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▶ 株式会社大亀製作所の特許一覧

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  • 特開-アルミ含有耐熱球状黒鉛鋳鉄 図1
  • 特開-アルミ含有耐熱球状黒鉛鋳鉄 図2
  • 特開-アルミ含有耐熱球状黒鉛鋳鉄 図3
  • 特開-アルミ含有耐熱球状黒鉛鋳鉄 図4
  • 特開-アルミ含有耐熱球状黒鉛鋳鉄 図5
  • 特開-アルミ含有耐熱球状黒鉛鋳鉄 図6
  • 特開-アルミ含有耐熱球状黒鉛鋳鉄 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121110
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】アルミ含有耐熱球状黒鉛鋳鉄
(51)【国際特許分類】
   C22C 37/04 20060101AFI20230823BHJP
   C22C 37/10 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
C22C37/04 Z
C22C37/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022129441
(22)【出願日】2022-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2022036672
(32)【優先日】2022-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301062721
【氏名又は名称】株式会社大亀製作所
(72)【発明者】
【氏名】大亀 明人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 千里
(57)【要約】
【課題】4±0.1質量%のSi(シリコン)と0.6±0.05質量%のMo(モリブデン)を含む高Si球状黒鉛鋳鉄では、さらに耐熱温度の向上が要求されている。鋳鉄にAl(アルミ)を添加すると、耐熱性が向上するが、黒鉛の球状化が悪くなり(黒鉛の球状がくずれ)そのため機械的性質が低下し、溶湯の湯流れ性も低下する。Al(アルミ)を添加して耐熱性と機械的性質の伸びが共に良好な成分範囲を見出そうとした。
【解決手段】Si(シリコン)を4±0.1質量%とMo(モリブデン)を0.6±0.05質量%を含有する高Si(シリコン)球状黒鉛鋳鉄において、Al(アルミ)を0.3質量%~0.4質量%未満含有させた耐熱球状黒鉛鋳鉄である。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si(シリコン)4±0.1質量%とMo(モリブデン)を0.6±0.05質量%含有する球状黒鉛鋳鉄において、Al(アルミ)を0.3質量%~0.4質量%未満含有させた耐熱球状黒鉛鋳鉄
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状黒鉛鋳鉄にAl(アルミ)を含有させて、耐熱性を向上させた鋳鉄製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、4質量%Si(シリコン)と0.6質量%Mo(モリブデン)を含む球状黒鉛鋳鉄に対してAl(アルミ)を0.3質量%未満添加して、機械的性質と溶湯の湯流れ性を低下させない範囲で耐熱性の向上を図っている。
特許文献2には、Si(シリコン)が4~5質量%において、0.5~2.0質量%Al(アルミ)が含有されている。0.05~0.2質量%の希土類元素も添加されている。黒鉛球状化率低下を防止する働きがあるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-178241
【特許文献2】特開2002-088438
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
球状黒鉛鋳鉄にAl(アルミ)を添加すると、耐熱性が向上するが、黒鉛の球状化が低下することで機械的性質が低下し、溶湯の湯流れ性も悪くなるとされている。
特許文献1は、Si(シリコン)を4±0.1質量%とMo(モリブデン)を0.6±0.05質量%を含有する高Si(シリコン)球状黒鉛鋳鉄において、Al(アルミ)を0.3質量%未満含有させた耐熱鋳鉄である。自動車部品のタービンハウジング等の製造を目的としているため、機械的性質(特に引張試験における伸び)や、溶湯の湯流れ性や耐熱性の要素が求められるが、機械的性質や湯流れ性を確保するには、Al(アルミ)含有量には限界がある。そのため0.3質量%Al(アルミ)未満の添加量では、耐熱性向上に限度がある。
特許文献2は、自動車部品用のタービンハウジングの製造を目的とし、Si(シリコン)が4~5質量%において、0.5~2.0質量%Al(アルミ)が含有されている。ここでは、添加量が0.5質量%を下回る量では、耐熱性および耐酸化性を向上する著しい効果は期待できない。一方2.0質量%を上回るとAl(アルミ)の酸化被膜ドロスによる鋳造欠陥が深刻になり、また材質も脆くなるとしている。希土類元素は、Al(アルミ)の添加による黒鉛球状化率の低下を防止する働きがあるとしている。しかし、これらを証明するデータが全く記載されていない。希土類元素の効果もデータとして記載されていない。
本特許で、耐熱性向上のためのAl添加実験を行った。Al(アルミ)添加量が0.6,1.0および2.0質量%の実験では機械的性質の伸びがわずか2%であった。耐熱性向上があっても、機械的性質(引張試験の伸び)が低いため、特許文献2が目的とする製品に使用することは不可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
Si(シリコン)を4±0.1質量%とMo(モリブデン)を0.6±0.05質量%含有する高Si(シリコン)球状黒鉛鋳鉄において、Al(アルミ)を0.3質量%~0.4質量%未満添加することで、耐熱性の高い、かつ機械的性質の伸びを確保できた球状黒鉛鋳鉄を開発できた。
【発明の効果】
【0006】
Al(アルミ)を0.3質量%~0.4質量%未満を添加することで、特許文献1よりも耐熱性が向上し、特許文献2よりも機械的性質(引張試験の伸び)が向上する効果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実験方法
図2】化学成分
図3】耐熱性試験結果
図4】機械的性質(引張強さ)
図5】機械的性質(伸び)
図6】渦巻式湯流れ試験結果
図7】耐熱性と伸びの関係図
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は実験方法である。高周波誘導溶解炉1において高Si溶湯2を3トン溶解した。次に300kgの取鍋4の底にMg(マグネシウム)合金を置き、溶解炉から取鍋に注湯することで黒鉛球状化処理を行った。その際、黒鉛球状化処理の注湯流3に所定量のAlを添加した。取鍋から溶湯5を湯流れ試験6、Yブロック7、製品8に注湯して各サンプルを作製した。YブロックはJIS規格で、Yブロックから機械的性質の試験片を採取した。製品はタービンハウジングとした。
【0009】
図2は使用した溶湯の化学成分である。添加したAl(アルミ)は、0、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.6、1.0、2.0質量%の9種類である。
【0010】
図3は、1073K(800℃)の温度で、大気雰囲気の電気炉で、24時間保持した時の高温酸化試験結果すなわち耐熱性試験結果である。高温で保持すると鋳物の表面が大気中の酸素で酸化されて酸化鉄(Fe等)が生成し重量が増加する。この重量増加を耐熱性の尺度とした。本実験では鋳物製品を用いて高温酸化試験を行った。
【0011】
図3では、縦軸の酸化増量は(1)式のように重量増加(g)で表示した。各Al(アルミ)の含有量で作製した製品は同一の鋳型から作製した鋳物であるので、(1)式のように加熱後と加熱前の重量差である酸化増量を求め、それを耐熱性として使用可能とした。
酸化増量(g)=加熱後の製品重量―加熱前の製品重量・・・(1)
1073K(800℃)では、Al(アルミ)の増加に伴って酸化増量は低下し、すなわち、耐熱性は向上した。Al(アルミ)添加量の増加に伴って、酸化増量が減少、すなわち耐熱性が向上するが、Al(アルミ)添加量0.3質量%を境として耐熱性が大きく向上する。図3の右側の軸に耐熱性の大小の方向を記した。
【0012】
図4は機械的性質の引張強さである。Al(アルミ)の増加の影響を受けず、引張強さはほとんど変わらない。図4の右側の軸に引張強さの大小の方向を記した。
【0013】
図5は、機械的性質の伸びの変化である。0%質量Al(アルミ)では伸びは20%であるが、Al(アルミ)を0.2質量%添加することで16%(0%Al比80%)に低下する。0.3質量%Al(アルミ)では12.6%(0%Al比63%)に低下するが、0.2質量%に近い数値を確保している。0.4質量%Al(アルミ)では、さらに10.2%(0%Al比51%)と低下し、0.6~2質量%Al(アルミ)では2%(0%Al比10%)と極端に低下する。そこで、機械性質の伸びの観点(工業製品使用上の伸びの観点から伸びは0%Al対比の50%以上にすることが必要と考える)からAl(アルミ)の限界量を0.4質量%未満とした。図5の右側の軸に伸びの大小の方向を記した。
【0014】
図6は、渦巻式湯流れ性試験結果である。縦軸の流動長は、流れやすさの尺度で、流動長が長い方が湯流れ性良好である。湯流れ性が悪いと、溶湯が砂型の鋳型のなかをうまく流れずに、製品が不良品となりやすい。図6では、流動長はAl(アルミ)が0.2質量%までは低下していない。0.3質量%をはじめ2質量%までは流動長が多少減少するが、製品製造には影響を与えないと考えられる。図6の右側の軸に湯流れ性が良の方向を記した。
【0015】
図7は、酸化増量すなわち耐熱性を示す図3と、機械的性質の伸びを示す図5をまとめたものである。ここで、耐熱性については(2)式のように、0%質量Al(アルミ)での酸化増量から、各Al量の酸化増量の差で示した。
耐熱性(g)=0質量%Alでの酸化増量(9g)―各質量%Alでの酸化増量・・・・・・(2)
耐熱性を(2)式から算出すると以下の表となる。図7における耐熱性のグラフは以下の表を基に作成した。
【0016】
【0017】
図7によると、耐熱性と伸びのバランスが最適なAl(アルミ)添加量は0.3質量Al%~0.4質量Al%未満である。0.3%未満のAl(アルミ)量では耐熱性が低下し、0.4質量%Al(アルミ)以上の添加量では、耐熱性は向上するものの、伸びすなわち靭性が低下し、移動を伴う自動車部品はもちろんのこと、移動を伴わない耐熱部品(例えば焼却設備部品)でも応用が難しくなる。
【0018】
本特許では、産業用の利用可能部品として焼却設備部品(火格子など)を考えているので、0.3質量%Al(アルミ)~0.4質量Al(アルミ)%未満で、伸びと耐熱性のバランスがとれた最適な球状黒鉛鋳鉄となる。
【符号の説明】
【0019】
1 高周波誘導溶解炉
2 高Si鋳鉄溶湯
3 注湯流にAlを添加
4 取鍋
5 注湯
6 湯流れ試験
7 Yブロック
8 製品
【産業上の利用可能性】
【0020】
焼却設備部品向け耐熱球状黒鉛鋳鉄(例えば焼却炉の火格子等)に使用可能
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7