(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120923
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】水素含有組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 33/00 20060101AFI20230823BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230823BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20230823BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230823BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
A61K33/00
A61P31/14
A61K9/72
A61P9/00
A61P11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024070
(22)【出願日】2022-02-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り Cardiovascular Therapy and Prevention誌第6巻 公開日 2021年10月15日
(71)【出願人】
【識別番号】596005919
【氏名又は名称】Suisonia株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 勝之
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー グリゴリエビッチ チュチャーリン
(72)【発明者】
【氏名】ショゲノバ ルイドミラ ヴラディミロヴナ
(72)【発明者】
【氏名】キム タチアナ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA93
4C076BB27
4C076CC35
4C076DD29
4C086AA01
4C086HA01
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA12
4C086MA56
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZA59
4C086ZB33
(57)【要約】
【課題】新型コロナウイルス感染症の後遺症を改善することができる水素含有組成物を提供すること。
【解決手段】実施形態に係る水素含有組成物は、所定の濃度の水素ガスを含有する水素含有組成物であって、ヒトの吸入によって該ヒトへ投与され、新型コロナウイルス感染症の後遺症を改善する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の濃度の水素ガスを含有する水素含有組成物であって、
ヒトの吸入によって該ヒトへ投与され、新型コロナウイルス感染症の後遺症を改善する
ことを特徴とする水素含有組成物。
【請求項2】
前記新型コロナウイルス感染症の後遺症の改善が、前記ヒトの血管の強化および/または前記ヒトの主に呼吸器系気道の体内酸素濃度の上昇を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の水素含有組成物。
【請求項3】
前記水素含有組成物は、蒸気混合ガス(活性型水素:AFH)(記号:H(H2O)m)である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の水素含有組成物。
【請求項4】
前記水素ガスの濃度が、0.1~0.3Vol%である
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の水素含有組成物。
【請求項5】
原水を加熱して発生させた過熱蒸気をさらに過熱して前記水素ガスを含む蒸気混合ガスを生成し、前記蒸気混合ガスおよび前記過熱蒸気を含む混合流体から気液分離して前記蒸気混合ガスを取り出す水素ガス発生装置によって生成される
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の水素含有組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、新型コロナウイルス感染症の後遺症を改善するための水素含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒトが体内に水素を取り込むことは、病変や機能障害を引き起こす原因となるとされる活性酸素種を除去するのに有効であることが知られている。たとえば、腎機能などの改善のために、水素含有組成物がヒトへ投与されることがある(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、2020年の新型コロナウイルス感染症の流行以降、その後遺症(症状)を改善するための有効な組成物についてはあまり知られていない。
【0005】
実施形態の一態様は、新型コロナウイルス感染症の後遺症を改善することができる水素含有組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の一態様に水素含有組成物は、所定の濃度の水素ガスを含有する水素含有組成物であって、ヒトの吸入によって該ヒトへ投与され、新型コロナウイルス感染症の後遺症を改善することを特徴とする。
【0007】
また、上記した水素含有組成物において、前記新型コロナウイルス感染症の後遺症の改善が、前記ヒトの血管の強化および/または前記ヒトの主に呼吸器系気道の体内酸素濃度の上昇を含むことを特徴とする。
【0008】
また、上記した水素含有組成物において、水素含有組成物は、蒸気混合ガス(活性型水素:AFH)(記号:H(H2O)m)であることを特徴とする。
【0009】
また、上記した水素含有組成物において、前記水素ガスの濃度が、0.1~0.3Vol%であることを特徴とする。
【0010】
また、上記した水素含有組成物において、原水を加熱して発生させた過熱蒸気をさらに過熱して前記水素ガスを含む蒸気混合ガスを生成し、前記蒸気混合ガスおよび前記過熱蒸気を含む混合流体から気液分離して前記蒸気混合ガスを取り出す水素発生装置によって生成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
実施形態の一態様によれば、新型コロナウイルス感染症の後遺症を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、COVID-19疾患の急性期のCTスキャンによる患者の肺損傷の程度を示す図である。
【
図3】
図3は、水素ガスの吸入前後の患者の毛細血管の状態を示す図である。
【
図4】
図4は、水素ガスの吸入グループと非吸入グループとの血中のフェリチリンの含有量を示す図である。
【
図5】
図5は、水素ガス発生装置の使用状態を示す図である。
【
図6】
図6は、水素ガス発生装置の構成例の模式説明図である。
【
図7】
図7は、水素ガス発生装置の構成例を正面視によって示す図である。
【
図8】
図8は、水素ガス発生装置の構成例を平面視によって示す図である。
【
図9】
図9は、水素ガス発生装置の構成例を側面視によって示す図である。
【
図10】
図10は、空気取入部を備える加熱パイプを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する水素含有組成物の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0014】
実施形態に係る水素含有組成物は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19ともいう)の後遺症(症状)を改善するために、後遺症患者(ヒト)のリハビリに対して、後述する蒸気混合ガス(活性型水素:AFH(Active Formed Hydrogen)(記号:H(H2O)m)の吸入による安全性および有効性の研究を行い、得られたものである。
【0015】
<1.研究の概略説明>
今回の研究(臨床試験)に参加したのは、ロシアのモスクワのプレトネフ州立臨床病院の医療スタッフの60人である。表1に示すように、今回の研究では、これら60人を、30人ずつの蒸気混合ガス(AFH(H(H2O)m))を吸入するグループ(吸入グループ)と、蒸気混合ガス(AFH(H(H2O)m))を吸入しないグループ(非吸入グループ)とに分けた。
【0016】
【0017】
また、今回の研究の対象者(被験者)は、過去数カ月の間、新型コロナウイルスに感染し、回復した(PCR検査で陰性となった)者、18歳以上の者、インフォームド・コンセントに同意した者、肺の状態がCT2の者である。このような対象者には、「少し動いただけで息切れや息苦しさを感じる」、「倦怠感や疲労感がある」、「不眠が続いている」、「食欲がない」、「歩くとすぐに疲れる」といった症状があった。
【0018】
なお、人工呼吸器が必要な者、免疫抑制剤または免疫調整剤を服用している者、過去6カ月以内に脳卒中または心不全を診断された者、PCR検査で新型コロナウイルスが検出された者、妊娠中の者は、研究の対象者から除外した。
【0019】
<1-1.太い動脈の硬さ(Stiffness Index)における有意差>
Stiffness Index(SI)は、動脈の硬さを表す指標となり、大動脈の脈波伝播速度を用いて血管の状態やリスクをヒトの体外から評価することができる。非吸入グループの平均SI指数は、5%近い増加が見られた。一方、吸入グループの平均SI指数は、20%近い減少が見られた。このような結果から、吸入グループの血管の状態が改善に向かっている可能性が考えられる。
【0020】
<1-2.細い血管の状態(Refractive Index)における有意差>
Refractive Index(RI)は、細い血管の状態を表し、収縮期と拡張期との血圧を比較することから、細い動脈の柔軟性を表す指標となる。RI値が高いほど血管の柔軟性が高くなる。非吸入グループの平均RI値は、(吸入開始の)1日目と10日目とにおいてほとんど差は見られなかった。一方、吸入グループの平均RI値は、10日目において30%近い上昇が見られた。このような結果から、吸入グループの血管がより柔軟になっている可能性が考えられる。
【0021】
<1-3.6分間の歩行距離テストにおける有意差>
6分間の歩行距離テストでは、(吸入開始の)1日目と10日目とにそれぞれ被験者が6分間の歩行を行い、歩いた距離を測定する。コロナ後遺症では、ヒトの体内酸素濃度の低下や長期的な倦怠感のため、運動機能の低下が予想されている。このため、歩行距離テストは重要な指標となる。
【0022】
非吸入グループでは、(吸入開始の)1日目と10日目とにおいてほとんど差は見られなかった。一方、吸入グループでは、1日目と10日目とにおいて平均距離が40%近く伸びた。このような結果から、吸入グループの運動機能が向上していると考えられる。
【0023】
<1-4.肺のシャント割合における有意差>
まず、ヒトの肺は、酸素を体内に取り入れ、二酸化炭素を体外に出す役割を有する。肺が正常な場合、肺を通る血液が完全に二酸化炭素を排出し、酸素を取り入れることができる。一方、コロナ後遺症などの疾患が原因で肺が正常でない場合、肺を通る血液が完全に酸素化されることなく通過してしまうため、酸素化されたり酸素化されなかったりする。このように、肺を通る血液の比率がシャント割合と呼ばれる。
【0024】
なお、肺が正常な場合、シャント割合は0%である。また、シャント割合が高いほど血液のガス交換が行われなくなり、体内へ取り込まれる酸素量が減ってしまう。酸素が減ると体内に様々な悪影響をもたらすようになる。
【0025】
6分間の歩行距離テストでは、非吸入グループおよび吸入グループ共に(吸入開始の)1日目と10日目とにおいて回復傾向が見られたが、吸入グループでは、シャント割合が50%近い減少が見られた。このような結果から、吸入グループの方が肺の回復が促進されている可能性が考えられる。
【0026】
<1-5.結論>
このように、今回の研究結果から、蒸気混合ガス(AFH(H(H2O)m))の吸入によって、血管の状態の改善、6分間で歩ける距離の大幅な伸び、体内酸素濃度(主に呼吸器系気道の体内酸素濃度)の上昇が明らかとなった。
【0027】
<2.研究の詳細説明>
以下では、今回の研究(臨床試験)について、より詳細に説明する。
【0028】
病的状態における水素のプラスの効果は、1880年代から知られている。それにもかかわらず、医学界では、20世紀までその特性に注意を払っていなかった。基礎的および臨床的の両方の最近の研究は、水素が抗酸化、抗炎症および抗アポトーシス特性を備えた重要な生理学的調節因子であることを確認している。
【0029】
今回の研究(臨床試験)は、後述する蒸気混合ガス(活性型水素:AFH(H(H2O)m)の吸入の治療効果に基づいている。水素は、自然界で最も単純な分子であり、以前は不活性ガスと見なされていた。ところが、水素は、酸化還元反応において重要な役割を果たし、抗酸化システムの機能を調節する。通常状態では、水素分子は不活性である。水素分子内の原子間の結合強度は、2.3eVである。この結合を断ち切るためには、追加のエネルギーが必要である。このために、今回の研究では、後述する水素ガス発生装置10(
図5参照)を使用した。水蒸気を熱した金属の還元剤に接触させ生成され、鼻カニューレを通って人体(ヒト)に入る水素は、化学的に活性な状態にある。また、AFH(H(H
2O)m)の幾何学的寸法は、最初の分子の2分の1であるため、透過力は2倍になる。このため、吸入用の金属水素化物源から得られたAFH(H(H
2O)m)の使用がより効果的である。
【0030】
皮膚の扁平上皮癌のマウスモデルでの実験の後、1975年に初めてAFH(H(H2O)m)の吸入の治療効果が報告された(参考文献1:Dole M, Wilson FR, Fife WP. Hyperbaric hydrogen therapy: a possible treatment for cancer. Science. 1975;190(4210):152-4. doi:10.1126/science.1166304.)。
【0031】
過去20年間でも、AFH(H(H2O)m)の有効性に関する1000を超える論文が発表されている。水素は、抗酸化作用と抗アポトーシス作用を持ち、ヒドロキシルラジカルとペルオキシナイトライトの「選択的」体内の不要物質や毒性物質を処理する物質として機能する。これは、2007年に確認された(参考文献2:Ohsawa I, Ishikawa M, Takahashi K, et al. Hydrogen acts as a therapeutic antioxidant by selectively reducing cytotoxic oxygen radicals. Nat Med. 2007;13(6):688-94. doi:10.1038/nm1577.)。
【0032】
AFH(H(H2O)m)は、インターロイキン(IL)-1β、IL-6、腫瘍壊死因子-αなどの炎症誘発性および炎症性サイトカインの濃度を低下させることにより、酸化ストレスによる炎症性組織の損傷を抑制する(参考文献3:Shao A, Wu H, Hong Y, et al. Hydrogen-Rich Saline Attenuated Subarachnoid Hemorrhage-Induced Early Brain Injury in Rats by Suppressing Inflammatory Response: Possible Involvement of NF-κB Pathway and NLRP3 Inflammasome. Mol Neurobiol.2016;53(5):3462-76. doi:10.1007/s12035-015-9242-y.)、(参考文献4:Tian Y, Guo S, Zhang Y, et al. Effects of Hydrogen-Rich Saline on Hepatectomy-Induced Postoperative Cognitive Dysfunction in Old Mice. Mol Neurobiol. 2017;54(4):2579-84. doi:10.1007/s12035016-9825-2.)、他の生物学的化合物、たとえば、細胞間接着の分子、非ヒストン核タンパク質HMGB1(高移動度群タンパク質B1)(参考文献5:Buchholz BM, Kaczorowski DJ, Sugimoto R, et al. Hydrogen inhalation ameliorates oxidative stress in transplantation induced intestinal graft injury. Am J Transplant. 2008;8(10):2015-24. doi:10.1111/j.1600-6143.2008.02359.x.)、核因子カッパーB(核因子kB、NF-kB)(参考文献6:Chen H, Sun YP, Li Y, et al. Hydrogen-rich saline ameliorates the severity of l-arginine-induced acute pancreatitis in rats. Biochem Biophys Res Commun. 2010;393(2):308-13. doi:10.1016/j.bbrc.2010.02.005.)、およびプロスタグランジンE2(参考文献7:Kawasaki H, Guan J, Tamama K. Hydrogen gas treatment prolongs replicative lifespan of bone marrow multipotential stromal cells in vitro while preserving differentiation and paracrine potentials. Biochem Biophys Res Commun. 2010;397(3):608-13. doi:10.1016/j.bbrc.2010.06.009.)。
【0033】
AFH(H(H2O)m)は、サイトカインやその他の炎症性化合物の血清および組織レベルを低下させることにより、生存率を改善し、臓器の損傷を軽減する(参考文献8:Xie K, Yu Y, Zhang Z, et al. Hydrogen gas improves survival rate and organ damage in zymosan-induced generalized inflammation model. Shock. 2010;34(5):495-501. doi:10.1097/SHK.0b013e3181def9aa.)。
【0034】
AFH(H(H2O)m)は、効果的に生体膜に浸透し、細胞核とミトコンドリアに到達する。ほとんどの抗酸化化合物はこの能力を持っていないが、ガス拡散によって血液脳関門を簡単に貫通することができる(参考文献9:Ohta S. Molecular hydrogen is a novel antioxidant to efficiently reduce oxidative stress with potential for the improvement of mitochondrial diseases. Biochim Biophys Acta. 2012;1820(5):586-94. doi:10.1016/j.bbagen.2011.05.006.)。
【0035】
AFH(H(H2O)m)の有効性を評価する問題に関する以前の科学的研究の分析は、敗血症、多臓器不全症候群などの疾患、および回復期におけるその治療効果を示す(参考文献10:Ge L, Yang M, Yang NN, et al. Molecular hydrogen: a preventive and therapeutic medical gas for various diseases. Oncotarget. 2017;8(60):102653-73. doi:10.18632/oncotarget.21130.)。
【0036】
AFH(H(H2O)m)は、コラーゲン誘発性の血小板凝集を阻害する可能性がある(参考文献11:Qian L, Wu Z, Cen J, et al. Medical Application of Hydrogen in Hematological Diseases. Medical Application of Hydrogen in Hematological Diseases. Oxid Med Cell Longev. 2019;2019:3917393. doi:10.1155/2019/3917393.)。
【0037】
水素分子ガスと水素を含む生理食塩水が、肺や脳などの臓器への酸化的損傷に対する保護効果があることを証明するための研究が行われている(参考文献12:Kawamura T, Huang CS, Tochigi N, et al. Inhaled hydrogen gas therapy for prevention of lung transplant-induced ischemia/reperfusion injury in rats. Transplantation. 2010;90(12):1344-51. doi:10.1097/TP.0b013e3181fe1357.)。
【0038】
今回の研究(臨床試験)の目的は、上記したように、後述する蒸気混合ガス(活性型水素:AFH(H(H2O)m)の吸入による安全性および有効性を実証することである。
【0039】
また、ランダム化比較並行前向き研究には、2020年5月から11月にCOVID-19に罹患した60人の患者が含まれ、コロナ後遺症(参考文献13:MKB-10. (In Russ.) MKB-10. https://mkb-10.com/index. php?pid=23014. (08.09.2021).)の回復期間中、CFSの臨床症状を伴う全員がCFS患者を管理するためのプロトコルに従って標準的な治療を受けた。
【0040】
今回の研究の対象者(被験者)は、上記したように、蒸気混合ガス(AFH(H(H2O)m))の吸入グループと非吸入グループとの2つのグループに分けられており、吸入グループにおいて、1日90分間の蒸気混合ガスの吸入を10日間行った。研究対象者(患者)の詳細を表2に示す。なお、表2において、BMIは、ボディマス指数、HRは、心拍数である。
【0041】
【0042】
今回の研究に含まれるすべての患者は、COVID-19の急性期に、一時的なガイドラインに従って、新型コロナウイルスによって引き起こされた肺炎の治療を受けた。
【0043】
また、患者は、上記したように、モスクワ市のD.D.プレトネフ国立臨床病院の職員であり、18歳以上の者、研究時に新型コロナウイルスのリボ核酸に対するポリメラーゼ連鎖反応検査が陰性であること、COVID-19(すりガラスのような肺組織のびまん性肥厚)の徴候が記録されたCTがあること、米国国立慢性疲労センターが作成した基準によるUC(ICD-10:G93.3)の2つの主要な診断上の特徴と6つ以下の軽微な診断上の特徴(再発または増加する周期的な疲労、睡眠または長時間の休息後も全身状態の改善が見られない、運動に対する耐性が低い、全身の筋力低下、睡眠障害、精神情緒障害、記憶および注意欠陥、以前には見られなかった重度の頭痛に該当する者、呼吸器系疾患(咳、痰、呼吸困難)の兆候がない者である。
【0044】
なお、呼吸補助を必要とする者、急性かつ非代償性の心不全の兆候を有する者、急性かつ慢性呼吸不全の増悪の兆候を有する者、過去6カ月以内に急性脳循環障害と診断された者、過去6カ月以内に急性心筋梗塞と診断された者、分解期にある糖尿病を患っている者、妊娠中の者、過去6カ月間に免疫抑制剤(ステロイド外用剤、全身性ステロイド、免疫調整剤(抗ウイルス剤)を含む)を使用している者、過去に病歴のある癌患者などは今回の研究から除外している。
【0045】
また、すべての患者は、1964年の「世界医師会ヘルシンキ宣言」(最終改訂版2013年)および2005年のユネスコ宣言「生命倫理と人権に関する世界宣言」に記載されている要件を満たす、研究に参加するための自発的なインフォームド・コンセントに署名している。
図1に示すように、COVID-19の肺のCTスキャンを受けた患者の急性期における肺の損傷の程度は、非吸入グループにおいては、肺の損傷が、25%の者が13人、25~50%の者が14人、50~75%の者が2人、75~95%の者が1人であり、吸入グループにおいては、肺の損傷が、25%の者が10人、25~50%の者が15人、50~75%の者が3人、75~95%の者が2人である。
【0046】
<2-1.研究デザイン>
すべての患者は、最初に、無作為化前に呼吸数、心拍数、血圧(BP)、肺CTスキャン、心エコー-心拍出量、平均肺動脈圧、パルスオキシメトリ(SpO2)、スパイロメトリーを評価した。
【0047】
図2に示すように、研究デザインでは、無作為化後,試験開始(吸入開始)1日目と10日目に、以下の項目(心拍出量、平均肺動脈圧、パルスオキシメトリ(SpO
2))を評価した。無作為化後、10日目に次の項目、プレチスモグラフィーによる内皮機能指標の剛性指数(SI)、反射指数(RI)、毛細血管造影法、パルスオキシメトリ(SpO
2)、6分間歩行負荷試験の実施、動脈、静脈、毛細血管の血液のガス組成を評価(pH、動脈血中の酸素分圧(PaO
2)、動脈血中の二酸化炭素分圧(PaCO
2)、動脈血の飽和度(PaO
2)を評価した。
【0048】
また、動脈血中の重炭酸イオン濃度(HCO3-)および乳酸、静脈血の酸素分圧(PvO2)、静脈血中の二酸化炭素分圧(PvCO2)、静脈血の飽和度(PvO2)、静脈血中のHCO3-と乳酸の濃度、毛細血管血中の酸素分圧(PcO2)、毛細血管血中の二酸化炭素分圧(PcCO2)、毛細血管血中の飽和度(PcO2)、毛細血管血中のHCO3-と乳酸の濃度、肺内シャント(Qs/Qt)、一般血液検査(ヘモグロビン、白血球、好中球、リンパ球、血小板)、血液化学検査(アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、総ビリルビンおよび直接ビリルビン、フェリチン、C反応性タンパク質、プロカルシトニンを測定した。
【0049】
<2-2.活性型水素の吸入療法>
AFH(H(H
2O)m)を用いた吸入療法は、後述する水素ガス発生装置10(
図5参照)に接続された鼻カニューレを用いて実施された。すべての患者は、水素ガス発生装置10を介して、毎日、90分間の吸入を10日間受けた。
【0050】
<2-3.統計的分析>
グループ無作為化および統計解析は専用ソフトウェアを用いて行った。分布の正規性は所定の手法で確認した。ベースラインの量的特性については、グループを無作為化し、質的データは適切な補正を行った後に比較した。グループと曝露期間の効果を同時に調べるために、2要因の統計処理を実施し、これらの要因間の相互作用を評価した。データがそのままでは分析に適さない場合は、対数変換した値を使用し、その後、正規性のチェックを行い、変換したデータを分散分析にかけた。
【0051】
グループの比較では、従属サンプルと独立サンプルを調べるために、それぞれペアリングされたt-テストとペアリングされていないt-テストとを使用した。正規分布とは異なる分布を持つグループの比較には、従属サンプルと独立サンプルとのそれぞれに適した所定の手法を用いた。統計的な外れ値は、Qが1%を超えないROUT基準を用いて除外した。質的データは、絶対度数(n)と相対度数(%)で記述した。定量的変数は、平均値±標準偏差(Mean±SD)または中央値(Me)と四分位範囲(Q25;Q75)で示した。差異は、p<0.05で統計的に有意とした。
【0052】
なお、AFH(H(H2O)m)を用いた吸入療法中の患者において、手順に関連する客観的な副作用はなかった。非吸入グループでは3名の患者が3日目に脱落し、吸入グループでは2名の患者が2日目と3日目に脱落した。すなわち、非吸入グループは27人、吸入グループは28人で実施された。
【0053】
<2-4.血管内皮機能>
研究対象者のベースラインSI値は、非吸入グループで平均8.1±2.0m/s、吸入グループで平均8.8±1.8m/s(p>0.05)であった。非吸入グループでは、SIが8.19±2.0から8.5±2.0m/へとわずかに増加したのに対し、吸入グループでは、8.8±1.8から6.8±1.5m/s(p<0.0001)へと有意に減少し(23±3%減)、追跡調査終了時点でも非吸入グループと統計的に有意な差が見られた。小動脈緊張に関連する反射指数RIの平均値は、非吸入グループと吸入グループとでベースライン時に異なり、それぞれ59.5±11.86%と46.67±13.27%(p<0.01)であった。
【0054】
AFH(H(H2O)m)を毎日吸入して10日後、非吸入グループには変化が見られず、メイングループでは10日間でRIが46.67±13.26%から63.32±13.44%(p<0.0001)へと有意に増加した。
【0055】
図4に示すように、すべての患者において、初期の血管パターンは貧弱で、毛細血管網の密度が低下していた。吸入後、各指の末節骨の長さ1mmあたりの毛細血管の数が増加し、毛細血管の大きさ、幅、長さ、直径が変化した。なお、
図4は、ある被験者におけるAFH(H(H
2O)m)を吸入する前と後の爪床のキャピラロスコープの写真(画像)である。
【0056】
<2-5.全身炎症マーカー>
表3に示すように、全身性炎症の指標の動態を調べた結果、唯一の変化は白血球数であり、吸入グループでは10日目に有意に低下した。
【0057】
【0058】
<2-6.生化学血液検査>
10日目の吸入治療後の結果を比較すると、非吸入グループではALT、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、総ビリルビン活性に有意な変化は見られなかった。一方、吸入グループでは、ALTが24.0±12,7から20.22±10.61U/L(p<0.001)に減少し、直接ビリルビン値が2.99±1,41から3.39±1.34μmol/L(p<0.01)に増加したことが確認された。
図4に示すように、血液中のフェリチンの動態を調べた結果、吸入グループでは10日目にその値が大幅に減少している。
【0059】
<2-7.6分間歩行による運動テスト>
6分間の歩行での平均距離は、非吸入グループに比べて吸入グループでは430±45m、397±30m(p<0.001)と最初から高かった。10日目の観察終了時には、6分間の歩行距離が569±60m(p<0.0001)と有意に増加したのは吸入グループのみであった。
【0060】
10日目の2つのグループの結果を比較すると、このパラメータは、AFH(H(H2O)m)吸入療法群が非吸入グループよりも平均して30%高かった(p<0.0001)。すべての患者は、安静時のパルスオキシメトリ(SpO2)値は正常であったが、運動時には脱飽和が検出された。1日目と10日目の比較では、有意な差はなかった。2つのグループの間で有意な差はなかった。また、AFH(H(H2O)m)の吸入療法を行ったところ、最小SpO2が92.25±2.9%から94.25±1.56%(p<0.05)へと有意に増加したが、吸入グループでは見られなかった。
【0061】
<2-8.酸素輸送>
表4には、酸塩基平衡、酸素運搬、肺内バイパスの結果を示している。表4に示すように、10日目には、AFH(H(H2O)m)吸入療法を背景に、PaO2(p<0.0001)と血中乳酸値(p<0.0001)の有意な上昇が見られなかった。動脈血中の乳酸値は、非吸入グループに比べて吸入グループで低かった(p<0.0001)。また、肺のシャント割合は、吸入グループで60%以上の有意な減少が見られた(p<0.01)。非吸入グループでは、10日目にPaO2(p<0.01)と静脈血および毛細血管血のみの乳酸値(p<0.05)の上昇が認められた。
【0062】
【0063】
<2-9.ディスカッション>
カリフォルニア大学のグローバル・ヘルス・サイエンス研究所によると、医療施設で働く医師、看護師、技術者はCOVID-19のリスクが最も高いとされてる(参考文献14:Chen YH, Glymour M, Riley A, et al. Excess mortality associated with the COVID-19 pandemic among Californians 18-65 years of age, by occupational sector and occupation: March through November 2020. PLoS One. 2021;16(6). doi:10.1371/journal.pone.0252454.)。2019年後半から2020年の最初の数カ月間にパンデミックに直面している国々では、COVID-19による医療従事者の罹患率や死亡率が大幅に上昇している(参考文献15:Ing EB, Xu QA, Salimi A, et al. Physician deaths from corona virus (COVID-19) disease. Occup Med (Lond). 2020;70(5):370-4. doi:10.1093/occmed/kqaa088.)。
【0064】
モスクワのD.D.プレトネフ州立臨床病院では、スタッフのCOVID-19の発生率は、部署のプロフィールや提供される医療の種類によって、30~100%の範囲であった。最も罹患率が高かったのは救急部で、まず集中治療部、麻酔科、蘇生部、そして神経科と心臓科であった。COVID-19の深刻な影響は、これらの患者では亜急性期と回復期の両方で検出され、生活の質が著しく低下するため、リハビリテーションが必要となる。
【0065】
2020年から2021年にかけての科学的研究により、COVID-19を受けた患者の亜急性症候群と回復期の時間基準が特定された(参考文献16:Sudre CH, Murray B, Varsavsky T, et al. Attributes and predictors of long COVID. Nat Med. 2021;27(4):626-31. doi:10.1038/s41591021-01292-y.)。本明細書では、COVID-19回復期の代表的な症状複合体の1つであるCFSと、その経過に対するAFH(H(H2O)m)吸入療法の効果について説明する。
【0066】
新型コロナウイルスに感染した患者がCFSを発症する理由は様々である。病気の長期経過時、および蘇生時や急性期の慢性疾患の悪化時、ウイルスによる臓器や組織への直接的な損傷が見られる(参考文献17:Yong SJ. Long-Haul COVID-19: Putative Pathophysiology, Risk Factors, and Treatments. Preprints. 2020; 2020120242. doi:10.20944/preprints202012.0242.v1.)。
【0067】
また、大脳辺縁系および視床下部領域の脳構造の機能不全(参考文献18:Gu J, Gong E, Zhang B, et al. Multiple organ infection and the pathogenesis of SARS. J Exp Med. 2005;202(3):415-24. doi:10.1084/jem.20050828.)、副交感神経系と交感神経系の相互作用の調節不全(参考文献19:Hajra A, Mathai SV, Ball S. Management of Thrombotic Complications in COVID-19: An Update. Drugs. 2020;80(15):1553-62. doi:10.1007/s40265-020-01377-x.)、血管内皮に対するウイルス粒子の直接的な損傷効果(参考文献20:Bikdeli B, Madhavan MV, Jimenez D, et al. COVID-19 and Thrombotic or Thromboembolic Disease: Implications for Prevention, Antithrombotic Therapy, and Follow-Up: JACC Stateof-the-Art Review. J Am Coll Cardiol. 2020;75(23):2950-73. doi:10.1016/j.jacc.2020.04.031.)、人体におけるウイルスの持続性(参考文献21:Melo G, Lazarini F, Levallois S, et al. COVID-19-associated olfactory dysfunction reveals SARS-CoV-2 neuroinvasion and persistence in the olfactory system. bioRxiv. 2020. doi:10.1101/2020.11.18.388819.)、止血障害による血中セロトニン濃度の変化(参考文献22:Drobizhev MY. COVID-19 and selective serotonin reuptake inhibitors. Clinical protective effects of fluvoxamine in patients with COVID-19. Nervnye bolezni. 2020;(3):52-57.)が見られる。
【0068】
また、毛細血管や静脈に血栓や血栓溶解剤が存在すると、炎症反応を引き起こす(参考文献23:Fuchs TA, Brill A, Duerschmied D, et al. Extracellular DNA traps promote thrombosis. Proc Natl Acad Sci U S A. 2010;107(36):15880-5. doi:10.1073/pnas.1005743107.)。
【0069】
また、新型コロナウイルスの複製過程では、ヒトの恒常性酸化還元反応障害、尿中オキシケトステロイド濃度の上昇、コルチゾールの肝クリアランスの低下が伴う。最終的には、これらすべての代謝プロセスが窒素代謝に影響を与える。その後、徐々に窒素バランスが回復していく。亜急性期および回復期に急性疾患の臨床症状が消失する。これらの変化は、CFSとして臨床的に代謝異常や血管結合組織の機能障害、「潜在的」な低酸素血症を引き起こす可能性がある。
【0070】
COVID-19を発症した当院の職員100%のうち、99%が調査時点で職務を開始していたが、そのほとんどがリハビリ措置を必要としていた。
【0071】
最近では、AFH(H(H2O)m)を含む混合ガスの吸入が、リハビリテーションの手段として特別な位置を占めている。1~4%のAFH(H(H2O)m)を吸入することで、有効性と安全性が実証されている。
【0072】
AFH(H(H2O)m)の吸入からCOVID-19の回復期間中および処置終了時に合併症を起こした患者はいなかった。AFH(H(H2O)m)の吸入療法では、炎症のマーカーである白血球が大幅に減少し、リンパ球が増加した。これは、活性型水素の抗酸化作用と抗炎症作用の結果であると考えられる。AFH(H(H2O)m)のユニークな利点が実証された。
【0073】
今回の研究に参加したすべての患者は、フリーラジカルが原因で起こる凝固障害である内皮の直接損傷の現れとして、最初に内皮機能障害の兆候を示した。また、内皮機能指標SIとRIの改善は、活性水素療法の抗酸化作用と抗炎症作用の結果である。
【0074】
内皮機能障害の兆候が減ることで、血液のヘモレオロジーバランスが回復し、そのバランスが崩れると必然的に臓器障害や多形性病態の発生につながる(参考文献24:Mayanskaya SD, Antonov AR, Popova AA, et al. Early markers of endothelial dysfunction in the dynamics of the development of arterial hypertension in young people. Kazanskij Med J. 2009;90;1:32-7.)。
【0075】
2つのグループの患者全員に、潜在的な低酸素血症、酸素輸送障害、乳酸代謝、高率の肺内血液シャントの兆候が見られた。AFH(H(H
2O)mの吸入を背景としたPaO
2、SaO
2の統計的に有意な増加、血液シャント率の減少は、微小循環の改善と関連しており、AFH(H(H
2O)mの吸入前後の毛細血管造影法で撮影された画像で明らかに示された(
図3参照)。血液循環と酸素運搬が回復することで、乳酸値が回復し、体にかかる無酸素運動の負荷が減り、運動耐容能が向上する。
【0076】
<2-10.結論>
COVID-19患者の回復期のリハビリテーションプログラムにおけるAFH(H(H2O)m)の吸入療法は、安全で非常に効果的な治療法であった。潜在的な低酸素血症の症状が軽減され、身体活動に対する耐性が高まり、内皮機能障害が軽減されるというポジティブな変化が見られた。臨床検査では、白血球数の減少、乳酸代謝の正常化、右から左への肺内血液シャント分画の減少が認められた。
【0077】
<3.水素ガス発生装置>
次に、
図5以降を参照して今回の研究(臨床試験)においても使用した水素ガス発生装置10の一例について説明する。
図5は、水素ガス発生装置10の使用状態を示す図である。
図6は、水素ガス発生装置10の構成例の模式説明図である。
【0078】
水素ガス発生装置10は、水素ガス(H
2)が含まれる蒸気混合ガスを生成し、これを適切な濃度にして人体内に取り込み可能としたものである。
図5に示すように、使用者(すなわち、ヒト)は、ケーシング1から伸延するガス吸入管30の先端を鼻や口に装着して、生成された水素ガスが適切な濃度で含まれる蒸気混合ガスを吸入することができる。本実施形態では、使用者を一人としたが、ガス吸入管30の接続部133を複数設けたり、ガス吸入管30を複数に分岐させたりすることで、2人以上の使用も可能である。なお、ガス吸入管30としては、たとえば、カニューレなどを好適に用いることができる。
【0079】
水素ガス発生装置10のケーシング1は、底壁16と、天井壁11と、4つの周壁12,13,14,15(
図8参照)とにより矩形箱状に形成されており、底壁16の4隅には球状のキャスタ20が取り付けられる。
【0080】
また、ケーシング1は、適宜の厚みからなるステンレスあるいは鋼板により形成される。
図5に示すように、天井壁11には、その面積の大部分を占める上部点検口110が形成されており、かかる上部点検口110は、蓋体111で着脱自在に覆われる。そして、蓋体111の前側に、電源スイッチ112と、操作部として機能するタッチパネル113とが設けられる。
【0081】
また、ケーシング1の周壁の1つである前壁12には、その面積の大部分をしめる前部点検口120が形成される。かかる前部点検口120には、図示しないヒンジを介して、取っ手122を有する前面扉121が開閉自在に取付けられる。
【0082】
さらに、ケーシング1の周壁の1つである左側壁13にも、その面積の大部分をしめる側部点検口130が形成され、この側部点検口130は蓋体131で着脱自在に覆われる。なお、本実施形態に係る水素ガス発生装置10では、側部点検口130から後述する制御ユニット101(
図7および8参照)のメンテナンスが可能である。側部点検口130の上方、上縁部近傍位置には、複数の通気口132が形成される。かかる通気口132の前方位置には、ガス吸入管30の接続部133が設けられる。
【0083】
なお、複数の通気口132は、ケーシング1の周壁を構成する右側壁14、後壁15の上縁部近傍位置にも形成される。
【0084】
ケーシング1の内部には、水素混合ガス生成ユニット100が収納される。水素混合ガス生成ユニット100は、
図6に示すように、給水部2と、蒸気加熱部3と、ガス取出部5と、冷却部6とを備える。そして、第1の工程では、給水部2から供給された原水を蒸気加熱部3により加熱して蒸気を生成するとともに、その加熱蒸気をさらに500~800℃の間、より好ましくは650~750℃に加熱して水素ガスを含む高温の蒸気混合ガスを生成する。次いで、第2の工程として、第1の工程で発生した水素ガスを、系内に取り込んだ二次空気と混合して冷却しつつ1000~3000ppm(0.1~0.3Vol%)の濃度に希釈し、人体に取り込むのに適した温度の水素混合ガスを得ることができるようにしている。
【0085】
図6は、水素ガス発生装置10の構成例の模式説明図である。
図7は、水素ガス発生装置10の構成例を正面視によって示す図である。
図8は、水素ガス発生装置10の構成例を平面視によって示す図である。
図9は、水素ガス発生装置10の構成例を側面視によって示す図である。
図10は、空気取入部55を備える加熱パイプ31を示す正面図である。なお、
図7および9において、符号19は水素ガス発生装置10の設置面を示す。また、いずれの図においても、理解を容易にするために適宜簡略化している。
【0086】
水素混合ガス生成ユニット100は、
図6に示すように、給水部2と、蒸気加熱部3と、ガス取出部5と、冷却部6とを備える。このような構成において、給水部2から供給された原水を蒸気加熱部3により加熱して蒸気を生成するとともに、その蒸気をさらに加熱して過熱蒸気を生成し、さらなる加熱によって水素ガスを含む蒸気混合ガスを生成する。次いで、蒸気混合ガスと過熱蒸気とを含む混合流体から気液分離し、分離された蒸気混合ガスを冷却部6によって人体に吸入可能な温度まで低下させてガス取出部5から取り出し、蒸気混合ガスに含まれる水素ガスを吸入可能としている。
【0087】
より具体的には、給水部2は、
図6~9に示すように、原水500を貯留する給水タンク21と、蒸気加熱部3に供給される原水500の液面を調整する調整タンク22とを備える。給水タンク21内には、原水500の水量を検出するレベルスイッチ210が配設され、調整タンク22には、
図7および9に示すように、給水レベル計221が設けられる。
【0088】
調整タンク22には、排水バルブ222を介して排水ホース220が取付けられており、調整タンク22内の水を抜くことができる。給水タンク21と調整タンク22とを、電磁弁23を介して給水管40により連通している。電磁弁23の開閉動作は、給水レベル計221の値に応じて制御ユニット101(
図8参照)により制御される。なお、
図7および8において、符号410は、給水管40のカプラを示す。また、
図7および9において、符号219は給水レベル計221が備えるフロートを示す。
【0089】
蒸気加熱部3は、調整タンク22からの原水500が流入する加熱パイプ31と加熱装置とを備える。ここでは、加熱装置として、加熱パイプ31の略全長に亘って周りを巻回するコイルヒータ7を備える。すなわち、蒸気加熱部3は、給水部2より連通管50を介して加熱パイプ31に供給された原水500をコイルヒータ7で加熱して蒸気を発生させ、この蒸気をさらに650℃~750℃まで加熱する。なお、コイルヒータ7の周りは所定の厚みを有する断熱材32で被覆される。加熱装置としては、コイルヒータ7の他にも、電磁誘導加熱装置、いわゆるIH(Induction Heating)を用いることができる。
【0090】
加熱パイプ31に供給される原水500の量は、調整タンク22によって一定に保たれる。すなわち、
図9に示すように、調整タンク22における液面501と加熱パイプ31内の液面501は同レベルとなる。
【0091】
図9に示すように、原水500が流入する加熱パイプ31は、給水部2と連通する連通管50が接続された筒状体330の上端部に、断熱用スリーブ47を介して取付けられる。加熱パイプ31内には、水素ガスの発生を促進するための還元促進部材4(
図10参照)が収納される。還元促進部材4は、ステンレスにより形成され、両端からそれぞれ棒体が延在する筒状部43を有する第1の金属部材と、鉄鋼材により形成され、複数本束ねられた状態で筒状部43内に収納される第2の金属部材とを備える。なお、
図9において、符号331で示される空間は、加熱パイプ31と接続する筒状体330の中に形成された水溜部である。
【0092】
このような還元促進部材4を設けることによって、水素ガス発生装置10は、加熱された蒸気が効率よく還元されて水素ガスの生成効率が高まり、必要を満たす量の水素ガスを安定的に生成することができる。なお、還元促進部材4の詳細については、
図11Aおよび11Bを用いて後述する。
【0093】
図10に示すように、加熱パイプ31内の液面501よりも上部は、発生した蒸気が650℃~750℃に加熱されて過熱蒸気となる過熱領域300となっている。すなわち、加熱パイプ31の内部には、水素ガスと過熱蒸気とが混在する水素混合ガスが高温状態で存在することになる。このような水素混合ガスは、加熱パイプ31の上部に設けられた排気筒340から放熱管80へと送られる(図中の矢印700参照)。また、この工程で発生する水素ガスの濃度は、4.2%(42000ppm)である。次工程において、水素ガスの濃度を1000~3000ppmの範囲に収まるためには、この工程における水素ガスの濃度は4.2%以下とすることが望ましい。
【0094】
加熱パイプ31は、内径約30mm、全長345mmであり、内部に形成される過熱領域300は、60~80mm程度である。なお、ケーシング1の大きさに応じて、加熱パイプ31の全長は100~700mmの間で設定されることもあり、その場合、過熱領域300の範囲は20~430mm程度となる。
【0095】
このような過熱領域300を設けたことにより、後述する二次空気と混合することによって吸入するのに適した温度になるとともに、常圧下であっても、水素ガス(H2)が人体に適した濃度である1000~3000ppm(0.1~0.3Vol%)まで希釈された蒸気混合ガスを取り出し可能とすることができる。
【0096】
ガス取出部5は、
図6~9に示すように、放熱管80と、ガス送出ケース8と、ガス吸入管30とを備える。すなわち、一端が加熱パイプ31の上部に連通する放熱管80の他端にガス送出ケース8が接続され、このガス送出ケース8にガス吸入管30が導出管33を介して連通する。
【0097】
また、
図7~9に示すように、原水500が流入する加熱パイプ31の上端部には、水素ガスと過熱蒸気とが混在した高温の水素混合ガスに二次空気を取り込むための空気取入部55が設けられる。すなわち、加熱パイプ31の上端開口にキャップ体400がシール材450を介して着脱自在に取り付けられており、このキャップ体400に形成されたピンホールを空気取入部55としている。
【0098】
ピンホールの直径は、水素ガスの濃度を1000~3000ppmの範囲に収めるために系内に取り込む二次空気の量によって定められる。水素ガス発生装置10では、加熱パイプ31内において、650℃~750℃に加熱された水蒸気と還元促進部材4との酸化還元反応により発生した水素ガスの濃度は、42000ppmであり、これを1000~3000ppmの範囲に収めるためには、系内に流入させる二次空気の必要量は、0.2~1.0リットル/分であることが分かった。そのために、ピンホールの径は、5mm未満とする必要がある。その中でも、1.0~2.0mm程度に設定することが好ましい。
【0099】
また、二次空気の必要量を0.4~0.5リットル/分に設定しているため、これに合わせて、ピンホールの直径を1.2mmとしている。なお、水素ガス発生装置10において、系内に流入する二次空気の量は、実測の結果、約0.4リットル/分であった。
【0100】
このような空気取入部55を設けたことにより、
図7および9に示すように、ガス送出ケース8内に設けられた送気ファン81の作動により、加熱パイプ31内に外気が吸い込まれ放熱管80を介して蒸気混合ガスとともにガス送出ケース8へと送られ、ひいてはガス吸入管30へと送られる。
【0101】
こうして、水素ガスを含む蒸気混合ガスに、新鮮な外気が二次空気として適量取り入れられ、水素混合ガスは、1000~3000ppmの範囲の濃度に希釈されるとともに、人体に摂取可能な適切な温度まで冷却することができる。
【0102】
このように、ガス送出ケース8内における送気ファン81の一次側に送られてきた適当な濃度の水素混合ガスは、送気ファン81により、この送気ファン81の二次側に連通した導出管33を介してガス吸入管30へと送出される(
図7中の矢印f参照)。そして、この間に十分に冷却された水素混合ガスは、ガス吸入管30(カニューレ)から円滑に系外へと送り出され、このガス吸入管30(カニューレ)から使用者の鼻腔に送られ、鼻腔の粘膜から体内へ取り込まれる。
【0103】
ガス取出部5の一部を構成する放熱管80は、
図6~9に示すように、コイル状に構成して放熱しやすくしており、冷却部6の一部を構成する。すなわち、冷却部6は、ガス取出部5に含まれるとも言える。このような冷却部6は、放熱管80と、放熱管80に向けて送風できるように配設された冷却ファン62(
図9参照)とを備える。
【0104】
コイル状に形成された放熱管80は、
図7~9に示すように、蒸気加熱部3の断熱材32の周りを囲むように配設される。このような構成によれば、ケーシング1の内部空間を有効利用することができ、ケーシング1の大型化を防止することで、水素ガス発生装置10の小型化に寄与することができる。
【0105】
また、空気取入部55は、加熱パイプ31の上端に配置されている。そのため、空気取入部55はケーシング1の内部の上部に位置し、障害物などが周りに存在しないため、メンテナンス作業も容易となる。なお、空気取入部55を設ける位置は、加熱パイプ31の上端に限定するものではない。送気ファン81の上手であって、蒸気加熱部3で生成した蒸気混合ガスを吸引する流路内であればどこでも構わない。また、空気取入部55にフィルタを設け、吸引した空気から不純物などを除去し、清浄な空気によって水素ガスを希釈することもできる。
【0106】
ところで、
図7および9に示すように、送気ファン81の一次側に形成されるガス対流空間83に連通するように、ガス送出ケース8の底部には水滴排出口831が形成される。そして、この水滴排出口831にドレーンパイプ86の基端を接続し、先端を調整タンク22内に臨ませている。このように、ガス送出ケース8においては、蒸気混合ガスを円滑に送気しながら、完全に気液分離されていない蒸気をガス対流空間83で滞留させながら復水して、復水された水を調整タンク22に戻している。
【0107】
冷却ファン62は、
図9に示すように、所定角度だけ傾けて配設しており、風が放熱管80を斜め上方に横切るように送風可能としている。したがって、放熱管80に効率的に風を当てることができ、なおかつ、放熱管80から熱を奪った暖かい空気は、ケーシング1の側壁に形成された通気口132からケーシング1の外へ流出させることができる。
【0108】
次に、
図10~12を参照して、蒸気加熱部3を構成する加熱パイプ31内に収納された還元促進部材4について具体的に説明する。
図10は、上記したように、空気取入部を備える加熱パイプを示す正面図である。
図11Aは、還元促進部材4を示す正面図である。
図11Bは、還元促進部材4を示す平面図である。
図12は、
図11AにおけるA-A線断面図である。
【0109】
原水500が流入する加熱パイプ31の中に収納された還元促進部材4は、たとえば、鉄などのように酸化し易い金属、換言すれば錆び易い金属から構成される。たとえば、Li、K、Ca、Na、Mg、Al、Zn、Fe、Ni、Sn、Pb、Cu、Hgなどの陽イオンになりやすい、換言すれば酸化されやすい金属から構成される。本実施形態において、還元促進部材4には、鉄(Fe)を用いている。
【0110】
すなわち、還元促進部材4は、
図11Aに示すように、たとえば、ステンレス鋼により形成され、両端からそれぞれ棒体が延在する筒状部43を有する第1の金属部材である保持部材411と、たとえば、棒状の鉄鋼材42が複数本束ねられた第2の金属部材である鉄棒部材412とを備えている。また、
図11Aに示すように、鉄棒部材412を、保持部材411の筒状部43内に密状態に収納している。このような鉄棒部材412が実質的に還元促進の機能を担っている。鉄棒部材412は、断面円形のいわゆる丸鋼である鉄鋼材42の直径を4mmとし、材料としてはS45Cを用いている。
【0111】
このように、丸鋼である鉄鋼材42を隙間なく密に束ねることで、筒状部43の内部まで効率よく熱を伝達することができる。したがって、鉄棒部材412全体に熱が効率良く伝達され、蒸気との間での酸化還元反応を促進することができる。また、上記したように、還元促進部材4は、保持部材411と鉄棒部材412とを有するカートリッジ状に構成されているため、交換などのメンテナンスが容易である。
【0112】
ところで、保持部材411の筒状部43は、
図11Aに示すように、筒体の両端開口をキャップ材44で閉塞した構造となっている。そして、加熱パイプ31内の蒸気が内部に収納されている鉄棒部材412と十分に接触できるように、筒体の周面には複数の孔部43aが形成され、キャップ材44には対向するように一対の半円状の連通孔44aが形成されている。このような孔部43aから蒸気が筒状部43の中に入り込み、鉄棒部材412との間で酸化還元反応が生起する。
【0113】
筒状部43が有する2本の棒体のうち、
図11Aにおいて筒体の上端部に設けられたキャップ材44に一端が接続された第1の棒体41aと、筒体の下端部に設けられたキャップ材44に一端が接続された第2の棒体41bとは、長さが異なっている。すなわち、
図10に示すように、第2の棒体41bを相対的に長く形成して、筒状部43内の鉄棒部材412が、原水500に決して浸かることがなく、かつ、加熱パイプ31内の液面501よりも上部に設けられた過熱領域300に位置するようにしている。
【0114】
したがって、加熱パイプ31に供給された原水500は、コイルヒータ7により加熱されて蒸気となり、さらに、コイルヒータ7により加熱された過熱蒸気が、やはりコイルヒータ7により加熱されて酸化力が高まった還元促進部材4の鉄棒部材412に効率的に触れて還元反応が促進され、水素ガスを含む水素混合ガスが生成される。
【0115】
なお、
図9および10に示すように、保持部材411の少なくとも第2の棒体41bは、原水500に浸かることになる。よって、保持部材411としては、第2の棒体41bを含め、すべての材料をSUS304などのステンレス鋼としている。ステンレス鋼を用いることで、保持部材411が水に浸かって赤錆が発生し、原水500が赤く濁って見映えを損なってしまうことを防止することができる。
【0116】
保持部材411の筒状部43内に収納された鉄棒部材412は、高温下の加熱パイプ31内において過熱蒸気に晒されるため、活発な酸化還元反応が生起され、過熱蒸気から酸素を奪って還元するとともに、自身は酸素と反応して酸化する。このように、酸化還元反応が加熱パイプ31内で生起されるため、水素ガスの発生が促進される。
【0117】
なお、還元促進部材4は、棒状部材である鉄鋼材42が複数本束ねた中で、その中央位置に熱変形しやすいパイプ部材(図示せず)を配置した構成としてもよい。すなわち、還元促進部材4は、保持部材411の筒状部43に収納される鉄棒部材412を、鉄鋼材42と同じくS45Cを材料とするパイプ部材を中央に配置し、このパイプ部材の周りに、棒状部材である鉄鋼材42を複数本束ねた構成としてもよい。この場合、パイプ部材は、直径を4mmとした鉄鋼材42よりも大径とすることが好ましい。このような構成によれば、鉄鋼材42が膨張による変形しようとする力をパイプ部材が吸収し、鉄棒部材412としての変形をより抑えることができる。なお、鉄棒部材412の径や長さなどの寸法は、上記寸法に限定されることはなく、所望する水素混合ガスの発生量、加熱量などを勘案して、総合的に適宜決定することができる。
【0118】
また、還元促進部材4は、加熱パイプ31の上端から抜き差し自在としている。そのため、加熱パイプ31の上端開口から挿通するだけで、誰でも簡単に還元促進部材4をセットすることができる。還元促進部材4を加熱パイプ31内に収納した後は、この加熱パイプ31の上端開口を閉蓋するとよい。反対に、還元促進部材4などを交換したりするために、加熱パイプ31から取り出す場合は、開蓋して保持部材411の第1の棒体41aを摘んで簡単に抜き出すことができる。なお、
図9において、符号402はパッキンなどのシール部材を示す。
【0119】
以上、還元促進部材4について説明したが、還元促進部材4の構成は、上記形態に厳密に限定されない。たとえば、第2の金属部材を構成する各鉄鋼材42の表面に凹凸部(図示せず)を形成して表面積を増大させることができる。また、鉄鋼材42の形状は、熱伝導の効率を考慮して棒状としたが、中実の棒体には限られず、中空の管状であってもよい。また、鉄鋼材42は、棒状ではなく球状であっても構わない。
【0120】
また、上記した水素ガス発生装置10は、蒸気加熱部3が、
図8に示すように、ケーシング1の第1の側壁である右側壁14と、第2の側壁である後壁15とで形成される角部17に近接配置される。
【0121】
すなわち、断熱材32でコイルヒータ7を被覆しているものの、高温となる蒸気加熱部3を、右側壁14と後壁15とで形成される角部17の近傍に配置している。これにより、たとえば、制御ユニット101(
図7参照)を、左側壁13の近傍に配設して蒸気加熱部3から遠ざけ、熱による影響を回避することができる。さらに、ケーシング1内における左側壁13から前壁12側にかけて形成される空間に、蒸気加熱部3を除く他の水素混合ガス生成ユニット100の要素を効率的に配置して、水素ガス発生装置10をコンパクト化することが可能となる。
【0122】
また、
図8に示すように、ケーシング1の底壁16には、ケーシング1の軽量化にも寄与する複数の外気導入口161が設けられている。さらに、水素ガス発生装置10は、
図8および9に示すように、ケーシング1内に上昇気流600を強制的に発生させるファン9を、底壁16に形成した外気導入口161に臨設している。ここでは、ファン9を、その一部が平面視で蒸気加熱部3と重なるように配置している。すなわち、複数の外気導入口161のうち、蒸気加熱部3の近傍に設けられた外気導入口161にファン9を臨設し、一部が平面視で蒸気加熱部3と重なるように位置させている。このような構成とすることによって、外気を、蒸気加熱部3の周面に沿って上昇させ、空冷効果を高めるようにしている。
【0123】
このような構成により、
図9に示すように、ファン9によって外気導入口161から引き込まれた空気は上昇気流600となって、蒸気加熱部3の外表面、すなわち断熱材32の表面に沿って上昇しながら熱を奪っていくことになる。
【0124】
なお、ケーシング1の内部には、
図7に示すように、温度監視センサ102を設けており、ファン9の駆動については、制御ユニット101により、温度監視センサ102の検出結果に応じて制御することもできる。
【0125】
また、
図9に示すように、後壁15に、蒸気加熱部3からの輻射熱を受ける受熱板151を設けることにより、受熱板151と後壁15の内面との間に、上昇気流600を通過させて受熱板151を空冷する昇風路152を形成している。なお、水素ガス発生装置10では、受熱板151および昇風路152は、右側壁14にも設けている(
図8参照)。
【0126】
このように、高温となる蒸気加熱部3を、四角形の底壁16の隅部の一つに配置し、2つの側壁(右側壁14および後壁15)に近接させることにより、積極的に熱をケーシング1側に伝達している。したがって、蒸気加熱部3については、上昇気流600による空冷と相俟って、冷却効果をより高めることができる。
【0127】
また、蒸気加熱部3の外表面に沿って流れる上昇気流600も、昇風路152を通過する上昇気流600も、側壁の上部位置に設けられた通気口132から外部へ円滑に流出するため、ケーシング1内は、常温の外部空気が常時流入することになる。
【0128】
このような構成により、給水タンク21から蒸気加熱部3の加熱パイプ31に供給された原水500は、コイルヒータ7により加熱され、沸騰して蒸気となる。そして、蒸気がコイルヒータ7によりさらに加熱されて過熱蒸気となり、さらに、大気圧下で温度が600℃~700℃に達すると、低濃度ではあるが、酸素と分離した水素ガスが含まれる蒸気混合ガスが生成される。
【0129】
こうして、水素ガスを含む蒸気混合ガスを、ガス吸入管30(カニューレ)を介して人体に供給することができる(
図5参照)。水素ガス発生装置10を用いる場合、水素ガスのみならず酸素ガスも人体(ヒト)に取り込まれるが、蒸気混合ガスに含まれる水素ガスの濃度は、4.2Vol%未満である。このような濃度とすることで、後述する空気取入部55により取り入れる空気と混合したときに、水素ガスを、たとえば、0.1~0.3Vol%の好ましい範囲の濃度にしやすい。また、蒸気混合ガスは、冷却部6によって、十分に冷却されているため(たとえば、20~25℃程度)、容易かつ安全に吸入することができる。
【0130】
水素ガス発生装置10では、空気取入部55によって、ガス取出部5から取り出された蒸気混合ガスに含まれる水素ガスの濃度を、4.2Vol%未満とし、さらに、ガス取出部5に外気を取り込み水素ガスを希釈している。このように、空気取入部55から空気を取り込んで水素ガスを希釈し、人体に取入れられる水素ガスの濃度を0.1~0.3Vol%としている。
【0131】
また、水素ガス発生装置10では、過熱蒸気を600℃~750℃まで加熱して、水素ガス(H2)が1.2~2.3%程度含まれる蒸気混合ガスを生成するようにしているため、所望する濃度で水素ガスを人体に取り入れることができる。
【0132】
上述してきた実施形態により、以下の水素含有組成物が実現される。
【0133】
(1)所定の濃度の水素ガスを含有する水素含有組成物であって、ヒトの吸入によってヒトへ投与され、新型コロナウイルス感染症の後遺症を改善する、水素含有組成物。
【0134】
このような水素含有組成物によれば、新型コロナウイルス感染症の後遺症(症状)を改善することができる。
【0135】
(2)上記(1)において、新型コロナウイルス感染症の後遺症の改善が、ヒトの血管の強化および/またはヒトの主に呼吸器系気道の体内酸素濃度の上昇を含む、水素含有組成物。
【0136】
このような水素含有組成物によれば、上記(1)の効果に加えて、新型コロナウイルス感染症の後遺症の代表的な症状の一つである血管の劣化を改善することができる。また、新型コロナウイルス感染症の後遺症の代表的な症状の一つである呼吸器系気道の体内酸素濃度の低下を改善することができる。
【0137】
(3)上記(1)または(2)において、前記水素含有組成物は、蒸気混合ガス(活性型水素:AFH)(記号:H(H2O)m)である。
【0138】
このような水素含有組成物によれば、上記(1)または(2)の効果と同様、新型コロナウイルス感染症の後遺症(症状)を改善することができる。すなわち、新型コロナウイルス感染症の後遺症の代表的な症状の一つである血管の劣化を改善することができる。また、新型コロナウイルス感染症の後遺症の代表的な症状の一つである呼吸器系気道の体内酸素濃度の低下を改善することができる。
【0139】
(4)上記(1)~(3)のいずれかにおいて、水素ガスの濃度が、0.1~0.3Vol%である、水素含有組成物。
【0140】
このような水素含有組成物によれば、上記(1)または(2)の効果に加えて、水素ガスの濃度が0.1~0.3Vol%であることで血管内皮細胞に好影響を与えて、ヒトの血管の強化や呼吸器系気道の体内酸素濃度の上昇などの効果を得ることができ、これにより、新型コロナウイルス感染症の後遺症を改善することができる。
【0141】
(5)上記(1)~(4)のいずれかにおいて、原水を加熱して発生させた過熱蒸気をさらに過熱して水素ガスを含む蒸気混合ガスを生成し、蒸気混合ガスおよび過熱蒸気を含む混合流体から気液分離して蒸気混合ガスを取り出す水素ガス発生装置10によって生成される、水素含有組成物。
【0142】
このような水素含有組成物によれば、上記(1)~(3)のいずれかの効果に加えて、適切な濃度(好ましくは、0.1~0.3Vol%)の水素ガスを含有するように生成された水素含有組成物となる。
【0143】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0144】
1 ケーシング
2 給水部
3 蒸気加熱部
4 還元促進部材
5 ガス取出部
6 冷却部
7 コイルヒータ
8 ガス送出ケース
9 ファン
10 水素ガス発生装置
11 天井壁
12 周壁(前壁)
13 周壁(左側壁)
14 周壁(右側壁)
15 周壁(後壁)
16 底壁
17 角部
20 キャスタ
21 給水タンク
22 調整タンク
23 電磁弁
30 ガス吸入管
31 加熱パイプ
32 断熱材
33 導出管
40 給水管
41a 第1の棒体
41b 第2の棒体
42 鉄鋼材
43 筒状部
43a 孔部
44 キャップ材
44a 連通孔
47 断熱用スリーブ
50 連通管
55 空気取入部
62 冷却ファン
80 放熱管
81 送気ファン
83 ガス対流空間
86 ドレーンパイプ
100 水素混合ガス生成ユニット
101 制御ユニット
102 温度監視センサ
110 上部点検口
111 蓋体
112 電源スイッチ
113 タッチパネル
120 前部点検口
121 前面扉
130 側部点検口
131 蓋体
132 通気口
133 接続部
151 受熱板
152 昇風路
161 外気導入口
220 排水ホース
222 排水バルブ
300 過熱領域
330 筒状体
340 排気筒
400 キャップ体
411 保持部材
412 鉄棒部材
450 シール材
500 原水
501 液面
600 上昇気流
831 水滴排出口