さは1.0mm以下である、および
(ii)2枚の無機ガラスの合計厚さは、合わせガラス用中間膜の厚さの2.5倍以上である
を満たす、〔9〕に記載の合わせガラス。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、改善された耐炎性を有する樹脂シートおよび該樹脂シートからなる合わせガラス用中間膜を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】
図2は、ガラス接着性の測定に用いる合わせガラスの模式図である。
【
図3】
図3は、鉄板が接着された、ガラス接着性の測定に用いる合わせガラスの模式図である。
【
図4】
図4は、合わせガラス燃焼試験方法について説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。また、特定のパラメータ等について複数の上限値および下限値が記載されている場合、これらの上限値および下限値のうち任意の上限値と下限値とを組合せて好適な数値範囲とすることができる。
【0012】
〔樹脂シート〕
本発明の樹脂シートは、糖骨格を主鎖とする高分子化合物を含み、以下の条件(1)および条件(2):
(1)ISO1716に準拠して測定された総発熱量が10MJ/kg以下である、
(2)横軸に発熱開始温度から25℃減じた値の常用対数、縦軸に示差走査熱量測定(DSC)にて測定した発熱量の常用対数をとった場合に、標準物質である2,4-ジニトロトルエン(DNT)および過酸化ベンゾイル(BPO)についてプロットした点を結んだ判定線よりも、下の発熱量となる
を満たす。
【0013】
本発明者らは、樹脂シートが条件(1)および条件(2)を満たす場合、耐炎性に優れ、火災時の延焼リスクを低減できる合わせガラス用中間膜に適した樹脂シートが得られることを見出した。本明細書において、耐炎性とは、発火しにくく、また、仮に着火または引火しても燃焼が継続せず延焼しにくい特性を表す。
【0014】
一方、条件(1)および/または条件(2)を満たさない場合、樹脂シートの耐炎性は低下する傾向がある。
【0015】
本発明の樹脂シートのISO1716に準拠して測定された総発熱量(以下、単に「総発熱量」ともいう)は、10MJ/kg以下であり、好ましくは8MJ/kg以下、より好ましくは5.5MJ/kg以下、さらに好ましくは4MJ/kg以下、特に好ましくは3MJ/kg以下である。樹脂シートの総発熱量が上記上限以下であると、樹脂シートが仮に着火または引火した場合でも燃焼が継続しにくいため、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい。また、樹脂シートの総発熱量が小さいほど着火しにくく、樹脂シートの耐炎性が高まるため、下限値は特に制限されず、例えば0MJ/kg以上であってよい。前記総発熱量は、ISO1716に準拠して測定でき、例えば実施例に記載の方法で測定できる。
【0016】
樹脂シートの総発熱量は、樹脂シートに含まれる成分の種類およびその含有量等を適宜調整することによって調整できる。例えば、後述の説明において好ましい態様、特に樹脂シートの耐炎性を向上させることが記載された態様を採用等することによって上記範囲内に調整してよい。例えば、後述の好ましい高分子化合物の種類、変性高分子化合物の好ましい変性基の種類、好ましい高分子化合物のエステル置換度、好ましい樹脂シート中のリン濃度、硫黄濃度および金属イオン濃度等を選択することにより、樹脂シートの総発熱量を上記範囲内に調整してよい。
【0017】
本発明の樹脂シートは、横軸に発熱開始温度(TDSC)から25℃減じた値の常用対数(log(TDSC-25))、縦軸に示差走査熱量測定(DSC)にて測定した発熱量(QDSC)の常用対数(logQDSC)をとった場合に、標準物質である2,4-ジニトロトルエン(DNT)および過酸化ベンゾイル(BPO)についてプロットした点を結んだ判定線(以下、単に「判定線」ともいう)よりも、下の発熱量となる。本明細書では、横軸に発熱開始温度から25℃減じた値の常用対数、縦軸に示差走査熱量測定(DSC)にて測定した発熱量の常用対数をとった場合に、試験物質についてプロットした点の判定線に対する位置を確認する試験を「安定性試験」と称する。また、安定性試験の結果、Netsu Sokutei, 16 (2), p. 90, (1989)「消防法第5類危険物の判定試験法としての熱分析」の判定方法に従い、樹脂シート等の試験物質についてプロットした点が判定線よりも下に位置する場合、試験物質は熱や衝撃による安定性が高く、これらの刺激を与えても爆発や発火を引き起こさないため「危険性なし」と判定し、判定線上または判定線よりも上に位置する場合、試験物質を危険性のある「危険性あり」と判定する。したがって、条件(2)を満たす樹脂シートは「危険性なし」に分類される。なお、安定性試験において「安定性」とは、空気の助けを借りることなしに、発熱分解を起こして、急速なガスの発生や燃焼および爆発を起こすことに関係する性質を表し、「危険性なし」と判定された試験物質は安定性が高いことを表す。一方、「危険性あり」とは、空気の助けを借りることなしに、発熱分解を起こして、急速なガスの発生や燃焼および爆発を起こすおそれがあることを意味し、安定性が低いことを表す。したがって、安定性試験で「危険性なし」と判定される樹脂シートは発火しにくいため火災時の延焼リスクが低く、耐炎性が高い傾向があり、「危険性あり」と判定される樹脂シートは火災時の延焼リスクが高く、耐炎性が低い傾向にある。
上述の通り、条件(2)を満たす樹脂シートは、安定性試験において「危険性なし」と判定される樹脂シートである。したがって、条件(2)を満たす樹脂シートは、日本国消防法第5類危険物を含まない樹脂シートであることを表す。前記消防法第5類危険物としては、有機過酸化物、硝酸エステル類、ニトロ化合物、ニトロソ化合物、アゾ化合物、ジアゾ化合物、ヒドラジンの誘導体、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミン塩類、金属のアジ化物、硝酸グアニジン、1-アリルオキシ-2,3-エポキシプロパン、4-メチリデンオキセタン-2-オン、およびこれらのいずれかを含有するものが挙げられる。
【0018】
図1に、安定性試験の結果の一例を示す。
図1において、2つの標準物質(BPOおよびDNT)についてプロットした点を結んだ直線が判定線を表す。
図1に示されるように、試験物質についてプロットした点が判定線よりも下に位置する場合に当該試験物質は「危険性なし」と判定され、試験物質についてプロットした点が判定線上または判定性より上に位置する場合に当該試験物質は「危険性あり」と判定される。
【0019】
樹脂シートの安定性試験の結果は、樹脂シートに含まれる成分の種類およびその含有量、ならびに樹脂シートに含まれる成分が有する官能基の種類等を適宜調整することによって調整できる。例えば、後述の説明において好ましい態様として記載される高分子化合物の種類、変性高分子化合物の変性基の種類、高分子化合物のエステル置換度、樹脂シート中のリン濃度、硫黄濃度および金属イオン濃度等を選択することにより、樹脂シートの安定性試験の結果を「危険性なし」に調整してもよい。特に、樹脂シートに含まれる成分として、硝酸エステルやニトロ基を有さない成分を選択すると、樹脂シートの安定性試験の結果を「危険性なし」としやすい。
【0020】
本発明の樹脂シートの発熱開始温度(TDSC)は、樹脂シートが条件(2)を満たす限り特に制限されないが、樹脂シートの耐炎性および安定性を向上しやすい観点から、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは170℃以上であり、下限は特に制限されない。
【0021】
本発明の樹脂シートのDSCにて測定した発熱量(QDSC)は、樹脂シートが条件(2)を満たす限り特に制限されないが、樹脂シートの耐炎性および安定性を向上しやすい観点から、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.8以下、さらに好ましくは1.6以下である。
【0022】
樹脂シートおよび標準物質のTDSCおよびQDSCは、示差走査熱量測定により測定でき、Netsu Sokutei, 16 (2), p. 90, (1989)「消防法第5類危険物の判定試験法としての熱分析」に記載されている方法に従って測定できる。
【0023】
<糖骨格を主鎖とする高分子化合物>
本発明の樹脂シートは、糖骨格を主鎖とする高分子化合物(以降、単に「高分子化合物」ともいう)を含む。糖骨格を主鎖とする高分子化合物としては、デンプン、セルロース、キチン、キトサン、ヘミセルロース、ペクチン、プルラン、寒天、アルギン酸、カラギーナン、デキストリン等の多糖類;トレイトール、エリトリトール、アラビニトール等の鎖状糖アルコールをモノマー単位として含むポリマーが挙げられる。これらの高分子化合物は、単独または2種以上組み合わせて使用できる。これらの高分子化合物の中でも、天然資源としての存在量が多く、入手が容易である観点から多糖類が好ましく、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい観点から、グルコース単位を含む多糖類がより好ましく、デンプンおよびセルロースがさらに好ましい。
【0024】
本発明の一実施形態において、デンプンとしては、例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦粉デンプン、馬鈴薯デンプン、タピオカデンプン、さつまいもデンプン、タケノコデンプン、こんにゃくデンプン等の一般的な各種デンプン類;軽度に酸化されたデンプンおよび酸処理された溶性デンプン等の加工デンプン類;およびこれらのデンプンを変性して得られる変性デンプン等が挙げられる。これらのデンプンは、単独でまたは2種以上組合せて使用できる。変性デンプンとしては、例えばエステル化デンプン、エーテル化デンプン、酸化デンプン等が挙げられ、例えばエステル化デンプンは、エステル化試薬でエステル化されたデンプンを表し、エステル化試薬由来の変性基を有する。これらのデンプンの中でも、安価で入手しやすく、反応液の粘度も低い観点から、コーンスターチおよびその変性デンプンが好ましい。
【0025】
本発明の一実施形態において、セルロースとしては、例えば、広葉樹又は針葉樹から得られる木材パルプ、非木材種からの精製パルプ(すなわち非木材パルプ)等の天然セルロース、再生セルロース、およびこれらのセルロースを変性して得られる変性セルロース等が挙げられる。これらのセルロースは、単独でまたは2種以上組合せて使用できる。変性セルロースとしては、例えばエステル化セルロース、エーテル化セルロース、酸化セルロース等が挙げられ、例えばエステル化セルロースは、エステル化試薬でエステル化されたセルロースを表し、エステル化試薬由来の変性基を有する。非木材パルプとしては、コットンリンターパルプを含むコットン由来パルプ(例えば精製リンター)、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプ、ワラ由来パルプ等を使用できる。コットン由来パルプ、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプおよびワラ由来パルプは、各々、コットンリント、コットンリンター、麻系のアバカ(例えば、エクアドル産又はフィリピン産のものが多い)、ザイサル、バガス、ケナフ、竹、ワラ等の原料から、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程を経て得られる精製パルプを意味する。天然セルロースとしては、動物(例えばホヤ類)や藻類、微生物(例えば酢酸菌)、微生物産生物等を起源としたセルロース繊維集合体を使用できる。再生セルロースとしては、再生セルロース繊維(ビスコース、キュプラ、テンセル等)のカット糸等、セルロース誘導体繊維のカット糸等、エレクトロスピニング法により得られた再生セルロース又はセルロース誘導体の極細糸等を使用できる。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば、丸澤、宇田著、「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」日刊工業新聞社(1970年発行)や発明推進協会公開技報公技番号2001-1745号(7頁~8頁)の記載を参照できる。
これらのセルロースの中でも、入手しやすさの観点から、木材パルプおよびその変性セルロースが好ましい。
【0026】
本発明の一実施形態において、糖骨格を主鎖とする高分子化合物は、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい観点から、エステル化試薬によりエステル化(または変性)された糖骨格を主鎖とする高分子化合物(以降「変性高分子化合物」ともいう)を含むことが好ましい。なお、本明細書において、特記しない限り、「糖骨格を主鎖とする高分子化合物」および「高分子化合物」という用語は、変性高分子化合物および/または未変性高分子化合物を意味する。
【0027】
前記エステル化試薬としては、無機酸およびその塩が挙げられ、具体的には、ピロリン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、メタリン酸、ポリリン酸、硫酸、亜硫酸、クロロスルホン酸、ホウ酸、フッ化水素酸、塩酸、塩素酸、過塩素酸、よう素酸、よう化水素酸、臭化水素酸、シアン化水素酸、ヘキサフルオロリン酸、ケイ酸、硝酸およびこれらの塩が挙げられる。これらのエステル化試薬は単独でまたは2種以上組合せて使用でき、変性高分子化合物は、1種類のエステル化試薬により変性されていても、2種以上のエステル化試薬の組合せにより変性されていてもよい。
これらのエステル化試薬の中でも、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい観点から、リンを含有する無機酸およびその塩、ならびに、硫黄を含有する無機酸およびその塩が好ましく、リン酸基、亜リン酸基、硫酸基、亜硫酸基およびこれらの塩から選択される少なくとも1つの基を有する化合物であることがより好ましい。したがって、本発明の好適な一実施形態において、糖骨格を主鎖とする高分子化合物は、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい観点から、好ましくはリンを含有する無機酸、硫黄を含有する無機酸およびこれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物でエステル化された変性高分子化合物、より好ましくはリン酸基、亜リン酸基、硫酸基、亜硫酸基およびこれらの塩から選択される少なくとも1つの基を有する化合物でエステル化された変性高分子化合物を含む。
【0028】
リン酸基、亜リン酸基、硫酸基、亜硫酸基およびこれらの塩から選択される少なくとも1つの基を有する化合物としては、例えば、リン酸、リン酸の脱水縮合物、ピロリン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、メタリン酸、ポリリン酸、硫酸、亜硫酸、スルホン酸およびこれらの塩が挙げられる。これらの化合物は、水和水等の形態で水を含んでいてもよく、水を含まない無水物であってもよい。これらは単独でまたは2種以上組合せて使用できる。これらの化合物の塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩が挙げられ、これらの塩は単独でまたは2種以上組合せて使用できる。これらの中でも、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい観点、および低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、ピロリン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩、ピロリン酸のナトリウム塩、ピロリン酸のカリウム塩、ピロリン酸のアンモニウム塩、硫酸が好ましい。
【0029】
本発明の一実施形態において、エステル化試薬は、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい観点から、硝酸およびその塩を含まないことが好ましい。硝酸およびその塩でエステル化された変性高分子化合物は、ニトロ基や硝酸エステルを有するため、日本国消防法第5類危険物に該当し、物質自身での反応、または急激な発熱やガス発生(爆発)を起こしやすく、上記安定性試験により「危険性あり」と判定されやすくなるためである。
【0030】
本発明の一実施形態において、エステル化試薬は、火災時に有害なハロゲンガスの発生を抑制または防止しやすい観点から、クロロスルホン酸、フッ化水素酸、塩酸、塩素酸、過塩素酸、よう素酸、よう化水素酸、臭化水素酸、ヘキサフルオロリン酸等のハロゲン原子を含む無機酸およびこれらの無機酸のハロゲン化物(塩)を含まないことが好ましい。
【0031】
本発明の一実施形態において、変性高分子化合物は、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい観点から、リン酸基、亜リン酸基、硫酸基および亜硫酸基からなる群から選択される少なくとも1つの変性基(または置換基)を有することが好ましく、リン酸基および亜リン酸基からなる群から選択される少なくとも1つの変性基を有することがより好ましく、リン酸基を有することがさらに好ましい。これらの変性高分子化合物が有し得るリン酸基、亜硫酸基、硫酸基および亜硫酸基は、金属イオンで中和されていてもよい。前記金属イオンの例としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属イオン等が挙げられる。これらの金属イオンは単独であっても、2種以上組み合わせて使用できる。
【0032】
本発明の一実施形態において、変性高分子化合物が有するリン酸基、亜リン酸基、硫酸基および亜硫酸基からなる群から選択される少なくとも1つの変性基は、変性高分子化合物および樹脂シートの熱安定性を向上しやすい観点、ならびに高分子化合物の劣化を抑制しやすく、高分子化合物の劣化による黒変を抑制しやすい観点から、一部または全部が金属イオンで中和されていることが好ましい。金属イオンとしては、上記に記載のものが挙げられ、樹脂シートの熱安定性および耐炎性を向上しやすい観点から、好ましくはアルカリ金属イオン、より好ましくはリチウムイオン、ナトリウムイオンである。なお、金属イオンで中和する方法は特に制限されず、例えば、アルカリ金属溶液中に、変性高分子化合物を浸漬してアルカリ処理し、その後洗浄する方法により行ってよい。
【0033】
本発明の一実施形態において、変性高分子化合物の有する変性基の中和度は、特に制限されず、例えば0~100%であってよいが、熱安定性を向上しやすく、黒変を抑制しやすい観点からは、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上、さらにより好ましくは30%以上、特に好ましくは35%以上である。また、前記中和度は、吸水性を低減し、特に長時間加熱した際の樹脂シートの黄変を防止しやすい観点から、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、さらに好ましくは80%以下、さらにより好ましくは75%以下、特に好ましくは70%以下である。前記中和度はICP発光分光分析により測定できる。
【0034】
本発明の一実施形態において、変性高分子化合物における無機酸エステル基、特にリン酸基、亜リン酸基、硫酸基、亜硫酸基およびこれらの金属イオンにより中和された基のエステル置換度(以降「無機酸エステル置換度」ともいう)は、樹脂シートの耐炎性を向上しやすく、ガラス接着性を向上しやすい観点から、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.8以上、さらに好ましくは1.0以上、さらにより好ましくは1.3以上、とりわけ好ましくは1.5以上、とりわけより好ましくは1.8以上、とりわけさらに好ましくは2.0以上、特に好ましくは2.2以上、特により好ましくは2.3以上、特にさらに好ましくは2.5以上である。また、無機酸エステル置換度が高まるほど樹脂シートの耐炎性が高まるため上限値は特に制限されず、例えば3.0以下であってよい。無機酸エステル置換度が高いほど樹脂シートの単位重量当たりの総発熱量を低減しやすくなるため、樹脂シートの厚さが厚い場合でも火災時の延焼リスクを低減でき、高い耐炎性を維持しつつ、耐衝撃性等の物性をより高めやすくなる。
【0035】
エステル置換度とは、変性高分子化合物を構成するモノマー単位が有する水酸基が無機酸およびその塩等のエステル化試薬によりエステル化された割合を意味する。例えば、高分子化合物がセルロースである場合、セルロースを構成するグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有しているため、変性セルロースのエステル置換度の上限は3.0である。したがって、未変性セルロースのエステル置換度は0であり、完全に(100%)エステル化された変性セルロースのエステル置換度は3.0である。
【0036】
エステル置換度の測定は公知の方法を用いることができ、例えばICP発光分光分析によって求められる。無機酸エステル置換度の測定は、ICP発光分光分析により置換基(または変性基)の中核となる元素、例えばリン酸エステルならばリン、硫酸エステルであれば硫黄の含有量を測定することで求めることができる。例えば、実施例に記載の方法により求めることができ、変性高分子化合物を硝酸中でマイクロ波分解処理した後、Carbohydrate Polymers 229 (2020) 115294に記載の下記式(1)に従って計算で求めることができる。
【0037】
【数1】
[式(1)中、
DSはエステル置換度を表し、
X(%)は、ICP発光分光分析によって求められた中核となる元素(例えばリンや硫黄)の含有量を表し、
M(X)は、置換基の中核となる元素(例えばリンや硫黄)のモル質量を表し、
M(graftedmol.)は、置換基1単位あたりのモル質量
n
(X)ingraftedmol.は、置換基1単位あたりの中核となる元素(例えばリンや硫黄)の個数を表す]
式(1)において、X(%)は、中核となる元素の含有量を表し、当該含有量はICP発光分光分析により求めることができる。例えば、当該含有量が3%である場合、式(1)のX(%)に0.03を代入することにより、エステル置換度DSを算出できる。
式(1)において、M(X)、M(graftedmol.)およびn
(X)ingraftedmol.は、置換基に対応する定数である。例えば置換基がリン酸エステル基(OPO(OH)
2)である場合、中核となる元素はリン(P)であり、M(P)は31であり、M(graftedmol.)は80(=97-17)であり、n
(P)ingraftedmol.は1であるとして扱う。また、置換基が亜リン酸エステル基(OPOH(OH))である場合、中核となる元素はリン(P)であり、M(P)は31であり、M(graftedmol.)は64であり、n
(P)ingraftedmol.は1であるとして扱う。また、置換基が硫酸エステル基(HSO
3)の場合、中核となる元素は硫黄(S)でありM(S)は32であり、M(graftedmol.)は80であり、n
(S)ingraftedmol.は1であるとして扱う。
【0038】
本発明の一実施形態において、変性高分子化合物は、本発明の効果を損なわない範囲で、無機酸およびその塩でエステル化された上記変性高分子化合物に加えて、有機酸およびその塩でエステル化された変性高分子化合物を含んでいてもよい。有機酸およびその塩でエステル化された変性高分子化合物としては、有機酸およびその塩により導入される有機酸エステル基等の変性基を有する化合物が挙げられる。前記変性基としては、例えば、アルキルカルボニルエステル基、アルケニルカルボニルエステル基、芳香族カルボニルエステル基、芳香族アルキルカルボニルエステル基等であり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブタノイル基、tert-ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基等が挙げられる。変性高分子化合物がこれらの置換基を有する場合、有機溶媒への親和性を高めやすく、無機酸による装置腐食を軽減しやすい。これらの中でも、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基を含むことが製造コストの面でより好ましく、アセチル基を含むことが特に好ましい。
【0039】
本発明の一実施形態において、有機酸およびその塩でエステル化された変性高分子化合物における有機酸エステル基等の変性基量は、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい観点から少ないことが好ましい。本発明の一実施形態において、有機酸およびその塩でエステル化された変性高分子化合物における有機酸エステル基のエステル置換度(以降「有機酸エステル置換度」ともいう)は、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい観点から、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.8以下、さらに好ましくは1.6以下、さらにより好ましくは1.5以下、とりわけ好ましくは1.3以下、とりわけより好ましくは1.0以下、特に好ましくは0.6以下、特により好ましくは0.5以下である。また、有機酸エステル置換度の下限値は特に制限されず、0以上であってよい。有機酸エステル置換度は、NMRによる化学分析で算出することができ、例えばNMRで変性基に由来するピークの面積比を算出することで求められる。
【0040】
本発明の一実施形態において、変性高分子化合物は、急速なガス発生、燃焼および爆発等を引き起こすリスクを低減しやすく、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい観点からは、ニトロ基および硝酸エステル基を有さないことが好ましい。
【0041】
本発明の一実施形態において、変性高分子化合物は、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい観点から、リン酸基、亜リン酸基、硫酸基、亜硫酸基およびこれらの塩から選択される少なくとも1つの基を有する化合物でエステル化された変性デンプンおよび/または変性セルロースを含むことが好ましく、より好ましくはリン酸デンプン、リン酸セルロース、硫酸デンプンおよび/または硫酸セルロースを、さらに好ましくはリン酸デンプンおよび/またはリン酸セルロースを含む。
【0042】
本発明の一実施形態において、無機酸およびその塩、特にリン酸基、亜リン酸基、硫酸基、亜硫酸基およびこれらの塩から選択される少なくとも1つの基を有する化合物でエステル化された変性高分子化合物の含有量は、高分子化合物の総量に対して、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量以上であり、また、好ましくは100質量%以下である。
【0043】
本発明の一実施形態において、高分子化合物中のリン濃度は、好ましくは7質量%以上、より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、さらにより好ましくは12質量%以上、とりわけ好ましくは14質量%以上、とりわけより好ましくは15質量%以上、特に好ましくは16質量%以上、特により好ましくは17質量%以上、特にさらに好ましくは20質量%以上である。リン濃度が上記の下限以上であると、火災時にリンを含む無機酸同士の縮合に伴う吸熱効果、および高分子化合物間の架橋により可燃性ガスを高分子化合物の内部に閉じ込める効果により、高分子化合物および樹脂シートの総発熱量を低減しやすく、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい。また、高分子化合物中のリン濃度は、高分子化合物の保管安定性を維持しやすい観点から、好ましくは23質量%以下、より好ましくは21質量%以下である。
【0044】
本発明の一実施形態において、高分子化合物中の硫黄濃度は、好ましくは9.4質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは12質量%以上、さらにより好ましくは13質量%以上、とりわけ好ましくは14質量%以上、とりわけより好ましくは15質量%以上、とりわけさらに好ましくは16質量%以上、特に好ましくは18質量%以上である。硫黄濃度が上記の下限以上であると、火災時に硫黄を含む無機酸による高分子化合物の脱水、およびその気化に伴う吸熱効果により、高分子化合物および樹脂シートの総発熱量を低減しやすく、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい。また、高分子化合物中の硫黄濃度は樹脂の保管安定性を維持しやすい観点から、好ましくは20質量%以下である。
【0045】
本発明の一実施形態において、高分子化合物中の金属イオン濃度は、好ましくは4質量%以上、より好ましくは7.5質量%以上、さらに好ましくは9質量%以上、さらにより好ましくは10質量%以上、とりわけ好ましくは12質量%以上、とりわけより好ましくは14質量%以上、とりわけさらに好ましくは16質量%以上、特に好ましくは20質量%以上である。金属濃度が上記の下限以上であると、可燃性のガスの発生を抑制しやすく、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい。また、高分子化合物中の金属イオン濃度は、高分子化合物の比重を小さくして軽量なシートを得やすい観点から、好ましくは26質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
【0046】
本発明の一実施形態において、高分子化合物は、好ましくは高分子化合物中のリン濃度が7質量%以上かつ金属イオン濃度が4質量%以上、より好ましくは高分子化合物中のリン濃度が10質量%以上かつ金属イオン濃度が5質量%以上、さらに好ましくは高分子化合物中のリン濃度が11質量%以上かつ金属イオン濃度が6質量%以上、さらにより好ましくは高分子化合物中のリン濃度が12質量%以上かつ金属イオン濃度が6質量%以上、特に好ましくは高分子化合物中のリン濃度が13質量%以上かつ金属イオン濃度が6質量%以上、特により好ましくは高分子化合物中のリン濃度が13質量%以上かつ金属イオン濃度が7質量%以上、特にさらに好ましくは高分子化合物中のリン濃度が15質量%以上かつ金属イオン濃度が8質量%以上である。リン濃度および金属イオン濃度が上記上限以下であると、火災時にリンを含む無機酸同士の縮合に伴う吸熱効果、および高分子化合物間の架橋により可燃性ガスを高分子化合物の内部に閉じ込める効果に加えて、可燃性ガスの発生の抑制効果により、高分子化合物および樹脂シートの総発熱量を低減しやすく、また、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい。
【0047】
本発明の一実施形態において、高分子化合物は、好ましくは高分子化合物中の硫黄濃度が9.4質量%以上かつ金属イオン濃度が4質量%以上、より好ましくは高分子化合物中の硫黄濃度が10質量%以上かつ金属イオン濃度が8質量%以上、さらに好ましくは高分子化合物中の硫黄濃度が12質量%以上かつ金属イオン濃度が9質量%以上、さらにより好ましくは高分子化合物中の硫黄濃度が14質量%以上かつ金属イオン濃度が10質量%以上、特に好ましくは高分子化合物中の硫黄濃度が15質量%以上かつ金属イオン濃度が11質量%以上、特により好ましくは高分子化合物中の硫黄濃度が16質量%以上かつ金属イオン濃度が12質量%以上、特にさらに好ましくは高分子化合物中の硫黄濃度が18質量%以上かつ金属イオン濃度が13質量%以上である。硫黄濃度および金属イオン濃度が上記上限以下であると、火災時に硫黄を含む無機酸による高分子化合物の脱水、およびその気化に伴う吸熱効果に加えて、可燃性ガスの発生の抑制効果により、高分子化合物および樹脂シートの総発熱量を低減しやすく、また、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい。
【0048】
高分子化合物中のリン濃度、硫黄濃度および金属イオン濃度は、ICP発光分光分析により求めることができ、例えば実施例に記載の方法で求めることができる。
【0049】
糖骨格を主鎖とする高分子化合物の粘度平均分子量は、耐貫通性を高めやすい観点から、好ましくは30,000以上、より好ましくは50,000以上、さらに好ましくは100,000以上、特に好ましくは200,000以上である。また、前記粘度平均分子量は、溶解性が良好であり、樹脂シートを製造する際に用いるドープの粘度を低減しやすく、樹脂シートを製造しやすい観点から、好ましくは500,000以下、より好ましくは400,000以下、さらに好ましくは350,000以下、特に好ましくは300,000以下である。前記粘度平均分子量は、例えばJIS P8215:1998に準拠して、銅エチレンジアミン(CED)希薄溶液の極限粘度数[η]を測定し、下式に適用することで求められる。
[η]=190×[DP]
粘度平均分子量=162×[DP]+18
【0050】
本発明の一実施形態において、糖骨格を主鎖とする高分子化合物のISO1716に準拠して測定された総発熱量は、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい観点から、好ましくは20MJ/kg以下、より好ましくは17MJ/kg以下、さらに好ましくは12MJ/kg以下、さらにより好ましくは10MJ/kg以下、とりわけ好ましくは8MJ/kg以下、とりわけより好ましくは6MJ/kg以下、とりわけさらに好ましくは4MJ/kg以下、特に好ましくは3MJ/kg以下、特により好ましくは2MJ/kg以下、特にさらに好ましくは1MJ/kg以下である。前記総発熱量の下限は特に制限されず、0MJ/kg以上であってよい。糖骨格を主鎖とする高分子化合物の総発熱量が低いほど、樹脂シートに含まれていてもよい高分子化合物以外の他の成分の種類やその含有量等の樹脂シートの設計が容易となる。糖骨格を主鎖とする高分子化合物の総発熱量は、例えば前記高分子化合物における変性高分子化合物の含有量によって調整でき、特に無機酸およびその塩でエステル化された変性高分子化合物の含有量を増やしたり、有機酸およびその塩でエステル化された変性高分子化合物の含有量を減らしたりすることによって、上記の上限以下に調整できる。前記総発熱量は、ISO1716に準拠して測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0051】
本発明の一実施形態において、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい観点から、糖骨格を主鎖とする高分子化合物は、上記条件(2)を満たす、すなわち、安定性試験において「危険性なし」と判定されるものであることが好ましい。
【0052】
本発明の一実施形態において、樹脂シート中の高分子化合物の含有量は、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい観点および樹脂シートの耐貫通性等の機械物性を向上しやすい観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらにより好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。また、樹脂シート中の高分子化合物の含有量の上限は特に制限されず、100質量%以下であってよい。
【0053】
本発明の一実施形態において、樹脂シート中の無機酸およびその塩、特にリン酸基、亜リン酸基、硫酸基、亜硫酸基およびこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つの基を有する化合物でエステル化された変性高分子化合物の含有量は、樹脂シート中の耐炎性を向上しやすい観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらにより好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。また、樹脂シート中の前記変性高分子化合物の含有量の上限は特に制限されず、100質量%以下であってよい。
【0054】
変性高分子化合物の製造方法は特に制限されず、公知の方法により製造できる。例えば、糖骨格を主鎖とする高分子化合物と、上述の無機酸およびその塩等のエステル化試薬とを反応させることにより製造できる。高分子化合物とエステル化試薬との反応は、高分子化合物をエステル化試薬と共に溶媒中に分散させて不均一系で行ってもよく、高分子化合物を溶媒中に溶解させ、均一系で行ってもよい。また、前記反応は溶媒の不存在下で行ってもよく、例えばニーダー等で高分子化合物とエステル化試薬とを加熱混錬して反応させたり、赤外線間接装置やマイクロ波加熱装置中で反応させたりしてもよい。なお、均一系で反応させる場合には、高分子化合物について後述の前処理を行うことにより、高分子化合物を溶媒に溶解させることができる。
【0055】
高分子化合物とエステル化試薬との反応に使用し得る溶媒としては、特に限定されず、水および/または有機溶媒であってよい。エステル化試薬としての無機酸およびその塩を溶解しやすく、取り扱いが容易である観点からは水を使用することが好ましいが、エステル置換度を高めやすい観点からは、高分子化合物を膨潤または溶解し得る有機溶媒を使用することが好ましい。また、前記反応を加速させるために、高い温度で反応を行う場合は、尿素を溶媒として用いることもできる。
【0056】
有機溶媒としては、特に限定されず、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アルキルアミド系溶媒、ピロリドン系溶媒、ハロゲン含有溶媒、またはこれらの混合溶媒を使用できる。アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ヘキサノール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル、ギ酸メチル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等が挙げられる。また、アルキルアミド系溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等が挙げられる。ピロリドン系溶媒としては、例えば、2-ピロリドン、3-ピロリドン等が挙げられる。ハロゲン含有溶媒としては、例えばジクロロメタン等が挙げられる。副反応を防止しやすい観点からは、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジクロロメタン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルが好ましく、さらに無機酸エステルの溶解性の観点から、N,N-ジメチルホルムアミドやN,N-ジメチルアセトアミド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルがより好ましい。
【0057】
高分子化合物とエステル化試薬との反応の前に、高分子化合物を有機溶媒中で膨潤させておくことが反応性を高めやすい観点から好ましい。膨潤に使用する溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジクロロメタン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルが好ましく、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルがより好ましい。
【0058】
高分子化合物の有機溶媒中に膨潤させる以外に、高分子化合物を溶媒中に溶解させるために、前処理を行ってもよい。前処理としては、特に限定されず、公知の方法を利用できる。例えば、以下の方法(i)および(ii)を挙げることができる。
方法(i):一般にアルセル化またはマーセル化と呼ばれる活性化方法、すなわち、高分子化合物、例えばセルロース、大量の水および大過剰のアルカリ金属水酸化物を混合して、アルカリ高分子化合物(例えばアルカリセルロース)を得る方法。
方法(ii):高分子化合物、例えばセルロースを、例えばテトラブチルアンモニウムフルオリドを含むジメチルスルホキシド、パラホルムアルデヒドを含むジメチルスルホキシド、塩化リチウムを含むジメチルアセトアミド等の溶媒、「セルロースの事典、編者:セルロース学会、発行所:株式会社朝倉書店」、Macromol.Chem.Phys.201,627-631(2000)等に記載されるセルロース等の高分子化合物が溶解可能な溶媒を用い、高分子化合物を溶解させる方法。
これらの方法の中でも、塩化リチウムを含むジメチルアセトアミド溶媒を使用した反応が、温和な反応で短時間に前処理が可能であるため好ましい。
【0059】
前記反応において、高分子化合物、エステル化試薬および溶媒の他に、触媒を使用してもよい。触媒としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のアミン類が挙げられる。これらの中でも、トリエチルアミンが好ましい。
また、エステル化試薬として、リン酸等のリンを含む無機酸およびその塩を使用する場合、エステル置換度を高めやすい観点から、五酸化二リンを併用することが好ましい。
エステル化試薬として、硫酸等の硫黄を含む無機酸およびその塩を使用する場合、酸無水物を併用することが好ましい。
【0060】
<可塑剤>
本発明の一実施形態において、樹脂シートは、本発明の効果を損なわない範囲において、高分子化合物の粘度を低減し、樹脂シートの製膜性を向上しやすい観点から、可塑剤をさらに含んでいてもよい。
【0061】
可塑剤としては、従来公知の可塑剤を使用でき、その例としては、フタル酸エステル、イソフタル酸エステル、脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸エステル、アジピン酸エステル、フマル酸エステル、セバシン酸エステル、マレイン酸エステル、コハク酸エステル等)、多価アルコールエーテルまたはエステル(例えば、グリセロールのエステル、エチレングリコールのエステルまたはエーテル、1,2-プロピレングリコールのエステルまたはエーテル等)、安息香酸エステル、二安息香酸ジエチレングリコール、アゼライン酸エステル、アリーレン-ビス(リン酸ジアリール)、クエン酸エステル、リン酸エステル、ポリエステル、トリメリット酸エステル(例えば、トリメリット酸トリブチルエステル、トリメリット酸トリオクチル)、無機酸、糖類(例えば、単糖類、オリゴ糖、鎖状糖アルコール)等が挙げられる。これらの可塑剤は、単独でまたは2種以上組合せて使用できる。
【0062】
上記の可塑剤の一例を下記のように例示するが、これに限定されるものではない。
トリアセチン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、リン酸オクチルジフェニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸ビフェニルジフェニル、リン酸トリフェニル、リン酸トリ(2-エチルヘキシル)、リン酸トリ(ブトキシエチル)、亜リン酸トリ(2-エチルヘキシル)、クエン酸トリエチル、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、O-アセチルクエン酸トリブチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジアリール、フタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジ-(2-メトキシエチル)、フタル酸ジ-オクチル、アジピン酸ジオクチル、酒石酸ジブチル、o-ベンゾイル安息香酸エチル、グリコール酸エチルフタリルエチル、グリコール酸メチルフタリルエチル、N-エチルトルエンスルホンアミド、p-トルエンスルホン酸o-クレジル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,5-ペンチレングリコール、トリエチレングリコール、およびテトラエチレングリコール、芳香族ジオール、置換芳香族ジオール、芳香族エーテル、トリプロピオニン、トリベンゾイン、ポリカプロラクトン、グリセリン、グリセリンエステル、ジアセチン、二安息香酸プロピレングリコール、三安息香酸グリセリル、二安息香酸ジエチレングリコール、二安息香酸トリエチレングリコール、二安息香酸ジプロピレングリコール、および二安息香酸エチレングリコール、酢酸安息香酸グリセリン、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、フェノール、ベンジルアルコール、ヒドロキノン、カテコール、レゾルシノール、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールエステル、ポリエチレングリコールジエステル、ジ-2-エチルヘキシルポリエチレングリコールエステル、ビス(2-エチルヘキサン酸)トリエチレングリコール、グリセリンエステル、ジエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリコールジグリシジルエーテル、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリジノン、C1~C20のジカルボン酸エステル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジ(2-エチルヘキシル)、アジピン酸3-メチル-1,5-ペンタンジオール、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジオクチル、酢酸レゾルシノール、カテコール、カテコールエステル、フェノール類、エポキシ化ダイズ油、ヒマシ油、亜麻仁油、エポキシ化亜麻仁油、その他の植物油、その他の種子油、ポリエチレングリコール系二官能グリシジルエーテル、γバレロラクトン、リン酸アルキルエステル、リン酸アリールエステル類、リン脂質類、オイゲノール、シンナミルアルコール、カンファー、メトキシヒドロキシアセトフェノン、バニリン、エチルバニリン、2-フェノキシエタノール、グリコールエーテル類、グリコールエステル類、グリコールエステルエーテル類、ポリグリコールエーテル類、ポリグリコールエステル類、エチレングリコールエーテル類、プロピレングリコールエーテル類、エチレングリコールエステル類、プロピレングリコールエステル類、ポリプロピレングリコールエステル類、アセチルサリチル酸、アセトアミノフェン、ナプロキセン、イミダゾール、トリエタノールアミン、安息香酸、安息香酸ベンジル、サリチル酸、4-ヒドロキシ安息香酸、4-ヒドロキシ安息香酸プロピル、4-ヒドロキシ安息香酸メチル、4-ヒドロキシ安息香酸エチル、4-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、二安息香酸ジエチレングリコール、二安息香酸ジプロピレングリコール、二安息香酸トリエチレングリコール、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソール、エチレンジアミン、ピペリジン、ピペラジン、ヘキサメチレンジアミン、トリアジン、トリアゾール、ピロール、グルコース、ガラクトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、乳果オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、アルギン酸、トレハロース、トレイトール、エリトリトール、アラビニトール、キシリトール、イジトール、ガラクチトール、マンニトール、ソルビトールならびにそれらの混合物。
【0063】
これらの可塑剤の中でも、ブリードアウトしにくい観点から、糖類、多価アルコールエーテルまたはエステル、リン酸エステルが好ましく、より好ましくは単糖類、二糖類、炭素数6以下の鎖状アルコール、リン酸トリアルキル、さらに好ましくは炭素数5以上6以下の鎖状アルコール、リン酸トリメチル、リン酸エチルである。
【0064】
本発明の一実施形態において、可塑剤の1分子あたりの(単位化学構造中の)炭素含有率は、特に制限されず、0~100%であってもよいが、樹脂シート中の可塑剤含有量が多くても樹脂シートの総発熱量を低く維持しやすく、樹脂シートの耐炎性の向上と樹脂シートの良好な製膜性とを両立しやすい観点、樹脂シート設計の自由度を高めやすい観点からは、低い方が好ましく、例えば、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは45%以下、さらにより好ましくは40%以下、特に好ましくは30%以下である。可塑剤の1分子あたりの(単位化学構造中の)炭素含有率は、可塑剤が分子量10,000g/モル未満の低分子化合物である場合には化学式中の、可塑剤が重量平均分子量10,000以上の重合体である場合には、単位化学構造中の炭素原子が占める重量を平均モル分子量で除して重量分率を求めればよい。重合体の平均モル分子量を求める方法は特に限定されず、重量平均分子量、数平均分子量、粘度平均分子量などを利用できるが、本発明においては重量平均分子量を利用する。
【0065】
本発明の一実施形態において、可塑剤の分子量または重量平均分子量は、好ましくは30,000未満、より好ましくは10,000以下、さらに好ましくは1,000以下、さらにより好ましくは500以下、特に好ましくは300以下である。
【0066】
本発明の一実施形態において、可塑剤の含有量は、発熱量を下げやすい観点から、樹脂シートの総質量に対して、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。また、可塑剤の含有量は、樹脂シートを柔軟化しやすい観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、特に好ましくは10質量%以上である。
【0067】
<発熱量低減材料>
本発明の一実施形態において、本発明の樹脂シートは、樹脂シートの総発熱量を低減しやすく、耐炎性を向上しやすい観点から、必要に応じて、発熱量低減材料をさらに含んでいてもよい。
【0068】
本明細書において、発熱量低減材料とは高分子化合物と混合した際に発熱量の低減効果を有する材料、すなわち、ISO1716に準拠して測定される総発熱量が単体で10MJ/kg以下の材料を意味する。発熱量低減材料としては、主に無機酸およびその塩またはそのハロゲン化物、金属水酸化物およびその塩、金属塩、低分子のカルボン酸およびその塩またはそのハロゲン化物、フィチン酸、尿素等が挙げられる。無機酸およびその塩、およびそのハロゲン化物としては、例えばリン酸、ピロリン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、メタリン酸、ポリリン酸、硫酸、亜硫酸、クロロスルホン酸、ホウ酸、フッ化水素酸、塩酸、塩素酸、過塩素酸、よう素酸、よう化水素酸、臭化水素酸、シアン化水素酸、ヘキサフルオロリン酸、ケイ酸、これらの塩、およびこれらのハロゲン化物等が挙げられる。金属水酸化物および金属塩としては、例えばリチウム、ナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム、アルミニウム等の金属水酸化物やハロゲン化物が挙げられる。低分子のカルボン酸およびその塩、およびそのハロゲン化物としては、例えばシュウ酸、酒石酸、マロン酸、リンゴ酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、アスパラギン酸、これらの塩、およびこれらのハロゲン化物等が挙げられる。これらの中でも、発熱量をより低減しやすい観点から、リン酸、ピロリン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、メタリン酸、ポリリン酸、硫酸、亜硫酸等のリンまたは硫黄を含む無機酸およびその塩が好ましく、リンを含む無機酸およびその塩がより好ましい。
【0069】
本発明の一実施形態において、発熱量低減材料の含有量は、樹脂シートの総発熱量が10MJ/kg以下となるように適宜選択すればよく、例えば、高分子化合物として無機酸およびその塩でエステル化された変性高分子化合物を使用する場合には、高分子化合物として未変性高分子化合物を使用する場合よりも発熱量低減材料の含有量を低減できる。本発明の一実施形態において、発熱量低減材料の含有量は、樹脂シートの機械物性を向上しやすい観点、および発熱量低減材料の分散性を高め、発熱量低減材料による発熱量の低減効果を得やすい観点から、樹脂シートの総質量に対して、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、さらにより好ましくは20質量%以下、特に好ましくは10質量%以下、特により好ましくは5質量%以下、特にさらに好ましくは1質量%以下である。前記含有量の下限は特に制限されず、0質量%以上であってよい。本発明の一実施形態において、高分子化合物と発熱量低減材料との分離を抑制しやすい観点からは、樹脂シートは発熱量低減材料を含まないことが好ましい。
【0070】
<他の添加剤>
本発明の一実施形態において、樹脂シートは、高分子化合物に加えて、可塑剤および発熱量低減材料以外の他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型形剤、加工助剤、発泡剤、帯電防止剤、染料、顔料、光拡散剤、有機色素、艶消し剤、充填剤、ブロッキング防止剤、流動促進剤、溶融強度増強剤、分岐剤(例えば、グリセロール、トリメリット酸および無水物)、鎖延長剤、核形成剤、乳白剤、ガラスビーズ、金属球、セラミックビーズ、強化剤、カーボンブラック、耐衝撃性改質剤および蛍光体等が挙げられる。これらの添加剤は、単独でまたは2種以上組合せて使用できる。樹脂シートが他の添加剤を含む場合、その含有量は特に制限されないが、樹脂シートの総質量に対して、例えば5質量%以下であってよく、好ましくは3質量%以下である。
【0071】
<樹脂シート>
本発明の樹脂シートは、条件(1)および条件(2)を満たすため、発火しにくく、仮に着火または引火しても燃焼が継続しにくく、また、爆発の危険性がないため耐炎性に優れており、火災時の延焼リスクを低減できる。
【0072】
本発明の一実施形態において、樹脂シート中のリン濃度は、好ましくは7質量%以上、より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、さらにより好ましくは12質量%以上、とりわけ好ましくは14質量%以上、とりわけより好ましくは15質量%以上、特に好ましくは16質量%以上、特により好ましくは17質量%以上、特にさらに好ましくは20質量%以上である。リン濃度が上記の下限以上であると、樹脂シートの総発熱量を低減しやすく、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい。また、樹脂シート中のリン濃度は、樹脂シートの保管安定性を維持しやすい観点から、好ましくは23質量%以下、より好ましくは21質量%以下である。
【0073】
本発明の一実施形態において、樹脂シート中の硫黄濃度は、好ましくは9.4質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは12質量%以上、さらにより好ましくは13質量%以上、とりわけ好ましくは14質量%以上、とりわけより好ましくは15質量%以上、とりわけさらに好ましくは16質量%以上、特に好ましくは18質量%以上である。硫黄濃度が上記の下限以上であると、樹脂シートの総発熱量を低減しやすく、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい。また、樹脂シート中の硫黄濃度は、樹脂シートの保管安定性を維持しやすい観点から、好ましくは20質量%以下である。
【0074】
本発明の一実施形態において、樹脂シートは、耐炎性を向上しやすい観点から、金属イオンで中和されたリン酸基、亜リン酸基、硫酸基および/または亜硫酸基を有することが好ましく、金属イオンで中和されたリン酸基および/または亜リン酸基を有することがより好ましい。樹脂シートが有する金属イオンで中和された上記無機酸基は、樹脂シート中に含まれる高分子化合物が有していても、任意に含まれていてもよい可塑剤や発熱量低減材料、他の添加剤等が有していてもよい。
本発明の一実施形態において、樹脂シート中の金属イオン濃度は、好ましくは4質量%以上、より好ましくは7.5質量%以上、さらに好ましくは9質量%以上、さらにより好ましくは10質量%以上、とりわけ好ましくは12質量%以上、とりわけより好ましくは14質量%以上、とりわけさらに好ましくは16質量%以上、特に好ましくは20質量%以上である。金属濃度が上記の下限以上であると、可燃性のガスの発生を抑制しやすく、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい。また、樹脂シート中の金属イオン濃度は、比重を小さくして軽量なシートを得やすい観点から、好ましくは26質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
【0075】
本発明の一実施形態において、本発明の樹脂シートは、好ましくは樹脂シート中のリン濃度が7質量%以上かつ金属イオン濃度が4質量%以上、より好ましくは樹脂シート中のリン濃度が10質量%以上かつ金属イオン濃度が5質量%以上、さらに好ましくは樹脂シート中のリン濃度が11質量%以上かつ金属イオン濃度が6質量%以上、さらにより好ましくは樹脂シート中のリン濃度が12質量%以上かつ金属イオン濃度が6質量%以上、特に好ましくは樹脂シート中のリン濃度が13質量%以上かつ金属イオン濃度が6質量%以上、特により好ましくは樹脂シート中のリン濃度が13質量%以上かつ金属イオン濃度が7質量%以上、特にさらに好ましくは樹脂シート中のリン濃度が15質量%以上かつ金属イオン濃度が8質量%以上である。リン濃度および金属イオン濃度が上記上限以下であると、樹脂シートの総発熱量を低減しやすく、また、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい。
【0076】
本発明の一実施形態において、本発明の樹脂シートは、好ましくは樹脂シート中の硫黄濃度が9.4質量%以上かつ金属イオン濃度が4質量%以上、より好ましくは樹脂シート中の硫黄濃度が10質量%以上かつ金属イオン濃度が8質量%以上、さらに好ましくは樹脂シート中の硫黄濃度が12質量%以上かつ金属イオン濃度が9質量%以上、さらにより好ましくは樹脂シート中の硫黄濃度が14質量%以上かつ金属イオン濃度が10質量%以上、特に好ましくは樹脂シート中の硫黄濃度が15質量%以上かつ金属イオン濃度が11質量%以上、特により好ましくは樹脂シート中の硫黄濃度が16質量%以上かつ金属イオン濃度が12質量%以上、特にさらに好ましくは樹脂シート中の硫黄濃度が18質量%以上かつ金属イオン濃度が13質量%以上である。硫黄濃度および金属イオン濃度が上記上限以下であると、樹脂シートの総発熱量を低減しやすく、また、樹脂シートの耐炎性を向上しやすい。
【0077】
樹脂シート中のリン濃度、硫黄濃度および金属イオン濃度は、ICP発光分光分析により求めることができ、例えば実施例に記載の方法で求めることができる。
【0078】
本発明の一実施形態において、本発明の樹脂シートの水分含有量は特に限定されないが、長期耐久性が求められる合わせガラス用途では水分が樹脂シートとガラス界面の接着を阻害し得るため、少ない方が好ましい。樹脂シートの水分含有量は通常0~100%であり、好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下、特に好ましくは15%以下である。前記水分含有量は公知の手法で測定が可能であり、例えば23℃、相対湿度50%の条件で平衡状態まで調湿させた樹脂シートの重量を測定したのち、105℃で一晩乾燥させた後の樹脂シートの重量を測定し、以下の式を用いて算出することができる。
水分含有量(%)=(105℃における乾燥前の重量-105℃における乾燥後の重量)/(105℃における乾燥前の重量)×100
水分含有量は恒温恒湿に調整した室内で保管、あるいは熱風乾燥機および真空乾燥機によって樹脂シート内の水分を揮発させる等により調整できる。
【0079】
本発明の一実施形態において、本発明の樹脂シートの厚さは、例えば0.0010mm~5.0mmであってよく、耐貫通性を高めやすい観点から、好ましくは0.30mm以上、より好ましくは0.40mm以上、さらに好ましくは0.45mm以上であり、また、樹脂シートから溶剤を十分に揮発させやすい観点から、好ましくは5.00mm以下、より好ましくは3.00mm以下、さらに好ましくは2.00mm以下、さらにより好ましくは1.50mm以下、特に好ましくは1.00mm以下、特により好ましくは0.90mm以下、特にさらに好ましくは0.80mm以下である。樹脂シートの厚さが前記範囲内であると、樹脂シートの厚さの均一性と合わせガラスの接着性とを両立させやすい。樹脂シートの厚さは、厚み計で測定でき、複数箇所(例えば10~20箇所)測定した平均値を樹脂シートの厚さとして採用できる。
【0080】
本発明の樹脂シートは、本発明における糖骨格を主鎖とする高分子化合物を含んでなる層(以下「樹脂シートA」ともいう)を1層以上含む。本発明の一実施形態において、本発明の樹脂シートは、1層または2層以上の樹脂シートAのみから構成されていても、樹脂シートAの表面に他の樹脂層を含んでいてもよい。
【0081】
他の樹脂層としては、例えば公知の合わせガラス用中間膜として利用されているポリビニルブチラール(PVB)やエチレン系アイオノマーを含有する層等が挙げられる。これらの他の樹脂層を樹脂シートAの表面に積層すると、樹脂シートをガラスと積層する際に表面への追従性を高めやすい傾向がある。これらの樹脂シートA以外の他の層の厚さは、樹脂シートの総発熱量を低減し、耐炎性を向上しやすい観点から、薄い方が好ましく、例えば0.0001~0.050mm、好ましくは0.0001~0.0030mm、さらに好ましくは0.0001~0.0015mmであってよい。樹脂シートAまたは他の樹脂層が複数ある場合、各層を構成する成分および各層の厚さは、互いに同じでも異なっていてもよい。また、樹脂シートAの厚さは、本発明の樹脂シートの厚さに関する記載が同様にあてはまる。
【0082】
本発明の一実施形態において、本発明の樹脂シートの表面に、易接着処理を施してもよい。易接着処理の例としては、コロナ処理、プラズマ処理および低圧紫外線処理等の表面処理や、塗布などにより密着助剤層を設けることが挙げられる。密着助剤としては、例えば、イソシアネート基、カルボジイミド基、エポキシ基、オキサゾリン基、アミノ基及びシラノール基から選択される少なくとも1種を含む化合物や、有機ケイ素化合物が挙げられる。中でも、密着助剤はイソシアネート基を含む化合物(イソシアネート化合物)及び有機ケイ素化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。有機ケイ素化合物としては、例えば、シランカップリング剤縮合物や、シランカップリング剤を挙げることができる。親水化処理以外の表面処理の方法としては、UV照射処理、電子線照射処理、火炎処理等を挙げることができる。
【0083】
密着助剤層は公知の方法により樹脂シートに形成できる。例えば、密着助剤を樹脂シートに塗布し、乾燥することを含む方法を挙げることができる。易接着層の厚さは、乾燥状態において、好ましくは1~100nm、より好ましくは10~50nmである。塗布に用いる密着助剤は溶媒により希釈して用いてよく、溶媒としては特に制限されず、例えばアルコール類を使用できる。希釈濃度(塗布液の総質量に対する固形分の質量の百分率)は特に限定されないが、好ましくは1~5質量%、より好ましくは1~3質量%である。
【0084】
本発明の一実施形態において、本発明の樹脂シートは、優れた耐貫通性を有する。樹脂シートの耐貫通性は貫通エネルギーによって評価できる。樹脂シートの貫通エネルギーは、樹脂シートの耐貫通性の観点から、好ましくは3J以上、より好ましくは5J以上、さらに好ましくは7J以上である。貫通エネルギーの上限値は特に限定されず、例えば25J以下であってよい。樹脂シートの貫通エネルギーが上記下限値以上であると、本発明の樹脂シートを合わせガラス用中間膜として使用した場合において、合わせガラスに飛来物が衝突して合わせガラスが破損しても、中間膜としての樹脂シートが破断しにくく、安全性を向上できる。貫通エネルギーは、樹脂シートに含まれる高分子化合物の分子量や樹脂シートの厚さにより調整でき、例えば前記分子量を大きくしたり、厚さを厚くすると、貫通エネルギーを高めやすい。なお、貫通エネルギーは、落錘式衝撃試験機を用いてASTM D3763に準拠して、測定温度23℃、荷重2kg、衝突速度9m/秒の条件にて試験を行うことにより測定できる。
【0085】
本発明の一実施形態において、本発明の樹脂シートの、引張動的粘弾性測定により25~50℃、周波数1Hz、ひずみ<1%で測定される引張貯蔵弾性率は、通常0.1~3,000MPaである。前記引張貯蔵弾性率は、好ましくは50MPa以上、より好ましくは100MPa以上であり、好ましくは3,000MPa以下、より好ましくは2,500MPa以下、更に好ましくは2,000MPa以下である。引張貯蔵弾性率が上記下限値以上であると、樹脂シートが薄くてもたわみにくいため加工しやすく、前記上限値以下であると、樹脂シートとガラスとの貼合時のひずみを解消しやすい。前記引張貯蔵弾性率は、粘弾性測定装置により測定することができ、粘弾性スペクトロメーター「Rheogel-E4000」(株式会社ユービーエム製)を用い、周波数1Hz、測定温度-50~250℃、ひずみ<1%の測定条件にて引張動的粘弾性測定を行うことにより測定できる。前記引張貯蔵弾性率は、樹脂シートに含まれる成分の含有量により調整でき、例えば、樹脂シートが可塑剤を含む場合、可塑剤量により調整してもよい。
【0086】
本発明の樹脂シートの光学特性は使用する用途に応じて、適宜調整することができる。例えば、透過率の高い方が好ましい用途においては、全光線透過率が高く美観性に優れることが望ましい。本発明の一実施形態において、本発明の樹脂シートの全光線透過率は好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは85%以上である。全光線透過率が上記下限値以上であると、本発明の樹脂シートを合わせガラス用中間膜として用いる場合において、得られる合わせガラスの透明性を向上しやすい。また、全光線透過率が高いほど透明性が高まるため上限は特に制限されず、例えば100%であってよい。前記全光線透過率は、JIS K7361-1に記載の測定方法でヘイズメーターにより測定することができる。
【0087】
また、本発明の樹脂シートの光学特性は、建築物のバルコニー等のプライバシー保護のため、半透明が好ましい用途においては、全光線透過率が一定の範囲内であることが望ましい。本発明の一実施形態において、本発明の樹脂シートの全光線透過率は、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上であり、また、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは75%以下である。全光線透過率が上記範囲内であると、ガラスの光沢を活かした美観性とプライバシー保護とを両立した合わせガラスを得やすい。全光線透過率は、樹脂シートの厚さや樹脂シート中の無機酸塩の含有量、あるいは顔料などの添加剤の含有量等により調整し得る。
【0088】
本発明の樹脂シートのヘイズは使用する用途に応じて、適宜調整すればよく、例えば、全光線透過率と同様に美観性が求められる用途では、ヘイズが20%以下であることが好ましく、プライバシー保護が重要な用途ではヘイズが20%以上であることが好ましい。前記ヘイズは、JIS K7361-1に記載の測定方法でヘイズメーターにより測定することができる。本発明の樹脂シートのヘイズは、例えばヘイズメーターSH7000(日本電飾工業株式会社製)を用いてJIS K7136:2000に準拠して測定できる。
【0089】
本発明の一実施形態において、本発明の樹脂シートは優れたガラス接着性を有する。樹脂シートのガラス接着性は、本発明の樹脂シートを合わせガラス用中間膜として用いて得られる合わせガラスの耐熱クリープ性を評価することにより評価できる。合わせガラスの耐熱クリープ性は、荷重37kg/m2、50℃の条件での促進試験を1週間実施した際の合わせガラスに生じたズレの距離を測定することにより評価でき、具体的には、後述の実施例に記載の方法により評価できる。合わせガラスの耐熱クリープ性は、好ましくは1mm以下、さらに好ましくは0.5mm以下である。耐熱クリープ性が前記上限値以下であると、合わせガラスに熱ズレが生じて設置したガラスが脱落または移動する問題を防止しやすく、合わせガラスの安全性を高めやすい。前記耐熱クリープ性の下限値が低いほどガラス接着性が高まるため、下限値は特に制限されず、0m以上であってよい。樹脂シートのガラス接着性は、例えば、樹脂シート中の無機酸およびその塩の含有量により調整し得る。
【0090】
〔樹脂シートの製造方法〕
本発明の樹脂シートの製造方法は特に制限されず、公知の方法により製造できる。本発明の一実施形態において、本発明の樹脂シートは、以下の工程:
(I)高分子化合物を含む溶液または分散液を、支持体上に塗工する工程、および
(II)得られた高分子化合物を含む塗膜を貧溶媒により凝固させる工程
を含む方法により製造することが好ましい。
【0091】
工程(I)は、高分子化合物を含む溶液または分散液(ドープ)を支持体上に塗工し、高分子化合物を含む塗膜を形成する工程である。
【0092】
工程(I)における高分子化合物を含む溶液または分散液は、高分子化合物を溶媒に溶解または分散させることにより調製できる。高分子化合物を溶解または分散させる溶媒としては特に制限されず、使用する高分子化合物の溶解性等に応じて適宜選択でき、例えばN,N-ジメチルアセトアミド、塩化リチウム、水およびこれらの混合溶媒等が挙げられる。これらの中でも、高分子化合物が、金属イオンで中和されていてもよいリン酸基を変性基として有する場合は、N,N-ジメチルアセトアミドおよび塩化リチウムの混合溶媒が好ましく、高分子化合物が金属イオンで中和されていてもよい硫酸基を変性基として有する場合は、水が好ましい。
【0093】
高分子化合物を含む溶液または分散液は、必要に応じて、高分子化合物に加えて、可塑剤、発熱量低減材料および他の添加剤等を含んでいてもよい。
【0094】
高分子化合物を含む溶液または分散液中の固形分濃度は、粘度を下げやすい観点から、好ましくは1~30質量%、より好ましくは1~10質量%であってよい。
【0095】
支持体としては特に制限されず、例えばベルト状またはドラム状のステンレスを鏡面仕上げしたもの、PETフィルム等の樹脂フィルム、離型加工を施した紙等が挙げられる。支持体への高分子化合物を含む溶液または分散液の塗工方法は特に制限されず、公知の方法を採用でき、例えばグラビア印刷法、コンマコート法、スリットダイコート法、スクリーン印刷法等が挙げられる。
【0096】
工程(II)は、工程(I)で得られた高分子化合物を含む塗膜を、貧溶媒により凝固させる工程である。工程(II)における貧溶媒としては、エタノール、メタノール、アセトン等が挙げられる。
【0097】
工程(II)の後、得られた凝固した塗膜から溶媒を除去することにより、本発明の樹脂シートを得ることができる。溶媒を除去する方法は特に制限されず、例えば加熱乾燥や真空乾燥等であってよい。また、溶媒の除去は、支持体上で行ってもよく、支持体から前記塗膜を剥離した後に行ってもよく、その両方であってもよい。
【0098】
本発明の一実施形態において、本発明の樹脂シートが可塑剤を含む場合、高分子化合物を含む溶液または分散液に可塑剤を含有させておくことにより可塑剤を含む樹脂シートを得てもよく、可塑剤を含まない樹脂シートを可塑剤を含む水溶液等に含浸させることにより、可塑剤を含む樹脂シートを得てもよい。
【0099】
本発明の一実施形態において、本発明の樹脂シートは、前記工程(I)および前記工程(II)に代えて、高分子化合物を含む溶液または分散液を、スリット(穴)を通して貧溶媒中に流し込む工程(工程(I’))を含む方法により製造してもよい。工程(I’)において、高分子化合物を含む溶液または分散液を所定の厚さのスリットを通して貧溶媒中に流し込むことにより、支持体を介さずに所定の厚さの塗膜を得ることができ、工程(I’)の後、得られた塗膜から溶媒を除去することにより、本発明の樹脂シートを得ることができる。
【0100】
〔合わせガラス用中間膜および合わせガラス〕
本発明の樹脂シートは、合わせガラス用中間膜(単に「中間膜」ともいう)として好適に使用できる。したがって、本発明は、本発明の樹脂シートからなる合わせガラス用中間膜を包含する。また、本発明は、2枚の無機ガラスと、該2枚の無機ガラスの間に配置された本発明の合わせガラス用中間膜とを含む合わせガラスも包含する。本発明の合わせガラスは、本発明の樹脂シートからなる合わせガラス用中間膜を含むため、改善された耐炎性を有しており、また、爆発等を引き起こす危険性がなく、安定性にも優れ、高い安全性を有する。
【0101】
本発明の合わせガラス用中間膜は、本発明の樹脂シートからなるため、〔樹脂シート〕の項に記載の、条件(1)および条件(2)を満たし、かつ、本発明の樹脂シートの総発熱量、貫通エネルギー、引張貯蔵弾性率、全光線透過率、ヘイズ、耐熱クリープ性と同様の値を示す。したがって、本発明の合わせガラス用中間膜は、改善された耐炎性を有する。また、本発明の一実施形態において、本発明の合わせガラス用中間膜は、優れたガラス接着性および外観を有する。
【0102】
本発明の一実施形態において、合わせガラス用中間膜の厚さは特に制限されず、例えば0.0010mm~5.0mmであってよいが、樹脂シート作成時に溶剤を除去しやすい観点からは、好ましくは5.00mm以下、より好ましくは3.00mm以下、さらに好ましくは2.00mm以下、さらにより好ましくは1.50mm以下、特に好ましくは1.00mm以下、特により好ましくは0.90mm以下、特にさらに好ましくは0.80mm以下である。また、前記厚さは、樹脂シート作成時に反り等の変形を抑えやすい観点、および耐貫通性を高めやすい観点から、好ましくは0.30mm以上、より好ましくは0.40mm以上、さらに好ましくは0.45mm以上である。
【0103】
本発明の中間膜と積層させる無機ガラスとしては、例えば、フロートガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、強化ガラス、網入り板ガラスまたは熱線吸収板ガラス等を使用できる。これらの中でも、高い強度を要する用途においては、強化ガラスが好ましい。無機ガラスは、無色または有色のいずれであってもよい。2枚の無機ガラスの種類は、互いに同じであっても、異なっていてもよい。
【0104】
無機ガラスの材料としては、ソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられ、ソーダライムガラスが好ましい。2枚の無機ガラスの種類は、互いに同じであっても、異なっていてもよい。
【0105】
強化ガラスとしては、風冷強化ガラス、半風冷強化ガラスおよび化学強化ガラス等が挙げられる。なお、半風冷強化ガラスは、風冷強化ガラスよりもガラス表面の圧縮応力(以下、表面圧縮応力またはCSとも称する)が低いもの、例えば、CSが50MPa以下のものを表す。風冷強化ガラス板は、圧縮応力層の深さ(以下、DOLとも称する)が一般的な化学強化ガラス板に比べて大きいため、風冷強化ガラス板を用いて製造した合わせガラスでは、飛び石等で生じる傷が圧縮応力層を貫通しにくい。また、半風冷強化ガラス板または化学強化ガラス板を用いて製造した合わせガラスでは、飛び石等で生じる傷から発生するクラックがガラス面内に伸展しにくい。
【0106】
風冷強化ガラスは、均一に加熱したガラス板を軟化点付近の温度から急冷し、ガラス表面とガラス内部との温度差によってガラス表面に圧縮応力を生じさせることで、ガラス表面を強化したものである。
風冷強化ガラスの製造方法としては、軟化温度付近まで加熱されたガラスを急冷し常温になった状態でガラスの厚さ方向に残留応力を発生させ、ガラス表面に圧縮応力層を形成させる周知の方法を採用できる。ガラス板の加熱温度は、典型的には、そのガラス板を構成する材料の歪点以上、軟化点以下の温度である。
【0107】
化学強化ガラスは、化学処理によりガラス表面を強化したものである。化学処理の方法としては、例えばイオン交換法等がある。イオン交換法は、ガラスを処理液(例えば硝酸カリウム溶融塩)に浸漬し、ガラスに含まれるイオン半径の小さなイオン(例えばナトリウムイオン)をイオン半径の大きなイオン(例えばカリウムイオン)に交換することで、ガラス表面に圧縮応力を生じさせる。圧縮応力はガラスの表面全体に生じ、ガラスの表面全体に均一な深さの圧縮応力層が形成される。
【0108】
ガラス表面のCSの大きさ、ガラス表面に形成されるDOLは、それぞれ、化学処理時間、および/または化学処理温度により調整できる。例えば、化学処理温度が同じ場合、化学処理時間が長いほど、DOLが深くなる。また、化学処理温度が同じ場合、化学処理時間が長いほど、最初はCSの大きさが大きくなるが、途中からCSの大きさが小さくなる。従って、DOLと、CSの大きさとは、一対一で対応しない。
【0109】
ガラス表面には目に見えない傷が付いていることが多く、傷を起点とするガラスの割れを抑制するため、傷の深さよりも深い圧縮応力層が必要とされる観点から、DOLは10μmよりも大きいことが好ましい。DOLは、好ましくは20μm以上、より好ましくは28μm以上である。
【0110】
1枚あたりの無機ガラスの厚さは特に限定されず、例えば0.5~20mmであってよく、合わせガラスの透明性を向上しやすい観点、および合わせガラスの軽量化の観点からは、好ましくは6mm以下、より好ましくは5mm以下、さらに好ましくは3mm以下である。なお、2枚の無機ガラスの厚さは、互いに同じであっても、異なっていてもよい。
【0111】
本発明の一実施形態において、2枚の無機ガラスの合計厚さは、合わせガラスの総発熱量を低減しやすく、耐炎性を向上しやすい観点から、合わせガラス用中間膜の厚さの2.5倍以上であることが好ましく、より好ましくは3倍以上、さらに好ましくは4倍以上、さらにより好ましくは4.5倍以上、特に好ましくは5倍以上、特により好ましくは5.5倍以上である。上限値は特に制限されず、好ましくは20倍以下、より好ましくは15倍以下であってよい。
【0112】
本発明の一実施形態において、火災時の延焼リスクを低減しやすく、耐炎性を向上しやすい観点から、合わせガラスのISO1716に準拠して測定された総発熱量は、3MJ/kg以下であることが好ましく、2MJ/kg以下であることがより好ましい。塗膜や装飾の無い一般的な無機ガラスの総発熱量は0MJ/kgであり、合わせガラスの総発熱量は無機ガラスおよび合わせガラス用中間膜の厚み構成、および合わせガラス用中間膜の総発熱量により設計される。本発明の合わせガラス用中間膜の比重は0.5~2.5g/cm3であり、総発熱量は10MJ/kg以下である。
したがって、本発明の好適な一実施形態において、合わせガラスが以下の要件:
(i)合わせガラス用中間膜の厚さが1.0mm以下であること、および
(ii)合わせガラス用中間膜の両面に配置される2枚の無機ガラスの合計厚さが、合わせガラス用中間膜の厚さの2.5倍以上であること
を満たすことが、合わせガラスの総発熱量を3MJ/kg以下に設計するために好ましい。合わせガラス用中間膜の総発熱量が小さいほど、ガラスをより薄くしても合わせガラスの総発熱量が3MJ/kg以下となるため設計の自由度が増す。
【0113】
本発明の一実施形態において、無機ガラスは平坦な形状のみでなく、少なくとも一部に屈曲部または湾曲部を有する形状であってもよい。例えば、テレビ、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、カーナビゲーション等の機器における画像表示面では、一部に屈曲部または湾曲部を有する形状のガラスが採用されていることがあり、そのようなガラスとして、本発明の合わせガラスを用いることができる。
【0114】
本発明の一実施形態において、無機ガラスには、本発明の目的および効果の妨げにならない限りにおいて、任意に、導電構造、遮音構造、意匠またはデザイン層およびそれらの組み合わせといった構造が、無機ガラスの全面または一部に付与されていてもよい。
【0115】
本発明の一実施形態において、本発明の合わせガラスは、1枚で使用してもよいし、2枚以上組み合わせた状態で使用してもよい。2枚以上組み合わせた状態で使用する場合、合わせガラスは、例えば、無機ガラス/合わせガラス用中間膜/無機ガラス/合わせガラス用中間膜/無機ガラスの構成を有する。合わせガラスを2枚以上組み合わせた状態で使用する場合、それらの合わせガラスを構成するそれぞれの材料および厚さは、互いに同じであっても、異なっていてもよい。
【0116】
本発明の一実施形態において、本発明の合わせガラスには、スペーサーが用いられてもよい。スペーサーを使用することで水分等の合わせガラス用中間膜への侵入を防ぐことができる。スペーサーは、例えば、アルミニウムまたはステンレス等の金属製若しくは合金製、または樹脂製である。スペーサーの例としては、複層ガラス若しくは調光素子等に用いられている公知の枠状のスペーサー若しくは中空のパイプ材等が挙げられる。
【0117】
本発明の合わせガラスは、従来公知の方法で製造できる。例えば、真空ラミネーター装置を用いる方法、真空バッグを用いる方法、真空リングを用いる方法、およびニップロールを用いる方法等が挙げられる。また、前記方法により仮圧着した後に、オートクレーブに投入して本接着する方法も挙げられる。
【0118】
真空ラミネーター装置を用いる場合、例えば1×10-6~3×10-2MPaの減圧下、20~200℃、特に50~160℃で無機ガラス、合わせガラス用中間膜、無機ガラスをラミネートすることにより合わせガラスを製造できる。
【0119】
真空バッグまたは真空リングを用いる場合、例えば欧州特許第1235683号明細書に記載されているように、約2×10-2MPaの圧力下、無機ガラス、合わせガラス用中間膜、無機ガラスを20~160℃でラミネートすることにより合わせガラスを製造できる。
【0120】
ニップロールを用いる場合、無機ガラス、合わせガラス用中間膜、無機ガラスを重ねた状態でロールにより脱気した後、加熱して無機ガラス、合わせガラス用中間膜、無機ガラスを圧着することにより合わせガラスを製造できる。より具体的には、例えば、無機ガラス、合わせガラス用中間膜、無機ガラスを重ねた状態で赤外線ヒーター等により20~70℃に加熱した後、ロールで脱気し、その後、70~150℃に加熱した後、無機ガラス、合わせガラス用中間膜、無機ガラスをロールで圧着することにより合わせガラスを製造できる。
【0121】
前記方法により仮圧着した後にオートクレーブに投入して本圧着を行う場合、オートクレーブ工程の運転条件は合わせガラスの厚さまたは構成により適宜選択してよい。オートクレーブ工程は、例えば、0.5~1.5MPaの圧力下、20~160℃で0.5~3時間実施できる。
【0122】
合わせガラス用中間膜が樹脂シートA以外に他の層を含む場合は、樹脂シートAとそれ以外の層を含む合わせガラス用中間膜を、上述した方法により無機ガラスと接合することで合わせガラスを製造してもよく、樹脂シートAとそれ以外の層とを2枚の無機ガラスの間に重ねて配置し、それらを上述した方法により接合することで合わせガラスを製造してもよい。
【0123】
本発明の樹脂シートは火災時の延焼リスクを著しく低減することができることから、特に、合わせガラス用中間膜として好ましい。乗物用途の合わせガラス(例えば、自動車用フロントガラス、自動車用サイドガラス、自動車用サンルーフ、自動車用リアガラス、ヘッドアップディスプレイ用ガラス等)または建築・構造用途(例えば、ファサード、外壁若しくは屋根のためのラミネート、パネル、ドア、窓、壁、屋根、サンルーフ、遮音壁、表示窓、バルコニー、手摺壁等の建材、会議室の仕切りガラス部材、ソーラーパネル等)の表面材およびガラスに挟んだ合わせガラスとして、好適に使用できるがこれらの用途に限定されるものではない。
【実施例0124】
以下、実施例および比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0125】
[総発熱量]
実施例および比較例で得られた樹脂シートの総発熱量は、ISO-1716にしたがって測定した。樹脂シートは、予め80℃、減圧度0.1MPa以下で3日間以上減圧乾燥することにより、十分に乾燥させた状態で測定した。
<発熱量分析>
装置:小川サンプリング社製、熱研式デジタル熱量計O.S.K100-5
包装:雁皮紙でシガレット状に包む
封入ガス:酸素
封入ガス圧:3.0MPa
サンプル形状:粉末状に粉砕
助燃剤:使用しない
【0126】
[安定性試験]
実施例および比較例で得られた樹脂シートの安定性を、DSCを用いて、Netsu Sokutei, 16 (2), p. 90, (1989) 「消防法第5類危険物の判定試験法としての熱分析」の記載に従って評価した。
2種類の標準物質DNTおよびBPO、ならびに実施例および比較例で得られた樹脂シートの発熱開始温度(TDSC、℃)および発熱量(QDSC、cal/g)を、それぞれ高圧力サンプルパンに密閉して測定した。
<測定条件>
DSC:METTLER TOLEDO製「DSC822e」
標準物質:2,4-ジニトロトルエン(DNT)および過酸化ベンゾイル(BPO)
圧力:密閉セルの中、常圧(初期)から昇圧
雰囲気:空気
サンプル量:2mg
昇温速度:10℃/分
サンプル形状:粉末状に粉砕
サンプル容器:ステンレス製、密閉セル
DNTおよびBPOの[発熱開始温度から25℃減じた値の常用対数値(log(TDSC-25))、発熱量の常用対数値(log(QDSC))]は、それぞれ、[2.46,2.73]、[1.93,2.43]であった。なお、これらの値は、5回測定した平均値を使用した。
DNTおよびBPOについて、log(TDSC-25)に対してlog(QDSC)をプロットし、DNTおよびBPOについてプロットした点を結んだ直線を判定線とした。
樹脂シートについてのプロットが、判定線よりも下にある場合(判定線よりも下の発熱量となる場合)を「危険性なし」とし、判定線上または判定線よりも上にある場合(判定線上または判定線よりも上の発熱量となる場合)を「危険性あり」とした。
【0127】
[リン濃度]
樹脂シート中のリン濃度は、樹脂シートをマイクロ波分解装置で分解した後、ICP発光分析によってリン原子含有量を測定することで求めた。
<マイクロ波分解>
装置:MILESTONE社ETHOS UP
溶媒:硝酸
分解温度:210℃
分解時間:30分
<ICP発光分析>
装置:ThermoFIsher社iCAP7400 Duo
【0128】
[硫黄濃度]
樹脂シート中の硫黄濃度は、リン濃度と同様にして、ICP発光分析による硫黄原子含有量を測定することで求めた。
【0129】
[金属イオン濃度]
樹脂シート中の金属イオン濃度は、リン濃度と同様にして、ICP発光分析による金属原子含有量を測定することで求めた。
【0130】
[エステル置換度(DS)]
ICP発光分析で求めたリン濃度または硫黄原子濃度を用い、下記式(1)からエステル置換度を算出した。
【数2】
[式(1)中、
DSはエステル置換度を表し、
X(%)は、ICP発光分光分析によって求められた中核となる元素(例えばリンや硫黄)の含有量
M(X)は、置換基の中核となる元素(例えばリンや硫黄)のモル質量を表し、
M(graftedmol.)は、置換基1単位あたりのモル質量
n
(X)ingraftedmolは、置換基1単位あたりの中核となる元素(例えばリンや硫黄)の個数を表す]
【0131】
[厚さ]
樹脂シートの厚さを厚み計で10箇所測定し、その平均値を樹脂シートの厚さとした。
【0132】
[ガラス接着性]
実施例および比較例において製造した樹脂シートを、縦135mm×横50mmの寸法に切り出した。次に、
図2に示すように、縦165mm×横50mm×厚さ3mmのフロートガラス51および52の間に、これらのフロートガラスの縦165mmのうち135mmが、樹脂シートからなる中間膜71を介して付着するよう中間膜71を挟み、ガラス接着性測定用の合わせガラス50を製造した。なお、合わせガラスの製造手順は、後述の[合わせガラスの作製]の項に記載の製造手順と同じである。
続いて、
図3に示すように、合わせガラス50のガラス51側に重さ250gの鉄板81を瞬間接着剤91により貼り合わせ、鉄板を貼り合わせた合わせガラス100を製造した。鉄板を貼り合わせた合わせガラス100を、スタンド111に立て掛けて、50℃のチャンバー内で1週間放置した。放置後に、ガラス51がずり落ちた距離を測定し、前記距離を下記基準に基づいて評価し、この評価を耐熱クリープ性の評価とした。
A:合わせガラスを作製可能であり、ガラス51がずり落ちた距離が1mm以下。
B:合わせガラスを作製可能だが、ガラス51がずり落ちた距離が1mmを超える。
C:ガラス接着性を示さず、合わせガラスを作製できない。
【0133】
[耐炎性(合わせガラス燃焼試験)]
樹脂シートの耐炎性を合わせガラス燃焼試験により評価した。合わせガラス燃焼試験方法について説明する。
実施例および比較例において製造した樹脂シートを、縦50mm×横35mmの寸法に切り出した。次に、縦50mm×横35mm、厚み1.0mmのフロートガラスの間に、樹脂シートを挟み、耐炎性評価用合わせガラス201を製造した。なお、合わせガラスの製造手順は、後述の[合わせガラスの作製]の項に記載の製造手順と同じである。
得られた合わせガラス201を
図4に記載の治具202に装着した。合わせガラス201は45°傾斜に保持し、上端5mmをクリップ203で挟んで固定した。
合わせガラスの下端中央から垂直下方25.4mm(1インチ)の位置に燃焼皿の底の中心がくるように、直径17.5mm×高さ7.1mmで厚さ0.8mmの円筒状の鉄製の燃焼皿204を配置した。この燃焼皿204は、熱伝導率の低い材質(コルク)製の台205上に載置した。
燃焼皿に純エチルアルコール0.5mLを入れて着火し、合わせガラス201の下端中央に接触させ、燃焼中及び燃焼後の合わせガラス201の状態を目視観察して、燃焼状態を判定した。
燃焼中ならびに燃焼後の判定基準を以下に示す。本試験において、評価「A」~「B」が合格レベルである。
A:中間膜への着火が観察できない。またガラスに挟まれた接炎部以外の樹脂は変色せず、樹脂の変色・炭化部分が合わせガラス面積の2割未満である。
B:中間膜への着火が観察できない。またガラスに挟まれた接炎部以外の樹脂も変色するが、樹脂の変色・炭化部分が合わせガラス面積の5割未満である。
C:中間膜への着火が観察でき、火勢が試験片の上端と同程度に届く。またガラスに挟まれた接炎部以外の樹脂も変色し、樹脂の変色・炭化部分が合わせガラス面積の5割以上である。
D:端部から激しく燃焼し、火勢が試験片の上端を超える。ガラスに挟まれた接炎部以外の樹脂も変色あるいは燃焼により焼失し、樹脂の変色・炭化・燃焼により焼失した部分が合わせガラス面積の5割以上である。
【0134】
[外観評価(透明性)]
実施例及び比較例で作製した合わせガラスの外観を目視によって下記のように評価した。
A:合わせガラスを介して印字物を認識可能な光線透過性がある。
B:合わせガラスを介して印字物を認識不可能であり、不透明である。
【0135】
[樹脂シートの作製]
〔実施例1:リン酸変性セルロース(CP-1)〕
溶解パルプ(NSPP-HR、日本製紙株式会社製、粘度平均分子量:277,000)をイオン交換水で不純物を十分に洗浄し、80℃熱風乾燥機にて一晩乾燥させた。還流冷却器、温度計およびイカリ型撹拌翼を備えた1リットル容のガラス製容器に溶解パルプ 50.0g、N,N-ジメチルアセトアミド(東京化成工業株式会社製) 500.0gを仕込み、120℃に昇温した。この溶液を150rpmの回転数で2h攪拌し、パルプを膨潤させた(パルプ分散液-1)。
別の還流冷却器、温度計およびイカリ型撹拌翼を備えた3リットル容のガラス製容器を氷浴下で10℃以下に保ち、85%リン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製) 1770g、リン酸トリエチル(東京化成工業株式会社製) 990gを仕込み、150rpmで30分撹拌した。この溶液に五酸化ニリン(富士フイルム和光純薬株式会社製) 1250gを内温が15℃を超えないようにゆっくりと混合した。全量仕込み終わったのち、ガラス容器内を窒素で置換し、10℃、150rpmで30分攪拌した。その後、パルプ分散液-1を内温が30℃を超えないようにゆっくりと添加した。添加完了後、30℃まで昇温し、窒素雰囲気下で72時間反応させた。反応後に遠心分離(8000rpm、15分)で固形分と液体分を分離させ、固形分を過剰量のアセトン(富士フイルム和光純薬株式会社製)で複数回洗浄して、固形分に付着した液体分を除去した後、アセトンに少量の水を加えた洗浄液で固形分を複数回洗浄した。洗浄は、マイクロ波分解およびICP発光分析を行った際に、洗浄液中のリン含有量が検出できなくなるまで繰り返し実施した(測定下限値:0.02質量%)。洗浄後の固形分を真空乾燥してリン酸変性セルロースCP-1を得た。
得られたCP-1を、N,N-ジメチルアセトアミドおよび塩化リチウム(東京化成工業株式会社製)を質量比10:1で混合した混合溶媒に溶解させた(固形分濃度:10.0質量%)。この溶液を、所定の厚さになるようにフィルムアプリケーター(テスター産業製)を用いて支持体上にシート状に塗工し、エタノールでシートを凝固・溶媒を洗浄し、真空乾燥することでCP-1の樹脂シートを得た。
得られた樹脂シート中のリン濃度は20.3質量%であった。
【0136】
〔実施例2:リン酸変性セルロース(CP-2)〕
反応時間を72時間から24時間に変更した以外は、実施例1と同様にしてリン酸変性セルロースCP-2の樹脂シートを得た。
得られた樹脂シート中のリン濃度は15.5質量%であった。
【0137】
〔実施例3:リン酸ナトリウム変性セルロース(CP-3)〕
CP-1を固形分濃度が10質量%になるようにイオン交換水に分散させ、得られた分散液に、10N水酸化ナトリウム水溶液をpHが11になるまで添加した。その後イオン交換水で複数回洗浄して、リン酸ナトリウム変性セルロースCP-3を得た。これを実施例1と同様に溶解・塗工してCP-3の樹脂シートを得た。
得られた樹脂シート中のリン濃度は16.9質量%であり、ナトリウム濃度は24.5質量%であった。
【0138】
〔実施例4:リン酸ナトリウム変性セルロース(CP-4)〕
溶解パルプ(NSPP-HR、日本製紙株式会社製、粘度平均分子量:277,000)をイオン交換水で不純物を十分に洗浄し、80℃熱風乾燥機にて一晩乾燥させた。還流冷却器、温度計およびイカリ型撹拌翼を備えた1リットル容のガラス製容器に溶解パルプ 50.0g、1-ヘキサノール(富士フイルム和光純薬株式会社製) 587.3gを仕込み、25℃に昇温した。この溶液を150rpmの回転数で24h攪拌し、パルプを膨潤させた(パルプ分散液-4)。
別の還流冷却器、温度計およびイカリ型撹拌翼を備えた3リットル容のガラス製容器を氷浴下で10℃以下に保ち、85%リン酸 1770g、リン酸トリエチル 990gを仕込み、150rpmで30分撹拌した。この溶液に五酸化ニリン 1250gを内温が15℃を超えないようにゆっくりと混合した。全量仕込み終わったのち、ガラス容器内を窒素で置換し、10℃、150rpmで30分攪拌した。その後パルプ分散液-4を内温が30℃を超えないようにゆっくりと添加した。添加完了後、30℃まで昇温し、窒素雰囲気下で72時間反応させた。反応後に遠心分離(8000rpm、15分)で固形分と液体分を分離させ、固形分を過剰量の1-ヘキサノール、エタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製)、イオン交換水の順で複数回洗浄した。洗浄は、マイクロ波分解およびICP発光分析を行った際に、洗浄液中のリン含有量が検出できなくなるまで繰り返し実施した(測定下限値:0.02質量%)。洗浄後の固形分を真空乾燥した。得られた樹脂を固形分濃度10質量%になるようにイオン交換水に分散させ、得られた分散液に10N水酸化ナトリウム水溶液をpHが11になるまで添加した。その後イオン交換水で複数回洗浄して、リン酸ナトリウム変性セルロースCP-4を得た。
得られたCP-4をN,N-ジメチルアセトアミドおよび塩化リチウムを質量比10:1で混合した混合溶媒に溶解し、所定の厚さになるようにフィルムアプリケーター(テスター産業製)を用いてシート状に塗工し、エタノールでシートを凝固・溶媒を洗浄し、その後真空乾燥することでリン酸変性セルロースCP-4のシートを得た。
得られた樹脂シート中のリン濃度は7.8質量%、ナトリウム濃度は11.4質量%であった。
【0139】
〔実施例5:リン酸リチウム変性セルロース(CP-5)〕
10N水酸化ナトリウムの代わりに10M水酸化リチウム水溶液を用いる以外は実施例3と同様にしてリン酸リチウム変性セルロースCP-5のシートを得た。
得られた樹脂シート中のリン濃度は17.8質量%、リチウム濃度は7.8質量%であった。
【0140】
〔実施例6:リン酸リチウム変性セルロース(CP-6)〕
10N水酸化ナトリウムの代わりに10M水酸化リチウム水溶液を用いる以外は実施例4と同様にしてリン酸リチウム変性セルロースCP-6のシートを得た。
得られた樹脂シート中のリン濃度は10.4質量%、リチウム濃度は4.4質量%であった。
【0141】
〔実施例7:硫酸変性セルロース(CP-7)〕
溶解パルプ(NSPP-HR、日本製紙株式会社製、粘度平均分子量:277,000)をイオン交換水で不純物を十分に洗浄し、80℃熱風乾燥機にて一晩乾燥させた。還流冷却器、温度計およびイカリ型撹拌翼を備えた3リットル容のガラス製容器に溶解パルプ 15.0g、N,N-ジメチルホルムアミド 1410.0gを仕込み、120℃に昇温した。この溶液を150rpmの回転数で24h攪拌し、パルプを膨潤させた(パルプ分散液-7)。その後10℃まで冷却し、内温が30℃を超えないように発煙硫酸(富士フイルム和光純薬株式会社製) 108.9gをゆっくりと添加した。添加後に50℃に昇温し、窒素雰囲気下で3時間反応させた。反応後に20℃まで冷却し、遠心分離(8000rpm、15分)で固形分と液体分を分離させ、固形分を過剰量のアセトンで複数回洗浄して、固形分に付着した液体分を除去した後、アセトンに少量の水を加えた洗浄液で固形分を複数回洗浄した。マイクロ波分解およびICP発光分析を行った際に、洗浄液中のリン含有量が検出できなくなるまで繰り返し実施した(測定下限値:0.02質量%)。洗浄後の固形分を真空乾燥した。得られた固形分を溶解パルプの代わりに用いて同じ操作を複数回繰り返して、反応度を高めた硫酸変性セルロースを得た。得られた硫酸変性セルロースを固形分濃度が10質量%になるようにイオン交換水に分散させ、得られた分散液に10N水酸化ナトリウム水溶液をpHが11になるまで添加した。その後イオン交換水で複数回洗浄して、硫酸ナトリウム変性セルロースCP-7を得た。CP-7は水溶性であったため、N,N-ジメチルアセトアミドおよび塩化リチウム混合溶媒の代わりに水に溶解し、所定の厚さになるようにフィルムアプリケーター(テスター産業製)を用いてシート状に塗工し、真空乾燥してシートを得た以外は実施例1と同様にして、CP-7の樹脂シートを得た。
得られた樹脂シート中の硫黄濃度は19.6質量%、ナトリウム濃度は13.9質量%であった。
【0142】
〔実施例8:リン酸変性樹脂組成物(CP-8)〕
実施例3と同様にして作製したリン酸ナトリウム変性セルロースのシート上に、リン酸トリメチル(東京化成工業株式会社製、炭素含有率26%)をフィルムアプリケーター(テスター産業製)で均一に塗工し、リン酸トリメチルの含有量が25質量%となるようにシートに吸収させ、リン酸変性セルロースとリン酸トリメチルとを含むリン酸変性樹脂組成物CP-8のシートを得た。
得られた樹脂シート中のリン濃度は18.2質量%であり、ナトリウム濃度は18.4質量%であった。
【0143】
〔実施例9:リン酸変性樹脂組成物(CP-9)〕
リン酸トリメチルの代わりにリン酸トリエチル(東京化成工業株式会社製、炭素含有率40%)を使用し、リン酸トリエチルの含有量が15質量%となるようにした以外は実施例8と同様にしてリン酸変性樹脂組成物CP-9のシートを得た。
得られた樹脂シート中のリン濃度は16.9質量%であり、ナトリウム濃度は20.8質量%であった。
【0144】
〔実施例10:セルロース樹脂組成物(CP-10)〕
セルロース(粉末状、38μm(400mesh)通過、富士フイルム和光純薬株式会社製、粘度平均分子量:16,200以上)をN,N-ジメチルアセトアミドおよび塩化リチウム(東京化成工業株式会社製)を質量比10:1で混合した混合溶媒に溶解し、所定の厚さになるようにフィルムアプリケーター(テスター産業株式会社製)を用いてシート状に塗工し、エタノールでシートを凝固・溶媒を洗浄し、真空乾燥することでセルロースのシートを得た。リン酸二水素ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)をイオン交換水に溶解させて10質量%水溶液とし、当該水溶液に前記シートを含浸させた。その後真空乾燥機で水を気化させ、この作業を3回繰り返してセルロース樹脂組成物CP-10の樹脂シートを得た。
得られた樹脂シート中のリン濃度は11.9質量%、ナトリウム濃度は12.3質量%であった。得られた樹脂シート中のリン酸二水素ナトリウムの計算含有量は49.6質量%であった。
【0145】
〔実施例11:リン酸ナトリウム変性デンプン(CP-11)〕
溶解パルプ(NSPP-HR、日本製紙株式会社製)の代わりにデンプン(CAPSUL(登録商標)、Ingredion社製)を使用し、反応時間を72時間から24時間に変更した以外は実施例1と同様にしてリン酸変性デンプンCP-11を得た。リン酸変性デンプンは水溶性であったため、実施例7と同様にして、CP-11の樹脂シートを得た。
得られた樹脂シート中のリン濃度は11.9質量%であった。
【0146】
〔比較例1:リン酸変性セルロース(CP-12)〕
溶解パルプ(NSPP-HR、日本製紙株式会社製、粘度平均分子量:277,000)をイオン交換水で不純物を十分に洗浄し、80℃熱風乾燥機にて一晩乾燥させた。還流冷却器、温度計およびイカリ型撹拌翼を備えた1リットル容のガラス製容器に溶解パルプ 50.0g、1-ヘキサノール 587.3gを仕込み、25℃に昇温した。この溶液を150rpmの回転数で24h攪拌し、パルプを膨潤させた(パルプ分散液―12)。
別の還流冷却器、温度計およびイカリ型撹拌翼を備えた3リットル容のガラス製容器を氷浴下で10℃以下に保ち、85%リン酸 1770g、リン酸トリエチル 990gを仕込み、150rpmで30分撹拌した。この溶液に五酸化ニリン 1250gを内温が15℃を超えないようにゆっくりと混合した。全量仕込み終わったのち、ガラス容器内を窒素で置換し、10℃、150rpmで30分攪拌した。その後パルプ分散液-12を内温が30℃を超えないようにゆっくりと添加した。添加完了後30℃まで昇温し、窒素雰囲気下で72時間反応させた。反応後に遠心分離(8000rpm、15分)で固形分と液体分を分離させ、固形分を過剰量の1-ヘキサノール、エタノール、イオン交換水の順で複数回洗浄した。洗浄は、マイクロ波分解およびICP発光分析を行った際に、洗浄液中のリン含有量が検出できなくなるまで繰り返し実施した(測定下限値:0.02質量%)。洗浄後の固形分を真空乾燥して、リン酸変性セルロースCP-12を得た。CP-12を用いた以外は実施例1と同様にしてCP-12の樹脂シートを得た。
得られた樹脂シート中のリン濃度は10.8質量%であった。
【0147】
〔比較例2:リン酸変性セルロース(CP-13)〕
溶解パルプ(NSPP-HR、日本製紙株式会社製、粘度平均分子量:277,000)をイオン交換水で不純物を十分に洗浄し、80℃熱風乾燥機にて一晩乾燥させた。ガラス製容器の中で亜リン酸(ホスホン酸、富士フイルム和光純薬株式会社製) 9.9g、尿素(富士フイルム和光純薬株式会社製) 36.0g、イオン交換水 45.0gを混合した。乾燥した溶解パルプ(NSPP-HR、日本製紙株式会社製) 30.0gを亜リン酸・尿素水溶液に含浸させた。次いで、得られた含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で450秒加熱した。次いで、得られた樹脂を3Lのイオン交換水で洗浄した。洗浄後の固形分を真空乾燥して、リン酸変性セルロースCP-13を得た。これを実施例1と同様に溶解・塗工してCP-13のシートを得た。
得られた樹脂シート中のリン濃度は3.56質量%であった。
【0148】
〔比較例3:不燃木材〕
国土交通大臣の不燃木材認定基準で不燃認定を取得している不燃木材もえんげん(登録商標)すぎ集成(加賀木材株式会社製)を厚さが1mmになるようにシート状に切削して、シート状の不燃木材を得た。
【0149】
〔比較例4:未変性セルロース〕
溶解パルプ(NSPP-HR、日本製紙株式会社製)をイオン交換水で不純物を十分に洗浄し、厚さ0.8mmのシート状に圧縮・乾燥して、未変性セルロースの樹脂シートを得た。
【0150】
〔比較例5:酢酸変性セルロース混合物〕
三酢酸セルロース(富士フイルム和光純薬株式会社製)をイオン交換水で不純物を十分に洗浄し、80℃熱風乾燥機にて一晩乾燥させた。その後三酢酸セルロース100質量部とビスフェノールAビス-(ジフェニルホスフェート)(富士フイルム和光純薬株式会社製)10.0質量部とをジクロロメタン(富士フイルム和光純薬株式会社製)中で混合し、所定の厚さになるようにフィルムアプリケーター(テスター産業株式会社製)を用いてシート状に塗工し、熱風乾燥することで三酢酸セルロース樹脂混合物CP-12のシートを得た。
【0151】
〔比較例6:PVB混合物〕
60℃で24時間乾燥したポリビニルブチラール樹脂「Mowital B30H」(株式会社クラレ製)100質量部に対して、イソデシルジフェニルホスフェート「アデカスタブ 135A」30.0質量部、亜リン酸トリイソデシル(東京化成工業株式会社製)2.5質量部、ヒュームドシリカ「Cab-O-Sil M-5」2.5質量部、熱硬化シリコーン樹脂TSE322(MOMENTIVE社製)1.0質量部、リン酸水素二ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.05部を東洋精機社製ラボプラストミル4M150(150℃、60rpm、5分)で溶融混錬し、ポリビニルブチラール樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を2枚のステンレス鋼板(縦35cm×横35cm)の間に設置した型枠(縦30cm×横30cm×高さ0.80mm)内に配置し、熱プレス機(株式会社神藤金属工業製)にセットした。150℃で3分間、無黄変熱可塑性ポリウレタン樹脂シートに圧力をかけず樹脂を加熱した。次いで、180秒間、90kgf/cm2(約8.8MPa)の圧力で樹脂シートを熱プレスした。その後、直ちにステンレス板および型枠を23℃の冷却プレス機にセットした。冷却プレス機で樹脂シートを冷却しながら、樹脂シートに圧力を印加した。型枠内の樹脂シートを切り出すことにより厚さ0.8mmの難燃PVBシートPVB-1を得た。
【0152】
〔比較例7:ニトロセルロース(硝酸変性セルロース)〕
10%コロジオン(富士フイルム和光純薬株式会社製)を所定の厚さになるようにフィルムアプリケーター(テスター産業株式会社製)を用いてシート状に塗工し、室温・湿潤条件下で1週間溶媒を揮発させることでニトロセルロースCP-13のシートを得た。
CP-13のシートは、総発熱量および安定性試験の直前に80℃で2時間乾燥して使用した。
【0153】
[合わせガラスの作製]
実施例および比較例で作製した樹脂シートを、2枚の平坦なフロートガラスの間に配置した。これをゴムバックに入れた後、真空ラミネーター(日清紡メカトロニクス株式会社製)に投入し、熱板温度100℃、真空引き時間12分、プレス圧力50kPa、プレス時間17分の条件で脱気することにより、フロートガラスと樹脂シートとを仮圧着した。次いで、ゴムバックから取り出した仮圧着物をオートクレーブで圧縮することにより、合わせガラスを得た。オートクレーブの条件は、圧力6バールおよび温度100℃で合計90分以内とした。
【0154】
上記方法に従って、実施例および比較例で得られた樹脂シートおよび合わせガラスの各特性を測定および評価した。その結果を表1および表2に示す。なお、表中のP濃度、S濃度、Na濃度およびLi濃度は、それぞれ樹脂シート中のリン濃度、硫黄濃度、ナトリウム濃度およびリチウム濃度を表す。また、表中のエステル置換度(DS)は、樹脂シート中のセルロースまたはデンプンがリン酸変性の場合はリン酸基のエステル置換度を表し、硫酸変性の場合は硫酸基のエステル置換度を表し、硝酸変性の場合は硝酸エステルのエステル置換度を表す。
【0155】
【0156】
【0157】
表1及び表2に示されるように、実施例で得られた樹脂シートは、比較例で得られたシートと比較して、耐炎性に優れることが確認された。また、実施例で得られた合わせガラスは、比較例で得られた合わせガラスと比較して、ガラス接着性が高く、かつ、高い透明性を有しており、外観も良好であった。
【0158】
実施例1~11の樹脂シートは、総発熱量が10MJ/kg以下であり、ガラス接着性を保持しつつ、延焼リスクを低減できる合わせガラスとして利用できるものであった。これらの樹脂シートを担持した合わせガラスは端部に炎が接触しても着火せず、特に総発熱量が4MJ/kg以下の樹脂シートを担持した合わせガラスは炎の接触による樹脂の変色・劣化もほとんど観察されず、さらに延焼リスクを低減できる合わせガラスとして利用できるものであった。
【0159】
一方、比較例1~6のシートは総発熱量が高いため、延焼を防止するためには樹脂の使用量を著しく小さくする、すなわち厚さを薄くする必要があり、中間膜として使用するには不適当であった。比較例1、2、4~6の樹脂シートを担持した合わせガラスは端部に炎が接触した際に着火し、ガラス内部の樹脂部分にも燃焼・変色・炭化した。比較例1、5は著しい燃焼性は観察されなかったが樹脂シートに着火し、鎮火まで残った樹脂シートもほとんどが炭化した。比較例2は著しく着火し、着火部分の一部はドリップとして合わせガラス外部にも流れ出て延焼した。また鎮火までに樹脂シートもほとんどが燃焼・炭化した。比較例4と比較例6は著しく着火し、ドリップは無かったが樹脂シートの鎮火までに樹脂シートもほとんどが燃焼・変色・炭化した。
また比較例1、2および5は極性成分である無機酸エステルの量が少なく、ガラス接着性が不十分であった。なお、比較例3、4は総発熱量の比較のために評価したものであり、不透明で合わせガラスに要する透過性は有していなかった。比較例7は安定性試験で危険有りの判定であり、合わせガラス製造時に発火・爆発する危険があったため、ガラス接着性・透過性評価・燃焼性試験は実施しなかった。