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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121043
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】光照射装置
(51)【国際特許分類】
   A01M 29/10 20110101AFI20230823BHJP
   A01M 29/14 20110101ALI20230823BHJP
【FI】
A01M29/10
A01M29/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024257
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 九輝
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121AA12
2B121DA33
2B121DA41
2B121EA01
2B121FA13
2B121FA15
(57)【要約】
【課題】ヒトまたは動物への影響が抑制され、かつ昆虫の忌避の確実性が高められる、光照射によって昆虫に忌避させる技術を実現する。
【解決手段】光照射装置(1)は、第一の空間(100)から第二の空間(200)へ昆虫が侵入することを防止するために、これらの空間の間に、1.4μm~3mmの波長を有する光の照射によって昆虫の温度を上昇させる昆虫昇温領域(300)を形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の空間から第二の空間へ昆虫が侵入することを防止するために、前記第一の空間と前記第二の空間との間に、1.4μm以上3mm以下の波長を有する光の照射によって昆虫の温度を上昇させる昆虫昇温領域を形成する、光照射装置。
【請求項2】
前記昆虫昇温領域における前記光のエネルギー密度の最大値が0.01nJ/mm以上10J/mm以下であるか、または、前記昆虫昇温領域における前記光の平均パワー密度の最大値が0.1mW/mm以上10W/mm以下である、請求項1に記載の光照射装置。
【請求項3】
光源としてレーザーまたはフラッシュランプを有する、請求項1または2に記載の光照射装置。
【請求項4】
前記光の照射方向を変化させる走査機構をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の光照射装置。
【請求項5】
昆虫の位置を検出するセンサをさらに有し、
前記センサによる昆虫の位置の検出結果に応じて前記光を照射して前記昆虫昇温領域を形成する、請求項1~4のいずれか一項に記載の光照射装置。
【請求項6】
昆虫の位置を検出するセンサをさらに有するとともに、前記センサによる昆虫の位置の検出結果を参照して昆虫の位置を予測する位置予測部をさらに備え、
前記位置予測部による昆虫の位置の予測結果に応じて前記光を照射して前記昆虫昇温領域を形成する、請求項1~4のいずれか一項に記載の光照射装置。
【請求項7】
前記昆虫昇温領域から前記第一の空間に向かう気流を発生して飛翔性の昆虫の飛行による前記第二の空間への接近速度を低減させる気流発生装置をさらに有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の光照射装置。
【請求項8】
昆虫の移動速度に関する他の状態を検出するセンサをさらに有し、
前記センサによる他の状態の検出結果をさらに参照して前記昆虫昇温領域を形成する、請求項1~7のいずれか一項に記載の光照射装置。
【請求項9】
ヒトまたは昆虫以外の動物の位置を検出するセンサをさらに有し、
前記センサによるヒトまたは動物の位置の検出結果に応じて前記光を照射して、ヒトまたは動物の周囲に前記昆虫昇温領域を形成する、請求項1~8のいずれか一項に記載の光照射装置。
【請求項10】
移動体に搭載されている、請求項9に記載の光照射装置。
【請求項11】
前記昆虫は、蚊類およびハエ類からなる群から選ばれる一種以上の昆虫である、請求項1~10のいずれか一項に記載の光照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
公衆衛生および農畜産業において、害虫による衛生問題および伝染病の媒介は、生活の質(QOL)の低下および大きな社会的損失をもたらす。特に、蚊およびハエなどの吸血性および飛翔性の昆虫は、ヒトに対して、デング熱またはウエストナイル熱といった病気を引き起こすことがある。また、サシバエは、乳房炎を引き起こす要因になり得る。ヒトが罹患する感染症の17%が昆虫の媒介によるとされており、当該感染症による死者数は、年間70万人にも上るとされている。
【0003】
加えて、近年の温暖化により、昆虫の生息域も変化している。そのため、これまで問題とされなかった地域においても熱帯病の脅威への備えが必要とされている。このような背景から、昆虫に特定の領域を忌避させる技術が求められている。
【0004】
昆虫に忌避させる技術には、約450~470nmにおける第1のピークと、約500~700nmにおける第2のピークとの2つのピークを有するクールホワイトスペクトルを有する強い光をLEDから照射する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、昆虫に忌避させる技術には、屋内において、近赤外レーザー光を、飛翔性の昆虫の飛翔速度よりも速い速度で走査させて、当該近赤外レーザー光を忌避する当該昆虫を屋内の特定の目標位置に誘導する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
さらに、昆虫に忌避させる技術には、780~1350nmの波長の光を、特定の照射強度および特定の周期で点滅させて出射して、当該昆虫に当該光の照射領域を忌避させる技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2020-527961号公報
【特許文献2】特開2017-023014号公報
【特許文献3】特開2019-058125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のような従来技術は、ヒトまたは動物が存在する領域に適用する場合に、以下の問題がある。
【0009】
上述の従来技術は、特定の光を照射された昆虫が当該光を避ける性質(負の走光性)を利用している。よって、ヒトまたは動物が存在する領域に適用する場合では、ヒトまたは動物に上記の特定の光が照射されるため、特に特許文献1に記載の技術のように可視光を照射する場合では、照射光がヒトまたは動物にストレスを与えることがある。加えて、上記性質のメカニズムは未だ明らかになっていない上、昆虫の個体差により効果が一様ではないことが課題である。
【0010】
また、吸血性および飛翔性の昆虫は、一般に、ヒトまたは動物が発する二酸化炭素などの様々な成分を検知してヒトまたは動物に接近し、吸血する。よって、上述の従来技術では、当該昆虫にとって吸血の強い誘因が負の走光性を上回る場合では、当該昆虫の忌避が不十分となることがある。
【0011】
このように、従来技術では、光照射によって昆虫に忌避させる技術において、昆虫に忌避させるべき対象となるヒトまたは動物への影響を抑制し、かつ昆虫の忌避の確実性を高める観点から検討の余地が残されている。
【0012】
本発明の一態様は、ヒトまたは動物への影響が抑制され、かつ昆虫の忌避の確実性が高められる、光照射によって昆虫に忌避させる技術を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光照射装置は、第一の空間から第二の空間へ昆虫が侵入することを防止するために、前記第一の空間と前記第二の空間との間に、1.4μm以上3mm以下の波長を有する光の照射によって昆虫の温度を上昇させる昆虫昇温領域を形成する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、ヒトまたは動物への影響が抑制され、かつ昆虫の忌避の確実性が高められる、光照射によって昆虫に忌避させる技術を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る光照射装置の構成の一例を模式的に示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る光照射装置の構成の他の例を模式的に示す図である。
図3】実験例1で使用した実験装置の構成を模式的に示す上面図である。
図4図3において実験装置をA-A線で切断した断面を模式的に示す図である。
図5】実験例1においてセル内のヒトスジシマカを熱感知カメラで観測した結果の一例を示す図である。
図6】実験例1における特定のヒトスジシマカの温度変化の一例を示す図である。
図7】実験例1においてセルの壁面にとまっているヒトスジシマカを熱感知カメラで観測した結果の一例を示す図である。
図8】実験例1におけるセルの壁面にとまっているヒトスジシマカの温度変化の一例を示す図である。
図9】実験例2における特定のヒトスジシマカの温度変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係る光照射装置は、光照射により、昆虫を遠隔で加温することによって、昆虫に特定の領域への侵入を忌避させるための装置である。
【0017】
昆虫は、一般に熱感受組織を有している。たとえば、蚊は、TRPA1という熱感受タンパクを有することが知られている。蚊は、当該タンパクによって吸血対象を探索するだけでなく、快適な温度を求めて移動する。本発明の実施形態では、このような昆虫の熱感知能力を利用し、昆虫に光を吸収させることでその体温を上昇させること(フォトサーマル(PT)効果)で、昆虫に逃避、忌避行動を誘発させる。以下、本発明の一実施形態について、より詳細に説明する。なお、本明細書において、「~」はその前後の数値を含む以上以下の範囲を表す。
【0018】
〔実施形態1〕
図1は、本発明の実施形態に係る光照射装置の構成を模式的に示す図である。図1に示されるように、光照射装置1は、光源11と光学系12とを有する。光照射装置1は、第一の空間100と第二の空間200との間に、光の照射によって昆虫の温度を上昇させる昆虫昇温領域300を形成する。昆虫昇温領域300については後述する。
【0019】
[光源]
光源11は、1.4μm~3mmの波長を有する光(以下、概して「赤外光」とも言う)を出射する。光源11の数は、昆虫昇温領域300を形成可能な範囲で適宜に決めることができ、単数でも複数でもよい。
【0020】
光照射装置1では、昆虫昇温領域300を形成する赤外光の波長が上記の波長であればよい。よって、光源11は、上記の波長を有する赤外光を出射する装置であってよく、光学系12が入射光の波長を上記赤外光の波長に変換して出射する波長変換素子を含む場合では、上記の波長以外の光を出射する装置であってもよい。
【0021】
ヒトまたは動物への影響を抑制する観点、および、昆虫への忌避効果を高める観点から、赤外光の波長は、長い方が好ましい。
【0022】
また、赤外光の波長は、ヒトまたは動物への影響を低減する観点から、上記の波長の範囲の中でも水の吸収領域(約3μmおよび約6μm)以外の波長であることが好ましい。一方でヒトまたは動物への照射を回避しつつ昆虫へ集中的に照射する構成とすることで水の吸収領域を積極的に利用することもでき、波長1.4μm~3mmの範囲の光を利用することで効率的に昇温させることができる。
【0023】
昆虫昇温領域300を形成する光の波長は、上記の範囲から、種々の好ましい理由に応じて適宜に設定することが可能である。たとえば、昆虫昇温領域300を形成する光の波長が1.4~11μmである場合では、この波長の光を出射する光源としてレーザーを用いることが可能である。よって、光源の選択自由度の観点から好ましい。
【0024】
また、昆虫昇温領域300を形成する光の波長が1.4~3μmである場合では、特にキチン、タンパク質および水を介した昇温が可能である。よって、可視光に比べてヒトの目への安全性が高く、また、昆虫特有の成分を選択的に昇温できることからヒトおよび動物への安全性が高く、さらに、通信用に普及した半導体レーザーを利用できる、という観点から好ましい。
【0025】
また、昆虫昇温領域300を形成する光の波長が3~6μmである場合では、特にキチン、ワックス成分、タンパク質および水を介した昇温が可能である。よって、可視光に比べてヒトの目への安全性が高く、また、昆虫特有の成分を選択的に昇温できることからヒトおよび動物への安全性が高く、さらに、ガスセンシング用に普及している量子カスケードレーザーを利用できる、という観点から好ましい。
【0026】
また、昆虫昇温領域300を形成する光の波長が6μm~11μmである場合では、特にキチン、ワックス成分、タンパク質および水を介した昇温が可能である。よって、可視光に比べてヒトの目への安全性が高く、また、昆虫特有の成分を選択的に昇温できることからヒトおよび動物への安全性が高く、さらに、産業用に普及したレーザーを利用できる、という観点から好ましい。
【0027】
また、昆虫昇温領域300を形成する光の波長が11μm~3mmである場合では、特にキチン、タンパク質および水を介した昇温が可能である。よって、可視光に比べてヒトの目への安全性が高く、また、昆虫特有の成分を選択的に昇温できることからヒトおよび動物への安全性が高いという観点から好ましい。
【0028】
また、赤外光の吸光度は、昆虫の部位の構成成分によって異なる。たとえば、昆虫は、骨格を形成するキチン、ワックス成分およびタンパク質などによって構成されている。これらの成分は、光に対して特有の吸収ピークを有している。よって、赤外光の波長は、昆虫への忌避効果を高める観点から、昆虫の部位の構成成分に特有の吸収ピークに応じた波長とすることが好ましい。
【0029】
また、昆虫の構成成分の量は、昆虫の種類によっても異なる。したがって、赤外光の波長は、忌避させる対象の昆虫の種類を設定する場合では、昆虫の種類に特有の、光の吸収ピークに応じた波長とすることが、昆虫への忌避効果を高める観点から好ましい。
【0030】
また、光源11は、昆虫昇温領域300において昆虫を忌避させるのに十分な強さの赤外光を出射できればよい。赤外光の強さは、例えば、昆虫昇温領域300の寸法に応じて適宜に決めることができる。
【0031】
また、赤外光の強さは、昆虫の種類に応じて決めることも可能である。赤外光で昇温された昆虫が忌避行動を開始する温度は、昆虫の種類に応じて異なる傾向がある。たとえば、蚊であっても、熱帯に生息する蚊の忌避行動を開始する温度は、通常、温帯に生息する蚊のそれに比べて高い。忌避の対象の昆虫を設定する場合には、当該対象の昆虫に応じた強さの赤外光で昆虫昇温領域300を形成可能な光源11を選択することが好ましい。
【0032】
昆虫の忌避行動の確実性を高める観点から、昆虫昇温領域300における赤外光のエネルギー密度の最大値は、0.01nJ/mm~10J/mmであることが好ましい。または、同様の理由から、昆虫昇温領域300における赤外光の平均パワー密度の最大値は、0.1mW/mm~10W/mmであることが好ましい。昆虫昇温領域300の全体が、上記最大値のエネルギー密度を有していてもよい。第二の空間200への昆虫の侵入を防止可能な範囲であれば、昆虫昇温領域300の一部が上記最大値のエネルギー密度を有していてもよい。たとえば、昆虫昇温領域300におけるエネルギー密度が上記最大値となる部分は、昆虫昇温領域300における第二の空間200と隣接する部分であってもよい。
【0033】
昆虫昇温領域300におけるエネルギー密度は、算出値であってもよいし、実測値であってもよい。昆虫昇温領域300におけるエネルギー密度は、例えばパワーメーターによって求めることが可能である。
【0034】
さらに、光源11が出射する光の波形は、連続波であってもよく、パルス波であってもよい。また、光源11は、連続波の光を出射する光源と、パルス波の光を出射する光源との両方を含んでもよい。
【0035】
光源11がパルス光のような間欠的な光を出射することは、ヒトまたは動物への影響を低減する観点から好ましい。光源11の例には、レーザーおよびフラッシュランプが含まれる。レーザーの例には、半導体レーザー、量子カスケードレーザー、ガスレーザー、固体レーザー、ファイバーレーザーおよび波長変換光源が含まれる。フラッシュランプの例には、放電を利用したフラッシュランプが含まれる。
【0036】
レーザーは、連続波およびパルス波のいずれの光の光源とするのに好適であり、上記の赤外光を直接出射する光源としても好適であり、また高い出力の光を出射可能な光源としても好適である。
【0037】
近赤外領域では、通信用に開発された高出力半導体レーザーが多数存在し、また中赤外領域ではガス検出用に開発された量子カスケードレーザーが急速に普及している。そのような背景から、これまで利用することが困難であった上記波長域の赤外光を容易に利用することが可能となる。さらには、研究および産業、医療用途において本波長域の高強度光源は多数実用化されており、本実施形態への応用は容易である。
【0038】
特に、量子カスケードレーザーは、小型、軽量かつ高出力である。そのため、ドローンまたはロボットに搭載するのに好適である。これにより、昆虫昇温領域を形成する光照射装置をドローンなどの移動体に装備することが可能となり、動くヒトまたは動物を追尾しながら吸血性の昆虫の忌避を実現するのに好適である。
【0039】
フラッシュランプは、間欠的に光を出射することから、ヒトまたは動物への影響を低減する観点から好ましい。
【0040】
ヒトおよび動物と昆虫とでは熱容量が大きく異なる。そのため、間欠的な光またはパルス光を用いる場合では、光の適当な照射時間および光の強度を選択することで、ヒトおよび動物への影響がより一層抑制され、それに対して昆虫へのPT効果を高めることが可能となる。
【0041】
特に、パルス光を用いると、昆虫へ短時間で高いエネルギーを与えることができる。そのため、短時間で昆虫を昇温させる観点から好適である。昇温した昆虫からその周囲の媒質である空気への放熱にはある程度の時間を要する。そのため、短時間での加熱は、熱の供給と放出との観点から有効である。たとえば、照射時間(パルス幅)100ms以下のパルス光または間欠光をヒトの皮膚の熱緩和時間内の時間出射することで、昆虫への十分なPT効果とヒトへの影響の低減とを両立することが可能である。
【0042】
[光学系]
光学系12は、光源11からの赤外光の照射によって昆虫昇温領域300を形成する。光学系12は、光の照射方向を任意に変更可能な光学的構成であり、光源11からの光を拡散し、集光し、または走査させる光学的な構成である。光学系12は、光を集中、発散、反射、屈折させる公知の光学素子およびその組み合わせによって構成することができ、光学系12には公知の照明光学系が適用され得る。たとえば、光学系12は、シリンドリカルレンズまたはパウエルレンズの適宜の配置によって構成され、このような構成による光の照射によって昆虫昇温領域300としてのシート状の空間を形成することが可能である。
【0043】
光学系12は、必要に応じて、当該光学素子を駆動させる構成を含んでいてもよい。たとえば、光照射装置1は、図2に示されるように、光学系として走査機構22を有していてもよい。走査機構22は、光の照射方向を時間的に変化させる機構であり、例えば、光源11からの光を特定の方向における特定の範囲に向けて反射するように、光を反射する光学素子(例えば鏡)を機械的に高速で移動させる。
【0044】
走査機構22の例には、機械的な駆動部および電気的な駆動部が含まれる。機械的な駆動部の例には、ポリゴンミラー、ガルバノミラーおよびMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーが含まれる。電気的な駆動部の例には、フォトニック結晶のような微細人工構造が含まれる。走査機構22を含む光学系は、特定の箇所への照射および光の走査により、光の照射によるシート状(あるいはカーテン様の)空間を形成することが可能である。
【0045】
走査機構22は、任意の時間において、空間の任意の位置に光を照射することができる。このため、光が照射される仮想空間(仮想ボリューム)を形成することが可能である。仮想空間では、光照射の有無により仮想空間をさらに任意に分割することが可能である。したがって、仮想空間には、照射される光によって、時空間的に光の任意の波長分布および任意の光強度分布が形成され得る。よって、波長が異なる光が照射される複数の部分、または、光の強度が異なる複数の部分、または、上記のそれぞれの複数の部分の変化が連続して変化する部分、またはそれらの組み合わせを含む昆虫昇温領域300、を走査機構22により形成することが可能である。
【0046】
さらに、光学系12は、必要に応じて、波長選択フィルタのような波長を変更する素子、屈折率を制御する素子、または偏光制御素子、を含んでいてもよい。
【0047】
[昆虫昇温領域]
昆虫昇温領域300は、1.4μm~3mmの波長を有する赤外光が昆虫の温度を上昇させるように照射される領域である。昆虫昇温領域300は、赤外光で定位置を照射して形成されている領域であってもよいし、前述した光の走査で形成される仮想空間であってもよい。また、昆虫昇温領域300の形状は、第二の空間200に応じた形状であればよく、限定されない。たとえば、昆虫昇温領域300の形状は、シート状であってもよく、略錐体の側面形状であってもよい。
【0048】
昆虫昇温領域300は、第一の空間100と第二の空間200との間に位置する。第一の空間100は、蚊110などの昆虫が存在する領域であり、例えば屋外である。第二の空間200は、昆虫の侵入させたくない空間であり、例えば、ヒト210またはペットの動物が居住あるいは活動する屋内であり、もしくは家畜が居住する畜舎である。この場合、昆虫昇温領域300は、屋内と屋外とを連通する出入口または窓などの、建物の開口部を内包または覆う空間である。
【0049】
昆虫昇温領域300は、昆虫の温度を上昇させるように赤外光が照射される領域である。昆虫昇温領域300は、常に赤外光が照射されている領域であってもよく、第二の空間200の外側における特定の領域に侵入した昆虫の温度を上昇させるように(例えば前述の走査などによって)赤外光が照射される領域であってもよい。
【0050】
昆虫昇温領域300の寸法は、第一の空間100から昆虫昇温領域300に侵入した昆虫が、第一の空間100側に戻る方向に方向転換させるように昆虫を十分に昇温可能な範囲において、適宜に設定可能である。たとえば、昆虫昇温領域300を形成する赤外光が、昆虫により吸収されやすいほど、または昆虫により強く照射されるほど、または昆虫の移動速度が遅いほど、昆虫昇温領域300の寸法を小さくすることが可能である。
【0051】
また、昆虫昇温領域300は、第一の空間100側に比べて第二の空間200側において、昆虫の昇温により強く作用する赤外光を照射することで形成してもよい。このような、第二の空間200側で昆虫へのPT効果を高めるように赤外光を照射することも、昆虫昇温領域300の寸法を小さくする観点から有効である。
【0052】
このように、昆虫昇温領域300の寸法は、赤外光が昆虫を昇温させるのに十分な時間、赤外光が昆虫に照射される長さであればよく、昆虫の移動速度および昆虫への赤外光の作用量に応じて適宜に決めることが可能である。たとえば、昆虫昇温領域300における第一の空間100および第二の空間200間の距離(厚み)は1mm以上であればよい。
【0053】
[忌避対象の昆虫]
忌避対象となる昆虫は、限定されないが、ヒトまたは動物に伝染病を媒介し得る昆虫であることが、ヒトまたは動物の衛生問題を改善させる観点から好ましい。当該昆虫の例には、吸血性および飛翔性の昆虫が含まれ、より具体的には蚊類およびハエ類が含まれる。蚊類の例には、ハマダラカおよびヒトスジシマカが含まれる。
【0054】
近年の研究によって、蚊は、口吻全体にTRPA1(トリップA1)を発現する感覚子を有し、それにより、自身の生存に悪影響を及ぼす高温環境を避ける特性を有することが明らかになっている。また、近年の研究では、TRPA1の応答閾値は、蚊の種類ごとに異なること、および、熱によって忌避行動を行う蚊は、危険領域を学習すること、も明らかになっている。このような特性を有する蚊110は、光照射装置1による忌避対象の昆虫として好適である。
【0055】
[さらなる構成]
光照射装置1は、本発明の実施形態の効果が得られる範囲において、前述以外の他の構成をさらに有していてもよい。
【0056】
たとえば、光照射装置1は、昆虫の位置を検出するセンサ(以下、「昆虫センサ」とも言う)をさらに有し、昆虫センサによる昆虫の位置の検出結果に応じて光源11から光を出射して昆虫昇温領域300を形成してもよい。
【0057】
このような光照射装置1は、昆虫センサの検出信号に応じて光源11のオンオフ、走査機構22のオンオフ、または走査機構22による光の走査範囲を制御する機能をさらに備えることによって実現可能である。昆虫センサには、例えばカメラが用いられる。この構成は、忌避させるべき昆虫の存在に応じて光照射装置1を稼働させることが可能になることから、光照射装置1の省力化の観点、および、昆虫昇温領域300を形成する赤外光のヒトまたは動物への影響をより一層低減する観点、から好ましい。
【0058】
また、例えば、光照射装置1は、昆虫センサをさらに有するとともに、昆虫センサによる昆虫の位置の検出結果を参照して昆虫の位置を予測する位置予測部をさらに備え、位置予測部による昆虫の位置の予測結果に応じて光源11から光を出射して昆虫昇温領域300を形成してもよい。
【0059】
昆虫の位置の予測は、例えば特許文献3に記載されているように、昆虫センサによって検知した昆虫の所定時間ごとの位置から昆虫の移動方向のベクトルを算出し、移動方向のベクトルからその昆虫の飛翔方向を予測することによって実施可能である。位置予測部は、昆虫センサの検出値から上記の飛翔方向を演算する機能を発現する構成であればよい。この構成は、光照射装置1の省力化に加えて、昆虫を上記の光でより効率よく照射可能であることから、昆虫昇温領域300において昆虫に忌避行動をさせる確実性を高める観点から好ましい。
【0060】
また、例えば、光照射装置1は、ヒトまたは昆虫以外の動物の位置を検出するセンサ(以下、「動物センサ」とも言う)をさらに有し、動物センサによるヒトまたは動物の位置の検出結果に応じて光源11から光を出射して、ヒトまたは動物の周囲に昆虫昇温領域300を形成してもよい。この場合、形成される昆虫昇温領域300は、ヒトまたは動物の周囲の全周に形成されてもよく、ヒトまたは動物の周囲における一部の領域のみに形成されてもよい。
【0061】
動物センサには、電磁波センサまたはカメラを用いることが可能である。このような光照射装置1は、動物センサの検出信号に応じて光源11のオンオフまたは走査機構22のオンオフを制御する機能をさらに備えることによって実現可能である。この構成は、昆虫から保護すべき対象(ヒトまたは動物)が不在の場合の光照射装置1の稼働が防止されることから、光照射装置1の省力化の観点から好ましい。
【0062】
動物センサを有する場合には、光照射装置1は、移動体に搭載するのに有利である。移動体は、主には移動するヒトまたは動物を追跡可能な物体であり、例えば前述したドローンおよびロボットである。この構成によれば、屋外でも好適に使用することができ、また移動するヒトまたは動物のための昆虫昇温領域300を形成することが可能である。
【0063】
[実験例]
以下、1.4μm~3mmの波長を有する赤外光を照射された昆虫の忌避行動に関する実験例を説明する。
【0064】
<実験例1>
図3は、実験例1で使用した実験装置の構成を模式的に示す上面図である。また、図4は、図3において実験装置をA-A線で切断した断面を模式的に示す図である。図3および図4に示されるように、実験装置は、セル30と熱感知カメラ40と不図示の光源とを有する。セル30は、透明な樹脂板で構成された細長な直方体であり、両側面のそれぞれが鏡31、32で構成されている。鏡32の長手方向における中央部の上縁部には、窓34が開口している。
【0065】
光源は、量子カスケードレーザーであり、波長4.6μmの光線を出射する。当該光源は、窓34を介して対面の鏡31に向けて特定の角度で光が入射するように配置されている。より詳しくは、光源からのレーザー光は、図4に示されるように、窓34から鏡31の表面に対して斜めに入射する。それにより、入射光は、鏡31、32間をジグザグに反射する。これにより簡易的な光の仮想壁を形成する。当該仮想壁は、前述した昆虫忌避空間に相当する。当該仮想壁におけるエネルギー密度の最大値の部分は、セル30内における窓34近傍の部分であり、当該最大値は約100mW/mmである。そして、セル30内にヒトスジシマカの成虫(雌)を閉じ込める。図中の星印がヒトスジシマカを表している。そして、セル30内を熱感知カメラ40で撮影し、セル30内のヒトスジシマカが上記の仮想壁を通過するときの温度変化を熱感知カメラ40で観測した。結果を図5に示す。
【0066】
図5において、撮影時間(秒)を表し、図中の矢印で指し示されている丸印は、熱感知カメラ40で検出されたヒトスジシマカの光点を表している。図5から、波長4.6μmの光線で照射されたヒトスジシマカは、周囲よりも高い温度を有することがわかる。ヒトスジシマカは、変温動物であるため、通常は周囲の温度とほぼ同一の温度を有する。本実験より、波長4.6μmの光の照射により、蚊の体温を上昇させることができることがわかる。
【0067】
図6は、上記の実験装置における特定のヒトスジシマカの温度変化の一例を示す図である。図6の横軸が撮影時間であり、縦軸がヒトスジシマカの温度を示している。ヒトスジシマカの温度変化には、比較的なだらかに上昇する部分と、急激に上昇、下降する急峻なピークとが含まれている。比較的なだらかに上昇する部分は、セル30の壁面上に止まっているときのヒトスジシマカの温度の変化を表している。急峻なピークは、飛行時に仮想壁を構成する光線に触れたときのヒトスジシマカの温度の変化を表している。温度が低い部分は、セル30内の仮想壁以外の部分をヒトスジシマカが飛行していることを表している。
【0068】
図6によれば、ヒトスジシマカは、特定の温度だけ体温が上昇すると、あるいは、体温が30℃近くまで上昇すると、温度が上昇する環境から逃避するように飛翔することがわかる。ヒトスジシマカは、日本に広く分布する蚊である。図6に示される実験結果によれば、ヒトスジシマカが上記の逃避運動を開始する体温の閾値は、30℃前後にあると推察される。
【0069】
図7は、上記の実験装置において、セルの壁面にとまっているヒトスジシマカを熱感知カメラ40で観測した結果の一例を示す図である。図7において、撮影時間(秒)を表し、図中の矢印で指し示されている丸印は、熱感知カメラ40で検出されたヒトスジシマカの光点を表している。また、図8は、セルの壁面にとまっているヒトスジシマカの温度変化の一例を示す図である。図8の横軸が撮影時間であり、縦軸がヒトスジシマカの温度を示している。
【0070】
図7によれば、セルの壁面にとまっているヒトスジシマカの温度が上昇し、ヒトスジシマカが飛び立つとヒトスジシマカの温度が下がり、温度が下がったヒトスジシマカが再びセル30の壁面にとまる様子がわかる。また、図8によれば、セルの壁面にとまっている間にヒトスジシマカの温度が徐々に上昇し、約3℃上昇したときにヒトスジシマカが飛び立ち、その結果、ヒトスジシマカの温度が上昇前の温度まで降下する様子がわかる。
【0071】
<実験例2>
実験例1と同様の実験系において、波長4.6μm、ビーム径2.5mmの光であって照射強度が異なる光をヒトスジシマカに照射したときのヒトスジシマカの温度の変化を測定した。数分間の測定データから得られた昇温温度の最大値および昇温平均値を求めた。当該ビーム径は、ナイフエッジ法で求めた。結果を図9に示す。図9の横軸は照射強度を表し、縦軸はヒトスジシマカの温度を表す。また、図9中、実線は、測定されたヒトスジシマカの温度の平均値を表し、破線は、測定されたヒトスジシマカの温度の最高値を表す。
【0072】
図9から明らかなように、ヒトスジシマカの温度は、照射光の照射強度の増加に比例してより高くなる。
【0073】
<考察>
上記の実験によれば、ヒトスジシマカは、その体温が4~5℃上昇すると、そのような昇温が生じ得る環境から逃避する行動をとる傾向が見られた。
【0074】
また、実験により光照射されたヒトスジシマカは、その大半が翌日には死んでいた。このことから、ヒトスジシマカは、上記の光の照射による熱によって、致死的なダメージないしはストレスを受けていると考えられる。このため、ヒトスジシマカが受ける致死的なダメージには、昇温による熱のダメージのみならず、昇温後に熱が音響エネルギーに変換されて生じる光音響波による衝撃などの二次的な他のダメージが含まれている可能性が考えられる。
【0075】
なお、文献によれば、蚊の種類によってTRPA1が活性化する温度が異なり、アカイエカで21℃、ヒトスジシマカに近縁なネッタイシマカで32℃前後、との報告がある。よって、光の照射によって蚊が逃避運動を開始する閾値の温度は、蚊の種類によって異なることが予想される。
【0076】
〔主な作用効果〕
本発明の実施形態に係る光照射装置1は、1.4μm~3mmの波長を有する光(近赤外光およびテラヘルツ波)を特定の領域に照射して、当該領域中の昆虫の温度を昇温させる。そして、その昆虫にとって快適な温度ないしは生命維持活動に安全な温度の上限(閾値)を超えた昆虫に逃避行動を誘発させる。さらには、昇温による光音響波の作用により、物理的刺激による逃避行動を誘発させる。このように、光照射装置1は、近赤外光からテラヘルツ波に該当する長波長の光を昆虫に照射し、当該昆虫の光吸収による発熱効果(PT効果)を昆虫の忌避行動に利用している。
【0077】
蚊はTRPA1により吸血ターゲットの探索および環境温度を感知している。特に、蚊は、体温がある温度を超える環境を避ける。すなわち、赤外光を蚊に照射し光吸収による発熱を生じさせることで、蚊に不快または危険な温度と認識させ、その場から逃避させることが可能となる。さらには、本実施形態では、このような赤外光の照射による昆虫(蚊)の応答の有無に関わらず、熱による致死的なダメージないしはストレスを昆虫に与えることが可能である。
【0078】
すなわち、本実施形態は、個々の昆虫の好み(個性、個体差)による習性を利用するのではなく、生命維持に影響する要因(ここでは熱)を利用することで、高い忌避効果を発揮する。そして、昆虫における熱という生命維持に直結する要因へ影響を与えることで、昆虫の高い忌避効果を実現する。このため、昆虫の個体差に左右されない忌避を実現することが可能である。また、本実施形態では、薬剤を使用しないことから、昆虫に耐性がより生じにくい。さらに、本実施形態では、昆虫の個体差に依存しないことから、光または匂いを誘引とする昆虫のトラップに比べて、昆虫の忌避効果の確実性がより高められる。
【0079】
本実施形態において、昆虫に照射する赤外光は十分に長い波長を有することから、ヒトまたは動物には不可視である。たとえば、1.4μm以上の波長を有する光の、ヒトの目に対する最大許容露光量は、可視光および数百nmの波長を有する近赤外光のそれに対して少なくとも二桁以上高い値であり、最大許容露光時間は少なくとも四桁以上高い値である。また、昆虫昇温領域300は赤外光の照射によって形成される領域であるため、第二の空間100と第一の空間200との間に物理的な障害物は存在しない。よって、本実施形態によれば、昆虫の接近を防止しつつも、景観、および、ヒトまたは動物の動線、が確保される。このように、本実施形態は、ヒトまたは動物に対する影響が実質的になく、昆虫の忌避効果が高いことから、従来の昆虫忌避技術に比べてより広い分野での使用が期待される。
【0080】
また、本実施形態では、例えば走査機構22によって、三次元的な光の仮想空間として昆虫昇温領域300を形成することが可能である。そのため、昆虫に対して十分なPT効果をもたらす赤外光の作用時間を担保することが可能である。加えて、昆虫昇温領域300において、赤外光の強度または波長に任意の分布あるいは勾配を持たせることで、昆虫の第二の空間200への侵入をより強く防ぐことが可能である。
【0081】
たとえば、昆虫昇温領域300に赤外光の強度の勾配を形成した場合、昆虫昇温領域300において、昆虫は、最初は徐々にPT効果を受け、ある地点でより強くPT効果を受ける。そのため、昆虫は、このようなPT効果の増強によって光の強度の低い方向へより移動しやすくなる。すなわち、第二の空間200への昆虫の侵入がより防止されやすくなる。
【0082】
また、赤外光の波長については、一例として、昆虫が有するキチンまたはワックス成分がより吸収する6~7μmの波長帯の光を選択することで、昆虫のより高い忌避効果が期待できる。特に、蚊およびハエなどの飛翔性の害虫とされる昆虫を対象とする場合により効果的である。
【0083】
〔用途〕
本発明の実施形態に係る光照射装置は、学校または病院などの公共の建物における開口部(出入口、窓)に適用し、当該建物における虫よけに適用することが可能である。また、本発明の実施形態に係る光照射装置は、畜舎の開口部または檻に適用し、これらの内部にいる動物への虫よけに適用することが可能である。
【0084】
さらに、ドローンなどの移動体への搭載、または支柱の先端部での支持、によって、屋外の任意の位置にいるヒトまたは動物の虫よけにも適用可能である。
【0085】
〔その他の実施形態〕
本発明の実施形態では、昆虫昇温領域300は、光源11および光学系12によって形成されているが、光源を複数配置した多点光源からの赤外光の直接照射によって形成されてもよい。
【0086】
本発明の実施形態は、昆虫の移動速度を制御する装置、例えば昆虫昇温領域から第一の空間に向かう気流を発生して飛翔性の昆虫の飛行による第二の空間への接近速度を低減させる気流発生装置、をさらに有していてもよい。この構成は、第一の空間から第二の空間に向かう昆虫の昆虫昇温領域での滞在時間をより長くすることが可能となり、昆虫の忌避効果をより高める観点から好ましい。
【0087】
本発明の実施形態は、昆虫の移動速度に関する他の状態を検出するセンサをさらに有し、当該センサの検出結果をさらに参照して昆虫昇温領域を形成してもよい。たとえば、飛翔性の昆虫を対象とする場合では、当該センサの例には風速計が含まれる。昆虫昇温領域から第二の空間に向かう方向への風がある場合では、飛翔性の昆虫の移動速度がより速くなり、第一の空間から第二の空間に向かう昆虫の昆虫昇温領域での滞在時間がより短くなることが考えられる。この場合では、より高い照射強度で赤外光を照射して昆虫昇温領域を形成する。この構成は、外乱による昆虫の忌避効果の変動を抑制する観点から好ましい。
【0088】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態に係る光照射装置(1)は、第一の空間(100)から第二の空間(200)へ昆虫(蚊110)が侵入することを防止するために、第一の空間と第二の空間との間に、1.4μm以上3mm以下の波長を有する光の照射によって昆虫の温度を上昇させる昆虫昇温領域(300)を形成する。よって、当該光照射装置は、光照射による昆虫の忌避において、ヒトまたは動物への影響を抑制することができ、かつ昆虫の忌避の確実性を高めることができる。
【0089】
本発明の実施形態において、昆虫昇温領域における光のエネルギー密度の最大値が0.01nJ/mm以上10J/mm以下であるか、または、昆虫昇温領域における光の平均パワー密度の最大値が0.1mW/mm以上10W/mm以下であってもよい。この構成は、昆虫の忌避行動の確実性を高める観点からより一層効果的である。
【0090】
光照射装置は、光源(11)としてレーザーまたはフラッシュランプを有していてもよい。この構成は、ヒトまたは動物への影響を低減する観点、および昆虫へのPT効果を高める観点からより一層効果的である。
【0091】
光照射装置は、光の照射方向を変化させる走査機構(22)をさらに含んでもよい。この構成は、種々の形態の昆虫昇温領域を形成する観点からより一層効果的である。
【0092】
光照射装置は、昆虫の位置を検出するセンサをさらに有し、当該センサによる昆虫の位置の検出結果に応じて光を照射して昆虫昇温領域を形成してもよい。この構成は、光照射装置の省力化の観点、および、昆虫昇温領域を形成する光のヒトまたは動物への影響をより一層低減する観点、からより一層効果的である。
【0093】
光照射装置は、昆虫の位置を検出するセンサをさらに有するとともに、当該センサによる昆虫の位置の検出結果を参照して昆虫の位置を予測する位置予測部をさらに備え、位置予測部による昆虫の位置の予測結果に応じて光を照射して昆虫昇温領域を形成してもよい。この構成は、昆虫に忌避行動をさせる確実性を高める観点からより一層効果的である。
【0094】
光照射装置は、昆虫昇温領域から第一の空間に向かう気流を発生して飛翔性の昆虫の飛行による第二の空間への接近速度を低減させる気流発生装置をさらに有していてもよい。光照射装置がこのような昆虫の移動速度を制御する装置をさらに有することは、第一の空間から第二の空間に向かう昆虫の昆虫昇温領域での滞在時間をより長くして昆虫の忌避効果を高める観点からより一層効果的である。
【0095】
光照射装置は、昆虫の移動速度に関する他の状態を検出するセンサをさらに有し、当該センサの検出結果をさらに参照して昆虫昇温領域を形成してもよい。この構成は、他の状態による昆虫の挙動が反映された昆虫昇温領域が形成されることから、外乱による昆虫の忌避効果の変動を抑制する観点からより一層効果的である。
【0096】
光照射装置は、ヒトまたは昆虫以外の動物の位置を検出するセンサをさらに有し、センサによるヒトまたは動物の位置の検出結果に応じて光を照射して、ヒトまたは動物の周囲に昆虫昇温領域を形成してもよい。この構成は、光照射装置の省力化の観点からより一層効果的である。
【0097】
光照射装置は、移動体に搭載されてもよい。この構成は、移動するヒトまたは動物に対しても適切に昆虫昇温領域を形成することが可能であることから、屋外での昆虫による病気の感染を予防する観点からより一層効果的である。
【0098】
本発明の実施形態において、昆虫は、蚊類およびハエ類からなる群から選ばれる一種以上の昆虫であってもよい。この構成は、昆虫によるヒトまたは動物への伝染病の媒介を防止する観点からより一層効果的である。
【0099】
上記の本発明の実施形態によれば、伝染病を媒介する害虫に対するより確実な薬剤フリーの防虫が可能となる。よって、化学物質の放出を最小化し、人々の健康的な生活の確保と福祉の推進、自然環境の維持に関する持続可能な開発目標(SDGs)の達成への本発明の貢献が期待される。
【0100】
本発明は、上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0101】
1 光照射装置
11 光源
12 光学系
22 走査機構
30 セル
31、32 鏡
34 窓
40 熱感知カメラ
100 第一の空間
110 蚊
200 第二の空間
210 ヒト
300 昆虫昇温領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9