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  • 特開-脱落防止具 図1
  • 特開-脱落防止具 図2
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  • 特開-脱落防止具 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120993
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】脱落防止具
(51)【国際特許分類】
   F16B 39/20 20060101AFI20230823BHJP
   F16B 41/00 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
F16B39/20 A
F16B41/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024172
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】317019029
【氏名又は名称】株式会社東京衡機エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 康之
(57)【要約】
【課題】新規な脱落防止具を提供すること。
【解決手段】1本のコイル素線から構成されてなり、
コイルバネ部と、
前記コイルバネ部の両端から、外方に伸びる第1及び第2の延伸部と、
前記第1及び第2の延伸部の他端から、軸方向に伸びる第1及び第2のつまみ部と、を有し、
少なくとも装着時にナット側に位置する延伸部とつまみ部とを接続する屈曲部分の曲率半径が、前記コイル素線の外径の90%以上である脱落防止具。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本のコイル素線から構成されてなり、
コイルバネ部と、
前記コイルバネ部の両端から、外方に伸びる第1及び第2の延伸部と、
前記第1及び第2の延伸部の他端から、軸方向に伸びる第1及び第2のつまみ部と、を有し、
少なくとも装着時にナット側に位置する延伸部とつまみ部とを接続する屈曲部分の曲率半径が、前記コイル素線の外径の90%以上であることを特徴とする脱落防止具。
【請求項2】
前記コイルバネ部が、n+0.1巻以上n+0.4巻以下(nは1~3の整数)に巻回されていることを特徴とする請求項1に記載の脱落防止具。
【請求項3】
前記第1のつまみ部と前記第2のつまみ部との距離が、1cm以上2cm以下であることを特徴とする請求項2に記載の脱落防止具。
【請求項4】
前記コイルバネ部の中心から、前記第1及び第2の延伸部の他端までの距離が、装着するボルトに対応する六角ナット(JIS B1181:2014に準拠)の二面幅の90%以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の脱落防止具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトからナット等の被固定物が脱落することを防止する脱落防止具に関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物等を構成する二つの部材を固定するための方法として、ボルトとナットにより締結する方法が用いられている。ボルトとナットにより締結する方法は、溶接等の他の方法と比較して施工が容易であるため、広範に採用されている。ボルトとナットを用いて締結する方法では、締結したナットが振動等を受けて緩む場合があり、締結が外れると重量物の落下等の大事故に繋がる可能性があるため、ナットの緩みを防止する脱落防止具が提案されている。
本出願人は、これまで、様々な脱落防止具を提案している(特許文献1~3等)。これらの脱落防止具は、非常に堅固にナット等の緩みを防止することができるが、構成が複雑で高コストであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許2015-224771号公報
【特許文献1】特開2016-156482号公報
【特許文献1】特開2017-190793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
新規な脱落防止具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の課題を解決するための手段は、以下の通りである。
1.1本のコイル素線から構成されてなり、
コイルバネ部と、
前記コイルバネ部の両端から、外方に伸びる第1及び第2の延伸部と、
前記第1及び第2の延伸部の他端から、軸方向に伸びる第1及び第2のつまみ部と、を有し、
少なくとも装着時にナット側に位置する延伸部とつまみ部とを接続する屈曲部分の曲率半径が、前記コイル素線の外径の90%以上であることを特徴とする脱落防止具。
2.前記コイルバネ部が、n+0.1巻以上n+0.4巻以下(nは1~3の整数)に巻回されていることを特徴とする1.に記載の脱落防止具。
3.前記第1のつまみ部と前記第2のつまみ部との距離が、1cm以上2cm以下であることを特徴とする2.に記載の脱落防止具。
4.前記コイルバネ部の中心から、前記第1及び第2の延伸部の他端までの距離が、装着するボルトに対応する六角ナット(JIS B1181:2014に準拠)の二面幅の90%以上であることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載の脱落防止具。
【発明の効果】
【0006】
本発明の脱落防止具は、構成が非常に簡便であり、従来のものと比較して低コストである。本発明の脱落防止具は、長期に亘って性能を発揮し、ナット等の脱落を防止することができる。
コイルバネ部がn+0.1巻以上n+0.4巻以下(nは1~3の整数)に巻回されている本発明の脱落防止具は、脱落防止具同士が絡みにくいため、装着作業時等の煩わしさを低減することができる。さらに、つまみ部を挟むことでコイルバネ部の径を拡げることができ、拡げたコイルバネ部をボルトに通すことができるため、装脱着が容易である。
第1のつまみ部と第2のつまみ部との間の距離が1cm以上2cm以下である本発明の脱落防止具は、一般的なペンチ等でつまみ部を挟むことができるため、装脱着に特殊な治具が不要であり、また、作業の際に大きな力が不要である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施態様である脱落防止具の斜視図。
図2】本発明の一実施態様である脱落防止具の(a)平面図、(b)正面図、(c)A-A’断面図。
図3】本発明の一実施態様である脱落防止具の装着時の模式図。
図4】本発明の一実施態様である脱落防止具を装脱着する際の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の脱落防止具について図面を参照しながら説明する。
本発明の一実施態様である脱落防止具100の斜視図を図1に、脱落防止具100の平面図を図2(a)、正面図を図2(b)、図2(a)のA-A’断面図(第1の延伸部21と第1のつまみ部31の中心を通る平面)を図2(c)に、一実施態様である脱落防止具100の装着時の模式図と装脱着する際の模式図を図3、4に示す。
【0009】
一実施態様である脱落防止具100は、1本のコイル素線から構成されてなり、
コイルバネ部11と、コイルバネ部11の両端から、外方に伸びる第1及び第2の延伸部21、22と、第1及び第2の延伸部21、22の他端から、軸方向に伸びる第1及び第2のつまみ部31、32とを有する。
以下、第1及び第2の延伸部21、22をまとめて延伸部21、22、第1及び第2のつまみ部31、32をまとめてつまみ部31、32ともいう。また、本明細書において、軸方向とは、ボルト装着時のボルトの軸方向を意味する。
【0010】
コイル素線の断面形状は制限されず、例えば、略円形や略四角形の鋼線を用いることができるが、コイル素線がねじ溝に嵌まりやすく、摩耗しにくいため、断面形状が略円形の鋼線や丸鋼を用いることが好ましい。コイル素線の断面形状は真円に限定されず、楕円形、卵型であってもよい。コイル素線の外径は、ねじ棒のねじ溝に嵌ることができる大きさであればよい。なお、コイル素線の外径とは、コイル素線断面の最小包含円の直径を意味する。
コイルバネ部11は、その径が、装着されるボルト200の外径よりも小さく、かつ、ボルト200のねじ溝の底部が形成する円の径よりも大きくなるように形成される。これにより、脱落防止具100は、ボルト200に装着した際に径が拡がり、軸を締め付けることにより動きが制限されるため、脱落防止効果を発揮する。
【0011】
一実施態様である脱落防止具100において、コイルバネ部11は1.33巻(480度)で形成されている。本発明の脱落防止具は、コイルバネ部がボルトと接触する長さが長くなるほど接触面積が大きくなって摩擦力が大きくなり、脱落防止効果が向上するが、巻数が多くなると嵩張るとともに、脱落防止具同士が絡まりやすくなる。そのため、コイルバネ部の巻数の整数は、1~3であることが好ましく、1または2であることがより好ましい。また、後述するように、第1のつまみ部と第2のつまみ部を挟みこむことでコイルバネ部の径を拡げることができると、拡げたコイルバネ部をボルトに通すことが可能となり、ボルトへの装脱着が容易となる。そのため、コイルバネ部の巻数の小数部分は、0.1~0.4であることが好ましく、0.15~0.35であることがより好ましい。これらの観点から、コイルバネ部の巻数は、n+0.1巻以上n+0.4巻以下(nは1~3の整数)であることが好ましく、n+0.15巻以上n+0.35巻以下(nは1~3の整数)であることがより好ましく、n+0.15巻以上n+0.35巻以下(nは1または2)であることがさらに好ましい。
【0012】
第1及び第2の延伸部21、22は、コイルバネ部11の両端それぞれから、外方に伸びるように形成されている。第1及び第2の延伸部21、22のうち、装着時にナット300と接触する第1の延伸部21は、装着時にナット300から加わる衝撃を広い面積で受けとめることができるように、長いことが好ましい。そのため、コイルバネ部11の中心から第1の延伸部21の他端までの長さが、六角ナットの二面幅(向かい合う二面間の距離)の90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、100%以上であることがさらに好ましい。一方、第1の延伸部21が長くなりすぎると、振動しやすくなるため金属疲労が起こりやすくなる場合がある。そのため、コイルバネ部11の中心から第1の延伸部21の他端までの長さは、六角ナットの対角距離(向かい合う頂点間の距離)の105%以下であることが好ましく、100%以下であることがより好ましい。装着時にナット300と接触しない第2の延伸部22の長さは特に制限されないが、第1の延伸部21と同じ長さであることが生産性、作業性等の点から好ましい。コイルバネ部の他端とは、延伸部とつまみ部を構成するコイル素線の中心を通る断面において、その下面と延伸部の延伸方向とのなす角が5度以上となった地点である。また、ボルトとそのボルトに対応する六角ナットの形状は、JIS B1181:2014に準拠する。
【0013】
第1及び第2のつまみ部31、32は、それぞれ第1及び第2の延伸部21、22の他端(外側の端部)から、同一の軸方向に伸びるように形成されている。なお、図3、4に示すように、脱落防止具100は、装着時につまみ部31、32がナット300と干渉しない向きでボルトに装着する。
第2のつまみ部は、第1のつまみ部と異なる向き、すなわち、第1のつまみ部と対向するように形成することもできる。第1のつまみ部と第2のつまみ部を対向するように形成することにより、脱落防止具をコンパクトにでき、また、互いに絡まりにくくすることができる。第1のつまみ部と第2のつまみ部を対向するように形成する場合、つまみ部は、装着時にナット300と接触しない長さにする必要があるが、つまみ部の長さを確保する観点から、コイルバネ部の巻数におけるnの値は、2または3であることが好ましく、2であることがより好ましい。
【0014】
第1及び第2のつまみ部31、32のうち、装着時にナット300側に位置する第1の延伸部21と第1のつまみ部31とを接続する第1の屈曲部分41の曲率半径(r)は、コイル素線の外径の90%以上である。脱落防止具100は、装着時に接触したナット300等から衝撃が伝わる。第1の屈曲部分41の曲率半径(r)がコイル素線の外径の90%以上であると、第1の屈曲部分41とそれに連続する第1の延伸部21の下面はなだらかに変形し、ナット300等からの衝撃を下面全体で受けとめることができる。一方、この曲率半径(r)がコイル素線の外径の90%未満であると、つまみ部を形成する曲げ加工後に延伸部の下面側に反りが生じやすくなる。そして、第1の延伸部が反ってしまい、装着時にその下面の一部がナット300等の面から浮き上がると、ナット300等からの衝撃が一箇所に集中してしまうため、コイルバネ部がねじ山を乗り越えたり、金属疲労による破断が起こりやすくなる。第1の屈曲部分41の曲率半径は、コイル素線の外径の95%以上であることが好ましく、98%以上であることがより好ましく、100%以上であることがさらに好ましい。延伸部とつまみ部とを接続する屈曲部分の曲率半径(r)とは、延伸部とつまみ部を構成するコイル素線の中心を通る断面における内側曲率半径を意味する。
【0015】
装着時には第2のつまみ部32も振動等により微小な変形を繰り返しているが、ナット300等と接触しており直接的に衝撃が加わる第1の延伸部21に繋がった第1のつまみ部31と比較して、第2のつまみ部32に作用する力は弱いため、第2のつまみ部32は第1のつまみ部31よりも破断しにくい。第2の延伸部22と第2のつまみ部32とを接続する第2の屈曲部分42の曲率半径は、特に制限されないが、同一の治具でコイル素線の折れ加工を施すことが低コストなため、第1の屈曲部分41と同一の曲率半径であることが好ましい。
【0016】
つまみ部31、32の長さは特に制限されないが、つまみ操作を容易にする観点から4mm以上であることが好ましく、6mm以上であることがより好ましい。また、つまみ部31、32の立ち上がり角度(α)は、62.5度以上87.5度以下であることが、屈曲部分41、42の曲率半径(r)をコイル素線の外径の90%以上に加工することが容易なため好ましい。また、立ち上がり角度(α)が、90度に近づくほど、つまみ部31、32を挟んでの装着作業性が向上するため、立ち上がり角度(α)は、70度以上であることがより好ましく、75度以上であることがさらに好ましく、80度以上であることがよりさらに好ましい。なお、つまみ部の立ち上がり角度(α)とは、延伸部とつまみ部を構成するコイル素線の中心を通る断面での延伸部底面から伸ばした直線とつまみ部外側面から伸ばした直線とのなす角のうち外側の角度を意味する。
【0017】
脱落防止具100は、コイルバネ部11が1.3巻であるため、第1のつまみ部31と第2のつまみ部32とを挟み込むことにより、コイルバネ部11の径を拡げることができる。そして、拡がったコイルバネ部11をボルト200に通すことができるため、ボルト200への装脱着が容易である(図4)。第1のつまみ部31と第2のつまみ部32との距離は、1cm以上2.2cm以下であることが好ましい。第1のつまみ部31と第2のつまみ部32との距離がこの範囲内であると、ペンチ等の一般的な工具でつまみ部31、32を挟むことができるため、特別な工具が不要であり、また、小さな力で装脱着を行うことができる(図4)。第1のつまみ部31と第2のつまみ部32との距離は、1.1cm以上であることがより好ましく、1.2cm以上であることがさらに好ましく、また、2.0cm以下であることがより好ましく、1.8cm以下であることがさらに好ましい。
なお、コイルバネ部の巻数の小数部分が0.1~0.4ではない脱落防止具も、ボルトの先端からねじ込むことにより、ボルトに装着することは可能である。
【実施例0018】
「実施例1」
直径1.4mmのコイル素線から、六角ボルト(M48)装着用である図1に示す形状である脱落防止具1を製造した。この脱落防止具1は、屈曲部分の曲率半径(r)がコイル素線の外径の100%(1.4mm)、巻数が1.33巻(360+120度)、第1と第2のつまみ部の距離が2.0cm、コイルバネ部の中心から延伸部の端部までの長さが12mmである。
「比較例1」
屈曲部分の曲率半径(r)がコイル素線の外径の71%(1.0mm)である以外は、脱落防止具1と同一の形状である脱落防止具2を製造した。
【0019】
振動試験
M16六角ボルトにナットを装着し、さらに脱落防止具を装着したサンプルを、NAS(米国航空宇宙規格)3350に準拠した衝撃振動試験機の開口部に装着し、振動ストローク11mm、衝撃ストローク19mm、加振振動数29.2Hz、加振加速度19.5G、加振方向はボルトの軸に対して直角方向として、振動試験を行った。NAS3350に準拠して、破断、脱落等の異常が発生しない場合は、30,000回の振動回数で試験を終えた。
【0020】
結果
本発明である脱落防止具1は、30000回の振動後も破断せず、また、ナットは試験開始時の位置から動かなかった。
それに対し、比較例1で得られた脱落防止具2は、6098回の振動後に、ナットが脱落した。ナット脱落時に、脱落防止具2はボルトから外れていたが、破断はしていなかった。脱落防止具2は、延伸部の下面に僅かな反りが生じており、ナットからの衝撃が一点に加わったため、あるときに脱落防止具2がボルトのネジ山を乗り越えてしまい、ナットの動きを抑えることができなくなったと推測される。
【符号の説明】
【0021】
100 脱落防止具
11 コイルバネ部
21 第1の延伸部
22 第2の延伸部
31 第1のつまみ部
32 第2のつまみ部
41 第1の屈曲部分
42 第2の屈曲部分

200 ボルト
300 ナット
図1
図2
図3
図4