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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121076
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20230823BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20230823BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
H01L29/78 652H
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 652T
H01L29/78 658A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024319
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆司
(72)【発明者】
【氏名】山下 侑佑
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 順
(57)【要約】
【課題】オン抵抗の低減およびオン損失の低減を実現可能な半導体装置を提供する。
【解決手段】半導体装置は、n型のドリフト層を備える。半導体装置は、ドリフト層の上面に接しているp型のボディ層を備える。半導体装置は、ボディ層の上部に配置されているn型のソース領域を備える。半導体装置は、ソース領域の上面からボディ層を貫通してドリフト層まで到達しているトレンチを備える。半導体装置は、トレンチ内にゲート絶縁膜を介して配置されているゲート電極を備える。半導体装置は、ドリフト層内であってトレンチの底面の下方側の領域に、トレンチの底面から離間して配置されている第1のp型領域を備える。半導体装置は、ドリフト層内であって第1のp型領域の下面の下方側の領域に、第1のp型領域の下面から離間して配置されている第2のp型領域を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型のドリフト層と、
前記ドリフト層の上面に接しているp型のボディ層と、
前記ボディ層の上部に配置されているn型のソース領域と、
前記ソース領域の上面から前記ボディ層を貫通して前記ドリフト層まで到達しているトレンチと、
前記トレンチ内にゲート絶縁膜を介して配置されているゲート電極と、
を備える半導体装置であって、
前記ドリフト層内であって前記トレンチの底面の下方側の領域に、前記トレンチの底面から離間して配置されている第1のp型領域と、
前記ドリフト層内であって前記第1のp型領域の下面の下方側の領域に、前記第1のp型領域の下面から離間して配置されている第2のp型領域と、
を備える、半導体装置。
【請求項2】
前記ドリフト層内であって前記第2のp型領域の下面の下方側の領域に、前記第2のp型領域の下面と接触して配置されている第3のp型領域をさらに備え、
前記第2のp型領域の不純物濃度が、前記第3のp型領域の不純物濃度よりも高い、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記トレンチの底面と前記第1のp型領域との間には、第1のn型領域が位置しており、
前記第1のp型領域と前記第2のp型領域との間には、第2のn型領域が位置しており、
各々のpn接合界面から伸びる空乏層が、前記第1のn型領域、前記第1のp型領域、前記第2のn型領域の全体を覆っている、請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第2のp型領域は、前記ボディ層に接続されており、
前記第2のp型領域の不純物濃度が、前記第1のp型領域の不純物濃度よりも高い、請求項1~3の何れか1項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第2のp型領域の深さ方向の厚さが、前記第1のp型領域の深さ方向の厚さよりも厚い、請求項1~4の何れか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記トレンチの底面から前記第1のp型領域の上面までの距離を第1距離とするとともに、前記トレンチの底面から前記第2のp型領域の上面までの距離を第2距離としたときに、前記第2距離に対する前記第1距離の比が、0.2~0.7の範囲内である、請求項1~5の何れか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記トレンチの底面と前記第1のp型領域との間には、第1のn型領域が位置しており、
前記第1のn型領域の不純物濃度に対する前記第1のp型領域の不純物濃度の比が、1~2.5の範囲内である、請求項1~6の何れか1項に記載の半導体装置。
【請求項8】
半導体基板の表面に平行な方向における前記トレンチの底面の幅をトレンチ幅とするとともに、半導体基板の表面に平行な方向における前記第1のp型領域の幅を第1の幅としたときに、前記トレンチ幅に対する前記第1の幅の比が、1~1.6の範囲内である、請求項1~7の何れか1項に記載の半導体装置。
【請求項9】
半導体基板の表面に平行な方向における前記トレンチの底面の幅をトレンチ幅とするとともに、半導体基板の表面に平行な方向における前記第2のp型領域の幅を第2の幅としたときに、前記トレンチ幅に対する前記第2の幅の比が、1~1.6の範囲内である、請求項1~8の何れか1項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する技術は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トレンチゲート型の半導体装置において、低オン抵抗を実現するには、n型ドリフト層の高濃度化が有効である。これにより、大電流化を図ることができる。なお、関連する技術が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-141130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トレンチゲートの直下のn型ドリフト層には、ゲート・ドレイン間容量が形成されている。トレンチゲート下方にpn接合が形成されている場合には、pn接合からの空乏層の拡がりが小さくなるほど、ゲート・ドレイン間容量の電極間距離が小さくなるため、ゲート・ドレイン間容量が大きくなる。ゲート・ドレイン間容量が大きくなると、ゲート電圧オンの立ち上がり時間が大きくなり、過渡ターンオン時の損失が大きくなってしまう。すなわち、n型ドリフト層の高濃度化を行うと、ゲート・ドレイン間容量が大きくなり、オン損失が大きくなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示する半導体装置の一実施形態は、n型のドリフト層を備える。半導体装置は、ドリフト層の上面に接しているp型のボディ層を備える。半導体装置は、ボディ層の上部に配置されているn型のソース領域を備える。半導体装置は、ソース領域の上面からボディ層を貫通してドリフト層まで到達しているトレンチを備える。半導体装置は、トレンチ内にゲート絶縁膜を介して配置されているゲート電極を備える。半導体装置は、ドリフト層内であってトレンチの底面の下方側の領域に、トレンチの底面から離間して配置されている第1のp型領域を備える。半導体装置は、ドリフト層内であって第1のp型領域の下面の下方側の領域に、第1のp型領域の下面から離間して配置されている第2のp型領域を備える。
【0006】
上記構成では、第1のp型領域の上面と、第1のp型領域とトレンチ底面との間のドリフト層と、によって第1のpn接合を形成することができる。また、第1のp型領域の下面と、第1のp型領域と第2のp型領域との間のドリフト層と、によって第2のpn接合を形成することができる。また、第2のp型領域の上面と、第1のp型領域と第2のp型領域との間のドリフト層と、によって第3のpn接合を形成することができる。3つのpn接合の各々から空乏層を拡げることができるため、pn接合が1つである場合に比して、空乏層の拡がりを大きくすることが可能となる。従って、ドリフト層の不純物濃度が高い場合においても、ゲート・ドレイン間容量を小さくすることができるため、過渡ターンオン時の損失を小さくすることが可能となる。オン抵抗の低減とオン損失の低減を同時に実現することが可能となる。
【0007】
ドリフト層内であって第2のp型領域の下面の下方側の領域に、第2のp型領域の下面と接触して配置されている第3のp型領域をさらに備えていてもよい。第2のp型領域の不純物濃度が、第3のp型領域の不純物濃度よりも高くてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0008】
トレンチの底面と第1のp型領域との間には、第1のn型領域が位置していてもよい。第1のp型領域と第2のp型領域との間には、第2のn型領域が位置していてもよい。各々のpn接合界面から伸びる空乏層が、第1のn型領域、第1のp型領域、第2のn型領域の全体を覆っていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0009】
第2のp型領域は、ボディ層に接続されていてもよい。第2のp型領域の不純物濃度が、第1のp型領域の不純物濃度よりも高くてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0010】
第2のp型領域の深さ方向の厚さが、第1のp型領域の深さ方向の厚さよりも厚くてもよい。
【0011】
トレンチの底面から第1のp型領域の上面までの距離を第1距離とするとともに、トレンチの底面から第2のp型領域の上面までの距離を第2距離としたときに、第2距離に対する第1距離の比が、0.2~0.7の範囲内であってもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0012】
トレンチの底面と第1のp型領域との間には、第1のn型領域が位置していてもよい。第1のn型領域の不純物濃度に対する第1のp型領域の不純物濃度の比が、1~2.5の範囲内であってもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0013】
半導体基板の表面に平行な方向におけるトレンチの底面の幅をトレンチ幅とするとともに、半導体基板の表面に平行な方向における第1のp型領域の幅を第1の幅としたときに、トレンチ幅に対する第1の幅の比が、1~1.6の範囲内であってもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0014】
半導体基板の表面に平行な方向におけるトレンチの底面の幅をトレンチ幅とするとともに、半導体基板の表面に平行な方向における第2のp型領域の幅を第2の幅としたときに、トレンチ幅に対する第2の幅の比が、1~1.6の範囲内であってもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】半導体装置1の断面図である。
図2】空乏層DL1が拡がった状態の半導体装置1の断面図である。
図3】比較例の半導体装置100の断面図である。
図4】第1のp型領域41の深さを変化させた場合におけるシミュレーション結果である。
図5】第1のp型領域41の幅Wpを変化させた場合におけるシミュレーション結果である。
図6】第2のp型領域42の幅Wp2を変化させた場合におけるシミュレーション結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に、半導体装置1の側面における断面図を示す。図1には、半導体装置1の一部の断面のみが示されている。半導体装置1には、図1に示される単位構造が繰り返し形成されている。半導体装置1は、MOSFETと称されるパワー半導体素子である。半導体装置1は、トレンチゲート型である。
【0017】
図1において、参照番号10はSiC基板を示している。SiC基板10の表面10sに平行かつ紙面の左右へ向かう方向がx方向であり、紙面に垂直な方向がy方向である。また表面10sに垂直な方向がz方向である。SiC基板10の表面10sにソース電極30が形成されており、裏面にドレイン電極31が形成されている。
【0018】
SiC基板10は、n型のドレイン層11、n型のドリフト層12、p型のボディ層13、n型のソース領域14およびp型のボディコンタクト領域15を備えている。SiC基板10には、ソース領域14の上面からソース領域14およびボディ層13を貫通してドリフト層12まで到達している、トレンチ20が形成されている。トレンチ20の内部には、ゲート絶縁膜22を介して、導電性のトレンチゲート電極23が充填されている。トレンチ20の底面20bに配置されているゲート絶縁膜22の厚さは、GT1である。トレンチ20の側面20sに配置されているゲート絶縁膜22の厚さは、GT2である。厚さGT1は厚さGT2よりも大きくされている。トレンチゲート電極23の上面には、層間絶縁膜24が形成されている。層間絶縁膜24によって、トレンチゲート電極23は、ソース電極30から絶縁されている。
【0019】
ドリフト層12の不純物濃度は、オン抵抗が小さくなるような高濃度とされている。本実施例では、不純物濃度は1~4×1017(cm-3)とした。ドリフト層12内であってトレンチ20の底面20bの下方側の領域には、第1のp型領域41、第2のp型領域42、第3のp型領域43、が配置されている。第1のp型領域41は、トレンチ20の底面20bから離間して配置されている。第2のp型領域42は、第1のp型領域41の下面41uの下方側(-z方向側)の領域に、下面41uから離間して配置されている。第3のp型領域43は、第2のp型領域42の下面42uの下方側の領域に、下面42uと接触して配置されている。第2のp型領域42の不純物濃度は、第3のp型領域43の不純物濃度よりも高くされている。なお、第2のp型領域42と第3のp型領域43との間の不純物濃度の変化は、なだらかであっても良い。その結果、第2のp型領域42と第3のp型領域43との間の境界は、深さ方向に幅を有していてもよい。トレンチ20の底面20bと第1のp型領域41との間には、第1のn型領域n1が位置している。第1のp型領域41と第2のp型領域42との間には、第2のn型領域n2が位置している。第1のn型領域n1および第2のn型領域n2は、ドリフト層12の一部である。
【0020】
第1のp型領域41は、深さ方向(-z方向)に厚さPT1を有する。第2のp型領域42および第3のp型領域43は、深さ方向に厚さPT2を有する。厚さPT2の方が、厚さPT1よりも厚い。第2のp型領域42は、y方向(紙面に垂直な方向)の何れかの位置で、ボディ層13に接続されている。また第2のp型領域42の不純物濃度は、第1のp型領域41の不純物濃度よりも高くされている。これにより第2のp型領域42は、ボディ層13と同じ電位に維持される。よって、第2のp型領域42から第2のn型領域n2へ空乏層を拡げる、スーパージャンクション構造が形成されている。
【0021】
図2に、空乏層DL1が拡がった状態の半導体装置1を示す。第1のp型領域41の上面と第1のn型領域n1とによって、第1のpn接合が形成されている。また、第1のp型領域41の下面と第2のn型領域n2とによって、第2のpn接合が形成されている。また、第2のp型領域42の上面と第2のn型領域n2とによって、第3のpn接合が形成されている。これら3つのpn接合の各々から、ビルトインポテンシャルによって空乏層を拡げ、互いに繋げることができる。これにより、第1のn型領域n1、第1のp型領域41、第2のn型領域n2の全体を覆っている空乏層DL1が形成される。
【0022】
第1のn型領域n1、第1のp型領域41、第2のn型領域n2、第2のp型領域42、の4層において、チャージバランス(空乏化しやすい状態)を考慮した不純物分布を設定してもよい。第1のn型領域n1および第2のn型領域n2の不純物濃度が、第1のp型領域41および第2のp型領域42によって相殺され低濃度化する効果で、底面20b直下の空乏化を促進することができる。なお、第1のn型領域n1および第2のn型領域n2の不純物濃度が低下しても、半導体装置1のオン抵抗は劣化しない。これは図2に示すように、電流経路CPは、第1のn型領域n1および第2のn型領域n2の側方に形成されるためである。そして、第1のn型領域n1および第2のn型領域n2には、ほとんど電流が流れないためである。
【0023】
(課題)
図3の比較例の半導体装置100を用いて、課題を説明する。比較例の半導体装置100は、本実施例の半導体装置1(図1)に比して、第1のp型領域41を備えていない。比較例の半導体装置100では、第2のp型領域42から上方に拡がる空乏層DL100は、トレンチ20の底面20bまで到達していない。従って、トレンチ20の底面20bの下方側に、空乏化していないドリフト層12が存在している。
【0024】
半導体装置100は、ゲート・ドレイン間容量Cgd(帰還容量とも呼ばれる)を備えている。ゲート・ドレイン間容量Cgdは、酸化膜容量CoxとMOS容量Cmとを備えている。酸化膜容量Coxは、底面20bに配置されているゲート絶縁膜22による寄生容量である。MOS容量Cmは、底面20b直下におけるMOS構造(トレンチゲート電極23、ゲート絶縁膜22、ドリフト層12)による寄生容量である。MOS容量Cmの大きさは、空乏層DL100の深さ方向の距離d100によって定まる。距離d100は容量の電極間距離に相当するため、距離d100が小さくなるほどMOS容量Cmは大きくなる。
【0025】
半導体装置100において低オン抵抗を実現する方法の一つとして、電流経路となるドリフト層12の不純物を高濃度化することが挙げられる。これによりドリフト層12の抵抗が小さくなり、電流を増加させることができる。しかし空乏層DL100が拡がりにくくなり、距離d100が小さくなるため、MOS容量Cmが大きくなる。その結果、ゲート・ドレイン間容量Cgdが大きくなってしまう。ゲート・ドレイン間容量Cgdが大きくなると、ゲート電圧オンの立ち上がり時間(時定数t=Cgd×ゲート抵抗Rg)が大きくなる。よって過渡ターンオン時の損失が大きくなってしまう。以上より、オン抵抗の低減とオン損失の低減はトレードオフの関係にあり、両者を同時に改善することは困難であることが分かる。
【0026】
(効果)
本実施例の半導体装置1(図2)では、第1のn型領域n1、第1のp型領域41、第2のn型領域n2の全体を覆っている空乏層DL1を形成することができる。従って、空乏層DL1の深さ方向の距離d1を、比較例の空乏層DL100の距離d100(図3)に比して大きくすることができる。これによりMOS容量Cmを小さくすることができるため、ゲート・ドレイン間容量Cgdを小さくすることが可能となる。ゲート電圧オンの立ち上がり時間を短くすることができるため、オン損失を低減することが可能となる。またドリフト層12の不純物を高濃度に維持したまま、ゲート・ドレイン間容量Cgdを低下させることができるため、オン抵抗を低く維持できる。したがって、オン抵抗の低減とオン損失の低減を同時に実現することが可能となる。
【0027】
底面20bに配置されているゲート絶縁膜22の厚さGT1は、酸化膜容量Coxの電極間距離に相当するため、厚さGT1が大きくなるほど酸化膜容量Coxは小さくなる。本実施例の半導体装置1では、底面20bにおける厚さGT1は、側面20sにおける厚さGT2よりも厚くされている。これにより、酸化膜容量Coxを小さくすることができるため、ゲート・ドレイン間容量Cgdを小さくすることが可能となる。
【0028】
(シミュレーション結果(その1))
図4に、第1のp型領域41の深さを変化させた場合における、ターンオン損失Eおよびオン抵抗Ronのシミュレーション結果を示す。図4(A)に、断面構造の一部拡大図を示す。トレンチ20の中心線CLに対して線対称であるため、右半分のみ示している。シミュレーションは、以下の条件で行った。トレンチ20の底面20bのトレンチ幅Wgを、0.25μmとした。第1のp型領域41の幅Wpを、0.35μmとした。すなわち、トレンチ幅Wgに対する幅Wpの比(Wp/Wg)を1.4とした。第1のn型領域n1の不純物濃度ICnは、1.2×1017(cm-3)とした。
【0029】
底面20bから第1のp型領域41の上面までの距離を第1距離Dpとする。底面20bから第2のp型領域42の上面までの距離を第2距離Tepiとする。第2距離Tepiに対する第1距離Dpの比(Dp/Tepi)を0.1~0.8まで5水準に変化させ、ターンオン損失E(図4(B))およびオン抵抗Ron(図4(C))を取得した。なおDp/Tepiが「0.1」であるとは、第1のp型領域41が底面20bに接触している状態を示している。またDp/Tepiが「1」であるとは、第1のp型領域41が存在しない状態を示している。グラフG1~G4の各々は、第1のp型領域41の不純物濃度ICpを、1.5×1017(cm-3)、2×1017(cm-3)、3×1017(cm-3)、3.5×1017(cm-3)とした場合を示している。
【0030】
図4(B)に示すように、Dp/Tepiが0.7以下である場合に、ターンオン損失Eが有意に小さくなることが分かる。また図4(C)に示すように、Dp/Tepiが0.2以上である場合に、オン抵抗Ronが有意に小さくなることが分かる。以上より、Dp/Tepiの好ましい範囲SR1は、0.2~0.7であることが分かる。
【0031】
また図4(B)に示すように、不純物濃度ICpが3.5×1017(cm-3)の場合には、ターンオン損失Eが極端に大きくなる領域が存在することが分かる(領域R1参照)。従って不純物濃度ICpは、3.0×1017(cm-3)以下であることが好ましいことが分かる。すなわち、第1のn型領域n1の不純物濃度ICnに対する第1のp型領域の不純物濃度ICpの比(ICp/ICn)は、1~2.5の範囲内であることが好ましい。
【0032】
(シミュレーション結果(その2))
図5に、第1のp型領域41の幅Wpを変化させた場合における、ターンオン損失Eおよびオン抵抗Ronのシミュレーション結果を示す。図5の内容は図4と同様であるため、詳細な説明は省略する。シミュレーションは、以下の条件で行った。Dp/Tepiを0.5で固定とした。底面20bのx方向のトレンチ幅Wgを0.25μmとした。
【0033】
トレンチ幅Wgに対する幅Wpの比(Wp/Wg)を0~1.6まで変化させ、ターンオン損失E(図5(B))およびオン抵抗Ron(図5(C))を取得した。なおWp/Wgが「0」であるとは、第1のp型領域41が存在しない状態を示している。
【0034】
図5(B)に示すように、Wp/Wgが1以上である場合に、ターンオン損失Eが有意に小さくなることが分かる。以上より、Wp/Wgの好ましい範囲SR2は、1~1.6であることが分かる。
【0035】
(シミュレーション結果(その3))
図6に、第2のp型領域42の幅Wp2を変化させた場合における、ターンオン損失Eおよびオン抵抗Ronのシミュレーション結果を示す。図6の内容は図4および図5と同様であるため、詳細な説明は省略する。シミュレーションは、以下の条件で行った。Dp/Tepiを0.5で固定とした。底面20bのトレンチ幅Wgおよび第1のp型領域41の幅Wpを、0.25μmとした。
【0036】
トレンチ幅Wgに対する幅Wp2の比(Wp2/Wg)を0~1.6まで変化させ、ターンオン損失E(図6(B))およびオン抵抗Ron(図6(C))を取得した。なおWp2/Wgが「0」であるとは、第2のp型領域42が存在しない状態を示している。
【0037】
図6(B)に示すように、Wp2/Wgが1以上である場合に、ターンオン損失Eが有意に小さくなることが分かる。以上より、Wp2/Wgの好ましい範囲SR3は、1~1.6であることが分かる。
【0038】
(半導体装置1の製造方法)
まず、ドレイン層11上にドリフト層12およびボディ層13がエピタキシャル成長により形成されているSiC基板10を用意する。次に、SiC基板10の表面10sからイオン注入を行って、ソース領域14およびボディコンタクト領域15をそれぞれ形成する。その後、表面10sに、トレンチ20に対応する開口を備えたマスクを形成する。マスクを介してドライエッチングすることにより、トレンチ20を形成する。
【0039】
次に、マスクをそのまま使用し、トレンチ20内へp型不純物のイオン注入を行うことにより、第1のp型領域41、第2のp型領域42、第3のp型領域43を形成する。このとき、イオンの注入時間や注入強度(例えば、イオンに与える加速エネルギー)を調整することで、第1のp型領域41~第3のp型領域43をそれぞれ形成することができる。また斜めイオン注入を行うことにより、第1のp型領域41の幅Wpおよび第2のp型領域42の幅Wp2を、トレンチ20の底面20bのトレンチ幅Wgよりも大きくすることができる。
【0040】
その後、ゲート絶縁膜22、トレンチゲート電極23、層間絶縁膜24、ソース電極30及びドレイン電極31をそれぞれ形成し、図1に示す半導体装置1が完成する。
【0041】
以上、本技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。本明細書又は図面に記載された技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載された組合せに限定されるものではない。また、本明細書又は図面に例示された技術は複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【0042】
(変形例)
半導体材料がSiCである場合を説明したが、この形態に限られない。Si、GaN、Gaなどの各種の材料を用いることが可能である。
【0043】
第2のp型領域42の不純物濃度は、チャージバランスが取れる濃度であればよく、第1のp型領域41の不純物濃度と同等以下であってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1:半導体装置 12:ドリフト層 13:ボディ層 14:ソース領域 20:トレンチ 20b:底面 22:ゲート絶縁膜 23:トレンチゲート電極 41:第1のp型領域 42:第2のp型領域 n1:第1のn型領域 n2:第2のn型領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6