(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121008
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】メタボロミクスを用いた食品の解析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20230823BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20230823BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
G01N27/62 D
G01N27/62 V
G01N27/62 X
G01N30/72 C
G01N30/86 J
G01N30/86 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024196
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 考成
(72)【発明者】
【氏名】岩田 奈津紀
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041DA11
2G041DA18
2G041DA19
2G041EA04
2G041EA12
2G041FA10
2G041GA03
2G041HA01
2G041LA06
2G041LA08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】測定メソッドの構築に要する時間と労力を軽減することが可能な、メタボロミクスを用いた食品の解析方法を提供する。
【解決手段】複数の食品試料のそれぞれに対し、LCとシングルQ-MSとを組み合わせたLC-MSを用い、予め決められた複数の化合物毎に、保持時間を含む所定時間範囲内で対応するm/zをターゲットとするSIM測定を実施することにより、LC/MSデータを収集する測定ステップS2と、試料毎のLC/MSデータに基いて化合物毎のクロマトグラムにおけるピークの面積、高さ、面積比、高さ比、又はピークに対応する濃度の少なくともいずれか一つである定量値を求める演算ステップS3と、複数の化合物の定量値に基く多変量解析を行うことにより、特徴に応じた食品試料の分類、食品試料毎の類似若しくは差異の程度の可視化、又は差異の要因となる化合物の抽出、の少なくともいずれかを行う解析ステップS4と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタボロミクスを用いて食品試料を解析する方法であって、
複数の食品試料のそれぞれに対し、液体クロマトグラフとシングル四重極型質量分析装置とを組み合わせた液体クロマトグラフ質量分析装置を用い、該シングル四重極型質量分析装置において、予め決められた複数の化合物について化合物毎に、その化合物の保持時間を含む所定時間範囲内で該化合物に対応する質量電荷比をターゲットとする選択イオンモニタリング測定を実施することにより、LC/MSデータを収集する測定ステップと、
前記測定ステップで収集された食品試料毎のLC/MSデータに基いて化合物毎にクロマトグラムを作成し、該クロマトグラムにおいて観測されるピークの面積、高さ、面積比、高さ比、又は該ピークに対応する濃度の少なくともいずれか一つである定量値を求める演算ステップと、
複数の食品試料についてそれぞれ得られた複数の化合物の定量値に基く多変量解析を行うことにより、特徴に応じた食品試料の分類、食品試料毎の類似若しくは差異の程度の可視化、又は差異の要因となる化合物の抽出、の少なくともいずれかを行う解析ステップと、
を有する、メタボロミクスを用いた食品の解析方法。
【請求項2】
前記測定ステップでは、アミノ酸、有機酸、核酸系代謝物を含む100以上の化合物についての選択イオンモニタリング測定を実施する、請求項1に記載のメタボロミクスを用いた食品の解析方法。
【請求項3】
前記測定ステップでは、前記シングル四重極型質量分析装置においてエレクトロスプレーイオン化法によるイオン化と大気圧化学イオン化法によるイオン化とを同時に実行する、請求項1又は2に記載のメタボロミクスを用いた食品の解析方法。
【請求項4】
前記測定ステップでは、m/z 2~2000の範囲の質量電荷比を有するイオンを検出可能である、請求項1~3のいずれか1項に記載のメタボロミクスを用いた食品の解析方法。
【請求項5】
前記測定ステップでは、正イオン化モードと負イオン化モードとの切替時間が10msec以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のメタボロミクスを用いた食品の解析方法。
【請求項6】
前記多変量解析は主成分分析又は階層クラスタリング解析である、請求項1~5のいずれか1項に記載のメタボロミクスを用いた食品の解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタボロミクスを用いた食品の解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体中の代謝物を網羅的に解析するメタボロミクスが注目されている。メタボロミクスは、生体内で産生されるアミノ酸や有機酸などの数十種類以上の多種類の低分子の代謝物を網羅的に解析し、複数の試料群における差異等を解明する技術である。メタボロミクスは主として医療分野や生化学分野など、生体を取り扱う分野で専ら進展してきたが、最近では、食品分野においてもメタボロミクス技術の導入が盛んに行われている。食品へのメタボロミクスの応用はフードメタボロミクスと呼ばれており、食品の品質鑑定、品質予測、製造・保管工程の改善、食味や香気の評価、機能性能評価など様々な目的に利用されている。
【0003】
一般に、医療分野や生化学分野におけるメタボロミクスに用いられる分析機器には、濃度が高い様々な夾雑物の存在下で比較的微量な成分を高い感度及び精度で検出することが求められる。そのため、メタボロミクスにおいて多種類の既知成分を分析対象とするターゲット分析には、通常、成分選択性が高く、高感度及び高精度であるトリプル四重極型質量分析装置を検出器とする液体クロマトグラフ質量分析装置又はガスクロマトグラフ質量分析装置が利用されている。なお、以下、トリプル四重極型質量分析装置を検出器とする液体クロマトグラフ質量分析装置及びガスクロマトグラフ質量分析装置を、LC-MS/MS及びGC-MS/MSということがある。
【0004】
食品には多くの種類の代謝物が含まれるものの、風味や品質、機能性などに関連する代謝物の多くが解明されている。そのため、フードメタボロミクスにおいても、分析対象成分を予め定めたターゲット分析が一般的に行われる。非特許文献1等に開示されているように、従来一般に、フードメタボロミクスにおけるターゲット分析にもLC-MS/MS又はGC-MS/MSが利用されている。非特許文献1の例では、LC-MS/MSを用いて、親水性代謝物97成分の一斉分析が実施されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「フードメタボロミクス トリプル四重極質量分析計LCMSTM-8060NXを用いたワインの分析 LC-MS Application News No.C226」、[Online]、[2022年2月10日検索]、株式会社島津製作所、インターネット<URL: https://www.an.shimadzu.co.jp/aplnotes/lcms/an_c226.pdf>
【非特許文献2】「マルチオミクス解析パッケージ」、[Online]、[2022年2月10日検索]、株式会社島津製作所、インターネット<URL: https://www.an.shimadzu.co.jp/lcms/tq-option/multiomics/features.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
LC-MS/MSやGC-MS/MSを用いることで多数の目的成分について高感度、高精度で分析が可能であるものの、LC-MS/MSやGC-MS/MSを使用する場合、ターゲットとする化合物毎に、多重反応モニタリング(MRM)トランジション(プリカーサーイオンとプロダクトイオンの質量電荷比(m/z)値の組合せ)とコリジョンエネルギー値とを事前に決め、それら分析条件を含む測定メソッドを作成する必要がある。フードメタボロミクス分析ではターゲット化合物の種類が多く、また解析対象である食品の種類によってターゲットとする化合物の種類が異なる。そのため、適切な測定メソッドの構築には多大な時間と労力が掛かり、解析のワークフローが複雑になることが避けられない。また、こうした作業には、分析に関して或る程度専門的な知識を有する人が当たる必要があり、担当可能な人が限られるという制約もある。
【0007】
フードメタボロミクスが研究・開発部門から製造現場や品質管理現場に拡がるに伴って、分析に関する専門的な知識を有さないオペレーターが簡便に測定・解析作業を担当できるように、解析ワークフローの単純化が強く要望されるようになってきている。しかしながら、上記のような事情により、こうした要望に対応するのは困難である。
【0008】
また、LC-MS/MSやGC-MS/MSは装置が高価であるため、装置の導入に大きなコストを要し、さらにそうした装置の保守・管理に掛かるコストも大きい。そのため、コスト的な制約から、フードメタボロミクスを導入するのが困難であるという問題もある。
【0009】
本発明はこうした課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、測定作業や解析作業に要する時間と労力を軽減し、より手軽に低コストで食品の特徴の把握や分類、さらには食品に特徴的に含まれる化合物の特定などを実施することができる、メタボロミクスを用いた食品の解析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明に係るメタボロミクスを用いた食品の解析方法の一態様は、メタボロミクスを用いて食品試料を解析する方法であって、
複数の食品試料のそれぞれに対し、液体クロマトグラフとシングル四重極型質量分析装置とを組み合わせた液体クロマトグラフ質量分析装置を用い、該シングル四重極型質量分析装置において、予め決められた複数の化合物について化合物毎に、その化合物の保持時間を含む所定時間範囲内で該化合物に対応する質量電荷比をターゲットとする選択イオンモニタリング測定を実施することにより、LC/MSデータを収集する測定ステップと、
前記測定ステップで収集された食品試料毎のLC/MSデータに基いて化合物毎にクロマトグラムを作成し、該クロマトグラムにおいて観測されるピークの面積、高さ、面積比、高さ比、又は該ピークに対応する濃度の少なくともいずれか一つである定量値を求める演算ステップと、
複数の食品試料についてそれぞれ得られた複数の化合物の定量値に基く多変量解析を行うことにより、特徴に応じた食品試料の分類、食品試料毎の類似若しくは差異の程度の可視化、又は差異の要因となる化合物の抽出、の少なくともいずれかを行う解析ステップと、
を有する。
【発明の効果】
【0011】
上述したように、メタボロミクス(メタボローム解析)ではトリプル四重極型質量分析装置を使用することが常識化しているが、本発明者は、食品を対象とするメタボローム解析において、トリプル四重極型質量分析装置を用いた解析結果とシングル四重極型質量分析装置を用いた解析結果との詳細な比較検討を行った。その結果、本発明者は、シングル四重極型質量分析装置を用いてもフードメタボロミクスに重要である数十種類以上の代謝物の網羅的な分析が十分に可能であり、食品の分類等の結果において、シングル四重極型質量分析装置を用いた場合でも十分に高い性能が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。シングル四重極型質量分析装置を用いることによって、従来、解析時間を短縮するうえで最も障害になっていたMRM測定条件の設定を行うことなく食品のメタボローム解析を行うことができ、解析時間の大幅な短縮を図ることができる。
【0012】
このように、本発明に係るメタボロミクスを用いた食品の解析方法の上記態様によれば、測定作業や解析作業に要する時間と労力を軽減し、より手軽に低コストで食品の特徴の把握や分類、さらには食品に特徴的に含まれる化合物の特定などを行うことができる。また、解析ワークフローが単純になることで、分析に関する専門的な知識を有さないオペレーターが簡便に測定・解析の作業を担当することができる。また、解析のためのシステム導入のコストを下げることができ、従来よりも手軽な解析が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る食品の解析方法を実施するための解析システムの一実施形態の概略ブロック構成図。
【
図2】
図1に示した解析システムを用いた食品試料の解析の手順を示すフローチャート。
【
図3】アルコール飲料を対象として本発明による解析方法を実施することで得られた主成分分析結果(スコアプロット)の一例を示す図。
【
図4】アルコール飲料を対象として従来の解析方法を実施することで得られた主成分分析結果(スコアプロット)の一例を示す図。
【
図5】アルコール飲料を対象として本発明による解析方法を実施することで得られた主成分分析結果(ローディングプロット)の一例を示す図。
【
図6】アルコール飲料を対象として本発明による解析方法を実施することで得られた階層クラスタリング解析結果の一例を示す図。
【
図7】本発明による解析方法において測定対象とする代謝物の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るメタボロミクスを用いた食品の解析方法の一例について、添付図面を参照して説明する。
【0015】
[システムの構成]
図1は、本発明に係る食品の解析方法を実施するための解析システムの一実施形態の概略ブロック構成図である。
本解析システムは、食品試料に対して測定を実施する測定部としての液体クロマトグラフ部(LC部)1及び質量分析部(MS部)2と、MS部2で得られたデータ(LC/MSデータ)を処理するデータ処理部3と、LC部1及びMS部2の動作を制御する制御部4と、ユーザーインターフェイスである入力部5及び表示部6と、を含む。
【0016】
LC部1は、移動相が貯留される移動相容器10と、移動相を吸引して送給する送液ポンプ11と、移動相中に試料を注入するインジェクター12と、試料に含まれる複数の化合物を時間的に分離するカラム13と、を含む。
【0017】
MS部2はシングル四重極型質量分析装置であり、チャンバー26の内部が、イオン化室261、第1中間真空室262、第2中間真空室263、及び高真空室264の四室に区画されている。イオン化室261は略大気圧雰囲気であり、それ以外の三室はいずれも図示しない真空ポンプで真空排気され、イオン化室261から高真空室264まで順に真空度が高まる多段差動排気系の構成である。
【0018】
イオン化室261内には、エレクトロスプレーイオン化(ESI)プローブ201、加熱ガス供給部202、及び大気圧化学イオン化(APCI)のためのニードル電極203を含むイオン源20、が配置されている。イオン化室261と第1中間真空室262とは細径の脱溶媒管21を通して連通しており、第1中間真空室262にはイオンガイド22が配置されている。第2中間真空室263にもイオンガイド23が配置され、高真空室264には、四重極マスフィルター24とイオン検出器25が配置されている。
【0019】
データ処理部3は、機能ブロックとして、LC/MSデータ等を格納するデータ格納部30、試料に含まれる既知の代謝物(化合物)についての定量値を求める定量演算部31、所定の多変量解析を実行する多変量解析処理部32、定量結果や多変量解析結果などを表示するための表示処理部33、などを含む。
【0020】
制御部4は、機能ブロックとして、LC部1及びMS部2の動作を制御する分析制御部40、フードメタボロミクス用の測定メソッドが格納されている測定メソッド記憶部41、入力部5及び表示部6を制御する入出力制御部42、などを含む。
【0021】
測定メソッド記憶部41に記憶されている測定メソッドは、LC部1及びMS部2における標準的な分析条件と、フードメタボロミクスにおいて測定対象とする多数の代謝物それぞれについての代表的なイオンのm/z値及び保持時間(標準的な分析条件の下での保持時間)の情報などを含むメソッドパッケージである。標準的な分析条件は、装置のメーカーにより決められたものであり、標準的な分析条件に従って分析を実行する場合には、ユーザー自身が分析条件の検討等を行う必要がない。
【0022】
食品を対象とするフードメタボロミクスでは、食味、風味、におい、品質、機能性などに関連する親水性代謝物が重要であり、一例としては、
図7に一覧で示すような、アミノ酸、有機酸、核酸系(ヌクレオシド、ヌクレオチド)等の親水性代謝物143成分を測定対象とすることができる。なお、
図7において*印を付してあるモルホリノエタンスルホン酸(Morpholinoethanesulfonic acid)は、後述する実測例で内部標準物質として採用した代謝物である。内部標準物質としては、解析対象である食品試料に含まれていないことが判明している(又は推定される)代謝物を適宜採用することができる。また、これら143成分以外の別の化合物を内部標準物質としてもよい。もちろん、測定対象の化合物は
図7に例示したもののみに限るものではなく、必要に応じて一部の化合物を削除しても、また別の化合物を追加しても構わない。但し、通常、後述する多変量解析によって十分な精度の結果を得るには、50程度以上、好ましくは100以上の種類の親水性代謝物について測定を行うことが好ましい。
【0023】
データ処理部3及び制御部4の実体はパーソナルコンピューター(PC)であり、該PCに予めインストールされた専用の制御・処理ソフトウェアを該PC上で実行することによって、上述した各ブロックの機能が具現化されるものとすることができる。その場合、入力部5はPCに付設されたキーボードやマウス等のポインティングデバイスであり、表示部6はPCに付設されたディスプレイモニターである。
【0024】
上記制御・処理用のソフトウェアは全体が一つのソフトウェアであってもよいし、例えば機能毎にそれぞれ個別のソフトウェアを集約したパッケージソフトウェアでもよい。こうしたソフトウェアを構成するコンピュータープログラムは、例えば、CD-ROM、DVD-ROM、メモリーカード、USBメモリー(ドングル)などの、コンピューター読み取り可能である非一時的な記録媒体に格納されてユーザーに提供されるものとすることができる。また、上記プログラムは、インターネットなどの通信回線を介したデータ転送の形式で、ユーザーに提供されるようにすることもできる。さらにまた、上記プログラムは、ユーザーがシステムを購入する時点で、予めシステムの一部であるコンピューター(厳密にはコンピューターの一部である記憶装置)にプリインストールしておくこともできる。
【0025】
[測定・解析の手順]
図2は、本実施形態の解析システムを用いた食品試料の測定及び解析の手順を示すフローチャートである。
図2を参照しつつ、食品試料の測定・解析の手順を説明する。
【0026】
ユーザー(オペレーター)は、複数の食品試料について測定を行うための分析条件を設定する(ステップS1)。上述したように、標準的な分析条件を使用する場合には、測定メソッド記憶部41に記憶されているフードメタボロミクス測定メソッドパッケージに収録されている分析条件をそのまま使用することができる。そのため、ユーザーによる予備的な実験を含む分析条件の検討を必要とせず、ユーザーは、標準的な分析条件を含む測定メソッドを使用することを入力部5から指示すればよい。標準的な分析条件以外の分析条件を使用したい場合には、例えばユーザーが予備的な実験を行い、その結果に基いて適切な分析条件を定めて入力部5より入力する。この場合には、ユーザーは分析条件を検討する必要があるものの、実質的に検討が必要であるのは、各化合物に対応するイオンのm/z値と保持時間のみであるので、その作業は比較的単純であり、複雑な検討を要しない。
【0027】
分析条件の設定が終了したならば、ユーザーは解析対象である複数の食品試料を用意し、入力部5から分析の実行開始を指示する。この指示を受けた分析制御部40は、設定された分析条件に従ってLC部1及びMS部2をそれぞれ制御し、LC/MS分析を実行する(ステップS2)。なお、各食品試料にそれぞれ内部標準物質を添加し、その内部標準物質の定量結果を利用して各化合物の定量結果を規格化することができる。
【0028】
即ち、LC部1において送液ポンプ11は移動相容器10から移動相を吸引し、一定流量で以てカラム13に送給する。インジェクター12は所定のタイミングで移動相中に所定量の食品試料を注入する。注入された食品試料は移動相の流れに乗ってカラム13に送り込まれ、該食品試料中の各種成分はカラム13を通過する間に時間的に分離されて溶出する。
【0029】
カラム13出口から出た溶出液は、MS部2のイオン源10に連続的に供給される。イオン源10は、ESI法によるイオン化とAPCI法によるイオン化とを同時に実施可能であるイオン源である。即ち、ESIプローブ201に到達した溶出液は、該プローブ201の先端において電荷を付与されながらイオン化室261内に噴霧される。噴霧された帯電液滴はイオン化室261内のガス分子に衝突して微細化され、溶媒が気化する過程で該液滴中の成分分子は気体イオンとなる。また、加熱ガス供給部202から高温の不活性ガスが帯電液滴の噴霧流に向けて吹き掛けられる。このため、特に噴霧流の外側付近に存在するサイズの大きな帯電液滴の溶媒の気化が促進され、試料成分由来の気体イオンが生成し易くなる。
【0030】
帯電液滴の噴霧流の進行方向前方にはニードル電極203が配置されており、該ニードル電極203には図示しない電源から直流高電圧が印加される。これにより、ニードル電極203の先端付近にはコロナ放電が発生し、それによりバッファガス(ネブライズガスや加熱ガスとして供給された不活性ガス、液滴から気化した溶媒ガスなど)がイオン化される。そうして生成されたバッファイオンと試料成分分子とが反応することで、該試料成分分子のイオンが生成される。
【0031】
このようにして、このイオン源20では、ESI法によるイオン化とAPCI法によるイオン化とが同時に実行される。ESI法はイオン性・高極性の化合物に特に有効なイオン化法であるが、低・中極性の化合物については十分にイオン化できない場合も多い。これに対し、APCI法は低・中極性の化合物に有効なイオン化法であり、両イオン化法を組み合わせることで、いずれか一方のイオン化法では十分な感度を得られない化合物を含め、幅広い物性の化合物を効率的にイオン化することができる。また、特にニードル電極203付近に到達するまでの噴霧流に加熱ガスを吹き掛けて溶媒の気化を促進することで、両イオン化法によるイオンの生成効率を共に改善し、感度をより一層向上させることができる。こうしたことにより、MS部2ではm/z 2~2000の幅広いマスレンジを達成し得る。
【0032】
イオン源20において生成された試料成分由来のイオンは脱溶媒管21を通して第1中間真空室262へ送られ、イオンガイド22、23で収束されつつ、第2中間真空室263、高真空室264と順番に送られる。試料成分由来のイオンは、高真空室264において四重極マスフィルター24に導入される。四重極マスフィルター24は、分析制御部40の制御の下で、各成分の保持時間を中心としてその前後の所定の時間幅(但し、この時間幅は前後で異なっていてもよい)を確保した所定の時間範囲の間、当該成分由来のイオンのm/z値をターゲットとするSIM測定を行うように駆動される。
【0033】
測定対象の化合物の中には、正イオンで検出可能な化合物と負イオンで検出可能な化合物とがあるため、同じ時間帯に正イオンをターゲットとするSIM測定と負イオンをターゲットするSIM測定とが重なる場合がある。その場合でも、正・負のイオン化モードの切替えを高速に行うことが可能なシングル四重極型質量分析装置をMS部2として用いることで、各SIM測定におけるデータ取込み時間(Dwell Time)を十分に確保しながら、サンプリング時間間隔も極力短くすることができる。それによって、各イオンの検出感度を高くするとともに、クロマトグラム波形の正確性を高めて定量性を向上させることができる。
【0034】
一つの試料に対するLC/MS分析により、143成分の化合物毎に、保持時間付近の所定時間範囲における抽出イオンクロマトグラム(EIC)データが得られ、このデータがデータ格納部30に格納される。なお、前処理において上記143成分以外の内部標準物質が添加された場合には、その143成分の化合物以外に添加された内部標準物質についてもSIM測定による抽出イオンクロマトグラムデータが得られる。用意された解析対象の多数の食品試料について、同様にそれぞれLC/MS分析が実施され、化合物毎の抽出イオンクロマトグラムデータがデータ格納部30に格納される。
【0035】
定量演算部31は、例えば一つの食品試料についての抽出イオンクロマトグラムデータが得られる毎に、該データに基いて各化合物に対応する抽出イオンクロマトグラムを作成しピーク検出を実行する。そして、有意なピークが検出された場合には、そのピークの面積値を算出する(ステップS3)。ピーク面積値の代わりに、ピーク高さ値を算出してもよい。また、時間経過に伴う検出感度の変化などの影響を軽減するために、ピークの面積値や高さ値をそのまま用いるのではなく、化合物毎に、内部標準物質のピークの面積値又は高さ値との比であるピーク面積比又は高さ比を計算し、このピーク面積比又は高さ比を定量値として用いることができる。さらにまた、ピークの面積値や高さ値を用いる代わりに、予め作成された検量線を用いて面積値や高さ値から換算して求めた濃度値を定量値としてもよい。
【0036】
なお、ステップS3の処理は、一つの試料に対するLC/MSデータが得られる毎に実行してもよいが、全ての試料に対するLC/MSデータが得られた後にまとめて実行してもよい。
【0037】
全ての食品試料について、化合物毎のピーク面積比等の定量値が求まったならば、多変量解析処理部32は、その定量値を用いて所定の多変量解析を実行する。具体的に、多変量解析としては例えば、主成分分析と階層クラスタリング解析とを実行することができる(ステップS4)。
【0038】
よく知られているように、主成分分析ではスコアプロットとローディングプロットを作成することができる。スコアプロットでは、複数の主成分軸で形成される空間に、複数の食品試料にそれぞれ対応するプロットを位置付けることができる。従って、このスコアプロットは、複数の食品試料の特徴に応じた分類の状況や、複数の食品試料の間の類似や相違の程度を可視化したものである。また、ローディングプロットでは、複数の主成分軸で形成される空間に、複数の化合物のそれぞれに対応するプロットを位置付けることができる。従って、ローディングプロットは、複数の食品試料の分類に寄与する、つまりは複数の食品試料の相違の要因となる可能性のある化合物を可視化したものである。
【0039】
一方、階層クラスタリング解析では、デンドログラムとそれに対応するヒートマップを作成することができる。デンドログラムは、複数の食品試料同士の近さ又は遠さと複数の食品試料のグループの状況を可視化したものである。また、ヒートマップは、複数の食品試料同士の近さ又は遠さに対応する化合物の寄与の度合を可視化したものである。
【0040】
表示処理部33は、スコアプロット、ローディングプロット、デンドログラム、ヒートマップなどの多変量解析結果を、入出力制御部42を通して表示部6の画面上に表示する(ステップ5)。これにより、ユーザーは、複数の食品試料がどのように分類されるのか、或いはその分類にはどの化合物が寄与しているのか、などの情報を得ることができる。
【0041】
従来の解析システムでは、MS部としてトリプル四重極型質量分析装置が使用されていた。そのため、通常、代謝物毎にMRMトランジションと適切なコリジョンエネルギー値を事前に検討する必要があり、その作業はかなり面倒で、しかも専門的な知識を有する担当者が行う必要があった。これに対し、本実施形態の解析システムでは、MS部2としてシングル四重極型質量分析装置が使用されているため、分析条件の検討を要する場合でも、その作業は単純であって専門的な知識を有さない担当者であっても作業に当たることが可能である。一方、シングル四重極型質量分析装置はトリプル四重極型質量分析装置に比べれば成分の選択性等の性能が劣るものの、食品分野で重要である幅広い代謝物を十分な感度で検出可能であるため、後述の実測例で示されているように、従来の解析システムに実質的に劣らない解析結果を得ることができる。
【0042】
[実測例]
次に、上記実施形態の解析システムを用いた、アルコール飲料についての実測例を説明する。この実測例では、サンプルとして、ビール1(ラガービール)、ビール2(エールビール)、発泡酒、新ジャンル(大豆たんぱくを原材料に使用)、ノンアルコールビール1(国内製)、ノンアルコールビール2(海外製)、の6種類を用意した。但し、サンプル数は種類によって異なる。
【0043】
試料前処理としては、各サンプルを超純水で10倍に希釈した。また、希釈の際に、内部標準物質として、各サンプルには元々含まれないモルホリノエタンスルホン酸を1μmol/Lの濃度となるように各サンプルに添加した。
【0044】
測定に使用した装置は、LC部1が島津製作所製のNexera
TM XR、MS部2は島津製作所製のLCMS-2050(但し、本願出願時には未発売)である。各装置における主要な分析条件は次の表1に示す通りである。
【表1】
この装置により、食品分析において重要である、
図7に示したアミノ酸、有機酸、核酸系等の親水性代謝物143成分の一斉分析が可能である。
【0045】
各サンプルについて143成分の親水性代謝物の一斉分析を行った結果、アミノ酸、有機酸、核酸系代謝物を中心として合計で82成分が検出された。ビール1、ビール2、ノンアルコールビール2の3種類からは70以上の成分が検出された一方、発泡酒からは22成分が検出されたのみであり、含まれる成分の傾向が異なることが判明した。
【0046】
各代謝物の定量値としては、内部標準物質に対する各代謝物のピーク面積比を求め、このピーク面積比を用いて多変量解析として主成分分析と階層クラスタリング解析とを実施した。この解析には、非特許文献2に記載のマルチオミクス解析パッケージを用いた。主成分分析の結果であるスコアプロットを
図3に示す。
【0047】
この
図3から、発泡酒とノンアルコールビール1とは近い位置にプロットされており、傾向が似ていることが判明した。そのほかのサンプルは、種類に応じて互いに十分に分離されており、それぞれ異なる特徴を有することが分かる。第1主成分(PC1)軸でみると、PC1=0を挟んで左右に、発泡酒、ノンアルコールビール1、及び新ジャンルが属するグループAと、ノンアルコールビール2、ビール1、及びビール2が属するグループBと、に大きく分類することができる。グループAは非ビール系の原材料が、グループBはビール系の原材料が使用されていることから、第1主成分軸は主として原材料の相違を表している可能性が高いものと推測される。
【0048】
比較例として、LC-MS/MS(質量分析装置は島津製作所製のLCMS-8045)を用いて得られるデータに基いて主成分分析を実施した結果であるスコアプロットを、
図4に示す。このときに検出された親水性代謝物の数は82で上記実測例と同じであった。
図3と
図4とを比較すれば分かるように、6種類のサンプルの分離状態はほぼ同じである。このことは、トリプル四重極型質量分析装置の代わりにシングル四重極型質量分析装置を用いても、ほぼ同等のメタボロミクスを実施可能であることを示している。
【0049】
図5は、
図3に示したスコアプロットに対するローディングプロットである。
図5から、それぞれのサンプルに含まれる特徴的な代謝物を特定することができる。例えば、ビール2には、
図5中で化合物名に下線を付したような、アミノ酸や核酸系の代謝物が多く含まれていることが判明した。このように、主成分分析を行うことで、各サンプルを特徴に応じて分類したり、或いは相違の要因となる成分を特定したりすることが可能である。
【0050】
図6は、上記実測例において得られたデータに基く階層クラスタリング解析の結果である。主成分分析の結果と同様に、新ジャンル、ノンアルコールビール1、発泡酒が属するグループAと、ビール2、ビール1、ノンアルコールビール2が属するグループBとに大別される。ノンアルコールビール1とノンアルコールビール2とはノンアルコールビールという点で同じであるものの、主成分分析や階層クラスタリング解析の結果では異なるカテゴリーに分類されている。ノンアルコールビール1は国内製であり、麦汁に味付けする方法で、発酵させずに製造される。これに対し、ノンアルコールビール2は海外製であり、ビールを製造する際に使用される原材料を用い、アルコール産生を抑えた発酵方法によって製造される。このような原材料と製法の相違が、2種類のノンアルコールビールの相違に影響を及ぼしているものと推測し得る。
【0051】
一方、階層クラスタリング解析結果であるデンドログラムを見れば分かるように、ビール1とノンアルコールビール2とは近いカテゴリーとして分類されているが、これは、原材料が共にビール系であること、及び、同じ下面発酵法で製造されていることが影響している可能性がある。このように、階層クラスタリング解析を行うことで、各サンプルに含まれる代謝物による類似や相違の程度を可視化して提示することができる。
【0052】
なお、上記実施形態及び実測例では、多変量解析として主成分分析及び階層クラスタリング解析を用いたが、それ以外の多変量解析の手法、例えば因子分析、コレスポンデンス分析、多次元尺度構成法などを利用することもできる。
【0053】
また、上記実施形態及び実測例で用いたLC部1及びMS部2の構成は一例であり、必ずしもその構成に限るものではない。即ち、上述したMS部2のマスレンジ、正・負イオン化モードの切替時間などの装置性能は一例であり、それらは本発明における制約とは限らない。
【0054】
また、MS部2のイオン源20におけるESI法によるイオン化とAPCI法によるイオン化との同時の実行は必須ではなく、ESI法によるイオン化とAPCI法によるイオン化とを高速に切替え可能な構成である場合には、SIM測定のターゲット化合物に応じてESI法によるイオン化とAPCI法によるイオン化とを切り替える等の方法も採り得る。また、MS部2のイオン源としてESIイオン源とAPCIイオン源とを交換可能とした構成である場合には、同じサンプルに対してESIイオン源を用いたLC/MS分析とAPCIイオン源を用いたLC/MS分析とをそれぞれ実施し、両方の分析結果をマージすることで得られたデータに基いて多変量解析を実施することも可能である。
【0055】
また、上記実施形態及び変形例はあくまでも本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加等を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【0056】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0057】
(第1項)本発明に係るメタボロミクスを用いた食品の解析方法の一態様は、メタボロミクスを用いて食品試料を解析する方法であって、
複数の食品試料のそれぞれに対し、液体クロマトグラフとシングル四重極型質量分析装置とを組み合わせた液体クロマトグラフ質量分析装置を用い、該シングル四重極型質量分析装置において、予め決められた複数の化合物について化合物毎に、その化合物の保持時間を含む所定時間範囲内で該化合物に対応する質量電荷比をターゲットとするSIM測定を実施することにより、LC/MSデータを収集する測定ステップと、
前記測定ステップで収集された食品試料毎のLC/MSデータに基いて化合物毎にクロマトグラムを作成し、該クロマトグラムにおいて観測されるピークの面積、高さ、面積比、高さ比、又は該ピークに対応する濃度の少なくともいずれか一つである定量値を求める演算ステップと、
複数の食品試料についてそれぞれ得られた複数の化合物の定量値に基く多変量解析を行うことにより、特徴に応じた食品試料の分類、食品試料毎の類似若しくは差異の程度の可視化、又は差異の要因となる化合物の抽出、の少なくともいずれかを行う解析ステップと、
を有するものである。
【0058】
第1項に記載のメタボロミクスを用いた食品の解析方法の上記態様によれば、測定や解析作業に要する時間と労力を軽減し、より手軽に低コストで食品の特徴の把握や分類、さらには食品に特徴的に含まれる化合物の特定などを行うことができる。また、解析ワークフローが単純になることで、分析に関する専門的な知識を有さないオペレーターが簡便に測定・解析作業を担当することができる。また、解析のためのシステム導入のコストを下げることができ、従来よりも手軽な解析が可能となる。
【0059】
(第2項)第1項に記載のメタボロミクスを用いた食品の解析方法において、前記測定ステップでは、アミノ酸、有機酸、核酸系代謝物を含む100以上の化合物についての選択イオンモニタリング測定を実施するものとすることができる。核酸系代謝物にはヌクレオシド、ヌクレオチドを含む。
【0060】
第2項に記載のメタボロミクスを用いた食品の解析方法では、食品分野において特に重要である100以上の親水性代謝物に対する一斉分析を実行する。これら代謝物は食品の食味(苦味、甘味、旨味等)、風味、におい、品質、機能性などに関連する代謝物をほぼ網羅している。そのため、第2項に記載のメタボロミクスを用いた食品の解析方法によれば、成分に特徴付けられた食品の分類や試料毎の類似や相違の評価などを高い確度で行うことができる。
【0061】
(第3項)第1項又は第2項に記載のメタボロミクスを用いた食品の解析方法において、前記測定ステップでは、前記シングル四重極型質量分析装置においてESI法によるイオン化とAPCI法によるイオン化とを同時に実行するものとすることができる。
【0062】
ESI法はイオン性・高極性の化合物に特に有効なイオン化法であり、他方、APCI法は低・中極性の化合物に特に有効なイオン化法であり、両者は相補性が高い。そのため、第3項に記載のメタボロミクスを用いた食品の解析方法によれば、いずれか一方のイオン化法では十分な感度を得られない幅広い化合物を網羅的にイオン化することができる。これにより、多種類の代謝物を高い感度で検出することができ、多変量解析の精度を向上させることができる。
【0063】
(第4項)第1項~第3項のいずれか1項に記載のメタボロミクスを用いた食品の解析方法において、前記測定ステップでは、m/z 2~2000の範囲の質量電荷比を有するイオンを検出可能であるものとすることができる。
【0064】
第4項に記載のメタボロミクスを用いた食品の解析方法によれば、幅広い物性の代謝物を網羅的に高い感度で検出することができる。これにより、多変量解析の精度を向上させることができる。
【0065】
(第5項)第1項~第4項のいずれか1項に記載のメタボロミクスを用いた食品の解析方法において、前記測定ステップでは、正イオン化モードと負イオン化モードとの切替時間が10msec以下であるものとすることができる。
【0066】
代謝物には正イオンになり易いものと負イオンになり易いものとがあり、代謝物の一斉分析ではSIM測定でターゲットとするイオンの正・負を切り替える必要がある。第5項に記載のメタボロミクスを用いた食品の解析方法によれば、正イオン化モードと負イオン化モードとの切替えが短時間で行われるため、SIM測定においてデータ取込み時間を長くして感度を向上させることができる。また、単位時間内に実行可能なSIM測定の回数を増やすことができるので、サンプリング時間間隔(ループ時間)を短くすることができる。それにより、クロマトグラム波形の正確性を高め、定量性を改善することができる。
【0067】
(第6項)第1項~第5項のいずれか1項に記載のメタボロミクスを用いた食品の解析方法において、前記多変量解析は主成分分析又は階層クラスタリング解析であるものとすることができる。
【0068】
主成分分析を行うことで、複数の食品試料を特徴に応じて分類してそれを可視化したり、食品試料の相違の要因となる化合物を特定したりすることができる。また、階層クラスタリング解析を行うことで、各食品試料に含まれる化合物による類似や相違の程度を可視化して提示することができる。
【符号の説明】
【0069】
1…LC部
10…移動相容器
11…送液ポンプ
12…インジェクター
13…カラム
2…MS部
20…イオン源
201…ESIプローブ
202…加熱ガス供給部
203…ニードル電極
21…脱溶媒管
22、23…イオンガイド
24…四重極マスフィルター
25…イオン検出器
26…チャンバー
261…イオン化室
262…第1中間真空室
263…第2中間真空室
264…高真空室
3…データ処理部
30…データ格納部
31…定量演算部
32…多変量解析処理部
33…表示処理部
4…制御部
40…分析制御部
41…測定メソッド記憶部
42…入出力制御部
5…入力部
6…表示部