IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本製鋼所の特許一覧

特開2023-120916シミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラム
<>
  • 特開-シミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラム 図1
  • 特開-シミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラム 図2
  • 特開-シミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラム 図3
  • 特開-シミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラム 図4
  • 特開-シミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラム 図5
  • 特開-シミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラム 図6
  • 特開-シミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラム 図7
  • 特開-シミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラム 図8
  • 特開-シミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120916
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】シミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/92 20190101AFI20230823BHJP
   B29C 48/395 20190101ALI20230823BHJP
   B29C 48/80 20190101ALI20230823BHJP
【FI】
B29C48/92
B29C48/395
B29C48/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024059
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】福澤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】重松 友子
【テーマコード(参考)】
4F207
【Fターム(参考)】
4F207AM23
4F207AR06
4F207AR11
4F207AR15
4F207KA01
4F207KA17
4F207KK43
4F207KL41
4F207KM14
(57)【要約】
【課題】押出機を用いた押出工程において原料が分解される様子をシミュレートすることができるシミュレーション装置を提供する。
【解決手段】押出機における所定の物理量を算出するシミュレーション装置であって、押出機に投入される原料が押出工程において分解する材料である場合、該原料に含まれる被分解成分の初期分量を取得する取得部と、取得した初期分量に基づいて、押出機軸方向の各領域における原料の被分解成分の分量又は分解物質分量を算出する処理部とを備える。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機における所定の物理量を算出するシミュレーション装置であって、
押出機に投入される原料が押出工程において分解する材料である場合、該原料に含まれる被分解成分の初期分量を取得する取得部と、
取得した初期分量に基づいて、押出機軸方向の各領域における原料の被分解成分の分量又は分解物質分量を算出する処理部と
を備えるシミュレーション装置。
【請求項2】
前記処理部は、
押出機軸方向の各領域における原料の滞留時間を算出し、
取得した初期分量と、算出された各領域における原料の滞留時間とに基づいて、押出機軸方向の各領域における原料の被分解成分の分量又は分解物質分量を算出する
請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記処理部は、
押出機のスクリュ特性及び押出条件に基づいて、押出機軸方向の各領域における原料の滞留時間を算出し、
エネルギー収支条件に基づいて、押出機軸方向の各領域における原料の温度を算出し、
取得した初期分量と、算出された各領域における原料の滞留時間と、算出された樹脂の温度に応じた分解速度定数とに基づいて、押出機軸方向の各領域における原料の被分解成分の分量又は分解物質分量を算出する
請求項1又は請求項2に記載のシミュレーション装置。
【請求項4】
前記処理部は、
押出機軸方向における、原料の被分解成分の分量又は分解物質分量の分布を示すデータを出力する
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のシミュレーション装置。
【請求項5】
押出機に投入される原料は押出工程において分解し、ガスを発生する材料であり、
前記処理部は、
押出機のスクリュ特性及び押出条件に基づいて、押出機軸方向の各領域における原料の充満率を算出し、各領域が非充満領域であるか否かを判定し、
非充満領域であると判定された領域における分解物質分量から、排気される分解物質分量を減算する
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のシミュレーション装置。
【請求項6】
前記処理部は、
押出機のスクリュ内に残存する、押出機軸方向における分解物質分量の分布を示すデータを出力する
請求項5に記載のシミュレーション装置。
【請求項7】
押出機における所定の物理量を算出するシミュレーション方法であって、
押出機に投入される原料が押出工程において分解する材料である場合、該原料に含まれる被分解成分の初期分量を取得し、
取得した初期分量に基づいて、押出機軸方向の各領域における原料の被分解成分の分量又は分解物質分量を算出する
シミュレーション方法。
【請求項8】
コンピュータに、押出機における所定の物理量を算出する処理を実行させるためのシミュレーションプログラムであって、
押出機に投入される原料が押出工程において分解する材料である場合、該原料に含まれる被分解成分の初期分量を取得し、
取得した初期分量に基づいて、押出機軸方向の各領域における原料の被分解成分の分量又は分解物質分量を算出する
処理を前記コンピュータに実行させるためのシミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出機における所定の物理量を算出するシミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
軸方向の各領域における押出機内部の圧力、原料である樹脂の充満率、温度等を予測するシミュレーション装置がある。シミュレーション装置は、樹脂の粘度モデル、樹脂物性データと、押出条件と、スクリュ構成を示すデータとに基づいて、押出機内の充満率、圧力、温度等を算出する。
【0003】
特許文献1には、樹脂に含まれる揮発性溶媒の濃度が押出機内で揮発、除去され、揮発性溶媒の濃度が減少していく脱揮プロセスをシミュレートする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-261080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、一般ゴミから排出されるポリ塩化ビニル等の塩素含有プラスチックから塩素を分解除去するプロセスや、廃プラスチックを分解しモノマーに戻すプロセスなど、廃プラスチックを再利用する押出機を用いたリサイクルプロセスが増加している。
【0006】
本開示の目的は、押出機を用いた押出工程において原料が分解される様子をシミュレートすることができるシミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係るシミュレーション装置は、押出機に投入される原料に含まれる被分解成分の初期濃度又は原料の初期物質量を取得する取得部と、取得した初期濃度又は初期物質量に基づいて、押出機軸方向の各領域における原料の被分解成分の濃度又は分解物質濃度又は物質量又は分解物質量を算出する処理部とを備える。
【0008】
本開示の一態様に係るシミュレーション方法は、押出機に投入される原料に含まれる被分解成分の初期濃度又は初期物質量を取得し、取得した初期濃度又は初期物質量に基づいて、押出機軸方向の各領域における原料の被分解成分の濃度又は分解物質濃度又は物質量又は分解物質量を算出する。
【0009】
本開示の一態様に係るシミュレーションプログラムは、押出機に投入される原料に含まれる被分解成分の初期濃度又は初期物質量を取得し、取得した初期濃度又は初期物質量に基づいて、押出機軸方向の各領域における原料の被分解成分の濃度又は分解物質濃度又は物質量又は分解物質量を算出する処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、押出機を用いた押出工程において原料が分解される様子をシミュレートすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係るシミュレーション装置の構成例を示すブロック図である。
図2】本実施形態に係る押出機の構成例を示す模式図である。
図3】本実施形態に係るシミュレーション方法を示すフローチャートである。
図4】本実施形態に係るシミュレーション方法を示すフローチャートである。
図5】樹脂物性データの入力画面である。
図6】剪断粘度データの入力画面である。
図7】揮発成分物性データの入力画面である。
図8】樹脂原料の塩素分量の時間変化を示すグラフである。
図9】シミュレーション結果を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係るシミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラムの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また下記実施形態及び変形例の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0013】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
<シミュレーション装置>
図1は、本実施形態に係るシミュレーション装置の構成例を示すブロック図である。本実施形態に係るシミュレーション装置1は、樹脂原料の分解プロセスをシミュレートするコンピュータであり、処理部11、記憶部12、入力部13及び出力部14を備える。以下の説明では、樹脂原料が、熱分解によって塩素系ガスを発生する塩素含有樹脂である場合を例に説明する。シミュレーション装置1は、押出工程における原料樹脂の熱分解による塩素系ガスの発生状態をシミュレートする。
【0014】
処理部11は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の演算回路、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の内部記憶装置、I/O端子等を有する。処理部11は、記憶部12に記憶されたシミュレーションプログラム12aを読み出して実行することにより、二軸スクリュ式の押出機における所定の物理量を算出する処理を行う。シミュレーション装置1の各機能部は、ソフトウェア的に実現してもよいし、一部又は全部をハードウェア的に実現してもよい。
【0015】
記憶部12は、例えば、ハードディスク、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)、フラッシュメモリ等の記憶装置である。記憶部12は、処理部11が実行する各種のプログラム、及び、処理部11の処理に必要な各種のデータを記憶する。本実施形態において記憶部12は、少なくとも処理部11が実行するシミュレーションプログラム12aを記憶している。
シミュレーションプログラム12aは、シミュレーション装置1の製造段階において記憶部12に書き込まれる態様でもよい。シミュレーションプログラム12aは、他の情報処理装置等がネットワークを介して配信される態様でもよい。シミュレーション装置1は通信にてシミュレーションプログラム12aを取得して記憶部12に書き込む。シミュレーションプログラム12aは、フラッシュメモリ等の半導体メモリ、光ディスク、光磁気ディスク、磁気ディスク等の記録媒体2に読み出し可能に記録された態様でもよい。シミュレーション装置1はシミュレーションプログラム12aを読み出して記憶部12に記憶する。
【0016】
入力部13は、外部からデータを取り込むインタフェースである。入力部13は、例えばキーボード、マウスであり、初期条件に係るデータを取得する。初期条件に係るデータは、原料である樹脂の物性、押出機の押出条件、スクリュ構成等に関するデータである。初期条件の詳細は後述する。なお、入力部13は、初期条件のデータを、図示しない記憶装置から読み取り、又は他のコンピュータから受信する態様であってもよい。
【0017】
出力部14は、例えば液晶表示パネル、有機EL表示パネル等の表示装置である。表示装置である出力部14は、処理部11から出力される解析結果のデータに基づいて、押出機における所定の物理量を表示する。所定の物理量は、例えば、原料樹脂に含有する塩素量、分解塩素量、シリンダ3内に残存する塩素系ガス量等である。出力部14は、原料樹脂に含有する塩素量、分解塩素量、シリンダ3内に残存する塩素系ガス量の分布を表示する(図9参照)。
なお、塩素量、分解塩素量、塩素系ガス量の計量方法及び表現態様は特に限定されるものでは無く、物質量であってもよいし、濃度であってもよい。単位も特に限定されるものではない。
【0018】
なお、上記したシミュレーション装置1は、複数のコンピュータを含んで構成されるマルチコンピュータであってよく、ソフトウェアによって仮想的に構築された仮想マシンであってもよい。また、シミュレーション装置1をクラウドサーバとして構成してもよい。
【0019】
<押出機>
図2は、本実施形態に係る押出機の構成例を示す模式図である。シミュレーション対象である押出機は、原料樹脂を溶融及び混練するスクリュ4と、スクリュ4が回転可能に挿入されたシリンダ3とを備える。
【0020】
シリンダ3は、原料が投入されるホッパ31と、一又は複数のベント32とを備える。ホッパ31は根本側(図2中左側)に設けられている。ベント32は、例えば真空ベントであり、シリンダ3内の塩素系ガスを真空吸引することによって排気する。排気された塩素系ガスは、外部のガス処理施設において処理される。
【0021】
スクリュ4は、複数種類のスクリュピースを組み合わせ、一体化することによって一本のスクリュ4として構成されている。例えば、原料を順方向へ輸送するフライトスクリュ形状の順フライトピース、原料を逆方向へ輸送する逆フライトピース、原料を混練するニーディングピース等を、原料の特性に応じた順序及び位置に配して組み合せることにより、スクリュ4が構成される。
【0022】
<シミュレーション方法>
図3及び図4は、本実施形態に係るシミュレーション方法を示すフローチャートである。シミュレーション装置1の処理部11は、まず初期設定を行う(ステップS11)。
【0023】
具体的には、処理部11は、押出機に投入される原料樹脂の粘度モデル、固体の密度、熱伝導率及び比熱、溶融体の密度、熱伝導率及び比熱、溶融熱量、融点、並びに初期含有塩素量、樹脂原料の分解速度定数等の物性を示す樹脂物性データを取得する。処理部11は、揮発成分物性データを取得する。
【0024】
図5は、樹脂物性データ入力画面、図6は、剪断粘度データ入力画面、図7は、揮発成分物性データの入力画面である。処理部11は、図5に示す樹脂物性データ入力画面を表示し、物性データの入力を受け付ける。樹脂物性データ入力画面では、原料樹脂の固体の密度、熱伝導率及び比熱、原料樹脂の溶融体の密度、熱伝導率及び比熱、溶融熱量、融点、初期含有塩素量、並びに分解速度定数を受け付け、処理部11は、受け付けたこれらのデータを記憶部12に記憶する。分解速度定数は温度依存性を有している。分解速度定数のデータは、複数の樹脂温度と、各樹脂温度における分解速度定数とを対応付けた配列データである。処理部11は、図6に示す剪断粘度データ入力画面を表示し、粘度モデルに係るデータを受け付ける。溶融樹脂は、剪断速度の増加に伴い剪断粘度が低下する擬塑性非ニュートン流体である場合、当該流体の粘度を表現する構成方程式として温度依存性をもつCrossモデルを用いることができる。剪断粘度データ入力画面では、剪断速度と、温度と、粘度との関係を受け付け、処理部11は受け付けた剪断粘度データを記憶部12に記憶する。処理部11は、図9に示す揮発成分物性データ入力画面を表示し、揮発成分物性データを受け付ける。揮発成分物性データ入力画面では、揮発成分とみなされる塩素系ガスの蒸気圧に係る特性を表すモデル式、分子量、沸点、所定温度における比熱、密度、蒸発潜熱、臨界温度、臨界圧力、臨界密度、相互干渉係数等を受け付け、処理部11は、受け付けたこれらのデータを記憶部12に記憶する。
【0025】
処理部11は、原料樹脂の押出量、スクリュ回転数、原料樹脂温度、先端樹脂圧力、シリンダ温度等の押出条件データを取得する。
【0026】
処理部11は、複数種類のスクリュピースの位置及び配列、スクリュ径、シリンダ径、スクリュ4の長手方向におけるホッパ31の位置等を示すスクリュ構成データを取得する。スクリュ構成データは図2に示す押出機の構成を規定するデータである。また、処理部11は、スクリュ4の構成によって定まる粘性発熱量を示すデータを取得する。
【0027】
ステップS11の処理により、後述するステップS13、ステップS17、ステップS18及びステップS20の演算処理に必要な情報を取得する。なお、ステップS11の処理を実行する処理部11又は入力部13は、原料樹脂に含まれる塩素成分の初期分量を取得する取得部として機能する。
【0028】
処理部11は、変数iに、スクリュ先端節点4bの位置を表す数値を代入する(ステップS12)。図2に示すように、スクリュ4の長手方向における位置を計算点番号で表すことができる。具体的には、シリンダ3内の空間を押出機軸方向に沿って複数に分割してなる各分割領域に計算点番号が付される。以下、計算点番号を変数iで表すものとする。変数iの値は、スクリュ根本節点4aからスクリュ先端節点4bにむかって大きくなる。スクリュ根本節点4aは、図2中左側のスクリュ4の根本部の節点であり、スクリュ先端節点4bは、図2中右側のスクリュ4の先端部の節点である。
【0029】
次いで、処理部11は、スクリュ特性式及び押出条件に基づいて、圧力、充満率及び滞留時間を算出する(ステップS13)。
【0030】
スクリュ特性式は下記式(1)により表される。
【数1】
【0031】
圧力損失ΔPと、既知の先端樹脂圧力P0により、変数iで表される位置における圧力Pを算出することができる。処理部11は、下流側から上流側へ圧力損失ΔPを順次算出することによって(ステップS14及びステップS15)、各分割領域における圧力を求めることができる。
【0032】
充満率は、下記式(2)で表される。
【数2】
【0033】
滞留時間は、下記式(3)で表される。
【数3】
【0034】
そして、処理部11は、変数iがスクリュ根本節点4aを示す値であるか否かを判定する(ステップS14)。変数iがスクリュ根本節点4aを示す値で無いと判定した場合(ステップS14:NO)、処理部11は変数iを1デクリメントし(ステップS15)、処理をステップS13へ戻す。
【0035】
変数iがスクリュ根本節点4aを示す値であると判定した場合(ステップS14:YES)、処理部11は、変数iに、スクリュ根本節点4aの位置を表す数値を代入する(ステップS16)。なお、ステップS16の処理を省略してもよい。
【0036】
次いで、処理部11は、エネルギー収支式により、樹脂温度、固相率、動力、トルク、ESP、分散、分配等を算出する(ステップS17)。分解塩素量の算出と特に関連のある樹脂温度について説明する。
【0037】
エネルギー収支式は下記式(4)により表される。なお、樹脂原料とシリンダ3との接触面積は、分割領域におけるシリンダ面積に充満率を乗算することにより得られる。
【数4】
【0038】
上記式を変形することにより下記式(5)が得られる。右辺第一項の樹脂温度Tは1ステップ前に求まった原料樹脂の温度を用いる。
【数5】
【0039】
上記式(5)で求まった温度差ΔTを下記式(6)に代入することにより、現ステップにおける樹脂温度を求めることができる。
【0040】
【数6】
【0041】
ステップS17の処理を終えた処理部11は、分解塩素量などを算出する(ステップS18)。
【0042】
図8は、樹脂原料の塩素量の時間変化を示すグラフである。横軸は時間、縦軸は原料樹脂に含まれる塩素量を示している。図8に示すように原料樹脂に含まれる塩素量は、熱分解により、時間の経過と共に指数関数的に減少する。減少速度は、分解速度定数によって定まる。分解速度定数k(T)は、図8に示すように温度依存性を有する。なお、分解速度定数k(T)は実験的に求められる。処理部11は、ステップS11で分解速度定数k(T)を受け付け、記憶部12に記憶している。
【0043】
処理部11は、ステップS11で取得した初期含有塩素量及び分解速度定数データと、ステップS13で算出した滞留時間と、ステップS17で算出した樹脂温度とに基づいて、分割領域における原料樹脂に含まれる塩素量を算出することができる。具体的には、原料樹脂に含まれる塩素量は例えば下記式(7)で表される。分解速度定数kは温度依存性を有する定数であり、ステップS17で算出した樹脂温度に基づいて定まる。
【0044】
【数7】
【0045】
処理部11は、上流側から下流側へ樹脂含有塩素量を順次算出することによって(ステップS21及びステップS22)、各分割領域における原料樹脂に含まれる塩素量を求めることができる。当該塩素量は、熱分解されていない塩素成分として原料樹脂に含まれている塩素の分量である。
【0046】
処理部11は、初期含有塩素量から、上記式(7)で求められた塩素量を減算することによって、原料樹脂の熱分解によって発生した分解塩素量を算出することができる。
【0047】
次いで、処理部11は、変数iで表される分割領域が非充満領域であるか否かを判定する(ステップS19)。例えば、処理部11は、ステップS13で算出した充満率が所定の閾値未満であるか否かを判定する。非充満領域であると判定した場合(ステップS19:YES)、処理部11は、変数iで表される分割領域に存在する塩素系ガス量を算出する(ステップS20)。具体的には、原料樹脂の熱分解により発生した塩素系ガスの放出を、脱揮現象とみなし、処理部11は塩素系ガス分量を算出する。つまり、原料樹脂の熱分解により塩素系ガスが原料樹脂から放出される現象を、原料樹脂に溶解している塩素系ガス成分が、減圧下で気体(気泡)へと相変化し、塩素系ガスが原料樹脂の自由表面上で脱泡する脱揮現象とみなす。
【0048】
押出機における表面更新脱揮プロセスの理論モデルは、下記式(8)のG.A.Latinen(“Devolatilization of viscous polymer systems”,Adv.Chem.Ser.,34,235(1962))が提案した式で計算する手法が代表的である。式(8)の脱揮拡散係数をK´=KD^(1/2)ρPとし、非充満領域である脱揮領域にて揮発分に相当する塩素系ガスが飛散する原料樹脂の表面積をL´=SLと定義すると式(8)は式(9)で表すことができる。脱揮拡散係数K´は原料樹脂の物性及びスクリュの形状などにより大きな影響を受けるパラメータである。下記式(9)の右辺から脱揮効率Xが求まると、流出揮発分濃度Cout、すなわち脱揮後の原料樹脂に含まれる塩素系ガスの塩素濃度を下記式(10)及び(11)により求めることができる。
【0049】
【数8】
【0050】
ステップS19において、非充満領域で無いと判定した場合(ステップS19:NO)、又はステップS20の処理を終えた場合、処理部11は、変数iがスクリュ先端節点4bを示す値であるか否かを判定する(ステップS21)。変数iがスクリュ先端節点4bを示す値で無いと判定した場合(ステップS21:NO)、処理部11は変数iを1インクリメントし(ステップS22)、処理をステップS17へ戻す。
【0051】
変数iがスクリュ先端節点4bを示す値であると判定した場合(ステップS21:YES)、処理部11は、シミュレーション結果が収束したか否かを判定する(ステップS23)。シミュレーション結果が収束していないと判定した場合(ステップS23:NO)、処理部11は、処理をステップS12へ戻し、ステップS12~ステップS21の処理を繰り返し実行する。
【0052】
シミュレーション結果が収束したと判定した場合(ステップS23:YES)、処理部11は解析結果を出力部14にて出力し(ステップS24)、処理を終える。
【0053】
図9は、シミュレーション結果を示す模式図である。図9A図9Cに示すグラフの横軸は変数i、すなわちスクリュ4の長手方向における位置を示している。図9Aの縦軸は原料樹脂に含まれる塩素量を示し、図9Bの縦軸は分解塩素量を示し、図9Cの縦軸は押出機のシリンダ3内に存在する塩素系ガス量を示している。図9A及び図9Bに示すように、ホッパ31に投入された原料樹脂は、上流側から下流側(スクリュ4の根本側から先端側)へ輸送される過程で熱分解が進行し、原料樹脂に含まれる塩素量が減少し、分解塩素量が増加している。図9Bに示す分解塩素量は、押出機軸方向における各分割領域に存在する原料樹脂から熱分解によって発生した塩素系ガスの総量である。塩素系ガスの総量は、原料樹脂が、上流側から下流側(スクリュ4の根本側から先端側)へ輸送される過程で発生した塩素系ガスの総和を意味する。
充満率が高く、滞留時間が長い分割領域においては、滞留時間の分だけ、原料樹脂の分解が進行し、塩素系ガスが多く発生していることが分かる。逆に、滞留時間が短い分割領域においては、塩素系ガスの発生量が低いことが分かる。
【0054】
一方、図9Cに示すように原料樹脂が、上流側から下流側(スクリュ4の根本側から先端側)へ輸送される過程で原料樹脂が熱分解され、シリンダ3内の塩素系ガス量が増加する。押出機軸方向における各分割領域に存在する塩素系ガス量は、非充満領域において、塩素系ガスとして排気されるため、減少する。原料樹脂が充満領域に存在する場合、塩素系ガスが排気されなくなるため、塩素系ガス量が減少しなくなる。このように、塩素系ガスの排気が繰り返し行われながら、原料樹脂が先端側へ輸送される。
【0055】
処理部11は、図9A図9Cに示すシミュレーション結果を表示出力することができる。シミュレーション装置1のユーザは、出力されたシミュレーション結果より、塩素含有樹脂の熱分解状況、シリンダ3内の塩素系ガス量、熱分解した塩素系ガスの排気状況等を把握することができる。
【0056】
このように構成されたシミュレーション装置1等によれば、押出機を用いた押出工程において原料樹脂が分解される様子をシミュレートすることができる。
【0057】
また、処理部11は、押出機軸方向の各分割領域における原料樹脂の滞留時間を考慮し、各分割領域における原料樹脂の塩素量及ぶ分解塩素量をより詳細に算出することができる。
【0058】
更に、処理部11は、押出機軸方向の各分割領域における原料樹脂の滞留時間及び樹脂温度を考慮し、各分割領域における原料樹脂の塩素量及び分解塩素量をより詳細に算出することができる。
【0059】
更にまた、処理部11は、押出機軸方向における塩素量及び分解塩素量の分布を示すデータを出力し、当該分布を示す画像を表示することができる。
【0060】
更にまた、処理部11は、押出機軸方向の各分割領域における充満率及び塩素系ガス排気を考慮し、シリンダ3内に残存する塩素系ガス量を算出することができる。
【0061】
更にまた、処理部11は、押出機軸方向におけるシリンダ3内に残存する塩素系ガス量の分布を示すデータを出力し、当該分布を示す画像を表示することができる。
【0062】
なお、本実施形態では、原料樹脂の一例として塩素含有樹脂を例示したが、原料樹脂の種類は特に限定されるものでは無い。分解によって発生するガスも塩素系ガスに限定されるものでは無い。また分解によって生ずる物質はガスに限定されるものでは無い。例えば、被分解物質を原料樹脂に含まれるポリマー、分解物質をモノマーとして、分解状況をシミュレートしてもよい。押出工程において分解する形態として熱分解を例示したが、熱分解に限定されるものでも無い。本実施形態1に係るシミュレーション装置1は、押出工程において分解し、ガスを発生する任意の原料の分解過程をシミュレートすることができる。
【0063】
また、表示出力するグラフの一例として、原料樹脂に含まれる塩素量、塩素分解量、シリンダ3内に残存する塩素ガス量を例示したが、あくまで一例であり、上記した数式(7)を用いて得られるその他の物理量の分布を示すデータを出力してもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 シミュレーション装置
2 記録媒体
3 シリンダ
4 スクリュ
4a スクリュ根本節点
4b スクリュ先端節点
11 処理部
12 記憶部
12a シミュレーションプログラム
13 入力部(取得部)
14 出力部
31 ホッパ
32 ベント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9