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特開2023-120982血液量推定装置、血液量推定方法、血液量推定プログラム
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  • 特開-血液量推定装置、血液量推定方法、血液量推定プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120982
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】血液量推定装置、血液量推定方法、血液量推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/49 20060101AFI20230823BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20230823BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
G01N33/49 K
G01N33/48 S
G01N1/10 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024151
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】509152079
【氏名又は名称】株式会社ヘルスケアシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 直輝
(72)【発明者】
【氏名】林 雅大
(72)【発明者】
【氏名】木村 奈穂子
(72)【発明者】
【氏名】山岸(西脇) 奈菜子
【テーマコード(参考)】
2G045
2G052
【Fターム(参考)】
2G045BB31
2G045BB48
2G045CA25
2G045FA19
2G045GC13
2G045HA06
2G052AA30
2G052BA22
2G052GA11
2G052HA02
2G052HC45
(57)【要約】      (修正有)
【課題】種々の要因を加味してより正確に血液量を推定することができる血液量推定装置、血液量推定方法、血液量推定プログラムを提供すること。
【解決手段】濾紙Fに血液Bが滴下された濾紙血の濾紙血画像Iを取得する画像取得部11と、濾紙血画像Iから当該画像に写る血液の血液量を推定することを学習した学習済モデルにより、画像取得部11にて取得した濾紙血画像Iに写る血液Bの血液量を推定する血液量推定部13と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に血液が滴下された血液検体の画像データを取得する画像取得部と、
血液検体の画像データから当該血液検体の血液量を推定することを学習した学習済モデルにより、前記画像取得部にて取得した前記血液検体の画像データに応じた血液量を推定する血液量推定部と、
を備える血液量推定装置。
【請求項2】
前記画像取得部は、血液検体の表面及び裏面それぞれの画像データを取得し、
前記血液量推定部は、血液検体の表面及び裏面それぞれの画像データから当該血液検体の血液量を推定することを学習した学習済モデルにより、前記画像取得部にて取得した前記血液検体の表面及び裏面それぞれの画像データに応じた血液量を推定する、
請求項1に記載の血液量推定装置。
【請求項3】
さらに、前記画像取得部にて取得した前記血液検体の画像データをHSV形式に変換し、HSV形式の属性パラメータを含む画像データを生成する画像処理部を備え、
前記血液量推定部は、血液検体のHSV形式の属性パラメータを含む画像データから当該血液検体の血液量を推定することを学習した学習済モデルにより、前記画像取得部にて取得した前記血液検体の画像データから前記画像処理部により生成されたHSV形式の属性パラメータを含む画像データに応じた血液量を推定する血液量推定部と、
請求項1又は2に記載の血液量推定装置。
【請求項4】
前記画像処理部は、前記HSV形式の属性パラメータを含む画像データとして、H値、S値、V値の属性パラメータのうち少なくともいずれか1つを所定の値に調整した画像データを生成する請求項3に記載の血液量推定装置。
【請求項5】
前記画像処理部は、前記HSV形式の属性パラメータを含む画像データとして、H値、S値、V値の属性パラメータのうち少なくともいずれか1つを、第1の値に調整した画像データと、前記第1の値と異なる第2の値に調整した画像データと、を生成する請求項3に記載の血液量推定装置。
【請求項6】
コンピュータが、
基材に血液が滴下された血液検体の画像データを取得する画像取得ステップと、
血液検体の画像データから当該血液検体の血液量を推定することを学習した学習済モデルにより、前記画像取得ステップにて取得した前記血液検体の画像データに応じた血液量を推定する血液量推定ステップと、
を実行する血液量推定方法。
【請求項7】
基材に血液が滴下された血液検体の画像データを取得する画像取得ステップと、
血液検体の画像データから当該血液検体の血液量を推定することを学習した学習済モデルにより、前記画像取得ステップにて取得した前記血液検体の画像データに応じた血液量を推定する血液量推定ステップと、
をコンピュータに実行させるための血液量推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、濾紙等の基材に滴下された血液の量を推定する血液量推定装置、血液量推定方法、血液量推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
疾患のスクリーニングや診断を行うため、濾紙に血液を滴下して乾燥させた検体を用いる手法がある。濾紙血は、試料としての安定性が高く、飛散の可能性がなく、保管や輸送の点で有用である。例えば、被検者が検査キットを用いて自ら採血した濾紙血を、検査業者に郵送して検査結果を得る、いわゆる郵送検査サービスも行われている。
【0003】
一方で、濾紙に滴下される血液の量は一定ではなく、濾紙血から血液量を正確に測定するのは困難である。そこで、濾紙血(血液サンプル)を撮影した画像から、血液サンプルの被覆率又は被覆面積の近似値を検量線と比較して、濾紙血の容積を推定する方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2018-514756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、血液は、被検者の体質や体調、採血のやり方によって血液の性質(例えば被検者からの血の出方、血液の粘度、血液の色等)が異なり、そのような血液の性質に応じて濾紙上の血液の拡がり方や染み込み度合いは変化する。また、画像の撮影環境によっても濾紙上の血液の見え方は変化する。このような種々の要因から濾紙血を撮影した画像における血液サンプルの被覆率又は被覆面積と血液量は必ずしも相関しないという問題がある。従って、これら種々の要因も加味して、より正確に血液量を推定できる手法が望まれている。
【0006】
そこで本発明の目的とするところは、種々の要因を加味してより正確に血液量を推定することができる血液量推定装置、血液量推定方法、血液量推定プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本開示に係る血液量推定装置は、基材に血液が滴下された血液検体の画像データを取得する画像取得部と、血液検体の画像データから当該血液検体の血液量を推定することを学習した学習済モデルにより、前記画像取得部にて取得した前記血液検体の画像データに応じた血液量を推定する血液量推定部と、を備える。
【0008】
また、上記した目的を達成するために、本開示に係る血液量推定方法は、コンピュータが、基材に血液が滴下された血液検体の画像データを取得する画像取得ステップと、血液検体の画像データから当該血液検体の血液量を推定することを学習した学習済モデルにより、前記画像取得ステップにて取得した前記血液検体の画像データに応じた血液量を推定する血液量推定ステップと、を実行する。
【0009】
また、上記した目的を達成するために、本開示に係る血液量推定プログラムは、基材に血液が滴下された血液検体の画像データを取得する画像取得ステップと、血液検体の画像データから当該血液検体の血液量を推定することを学習した学習済モデルにより、前記画像取得ステップにて取得した前記血液検体の画像データに応じた血液量を推定する血液量推定ステップと、をコンピュータに実行させるための血液量推定プログラムである。
【発明の効果】
【0010】
上記手段を用いる本開示の装置、方法、及びプログラムによれば、種々の要因を加味してより正確に血液量を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る血液量推定システムの概略構成図である。
図2】血液量推定装置により実行される血液量推定処理の流れを示したフローチャートである。
図3】画像処理部により実行される画像処理の流れを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づき説明する。図1は本発明の一実施形態に係る血液量推定システムの概略構成図であり、同図に基づき本実施形態の構成について説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係る血液量推定システム1は、撮影装置2、血液量推定装置3と、を有している。血液量推定システム1は、撮影装置2により濾紙血を撮影した濾紙血画像から、血液量推定装置3が当該画像に写る血液の量(以下、血液量という)を推定するシステムである。本実施形態において、濾紙血とは、例えば被検者の血液を基材である濾紙に滴下して乾燥させた血液検体である。被検者からの採血は、医療従事者が行っても、被検者が検査キットを用いて自ら行ってもよい。濾紙血は、血液量推定装置3を管理する検査業者に、例えば郵送により送られてくる。
【0014】
撮影装置2は、濾紙血の画像を撮影可能な機器であり、例えばカメラ又はスキャナ等の光学機器や、光学機器が搭載されたパーソナルコンピュータ(以下、PCという)や、スマートフォン、タブレットPC、及び携帯電話のような情報端末である。撮影装置2は、有線、無線、又はインターネット、VPN(Virtual Private Network)等の通信網を介して、相互に通信可能に血液量推定装置3と接続されている。
【0015】
本実施形態の撮影装置2は、図1に例を示すように、濾紙血画像Iとして、濾紙Fの表面の濾紙表面画像Ia及び濾紙Fの裏面の濾紙裏面画像Ibを撮影する。なお、血液Bが滴下される面が濾紙Fの表面であり、表面から染み込んだ血液が裏面に現れる。
【0016】
撮影装置2は撮影した濾紙表面画像Ia及び濾紙裏面画像Ibを濾紙血画像Iの画像データとして血液量推定装置3に出力可能である。本実施形態の撮影装置2により撮影された濾紙表面画像Ia及び濾紙裏面画像Ibの色設定は例えばRGB形式であるものとして説明するが、濾紙血画像の色設定はこれに限られるものではない。なお、画像データとは、画像そのものに加えて、各種パラメータ等の情報を含むデータである。また、撮影装置2から血液量推定装置3への画像データの出力手段は、有線又は無線による通信であってもよいし、インターネット等の通信網を介した通信であってもよい。
【0017】
血液量推定装置3は、プログラムに基づき濾紙血画像Iから血液量の推定処理を実行する1又は複数のコンピュータを有してたPCやサーバである。なお血液量推定装置3は、スマートフォン、タブレットPC、及び携帯電話のような情報端末であってもよい。血液量推定装置3は、機能として、画像取得部11、画像処理部12、血液量推定部13、表示部14を有している。また血液量推定装置3は、濾紙血データベース15(以下、データベースを「DB」と記す)、学習部16を有している。
【0018】
画像取得部11は、撮影装置2から出力された濾紙血画像Iの画像データを取得する機能を有している。具体的には画像取得部11は濾紙血画像Iの画像データとして濾紙表面画像Iaと濾紙裏面画像Ibのそれぞれの画像データを取得する。
【0019】
画像処理部12は、画像取得部11にて取得された濾紙表面画像Iaと濾紙裏面画像Ibの画像データに対して、種々の画像処理を行う機能を有する。具体的には、画像処理部12は、濾紙表面画像Iaと濾紙裏面画像Ibのホワイトバランスの調整処理、所定範囲に切り取るクロップ処理、HSV形式に変換する形式変換処理、画像解析処理、等の画像処理を行う。
【0020】
ホワイトバランスの調整処理は、撮影装置2における撮影環境による色のバラツキを抑制し画像の色を揃えるため、所定のホワイトバランス調整を行う。画像処理部12は、撮影現場における外部環境の違い、例えば照明器具の光の色(昼光色、昼白光、白色、温白色、電球色)や環境光(日差しの差し込み等)に応じたホワイトバランス調整を行う。外部環境の判別は、検査業者の担当者が手動で行ってもよいし、画像データから自動に判別してもよい。
【0021】
クロップ処理は、図1にて濾紙表面画像Ia内及び濾紙裏面画像Ib内の点線で示すように、血液Bが含まれる長方形の所定のクロップ範囲Cに画像を切り取る処理を行う。クロップ範囲Cは所定の面積に設定されており、画像処理部12は画像の解像度と当該所定の面積に基づいて、画素数に応じた面積を算出可能である。またクロップ処理を行わない場合には、事前設定のエリア設定による画像抽出を行ってもよい。
【0022】
形式変換処理は、撮影装置2により撮影された濾紙表面画像Iaと濾紙裏面画像Ibの画像データに対して、所定の変換演算を行うことでHSV形式に変換して、H値(色相)、S値(彩度)、V値(明度)の属性パラメータを有する画像データとする。さらに、画像処理部12は、形式変換処理として、HSV形式に変換した濾紙表面画像Iaと濾紙裏面画像Ibに対して、HSVレンジを調整した4つの画像データを生成する。具体的には、画像処理部12は、H値、S値、V値の3つの要素を用いて4つに分割し、第1HSVレンジに調整した濾紙表面の第1HSV画像データIa1及び濾紙裏面の第1HSV画像データIb1、第2HSVレンジに調整した濾紙表面の第2HSV画像データIa2及び濾紙裏面の第2HSV画像データIb2、第3HSVレンジに調整した濾紙表面の第3HSV画像データIa3及び濾紙裏面の第3HSV画像データIb3、第4HSVレンジに調整した濾紙表面の第4画像データIa4及び濾紙裏面の第4HSV画像データIb4を生成する。
【0023】
今回の実施にあたり、H値・S値・V値、それぞれをキーとした学習モデルや、各組み合わせの学習モデル作成による検証を行ったが、最も学習効果が高かったのはS値を軸としたものであった。これは、血液は赤色であるが、その見え方(画像の写り方)は、被検者の体質や体調、採血の方法、血液の性質(例えば被検者からの血の出方、血液の粘度、血液の色等)等によって異なる。特に濾紙血の血液Bは、被検者によって鮮やかな赤色であったり、くすんだ赤色であったり、主にS値(彩度)に変化をもたらす。そのため、本実施形態では血液画像全体からS値の平均・標準偏差を計算し学習用データとしている。S値の変化で個体差を吸収することで、H値・V値はある程度類似傾向をとり、結果としてH値・V値を学習用パラメータとして分けることなく学習用データとして活用することができている。本実施形態はパラメータの一例ではあるが、血液においてHSV変換は効果的であり、S値による個体差を取り除き学習することで効果を発揮した。また基材の染み込みによる血液推定をするにあたり、表・裏の画像より推定することによって主に血液の粘度の状態が反映されることからも有効であるといえる。
【0024】
また、画像処理部12は、画像解析処理として、HSV変換した濾紙表面画像Ia及び濾紙裏面画像Ibの画像データ、及びさらにHSVレンジを調整した画像データに対して、それぞれ2値化処理して血液に相当する範囲の画素数の算出が可能である。また、画像処理部12は、HSV変換した濾紙表面画像Ia内及び濾紙裏面画像Ibの画像データのS値の平均値や標準偏差の算出が可能である。つまり、画像処理部12は、濾紙表面画像Ia及び濾紙裏面画像Ibのそれぞれについて、
(1)HSV変換した画像データの2値化後の血液範囲の画素数P、
(2)HSV変換した画像データの血液範囲におけるS値の平均値Save、
(3)HSV変換した画像データの血液範囲におけるS値の標準偏差Sσ、
(4)第1HSVレンジに該当する画像データにおける2値化後の血液範囲の画素数P1、
(5)第2HSVレンジに該当する画像データにおける2値化後の血液範囲の画素数P2、
(6)第3HSVレンジに該当する画像データにおける2値化後の血液範囲の画素数P3、
(7)第4HSVレンジに該当する画像データにおける2値化後の血液範囲の画素数P4、
を算出する。
【0025】
このように、画像処理部12は濾紙表面画像Ia及び濾紙裏面画像Ibに加えて、濾紙表面裏面それぞれの上記(1)~(7)のHSV形式の属性パラメータを含む画像データを生成して、血液量推定部13及び濾紙血DB15に出力可能である。なお、当該画像データにおける濾紙表面画像Ia及び濾紙裏面画像Ibはホワイトバランス調整及びクロップ処理が施された画像である。
【0026】
血液量推定部13は、濾紙血画像の画像データから当該濾紙血画像に写る血液の血液量を推定することを学習した学習済モデルにより、画像取得部11にて取得した濾紙血画像Iに写る血液Bの血液量を推定する機能を有する。具体的には、血液量推定部13は、画像処理部12により生成された画像処理後のHSV形式の属性パラメータを含む画像データに対して、学習済みモデルを用いて濾紙血画像Iに写る血液Bの血液量を推定する。学習済みモデルは後述する学習部16にて予め生成される。学習済みモデルは、濾紙表面画像と濾紙裏面画像の濾紙血画像から、当該濾紙血画像に写る血液の血液量を推定することを学習している。さらに学習済みモデルは、画像処理部12により濾紙血画像をHSV形式に変換し、HSV形式の属性パラメータを含む画像データから、当該濾紙血画像に写る血液量を推定することを学習している。
【0027】
血液量推定部13にて推定された濾紙血画像Iに写る血液Bの血液量は表示部14に出力される。また濾紙血画像Iに写る血液Bの血液量の情報は、濾紙血DB15に記憶されてもよいし、外部の装置に送信されてもよい。
【0028】
なお、血液量推定部13は、推定した血液量が、検査に必要な所定の血液量(閾値)以上であるか否かの判定処理を行ってもよい。この場合、血液量推定部13は、推定した血液量が所定の血液量未満である場合は、血液量が不足している旨のアラート情報を生成してもよい。
【0029】
表示部14は、血液量推定部13により推定された血液量を出力表示する機能を有する。表示部14は、例えば血液量推定装置3に接続されたディスプレイやプリンタである。また、表示部14は血液量推定部13において生成されたアラート情報を受けて、アラート表示を行ってもよい。
【0030】
濾紙血DB15は、画像取得部11にて取得された濾紙表面画像Iaと濾紙裏面画像Ibを含む濾紙血画像I、画像処理部12にて画像処理されたHSV形式の属性パラメータを含む画像データ、学習部16にて学習済みモデルを生成するための学習用データを記憶する機能を有する。
【0031】
濾紙血DB15に記憶される学習用データとしては、学習用の濾紙表面画像と濾紙裏面画像を含む濾紙血画像及び当該濾紙血画像をHSV形式に変換してHSV形式の属性パラメータを含む画像データ、及び当該濾紙血画像に写る血液の実際の血液量がそれぞれ紐づけられて複数記憶されている。なお、学習用データとしてのHSV形式の属性パラメータを含む画像データは、学習用の濾紙血画像に対して画像処理部12による画像処理と同様の処理が施され、濾紙表面裏面それぞれの上記(1)~(7)の情報が含まれている。
【0032】
学習部16は、濾紙血DB15に記憶された各濾紙血画像に応じた上記(1)~(7)の情報を説明変数とし、各濾紙血画像に応じた血液量を目的変数とした学習用データ(教師データ)を用いて、機械学習(例えばディープラーニング)を行い、血液量推定部13にて使用する学習済みモデルを生成する。なお、学習部16では、画像取得部11にて濾紙血画像Iを取得するよりも前に学習済モデルの生成が行われている。
【0033】
このように構成された血液量推定装置3では、撮影装置2にて撮影された濾紙血画像Iを取得するごとに、当該濾紙血画像Iに写る血液Bの血液量を推定し、表示部14に表示する。
【0034】
ここで図2図3を参照すると、図2には血液量推定装置3により実行される血液量推定処理の流れを示したフローチャートが示され、図3には画像処理部12により実行される画像処理の流れを示したフローチャートが示されている。以下これらのフローチャートに沿って、本実施形態に係る血液量推定方法について詳しく説明する。
【0035】
まず、血液量推定装置3は、図2のステップS1として、画像取得部11により、撮影装置2にて撮影された濾紙表面画像Iaと濾紙裏面画像Ibの画像データを含む濾紙血画像Iの画像データを取得する(画像取得ステップ)。
【0036】
ステップS2において、画像処理部12が、画像取得部11にて取得した濾紙血画像Iに対して、図3で示す画像処理を行う。
【0037】
ステップS3において、血液量推定部13が、画像処理部12にて画像処理された濾紙血画像Iに対して学習済みモデルを用いて当該濾紙血画像Iに写る血液Bの血液量を推定する(血液量推定ステップ)。なお、血液量推定部13は、推定された血液量が所定の血液量未満である場合はアラート情報を生成する。
【0038】
ステップS4において、表示部14が、血液量推定部13において推定された血液量を表示する。なお、表示部14はアラート情報を取得した場合は、血液量の表示と共にアラート情報を表示する。
【0039】
血液量推定装置3は、撮影装置2により濾紙血画像Iが撮影されるごとにステップS1~S4の処理を実行する。
【0040】
次にステップS2で実行される画像処理について、図3のフローチャートに沿って説明する。
【0041】
まず、画像処理部12は、図3のステップS11において、画像取得部11にて取得した濾紙血画像I(濾紙表面画像Ia及び濾紙裏面画像Ib)の画像データに対して所定のホワイトバランス調整を行い、濾紙血画像Iの色を他の濾紙血画像と揃える。
【0042】
ステップS12において、画像処理部12は、ホワイトバランス調整後の濾紙血画像I(濾紙表面画像Ia及び濾紙裏面画像Ib)の画像データに対して、血液Bが含まれる所定のクロップ範囲Cに切り取る処理(クロップ処理)を行う。
【0043】
ステップS13において、画像処理部12は、クロップ処理後の濾紙血画像I(濾紙表面画像Ia及び濾紙裏面画像Ib)の画像データに対して、HSV形式に変換処理を行う。
【0044】
ステップS14において、画像処理部12は、HSV形式変換された濾紙血画像I(濾紙表面画像Ia及び濾紙裏面画像Ib)の画像データに対してH値(色相)、S値(彩度)、V値(明度)の属性パラメータを第1HSVレンジから第4HSVレンジに該当する4つの画像データを生成する。
【0045】
ステップS15において、画像処理部12は、HSV変換した濾紙表面画像Ia及び濾紙裏面画像Ibの画像データ、及びさらにHSVレンジを調整した画像データに対して、それぞれ2値化処理して血液に相当する範囲の画素数を算出する画像解析処理を行う。且つ画像処理部12は、HSV変換した濾紙表面画像Ia内及び濾紙裏面画像Ibの画像データの血液に相当する範囲のS値の平均値や標準偏差の算出する画像解析処理を行う。
【0046】
ステップS15において、画像処理部12は、濾紙表面画像Ia内及び濾紙裏面画像Ibに加えて、画像解析処理を行った属性パラメータ(上記(1)~(7)のHSV形式の属性パラメータ)を含む画像データを、血液量推定部13に出力し、当該画像処理ルーチンを終了する。
【0047】
このように、血液量推定装置3は、濾紙血画像から当該濾紙血画像に写る血液の血液量を推定することを学習した学習済みモデルにより、画像取得部11により取得した濾紙血画像Iに写る血液Bの血液量を推定している。学習済みモデルを用いることで、濾紙上の血液の拡がり方や染み込み度合い等を含んだ形で血液量が推定される。これにより、種々の要因を加味してより正確に血液量を推定することができる。
【0048】
特に、学習済みモデルは、濾紙表面画像及び濾紙裏面画像のそれぞれの画像データから当該濾紙血画像に写る血液Bの血液量を推定することを学習していることで、濾紙Fの裏面までの染み込み度合いも含めた血液量の推定が可能となる。これにより、より精度の高い血液量の推定を実現することができる。
【0049】
また、学習済みモデルは画像処理部12によりHSV形式に変換され、HSV形式の属性パラメータを含めた画像データから濾紙血画像に写る血液の血液量を推定することを学習している。赤色である血液の範囲を推定するには、特に血液の性質に相関するS値(彩度)を含むHSV形式による色の表現が有効であることから、このようにHSV形式の属性パラメータを含めた画像データに基づく学習を行うことで、より精度の高い血液量の推定を実現することができる。
【0050】
また、本実施形態の画像処理部12は、HSV形式の属性パラメータを含む画像データとして、H値、S値、V値の属性パラメータを所定の値に調整した画像データを生成し、学習済みモデルはこのような画像データを含めた学習を行っている。つまり、濾紙血の血液の範囲が明瞭になるH値、S値、V値の属性パラメータに調整した画像データに基づく学習を行うことで、より精度の高い血液量の推定を実現することができる。
【0051】
さらに、本実施形態の画像処理部12は、HSV形式の属性パラメータを含む画像データとして、H値、S値、V値の属性パラメータの少なくともS値がそれぞれ異なる第1HSVレンジから第4HSVレンジの4つ画像データを生成し、学習済みモデルはこのような画像データを含めた学習を行っている。このように複数のHSVレンジの画像データを含めた学習を行うことで、様々な血液の性質に対応したより高精度な血液量の推定を実現することができる。
【0052】
以上で本発明の実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。
【0053】
例えば、上記実施形態では、撮影装置2と血液量推定装置3とが別体として相互に通信可能に接続されているが、血液量推定装置の画像取得部として撮影装置を一体に備えていてもよい。また、血液量推定装置が撮影装置にて撮影した画像データを取得する手段は、通信網による接続に限定されず、撮影装置にて撮影した画像データを保存した着脱可能な記憶媒体、例えばSDカード、USBメモリ等を介してもよい。また、撮影装置2は検査業者の管理下にあるものに限られず、例えば被検者が所有する撮影装置により撮影された濾紙血画像がeメール等の連絡手段により血液量推定装置に送られてもよい。
【0054】
また、上記実施形態において画像処理部12は、HSV形式に変換した濾紙表面画像Iaと濾紙裏面画像Ibに対して、HSVレンジを調整した4つの画像データを生成しているが、HSVレンジを調整する画像データの種類は4つに限られるものでない。例えば、HSVレンジを調整する画像データは1つであってもよいし、複数であってもよい。ただし、HSVレンジを調整する画像データの種類は、多いほど血液量の推定精度も向上するが、学習用データの種類も増え学習負荷が増加することになることから、HSVレンジを調整する画像データの種類は4つ程度が適している。
【0055】
また、本実施形態では、濾紙に血液を滴下させた濾紙血を検体としているが、基材はろ紙に限られず他の基材であってもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 :血液量推定システム
2 :撮影装置
3 :血液量推定装置
11 :画像取得部
12 :画像処理部
13 :血液量推定部
14 :表示部
15 :濾紙血データベース
16 :学習部
図1
図2
図3